(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】削孔システムおよび削孔方法
(51)【国際特許分類】
E21B 19/24 20060101AFI20240411BHJP
E21B 6/00 20060101ALI20240411BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20240411BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
E21B19/24
E21B6/00 ESW
E04G21/12 105Z
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2021040352
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】三澤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】西山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】山口 治
(72)【発明者】
【氏名】山田 純一
(72)【発明者】
【氏名】塩見 正嗣
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007161(JP,A)
【文献】特開平10-278037(JP,A)
【文献】特開2008-126532(JP,A)
【文献】特開2004-060282(JP,A)
【文献】特開2017-061839(JP,A)
【文献】特開昭59-015186(JP,A)
【文献】特開平10-096627(JP,A)
【文献】特開昭59-187996(JP,A)
【文献】実開平04-015506(JP,U)
【文献】特開2021-126886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 21/12
E21B 1/00-49/10
B28D 1/00- 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の構造物に削孔する複数の孔の削孔順序と削孔位置と削孔深さとを含む削孔条件を格納した削孔条件記憶部と、
上下方向および横方向に移動可能となった削孔機を備え、前記構造物に複数の孔を削孔する削孔装置と、
前記削孔機による削孔位置を検出する削孔位置検出部、および前記削孔機による前記削孔深さを検出する削孔深さ検出部を備えた削孔状態検出部と、
前記削孔条件記憶部の前記削孔条件を読み込んで、当該削孔条件に基づいて前記削孔装置により順次削孔する制御を行うとともに、前記削孔機が前記削孔条件に適合した深さの孔を開けることができないと削孔状態検出部により検出された孔については、削孔を中止して次の削孔順序の孔を開ける制御を行う制御部と、
前記削孔装置による削孔結果を格納する削孔結果記憶部とを有し、
前記削孔条件記憶部は、前記削孔結果記憶部に格納された前記削孔結果において前記削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、前記削孔位置をずらして削孔するように更新した前記削孔条件を格納する、
ことを特徴とする削孔システム。
【請求項2】
前記削孔条件における前記削孔位置は、座標データ、または削孔数と削孔ピッチとの組み合わせで規定される、
ことを特徴とする請求項1記載の削孔システム。
【請求項3】
前記削孔条件における前記削孔深さは、前記削孔機による低打撃圧での削孔深さと、その後の高打撃圧での削孔深さとで構成される、
ことを特徴とする請求項1または2記載の削孔システム。
【請求項4】
前記削孔状態検出部は、削孔が停滞したとき、または所定時間内に前記削孔深さが設定値に達していないときに、前記削孔機が前記削孔条件に適合した孔を開けることができないと判断する、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項5】
前記削孔条件記憶部は、前記削孔位置を上下方向に、水平方向に、あるいは上下方向および水平方向にずらして削孔するように更新した前記削孔条件を格納する、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項6】
前記削孔条件記憶部に格納された前記削孔条件と前記削孔結果記憶部に格納された前記削孔結果とを
削孔した孔ごとに対比して出力する出力部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項7】
前記出力部では、前記削孔条件に適合した孔と前記削孔条件に不適合の孔との判定結果を併せて出力する、
ことを特徴とする請求項6記載の削孔システム。
【請求項8】
削孔機が上下方向および横方向に移動可能となった削孔装置を用いてコンクリート製の構造物に複数の孔を自動的に削孔する削孔方法であって、
前記構造物に削孔する複数の孔の削孔順序と削孔位置と削孔深さとを含む削孔条件を設定した削孔条件を読み込む削孔条件読込工程と、
前記削孔条件読込工程で読み込まれた削孔条件に基づいて前記削孔装置により順次削孔するとともに、前記削孔機が前記削孔条件に適合した深さを開けることができない孔については削孔を中止して次の削孔順序の孔を開ける削孔工程と、
前記削孔装置による削孔結果を格納する削孔結果記憶工程とを有し、
前記削孔条件読込工程では、前記削孔結果記憶工程で格納された前記削孔結果において前記削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、前記削孔位置をずらして削孔するように更新した前記削孔条件を読み込む、
ことを特徴とする削孔方法。
【請求項9】
前記削孔条件における前記削孔位置は、座標データ、または削孔数と削孔ピッチとの組み合わせで規定される、
ことを特徴とする請求項8記載の削孔方法。
【請求項10】
前記削孔条件における前記削孔深さは、前記削孔機による低打撃圧での削孔深さと、その後の高打撃圧での削孔深さとで構成される、
ことを特徴とする請求項8または9記載の削孔方法。
【請求項11】
前記削孔工程では、削孔が停滞したとき、または所定時間内に削孔深さが設定値に達していないときに、削孔を中止する、
ことを特徴とする請求項8~10の何れか一項に記載の削孔方法。
【請求項12】
前記削孔条件読込工程では、前記削孔位置を上下方向に、水平方向に、あるいは上下方向および水平方向にずらして削孔するように更新した前記削孔条件を読み込む、
ことを特徴とする請求項8~11の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項13】
前記削孔条件読込工程で読み込まれた前記削孔条件と前記削孔結果記憶工程で格納された前記削孔結果とを
削孔した孔ごとに対比して出力する出力工程をさらに有する、
ことを特徴とする請求項8~12の何れか一項に記載の削孔方法。
【請求項14】
前記出力工程では、前記削孔条件に適合した孔と前記削孔条件に不適合の孔との判定結果を併せて出力する、
ことを特徴とする請求項13記載の削孔方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の構造物に削孔する削孔システムおよび削孔方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地上、地中、半地下などで地盤に接するコンクリート製の構造物や、鉄道や道路等に近接する地上に構築されたコンクリート製の構造物では、耐震補強を目的として、構造物の片側面から削孔し、その孔内に定着材を充填した後、後施工せん断補強鉄筋(以下、「せん断補強鉄筋」という。)を挿入して構造物と一体化させることで当該構造体のせん断耐力を向上させる工法が行われる。
【0003】
また、コンクリート製の躯体で構成された道路、橋梁、ダム、堤防などの既設の構造物では、耐力の維持や補強を目的として、躯体の側面や上下面に対し、所定間隔で削孔してあと施工アンカーを埋め込み、当該あと施工アンカーと連結するように配筋を行ってさらにコンクリートを打設する増し打ち工法が行われている。
【0004】
そして、削孔作業において、現場の作業者は、重量物である削孔装置のハンドルおよびサイドハンドルを両手でしっかりと保持した上で、構造物の削孔位置にビットを押し当てて当てて掘り進める。
【0005】
なお、構造物に対するせん断補強工法については、例えば特許文献1(特開2016-037787号公報)が知られている。また、構造物に対するコンクリートの増し打ち工法については、例えば特許文献2(特開2018-131848号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-037787号公報
【文献】特開2018-131848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、構造物を耐震補強するためには、せん断補強鉄筋を埋め込むために構造物に多数の孔を開けなければならない。同様に、増し打ち工法でも、あと施工アンカーを埋め込むために構造物に多数の孔を開けなければならない。すると、前述した従来の削孔装置を用いた作業は重労働となり、結果として作業効率が悪化することになる。
【0008】
そして、コンクリート製の構造物に複数の孔を自動的に削孔することができれば、作業者は削孔作業から解放されて他の作業を行うことができるので、作業効率が向上して工期の短縮化を図ることができる。
【0009】
しかしながら、コンクリート製の構造物の内部には鉄筋や埋設物(配管など)が配置されているために、これらが自動的に削孔する上での障害になる。
【0010】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、コンクリート製の構造物に複数の孔を自動的に削孔することのできる削孔システムおよび削孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の削孔システムは、コンクリート製の構造物に削孔する複数の孔の削孔順序と削孔位置と削孔深さとを含む削孔条件を格納した削孔条件記憶部と、上下方向および横方向に移動可能となった削孔機を備え、前記構造物に複数の孔を削孔する削孔装置と、前記削孔機による削孔位置を検出する削孔位置検出部、および前記削孔機による前記削孔深さを検出する削孔深さ検出部を備えた削孔状態検出部と、前記削孔条件記憶部の前記削孔条件を読み込んで、当該削孔条件に基づいて前記削孔装置により順次削孔する制御を行うとともに、前記削孔機が前記削孔条件に適合した深さの孔を開けることができないと削孔状態検出部により検出された孔については、削孔を中止して次の削孔順序の孔を開ける制御を行う制御部と、前記削孔装置による削孔結果を格納する削孔結果記憶部とを有し、前記削孔条件記憶部は、前記削孔結果記憶部に格納された前記削孔結果において前記削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、前記削孔位置をずらして削孔するように更新した前記削孔条件を格納する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1に記載の発明において、前記削孔条件における前記削孔位置は、座標データ、または削孔数と削孔ピッチとの組み合わせで規定される、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1または2に記載の発明において、前記削孔条件における前記削孔深さは、前記削孔機による低打撃圧での削孔深さと、その後の高打撃圧での削孔深さとで構成される、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1~3の何れか一項に記載の発明において、前記削孔状態検出部は、削孔が停滞したとき、または所定時間内に前記削孔深さが設定値に達していないときに、前記削孔機が前記削孔条件に適合した孔を開けることができないと判断する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1~4の何れか一項に記載の発明において、前記削孔条件記憶部は、前記削孔位置を上下方向に、水平方向に、あるいは上下方向および水平方向にずらして削孔するように更新した前記削孔条件を格納する、ことを特徴とする
【0016】
請求項6に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1~5の何れか一項に記載の発明において、前記削孔条件記憶部に格納された前記削孔条件と前記削孔結果記憶部に格納された前記削孔結果とを削孔した孔ごとに対比して出力する出力部をさらに有する、ことを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項6記載の発明において、前記出力部では、前記削孔条件に適合した孔と前記削孔条件に不適合の孔との判定結果を併せて出力する、ことを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するため、請求項8に記載の本発明の削孔方法は、削孔機が上下方向および横方向に移動可能となった削孔装置を用いてコンクリート製の構造物に複数の孔を自動的に削孔する削孔方法であって、前記構造物に削孔する複数の孔の削孔順序と削孔位置と削孔深さとを含む削孔条件を設定した削孔条件を読み込む削孔条件読込工程と、前記削孔条件読込工程で読み込まれた削孔条件に基づいて前記削孔装置により順次削孔するとともに、前記削孔機が前記削孔条件に適合した深さを開けることができない孔については削孔を中止して次の削孔順序の孔を開ける削孔工程と、前記削孔装置による削孔結果を格納する削孔結果記憶工程とを有し、前記削孔条件読込工程では、前記削孔結果記憶工程で格納された前記削孔結果において前記削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、前記削孔位置をずらして削孔するように更新した前記削孔条件を読み込む、ことを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の本発明の削孔方法は、上記請求項8記載の発明において、前記削孔条件における前記削孔位置は、座標データ、または削孔数と削孔ピッチとの組み合わせで規定される、ことを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載の本発明の削孔方法は、上記請求項8または9記載の発明において、前記削孔条件における前記削孔深さは、前記削孔機による低打撃圧での削孔深さと、その後の高打撃圧での削孔深さとで構成される、ことを特徴とする。
【0021】
請求項11に記載の本発明の削孔方法は、上記請求項8~10の何れか一項に記載の発明において、前記削孔工程では、削孔が停滞したとき、または所定時間内に削孔深さが設定値に達していないときに、削孔を中止する、ことを特徴とする。
【0022】
請求項12に記載の本発明の削孔方法は、上記請求項8~11の何れか一項に記載の発明において、前記削孔条件読込工程では、前記削孔位置を上下方向に、水平方向に、あるいは上下方向および水平方向にずらして削孔するように更新した前記削孔条件を読み込む、ことを特徴とする。
【0023】
請求項13に記載の本発明の削孔方法は、上記請求項7~12の何れか一項に記載の発明において、前記削孔条件読込工程で読み込まれた前記削孔条件と前記削孔結果記憶工程で格納された前記削孔結果とを削孔した孔ごとに対比して出力する出力工程をさらに有する、ことを特徴とする。
【0024】
請求項14に記載の本発明の削孔方法は、上記請求項13記載の発明において、前記出力工程では、前記削孔条件に適合した孔と前記削孔条件に不適合の孔との判定結果を併せて出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、コンクリート製の構造物を削孔する際の複数の孔の削孔位置と削孔深さとを含む削孔条件を読み込み、その削孔条件に基づいて削孔装置により順次削孔するようにし、削孔機が削孔条件に適合した深さの孔を開けることができなかった孔については、削孔を中止して次の削孔順序の孔を開けている。そして、削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、削孔位置をずらして削孔するように更新した削孔条件を適用している。
【0026】
したがって、削孔機が削孔条件に適合した深さの孔を開けることができなかった孔については削孔位置をずらして削孔が行われるので、削孔条件に沿った深さの孔を目的とする数だけ自動的に構造物に削孔することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る削孔システムで削孔された孔にせん断補強鉄筋を挿入して耐震補強されたコンクリート製の構造物の一部を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る削孔システムを構成する削孔装置を示す側面図である。
【
図7】本発明の一実施の形態に係る削孔システムを構成する削孔装置に設けられたチェーンの配置を示す説明図である。
【
図8】本発明の一実施の形態に係る削孔システムを示すブロック図である。
【
図9】本発明の一実施の形態に係る削孔システムで削孔された孔と構造物内に配された鉄筋とを示す説明図である。
【
図10】本発明の一実施の形態に係る削孔システムを用いてコンクリート製の構造物に自動的に削孔するプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0029】
本実施の形態の削孔システムSYSの構成要素である削孔装置Aは、例えば
図1に示すような地盤Gに接する既設のコンクリート製の構造物Sや、鉄道や道路等の建造物に近接する地上に構築された既設のコンクリート製の構造物(図示せず)などに対して、補強工事の一工程として片側面から孔Hを開けるために用いられる。開けた孔Hの内部に定着材Mを充填した後、せん断補強鉄筋Rを挿入して構造物Sと一体化させることで、構造物Sのせん断耐力を向上させる。なお、せん断補強鉄筋Rとしては、例えば、一般的に使用される鉄筋R1の片側をネジ切り、斜め切断加工し、先端部に六角ナット(定着体)R2を装着したものなどが適用される。
【0030】
図2~
図6に示すように、本実施の形態の削孔装置Aは、コラム(角形鋼管)やH形鋼などの棒状の鋼材で直方体の形状に構成された本体フレーム(本体部)10と、同様にコラムやH形鋼などの鋼材で矩形に構成されて本体フレーム10内において昇降可能に設けられた昇降フレーム(昇降部材)20と、昇降フレーム20に設けられて前方のコンクリート製の構造物Sを削孔するドリフタ(削孔機)30とを備えている。
【0031】
本体フレーム10は、
図3に示すように、前後面が開口する一方、
図2および
図5に示すように、側面には、桁材11が上下の複数箇所(ここでは2カ所)に取り付けられるとともにブレース(筋交い)12が設けられ、所要の強度が確保されている。また、
図4および
図6に示すように、昇降フレーム20は、矩形を形成する4本のフレームロッド21からなり、
図2、
図5および
図6に示すように、本体フレーム10の上下に延びる4本の柱材13に沿って設けられたガイドレール14に嵌め込まれており、当該ガイドレール14に案内されながら前面の開口範囲内を昇降する。
【0032】
図5に示すように、ドリフタ30は、先端にビット31が取り付けられたロッド32と、ロッド32に打撃力、回転力および推力を加えるドリフタ本体である削岩機33とからなり、コンクリート製の構造物Sに対して所定深さの孔Hを開ける。ドリフタ30は、開口した前面の所望位置へと移動できるように昇降フレーム20上を横行移動可能になっており、さらに開口した前面を介して構造物Sを削孔するために進退移動可能になっている。なお、本実施の形態では、ドリフタ30の進退移動量は最大で約1200mm、ビット31の最大削孔径は約40mmとなっている。
【0033】
但し、以下に説明する場合を含め、本実施の形態の削孔装置Aにおける様々な数値(寸法や移動量など)は一例であって限定的なものではなく、これら以外の数値を設定することができるのは言うまでもない。
【0034】
また、ロッドの外周を包囲するようにして、削孔時に発生する粉塵の飛散を防止するための筒状の防塵カバー85が進退可能に設けられている。なお、防塵カバー85は集塵ホース85a(
図4、
図6)を介して集塵機86(
図8)に接続されており、発生した粉塵は当該集塵機86によって負圧吸引される。
【0035】
なお、削孔装置Aには、削岩機33、ならびに後述するエアモータ53およびスライドジャッキ72に対して圧縮空気を供給するコンプレッサCPが備えられている(
図8参照)。
【0036】
次に、ドリフタ30の横行移動機構および進退移動機構について、具体的に説明する。
【0037】
図4および
図6に示すように、昇降フレーム20には、当該昇降フレーム20上を横行移動する横行部材40が設けられている。また、横行部材40には、当該横行部材40の移動方向と直交する方向に往復動可能な進退部材50が設置されている。そして、進退部材50がドリフタ30を進退移動させ、横行部材40が進退部材50を横行移動させることにより、ドリフタ30は横行移動可能且つ進退移動可能になっている。
【0038】
図6において、横行部材40は、矩形の昇降フレーム20を形成する後部に位置したフレームロッド21に沿って横方向に延びて設けられた横行用ガイドレール41と、前後方向に長くなってこの横行用ガイドレール41をスライド移動する横行体42と、横行体42に螺合するとともに横行用モータ43により回転駆動されるボールねじ44とを備えている。また、ドリフタ30は進退部材50を介して横行体42に設置されている。したがって、ボールねじ44の回転により横行体42が横行用ガイドレール41に沿って移動することにより、ドリフタ30は昇降フレーム20上を前面の開口範囲内にわたって横行移動する。本実施の形態において、ドリフタ30の横行移動量は約500mmとなっている。
【0039】
図4および
図6において、進退部材50は、横行体42に沿って設けられた進退用ガイドレール51と、進退用ガイドレール51をスライド移動するスライダ52と、エアモータ53により周回駆動されることによって取り付けられたスライダ52をスライド移動させる無端状ベルト54とを備えている。また、ドリフタ30はスライダ52に搭載されている。したがって、エアモータ53の回転により無端状ベルト54が周回してスライダ52が進退用ガイドレール51に沿って移動することにより、ドリフタ30は昇降フレーム20上を進退移動する。本実施の形態において、ドリフタ30の進退移動量は最大で約1200mmとなっている。なお、無端状ベルト54は、本実施の形態では非金属のゴムベルトであるが、金属ベルトであってもよい。また、無端状ベルト54を周回させるのは、圧縮空気で回転するエアモータ53ではなく、給電されて回転する電気モータを用いてもよい。
【0040】
次に、昇降フレーム20の昇降機構について説明する。
【0041】
図3に示すように、昇降機構は、昇降フレーム20を吊り下げるチェーン60と、チェーン60を上げ下ろしして昇降フレーム20を昇降させる昇降用モータ61と、チェーン60が掛け渡されたスプロケット62で構成されている。
【0042】
チェーン60は、一方端が昇降フレーム20における相互に対向する2辺の中央にそれぞれ取り付けられた第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bで構成されている。すなわち、
図3、
図4および
図6に示すように、第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bの一方端は、矩形の昇降フレーム20の構成要素である左右の2本のフレームロッド21の中央上部に取り付けられている。また、第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bの他方端は、その反対側であるフレームロッド21の中央下部に取り付けられている。
【0043】
なお、チェーン60が左右のフレームロッド21に取り付けられているのは、前後のフレームロッド21に取り付けられていると、横行移動するドリフタ30と干渉してしまうからである。
【0044】
ここで、本体フレーム10には、
図3および
図7に示すように、左右上部における前後方向の中央にスプロケット62a、62bが配置され、これと対応した左右下部における前後方向の中央にスプロケット62c、62dが配置されている。また、昇降用モータ61と当該昇降用モータ61の近傍に位置するスプロケット62dとの間で、且つスプロケット62dよりもやや高い位置には、スプロケット62eが配置されている。さらに、昇降用モータ61には駆動スプロケット61aが取り付けられている。
【0045】
なお、駆動スプロケット61aおよび昇降用モータ61が位置する側(図示する場合には、右側)のスプロケット62b、62d、62eは、2枚のスプロケットが同軸上となって一体化されたシングルダブルスプロケットとなって、2本のチェーン60(第1のチェーン60a、第2のチェーン60b)を掛け渡すことができるようになっている。また、その反対側(図示する場合には、左側)のスプロケット62a、62cは、1枚だけのシングルスプロケットとなって、第1のチェーン60aのみを掛け渡すことができるようになっている。
【0046】
そして、
図3に示すように、第1のチェーン60aは、昇降フレーム20の左側の上部取付位置から上方に向けてスプロケット62a、スプロケット62b、スプロケット62e、駆動スプロケット61a、スプロケット62dおよびスプロケット62cに順次掛け渡されて昇降フレーム20の左側の下部取付位置に至っている。また、第2のチェーン60bは、昇降フレーム20の右側の取付位置から上方に向けてスプロケット62b、スプロケット62e、駆動スプロケット61aおよびスプロケット62dに順次掛け渡されて昇降フレーム20の右側の下部取付位置に至っている。
【0047】
そして、本実施の形態において、昇降フレーム20の昇降量(上下方向に対する移動量)、すなわち、昇降フレーム20に設置されたドリフタ30の昇降量は、約1750mmとなっている。
【0048】
図3において昇降用モータ61が時計回りに回転して第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bが周回すると、昇降フレーム20がこれらのチェーン60で吊り上げられて上昇する。また、同じく
図3において昇降用モータ61が反時計回りに回転して第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bが逆方向に周回すると、昇降フレーム20がこれらのチェーン60で吊り下げられて下降する。
【0049】
なお、昇降フレーム20を昇降させる昇降用モータ61と、横行体42を横行移動させる前述の横行用モータ43とで、ドリフタ30を移動(上下方向および横方向に移動)させるドリフタ移動部(削孔機移動部)34を構成している(
図8参照)。
【0050】
さて、
図2~
図4に示すように、本体フレーム10の上端部の左右2箇所には、削孔対象である構造物Sに対して削孔時の推進反力を伝達する反力伝達部(反力伝達手段)70が設置されている。この反力伝達部70は、真空ポンプ73(
図8)による負圧吸引力により構造物Sに吸着する吸着パッド71と、吸着パッド71を進退移動させるスライドジャッキ72とからなる。そして、削孔時にはスライドジャッキ72で吸着パッド71を前方に伸ばして構造物Sに押し当て、真空ポンプ73により吸着パッド71を当該構造物Sに吸着させることにより、ドリフタ30で構造物Sを削孔する際の推進反力が得られ、スムーズに削孔を実行することが可能になる。
【0051】
なお、反力伝達部70は、本実施の形態のように本体フレーム10の上端部の左右2箇所に設置されるのが望ましいが、上端部の左右何れか1箇所、上端中央部の1箇所、あるいは上端部以外の箇所などに設置されていてもよい。
【0052】
さて、
図2、
図3および
図5に示すように本願の削孔装置Aでは、削孔対象であるコンクリート製の構造物Sに沿って(詳しくは、削孔装置Aと構造物Sの削孔する壁とが平行になるようにして)走行レール80が敷設されている。そして、本体フレーム10の下部には、走行用モータ81により駆動されて走行レール80上を転動する複数個(本実施の形態では4個)のローラ82が取り付けられている。ローラ82は、走行用モータ81によりベルト83を介して回転駆動される走行駆動軸84の同軸上に取り付けられた2個の駆動ローラ82a(
図2、
図3、
図6参照)と、駆動ローラ82aの対向位置に配置されて駆動ローラ82aの回転に従って回転する2個の従動ローラ82b(
図3、
図6参照)とで構成されている。
【0053】
図8は、以上の構成を有する削孔装置Aを備えた削孔システムSYSのブロック図である。なお、
図8において、破線で結ばれたブロック同士は、両者が間接的な関係にあることを示している。
【0054】
図8に示すように、削孔システムSYSは、上述した削孔装置Aと、削孔条件の入力(設定)および削孔結果の出力を行うPC(パーソナルコンピュータ)などの入出力部PCと、削孔システムSYS全体の動作制御を実行する制御部Cと、削孔装置Aの削孔状態を検出する削孔状態検出部SSと、作業者が手動操作を行うペンダントスイッチなどの手動操作部MUとで構成されている。また、入出力部PCには、削孔条件が格納された削孔条件記憶部PCm1および削孔結果が格納された削孔結果記憶部PCm2を備えている。
【0055】
ここで、削孔条件記憶部PCm1に格納された削孔条件とは、例えば、構造物Sに削孔する複数の孔の削孔位置、削孔深さ、削孔順序などである。なお、構造物Sの厚さ(コンクリート厚)や構造物Sに配された鉄筋の位置、削孔領域の広さなどを入力すれば、入出力部PCにインストールされた所定のソフトウェアにより自動的に前述の削孔条件が規定されるようにすることもできる。したがって、削孔条件を入力(設定)するとは、削孔位置、削孔深さおよび削孔順序など具体的な削孔内容を入出力部PCに入力することのみならず、具体的な削孔内容を規定することができる項目(前述した構造物Sの厚さなど)を入出力部PCに入力することも含まれる。なお、削孔位置は、座標データ(削孔位置マップ)や、削孔数と削孔ピッチとの組み合わせなどで規定される。但し、本実施の形態に列挙した削孔条件は一例であり、これら以外が含まれていてもよい。
【0056】
また、削孔結果記憶部PCm2に格納された削孔結果とは、構造物Sに開けた孔の削孔結果である。後述するように、制御部Cでは、削孔状態検出部SSから送信された検出情報に基づいて削孔結果を取得して入出力部PCに送信しており、入出力部PCでは制御部Cから送信された削孔結果が出力される。
【0057】
前述のように、入出力部PCには、削孔条件が格納された削孔条件記憶部PCm1および削孔結果が格納された削孔結果記憶部PCm2が備えられており、作業者が必要とするときに削孔条件や削孔結果を確認することができるようになっている。
【0058】
本実施の形態の削孔システムSYSでは、削孔条件を入力(設定)する入力部と削孔結果を出力する出力部とが一体になった入出力部PCとなっているが、入力部と出力部とは相互に別体になっていてもよい。なお、削孔条件は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの様々な入力媒体により入力される。また、削孔結果は、液晶ディスプレイやプリンタなどの様々な出力媒体に出力される。
【0059】
制御部Cは、入出力部PCで入力(設定)されて削孔条件記憶部PCm1に格納された削孔条件を読み込んで削孔装置Aを駆動して構造物Sに順次削孔する制御を行う。また、削孔状態検出部SSからの検出情報に基づいて削孔結果を取得し、これを入出力部PCに送信する制御を行う。
【0060】
ここで、
図8に示すように、削孔装置Aの昇降用モータ61はインバータIVaにより、横行用モータ43はインバータIVbにより、走行用モータ81はインバータIVcにより、それぞれ回転制御されている。また、コンプレッサCPから削岩機33、エアモータ53およびスライドジャッキ72に対して圧縮空気を供給する経路上には、当該経路を開閉する電磁弁SVaが配置されている。さらに、吸着パッド71とこれを負圧吸引する真空ポンプ73との間には、両者間の経路を開閉する電磁弁SVbが配置されている。
【0061】
そして、図示するように、制御部Cにより、インバータIVa,IVbおよび電磁弁SVa,SVbの動作が制御されるようになっている。また、手動操作部MUにより、インバータIVa,IVb,IVcおよび電磁弁SVa,SVbの動作が制御されるようになっている。したがって、作業者が手動操作部MUを操作し、インバータIVcを介して走行用モータ81を駆動して削孔装置Aを走行させて所定の削孔位置に設置したならば、制御部Cにより削孔が自動的に実行される。また、手動操作部MUを操作することにより、制御部Cによる削孔とは別に、作業者が所望する箇所を削孔することができる。
【0062】
なお、前述した防塵カバー85を進退移動させるためのカバー進退用モータ87が設けられており、当該カバー進退用モータ87はインバータIVdにより手動操作部MUで回転制御されるようになっている。また、図示するように、集塵機86も手動操作部MUで制御されるようになっている。
【0063】
さて、削孔装置Aの削孔状態を検出する削孔状態検出部SSは、ドリフタ移動部34により移動したドリフタ30の削孔位置を検出する削孔位置検出部SSaと、エアモータ53により前進して削岩機33で構造物Sを削孔するドリフタ30のストローク(前進長)に基づいた構造物Sとの距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScと、吸着パッド71を進退移動させるスライドジャッキのストローク検出部SSdと、構造物Sに吸着する吸着パッドのON/OFF検出部SSeとからなる。また、削孔位置検出部SSaは、昇降用モータ61の回転量からドリフタ30の昇降位置を検出する昇降位置検出部SSaaと、横行用モータ43の回転量からドリフタ30の横行位置を検出する横行位置検出部SSabとからなる。なお、本実施の形態において、距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScは、ドリフタ30に設けられたストローク計である。
【0064】
前述のように、削孔状態検出部SSで検出された削孔装置Aの削孔状態は制御部Cに送信される。そして、制御部Cでは、削孔状態検出部SSから送信された様々な検出情報から削孔装置Aによる構造物Sに対しての削孔結果を取得(算出)し、これを入出力部PCに送信し、削孔結果記憶部PCm2に格納する。
【0065】
ここで、本実施の形態の制御部Cでは、構造物Sの削孔中において規定された削孔深さの孔をドリフタ30が開けることができないと判断した場合には、当該削孔を中止して次の削孔順序の孔を開ける制御を行っている。
【0066】
すなわち、
図9に示すように、コンクリート製の構造物Sの内部には鉄筋Bや配管などの埋設物(以下、「鉄筋等」という。)が配されていることから、ドリフタ30(詳しくは、ドリフタ30の先端のビット31)が削孔途中で鉄筋等に干渉した場合、それ以上削孔することはできない。なお、
図9では、水平方向に配された鉄筋Bを示しており、そのために断面が円形になっている。
【0067】
そこで、制御部Cにおいて、削孔状態検出部SSから送信された検出情報からドリフタ30のストローク(前進長)が所定寸法に達しないときには、ドリフタ30が鉄筋等に干渉したために削孔条件に適合した削孔深さの孔Hを開けることができないと判断して削孔を中止し、ドリフタ30を構造物Sから引き抜いて上下方向あるいは横方向に移動させ、次の削孔順序の孔Hを開ける。そして、このようにして削孔された複数の孔の削孔結果(削孔条件に適合した深さを開けることができた孔と削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔の結果)は削孔結果記憶部PCm2に格納される。
【0068】
そして、削孔が終了した後、作業者が入出力部PCを操作して、削孔結果記憶部PCm2に格納された削孔結果(つまり、直近の削孔結果)において削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、削孔位置をずらして削孔するように削孔条件を更新して削孔条件記憶部PCm1に格納する。
【0069】
したがって、次回では、削孔条件記憶部PCm1に格納されている更新された削孔条件を読み込み、前回の削孔において削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔に対してのみ、削孔が行われることになる。
【0070】
ここで、本実施の形態では、ドリフタ30のストロークに基づいて規定の削孔深さの孔を開けることができているか否かを判断しているが、これ以外を判断材料にしてもよい。たとえば、ドリフタ30に取り付けられたビット31の押付圧(フィード圧)を検出する検出部を設けておき、当該検出部に検出される押付圧に基づいて規定の削孔深さの孔を開けることができているか否かを判断することなどが考えられる。すなわち、検出された押付圧が所定圧以上になったときには、ドリフタ30が鉄筋等に干渉したために規定された削孔深さの孔を開けることができないと判断する。
【0071】
次に、以上の構成を有する削孔システムSYSを用いて、コンクリート製の構造物Sに孔H(ここでは、せん断補強鉄筋Rを挿入するための孔H)を自動的に開ける場合のプロセスについて、
図10のフローチャートを用いて説明する。
【0072】
先ず、作業者が手動操作部MUを操作し、走行レール80上の削孔装置Aを走行させて、当該削孔装置Aを構造物Sの作業位置に設置する(ステップSt01)。なお、削孔装置Aを構造物Sの作業位置に設置したならば、スライドジャッキ72で吸着パッド71を前方に伸ばして構造物Sに押し当てて吸着させ、削孔装置Aをその場に拘束する。
【0073】
次に、制御部Cによって、削孔条件記憶部PCm1に格納された削孔条件(つまり、構造物Sに削孔する複数の孔の削孔位置や削孔深さなどの削孔条件)を読み込む(ステップSt02)。なお、ステップSt01の削孔装置Aの設置の前に、あるいは後述するステップSt04の距離計測の後に、本ステップSt02の削孔条件の読み込みを行ってもよい。
【0074】
次に、ドリフタ30を原点位置に移動させる(ステップSt03)。すなわち、作業者が手動操作部MUを操作し、昇降用モータ61で昇降フレーム20を上端または下端にスライドさせ、横行用モータ43で横行体42を左右何れか一方端にスライドさせてドリフタ30を原点位置に移動させる。なお、本実施の形態では、ドリフタ30を上下・左右の移動端である原点位置に移動させているが、任意の位置に移動させてもよい。これは、ここでの移動は、次のステップSt04での距離(ドリフタ30と構造物Sとの距離)計測のための移動であるから、原点位置である必要はないからである。
【0075】
続いて、ドリフタ30と削孔対象となる構造物Sとの距離を計測する(ステップSt04)。すなわち、作業者が手動操作部MUを操作し、ビット31の回転を停止したままでドリフタ30を前進させ、一定時間前進がない場合(つまり、ドリフタ30の前進が止まった場合)、ドリフタ30(より詳しくは、ドリフタ30に取り付けられたビット31の先端)が当接したと判断する。そして、その前進位置でのドリフタ30の伸張量を距離検出部SSbであるストローク計で読み取って、ドリフタ30と構造物Sとの距離とする。なお、本実施の形態では、ストローク計で距離計測を行っているが、計測方法はこれに限定されるものではなく、レーザ距離計など専用の距離計測器を用いて計測したり、作業員が手作業で計測するようにしてもよい。
【0076】
さて、次のステップSt05からは、削孔条件を読み込んだ制御部Cによって自動的に実行される。
【0077】
すなわち、ドリフタ30と構造物Sとの距離計測を行ったならば、ドリフタ30を削孔開始位置へと移動させる(ステップSt05)。すなわち、昇降用モータ61で昇降フレーム20を昇降移動させ、横行用モータ43で横行体42を横行移動させて、削孔条件に規定された削孔開始位置にドリフタ30を移動させる。
【0078】
次に、ドリフタ30の駆動を開始する(ステップSt06)。このとき、ドリフタ30(詳しくは、先端にビット31が取り付けられたロッド32)に対しては、相対的に低速回転、低圧打撃の駆動力が加えられる。
【0079】
次に、防塵カバー85を前進させるとともに集塵機86による吸引を開始する(ステップSt07)。すなわち、カバー進退用モータ87で防塵カバー85を前進させて構造物Sに当接させ、併せて、集塵機86の吸引を開始して削孔時に発生する粉塵の収集に備える。なお、集塵機86の吸引開始および吸引停止については、作業者の操作により行われ、最初の削孔開始時に吸引を開始し、最終削孔後に吸引を停止する。したがって、後述するドリフタ30を次の削孔位置へ移動(ステップSt19)した後のステップSt07では、既に集塵機86が吸引を行っているので、当該ステップSt07においては、防塵カバー85の前進のみが実行される。
【0080】
次に、ドリフタ30を前進させて削孔を開始する(ステップSt08)。すなわち、エアモータ53でスライダ52をスライド移動させてドリフタ30を前進移動させ、ロッド32の先端のビット31を構造物Sの削孔位置に押し当てて削孔を開始する。
【0081】
削孔を開始したならば、削孔深さ検出部SScによって孔の深さを逐次検出しておき、検出された削孔深さが所定値(例えば、5mm)に達したかどうかを判断する(ステップSt09)。このステップは、ビット31が構造物S内に所定深さ入り込むことでドリフタ30の駆動が安定したかどうかを判断するためのものである。
【0082】
そして、ステップSt09において削孔深さが所定値に達したならば、ドリフタ30の駆動が安定したと考えられるので、次に、ドリフタ30を高速回転・高圧打撃で駆動して削孔を行う(ステップSt10)。
【0083】
そして、削孔深さ検出部SScによって検出される孔の深さの推移から、削孔速度が設定値以上であるかを判断する(ステップSt11)。
【0084】
ステップSt11において削孔速度が設定値以上であると判断された場合、削孔が順調に行われていることになるので、削孔深さが設定値に達したと判断されるまで削孔を継続する(ステップSt12)。そして、ステップSt12において、削孔深さが設定値に達したと判断された場合には、削孔結果(実際の削孔位置や削孔深さなどの削孔実行値、および「削孔成功」とする判定結果)を削孔結果記憶部PCm2に格納する(ステップSt13)。なお、ステップSt12および後述のステップSt16で削孔深さが設定値に達したと判断された時点で、ドリフタ30の前進は停止される。
【0085】
一方、ステップSt11において、削孔速度が設定値以上ではないと判断された場合には、何らかの原因(例えば、構造物Sの硬度など)で削孔速度は設定値には届かないが、設定の削孔深さに向かっての削孔途中との可能性が考えられることから、削孔時間を計測し(ステップSt14)、所定時間内に削孔深さが変化したか否かを判断する(ステップSt15)。
【0086】
そして、ステップSt15において、所定時間内に削孔深さが変化していないと判断された場合には、ドリフタ30の先端に取り付けられたビット31が構造物S内の鉄筋等に当たったために削孔が停滞していることになり、削孔を中止して、削孔結果(実際の削孔位置や削孔深さなどの削孔実行値、および「削孔失敗」とする判定結果)を削孔結果記憶部PCm2に格納する(ステップSt13)。
【0087】
また、ステップSt15において、所定時間内に削孔深さが変化していると判断された場合には、削孔深さが設定値に達したかが判断され(ステップSt16)、削孔深さが設定値に達したと判断された場合には、削孔結果(実際の削孔位置や削孔深さなどの削孔実行値、および「削孔成功」との判定結果)を削孔結果記憶部PCm2に格納する(ステップSt13)。一方、ステップSt16において、削孔深さが設定値に達していないと判断された場合には、削孔を中止して、削孔結果(実際の削孔位置や削孔深さなどの削孔実行値、および「削孔失敗」との判定結果)を削孔結果記憶部PCm2に格納する(ステップSt13)。
【0088】
さて、このようにしてステップSt13において削孔結果を削孔結果記憶部PCm2に格納したならば、ドリフタ30が後退(ドリフタ30先端のビット31が構造物Sから引き抜かれる程度まで後退)して駆動を停止し、併せて、防塵カバー85も後退して構造物Sから離間する(ステップSt17)。
【0089】
次に、今回の削孔が最終削孔か否かを判断し(ステップSt18)、最終削孔でない場合には、昇降用モータ61および横行用モータ43の双方あるいは何れかを駆動させて、削孔条件に規定された次の削孔位置へとドリフタ30を移動し(ステップSt19)、前述したステップSt06に移行する。そして、以降のステップを順次実行する。
【0090】
一方、ステップSt18において最終削孔である判断された場合には、作業者の操作により、集塵機86の吸引を停止する(ステップSt20)。
【0091】
続いて、削孔条件記憶部PCm1に格納された削孔条件と、前述のステップSt13において削孔結果記憶部PCm2に格納された削孔結果とを対比して出力する(ステップSt21)。出力形式としては、例えば、孔番号毎に、削孔位置や削孔深さなどの削孔条件と削孔結果とが一覧表になった紙媒体やディスプレイへの出力である。
【0092】
次に、出力された削孔条件と削孔結果とから、削孔条件に不適合の孔(「削孔失敗」と判定された孔)があるか否かを判断する(ステップSt22)。この判断は、本実施の形態では、出力された削孔条件と削孔結果とから作業者が判断しているが、制御部Cにより、削孔条件記憶部PCm1に格納された削孔条件と削孔結果記憶部PCm2に格納された削孔結果とから判断するようにしてもよい。
【0093】
さて、ステップSt22において、削孔条件に不適合の孔がないと判断された場合には、削孔が終了する。
【0094】
一方、ステップSt22において、削孔条件に不適合の孔があると判断された場合には、削孔結果に基づいて削孔条件を更新する(ステップSt23)。削孔条件に適合した孔を開けることができなかった原因としては、ドリフタ30の先端に取り付けられたビット31が構造物S内の鉄筋等に当たったためであることが想定されるため、削孔条件の更新に当たっては、設計図面等から鉄筋等の位置を考慮して削孔位置を所定量だけずらす(上下方向に、水平方向に、あるいは上下方向および水平方向にずらす)。なお、この削孔条件の更新も、本実施の形態では、作業者が行っているが、制御部Cにより行うようにしてもよい。また、削孔条件の更新内容は、削孔位置をずらすことだけではなく、削孔深さを変更することなどが含まれていてもよい。
【0095】
ステップSt23において削孔条件を更新したならば、その更新された削孔条件を削孔条件記憶部PCm1に格納する(ステップSt24)。その後、制御部Cによって、削孔条件記憶部PCm1の更新された削孔条件を読み込む(ステップSt25)。そして、前述したステップSt05に移行し、以降のステップを順次実行する。
【0096】
このように、本実施の形態では、コンクリート製の構造物Sを削孔する際の複数の孔の削孔位置と削孔深さとを含む削孔条件を読み込み、その削孔条件に基づいて削孔装置Aにより順次削孔するようにし、ドリフタ30が削孔条件に適合した深さの孔を開けることができなかった孔については、削孔を中止して次の削孔順序の孔を開けている。そして、削孔条件に適合した深さを開けることができなかった孔がある場合には、当該孔に限定して、削孔位置をずらして削孔するように更新した削孔条件を適用している。
【0097】
したがって、ドリフタ30が削孔条件に適合した深さの孔を開けることができなかった孔については削孔位置をずらして削孔が行われるので、削孔条件に沿った深さの孔を目的とする数だけ自動的に構造物Sに削孔することが可能になる。
【0098】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0099】
たとえば、本実施の形態においては、削孔機としてドリフタ30が用いられているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば円筒状ノコ歯ビットが先端に取り付けられたロッドを回転させて削孔するコアドリルなど、コンクリート製の構造物Sを削孔可能な様々な削孔機を適用することができる。
【0100】
また、削孔装置Aの構造は本実施の形態に限定されるものではない。すなわち、上下方向および横方向の少なくとも何れかの方向に移動可能となったドリフタ30などの削孔機を備えて、構造物Sに複数の孔を開けることが可能である限り、様々な構造の削孔装置Aを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上の説明では、本発明の削孔システムを、コンクリート製の既設の構造物にせん断補強鉄筋を挿入するための孔開けに用いられた場合が示されているが、これに限定されるものではなく、コンクリート製の構造物の孔開けに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
10 本体フレーム(本体部)
20 昇降フレーム(昇降部材)
30 ドリフタ(削孔機)
31 ビット
32 ロッド
33 削岩機
40 横行部材
41 横行用ガイドレール
42 横行体
43 横行用モータ
50 進退部材
51 進退用ガイドレール
52 スライダ
53 エアモータ
61 昇降用モータ
70 反力伝達部(反力伝達手段)
71 吸着パッド
72 スライドジャッキ
80 走行レール
81 走行用モータ
82 ローラ
85 防塵カバー
86 集塵機
87 カバー進退用モータ
A 削孔装置
B 鉄筋
C 制御部
CP コンプレッサ
H 孔
IVa,IVb,IVc,IVd インバータ
MU 手動操作部
PC 入出力部
PCm1 削孔条件記憶部
PCm2 削孔結果記憶部
R せん断補強鉄筋
S 構造物
SS 削孔状態検出部
SSa 削孔位置検出部
SSaa 昇降位置検出部
SSab 横行位置検出部
SSb 構造物との距離検出部
SSc 削孔深さ検出部
SSd スライドジャッキのストローク検出部
SSe 吸着パッドのON/OFF検出部
SVa,SVb 電磁弁
SYS 削孔システム