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特許7470452同期モータ駆動システムおよび同期モータ駆動方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】同期モータ駆動システムおよび同期モータ駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/14 20060101AFI20240411BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240411BHJP
   H02P 25/024 20160101ALI20240411BHJP
【FI】
H02P23/14
H02P27/06
H02P25/024
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022181207
(22)【出願日】2022-11-11
(62)【分割の表示】P 2019550387の分割
【原出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2023001362
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】62/577,837
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593198706
【氏名又は名称】株式会社システム・ホームズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳野 法象
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-131782(JP,A)
【文献】国際公開第2011/129297(WO,A1)
【文献】特開2007-116768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/14
H02P 27/06
H02P 25/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期モータ駆動システムであって、
同期モータと、
前記同期モータの負荷角を測定する負荷角センサと、
入力された周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を前記同期モータに供給する制御器とを備え、
前記同期モータは永久磁石モータであり、
前記永久磁石モータは、
永久磁石を備えた回転子と、
電機子を備えた固定子とを備え、
前記同期モータ駆動システムは、永久磁石磁束を検出する永久磁石磁束センサをさらに備え、
前記負荷角センサは、電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定して、前記負荷角を測定し、
前記制御器は、前記周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて電圧指令を生成し、負荷角を制御する負荷角制御部を備え、
前記負荷角制御部は、
前記電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
前記同期モータに印加する周波数および電圧に対して目標とすべき目標負荷角を記憶した目標負荷角テーブルと、
前記目標負荷角テーブルを参照して、前記周波数指令および前記電圧指令に基づいて前記目標負荷角を決定する目標負荷角決定部と、
前記目標負荷角と前記測定された負荷角との間の負荷角誤差を算出する負荷角誤差算出部とを備え、
前記電圧指令生成部は、前記負荷角誤差に基づいて、生成する前記電圧指令を調節することを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載された同期モータ駆動システムであって、
前記制御器は、入力された周波数指令および前記測定された負荷角に基づいてパルス符号幅変調(PCWM)信号を生成し、前記PCWM信号を復調することにより駆動信号を生成することを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項3】
請求項1に記載された同期モータ駆動システムであって、
前記制御器は、前記負荷角センサに対して、前記電機子磁束の位相を表す電機子磁束位相信号を送信し、
前記永久磁石磁束センサは、前記負荷角センサに対して、前記永久磁石磁束の位相を表す永久磁石磁束位相信号を送信し、
前記負荷角センサは、前記電機子磁束位相信号および前記永久磁石磁束位相信号に基づいて前記電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定することを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項4】
請求項に記載された同期モータ駆動システムであって、
前記制御器は、前記電機子磁束位相信号として、前記電機子磁束の大きさを表すオンオフ信号を送信し、
前記永久磁石磁束センサは、前記永久磁石磁束位相信号として、前記永久磁石磁束の大きさを表すオンオフ信号を送信することを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項5】
請求項1に記載された同期モータ駆動システムであって、
前記制御器は、前記永久磁石モータに正弦波の電圧を印加し、当該電圧の位相をn通り(nは2以上の整数)に表現し、当該電圧の一周期の間に、前記負荷角センサに対してn個のパルスを送信し、
前記負荷角センサは、前記電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差が前記パルスの何個分に当たるかを測定することによって前記負荷角を測定することを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項6】
請求項1に記載された同期モータ駆動システムであって、前記永久磁石磁束センサは、ホールセンサであることを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項7】
請求項1に記載された同期モータ駆動システムであって、
前記制御器は
記周波数指令および前記電圧指令に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記PWM信号に基づいて前記駆動信号を生成するインバータとをさらに備えることを特徴とする同期モータ駆動システム。
【請求項8】
同期モータを駆動する同期モータ駆動方法であって、
周波数指令の入力を受けるステップと、
前記同期モータの負荷角を測定する負荷角測定ステップと、
前記周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を前記同期モータに供給するステップとを備え、
前記同期モータは永久磁石モータであり、
前記永久磁石モータは、
永久磁石を備えた回転子と、
電機子を備えた固定子とを備え、
前記同期モータ駆動方法は、永久磁石磁束を検出するステップをさらに備え、
前記負荷角測定ステップは、電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定して、前記負荷角を測定し、
前記駆動信号を前記同期モータに供給するステップは、前記周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて電圧指令を生成し、負荷角を制御するステップを備え、
前記負荷角を制御するステップは、
前記電圧指令を生成するステップと、
前記同期モータに印加する周波数および電圧に対して目標とすべき目標負荷角を記憶した目標負荷角テーブルを参照して、前記周波数指令および前記電圧指令に基づいて前記目標負荷角を決定するステップと、
前記目標負荷角と前記測定された負荷角との間の負荷角誤差を算出するステップとを備え、
前記電圧指令を生成するステップは、前記負荷角誤差に基づいて、生成する前記電圧指令を調節するステップを含むことを特徴とする同期モータ駆動方法。
【請求項9】
請求項8に記載された同期モータ駆動方法であって、前記駆動信号を前記同期モータに供給するステップは、前記周波数指令および前記測定された負荷角に基づいてパルス符号幅変調(PCWM)信号を生成し、前記PCWM信号を復調することにより駆動信号を生成することを特徴とする同期モータ駆動方法。
【請求項10】
請求項に記載された同期モータ駆動方法であって、前記負荷角測定ステップは、電機子電圧軸より電気角でπ/2だけ遅れた位置に電機子磁束軸を定義し、当該電機子磁束軸を基準にして前記電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定することを特徴とする同期モータ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータ(例えば、永久磁石モータ)の駆動システムおよび駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導モータは回転子に永久磁石を持たない構造で、シンプルではあるが効率が悪い。モータ負荷の種類として、圧縮機、ポンプ、ファン等の定常負荷の用途と、サーボモータ等の非定常負荷の用途のものがあるが、台数的には定常負荷用の、誘導モータの占める割合が圧倒的に多い。
【0003】
ベクトル制御インバータは、永久磁石モータ用に開発されたものであるが、直接に最高効率を追尾する機能をもたない。
【0004】
当社の先行特許である特許第4482644号「パルス符号幅変調モータ駆動システム」(特許文献1)に記述したインバータ制御のオペレーティングシステム:Pulse Code Width Modulation(PCWM)方式が、ロータ位置を検出せずに3相永久磁石式AC(Permanent Magnet AC, PMAC)モータを正弦波信号によりオープンループ駆動するものであった。以下、特許第4482644号に係る発明を「先行特許発明」という。
【0005】
先行特許発明は、例えばファンやコンプレッサなどの用途のためのPMACモータをオープンループ制御するためになされた。これらの用途の負荷レベルは、通常、事前に分かっている。したがって、先行特許発明の一実施形態では、システムを簡略化するために、V/F関数をモータ速度の固定関数として定義している。
【0006】
先行特許発明の一実施形態の1つの特徴は、有限状態機械(Finite State Machine)技術を用いることによって、51.2μs(=0.2x256μs、0.2μsは基本クロック周期、256はPWM変調周期内の符号化パルス数)の一定の搬送信号周期ごとに、出力正弦関数の位相角およびそれに対応するPWM信号のパルス出力幅の更新をする実時間計算機能にある。これにより、約20kHz(= 1/51.2μs)の超音波搬送周波数を用いた正弦波信号によってパワートランジスタをオンオフ変調し、デジタル制御特有の煩わしい音響雑音を軽減することが可能となった。この概念は、最大出力電圧に対応する単位正弦関数円の内部に位置し、中間の出力電圧に対応する部分正弦関数円を描くことにより、部分正弦関数の瞬時振幅値とモータ駆動信号出力の単位PWMパルス間隔内のパルス幅値との関係を明確に定義することによって可能となった。以下に単位正弦関数表およびV/F関数表を用いたPWM信号の実時間計算手順を、先行特許発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0007】
先行特許発明の一実施形態の別の特徴は、2倍精度レジスタを用いることにより10進数整数計算の小数点以下の計算も行い、四捨五入による結果の桁上げ/桁下げをする計算機能である。これによってさらに精密なデジタル速度制御をすることが可能となり、モータ駆動の安定性が増した。
【0008】
先行特許発明の一実施形態の別の特徴は、単一のシリアル通信回線を介して、外部から最大出力周波数および加減速度の設定を行う機能であり、この機能によって単一のASIC(Application Specific IC)で、各種モータ駆動用途への多様な適用が可能となった。
【0009】
先行特許発明の一実施形態のさらに別の特徴は、中央変調PWM信号を採用したことである。通常の片側変調PWM信号では、パワートランジスタの上アームと下アームの相互導通が前記単位PWMパルス間隔あたり1回生じるのに対して、中央変調PWM信号では2回生じる。これにより、デジタル制御に基づく電流波形のリップル周波数が前者の2倍になって、電流波形がよりきめ細かくなり、モータ駆動をより滑らかにできる。
【0010】
先行特許発明の一実施形態のさらに別の特徴は、使用するハードウェアが小型なことである。とくにASICは、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)を採用して、前記単位正弦関数表、V/F関数表、クロック発生器、PCWM信号エンコーダ、およびPCWM信号デコーダをすべて一つの小さなパッケージ内に収めることができる。
【0011】
以下に先行特許発明に係るPCWMモータ駆動システムの構造上および動作上の特徴について詳細に説明する。このモータ駆動システムは、3相PMACモータのロータ位置を検出せずに、モータを正弦波信号によってオープンループ制御することを特徴としている。本システムは、音響雑音を軽減するため、約20kHzの超音波搬送周波数を用いており、また、ハードウェア構成を最小限に抑えながらも、一つのASICだけで多様な用途のモータ動作要求事項を満たすことができる、きわめてコストパフォーマンスの高いモータ駆動システムである。
【0012】
図1を参照して、先行特許発明の一実施形態の構成について説明する。外部ホストCPU01 は、UARTシリアルバス 02 を介してASIC 06 に接続される。単相AC商用電源入力 03 はAC/DC変換器 04 に接続され、そのAC入力は、システム仕様によって定まる約150VDCから約300VDCのDCバス電圧05 に変換される。UARTシリアルバス 02 からの入力を受けるASIC06 は、実時間演算を行って、ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 にゲートドライブ入力信号07 を出力する。ついで、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 は、3個の正弦波モータ駆動信号 09 を出力して3相ACモータ 10 を駆動する。DCバス電圧 05 は、DC/DCステップダウン・チョッパ11 と前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 に供給される。前記DC/DCステップダウン・チョッパ 11 はさらに、ASIC 06 の電源 12 として 3.3VDCを供給し、また、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 の制御用電源 13 および 14 として 5VDCおよび 15VDCとを供給する。
【0013】
図2は、先行特許発明の一実施形態における前記ASIC 06 および前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 内部の構成を示すブロック図である。前記ASIC 06 は、前記UARTシリアルバス 02 から入力信号を受信する。2ビット16進数の加減速定数 kad および5ビット16進数の周波数増倍係数 kfmf は、電源投入直後に前記ASIC06 に入力され、モータ起動後は代わって8ビット16進数のコマンド周波数 fc が前記ASIC 06 に入力される。
【0014】
クロック発生器 21 は、ここには示さないが、前記ASIC 06 の外部に接続した 10MHz の基準周波数をもった水晶発振器によって動作し、前記ASIC 06 内のブロックへ、異なる周波数または位相のクロックパルスを提供する。200ns の反復周期をもつクロックCK1 28 と、 51.2μs の反復周期をもつクロックCK3 29 はともにクロック信号として、前記PCWM信号エンコーダ 25 および前記PCWM信号デコーダ27 に供給される。同様に、51.2μs の反復周期をもつ前記クロックCK4 30 は、前記PCWM信号デコーダ 27 のクロック信号として供給される。また、約3.6864ms の反復周期をもつクロックCK5 31 は、前記PCWM信号エンコーダ 25 のクロック信号として供給される。
【0015】
先行特許発明の一実施形態で用いる前記単位正弦関数表 22 は、0° - 360° 間の最大振幅の正弦関数値(127sinθ)に対応する8ビット16進数値によって構成されている。ただし、負数は1の補数により表されている。前記PCWM信号エンコーダ25 から前記単位正弦関数表22の単位正弦関数表番地 nが入力されると、単位正弦関数値nu 24を前記PCWM信号エンコーダ25 に送り返す。V/F関数表 23 は、前記PCWM信号エンコーダ25 から8ビット16進数のマシン周波数 fm が入力されると、8ビット16進数のマシン電圧 vm を前記PCWM信号エンコーダ25 に送り返す。
【0016】
前記PCWM信号エンコーダ 25 は、前記クロックCK1 28 で動作する前記有限状態機械である。前記PCWM信号エンコーダ 25 は、前記クロックCK5 31の割込み周期ごとに、前記UARTシリアルバス 02 を介して電源投入時には加減速定数kad と周波数増倍係数 kfmf を、モータ起動後にはコマンド周波数 fc をそれぞれ入力して、前記マシン周波数fm およびマシン電圧 vm を更新する。また、前記CK3 29 の割込み周期ごとに、更新した前記マシン周波数fm およびマシン電圧 vm ならびに周波数増倍係数kfmf に基づいて、単位正弦関数値 nu 24 を更新して前記PCWM数値d 26を演算し、前記PCWM信号デコーダ27 に出力する。
【0017】
前記PCWM信号デコーダ 27 は、前記クロックCK1 28 で動作し、直列に接続されたDフリップフロップ 32 、7ビット・アップコンバータ34 、およびトグル・フリップフロップ 36 より構成される(図12参照)。前記PCWM信号デコーダ27 は、前記クロックCK3 29 の割込み周期ごとに、前記PCWM信号エンコーダ 25 から出力される前記PCWM数値d 26を入力し、中央変調PWM信号数値g 07を、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 に出力する。
【0018】
前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 は、3相の各対ごとに上下に直列接続されたU相の上アーム 15 と下アーム 16 、V相の上アーム17 と下アーム 18 、ならびにW相の上アーム 19 と下アーム20 によって構成される。前記PCWM信号デコーダ 27 から出力される前記中央変調PWM信号g 07に基づいて、前記DCバス電圧 05 を上アームと下アームのパワートランジスタによってオンオフ変調することにより、モータのU相、V相およびW相に対応する3個の正弦波モータ駆動信号09をつくり、これを3相ACモータ 10 に印加する。
【0019】
図3は、先行特許発明の一実施形態で用いる前記単位正弦関数表 22 を示す。この表は前記PCWM信号エンコーダ25 が、16ビット16進数値の前記単位正弦関数表番地 n を入力して、8ビット16進数の単位正弦関数値nu 24 を得るために参照する。
【0020】
図4は、信号正弦波の瞬間振幅値を表す部分正弦関数値 nf と、255個の離散位置をとることができる前記単位PWMパルス間隔内でのパルス幅値pw との関係を図示している。単位正弦関数円は、先行特許発明の一実施形態で採用している最大振幅に対応する最大半径127 を有する円である。この円の中心から円周方向に0.5 度間隔で720 本の放射状線分が延び、各放射状線分は単位正弦関数の720 通りの異なる位相角を表している。この単位正弦関数円上とその内側に、それと等しいか、またはそれより小さい半径をもつ255 個の円が存在し、それら各円は 255 通りの異なるモータ出力電圧レベルを表している。したがって、数学的には、このデジタルマシンがとることができる正弦波信号の位相と電圧の組合せを表す交差点の数は 720 x 255 個存在する。
【0021】
3個の正弦波モータ駆動信号09 の出力周波数は、前記単位正弦関数表 22の走査速度に比例しており、同表の走査速度は回転円の走査速度と等価であり、前記マシン周波数fm に周波数増倍係数 kfmf を乗算した積によって決まる。3相正弦波モータ駆動信号09 の出力電圧は、単位正弦関数円上またはその内側の部分正弦関数の半径に比例する。モータ起動後、3相ACモータ10 が回転し始めるとき、それは部分正弦関数円群の中心付近の回転円で始まり、このときの回転円の走査速度はモータの最低回転速度に比例してゆっくりしている。その後、この回転円は加速しながら外側の離散的に位置する軌道の回転円へだんだんと移動していく。最終的に、3相ACモータ10 が最大速度に到達したときには、回転円は最大電圧に対応する最外側の単位正弦関数円上に到達し、モータの最高回転速度に対応する走査速度で回転する。
【0022】
図5は、先行特許発明の一実施形態の51.2μsの前記単位PWMパルス間隔内のパルス幅値 pwと部分正弦関数値 nf の瞬時振幅値との関係を示したグラフである。この関係はデジタルマシンの計算に整数のみを用いていることを示している。この両者の正確な数値関係により、前記クロックCK3 29 の周期51.2μsの割込み信号で始まる前記PCWM数値d 26の更新演算ごとに、部分正弦関数値nf をパルス幅値 pw に実時間で変換していくことができる。
【0023】
図6は、先行特許発明の一実施形態のPCWM信号エンコーダ 25 が前記マシン周波数 fm およびマシン電圧vm を更新するサブプログラムのフローチャートである。S61で、電源投入時に前記UARTシリアルバス 02 を介して加減速定数 kadおよび周波数増倍係数 kfmf が前記PCWM信号エンコーダ 25に入力され、周波数増分レジスタ対D R63 およびE R64 と、周波数増倍係数レジスタF R65 とにそれぞれ格納される。ここで、D R63 は零を記憶し、E R64 は実際の定数を記憶する。
【0024】
加減速定数 kad は、各種用途モータの加減速度仕様に適合させるため先行特許発明の一実施形態のモータ駆動システムの外部で選択できるようにしている。加減速度は4つの選択肢がある。周波数増倍係数 kfmfも、各種用途モータの最大駆動出力周波数仕様に適合させるため外部で選択できるようにしている。前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路08 から出力する最大駆動周波数は31個の中から選択できる。
【0025】
S62 は、前記クロックCK5 31 の割込み周期(約3.6864ms)ごとにこのサブプログラムに入ることを示し、モータが起動したかどうか調べる。モータ起動後にはS63 へ進み、前記UARTシリアルバス 02 を介して入力されたコマンド周波数 fcが前記マシン周波数 fm と等しいかどうかを判別する。前記コマンド周波数 fc が前記マシン周波数 fm と等しい場合には、このサブプログラムを終了する。両者が異なる場合には、S64 で加減算ルーチンに入り、前記マシン周波数レジスタ対B R61およびC R62 と周波数増分レジスタ対D R63 およびE R64とを用いて前記マシン周波数 fm を更新する。周波数増分レジスタ対D R63およびE R64 ならびに前記マシン周波数レジスタ対B R61 およびC R62 はともに、周波数制御精度を向上させるため、つぎの前記クロックCK5 31 の割込み周期まで10進数対応の小数点以下の値を保持することができる2倍精度レジスタ対である。
【0026】
前記コマンド周波数 fc が前記マシン周波数fm より大きい場合には、最初に周波数増分レジスタE R64の内容を前記マシン周波数レジスタC R62 の内容に加算し、続いて前記周波数増分レジスタD R63 の内容および桁上げ値を前記マシン周波数レジスタB R61の内容に加算する。コマンド周波数 fc が前記マシン周波数 fm より小さい場合には、最初に前記マシン周波数レジスタC R62 の内容から前記周波数増分レジスタE R64 の内容を減算し、続いて前記マシン周波数レジスタB R61の内容から前記周波数増分レジスタD R63 の内容および桁下げ値を減算する。
【0027】
S65 でこのサブプログラムは前記単位正弦関数表 22 の走査速度更新サブプログラム(図7)に進む。S66 で前記マシン周波数レジスタB R61 の内容がマシン周波数fm として更新記憶される。S67 で更新された前記マシン周波数 fm を前記V/F関数表 23 に入力して新しい前記マシン電圧 vm を得、S68 でこの値をマシン電圧保持レジスタG R66 に更新記憶してこのサブプログラムを終了する。
【0028】
図7図6中にある S65 の前記単位正弦関数表 22 の走査速度更新サブプログラムの手順をさらに詳しく説明したフローチャートである。このサブプログラムにおいては、さきにS62 に示した前記クロックCK5 31の割込み周期(約3.6864ms)ごとに、S75 に示す正弦関数表番地増分レジスタ対P R74およびQ R75の内容を更新する。S71 で前記マシン周波数レジスタ対B R61 およびC R62 の内容がマシン周波数保持レジスタ対AH R71 およびAL R72 にとり込まれ、S72 で kfmfの値を保持している周波数増倍係数レジスタF R65 の内容が、周波数増倍係数保持レジスタX R73 にとり込まれる。ついでS73 で乗算A×Xを実行する。この乗算結果の上位8ビットは、前記クロックCK3 29 の割込み周期2回分(102.4μs)の正弦関数表番地増分値の整数部分を表し、下位8ビットは小数部分を表す。
【0029】
S74 で上記計算結果を2で割ると、これは、単位PWMパルス周期ごとの、つまり、前記クロックCK3 29 の割込み周期(51.2μs)ごとの前記単位正弦関数表22の増分値となる。この値も上位8ビットが整数、下位8ビットが小数を表している。例えば、前記マシン周波数レジスタ対B R61およびC R62 の内容が最高周波数に対応する hff00(= 255: 整数部分のみで少数部分は零)で、前記周波数増倍係数レジスタF R65 の内容が h09(= 9)である場合には、乗算の結果の上位8ビットをとって(256で割って)、さらに2で割ると、 255 x 9 / 256 / 2 = 4.4824 となる。これが、3個の正弦波モータ駆動信号 09の最高出力周波数 121.6(=4.4824 x 100000 / 51.2 / 720)Hz に対応する、前記クロックCK3 29 の割込み周期あたりの前記正弦関数表番地増分値である。ここで、4.4824 x 1000000 / 51.2 は1秒あたりの該表番地の増分値、720 は前記単位正弦関数表 22 の表の長さである。S75 では S74 で得られた結果を前記正弦関数表番地増分レジスタ対P R74 およびQ R75に格納し、このサブプログラムを終了する。
図8は、先行特許発明の一実施形態の前記PCWM信号エンコーダ 25 が前記単位正弦関数表の番地 n を更新するサブプログラムのフローチャートである。S81に示すように、前記クロックCK3 29 の割込み周期(51.2μs)ごとに該サブプログラムが呼び出される。S82で前記正弦関数表番地増分レジスタ対P R74 およびQ R75 の内容を正弦関数表番地レジスタ対M R81、N R82、およびL R83の内容に加算して更新する。前記正弦関数表番地レジスタ対M R81、N R82、およびL R83ならびに前記正弦関数表番地増分レジスタ対P R74 およびQ R75 は、周波数制御精度を向上させるため、前記クロックCK3 29の割込み周期まで小数点以下の値を保持することができる2倍精度レジスタ群/対である。
【0030】
S82 では最初に前記正弦関数表番地増分レジスタQ R75の内容を正弦関数表位置レジスタL R83 の内容に加算し、続いて前記正弦関数表番地増分レジスタP R74 の内容および桁上げ値を前記正弦関数表位置レジスタ群M R81 およびN R82 の内容に加算する。これにより、S83 に示すように、前記正弦関数表番地レジスタ対M R81 とN R82 の内容は、前記単位正弦関数表の番地n を更新記憶する。S84ではこの更新された前記単位正弦関数表の番地 nを用いて、新しい単位正弦関数値nu を得、これを単位正弦関数レジスタHに格納する。
【0031】
S85 で図9に示すPCWM信号符号化サブプログラムを呼び出す。S86 で前記単位正弦関数表の番地 n を 480 増分し、前記単位正弦関数表の番地 n を 240°進める。S87 で、S86 で得られた前記単位正弦関数表の番地n を 720 と比較し、前記単位正弦関数表の番地n が 720 を超えない場合には、該サブプログラムはS89 に進む。超えた場合には、該サブプログラムはS88 に進み、S86 で算出した前記単位正弦関数表の番地 n から720 を減算し、前記単位正弦関数表の番地n をリセットする。S82、S86 および S88 では周波数制御精度の向上のために、つぎの前記クロックCK329 の割込み周期までこれらの計算での10進数対応の少数部分の値を前記正弦関数表番地増分レジスタQ R75 および前記正弦関数表位置レジスタL R83 に保持しておく。
【0032】
S88 の後、このサブプログラムはS89 へ進み、3相の正弦モータ駆動信号 09 の生成が完了したかどうかを確認する。完了していない場合には、このサブプログラムは S84 に戻り、同じプロセスを繰り返す。完了している場合には、このサブプログラムを終了する。
【0033】
図9は、図8中にある S85 のPCWM信号符号化サブプログラムをさらに詳しく説明したフローチャートである。このサブプログラムにおいては、さきにS81 に示した前記クロックCK3 29 の割込み周期(51.2μs)ごとに、PCWM数値d 26を出力する。S90 では S84 で得られ、前記単位正弦関数レジスタH R80 に保持されている前記単位正弦関数値 nu図8参照)を被乗数として前記単位正弦関数保持レジスタA R91にとり込む。また、S91では S68で得られ、前記マシン電圧保持レジスタG R66 に保持されている前記マシン電圧vm を乗数として前記マシン電圧レジスタX R92 にとり込む。
【0034】
S92 で、nu の最上位ビットを確認することによって単位正弦関数値 nu の極性を決定する。最上位ビットが零、すなわち nu が正である場合には S93 に進み、乗算A×Xを実行する。その結果の上位8ビットは、レジスタA R93に記憶される。この上位8ビットは、nu >0 の場合は変調オン期間値を表す。下位8ビットはレジスタX R94 に記憶されて上記乗算の10進数対応の小数値を表すが使用されない。S94 で非変調オン期間値 h80をレジスタA R93 の内容に加算すると、これが前記単位PWMパルス周期全体のオン期間値となる。S95でレジスタA R93 の1の補数を求めて前記単位PWMパルス周期全体のオフ期間値を得、このサブプログラムは S99に進む。
【0035】
単位正弦関数値 nu の最上位ビットが1、すなわち nu が負または零である場合にはS96 に進み、S90 の単位正弦関数保持レジスタA R91 の内容の1の補数を求めて単位正弦関数値 nu のオフ期間値を得る。S97 では、乗算A x Xを実行する。その結果の上位8ビットはレジスタA R93 に記憶される。この上位8ビットは、nu ≦0の場合は変調オフ期間値を表す。下位8ビットはレジスタX R94 に記憶されて上記乗算の10進数対応の小数値を表すが使用されない。S98で、非変調オフ期間値h80 をレジスタA R93 の内容に加算すると、これが前記単位PWMパルス周期全体のオフ期間値となり、このサブプログラムは S99に進む。
【0036】
S99 でレジスタAR93 の内容は、U相上アーム 15, V相上アーム 17 およびW相上アーム 19 のPWM片側変調のオフ期間値 2d を表す。nu >0 の場合、この値は 0 ≦ 2d < 127 であり、nu ≦ 0の場合、127≦ 2d ≦ 255 となる。S100 で S99 のレジスタAR93 の内容を2で割って、計3個のPCWM数値d 26を得る。これはU相上アーム 15, V相上アーム 17 およびW相上アーム 19 の3つの前記PWM中央変調前半オフ期間値に対応する。該3個のPCWM数値d 26は、前記PCWM信号デコーダ 27 に入力される。
【0037】
図10は、先行特許発明の一実施形態の前記PCWM信号エンコーダ 25 が図9のフローチャートに基づいて生成する前記PCWM数値d 26と前記PCWM信号デコーダ 27 が出力する前記単位PWMパルス間隔内の前記パルス幅値とを関連づけたタイムチャートである。この図では、前記単位正弦関数値nu が正の場合と負または零の場合の両方を示している。
【0038】
ここで、図9を参照しながら実際の数値を用いてnu >0 の場合について考察する。nu= h3e(62)、vm = h80(128)であるものと仮定する。理解を容易にするために、括弧内に10進数値を示してある。S93で、A×X =62 X 128 = 7936 である。この乗算結果の上位8ビットをとると、7936/ 256= h1f(31)となる。S94 で上位8ビットに h80 を加算すると h9f(159)となり、ついで S95 でこの結果の1の補数をとるとh60(96)となり、図9の S99 で 2d = 96 < 127 を得る。したがって、S100 の出力は、d = h30(48)であり、これが前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路08 の上アーム 15, 17 および 19 における前記PWM中央変調前半オフ期間値 d となる。
【0039】
つぎに、nu = hc1(193)、vm= h80(128)であるものと仮定して、nu ≦ 0の場合について考察する。S96 で hc1(193)の1の補数をとると、h3e(62)が得られる。したがって S97では A x X = 62 x 128 = 7936 となり、この乗算結果の上位8ビットをとると、7936 / 256 = h1f(31)、S98 で上位8ビットに h80 を加算すると h9f(159)となり、図9の S99 で 2d= 159 > 127 が得られる。したがって、S100 の出力は d = h4f(79)であり、これが前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路08 の上アーム 15, 17 および 19 のPWM中央変調前半オフ期間値 d となる。
【0040】
図11は、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 の上アーム出力波形の比較チャートであり、51.2μs の前記単位PWMパルス間隔における通常の片側変調と先行特許発明の一実施形態による中央変調のオン信号の位置を示している。前記単位正弦関数値nu が正の場合、零の場合、および負の場合について比較を行っている。
【0041】
図12は、前記ASIC 06 内の前記PCWM信号デコーダ 27 の内部の詳細を示す先行特許発明の一実施形態のブロック図である。前記PCWM信号デコーダ 27 は、前記クロックCK3 29 の割込み周期(51.2μs)ごとに前記中央変調PWM信号g 07を更新する。前記中央変調PWM信号g 07は、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 内の上アーム15、17および19 を駆動するための3個の上アーム駆動信号群37 と、下アーム 16 、18 および 20 を駆動するための3個の下アーム駆動信号群 38 の合計6チャンネルの信号によって構成されている。
【0042】
直前の前記クロックCK3 29 の割込み周期の間に、前記PCWM信号デコーダ 27 は前記PCWM信号エンコーダ25 から前記PCWM数値d 26を受けとり、このデータをDフリップフロップ32 に書き込む。前記PCWM数値d 26は、図9の S100 で前述したように、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路08 の上アーム 15 、17 および19 のPWM中央変調の前半オフ期間値(後述の図13参照)に対応する。下アーム16 、18 および 20 には、トグル・フリップフロップ 36 の反転した出力端子の信号が供給される。Dフリップフロップ 32の出力 d/d 33 は7ビット・アップカウンタ 34 に入力される。7ビット・アップカウンタ 34 は、前記クロックCK3 29 でPCWM数値d 26の反転信号に対応する d 33 を、クロック信号CK4 30 でPCWM数値 d 26 に対応する d 33 を入力し、7ビット・アップカウンタ 34がフルカウント値 h7f に到達すると信号cry 35 を出力する。
【0043】
7ビット・アップカウンタ 34 およびトグル・フリップフロップ 36 のクロック信号としてCK1 28 を使用する。7ビット・アップカウンタ 34は、後述の図13に示すように、前記単位PWMパルス間隔内の前半オフ期間の生成のために値 d 33 を、後半オフ期間の生成のために値 d 33 をそれぞれ入力する。7ビット・アップカウンタ 34 は、所望の出力を生成するためにその出力数値の1の補数を入力する。
トグル・フリップフロップ 36 は、7ビット・アップカウンタ 34 からの 前記cry 35 および前記クロック発生器 21 からの前記クロックCK3 29 または 前記クロックCK4 30 を受信するたびにその出力極性を反転し、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路08 の出力波形をつくるための、3個の上アーム駆動信号群 37 および3個の下アーム駆動信号群 38 を生成する。3個の下アーム駆動信号群 38 の極性は、3個の上アーム駆動信号群 37 の逆である。ここでは説明を分かりやすくするため、上アーム信号群 37 と下アーム信号群 38 の間の不感帯時間を省略している。このようにして、前記中央変調PWM信号g 07が生成され、前記ゲートドライブ/パワートランジスタ回路 08 に入力される。
図13は、単位正弦関数値 nu が正であるときの上アーム信号の単位PWMパルス極性の特徴を、単位PWM信号間隔内の正規化時間の関数として示した図である。この図に示すように、単位正弦関数値 nu が零であるとき、変調はなくパルス持続時間は50%であり、d = 0.25 である。単位正弦関数値 nu が正のとき、パルス持続時間は50%超であり、d < 0.25 である。単位正弦関数値 nu が負のとき、パルス持続時間は50%未満であり、d > 0.25 である。ここで d + d = 1である。変調された信号部分は、単位PWMパルスの前半と後半に分割されている。
【0044】
図14の比較チャートは、先行特許発明の一実施形態による中央変調PWM信号g 07 が、前記単位PWMパルス間隔内の各パワートランジスタの1回のオンオフ動作によって、パワートランジスタ上下アーム間の相互導通が、従来の片側変調PWM信号では1回であるのに対し、2回起こることを示したものである。この比較チャートでは、U相の上アーム 15 およびV相の下アーム 18 が導通状態にある場合を仮定した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【文献】特許第4482644号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0046】
世界的にみても、電力使用量の60%近くをモータが消費している。地球温暖化の影響を軽減するために、低炭素社会の実現が叫ばれているが、モータの高効率化によってCO2 を削減する道はまだ大きく残されている。
【0047】
本発明の目的は、効率の高い同期モータ駆動システムおよび同期モータ駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0048】
本発明の第1の側面によれば、同期モータ駆動システムは、同期モータと、前記同期モータの負荷角を測定する負荷角センサと、入力された周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を前記同期モータに供給する制御器とを備える。
【0049】
ここで、前記同期モータは永久磁石モータであり、前記永久磁石モータは、永久磁石を備えた回転子と、電機子を備えた固定子とを備え、前記同期モータ駆動システムは、永久磁石磁束を検出する永久磁石磁束センサをさらに備え、前記負荷角センサは、電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定して、前記負荷角を測定するものとすることができる。
【0050】
ここで、前記制御器は、前記負荷角センサに対して、前記電機子磁束の位相を表す電機子磁束位相信号を送信し、前記永久磁石磁束センサは、前記負荷角センサに対して、前記永久磁石磁束の位相を表す永久磁石磁束位相信号を送信し、前記負荷角センサは、前記電機子磁束位相信号および前記永久磁石磁束位相信号に基づいて前記電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定するものとすることができる。
【0051】
ここで、前記制御器は、前記電機子磁束位相信号として、前記電機子磁束の大きさを表すオンオフ信号を送信し、前記永久磁石磁束センサは、前記永久磁石磁束位相信号として、前記永久磁石磁束の大きさを表すオンオフ信号を送信するものとすることができる。
【0052】
ここで、前記制御器は、前記永久磁石モータに正弦波の電圧を印加し、当該電圧の位相をn通り(nは2以上の整数)に表現し、当該電圧の一周期の間に、前記負荷角センサに対してn個のパルスを送信し、前記負荷角センサは、前記電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差が前記パルスの何個分に当たるかを測定することによって前記負荷角を測定するものとすることができる。
【0053】
ここで、前記永久磁石磁束センサは、ホールセンサであるものとすることができる。
【0054】
ここで、前記制御器は、前記周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて電圧指令を生成し、負荷角を制御する負荷角制御部と、前記周波数指令および前記電圧指令に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、前記PWM信号に基づいて前記駆動信号を生成するインバータとを備えるものとすることができる。
【0055】
ここで、前記負荷角制御部は、前記電圧指令を生成する電圧指令生成部と、前記同期モータに印加する周波数および電圧に対して目標とすべき目標負荷角を記憶した目標負荷角テーブルと、前記目標負荷角テーブルを参照して、前記周波数指令および前記電圧指令に基づいて前記目標負荷角を決定する目標負荷角決定部と、前記目標負荷角と前記測定された負荷角との間の負荷角誤差を算出する負荷角誤差算出部とを備え、前記電圧指令生成部は、前記負荷角誤差に基づいて、生成する前記電圧指令を調節するものとすることができる。
【0056】
本発明の第2の側面によれば、同期モータを駆動する同期モータ駆動方法は、周波数指令の入力を受けるステップと、前記同期モータの負荷角を測定する負荷角測定ステップと、前記周波数指令および前記測定された負荷角に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を前記同期モータに供給するステップとを備える。
【0057】
ここで、前記同期モータは永久磁石モータであり、前記永久磁石モータは、永久磁石を備えた回転子と、電機子を備えた固定子とを備え、前記同期モータ駆動方法は、永久磁石磁束を検出するステップをさらに備え、前記負荷角測定ステップは、電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定して、前記負荷角を測定するものとすることができる。
【0058】
ここで、前記負荷角測定ステップは、電機子電圧軸より電気角でπ/2だけ遅れた位置に電機子磁束軸を定義し、当該電機子磁束軸を基準にして前記電機子磁束と前記永久磁石磁束との間の位相差を測定するものとすることができる。
【0059】
本発明の第3の側面によれば、同期モータ駆動システムは、同期モータと、前記同期モータの力率角を測定する力率角センサと、入力された周波数指令および前記測定された力率角に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を前記同期モータに供給する制御器とを備える。
【0060】
ここで、前記同期モータ駆動システムは、前記同期モータの端子電流を検出する端子電流検出センサをさらに備え、前記力率角センサは、前記同期モータの端子電圧と、前記端子電流との間の位相差を測定して、前記力率角を測定するものとすることができる。
【0061】
ここで、前記制御器は、前記力率角センサに対して、前記端子電圧の位相を表す電圧位相信号を送信し、前記端子電流検出センサは、前記力率角センサに対して、前記端子電流の位相を表す電流位相信号を送信し、前記力率角センサは、前記電圧位相信号および前記電流位相信号に基づいて前記端子電圧と前記端子電流との間の位相差を測定するものとすることができる。
【0062】
ここで、前記制御器は、前記電圧位相信号として、前記端子電圧の大きさを表すオンオフ信号を送信し、前記端子電流検出センサは、前記電流位相信号として、前記端子電流の大きさを表すオンオフ信号を送信するものとすることができる。
【0063】
ここで、前記制御器は、前記同期モータに正弦波の電圧を印加し、当該電圧の位相をn通り(nは2以上の整数)に表現し、当該電圧の一周期の間に、前記力率角センサに対してn個のパルスを送信し、前記力率角センサは、前記端子電圧と前記端子電流との間の位相差が前記パルスの何個分に当たるかを測定することによって前記力率角を測定するものとすることができる。
【0064】
ここで、前記制御器は、前記周波数指令および前記測定された力率角に基づいて電圧指令を生成し、力率角を制御する力率角制御部と、前記周波数指令および前記電圧指令に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成部と、前記PWM信号に基づいて前記駆動信号を生成するインバータとを備えるものとすることができる。
【0065】
ここで、前記力率角制御部は、前記電圧指令を生成する電圧指令生成部と、前記同期モータに印加する周波数および電圧に対して目標とすべき目標力率角を記憶した目標力率角テーブルと、前記目標力率角テーブルを参照して、前記周波数指令および前記電圧指令に基づいて前記目標力率角を決定する目標力率角決定部と、前記目標力率角と前記測定された力率角との間の力率角誤差を算出する力率角誤差算出部とを備え、前記電圧指令生成部は、前記力率角誤差に基づいて、生成する前記電圧指令を調節するものとすることができる。
【0066】
本発明の第4の側面によれば、同期モータを駆動する同期モータ駆動方法は、周波数指令の入力を受けるステップと、前記同期モータの力率角を測定する力率角測定ステップと、前記周波数指令および前記測定された力率角に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を前記同期モータに供給するステップとを備える。
【0067】
ここで、前記同期モータ駆動方法は、前記同期モータの端子電流を検出するステップをさらに備え、前記力率角測定ステップは、前記同期モータの端子電圧と、前記端子電流との間の位相差を測定して、前記力率角を測定するものとすることができる。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、効率の高い同期モータ駆動システムおよび同期モータ駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】先行特許発明の一実施形態によるモータ駆動システムのブロック図である。
図2】ASICおよびゲートドライブ/パワートランジスタ回路内部の構成を示すブロック図である。
図3】先行特許発明の一実施形態が使用する単位正弦関数表(PCWM信号エンコーダが単位正弦関数表番地をこの表に入力して対応する単位正弦関数値を得る)を示す図である。
図4】部分正弦関数の瞬間振幅値と単位PWMパルス間隔内のパルス幅値との間の関係を示す図である。
図5】単位PWMパルス間隔内のパルス幅値と部分正弦関数値との間の関数関係を表すグラフである。
図6】CK5の割込み周期(約3.6864ms)ごとにASIC内のマシン周波数およびマシン電圧を更新するサブプログラムのフローチャートである。
図7図6のサブプログラムと協働する単位正弦関数表走査速度の更新サブプログラムのフローチャートである。
図8】CK3の割込み周期(51.2μs)ごとに単位正弦関数表の単位正弦関数表番地を更新するサブプログラムのフローチャートである。
図9図8のサブプログラムと協働するPCWM数値(PWM中央変調前半オフ期間値)の更新サブプログラムのフローチャートである。
図10】単位正弦関数が正の場合と負または零の場合について、PCWM信号エンコーダが生成したPCWM数値がどのようにしてPCWM信号デコーダで単位PWMパルス間隔内のパルス幅値に変換されるかを示すタイムチャートである。
図11】PCWM信号デコーダの出力波形の比較チャートであり、単位PWMパルス間隔内で片側変調PWM信号および中央変調PWM信号の上アームの信号がどのように見えるかを比較して示す図である。
図12】ASIC内のPCWM信号デコーダ内部の詳細を示すブロック図である。
図13】単位正弦関数が正である一例について、中央変調PWM信号の上アームからの出力信号の特徴を単位PWM信号間隔内の正規化時間の関数として示した図である。
図14】単位PWMパルス間隔内の各パワートランジスタの1回のオンオフ動作によって、中央変調PWM信号ではパワートランジスタ上下アーム間の相互導通が2回生じるのに対して、通常の片側変調PWM信号では1回であることを比較して示した図である。
図15】本発明の第1実施形態における永久磁石モータ駆動システム(同期モータ駆動システム)を示す図である。
図16】ベクトル制御と、本発明の第1実施形態で用いているトルク制御(インバータ)の比較を示す図である。
図17】負荷試験で得られる最適負荷角データテーブルの一例を示した図である。
図18】同期モータモデルとその2-D展開図を示した図である。
図19】同期モータモデルのU相のベクトル図である。
図20】端子電圧軸と電機子磁束軸の位相関係を示した図である。
図21】負荷角等を示した図である。
図22】モータトルク方程式を示した図である。
図23】負荷角の測定方法を示した図である。
図24】負荷角制御の実施例のブロック図である。
図25】基準電圧テーブルを示した図である。
図26】本発明の第2実施形態における永久磁石モータ駆動システム(同期モータ駆動システム)を示す図である。
図27】負荷試験で得られる最適力率角データテーブルの一例を示した図である。
図28】電圧位相が電流位相より進む場合を示した図である。
図29】電圧位相が電流位相より遅れる場合を示した図である。
図30】端子電圧と端子電流の位相情報を用いた力率角制御の図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0071】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態では、同期モータとして、永久磁石モータ(より具体的には、3相永久磁石モータ)を用いる。
【0072】
本発明の第1実施形態は、高効率が特徴である3相永久磁石モータについて、より簡単な方法で、ベクトル制御インバータに優るとも劣らない効率が得られる、安価なインバータシステムに関する。
【0073】
本実施形態では、安価な構成にもかかわらず、負荷角を用いたトルク制御により、最適効率を直接追尾する永久磁石モータ用インバータ方式を提供する。
【0074】
本実施形態が解決しようとする課題はつぎのとおりである。
【0075】
(1)モータ固定子の電磁石(電機子)と、モータ回転子の永久磁石がお互いにどのような吸引作用をするか、電磁誘導に基づく数式モデルを使って解き明かすこと。
【0076】
(2)ベクトル制御方式と異なり、静止座標系で、正弦波による永久磁石モータの駆動ができ、その効率を最適化する制御システムモデルを実現すること。
【0077】
(3)モータ負荷角を効率制御の指標として定義すること。
【0078】
(4)駆動モータの回転数に対して、負荷の大小に応じて、効率が最適になる負荷角の値を、あらかじめモータの負荷試験を実施して、テーブルの形にしておき、計数した負荷角の値がテーブルに蓄えられた理想値になるように、モータ印加電圧を調整できるようにすること。
【0079】
(5)モータ負荷角の測定は、電機子磁束と永久磁石磁束それぞれの正弦波をオンオフ信号(例えば、値が0以上の場合にはオンになり、値が0未満の場合にはオフになる信号)に変換し、変換後のお互いの信号の位相差を検出して行うようにすること。
【0080】
(6)負荷角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数できること。
【0081】
(7)制御回路を簡略化・小型化すること。
【0082】
本実施形態のもとになった前記PCWM方式インバータは、ロータ位置を検出せずに、センサレスで前記PMACモータを正弦波信号によってオープンループ駆動するものであった。
【0083】
本実施形態では、回転子の位相を検出するセンサを固定子に1個取りつけるだけで、閉ループ制御によってつねにインバータシステムを最高効率で運転することが可能となった。
【0084】
本実施形態の第1の特徴は、インバータによって励磁される固定子の電磁石(電機子)と、回転子に装着された永久磁石が、回転軸を固定された状態で、お互いのあいだに、どのような吸引作用が起こるか調べたことである。とくに、電磁石の回転磁界による磁束(電機子磁束)を駆動側とし、回転子の永久磁石による磁束(永久磁石磁束)が追尾側としたときに、回転子がどのような回転運動をするか、電磁誘導に基づく数式モデルを使って解き明かしたことである。
【0085】
本実施形態の第2の特徴は、(a)電機子電圧軸より1/4波長遅れた電機子磁束軸を基準の電機子磁束軸として定義したこと、および、(b)固定座標系(静止座標系)を用いた制御を行ったことである。ベクトル制御の回転座標系に対し、本実施形態は固定座標系(静止座標系)を用いている。本実施形態のPCWM方式では正弦波360°関数テーブルのデータ数を6の倍数のデジタル情報として記憶している。このような方法は既存の従来インバータシステムでは不可能であった。
【0086】
本実施形態の第3の特徴は、(a)最適効率を実現する指標として負荷角を定義し、あらかじめインバータとモータの負荷試験を行って、負荷の大小に応じて、効率が最適になる負荷角の値を求めておくこと、(b)最適効率を実現する指令電圧と目標負荷角の関係をテーブルの形にして求めておくこと、および、(c)実機では、計数した負荷角の値がテーブルに蓄えられた理想値になるように、指令電圧を調節するモデルフォロワ適応制御システムを構築したことである。
【0087】
本実施形態の第4の特徴は、モータ負荷角の測定を、電機子磁束と永久磁石磁束それぞれの正弦波をデューティ50% のオンオフ信号に変換し、変換後のお互いの信号の位相差を検出して行うようにしたことである。
【0088】
本実施形態の第5の特徴は、PCWM方式で使用している一定周波数の第1の搬送波に対して、駆動周波数に応じてモータ印加電圧の正弦波の周期が変化するため、その正弦波周波数に同期した第2の搬送波を用いて、負荷角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数できるようにしたことである。とくに負荷角の計測に第2搬送波を使用することは、既存の従来インバータシステムでは不可能であった。本実施形態のPCWM方式では搬送波周波数制御をデジタル情報として演算している。
【0089】
本実施形態の第6の特徴は、制御回路を簡略化・小型化するために、A/D変換器や多数のセンサ回路を使用せず、より少ない安価な部品から成るフルデジタル構成としたことである。
【0090】
図15は、本発明の第1実施形態における永久磁石モータ駆動システム(同期モータ駆動システム)を示す図であり、エアコンないしファン効率制御回路ブロック図である。本実施形態の永久磁石モータ駆動システム60は、制御器62、永久磁石モータ64、および負荷角センサ66を備える。本実施形態では、負荷70として、例えば、エアコンないしファンを想定している。ユーザがホストCPU50に対して室温指令を入力すると、ホストCPU50は、永久磁石モータ駆動システム60の制御器62に対し、当該室温指令に応じた周波数指令を入力する。制御器62は、当該周波数指令に応じた駆動信号を生成し、永久磁石モータ64に供給する。永久磁石モータ64は、当該駆動信号に従って動作し、負荷70に対して速度及びトルクを供給する。負荷(エアコンないしファン)70は、当該速度及びトルクに応じて動作し、室温が変化する。
【0091】
本実施形態では、内側ループで電圧を制御することによって、負荷角を制御している。すなわち、負荷角センサ66は、永久磁石モータ64の負荷角を測定し、それを制御器62に供給する。制御器62は、周波数指令および測定された負荷角に基づいて駆動信号を生成する。ここで、永久磁石モータ64の回転数に対して、負荷の大小に応じて、永久磁石モータ64の効率が最適になる負荷角の値(目標負荷角)が存在するところ、制御器62は、供給される測定負荷角を当該目標負荷角に近づけるように、印加周波数とは独立に印加電圧を制御(調整)し、駆動信号を生成する。これにより、最適の効率を実現できる。
【0092】
また、本実施形態では、外側ループで周波数制御が行われている。すなわち、室温センサ80は、室温を測定し、それをホストCPU50に供給する。ホストCPU50は、供給される室温に応じて周波数指令を制御(調整)する。
【0093】
なお、負荷70としては、コンプレッサ(圧縮機)等を用いることも考えられる。
【0094】
図16は、ベクトル制御と、本実施形態で用いているトルク制御(インバータ)の比較を示す図である。
【0095】
図17は、モータの負荷試験を実施した結果得られる最適効率データテーブルの一例を示す図である。これについては、後でさらに説明する。
【0096】
ここで記述するモータ回転子の運動方程式は、静止円筒座標系で定義しており、本解析を通じて同座標系を用いた。モータ内側に位置する固定子の巻線は、駆動インバータからのデジタル化した正弦波によって磁化される。モータ外周を構成するモータ回転子は、その内側にフェライト磁石(永久磁石)が装着されており、同様に正弦波形によって磁化されている。
【0097】
この解析は、初めに2極 / 6スロットのモータを仮定して、2-D平面上で展開しており、簡単化のため、突極がない構成とした。また解析は代表軸としてU相について行った。図18に本実施形態で用いる同期モータモデルとその2-D展開図を示す。
【0098】
図18において、電機子U相の電流が最大である瞬時を考えると、V相 、W相の電流による磁束も総合して、電機子電流によって生ずる回転磁束Φa(電機子反作用磁束)は、U相の巻線軸上にある。この磁束が相順の向きに反時計回りに同期速度で回転することによって生ずる起電力Ea = -jXaI は電流I よりπ/2遅れ、これを電圧降下の扱いにすれば、符号が変わり、I よりπ/2進むことになる。
【0099】
電機子漏れリアクタンスによる電圧降下jxlIもIよりπ/2進むから、二つの電圧降下の和j(Xa+ xl) I = jXsI = 同期リアクタンス降下もIよりπ/2進む。
【0100】
U相の電流最大の瞬時に磁極中心が、図18のようにU相の巻線軸よりζだけ遅れた位置にあるとすると、磁極による磁束Φm が同期速度で相順の向きに反時計回りに回転するときにU相に生ずる起電力E (Iと逆の向きを正とする)は、jXsIよりζだけ位相が遅れる。
【0101】
また、電機子巻線とインバータ導線抵抗rを考慮するときは、これによる巻線抵抗等価磁束Φr はIと同相で、Φaよりπ/2遅れる。
【0102】
E とrIおよびjXsI のベクトル和がU相に加わる電源電圧Vでなければならないから、図19 のようなU相のベクトル図が得られる。
【0103】
まず、図20を参照しながら、つぎの電磁誘導の方程式から解析を始める。
【0104】
V = dΦe (θ) / dt = pΦe (θ) (1)
ただし、
V = V1 sin (θ)
V1: インバータからU相端子に加えられる最大電圧
θ: U相端子電圧軸Ueを起点とする回転角で、反時計回りが正方向
Φe = -Φe1 cos (θ): 回転角度 θにおける電機子磁束
Φe1: U相端子電圧により誘起される電機子磁束の正の最大値
p: 微分演算子
式 (1) は電機子磁束Φeの位相が端子電圧Vの位相よりπ/2だけ遅れることを表す。
【0105】
言いかえれば、U相端子電圧軸Ueから位相角θにおける電機子磁束Φeは、
Φe = -Φe1 cos (θ) (2)
ここで電機子磁束Φeの基準軸をx-y平面上でU相端子電圧軸Ueから時計方向にπ/2だけ回転させて電機子磁束軸Umを定義した方が永久磁石磁束との相互作用をとり扱う上で都合がよい。この再定義で電機子磁束Φeを表わすと、
Φe = Φe1 sin (θ) (3)
ただし、
θ: U相電機子磁束軸Umを起点とする回転角で、反時計回りが正方向
方程式 (1)をさらに整理すると、
V = pΦe
= jωΦe (4)
Φeについて書き直すと、
Φe = V/jω
= -jV/ω (5)
式 (1) と同様にして、つぎの電磁誘導の方程式が定義できる。
【0106】
E = dΦm (θ) / dt = pΦm (θ) (6)
ただし、
E = E1 sin (θ)
E1: 永久磁石によって誘起される最大電圧
θ: U相永久磁石電圧軸qを起点とする回転角で、反時計回りが正方向
Φm = -Φm1 cos (θ): 回転角度 θにおける永久磁石磁束
Φm1: 永久磁石により誘起される永久磁石磁束の正の最大値
p: 微分演算子
方程式 (6) はΦmの位相が永久磁石電圧Eの位相よりπ/2だけ遅れることを表す。
【0107】
そこで、永久磁石磁束Φmの基準軸を永久磁石電圧軸qから時計方向にπ/2だけ回転させて永久磁石磁束軸dを定義して永久磁石磁束Φmを表すと、
Φm = Φm1 sin (θ) (7)
ただし、
θ: U相永久磁石磁束軸d を起点とする回転角で、反時計回りが正方向
式 (5) と同様にして、
Φm = -jE/ω (8)
ところで、インバータ導線を含む電機子巻線の巻線抵抗rを考慮するときは、巻線抵抗等価磁束Φr をつぎのように定義する。
【0108】
Φr = -jrI/ω (9)
図19を参照しながら、従来からのつぎのモータ回路方程式について解析する。
【0109】
V = E + rI + jXsI (10)
ただし、
r: 巻線抵抗
Xs: 同期リアクタンス = ωLs
Ls: 同期インダクタンス
式 (10) の両辺に -j/ωをかけると、
-jV/ω = -jE/ω - jrI/ω- + XsI/ω
= -jE/ω - jrI/ω + LsI (11)
式 (5) と式 (8) および式 (9)を式 (11) に代入すると、
Φe = Φm + Φr + LsI (12)
さらに同期インダクタンス磁束Φaを新しくつぎのように定義すると、
Φa = LsI (13)
式 (12) は磁束のベクトル関係として式(14) のように表現できる。
【0110】
Φe = Φm + Φr + Φa (14)
式(14) の関係をベクトル図として図21に図解した。
【0111】
つぎに、従来から下記のモータトルク方程式がある。
【0112】
T = k {|V||E|/(ωXs)} sin δ
= k {V1E1/(ωXs)} sin δ (15)
ただし、
k = 3P/2: 定数
P: モータ極数
V1: インバータからU相端子に加えられる最大電圧
E1: 永久磁石によって誘起される最大電圧
ω: モータ回転角速度
式(15) に 式(10) ただし書きの同期リアクタンスの式Xs = ωLs を代入すると、
T = k {V1E1/(ω2Ls)} sin δ
= k {(V1/ω) * (E1/ω) / Ls)} sin δ (16)
ここで、
|Φe| = Φe1 = V1/ω (17)
|Φm| = Φm1 = E1/ω (18)
式(16) に式(17) および式 (18) を代入して整理すると、
T = k|Φe||Φm|sin δ / Ls (19)
ただし、
δ: 負荷角 = 永久磁石磁束軸と電機子磁束軸間の夾角
式(19) はモータトルクが、斜辺Φe および Φm とその夾角δ で囲まれた面積に比例することを示す。このモータトルク方程式を図22に図解する。
【0113】
これにより、負荷角δが小さい場合には、モータトルクが負荷角δにほぼ比例することが分かる。
【0114】
永久磁石により誘起される永久磁石磁束の最大値は決まっており、変更できない。しかし、本インバータは印加周波数と独立に印加電圧の電圧値(つまり電機子巻線の端子電圧)を細かく制御することができるので、モータの速度と負荷の大きさに応じて、電機子磁束の大きさを変えて最適の効率を実現することができる。
【0115】
本実施形態の負荷角計測・制御はモータ駆動中に常時行うのでなく、モータが定常運転に入った、一定のモータ速度領域内で実施する。モータの加・減速時等の過渡状態のモータ駆動には、本実施形態が採用しているPCWM方式の特徴を最大限に活かして、開ループ制御を行う。また、本実施形態の負荷角計測・制御の頻度は「分」単位の極端に長い周期の制御でよいが、負荷角の検出時には後述のPCWM信号エンコーダから出力される計数信号PCKによる短周期の実時間処理が好ましい。
【0116】
つぎに実用化に好ましい24極 / 18スロットの外周回転子型モータについて、モータ負荷角の測定方法について、実施の一例を示した図23に基づき説明する。
【0117】
当該モータの駆動正弦波1周期にモータが回転する角度(電気角)θは、
θ = 2π/(24/2) = π/6 (20)
前掲方程式 (1) により、電機子磁束軸Umは電機子電圧軸Ueより1/4波長分遅れるので、この値を式(20) に掛け算すると、当該2軸間の夾角は、
1/4 θ = π / (6*4) = π/24 = 7.5° (21)
本実施形態では、電機子電圧軸Ueより電気角でπ/2(1/4波長)だけ遅れた位置に電機子磁束軸Umを定義し、当該電機子磁束軸Umを基準にして電機子磁束と永久磁石磁束との間の位相差を測定することによって、モータ負荷角を測定している。
【0118】
モータ負荷角の測定は、電機子磁束と永久磁石磁束それぞれの正弦波をデューティ50% のオンオフ信号に変換し、変換後のお互いの信号の位相差を検出して行う。これにより振幅を測定するためのA/D変換器が不要となり、外来ノイズに強い信号処理回路が実現できる。また、PCWM方式で使用している一定周波数の第1の搬送波(後述のCK3)に対して、駆動周波数に応じてモータ印加電圧の正弦波の周期が変化するため、その正弦波周波数に同期した第2の搬送波(後述の計数信号PCK)を用いて、負荷角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数する。
【0119】
図23においては、電機子磁束の正弦波を、電機子磁束の大きさを表すオンオフ信号δDに変換している(変換は、後述のPCWM信号エンコーダ116において行う)。すなわち、電機子磁束の大きさが0以上の場合にはオンとなり、電機子磁束の大きさが0未満の場合にはオフとなる信号に変換している。ここで、オンはN極を示す。また、ホールセンサPCB(Print Circuit Board)に装着されたホールセンサにおいて、永久磁石磁束の正弦波を検出し、それを永久磁石磁束の大きさを表すオンオフ信号δHに変換している。すなわち、永久磁石磁束の大きさが0以上の場合にはオンとなり、永久磁石磁束の大きさが0未満の場合にはオフとなる信号に変換している。ここで、オンはS極を示す。本実施形態では、δDおよびδHともに、デューティ50% のオンオフ信号にしている。
【0120】
図23において、正弦波テーブル番地は図3の表番地を意味する。よって、駆動周波数の一波長(一周期)において、PCWM信号エンコーダは、計数信号として、720個のパルスを出力する。例えば、電機子磁束と永久磁石磁束との間の位相差(測定負荷角δL)が、デジタル計測した結果、上記パルス36個分であったとすると、これは波長の5%(=36/720)であり、測定負荷角δLは18°(=360×0.05°)である。
【0121】
駆動モータの回転数に対して、負荷の大小に応じて、効率が最適になる負荷角の値が存在する。あらかじめモータの負荷試験を実施して、前記図17に示すテーブルの形にしておき、計数した負荷角の値がテーブルに蓄えられた理想値になるように、モータ印加電圧を調整する、モデルフォロワ適応制御方式を採用する。図17に示す電圧指令VCと目標負荷角δTとの関係は、一定の周波数範囲ごとに用意し、目標負荷角テーブル104に記憶しておく。よって、目標負荷角テーブル104には、永久磁石モータ64に印加する周波数(FC)および電圧(VC)に対して目標とすべき目標負荷角(δT)が記憶されることになる。
【0122】
本負荷角計測システムを、踏切を通過する列車の通過時間の計測に例えると、踏切が閉まってから、列車が到着するまでの時間差を定点観測するのに似ている。つまり、永久磁石磁束軸の電機子磁束軸からの遅れ時間の計測を、電機子磁束および永久磁石磁束それぞれの50%デューティに変換したパルストレインの位相差としてとらえている。
【0123】
負荷角制御の実施の一例を示した図24に基づき、さらに詳細な説明を以下に行う。図24は、図15に示した本実施形態に係る永久磁石モータ駆動システム60の構成を、より具体的に示したものである。
【0124】
本実施形態では、負荷角センサ66および負荷角制御部101が負荷角計測・制御を行っているが、上述のとおり、当該負荷角計測・制御はモータ駆動中に常時行うのでなく、モータが定常運転に入った、一定のモータ速度領域内で実施する。
【0125】
負荷角制御部101は、周波数指令FCおよび測定負荷角δLに基づいて電圧指令VCを生成し、負荷角を制御する。
【0126】
図24の外部から与えられる周波数指令FCと、該図の内部で実時間演算される後述の電圧指令VCは、負荷角制御部101の目標負荷角決定部102に入力される。目標負荷角決定部102は、目標負荷角テーブル104を参照して、周波数指令FCおよび電圧指令VCに基づいて目標負荷角δTを決定する。該目標負荷角テーブル104は、効率が最適になる負荷角の値を、あらかじめモータの負荷試験を実施して求めたものであり、図17に示したフォーマットで与えられる。
【0127】
負荷角センサ66は、図24の場合、後述のPCWM信号エンコーダ 116から出力される電機子磁束位相信号(電機子磁束の位相を表す信号) δDから、ホールセンサ 136から出力されるホールセンサ位相信号 (ホールセンサの位相、すなわち、永久磁石磁束の位相を表す信号)δHを減算して、出力の測定負荷角δLを得ている。
【0128】
前記図23の方法に基づいて負荷角測定を行う負荷角センサ66は、測定負荷角δLを出力する。なお、負荷角センサ66は、測定負荷角δLにつき、平準化を行ったうえで出力するようにしてもよい。負荷角センサ66から出力された測定負荷角δLは負荷角誤差算出部106に入力される。
【0129】
該負荷角誤差算出部106は前記目標負荷角δTから前記測定負荷角δLを減算し、負荷角誤差δEを得る。該負荷角誤差δEは電圧指令生成部107の電圧指令アキュムレータ112に入力される。
【0130】
電圧指令生成部107は電圧指令VCを生成する。電圧指令生成部107は、基準電圧決定部108、V/F基準電圧テーブル110、および電圧指令アキュムレータ112を備える。
【0131】
前記周波数指令FCは基準電圧決定部108に入力される。基準電圧決定部108は、V/F基準電圧テーブル110を参照して、基準電圧VBを決定する。該V/F基準電圧テーブル110は、あらかじめモータの負荷試験を実施して求めたものであり、図25に示したフォーマットで与えられる。基準電圧決定部108の出力の基準電圧VBは加減算記憶機能をもつ電圧指令アキュムレータ112に入力される。
【0132】
負荷角計測・制御ループに入るとき、該電圧指令アキュムレータ112は、目標負荷角決定部102およびPCWMエンコーダ116に対して、電圧指令VCの初期値として、基準電圧VBを出力する。以後、前記電圧指令アキュムレータ112は、負荷角誤差算出部106から負荷角誤差δEを受け取り、これに基づいて電圧指令VCを調節する。具体的には、前記負荷角誤差δEがプラスのときは、目標負荷角よりも測定負荷角が小さいことを意味するので、前記電圧指令VCを減少するように働く。一方、前記負荷角誤差δEがマイナスのときは、目標負荷角よりも測定負荷角が大きいことを意味するので、前記電圧指令VCを増加するように働く。
【0133】
一方、負荷角計測・制御ループから出るとき、該電圧指令アキュムレータ112が所持している値から前記基準電圧VBの値に向けて該所持値を更新してゆき、最後は前記基準電圧VBに一致するようにする。
【0134】
PWM信号生成部114は、PCWM信号エンコーダ116、PCWM信号デコーダ128、および正弦波360°関数テーブル120を備える。PWM信号生成部114は、例えば、LSIないしASICとして実現することができる。該PWM信号生成部114に対しては、論理部DC電圧138が供給される。該PWM信号生成部114は、周波数指令FCおよび電圧指令VCに基づいてPWM信号を生成する。
【0135】
ここで、PWM信号生成部114は、図1および図2に示したASIC06と同様に構成することができる。ただし、本実施形態では、図2に示したクロックCK1、CK3、CK4およびCK5を8倍にしている。すなわち、CK1を1.6μsに、CK3を409.6μsに、CK4を409.6μsに、CK5を29.4912msにしている。また、マシン周波数FMが周波数指令(コマンド周波数)FCに達するまでは、図6に示した処理を行い、負荷角制御は行わない。マシン周波数FMが周波数指令(コマンド周波数)FCに達した後は、電圧指令VCをマシン電圧VMとしてPCWM信号エンコーダ116に入力し、負荷角制御を行う。
【0136】
該PCWM信号エンコーダ116は前記周波数指令FCと前記電圧指令VCを入力として受信し、定められた周期の読出信号118で、図3に示した正弦波360°関数テーブル120に格納されたデータを書込信号122として受信する。該PCWM信号エンコーダ116は、前記書込信号122と前記周波数指令FCならびに前記電圧指令VCの情報を実時間処理することにより、符号化されたPCWM信号126を出力する。
【0137】
前記正弦波360°関数テーブル120の構成は図3の単位正弦関数表に示したとおりである。該表は720個の8ビットバイナリ信号によって成り立っている。720は6の倍数として選択された。本実施形態では、3相永久磁石式モータを用いているので、6の倍数とすることが好ましい。
【0138】
前記PCWM信号エンコーダ116内で、前記正弦波360°関数テーブル120の情報がどのように処理されるか示した図が、図4の瞬間振幅値を表す部分正弦関数値nf とパルス幅値pwである。インバータが円の原点でスタートした後、加速されるに従い動作点が外方へ移動しながら走査速度を増していき、最高速度に達したときは当該円の外周を当該動作点が周回することを示している。
【0139】
図4内の部分正弦関数値nf がどのようにしてパルス幅値pwに変換されるのかを示した図が、図5のパルス幅値pwと部分正弦関数値nf との関係である。ただし、上述のとおり、本実施形態では、CK1を1.6μsに、CK3を409.6μsにしている。
【0140】
図5の計算式に基づき、該図5の左側に示すように、単位PWMパルス間隔内の符号化された前記パルス幅値pwが得られ、これが前記PCWM信号126として出力される。
【0141】
前記PCWM信号デコーダ128は前記PCWM信号エンコーダ116より入力された前記PCWM信号126を実時間でPWM信号130として復号し、次段のインバータ(ゲートドライブ)132に出力する。前記PCWM信号デコーダ128の復号方法については、図10図14を参照して上述したとおりである。
【0142】
インバータ132は、PWM信号130に基づいてモータ駆動信号134を生成する。インバータ132は、図1および図2に示したゲートドライブ/パワートランジスタ回路08と同様に構成することができる。前記インバータ132の出力のモータ駆動信号134によって、負荷70に直結した3相永久磁石モータ64を駆動する。前記インバータ132には、主回路DC電圧140が供給される。
【0143】
制御器62は、永久磁石モータ64に電圧を印加しているのであるから、各時刻における電機子磁束の状態を把握している。制御器62のPCWM信号エンコーダ116はその出力の一つとして、電機子磁束の正弦波信号の大きさ(0以上か、あるいは、0未満か)を表すデューティ50%のオンオフ信号である電機子磁束位相信号δDを出力する。
【0144】
図24の場合、ホールセンサ136は前記3相永久磁石モータ64の固定子側に装着される(図23も参照されたい)。ホールセンサ136は、前記3相永久磁石モータ64の回転に伴う正弦波信号を検出し、それを前記ホールセンサ136内のコンパレータによって、当該信号の大きさ(0以上か、あるいは、0未満か)を表すデューティ50%のオンオフ信号であるホールセンサ位相信号δHに変換して、出力する。
【0145】
前記PCWM信号エンコーダ116は、前記書込信号122の発生のたびごとにオンオフする計数信号(読出信号)PCKを出力する。該計数信号PCKは、駆動周波数の大きさに関係なく、駆動周波数信号の一周期のあいだに、前記正弦波360°関数テーブル120に格納されたデータ数だけのパルスを出力する。これは駆動周波数の周期に同期した、第2の搬送波と言うことができる。前記電機子磁束位相信号δDと前記ホールセンサ位相信号δHとの間の位相差をデジタル計測するにあたり、該位相差が該駆動周波数信号の波長に対する割合を示す指標として有効な手段となる。
【0146】
前記負荷角センサ66は前記電機子磁束位相信号δDおよび前記ホールセンサ位相信号δHを入力として受け、両者の位相差を前記計数信号PCKによってカウントし、その結果のカウント数を前記測定負荷角δLとして出力する。
【0147】
このようにして、負荷角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数できる。すなわち、制御器62のインバータ132は、永久磁石モータ64に正弦波の電圧を印加している。また、その電圧の位相はn=720通りに表現される(図3および図4参照)。また、制御器62のPCWM信号エンコーダ116は、その電圧の一周期(一波長)の間に、負荷角センサ66に対してn=720個の計数信号PCK(パルス)を送信している。そして、負荷角センサ66は、電機子磁束と永久磁石磁束との間の位相差が上記パルスの何個分に当たるかを測定することによって負荷角を測定している。よって、負荷角センサ66は、負荷角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数できる。
【0148】
本実施形態では、電圧の位相をn=720通りに表現したが、nとして他の値(2以上の整数)をとることもできる。ここで、nの値としては、6以上が好ましい。特に、6以上の6の倍数が好ましい。
【0149】
また、本実施形態では、永久磁石磁束を検出する永久磁石磁束センサとして、ホールセンサを用いたが、他の永久磁石磁束センサを用いるようにしてもよい。
【0150】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、負荷角に基づいて制御を行ったが、本発明の第2実施形態では、力率角に基づいて制御を行う。
【0151】
図26は、本発明の第2実施形態における永久磁石モータ駆動システム(同期モータ駆動システム)を示す図であり、エアコンないしファン効率制御回路ブロック図である。本実施形態の永久磁石モータ駆動システム60は、制御器62、永久磁石モータ64、および力率角センサ67を備える。本実施形態では、負荷70として、例えば、エアコンないしファンを想定している。ユーザがホストCPU50に対して室温指令を入力すると、ホストCPU50は、永久磁石モータ駆動システム60の制御器62に対し、当該室温指令に応じた周波数指令を入力する。制御器62は、当該周波数指令に応じた駆動信号を生成し、永久磁石モータ64に供給する。永久磁石モータ64は、当該駆動信号に従って動作し、負荷70に対して速度及びトルクを供給する。負荷(エアコンないしファン)70は、当該速度及びトルクに応じて動作し、室温が変化する。
【0152】
本実施形態では、内側ループで電圧を制御することによって、力率角を制御している。すなわち、力率角センサ67は、永久磁石モータ64の力率角を測定し、それを制御器62に供給する。制御器62は、周波数指令および測定された力率角に基づいて駆動信号を生成する。ここで、永久磁石モータ64の回転数に対して、負荷の大小に応じて、永久磁石モータ64の効率が最適になる力率角の値(目標力率角)が存在するところ、制御器62は、供給される測定力率角を当該目標力率角に近づけるように、印加周波数とは独立に印加電圧を制御(調整)し、駆動信号を生成する。これにより、最適の効率を実現できる。
【0153】
また、本実施形態では、外側ループで周波数制御が行われている。すなわち、室温センサ80は、室温を測定し、それをホストCPU50に供給する。ホストCPU50は、供給される室温に応じて周波数指令を制御(調整)する。
【0154】
なお、負荷70としては、コンプレッサ(圧縮機)等を用いることも考えられる。
【0155】
図27は、モータの負荷試験を実施した結果得られる最適効率データテーブルの一例を示す図である。これについては、後でさらに説明する。
【0156】
本実施形態の力率角計測・制御はモータ駆動中に常時行うのでなく、モータが定常運転に入った、一定のモータ速度領域内で実施する。モータの加・減速時等の過渡状態のモータ駆動には、本実施形態が採用しているPCWM方式の特徴を最大限に活かして、開ループ制御を行う。また、本実施形態の力率角計測・制御の頻度は「分」単位の極端に長い周期の制御でよいが、力率角の検出時には後述のPCWM信号エンコーダから出力される計数信号PCKによる短周期の実時間処理が好ましい。
【0157】
つぎに実用化に好ましい24極 / 18スロットの外周回転子型モータについて、モータ力率角の測定方法について、実施の一例を示した図28および図29に基づき説明する。
【0158】
モータ力率角の測定は、モータの端子電圧(本実施形態では、3相の代表としてU相の端子電圧を用いる。)と、モータの端子電流(本実施形態では、3相の代表としてU相の端子電流を用いる。)との間の位相差を測定することにより行う。モータの端子とインバータの端子は接続されており、モータの端子電圧および端子電流は、インバータの端子電圧および端子電流とそれぞれ等しい。本実施形態では、電流センサ144がインバータの端子電流を検出することによって、モータの端子電流を検出している。モータ力率角の測定は、より具体的には、端子電圧と端子電流それぞれの正弦波をデューティ50% のオンオフ信号に変換し、変換後のお互いの信号の位相差を検出して行う。これにより振幅を測定するためのA/D変換器が不要となり、外来ノイズに強い信号処理回路が実現できる。また、PCWM方式で使用している一定周波数の第1の搬送波(後述のCK3)に対して、駆動周波数に応じてモータ印加電圧の正弦波の周期が変化するため、その正弦波周波数に同期した第2の搬送波(後述の計数信号PCK)を用いて、力率角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数する。
【0159】
図28および図29においては、端子電圧の正弦波を、端子電圧の大きさを表すオンオフ信号δVに変換している(変換は、後述のPCWM信号エンコーダ116において行う)。すなわち、端子電圧の大きさが0以上の場合にはオンとなり、端子電圧の大きさが0未満の場合にはオフとなる信号に変換している。また、端子電流の正弦波を、端子電流の大きさを表すオンオフ信号δIに変換している(変換は、後述の電流センサ144において行う)。すなわち、端子電流の大きさが0以上の場合にはオンとなり、端子電流の大きさが0未満の場合にはオフとなる信号に変換している。本実施形態では、δVおよびδIともに、デューティ50% のオンオフ信号にしている。
【0160】
図28は、電圧位相が電流位相より進む場合を示した図である。図28において、正弦波テーブル番地は図3の表番地を意味する。よって、駆動周波数の一波長(一周期)において、PCWM信号エンコーダは、計数信号として、720個のパルスを出力する。例えば、電圧位相と電流位相との間の位相差(測定力率角δp)が、デジタル計測した結果、上記パルス36個分であったとすると、これは波長の5%(=36/720)であり、測定力率角δpは18°(=360×0.05°)である。
【0161】
図29は、電圧位相が電流位相より遅れる場合を示した図である。図29において、正弦波テーブル番地は図3の表番地を意味する。よって、駆動周波数の一波長(一周期)において、PCWM信号エンコーダは、計数信号として、720個のパルスを出力する。例えば、電圧位相と電流位相との間の位相差(測定力率角δp)が、デジタル計測した結果、上記パルス36個分であったとすると、これは波長の5%(=36/720)であり、測定力率角δpは-18°(=-360×0.05°)である。
【0162】
駆動モータの回転数に対して、負荷の大小に応じて、効率が最適になる力率角の値が存在する。あらかじめモータの負荷試験を実施して、図27に示すテーブルの形にしておき、計数した力率角の値がテーブルに蓄えられた理想値になるように、モータ印加電圧を調整する、モデルフォロワ適応制御方式を採用する。図27に示す電圧指令VCと目標力率角δSとの関係は、一定の周波数範囲ごとに用意し、目標力率角テーブル105に記憶しておく。よって、目標力率角テーブル105には、永久磁石モータ64に印加する周波数(FC)および電圧(VC)に対して目標とすべき目標力率角(δS)が記憶されることになる。
【0163】
ファンやブロワの用途では図23に示したように、ホールセンサをモータ固定子に取り付けて用いることができる。しかし、エアコン圧縮機の用途では圧縮機内部の環境上の制約からホールセンサを取り付けることができない。そのため、図30に示す電流センサを用いる。
【0164】
つぎに、力率角制御の実施の一例を示した図30に基づき、さらに詳細な説明を以下に行う。図30は、図26に示した本実施形態に係る永久磁石モータ駆動システム60の構成を、より具体的に示したものである。
【0165】
本実施形態では、力率角センサ67および力率角制御部111が力率角計測・制御を行っているが、上述のとおり、当該力率角計測・制御はモータ駆動中に常時行うのでなく、モータが定常運転に入った、一定のモータ速度領域内で実施する。
【0166】
力率角制御部111は、周波数指令FCおよび測定力率角δPに基づいて電圧指令VCを生成し、力率角を制御する。
【0167】
図30の外部から与えられる周波数指令FCと、該図の内部で実時間演算される後述の電圧指令VCは、力率角制御部111の目標力率角決定部103に入力される。目標力率角決定部103は、目標力率角テーブル105を参照して、周波数指令FCおよび電圧指令VCに基づいて目標力率角δSを決定する。該目標力率角テーブル105は、効率が最適になる力率角の値を、あらかじめモータの負荷試験を実施して求めたものであり、前記図27に示したフォーマットで与えられる。
【0168】
力率角センサ67は、図30の場合、後述のPCWM信号エンコーダ 116から出力される電圧位相信号δVから、電流センサ 144から出力される電流位相信号δIを減算して、出力の測定力率角δpを得ている。
【0169】
前記図28および図29の方法に基づいて力率角測定を行う力率角センサ67は、測定力率角δPを出力する。すなわち、電圧位相信号(端子電圧の位相を表す信号)δVから、電流位相信号(端子電流の位相を表す信号)δIを減算して、出力の測定力率角δPを得る。該測定力率角δPは力率角誤差算出部109に対して出力される。
【0170】
該力率角誤差算出部109は前記目標力率角δSから前記測定力率角δPを減算し、力率角誤差δFを得る。該力率角誤差δFは電圧指令生成部107の電圧指令アキュムレータ112に入力される。
【0171】
電圧指令生成部107は電圧指令VCを生成する。電圧指令生成部107は、基準電圧決定部108、V/F基準電圧テーブル110、および電圧指令アキュムレータ112を備える。
【0172】
前記周波数指令FCは基準電圧決定部108に入力される。基準電圧決定部108は、V/F基準電圧テーブル110を参照して、基準電圧VBを決定する。該V/F基準電圧テーブル110は、あらかじめモータの負荷試験を実施して求めたものであり、図25に示したフォーマットで与えられる。基準電圧決定部108の出力の基準電圧VBは加減算記憶機能をもつ電圧指令アキュムレータ112に入力される。
【0173】
力率角計測・制御ループに入るとき、該電圧指令アキュムレータ112は、目標力率角決定部103およびPCWMエンコーダ116に対して、電圧指令VCの初期値として、基準電圧VBを出力する。以後、前記電圧指令アキュムレータ112は、力率角誤差算出部109から力率角誤差δFを受け取り、これに基づいて電圧指令VCを調節する。具体的には、前記力率角誤差δFがプラスのときは、電圧位相が電流位相より目標値を超えて遅れており、負荷が軽いことを意味するので、前記電圧指令VCを減少するように働く。一方、前記力率角誤差δFがマイナスのときは、電圧位相が電流位相より目標値を超えて進んでおり、負荷が重いことを意味するので、前記電圧指令VCを増加するように働く。
【0174】
一方、力率角計測・制御ループから出るとき、該電圧指令アキュムレータ112が所持している値から前記基準電圧VBの値に向けて該所持値を更新してゆき、最後は前記基準電圧VBに一致するようにする。
【0175】
PWM信号生成部114は、PCWM信号エンコーダ116、PCWM信号デコーダ128、および正弦波360°関数テーブル120を備える。PWM信号生成部114は、例えば、LSIないしASICとして実現することができる。該PWM信号生成部114に対しては、論理部DC電圧138が供給される。該PWM信号生成部114は、周波数指令FCおよび電圧指令VCに基づいてPWM信号を生成する。
【0176】
ここで、PWM信号生成部114は、図1および図2に示したASIC06と同様に構成することができる。ただし、本実施形態では、図2に示したクロックCK1、CK3、CK4およびCK5を8倍にしている。すなわち、CK1を1.6μsに、CK3を409.6μsに、CK4を409.6μsに、CK5を29.4912msにしている。また、マシン周波数FMが周波数指令(コマンド周波数)FCに達するまでは、図6に示した処理を行い、力率角制御は行わない。マシン周波数FMが周波数指令(コマンド周波数)FCに達した後は、電圧指令VCをマシン電圧VMとしてPCWM信号エンコーダ116に入力し、力率角制御を行う。
【0177】
該PCWM信号エンコーダ116は前記周波数指令FCと前記電圧指令VCを入力として受信し、定められた周期の読出信号118で、図3に示した正弦波360°関数テーブル120に格納されたデータを書込信号122として受信する。該PCWM信号エンコーダ116は、前記書込信号122と前記周波数指令FCならびに前記電圧指令VCの情報を実時間処理することにより、符号化されたPCWM信号126を出力する。
【0178】
前記正弦波360°関数テーブル120の構成は図3の単位正弦関数表に示したとおりである。該表は720個の8ビットバイナリ信号によって成り立っている。720は6の倍数として選択された。本実施形態では、3相永久磁石式モータを用いているので、6の倍数とすることが好ましい。
【0179】
前記PCWM信号エンコーダ116内で、前記正弦波360°関数テーブル120の情報がどのように処理されるか示した図が、図4の瞬間振幅値を表す部分正弦関数値nf とパルス幅値pwである。インバータが円の原点でスタートした後、加速されるに従い動作点が外方へ移動しながら走査速度を増していき、最高速度に達したときは当該円の外周を当該動作点が周回することを示している。
【0180】
図4内の部分正弦関数値nf がどのようにしてパルス幅値pwに変換されるのかを示した図が、図5のパルス幅値pwと部分正弦関数値nf との関係である。ただし、上述のとおり、本実施形態では、CK1を1.6μsに、CK3を409.6μsにしている。
【0181】
図5の計算式に基づき、該図5の左側に示すように、単位PWMパルス間隔内の符号化された前記パルス幅値pwが得られ、これが前記PCWM信号126として出力される。
【0182】
前記PCWM信号デコーダ128は前記PCWM信号エンコーダ116より入力された前記PCWM信号126を実時間でPWM信号130として復号し、次段のインバータ(ゲートドライブ)132に出力する。前記PCWM信号デコーダ128の復号方法については、図10図14を参照して上述したとおりである。
【0183】
インバータ132は、PWM信号130に基づいてモータ駆動信号134を生成する。インバータ132は、図1および図2に示したゲートドライブ/パワートランジスタ回路08と同様に構成することができる。前記インバータ132の出力のモータ駆動信号134によって、負荷70に直結した3相永久磁石モータ64を駆動する。前記インバータ132には、主回路DC電圧140が供給される。
【0184】
制御器62は、永久磁石モータ64に電圧を印加しているのであるから、各時刻における端子電圧の状態を把握している。制御器62のPCWM信号エンコーダ116はその出力の一つとして、端子電圧の正弦波信号の大きさ(0以上か、あるいは、0未満か)を表すデューティ50%のオンオフ信号である電圧位相信号δVを出力する。
【0185】
図30の場合、電流センサ144は前記制御器62のインバータ基板上に装着されており、前記3相永久磁石モータ64の駆動信号134とホール効果によって無接触で結合している。電流センサ144は、前記3相永久磁石モータ64の駆動電流(端子電流)信号を前記電流センサ144内のコンパレータによって、当該信号の大きさ(0以上か、あるいは、0未満か)を表すデューティ50%のオンオフ信号である電流位相信号δIに変換して、出力する。
【0186】
前記PCWM信号エンコーダ116は、前記書込信号122の発生のたびごとにオンオフする計数信号(読出信号)PCKを出力する。該計数信号PCKは、駆動周波数の大きさに関係なく、駆動周波数信号の一周期のあいだに、前記正弦波360°関数テーブル120に格納されたデータ数だけのパルスを出力する。これは駆動周波数の周期に同期した、第2の搬送波と言うことができる。前記電圧位相信号δVと前記電流位相信号δIとの間の位相差をデジタル計測するにあたり、該位相差が該駆動周波数信号の波長に対する割合を示す指標として有効な手段となる。
【0187】
前記力率角センサ67は前記電圧位相信号δVおよび前記電流位相信号δIを入力として受け、両者の位相差を前記計数信号PCKによってカウントし、その結果のカウント数を前記測定力率角δPとして出力する。
【0188】
このようにして、力率角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数できる。すなわち、制御器62のインバータ132は、永久磁石モータ64に正弦波の電圧を印加している。また、その電圧の位相はn=720通りに表現される(図3および図4参照)。また、制御器62のPCWM信号エンコーダ116は、その電圧の一周期(一波長)の間に、力率角センサ67に対してn=720個の計数信号PCK(パルス)を送信している。そして、力率角センサ67は、端子電圧と端子電流との間の位相差が上記パルスの何個分に当たるかを測定することによって力率角を測定している。よって、力率角センサ67は、力率角の大きさが現在駆動周波数における波長の何パーセントになるかをデジタル的に計数できる。
【0189】
本実施形態では、電圧の位相をn=720通りに表現したが、nとして他の値(2以上の整数)をとることもできる。ここで、nの値としては、6以上が好ましい。特に、6以上の6の倍数が好ましい。
【0190】
(その他)
上述の実施形態では、同期モータとして、永久磁石モータ(3相永久磁石モータ)を用いたが、本発明は他の同期モータにも適用することができる。また、モータとして、アウターロータ型モータを用いたが、本発明はインナーロータ型モータにも適用することができる。
【0191】
また、この技術分野を熟知している当業者は、本発明の基本となる原理を逸脱することなく、上述の実施形態の細部に多くの変更が加え得ることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ決定される。
図1
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