(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】水管式熱交換装置
(51)【国際特許分類】
F24H 9/00 20220101AFI20240411BHJP
F22B 37/10 20060101ALI20240411BHJP
F22B 37/12 20060101ALI20240411BHJP
F22B 37/20 20060101ALI20240411BHJP
F23M 5/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
F24H9/00 A
F22B37/10 M
F22B37/12
F22B37/20 A
F22B37/20 E
F23M5/00 J
(21)【出願番号】P 2019131515
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-07-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154668
【氏名又は名称】株式会社ヒラカワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久郷 康行
(72)【発明者】
【氏名】植松 博基
(72)【発明者】
【氏名】木下 正成
(72)【発明者】
【氏名】橋口 豊司
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-337002(JP,A)
【文献】特開2000-088205(JP,A)
【文献】実開平03-005003(JP,U)
【文献】実開平04-010204(JP,U)
【文献】実開平05-034431(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 9/00 - 9/45
F22B 5/00 - 37/78
F23M 3/00 - 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦型の円筒形の炉体と、
炉体の上端に接続された上板と、
炉体の下端に接続された下板と、
炉体における周方向の一部分から、炉体内に火炎および燃焼ガスを炉体の径方向に沿って送り込み可能なバーナと、
炉体内における下板から上板にわたって配置される複数の水管と、
を備え、
前記複数の水管は、炉体の周方向に沿った、前記バーナからの火炎および燃焼ガスを受ける範囲において炉体の径方向に沿って複数列が設置され、
炉体の径方向に沿った最も内周側の列を構成する複数本の水管は、隣り合う水管の管壁どうしが互いに隙間をあけて近接した状態で配置されていることで、この最も内周側の列に対して炉体の径方向に当たったバーナからの火炎および燃焼ガスを、炉体の周方向に案内するとともに、前記列の端部から、この列と炉体の炉壁との間の空間に向けて案内するように構成されて
おり、
最も内周側の列を構成する各水管は、長さ方向の両端部が絞り加工によって中間部分よりも細く形成されたスウェージ管にて構成されており、
水管と上板および下板とは、上板および下板の表面から水管の端部を突出させた状態で隅肉溶接されており、炉壁と上板および下板とは、炉壁の端面を上板および下板の表面に接触させた状態で炉壁の外周面に沿って隅肉溶接されていることを特徴とする水管式熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水管式熱交換装置に関し、たとえば真空温水器における燃焼式の熱交換器として用いることができる水管式熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような水管式熱交換装置として、縦型の円筒形の炉体の上端および下端を上板および下板で塞いで燃焼用の空間を構成し、この空間に向けて火炎および燃焼ガスを送り込み可能なバーナを設け、空間には下板から上板にわたって配置される複数の水管を設置したものが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
また、このような水管式熱交換装置においては、特許文献1に示されているように、火炎および燃焼ガスが空間内において効率良く方向付けられかつ流動されるように、空間内に、火炎および燃焼ガスを案内するための案内壁が設けられているのが通例である。このとき、特許文献1では、複数の水管が互いに距離をおいて列状に並べられ、隣り合う水管どうしの間に、水管の長さ方向に沿った連結用の帯状の平板が設けられることで、すきまの形成を排除した案内壁が構成されている。
【0004】
隣り合う水管どうしの間に設けられる平板は、その幅方向の両端部が隣り合う水管の管壁にそれぞれ溶接されることで、水管に固定される。このとき、水管の上下両端部における上板の近傍部分および下板の近傍部分では、溶接作業に支障が生じないように、平板の長さ方向の両端部をそれぞれ上板および下板から少し離した構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、平板の長さ方向の両端部をそれぞれ上板および下板から少し離した構造とすると、水管における上端および下端の部分すなわち水管における上板および下板の近傍の部分は、平板に接続されない。このため、このような構造の水管式熱交換装置を運転すると、熱応力によって、水管における上端の部分および下端の部分に有害な応力集中が生じるおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、このような問題点を解決して、水管式熱交換装置における水管に有害な応力集中が発生しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明の水管式熱交換装置は、
縦型の円筒形の炉体と、
炉体の上端に接続された上板と、
炉体の下端に接続された下板と、
炉体における周方向の一部分から、炉体内に火炎および燃焼ガスを炉体の径方向に沿って送り込み可能なバーナと、
炉体内における下板から上板にわたって配置される複数の水管と、
を備え、
前記複数の水管は、炉体の周方向に沿った、前記バーナからの火炎および燃焼ガスを受ける範囲において炉体の径方向に沿って複数列が設置され、
炉体の径方向に沿った最も内周側の列を構成する複数本の水管は、隣り合う水管の管壁どうしが互いに隙間をあけて近接した状態で配置されていることで、この最も内周側の列に対して炉体の径方向に当たったバーナからの火炎および燃焼ガスを、炉体の周方向に案内するとともに、前記列の端部から、この列と炉体の炉壁との間の空間に向けて案内するように構成されており、
最も内周側の列を構成する各水管は、長さ方向の両端部が絞り加工によって中間部分よりも細く形成されたスウェージ管にて構成されており、
水管と上板および下板とは、上板および下板の表面から水管の端部を突出させた状態で隅肉溶接されており、炉壁と上板および下板とは、炉壁の端面を上板および下板の表面に接触させた状態で炉壁の外周面に沿って隅肉溶接されていることを特徴とする。
【0009】
このような構成であると、従来のような平板を用いずに、火炎および燃焼ガスを炉体の空間内において効率良く方向付けさせかつ流動させる案内壁を構成することができる。このため平板を用いたときのような応力集中の発生の懸念を払拭することができる。
【0011】
このような構成であると、反対にスウェージ管における長さ方向に沿った中間部分をその両端部よりも太く構成することができ、このため伝熱面積が大きくなって効率の良い熱伝達を行うことができる。
【0013】
このような構成とは逆に、炉壁と上板および下板とが、上板および下板の外周端面を炉壁の内周面に接触させた状態で炉壁の内周面に沿って隅肉溶接されている場合には、炉壁に近い位置に設けられた水管の隅肉溶接部と、炉壁と上板および下板との隅肉溶接部とが互いに干渉しないように、炉壁に近い位置に設けられた水管と炉壁とが距離をおいた構成とせざるを得ない。しかし、炉壁に近い位置に設けられた水管と炉壁との隙間は、できるだけ小さい方が、伝熱効率の観点から有利である。この点に関して、上記のように、水管と上板および下板とが、上板および下板の表面から水管の端部を突出させた状態で隅肉溶接されており、かつ、炉壁と上板および下板とが、炉壁の端面を上板および下板の表面に接触させた状態で炉壁の外周面に沿って隅肉溶接されている構成であると、隅肉溶接部どうしの干渉が生じることが無く、このため炉壁に近い位置に設けられた水管と炉壁との隙間をできるだけ小さくして伝熱効率を向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、水管における応力集中の発生を防止した状態で、この水管によって、火炎および燃焼ガスを炉体の空間内において効率良く方向付けさせかつ流動させる案内壁を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態の水管式熱交換装置の横断面図である。
【
図2】
図1におけるII-II線に沿い、一部を省略して示す断面図である。
【
図3】
図1におけるIII-III線に沿った展開矢視図である。
【
図4】
図1における要部の縦断面構造を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1~
図4に示す水管式熱交換装置において、12は、縦型の円筒形の炉体であり、鋼材によって形成されている。炉体12の上端には上板14が溶接によって接続され、また炉体12の下端には下板16が溶接によって接続されている。これら上板14および下板16は、同様に鋼材によって形成されている。
【0017】
図1に示すように、炉体12における周方向の一部分の位置には、バーナ18が設けられている。このバーナ18は、火炎および燃焼ガス20を、炉体12の内部の空間22に向けて、炉体12の径方向に沿って送り込み可能とされている。
【0018】
炉体12の内部の空間22には、複数の水管24が、下板16から上板14にわたる上下方向に配置されている。水管24も、同様に鋼材によって形成されている。
図1に示す例では、複数の水管24は、空間22におけるバーナ18の設置側と反対側、すなわちバーナ18に面した側において、周方向に約180度の範囲において扇形に配置された状態で設けられている。換言すると、複数の水管24は、平面視したときの空間22の中央部分を除く扇形の範囲であって、バーナ18から送り込まれる火炎および燃焼ガス20に向かい合った約半周の範囲に設けられている。
【0019】
上記した複数の水管24は、炉体12すなわち空間22における周方向に沿って列状に配置されるとともに、炉体12すなわち空間22における径方向に沿って複数列が配置された構成となっている。26は最も内周側の列、28はそれよりも外側の列である。また24Aは最も内周側の列26を構成する水管、24Bは外側の列28を構成する水管である。外側の列28を構成する水管のうち、最もバーナに近い水管24C、すなわち、外側の列28を構成する水管のうち、最初に火炎および燃焼ガス20にさらされる列端部の水管24Cは、外側の列28を構成する他の水管24Bとは異なった構成とされている。その詳細は後述する。
【0020】
最も内周側の列26を構成する水管24Aは、周方向に隣り合う水管24A、24Aの管壁30、30どうしが密接するように配置されている。ただし、単に密接しているだけであって、溶接などの接合手段は施されていない。
【0021】
その結果、空間22におけるバーナ18と向かい合った位置に、すなわちバーナ18からの火炎および燃焼ガス20が直接当たる位置に、平面視で円弧状の案内壁32が形成されている。このため、火炎および燃焼ガス20は、バーナ18から炉体12の内部の空間22に向けて炉体12の径方向に沿って送り込まれ、まず案内壁32に当たったうえで、案内壁32の内周側の部分に沿って周方向に案内され、周方向に沿った案内壁32の端部を経由したうえで、案内壁32と炉体12の炉壁34との間の空間36へ送られる。
【0022】
図1に示すように、炉体12の径方向に沿ってバーナ18と向かい合う位置には、空間36に連通する排気路38が設けられている。よって、空間36へ送り込まれた火炎および燃焼ガス20は、最終的に空間36から排気路38へ送り出される。外側の列28を構成する水管24B、24Cは、空間36に設けられている。
【0023】
案内壁32を構成する最も内側の列26の水管24Aは、長さ方向の両端を細径に絞り加工されたスウェージ管にて構成されている。40はその両端の細径部、42は、細径部40、40どうしの間の中間部分の太径部である。このスウェージ管にて構成された水管24Aは、両端の細径部40、40が上板14および下板16を貫通した状態で、これら上板14および下板16によって支持され、かつこれら上板14および下板16に溶接されて固定されている。詳細には、周方向に隣り合う水管24A、24Aの中間部分の太径部42の管壁30、30どうしが密接した構成とされている。なお、案内壁32は、火炎および燃焼ガス20を上記した経路に沿って支障なく案内できるのであれば、隣り合う水管24A、24Aの管壁30、30どうしが必ずしも密接している必要は無く、わずかに隙間をあけて近接している状態であっても差し支えない。
【0024】
空間36に設けられた水管24Bは、フィン管にて構成されている。すなわち、水管24Bの長手方向に沿って、管外面につば状の多数のフィン44が取り付けられた構成となっている。これによって伝熱面積の増大が図られている。これに対し列端部の水管24Cは、フィンを有しないベア管にて構成されている。これは、列端部の水管24Cは、空間36において最初に火炎および燃焼ガス20が当たることから、フィンを有していない簡単な構成であっても、所要の伝熱性能を発揮することができるためである。
【0025】
水管24B、24Cは、水管24Aとは相違して、長さ方向にわたって一様な直径で形成されているが、水管24Aと同様に両端部が上板14および下板16を貫通した状態で、これら上板14および下板16によって支持され、かつこれら上板14および下板16に溶接されて固定されている。
【0026】
水管24A、24Bと上板14との溶接構造を、
図4を参照しながら説明する。水管24Aの細径部40と水管24Bの上端部46とは、いずれも、上板14を貫通したうえで上板14の上側の表面48よりも上方へ突出している。この突出した部分と上板14の上側の表面48との間で、各管ごとに全周隅肉溶接が施されている。50はその溶接部である。水管24Cと上板14との溶接構造も同様の構成である。また、下板16と各水管24A、24B、24Cとの溶接構造も同様の構成である。
【0027】
次に、炉体12と上板14との溶接構造について説明する。
図4において詳細に示すように、炉体12の炉壁34は、その上端面52が上板14の下側の表面54に接した状態で、炉壁34の外周面に沿って隅肉溶接されている。56はその溶接部である。炉体12と下板16との溶接構造も同様の構成である。
【0028】
このような構成の水管式熱交換装置が外胴58の内部に収容されることで、真空温水器などの装置が構成される。外胴58における熱交換装置を除いた空間には、被加熱用の水が貯留されている。
【0029】
上記のように最も内周側の列26を構成する水管24Aは、周方向に隣り合うものどうしの管壁30が互いに密接しているため、特許文献1に示されるもののような連結用の平板を管壁30に溶接しなくても案内壁32を形作ることができる。したがって、この水管24Aにおける応力集中の発生の危険性を排除することができ、また平板を溶接する作業が不要であるために、施工性が良好であり、短時間で施工を完了することができる。さらに、水管24Aは長さ方向に沿った中間部分が太径部42として構成されているため、その分だけ伝熱面積が増大して伝熱性能を向上させることができる。なお伝熱性能を向上させる必要が無い場合は、設置本数を低減させても所要の伝熱性能を発揮させることができる。
【0030】
案内壁32と炉壁34との間の空間36に配置される水管24B、24Cは、図示の例では2列であるが、その列数や各列における本数は、熱交換装置に求められる性能に応じて適宜に変化させることができる。
【0031】
図4に示すように、炉体12の炉壁34の上端面52が上板14の下側の表面54に接した状態で隅肉溶接56が施されていることで、以下のような利点がある。すなわち、仮に
図4において仮想線で示すように、炉壁34を上方へ延長したうえで上板14の周縁の端面を炉壁34の内周面に接触させた状態で溶接を行う場合には、炉壁34に近い位置に設けられた水管24Bの隅肉溶接部50と、炉壁34の内周面における炉壁34と上板14との隅肉溶接部とが互いに干渉しないように、当該水管24Bと炉壁34とが一定以上の距離をおいた構成とせざるを得ない。すなわち、炉壁34を図示の位置よりも炉体12の径方向に沿った外側の位置に配置しなければ、良好な溶接部を形成することができない。しかし、そうすると、水管24Bと炉壁34との隙間60を図示の場合よりも大きくすることが必要になってしまい、その分だけ伝熱効率が低下してしまう。
【0032】
これに対し、
図4において実線で示す構成であると、溶接部50と溶接部56とが近づいて干渉するということがないため、水管24Bと炉壁34との隙間60を狭くしても良好かつ容易に溶接作業を実施することができる。このため、伝熱効率を低下させることなく熱交換装置を構築することができる。
【符号の説明】
【0033】
12 炉体
14 上板
16 下板
18 バーナ
20 火炎および燃焼ガス
24 水管
24A 水管
26 最も内側の列
30 管壁
34 炉壁
36 空間