(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】殺コロナウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/644 20150101AFI20240411BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240411BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20240411BHJP
A23L 21/20 20160101ALN20240411BHJP
【FI】
A61K35/644
A61P31/14
A23L33/10
A23L21/20
(21)【出願番号】P 2020166179
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【氏名又は名称】吉川 絵美
(72)【発明者】
【氏名】池上 志穂
(72)【発明者】
【氏名】八巻 礼訓
(72)【発明者】
【氏名】前田 祐伽
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102600457(CN,A)
【文献】Microbiologica,1990年,Vol.13,pp.207-213
【文献】Virology Journal,2011年,Vol.8:460,pp.1-6,http://www.virologyj.com/content/8/1/460
【文献】Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine,,2018年,Vol.2018, Article ID 7092416,pp.1-9
【文献】Taky SS. et al.,Evaluation of Antiviral Activity of Bee Venom, Phospholipase A-2 (PLA-2) and Propolis against DNA and RNA Virus Models: In-Vitro Study,Inventi Rapid: Molecular Pharmacology,2017年,Vol.2017, No.2,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
A23L 33/00 -33/29
A23L 21/00 -21/25
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラジル産グリーンプロポリスを有効成分として含む殺コロナウイルス剤。
【請求項2】
対象コロナウイルスが豚感染性コロナウイルスである、請求項1に記載の殺コロナウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺コロナウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス及びコロナウイルスに対するプロポリスの抗ウイルス効果の可能性について報告されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Berretta et al.,Biomedicine&Pharmacotherapy,131,2020,110622
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プロポリスによるコロナウイルスに対する殺ウイルス効果はこれまで確認されていない。
【0005】
本発明は、新規な殺コロナウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の殺コロナウイルス剤は、プロポリスを有効成分として含む。
【0007】
上記殺コロナウイルス剤において、対象コロナウイルスは、豚感染性コロナウイルスであってよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、新規な殺コロナウイルス剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の殺コロナウイルス剤は、有効成分としてプロポリスを含む。本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は、プロポリスを含むため、殺コロナウイルス作用を有する。
【0011】
本明細書において、殺コロナウイルスとは、コロナウイルス自体に直接作用してウイルスを殺すことを指す。殺コロナウイルスとは、具体的には例えば、対象のコロナウイルスを不活化させること、分解することであってよい。
本明細書でいう殺ウイルスとは、ウイルスが体内に侵入した後にウイルスの増殖を抑制する作用である「抗ウイルス」とは異なるものである。
【0012】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤によるウイルス減少率は、例えば、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上であってよい。
【0013】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は殺コロナウイルス作用を有するため、例えば、コロナウイルス感染症に対する予防、コロナウイルス拡散に対する予防等に用いることもできる。
【0014】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤の対象であるコロナウイルスは、例えば、豚感染性コロナウイルス(PEDV)、ヒトコロナウイルス(例えば、229E、NL63、HKU1、OC43)、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、又はSARSコロナウイルス2であってよい。
【0015】
(プロポリス)
プロポリスは、例えば、常法に従い養蜂産品として入手することができる。プロポリスは、アレクリン由来、ユーカリ由来、ポプラ由来、クルシア属植物由来等、いずれの植物由来であってもよい。生理活性の高さの観点から、アレクリン由来のプロポリスが好ましい。アレクリンはキク科バッカリス属のバッカリス・ドゥラクンクリフォリアである。
【0016】
プロポリスは、例えば、日本産、ブラジル産、中国産、ヨーロッパ諸国産、オセアニア産、アメリカ産等であってよい。ブラジル産プロポリスは、主にアレクリンを由来とする。
【0017】
プロポリスは、ブラウン、レッド、イエロー、グリーン、スーパーグリーン、ウルトラグリーン等のいずれのランクであってもよく、これらの中でもグリーン、スーパーグリーン又はウルトラグリーンランクのプロポリスが好ましい。これらのランクはプロポリス中のアルテピリンC含有量によって定められる。アルテピリンCが3質量%以上であるものをグリーンプロポリスと称する。プロポリス中のアルテピリンC含有量は5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましい。
【0018】
プロポリスは、ミツバチ科ミツバチ属に属する蜂由来のものであることが好ましく、ミツバチ属の中でもセイヨウミツバチ由来のものであることが好ましい。セイヨウミツバチには、24~28の亜種があるとされており、いずれの亜種由来のプロポリスを用いてもよい。特に、セイヨウミツバチの亜種の1つであるアフリカミツバチ(A.mellifera scutellata)と他のセイヨウミツバチのヨーロッパ産亜種との交雑種であるアフリカ蜂化ミツバチ由来のプロポリスを用いることが好ましい。
【0019】
プロポリスは、例えば、プロポリス原塊であってもよく、プロポリス原塊に何らかの処理を施したプロポリス処理物であってもよい。プロポリス処理物は、例えば、プロポリス原塊に、粉砕、抽出、抽出物の濃縮又は粉末化、粉末の造粒等の処理が施されたものであってよく、抽出後に残る抽出残渣であってもよい。すなわちプロポリス処理物は、例えば、プロポリスの粉砕物、抽出物、濃縮抽出物、抽出物粉末、抽出物顆粒、抽出残渣等であってよい。抽出は、例えば、水抽出、親水性有機溶媒抽出、超臨界抽出等であってよい。親水性有機溶媒としては、例えばエタノール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。プロポリス抽出物は、プロポリス原塊から抽出して得られたものであってもよく、抽出後の残渣から更に抽出して得られたものであってもよい。処理方法は1つであってよく、2つ以上を組み合わせてもよい。プロポリス処理物としては、プロポリス親水性有機溶媒抽出物が、短時間で効率的にバランスよくプロポリスの有効成分が抽出されたものであるため好ましい。プロポリス処理物は、プロポリスエタノール抽出物、プロポロス水抽出物、又はプロポリス熱水抽出物であることが好ましい。また、プロポリス処理物は、プロポリスエタノール抽出物、プロポリス水抽出物、及びプロポリス熱水抽出物の組合せであってもよい。
【0020】
プロポリスとしては、市販品を用いてもよい。プロポリスを含む市販品は、例えば、山田養蜂場社のプロポリス300、プロポリス液30(ブラジル産)、プロポリス粒、プロポリス顆粒APC、プロポリスマイルド、プロポリスドリンク、森川健康堂社のネオプロポリス粒、プロポリス粒、プロポリス液、プロポリスマイルド液、ユーカリポリス、ラベイユ社のラベイユプロポリス(液タイプ)、ラベイユプロポリス(カプセルタイプ)、ラベイユプロポリスはちみつ等が挙げられる。
【0021】
上記殺コロナウイルス剤は、プロポリスの固形分量として、例えば体重60kgの成人に一日当たり1mg以上、3mg以上、5mg以上、10mg以上、20mg以上の用量で用いることができ、1000mg以下、800mg以下、500mg以下、300mg以下、100mg以下、80mg以下、50mg以下の用量で用いてもよい。
【0022】
上記殺コロナウイルス剤中のプロポリスの含有量は、固形分として、剤の全量に対して、例えば、0.000000001質量%以上、0.00000001質量%以上、0.0000001質量%以上、0.000001質量%以上、0.00001質量%以上、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、93質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、又は100質量%であってよい。殺コロナウイルス剤中のプロポリスの含有量は、固形分として、剤の全量に対して、例えば、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、93質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0023】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤の投与対象者は、例えば健常者であってよい。
【0024】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は、有効成分としてのプロポリスに加えて、他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤)を挙げることができる。
【0025】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、プロポリスと、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0026】
上記殺コロナウイルス剤は、医薬品、医薬部外品、食品組成物、又は化粧品そのものとして、又はこれらの製品中の成分として使用することができる。殺コロナウイルス剤を一成分として含む医薬品、医薬部外品、食品組成物、又は化粧品は、例えば、これら製品の製造工程における中間製品に、上記殺コロナウイルス剤を添加することにより製造することができる。
【0027】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤からなる医薬品、医薬部外品、食品組成物若しくは化粧品、又は、該殺コロナウイルス剤を含む医薬品、医薬部外品、食品組成物若しくは化粧品は、殺コロナウイルス用であってよい。これらの製品には、例えば、コロナウイルスを不活化する旨、コロナウイルスを分解する旨、コロナウイルスを破壊する旨、コロナウイルスを殺ウイルスする旨、コロナウイルスを除去する旨、コロナウイルスを抑制する旨等が表示されていてもよい。
【0028】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は、経口投与されてもよく、非経口により投与されてもよい。また、本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は、皮膚外用剤であってもよい。殺コロナウイルス剤は、例えば、滴下、散布、塗布等の処置により、必要とする皮膚の部位に直接適用されてもよい。投与態様は、経口投与であってもよく、非経口投与であってもよい。本実施形態に係る殺コロナウイルス剤は、一日一回投与されてもよく、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。
【0029】
化粧品には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等の部位に適用され得る、あらゆる化粧品が含まれる。
【0030】
化粧品の剤形は、例えば、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等であってよい。上記化粧品は、例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク、ミスト、UV予防化粧品等の基礎化粧品、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧品、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、へアートリートメント、整髪料、へアートニック剤、ヘアミスト、ヘアフォーム、ヘアリキッド、ヘアジェル、ヘアスプレー、育毛剤、制汗剤、入浴剤、マウスリンス、口腔化粧品、歯磨剤、ハンドクリーム、ハンドソープ、などであってよい。
【0031】
化粧品には、有効成分としてのプロポリス以外に、通常化粧品に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0032】
本実施形態に係る殺コロナウイルス剤を含む化粧品の処方例としては、例えば、上記有効成分に加え、ダマスクバラ花水、蜂蜜、ローヤルゼリーエキス、ローズマリー葉エキス、ユズ果実エキス、メリッサ抽出液、ザクロ抽出液、ユーカリ抽出液、オリーブ葉抽出液等を含むものであってよく、更にエタノール、ベンチレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、水等を含むものであってよい。
【0033】
殺コロナウイルス剤を食品組成物として又は食品組成物の一成分として用いる場合、該食品組成物は、食品の3次機能、すなわち体調調節機能が強調されたものであることが好ましい。食品の3次機能が強調された製品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0034】
食品組成物としては例えば、コーヒー、ジュース及び茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、並びに、日本酒、洋酒、果実酒及びハチミツ酒等の酒などの飲料;カスタードクリーム等のスプレッド;フルーツペースト等のペースト;チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ及びプリン等の洋菓子;大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ及び羊羹等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンデー及びシャーベット等の氷菓;カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等の調理済みの食品;ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料及びスープの素等の調味料などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
<第一液:プロポリスエタノール抽出液の調製>
ブラジル産グリーンプロポリスのエタノール抽出液(固形分55%)に10倍量の水を加えて混合し、上清の水を除去した。その後、95%エタノールを更に加えて再溶解し、プロポリスの固形分が0.67%となるように調整することにより、第一液を調製した。
【0037】
<第二液の調製>
エタノール抽出後のプロポリス残渣に6倍量の水を加え混合し、90℃1時間加熱した。その後-20℃で凍結し、解凍した後、ろ過後固形分が3.0%になるように水で調整することにより、第二液を調製した。
【0038】
<サンプルの調製>
第一液:第二液:1,3-ブチレングリコール:ペンチレングリコール:水の質量比が1.8:10:9:3:36.2となるように混合したものをサンプルとした。サンプル全量に対して、第一液の固形分量は0.02%、第二液の固形分量は0.5%であった。
【0039】
<殺ウイルス試験>
上記サンプルを10倍希釈した液1mLに、Porcine epidemic diarrhea virus P-5V株(豚感染性のコロナウイルス)0.1mLを添加し、室温(25℃)で2時間感作させた。試験液中のウイルス遺伝子を抽出し、リアルタイムPCRにてウイルス遺伝子検査を行い、Ct(Threshold Cycle)値を算出した。その結果、Ct値は20.6であり、ウイルス減少率は98.24%と推定された。
【0040】
対照実験として、精製水1mLに、Porcine epidemic diarrhea virus P-5V株(豚感染性のコロナウイルス)0.1mLを添加し、2時間後、試験液中のウイルス遺伝子を抽出し、リアルタイムPCRにてウイルス遺伝子検査を行い、Ct(Threshold Cycle)値を算出した。その結果、Ct値は15.0であり、ウイルス減少率は13.51%と推定された。