(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】複数細胞標的化リポソーム
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20240411BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240411BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240411BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240411BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240411BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240411BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240411BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240411BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240411BHJP
A61K 31/506 20060101ALN20240411BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K9/127
A61K39/395 E
A61K39/395 G
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K45/00
A61K47/24
A61K47/28
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K31/506
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2020514960
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 CN2018104533
(87)【国際公開番号】W WO2019052401
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2020-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】201710828962.X
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507190994
【氏名又は名称】上海交通大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】800 Dongchuan Rd.,Minhang District,Shanghai,200240,P.R.CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徐宇虹
(72)【発明者】
【氏名】謝舫
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】齋藤 恵
【審判官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1116118(CN,A)
【文献】MACK, K. et al.,Antibodies,2012年,Vol.1, No.2,pp.199-214.
【文献】IDEN, D.L. et al., Biochimica et Biophysica Acta - Biomembranes,2001年,Vol.1513, No.2,pp.207-216.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームと、リポソームの表面に修飾された主要抗体及び補助抗体とからなる複数細胞標的化リポソームであって、
前記リポソームは、ブランクリポソームであり、前記主要抗体は標的細胞の表面の標的分子に特異的に結合し、前記補助抗体は免疫エフェクター細胞に特異的に結合し、前記複数細胞標的化リポソームは、同時又は逐次に免疫エフェクター細胞と標的細胞に結合することで、免疫エフェクター細胞による標的細胞の認識及び免疫効果の活性化を実現可能であり、
前記複数細胞標的化リポソームは、前記リポソーム内に薬物が封入されておらず、
前記リポソームの構成成分は、
ホスファチジルコリン、コレステロール、主要抗体と連結した脂質、及び補助抗体と連結した脂質分子からなり、
前記ホスファチジルコリンは、レシチン、水素化大豆ホスファチジルコリン、水素化卵ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルグリセロホスホコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-リノレオイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン
、のいずれか1つ又は2つ或いは2つ以上の組み合わせから選択され、前記標的化リポソームの粒径が80~90nmであり、PDIが0.08±0.01であることを特徴とする複数細胞標的化リポソーム。
【請求項2】
各リポソーム上の主要抗体と補助抗体のモル比は、100/1~1/1の間であることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項3】
各リポソームの表面には、1~1000個の主要抗体と1~1000個の補助抗体が存在することを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項4】
前記主要抗体と補助抗体は、それぞれ共有結合又は疎水性と親水性の相互作用によってリポソームの表面に現れることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項5】
前記主要抗体が対象とする抗原は、微生物抗原、腫瘍関連抗原、腫瘍細胞表面の特異的抗原、腫細胞表面で高発現する抗原、腫瘍組織又は腫瘍血管中で高発現する抗原から選択され、
前記補助抗体が対象とする抗原は、腫瘍細胞、リンパ球又は骨髄系細胞で発現する抗原から選択されることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項6】
同時又は逐次に、腫瘍細胞、リンパ球又は骨髄系細胞に結合可能であることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項7】
前記複数細胞標的化リポソームは、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ又は好中球に標的結合することを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項8】
前記複数細胞標的化リポソームは、未活性のT細胞、又は、体外で活性化及び増幅したT細胞に標的結合することを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項9】
前記T細胞は、抗原特異性T細胞、腫瘍浸潤リンパ球、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、γδT細胞、キメラ抗原受容体T細胞、T細胞受容体遺伝子導入T細胞から選択されることを特徴とする請求項8に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項10】
前記主要抗体と補助抗体の形式は、IgG、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fab断片、一本鎖Fv断片、及び、マイクロ抗体、ナノ抗体、単一ドメイン抗体、二重ドメイン抗体から選択されることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項11】
前記主要抗体が対象とする抗原は、CD19、CD20、PSMA、Her2/neu、EGFR又はLGR5から選択されることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項12】
前記補助抗体は、CD3抗
体、PD1抗
体、CTLA4抗
体、CD40L抗
体の1又は複数から選択されることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項13】
前記主要抗体が対象とする抗原は、CD19であり、前記補助抗体は、CD3抗体であることを特徴とする請求項1に記載の複数細胞標的化リポソーム。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の複数細胞標的化リポソームの調製方法であって、
(1)主要抗体と補助抗体をそれぞれ脂質分子に連結し、主要抗体-脂質分子及び補助抗体-脂質分子を取得するステップと、
(2)取得した主要抗体-脂質分子及び補助抗体-脂質分子を構築済みのリポソームと混合し、培養することで混合溶液を取得するステップと、
(3)取得した混合溶液を透析又は限外濾過し、未封入の抗体及び抗体脂質複合物を除去することで、複数細胞標的化リポソームを取得するステップ、を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
免疫治療薬、抗腫瘍薬の調製における請求項1~
13のいずれか1項に記載の複数細胞標的化リポソームの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物・製剤、リポソーム薬物キャリア、及び抗体標的化の技術分野に属し、具体的には、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に同時に作用する複数細胞標的化リポソーム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームとは、リン脂質及び/又はコレステロールを基礎としてなる二分子膜小胞状構造を有する薬物キャリアである。また、リポソームは脂質分子からなる人工的に作製された二分子膜小胞である。脂質分子は親水性頭部と疎水性尾部を有するため、内部の水相(内水相)に親水性薬物を含有させ、脂質二層膜内に疎水性薬物を挿入することが可能である。また、リポソームは良好な組織適合性を有し、毒性が低く、生物学的に安全なことから、薬物送達システムの分野で幅広く注目され、応用されている。特に、リポソームを用いた標的化技術の発展に伴い、脂質薬物キャリアには、標的部位に集積して標的細胞と特異的に作用する能力を有するよう、独特の体内動態が付与されている。一方、標的の選択性を最適化し、且つ標的化リガンドの構造及び性能を改良することで、薬剤の全身毒性の低下や治療指数の向上等を含むリポソーム製剤の臨床効果の改善を可能とすることが求められている。
【0003】
標的化リポソーム薬物送達システムの研究開発の考え方では、腫瘍細胞の表面で高発現又は特異的に発現する受容体を標的として、各種タイプの能動的標的化リガンド及び薬物キャリアを設計する。このような設計思想に基づき開発された能動的標的化製剤は、非標的化キャリアで搬送される遊離型薬物と比べて、例えば標的部位における薬物濃度の向上や薬効の改善というように、病巣部位への優れた標的化能力を有する。しかし、この種の標的化薬物送達システムは任意の特定腫瘍細胞にのみ作用するため、効果的に腫瘍を除去するには不十分なだけでなく、微小残存病変や腫瘍の多剤耐性といった問題も誘発し得る。
【0004】
近年、腫瘍内不均一性に対する認識の高まりを受けて、例えば、異なる患者間の腫瘍分子マーカーの違い、同一患者の同一腫瘍内における異なる腫瘍細胞間の分子マーカーの違い、同一腫瘍内に存在する異なる細胞の種類及びそれらの相互作用など、単一細胞標的化の限界の背後に潜むメカニズムが明らかとなっている。そこで、研究者らは、腫瘍内不均一性の特性に着目して標的化送達の設計思想を拡大している。例えば、二重標的化リポソームによれば、キャリアと細胞との結合能力を強化して、細胞の薬物取り込みを促進することが可能である。また、腫瘍関連細胞を標的とする薬物キャリアは、例えば、腫瘍新生血管、線維芽細胞、腫瘍幹細胞等への作用といった別のメカニズムにより腫瘍の成長を抑制可能である。
【0005】
上記の標的化送達技術によれば、ある程度の治療改善は見込まれるが、設計思想は依然として単一細胞標的化という既定の枠組を抜け出せていない。腫瘍内部の異なる細胞間には、例えば、リンパ球浸潤、マクロファージによる貪食、抗原提示、サイトカインやエクソソームに基づく細胞間コミュニケーションなど様々な動態や相互作用が存在している。これらの相互作用には、腫瘍の成長を抑制する免疫監視や除去が含まれる一方で、腫瘍の成長を促進する微小環境も含まれる。また、これらの細胞間相互作用のブロック又は促進が実行可能であり、且つ有効であることが臨床実践において証明されている(例えば、抗原特異性T細胞によるワクチン療法、NK細胞の細胞障害性作用による抗体療法、腫瘍の免疫エスケープ作用をブロックする免疫チェックポイント阻害剤療法など)。これに対し、単一細胞を標的とする薬物送達システムでは特定の標的細胞について生理過程を調節す
るにとどまり、腫瘍組織内の細胞間相互作用を利用して効果的な治療を実現することは不可能である。
【0006】
そこで、異なる細胞を対象とする抗体を1つのリポソームに修飾し、分子の自己集合を利用して、安定構造及び体内での長期循環特性を有するリポソームを構成する。そして、抗体の作用によって逐次に又は同時に複数の異なる細胞に結合し、細胞間相互作用の促進又はブロックを実現することで、異なる細胞間の認識、コミュニケーション、細胞障害性、アポトーシス促進又は除去等の作用を調節する。且つ、脂質薬物キャリアを利用して複数細胞を対象とする標的化薬物送達を実現することで、薬理作用を改善するとともに、併用療法で発生の恐れのある薬物相互作用等の問題を回避する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術に存在する課題を解消するために、本発明は、逐次に又は同時に複数の異なる細胞に結合可能な複数細胞標的化リポソーム製剤とその調製及び応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的及び関連する他の目的を実現するために、本発明は以下の技術手段を用いる。
【0009】
本発明は、第一の局面において、リポソームと、リポソームの表面に修飾された主要抗体及び補助抗体を構造に含み、前記主要抗体が標的細胞の表面の標的分子に特異的に結合し、前記補助抗体が免疫エフェクター細胞に特異的に結合する複数細胞標的化リポソームを提供する。
【0010】
更に、前記複数細胞標的化リポソームは、同時又は逐次に免疫エフェクター細胞と標的細胞に結合することで、免疫エフェクター細胞による標的細胞の認識及び免疫効果の活性化を実現可能である。
【0011】
更に、各リポソーム上の主要抗体と補助抗体のモル比は、100/1~1/1の間である。
【0012】
更に、各リポソームの表面には、1~1000個の主要抗体と1~1000個の補助抗体が存在する。
【0013】
更に、前記主要抗体と補助抗体は、それぞれ共有結合又は疎水性と親水性の相互作用によってリポソームの表面に現れる。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態で提示するように、前記主要抗体と補助抗体はそれぞれ前記リポソームの脂質分子と連結する。前記脂質分子はマレイミド基を有する。前記主要抗体と補助抗体は、それぞれ脂質分子のマレイミド基と連結する。また、前記主要抗体と補助抗体は、それぞれチオエーテル結合により脂質分子と連結する。
【0015】
更に、前記標的細胞は、腫瘍細胞、微生物又は微生物が感染した細胞から選択される。そのため、前記主要抗体が対象とする抗原は、微生物抗原、腫瘍関連抗原、腫瘍細胞表面の特異的抗原、腫細胞表面で高発現する抗原、腫瘍組織又は腫瘍血管中で高発現する抗原から選択される。つまり、前記標的分子は、微生物抗原、腫瘍関連抗原、腫瘍細胞表面の特異的抗原、腫細胞表面で高発現する抗原、腫瘍組織又は腫瘍血管中で高発現する抗原から選択される。
【0016】
更に、前記主要抗体の特異的標的分子は、CD19、CD20、PSMA、Her2/neu、EGFR、LGR5又はPDL1から選択される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、前記主要抗体の特異的標的分子がCD19の場合を提示した。前記CD19は、ヒトB細胞白血病又はヒトB細胞リンパ腫のヒトCD19抗原である。
【0018】
更に、前記免疫エフェクター細胞は、標的細胞に対し、細胞障害性の発生、アポトーシス促進又は除去作用を発生可能なエフェクター細胞である。前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ又は好中球から選択される。よって、前記補助抗体が対象とする抗原は、腫瘍細胞、リンパ球又は骨髄系細胞で発現する抗原から選択される。そのため、前記複数細胞標的化リポソームは、同時又は逐次に、腫瘍細胞、リンパ球又は骨髄系細胞に結合可能である。即ち、一つのリポソームは、まず腫瘍細胞に結合してからリンパ球に結合するか、又はその逆である。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、前記免疫エフェクター細胞がT細胞の場合を提示した。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、前記免疫エフェクター細胞が作用する抗原がCD3であり、前記補助抗体がCD3抗体である場合を提示した。
【0021】
更に、前記補助抗体は、CD3抗体及びその断片、PD1抗体及びその断片、CTLA4抗体及びその断片、CD40L抗体及びその断片から選択される。
【0022】
前記T細胞は、未活性のT細胞としてもよいし、体外で活性化及び増幅したT細胞としてもよく、例えば、抗原特異性T細胞、腫瘍浸潤リンパ球、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)、γδT細胞、キメラ抗原受容体T細胞、T細胞受容体遺伝子導入T細胞である。
【0023】
前記T細胞は、未活性のT細胞又は体外で活性化及び増幅したT細胞である。
【0024】
前記活性化又は増幅は、抗原、抗体、ポリペプチド、ポリペプチド-主要組織適合遺伝子複合体、小分子、サイトカイン、免疫チェックポイント阻害剤、遺伝子編集による活性化又は増幅とすればよい。
【0025】
更に、前記主要抗体と補助抗体の形式は、IgG、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fab断片、一本鎖Fv断片、マイクロ抗体(minibody)、ナノ抗体(nanobody)、単一ドメイン抗体(unibody)又は二重ドメイン抗体(diabody)から選択される。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、前記抗体が抗体のFab’断片であり、抗体からFc断片を除去し還元したあとに取得される場合を提示した。また、取得される断片は軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含む。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態では、前記主要抗体がCD19抗体のFab’断片であり、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が具体的に下記のSEQ ID NO.1で示される場合を提示した。
【0028】
また、重鎖の可変領域のアミノ酸配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.2で示される。
【0029】
また、主要抗体はHer2抗体としてもよい。前記Her2抗体のLC配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.3で示される。
【0030】
前記Her2抗体のHC配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.4で示される。
【0031】
更に、前記主要抗体はEGFR抗体のscFv断片としてもよい。前記EGFR抗体のscFvのVH配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.5で示される。
【0032】
前記EGFR抗体のVL配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.6で示される。
【0033】
更に、前記主要抗体はPSMA抗体としてもよい。前記PSMA抗体のVH配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.7で示される。
【0034】
前記PSMA抗体のVL配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.8で示される。
【0035】
更に、前記主要抗体はPDL1抗体としてもよい。前記PDL1抗体の重鎖配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.9で示される。
【0036】
前記PDL1抗体の軽鎖配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.10で示される。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、前記補助抗体がCD3抗体のFab’断片であり、前記CD3抗体のVH配列が具体的に下記のSEQ ID NO.11で示される場合を提示した。
【0038】
前記CD3抗体のVL配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.12で示される。
【0039】
或いは、前記CD3抗体のVH配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.13で示される。
【0040】
前記CD3抗体のVL配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.14で示される。
【0041】
更に、前記補助抗体はPD-1抗体としてもよい。前記PD-1抗体のVH配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.15で示される。
【0042】
前記PD-1抗体のVL配列は、具体的に下記のSEQ ID NO.16で示される。
【0043】
本発明ではリポソームの成分については特に制限せず、リポソームでありさえすればよい。前記リポソームの構成成分は、レシチン、水素化大豆ホスファチジルコリン、水素化卵ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルグリセロホスホコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-リノレオイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、水素化ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルグリセロホスホコリン、ジミリストイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、脳ホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、卵ホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、脳スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、又はジステアロイルスフィンゴミエリン、コレステロール、ジオレオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、ジオレオイルクロリドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジメチルジステアリルアンモニウムブロミド(DDAB)、コレステリル3Β-N-(ジメチルアミノ-エチル)-カルバメート塩酸塩(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、ジオレオイルスクシニルグリセロールコリンエステル(DOSC)、ジオレオイルクロリドスペルミンカルボキシアミドエチルジメチルプロピルトリフルオロ酢酸アンモニウム(DOSPA)、のいずれか1つ又は2つ或いは2つ以上の組み合わせから選択すればよい。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態で提示するように、前記リポソームの構成成分には、ホス
ファチジルコリン、コレステロール、主要抗体と連結する脂質、及び補助抗体と連結する脂質分子が含まれる。
【0045】
更に、前記リポソームは、ブランクリポソームとしてもよいし、薬物送達リポソームとしてもよい。
【0046】
本発明は、第二の局面において、前記複数細胞標的化リポソームの調製方法を提供する。当該方法はポストインサーション法で調製を行い、以下のステップを含む。
(1)主要抗体と補助抗体をそれぞれ脂質分子に連結し、主要抗体-脂質分子及び補助抗体-脂質分子を取得する。
(2)取得した主要抗体-脂質分子及び補助抗体-脂質分子を構築済みのリポソームと混合し、培養することで混合溶液を取得する。
(3)取得した混合溶液を透析又は限外濾過し、未封入の抗体及び抗体脂質複合物を除去することで、複数細胞標的化リポソームを取得する。
【0047】
好ましくは、前記主要抗体と脂質分子のモル比は(0.1~5):1000の範囲である。
【0048】
好ましくは、前記補助抗体と脂質分子のモル比は(0.1~5):1000の範囲である。
【0049】
本発明は、第三の局面において、免疫治療薬、抗腫瘍薬の調製における前記複数細胞標的化リポソームの応用を提供する。
【0050】
本発明は、第四の局面において、前記複数細胞標的化リポソームを腫瘍患者に適用するステップを含む腫瘍の治療方法を開示する。前記方法は、体外(in vitro)での方法としてもよい。前記方法は、非治療目的であってもよい。前記腫瘍は、細胞表面がCD19陽性の腫瘍としてもよい。
【発明の効果】
【0051】
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0052】
本発明の複数細胞標的化リポソームは、複標的化抗体と類似の作用メカニズムを有するが、更に、主要抗体と補助抗体の密度及び相対比率を調整することで、異なる標的細胞と標的分子に対するエフェクター細胞の活性化効果を最適化可能である。更に、リポソームに封入された薬物によって、標的細胞及びエフェクター細胞に対する作用がいっそう強化される。また、最後に、複数細胞リポソームは、複標的化抗体よりも生産、調製及び品質制御を実行可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1A】
図1Aは、CD3完全長抗体、精製した抗CD3抗体のF(ab’)2断片、抗CD3抗体のFab’断片-高分子-DSPE連結生成物の還元型及び非還元型のSDS-PAGE図である(クマシーブリリアントブルー染色)。
【
図1B】
図1Bは、CD19完全長抗体、精製した抗CD19抗体のF(ab’)2断片、抗CD19抗体のFab’断片-高分子-DSPE連結物のSDS-PAGE図である(クマシーブリリアントブルー染色)。
【
図1C】
図1Cは、抗CD3の一本鎖抗体(scFv)断片、抗CD3の一本鎖抗体(scFv)断片-高分子-DSPE連結物のSDS-PAGE図である(クマシーブリリアントブルー染色)。
【
図2】
図2は、複数細胞標的化リポソーム、単一標的化リポソーム、非標的化リポソームの粒径分布である。
【
図3A】
図3Aは、CD3及びCD19に対する複数細胞標的化リポソーム及び単一標的化リポソームと標的細胞Jurkatとの特異的結合を示す。
【
図3B】
図3Bは、CD3及びCD19に対する複数細胞標的化リポソーム及び単一標的化リポソームと標的細胞Rajiとの特異的結合を示す。
【
図4】
図4は、複数細胞標的化リポソーム、単一標的化リポソーム、非標的化リポソームにより媒介されたCD3+標的細胞とCD19+標的細胞との細胞間結合を示す。
【
図5A】
図5Aは、予め活性化されたエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に、LDH法で投薬24時間後の細胞障害性を検出したものである。エフェクター細胞は、CD3及びCD28抗体で3日間活性化・増幅したT細胞である。
【
図5B】
図5Bは、予め活性化されたエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に、LDH法で投薬24時間後の細胞障害性を検出したものである。エフェクター細胞は、ヒトIL-2で活性化・増幅したLAK細胞である。
【
図6A】
図6Aは、予め活性化されたエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に(エフェクター細胞はゾレドロン酸で増幅したヒトγδT細胞)、投薬24時間後の細胞障害性として、エフェクター細胞/標的細胞の比率の違いによる細胞殺傷状況をLDH法で検出したものである。
【
図6B】
図6Bは、予め活性化されたエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に(エフェクター細胞はゾレドロン酸で増幅したヒトγδT細胞)、投薬24時間後の細胞障害性として、投与量・標的の異なるリポソームにより媒介された細胞殺傷状況をLDH法で検出したものである。
【
図6C】
図6Cは、予め活性化されたエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に(エフェクター細胞はゾレドロン酸で増幅したヒトγδT細胞)、投薬24時間後の細胞障害性として、投与量・標的の異なるリポソームにより媒介された細胞殺傷状況をLDH法で検出したものである。
【
図7A】
図7Aは、未刺激のエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球)、投薬5時間後の細胞障害性として、投薬5時間後の標的細胞の殺傷状況をPI染色法により検出したものである。
【
図7B】
図7Bは、未刺激のエフェクター細胞による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合に(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球)、投薬24時間後の細胞障害性として、投薬24時間後の標的細胞の殺傷状況をPI染色法により検出したものである。
【
図8A】
図8Aは、未刺激のリンパ球による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合の(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球)、エフェクター細胞/標的細胞の比率の違いによる細胞殺傷状況を示す(PI染色法)。
【
図8B】
図8Bは、未刺激のリンパ球による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合の(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球)、投与量・標的の異なるリポソームにより媒介された細胞殺傷状況を示す(LDH法)。
【
図8C】
図8Cは、未刺激のリンパ球による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合の(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球)、投与量・標的の異なるリポソームにより媒介された細胞殺傷状況を示す(LDH法)。
【
図9A】
図9Aは、複数細胞標的化リポソームが未刺激のリンパ球による標的細胞殺傷作用を媒介した場合に(エフェクター細胞は未活性のリンパ球、標的細胞は標的細胞Raji細胞)、LDH法により投薬5時間後の細胞障害性を検出したものである。なお、複数細胞標的化リポソームの主要抗体は抗CD3抗体のUCHT1クローンのFab’2断片ではなく、別のクローンの抗CD3 IgGモノクローナル抗体(2C11)に変更した。
【
図9B】
図9Bは、複数細胞標的化リポソームが未刺激のリンパ球による標的細胞殺傷作用を媒介した場合に(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球、標的細胞はCD19+ヒトB細胞白血病SUP-B15細胞)、LDH法により投薬24時間後の細胞障害性を検出したものである。
【
図9C】
図9Cは、複数細胞標的化リポソームが未刺激のリンパ球による標的細胞殺傷作用を媒介した場合に(エフェクター細胞は未活性のCD4+T細胞、標的細胞はLGR5+ヒト非小細胞性肺癌A549細胞)、LDH法により投薬5時間後の細胞障害性を検出したものである。なお、複数細胞標的化リポソームの補助抗体はLGR5抗体とした。
【
図10】
図10は、未刺激のリンパ球による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合のIFN-γの分泌状況を示す。エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球とした。図中の、PxPは非標的化リポソーム群、HxPはCD19単一標的化リポソーム群、UxPはCD3単一標的化リポソーム群、UxHはCD19及びCD3複数細胞標的化リポソーム群を示す。
【
図11】
図11は、未刺激のリンパ球による標的細胞Rajiに対する細胞殺傷作用を複数細胞標的化リポソームが媒介した場合の濃度別のEGTAの影響を示す。エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球とした。
【
図12】
図12は、複数細胞標的化リポソームが未刺激のリンパ球による標的細胞殺傷作用を媒介した場合に(エフェクター細胞は未活性のヒトリンパ球、標的細胞はCD19+Raji細胞)、LDH法により投薬24時間後の細胞障害性を検出したものである。図中のUxH-lipoは複数細胞標的化ブランクリポソーム群、UxH-DAS-lipoは複数細胞標的化ダサチニブリポソーム群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
リポソーム(liposomes)とは、脂質分子からなる人工的に作製された二分子膜小胞である。通常、脂質分子の構造は、親水性頭部、疎水性尾部及び結合部の3つの部分から構成される。水媒体内では、疎水性の相互作用によって、脂質分子の疎水性尾部が互いに近寄り、親水性頭部が水相側を向いて並ぶことで二分子膜が形成される。このような構造によれば、リポソーム内部の水相(内水相)に親水性薬物を含ませることができる一方、脂質二層膜内には疎水性薬物を挿入可能である。
【0055】
標的化リポソームの標的化作用は、表面に修飾されるリガンドによって実現される。リガンドとしては、抗体、ポリペプチド、小分子等が可能であり、リガンドを介することで標的細胞の特異的受容体との相互作用が奏される。これらのうち、抗体及びその断片をリポソームの表面に修飾する場合には、小分子リガンドやポリペプチドリガンドの場合よりも良好な結合活性及び特異性が備わる。また、脂質分子の自己集合原理を利用すれば、1つのリポソームの表面に対する2つ以上の異なるリガンドの修飾も比較的良好に実行可能である。
【0056】
本発明では、抗体修飾リポソーム技術をベースとし、標的細胞を対象とする主要抗体とエフェクター細胞を対象とする補助抗体を巧みに組み合わせることで、新規且つ独特のリポソームによる腫瘍細胞殺傷メカニズム及び効果を取得する。現在知られている複標的化リポソーム製剤技術では、異なるリガンドを組み合わせ、異なる抗原に同時に結合させることで、特定の細胞に対する標的化送達効率及び選択性を向上させている。これに対し、本発明で提供する複数細胞標的化リポソームでは、複数の細胞間での相互作用を促進又は
ブロックすることで、異なる細胞間での認識、結合及び活性化等の生理機能を調節する。つまり、リガンド標的化リポソーム技術に対し全く新しい方向性を提案するものである。
【0057】
また、脂質薬物キャリアの表面に複数細胞標的性を構築することは、同一の抗体構造上に標的性の異なる2種類の抗体配列を構築する場合よりも遥かに容易なだけでなく、リポソーム表面の主要抗体及び補助抗体の密度や比率を調節することで抗腫瘍効果を最適化できる。このほか、こうした複数細胞標的化リポソームの構築及び調製方法によれば、抗体の配列ミス等の問題も回避されるため、生産及び治療効果の欠点が解消される。特に、リポソームは体内において独特の薬物動態と分布特性を更に有することから、従来の複標的化抗体は体内での作用半減期が短いとの欠点を大幅に改善可能である。
【0058】
更に、本発明で得られる複数細胞標的化リポソームは、リポソーム薬物送達技術との組み合わせも可能である。よって、臨床における既存の複標的化抗体とその他の薬物との併用療法と比べて便利で迅速、多様且つ制御可能である。リポソームに薬物を封入することで、薬物の標的化送達及び放出を実現可能となる。即ち、薬物の選択性が向上し、薬物の放出部位や時間を変化させられる。例えば、腫瘍免疫療法の副作用には、患者におけるサイトカインストームの発生が含まれる。そのため、この副作用を抑えるべく、臨床では患者に対しデキサメタゾンを予め服用することを求めている。また、例えば、一部の免疫製剤はIL-2等のサイトカイン製剤を同時に系統的に投与しなければ理想的な免疫活性化作用を得ることができない。これに対し、リポソームは、薬物送達キャリアとして薬物を封入し、且つ主要抗体及び補助抗体を利用することで薬物の標的化送達を実現可能である。
【0059】
そこで、本発明は、標的細胞を対象とする主要抗体とエフェクター細胞を対象とする補助抗体を含む複数細胞標的化リポソームを調製することで、腫瘍細胞に対する免疫細胞の結合及び認識を促進し、更には免疫細胞の効果・機能の活性化を実現可能とする。このような複数細胞標的化リポソームは独特の体内作用メカニズムを有している。且つ、臨床で応用されている複標的化抗体よりも、生産・調製及び体内作用といった多くの面において実質的に進歩している。また、薬物送達リポソームを利用して複数細胞標的化製剤を調製することで、いっそう良好な治療効果を実現可能となる。
【0060】
本発明の一部の実施形態で提示するように、本発明の技術手段は以下の利点を有する。
(1)本発明は、複数細胞標的化リポソームの調製を出発点とし、同一のリポソームに2種類の異なる特異的な標的化抗体又は抗体断片を修飾する。リポソームの調製及び表面の標的化修飾技術はすでに成熟しているため、設計が容易であり、大規模な生産・調製及び分離・精製を行いやすい。また、標的化基は臨床の必要性に応じて調整可能なことから、疾病に応じて各種の異なる特異的な複数細胞標的化結合を開発及び設計するのに有利である。
(2)本発明におけるCD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する2種類の抗体断片-脂質連結物、蛍光標識リポソームで調製した複数細胞標的化リポソーム及び単一標的化リポソーム、及びCD19陽性細胞及びCD3陽性細胞をそれぞれ培養したところ、いずれにも強い結合活性が見られた。且つ、これらの結合は特異的であった。
(3)本発明におけるCD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する複数細胞標的化リポソームと、異なる蛍光で標識したCD19陽性細胞及びCD3陽性細胞を一緒に培養し、フローサイトメーターで検出したところ、2種類の蛍光による二重陽性信号が出現した。これより、複数細胞標的化リポソームが細胞間結合を効果的に媒介可能なことが示された。即ち、免疫エフェクター細胞による標的細胞認識能力を促進可能なことが示された。
(4)本発明におけるCD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する複数細胞標的化リポソームと、免疫エフェクター細胞及び腫瘍細胞を一緒に培養したところ、腫瘍細胞に
対する免疫エフェクター細胞の大変強い殺傷能力が示された。且つ、この殺傷能力は、パーフォリン-グランザイム経路により媒介された。
(5)本発明におけるCD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する複数細胞標的化リポソームと、免疫エフェクター細胞及び腫瘍細胞を一緒に培養し、ELISAで検出したところ、複数細胞標的化リポソームが免疫エフェクター細胞によるIFN-γサイトカインの分泌を効果的に刺激可能なことが示された。
(6)本発明におけるCD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する複数細胞標的化リポソームについて表面の抗体密度を調節し、LDHで検出したところ、複数細胞標的化リポソームが制御可能な細胞相互作用の調節能力を有することが示された。
(7)本発明におけるCD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する複数細胞標的化リポソームは、複標的化抗体の利点を有するだけでなく、薬物送達リポソームを利用して複数細胞標的化薬物送達システムを調製することも可能である。CD19抗原及びCD3抗原と特異的に結合する2種類の抗体断片-脂質連結物と、免疫調節薬ダサチニブを搭載した薬物送達リポソームを原料として調製される薬物送達複数細胞標的化リポソームは、薬物送達量が多い場合には、免疫エフェクター細胞により媒介される細胞殺傷に対し効果的な抑制能力を示した。薬物送達複数細胞標的化リポソームは、標的化薬物キャリアとして疾病に対する標的化薬物送達システムに発展し得るため、良好な治療効果が実現される。
【0061】
本発明の具体的実施形態について更に記載する前に、本発明による保護の範囲は後述する特定の具体的実施形態に限らないと解釈すべきである。更に、本発明の実施例で使用する用語は特定の具体的実施形態を記載するためのものであって、本発明による保護の範囲を制限するものではないと解釈すべきである。また、以下の実施例で具体的条件を明記していない試験方法については、一般的に、汎用条件又はメーカーごとの推奨条件に基づき実施する。
【0062】
実施例で数値範囲を提示している場合には、本発明において別途説明がない限り、各数値範囲の2つの端点及び2つの端点の間の任意の数値をいずれも適用可能であると解釈すべきである。また、別途定義しない限り、本発明で使用するあらゆる技術及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同義である。また、実施例で使用される具体的方法、デバイス、材料のほかに、当業者が把握する従来技術及び本発明の記載に基づいて、本発明の実施例で記載する方法、デバイス、材料と類似又は同等の従来技術における任意の方法、デバイス及び材料を用いて本発明を実現してもよい。
【0063】
また、別途説明がない限り、本発明で開示する実験方法、検出方法、調製方法には、当該分野において一般的な分子生物学、生物化学、クロマチン構造及び分析、分析化学、細胞培養、組換えDNA技術及び関連分野の一般技術を採用すればよい。これらの技術については従来の文献で十分に説明されている。具体的には、以下の文献等を参照すればよい。
【0064】
Sambrookほか,MOLECΜLAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor
Laboratory Press,1989 and Third edition,2001
Ausubelほか,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECΜLAR BIOLOGY,John Wiley&Sons,New York,1987 and periodic updates
the series METHODS IN ENZYMOLOGY,Academic
Press,San Diego
Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,
Third edition,Academic Press,San Diego,1998
METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,Chromatin(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999
METHODS IN MOLECΜLAR BIOLOGY,Vol.119,Chromatin Protocols(P.B.Becker,ed.)Humana Press,Totowa,1999
【0065】
特に説明がない限り、以下の実施例で使用する実験材料はいずれも一般的な生化学試薬メーカーから購入したものである。
実験用試薬及び細胞
【0066】
レシチン(EPC)、水素化大豆リン脂質(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール2000-マレイミド(DSPE-PEG2000-mal)は、NOF社(日油株式会社)(東京,日本)より購入した。また、コレステロール(Chol)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール2000(DSPE-PEG2000)は、アバンティポーラリピッド社(米国,アラバマ州)より購入した。
【0067】
DiIはシグマ社、CFSEはインビトロジェン社より購入した。
【0068】
RPMI-1640培地、ウシ胎児血清、ペニシリン-ストレプトマイシン二重抗体試薬(100×)はジブコ(Gibco)社から購入した。
【0069】
Rajiヒトリンパ腫細胞、Jurkatヒトリンパ腫細胞は、中国科学院細胞所から購入した。
【0070】
実施例1:複数細胞標的化リポソームの調製
【0071】
1.抗CD19抗体及び抗CD3抗体のF(ab’)2断片の調製
固定化酵素であるペプシン(pepsin)又はフィシン(ficin)で酵素切断反応を発生させ、IgGのFc断片を切断してF(ab’)2断片を調製した。ヒト由来及びマウス由来のIgGにはペプシン(pepsin)を用いて酵素切断反応を発生させ、マウス由来のIgG1にはフィシン(ficin)を使用した。具体的な手順としては、500μlの抗体を遠心分離して脱塩カラムを通過させ、フロースルーを固定化酵素に加えて37℃の定温で均一に混合した。そして、ペプシン(pepsin)で4h培養するか、フィシン(ficin)で24h培養するかしたあと、5000gで1min遠心分離してフロースルーを回収した。次に、プロテインAバインディングバッファーで固定化酵素を洗浄し、フロースルーを回収したあと、フロースルーを合わせることで酵素切断産物を取得した。
【0072】
酵素切断産物をプロテインAカラム内において定温で10min均一に混合してから、遠心分離によりフロースルーを回収した。そして、プロテインAバインディングバッファーでプロテインAカラムを洗浄し、フロースルーを回収したあと、フロースルーを合わせることで、プロテインAカラムにより精製し且つIgG及びFc大断片を除去した酵素切断産物を取得した。次に、前記酵素切断産物を50KDの透析袋で透析した。透析媒体はpH=7.0のPBS溶液とし、2h、2h、16hの順で透析することで、Fc断片を除去した精製抗体のF(ab’)2断片を取得した。
【0073】
取得した抗CD19抗体のF(ab’)2断片が抗CD19完全長抗体からFc断片を除去して取得したものであることを従来技術により確認した。
【0074】
取得した抗CD3抗体のF(ab’)2断片が抗CD3完全長抗体からFc断片を除去して取得したものであることを従来技術により確認した。また、取得した断片は軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含んでいた。このうち、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、具体的には下記のSEQ ID NO.1の通りであった。
【0075】
また、重鎖の可変領域のアミノ酸配列は、具体的には下記のSEQ ID NO.2の通りであった。
【0076】
2.抗CD19抗体及び抗CD3抗体のFab’断片-高分子-脂質連結物の調製
システアミンを還元剤とし、抗体のF(ab’)2断片をFab’に還元してDSPE-PEG2000-Malのマレイミド基に化学的に連結した。具体的な手順としては、抗体のF(ab’)2断片(1~10mg/ml)を50mMのEDTA含有システアミンと混合し、N
2で保護しつつ、37℃の定温で90min振蕩反応させた。その後、遠心分離して脱塩カラムを通過させ、フロースルーを回収した。これにより、システアミンを除去した抗体のF(ab’)2断片の還元生成物Fab’を取得した。次に、DSPE-PEG2000-Malのミセルが600μMである30mMのHEPES溶液を加えた。Fab’とDSPE-PEG2000-Malのモル比は1:1とした。これをN
2で保護しつつ、10℃の定温で16h振蕩反応させた。これにより、抗体のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’のミセルを取得した。また、取得した連結生成物の連結状況をSDS-PAGEで考察した。結果を
図1A及び
図1Bに示す。
【0077】
3.抗CD3抗体のFab’断片-高分子-脂質連結物の調製
トリスカルボキシエチルホスフィン(TCEP)を還元剤とし、抗体のscFv断片及びそのポリマーを遊離スルフヒドリル基を含むscFvに還元してDSPE-PEG2000-Malのマレイミド基に化学的に連結した。具体的な手順としては、800μlの抗体のscFv断片(1~10mg/ml)をTCEPが1.2MmであるHEPES溶液と混合した。scFvとTCEPのモル比は1:5とした。その後、すぐにDSPE-PEG2000-Malのミセルが600μMである30mMのHEPES溶液を加え、N
2で保護しつつ10℃の定温で16h振蕩反応させた。これにより、抗体のscFv断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-scFvのミセルを取得した。また、取得した連結生成物の連結状況をSDS-PAGEで考察した。結果は
図1Cに示す通りであった。
【0078】
4.抗CD19及び抗CD3の単一標的化リポソーム及び複数細胞標的化リポソームの調製
ポストインサーション法によって単一標的化リポソーム及び複数細胞標的化リポソームを調製した。複数細胞標的化リポソームについては、調製した抗CD19のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’と、抗CD3
のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’又はscFv断片-高分子-脂質連結物とを、リポソームとモル比(0.1~5):(0.1~5):1000で混合し、N
2で保護しつつ、37℃の定温で24h振蕩反応させた。その後、300KDの限外濾過でリポソームを5回洗浄し、未連結の抗体Fab’断片を除去することで、抗CD19及び抗CD3複数細胞標的化リポソームを取得した。一方、抗CD3単一標的化リポソームについては、抗CD19のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’等のモルをDSPE-mPEG2000に置き換えた。また、抗CD19単一標的化リポソームについては、抗CD3のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’等のモルをDSPE-mPEG2000に置き換えた。結果を
図2及び表1に示す。調製した標的化リポソームの粒径は約80~90nm、PDIは約0.1であった。
【表1】
【0079】
実施例2:複数細胞標的化リポソームの体外(in vitro)での特異的結合作用の評価
【0080】
CD19陽性Raji細胞とCD3陽性Jurkat細胞の場合を例に、複数細胞標的化リポソームの体外での特異的結合作用について考察した。
【0081】
Jurkat,Clone E6-1ヒトT細胞白血病細胞株及びRajiヒトB細胞リンパ腫細胞株は、中国科学院細胞バンクから購入した。細胞株は、1%pls二重抗体+10%FBSを含む完全培地RPMI-1640(GIBCO)で培養した。
【0082】
フローサイトメーターを用いてCD3陽性細胞株Jurkat細胞、CD19陽性細胞株Raji細胞及びヒト末梢血液リンパ球を分析し、複数細胞標的化リポソームの体外での特異的結合能力を考察した。1×10
6個のRaji細胞又はJurkat細胞を400μlの完全培地で再懸濁し、48ウェルマイクロプレートに注入した。また、各ウェルに単一標的化DiI標識リポソーム又は複数細胞標的化DiI標識リポソームを1μgずつ注入した。これを37℃の細胞インキュベーター内で2h培養した。次に、細胞を取り出してフローサイトメトリー用チューブに投入し、500×gで5min遠心分離したあと上清を除去した。その後、PBSで細胞を2回洗浄した。続いて、400μlのPBSで細胞を再懸濁し、フローサイトメーターBecton Dickinson FACS LSRIIにサンプルを投入して検出した。結果は
図3A及び
図3Bに示す通りであった。
【0083】
実施例3:標的細胞間結合に対する複数細胞標的化リポソームの媒介作用の評価
【0084】
CD19陽性Raji細胞とCD3陽性Jurkat細胞の場合を例に、複数細胞標的化リポソームが異なる標的細胞間の細胞-細胞結合を媒介可能なことを証明した。
【0085】
CFSEでJurkat細胞を染色し、DiIでRaji細胞を染色した。1.25×
10
5個のRaji-DiIと1.25×10
5個のJurkat-CFSE細胞をフェノールスルホンフタレインを含まない400μlの完全培地で再懸濁して混合し、48ウェルマイクロプレートに注入した。また、各ウェルに単一標的化リポソーム又は複数細胞標的化リポソームを1μgずつ注入した。これを37℃の細胞インキュベーター内で30min培養した。そして、フローサイトメーターで、CFSE陽性Jurkat細胞、DiI陽性Raji細胞及びCFSE/DiI二重陽性細胞クラスターを分析し、標的細胞間結合に対する複数細胞標的化リポソームの媒介作用を考察した。結果は
図4に示す通りであった。
【0086】
実施例4:エフェクター細胞の腫瘍細胞殺傷作用に対する複数細胞標的化リポソームの媒介評価
【0087】
細胞培地の配合として、フェノールスルホンフタレインを含まないRPMI-1640培地に5%FBS、1%二重抗体、100IU/mlのhIL-2を添加した。
【0088】
1.LDH法による腫瘍細胞殺傷作用の評価
プロメガ社の非RI細胞障害性アッセイキットCytoTox96(登録商標)により、エフェクター細胞の腫瘍細胞殺傷作用に対する複数細胞標的化リポソームの媒介を検出した。
【0089】
エフェクター細胞(未刺激のヒトリンパ球、CD3/CD28抗体で増幅・活性化したヒトT細胞、γδT細胞、LAK細胞)及び標的細胞(Raji細胞、SUP-B15細胞、A549細胞)を、フェノールスルホンフタレインを含まない完全培地で再懸濁した。なお、細胞濃度はそれぞれ1*106個/ml及び1.11*105個/mlとした。次に、100μlのエフェクター細胞と90μlの標的細胞を96ウェルマイクロプレートに注入し、吹き付けにより均一に混合しながら細胞をプレーティングした。このとき、標的細胞とエフェクター細胞の比率は1:10とした。また、各ウェルに、濃度及び標的の異なるリポソームを10μlずつ注入し、吹き付けにより均一に混合した。次に、96ウェルマイクロプレートを細胞インキュベーターに配置して24時間培養した。そして、培養終了45分前に、体積補正対照ウェルと標的細胞最大溶解ウェルに10μlの溶解液を注入した。培養終了後、96ウェルマイクロプレートを250gで4min遠心分離し、遠心分離後に50μlの上清液を新たな96ウェルマイクロプレートに取り出した。そして、新たなマイクロプレートに50μlのLDH基質を注入し、22℃で15分間培養した。培養終了後に、マイクロプレートリーダーにおいて波長490nmで吸光度を検出した。
【0090】
【0091】
これらの実験データが十分に示すように、本発明の複数細胞標的化リポソームは、エフェクター細胞による標的細胞の効果的な殺傷を有効に媒介可能であった。また、エフェクター細胞は、未刺激のリンパ球、体外で増幅させたリンパ球、体外で活性化させたリンパ球、体外で分化誘導したリンパ球を含んでいた。また、この細胞殺傷作用は細胞溶解作用によるものであり、且つ投与量との間に依存関係を有していた。
【0092】
2.PI染色法による腫瘍細胞殺傷作用の評価
エフェクター細胞(未刺激のヒトリンパ球、CD3/CD28抗体で増幅・活性化したヒトT細胞、γδT細胞、LAK細胞)及びCFSEで標識した標的細胞(Raji細胞)を、フェノールスルホンフタレインを含まない完全培地で再懸濁した。なお、細胞濃度はそれぞれ1*106個/ml及び1.11*105個/mlとした。次に、100μl
のエフェクター細胞と90μlの標的細胞を96ウェルマイクロプレートに注入し、吹き付けにより均一に混合しながら細胞をプレーティングした。このとき、標的細胞とエフェクター細胞の比率は1:1、1:5、1:10とした。また、各ウェルに、濃度及び標的の異なるリポソームを10μlずつ注入し、吹き付けにより均一に混合した。次に、96ウェルマイクロプレートを細胞インキュベーターに配置して24時間培養した。そして、培養終了後に細胞をフローサイトメトリー用チューブに回収し、5μl、1mg/mlのPIを添加してから15分間培養したあと、フローサイトメトリー用緩衝液200μlを添加してサンプルを投入した。
【0093】
【0094】
これらの実験データが十分に示すように、本発明の複数細胞標的化リポソームは、エフェクター細胞による標的細胞の効果的な殺傷を有効に媒介可能であった。また、エフェクター細胞は、未刺激のリンパ球、体外で増幅させたリンパ球、体外で活性化させたリンパ球、体外で分化誘導したリンパ球を含んでいた。また、この細胞殺傷作用は細胞溶解による膜溶解作用に基づくものであり、且つ投与量との間に依存関係を有していた。このほか、複標的化抗体は、同じ抗原を発現する異なる標的細胞に対し、エフェクター細胞による殺傷を効果的に媒介可能であった(
図9AのCD19+SUP-B15細胞)。
【0095】
異なる抗体分子又は標的細胞に変更した場合の結果は、
図9A、
図9B、
図9Cに示す通りであった。このうち、
図9Aでは主要抗体を抗CD3抗体の別のクローン(2C11)及び異なる抗体形式(IgG)に変更した。また、
図9Bでは、同じ主要抗体及び補助抗体の複数細胞標的化リポソームであるが、標的細胞をCD19+ヒト白血病SUP-B15細胞に変更した。また、
図9Cでは、補助抗体を別の抗原(LGR)を標的とする異なる標的化分子(RSPO-1タンパク)に変更し、標的細胞を非小細胞性肺癌A549細胞(固形腫瘍モデル)に変更した。
【0096】
これらの実験データが十分に示すように、本発明における複数細胞標的化リポソームの第1抗体及び補助抗体は、任意の抗原の任意の形式及び構造を標的とする標的化分子とすればよく、標的細胞及びエフェクター細胞は、主要抗体及び補助抗体が結合し得る任意の細胞とすればよい。複数細胞標的化リポソームは、標的性に基づいて、免疫エフェクター細胞と標的細胞の相互作用という独特のメカニズムを媒介する。そのため、疾病の種類の違いに応じて任意の標的化分子(主要抗体及び補助抗体)に変更することで、標的細胞に対するエフェクター細胞の作用を効果的に媒介可能となる。
【0097】
実施例5:複数細胞標的化リポソームによるエフェクター細胞の活性化刺激作用の評価
【0098】
エフェクター細胞(未刺激のヒトリンパ球)と標的細胞(Raji細胞)をフェノールスルホンフタレインを含まない完全培地で再懸濁した。なお、細胞濃度はそれぞれ1*10
6個/ml及び1.11*10
5個/mlとした。次に、100μlのエフェクター細胞と90μlの標的細胞を96ウェルマイクロプレートに注入し、吹き付けにより均一に混合しながら細胞をプレーティングした。このとき、標的細胞とエフェクター細胞の比率は10:1とした。また、各ウェルに、濃度及び標的の異なるリポソームを10μlずつ注入し、吹き付けにより均一に混合した。次に、96ウェルマイクロプレートを細胞インキュベーターに配置して24時間培養した。培養が終了すると、96ウェルマイクロプレートを250gで4min遠心分離し、遠心分離後に50μlの上清液を新たな96ウェルマイクロプレートに取り出した。そして、上清液中のIFN-γをELISA法で検出した。結果は
図10に示す通りであった。これより、本発明の複数細胞標的化リポソームは、未刺激のリンパ球、体外で増幅させたリンパ球、体外で活性化させたリンパ球、体外で分化誘導したリンパ球による標的細胞の殺傷を効果的に媒介するとともに、エフェクタ
ー細胞の活性化を促進し、且つサイトカインの発生と放出を促進することが十分に示された。また、生成されるサイトカインは抗腫瘍活性を有していた。且つ、投与量との間に依存関係が存在していた。
【0099】
実施例6:複数細胞標的化リポソームの作用メカニズムの研究
【0100】
エフェクター細胞(未刺激のヒトリンパ球)と標的細胞(Raji細胞)をフェノールスルホンフタレインを含まない完全培地で再懸濁した。なお、細胞濃度はそれぞれ1.11*106個/ml及び1.11*105個/mlとした。次に、90μlのエフェクター細胞と90μlの標的細胞を96ウェルマイクロプレートに注入し、吹き付けにより均一に混合しながら細胞をプレーティングした。このとき、標的細胞とエフェクター細胞の比率は10:1とした。また、各ウェルに、複数細胞標的化リポソームを10μlずつ注入し、吹き付けにより均一に混合した。次に、各ウェルにEGTA/MgCl2を10μlずつ添加し、最終濃度を0、0.1、1、10mMとして、吹き付けにより均一に混合した。そして、96ウェルマイクロプレートを細胞インキュベーターに配置して24時間培養した。また、培養終了45分前に、体積補正対照ウェルと標的細胞最大溶解ウェルに10μlの溶解液を注入した。培養終了後、96ウェルマイクロプレートを250gで4min遠心分離し、遠心分離後に50μlの上清液を新たな96ウェルマイクロプレートに取り出した。そして、新たなマイクロプレートに50μlのLDH基質を注入し、22℃で15分間培養した。培養終了後に、マイクロプレートリーダーにおいて波長490nmで吸光度を検出した。
【0101】
結果は
図11に示す通りであった。これより、本発明の複数細胞標的化リポソームが媒介する標的細胞に対するエフェクター細胞の殺傷作用は、エフェクター細胞のカルシウムイオンに依存的なグランザイム/パーフォリン経路によるものであることが十分に示された。
【0102】
実施例7:複数細胞標的化リポソームによる標的化薬物送達作用の評価
【0103】
ポストインサーション法によって、薬物を送達する複数細胞標的化リポソームを調製した。この複数細胞標的化薬物送達リポソームについては、調製した抗CD19のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’と、抗CD3のFab’断片-高分子-脂質連結物であるDSPE-PEG2000-Mal-Fab’及びダサチニブ薬物送達リポソームを、モル比0.1~5:0.1~5:1000で混合し、N2で保護しつつ、37℃の定温で24h振蕩反応させた。その後、300KDの限外濾過でリポソームを5回洗浄し、未連結の抗体Fab’断片を除去することで、複数細胞標的化ダサチニブリポソームを取得した。
【0104】
次に、エフェクター細胞(未刺激のリンパ球)と標的細胞(Raji細胞)をフェノールスルホンフタレインを含まない完全培地で再懸濁した。なお、細胞濃度はそれぞれ1*106個/ml及び1.11*105個/mlとした。次に、100μlのエフェクター細胞と90μlの標的細胞を96ウェルマイクロプレートに注入し、吹き付けにより均一に混合しながら細胞をプレーティングした。このとき、標的細胞とエフェクター細胞の比率は1:10とした。また、各ウェルに、ダサチニブ濃度は異なるが脂質濃度は同一の複数細胞標的化薬物送達リポソームを10μlずつ添加し、吹き付けにより均一に混合した。次に、96ウェルマイクロプレートを細胞インキュベーターに配置して24時間培養した。そして、培養終了45分前に、体積補正対照ウェルと標的細胞最大溶解ウェルに10μlの溶解液を注入した。培養終了後、96ウェルマイクロプレートを250gで4min遠心分離し、遠心分離後に50μlの上清液を新たな96ウェルマイクロプレートに取り出した。そして、新たなマイクロプレートに50μlのLDH基質を注入し、22℃で
15分間培養した。培養終了後に、マイクロプレートリーダーにおいて波長490nmで吸光度を検出した。
【0105】
結果は
図12に示す通りであった。これより、主要抗体と補助抗体を薬物送達リポソームに連結することで、複数細胞標的化の作用メカニズムをベースとして薬物送達作用を存分に発揮可能なことが十分に示された。
【0106】
以上は本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を形式的及び実質的に制限するものではない。当業者であれば、本発明の方法から逸脱しないことを前提に、若干の改良及び補足が可能であり、これらの改良及び補足もまた本発明の保護の範囲内とみなすべきである。本専門分野に精通した技術者が、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、上記で開示した技術内容を利用して実施可能な些細な修正、追加及び変形による等価の変更は、いずれも本発明における等価の実施例である。また、本発明の実質的技術に基づいて上記実施例に対し実施される等価の変更としてのあらゆる修正、追加及び変形は、いずれも本発明の技術手段の範囲に属するものとする。