(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】遊星歯車段を有する遊星歯車装置、該装置を有する位置センサシステム、および該装置のバックラッシ低減方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20240411BHJP
F16H 55/18 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
F16H1/28
F16H55/18
(21)【出願番号】P 2019218421
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-06-06
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517104127
【氏名又は名称】グッドリッチ アクチュエーション システムズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィス,スティーヴン
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-048045(JP,A)
【文献】特開2002-145165(JP,A)
【文献】特開昭62-188671(JP,A)
【文献】特表2015-503071(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03076045(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
F16H 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車段を有する遊星歯車装置であって、
前記遊星歯車段が、
太陽歯車と、
複数の遊星歯車軸を含むキャリアと、
前記遊星歯車軸の1つにそれぞれ配置された複数の遊星歯車と、
リングギヤと、
出力シャフトと、を含み、
前記出力シャフトは、前記キャリアと前記出力シャフトとの間にある付勢機構を介して前記キャリアに接続され、前記付勢機構は、前記キャリアと前記出力シャフトが互いに離れる方に付勢するように構成さ
れ、
前記キャリアは、半円形であり、前記半円形の主な曲線は、リングギヤの曲線に追従し、
前記出力シャフトは、前記出力シャフトが前記キャリアに占有されていない前記リングギヤの空間内にあるように、前記リングギヤを通して延びるとともに前記キャリアに隣接するようにして形状づけられる、遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項2】
前記キャリアは、2つの遊星歯車軸を含み、前記遊星歯車段は、2つの遊星歯車を含む、請求項1に記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項3】
前記付勢機構は、複数のばねを含む、請求項1または2に記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項4】
前記複数のばねは、複数の圧縮ばね、または、複数の板ばねを含む、請求項3に記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項5】
前記キャリアは、前記遊星歯車を支持する1つの部材を含む、請求項1~4のいずれかに記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項6】
前記キャリアは、2つの部材を含み、前記遊星歯車が前記キャリア部材の間に配置される、請求項1~4のいずれかに記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項7】
前記キャリアは、2つの遊星歯車軸を有する、請求項1~
6のいずれかに記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項8】
前記2つの遊星歯車軸は、前記半円形
の頂点の近くに位置する、請求項
7に記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項9】
前記付勢機構は、前記キャリアを前記出力シャフトに接続するように、前記キャリアの前記半円形
の頂点の近くに配置される、請求項
1~
8のいずれかに記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項10】
前記付勢機構は、前記太陽歯車の中心を通る軸に垂直な面に成分を有する力を加えることによって、前記キャリアと前記出力シャフトが互いに離れる方に付勢する、請求項1~
9のいずれかに記載の遊星歯車段を有する遊星歯車装置。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれかに記載の前記遊星歯車装置を有する位置センサシステム。
【請求項12】
前記出力シャフトは、トランスデューサに接続される、または、トランスデューサを含む、請求項
11に記載の位置センサシステム。
【請求項13】
遊星歯車段を有する遊星歯車装置のバックラッシ低減方法であって、
前記遊星歯車段は、
太陽歯車と、
複数の遊星歯車軸を含むキャリアと、
前記遊星歯車軸の1つにそれぞれ配置された複数の遊星歯車と、
リングギヤと、
出力シャフトと、
を含み、
前記キャリアは、半円形であり、前記半円形の主な曲線は、リングギヤの曲線に追従し、
前記出力シャフトは、前記出力シャフトが前記キャリアに占有されていない前記リングギヤの空間内にあるように、前記リングギヤを通して延びるとともに前記キャリアに隣接するようにして形状づけられ、
前記キャリアと前記出力シャフトの間にある付勢機構を用いて、前記キャリアと前記出力シャフトが互いに離れる方に付勢することを含む、遊星歯車段を有する遊星歯車装置のバックラッシ低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車装置に関し、より詳細には、歯車装置のバックラッシの低減に関する。
【背景技術】
【0002】
バックラッシは、継ぎ目なく、かみ合わない部品間に存在する隙間または空間である。歯車装置の例においては、バックラッシは、歯車の歯と歯の間に生じ得る。これは、1つの歯車の回転と、その1つの歯車が他の歯車の回転を開始させる時との間に遅延を生じさせる影響を有し得る。位置の精度に関わるシステムにおいて、バックラッシは、不正確な位置測定値につながる場合があり、これにより、機器の不正確な動作を引き起こし得る。
【0003】
遊星歯車段は、典型的に、入力トルクを受ける太陽歯車と、太陽歯車と互いにかみ合い、太陽歯車の周りを回転し、太陽歯車からトルクを受ける2つ以上の遊星歯車と、キャリアとを含む。キャリアは、一般に、太陽歯車の周りを遊星歯車が一緒に回転する時、遊星歯車を支持することと、回転運動から受け取ったトルクを出力シャフトに伝えることという2つの機能を有する。遊星歯車は、キャリア内で遊星歯車の軸を中心に自由に回転するが、太陽歯車を中心とした遊星歯車の軸の円運動によって、キャリアの回転運動を駆動する。典型的に、遊星歯車は、さらに、リングギヤ内にかみ合わされ、リングギヤ内に含まれる。リングギヤは、固定されてもよく、または、回転できてもよい。
【0004】
多段の遊星歯車箱が、通常、回転入力から回転位置トランスデューサへの高比率の減速を提供するように用いられる。このような位置検出システムにおいて、歯車箱内のバックラッシは、典型的に、センサの位置精度を規定する。多段の遊星歯車箱において、センサ精度の制限におけるバックラッシの寄与(contribution)は、歯車箱の出力に最も近い段で、最も高い。例えば、4段の歯車箱では、センサ精度の調節において、段ごとのバックラッシの寄与は、4段目と比較して寄与をパーセンテージで表すと、典型的に、0.5%、5%、22%、及び、100%である。よって、4段目だけ、バックラッシを取り除くことができたとしても、位置センサ精度へのバックラッシの全体の影響は大幅に低減できる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様から見ると、本発明は、遊星歯車段を有する遊星歯車装置を提供する。遊星歯車段は、太陽歯車と、複数の遊星歯車軸を含むキャリアと、遊星歯車軸の1つにそれぞれ配置された複数の遊星歯車と、リングギヤと、出力シャフトとを含み、出力シャフトは、キャリアと出力シャフトとの間にある付勢機構を介してキャリアに接続され、付勢機構は、キャリアと出力シャフトが互いに離れる方に付勢するように構成される。
【0006】
既存の遊星歯車段は、かさばる、重い、または、複雑なバックラッシ低減方法を有する場合があり、これは、設置エンベロープの制約を満たすのが困難になり得る。
【0007】
第1の態様の歯車装置は、キャリアと出力シャフトが互いに離れるように付勢することによって、遊星歯車段のバックラッシを低減する。これは、太陽歯車の中心を通り、遊星歯車の中心を2等分する軸に垂直な面に、主成分または全体を有する力を用いて、行われてよい。複数の遊星歯車があってよく、少なくとも2つの遊星歯車は、太陽歯車をはさんで反対側に、キャリアに作用する付勢機構の近くに配置されてよい。付勢機構は、付勢機構の力が、各遊星歯車とリングギヤとの係合、及び、各遊星歯車と太陽歯車との係合によって作用されるように、キャリアを付勢する。言い換えると、キャリアは、出力シャフトに対して予荷重をかけており、付勢機構からの力によって、キャリアと出力シャフトは均衡する。
【0008】
これが適用できる最も簡単な装置は、2つの遊星歯車が太陽歯車をはさんで反対側に配置された遊星歯車段である。本発明を適用し得る2つのみの遊星歯車を有する遊星歯車段があってよい。回転入力が太陽歯車から与えられると、太陽歯車は、どちらの遊星歯車が入力の方向に直接に作用しても、時計回りまたは反時計回りに回転させるように作用する。これは、次に、キャリアを回転させ、キャリアが付勢機構を介して出力シャフトに作用することによって、出力シャフトを回転させる。反対方向の回転入力は、入力の第1の方向に直接に作用しなかった他の遊星歯車を回転させるように作用し、それによって、キャリアと出力シャフトとは、反対方向に回転する。いずれの場合でも、2つの遊星歯車を有する遊星歯車段の本例においては、1つの遊星歯車のみが、任意の所与の方向に直接に駆動され、反対側の遊星歯車は、歯のバックラッシによって、効率的に自由に回転する。
【0009】
本発明の長所は、遊星歯車段のバックラッシを、付勢機構を用いて取り除いて、回転センサ内への典型的な4段の遊星減速歯車箱の全体のバックラッシを約80%低減することである。
【0010】
第1の態様の付勢機構は、圧縮ばね、板ばね、弾性材料、または、任意の他の適切な付勢手段を含んでよい。
【0011】
第1の態様のキャリアは、略半円形であってよく、ここで、キャリアは、半円形の頂点の近くに位置する2つの遊星歯車軸を有し、半円形の主な曲線は、リングギヤの曲線に追従する。キャリアは、遊星歯車を支持する1つの部材を含んでよい、または、キャリアは、遊星歯車がキャリア部材間に配置されるように、2つの部材を含んでよい。複数のキャリア部材を有する構成は遊星歯車の安定性を増し、太陽歯車からの入力に応答して、遊星歯車の歯にわたってより均等に荷重を分散させるという長所を有し得る。キャリアが遊星歯車軸を完全に収容できるように、半円形の直線の部分には膨らみがあってよく、複数のキャリア部材を有するキャリアの場合には、太陽歯車が、キャリア部材の孔を経てキャリアを通って延びるのを可能にする。出力シャフトは、キャリアの半円形によって占有されていないリングギヤの空間内にあるように、キャリアに隣接して、リングギヤを通って延びる形状であってよい。出力シャフトは、また、半円形、三日月形、または、キャリアの形状を補完する任意の他の形状を有してよい。圧縮ばねは、キャリアの半円形の頂点の近くに配置されて、キャリアを出力シャフトに接続してよい。
【0012】
第1の態様の遊星歯車装置は、位置センサシステムで使用されてよい。このようなシステムにおいては、センサの精度を保証するために、バックラッシを最小限にする必要がある。位置センサシステムは、回転の有効範囲に制限のあるトランスデューサを利用してよい。すなわち、位置センサシステムは、特定の角度範囲内で動作する回転トランスデューサを有してよく、このような角度範囲は、360°未満の範囲である。このようなシステムにおいては、出力シャフトの回転が、トランスデューサを回転させる。トランスデューサは、遊星歯車装置の出力シャフト内に取り付け、接続、または、一体化されてよい。限定的な角度範囲を有する位置センサシステムにおいては、入力と出力の間で高比率の減速を提供するために多段歯車箱が必要となり得る。これは、任意の数の歯車段を用いて達成されてよい。このようなシステムの例は、補助翼を動作させ、300回転の回転変位を有するモータを備える航空機に存在する、モータは、位置検出システムに接続される。トランスデューサが動作し得る限定的な範囲のために、高比率または高変位の減速歯車段が、モータと位置検出トランスデューサとの間に備えられる必要がある。そうすると、当業者は、センサが動作するシステム全体に適切なトランスデューサを選択できよう。
【0013】
位置センサシステムに本発明を使用する長所は、センサシステムのバックラッシの低減または除去である、これは、トランスデューサを含むまたはトランスデューサに接続された出力シャフトが、特に、回転の方向が変わる場合、回転入力をより正確に伝達することができることを意味する。
【0014】
また、本発明の遊星歯車装置は、3D印刷機等にある、低電力用途のための歯車箱内で使用されてもよい。本発明のばねは、ばねが高負荷の下でもキャリアと出力シャフトが互いに離れるように付勢する機能を発揮することができるか否かを判断するために、典型的に、ばねに加えられる力の量と、ばね定数とによって限定される。高電力用途では、このばねにかかる荷重が、遊星歯車段のバックラッシを低減できない場合がある。
【0015】
低電力装置の歯車箱で本発明を使用する長所は、駆動システムの精度が向上することである。3Dプリンタの例においては、歯車箱のバックラッシが低減されることによって、回転方向の変化をより高い精度で検出し得る出力を可能にし、これは、3Dプリンタがより高い精度で印刷できることを意味する。
【0016】
遊星歯車装置は、単純な遊星歯車または複合遊星歯車を使用してよい。複合歯車構造は、かみ合った遊星構造、段のある遊星構造、多段構造等の構造を含んでよい。
【0017】
本発明の遊星歯車装置で使用されるいずれの歯車の歯の角度も、太陽歯車の中心を通る軸と平行であってよい、または、この軸と角度をなしてよい。
【0018】
第2の態様から見ると、発明は、遊星歯車段を有する遊星歯車装置のバックラッシを低減する方法を提供し、遊星歯車段は、太陽歯車と、複数の遊星歯車軸を含むキャリアと、遊星歯車軸の1つにそれぞれ配置された複数の遊星歯車と、リングギヤと、出力シャフトとを含み、方法は、キャリアと出力シャフトが互いに離れる方に付勢することを含む。
【0019】
第2の態様の遊星歯車装置は、本発明の第1の態様の特徴のいずれかを含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】歯車段に直交する方向から見た本発明の実施形態を示す図。
【
図2】歯車段の正面から見た本発明の実施形態を示す図。
【
図3】本発明の実施形態に作用する力成分を示す図。
【
図4】実施形態の太陽歯車を反時計回り方向に回転させる効果を示す図。
【
図5】実施形態の太陽歯車を時計回り方向に回転させる効果を示す図。
【
図6】本発明の別の実施形態を三次元ビューで示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、遊星歯車段100を含む例示の遊星歯車装置1の一部を示す。
図2は、
図1の正面から遊星歯車段100を見た概略図である。
【0022】
遊星歯車段100は、太陽歯車110、キャリア120、2つの遊星歯車130、リングギヤ140、及び、出力シャフト150を含む。キャリア120は、2つの遊星歯車軸122を有し、2つの遊星歯車軸122は、キャリア120内に延びて、各遊星歯車軸122に1つの遊星歯車130が取り付けられている。遊星歯車130は、太陽歯車110及びリングギヤ140の対応する歯と係合する歯(図示せず)を有する。各歯車の歯の製造方法と機械加工の公差のため、係合している歯車の歯は、完全にはかみ合わず、係合した歯車の歯(図示せず)間に間隙が形成され、遊星歯車段100にバックラッシを作り出す。
【0023】
遊星歯車軸122は、太陽歯車110をはさんで互いに軸方向に反対になるように、キャリア120に配置される。
【0024】
出力シャフト150とキャリアとは、付勢機構160を介して互いに相互作用する。本実施形態においては、付勢機構160は、板ばねである。板ばね160は、出力シャフト150とキャリア120の間の2つの位置で、板ばね160のそれぞれの端部に配置されたばね要素162を有する。ばね要素162は、遊星歯車段100とほぼ同じ面で、互いに離れる方向にキャリア120と出力シャフト150を付勢する。この力は、
図2の各ばね要素の近くの矢印によって示される。板ばね160の付勢によって、キャリアを遊星歯車段100の一方の側に、出力シャフト150から離れる方向に付勢し、これは、次に、遊星歯車軸122、従って、遊星歯車130をキャリア120と同じ方向に移動させる。これは、係合した歯車の歯と歯の間に間隙またはバックラッシ無しに、遊星歯車130の歯を太陽歯車110及びリングギヤ140と完全に係合させる効果を有する。当業者は、板ばね160によって達成される同じ技術的効果が他の手段によっても達成できることを理解されよう。
【0025】
キャリア120は、略半円形である。2つの遊星歯車軸122は、半円形の頂点124の近くに位置し、半円形の主な曲線126は、リングギヤ140の曲線に追従する。キャリアの頂点124の近くには、リップ129もある。リップ129は、板ばね160のばね要素162がキャリア120に接触する表面を形成する。半円形の直線の部分には膨らみ128があり、膨らみ128は、板ばね160のばね要素162がリップ129によって完全に収容されるように、キャリア120の頂点124及びリップ129の径方向内側の箇所から、出力シャフト150に向かって径方向外側に突き出ている。膨らみ128は、キャリア120が、キャリアの範囲内に遊星歯車軸122を完全に収容するのを可能にする。膨らみは、太陽歯車110に接続された中心シャフト112の周りにも延びてよい。
【0026】
出力シャフト150は、該出力シャフト150がキャリア120によって占有されていないリングギヤ140の空間内にあるように、リングギヤ140内に延びるとともにキャリア120に隣接するようにして形状づけられている。出力シャフト150も半円形を有するが、出力シャフト150の形状は、リングギヤ140の動作に干渉すること無く、リングギヤ140内に収まり、キャリアの形状を補完する任意の形状であってよいことを当業者は理解されよう。このような形状は、三日月形または適切な任意の他の形状を含んでよい。出力シャフト150は、中心シャフト112をはさんでほぼ反対側に位置する2つの端部152を有する。端部152は、板ばね160のばね要素162に接触し、従って、出力シャフト150は、ばね要素162を介してキャリア120に接続される。
【0027】
キャリア120に作用する板ばね160の付勢力Fの方向を
図3に示す。キャリア120は、出力シャフト150から離れる方向に板ばね160の付勢力Fを受ける。遊星歯車130は、遊星歯車軸122に接続され、次に遊星歯車軸122は、キャリア120に接続されるので、遊星歯車130も出力シャフト150から離れる方向に付勢される。遊星歯車130は、リングギヤ140及び太陽歯車110と係合する歯(図示せず)を有する。付勢力Fは、太陽歯車110の中心を通り、遊星歯車130の中心を2等分する軸に垂直な面に、少なくとも主成分を有する。
【0028】
典型的には、不完全な機械加工方法が原因で、係合する歯車の歯が、完全にかみ合わない。代わりに、典型的に、間隙が係合する歯車の歯の間に存在する。1つの歯車が、回転するように駆動されると、駆動された歯車の回転開始と、駆動された歯車の歯が第2の係合された歯車を回転させる時との間に、この間隙が原因で遅延が起こり得る。
【0029】
付勢力Fによって、遊星歯車130の歯を歯の一方の側で、リングギヤ140及び太陽歯車110の歯と係合させる。言い換えると、遊星歯車130及びリングギヤ140の歯が係合する箇所で、遊星歯車130の歯が、リングギヤ140及び太陽歯車110の歯に押し付けられる。これらの箇所のそれぞれで、付勢力Fの4分の1が、遊星歯車130に対して作用し、これによって、遊星歯車130は、回転せず、歯車段100は静止する。
【0030】
図4は、太陽歯車110を反時計回り方向に回転させる効果を示す。「時計回り」及び「反時計回り」という語は、中心シャフト112を中心とした図で見たときの歯車段100に関して規定される。太陽歯車110をこの方向に回転させると、遊星歯車130が、時計回り方向に回転し、これにより、キャリア120と出力シャフト150とを反時計回り方向に回転させる。
図4に示す歯車段100においては、遊星歯車130は、参照が容易なように、上部遊星歯車130a及び下部遊星歯車130bとして表示されてよい。
【0031】
太陽歯車110が、反時計回りに回転し始めるとき、太陽歯車110の歯は、反時計回り方向で、上部遊星歯車130aの歯と完全に係合している。よって、太陽歯車110の回転開始と、上部遊星歯車130aの回転開始との間に遅延は無い。付勢力Fによって、上部遊星歯車130aの歯も、時計回り方向で、リングギヤ140の歯と完全に係合している。太陽歯車110が反時計回り方向に回転するのに応答して、上部遊星歯車130aが時計回り方向に回転し始めると、時計回り方向で、上部遊星歯車130aとリングギヤ140の歯の間に間隙が無いので、上部遊星歯車130aは、回転とリングギヤ140との係合の間で遅延を受けない。従って、上部遊星歯車130aが反時計回りに移動することによって、太陽歯車の回転開始と、キャリア120が回転させられるときとの間に、遅延は無い。そうすると、太陽歯車110の回転開始と、出力シャフト150が回転させられるときとの間に遅延は無く、よって、反時計回り方向において、バックラッシが歯車段から除去されている。
【0032】
太陽歯車110が反時計回りに回転し始めるとき、太陽歯車110の歯は、反時計回り方向で、下部遊星歯車130bの歯とは完全には係合していない。しかしながら、板ばね160の付勢力Fによって、太陽歯車110の歯は、下部遊星歯車130bの歯と、時計回り方向で係合したままである。また、付勢力Fによって、下部遊星歯車130bの歯は、反時計回り方向において、リングギヤ140の歯と係合している。
【0033】
図5は、太陽歯車110を時計回り方向に回転させる効果を示す。太陽歯車110をこの方向に回転させると、遊星歯車130は、反時計回り方向に回転し、これにより、次に、キャリア120と出力シャフト150とを時計回り方向に回転させる。
【0034】
太陽歯車110が時計回りに回転し始めるとき、太陽歯車110の歯は、下部遊星歯車130bの歯と、時計回り方向で完全に係合している。よって、太陽歯車110の回転開始と、下部遊星歯車130bの回転開始との間に遅延は無い。付勢力Fによって、下部遊星歯車130bの歯も、反時計回り方向で、リングギヤ140の歯と完全に係合している。太陽歯車110が時計回り方向に回転するのに応答して、下部遊星歯車130bが反時計回り方向に回転し始めるとき、反時計回り方向において、下部遊星歯車130bとリングギヤ140の歯の間に間隙が無く、下部遊星歯車130bは、回転とリングギヤ140との係合の間で遅延を受けない。よって、時計回りに移動する下部遊星歯車130bによって、太陽歯車の回転開始と、キャリア120が回転を開始させられるときとの間に遅延が無い。そうすると、太陽歯車110の回転開始と、出力シャフト150が回転させられるときとの間に遅延が無く、時計回り方向において、歯車段からバックラッシが除去されている。
【0035】
太陽歯車110が時計回りに回転し始めるとき、太陽歯車110の歯は、時計回り方向で、上部遊星歯車130aの歯と完全には係合していない。しかしながら、板ばね160の付勢力Fによって、太陽歯車110の歯は、反時計回り方向で、上部遊星歯車130aの歯と係合したままである。また、付勢力Fによって、上部遊星歯車130aの歯は、時計回り方向で、リングギヤ140の歯と係合している。
【0036】
図6は、本発明の歯車段200の別の実施形態の一部を三次元の視点で示す。この実施形態は、付勢力Fが圧縮コイルばねの組260によって提供されるという点で、前述の実施形態とは異なる。これらのコイルばね260は、前述の実施形態の板ばね160の代わりである。コイルばね260によって達成された効果は、板ばね160の効果と同じである。すなわち、キャリア120は、出力シャフト150から離れる方向に、コイルばね260から付勢力Fを受ける。遊星歯車130が、遊星歯車軸122に接続され、次に遊星歯車軸122は、キャリア120に接続されるので、遊星歯車130も、出力シャフト150から離れる方向に付勢される。遊星歯車130の付勢によって、遊星歯車130の歯は、太陽歯車110(
図6には示さず)及びリングギヤ150(
図6には示さず)の歯に対して物理的に付勢される。よって、太陽歯車110を回転させる効果は、板ばね160を用いる歯車段に関して、
図4及び
図5に関連して記載した効果と同じである。