(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】歯科鋳造用合金
(51)【国際特許分類】
C22C 5/06 20060101AFI20240411BHJP
C22F 1/14 20060101ALN20240411BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240411BHJP
A61C 13/00 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C22C5/06 D
C22F1/14
C22F1/00 675
C22F1/00 611
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 623
A61C13/00
(21)【出願番号】P 2020097071
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】今井 庸介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】江川 恭徳
(72)【発明者】
【氏名】寺井 健太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭太
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-249834(JP,A)
【文献】特開2016-74937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/06
C22F 1/14
C22C 5/06
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au8~30mass%、Pt3~17mass%、Pd7~14mass%、Cu8~20mass%、Zn0.1~1mass%、In0.1~2mass%、P0.01~1mass%、残部がAgからなることを特徴とする歯科鋳造用合金。
【請求項2】
Pt濃度が10~17mass%であることを特徴とする請求項1に記載の歯科鋳造用合金。
【請求項3】
Ir、Rh、Ru、Sn、Ga、Geの内少なくとも一種の添加元素を0.01~3mass%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の歯科鋳造用合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インレー、クラウン、ブリッジ、クラスプ、床等の歯科補綴物を鋳造により作製する歯科鋳造用合金の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療に用いられている合金は、口腔内に於いて、経時的に変色や腐食を起こさず、尚且つ咬合圧や咀嚼圧に耐え得るだけの充分な強度も有していなければならない。また、歯科鋳造に使用される都市ガスやプロパンガスと空気との混合炎の加熱による溶解・鋳造が可能であり、研磨・研削等の易操作性も有していることも強く望まれるため、高カラット金合金が最も適している。一方で、高カラット金合金はAuの含有量が多いことから高価であり、経済的な負担が大きいという不利点があるため、安価な材料が求められてきた。そこで、Auの含有量が少ない歯科鋳造用合金としてJIS T 6106「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」に規定されている低カラット金合金が開発の対象となり、種々のものが開発されている。
【0003】
特許文献1は、 Au:11~15mass%、Pd:15~25mass%、Cu:14~20mass%、Zn及びIn:2mass%以下で且つZn:1mass%以下、Ir:0.01~0.5mass%、P:0.01~1.0mass%、残部がAgからなることを特長とする、歯科鋳造用合金であって、加工性が良く、薬品洗浄により酸化膜の除去しやすさと鋳造性を兼ね備えた歯科鋳造用合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来法の問題)
JIS T 6106「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」に規定されている合金は、高カラット金合金に比べて低価格でありながら、優れた特性を有するため、歯科医療において長年広く使用されてきた。この合金は、Auの含有量が12mass%以上、Pdの含有量が20mass%以上、Agの含有量が40mass%以上であり、多くのPdを含んでいる。このPdは、2020年2月28日の相場が\10、000/gを超え、2016年2月29日の相場の5倍以上になるなど、近年価格が大きく高騰しており、それに伴って合金の価格も大きく高騰するという問題を抱えている。そのため、歯科医療業界から低コストで価格の安定した歯科用金属の開発が強く求められている。
本発明の目的は、上記JIS T 6106「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」に規定されている合金と同等の特性を有しながら、Pd量が少ない合金を開発し、価格の変動を抑制できる歯科鋳造用合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、Ptを添加した合金成分の限定組成によって、Pd量を低減しながらも歯科鋳造用合金として有用な材料が得られることを確認し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、Au8~30mass%、Pt3~17mass%、Pd7~14mass%、Cu8~20 mass%、 Zn0.1~1 mass%、In0.1~2 mass%、P 0.01~1 mass%、残部がAgからなることを特徴とする歯科鋳造用合金である。
【0008】
また、上記の歯科用鋳造用合金の構成において、Pt濃度が10~17mass%であるようにしてもよい。
【0009】
また、上記の歯科鋳造用合金の構成において、Ir、Rh、Ru、Sn、Ga、Geの内少なくとも一種の添加元素を0.01~3mass%含有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高騰するPdの含有量を少なくできることにより、材料価格変動を抑制でき、耐変色性、加工性、鋳造性を損なうことなく、歯科治療における補綴物としての利用に耐えうる機械的性質を有する優れた歯科鋳造用合金を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明における鋳造用合金を具体的に説明する。
【0012】
本発明の歯科鋳造用合金の形態は、Au8~30mass%、Pt3~17mass%、Pd7~14mass%、Cu8~20 mass%、 Zn0.1~1 mass%、In0.1~2 mass%、P 0.01~1 mass%、残部がAgからなることを特徴とする。
【0013】
Auは、耐変色性、並びに、機械的強度に与える効果が大であり、実験によれば8mass%未満では耐変色性の効果が発揮されず、上記機能が薄れ、又、30mass%を超えると、コスト高になるとともに、Pt、Inと金属間化合物を形成して脆くなりやすい。Auの含有量は、12~28mass%が好ましく、14~26mass%がより好ましい。
【0014】
Ptは、Pdに比べ材料価格が安価であることから、代替する成分として有用であり、耐変色性を向上させると同時に熱処理硬化性に効果がある。同じく実験により3mass%未満では効果が顕著ではなく、17mass%を超えると、Auと金属間化合物を形成して脆くなり易く、加工性や機械的性質が損なわれる。また、融点が上昇するために、溶解・鋳造性が悪くなる。そこで、Ptの含有量は、重量比3~17mass%とする。また、Ptの含有量は10~17mass%が好ましい。
【0015】
Pdは合金の耐変色性向上に有効に作用し、口腔内での合金の変色や溶出を防ぎ、機械的性質の向上にも与かることが分かっている。同様に実験によれば、7mass%未満ではこれらの総合的効果が弱い。一方で、Pdを多量に添加すると、耐変色性は大きく向上するものの、高価で価格変動の大きい成分であるため、結果として合金の材料価格の変動が大きくなる。従って、Pdの含有量は、8~14mass%が好ましく、9~13mass%がより好ましい。
【0016】
CuについてはAu-Cu、或いは、Pd-Cuの規則格子相を形成することにより熱処理硬化性を与える元素であることが知られているが、8mass%未満では効果的に不十分である。一方で、Cuは貴金属に比べて耐食性が劣るため、20mass%を超えると総じて合金の耐変色性を劣化させる。
【0017】
Znについては溶解・鋳造時の脱酸剤として有効に機能するとともに、耐変色性と機械的強度を向上させ、合金の融点を下げる効果を示すことが知られている。これらの効果は、0.1mass%未満ではあまり認められず、1mass%を超えると、合金を脆くするため加工性が低下する。
【0018】
Inについては、Znと同様に金合金の融点を下げ溶解・鋳造性を改善するとともに、耐変色性と機械的強度を向上させる効果を示す元素ではあるが、実験によれば、その添加量は、0.1mass%未満ではこれらの効果が弱く、2mass%を超えると、加工性が低下する。
【0019】
Pについては、合金の結晶粒を微細化する効果があり、これによって加工性を向上させている。また、溶解・鋳造時において流動性を高め、鋳造性が向上する。その含有量は、0.01~1.0mass%であることが好ましく、0.01~0.5mass%がより好ましい。
【0020】
本合金には、Ir、Rh、Ru、Sn、Ga、Geの内少なくとも1種類以上の元素を添加することができ、合金の加工性の観点から、その添加量は0.01~3mass%が適切である。ただし、Ir、Rh、Ruを多量に添加すると、合金中で偏析する恐れがあるため、好ましくはその含有量を0.01~0.2mass%とするのがよい。
【実施例】
【0021】
(鋳造用合金の作製)
本発明の実施例、比較例及び参考例の組成を表1に、実施例、比較例及び参考例の評価結果を表2に示す。
【0022】
合計40gとなるように各成分の原材料を秤量し、アルゴンアーク溶解法にて溶製し、合金のインゴットを得た。このインゴットを、概ね60%の加工率で圧延し、700℃、30分で熱処理して焼鈍した。同様の圧延、焼鈍を繰返し、厚さ1mmの圧延板とした。
【0023】
(耐変色性の評価)
変色試験は、JIS T 6002に規定される静的浸漬試験方法によって、37±2℃の硫化ナトリウム水溶液中に72±1時間保持した後、試験片表面を目視によって観察し、変色の有無について、「変色なし」を○、「変色あり」を×で評価した。
【0024】
(加工性の評価)
厚さ1mmの圧延板が得られたものを〇、加工途中でひび割れ等が発生し、厚さ1mmの圧延板が得られなかったものを×で評価した。
【0025】
(鋳造性の評価)
鋳造性は、各試験片を都市ガスと空気との混合炎で溶融、遠心鋳造法で鋳込むことにより十分な鋳造体が得られたものを〇、不十分な場合を×とした。
【0026】
(溶融温度の評価)
各サンプルの溶融範囲(固相点-液相点)は、圧延板より切り出し、示差走査熱量計にて測定した。
【0027】
(硬さの評価)
硬さは、合金を歯科精密鋳造により厚さ1.2×幅15×長さ10mmに鋳造し、軟化熱処理として大気中700℃、10分間熱処理した後に水冷した。次に、硬化熱処理として、400℃、20分間熱処理し、放冷した。その後、樹脂に埋め込み、粗研磨、バフ研磨を経て鏡面の試験片とし、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて荷重200gf、10秒の条件で測定した。
【0028】
【0029】
【0030】
表2の結果から、本発明に係る実施例の合金は、Pdの組成割合が低くても耐変色性、加工性、鋳造性に優れていた。加えて、硬さも歯科鋳造用合金として十分な値を備えていた。また、溶融温度も参考例とほぼ同様であり、高融点のPtを多く含みながらも、通常の歯科鋳造に使用される都市ガスやプロパンがスと空気との混合炎の加熱でも十分に溶解できる温度範囲であった。