(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20240411BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240411BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20240411BHJP
C08L 53/00 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C08L101/02
C08J5/18 CER
C08J3/215 CEZ
C08L53/00
(21)【出願番号】P 2020532514
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029509
(87)【国際公開番号】W WO2020022503
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018140313
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 篤史
(72)【発明者】
【氏名】梶田 貴都
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 諒
(72)【発明者】
【氏名】田中 春佳
(72)【発明者】
【氏名】松下 裕秀
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517010(JP,A)
【文献】特表2007-502246(JP,A)
【文献】国際公開第2009/081592(WO,A1)
【文献】特開2014-101401(JP,A)
【文献】特開2015-044696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0071624(US,A1)
【文献】特開2007-330848(JP,A)
【文献】特表2016-502570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを含有し、
前記ポリマーが有する非共有結合性官能基と前記ナノカーボンが有する非共有結合性官能基とが非共有結合しており、
前記ポリマーが有する非共有結合性官能基が酸素含有水素結合性基、窒素含有水素結合性基及び配位結合性官能基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記ナノカーボンが有する非共有結合性官能基が水素結合性官能基、イオン性官能基及び配位結合性官能基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリマーがブロック共重合体を含む、非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項
1に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが熱可塑性エラストマーである、請求項1
又は2に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項4】
前記ポリマーが、さらに、
前記非共有結合性官能基を有する単独重合体を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項5】
前記ポリマーの総量を100モル%として、前記ブロック共重合体の含有量が1~99モル%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項6】
前記ナノカーボンがカーボンナノチューブである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項7】
前記ナノカーボンが単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項8】
前記非共有結合性官能基を有するポリマーと、前記非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの総量を100質量%として、前記非共有結合性官能基を有するナノカーボンの含有量が0.5~40質量%である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物からなる、非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜。
【請求項10】
厚みが0.01~20mmである、請求項
9に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜。
【請求項11】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物、又は請求項
9若しくは
10に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜の製造方法であって、
極性溶媒中で、
前記非共有結合性官能基を有するポリマーと、
前記非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを混合する工程
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記混合工程の後に、得られた混合液を加熱する工程を備える、請求項
11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)に代表されるナノカーボンはナノ材料として有用であり、ゴムやプラスチック等のポリマーと混合することで高性能化及び高機能化させる試みが多数なされている。混合のギブズエネルギー変化ΔmixG、混合のエンタルピー変化ΔmixH、混合のエントロピー変化ΔmixSとするとき、ΔmixG = ΔmixH - TΔmixSが負の値となれば分子レベルで自発的に均一混合させることができると考えられるが、ナノカーボンとポリマーとを分子レベルで混合させようとする場合には、通常ΔmixHは正の値となり、しかも、TΔmixSが小さな正の値となることから、結果的にΔmixGは正の値を取り、分子レベルでの自発的な均一混合は実現しにくい。しかしながら、ナノカーボンがポリマー中に均一に分散されていないと材料として利用できないため、ナノカーボンとポリマーとが直接的に分子レベルで均一混合できていなくても、ナノカーボンをポリマー中に分散させれば良いとして、分散させるための手法が数多く開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブを樹脂中に分散させるものとして、ポリアミック酸からなるカーボンナノチューブ分散剤が開示されている。このように、分散剤を用いて、界面活性剤的な効果で分散を試みる手法が開発されてきている。界面活性効果を示すように、分散剤には官能基を持たせたものも開発されている。つまり、ナノカーボンが分散剤を介して分散質(多くは樹脂やゴム)中に分散する手法が開発されている。
【0004】
しかしながら、このような手法は、あくまでも、溶媒中における「分散」を目的としたものであり、溶媒を除去した後のことは十分には検討されておらず、また、ナノカーボンと分散質とが直接的に触れ合って分子レベルで混合することが想定されていないため、溶媒除去後、つまり、溶媒がない状態での均一混合実現には十分に効果があるとは言えない。つまり、分散剤によって半強制的にナノカーボンを分散質(多くは樹脂やゴムなどのポリマー)中に分散させるだけでは、十分な高性能化及び高機能化は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、分散剤のような界面活性剤的な効果を利用することなく、実質的に溶媒がなくとも、ポリマー中にナノカーボンを分子レベルで均一に混合させた材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねてきた結果、ポリマー及びナノカーボンの双方に非共有結合性官能基を導入した場合には、ナノカーボンとポリマーとが容易且つ分子レベルで均一に混合できることを見いだした。本発明者らは、以上の知見をもとにさらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを含有する、非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項2.前記ポリマーが有する非共有結合性官能基と前記ナノカーボンが有する非共有結合性官能基とが非共有結合している、項1に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項3.前記ポリマーと前記ナノカーボンとが分子レベルで直接的に均一に混合されている、項1又は2に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項4.前記ポリマー及び前記ナノカーボンが有する非共有結合性官能基が、非反応性の非共有結合性官能基である、項1~3のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項5.前記ポリマーが有する非共有結合性官能基が水素結合性官能基、イオン性官能基及び配位結合性官能基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記ナノカーボンが有する非共有結合性官能基が水素結合性官能基、イオン性官能基及び配位結合性官能基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~4のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項6.前記ポリマーが熱可塑性ポリマーである、項1~5のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項7.前記ポリマーが熱可塑性エラストマーである、項1~6のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項8.前記ポリマーが共重合体を含む、項1~7のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項9.前記共重合体がブロック共重合体を含む、項8に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項10.前記共重合体がランダム共重合体を含む、項8に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項11.前記ポリマーが、さらに、単独重合体を含む、項1~10のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項12.前記ナノカーボンがカーボンナノチューブである、項1~11のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項13.前記ナノカーボンが単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブである、項1~12のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項14.前記非共有結合性官能基を有するポリマーと、前記非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの総量を100質量%として、前記非共有結合性官能基を有するナノカーボンの含有量が0.5~40質量%である、項1~13のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物。
項15.項1~14のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物からなる、非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜。
項16.厚みが0.01~20mmである、項15に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜。
項17.項1~16のいずれか1項に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物、又は項15若しくは16に記載の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜の製造方法であって、
極性溶媒中で、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを混合する工程
を備える、製造方法。
項18.前記混合工程の後に、得られた混合液を加熱する工程を備える、項17に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分散剤のような界面活性剤的な効果を利用することなく、実質的に溶媒や分散剤がなくとも、分子レベルで混ぜ込みたいポリマーとナノカーボンを分子レベルで均一に混合させた材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図2】実施例1において官能性CNTとポリアクリル酸とが水素結合して分子レベルで均一に混合している様子の模式図である。
【
図4】比較例1において官能性CNTとポリアクリル酸とが非共有結合せず、分子レベルでは均一に混合していない様子の模式図である。
【
図5】実施例3で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図7】実施例4で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図8】実施例4で得られた4VP-B-4VPトリブロック共重合体及びハイブリッド膜のFT-IR測定の結果を示す。
【
図9】実施例4で得られたハイブリッド膜の超薄切片のTEM像である。
【
図10】実施例4で得られたハイブリッド膜をピンセットにより半分に折り曲げた結果を示す。
【
図11】実施例4で得られたハイブリッド膜と官能性CNT導入前の4VP-B-4VPトリブロック共重合体膜の応力ひずみ曲線を示す。
【
図12】実施例5で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図13】実施例6で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図14】実施例7で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図15】実施例8で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図16】実施例9で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図17】実施例10で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図18】実施例11で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図19】実施例12で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図20】実施例13で得られたハイブリッド膜の写真である。
【
図21】実施例14で得られたハイブリッド膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。さらに、本明細書において、「非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物」とは、ナノカーボンとポリマーとが非共有結合することで、ポリマーとナノカーボンが分子レベルで均一に混合された組成物を意味する。
【0011】
1.非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物及びそれを用いた膜
本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを含有する。
【0012】
(1-1)非共有結合性官能基を有するポリマー
本発明で使用するポリマーが有する非共有結合性官能基としては、特に制限はないが、後述の非共有結合性官能基を有するナノカーボンと非共有結合させることで当該ナノカーボンと分子レベルで均一に混合、すなわち当該ナノカーボンを分散させる観点からすると、非反応性の非共有結合性官能基が好ましく、水素結合性官能基、イオン性官能基、配位結合性官能基等がより好ましい。なお、本明細書において、「非反応性の非共有結合性官能基」とは、50℃においてエポキシ基よりも共有結合を形成しにくい非共有結合性官能基を意味しており、例えば、50℃で24時間放置した場合に、共有結合を10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下しか形成しない非共有結合性官能基が挙げられる。
【0013】
このような非共有結合性官能基は、ポリマーの骨格中に含まれていてもよいし、側鎖に導入してもよい。このような非共有結合性官能基としては、例えば、水素結合性官能基として、酸素含有水素結合性基、窒素含有水素結合性基、硫黄含有水素結合基等が挙げられる。酸素含有水素結合性基としては、例えば、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボキシレート基、尿素基、ウレタン基、アミド基、オキサゾール基、モルホリン基、カルバミン酸基、カルバメート基等が挙げられる。窒素含有水素結合性基としては、例えば、アミノ基、ニトロ基、アミド基等の他、ピリジル基、ピロリジル基、ピペリジル基、ピペラジル基等の環状含窒素基等が挙げられる。硫黄含有水素結合性基としては、例えば、硫酸基(-OS(=O)2O-)、スルホニル基(-S(=O)2O-)、スルホン酸基(-S(=O)2-)、チオカルボキシル基(-C(=S)OH)、チオカルボキシレート基(-C(=S)O-)等が挙げられる。また、イオン性官能基としては、例えば、酸素含有イオン性基(スルホン酸基、カルボキシル基等)、窒素含有イオン性基(アミノ基、ピリジル基等)、硫黄含有イオン性基(スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基等)、リン含有イオン性基(リン酸基、ホスホン酸基等)が挙げられる。さらに、配位結合性官能基としては、カルボキシル基、ピリジル基、シアノ基等が挙げられる。これらの非共有結合性官能基は、単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。また、国際公開第2016/181834号に記載の非共有結合性ソフトエラストマーで使用される非共有結合をそのまま採用してもよい。なお、国際公開第2016/181834号の記載は、そのまま本明細書にも援用する。
【0014】
なお、エポキシ基は、ポリマーの骨格中に含まれていても後述の非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの間で非共有結合により分子レベルでの均一混合を実現する前に、反応性が高いがために容易に化学変性を生じる、つまり反応性基と見なすべきものであり、ゆえに本発明で言うところの非共有結合性官能基には含まれない。
【0015】
上記の非共有結合性官能基は、後述するポリマーが有する全ての繰り返し単位中に含まれる必要はなく、一部の繰り返し単位のみに上記の非共有結合性官能基が含まれていてもよい。ただし、後述の非共有結合性官能基を有するナノカーボンと非共有結合させることで、分子レベルで均一混合を実現させる観点からすると、ポリマーが有する繰り返し単位のうち、10~100モル%、より好ましくは30~100モル%、特に50~100モル%に上記の非共有結合性官能基が含まれていることが好ましい。
【0016】
ポリマーとしては、上記の非共有結合性官能基を有していれば特に制限はなく、どのような繰り返し単位を有するものも使用することもできる。また、骨格中に上記の非共有結合性官能基を有しないものであっても、常法で非共有結合性官能基を導入して使用することができる。このような観点から、ポリマーの骨格となり得る高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン等のポリスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリ-3-ヒドロキシル酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;ポリアニリン;ポリチオフェン;ポリピロール;ポリフェニレンビニレン;ポリフェニレン;ポリアセチレン;ウレタンアクリレート;フェノール樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;アルキド樹脂;ポリエチレングリコール;ポリプロピレングリコール;ポリビニルピリジン等が挙げられる。また、単独重合体のみならず、ブロック共重合体やランダム共重合体等の共重合体も採用できる。例えば、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、塩化3フッ化エチレン、ビニルピロリドン、エチレン、プロピレン、ブテン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン、塩化ビニル、アクリル酸ナトリウム、メチルメタクリル酸、テレフタル酸、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、乳酸、3-ヒドロキシル酪酸、カプロラクトン、グルコール酸、アニリン、チオフェン、ピロール、アセチレン、ビニルピリジン等の少なくとも2種の繰り返し単位からなる共重合体が挙げられる。また、ブロック共重合体を採用する場合は、例えば、ポリスチレン類(ポリスチレン等)、ポリジエン類(ポリブタジエン等)、ポリアクリル酸エステル類(ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等)、ポリメタクリル酸エステル類(ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル等)、ポリオレフィン類(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等)等の1種以上と、ポリビニルピリジン類(2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド類(ポリアクリルアミド等)、ポリビニルアルコール、非共有結合性官能基を導入したポリスチレン類、非共有結合性官能基を導入したポリジエン類、非共有結合性官能基を導入したポリアクリル酸エステル類、非共有結合性官能基を導入したポリメタクリル酸エステル類、非共有結合性官能基を導入したポリオレフィン類等の1種以上とを重合させたブロック共重合体が挙げられ、具体的には、ポリスチレン-ポリビニルピリジンジブロック共重合体、ポリスチレン-ポリビニルピリジン-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリビニルピリジン-ポリアクリル酸ブチル-ポリビニルピリジントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(メタクリル酸(ブチルアミノ)エチル-アクリル酸ブチル)-ポリスチレントリブロック共重合体等が挙げられ、ブロック共重合体は分岐分子構造を有する、いわゆる「グラフト共重合体」も包含する概念である。また、ランダム共重合体を採用する場合は、上記した繰り返し単位となり得るモノマーを2種以上用いたランダム共重合体が挙げられ、具体的には、ポリスチレン-ポリビニルピリジンランダム共重合体、ポリメタクリル酸(ブチルアミノ)エチル-ポリアクリル酸ブチルランダム共重合体、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ブチルランダム共重合体等が挙げられる。ただし、試料調製(溶媒に対する溶解性、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの均一混合等)の観点からは、熱可塑性ポリマーが好ましく、熱可塑性エラストマーがより好ましい。ここで、熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度又は融点に達すると軟化するポリマーであり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル(ポリ塩化ビニリデン等)、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS樹脂)、アクリル樹脂、ポリアミド(ナイロン等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン-ポリビニルピリジンジブロック共重合体、ポリスチレン-ポリビニルピリジン-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリビニルピリジン-ポリアクリル酸ブチル-ポリビニルピリジントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(メタクリル酸(ブチルアミノ)エチル-ポリアクリル酸ブチル)-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリビニルピリジンランダム共重合体、ポリメタクリル酸(ブチルアミノ)エチル-ポリアクリル酸ブチルランダム共重合体、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ブチルランダム共重合体等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーは、ガラス転移温度又は融点に達すると軟化するエラストマーであって、射出成形可能なゴム状成形材料であり、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(ポリビニルピリジン-ポリアクリル酸ブチル-ポリビニルピリジントリブロック共重合体、ポリメタクリル酸(ブチルアミノ)エチル-ポリアクリル酸ブチルランダム共重合体、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ブチルランダム共重合体等)、スチレン系熱可塑性エラストマー(ポリスチレン-ポリビニルピリジンジブロック共重合体、ポリスチレン-ポリビニルピリジン-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(メタクリル酸(ブチルアミノ)エチル-ポリアクリル酸ブチル)-ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン-ポリビニルピリジンランダム共重合体等)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらのポリマーは、単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。例えば、上記した共重合体(特にブロック共重合体)と単独重合体とを併用して用いることも可能である。この場合、各成分の含有量は特に制限はなく、例えば、非共有結合性官能基を有するポリマーの総量を100モル%として、共重合体(特にブロック共重合体)を1~99モル%(特に5~95モル%)、単独重合体を1~99モル%(特に5~95モル%)含有することができる。
【0017】
上記した非共有結合性官能基を有するポリマーの分子量は、特に制限されるわけではないが、平均分子量が100以上が好ましく、500~1000000がより好ましく、1000~500000がより好ましい。ポリマーの平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定する。
【0018】
本発明によれば、ポリマーの分子設計の自由度が高く、種々様々なポリマーを採用することができる。例えば、一部のモノマー単位のみに非共有結合性官能基が導入された共重合体(特にブロック共重合体)を採用した場合であっても、非共有結合性官能基を有するナノカーボンと非共有結合させることで分子レベルでの均一混合を実現することができる。
【0019】
(1-2)非共有結合性官能基を有するナノカーボン
本発明で使用するナノカーボンが有する非共有結合性官能基としては、特に制限はないが、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合を生じさせることで分子ベルでの均一混合を実現させる観点からすると、非反応性の非共有結合性官能基が好ましく、水素結合性官能基、イオン性官能基、配位結合性官能基等がより好ましい。なお、本明細書において、「非反応性の非共有結合性官能基」とは、室温(25℃)において共有結合を形成しない非共有結合性官能基を意味する。
【0020】
このような非共有結合性官能基としては、例えば、水素結合性官能基として、酸素含有水素結合性基、窒素含有水素結合性基、硫黄含有水素結合性基等が挙げられる。酸素含有水素結合性基としては、例えば、水酸基、カルボニル基、エステル基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボキシレート基、尿素基、ウレタン基、アミド基、オキサゾール基、モルホリン基、カルバミン酸基、カルバメート基等が挙げられる。窒素含有水素結合性基としては、例えば、アミノ基、ニトロ基、アミド基等が挙げられる。硫黄含有水素結合性基としては、例えば、硫酸基(-OS(=O)2O-)、スルホニル基(-S(=O)2O-)、スルホン酸基(-S(=O)2-)、チオカルボキシレート基(-C(=S)O-)等が挙げられる。また、イオン性官能基としては、例えば、酸素含有イオン性基(スルホン酸基、カルボキシル基等)、窒素含有イオン性基(アミノ基、ピリジル基等)、硫黄含有イオン性基(スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基等)、リン含有イオン性基(リン酸基、ホスホン酸基等)が挙げられる。さらに、配位結合性官能基としては、カルボニル基、ピリジル基、シアノ基等が挙げられる。これらの非共有結合性官能基は、単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0021】
なお、このような非共有結合性官能基を有するナノカーボンにおける非共有結合性官能基の数については特に制限されない。ただし、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合させることで分子レベルで均一混合を実現させる観点からすると、極性溶媒に分散・溶解する程度に非共有結合性官能基が導入されていることが好ましく、具体的には、一例として室温(25℃)において濃度0.1質量%以上(特に0.5質量%以上)のジメチルホルムアミド(DMF)溶液を調製できる程度に導入されていることが好ましい。
【0022】
ナノカーボンとしては、上記の非共有結合性官能基を有していれば特に制限はなく、どのようなナノカーボンも使用することもできる。また、ナノカーボン中には通常上記の非共有結合性官能基は有していないが、既報(Science 1998, 280 (5367), 1253-1256.、J. Phys. Chem. B, 2003, 107 (16), 3712-3718.等)に準拠して導入することができる。さらによく知られた有機化学反応を用いることで種々の官能基に変換することもできる。ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられる。なかでも、非共有結合性官能基を導入しやすく、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合させることで分子レベルでの均一混合を実現させる観点からすると、カーボンナノチューブが好ましい。
【0023】
ナノカーボンとしてカーボンナノチューブを採用する場合、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれも採用することができる。本発明では、凝集エネルギーが多層カーボンナノチューブの数千倍である単層カーボンナノチューブでさえも、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合させることで分子レベルでの均一混合を実現することができる点で有用である。また、多層カーボンナノチューブを採用する場合は、カーボンナノチューブに官能基を導入することによる短尺化や構造的ダメージを最小限に抑え、弾性率、強度、柔軟性、導電性等の各種物性を向上させやすい。
【0024】
(1-3)非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物及びそれを用いた膜
本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、上記のとおり非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを含有するものであるが、これらの成分は単に巨視的に混合されているだけではなく、上記のポリマーが有する非共有結合性官能基と、ナノカーボンが有する非共有結合性官能基とが非共有結合することによって、溶媒や分散剤がなくともポリマー中にナノカーボンが分子レベルで均一に混ざり込んでいる。この際、混合のギブズエネルギー変化ΔmixG、混合のエンタルピー変化ΔmixH、混合のエントロピー変化ΔmixSとするとき、ΔmixG = ΔmixH - TΔmixSが負の値を取れば分子レベルで均一に混合させることが可能であるが、非共有結合性官能基を有することによって、ナノカーボンとポリマーとのΔmixHが負の値となると考えられることから、結果的にΔmixGは負の値を取り、分子レベルで自発的に混合すると考えられる。このため、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物では、非共有結合性官能基を有するポリマー中に、非共有結合性官能基を有するナノカーボンが分子レベルで均一に混合されている。このように分子レベルで均一に混合していることにより、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物には柔軟性を持たせることも可能で、樹脂やゴム等のポリマーの弾性率及び強度を向上させることもできる。また、このような本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は強度及び導電率を向上させることも可能である。
【0025】
このような本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物においては、非共有結合性官能基を有するポリマー中に、非共有結合性官能基を有するナノカーボンを分子レベルで均一に混合、つまり分散させつつ、弾性率及び強度を向上させる観点からは、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの総量を100質量%として、非共有結合性官能基を有するナノカーボンの含有量は0.5~40質量%が好ましく、調製の容易さを考慮すると1~20質量%がより好ましい。つまり、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、含有量によっては、非共有結合性官能基を有するポリマーをマトリックスとし、非共有結合性官能基を有するナノカーボンを分散している状態も含み得る。
【0026】
以上のような条件を満たす本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、上記のとおり非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを含有するものであるが、第三成分、例えば、非共有結合性官能基を有さないポリマー、非共有結合性官能基を有さないナノカーボン、非共有結合性官能基を有する有機化合物、公知のカーボンナノチューブ分散剤や各種極性溶媒を含むことを妨げるものではない。例えば、後述する本発明の製造方法を採用する場合は、使用する極性溶媒を除去した後も当該極性溶媒が微量に残存することもあり得る。これら第三成分の含有量は、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物の総量を100質量%として、0~99質量%、0~90質量%、もしくは0~50質量%などとしてもよい。この第三成分において、非共有結合性官能基を有する有機化合物は、非共有結合性官能基を有する不揮発性有機化合物であることが好ましく、具体的には、室温(25℃)及び常圧(1気圧)において、蒸気圧が1kPa以下であることが好ましい。このような非共有結合性官能基を有する有機化合物としては、例えば、非共有結合性官能基を有する色素化合物、非共有結合性官能基を有するイオン液体、非共有結合性官能基を有する非イオン液体等が挙げられる。非共有結合性官能基を有する色素化合物としてはポルフィリン、フタロシアニン等が挙げられる。非共有結合性官能基を有するイオン液体としてはプロトン性イオン液体が好ましい。プロトン性イオン液体としては、含窒素ヘテロ環の窒素上にプロトンを持つ含窒素ヘテロ環の塩からなるイオン液体や有機アミンの窒素上にプロトンを持つアンモニウム塩のイオン液体等が挙げられる。また、前者のイオン液体としては、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩等が挙げられるが、このうちイミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩、ピリジニウム塩が好ましい。後者のイオン液体としては、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。イミダゾリウム塩としては、イミダゾリウムのビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)塩又はビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI)塩、1-メチルイミダゾリウムの酢酸塩、ヘキサフルオロリン酸(PF6)塩、TFSI塩又はBETI塩、1-エチルイミダゾリウムのトリフルオロメタンスルホン酸(TfO)塩、TFSI塩、BETI塩又は過塩素酸塩、1-ブチルイミダゾリウムのTfO塩、TFSI塩、BETI塩又は過塩素酸塩、1-エチル-2-メチルイミダゾリウムのTfO塩、TFSI塩、BETI塩又は過塩素酸塩、1,2-ジメチルイミダゾリウムのTFSI塩又はBETI塩等が挙げられる。トリアゾリウム塩としては、1,2,4-トリアゾリウムのTFSI塩等が挙げられる。ピリジニウム塩としては、2-メチルピリジニウムのトリフルオロ酢酸(TFA)塩等が挙げられる。ピロリジニウム塩としては、2-ピロリドニウムの硝酸塩又はフェノールカルボン酸塩等が挙げられる。アルキルアンモニウム塩としては、例えば、エチルアンモニウムの硝酸塩、プロピルアンモニウムのTFA塩又は硝酸塩、ブチルアンモニウムのチオシアン酸塩又はTFSI塩、tert-ブチルアンモニウムのTfO塩、エタノールアンモニウムのテトラフルオロボロン酸(BF4)塩、アラニンメチルエステルのTFSI塩又はBF4塩、アラニンエチルエステルの硝酸塩、イソロイシンメチルエステルの硝酸塩、スレオニンメチルエステルの硝酸塩、ポロリンメチルエステルの硝酸塩、ビス(プロリンエチルエステル)の硝酸塩、1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムの酪酸塩、ジプロピルアンモニウムのチオシアン酸塩、ジプロピルアンモニウムの硝酸塩、1-メチルプロピルアンモニウムのチオシアン酸塩、トリエチルアンモニウムのTFSI塩、トリエチルアンモニウムのメタンスルホン酸塩、トリブチルアンモニウムの硝酸塩、ジメチルエチルアンモニウムの硫酸塩等が挙げられる。なお、非共有結合性官能基を有さない不揮発性有機化合物については、常法で非共有結合性官能基を導入して非共有結合性官能基を有する有機化合物として使用することができる。
【0027】
このような本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、例えば、後述の本発明の製造方法によれば、膜(非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド膜)として得られやすい。この場合、非共有結合性官能基を有するポリマー中に非共有結合性官能基を有するナノカーボンを分子レベルで均一に混合、つまり分散させ、そのうえで弾性率及び強度の向上も目指す観点からして、得られる膜の厚みは0.01~20mmが好ましく、0.02~5mmがより好ましい。
【0028】
このように、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、形成される膜の弾性率及び強度を向上させることが可能であり、高外観表面特性及び軽量性の求められる車体への応用が期待される。また、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物は、形成される膜の導電性を向上させることが可能であり、導電性ワイヤー(フレキシブル電線等)としての利用が期待される。
【0029】
2.非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物の製造方法
本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物の製造方法は、例えば、極性溶媒中で、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを混合する工程を備える。
【0030】
非共有結合性官能基を有するポリマー及び非共有結合性官能基を有するナノカーボンとしては、上述したものを採用できる。
【0031】
極性溶媒は、非共有結合性官能基を有するポリマー及び非共有結合性官能基を有するナノカーボンをいずれも溶解させることができることからその後に容易に混合することができる。このため極性溶媒としては特に制限はなく、例えば、水、アルコール(メタノール、エタノール等)等のプロトン性極性溶媒や、アミド系溶媒(ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル等)、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を使用することができる。これらの極性溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0032】
非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの混合割合については、得られる本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物における含有量が上記した範囲となるように調製することが好ましい。具体的には、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの含有量については、通常、仕込み量がそのまま最終生成物の含有量となるため、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとの総量を100質量%として、非共有結合性官能基を有するナノカーボンの含有量は0.5~40質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0033】
極性溶媒中で、非共有結合性官能基を有するポリマーと、非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを混合する方法としては、特に制限されない。例えば、非共有結合性官能基を有するポリマーを極性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、非共有結合性官能基を有するナノカーボンを極性溶媒に溶解させたナノカーボン溶液とを混合することができる。この際、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合性官能基を有するナノカーボンと非共有結合させることで分子レベルでの均一混合を実現する(非共有結合性官能基を有するポリマー中に非共有結合性官能基を有するナノカーボンを分子レベルで均一に分散させる)観点からは、ポリマー溶液中の極性溶媒とナノカーボン溶液中の極性溶媒とは同じものを採用することが好ましい。この際、混合のギブズエネルギー変化ΔmixGは上記のとおり負であるために、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合性官能基を有するナノカーボンとは自発的に分子レベルで均一に混合され、強力な攪拌をせずとも、非共有結合性官能基を有するポリマー中に非共有結合性官能基を有するナノカーボンを分子レベルで均一に分散させることができ、本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物とすることができる。
【0034】
上記の混合後には、必要に応じて加熱及び乾燥を行うこともできる。加熱条件は特に制限されず、例えば、30~100℃(特に40~80℃)で1~96時間(特に2~72時間)とすることができる。また、乾燥条件も特に制限されず、例えば真空乾燥機中で、0~150℃(特に10~80℃)で1~72時間(特に2~48時間)とすることができる。これにより、上記混合工程において使用した極性溶媒を蒸発・除去させたとしても、混合のギブズエネルギー変化ΔmixGは上記のとおり負であるために、非共有結合性官能基を有するポリマー中に非共有結合性官能基を有するナノカーボンが均一に分散されている状態が維持され、通常、上述した薄膜状態の本発明の非共有結合性ナノカーボン-ポリマーハイブリッド組成物を得ることができる。
【0035】
なお、上記では,一例として、極性溶媒を用いて混合する方法について説明したが、本発明では、混合のギブズエネルギー変化ΔmixGは上記のとおり負であるために、非共有結合性官能基を有するポリマーと非共有結合性官能基を有するナノカーボンとを自発的に均一に混合させることが可能であるため、極性溶媒を使用せずに混合することも可能である。例えば、非共有結合性官能基を有するポリマーを溶融させた後に非共有結合性官能基を有するナノカーボンと混合する溶融混練によって混合することも可能である。この溶融混練の際の温度は、非共有結合性官能基を有するポリマーを溶融させることができる温度であれば特に制限はなく適宜調整することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例の形式で詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の用途を何ら限定するものではない。
【0037】
<実施例1>
実施例1では、Jie et al., Science 1998, 280 (5367), 1253-1256.及びZhang et al., J. Phys. Chem. B, 2003, 107 (16), 3712-3718.を参考にし、以下の式にしたがって、カーボンナノチューブ(CNT)に非共有結合性官能基(カルボキシル基)を導入することで、官能性CNTを合成した(第1工程)。続いて、この官能性CNTとポリアクリル酸とのハイブリッド膜の調製を試みた(第2工程)。
【0038】
【0039】
【0040】
[1]第1工程(官能性CNTの合成)
CNTとしてZEONANO(登録商標)SG101(ゼオンナノテクノロジー(株)製)を用いた。CNT59.9mgを二口フラスコに入れ、濃硫酸(98%、キシダ化学(株)製)をメスシリンダーで37.5mL入れた。二口フラスコの2つの口にそれぞれ還流管、セプタムを取り付けた。還流管にはさらに三方コックを、その先にはN2ガスの入った風船をつけた。水道につながったホースと排水用のホースを還流管につなげ、水を流した。このフラスコをマグネチックスターラーの上に設置した超音波照射器(アズワン株式会社ASU CLEANER-2)中の湯浴(50℃)に浸した。CNTと硫酸の混合液を撹拌しながら、12.5mLの濃硝酸(60%、キシダ化学(株)製)をシリンジを用いてゆっくりと注入した。撹拌しながら50℃で超音波を10時間照射することで、官能基の導入を試みた。
【0041】
パスツールピペットを用いて、氷浴に浸したビーカー中の脱イオン水250mL中へ黒色の反応混合物をゆっくりと滴下した。官能性CNTが沈殿するまで約1日間静置し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブレンフィルター(孔経:0.1μm)を用いて吸引ろ過を行い、脱イオン水で3回洗浄した。真空乾燥を行い、水分を完全に除去することで28.8mgの官能性CNTを得た。
【0042】
処理前のCNTは水やN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等には溶解しないが、本実施例で得られた官能性CNTは水やDMFに溶解し、0.1質量%濃度の溶液とすることができた。このように、得られた官能性CNTが水やDMFに溶解していることから、カルボキシル基が導入されていることが示唆された。官能性CNTをジメチルホルムアミド-d6に溶解した溶液のプロトン核磁気共鳴分光(1H NMR)測定からもカルボキシル基導入に伴うピーク出現が確認されている。
【0043】
[2]第2工程(ハイブリッド膜の調製)
第1工程で得られた官能性CNT0.96mgを1.00gの蒸留水に混合・溶解させ、官能性CNT水溶液を調製した。また、ポリアクリル酸(平均分子量25000、和光純薬工業(株)製)99.1mgを2.01gの蒸留水に混合・溶解させ、ポリアクリル酸水溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、50℃で2日間キャストすることで溶媒の水を蒸発させ、さらに真空乾燥器を用いて室温で1日間真空乾燥することで溶媒を完全に蒸発させた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図1に示す。得られた試料は、若干の収縮が見られたものの、厚み500μm程度の黒色で光沢のある均一な膜が得られた。
【0044】
均一なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とポリアクリル酸中のカルボキシル基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化は負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたため(
図2)と考えられる。
【0045】
<比較例1>
比較例1では、官能基導入前のCNTとポリアクリル酸とのハイブリッド膜の調製を試みた。まず、CNTとしてZEONANO(登録商標)SG101(ゼオンナノテクノロジー(株)製)1.07mgを1.01gの蒸留水と混合した。実施例1と同じポリアクリル酸99.2mgを1.89gの蒸留水に混合・溶解させ、ポリアクリル酸水溶液を調製した。調製したCNTと水の混合物とポリアクリル酸水溶液とを混合し、実施例1と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図3に示す。不均一でCNTの凝集体が見られ、均一な膜は得られなかった。
【0046】
膜が均一にならなかったのは、ポリアクリル酸同士は水素結合により相互作用しているものの、処理前のCNTは官能基を有さず、ポリアクリル酸との間で相互作用が生じないために、混合のエンタルピー変化は正の値を取り、混合のギブズエネルギー変化も正の値を取り、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できなかったため(
図4)と考えられる。
【0047】
<実施例2>
実施例2では、実施例1で得られた官能性CNTとポリエチレングリコールとのハイブリッド膜の調製を試みた。
【0048】
【0049】
実施例1の第1工程で得られた官能性CNT1.09mgを1.00gの蒸留水に混合・溶解させ、官能性CNT水溶液を調製した。また、ポリエチレングリコール(平均分子量7400~9000、キシダ化学(株)製)99.5mgを1.89gの蒸留水に混合・溶解させ、ポリエチレングリコール水溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、50℃で2日間キャストすることで溶媒の水を蒸発させ、さらに真空乾燥器を用いて室温で1日間真空乾燥することで溶媒を完全に蒸発させた。得られた膜は、若干の収縮が見られたものの、厚み500μm程度で、黒色で光沢が見られた。
【0050】
均一なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とポリエチレングリコール中の水酸基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためと考えられる。
【0051】
<実施例3>
実施例3では、まず実施例1と同様にして官能性CNTを合成(第1工程)した。以下の式にしたがって、ポリスチレン-b-ポリ(2-ビニルピリジン)-b-ポリスチレン(以下、「S-2VP-Sトリブロック共重合体」と称することもある)を合成し(第2及び第3工程)、官能性CNTとS-2VP-Sトリブロック共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第4工程)。なお、S-2VP-Sの両端のSはポリスチレンの略号であり、Sは非共有結合性官能基を持たないポリマーである。また、中央の2VPはポリ(2-ビニルピリジン)の略号であり、非共有結合性官能基であるピリジル基を有するポリマーである。
【0052】
【0053】
[1]第1工程(官能性CNTの合成)
CNTを71.1mg、反応温度を60℃とした以外は実施例1と同様にして官能性CNTを合成した。
【0054】
[2]第2工程(ポリスチレンの合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製のスチレンモノマーを通すことにより、スチレンモノマーを精製した。この精製したスチレンモノマー、RAFT剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を、それぞれ13.6g(0.131mol)、61.4mg(0.246mmol)、3.6mg(0.022mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を作製した。RAFT剤としては、S,S’-ビス(α, α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカーボネートを使用した。なお、スチレンモノマーとRAFT剤とのモル比はおよそ390:1とした。窒素ガスで10分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて130℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。4.5時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0055】
上記溶液にテトラヒドロフラン(THF)を添加し約8質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約500mLのメタノール中に滴下して、粉末状のポリスチレンを析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びTHF中に溶解させ、メタノール中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0056】
精製したポリスチレンを重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、プロトン核磁気共鳴分光(1H NMR)法により平均重合度を決定した。平均重合度は211、平均分子量は約2.2万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量分布(Mw/Mn)を決定した。分子量較正用に標準ポリスチレンを用いた。その結果、Mw/Mn=1.12であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0057】
[3]第3工程(S-2VP-Sトリブロック共重合体の合成)
精製したポリスチレンは、中央部にRAFT剤が導入されているため、これをRAFT剤(分子量の大きなRAFT剤であるのでマクロRAFT剤と呼ぶ)として2-ビニルピリジンモノマーの重合を行った。2-ビニルピリジンモノマーは、塩基性アルミナを通すことで精製した。精製した2-ビニルピリジンモノマー、マクロRAFT剤、AIBNを、それぞれ7.8g(0.0741mol)、0.272g(0.00262mmol)、10.2mg(0.0622mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を調製した。2-ビニルピリジンモノマーとマクロRAFT剤とのモル比はおおよそ3440:1とした。その後窒素ガスで10分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて70℃、500rpmにおいて攪拌させながら重合した。約6時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。これにより、S-2VP-Sトリブロック共重合体を得た。
【0058】
上記溶液にTHFを添加し約5質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約1000mLのヘキサン中に滴下して、粉末状のS-2VP-Sトリブロック共重合体を析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びクロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計2回行った。さらに得られたポリマーの粉末をメタノール:水=95:5(体積比)の溶液420mL中で6時間撹拌することで、未反応のモノマーや低分子オリゴマー、及び副生成物のポリ(2-ビニルピリジン)ホモポリマーを除去し、精製されたS-2VP-Sトリブロック共重合体を得た。
【0059】
精製されたS-2VP-Sトリブロック共重合体を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により平均重合度を決定した。S成分の合計の平均重合度は211、平均分子量は約2.2万で、2VP成分鎖の平均重合度は567、平均分子量は約6.0万であった。また、S-2VP-Sトリブロック共重合体をDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCによりMw/Mnを決定したところ、Mw/Mn=1.65であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0060】
[4]第4工程(ハイブリッド膜の調製)
第1工程で得られた官能性CNT0.47mgを0.510gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、第3工程で得られたS-2VP-Sトリブロック共重合体100mgを2.07gのDMFに混合・溶解させ、S-2VP-SのDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、70℃で2日間キャストすることで溶媒のDMFを蒸発させ、さらに真空乾燥器を用いて50℃で1日間真空乾燥することで溶媒を完全に蒸発させた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図5に示す。得られた膜は、収縮もほとんど見られず、厚み500μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0061】
均一なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS-2VP-Sトリブロック共重合体中のピリジル基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮もあまり起こらなかったと考えられる。
【0062】
<比較例2>
比較例2では、官能基導入前のCNTと実施例3で合成したS-2VP-Sトリブロック共重合体とのハイブリッド膜の調製を試みた。CNT0.52mgを0.505gのDMF中に混合・分散させた。実施例3で合成したS-2VP-Sトリブロック共重合体101mgを1.91gのDMFに混合・溶解させ、S-2VP-SのDMF溶液を調製した。調製したCNTとDMFの混合物とS-2VP-SのDMF溶液とを混合し、実施例3と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒除去後)の写真を
図6に示す。不均一でCNTの凝集体が見られ、膜は均一ではなかった。
【0063】
膜が均一にならなかったのは、処理前のCNTは官能基を有さず、S-2VP-Sトリブロック共重合体との間で相互作用が生じないために、混合のエンタルピー変化が正の値を取り、混合のギブズエネルギー変化も正の値を取り、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できなかったためと考えられる。
【0064】
<実施例4>
実施例4では、まず実施例1と同様にして官能性CNTを合成(第1工程)した。以下の式にしたがって、ポリ(4-ビニルピリジン)-b-ポリ(アクリル酸n-ブチル)-b-ポリ(4-ビニルピリジン)(以下、「4VP-B-4VPトリブロック共重合体と称する」こともある)を合成し(第2及び第3工程)、官能性CNTと4VP-B-4VPトリブロック共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第4工程)。なお、4VP-B-4VPの両端の4VPはポリ(4-ビニルピリジン)の略号であり、非共有結合性官能基であるピリジル基を有するポリマーである。また、中央のBはポリ(アクリル酸n-ブチル)の略号である。
【0065】
【0066】
[1]第1工程(官能性CNTの合成)
CNTを61.5mg、反応温度を60℃、超音波照射時間を3時間とした以外は実施例1と同様にして官能性CNTを合成した。
【0067】
[2]第2工程(ポリ(4-ビニルピリジン)の合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製の4-ビニルピリジンモノマーを通すことにより、4-ビニルピリジンモノマーを精製した。この精製した4-ビニルピリジンモノマー、RAFT剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を、それぞれ9.89g(0.0941mol)、27.7mg(0.0622mmol)、16.1mg(0.0980mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を調製した。RAFT剤としては、S,S’-ビス(α, α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカーボネートを使用した。なお、スチレンモノマーとRAFT剤とのモル比はおよそ1500:1とした。窒素ガスで30分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。約1時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0068】
上記溶液にクロロホルムを添加し約8質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約500mLのn-ヘキサン中に滴下して、粉末状のポリ(4-ビニルピリジン)を析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させた後に、再びクロロホルム中に溶解させ、n-ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0069】
精製したポリ(4-ビニルピリジン)を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、プロトン核磁気共鳴分光(1H NMR)法により平均重合度を決定した。平均重合度は444、平均分子量は約4.7万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量分布(Mw/Mn)を決定した。分子量較正用に標準ポリスチレンを用いた。その結果、Mw/Mn=1.26であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0070】
[3]第3工程(4VP-B-4VPトリブロック共重合体の合成)
精製したポリ(4-ビニルピリジン)は、中央部にRAFT剤が導入されているため、これをRAFT剤(分子量の大きなRAFT剤であるのでマクロRAFT剤と呼ぶ)としてアクリル酸n-ブチルモノマーの重合を行った。アクリル酸n-ブチルモノマーは、塩基性アルミナを通すことで精製した。精製したアクリル酸n-ブチルモノマー、マクロRAFT剤、AIBNを、それぞれ1.79g(0.0140mol)、246mg(0.00527mmol)、2.0mg(0.0121mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を調製した。アクリル酸n-ブチルモノマーとマクロRAFT剤とのモル比はおおよそ2660:1とした。その後窒素ガスで30分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃、500rpmにおいて攪拌させながら重合した。約40分後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。これにより、4VP-B-4VPトリブロック共重合体を得た。
【0071】
上記溶液にクロロホルムを添加し約5質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約500mLのヘキサン中に滴下して、粉末状の4VP-B-4VPトリブロック共重合体を析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びクロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去し、精製した4VP-B-4VPトリブロック共重合体を得た。
【0072】
精製した4VP-B-4VPトリブロック共重合体を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により平均重合度を決定した。4VP成分の合計の平均重合度は444、平均分子量は約4.7万で、B成分鎖の平均重合度は948、平均分子量は約12.2万であった。また、4VP-B-4VPトリブロック共重合体をDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCによりMw/Mnを決定したところ、Mw/Mn=1.73であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0073】
[4]第4工程(ハイブリッド膜の調製)
第1工程で得られた官能性CNT6.0mgを約6gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、第3工程で得られた4VP-B-4VPトリブロック共重合体118mgを約2gのDMFに混合・溶解させ、4VP-B-4VPトリブロック共重合体のDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、70℃で2日間キャストすることで溶媒の水を蒸発させ、さらに真空乾燥器を用いて50℃で1日間真空乾燥することで溶媒を完全に蒸発させた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図7に示す。収縮もほとんど見られず、厚み500μm程度の黒色で光沢のある均一な膜が得られた。
【0074】
均一なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基と4VP-B-4VPトリブロック共重合体中の末端4VP成分のピリジル基との間で、イオン性の水素結合を生じるために混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮も起こらなかったと考えられる。
【0075】
4VP-B-4VPトリブロック共重合体をDMFに混合・溶解して約8質量%の溶液を調製し、アルミニウム製の板にその溶液をパスツールピペットで10滴垂らして、70℃で1日以上静置してDMFを蒸発させた。その後、真空乾燥器を用いて1時間以上乾燥させることで溶媒を完全に除去し、得られた膜に対して反射フーリエ変換赤外吸収分光(FT-IR)測定を行った。その結果、1593cm
-1付近に4VP成分中のフリーのピリジル基のC-N伸縮振動に由来する吸収が見られた。同様にして、本実施例のハイブリッド膜についてもFT-IR測定を行ったところ、1593cm
-1の吸収が小さくなり、新たに1602cm
-1付近に水素結合したピリジル基のC-N伸縮振動に由来する吸収が見られたことから、ピリジル基と官能性CNTとの間で水素結合を生じていることが確認された(
図8)。なお、測定装置には(株)島津製作所製の赤外顕微鏡(AIM8800)付き赤外分光光度計IR Prestige-21を用いた。
【0076】
ミクロトーム法を用いて、ハイブリッド膜の超薄切片を作製し、ヨウ素染色を行って透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。なお、4VP-B-4VPトリブロック共重合体では、ヨウ素染色によって4VP相のコントラストが暗くなる。TEM観察の結果を
図9に示す。ブロック共重合体に由来するナノ相分離構造が見られ、暗い4VP相の中に官能性CNTに由来すると思われる細長い繊維が貫通している様子が見られたことから、官能性CNTが選択的に4VP相に導入されており、このことからも、官能性CNT中のカルボキシル基と4VP-B-4VPトリブロック共重合体中の末端4VP成分のピリジル基との間で、互いに水素結合し合っていることも示唆された。
【0077】
得られたハイブリッド膜を
図10に示すようにピンセットを用いて半分に折り曲げたが、膜は破断せず、折り曲げるのをやめた後に元の状態に戻ったことから、ハイブリッド膜は柔軟性を示すことがわかった。これはハイブリッド膜に用いたブロック共重合体の中央B成分は室温以下のTgを持ち、末端4VP成分が形成するドメイン間をB成分が橋かけしており、熱可塑性エラストマーとしての特性を示したためと考えられる。
【0078】
ハイブリッド膜の力学特性を評価するために引張試験を行った。得られたハイブリッド膜試料を打抜き刃型で打ち抜き、4mm幅のドッグボーン型試験片を調製した。試験片の厚さは約0.58mmであった。測定装置は(株)島津製作所製のAGS-X、50Nロードセル、50Nクリップ式つかみ具を用い、つかみ具間距離4.0mm、初期歪み速度0.33%/s(引張速度1.3mm/s)にて行ったところ、そのヤング率は23.7MPaであり、官能性CNT導入前の4VP-B-4VPトリブロック共重合体膜のヤング率(3.67MPa)よりも6倍以上大きな値を示した(
図11)。これは、膜中に非常にヤング率の高いCNTが導入され、4VP-B-4VPトリブロック共重合体と分子レベルで均一に混合されているためと考えられる。さらに官能性CNTの割合を大きくすることで、ヤング率も大きくすることができると考えられる。なお、ヤング率は応力-ひずみ曲線の初期勾配(ひずみ10%以内)より求めた。
【0079】
<実施例5>
実施例5では、まず実施例4と同様にして官能性CNTを合成(第1工程)した。以下の式にしたがって、ポリスチレン-co-ポリ(2-ビニルピリジン)(以下、「S2VPランダム共重合体」と称することもある)を合成し(第2工程)、官能性CNTとS2VPランダム共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第3工程)。
【0080】
【0081】
[1]第1工程(官能性CNTの合成)
CNTとして多層CNT(Sigma-Aldrich、製品番号698849)を105 mg使用した以外は実施例4と同様にして官能性CNTを合成した。
【0082】
[2]第2工程(S2VPランダム共重合体の合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製のスチレンモノマーを通すことにより、スチレンモノマーを精製した。同様にして2-ビニルピリジンモノマーも精製した。精製したスチレンモノマー、精製した2-ビニルピリジンモノマー、RAFT剤、AIBNを、それぞれ2.90 g(0.0279mol)、8.79 g(0.0836mol)、22.8 mg(0.0807mmol)、2.6 mg(0.016mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を作製した。RAFT剤としては、S-ドデシル-S'-(α,α'-ジメチル-α"-酢酸)トリチオカーボネートを使用した。なお、スチレンモノマーと2-ビニルピリジンモノマーとRAFT剤とのモル比はおよそ346:1040:1とした。窒素ガスで25分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。5時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0083】
上記溶液にクロロホルムを添加し約10質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約500mLのヘキサン中に滴下して、粉末状のS2VPランダム共重合体を析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びクロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0084】
精製したS2VPランダム共重合体を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により全体の平均重合度を決定した。S成分の合計の平均重合度は80、平均分子量は約8300で、2VP成分鎖の平均重合度は346、平均分子量は約3.6万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量分布(Mw/Mn)を決定した。分子量較正用に標準ポリスチレンを用いた。その結果、Mn=48000、Mw/Mn=1.76であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0085】
[3]第3工程(ハイブリッド膜の調製)
第1工程で得られた官能性CNT1.34mgを0.648gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、第2工程で得られたS2VPランダム共重合体102mgを1.00gのDMFに混合・溶解させ、S2VPランダム共重合体のDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、60℃で6日間キャストすることで溶媒のDMFを蒸発させ、さらに真空乾燥器を用いて60℃で3日間真空乾燥することで溶媒を完全に蒸発させた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図12に示す。得られた膜は、収縮もほとんど見られず、厚み554μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0086】
均一なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS2VPランダム共重合体中のピリジル基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮もあまり起こらなかったと考えられる。
【0087】
<実施例6>
実施例6では、実施例5で合成した官能性CNTを5.10mgと、S2VPランダム共重合体を96.1mg使用した以外は実施例5と同様にしてハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図13に示す。得られた膜は、収縮もほとんど見られず、厚み848μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0088】
<実施例7>
実施例7では、実施例5で合成した官能性CNTと、リビングアニオン重合により合成された市販のポリスチレン-b-ポリ(2-ビニルピリジン)(以下、「S-2VPジブロック共重合体」と称することもある)とのハイブリッド膜の調製を試みた。
【0089】
【0090】
[1]ハイブリッド膜の調製
実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.04mgを0.496gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、S-2VPジブロック共重合体(Polymer Source Inc.製、ポリスチレン分子量6.7万、ポリ(2-ビニルピリジン)分子量4.8万、分子量分布1.12)101.8 mgを約9.9gのDMFに混合・溶解させ、S-2VPジブロック共重合体のDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、実施例5と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図14に示す。得られた膜は、収縮もほとんど見られず、厚み1.2mm程度の黒色で光沢が見られた。
【0091】
均一なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS-2VPジブロック共重合体中のピリジル基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮もあまり起こらなかったと考えられる。
【0092】
<比較例3>
比較例3では、実施例5で合成した官能性CNTと市販のポリスチレン(Aldrich、製品番号441147、重量平均分子量35万、数平均分子量17万)とのハイブリッド膜の調製を試みた。官能性CNT1.65mgを0.283gのDMF中に混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。ポリスチレン163mgを1.32gのDMFに混合・溶解させ、ポリスチレンのDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、実施例5と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。不均一でCNTの凝集体が見られ、膜は均一ではなかった。
【0093】
膜が均一にならなかったのは、ポリスチレンが非共有結合性官能基を有さず、官能性CNTとの間で相互作用が生じないために、混合のエンタルピー変化が正の値を取り、混合のギブズエネルギー変化も正の値を取り、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できなかったためと考えられる。
【0094】
<実施例8>
実施例8では、以下の式にしたがって、ポリ(メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル)-co-ポリ(アクリル酸n-ブチル)(以下、「AMABランダム共重合体」と称することもある)を合成し(第1工程)、実施例5で合成した官能性CNTとAMABランダム共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第2工程)。なお、AMABの前半のAMAはポリ(メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル)の略号であり、非共有結合性官能基であるアミノ基を有するポリマーである。また、後半のBはポリ(アクリル酸n-ブチル)の略号である。
【0095】
【0096】
[1]第1工程(AMABランダム共重合体の合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製のメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマーを通すことにより、メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマーを精製した。同様にしてアクリル酸n-ブチルモノマーも精製した。精製したメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマー、精製したアクリル酸n-ブチルモノマー、RAFT剤、AIBNを、それぞれ2.76g(0.0149mol)、1.91g(0.0149mol)、27.4mg(0.0751mmol)、2.6mg(0.016mmol)ずつ秤り取り、20mL容量のサンプル瓶内で混合することで溶液を作製した。RAFT剤としては、S-ドデシル-S'-(α,α'-ジメチル-α"-酢酸)トリチオカルボナートを使用した。なお、メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマーとアクリル酸n-ブチルモノマーとRAFT剤とのモル比はおよそ198:198:1とした。窒素ガスで50分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。2.7時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0097】
上記溶液にTHFを添加し約10質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約300mLのメタノールと水の混合溶液(体積比1:2)中に滴下して、AMABランダム共重合体を析出させた。デカンテーションにより溶媒を捨て、残ったポリマーを真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びTHF中に溶解させ、メタノールと水の混合溶液(体積比1:2)中に滴下してポリマーを析出させ、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0098】
精製したAMABランダム共重合体を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により全体の平均重合度を決定した。AMA成分の合計の平均重合度は150で、B成分の平均重合度は69であり、全体の平均分子量は約3.7万であった。
【0099】
[2]第2工程(ハイブリッド膜の調製)
第1工程で得られたAMABランダム共重合体を0.141g、実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.43mg使用した以外は、実施例5と同様にして溶媒キャストを行い、膜試料を得た。得られた膜の写真を
図15に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み799μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0100】
均質なハイブリッド試料が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とAMABランダム共重合体中のアミノ基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためと考えられる。
【0101】
<実施例9>
実施例9では、以下の式にしたがって、ポリスチレン-b-(ポリ(メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル)-co-ポリ(アクリル酸n-ブチル))-b-ポリスチレン(以下、「S-AMAB-Sトリブロック共重合体と称する」こともある)を合成し(第1及び第2工程)、実施例5で合成した官能性CNTとS-AMAB-Sトリブロック共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第3工程)。なお、S-AMAB-Sの両端のSはポリスチレンの略号であり、また、中央のAMABの前半のAMAはポリ(メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル)の略号であり、非共有結合性官能基であるアミノ基を有するポリマーである。また、後半のBはポリ(アクリル酸n-ブチル)の略号である。
【0102】
【0103】
[1]第1工程(ポリスチレンの合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製のスチレンモノマーを通すことにより、スチレンモノマーを精製した。この精製したスチレンモノマー、RAFT剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を、それぞれ36.2g(0.348mol)、294mg(1.04mmol)、16.8mg(0.102mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を作製した。RAFT剤としては、S,S’-ビス(α,α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカーボネートを使用した。なお、スチレンモノマーとRAFT剤とのモル比はおよそ315:1とした。窒素ガスで30分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて130℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。6時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0104】
上記溶液にTHFを添加し約8質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約800mLのメタノール中に滴下して、粉末状のポリスチレンを析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びTHF中に溶解させ、メタノール中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0105】
精製したポリスチレンを重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、プロトン核磁気共鳴分光(1H NMR)法により平均重合度を決定した。平均重合度は188、平均分子量は約2.0万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCにより分子量分布(Mw/Mn)を決定した。分子量較正用に標準ポリスチレンを用いた。その結果、Mw/Mn=1.10であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0106】
[2]第2工程(S-AMAB-Sトリブロック共重合体の合成)
精製したポリスチレンは、中央部にRAFT剤が導入されているため、これをマクロRAFT剤としてメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマーとアクリル酸n-ブチルモノマーの共重合を行った。各モノマーは、塩基性アルミナを通すことで精製した。精製したメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマー、精製したアクリル酸n-ブチルモノマー、マクロRAFT剤、AIBNを、それぞれ2.76g(0.0149mol)、1.91g(0.0149mol)、0.751g(0.0375mmol)、1.5mg(0.0091mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を作製した。なお、メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチルモノマーとアクリル酸n-ブチルモノマーとマクロRAFT剤とのモル比はおよそ400:400:1とした。窒素ガスで50分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。5時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0107】
上記溶液にTHFを添加し約10質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約300mLのメタノールと水の混合溶液(体積比2:1)中に滴下して、S-AMAB-Sトリブロック共重合体を析出させた。デカンテーションにより溶媒を捨て、残ったポリマーを真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びTHF中に溶解させ、メタノールと水の混合溶液(体積比2:1)中に滴下してポリマーを析出させ、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0108】
精製したS-AMAB-Sトリブロック共重合体を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により全体の平均重合度を決定した。S成分の合計の平均重合度は188、平均分子量は約2.0万で、中央成分のうちAMA成分の平均重合度は133、B成分の平均重合度は46であり、中央成分の平均分子量は約3.1万であった。
【0109】
[3]第3工程(ハイブリッド膜の調製)
第2工程で得られたS-AMAB-Sトリブロック共重合体を0.145g、実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.46mg使用した以外は、実施例5と同様にして溶媒キャストを行い、膜試料を得た。得られた膜の写真を
図16に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み629μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0110】
均質なハイブリッド試料が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS-AMAB-Sトリブロック共重合体の中央成分であるAMABランダム共重合体中のアミノ基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためと考えられる。
【0111】
<実施例10>
実施例10では、実施例5で合成した官能性CNTと、市販のポリスチレン-b-ポリ(2-ビニルピリジン)(以下、「S-2VPジブロック共重合体」と称することもある)と、市販のポリアクリル酸とからなるハイブリッド膜の調製を試みた。
【0112】
[1]ハイブリッド膜の調製
実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.3mgを0.217gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、S-2VPジブロック共重合体(ポリスチレン分子量6.7万、ポリ(2-ビニルピリジン)分子量4.8万、分子量分布1.12、Polymer Source Inc.製)39.1mgとポリアクリル酸(平均分子量25000、富士フイルム和光純薬(株)製)60.3mgを0.608gのDMFに混合・溶解させ、S-2VPジブロック共重合体とポリアクリル酸を含むDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、実施例5と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図17に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み957μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0113】
均質なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS-2VPジブロック共重合体中のピリジル基、およびポリアクリル酸中のカルボキシル基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮もあまり起こらなかったと考えられる。
【0114】
<実施例11>
実施例11では、実施例5で合成した官能性CNTと、実施例5で合成したS2VPランダム共重合体と、市販のポリエチレングリコールとのハイブリッド膜の調製を試みた。
【0115】
[1]ハイブリッド膜の調製
実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.4mgを0.203gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、実施例5の第2工程で得られたS2VPランダム共重合体80.7mgとポリエチレングリコール(平均分子量600、第一工業製薬(株)製)20.8mgを0.506gのDMFに混合・溶解させ、S2VPランダム共重合体とポリエチレングリコールを含むDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、実施例5と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図18に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み629μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0116】
均質なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS2VPランダム共重合体中のピリジル基、およびポリエチレングリコール中の水酸基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮もあまり起こらなかったと考えられる。
【0117】
<実施例12>
実施例12は、以下の式にしたがって、ポリスチレン-b-ポリ(4-ビニルピリジン)-b-ポリスチレン(以下、「S-4VP-Sトリブロック共重合体と称する」こともある)を合成し(第1工程)、実施例5で合成した官能性CNTとS-4VP-Sトリブロック共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第2工程)。なお、S-4VP-Sの両端のSはポリスチレンの略号であり、また、中央の4VPはポリ(4-ビニルピリジン)の略号であり、非共有結合性官能基であるピリジル基を有するポリマーである。
【0118】
【0119】
[1]第1工程(S-4VP-Sトリブロック共重合体の合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製の4-ビニルピリジンモノマーを通すことにより、未精製の4-ビニルピリジンモノマーを精製した。精製した未精製の4-ビニルピリジンモノマー、実施例10で合成したポリスチレンのマクロRAFT剤、AIBNを、それぞれ39.6g(0.376mol)、370mg(0.0186mmol)、8.9mg(0.054mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内で混合することで溶液を作製した。なお、4-ビニルピリジンモノマーとマクロRAFT剤とのモル比はおよそ20200:1とした。窒素ガスで60分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。1.5時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0120】
上記溶液にクロロホルムを添加し約10質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約1000mLのヘキサン中に滴下して、粉末状のS-4VP-Sトリブロック共重合体を析出させた。得られたポリマーを吸引濾過して分離し、真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びクロロホルム中に溶解させ、ヘキサン中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを析出させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0121】
精製したS-4VP-Sトリブロック共重合体を重クロロホルムに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により全体の平均重合度を決定した。S成分の合計の平均重合度は188、平均分子量は約2.0万で、4VP成分鎖の平均重合度は2320、平均分子量は約24万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCによりMw/Mnを決定したところ、Mw/Mn=1.47であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0122】
[2]第2工程(ハイブリッド膜の調製)
実施例5の第1工程で得られた官能性CNT2.2mgを0.312gのDMFに混合・溶解させ、官能性CNTのDMF溶液を調製した。また、第1工程で得られたS-4VP-Sトリブロック共重合体80.3mgとポリエチレングリコール(平均分子量600、第一工業製薬(株)製)120mgを0.509gのDMFに混合・溶解させ、S-4VP-Sトリブロック共重合体とポリエチレングリコールを含むDMF溶液を調製した。調製した2つの溶液を混合し、PTFE製のビーカーに移して、実施例5と同様にして溶媒を完全に蒸発させることでハイブリッド膜の調製を試みた。得られた膜(溶媒蒸発後)の写真を
図19に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み475μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0123】
均質なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とS-4VP-Sトリブロック共重合体中のピリジル基、およびポリエチレングリコール中の水酸基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためで、また、混合の際に極性有機溶媒を使用したために得られた膜の収縮もあまり起こらなかったと考えられる。
【0124】
<実施例13>
実施例13では、以下の式にしたがって、ポリアクリルアミド-co-ポリ(アクリル酸n-ブチル)(以下、「AmBランダム共重合体」と称することもある)を合成し(第1工程)、実施例5で合成した官能性CNTとAmBランダム共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた(第2工程)。なお、AmBの前半のAmはポリアクリルアミドの略号であり、非共有結合性官能基であるアミド基を有するポリマーである。また、後半のBはポリ(アクリル酸n-ブチル)の略号である。
【0125】
【0126】
[1]第1工程(AmBランダム共重合体の合成)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製のアクリル酸n-ブチルモノマーを通すことにより、アクリル酸n-ブチルモノマーを精製した。アクリルアミドモノマー、精製したアクリル酸n-ブチルモノマー、RAFT剤、AIBNを、それぞれ2.85g(0.0401mol)、7.15g(0.0558mol)、82.3mg(0.226mmol)、3.2mg(0.020mmol)ずつ秤り取り、コック付き丸底フラスコ内でDMF8mLとともに混合することで溶液を作製した。RAFT剤としては、S-ドデシル-S'-(α,α'-ジメチル-α"-酢酸)トリチオカルボナートを使用した。なお、アクリルアミドモノマーとアクリル酸n-ブチルモノマーとRAFT剤とのモル比はおよそ177:247:1とした。窒素ガスで15分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において、500rpmで攪拌させながら重合した。0.5時間後にフラスコを液体窒素中に漬けることで重合を完全に停止した。
【0127】
上記溶液にTHFを添加し約10質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を約300mLのメタノールと水の混合溶液(体積比2:1)中に滴下して、AmBランダム共重合体を析出させた。デカンテーションにより溶媒を捨て、残ったポリマーを真空乾燥によって十分に乾燥させたのちに、再びTHF中に溶解させ、メタノールと水の混合溶液(体積比2:1)中に滴下してポリマーを析出させ、未反応のモノマーや低分子オリゴマーを除去した。
【0128】
精製したAmBランダム共重合体を重アセトンに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により全体の平均重合度を決定した。Am成分の合計の平均重合度は113、平均分子量は約8000で、B成分の平均重合度は189、平均分子量は約3.2万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCによりMw/Mnを決定したところ、Mw/Mn=1.30であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0129】
[2]第2工程(ハイブリッド膜の調製)
第1工程で得られたAmBランダム共重合体を0.143g、実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.45mg使用した以外は、実施例5と同様にして溶媒キャストを行い、混合試料を得た。得られた試料の写真を
図20に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み861μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0130】
均質なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とAmBランダム共重合体中のアミド基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためと考えられる。
【0131】
<実施例14>
実施例14では、分子量、および組成が異なるAmBランダム共重合体を合成し、実施例5で合成した官能性CNTとAmBランダムブロック共重合体のハイブリッド膜の調製を試みた。
【0132】
アクリルアミドモノマー、精製したアクリル酸n-ブチルモノマー、RAFT剤、AIBNを、それぞれ2.50g(0.0351mol)、6.26g(0.0488mol)、8.5mg(0.0233mmol)、1.0mg(0.0061mmol)ずつ使用した以外は実施例13と同様にAmBランダム共重合体を合成し、精製した。精製したAmBランダム共重合体を重アセトンに溶解して約2質量%の溶液を調製し、1H NMR法により全体の平均重合度を決定した。Am成分の合計の平均重合度は727で、B成分の平均重合度は1435であり、全体の平均分子量は約24万であった。また、ポリマーをDMFに溶解して約0.5質量%の溶液を調製し、GPCによりMw/Mnを決定したところ、Mw/Mn=1.35であった。なお、溶出液はDMF、流速は1mL/minとし、東ソー(株)製のTSK-GELカラム4000HHRを3本連結させた状態で測定を行った。
【0133】
得られたAmBランダム共重合体を0.138g、実施例5の第1工程で得られた官能性CNT1.40mg使用した以外は、実施例5と同様にして溶媒キャストを行い、混合試料を得た。得られた試料の写真を
図21に示す。得られた膜は均質で、収縮もほとんど見られず、厚み635μm程度の黒色で光沢が見られた。
【0134】
均質なハイブリッド膜が得られたのは、官能性CNT中のカルボキシル基とAmBランダム共重合体中のアミド基との間で互いに水素結合し合うために、混合のエンタルピー変化が負となり、結果として混合のギブズエネルギー変化も負となり、分子レベルでの自発的な均一混合を実現できたためと考えられる。