(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】表面処理装置および半導体装置の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240411BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/60 311T
(21)【出願番号】P 2022554990
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2020037776
(87)【国際公開番号】W WO2022074719
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000146722
【氏名又は名称】ヤマハロボティクスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 広
(72)【発明者】
【氏名】李 瑾
(72)【発明者】
【氏名】高野 徹朗
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155002(WO,A1)
【文献】特開2015-211130(JP,A)
【文献】特開2018-201022(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/00
H01L 21/02
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物に水素結合を利用して接合される対象物の接合面に、前記接合に先立って、親水化処理を施す表面処理装置であって、
1以上の前記対象物の接合面と反対の面を支持する支持ベースと、
前記支持ベースで支持された前記対象物の接合面に、前記接合面の温度に対応する飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を有した加湿空気を吹き付けることで、前記接合面に結露を一時的に発生させる吹付ノズルと、
を備えることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理装置であって、さらに、
前記支持ベースは、前記接合面の温度を、周辺雰囲気の温度より低く、かつ、前記周辺雰囲気の水蒸気圧の露点温度よりも高い温度に、冷却する冷却器を備える、ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の表面処理装置であって、
1以上の前記対象物は、その周囲を枠部材によって取り囲まれた状態で前記支持ベースに載置され、
前記冷却器は、1以上の前記対象物を冷却し、前記枠部材は冷却しない、位置およびサイズである、
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の表面処理装置であって、
前記吹付ノズルは、前記加湿空気の吹き付けと並行して、前記支持ベースに対して移動可能である、ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の表面処理装置であって、
前記吹付ノズルは、1以上の前記対象物全てをカバーする吹き付け面積を有する、ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の表面処理装置であって、
前記対象物は、半導体集積回路であるチップまたは当該チップが接合されるウエハである、ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項7】
ウエハに半導体集積回路であるチップを、水素結合を利用して接合することで半導体装置を製造する半導体装置の製造装置であって、
前記チップを、前記ウエハまたは前記ウエハに実装された他のチップの上面に接合するボンディングユニットと、
前記接合に先立って、前記チップまたは前記ウエハである対象物の接合面に親水化処理を施す1以上の表面処理装置と、
を備え、前記表面処理装置は、
1以上の前記対象物の接合面と反対の面を支持する支持ベースと、
前記支持ベースで支持された前記対象物の接合面に、前記接合面の温度に対応する飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を有した加湿空気を吹き付けることで、前記接合面に結露を一時的に発生させる吹付ノズルと、
を備えることを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記吹付ノズルは、前記対象物に対して移動可能である、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、被接合物に水素結合を利用して接合される対象物の接合面に、当該接合に先立って、親水化処理を施す表面処理装置、および、当該表面処理装置を具備した半導体装置の製造装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素基結合を利用して、対象物を被接合物に接合する技術が提案されている。例えば、二つのウエハを接合する際、あるいは、ウエハに半導体集積回路であるチップを接合する際に、水素結合を利用することが、従来から提案されている。
【0003】
特許文献1には、ウエハ同士を接合する接合装置であって、両者を接合する前に、各ウエハの表面を活性化させる活性化処理と、各ウエハの表面を親水化する親水化処理と、を施す接合装置が開示されている。親水化処理では、ウエハの上側に設けられたノズルを用いて、活性化されたウエハに、液状の純水を供給し、これにより、ウエハの表面にOH基を付着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、純水を液体状態のまま対象物(すなわちウエハ)に供給しているため、対象物の表面には、液滴が不均一に残存しやすかった。その結果、ウエハ同士を接合した後の接合境界面にボイド(マイクロボイド)が発生するおそれがあった。すなわち、特許文献1では、親水化処理が施されたウエハ同士を水素結合により仮接合し、その後、加熱処理で本接合している。この加熱処理の際、接合境界面に多量の水分子がたまっていると、残存していた水分子が接合界面から急激に排除され、ボイド(マイクロボイド)が生じる。
【0006】
そこで、一部では、対象物を高湿度な環境に置くことで、OH基を対象物の表面に付着させることも考えられる。かかる形態によれば、液滴は、生じないため、水素結合後の接合境界面に多量の水分子が残存することを防止できる。しかし、この場合、気体状の水分子を対象物表面に接触させているに過ぎず、OH基と対象物表面との結合が生じにくかった。そのため、対象物の表面にOH基を充分にかつ確実に付着させるためには、予め当該表面を、プラズマ処理等で活性化させる必要があり、全体的な処理が複雑化していた。
【0007】
そこで、本明細書では、対象物の表面に適量のOH基を容易に付着できる表面処理装置および当該表面処理装置を具備した半導体装置の製造装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する表面処理装置は、被接合物に水素結合を利用して接合される対象物の接合面に、前記接合に先立って、親水化処理を施す表面処理装置であって、1以上の前記対象物の接合面と反対の面を支持する支持ベースと、前記支持ベースで支持された前記対象物の接合面に、前記接合面の温度に対応する飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を有した加湿空気を吹き付けることで、前記接合面に結露を一時的に発生させる吹付ノズルと、を備えることを特徴とする。
【0009】
この場合、さらに、前記支持ベースは、前記接合面の温度を、周辺雰囲気の温度より低く、かつ、前記周辺雰囲気の水蒸気圧の露点温度よりも高い温度に、冷却する冷却器を備えてもよい。
【0010】
また、1以上の前記対象物は、その周囲を枠部材によって取り囲まれた状態で前記支持ベースに載置され、前記冷却器は、1以上の前記対象物を冷却し、前記枠部材は冷却しない、位置およびサイズであってもよい。
【0011】
また、前記吹付ノズルは、前記加湿空気の吹き付けと並行して、前記支持ベースに対して移動可能であってもよい。
【0012】
また、前記吹付ノズルは、1以上の前記対象物全てをカバーする吹き付け面積を有してもよい。
【0013】
また、前記対象物は、半導体集積回路であるチップまたは当該チップが接合されるウエハであってもよい。
【0014】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置は、ウエハに半導体集積回路であるチップを、水素結合を利用して接合することで半導体装置を製造する半導体装置の製造装置であって、前記チップを、前記ウエハまたは前記ウエハに実装された他のチップの上面に接合するボンディングユニットと、前記接合に先立って、前記チップまたは前記ウエハである対象物の接合面に親水化処理を施す1以上の表面処理装置と、を備え、前記表面処理装置は、1以上の前記対象物の接合面と反対の面を支持する支持ベースと、前記支持ベースで支持された前記対象物の接合面に、前記接合面の温度に対応する飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を有した加湿空気を吹き付けることで、前記接合面に結露を一時的に発生させる吹付ノズルと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示する技術によれば、プラズマ処理等を行わなくても、加湿空気の吹き付け期間中にのみ、結露が生じ、加湿空気の吹き付けが停止すれば、結露が蒸発する。その結果、対象物の接合面に、液滴が残存せず、適切な量のOH基が付着する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】半導体装置の製造装置の構成を示す図である。
【
図2】製造装置に組み込まれた表面処理装置の構成を示す図である。
【
図9】製造装置による半導体装置の製造の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、半導体装置の製造装置10について図面を参照して説明する。
図1は、半導体装置の製造装置10の構成を示す図である。また、
図2は、製造装置10に組み込まれた表面処理装置20の構成を示す図である。
【0018】
この製造装置10は、基板として機能するウエハ100に、1以上のチップ110を接合して、半導体装置を製造する。チップ110をウエハ100に接合する際には、水素結合を利用するが、これについては、後述する。
【0019】
製造装置10は、
図1に示すように、チップ供給ユニット12と、基板供給ユニット14と、ボンディングユニット16と、第一表面処理装置20fと、第二表面処理装置20sと、を有している。チップ供給ユニット12は、チップ110を、第一表面処理装置20fに供給する。ここで、チップ110は、円環の枠部材であるダイシングリング122の内側に張られたダイシングテープ120(
図1では見えず)に接着された状態のまま第一表面処理装置20fに供給される。なお、チップ110は、その底面(すなわちウエハ100との接合面)が上向きの姿勢でダイシングテープ120に接着されている。
【0020】
基板供給ユニット14は、ウエハ100を搬入出するもので、例えば、ウエハ100を搬送するアームロボット(図示せず)等を有している。未処理のウエハ100は、搬入ポート14aから搬入され、第二表面処理装置20sに搬送される。また、ボンディングにより製造された半導体装置は、搬出ポート14bから搬出される。
【0021】
第一表面処理装置20fは、供給されたチップ110の表面に親水化処理を施す。また、第二表面処理装置20sは、供給されたウエハ100の表面に親水化処理を施す。この第一表面処理装置20f及び第二表面処理装置20sの構成は、ほぼ同様である。以下では、両者を区別しない場合は、「表面処理装置20」と表記する。この表面処理装置20の具体的な構成は、後述する。
【0022】
ボンディングユニット16は、ウエハ100に1以上のチップ110をボンディングし、半導体装置を製造する。具体的には、ボンディングユニット16は、ウエハ100が載置されるステージと、チップ110を吸引保持するとともに加熱可能なボンディングヘッド(いずれも図示せず)と、を有している。このボンディングユニット16によるボンディング処理について、
図3を参照して説明する。
【0023】
図3は、ボンディングの様子を示すイメージ図である。半導体装置を製造する際には、
図3に示すように、ウエハ100の上面にチップ110を接合する。また、2以上のチップ110を厚み方向に接合する場合には、ウエハ100に接合されたチップ110の上に、他のチップ110を接合する。これらの接合面、すなわち、ウエハ100の上面、チップ110の底面、および、チップ110の上面には、電極102,112が設けられている。ボンディングユニット16は、チップ110の電極112と、ウエハ100の電極112または他のチップ110の電極112と、が互いに接触するように、両者を接合する。そして、これにより、ウエハ100とチップ110、または、チップ110とチップ110とが電気的に接続される。
【0024】
チップ110とウエハ100、または、チップ110とチップ110とを接合する際には、水素結合が利用される。
図4は、水素結合の様子を示すイメージ図である。
図4において、符号130は、互いに接合される対象物、すなわち、チップ110またはウエハ100である。なお、チップ110が対象物130の場合、ウエハ100または他のチップ110が、対象物130と接合される被接合物となり、ウエハ100が対象物130の場合、チップ110が対象物130と接合される被接合物となる。本例では、対象物130の接合に先立って、予め、表面処理装置20により、対象物130の接合面に、親水化処理を施す。親水化処理の具体的方法は、後述するが、親水化処理を行うことで、
図4(a)に示すように、対象物130の接合面のSi原子とOH基とが化学的に結合し、対象物130の接合面には、OH基が付着する。この状態で、二つの対象物130を接近させ、接触させると、
図4(b)に示すように、一方の対象物130に付着したOH基と、他方の対象物130に付着したOH基と、が互いに分子結合した状態、すなわち、水素結合した状態となる。
【0025】
水素結合は、ある程度の結合力を有しているものの、半導体装置として充分な結合力に達していない。そのため、対象物130を互いに水素結合させた後には、その結合力を、より高めるために、対象物130を加熱する。水素結合した後、対象物130を加熱すると、水分子H2Oが蒸発し、
図4(c)に示すように、二つの対象物130それぞれのSi原子が互いに結合した状態となる。この状態になれば、二つの対象物130は、原子的に直接接合されたこととなるため、非常に強固な結合力が得られる。
【0026】
このように、対象物130を、水素結合を利用して接合する場合、他の接着剤、例えば、非導電性フィルム等の樹脂が不要となるため、当該樹脂が電極102,112の接合面に入り込むことで生じる導電性の低下等の問題を効果的に防止できる。また、上記の場合、チップ110の底面に、ハンダバンプ等の突起を設ける必要がないため、チップ110、ひいては、半導体装置の厚みを低減できる。
【0027】
ところで、こうした水素結合を利用した接合を行う場合には、上述した通り、対象物130の接合面にOH基を付着させる親水化処理を施す必要がある。本例では、親水化処理のために、第一表面処理装置20fおよび第二表面処理装置20sを設けている。この第一表面処理装置20fおよび第二表面処理装置20sの構成は、ほぼ同じであるため、以下では、第一表面処理装置20fを例に挙げて表面処理装置20の構成を説明する。
【0028】
図2は、表面処理装置20(具体的には第一表面処理装置20f)の構成を示す図である。表面処理装置20は、対象物130の接合面に、一時的に結露を発生させることで、当該接合面を親水化させる。この表面処理装置20は、対象物130を支持する支持ベース22と、対象物130に加湿空気を吹き付ける吹付ノズル26と、を備えている。
【0029】
支持ベース22は、対象物の接合面と反対の面を支持するように、対象物130の接合面を外部に露出した状態で、当該対象物130が載置されるテーブルである。第一表面処理装置20fの場合は、対象物130であるチップ110は、ダイシングリング122とともに支持ベース22に載置される。換言すれば、第一表面処理装置20fの場合、複数の対象物130(チップ110)が、纏めて支持ベース22に載置される。支持ベース22には、対象物130を冷却するための冷却器24が、組み込まれている。
【0030】
冷却器24は、例えば、冷却プレートと、当該冷却プレートを冷却する冷却機構と、を備える。冷却プレートは、対象物130が載置されるプレートで、伝熱性の高い金属、例えば、銅やアルミニウム等で構成される。また、冷却機構としては、例えば、ペルチェ素子のような吸熱素子や、ヒートポンプ等を利用できる。こうした冷却機構の駆動は、コントローラ28で制御される。コントローラ28は、製造装置10の駆動を制御するもので、例えば、プロセッサとメモリとを有したコンピュータである。
【0031】
本例において、この冷却器24は、1以上の対象物130全てをカバーする一方で、1以上の対象物130を取り囲む枠部材(すなわち、ダイシングリング122)は、カバーしない位置およびサイズに設定されている。かかる構成とすることで、対象物130のみを冷却ででき、枠部材の表面における結露の発生を防止できるが、これについては、後述する。
【0032】
支持ベース22の上方には、吹付ノズル26が設けられている。吹付ノズル26は、対象物130の接合面に対して、加湿空気を吹き付けるノズルである。この吹付ノズル26には、加湿空気を生成し、吹付ノズル26に供給するエア源27が接続されている。エア源27は、充分に清浄化されたクリーンエアと純水とを用いて、所定の温度および湿度の加湿空気を生成する。また、さらに、吹付ノズル26とエア源27を連結する流路上には、供給された加湿空気を圧送するポンプや、加湿空気の吐出を制御するバルブ(いずれも図示せず)等が設けられてもよい。また、本例では、吹付ノズル26の吹付面積は、支持ベース22に支持された1以上の対象物130全てをカバーできない。そこで、本例では、吹付ノズル26を、支持ベース22に対して移動させる移動機構29を設けている。移動機構29としては、例えば、モータを駆動源とするXYテーブル等を用いることができる。この移動機構29で移動させられることにより、吹付ノズル26は、1以上の対象物130全ての接合面を走査できる。こうした吹付ノズル26による加湿空気の吹き付けは、コントローラ28により駆動制御される。
【0033】
本例では、この吹付ノズル26により加湿空気を接合面に吹き付けることで、接合面に一時的、すなわち、加湿空気の吹き付け期間中にのみ、結露を生じさせ、それ以外の期間では、結露が蒸発するようにしている。かかる現象を生じさせるためには、対象物130の接合面は、周辺雰囲気で結露が生じない温度とする必要がある。また、加湿空気は、対象物130の接合面の温度で結露が生じる温度および湿度に設定される必要がある。こうした接合面の温度および加湿空気の温度および湿度の設定について、
図5、
図6を参照して説明する。
図5、
図6は、水の飽和水蒸気圧を示すグラフである。
図5、
図6において、横軸は、温度であり、縦軸は、水蒸気圧を示している。また、
図5、
図6において、Ta、Aaは、周辺雰囲気における温度および湿度を示している。
【0034】
はじめに、
図5を参照して、冷却器24で対象物130を冷却しない場合の加湿空気の条件について検討する。冷却を行わない場合、対象物130の接合面の温度は、周辺雰囲気の温度Taと同じとなる。この温度Taにおける飽和水蒸気圧は、Haである。この飽和水蒸気圧Haを超える水蒸気圧を有する空気が接合面に接触すれば、当該接合面に結露が生じることになる。したがって、加湿空気は、周辺雰囲気温度Ta(すなわち接合面の温度)での飽和水蒸気圧Ha以上の水蒸気圧を有すればよい。例えば、加湿空気の温度をTbとし、温度Tbの飽和水蒸気圧をHbとした場合、加湿空気の湿度は、(Aa=Ha/Hb×100)%以上であればよい。かかる加湿空気を吹き付けている期間中、接合面には、結露が発生する。一方で、加湿空気の吹き付けを停止すると、周辺雰囲気の湿度は充分に低いため、結露が蒸発する。ただし、一度、結露により接合面に、極薄い水膜が形成されれば、その後、液滴が蒸発したとしても、接合面の表面には、OH基が、付着した状態で残る。換言すれば、当該方法によれば、接合面に、適量のOH基を容易に付着できる一方で、液滴の残存を効果的に防止できる。
【0035】
このように、対象物130を冷却しなくても、結露を生じさせることができるが、この場合、加湿空気の湿度をかなり高くする必要があり、加湿空気の生成の負担が大きい。そこで、加湿空気の吹き付けと連動して、冷却器24で対象物130を冷却してもよい。冷却器24で対象物130を冷却した場合の加湿空気の条件について、
図6を参照して説明する。
【0036】
対象物130を冷却する場合、その冷却温度は、周辺雰囲気で結露が生じない温度に抑える必要がある。具体的に説明すると、周辺雰囲気の温度がTa、湿度がAa%の場合、当該周辺雰囲気に含まれる水蒸気圧はHcとなる。この水蒸気圧Hcの露点は、Tcであるため、温度Tc以下では、周辺雰囲気で結露が生じることになる。そのため、対象物130を冷却する場合、その接合面温度が、周辺雰囲気に含まれる水蒸気圧の露点超過、
図6の例ではTc超過にしなければならない。
【0037】
ここで、冷却器24で接合面温度がTd(なお、Tc<Td<Ta)になった場合を考える。この場合、接合面温度Tdでの飽和水蒸気圧はHdであるため、接合面で結露を生じさせるためには、加湿空気は、Hd以上の水蒸気圧を有する必要がある。したがって、加湿空気の温度がTbの場合、加湿空気の湿度は、(Ac=Hd/Hb×100)%以上であることが必要となる。この湿度Ac%は、対象物130を冷却しない場合に必要な湿度Ab%に比べて低くなっている。このように、対象物130を冷却することで、加湿空気で必要となる湿度を比較的低く抑えることができる。
【0038】
なお、本例では、対象物130のみを冷却し、対象物130を取り囲む枠部材は冷却していない。そのため、枠部材の表面温度は、周辺雰囲気の温度Taと同じである。換言すれば、対象物130と、枠部材との間には温度差が生じている。この温度差を利用して、冷却された対象物130の接合面にのみ結露を生じさせ、冷却されていない枠部材の表面に結露を生じさせない構成としてもよい。具体的には、加湿空気を、接合面温度Tdの飽和水蒸気圧Hc以上、かつ、周辺雰囲気温度Taの飽和水蒸気圧Ha未満の水蒸気圧を含むようにしてもよい。具体的には、加湿空気の湿度を、Ac%以上、Ab%未満とすれば、接合面に結露が生じ、枠部材の結露を防止できる。
【0039】
いずれにしても、対象物130の接合面温度に対応する飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を有する加湿空気を吹き付けることで、当該吹き付け期間中にのみ結露を生じさせ、吹き付け停止後に、結露を蒸発させることができる。これにより、接合面に、適量のOH基を容易に付着できる。
【0040】
ここで、こうした加湿空気の吹き付けの利点について、他の技術と比較して説明する。従来、接合面を親水化するために、接合面に液状の純水を吐出することが提案されている。かかる技術でも、接合面にOH基を付着できるが、この場合、接合面には、液滴が不均一に残存することになる。このように残存した液滴は、対象物130を水素結合させた後も接合境界面に残存する。そして、接合境界面に多量の水分子が残存したまま、対象物130を加熱すると、残存していた水分子が接合界面から急激に排除され、ボイド(マイクロボイド)が生じる。こうしたボイドは、当然ながら、接合品質の低下の原因となる。
【0041】
また、別の形態として、対象物130を結露するまで冷却することで、接合面を親水化することも考えられる。すなわち、
図7の例で、対象物130の接合面を、周辺雰囲気の水蒸気圧Hcの露点温度Tc以下まで冷却すれば、加湿空気を吹き付けなくても、接合面に結露が生じる。しかし、一度、冷却した対象物130を結露が蒸発する温度まで上昇させるには、ある程度の時間がかかる。そのため、対象物130を冷却させて結露を生じさせた場合、対象物130が蒸発可能な温度に上昇するまで、結露が継続し、多量の液滴が接合面に発生することになる。この場合、接合面の温度が充分に上昇したとしても、一度生じた多量の液滴を早期に蒸発させることは難しい。結果として、この場合でも、水素結合後に接合境界面に多量の水分子が残存し、加熱処理後に、ボイドが発生するおそれがあった。
【0042】
さらに、別の形態として、結露を生じさせるのではなく、対象物130を高湿度な環境に置くことで、OH基を接合面に付着させることも考えられる。かかる形態によれば、液滴は、生じないため、水素結合後の接合境界面に多量の水分子が残存することを防止できる。しかし、この場合、気体状の水分子を接合面に接触させているに過ぎず、OH基と接合面との結合が生じにくかった。そのため、接合面にOH基を充分にかつ確実に付着させるためには、予め接合面を、プラズマ処理等で活性化させる必要があり、全体的な処理が複雑化する。
【0043】
一方、本例では、上述した通り、接合面温度の飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を含む加湿空気を接合面に吹き付けている。これにより、接合面に均一な水膜を瞬時に形成でき、接合面にOH基を付着させることができる。また、加湿空気の吹き付けを停止すれば、即座に、この水膜が蒸発するため、液敵の残存、ひいては、ボイドの発生を効果的に抑制できる。
【0044】
なお、
図2の例では、吹付ノズル26の吹付面積は、支持ベース22に載置された複数の対象物130のトータル面積より小さいため、吹付ノズル26を移動させて走査させている。しかし、こうした吹付ノズル26の構成は、適宜変更されてもよい。例えば、
図7に示すように、吹付ノズル26は、複数の対象物130全てをカバーできる吹付面積を有していてもよい。また、吹付ノズル26に設けられた吹き付け孔26aは、
図9(a)に示すように、複数設けられてもよい。かかる構成とすることで、加湿空気をより確実に均等分散できる。また、別の形態として、吹付ノズル26に設けられた吹き付け孔26aは、
図9(b)に示すように、単一でもよい。かかる構成とすることで、吹付ノズル26の構成を単純化できる。また、加湿空気は、
図9(b)に示すように、円柱状に吹き付けるのでもよいし、
図9(c)に示すように、下流に進むにつれ拡径する円錐状に吹き付けてもよい。
【0045】
次に、本例の製造装置10による半導体装置の製造の流れについて、
図10を参照して説明する。半導体装置を製造する際には、まず、チップ110を、チップ供給ユニット12から第一表面処理装置20fに搬送する(S10)。この場合、チップ110は、ダイシングリング122の内側に張られたダイシングテープ120に接着された状態で、第一表面処理装置20fに搬入される。第一表面処理装置20fでは、1以上のチップ110の接合面に、親水化処理を施す(S12)。具体的には、チップ110を支持ベース22に載置した状態で、チップ110を冷却するとともに、吹付ノズル26でチップ110の接合面に加湿空気を吹き付ける。これにより、接合面には、瞬間的に微量の結露が生じる。ただし、この結露は、加湿空気の吹き付けを停止すれば即座に蒸発する。そして、結露が蒸発することで、接合面に液滴が存在しないものの、接合面のSi原子には、OH基が結合した状態となる。
【0046】
チップ110の親水化処理と並行して、ウエハ100の親水化処理も行う。すなわち、基板として機能するウエハ100を、基板供給ユニット14から第二表面処理装置20sに搬送する(S14)。続いて、搬送されたウエハ100に対して親水化処理を施す(S16)。具体的には、ウエハ100を支持ベース22に載置した状態で、ウエハ100を冷却するとともに、吹付ノズル26でウエハ100の接合面に加湿空気を吹き付ける。
【0047】
チップ110およびウエハ100の親水化処理が完了すれば、チップ110を水素結合によりウエハ100に仮接合させる(S18)。具体的には、親水化処理されたウエハ100は、ボンディングユニット16に搬送され、ボンディングユニット16に設けられたテーブルに載置される。また、ボンディングユニット16に設けられたボンディングツールは、親水化処理されたチップ110を、吸引保持し、ウエハ100の上面に載置する。チップ110とウエハ100の接合面が接触することで、両接合面に付着したOH基が、水素結合する。これにより、チップ110とウエハ100が、ある程度の接合力で仮接合される。
【0048】
仮接合が完了すれば、続いて、仮接合されたウエハ100およびチップ110を加熱し、両者を本接合する(S20)。チップ110およびウエハ100を加熱することで接合境界面における水分子が蒸発し、両者のSi原子同士が強固に結合する。いわば、チップ110のシリコンとウエハ100のシリコンが、原子的に結合する。これにより、強い結合力が得られる。
【0049】
そして、必要なチップ110が全て、ウエハ100にボンディングされれば、半導体装置の製造が終了となる。なお、ここでは、チップ110を積層させない場合を例に挙げて説明したが、2以上のチップ110を厚み方向に積層させてもよい。この場合、下側に位置するチップ110の上面は、その上側に積層される他のチップ110との接合面となるが、当該下側のチップ110の上面は、親水化処理されていてもよいし、されていなくてもよい。下側のチップ110の上面を親水化処理する場合には、例えば、当該下側のチップ110をウエハ100に載置した後、当該下側のチップ110をウエハ100ごと、表面処理装置20に再度、投入すればよい。
【0050】
また、これまで説明した構成は、一例であり、表面処理装置20が、少なくとも、対象物130の接合面と反対側の面を支持する支持ベース22と、接合面に、当該接合面の温度に対応する飽和水蒸気圧以上の水蒸気圧を有した加湿空気を吹き付ける吹付ノズルと、を有するのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。
【0051】
例えば、本例では、チップ110およびウエハ100の双方に親水化処理を施しているが、親水化処理は、チップ110およびウエハ100の少なくとも一方にのみ施されるのでもよい。したがって、製造装置10は、第一表面処理装置20fおよび第二表面処理装置20sの一方のみを有し、他方を有さない構成でもよい。また、本例では、親水化処理に当たって、対象物130を冷却しているが、対象物130は冷却しなくてもよい。
【0052】
また、本例では、接合面に対して、親水化処理のみを行っているが、親水化処理に先立って、他の表面処理、例えば、接合面にプラズマを照射し、接合面の原子を活性化させるプラズマ処理を行ってもよい。また、本例では、表面処理装置20を半導体装置の製造装置10に組み込んでいるが、表面処理装置20は、水素結合を利用して対象物130を接合する他の装置に組み込まれてもよい。また、表面処理装置20は、他の装置に組み込まれることなく、単独で用いられてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 製造装置、12 チップ供給ユニット、14 基板供給ユニット、16 ボンディングユニット、20 表面処理装置、22 支持ベース、24 冷却器、26 吹付ノズル、27 エア源、28 コントローラ、29 移動機構、100 ウエハ、102,112 電極、110 チップ、120 ダイシングテープ、122 ダイシングリング、130 対象物。