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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】培養シート
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/16 20060101AFI20240411BHJP
   C12M 1/22 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12M1/16
C12M1/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023049702
(22)【出願日】2023-03-27
【審査請求日】2023-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503174969
【氏名又は名称】株式会社アテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林田 国雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 綾香
(72)【発明者】
【氏名】井手口 真也
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隆志
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-024032(JP,A)
【文献】特開2019-180369(JP,A)
【文献】特開2000-279162(JP,A)
【文献】特開2008-193919(JP,A)
【文献】特開2017-184772(JP,A)
【文献】特開2014-221007(JP,A)
【文献】特開2016-111938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の第1表面に設けられた培地層と、前記培地層を被覆可能に設けられたカバー部材と、を有する培養シートであって、
前記カバー部材は、その表面から突出する凸部を有し、
前記培地層を被覆するように前記カバー部材を前記基材上に配置した被覆状態において、前記凸部は、前記培地層の外周を取り囲むように前記基材に接触し、
下記[i]又は[ii]:
[i]前記被覆状態での断面において、前記凸部は少なくとも1つの頂点を有し、かつ、前記頂点で前記基材の前記第1表面に点接触する
[ii]前記被覆状態での断面における前記凸部の断面形状は、前記凸部の幅が先端に向かうにつれて狭くなり、かつ、前記凸部の表面の高さが先端に向かうにつれて漸増する形状であって、前記基材の前記第1表面に点接触する形状である
を満たす、培養シート。
【請求項2】
前記第1表面は、段差のない平坦な面である、請求項1に記載の培養シート。
【請求項3】
前記カバー部材は、前記凸部で囲まれた内部領域と、前記凸部よりも外側で前記内部領域を取り囲む外部領域とを有する、請求項1又は2に記載の培養シート。
【請求項4】
前記凸部は、前記カバー部材の平面視において環状に設けられている、請求項1又は2に記載の培養シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を培養する際に用いられる培養シートに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物検査等を簡便に行うために、基材シートに乾燥培地である培地層を設けた培養シートを用いることが知られている。培養シートには、培養しようとする検体以外の微生物又は異物等によって培地層が汚染されることを抑制するために、培地層を被覆するカバーシートを設けることがある(例えば、特許文献1及び2等)。培養シートで培養を行う際には、培地層を被覆した状態にあるカバーシートを開き、露出した培地層に被検液を接種した後、再びカバーシートで培地層を被覆して被検液中の検体の培養を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-153501号公報
【文献】特開2022-29737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなカバーシートを開閉する操作は、手袋を装着した検査者の手で行われることがある。カバーシートの表面のうちの培地層に接触する領域に手が触れると、検体以外の微生物又は異物等が培地層に混入するいわゆるコンタミネーションの発生が懸念される。コンタミネーションの発生は、培養シートでの培養結果の誤判定を引き起こす原因になり得る。
【0005】
本発明は、培地層の汚染を抑制しやすい培養シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の培養シートは、基材と、前記基材の第1表面に設けられた培地層と、前記培地層を被覆可能に設けられたカバー部材と、を有する培養シートであって、
前記カバー部材は、その表面から突出する凸部を有し、
前記培地層を被覆するように前記カバー部材を前記基材上に配置した被覆状態において、前記凸部は、前記培地層の外周を取り囲むように前記基材に接触する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、培地層の汚染を抑制しやすい培養シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る培養シートを模式的に示す斜視図であり、(a)はカバー部材が培地層を被覆した状態を示し、(b)はカバー部材が培地層を被覆していない状態を示す。
図2図1のI-I’線の断面を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す斜視図である。
図9】培養シートの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。各図に示す実施形態は、任意に組み合わせることができる。
【0010】
(培養シート)
図1は、本発明の一実施形態に係る培養シートを模式的に示す斜視図であり、(a)はカバー部材が培地層を被覆した状態を示し、(b)はカバー部材が培地層を被覆していない状態を示す。図2は、図1のI-I’線の断面を模式的に示す断面図である。図3図5は、本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の培養シート1は、基材10と、基材10の第1表面11に設けられた培地層2と、培地層2を被覆可能に設けられたカバー部材30とを有する。カバー部材30は、図1(a)に示すように、培地層2を被覆するように基材10上に配置した状態(以下、「被覆状態」ともいう。)としたり、図1(b)に示すように、培地層2を被覆していない状態(以下、「非被覆状態」ともいう。)としたりすることができる。カバー部材30は通常、培地層2を観察できるように透明である。
【0012】
図1(b)及び図2に示すように、カバー部材30は、その表面から突出する凸部33を有する。凸部33は、カバー部材30を被覆状態としたときに、培地層2の外周を取り囲むように基材10に接触する。凸部33は、カバー部材30を被覆状態としたときに、基材10と対向する側の表面に設けることができる。
【0013】
培養シート1の培地層2は、培養しようとする細菌及びカビ等の微生物である検体が培養される領域である。培地層2には通常、検体を含む被検液が接種される。
【0014】
使用前の培養シート1では通常、カバー部材30は被覆状態にある(図1(a))。培養シート1の使用時には、例えば図1(b)に示すようにカバー部材30を非被覆状態とし、ピペット等を用いて培地層2に検体を含む被検液を接種する。その後、再びカバー部材30を被覆状態とし、必要に応じてカバー部材30を上から軽く押さえることにより、被検液を培地層2に広げることができる。その後、検体の生育に適した温度及び湿度に設定されたインキュベーター等に培養シート1を収容して検体を培養する。培養後に培地層2に発生したコロニーは、カバー部材30を通して観察することができる。
【0015】
培養シート1では被覆状態において、凸部33が培地層2の外周を取り囲み、培地層2の表面を被覆するようにカバー部材30が配置されるため、基材10及びカバー部材30によって取り囲まれた空間(以下、「培養空間」ともいう。)22を形成することができる(図2図5)。カバー部材30の凸部33により、被覆状態においてカバー部材30のうちの培地層2と対向する領域を示すことができるため、検査者がカバー部材30の培地層と対向する領域を認識しやすくなる。そのため、カバー部材30を被覆状態から非被覆状態としたり、非被覆状態から被覆状態としたりするときに、検査者が、カバー部材30のうちの培地層2と対向する領域に誤って触れることを抑制することができる。これにより、培地層2が汚染されることを抑制でき、培養結果の誤判定を抑制することが期待できる。
【0016】
培養シート1の培養空間22の中に培地層2が配置されることにより、被検液が培地層2の周縁を超えて広がった場合にも、凸部33が障壁となって被検液の流出を抑制しやすくなるため、培地層2に接種された被検液が培養空間22の外部に広がりにくくすることができる。上記のように培養空間22が形成されることにより、培養時に培地層2から水分が蒸発することを抑制することもできる。また、培養シート1の使用を開始するまでの間や培養時に、培地層2が検体以外の微生物及び異物等によるコンタミネーションを抑制することもできる。
【0017】
カバー部材30の凸部33は、少なくともその一部が、被覆状態において基材10のいずれかの部分に接触していればよい。凸部33は、被覆状態において基材10の端部の側壁(第1表面11と第2表面12とを繋ぐ部分)に接触してもよいが、図2図5に示すように、基材10の第1表面11に接触することが好ましい。凸部33の最も突出した部分が基材10に接触することが好ましい。
【0018】
カバー部材30が有する凸部33は、被覆状態としたときに培地層2と対向するカバー部材30の領域を認識できるように設けられていればよく、被覆状態としたときに培地層2の外周を取り囲むように設けられていることが好ましい。凸部33は、カバー部材30の平面視において断続的に設けられていてもよいが、被検液の流出を抑制するという観点からは連続的に設けられていることが好ましい。培地層2に接種された被検液を培養空間22内に留まりやすくするという観点から、凸部33は、カバー部材30を被覆状態としたときに密閉された培養空間22が形成されるように設けることが好ましい。
【0019】
凸部33は、図1に示すように環状に設けられていることが好ましい。凸部33が形成する環状の形状は、被覆状態において培地層2の外周全体を取り囲むことができれば円形状に限らず、多角形状や任意の形状であってもよい。凸部33が環状に形成されていることにより、被覆状態としたときに培地層2と対向するカバー部材30の領域を認識しやすい。また、被覆状態において培地層2の外周を環状に取り囲むことができるため、培養空間22の外部に被検液が広がることをより一層抑制できる。
【0020】
被覆状態での培養シート1の断面(培地層2を通る断面)での凸部33の断面形状は、半円形状(図2等)であってもよく、三角形状(図3)及び四角形状(図4図5)等の多角形状であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。凸部33の断面形状は、図2及び図3等に示すように、凸部33の幅は、先端に向かうにつれて狭くなり、凸部33の表面の高さは、先端に向かうにつれて漸増することが好ましい。凸部33が環状に設けられている場合、凸部33の断面形状は、全周にわたって同じであってもよく、異なる形状が組み合わされていてもよい。
【0021】
凸部33の上記断面形状は、少なくとも1つの頂点を有する形状であって、被覆状態において、少なくとも上記頂点が基材10の第1表面11に接触することが好ましい。第1表面11に接触する凸部33の頂点は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。少なくとも1つの頂点を有する形状とは、例えば図2に示すような円弧状の他、頂点で基材10の第1表面11に接触するように形成された三角形状(図3)、鋸刃形状、及び正弦波形状等が挙げられる。凸部33は、カバー部材30の被覆状態において、第1表面11に対向する面に頂点を有していればよく、例えば図4に示すような四角形状の凸部33の表面のうちの第1表面11に対向する面に、頂点を有する凹凸を形成してもよい。
【0022】
上記のように、凸部33がその頂点で第1表面11に接触することにより、上記断面において、凸部33と第1表面11とが点接触した状態となる。これにより、被検液が凸部33と第1表面11との接触位置に到達したときに、毛細管現象による被検液の染み出しを抑制しやすくなる。そのため、培養空間22の外に被検液が広がることをより一層抑制することができる。一方、図4及び図5に示すように、上記断面において凸部33と第1表面11とが面接触した状態になると、被検液が凸部33と第1表面11との接触部分で毛細管現象により被検液が染み出しやすくなるため、培養空間22の外に被検液が広がりやすい。
【0023】
図1図4に示すように、凸部33がカバー部材30の外縁よりも内側に設けられることにより、カバー部材30は、凸部33で囲まれた内部領域32と、凸部33よりも外側で内部領域32を取り囲む外部領域34とを有していてもよく、図5に示すように、内部領域32のみを有し、外部領域34を有していなくてもよい。あるいは、カバー部材30は、凸部33よりも外側に外部領域34を有する部分と有しない部分との両方を有していてもよい。
【0024】
カバー部材30が内部領域32及び外部領域34を有する場合(図1~4)、凸部33は内部領域32及び外部領域34よりも突出することができる。特に、被覆状態での上記断面において、凸部33と基材10の第1表面11とが面接触する場合(例えば、図4及び図5)、カバー部材30は外部領域34を有することが好ましい(図4)。図5に示すように、凸部33がカバー部材30の外縁に至るように設けられ、カバー部材30の被覆状態において凸部33と第1表面11とが面接触していると、毛細管現象により被検液がカバー部材30の外縁まで染み出しやすく、培養シート1から被検液が漏れ出しやすい。これに対し、外部領域34が設けられていると、毛細管現象により被検液が染み出しても、第1表面11と外部領域34との間の空間が形成されているため、培養シート1から被検液が漏れ出ることを抑制しやすい。
【0025】
培養シート1では1つの検体が培養されてもよい。複数の検体を培養する場合には、検体の数に応じた枚数の培養シート1を用いて培養を行ってもよい。
【0026】
培養シート1には、培養シート1の管理を容易にするために、製造ロット及びシリアルナンバー等の製造ID、製造者情報、製品の種類を示す各種記号、有効期限等の各種情報が付与されていてもよい。これらの情報は、培養シート1の基材10又はカバー部材30に直接印刷することによって付与してもよく、シール等を貼付することによって付与してもよい。
【0027】
以下、培養シート1の各部について詳細に説明する。図6及び図7は、本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す断面図である。図8は、本発明の他の実施形態に係る培養シートを模式的に示す斜視図である。
【0028】
(基材)
基材10は、培地層2を支持することができる。基材10は、シート状又は平板状であることができ、第1表面11と、第1表面11とは反対側の表面である第2表面12とを有する。基材10の第1表面11は、その表面の一部に培地層2が設けられることにより培地層2によって被覆されており、残りの第1表面11の部分は露出している。培地層2は、第1表面11の任意の位置に設けることができるが、例えば図1に示すように、培養シート1の平面視において第1表面11の中央部分に設けることができる。第1表面11には1つの培地層2が設けられるが、2つ以上の培地層2が設けられていてもよい。
【0029】
基材10の平面視形状は特に限定されず、例えば、円形状、半円形状、並びに、四角形及び六角形等の多角形状等であってもよく、これらを組み合わせた形状であってもよい。基材10の平面視形状は、好ましくは四角形状であり、より好ましくは長方形又は正方形の方形である。基材10は、図1に示すように、平面視形状の少なくとも1つの辺の一部が切欠かれていてもよく、少なくとも1つの角が面取りされた形状であってもよい。基材10の平面視における大きさは特に限定されないが、図1に示すような略四角形状である場合、例えば一辺が40~100mmであり、好ましくは70~90mmである。基材10の厚みは特に限定されないが、例えば0.1~3mmであり、好ましくは0.5~2mmである。
【0030】
基材10の第1表面11は、図2図5に示すように段差のない平坦な面であってもよく、図6及び図7に示すように凹部15を有していてもよい。図2図5に示すように第1表面11の平坦な面に培地層2が設けられる場合、培養シート1の断面において、培地層2の基材10側とは反対側の表面と第1表面11との間に段差が形成されるように、培地層2を設けることができる。
【0031】
第1表面11が凹部15を有する場合、凹部15に培地層2を設けることができる。凹部15は、培地層2全体を収容可能な大きさを有することが好ましい。基材10が凹部15を有することにより、被検液が凹部15内に留まりやすくなるため、培養空間22の外部に被検液が広がることを抑制することができる。
【0032】
基材10が凹部15を有し、凹部15に培地層2が配置される場合、カバー部材30の被覆状態において、凸部33は、図6及び図7に示すように、基材10の第1表面11のうちの凹部15よりも外側の領域に接触することが好ましい。これにより、被検液が凹部15の外部に広がった場合にも、凸部33によって、被検液が培養空間22の外部に広がることをより一層抑制することができる。
【0033】
培養シート1の平面視において、凹部15の平面視形状は、培地層2の平面視形状と相似の関係にあってもよく、相似の関係になくてもよい。凹部15の平面視における面積は、培地層2の平面視における面積と同じかそれよりも大きいことが好ましい。
【0034】
凹部15の深さは、培地層2の厚みによって調整すればよい。凹部15に培地層2を設けたときに、培養シート1の断面において、培地層2の表面の位置が、凹部15が形成されていない領域の第1表面11の位置を超えないように(当該第1表面11よりも低い位置となるように)、凹部15の深さを設定することが好ましい。凹部15の深さは、例えば0.1~5mmであってもよく、0.2~3mmであってもよく、0.5~2mmであってもよい。
【0035】
基材10の断面における凹部15の断面形状は特に限定されず、長方形状であってもよく、図6及び図7に示すように、第1表面11から第2表面12に向けてテーパー状に狭くなる台形状であってもよい(図6及び図7)。
【0036】
凹部15は、基材10を形成するためのシート部材又は板状部材を立体加工することにより形成してもよく、シート部材又は板状部材の切削加工により形成してもよい。後述するように、基材10が樹脂を用いて形成されている場合は、射出成形、ブロー成形、及びプレス成形等の金型を用いた樹脂成形によって凹部15を形成してもよい。
【0037】
基材10の第2表面12は、図2図6に示すように平坦な面であってもよく、図7に示すように、第1表面11に形成された凹部15の形状に対応する凸形状を有していてもよい。第2表面12が有する凸形状は、第1表面11に凹部15を形成した結果、第2表面12が変形したものであってもよい。第1表面11に凹部15を有し、第2表面12が凸形状である基材10は、シート部材又は板状部材の立体加工、又は樹脂成形等によって形成することができる。
【0038】
基材10は、培養シート1を積み重ねる際の位置ずれを抑制するために、スタックリブ8を有していてもよい(図1)。スタックリブ8は、基材10に設けられた培地層2以外の領域に設けることができ、例えば基材10が方形等の多角形である場合、角部分に設けることができる。スタックリブ8は、基材10の第1表面11から第2表面12に向かって凸状に形成することができ、第2表面12に向かって先細りとなるテーパー形状に形成されていることが好ましい。このように形成されたスタックリブ8は、基材10の第1表面11では凹状に凹んだ開口部となるが、この開口部の平面視における大きさはスタックリブ8の第2表面12側の先端を差し込み可能な大きさに形成すればよい。これにより、培養シート1を積み重ねたときに、上側に配置される培養シート1のスタックリブ8の第2表面12側の先端が、下側に配置される培養シート1のスタックリブ8の第1表面11側の開口部に差し込まれて固定されるため、積み重ねられた培養シート1の位置が水平方向にずれることを抑制できる。
【0039】
基材10を構成する材料は特に限定されず、例えば、樹脂、紙、ガラス、金属、及びセラミック等が挙げられるが、好ましくは樹脂である。基材を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン-1、エチレン・テトラシクロドデセン・コポリマー、及びエチレン・2-ノルボルネン樹脂等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、及びヒドロキシ安息香酸ポリエステル等のポリエステル;ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアリルスルホン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、ポリ(メタ)アクリルスチレン、ポリエステルカーボネート、ポリブチレンサクシネート、及び3-ヒドロキシ酪酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。基材は、樹脂のほか、可塑剤、滑剤、表面改質剤、顔料、染料、充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
基材10は、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造を有していてもよい。基材10が多層構造を有する場合、各層の材料は同じであってもよく異なっていてもよい。
【0041】
(培地層)
培地層2は、基材10の第1表面11に形成され、検体が培養される領域である。培地層2は、乾燥状態の培地(乾燥培地)であることができる。乾燥培地は、加水によって検体の培養が可能な状態とすることができる。培地層2が乾燥培地である場合、培地層2に検体及び水を含む被検液を接種し、カバー部材30で培地層2を被覆することにより、被検液を培地層2全体に広げることができる。上記したようにカバー部材30は凸部33を有する。そのため、培養シート1では、培地層2に接種された被検液が、基材10、カバー部材30、及び凸部33によって形成される培養空間22の外部に広がることを抑制できる。
【0042】
乾燥培地である培地層2は、バインダー、ゲル化剤、栄養成分、発色指示薬、及び選択剤等のうちの1つ以上の成分を含む。培地層2は、これらの成分を溶媒中で混合して調製した培地液を、基材10の第1表面11に塗布し、乾燥することによって形成することができる。培地液の塗布方法としては、メタルマスク法を含むスクリーン印刷及びグラビア印刷、ディスペンサーによる塗布、並びにスプレー方式による噴霧等が挙げられる。
【0043】
バインダーは、培地層2を基材10の第1表面11に固着させるために用いられる。バインダーとしては、溶媒に溶解する高分子化合物が挙げられ、水及び有機溶媒のうちの少なくとも一方に溶解する高分子化合物であってもよく、これらの両方に溶解する両親媒性の高分子化合物であってもよい。バインダーとしては、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、及びポリアクリル酸等が挙げられる。バインダーは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
ゲル化剤は、検体を含む被検液中の水分を吸収してゲル化させ、検体(微生物)の生育に必要な場を提供するために用いられる。ゲル化剤としては、グァーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドシードガム、及びカラギーナン等の増粘多糖類;ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリアクリル酸ナトリウム及びアルギン酸等が挙げられる。ゲル化剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
栄養成分は、検体の生育に必要な成分であり、窒素源、炭素源、無機塩類、及びビタミン等を提供するために用いられる。窒素源及び炭素源としては、ペプトン(カゼイン・獣肉・大豆等)が挙げられ、無機塩類及びビタミンとしては、酵母エキス等のエキス類、リン酸一水素カリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
発色指示薬は、コロニーを発色させることでその存在を視認しやすくするために用いられ、pHの変動や検体が産生する酵素により呈色する。発色指示薬としては、トリフェニルテトラゾリウムクロライド及びテトラゾリウムバイオレット等のテトラゾリウム塩;ニュートラルレッド、フェノールレッド、及びブロモチモールブルー等のpH指示薬;5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(X-Gal)及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸等の発色指示薬の酵素基質等が挙げられる。
【0047】
選択剤は、検出したい菌以外の微生物の発育を抑制するために用いられる。選択剤は、胆汁酸塩、デオキシコール酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤;クリスタルバイオレット及びブリリアントグリーン等の色素;チオ硫酸ナトリウム、塩化リチウム、及びアジ化ナトリウム等の無機塩類が挙げられる。
【0048】
溶媒は、培地層に含まれる各成分を混合するために用いられ、水、有機溶媒、及びこれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。溶媒は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
培地層2の平面視形状は特に限定されず、例えば、円形状、半円形状、並びに、三角形、長方形、及び正方形等の多角形状等であってもよく、これらを組み合わせた形状であってもよい。培地層2の平面視形状は、好ましくは円形状である。培地層2の平面視における大きさは特に限定されないが、図1に示すような円形状である場合、直径が40~80mmであってもよく、50~60mmであってもよい。
【0050】
(カバー部材)
カバー部材30は、培地層2を被覆して保護するために設けられる。カバー部材30は、培養シート1の使用前又は培養時のコンタミネーションを抑制したり、培養時に培地層2から水分が蒸発することを抑制したり、被検液を培地層2全体に拡散させたりするために用いることができる。
【0051】
カバー部材30は、シート状又は平板状であることができ、培地層2に発生するコロニーを観察しやすいように透明であることが好ましい。カバー部材30は、検体の培養に適した気体透過性を有することが好ましい。
【0052】
カバー部材30は、基材10とは別部材であってもよく、基材10の一部分によって構成されていてもよい。カバー部材30が基材10とは別部材である場合、カバー部材30は、基材10に予め取り付けられていることが好ましい。例えば図1に示すように、カバー部材30の一辺を、基材10に接着又はカシメ等の固着手段により取り付けてもよい。カバー部材30の固着位置は、基材10の第1表面11であってもよく第2表面12であってもよい。カバー部材30が基材10の一部で構成されている場合、基材10を二つ折り等に折り畳むことにより、基材10のうちの培地層2が形成されていない領域を、培地層2を被覆するカバー部材30とすることができる。
【0053】
カバー部材30の平面視形状は、培地層2を被覆することができれば特に制限されず、例えば、円形状、半円形状、並びに、四角形及び六角形等の多角形状等であってもよく、これらを組み合わせた形状であってもよい。カバー部材30の平面視における大きさは、培地層2を被覆し、被覆状態で凸部33が培地層2の外周を取り囲むことができる大きさであればよいが、培地層2よりも大きいことが好ましい。カバー部材30の平面視における大きさは、基材10の大きさよりも小さくてもよく、同じであってもよく、大きくてもよい。
【0054】
カバー部材30の厚みは特に限定されないが、例えば0.01~3mmであり、好ましくは0.01~1mmであり、0.02~0.5mmであってもよく、0.02~0.1mmであってもよい。
【0055】
上記したように、カバー部材30は凸部33を有する。カバー部材30が凸部33を有することにより、カバー部材30の重量を増加させることができる。これにより、特にカバー部材30が自然にめくれ、培地層2が汚染されることを抑制できる。また、カバー部材30が凸部33を有することにより、カバー部材30の形状を維持しやすくなる。凸部を有していないカバー部材に比較すると、カバー部材30に発生するシワを抑制できるため、培養時に水分が蒸発して培地層2が乾燥することを抑制できる。特にカバー部材30がフィルム等のように薄いシートである場合に、凸部33は、カバー部材30のめくれを好適に抑制し、カバー部材30の形状を好適に維持できる。
【0056】
凸部33は、カバー部材30を形成するためのシート部材又は板状部材を立体加工することにより形成してもよく、シート部材又は板状部材の切削加工により形成してもよい。あるいは、シート部材又は板状部材に接着等により凸部33を取り付けたり、パターン形成、印刷、塗布により凸部33を形成したりしたものをカバー部材30としてもよい。後述するように、カバー部材30が樹脂を用いて形成されている場合は、射出成形、ブロー成形、及びプレス成形等の金型を用いた樹脂成形によって凸部33を形成してもよい。樹脂成形によりカバー部材30を得る場合、凸部33を有することにより、成形時にカバー部材30に反りが発生することを抑制できることが期待できる。
【0057】
カバー部材30の凸部33が形成された表面とは反対側の表面は、図2図7に示すように平坦な面であってもよく、凸部33の形状に対応する凹形状を有していてもよい。この凹形状は、凸部33を形成した結果、凸部33が形成された表面とは反対側の表面が変形したものであってもよい。このような形状のカバー部材30は、シート部材又は板状部材の立体加工、又は樹脂成形等によって形成することができる。
【0058】
被覆状態にあるカバー部材30(図1(a))を、非被覆状態(図1(b))にする操作を行いやすくするために、図8に示すように、カバー部材30は把持部36を有していてもよい。把持部36としては、例えば、カバー部材30を被覆状態としたときに、培養シート1の平面視において、カバー部材30の一部が基材10からはみ出すように、カバー部材30の一辺の一部が突出した部分であってもよい。把持部36は、カバー部材30を被覆状態としたときに持ち上げられる部分に設ければよい。培養シート1の平面視において、例えばカバー部材30が基材10の一辺に固着されている場合、当該一辺に対向する一辺に把持部36を設ければよい。カバー部材30が把持部36を有することにより、基材10を把持することなくカバー部材30のみを把持して、カバー部材30を非被覆状態にすることができる。
【0059】
基材10の段差のない平坦な第1表面11に培地層2を設ける場合、カバー部材30の凸部33の高さは、培地層2とカバー部材30との間に隙間が形成されるように設定することが好ましい。例えば、カバー部材30を被覆状態としたときの、培地層2の基材10側とは反対側の表面とカバー部材30の培地層2と対向する側の表面との間の距離が、0.1~3.0mm、好ましくは0.3~2.0mmとなるように、上記隙間を形成すればよい。
【0060】
カバー部材30は、被覆状態としたときに、培地層2に対向する領域(例えば上記した内部領域32)を含むように、例えばバインダー、ゲル化剤、栄養成分、及び発色指示薬からなる群より選ばれる1種以上を含む補助層が形成されていてもよい。補助層は、基材10に形成された培地層2に混合できない成分を含んでいてもよい。補助層は、カバー部材30の培地層2と対向する側の表面全面に形成されていてもよい。バインダー、ゲル化剤、栄養成分、及び発色指示薬としては、上記したものが挙げられる。
【0061】
カバー部材30は、コロニーの大きさを確認したり、コロニーの計数を行いやすくしたりするために、グラビア印刷等の印刷された格子状の模様(目盛り)を有していてもよい。印刷に用いるインキは、水に不溶であって、検体の生育に影響を与えないものが好ましい。格子状の模様は、例えば10mm角の大きさとすることができる。
【0062】
カバー部材30を構成する材料は特に限定されず、例えば、樹脂、紙、ガラス、金属、及びセラミック等が挙げられるが、好ましくは樹脂である。カバー部材30を構成する樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。カバー部材30は、透明性、水蒸気透過性、及び酸素透過性の観点から、ポリスチレン及びポリオレフィンからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
【0063】
カバー部材30は、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造を有していてもよい。基材10が多層構造を有する場合、各層の材料は同じであってもよく異なっていてもよい。カバー部材30のうち、凸部33と凸部33以外の部分とは、同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0064】
〔他の例〕
図9は、培養シートの一例を模式的に示す断面図である。図1~8では、基材10に培地層2が設けられた培養シート1について説明したが、図9に示すように、培養シート5は、カバー部材30に培地層2が設けられていてもよい。あるいは、基材10に培地層2を設け、カバー部材30にも培地層2を設けてもよい。この場合、基材10に設けられた培地層2と、カバー部材30に設けられた培地層2とは、カバー部材30の被覆状態において、対向するように配置することが好ましい。これにより、2つの培地層2の間に被検液を挟み込むことができるため、培地層の乾燥を抑制することができる。
【0065】
[態様]
本発明の実施態様の一部を以下に示す。
〔1〕 基材と、前記基材の第1表面に設けられた培地層と、前記培地層を被覆可能に設けられたカバー部材と、を有する培養シートであって、
前記カバー部材は、その表面から突出する凸部を有し、
前記培地層を被覆するように前記カバー部材を前記基材上に配置した被覆状態において、前記凸部は、前記培地層の外周を取り囲むように前記基材に接触する、培養シート。
〔2〕 前記凸部は、前記被覆状態での断面において少なくとも1つの頂点を有し、
前記被覆状態において、少なくとも前記頂点が前記基材の前記第1表面に接触する、〔1〕に記載の培養シート。
〔3〕 前記カバー部材は、前記凸部で囲まれた内部領域と、前記凸部よりも外側で前記内部領域を取り囲む外部領域とを有する、〔1〕又は〔2〕に記載の培養シート。
〔4〕 前記凸部は、前記カバー部材の平面視において環状に設けられている、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の培養シート。
【符号の説明】
【0066】
1 培養シート、2 培地層、5 培養シート、8 スタックリブ、10 基材、11 第1表面、12 第2表面、15 凹部、22 培養空間、30 カバー部材、32 内部領域、33 凸部、34 外部領域、36 把持部。
【要約】
【課題】培地層の汚染を抑制しやすい培養シートを提供する。
【解決手段】培養シートは、基材と、基材の第1表面に設けられた培地層と、培地層を被覆可能に設けられたカバー部材と、を有する。カバー部材は、その表面から突出する凸部を有する。培地層を被覆するようにカバー部材を基材上に配置した被覆状態において凸部は、培地層の外周を取り囲むように基材に接触する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9