(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/30 20210101AFI20240411BHJP
H01M 50/147 20210101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M50/30
H01M50/147
(21)【出願番号】P 2018140982
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】小島 優
(72)【発明者】
【氏名】大木 信典
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】小池 秀介
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-166320(JP,A)
【文献】特開2017-157311(JP,A)
【文献】特開2009-16063(JP,A)
【文献】特開2010-272264(JP,A)
【文献】特開2009-21017(JP,A)
【文献】特開2010-10070(JP,A)
【文献】特開昭57-143261(JP,A)
【文献】特開平7-57711(JP,A)
【文献】米国特許第4486516(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30-50/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液が収容された電槽と、
当該電槽に設けられ、上記電解液が上記電槽内に還流する還流孔が形成された中蓋と、
当該中蓋に設けられた上蓋と、
上記中蓋に設けられ、上記還流孔の周囲を囲繞する筒状部材と、
当該筒状部材の壁面の一部からなり、上記電槽側に突出して上記電解液を上記電槽へ案内する第1電解液案内部材と、
上記筒状部材の内側に設けられた矩形の平板からなり、上記壁面の一部と対向し且つ上記還流孔の周縁から上記電槽側へ延びる第2電解液案内部材と、
当該第2電解液案内部材と上記筒状部材の壁面の一部との間を連結する連結部材と、を備えた液式鉛蓄電池。
【請求項2】
上記連結部材は、平板からなり、
当該平板と、上記筒状部材の壁面の一部と、上記第2電解液案内部材とによって、上記電槽
に設けられたセル室の長手方向に沿う二カ所に、上記還流孔と連通する開口が形成されている請求項1に記載の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
上記電槽内に長手壁及び短手壁が配置されることによりセル室が区画されており、
上記還流孔は、上記セル室の中央部に配置されている請求項1又は2に記載の液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに用いられる鉛蓄電池では、電槽の内圧の上昇を抑制するために、電槽の内部で発生したガスが排気通路を通じて外部に排気される。たとえば、特許文献1に記載された鉛蓄電池では、電槽を封口する蓋部材が、中蓋と上蓋とからなる二重蓋構造を有し、中蓋と上蓋との間に排気通路が設けられている。排気通路の底面は、電槽内と連通する還流孔に向かって下方に傾斜している。排気通路に生じた液滴は、傾斜した底面を伝って還流孔から電槽内に戻るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、排気通路の液滴が電槽内に戻るように構成された鉛蓄電池であっても、鉛蓄電池に振動が継続的に加わった場合、排気口から液滴が外部に漏れ出すことがある。
【0005】
本発明の目的は、振動による液滴の漏れを抑えた鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池は、電解液が収容された電槽と、当該電槽に設けられ、上記電解液が上記電槽内に還流する還流孔が形成された中蓋と、当該中蓋に設けられた上蓋と、上記還流孔の周縁から上記電槽側へ延び、上記電解液を上記電槽へ案内する第1電解液案内部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池によれば、振動による液滴の漏れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】鉛蓄電池の垂直断面図(
図1中のA-A断面図)
【
図12】中蓋の垂直断面図(
図4中のB-B断面図)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[概要説明]
【0010】
初めに、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の概要について説明する。本鉛蓄電池は、電解液が収容された電槽と、当該電槽に設けられ、上記電解液が上記電槽内に還流する還流孔が形成された中蓋と、当該中蓋に設けられた上蓋と、上記還流孔の周縁から上記電槽側へ延び、上記電解液を上記電槽へ案内する第1電解液案内部材と、を備える。
【0011】
排気通路を備える鉛蓄電池では、電槽内の電解液から蒸発した水分や、電解液のミストが、電槽から排気通路へ流出する。流出した水蒸気や電解液ミストは、その一部が排気通路内で液化し液滴となる。また、鉛蓄電池に振動が加わった場合に、電槽内の電解液の液滴が排気通路へ飛び出すことがある。これら排気通路の液滴を電槽内に戻すために、中蓋に還流孔が設けられる。排気通路の底面は、還流孔に向かって下方に傾斜している。
【0012】
本発明者は、鉛蓄電池の振動溢液性について検討・実験を進める中、前述のように構成された鉛蓄電池であっても、振動が継続的に加えられると、排気口から液滴が外部に漏れ出す場合があることに気がついた。そして、本発明者は、排気通路における液滴の挙動を観察するうちに、還流孔の周囲に液体が溜まってゆき、排気口からの液滴の漏洩が発生する場合があることを発見した。本発明者は、この現象は、還流孔に液膜が張って塞がれて、還流孔からの液体の還流が妨げられたことにより発生したと考えた。
【0013】
鉛蓄電池に振動が加わると、電槽の内部に貯留された電解液の液面に波が発生する。その波が還流孔に到達すると、電解液が排気通路に流出する。電解液の流出を抑制するためには、還流孔は小さい方が好ましい。一方、還流孔を小さくすると、前述した液膜による閉塞が発生し易くなると考えられる。そこで本発明者は、還流孔における液膜の生成を抑制する手法を検討し、電解液案内部材を還流孔の周縁に設けることを着想した。還流孔の周縁から電槽側へ延び、電解液を電槽へ案内する電解液案内部材が設けられることにより、還流孔における液膜の生成が抑制され、振動による液滴の漏れが抑制される。
【0014】
本鉛蓄電池の実施形態として、以下の構成が好ましい。上記中蓋に設けられ、上記還流孔の周囲を囲繞し、且つ、上記電槽側に突出する筒状部材を備える。この構成によれば、電槽内の電解液が還流孔に到達することを筒状部材が抑制し、振動による液滴の漏れがさらに抑制される。
【0015】
また、上記筒状部材の壁面の一部が、上記第1電解液案内部材を兼ねているのが好ましい。この構成によれば、還流孔の周囲の構造が複雑化することなく、より効果的に電解液が還流孔へ案内される。
【0016】
上記筒状部材の内側に、上記還流孔の周縁から上記電槽側へ延び、上記電解液を上記電槽へ案内する第2電解液案内部材が、上記壁面の一部と対向して設けられていてもよい。この構成によれば、さらに効果的に電解液が還流孔へ案内される。
【0017】
上記第2電解液案内部材は、矩形の平板からなり、当該第2電解液案内部材と上記筒状部材の壁面の一部との間を連結する連結部材が設けられていてもよい。この構成によれば、連結部材が、電槽内の電解液が還流孔に到達することを抑制しつつ、さらに効果的に電解液が還流孔へ案内される。
【0018】
上記連結部材は、平板からなり、当該平板と、上記筒状部材の壁面の一部と、上記第2電解液案内部材とによって、上記セル室の長手方向に沿う二カ所に、上記還流孔と連通する開口が形成されていてもよい。この構成によれば、一方の開口から流入した電解液が他方の開口から流出できるので、電槽内の電解液が還流孔に到達することがさらに抑制される。
【0019】
上記電槽内に長手壁及び短手壁が配置されることによりセル室が区画されており、上記還流孔は、上記セル室の中央部に配置されているのが好ましい。この構成によれば、鉛蓄電池が転倒した場合でも還流孔からの電解液の漏洩が抑制される。
【0020】
1.全体の構成
【0021】
鉛蓄電池1は、流動可能な電解液を備える液式蓄電池である。鉛蓄電池1は、
図1から
図3に示されるように、電槽17と、電極群30と、電解液14と、端子部38及び39と、蓋部材45とを備える。なお、鉛蓄電池1が設置面に対して傾きなく水平に置かれたときの使用姿勢を基準として上下方向11が定義される。端子部38及び39の並び方向であって電槽17の横幅方向を左右方向13とし、電槽17の奥行方向を前後方向12とする。端子部38及び39が配置された前後方向12の一方を後方とする。前後方向12は、セル室の長手方向の一例である。
【0022】
電槽17は、4枚の外壁27と、底壁28とを備えており、上面が開放された合成樹脂製の箱型の部材である。電槽17は、開口18及び当該開口18に連続する収容室19を有する。電槽17は、
図2に示されるように、左右方向13に等間隔に配置された5枚の隔壁29を備える。隔壁29は、電槽17の収容室19を6つのセル室21~26に仕切る。すなわち、隔壁29により、電槽17の収容室19に6つのセル室21~26が、右方から左方へ順番に、左右方向13に並んで形成されている。各セル室21~26に、希硫酸からなる電解液14と、電極群30とが収容されている。すなわち、収容室19内に、電極群30及び電解液14を収容した複数のセル室21~26が、隔壁29及び外壁27により区画されている。複数のセル室21~26が、収容室19内に並設されている。本実施形態では、セル室21~25は、前後方向12(長手方向)の大きさが、左右方向13(短手方向)の大きさよりも大きい。セル室21~25の前後方向12の大きさは、左右方向13の大きさの2.5倍以上であると好ましく、6.3倍以下であると好ましい。
図2に例示されるように、セル室21~25の前後方向12の大きさが、左右方向13の大きさの4.1倍であるとさらに好ましい。隔壁29は、長手壁の一例である。前方及び後方の外壁27は、短手壁の一例である。
【0023】
電極群30は、
図3に示されるように、正極板31と、負極板32と、セパレータ33とから構成されている。セパレータ33は、正極板31と負極板32との間に配置され、正極板31と負極板32とを仕切る。正極板31と負極板32とは、格子体に活物質が充填されて構成されている。正極板31の活物質の主成分は二酸化鉛であり、負極板32の活物質の主成分は鉛である。
【0024】
図3に示すように、正極板31の上部に耳部34が設けられ、負極板32の上部に耳部35が設けられている。セル室21~26の内部において、耳部34は正極用のストラップ36に接続され、耳部35は負極用のストラップ36に接続されている。ストラップ36は、左右方向13に延びる板状の部材である。これにより、セル室内の正極板31が正極用のストラップ36によって電気的に接続され、セル室内の負極板32が負極用のストラップ36によって電気的に接続されている。そして、隣接するセル室の正負のストラップ36同士が、ストラップ36に形成された接続部37を介して電気的に接続されている。これにより、6つのセル室21~26の電極群30が、電気的に直列に接続されている。
【0025】
蓋部材45は、電槽17の開口18を封口する中蓋50と、中蓋50に設けられた上蓋100とを備える。
図4は、上蓋100を外した状態で中蓋50を上方から見た平面図であり、
図5は、中蓋50を下方から見た底面図である。中蓋50は、合成樹脂製であって、
図4及び
図5に示されるように、蓋板51とフランジ部52とを備える。
【0026】
蓋板51は、電槽17の上方の開口を封口可能な大きさの部材である。蓋板51は、
図5に示すように、その下面に、フランジ部52に沿った形状の周壁53と、周壁53に連なって形成された複数の蓋側隔壁54とを備える。
【0027】
周壁53は、蓋板51の下面から下方へ突出している。周壁53は、電槽17の開口縁部に対応するように略矩形状に形成されている。蓋側隔壁54は、蓋板51の下面から下方へ突出している。各蓋側隔壁54は、電槽17の各隔壁29に対応するように、周壁53の内側を仕切る。そして、周壁53を電槽17の開口縁部に重ね、蓋側隔壁54を電槽17の隔壁29に重ね、これらを熱溶着により接合する。これにより、周壁53と電槽17との間、及び、蓋側隔壁54と隔壁29との間の気密性が確保されている。
【0028】
また、蓋板51は、
図1及び
図3に示されるように、高面部55と低面部56とを備える。高面部55は、蓋板51の前方と後方とに設けられている。後方の高面部55の左右方向13の両端には、一対の端子部が配置されている。詳しくは、後方の高面部55の左方の端部に、正極側端子部38が配置され、右方の端部に、負極側端子部39が配置されている。正極側端子部38と負極側端子部39とはほぼ同じ形状であるため、以下、負極側端子部39を例として説明し、正極側端子部38の説明を省略する。
【0029】
負極側端子部39は、
図3に示されるように、ブッシング41と、極柱42とを備える。ブッシング41は、鉛合金等の金属製であり、中空の円筒状の部材である。ブッシング41は、
図3に示されるように、高面部55に形成された筒型の装着部67に装着されている。ブッシング41は、装着部67を貫通しており、ブッシング41の上部が、高面部55の上面から突出している。ブッシング41のうち、高面部55から突出する部位は、端子接続部であり、ハーネス端子などの接続端子(図示なし)が組み付けられる。
【0030】
極柱42は、鉛合金等の金属製の部材であり、円柱形状である。極柱42は、ブッシング41の内側に位置している。極柱42はブッシング41に比べて長く、極柱42の上部はブッシング41の内側に位置し、極柱42の下部はブッシング41の下面から下方に突出している。極柱42の上端部(先端)は、ブッシング41に溶接により接合され、極柱42の基端部43は、電極群30のストラップ36に接合されている。
【0031】
中蓋50の低面部56は、蓋板51の前方寄りに形成されている。低面部56は、電槽17に設けられた6つのセル室21~26を横断して左右方向13に延びて設けられている。低面部56の上面は、高面部55の上面よりも低い位置にある。
【0032】
図4及び
図5に示されるように、中蓋50の低面部56の上面壁57は、左右方向13に並ぶ6つの注液孔68を備える。これら6つの注液孔68は、低面部56の上面壁57を上下方向11に貫通しており、6つのセル室21~26にそれぞれ連通している。
【0033】
また、低面部56は、
図4に示されるように、上面壁57の上面から上方へ突出した下側筒壁69、下側外周壁70、及び下側隔壁71を備える。下側筒壁69は、注液孔68を囲む円筒状の隔壁であり、6つの注液孔68のそれぞれに設けられている。下側外周壁70は、低面部56の外縁に沿って設けられ、低面部56を囲む略矩形状の隔壁である。下側隔壁71は、後方の下側外周壁70から前方へ延びる隔壁であって、電槽17の各隔壁29に対応して設けられている。
【0034】
上蓋100は、合成樹脂製である。
図6は、上蓋100を上方から見た平面図であり、
図7は、上蓋100を下方から見た底面図である。上蓋100は、
図6及び
図7に示されるように、蓋本体101と、フランジ部103とを備える。蓋本体101は、中蓋50の低面部56に倣う長方形の部材であり、中蓋50の低面部56に対して重ねて取り付けられる。フランジ部103は、蓋本体101の左方と右方の外周縁に形成されている。フランジ部103は、蓋本体101から下方に突出しており、中蓋50の低面部56の左方及び右方の端部の外側に位置する。
【0035】
図6及び
図7に示されるように、蓋本体101の上面壁102は、左右方向13に並ぶ6つの注液孔104を備える。これら6つの注液孔104は、中蓋50の注液孔68に対応する位置に形成され、蓋本体101の上面壁102を上下方向11に貫通しており、6つのセル室21~26にそれぞれ連通している。各注液孔104及び各注液孔68を通して、電槽17の各セル室21~26に電解液14が注液される。なお、
図1に示されるように、各注液孔104に、液口栓105が取り付けられて、注液孔104が閉じられる。
【0036】
また、蓋本体101は、上面壁102の下面から下方へ突出した上側筒壁106、上側外周壁107、及び上側隔壁108を備える。上側筒壁106は、注液孔104を囲む円筒状の隔壁であり、6つの注液孔104のそれぞれに設けられている。上側外周壁107は、蓋本体101の外縁に沿ってフランジ部103の内側に設けられた、略矩形状の隔壁である。上側隔壁108は、後方の上側外周壁107から前方へ延びる隔壁であって、電槽17の各隔壁29に対応して設けられている。
【0037】
各上側筒壁106は、各下側筒壁69に対応している。上蓋100が中蓋50の低面部56に配置されるとき、各上側筒壁106は、各下側筒壁69の上方に重なって配置される。各上側筒壁106と各下側筒壁69とは熱溶着により接合され、各上側筒壁106と各下側筒壁69との間の気密性が確保されている。
【0038】
上側外周壁107は、下側外周壁に対応している。上蓋100が中蓋50の低面部56に配置されるとき、上側外周壁107は、下側外周壁70の上方に重なって配置される。上側外周壁107と下側外周壁70とは熱溶着により接合され、上側外周壁107と下側外周壁70との間の気密性が確保されている。
【0039】
各上側隔壁108は、各下側隔壁71に対応している。上蓋100が中蓋50の低面部56に配置されるとき、各上側隔壁108は、各下側隔壁71の上方に重なって配置される。各上側隔壁108と各下側隔壁71とは熱溶着により接合され、各上側隔壁108と各下側隔壁71との間の気密性が確保されている。
【0040】
2.還流孔及び電解液案内部材
【0041】
図4に示されるように、中蓋50の低面部56は、左右方向13に並ぶ6つの還流孔77を備える。各還流孔77は、
図8に示されるように、後述する下側外周壁70、下側隔壁71、下側周壁73、及び下側通路壁61に囲まれた領域に位置している。各還流孔77は、低面部56の上面壁57を上下方向11に貫通し、電槽17の各セル室21~26に連通する。本実施形態では、還流孔77は、
図4及び
図5に示されるように、電槽17の各セル室21~26を上下方向11に見た中央部に配置されている。すなわち、還流孔77は、電槽17の各セル室21~26の中央部に配置されている。これにより、鉛蓄電池1が左方、右方、前方、後方のいずれの方向に倒れた場合でも、還流孔77からの電解液14の流出が抑制される。
【0042】
後述される個別通路81~86の底面である低面部56の上面壁57の上面は、還流孔77に近いほど上下方向11に関して低くなるように傾斜している。これにより、セル室21~26からのガスに含まれる水蒸気による水滴や、電解液等の液滴を、還流孔77を通じてセル室21~26へ還流することができる。すなわち、セル室21~26で発生したガスに含まれる水蒸気は、ガスが個別通路81~86を通過する際に、個別通路81~86内にて結露する。結露した液滴は、上面壁57の上面の傾斜によって、還流孔77に向かって流れていく。そのため、ガスに含まれる水蒸気等の液滴を、各セル室21~26に還流することができる。
【0043】
図5及び
図10に示されるように、中蓋50は、左右方向13に並ぶ6つのウェル130(特許請求の範囲に記載された「筒状部材」に相当)を備える。ウェル130は、円筒状の部材であって、中心軸が上下方向11に平行となる姿勢にて、還流孔77の周囲を取り囲むように配置されている。ウェル130は、還流孔77の周囲を囲繞する。ウェル130は、中蓋50の上面壁57の下面から下方、すなわち電槽17の側へ突出している。ウェル130は、蓋側隔壁54及び隔壁29に沿う平坦な部位である平坦部131と、当該平坦部131に連続し還流孔77を取り囲む湾曲部132とを有している。平坦部131は、還流孔77の左方又は右方の周縁から下方へ延びている。
【0044】
本実施形態では、鉛蓄電池1は、還流孔77の周縁から電槽17の側(すなわち下方)へ延び、電解液を電槽17へ案内する第1電解液案内部材4を備えている。本実施形態では、前述したウェル130の平坦部131(特許請求の範囲に記載された「壁面の一部」に相当)が、第1電解液案内部材4を構成している。
【0045】
図5及び
図10に示されるように、ウェル130の周面の所定位置に、上下方向11に延びるスリット133が形成されている。スリット133は、ウェル130の下方の端部から、上面壁57の下面まで延びている。本実施形態では、スリット133は、ウェル130の湾曲部132に形成されている。スリット133は、ウェル130の内部の空間と外部の空間とに連通している。
【0046】
図11を参照して、ウェル130におけるスリット133の位置について説明する。
図11は、中蓋50の底面図である。
図11には、還流孔77の中心134と、スリット133の中心135とが示されている。
図11において、中心134を基点として中心135を貫く仮想線136と、電槽17の隔壁29を含む仮想平面137とを考える。なお、電槽17の隔壁29は、中蓋50の蓋側隔壁54に対応するので、仮想平面137は蓋側隔壁54を含む平面である。図示例では、仮想線136と仮想平面137とは交差しており、仮想線136が仮想平面137と交差する角度θは45°である。なお、仮想線136と仮想平面137とは直交してもよく(角度θ=90°)、平行であってもよい(角度θ=0°)。角度θは、30°以上60°以下であると好ましい。
【0047】
本実施形態では、還流孔77の前後方向12の大きさ、及び、左右方向13の大きさは、共に3mmである。ウェル130の湾曲部132の曲率半径は6mmであり、湾曲部132と平坦部131との間の接続部の曲率半径は3mmである。スリット133の幅138は3mmである。スリット133を仮想平面137へ投影した形状の幅139は、2.1mmであり、スリット133の幅Eよりも小さい。
【0048】
図10及び
図11に示されるように、中蓋50は、平板141及び平板142を有する。平板141及び平板142は、6つの還流孔77ごとに設けられている。平板141は、矩形の平板であって、還流孔77の周縁に配置されている。平板141は、中蓋50の上面壁57の下面から下方へ突出している。つまり、平板141は、還流孔77の周縁から電槽17の側へ延びている。平板141は、還流孔77の右方又は左方に配置されている。詳しくは、平板141は、ウェル130の平坦部131に対して、還流孔77を挟んで左右方向13の反対側に配置されている。
図10の例では、平板141は、還流孔77の右方に配置されている。
【0049】
平板142は、矩形の平板である。平板142は、還流孔77の下方に配置されている。平板142は、上下方向11に見て還流孔77と重なる位置に配置されている。平板142の左右方向13の一方の端部(
図10の例では右方の端部)は、平板141の下方の端部に連結している。平板142の左右方向13の他方の端部(
図10の例では左方の端部)は、ウェル130の平坦部131の側面に接続している。
【0050】
本実施形態では、鉛蓄電池1は、第1電解液案内部材4(ウェル130の平坦部131)に加えて、第2電解液案内部材5を備えている。第2電解液案内部材5は、還流孔77の周縁から電槽17の側(すなわち下方)へ延び、電解液を電槽17へ案内する。本実施形態では、前述した平板141が、第2電解液案内部材5に相当する。
【0051】
また、鉛蓄電池1は、連結部材7を備えている。連結部材7は、第2電解液案内部材5(平板141)と、第1電解液案内部材4(ウェル130の平坦部131)との間を連結する。本実施形態では、前述した平板142が、連結部材7に相当する。
【0052】
図10及び
図11に示されるように、平板141、平板142、及びウェル130の平坦部131によって、前後方向12に沿う二カ所に、開口143及び開口144が形成されている。開口143及び開口144は、還流孔77と連通する。本実施形態では、開口143、開口144、及び還流孔77は、概ね同じ大きさである。
【0053】
個別通路81~86から還流孔77へ流れ込んだ液滴は、ウェル130の平坦部131(第1電解液案内部材4)又は平板141(第2電解液案内部材5)と接触して下方へ案内され、開口143又は開口144を通って電槽17のセル室21~26に還流する。すなわち、第1電解液案内部材4及び第2電解液案内部材5は、還流孔77へ還流した液滴を電槽17のセル室21~26へ案内する。
【0054】
本実施形態では、還流孔77は、
図4に示されるように、上下方向11に見て矩形である。
図10及び
図12に示されるように、第1電解液案内部材4及び第2電解液案内部材5は、還流孔77の周縁のうち、左右方向13に対向する辺から下方へ延びている。各電解液案内部材4、5は、還流孔77の周縁のうち、前後方向12に対向する辺には設けられていない。換言すれば、還流孔77の周縁の全部ではなく一部に第1電解液案内部材4及び第2電解液案内部材5が設けられている。第1電解液案内部材4及び第2電解液案内部材5は、互いに離間して、別の部材として設けられている。これにより、より効果的に電解液を還流孔77へ案内することができる。
【0055】
3.排気通路
【0056】
図4及び
図7に示されるように、蓋部材45は、中蓋50と上蓋100との間に、排気通路2を備えている。排気通路2は、電槽17の収容室19、及び、蓋部材45に設けられた排気口201を接続する通路である。排気通路2は、電槽17のセル室21~26で発生するガスを、排気口201へ導き、鉛蓄電池1の外部へ排出する通路である。排気通路2は、複数の個別通路81~86及び共通通路9を含む。
【0057】
本実施形態では、蓋部材45は、6つの個別通路81~86を備えている。個別通路81~86は、6つのセル室21~26にそれぞれ連通する。
【0058】
共通通路9は、個別通路81~86と連通し、排気口201に接続する通路である。共通通路9は、7つの通路91~97により構成されている。
【0059】
図4及び
図7に示されるように、個別通路81及び通路91と、個別通路86及び通路96とは、法線が左右方向13に平行で蓋部材45の左右方向13の中央を通る平面15に関して対称な形状である。同様に、個別通路82及び通路92と、個別通路85及び通路95とは、平面15に関して対称な形状である。個別通路83及び通路93と、個別通路84及び通路94とは、平面15に関して対称な形状である。そして個別通路82及び通路92と、個別通路83及び通路93とは、概ね同じ形状である。
【0060】
4.個別通路
【0061】
個別通路81~86は、中蓋50と上蓋100との間において、電槽17のセル室21~26ごとに設けられている。個別通路81~86は、共通通路9に連通しており、セル室21~26から流出するガスを共通通路9へ流す機能を果たす。個別通路81~86は、セル室側の末端に設けられた排気部6と、後述する下側通路壁61~66及び上側通路壁111~116により形成される通路とを含む。排気部6は、概ね筒型であり、内部がガスの通り道である。
【0062】
まず、排気部6について具体的に説明する。
図4に示されるように、中蓋50の低面部56は、左右方向13に並ぶ6つの下側筒部78を備える。下側筒部78は、
図4及び
図8に示されるように、角筒形状であり、下側外周壁70の一部と、下側隔壁71の一部と、2つの下側周壁72、73とから構成されている。2つの下側周壁72、73は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。
【0063】
また、
図4に示されるように、低面部56の上面壁57は、左右方向13に並ぶ6つの連通孔74を備える。各連通孔74は、各下側筒部78の内側に位置している。各連通孔74は、低面部56の上面壁57を上下方向11に貫通し、電槽17の各セル室21~26に連通する。
【0064】
上蓋100の蓋本体101は、
図7に示されるように、左右方向13に並ぶ6つの上側筒部118を備える。上側筒部118は、
図7及び
図9に示されるように、角筒形状であり、上側外周壁107の一部と、上側隔壁108の一部と、2つの上側周壁109、110とから構成されている。2つの上側周壁109、110は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。
【0065】
各下側筒部78と各上側筒部118とは、上下に重なって一つの排気部6を構成する。詳しくは、上側周壁109は、下側周壁72に対応しており、対応する下側周壁72の上に重なって、熱溶着により接合される。一方、上側周壁110は、下側周壁73の上に重ならず、下側周壁73よりも右方に位置する(なお、右端の排気部6においては、上側周壁110は下側周壁73よりも左方に位置する)。前述の通り、上側外周壁107及び上側隔壁108は、対応する下側外周壁70及び下側隔壁71の上に重なって、熱溶着により接合される。
【0066】
以上のように構成された各排気部6は、各連通孔74を通じて各セル室21~26に連通する。そのため、電槽17の各セル室21~26にて発生したガスは、連通孔74を通って各排気部6の内部に流入し、左右方向13に離間した上側周壁110と下側周壁73との間から流出し、個別通路81~86を排気口201へ向けて流れる。
【0067】
次に、下側通路壁61~66及び上側通路壁111~116により形成される通路について具体的に説明する。
図8に示されるように、中蓋50の低面部56は、電槽17のセル室21~26ごとに、複数の下側通路壁61~66を有している。下側通路壁61~66は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。
【0068】
下側通路壁61は、下側筒部78の下側周壁72を左方に延長した壁であり、下側周壁72と連続して形成されている。下側通路壁61の左方の先端は、下側隔壁71の近傍で右斜め後方へ折れ曲がり、下側外周壁70の近傍まで延びている。
【0069】
下側通路壁62は、下側隔壁71から突出して右斜め後方へ延びる壁である。下側通路壁62の右方の先端は、下側通路壁65の近傍で後方へ折れ曲がり、下側通路壁61の近傍まで延びている。
【0070】
下側通路壁63は、下側通路壁62から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は下側通路壁61の近傍に位置する。
【0071】
下側通路壁64は、下側隔壁71から突出して左方へ延び、途中から左斜め後方へ延びる壁である。下側通路壁64の先端は、左方の下側隔壁71の近傍で後方へ折れ曲がり、下側通路壁62の近傍まで延びている。
【0072】
下側通路壁65は、下側通路壁64から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は下側通路壁61の近傍に位置する。
【0073】
下側通路壁66は、下側隔壁71から突出して右方へ延びる壁であり、その先端は、右方の下側隔壁71の近傍に位置する。
【0074】
以上説明した下側通路壁61~66は、
図8に示されるように、向きの異なる壁の集合体である。前述の通り、下側通路壁61~66は、他の下側通路壁61~66や下側隔壁71と連結されており、これらの壁が屈曲した形状となっている。これにより、個別通路81~86の経路が、非直線の迷路形状となる。すなわち、蓋部材45は、個別通路81~86を屈曲させる通路壁である下側通路壁61~66を有する。
【0075】
図9に示されるように、上蓋100の蓋本体101は、電槽17のセル室21~26ごとに、複数の上側通路壁111~116を有している。上側通路壁111~116は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。
【0076】
上側通路壁111は、上側筒部118の上側周壁109を左方に延長した壁であり、上側周壁109と連続して形成されている。上側通路壁111の左方の先端は、上側隔壁108の近傍で右斜め後方へ折れ曲がり、上側外周壁107の近傍まで延びている。
【0077】
上側通路壁112は、上側隔壁108から突出して右斜め後方へ延びる壁である。上側通路壁112の右方の先端は、上側通路壁115の近傍で後方へ折れ曲がり、上側通路壁111の近傍まで延びている。
【0078】
上側通路壁113は、上側通路壁112から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は上側通路壁111の近傍に位置する。
【0079】
上側通路壁114は、上側隔壁108から突出して左方へ延び、途中から左斜め後方へ延びる壁である。上側通路壁114の先端は、左方の上側隔壁108の近傍で後方へ折れ曲がり、上側通路壁112の近傍まで延びている。
【0080】
上側通路壁115は、上側通路壁114から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は上側通路壁111の近傍に位置する。
【0081】
上側通路壁116は、上側隔壁108から突出して右方へ延びる壁であり、その先端は、右方の上側隔壁108の近傍に位置する。
【0082】
以上説明した上側通路壁111~116は、
図9に示されるように、向きの異なる壁の集合体である。前述の通り、上側通路壁111~116は、他の上側通路壁111~116や上側隔壁108と連結されており、これらの壁が屈曲した形状となっている。これにより、個別通路81~86の経路が、非直線の迷路形状となる。すなわち、蓋部材45は、個別通路81~86を屈曲させる通路壁である上側通路壁111~116を有する。
【0083】
上側通路壁111~116と下側通路壁61~66とは、上下に重なって通路壁を形成する。詳しくは、上側通路壁111~116は、下側通路壁61~66に対応しており、対応する下側通路壁61~66の上に重なって、熱溶着により接合される。このようにして形成された通路壁、下側隔壁71、上側隔壁108、下側外周壁70、及び上側外周壁107の間に、個別通路81~86が設けられている。
【0084】
図8に示されるように、個別通路82及び83の経路は、連通孔74を始点として、下側通路壁61と下側外周壁70との間を左方へ進み、下側通路壁61と下側隔壁71との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁61と下側通路壁62との間を右方へ進み、下側通路壁62と下側通路壁65との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁62と下側通路壁64との間を左方へ進み、下側通路壁64と下側隔壁71との間を下方へ進む。そして、経路は、下側通路壁64と下側通路壁66との間を右方へ進み、下側通路壁66と下側隔壁71との隙間を終点とする。終点において、個別通路82及び83は、共通通路9へ合流する。
【0085】
図8に示されるように、個別通路81の経路は、連通孔74を始点として、下側通路壁61と下側外周壁70との間を右方へ進み、下側通路壁61と下側外周壁70との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁61と下側通路壁62との間を左方へ進み、下側通路壁62と下側通路壁65との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁62と下側通路壁64との間を右方へ進み、下側通路壁64と下側筒部79との間を下方へ進む。そして、経路は、下側通路壁64と下側筒部79との隙間を終点とする。終点において、個別通路81は、共通通路9へ合流する。
【0086】
なお、ここでは、
図8に示される中蓋50の側について説明を行ったが、
図9に示される上蓋100の側についても同様の経路である。また、個別通路84~86については、上記の個別通路81~83と平面15に関して対称な形状であるから、説明を省略する。
【0087】
5.共通通路
【0088】
共通通路9は、中蓋50と上蓋100との間に設けられている。共通通路9は、各個別通路81~86に連通して排気口201に接続する。共通通路9は、6つの個別通路81~86から流入するガスを集合させ、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出する。本実施形態では、
図4及び
図7に示されるように、共通通路9は、7つの通路91~97により構成されている。通路97の排気口201側の末端に、一括排気部3が設けられている。
【0089】
まず、一括排気部3について説明する。一括排気部3は、中蓋50と上蓋100との間に設けられており、セル室21~26で発生したガスを鉛蓄電池1の外部へ一括して排気する機能を果たす。本実施形態では、一括排気部3は、
図7に示されるように、蓋部材45の右方の端に配置されている。なお、一括排気部3は他の位置に配置されてもよく、たとえば、蓋部材45の左方の端に配置されてもよい。
【0090】
詳しくは、
図8に示されるように、中蓋50の低面部56は、下側筒部79を備える。下側筒部79は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。下側筒部79は、右端の下側筒壁69及び下側外周壁70に連結している。
【0091】
図9に示されるように、上蓋100の蓋本体101は、上側筒部119と、排気ダクト200とを備える。上側筒部119は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。上側筒部119は、右端の上側筒壁106及び上側外周壁107に連結している。排気ダクト200の左方の端部は、上側筒部119の内部の空間に接続されている。排気ダクト200の右方の端部は、上蓋100の右方の側面に形成された排気口201に接続されている。
【0092】
上側筒部119の内部の空間に、フィルタ205が収納されている。フィルタ205の下面は、上側筒部119の下面よりも上方に位置している。フィルタ205は、外部スパークが鉛蓄電池1の内部に侵入するのを抑制する。フィルタ205は、円板状の部材であって、たとえば連続した空孔を有する多孔質体である。多孔質体は、たとえば、アルミナ等のセラミックスや、ポリプロピレン等の樹脂粒子の焼結体である。フィルタ205の孔径は、たとえば、平均径が数十~数百μmである。
【0093】
上側筒部119と下側筒部79とは、上下に重なって熱溶着されて、一括排気部3を形成する。通路97からのガスが、下側筒部79の前方の開口から下側筒部79の内部の空間に流入し、フィルタ205を通過する。フィルタ205を通過したガスは、上側筒部119の上方の空間から排気ダクト200に流入し、排気口201を通って鉛蓄電池1の外部へ放出される。
【0094】
続いて、通路91~97について説明する。通路91~97は、下側連結壁76と、上側連結壁117と、前述した下側筒壁69、下側外周壁70、下側隔壁71、下側筒部79、上側筒壁106、上側外周壁107、上側隔壁108、及び上側筒部119により形成される。
【0095】
図8に示されるように、中蓋50の低面部56は、下側連結壁76を備える。下側連結壁76は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。下側連結壁76は、右方の下側筒壁69、左方の下側筒壁69、及び下側隔壁71と連結している。
【0096】
図9に示されるように、上蓋100の蓋本体101は、上側連結壁117を備える。上側連結壁117は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。上側連結壁117は、右方の上側筒壁106及び左方の上側筒壁106と連結している。
【0097】
上側連結壁117と下側連結壁76とは、上下に重なって通路壁を形成する。詳しくは、上側連結壁117は下側連結壁76に対応しており、対応する下側連結壁76の上に重なって、熱溶着により接合される。このようにして形成された通路壁、下側筒壁69、下側外周壁70、下側隔壁71、下側筒部79、上側筒壁106、上側外周壁107、上側隔壁108、及び上側筒部119の間に、通路91~97が設けられている。
【0098】
図9に示されるように、通路91の経路は、個別通路81の終点(上側通路壁114と上側筒部119との隙間)を始点として、上側筒部119及び上側筒壁106と、上側通路壁114及び上側隔壁108との間を左斜め前方へ進む。次に、経路は、上側隔壁108と上側連結壁117との隙間を通り、上側隔壁108と上側筒壁106との間を通って下方へ進み、個別通路82の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を終点とする。
【0099】
図9に示されるように、通路92の経路は、個別通路82及び通路91の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を始点として、上側通路壁116及び上側隔壁108と上側筒壁106との間を左方へ進む。次に、経路は、上側隔壁108と上側連結壁117との隙間を通り、上側隔壁108と上側筒壁106との間を通って下方へ進み、個別通路83の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を終点とする。
【0100】
図9に示されるように、通路93の経路は、個別通路83及び通路92の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を始点として、上側通路壁116と上側筒壁106との間を左方へ進む。次に、経路は、上側隔壁108と上側筒壁106との間を左斜め前方へ進み、上側隔壁108と上側外周壁107との隙間を終点とする。
【0101】
図9に示されるように、通路97の経路は、通路93の終点(上側隔壁108と上側外周壁107との隙間)を始点として、上側筒壁106及び上側連結壁117と、上側外周壁107との間を右方へ、次いで後方へ進み、一括排気部3を終点とする。
【0102】
なお、ここでは、
図9に示される上蓋100の側について説明を行ったが、
図8に示される中蓋50の側についても同様の経路である。また、通路94~96については、上記の通路91~93と平面15に関して対称な形状であるから、説明を省略する。
【0103】
以上説明した排気通路2による、各セル室21~26で発生したガスの排気について、
図4が参照されつつ説明される。
【0104】
左右方向13の右方の端に位置するセル室21で発生したガスは、個別通路81と、通路91と、通路92と、通路93と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室21の左方に隣接して位置するセル室22で発生したガスは、個別通路82と、通路92と、通路93と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室22の左方に隣接して位置するセル室23で発生したガスは、個別通路83と、通路93と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。
【0105】
セル室21~23から一括排気部3までの排気通路2の長さ(通路長)を比較する。セル室21の通路長は、個別通路81と、通路91と、通路92と、通路93と、通路97の長さの合計である。セル室22の通路長は、個別通路82と、通路92と、通路93と、通路97の長さの合計である。従って、セル室21の通路長はセル室22の通路長よりも長い。セル室23の通路長は、個別通路83と、通路93と、通路97の長さの合計である。従って、セル室22の通路長はセル室23の通路長よりも長い。
【0106】
左右方向13の左方の端に位置するセル室26で発生したガスは、個別通路86と、通路96と、通路95と、通路94と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室26の右方に隣接して位置するセル室25で発生したガスは、個別通路85と、通路95と、通路94と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室25の右方に隣接して位置するセル室24で発生したガスは、個別通路84と、通路94と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。
【0107】
セル室24~26から一括排気部3までの排気通路2の長さ(通路長)を比較する。セル室26の通路長は、個別通路86と、通路96と、通路95と、通路94と、通路97の長さの合計である。セル室25の通路長は、個別通路85と、通路95と、通路94と、通路97の長さの合計である。従って、セル室26の通路長はセル室25の通路長よりも長い。セル室24の通路長は、個別通路84と、通路94と、通路97の長さの合計である。従って、セル室25の通路長はセル室24の通路長よりも長い。
【0108】
すなわち、左右方向13の端に位置するセル室21及びセル室26から一括排気部3(フィルタ205)までの排気通路2の長さは、その余のセル室22、23、24、及び25から一括排気部3(フィルタ205)までの排気通路2の長さよりも長い。
【0109】
[変形例]
【0110】
上記実施形態では、鉛蓄電池1が第1電解液案内部材4としてのウェル130の平坦部131と、第2電解液案内部材5としての平板141とを備える例が説明された。鉛蓄電池1がウェル130の平坦部131のみ、又は、平板141のみを備える形態も可能である。
【0111】
上記実施形態では、ウェル130の平坦部131が第1電解液案内部材4を兼ねる例が説明されたが、ウェル130とは別に第1電解液案内部材4が設けられてもよい。たとえば、平板141と同様の部材がウェル130の平坦部131に代えて還流孔77の周縁に配置され、ウェル130の平坦部131は還流孔77と離間して配置されてもよい。
【0112】
[実施例]
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0113】
鉛蓄電池1に上下方向11の振動をあたえば場合の液漏れの有無を観測する。振動周波数を15Hz、振動時間を10分とする。電解液の液面は、ウェル130の下端から10mmの位置に設定される。振動加速度は、0.5Gづつ増加される。電解液が個別通路8(81~86)から共通通路9(91~96)に到達したことをもって、「液漏れ」と判断される(
図4参照)。
【0114】
(1)実施例1
【0115】
鉛蓄電池1が、ウェル130の平坦部131(第1電解液案内部材4)、平板141(第2電解液案内部材5)及び還流孔77に対向する平板142を備え(
図12参照)、前後方向12に沿って開口143及び開口144(
図10参照)が形成されている。なお、スリット133(
図11参照)の方向は、θ=90°である。本実施例の場合、振動加速度が7.5Gのとき液漏れが発生した。
【0116】
(2)実施例2
【0117】
実施例1において、開口143(
図10参照)が閉塞された。本実施例の場合、振動加速度が6.0Gのとき液漏れが発生した。
【0118】
(3)実施例3
【0119】
実施例1において、平板142(
図10参照)が除去された。本実施例の場合、振動加速度が5.0Gのとき液漏れが生じた。
【0120】
(4)比較例1
【0121】
実施例1において、平坦部131が除去された。すなわち、鉛蓄電池1が、ウェル130が平坦部131を備えておらず、平板141(第2電解液案内部材5)及び平板142のみを備える(
図12参照)。本比較例の場合、振動加速度が4.5Gのとき液漏れが発生した。
【0122】
(5)比較例2
【0123】
実施例1において、ウェル130並びに平板141(第1電解液案内部材5)及び平板142(第2電解液案内部材5)が除去された(
図10及び
図12参照)。すなわち、還流孔77が剥き出しの状態である。本比較例の場合、振動加速度が3.5Gのとき液漏れが発生した。
【0124】
各実施例及び比較例の結果が下記の表1に示される。この表1は、各比較例に比べて各実施例では、電槽液の液漏れが明らかに抑えられている。特に、上記一実施形態に係る鉛蓄電池1(実施例1)では、その効果が顕著である。
【0125】
【0126】
なお、本発明は、以下の形で実施することができる。
(1)
電解液が収容された電槽と、
当該電槽に設けられ、上記電解液が上記電槽内に還流する還流孔が形成された中蓋と、
当該中蓋に設けられた上蓋と、
上記還流孔の周縁から上記電槽側へ延び、上記電解液を上記電槽へ案内する第1電解液案内部材と、を備えた鉛蓄電池。
【0127】
(2)
上記中蓋に設けられ、上記還流孔の周囲を囲繞し、且つ、上記電槽側に突出する筒状のウェルを備える(1)に記載の鉛蓄電池。
【0128】
(3)
上記ウェルの壁面の一部が、上記第1電解質案内部材を兼ねている(2)に記載の鉛蓄電池。
【0129】
(4)
上記ウェルの内側に、上記還流孔の周縁から上記電槽側へ延び、上記電解液を上記電槽へ案内する第2電解液案内部材が、上記壁面の一部と対向して設けられている(3)に記載の鉛蓄電池。
【0130】
(5)
上記第2電解液案内部材は、矩形の平板からなり、
当該第2電解液案内部材と上記ウェルの壁面の一部との間を連結する連結部材が設けられている(4)に記載の鉛蓄電池。
【0131】
(6)
上記連結部材は、平板からなり、
当該平板と、上記ウェルの壁面の一部と、上記第2電解液案内部材とによって、上記セル室の長手方向に沿う二カ所に、上記還流孔と連通する開口が形成されている(5)に記載の鉛蓄電池。
【0132】
(7)
上記電槽内に長手壁及び短手壁が配置されることによりセル室が区画されており、
上記還流孔は、上記セル室の中央部に配置されている(1)から(6)のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【符号の説明】
【0133】
1・・・鉛蓄電池
4・・・第1電解液案内部材
5・・・第2電解液案内部材
7・・・連結部材
14・・・電解液
17・・・電槽
21~26・・・セル室
27・・・外壁(短手壁)
29・・・隔壁(長手壁)
50・・・中蓋
77・・・還流孔
100・・・上蓋
130・・・ウェル(筒状部材)
131・・・平坦部(壁面の一部)
141・・・平板
142・・・平板
143・・・開口
144・・・開口