IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社イムノセンスの特許一覧

特許7470461電気化学的手法における被検物質に対する測定の正常性を判定する方法
<>
  • 特許-電気化学的手法における被検物質に対する測定の正常性を判定する方法 図1
  • 特許-電気化学的手法における被検物質に対する測定の正常性を判定する方法 図2
  • 特許-電気化学的手法における被検物質に対する測定の正常性を判定する方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】電気化学的手法における被検物質に対する測定の正常性を判定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240411BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20240411BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G01N27/416 386G
G01N27/26 371A
G01N27/327 357
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023026306
(22)【出願日】2023-02-22
【審査請求日】2023-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519450891
【氏名又は名称】株式会社イムノセンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山村 航太郎
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-143909(JP,A)
【文献】特表2016-510121(JP,A)
【文献】特開2007-024498(JP,A)
【文献】特開2004-233289(JP,A)
【文献】特開2005-241537(JP,A)
【文献】特開2019-012056(JP,A)
【文献】特表2013-532836(JP,A)
【文献】国際公開第2005/103669(WO,A1)
【文献】特開2021-096174(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116811(WO,A1)
【文献】特表2004-512496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/26
G01N 27/327
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質に対する測定の正常性を判定する方法であって、前記方法は、
前記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極であって、電子メディエーターが供給されている前記作用電極の電位制御を行い、前記電子メディエーターと前記金属微粒子に対して第一電気化学的処理を行う電気化学的処理工程と、
前記第一電気化学的処理を受けた前記金属微粒子と電子メディエーターに対して第二電気化学的処理を行うことによって生じる電流値を測定する測定工程と、
前記電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴を前記電流値から取得する第一取得工程と、
前記電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が取得された場合、前記電気化学的処理工程と前記測定工程が正常に行われたと判定する判定工程と、
を有し、
前記第1の結合物質は、前記作用電極に固定される、
方法。
【請求項2】
前記第一電気化学的特徴は、前記電流値の変化を示す第一ピークシグナルである、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電子メディエーターは、フェナジンメトサルフェート(PMS)又はフェナジンエトスルファート(PES)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記作用電極は、前記被検物質を備え、
前記第1の結合物質の一部は、前記被検物質と結合しており、
前記第2の結合物質は、前記被検物質を介して前記第1の結合物質に結合している、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
被検物質の測定データを補正する方法であって、前記方法は、
請求項に記載の電気化学的処理工程と、測定工程と、第一取得工程と、判定工程と、を有し、
更に、
前記金属微粒子に起因する第二電気化学的特徴を前記電流値から取得する第二取得工程と、
前記第一電気化学的特徴及び/又は第二電気化学的特徴から補正値を算出する算出工程と、
前記補正値を用いて前記第二電気化学的特徴を補正する補正工程と、
を有する、
方法。
【請求項6】
前記第二電気化学的特徴は、酸化溶出した金属が存在しない場合には生じない前記電流値の変化を示す第二ピークシグナルである、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一電気化学的特徴は、前記第一ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値であり、
前記第二電気化学的特徴は、前記第二ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第一電気化学的特徴は、前記第一ピークシグナルにおける第一ピークポイント電位(A1)、第一ピークポイント電流値(B1)、第一ピーク値(C1)及び第一ピーク面積(D1)からなる群より選択され、
前記第二電気化学的特徴は、前記第二ピークシグナルにおける第二電流ピークポイント電位(A2)、第二ピークポイント電流値(B2)、第二ピーク値(C2)及び第二ピーク面積(D2)からなる群より選択される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
補正後の前記第二電気化学的特徴に基づいて前記被検物質の濃度を決定する決定工程を更に有する、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的手法における被検物質に対する測定の正常性を判定する方法と被物質の測定データを補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試験溶液中の微量物質を簡便且つ高感度に測定する方法の1つとして、抗原抗体反応を利用した免疫測定法が知られている。免疫測定法としては、酵素で標識した抗体を用い、酵素反応に由来する発色や発光等の信号を得ることにより被検物質の検知や濃度測定を行うELISA法が、幅広い分野で採用されている。しかしながら、ELISA法では、発色や発光等の信号検出時に光学系を必要とするため、大型の測定機が必要となる。また、正確な定量を行う場合には、発色等の測定結果を電気的な信号に変換する作業が必要となる等、複雑な処理を行う必要がある。
【0003】
そこで、発色標識や蛍光標識のような汎用の標識物質を用いた免疫測定法等において、検出に際して電気化学的測定法を利用する方法が提案されている。電気化学的測定に用いる装置はELISA等に用いられる機器に比べて小型化が可能であることから、測定機器の小型化と検出感度の向上との両立が期待される。
【0004】
特許文献1は、試験溶液中の被検物質に対応した量の金属微粒子を作用電極の表面近傍に集め、上記金属微粒子を電気化学的に酸化した後、酸化した金属を電気化学的に還元する際に生じる電流値を測定し、上記電流値に基づいて被検物質の有無又は濃度を調べることを特徴とする、被物質の測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2007/116811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1が開示する測定方法は、被検物質に対応する信号が検出されなかった場合、検出物質が存在しない(又は濃度が低い)のか、検出物質の測定が正常に行われなかったのかが不明であるという課題と、同じ濃度の被物質を測定しても測定される電流値にバラツキがあるという課題が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、電子メディエーターを用いることで上記課題を解決できることを明らかにし、本発明は完成した。
【0008】
本発明の目的は、
被検物質に対する測定の正常性を判定する方法であって、上記方法は、
上記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極であって、電子メディエーターが供給されている上記作用電極の電位制御を行い、上記電子メディエーターと上記金属微粒子に対して第一電気化学的処理を行う電気化学的処理工程と、
上記第一電気化学的処理を受けた上記金属微粒子と電子メディエーターに対して第二電気化学的処理を行うことによって生じる電流値を測定する測定工程と、
上記電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴を上記電流値から取得する第一取得工程と、
上記電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が取得された場合、上記電気化学的処理工程と上記測定工程が正常に行われたと判定する判定工程と、
を有し、
上記第1の結合物質は、上記作用電極に固定される、
方法
を提供することである。
【0009】
本方法によれば、被検物質に対応する信号が検出されなかった場合、被検物質を測定する方法、条件及び機器が正常であってことが判定されるため、被検物質の信号の非検出が被検物質の不存在及び低濃度の被検物質など被検物質の問題であることを結論づけることができる。
【0010】
上記第一電気化学的特徴は、上記電流値の変化を示す第一ピークシグナルであってもよい。
【0011】
上記電子メディエーターは、フェナジンメトサルフェート(PMS)又はフェナジンエトスルファート(PES)であってもよい。
【0012】
上記作用電極は、上記被物質を備えてもよい。
上記第1の結合物質の一部は、上記被物質と結合していてもよい。
上記第2の結合物質は、上記被検物質を介して上記第1の結合物質に結合していてもよい。
【0013】
また、本発明の別の目的は、
物質の測定データを補正する方法であって、上記方法は、
請求項1に記載の電気化学的処理工程と、測定工程と、第一取得工程と、判定工程と、を有し、
更に、
上記金属微粒子に起因する第二電気化学的特徴を上記電流値から取得する第二取得工程と、
上記第一電気化学的特徴及び/又は第二電気化学的特徴から補正値を算出する算出工程と、
上記補正値を用いて上記第二電気化学的特徴を補正する補正工程と、
を有する、
方法
を提供することである。
【0014】
本発明によれば、取得した第一電気化学的特徴及び/又は第二電気化学的特徴に基づいて、第二電気化学的特徴に生じるバラツキを補正することができる。
【0015】
上記第二電気化学的特徴は、上記電流値の変化を示す第二ピークシグナルであってもよい。
【0016】
上記第一電気化学的特徴は、上記第一ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値であってもよい。
上記第二電気化学的特徴は、上記第二ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値であってもよい。
【0017】
上記第一電気化学的特徴は、上記第一ピークシグナルにおける第一ピークポイント電位(A1)、第一ピークポイント電流値(B1)、第一ピーク値(C1)及び第一ピーク面積(D1)からなる群より選択されてもよい。
上記第二電気化学的特徴は、上記第二ピークシグナルにおける第二電流ピークポイント電位(A2)、第二ピークポイント電流値(B2)、第二ピーク値(C2)及び第二ピーク面積(D2)からなる群より選択されてもよい。
【0018】
補正後の上記第二電気化学的特徴に基づいて上記被検物質の濃度を決定する決定工程を更に有していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、印刷電極デバイスの平面図を示している。
図2図2は、電子メディエーターと金コロイドの存在下における、電位に対する電流の変化をプロットしたグラフを示している。
図3図3は、ピークポイントの電位(V)及び電流値(μA)並びにピーク値(μA)を説明するためのグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0021】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、適宜説明を省略する。
【0023】
1 被検物質に対する測定の正常性を判定する方法
本実施形態にかかる方法は、例えば、図1に示すプレナー型の印刷電極デバイス1を用いて実行することができる。印刷電極デバイス1は、カーボンペーストで形成した作用電極2及び対極3と、カーボンペーストで形成したリード(不図示)と、銀/塩化銀で形成した参照電極4とを絶縁支持体5上に有するものであり、作用電極2、対極3及び参照電極4の表面の一部が絶縁層6で被覆されている。
【0024】
(電気化学的処理工程)
本実施形態に係る方法は、上記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極であって、電子メディエーターが供給されている上記作用電極の電位制御を行い、上記電子メディエーターと上記金属微粒子に対して第一電気化学的処理を行う電気化学的処理工程を有する。
【0025】
電気化学的処理工程において、電子メディエーターと金属微粒子に対して第一電気化学的処理が行われる。ここで、「第一電気化学的処理」とは、電子メディエーターと金属微粒子に対する電位処理であり、電気化学的還元又は電気化学的酸化であってもよい。電気化学的処理工程において、電子メディエーターと金属微粒子に対して同時に又は別々に第一電気化学的処理を行ってもよい。電子メディエーターと金属微粒子に対して別々に第一電気化学的処理を行う場合、電子メディエーターに対する電気化学的処理は、金属微粒子に対する電気化学的処理とは逆の電位処理であってもよい。例えば、電子メディエーターに対して電気化学的還元が行われた場合、金属微粒子に対して電気化学的酸化が行われてもよい。
【0026】
ある実施形態において、電気化学的処理工程は、(1)上記作用電極の電位制御を行い、電子メディエーターと金属微粒子に電気化学的酸化を行う双方酸化工程を含む、又は(2)上記作用電極の電位制御を行い、電子メディエーターに対して電気化学的還元を行う還元工程と、上記作用電極の電位制御を行い、金属微粒子に対して電気化学的酸化を行う単独酸化工程と、を含む。双方酸化工程において、電子メディエーターと金属微粒子に対して同時に電気化学的酸化を行ってもよく、電子メディエーターと金属微粒子に対して別々に電気化学的酸化を行ってもよい。
【0027】
電子メディエーターと金属微粒子を電気化学的に酸化させる場合、参照電極に対する作用電極の電位を、電子メディエーターと金属微粒子が電気化学的に酸化する電位に所定時間保持する。このことにより、作用電極の表面近傍に集めた金属微粒子及び電子メディエーターが完全に酸化する。電子メディエーターを電気化学的に還元させ、金属微粒子を電気化学的に酸化させる場合、参照電極に対する作用電極の電位を、電子メディエーターが電気化学的に還元する電位に所定時間保持し、その後、金属微粒子が電気化学的に酸化する電位に所定時間保持する(その逆であってもよい)。このとき、対極及び参照電極も電気化学的測定用溶液に接触させた状態とする。
【0028】
作用電極は、上記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える。上記第1の結合物質は、上記作用電極に固定されている。上記第1の結合物質の一部は、上記被検物質と結合していてもよい。上記第2の結合物質は、上記被検物質を介して上記第1の結合物質に結合していてもよい。
【0029】
上記被検物質と、上記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極(処理済み作用電極とも称する)の製造方法を例示的に説明する。先ず、電気化学的測定において用いる未処理の作用電極の表面に、被検物質に対する第1の結合物質(例えば、一次抗体)を固定しておく。未処理の作用電極は、第1の結合物質が固定されていない作用電極であり、第1の結合物質と作用電極との固定を容易にする要素を備えていてもよい。次に、電極表面は非特異吸着を防ぐためにブロッキングする。また、一次抗体とは異なる被検物質上の部位を認識する第2の結合物質(例えば、二次抗体)に金属微粒子を標識することにより標識体を作成する。被検物質が上記標識体及び一次抗体と接触すると、作用電極上で抗原抗体反応が起きる。標識体が被検物質を介して一次抗体に結合することにより、被検物質の濃度に対応した量の金属微粒子が作用電極の近傍に集められた状態となる。本実施形態における処理済み作用電極上の構成要素は、被検物質、第1の結合物質及び標識体(第2の結合物質及び金属微粒子を含む)であるが、これら以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0030】
電子メディエーターとしては、クロライドイオンから電子を受け取り、作用電極に電子を供与しうるものが挙げられ、たとえばフェリシアン化物塩、フェナジンエトサルフェート、フェナジンメトサルフェート、フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルフェニレンジアミン、1-メトキシ-フェナジンメトサルフェート、2,6-ジクロロフェノールインドフェノール、2,5-ジメチル-1,4-ベンゾキノン、2,6-ジメチル-1,4-ベンゾキノン、2,5-ジクロロ-1,4-ベンゾキノン、ニトロソアニリン、フェロセン誘導体、オスミウム錯体、ルテニウム錯体等が例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明においては、生体物質、合成物質等のあらゆる物質を被検物質とすることができる。被検物質に特異的に結合する結合物質(第1の結合物質、第2の結合物質)には、被物質に応じて適切なものを選択する。被検物質に応じた量の金属微粒子を集めるために、本実施形態では抗原と抗体との特異的結合を利用しているが、物質間で特異的に結合するものであればこの組合せに限らず、例えば、核酸-核酸、核酸-核酸結合タンパク質、レクチン-糖鎖、又はレセプター-リガンドの特異的結合を利用してもよい。被検物質-特異的結合物質の関係の順序は、上記と逆でもよい。
【0032】
標識物質として用いられる金属微粒子としては特に制限されないが、例えば金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム等の微粒子やそれらのコロイド粒子、量子ドット等を用いることができる。なかでも粒径10nm~100nmの金微粒子、特に粒径40nm程度の金微粒子を用いることが好ましい。
【0033】
抗原抗体反応を行い、作用電極の表面を必要に応じて洗浄した後、例えば、電子メディエーターを含む電気化学的測定用溶液と作用電極と接触させた状態とする。電気化学的測定用溶液と作用電極とを接触させるには、作用電極の表面に電気化学的測定用溶液を滴下する、作用電極を電気化学的測定用溶液に浸す等、任意の手段をとることができる。
【0034】
別の実施形態においては、被検物質に応じた量の金属微粒子を作用電極の表面近傍に集めるために、被検物質に対する2種類の結合物質を用意し、一方(第1の結合物質)を磁性微粒子の表面に固定化しておくとともに、他方(第2の結合物質)を金属微粒子で標識して標識体を形成しておき、標識体と反応させた後の磁性微粒子を作用電極の表面に集めてもよい。別の実施形態においては、被検物質に応じた量の金属微粒子を作用電極の表面近傍に集めるために、被検物質に対する2種類の特異的結合物質を用意し、一方(第1の結合物質)をイムノクロマトグラフィー用ストリップの判定部に固定化しておくとともに、他方(第2の結合物質)を金属微粒子で標識して標識体を形成しておき、電気化学的測定用溶液及び標識体をストリップ上に展開した後、ストリップと作用電極の表面とを対向させてもよい。別の実施形態においては、作用電極と少なくとも対極との両方を抗原抗体反応等の反応場として利用し、且つ、少なくとも対極の表面近傍に集められた金属微粒子を酸化溶出させ、作用電極へ電気化学的に泳動させて作用電極表面に析出させた後に、作用電極の表面近傍に集められた金属微粒子の電気化学的酸化を行ってもよい(いずれの実施形態も、WO2007/116811を参照)。
【0035】
(供給工程)
本実施形態にかかる方法は、上記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極に電子メディエーターを供給する供給工程を有していてもよい。電子メディエーターは、適当な溶液(例えば、PBS及び電気化学的測定用溶液)中において提供される。供給工程において、上記被検物質と、上記被検物質に特異的に結合する第1の結合物質と、第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極に電子メディエーターが供給されてもよい。
【0036】
本実施形態にかかる方法は、未処理の作用電極の表面に、被検物質に対する第1の結合物質を固定する固定工程と、作用電極上の第1の結合物質に被検物質を結合させる結合工程と、第1の結合物質に結合した被物質に標識体を結合させる標識工程を含んでいてもよい。これらの工程によって、処理済み作用電極が製造される。なお、供給工程において被物質を供給しない場合は、結合工程と標識工程は必須ではない。被検物質に対する2種類の特異的結合物質(第1の結合物質と第2の結合物質)を用意し、第1の結合物質を作用電極の表面に固定化し、第2の結合物質には金属微粒子を標識し、標識体とする。未処理の作用電極は、第1の結合物質が固定されていない作用電極である。被物質、第1の結合物質及び標識体は、適当な溶液(例えば、PBS及び電気化学的測定用溶液)中において各工程で使用される。本方法は、標識工程後、処理済みの作用電極に電子メディエーターを供給する供給工程を有していてもよい。本方法は、固定工程、結合工程及び標識工程からなる群より選択される少なくとも1つの後に作用電極を洗浄する洗浄工程を有していてもよい。
【0037】
本実施形態にかかる方法は、未処理の作用電極の表面に、被検物質に対する第1の結合物質を固定する固定工程と、作用電極上の第1の結合物質に被検物質と標識体を接触させる接触工程を含んでいてもよい。作用電極上の第1の結合物質に被検物質と標識体を接触させることによって、作用電極上で抗原抗体反応が起き、処理済み作用電極が製造される。本方法は、接触工程後、処理済みの作用電極に電子メディエーターを供給する供給工程を有していてもよい。本方法は、固定工程及び/又は接触工程の後に作用電極を洗浄する洗浄工程を有していてもよい。
【0038】
本実施形態にかかる方法は、作用電極上の第1の結合物質に被検物質を結合させる結合工程と、第1の結合物質に結合した被物質に標識体を結合させる標識工程を含んでいてもよい。本実施形態にかかる方法は、作用電極上の第1の結合物質に被検物質と標識体を接触させる接触工程を含んでいてもよい。
【0039】
固定工程は、電子メディエーターの存在下において実施されてもよい。結合工程は、電子メディエーターの存在下において実施されてもよい。標識工程は、電子メディエーターの存在下において実施されてもよい。接触工程は、電子メディエーターの存在下において実施されてもよい。
【0040】
(測定工程)
本実施形態に係る方法は、第一電気化学的処理を受けた上記金属微粒子と電子メディエーターに対して第二電気化学的処理を行うことによって生じる電流値を測定する測定工程を有する。第二電気化学的処理は、第一電気化学的処理とは逆の電位処理を意味し、例えば、第二電気化学的処理が電気化学的酸化である場合は、第一電気化学的処理は電気化学的還元である。
【0041】
電気化学的処理工程が双方酸化工程を含む場合、測定工程において、第一電気化学的酸化を受けた上記金属微粒子と電子メディエーターに対して第二電気化学的還元を行うことによって生じる電流値が測定されてもよい。
【0042】
第一電気化学的処理を受けた電子メディエーターと金属微粒子に対して第二電気化学的処理を行うことによってそれぞれの電流値を測定する。電子メディエーターと金属微粒子が電気化学的酸化を受けた場合、作用電極の電位を負方向に変化させていき、電位変化に伴う電流変化を測定する。電極電位を負方向に変化させていくと、前述の電位制御により酸化した電子メディエーターと酸化溶出した金属が還元されることにより還元電流が流れ、電流値の変化が生じる。
【0043】
電気化学的測定用溶液中の電子メディエーターが多いほど還元電流強度も大きくなる一方で、同一の濃度の電子メディエーターであれば、安定した(バラツキの小さい)還元電流が得られる。また、被検物質が多く、作用電極の近傍に集められた金属微粒子が多いほど還元電流強度も大きくなることから、これに基づいて被検物質の定量又は検出が実現される。また、得られる還元電流値から被検物質の有無を知ることができる。
【0044】
電気化学的処理工程が還元工程と単独酸化工程を含む場合、測定工程は、第一電気化学的還元を受けた上記金属微粒子に対して第二電気化学的酸化を行うことによって生じる電流値を測定する第一測定工程と、第一電気化学的酸化を受けた電子メディエーターに対して第二電気化学的還元を行うことによって生じる電流値を測定する第二測定工程と、を含んでいてもよい。第一測定工程は、還元工程の後且つ単独酸化工程の前に実施され、第二測定工程は、単独酸化工程の後に実施される。
【0045】
電子メディエーターが電気化学的還元を受けた後、作用電極の電位を正方向に変化させていき、電位変化に伴う電流変化を測定する。電極電位を正方向に変化させていくと、前述の電位制御により還元した電子メディエーターが酸化されることにより酸化電流が流れ、電流値の変化が生じる。次に、金属微粒子が電気化学的酸化を受けた後、作用電極の電位を負方向に変化させていき、電位変化に伴う電流変化を測定する。電極電位を負方向に変化させていくと、前述の電位制御により酸化溶出した金属が還元されることにより還元電流が流れ、電流値の変化が生じる。
【0046】
作用電極の電位制御及び電気化学測定の際に用いる溶液(電気化学的測定用溶液)としては、金属微粒子を容易に電気化学的に酸化させることができることから、酸性溶液を用いることが好ましい。酸性溶液としては、電子メディエーター及び金属微粒子の種類等に応じて適宜選択すればよいが、例えば塩酸、硝酸、酢酸、リン酸、クエン酸、硫酸等を含む水溶液を用いることができる。電子メディエーター及び金属微粒子の電気化学的酸化のし易さを考慮すると、0.05規定~2規定の塩酸水溶液を用いることが好ましく、0.1規定~0.5規定の塩酸水溶液を用いることがより好ましい。
【0047】
一方、作用電極の電位制御及び電気化学測定の際に用いる溶液(電気化学的測定用溶液)としては、酸性溶液の他、塩素を含む中性溶液を用いることも可能である。塩素を含む中性溶液を用いることにより、酸性溶液を用いる場合に比べて大きな電流変化量が得られ、結果として、より高感度な測定が達成される。また、酸性溶液を用いる場合、例えば低電位側における還元ピークの裾が上昇する等のようにピーク形状が非対称となったり、例えば0.1V付近においてノイズが発生することがある。これに対して、塩素を含む中性溶液を用いることで、還元ピークの裾が平坦となるとともに、上記ノイズ発生が抑えられるので、還元ピーク強度検出が簡便となる。さらに、酸性溶液やアルカリ溶液のような取扱いの難しい溶液の使用を回避することができ、測定操作を安全且つ簡便に実施することができる。塩素を含む中性溶液としては、例えばKCl、NaCl、LiCl等を用いたときに上記の効果を得られるが、特にKClを用いたときに効果が大きい。
【0048】
電子メディエーター及び金属微粒子を酸化又は還元させるに際して、作用電極1の電位は、電子メディエーター及び金属微粒子が酸化又は還元可能な電位とする。具体的には、作用電極の電位は、使用する電子メディエーター及び金属微粒子の種類に応じて適宜最適な値に設定する必要があるが、例えば、銀塩化銀参照電極に対して+1~+2V又は-1~-2Vとすることが好ましい。作用電極の電位を上記範囲内にすることにより、作用電極の表面近傍に集めた金属微粒子を完全に酸化溶出させ、且つ電子メディエーターを酸化又は還元させることができ、被検物質及び電子メディエーターの検出感度を確実に向上させることができる。作用電極の電位を上記範囲未満とした場合、測定時に還元電流又は酸化電流のピークが現れないおそれがあり、逆に上記範囲を超えた場合、酸化又は還元させた電子メディエーター及び金属微粒子の泳動による拡散が起こり、作用電極近傍における酸化物の濃度が低下してしまい、これにより還元電流又は酸化電流のピークが小さくなるおそれがある。より好ましい範囲は、+1.2V~+1.6V又は-1.2V~-1.6Vである。
【0049】
電子メディエーター及び金属微粒子を電気化学的に酸化又は還元させる具体的な手段としては、作用電極の電位を電子メディエーター及び金属微粒子が酸化又は還元する電位に所定時間保持することが挙げられる。上記電位を所定時間保持する操作は、電子メディエーター及び金属微粒子を十分に酸化又は還元させられるため、好ましい方法である。また、作用電極に電子メディエーター及び金属微粒子が電気化学的に酸化又は還元する電位を印加するに際しては、前述したように作用電極の電位を所定の電位に保持する方法の他、例えばサイクリックボルタンメトリー等によって、作用電極の電位を時間経過に伴い変化させてもよい。作用電極の電位を時間経過に伴って変化させる場合には、電子メディエーター及び金属微粒子が酸化又は還元する電位の範囲内(例えば、銀塩化銀参照電極に対し+1~+2V又は-1V~-2V)において、作用電極の電位を変化させることが好ましい。さらに、電子メディエーター及び金属微粒子を酸化又は還元させるに際しては、電子メディエーター及び金属微粒子が電気化学的に酸化又は還元する電位を作用電極に複数回印加してもよい。
【0050】
なお、金属微粒子として粒径10nm~100nmの金微粒子を使用する場合、金微粒子を電気化学的に酸化させるに際して、0.1規定~0.5規定の塩酸溶液中で、銀塩化銀参照電極に対する上記作用電極の電位を+1.2V~+1.6Vとすることが好ましい。
【0051】
ここで、電子メディエーター及び金属微粒子を十分に酸化又は還元させるに際しては、電子メディエーター及び金属微粒子の量に応じて最適な電荷量を与えるように注意する必要がある。電荷量は電流を積分した値であるため、作用電極に印加する電位が比較的低い電位であれば、電子メディエーター及び金属微粒子を十分に酸化又は還元させるためには当該電位を長時間印加する必要がある。一方、作用電極に印加する電位が比較的高い電位であれば、電子メディエーター及び金属微粒子を十分に酸化又は還元させるために必要な時間は短時間でよい。
【0052】
電子メディエーター及び金属微粒子が電気化学的に酸化又は還元する電位に作用電極の電位を保持する時間を1秒以上とすることで、電子メディエーター及び金属微粒子を十分に酸化又は還元させることができ、検出感度を確実に向上させることができる。一方、印加時間を100秒以上としても得られる電流値は殆ど変わらない。したがって、1秒以上100秒以下が好ましい。上記電位の保持時間のさらに好ましい範囲は、40秒以上100秒以下である。
【0053】
酸化又は還元した電子メディエーターを電気化学的に還元又は酸化する際に生じる電流及び酸化した金属を電気化学的に還元する際に生じる電流を測定する方法としては、例えば、微分パルスボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー等のボルタンメトリー、アンペロメトリー、クロノメトリー等が挙げられる。
【0054】
(第一取得工程)
本実施形態にかかる方法は、上記電子メディエーターに起因する上記第一電気化学的特徴を上記電流値から取得する第一取得工程を有する。
【0055】
第一電気化学的特徴は、電子メディエーターを含まない場合には生じない電流値の変化(還元電流又は酸化電流とも称する)によって生じる。電位をX軸に、電流値をY軸にプロットしたグラフにおいて、第一電気化学的特徴は、電流値の変化を示すピーク波形(第一ピークシグナル)で表すことができる。
【0056】
第一電気化学的特徴は、数値的特徴(第一数値的特徴とも称する)として表すことができる。この場合、第一電気化学的特徴は、第一ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値(面積など)であってよい。例えば、上記第一電気化学的特徴は、上記第一ピークシグナルにおける
(1―1) 一又は複数の電流値、
(1―2) 一又は複数の電位、
(1―3) 複数の電流値から算出された計算値、
(1―4) 複数の電位から算出された計算値、及び
(1―5) 一又は複数の電流値及び一又は複数の電位から算出された計算値、
からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0057】
上記第一電気化学的特徴は、第一ピークシグナルにおける第一ピークポイント電位(A1)、第一ピークポイント電流値(B1)、第一ピーク値(C1)及び第一ピーク面積(D1)からなる群より選択されてもよい。
【0058】
ピークポイント電位及びピークポイント電流値は、それぞれ、ピーク波形におけるピーク端に対応する電位及び電流値を意味する。ピーク値は、ピーク波形のベースラインと、ピークポイント電流値の差分電流を意味する。ピーク面積は、ピーク波形とベースラインによって囲まれる領域の面積を意味する。
【0059】
第一電気化学的特徴は、電位をX軸に、電流値をY軸にプロットしたグラフにおいて表される電流値の変化を示すピーク波形(第一ピークシグナル)によって特定してもよく、上記数値又は計算値によって特定してもよい。第一電気化学的特徴を上記数値又は計算値で特定する場合、第一電気化学的特徴は、過去の実験データ又は電子メディエーターを含まない場合の実験データと比較して特定してもよい。
【0060】
(判定工程)
本実施形態にかかる方法は、上記電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が取得された場合、上記電気化学的処理工程と上記測定工程が正常に行われたと判定する判定工程を有する。
【0061】
判定工程においては、被検物質を測定する方法、条件及び機器(作用電極を含む)が正常であるか否かを判定することができる。具体的には、電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が電流値に生じている場合は、被検物質を測定する方法、条件及び機器が正常であると判定される。したがって、電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が電流値に生じ、且つ、金属微粒子に起因する第二電気化学的特徴(後述)が電流値に生じない場合は、被検物質を測定する方法、条件及び機器が正常である一方で、作用電極上の構成要素(被検物質、第1の結合物質及び標識体(第2の結合物質及び金属微粒子を含む))に問題がある場合が考えられるが、これらに限定されるものではない。かかる問題には、被検物質の変性又は分解、第1の結合物質の変性(失活を含む)又は分解、標識体の未完成、第2の結合物質の変性(失活を含む)又は分解、及び金属微粒子の異常を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、かかる問題には、被検物質が第1の結合物質に本来的に結合しない場合が含まれる。
【0062】
電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が電流値に生じない場合は、被検物質を測定する方法、条件及び機器並びに電子メディエーター及びその濃度のうちの少なくとも1つに問題があると判定されるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
また、第一電気化学的特徴及び/又は第二電気化学的特徴が取得できない場合は、本方法を中止し、上述した問題の解消を試みることができる。
【0064】
2 被物質の測定データを補正する方法
本実施形態にかかる方法は、上記電気化学的処理工程と、測定工程と、第一取得工程と、判定工程と、を有する。
【0065】
(第二取得工程)
本実施形態にかかる方法は、上記金属微粒子に起因する第二電気化学的特徴を上記電流値から取得する第二取得工程を有する。
【0066】
第二電気化学的特徴は、酸化溶出した金属が存在しない場合には生じない電流値の変化(還元電流とも称する)によって生じる。電位をX軸に、電流値をY軸にプロットしたグラフにおいて、第二電気化学的特徴は、電流値の変化を示すピーク波形(第二ピークシグナルとも称する)で表すことができる。
【0067】
第二電気化学的特徴は、数値的特徴(第二数値的特徴とも称する)として表すことができる。この場合、第二電気化学的特徴は、第二ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値(面積など)であってよい。例えば、上記第二電気化学的特徴は、上記第二ピークシグナルに対応する
(1―1) 一又は複数の電流値、
(1―2) 一又は複数の電位、
(1―3) 複数の電流値から算出された計算値、
(1―4) 複数の電位から算出された計算値、及び
(1―5) 一又は複数の電流値及び一又は複数の電位から算出された計算値、
からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0068】
上記第二電気化学的特徴は、上記第二ピークシグナルにおける第二電流ピークポイント電位(A2)、第二ピークポイント電流値(B2)、第二ピーク値(C2)及び第二ピーク面積(D2)からなる群より選択されてもよい。
【0069】
ピークポイント電位及びピークポイント電流値は、それぞれ、ピーク波形におけるピーク端に対応する電位及び電流値を意味する。ピーク値は、ピーク波形のベースラインと、ピークポイント電流値の差分電流を意味する。ピーク面積は、ピーク波形とベースラインによって囲まれる領域の面積を意味する。
【0070】
第二電気化学的特徴は、電位をX軸に、電流値をY軸にプロットしたグラフにおいて表される電流値の変化を示すピーク波形(第二ピークシグナル)によって特定してもよく、上記数値又は計算値によって特定してもよい。第二電気化学的特徴を上記数値又は計算値で特定する場合、第二電気化学的特徴は、過去の実験データ又は電子メディエーターを含まない場合の実験データと比較して特定してもよい。
【0071】
第一電気化学的特徴が第二電気的特徴と重なる場合は、電子メディエーターを変更することで重なりを解消させてもよい。
【0072】
(算出工程と補正工程)
本実施形態にかかる方法は、上記第一電気化学的特徴及び/又は第二電気化学的特徴から補正値を算出する算出工程と、上記補正値を用いて上記第二電気化学的特徴を補正する補正工程と、を有する。補正値は、第一数値的特徴、第二数値的特徴又はこれらの組み合わせから算出することができる。
【0073】
例えば、補正値は、
(1) 第一ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値、
(2) 第二ピークシグナルにおける一連の電位及び電流値から選択される1若しくは複数の数値又はこれらの値から算出した計算値、又は
(3) (1)と(2)の組み合わせ
から算出してもよく、
第一ピークポイント電位(A1)、第一ピークポイント電流値(B1)、第一ピーク値(C1)及び第一ピーク面積(D1)、第二電流ピークポイント電位(A2)、第二ピークポイント電流値(B2)、第二ピーク値(C2)及び第二ピーク面積(D2)からなる群より選択される1又は複数から算出してもよい。
【0074】
補正値は、補正を希望する第二電気化学的特徴に適するように算出する必要がある。例えば、第二ピークポイント電流値(B2)を補正したい場合は、第二ピークポイント電流値(B2)は、第一ピークポイント電流値(B1)で第二ピークポイント電流値(B2)を除するか(このときの補正値は、1/B1)、第二ピークポイント電流値(B2)から第二ピーク値(C2)を減じた値で第二ピークポイント電流値(B2)を除する(このときの補正値は、1/(B2-C2))ことで補正することができる。ここでは、補正値と第二電気化学的特徴を乗ずることで、第二電気化学的特徴を補正したが、任意の計算方法(例えば、加法、減法、乗法及び除法)を用いることができる。
【0075】
算出工程の前に、第二電気化学的特徴を補正する必要があるか否かを確認する確認工程を有していてもよい。確認工程は、複数回測定して第二電気化学的特徴から算出した変動係数に基づいて判断してもよい。
【0076】
(検証工程)
本実施形態にかかる方法は、上記第二電気化学的特徴が外れ値であるかを検証する検証工程を有していてもよい。
ある実施形態において、下記条件(i)及び(ii)を満たす場合、上記第二電気化学的特徴が外れ値であると判定する。
条件(i):(B1-C1)-(B2-C2)>0.4
条件(ii):(B1-C1)>1.0
別の実施形態において、下記条件(i)及び(ii)を満たす場合、上記第二電気化学的特徴が外れ値であると判定する。
条件(i):(B1-C1)-(B2-C2)>0.5
条件(ii):(B1-C1)>2.0
【0077】
(決定工程)
本実施形態にかかる方法は、補正後の上記第二電気化学的特徴に基づいて上記被検物質の濃度を決定する決定工程を更に有していてもよい。還元電流値と既知濃度の被検物質と関係を予め求めておき、測定された還元電流値と比較することにより、被検物質濃度を求めることができる。
【0078】
なお、以上の説明においては、被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法として、非競合反応を利用して被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法を例に挙げたが、競合反応を利用して被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法を採用しても構わない。
【実施例
【0079】
以下、本発明の実施例について、実験結果を参照して説明する(実験装置、方法、条件及び試薬の詳細は、WO2007/116811を参照)。
【0080】
(実験1)
1.作用電極への抗体の固定化
本実験では、作用電極の表面に一次抗体(抗hCG抗体)を固定化した印刷電極を用いて、PBS(リン酸緩衝液)で希釈したヒトゴナドトロピン(hCG)の測定を試みた。hCGは妊娠診断用マーカーの一種である。金コロイド標識二次抗体としては、金コロイド標識抗hαS抗体を用いた。
【0081】
被検物質測定用の電極デバイスとしては、図1に示すプレナー型の印刷電極デバイス1(幅4mm、長さ12mm)を用いた。印刷電極デバイス1は、カーボンペーストで形成した作用電極2及び対極3と、カーボンペーストで形成したリード(不図示)と、銀/塩化銀で形成した参照電極4とを絶縁支持体5上に有するものであり、作用電極2、対極3及び参照電極4の表面の一部が絶縁層6で被覆されることにより、有効な電極面積が規定されている。
【0082】
濃度100μg/mLに調製した抗hCG抗体(一次抗体)溶液を作用電極上に2μL滴下し、4℃の冷暗所で12時間以上静置することにより抗hCG抗体を作用電極の表面に固定した。PBSを用いて印刷電極デバイスを洗浄後、0.1%の牛血清アルブミンでブロッキングを行った。
【0083】
2.被検物質の測定
被検物質としてのCRPをPBS(リン酸緩衝液)で希釈することにより、CRP濃度が5ng/mLとなるように溶液を調製した。また、乾燥担持させた金コロイド標識抗体に処理した被物質溶液と混合させ、その溶液を抗体の固定及びブロッキングを行った上記作用電極上に4.5μL滴下し、室温で3分静置することにより抗原抗体反応させた。その後、PBSを用いて印刷電極デバイスを洗浄した。
【0084】
電子メディエーターとしてのフェナジンメトサルフェート(PMS)を2MNaClで希釈することにより、PMSが0.05mMとなるように溶液を調製した。
洗浄後、0.05mMのPMSを含む2MNaCl水溶液の30μLを、作用電極、参照極及び対極の全面が完全に覆われるように上記処理した印刷電極デバイス上に滴下し、銀塩化銀参照電極に対する作用電極の電位を+1.2Vに保持した。保持時間は40秒間とした。
【0085】
次に、微分パルスボルタンメトリーにより、作用電極の電位を0.8Vから-0.1Vへ変化させていき、電位変化に対する電流変化を測定した。ボルタンメトリーの条件は電位増加0.004V、パルス振幅0.05V、パルス幅0.05S、パルス期間0.2Sとした。電位に対する電流変化の特性図を、図2に示す。図2に示すように、+0V付近に、PMSの還元に伴う電流のピークが得られ、+0.4V付近に、金の還元に伴う電流のピークが得られた。PMSの還元に伴う電流のピークは、金の還元に伴う電流のピークと重ならないため、PMS内部標準物質として使用でき、更に、被検物質を測定する方法、条件及び機器が正常であってことを判定することができることが明らかになった。
【0086】
(実験2)
PMSの還元に伴う電流のピークに基づいて、金の還元に伴う電流のピークの補正が可能か検討した。実験1と同じ実験方法を6回繰り返し、PMSの還元に伴う電流のピークと金の還元に伴う電流のピークのそれぞれのピークポイントの電位(V)及び電流値(μA)並びにピーク値(μA)を測定した。図3は、ピークポイントの電位(V)及び電流値(μA)並びにピーク値(μA)を説明するためのグラフである。ピークポイントの電位(V)及び電流値(μA)は、波形ピークの座標位置から取得した(それぞれ、図3の(1)及び(2))。ピーク値(μA)は、ピーク波形のベースライン(4)と、ピークポイントの電流値(2)の差分電流である。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
金コロイドのピーク値の変動係数(CV)が高く、10.56%であった一方で、PMSのピーク値のCVは低く、1.6%であった。PMSのピーク値のCVが低いことから、PMSなどの電子メディエーターを用いることで、金コロイドのピークポイントの電位(V)及び電流値(μA)並びにピーク値(μA)を補正することができる可能性があることが示唆された。
【0089】
次に、金コロイドのピークポイントの電流値をPMSのピークポイント電流値で割ることで、金コロイドのピークポイントの電流値を補正した。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
金コロイドのピークポイントの補正後の電流値(3.06%)は、金コロイドのピークポイントの補正前の電流値(3.39%)よりも低くすることができた。
【0092】
(実験3)
PMSの還元に伴う電流のピークに基づいて、金の還元に伴う電流のピークの外れ値の除外が可能か検討した。実験1と同じ実験方法(但し、金コロイドの濃度は210ng/mL)を5回繰り返し、PMSの還元に伴う電流のピークと金の還元に伴う電流のピークのそれぞれのピークポイントの電位(V)及び電流値(μA)並びにピーク値(μA)を測定した。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
次に、以下の式から導かれる値を取得した。
式(i):(PMSのピークポイント電流値-PMSのピーク値)-(金のピークポイント電流値-金のピーク値)
式(ii):(PMSのピークポイント電流値-PMSのピーク値)
式(iii):式(ii)-式(i)
結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
表2の結果に基づいて、以下の条件(i)及び条件(ii)を満たすピーク値は、外れ値であると仮定した。

条件(i):(PMSのピークポイント電流値-PMSのピーク値)-(金のピークポイント電流値-金のピーク値)>0.5
条件(ii):(PMSのピークポイント電流値-PMSのピーク値)>2.0
【0097】
(実験4)
実験4の方法及び条件は、被物質及びその濃度並びに各抗体を除いて実験1の方法及び条件と同じである。被検物質としてCRP抗原を、一次抗体(抗CRP抗体)を、金コロイド標識二次抗体として金コロイド標識抗体を用いた。被検物質の各濃度は、0、15、45、90、180、210及び360ng/mLとした。結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
CRP抗原の濃度が、15、45、90及び210ng/mLの場合、ピーク値が外れ値となった。この外れ値を除いた結果及び実験2と同じ方法で行った補正の結果を表6に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
外れ値を除くことによって、濃度が15、45、90及び210ng/mLのCRP抗原におけるピークポイントのCV値を小さくすることができた。
【0102】
(実験5)
実験4の表5を用いて、実験2とは異なる補正値でピークポイントを補正した。実験5では、ピークポイントからピーク値を減じた値でピークポイントを除することでピークポイントを補正した。結果を表7に示す。
【0103】
【表7】
【0104】
当該補正であっても、ピークポイントのCV値を低くさせることが明らかになった。
【要約】      (修正有)
【課題】被検物質に対応する信号が検出されなかった場合、検出物質が存在しないのか、検出物質の測定が正常に行われなかったのかが不明である。
【解決手段】被検物質測定の正常性判定方法であって、被検物質に特異的な第1の結合物質と第2の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体とを備える作用電極であって電子メディエーターが供給されている作用電極の電位制御を行い電子メディエーターと金属微粒子に対して第一電気化学的処理を行う電気化学的処理工程と、第一電気化学的処理を受けた金属微粒子と電子メディエーターに対して第二電気化学的処理を行う際の電流値を測定する測定工程と、電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴を電流値から取得する第一取得工程と電子メディエーターに起因する第一電気化学的特徴が取得された場合、電気化学的処理工程と測定工程が正常か判定する工程とを有し第1の結合物質は上記作用電極に固定される方法。
【選択図】図2
図1
図2
図3