(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ハイエントロピー正極材料、その製造方法および応用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20240411BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240411BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240411BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240411BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240411BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240411BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240411BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/485
H01M10/052
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022511376
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 CN2021078398
(87)【国際公開番号】W WO2022170648
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】202110183314.X
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510173476
【氏名又は名称】中国科学院▲寧▼波材料技▲術▼▲与▼工程研究所
【氏名又は名称原語表記】NINGBO INSTITUTE OF MATERIALS TECHNOLOGY & ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.519 Zhuangshi Avenue,Zhenhai District,Ningbo,Zhejiang,315201 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲顧▼ ▲慶▼文
(72)【発明者】
【氏名】▲賽▼喜 雅勒▲図▼
(72)【発明者】
【氏名】邱 ▲報▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 兆平
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111525104(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111435739(CN,A)
【文献】国際公開第2020/012739(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110350185(CN,A)
【文献】特開2019-029343(JP,A)
【文献】特開2015-015244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0079471(US,A1)
【文献】特開2002-216759(JP,A)
【文献】特開2016-071967(JP,A)
【文献】特開2014-222582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、C01G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に示される一般式を有する、ことを特徴とするハイエントロピー正極材料であって、
Li
1+aA
xB
yC
zD
bO
2M
cN
d 式(I)
(式(I)中、Aは+2価金属元素であり、Bは+3価金属元素であり、Cは+4価金属元素であり、Dは+5価金属元素であり、Mは+7価元素であり、Nは+8価元素であり、0≦a<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<b<1、0<c<1、d>0)
前記+2価金属元素はNi、または、NiおよびMgであり、前記+3価金属元素はCoおよびAlであり、前記+4価金属元素はMnおよびTi、または、MnおよびZrであり、前記+5価金属元素はNbであり、前記+7価元素はFであり、前記+8価元素は格子酸素であり、
前記ハイエントロピー正極材料に含まれる酸素元素は、+6価酸素および+8価酸素の双方を持ち、
次のa)~c)のステップを含む方法で製造されることを特徴とするハイエントロピー正極材料。
a
)共沈殿により合成された懸濁液を40℃~60℃の温水で洗浄し、90℃~130℃で8~14時間乾燥させ、
前記A、前記B、前記C、前記D及び前記Mの一種又は複数種を含有する前駆体を得るステップ
であって、前記共沈殿の反応温度が50℃~70℃であり、pHが11~12であり、反応時間が15h~60hである、ステップと、
b)ステップa)で得られた前記
前駆体とリチウムを含む化合物と混合し、同時に前記A、前記B、前記C、前記D及び前記Mの一種又は複数種を含有する酸化物を加えて混合した後、温度700℃~900℃、時間10h~20hの条件で焼結し、
前記ハイエントロピー正極材料の中間体を得るステップと、
c)ステップb)で得られた
前記ハイエントロピー正極材料の中間体を表面処理し、
アルミナによりコーティングし、
前記式(I)で表される前記ハイエントロピー正極材料を得るステップ
。
【請求項2】
正極材料、負極材料および電解質を含む高比エネルギーリチウム電池であって、
前記正極材料が請求項1に記載のハイエントロピー正極材料である、ことを特徴とする高比エネルギーリチウム電池。
【請求項3】
前記負極材料は、黒鉛、シリコンカーボン材料、スズカーボン材料、赤リン、チタン酸リチウム、白リン、リチウム金属負極およびリチウムカーボン負極材料のうちの一種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の高比エネルギーリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、発明の名称が「ハイエントロピー正極材料、その製造方法および応用」である、2021年2月10日に中国特許庁へ提出された中国特許出願202110183314.Xに基づく優先権を主張し、その全内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウム電池の技術分野に関し、より具体的には、ハイエントロピー正極材料、その製造方法および応用に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、スマートフォン、タブレット、デジタルブレスレットなどのさまざまなコンシューマエレクトロニクス製品の日々の変化、省エネで環境にやさしい電動車両の市場の急速な増加、およびエネルギー貯蔵電池の登場に伴い、これらの製品の電源としてのリチウムイオン電池の市場は、急速に発展している。リチウムイオン電池は、環境に優しい、高エネルギー密度および長サイクル寿命などの特徴を有する二次電池である。リチウムイオン電池の使用範囲の拡大およびそれへの依存度の増加に伴い、リチウムイオン電池の様々な特性指標、特に、エネルギー密度と安全性能に対する要求もまずまず高くなってきた。エネルギー密度の観点から、高エネルギー密度のリチウムイオン電池は、高比エネルギーの正・負極材料を必要とする。従来の高比エネルギーの正極用材料システムでは、リチウムイオン電池の正極材料、例えば高ニッケル材料やリチウムリッチマンガン系正極材料が高い比容量を持つので注目を集めているが、それらの材料は、安全性、サイクル中のガスの発生やサイクル安定性が悪いという問題を招くことがよくある。
【0004】
高比エネルギー電池システムのサイクル安定性が悪いという問題、特に全電池におけるガス発生の問題を解決するために、近年、多くの研究が国内外で行われ、正極材料へのドーピング、表面コーティングなどの界面処理手段がある。しかし、ほとんどの作業は、材料からの酸素放出時間を遅らせることにすぎず、材料のサイクル中のガス発生の問題を根本的に解決することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑みて、本発明は、従来の正極材料より高い比放電容量を持ち、サイクル中の構造が安定であり、酸素を発生しないハイエントロピー正極材料、その製造方法および応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記式(I)に示される一般式を有するハイエントロピー正極材料を提供する。
Li1+aAxByCzDbO2McNd 式(I)
(式(I)中、Aは+2価金属元素であり、Bは+3価金属元素であり、Cは+4価金属元素であり、Dは+5価金属元素であり、Mは+7価元素であり、Nは+8価元素であり、0≦a<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<b<1、0<c<1、d>0)
【0007】
好ましくは、前記+2価金属元素はNi、Be、Mg、Ca、SrおよびBaのうちの一種又は複数種を含み、前記+3価金属元素はCoおよびAlのうちの一種又は複数種を含み、前記+4価金属元素はMn、Al、Ti及びZrのうちの一種又は複数種を含み、前記+5価金属元素はNb、V及びTのうちの一種又は複数種を含み、前記+7価元素はF及びClのうちの一種又は複数種を含む。
【0008】
好ましくは、前記+8価元素が格子酸素である。
【0009】
好ましくは、前記ハイエントロピー正極材料に含まれる酸素元素は、同時に+6価酸素および+8価酸素を持つ。
【0010】
本発明は、さらに、上記の技術案にかかるハイエントロピー正極材料の製造方法であって、
a)共沈殿によりA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する前駆体を合成するステップと、
b)ステップa)で得られた前駆体をリチウムと混合し、同時にA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する酸化物を加えて混合した後、焼結し、Li1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を得るステップと、
c)ステップb)で得られたLi1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を表面処理し、コーティングし、ハイエントロピー正極材料を得るステップと、を含む製造方法、を提供する。
【0011】
好ましくは、ステップa)における前記共沈殿の反応温度が50℃~70℃であり、pHが11~12であり、反応時間が15h~60hである。
【0012】
好ましくは、ステップb)における前記焼結の温度が700℃~900℃であり、時間が10h~20hである。
【0013】
好ましくは、前記ステップa)は、さらに、共沈殿により合成された懸濁液を40℃~60℃の温水で洗浄し、90℃~130℃で8~14時間乾燥させ、前躯体を得ることを含む。
【0014】
本発明は、さらに、正極材料、負極材料および電解質を含む高比エネルギーリチウム電池であって、前記正極材料が前記技術案に記載のハイエントロピー正極材料である高比エネルギーリチウム電池を提供する。
【0015】
好ましくは、前記負極材料は、黒鉛、シリコンカーボン材料、スズカーボン材料、赤リン、チタン酸リチウム、白リン、リチウム金属負極およびリチウムカーボン負極材料のうちの一種又は複数種を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、Li1+aAxByCzDbO2McNd(ただし、Aは+2価金属元素であり、Bは+3価金属元素であり、Cは+4価金属元素であり、Dは+5価金属元素であり、Mは+7価元素であり、Nは+8価元素であり、0≦a<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<b<1、0<c<1、d>0)で示される一般式を有するハイエントロピー正極材料、その製造方法および応用を提供する。本発明は、材料自体の構造から出発し、従来の正極材料と比較して、高い比放電容量を有すると同時に、サイクル中に構造が安定であり、酸素ガスの発生がない上記のハイエントロピー正極材料を設計することで、高容量の正極材料を高比エネルギー長寿命リチウム電池システムに適用することが可能になり、高容量の正極材料の充放電サイクル中の構造安定性(ガスの発生)の問題を根本的に解決する。
【0017】
また、本発明により提供される製造方法は、プロセスが簡単であり、条件を制御しやすく、安定的な製品を得ることができ、幅広い応用の見通しを有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1の半電池の初回充放電のデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の技術案を、本発明の実施例に合わせてより明確且つ十分に説明するが、述べる実施形態は、本発明の実施形態の一部だけであり、すべての実施形態ではないことが明らかである。当業者が本発明における実施形態に基づき、創造的な労働なしに得た他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【0020】
本発明は下記式(I)に示される一般式を有するハイエントロピー正極材料を提供する。
Li1+aAxByCzDbO2McNd 式(I)
(式(I)中、Aは+2価金属元素であり、Bは+3価金属元素であり、Cは+4価金属元素であり、Dは+5価金属元素であり、Mは+7価元素であり、Nは+8価元素であり、0≦a<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<b<1、0<c<1、d>0)
【0021】
本発明においては、前記ハイエントロピー正極材料は、ハイエントロピー特性を有する正極材料であり、具体的には、高容量、長寿命、高安全性(主に、電池のサイクル中に自然発火などの安全性問題が起こらないことに反映される)を兼ね備えるリチウム電池正極材料である。現在、従来技術における高容量の正極材料は、充放電サイクル中に構造安定性が悪い問題がある。例えば、リチウムリッチマンガン系正極材料は、その放電容量が300mAh/gと高いが、サイクル中に構造が変化し、性能が悪い。高比エネルギー電池システムのサイクル安定性が悪い、特に全電池におけるガス発生の問題を解決するために、近年、多くの研究が国内外でも行われ、正極材料へのドーピング、表面コーティングなどの界面処理手段がある。しかし、ほとんどの作業は、材料からの酸素放出時間を遅らせることにすぎず、材料のサイクル中のガス発生の問題を根本的に解決することができない。そこで、本発明は、材料自体の構造から出発し、従来の正極材料と比較して、高い比放電容量を有すると同時に、サイクル中に構造が安定であり、酸素ガスの発生がない上記のハイエントロピー正極材料を設計することで、高容量の正極材料を高比エネルギー長寿命リチウム電池システムに適用することが可能になる。
【0022】
本発明においては、前記ハイエントロピー正極材料はLi1+aAxByCzDbO2McNd(ただし、Aは+2価金属元素であり、Bは+3価金属元素であり、Cは+4価金属元素であり、Dは+5価金属元素であり、Mは+7価元素であり、Nは+8価元素であり、0≦a<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<b<1、0<c<1、d>0)で示される一般式を有する。これにより、前記ハイエントロピー正極材料は+1価リチウム、および+2価、+3価、+4価、+5価、+6価(即ち、-2価)の酸素、+7価(即-1価)、+8価(即ち、0価)の全ての元素を含むことが分かる。
【0023】
本発明においては、前記+2価金属元素はNi、Be、Mg、Ca、SrおよびBaのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、前記+3価金属元素はCoおよびAlのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、前記+4価金属元素はMn、Al、Ti及びZrのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、前記+5価金属元素はNb、V及びTのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、前記+7価(即ち、-1価)の元素はF及びClのうちの一種又は複数種を含むことが好ましい。
【0024】
本発明においては、前記+8価(即ち、0価)元素が格子酸素である。これにより、前記ハイエントロピー正極材料に含まれる酸素は同時に+6価(即ち、-2価)の酸素及び+8価(即ち、0価)の酸素を持つことがわかる。本発明においては、前記ハイエントロピー正極材料は、電池充電中に以下の特徴を有する:上記の金属元素が順に活性化される同時に、材料中の格子酸素も活性化されることで、陰イオンおよび陽イオンが完全に活性化され、高い比放電容量を持ち、同時に、上記の異なる価数の要素が互いに制約され、材料がより安定な構造を持ち、高容量、高安全性、長寿命などの特性を兼ね備えるようになり、また、0価の電気的に中性の酸素は、材料が4.45V以上の高電圧下で格子酸素の電気化学的活性を発揮し、高容量を示す。
【0025】
本発明は、さらに、上記の技術案に記載のハイエントロピー正極材料の製造方法であって、
a)共沈殿によりA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する前駆体を合成するステップと、
b)ステップa)で得られた前駆体をリチウムと混合し、同時にA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する酸化物を加えて混合した後、焼結し、Li1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を得るステップと、
c)ステップb)で得られたLi1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を表面処理し、コーティングし、ハイエントロピー正極材料を得るステップとを含むハイエントロピー正極材料の製造方法、を提供する。
【0026】
本発明では、まず、共沈殿によりA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する前駆体を合成する。本発明では、前記共沈殿の過程は、特に限定されず、当業者によく知られている反応釜において共沈殿反応を行う手段を採用すればよい。本発明においては、前記共沈殿の反応温度が好ましくは50℃~70℃であり、より好ましくは55℃~65℃であり、前記共沈殿のpHが好ましくは11~12であり、より好ましくは11.3~11.45であり、前記共沈殿の反応時間が好ましくは15h~60hであり、より好ましくは20h~55hである。
【0027】
本発明の好適な実施例においては、前記A、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する前駆体がNi0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6(OH)2前駆体である。本発明の別の好適な実施例においては、前記A、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する前駆体がNi0.1Co0.1Mn0.4(OH)2前駆体である。本発明の別の好適な実施例においては、前記A、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する前駆体がNi0.1Co0.1Mn0.4(OH)2前駆体である。上記の共沈殿は、上記の一般化学式に従い、モル比で、各原料を選択するか、又は各原料の溶液を調製することにより行えばよく、本発明はこれに特別な制限がない。
【0028】
本発明においては、好ましくは前記ステップa)は、さらに、共沈殿により合成された懸濁液を40℃~60℃の温水で洗浄し、90℃~130℃で8~14時間乾燥させ、前躯体を得ることを含む。
【0029】
より好ましくは、共沈殿により合成された懸濁液を45℃~50℃の温水で洗浄し、100℃~120℃で10~12時間乾燥させ、前躯体を得ることを含む。
【0030】
本発明では、前駆体を得た後、得られた前駆体をリチウムと混合し、同時にA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する酸化物を加えて混合した後、焼結し、Li1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を得る。本発明においては、前記リチウムおよびそれとともに加えたA、B、C、D、Mの一種又は複数種を含有する酸化物は、上記の中間体の一般化学式に従い、モル比で各原料を選択するか、又は各原料の溶液を調製することにより混合すればよく、本発明はこれに特別な制限がない。
【0031】
本発明においては、前記焼結の温度が好ましくは700℃~900℃であり、より好ましくは780℃~835℃であり、前記焼結の時間が好ましくは10h~20hであり、より好ましくは15h~18hである。
【0032】
本発明は、前記Li1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を得た後、得られたLi1+aAxByCzDbO2McNdで表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料の中間体を表面処理し、コーティングし、ハイエントロピー正極材料を得る。本発明は、前記表面処理のプロセスに特別な制限がなく、当業者によく知られている表面酸処理より材料表面で残っているアルカリを洗い流す技術案を採用すればよい。
【0033】
本発明においては、前記コーティングは、当業者によく知られている表面アルミナコーティングを好ましくは採用すればよい。
【0034】
本発明により提供される製造方法は、プロセスが簡単であり、条件を制御しやすく、安定的な製品を得ることができ、幅広い応用の見通しを有する。
【0035】
本発明は、さらに、正極材料、負極材料及び電解質を含む高比エネルギーリチウム電池であって、前記正極材料は上記の技術案に記載のハイエントロピー正極材料である高比エネルギーリチウム電池を提供する。
【0036】
本発明においては、前記負極材料は、好ましくは、黒鉛(天然黒鉛及び人工黒鉛を含む)、シリコンカーボン材料、スズカーボン材料、赤リン、チタン酸リチウム、白リン、リチウム金属負極およびリチウムカーボン負極材料のうちの一種又は複数種を含む。これにより、上記のハイエントロピー正極材料と高比エネルギーパワーバッテリーを構成する。
【0037】
本発明においては、前記電解質は、液体電解液、ゲル電解質及び固体電解質のうちの一種又は複数種を含む。本発明は、その由来に特別な制限がない。
【0038】
本発明においては、前記高比エネルギーリチウム電池は、好ましくは、さらにセパレータを含む。本発明は、前記セパレータに特別な制限がなく、当業者によく知られているリチウム電池の製造に用いられるセパレータを採用すればよい。
【0039】
本発明の好適な実施例においては、前記高比エネルギーリチウム電池がリチウムイオン電池である。本発明では、上記のハイエントロピー正極材料を、従来のリチウムイオン電池の負極材料(例えば、黒鉛、シリコンカーボン複合負極材料、スズカーボン複合負極材料、赤リン、チタン酸リチウム、白リンなどの負極材料のうちの一種又は複数種)、セパレータ、電解液などと組み合わせてリチウムイオン電池を組み立てることで、本発明により提供されるハイエントロピー正極材料のリチウムイオン電池への適用が実現される。
【0040】
本発明の別の好適な実施例においては、前記高比エネルギーリチウム電池がリチウム金属電池である。本発明では、上記のハイエントロピー正極材料を、リチウム金属負極(例えば、リチウムシート、リチウムバンド、リチウム箔のうちの一種又は複数種)、セパレータ、電解液などと組み合わせて高エネルギー密度リチウム金属電池を組み立てることで、本発明により提供されるハイエントロピー正極材料のリチウム金属電池への適用が実現される。
【0041】
本発明の別の好適な実施例においては、前記高比エネルギーリチウム電池が固体リチウムイオン電池である。本発明では、上記のハイエントロピー正極材料を、従来のリチウムイオン電池負極材料(例えば、黒鉛、シリコンカーボン複合負極材料、スズカーボン複合負極材料、赤リン、チタン酸リチウム、白リンなどの負極材料のうちの一種又は複数種)、固体電解質などと組み合わせて固体リチウムイオン電池を組み立てることで、本発明により提供されるハイエントロピー正極材料の固体リチウム金属電池への適用が実現される。
【0042】
本発明の別の好適な実施例においては、前記高比エネルギーリチウム電池は固体リチウム金属電池である。本発明では、上記のハイエントロピー正極材料を、リチウム金属負極(例えば、リチウムシート、リチウムバンド、リチウム箔のうちの一種又は複数種)、固体電解質などを組み合わせて高エネルギー密度リチウム金属電池を組み立てることで、本発明により提供されるハイエントロピー正極材料の固体リチウム金属電池への適用が実現される。
【0043】
本発明は一般式Li1+aAxByCzDbO2McNd(ただし、Aは+2価金属元素であり、Bは+3価金属元素であり、Cは+4価金属元素であり、Dは+5価金属元素であり、Mは+7価元素であり、Nは+8価元素であり、0≦a<1、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<b<1、0<c<1、d>0)を有するハイエントロピー正極材料、、その製造方法および応用を提供する。本発明は、材料自体の構造から出発し、従来の正極材料と比較して、高い比放電容量を有すると同時に、サイクル中に構造が安定であり、酸素ガスの発生がない上記のハイエントロピー正極材料を設計することで、高容量の正極材料を高比エネルギー長寿命リチウム電池システムに適用することが可能になり、高容量の正極材料の充放電サイクル中の構造安定性(ガスの発生)の問題を根本的に解決する。
【0044】
また、本発明により提供される製造方法は、プロセスが簡単であり、条件が制御しやすく、安定的な製品を得ることができ、幅広い応用の見通しを有する。
【0045】
本発明をさらに説明するために、以下、下記の実施例より詳細に説明する。下記の実施例に用いられる試薬は、すべて市販される。
【実施例】
【0046】
実施例1
(1)共沈法によりNi0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6(OH)2で表される前駆体を合成し、モル比8:8:8:8:60の割合で、モル濃度2mol/LのNiSO4と、CoSO4と、NaAlO2と、チタン酸テトラブチルと、MnSO4との混合溶液を調製し、モル濃度1.2mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、モル濃度5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製し、体積比2:0.5:1で、用意された混合溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ反応釜に投入し、共沈殿反応を行い、反応中に反応釜の温度を55℃に制御し、反応系のpHを11.3程度に制御し、20時間反応させた後、Ni0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6(OH)2の懸濁液を得た。Ni0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6(OH)2の懸濁液を45℃の温水で洗浄し、100℃で10時間乾燥させた後、Ni0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6(OH)2で表される前躯体を得た。
【0047】
(2)上記の材料の前駆体を、Li1.2Ni0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6Nb0.08O2+δF0.08の割合で、炭酸リチウム、LiF、五酸化ニオブと混合し、780℃で、16時間焼結し、ハイエントロピー正極材料を得た。
【0048】
(3)上記のLi1.2Ni0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6Nb0.08O2+δF0.08で表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料を表面酸処理し、材料表面に残っているアルカリを洗い流し、表面をアルミナでコーティングし、安定的なハイエントロピーリチウム電池正極材料Li1.2Ni0.08Co0.08Al0.08Ti0.08Mn0.6Nb0.08O2+δF0.08を得た。
【0049】
(4)上記のハイエントロピーリチウム電池正極材料を、負極材料の黒鉛、セパレータ、電解液などと組み合わせ、リチウムイオン電池を作製した。
【0050】
上記の材料をXPSで検出したところ、Niは材料システムで+2価を示し、Coは材料システムで+3価を示し、Alは材料システムで+3価を示し、Tiは材料システムで+4価を示し、Mnは材料システムで+4価を示し、Nbは材料システムで+5価を示し、Fは材料システムで-1価を示し、Oは材料システムで-2価及び0価の電気的に中性の酸素を示した。その材料の半電池の初回効率が93%に達し、放電容量が310mAh/gに達した。電気化学的データを
図1に示した。全電池負極黒鉛は2.8-4.55Vの電圧範囲で、1000サイクルで容量維持率が92%であった。高比エネルギーパワーバッテリーの基本的なニーズに適する。
【0051】
実施例2
(1)共沈法によりNi0.1Co0.1Mn0.4(OH)2で表される前駆体を合成し、モル比1:1:4の割合で、モル濃度2mol/LのNiSO4と、CoSO4と、MnSO4との混合溶液を調製し、モル濃度1.2mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、モル濃度4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製し、体積比2:2:1.5で、用意された混合溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ反応釜に投入し、共沈殿反応を行い、反応中に反応釜の温度を65℃に制御し、反応系のpHを11.45程度に制御し、28時間反応させた後、Ni0.1Co0.1Mn0.4(OH)2の懸濁液を得た。Ni0.1Co0.1Mn0.4(OH)2の懸濁液を50℃の温水で洗浄し、120℃で12時間乾燥させた後、Ni0.1Co0.1Mn0.4(OH)2前躯体を得た。
【0052】
(2)上記の材料の前駆体を、Li1.2Ni0.1Co0.1Al0.1Ti0.1Mn0.4Nb0.1O2+δF0.1の割合で、炭酸リチウム、ナノアルミナ、ナノチタニア、LiF、五酸化ニオブと混合し、815℃で、18時間焼結し、ハイエントロピー正極材料を得た。
【0053】
(3)上記のLi1.2Ni0.1Co0.1Al0.1Ti0.1Mn0.4Nb0.1O2+δF0.1で表されるハイエントロピーリチウム電池正極材料を表面酸処理し、材料表面に残っているアルカリを洗い流し、表面をアルミナでコーティングし、安定的なハイエントロピーリチウム電池正極材料Li1.2Ni0.1Co0.1Al0.1Ti0.1Mn0.4Nb0.1O2+δF0.1を得た。
【0054】
(4)上記のハイエントロピーリチウム電池正極材料を、シリコンカーボン-黒鉛複合負極材料、セパレータ、電解液などと組み合わせ、リチウムイオン電池を作製した。
【0055】
上記の材料をXPSで検出したところ、Niは材料システムで+2価を示し、Coは材料システムで+3価を示し、Alは材料システムで+3価を示し、Tiは材料システムで+4価を示し、Mnは材料システムで+4価を示し、Nbは材料システムで+5価を示し、Fは材料システムで-1価を示し、Oは材料システムで-2価及び0価の電気的に中性の酸素を示した。その材料の半電池の初回効率が94%に達し、放電容量が280mAh/gに達し、全電池負極の黒鉛は2.8-4.65Vの電圧範囲で、1000サイクルで容量維持率が94%であった。高比エネルギーパワーバッテリーの基本的なニーズに適する。
【0056】
実施例3
(1)共沈法によりNi0.1Co0.1Mn0.4(OH)2で表される前駆体を合成し、モル比1:1:4の割合で、モル濃度2mol/LのNiSO4と、CoSO4と、MnSO4との混合溶液を調製し、モル濃度1.2mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、モル濃度4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製し、体積比2:2:1.5で、用意された混合溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ反応釜に投入し、共沈殿反応を行い、反応中に反応釜の温度を62℃に制御し、反応系のpHを11.45程度に制御し、55時間反応させた後、Ni0.1Co0.1Mn0.4(OH)2の懸濁液を得た。Ni0.1Co0.1Mn0.4(OH)2の懸濁液を45℃の温水で洗浄し、110℃で10時間乾燥させた後、Ni0.1Co0.1Mn0.4(OH)2で表される前躯体を得た。
【0057】
(2)上記の材料の前駆体を、Li1.2Ni0.1Mg0.05Co0.1Al0.1Zr0.1Mn0.35Nb0.1O2+δF0.1の割合で、炭酸リチウム、ナノ二酸化マグネシウム、ナノアルミナ、ナノジルコニア、LiF、五酸化ニオブと混合し、835℃で、15時間焼結し、ハイエントロピー正極材料を得た。
【0058】
(3)上記のLi1.2Ni0.1Mg0.05Co0.1Al0.1Zr0.1Mn0.35Nb0.1O2+δF0.1で表されるハイエントロピーリチウムハイエントロピーリチウム電池正極材料を表面酸処理し、材料表面に残っているアルカリを洗い流し、表面をアルミナでコーティングし、安定的なハイエントロピーリチウム電池正極材料Li1.2Ni0.1Mg0.05Co0.1Al0.1Zr0.1Mn0.35Nb0.1O2+δF0.1を得た。
【0059】
(4)上記のハイエントロピーリチウム電池正極材料を、リチウム金属の負極材料、セパレータ、電解液と組み合わせ、リチウム金属電池を作製した。
【0060】
上記の材料をXPSで検出したところ、Niは材料システムで+2価を示し、Mgは材料システムで+2価を示し、Coは材料システムで+3価を示し、Alは材料システムで+3価を示し、Zrは材料システムで+4価を示し、Mnは材料システムで+4価を示し、Nbは材料システムで+5価を示し、Fは材料システムで-1価を示し、Oは材料システムで-2価及び0価電気的に中性の酸素を示した。その材料の半電池の初回効率が94%に達し、放電容量が280mAh/gに達し、全電池の金属リチウムの負極エネルギー密度が500Wh/Kgに達し、2.8-4.65Vの電圧範囲で、1000サイクルで容量維持率が95%であった。高比エネルギーパワーバッテリーの基本的なニーズに適する。
【0061】
以上の記載は本発明の好適な実施形態に過ぎなく、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、若干の改善および修正を行うことも可能であり、これらの改善および修正も本発明の保護範囲に含まれたものとみなされることに留意する必要がある。