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特許7470423浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体
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  • 特許-浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20240411BHJP
   E02B 3/10 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
E02B3/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021076461
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170369
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592086880
【氏名又は名称】丸栄コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 肇
(72)【発明者】
【氏名】渡部 健
(72)【発明者】
【氏名】三輪 啓司
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 真也
(72)【発明者】
【氏名】石黒 憲司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 晃久
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特許第6760529(JP,B1)
【文献】特開平10-152848(JP,A)
【文献】登録実用新案第3113333(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04H 17/14
E04H 17/20
E04B 2/02
E04C 1/00
E02B 3/04
E02B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤よりも上方に立ち上げられた状態で設けられることにより建物等の浸水防止対象への浸水を防止する浸水防止壁であって、
幅方向に並べて設けられた複数の壁体を備え、
前記各壁体には、前記幅方向の端部に上下方向に延び前記幅方向の外側に開放された溝部が設けられており、
前記溝部には、前記地盤に打ち込まれた杭が下方から挿入されており、
前記各壁体において隣り合う前記壁体が互いの前記溝部を向き合わせて配置されていることにより、それら各溝部により孔部が形成されており、
前記孔部には、前記杭と前記壁体とを結合する固化材が充填されており、
前記壁体は、上下に積み重ねられることにより複数段に設けられており、
前記隣り合う壁体として、下側の段において隣り合う下側壁体と、上側の段において隣り合う上側壁体とが設けられ、前記隣り合う下側壁体と前記隣り合う上側壁体とは上下に並んで配置されており、
前記隣り合う下側壁体の境界部に形成された前記孔部と、前記隣り合う上側壁体の境界部に形成された前記孔部とは上下に連続しており、それら連続する前記孔部に跨って前記杭が挿入されているとともに前記固化材が充填されており、
前記連続する前記孔部に充填された前記固化材により、前記隣り合う下側壁体の間の止水と、前記隣り合う上側壁体の間の止水とが行われており、
上下に並ぶ前記下側壁体及び前記上側壁体の間には止水材が介在されている、浸水防止壁。
【請求項2】
前記杭は、前記隣り合う各壁体の前記溝部に跨って配設されている、請求項1に記載の浸水防止壁。
【請求項3】
前記壁体は、
前記浸水防止壁を挟んで前記浸水防止対象とは反対側の領域である外側領域に面して設けられる平板状の壁部と、
前記壁部の前記幅方向の両端側からそれぞれ前記外側領域とは反対側に延びるとともに、さらに前記幅方向において互いに離間する側にそれぞれ延び、前記離間する側にそれぞれ延びた部分が前記壁部と対向している一対の延出部と、を有しており、
前記各延出部ごとに、前記延出部と前記壁部とにより囲まれた内側には前記溝部が形成されている、請求項1又は2に記載の浸水防止壁。
【請求項4】
前記下側壁体は、その下部が前記地盤の内部に埋め込まれた状態で設置されており、
前記下側壁体の下方には、板状の基礎コンクリートが前記地盤内に埋設された状態で設けられ、その基礎コンクリートの上に前記下側壁体が載置された状態で設けられており、
前記杭は、その下側部分が前記基礎コンクリートを貫通して前記地盤に打ち込まれている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の浸水防止壁。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の浸水防止壁を構築する際の構築方法であって、
前記地盤に前記杭を打ち込み立設させる杭打ち工程と、
前記杭を前記溝部に挿入した状態で前記壁体を設置する壁体設置工程と、を備え、
前記壁体設置工程では、隣り合う前記壁体の前記溝部を互いに向き合わせて前記孔部を形成するように前記壁体を設置し、
前記孔部に前記固化材を流動状態で充填し、その後固化させる固化材充填工程をさらに備える、浸水防止壁の構築方法。
【請求項6】
請求項3に記載の浸水防止壁を構成するプレキャストコンクリート製の壁体であって、
前記壁部と、
前記壁部の前記幅方向の両端側からそれぞれ前記壁部の厚み方向の一方側に延びるとともに、さらに前記幅方向において互いに離間する側にそれぞれ延び、前記離間する側にそれぞれ延びた部分が前記壁部と対向している一対の延出部と、を備えており、
前記各延出部ごとに、前記延出部と前記壁部とにより囲まれた内側には前記溝部が形成されている、プレキャストコンクリート製の壁体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の浸水防止対象への浸水を防止する浸水防止壁、その浸水防止壁を構築する際の構築方法、及び浸水防止壁を構成するプレキャストコンクリート製の壁体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨に伴う河川の決壊等により建物等への浸水がたびたび生じている。こうした建物等への浸水を防止する技術として、特許文献1には、建物等を囲むようにして浸水防止壁を構築する技術が提案されている。特許文献1の浸水防止壁は、コンクリート製のL形ブロックを並べて設置することにより構築されている。詳しくは、このL形ブロックは、水平方向に延びて地中に設置される底板部と、底板部から上方に立ち上がる壁部とを有して断面L字状に形成されている。また、特許文献1の浸水防止壁では、隣り合うL形ブロックの間にパッキン等の止水材が介在されており、それにより、L形ブロック間を通じた水の浸入が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6501961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の技術では、L形ブロックが奥行き方向に長い底板部を有しているため、L形ブロックの設置の際に必要な用地幅が広くなることが考えられる。そのため、浸水防止壁を構築するにあたり、用地の制限を受け易いという問題がある。
【0005】
また、L形ブロックの設置の際には、隣り合うL形ブロック間ごとに止水材を設けるとともに、その止水材を隣り合うL形ブロックの間で挟み込むようにしてL形ブロックを設置する必要がある。そのため、一方のL形ブロックを他方のL形ブロックに引き寄せて高精度に位置決めする必要があり、止水作業が大変になるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、用地の制限を受けにくく、しかも止水作業の容易化を図ることができる浸水防止壁、浸水防止壁の構築方法及びプレキャストコンクリート製の壁体を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の浸水防止壁は、
地盤よりも上方に立ち上げられた状態で設けられることにより建物等の浸水防止対象への浸水を防止する浸水防止壁であって、
幅方向に並べて設けられた複数の壁体を備え、
前記各壁体には、前記幅方向の端部に上下方向に延び前記幅方向の外側に開放された溝部が設けられており、
前記溝部には、前記地盤に打ち込まれた杭が下方から挿入されており、
前記各壁体において隣り合う前記壁体が互いの前記溝部を向き合わせて配置されていることにより、それら各溝部により孔部が形成されており、
前記孔部には、前記杭と前記壁体とを結合する固化材が充填されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、壁体の幅方向の端部に設けられた溝部に地盤に打ち込まれた杭が挿入されている。隣り合う壁体は互いの溝部を向き合わせて配置され、それにより、それら各溝部により孔部が形成されている。孔部にはモルタル等の固化材が充填され、その固化材により壁体と杭とが結合されている。この場合、壁体を杭に支持させることができるため、従来技術(上記特許文献1)のL形ブロックのように底板部を設けなくても、壁体を安定した状態で設置することができる。そのため、用地の制限を受けにくくすることができる。
【0009】
また、固化材は隣り合う壁体の境界部に形成された孔部に充填されているため、固化材により隣り合う壁体の間の止水を行うことができる。この場合、施工の際に固化材を孔部に充填することにより、壁体と杭との結合に加え、隣り合う壁体間の止水を行うことができる。そのため、止水作業の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】建物の周囲に浸水防止壁が設置された状態を示す斜視図。
図2】浸水防止壁を示す斜視断面図。
図3】浸水防止壁を示す縦断面図。
図4】浸水防止壁を示す横断面図。
図5】防水パネルを示す斜視図。
図6】浸水防止壁のコーナ部を示す横断面図。
図7】浸水防止壁の構築方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、図1は、建物の周囲に浸水防止壁が設置された状態を示す斜視図である。
【0012】
図1に示すように、浸水防止壁10は、建物11の周囲において地盤12よりも上方に立ち上がった状態で設けられている。浸水防止壁10は、建物11を囲むように環状に設けられており、例えば四角環状に設けられている。この場合、浸水防止壁10により囲まれた内側の内側領域13がその外側の外側領域14と浸水防止壁10によって仕切られている。これにより、洪水等で浸水が発生した場合に、建物11が設けられた内側領域13に外側領域14から水が浸入するのを防止することが可能となっている。なお、建物11が浸水防止対象に相当する。
【0013】
続いて、浸水防止壁10の構成について図2図4に基づき説明する。図2は、浸水防止壁10を示す斜視断面図である。図3は、浸水防止壁10を示す縦断面図である。図4は、浸水防止壁10を示す横断面図である。なお、図3では、浸水防止壁10を隣り合う防水パネル20の境界部にて切断した縦断面を示している。
【0014】
図2図4に示すように、浸水防止壁10は、横並びに設けられた複数の防水パネル20を備える。防水パネル20は、プレキャストコンクリートにより形成された矩形のパネル体であり、幅方向(以下、パネル幅方向ともいう)に並べて設けられている。また、防水パネル20は、パネル幅方向に長い横長状のパネルとなっており、パネル幅方向に対称な形状を有している。なお、防水パネル20が壁体に相当する。
【0015】
防水パネル20は、上下に積み重ねて2段設けられており、2段積みとされている。したがって、防水パネル20は、上段及び下段のそれぞれでパネル幅方向に並んで複数設けられている。なお、以下においては、下段の防水パネル20を防水パネル20Aともいい、上段の防水パネル20を防水パネル20Bともいう。この場合、防水パネル20Aが下側壁体に相当し、防水パネル20Bが上側壁体に相当する。また、これらの防水パネル20A,20Bはいずれも同じ構成とされている。
【0016】
下段の防水パネル20Aは、その下部が地盤12の内部に埋め込まれた状態で設置されている。詳しくは、防水パネル20Aの下方には、板状の基礎コンクリート16が地盤12内に埋設された状態で設けられ、その基礎コンクリート16の上に防水パネル20Aが載置された状態で設置されている。上段の防水パネル20Bは、下段の防水パネル20Aの上方において当該防水パネル20Aと1対1の関係で配置されている。これら上下に並ぶ防水パネル20A,20Bの間には止水用のパッキン(図示略)が介在されている。これにより、上下の防水パネル20A,20Bの間の止水が行われている。
【0017】
続いて、防水パネル20の構成について図2図4に加え、図5を用いながら説明する。なお、図5は、防水パネル20を示す斜視図である。
【0018】
図2図5に示すように、防水パネル20は、外側領域14に面して設けられた壁部21と、壁部21の幅方向の両端側からそれぞれ内側領域13の側に延出した一対の延出部22とを有している。壁部21は、矩形平板状に形成され、詳しくは幅方向に長い長方形板状とされている。一対の延出部22は、上下方向に延びており、詳しくは壁部21の上下方向全域に亘って延びている。なお、図示は省略するが、壁部21の内部と各延出部22の内部とにはそれぞれ鉄筋が配設されている。
【0019】
一対の延出部22は、壁部21から内側領域13の側に延出する延出板部23と、延出板部23の先端側からパネル幅方向において互いに離間する側にそれぞれ延び壁部21と対向する対向板部24とを有している。この場合、各延出部22ごとに、延出板部23と対向板部24と壁部21とにより囲まれた内側に、上下方向に延びる溝部28が形成されている。したがって、防水パネル20には、その幅方向(つまりパネル幅方向)の両端部にそれぞれ溝部28が形成されている。各溝部28は、パネル幅方向の外側に向けて開放され、互いに反対側を向いている。また、上下に並ぶ各防水パネル20A,20Bの間では互いの溝部28が上下方向に連続している。
【0020】
左右方向(換言するとパネル幅方向)に隣り合う各防水パネル20は、互いの溝部28を向き合わせた状態で配置されている。これら各防水パネル20の境界部27には、それら各防水パネル20の溝部28により上下方向に延びる孔部29が形成されている。孔部29は、その孔形状が略正八角形をなしている。したがって、本浸水防止壁10では、隣り合う防水パネル20の境界部27ごとに孔部29が形成されている。また、下段において隣り合う各防水パネル20Aと、上段においてそれらの防水パネル20Aと上下に並ぶ位置で隣り合う各防水パネル20Bとの間では、各防水パネル20Aの境界部27に形成された孔部29と、各防水パネル20Bの境界部27に形成された孔部29とが上下に連続している。
【0021】
隣り合う防水パネル20の境界部27に形成された上記の孔部29には杭30が挿入されている。杭30は、パネル境界部の各孔部29にそれぞれ挿入されている。杭30は、上下方向に延びる鋼管杭からなり、その下側部分が基礎コンクリート16を貫通して地盤12に打ち込まれている。杭30は、上段において隣り合う防水パネル20Bの境界部27の孔部29と、下段において隣り合う防水パネル20Aの境界部27の孔部29とに跨って挿入されている。また、杭30は、孔部29において隣り合う防水パネル20の各溝部28に跨って配設されており、詳しくは杭30の中心軸が各溝部28の境界に位置するように配設されている。
【0022】
孔部29には、固化材としてのモルタル32が充填されている。モルタル32は、その上端面が防水パネル20の上面と同じ高さとなるように充填されている。モルタル32は、後述するように、流動状態で孔部29に流し込まれ、その後固化して固化状態とされる。これにより、固化されたモルタル32により杭30と防水パネル20とが互いに結合された状態となっている。また、モルタル32は、孔部29において隣り合う防水パネル20の各溝部28に跨って充填されている。そのため、モルタル32により、隣り合う防水パネル20の間の止水が行われている。なお、図2では、図中の左側の孔部29において、杭30を示すためモルタル32の図示を省略している。
【0023】
続いて、浸水防止壁10のコーナ部の構成について図6を用いて簡単に説明する。なお、図6は、浸水防止壁10のコーナ部を示す横断面図である。
【0024】
図6に示すように、浸水防止壁10のL字コーナ部には、コーナ部用の防水パネル35が一対設置されている。コーナ部用の防水パネル35は、上述した防水パネル20と異なり、延出部34が幅方向の一方側にのみ設けられ、他の構成については防水パネル20と同じ構成となっている。一対の防水パネル35は、延出部22が設けられていない側の端部同士を向き合わせた状態で直角をなして配置されている。それら各防水パネル35の隅部には杭30が配設されている。杭30の外側には、各防水パネル35とともに上下に延びる孔部36を形成する板状の長尺材37が設けられている。孔部36にはモルタル38が充填され、そのモルタル38により杭30と防水パネル35とが互いに結合され、さらには防水パネル35間の止水が行われている。
【0025】
続いて、浸水防止壁10を構築する際の構築方法について説明する。図7は、かかる構築方法を説明するための図である。
【0026】
まず、図7(a)に示すように、地盤12に杭30を打ち込み立設させる杭打ち工程を行う。この工程では、杭打ち機を用いて杭30を順次地盤12に打ち込んでいく。これにより、地盤12上には、複数の杭30が防水パネル20の幅と同じピッチで立設される。杭打ちが終わった後、地盤12に基礎コンクリート16を打設する(図7(b)参照)。
【0027】
次に、図7(b)に示すように、防水パネル20を設置する防水パネル設置工程を行う。この工程では、防水パネル20の各溝部28にそれぞれ杭30を下方から挿入した状態で防水パネル20を設置する。この場合、下段の防水パネル20Aについては基礎コンクリート16上に設置し、上段の防水パネル20Bについては防水パネル20A上に設置する。上段の防水パネル20Bを設置する際には、上下の防水パネル20A,20Bの間に止水材を介在させた状態で設置を行う。これにより、防水パネル20Bの設置と同時に上下の防水パネル20A,20B間の止水が行われる。
【0028】
防水パネル20の設置作業はクレーンを用いて行う。この設置作業の流れについて説明すると、まず防水パネル20をクレーンにより吊り上げ、その吊り上げ状態で防水パネル20を所定の設置位置の真上まで移動させる。その後、防水パネル20を設置位置に向けて下ろしながら、防水パネル20の各溝部28に杭30を挿入させ、その挿入状態で防水パネル20を設置位置に設置する。この設置作業は、例えばクレーン付きのバックホウを用いて行う。このようにして、各防水パネル20を順次設置することにより、隣り合う防水パネル20の境界部27ごとに孔部29が形成される。なお、防水パネル設置工程が壁体設置工程に相当する。
【0029】
次に、図7(c)に示すように、隣り合う防水パネル20の境界部27の孔部29にモルタル32を充填し、その後固化させるモルタル充填工程を行う。この工程では、上段の隣り合う防水パネル20Bの孔部29に上方からモルタル32を流し入れる。これにより、モルタル32は下段の隣り合う防水パネル20Aの孔部29にも流れ込み、上下段の各孔部29にモルタル32が充填される。モルタル32は、所定時間が経過した後、固化する。これにより、モルタル32により防水パネル20と杭30とが結合されるとともに、隣り合う防水パネル20の間の止水が行われる。なお、モルタル充填工程が固化材充填工程に相当する。
【0030】
以上の各工程により、浸水防止壁10が構築され、一連の作業が終了する。
【0031】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0032】
(1)防水パネル20の幅方向(つまりパネル幅方向)の端部に、上下方向に延びパネル幅方向の外側に開放された溝部28を設け、その溝部28に地盤12に打ち込まれた杭30を挿入した。また、隣り合う防水パネル20を、互いの溝部28を向き合わせて配置することにより、それら各溝部28により孔部29を形成した。そして、孔部29にはモルタル32を充填し、そのモルタル32により防水パネル20と杭30とを結合した。この場合、防水パネル20を杭30に支持させることができるため、従来技術(上記特許文献1)のL形ブロックのように底板部を設けなくても、防水パネル20を安定した状態で設置することができる。そのため、用地の制限を受けにくくすることができる。
【0033】
また、モルタル32を隣り合う防水パネル20の境界部27の孔部29に充填したため、モルタル32により隣り合う防水パネル20の間の止水を行うことができる。この場合、施工の際にモルタル32を孔部29に充填することにより、防水パネル20と杭30との結合に加え、隣り合う防水パネル20間の止水を行うことができる。そのため、止水作業の容易化を図ることができる。
【0034】
(2)杭30を隣り合う防水パネル20の溝部28に跨って配設したため、共通の杭30により隣り合う各防水パネル20を支持することができる。これにより、各防水パネル20の溝部28ごとに杭30を設ける場合と比べ、杭30の設置本数を削減することができる。
【0035】
(3)防水パネル20を、外側領域14に面して設けた平板状の壁部21と、壁部21の幅方向(パネル幅方向と同方向)の両端側からそれぞれ外側領域14とは反対側(つまり内側領域13の側)に延出した一対の延出部22とを有して構成した。また、一対の延出部22については、壁部21から内側領域13の側に延びる延出板部23と、延出板部23の先端側からパネル幅方向において互いに離間する側にそれぞれ延び壁部21と対向する対向板部24とを有して構成した。そして、各延出部22ごとに、延出板部23と対向板部24と壁部21とにより囲まれた内側に溝部28を形成し、それら各溝部28に杭30を挿入した。この場合、壁部21の幅方向の両端部において、杭30が壁部21に対して外側領域14とは反対側に配置されるため、浸水時に外側領域14側から壁部21に作用する水圧をそれらの杭30により好適に受けることができる。これにより、防水パネル20を安定した状態で設置することができる。
【0036】
また、上記の防水パネル20は一対の延出部22が設けられた両端側を除けば平板状とされているため、防水パネル20を概ね薄型にすることができ、防水パネル20の軽量化を図ることができる。そのため、防水パネル20の設置作業をし易くすることができ、例えばクレーン付きのバックホウを用いて設置作業を行うことが可能となる。
【0037】
(4)防水パネル20を上下に積み重ねて複数段に設けたため、防水パネル20の段数を調整することにより、浸水時に想定される水深に応じて浸水防止壁10の高さ寸法を調整することができる。また、下側の段において隣り合う各防水パネル20Aの境界部27の孔部29と、上側の段において隣り合う各防水パネル20Bの境界部27の孔部29とを上下に連続させ、それら上下に連続する孔部29に跨って杭30を挿入するとともにモルタル32を充填した。この場合、施工の際、上下に連続する孔部29にモルタル32を充填することにより、上側の段における各防水パネル20B間の止水と、下側の段における各防水パネル20A間の止水とをまとめて行うことができる。これにより、防水パネル20が複数段に設けられる構成において、止水作業の容易化を大いに図ることができる。
【0038】
(5)地盤12に打ち込まれた杭30により防水パネル20を支持する上記の構成によれば、地盤12内に配管等の既設埋設物が埋設されている場合にも、その既設埋設物を回避して杭30を打ち込むことができるため、かかる場合にも浸水防止壁10を構築することが可能となる。
【0039】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0040】
・上記実施形態では、防水パネル20を上下2段に積み重ねたが、防水パネル20を上下に3段以上積み重ねたり、防水パネル20を1段だけ設置したりしてもよい。要するに、防水パネル20の段数は、浸水時に想定される浸水深さに応じて適宜設定すればよい。
【0041】
・上記実施形態では、杭30を隣り合う各防水パネル20の溝部28に跨るように配設したが、これを変更して、それら各溝部28にそれぞれ杭30を配設してもよい。この場合、それら各溝部28により形成される孔部29に杭30が2本配設されることになる。
【0042】
・防水パネル20の形態は、必ずしも上記実施形態のものに限定されない。例えば、防水パネルを、上記実施形態の防水パネル20の壁部21よりも厚みの大きい平板状に形成し、その防水パネルの幅方向の両端面にそれぞれ杭30を挿入する溝部を形成してもよい。
【0043】
・防水パネル20の幅方向の中間部に杭30を挿入する挿入孔を設けてもよい。この場合、その挿入孔に杭30を挿入するとともにモルタルを充填する。かかる構成では、防水パネルを、一対の溝部に配設された各杭30と、挿入孔に挿入された杭30とにより支持することができるため、防水パネル20をより安定した状態で設置することができる。
【0044】
・上記実施形態では、杭30として鋼管杭を用いたが、H形鋼杭等、他の杭を用いてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、隣り合う防水パネル20の境界部27の孔部29に固化材としてモルタル32を充填したが、孔部29にコンクリート等、他の固化材を充填してもよい。要するに、流動状態で孔部29に充填され、その後固化されるものであれば、固化材として用いることができる。
【0046】
・上記実施形態では、防水パネル20をコンクリート製としたが、樹脂製や金属製としてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、浸水防止壁10を建物11を囲むように環状に設けたが、浸水防止壁10は必ずしも環状に設ける必要はない。例えば、建物11の一側面側に高台等、地盤面よりも高くなっている部分があれば、その部分とともに建物11を囲むように浸水防止壁10を平面視コ字状に配置してもよい。この場合にも、建物11への浸水を防止することができる。
【0048】
・上記実施形態では、浸水防止壁10を建物11への浸水防止のために設けたが、例えば排水機場等の施設への浸水防止のために設けてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…浸水防止壁、11…浸水防止対象としての建物、20…壁体としての防水パネル、21…壁部、22…延出部、28…溝部、29…孔部、30…杭、32…固化材としてのモルタル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7