(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】シリカ粉体、シリカ粉体の製造方法、および焼成シリカ粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
C01B33/18 D
(21)【出願番号】P 2019210728
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018219649
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 勇二
(72)【発明者】
【氏名】芝▲崎▼ 将一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-176121(JP,A)
【文献】特開2018-168031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022552(WO,A1)
【文献】特開2018-108924(JP,A)
【文献】特開2016-190770(JP,A)
【文献】特開2008-247731(JP,A)
【文献】特開2013-018690(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016359(WO,A1)
【文献】特開2016-190769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
B01J 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水
、塩基性触媒、およびアルコールを含む溶媒(但し、種粒子を含む溶媒を除く。)にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加し
て前記水と前記アルコキシシランのモル比(水/アルコキシシラン)を0.02~60とし、液温を0~100℃に保持しながらシリカ粒子を含むアルコール分散液を調製する工程と、
前記シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に
蒸留または遠心分離により置換してシリカ粒子を含む水分散液を得る工程と、
前記シリカ粒子を含む水分散液を噴霧させて乾燥する工程と、
を含むことを特徴とするシリカ粉体の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ粒子を含む水分散液に、噴霧性向上剤を添加する工程を更に含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記シリカ粒子を含む水分散液を、前記アルコールの沸点または前記アルコールが水と共沸する温度のいずれか低い方の温度以上で保持する工程を更に含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
噴霧口の温度を160℃以上とする請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子を含む水分散液は、前記シリカ粒子を10質量%以上含む請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記シリカ粒子を含むアルコール分散液を濃縮した後、分散媒をアルコールから水に置換する請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の製造方法で得られたシリカ粉体を、
1000~1200℃で焼成することを特徴とする焼成シリカ粉体の製造方法。
【請求項8】
平均粒子径D1が0.01~5μm、
最大粒子径D2が0.01~10μm、
前記最大粒子径D2と前記平均粒子径D1との比(D2/D1)が2.0以下、
炭素原子含有量が1.0質量%以下、
Fe含有量が1ppm(質量基準)以下、および
シロキサン結合率が65%以上を満足し、
更に、CV値が10%以下を満足することを特徴とするシリカ粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粉体、シリカ粉体の製造方法、および焼成シリカ粉体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子、焼成シリカ粒子[以下、これらをまとめて(焼成)シリカ粒子という場合がある]、および(焼成)シリカ粒子を溶媒に分散させた(焼成)シリカ粒子分散体は、樹脂や樹脂原料等と混合することで、樹脂の成形性や透明性等を損なうことなく強度や硬度、耐熱性、絶縁性等の特性を向上できる。そのため、(焼成)シリカ粒子や(焼成)シリカ粒子分散体は、例えば、接着材料、歯科用材料、光学部材、コーティング材料(ハードコート用、アンチグレア用)、ナノコンポジット材料等の用途に有用である。また、微小な粒径を有する(焼成)シリカ粒子は、その硬度から研磨剤としても用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、加水分解が可能なシリコン化合物を、水と触媒とを含む有機溶媒中で加水分解、縮合することによってシリカ粒子を得る工程と、上記シリカ粒子を乾燥する乾燥工程と、乾燥することで得られたシリカ粒子を1000~1200℃の範囲内で焼成する焼成工程とを含む焼成シリカ粒子の製造方法が記載されている。この文献には、シリカ粒子の乾燥方法として、スプレードライ方式による乾燥が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、加水分解可能な含珪素化合物を原料として、シリカ粒子の分散液を調製する分散液調製工程と、該調製したシリカ粒子分散液を乾燥する乾燥工程と、該乾燥したシリカ粒子を焼成する焼成工程と、該焼成したシリカ粒子を解砕する解砕工程とを備えた焼成シリカ粒子の製造方法が記載されている。この文献には、シリカ粒子の分散液をナイロンフィルターで濾過して、シリカ粒子の凝集粒子を除去した後、更に、蒸留装置を用いて水溶媒に置換することが記載されている。また、上記シリカ分散液の乾燥方法として、噴霧乾燥が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-176121号公報
【文献】特開2016-190770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、水と触媒とを含む有機溶媒中で加水分解、縮合して得られたシリカ粒子を乾燥させているため、乾燥後のシリカ粉体に有機溶媒由来の炭素が含まれ、純度が低かった。一方、上記特許文献2では、シリカ粒子の分散液を水溶媒に置換してから噴霧乾燥しているため、乾燥後のシリカ粒子は凝集して粗大化しやすかった。凝集して粗大化したシリカ粒子は、溶媒や樹脂への分散性が悪くなる。従ってシリカ粒子の純度向上と凝集抑制とを両立させることは、従来技術では難しかった。ところで、上記特許文献1、2では、シリカ粒子の乾燥方法として、スプレードライ方式による乾燥(噴霧乾燥)が記載されている。噴霧乾燥は、他の乾燥方式に比べ機器からの金属の混入が少なく純度面で優れている一方で、シリカ粒子が凝集して粗大化しやすい傾向があった。こうした乾燥技術の面でも、純度向上と凝集抑制を両立させることは難しいものになっていた。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、純度が高く、凝集して粗大化していないシリカ粉体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記シリカ粉体を製造する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記シリカ粉体を焼成して焼成シリカ粉体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加し、シリカ粒子を含むアルコール分散液を調製する工程と、前記シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に置換してシリカ粒子を含む水分散液を得る工程と、前記シリカ粒子を含む水分散液を噴霧させて乾燥する工程と、を含むシリカ粉体の製造方法。
[2] 前記シリカ粒子を含む水分散液に、噴霧性向上剤を添加する工程を更に含む[1]に記載の製造方法。
[3] 前記シリカ粒子を含む水分散液を、前記アルコールの沸点または前記アルコールが水と共沸する温度のいずれか低い方の温度以上で保持する工程を更に含む[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 噴霧口の温度を160℃以上とする[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記シリカ粒子を含む水分散液は、前記シリカ粒子を10質量%以上含む[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記シリカ粒子を含むアルコール分散液を濃縮した後、分散媒をアルコールから水に置換する[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の製造方法で得られたシリカ粉体を、焼成することを特徴とする焼成シリカ粉体の製造方法。
[8] 平均粒子径D1が0.01~5μm、最大粒子径D2が0.01~10μm、前記最大粒子径D2と前記平均粒子径D1との比(D2/D1)が2.0以下、炭素原子含有量が1.0質量%以下、Fe含有量が1ppm(質量基準)以下、およびシロキサン結合率が65%以上を満足するシリカ粉体。
[9] 更に、CV値が10%以下を満足する[8]に記載のシリカ粉体。
なお本明細書において用語「シリカ粒子」は、未焼成シリカ粒子を意味し、焼成シリカ粒子と区別して使用する。用語「シリカ粉体」についても「粒子」、「粉体」の違いがある点を除き、用語「シリカ粒子」と同様の意味で使用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平均粒子径D1が0.01~5μmであり、純度が高く、凝集して粗大化していないシリカ粉体を提供できる。本発明のシリカ粉体は、溶媒や樹脂への分散性が良好である。こうしたシリカ粉体は、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加してシリカ粒子を含む分散液を調製し、得られたシリカ粒子を含む分散液の分散媒をアルコールから水に置換してから、噴霧乾燥することによって製造できる。また、得られたシリカ粉体を焼成することによって、焼成シリカ粉体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、平均粒子径D1が0.01~5μmのシリカ粉体について、純度が高く、凝集して粗大化していないシリカ粉体を提供するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加してシリカ粒子を含む分散液を調製することによって、シリカ粒子生成時における凝集を抑制できるため、水置換しても、そのデメリットである凝集を回避できること、水置換によってシリカ粉体に含まれる炭素原子量を低減でき、噴霧乾燥によってシリカ粉体に含まれる金属量を低減でき、シリカ粒子の純度を高められることが明らかとなった。一方、シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に置換することは表面シラノールを増やすために粒子乾燥時の凝集発生の原因となり、噴霧乾燥は凝集解砕のための衝撃が生じ難いために凝集発生の原因となるものの、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加することによって、シリカ粉体の粒子径を小さくでき、シリカ粉体の凝集による粗大化を高度に防止できること、故に、シリカ粒子の純度向上と凝集抑制とを両立できること、を見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明に係るシリカ粉体は、平均粒子径D1が0.01~5μm、最大粒子径D2が0.01~10μm、前記最大粒子径D2と前記平均粒子径D1との比(D2/D1)が2.0以下、炭素原子含有量が1.0質量%以下、Fe含有量が1ppm(質量基準)以下、およびシロキサン結合率が65%以上を満足する点に特徴がある。
【0012】
(平均粒子径D1)
上記シリカ粉体の平均粒子径D1は0.01μm以上であり、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.2μm以上である。上記シリカ粉体の平均粒子径D1は5μm以下であり、4μm以下が好ましく、より好ましくは3.5μm以下である。上記シリカ粉体の平均粒子径D1は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて実施例に記載した方法で粒子径を測定し、個数平均値として求めた値である。
【0013】
(最大粒子径D2)
上記シリカ粉体は、最大粒子径D2が0.01~10μmである。上記最大粒子径D2はできるだけ小さい方が好ましく、上記平均粒子径D1の値に近いことが望ましい。上記シリカ粉体の最大粒子径D2は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて実施例に記載した方法で測定された粒子径のうち最も大きい値である。
【0014】
(最大粒子径D2と平均粒子径D1との比(D2/D1))
前記最大粒子径D2と前記平均粒子径D1との比(D2/D1)は、2.0以下を満足する。上記比(D2/D1)が2.0を超えると、溶媒や樹脂への分散性が悪くなる。上記比は、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。上記比は、1.0が最も好ましい。
【0015】
(炭素原子含有量)
上記シリカ粉体に含まれる炭素原子量を1.0質量%以下に抑制することによって、シリカ粉体の純度を高めることができる。また、シリカ粒子に含まれる炭素含有量が多くなると、組成物に配合した際に純度を低下させたり、加熱時にアウトガスを発生させたり、着色の原因となる。炭素原子含有量は、0.8質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。上記炭素原子含有量は、できるだけ少ない方が望ましく、最も好ましくは0質量%であるが、例えば、0.1質量%以上であってもよい。
【0016】
(Fe含有量)
上記シリカ粉体に含まれる金属量を低減することによって、シリカ粉体の純度を高めることができる。シリカ粉体に含まれる金属量は、代表値としてFe量を測定すればよい。具体的には、上記シリカ粉体に含まれるFe量を1ppm(質量基準。以下同じ。)以下に抑制することによって、シリカ粉体の純度を高めることができる。Fe含有量は、0.8ppm以下が好ましく、より好ましくは0.5ppm以下、更に好ましくは0.3ppm以下である。上記Fe量は、できるだけ少ない方が望ましく、最も好ましくは0.1ppm未満である。
【0017】
(シロキサン結合率)
上記シリカ粉体のシロキサン結合率を65%以上とすることによって、凝集の原因となるシラノールの割合を低減でき、シリカ粉体の凝集による粗大化を抑制できる。上記シロキサン結合率は、70%以上が好ましく、より好ましくは72%以上である。上記シロキサン結合率は、できるだけ高い方が望ましい。
【0018】
上記シロキサン結合率は、シリカ粉体の29Si-固体NMRを測定した結果に基づいて算出できる。具体的には、固体NMR装置を用い、ケミカルシフト(δ)-130ppm~-80ppmの範囲で測定し、ケミカルシフト(δ)-130ppm~-80ppmの範囲における全シグナルの合計面積を100%としたとき、ケミカルシフト(δ)-111.4ppmにピークを有するシグナルの面積の割合を、シロキサン結合率として算出すればよい。
【0019】
(CV値)
上記シリカ粉体のCV値は、10%以下が好ましい。上記CV値とは、個数基準の粒子径の変動係数であり、その値が小さいことはシリカ粒子の凝集が抑制されて粗大化が防止されている事を示す。このCV値は、9%以下がより好ましく、更に好ましくは8%以下であり、できるだけ小さい方が好ましい。上記CV値は、下記式に従って算出した値とする。
CV値(%)=100×(粒子径の標準偏差/個数平均粒子径)
【0020】
上記個数平均粒子径は、任意に採取したシリカ粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて実施例に記載した方法で1視野に含まれるシリカ粒子の数が100~300個となる倍率で観察し、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる全粒子の一次粒子径を測定し、個数平均値として求めた値である。
【0021】
上記シリカ粉体は、原料に由来する不純物としての金属の含有量も低減されていることが好ましい。不純物としての金属とは、例えば、Fe以外の遷移金属、Na等のアルカリ金属、Ca等のアルカリ土類金属、U等のアクチノイドなどが挙げられる。これらの金属の含有量は、5ppm(質量基準。以下、同じ。)以下が好ましく、より好ましくは1ppm以下であり、できるだけ少ない方が望ましい。
【0022】
上記不純物としての金属の含有量は、例えば、上記金属を含まないか、上記金属の含有量が少ない原料を用いることによって低減できる。また、上記不純物としての金属の含有量は、圧力等の物理的な力を加えた粉砕を行わないことによっても低減できる。
【0023】
本発明に係るシリカ粉体は、凝集して粗大化していないため、溶媒や樹脂への分散性が良好であり、例えば、半導体素子の封止剤や歯科材料等として用いられる硬化性樹脂組成物の充填剤として好適に用いることができる。
【0024】
上記シリカ粉体は、例えば、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加し、シリカ粒子を含むアルコール分散液を調製する工程(以下、アルコール分散液調製工程ということがある。)と、シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に置換してシリカ粒子を含む水分散液を得る工程(以下、水置換工程ということがある。)と、前記シリカ粒子を含む水分散液を噴霧させて乾燥する工程(以下、乾燥工程ということがある。)と、を含む方法によって製造できる。即ち、シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に置換することによって、炭素成分の混入を防止できる。また、水置換して得られたシリカ粒子を含む水分散液を噴霧乾燥することによって、金属の混入を防止できる。これらの結果、シリカ粒子の純度を高めることができる。一方、前記シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に置換することは表面シラノールを増やす原因になるため、粒子乾燥時の凝集発生の要因となり、前記噴霧乾燥は凝集解砕のための衝撃が生じ難いために凝集発生の原因となるものの、本発明では、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加することによって、シリカ粉体の粒子径を小さくでき、シリカ粉体の凝集による粗大化を高度に防止している。これらのため、総合的に凝集による粗大化を防止でき、かつ炭素成分や金属の混入が少ないシリカ粉体を製造できる。
【0025】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0026】
(アルコール分散液調製工程)
水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を添加することによって、アルコキシシランが加水分解縮合され、シリカ粒子を含むアルコール分散液が得られる。
【0027】
水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を添加するにあたり、本発明では、アルコキシシランを含む溶液を複数回に分けて、または連続的に添加することによって、シリカ粉体の粒子径を小さくでき、また、シリカ粉体の凝集を防止できるため、最大粒子径を小さくできる。複数回に分けて添加するとは、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を数回に分けて添加することを意味する。連続的に添加するとは、水およびアルコールを含む溶媒にアルコキシシランを含む溶液を一定間隔で数回に分けて添加することを意味する。
【0028】
上記アルコキシシランは、ケイ素原子の置換基としてアルコキシ基を有する化合物であり、ケイ素原子の置換基として、アルコキシ基の他に、炭素数2~6のアルキル基、または、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を有していてもよい。また、上記アルキル基の水素原子は、ハロゲン原子、ビニル基、グリシジル基、メルカプト基、アミノ基等で置換されていてもよい。
【0029】
上記ケイ素原子の置換基としてアルコキシ基のみを有する4官能性アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等が挙げられる。また、上記ケイ素原子の置換基として、アルコキシ基と無置換のアルキル基を有するアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の3官能性アルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等の2官能性アルコキシシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等の1官能性アルコキシシラン;等が挙げられる。さらに、上記ケイ素原子の置換基として、アルコキシ基と置換アルキル基を有するアルコキシシランとしては、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロアルキル基含有アルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシラン;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の芳香族基含有アルコキシシラン;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジル基含有アルコキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;等が挙げられる。
【0030】
中でも、1~4官能性アルコキシシランが好ましく、より好ましくは3官能性アルコキシシランまたは4官能性アルコキシシランであり、さらに好ましくは4官能性アルコキシシランである。アルコキシシランの官能数(アルコキシ基の数)が多いほど、得られるシリカ粉体に不純物が混入しにくくなる。シリカ粉体に用いられるアルコキシシランのうち、4官能性アルコキシシラン(好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン)が90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上であり、上限は100質量%である。また、反応性の観点から、アルコキシ基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。即ち、本発明のシリカ粉体に特に好ましく用いられるアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランである。
【0031】
上記アルコキシシランを加水分解縮合する反応液中におけるアルコキシシランの濃度は、0.1mmol/g以上が好ましく、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、上限は特に限定されないが、例えば、5mmol/g以下が好ましい。反応液中におけるアルコキシシランの濃度がこの範囲にあると、反応速度の制御が容易となり、シリカ粉体の粒子径を均一にできる。
【0032】
また、上記反応液中における水の濃度は、0.1~6mmol/gが好ましい。但し、アルコキシシランの加水分解縮合によって水の量は変化するので、仕込み時(加水分解・縮合の開始前)の水の量を基準とする。
【0033】
上記水と上記アルコキシシランのモル比(水/アルコキシシラン)は、0.02~60が好ましく、より好ましくは0.1以上であり、より好ましくは30以下である。水とアルコキシシランのモル比がこの範囲にあると、シリカ粒子の内部に残存するシラノール基が低減されやすくなり、吸湿性を低くできる。
【0034】
上記アルコキシシランを加水分解縮合する際に、アルコールを用いることによって、疎水性のアルコキシシランと水とが混合しやすくなり、反応液中でアルコキシシランの加水分解縮合の進行度合いを均一にできるとともに、得られるシリカ粉体の分散性が向上する。
【0035】
上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、ペンチルアルコール等のモノオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のジオール類;等が挙げられ、モノオール類が好ましい。上記アルコールは、1種でもよいし、任意に選ばれる2種以上を用いてもよい。
【0036】
上記反応液中におけるアルコールの量は、40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上であり、80質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
【0037】
また、上記反応液中におけるアルコールの量は、上記アルコキシシランと上記水との合計100質量部に対して、120質量部以上が好ましく、より好ましくは150質量部以上、さらに好ましくは180質量部以上であり、500質量部以下が好ましく、より好ましくは300質量部以下、さらに好ましくは250質量部以下である。上記反応液中におけるアルコール量が多いほど、反応の進行度合いを均一にしやすくなる。一方、上記反応液中におけるアルコール量が少ないと、反応速度を高めることができる。但し、アルコキシシランの加水分解縮合によってアルコールの量は変化するので、仕込み時(加水分解・縮合の開始前)のアルコールの量を基準とする。
【0038】
上記アルコキシシランの加水分解縮合は、塩基性触媒の存在下で行うことが好ましい。アルコキシシランは塩基性触媒の存在下で加水分解縮合され、このときアルコキシシランに含まれるケイ素原子が、塩基性触媒に由来するOH-や他のアルコキシシランの加水分解縮合物に由来するOSi-から求核攻撃を受け、SN2反応に類似した機構で反応が進むとされている(G.J.Brinker、外1名,「SOL-GEL SCIENCE」,1990,ACADEMIC PRESS LIMITED,p116-139)。この加水分解縮合が進むほど、アルコキシシランの中心ケイ素原子に求電子性の高いヒドロキシ基、SiO-基などがより多く結合することとなり、中心ケイ素原子がより求核攻撃を受けやすくなって、加水分解縮合がさらに進みやすくなるのが通常である。
【0039】
上記塩基性触媒としては、例えば、アンモニア類、アミン類、第4級アンモニウム化合物等が挙げられる。上記アンモニア類としては、例えば、アンモニア;尿素等のアンモニア発生剤;等が挙げられる。また、上記アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族アミン;シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン;ベンジルアミン等の芳香族アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;等が挙げられる。また、上記第4級アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。中でも、粒子径の制御が容易である観点では、アンモニア類またはアミン類が好ましい。また、得られるシリカ粉体の純度を高める観点では、シリカ中から除去が容易な塩基性触媒が好ましく、具体的には、アンモニア類またはアミン類が好ましく、アンモニアまたは脂肪族アミンがより好ましい。また、触媒効果と除去容易性を兼ね備える観点では、アンモニア類が好ましく、アンモニアがより好ましい。
【0040】
上記反応液中における上記塩基性触媒の濃度は、0.1~4mmol/gが好ましい。また、上記塩基性触媒と、上記塩基性触媒と上記水との合計の質量比[塩基性触媒/(塩基性触媒+水)]は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上であり、0.4以下が好ましく、0.32以下がより好ましい。
【0041】
上記反応液には、更に、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;イソオクタン、シクロヘキサン等のパラフィン類;ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;等の疎水性有機溶媒が含まれていてもよい。これらの疎水性有機溶媒を用いる場合、分散性を向上させるため界面活性剤を添加してもよい。
【0042】
上記各成分は、適当な順で混合してもよいが、例えば、少なくとも上記各成分の一部(例えば、水、アルコール、塩基性触媒等)を予め混合した予備混合液を調製した後、アルコキシシランと混合してもよい。アルコキシシランは、予めアルコールと混合した後、予備混合液と混合してもよい。
【0043】
上記アルコキシシランを加水分解縮合する際の反応温度は、0~100℃が好ましく、より好ましくは20~70℃、さらに好ましくは20~50℃である。また、加水分解縮合継続時間は、30分~100時間が好ましく、より好ましくは1~20時間、さらに好ましくは2~10時間である。
【0044】
(濃縮)
上記シリカ粒子を含むアルコール分散液は、濃縮することが好ましい。濃縮することによって、シリカ粉体に含まれる炭素原子含有量を低減できる。また、シリカ粉体のシロキサン結合率を高めることができる。また、シリカ粉体の生産効率を向上できる。上記シリカ粒子を含むアルコール分散液の濃縮は、シリカ粒子の濃度が、例えば、10質量%以上になるまで行うことが好ましく、より好ましくは20質量%以上である。シリカ粒子の濃度が高いほど、シリカ粉体の生産効率を向上できる。しかしシリカ粉体の濃度が高すぎると、後述する噴霧乾燥が困難になる。従ってシリカ粒子の濃度を高めた場合は、後述するように、噴霧性向上剤を添加することが好ましい。
濃縮方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。
【0045】
(水置換工程)
次に、上記シリカ粒子を含むアルコール分散液の分散媒をアルコールから水に置換し、シリカ粒子を含む水分散液を得る。上記分散媒をアルコールから水に置換することによって、分散液からアルコールが除去されるため、乾燥後のシリカ粉体に含まれる炭素原子量を低減でき、シリカ粉体の純度を高めることができる。
【0046】
上記分散媒をアルコールから水に置換する方法としては、例えば、蒸留装置を用いる方法や、上記分散媒を遠心分離し、回収した固形分を水に分散させる方法が挙げられる。上記分散媒をアルコールから水に置換するにあたっては、水を追加してもよい。水は、1回だけ添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよいし、連続的に添加してもよい。
【0047】
上記分散媒をアルコールから水に置換するときの時間は、例えば、3~8時間程度とすればよい。また、上記分散媒のアルコールから水への置換は、シリカ粒子のシロキサン結合率が73%以上となるまで行うことが好ましく、より好ましくは74%以上、更に好ましくは75%以上である。
【0048】
また、水置換後のシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子量は、10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上であってもよい。
【0049】
本発明では、上記水置換工程後、シリカ粒子を含む水分散液に、噴霧性向上剤を添加する工程(以下、噴霧性向上剤添加工程ということがある。)を更に含んでもよいし、シリカ粒子を含む水分散液を、上記アルコールの沸点または上記アルコールが水と共沸する温度のいずれか低い方の温度以上で保持する工程(以下、保持工程ということがある。)を更に含んでもよい。噴霧性向上剤とは、シリカ粒子を含む水分散液の粘度を低下させる作用を有する添加剤である。シリカ粒子を含む水分散液に噴霧性向上剤を添加することによって、シリカ粒子の濃度を高濃度に保ったまま噴霧性を向上させることができる。シリカ粒子の濃度を高濃度に保ったまま噴霧乾燥することによって生産性を向上できる。
【0050】
(噴霧性向上剤添加工程)
噴霧性向上剤添加工程では、上記シリカ粒子を含む水分散液に、噴霧前に噴霧性向上剤を添加することによって、水分散液に含まれるシリカ粒子が高濃度であっても水分散液の粘度を低くすることができるため、噴霧乾燥が可能となる。水分散液の粘度を低くできる理由は不明であるが、シリカ粒子は負の電荷を帯びているため、塩基を添加することによって塩基は正の電荷を帯びているため電気二重層が形成されて安定化し、更に酸を添加することによって酸は負の電荷を帯びているため層が増える結果、シリカ粒子同士の相互作用を抑えることができ、水分散液の粘度を低くできるのではないかと考えられる。酸としては、弱疎水性基を有するものを選択することが好ましい。また、水分散液の粘度が低くなるため、噴霧乾燥してもシリカ粒子の凝集を抑制できる。その結果、シリカ粒子の生産性を向上できる。
【0051】
上記噴霧性向上剤は、水分散液の粘度低下剤として作用し、酸と塩基とを組み合わせた添加剤である。上記噴霧性向上剤は、上記シリカ粒子を含むアルコール分散液を濃縮したときにおけるシリカ粒子の濃度が20質量%以上のときに添加することが好ましく、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、更により好ましくは45質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。
【0052】
上記噴霧性向上剤として用いることのできる酸の種類は、無機酸であってもよいが、有機酸を用いることが好ましい。有機酸としては、脂肪族系の有機酸を用いることが好ましく、より好ましくはカルボン酸またはアミノ酸であり、例えば、酢酸、メトキシ酢酸、乳酸、プロピオン酸、DL-アラニン、N-アセチルグリシンなどが挙げられ、これらの中でも酢酸、メトキシ酢酸、乳酸を用いることが特に好ましい。なお、DL-アラニンやN-アセチルグリシンなどのアミノ酸は、両性の物資であるが、こうした両性の物質を用いる場合でも後述する塩基を用いることが好ましい。無機酸として、例えば、リン酸、硝酸、ホウ酸などを用いることができる。なお、無機酸のなかでも、金属を含む無機酸は用いないことが好ましい。
【0053】
上記噴霧性向上剤として用いる酸の量は、例えば、上記シリカ粒子を含む水分散液中のシリカ粒子の質量に対して、0.3~1.5質量%が好ましく、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.4質量%以下、更に好ましくは1.3質量%以下である。
【0054】
上記噴霧性向上剤として用いることのできる塩基の種類は特に限定されず、例えば、有機塩基であっても、無機塩基であってもよい。有機塩基としては、脂肪族系の有機塩基を用いることが好ましく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミンなどが挙げられる。無機塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これらのなかでもアンモニアを用いることが好ましく、アンモニアを用いることによって得られる粒子の安定性が高くなる。
【0055】
上記噴霧性向上剤として用いる塩基の量は、例えば、上記シリカ粒子を含む水分散液中のシリカ粒子の質量に対して、0.1~1質量%が好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.6質量%以下である。
【0056】
上記噴霧性向上剤として用いる酸と塩基の合計量は、例えば、上記シリカ粒子を含む水分散液中のシリカ粒子の質量に対して、0.5~1.5が好ましく、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上であり、より好ましくは1.4以下、更に好ましくは1.3以下である。
【0057】
上記噴霧性向上剤として用いる酸と塩基のmol比(酸/塩基)は、1~10が好ましく、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上であり、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
【0058】
上記噴霧性向上剤として用いる酸と塩基の組み合わせとしては、有機酸と、有機塩基および/または無機塩基を用いることが好ましく、有機酸と、有機塩基または無機塩基を用いることがより好ましい。
【0059】
上記噴霧性向上剤として用いる酸と塩基は、上記シリカ粒子を含む水分散液に、別々に任意の順で添加してもよいし、予め酸と塩基を混合したものを、上記シリカ粒子を含む水分散液に添加してもよい。
【0060】
(保持工程)
本発明では、上記シリカ粒子を含む水分散液を、上記アルコールの沸点または上記アルコールが水と共沸する温度のいずれか低い方の温度以上で保持することによって、残存する上記アルコールを除去できると共に、シリカ粉体のシロキサン結合率を高めることができ、シリカ粉体の凝集による粗大化を抑制できる。
【0061】
上記アルコールの沸点は、常圧の場合は、例えば、メタノールは64.7℃、エタノールは78.3℃、プロパノールは97.2℃、イソプロピルアルコール82.4℃、n-ブチルアルコールは117.7℃、t-ブチルアルコールは82.5℃、ペンチルアルコールは138.0℃、エチレングリコールは197.9℃、プロピレングリコール187.3℃、1,4-ブタンジオールは230.0℃である。
【0062】
上記アルコールが水と共沸する温度はアルコールと水との混合割合によって変化するため一律に規定できず、保持工程において、残存するアルコールを除去できる温度であればよい。
【0063】
上記保持温度は、常圧の場合は、例えば、60℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上、特に好ましくは95℃以上である。上記保持温度は、高いほど好ましいが、水の蒸発を抑制する観点では、100℃未満が好ましく、より好ましくは99.5℃以下である。
【0064】
上記保持は、常圧で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。減圧下で保持する場合は、例えば、0.03MPa以下が好ましく、より好ましくは0.02MPa以下、更に好ましくは0.01MPa以下である。
【0065】
保持時間は、例えば、1時間以上が好ましく、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上である。上記保持時間の上限は特に限定されないが、長時間保持してもシロキサン結合率は飽和し、殆ど変化しなくなるため、生産性の観点から、例えば、10時間以下が好ましく、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは7時間以下である。
【0066】
上記保持工程では、水を追加してもよく、また、保持した後に、水を追加してもよい。水は、1回だけ添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよいし、連続的に添加してもよい。
【0067】
上記噴霧性向上剤添加工程と上記保持工程は、水置換工程の後、後述する乾燥工程の前に、どちらか一方を行ってもよいし、両方を行ってもよい。上記噴霧性向上剤添加工程と上記保持工程の両方を行う場合は、水置換工程の後、保持工程を行ってから噴霧性向上剤添加工程を行うことが好ましい。
【0068】
(乾燥工程)
次に、水置換工程で得られたシリカ粒子を含む水分散液、あるいは水置換工程で得られたシリカ粒子を含む水分散液に上記噴霧性向上剤を添加、および/または上記条件で保持して得られた保持後のシリカ粒子を含む水分散液を噴霧させて乾燥することによって、シリカ粉体に金属を混入させることなく乾燥させることができるため、シリカ粉体の純度を高めることができる。例えば、シリカ粒子を含む水分散液を真空気流乾燥すると、真空乾燥装置の壁面にシリカ粒子が衝突してこの壁面から金属(例えば、Feなど)がシリカ粉体に混入し、シリカ粉体の純度が低下することがあるが、本発明では、噴霧乾燥を採用しているため、こうした金属の混入を防止できる。
【0069】
上記噴霧乾燥は、例えば、噴霧乾燥装置を用いて行えばよい。噴霧乾燥装置の種類は特に限定されず、噴霧方式は、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式のいずれであってもよい。
【0070】
上記噴霧乾燥は、噴霧口の温度を、例えば、160℃以上とすることが好ましい。噴霧口の温度とは、上記シリカ粒子を含む水分散液が、噴霧乾燥装置に設けられた噴霧口から乾燥室内へ噴霧するときの噴霧口位置における温度である。
【0071】
上記加熱温度を高くすることによってシリカ粉体に含まれる水分量を低減できる。上記温度は、170℃以上がより好ましく、更に好ましくは180℃以上である。上記温度の上限は特に限定されないが、例えば、250℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
【0072】
上記噴霧乾燥は、噴霧圧を、例えば、2kg/cm2以上とすることが好ましく、より好ましくは3kg/cm2以上、更に好ましくは4kg/cm2以上である。上記噴霧圧の上限は特に限定されないが、例えば、8kg/cm2以下が好ましく、より好ましくは7kg/cm2以下、更に好ましくは6kg/cm2以下である。
【0073】
上記噴霧乾燥は、風量を、例えば、0.5m3/min以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0m3/min以上、更に好ましくは1.5m3/min以上である。上記風量の上限は特に限定されないが、例えば、3.5m3/min以下が好ましく、より好ましくは3.0m3/min以下、更に好ましくは2.5m3/min以下である。
【0074】
上記噴霧乾燥には、シリカ粒子を10質量%以上含む水分散液を用いることが好ましい。シリカ粒子の濃度が高い水分散液を用いることによって、噴霧乾燥の効率を高めることができる。上記水分散液に含まれるシリカ粒子量は、15質量%以上がより好ましく、更に好ましくは18質量%以上であり、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、或いは50質量%以上であってもよい。シリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子濃度が、例えば、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、或いは50質量%以上である場合には、噴霧性向上剤を用いることが好ましい。
【0075】
本発明に係る製造方法で得られたシリカ粉体は凝集して粗大化していないため、粉砕しなくてもよいが、必要に応じて、粉砕してもよい。
【0076】
本発明には、噴霧乾燥して得られたシリカ粉体を焼成することによって焼成シリカ粉体を製造する方法も含まれる。未焼成のシリカ粉体を焼成することによって、シリカ粉体の表面に存在するシラノール基を低減できるため、吸湿性を低くできる。
【0077】
上記未焼成のシリカ粉体を焼成する温度(焼成温度)は、例えば、1000~1200℃が好ましい。焼成温度が1000℃を下回ると、シラノール基が残るため、吸湿性を低くすることができない。上記焼成温度は、1010℃以上がより好ましく、更に好ましくは1020℃以上である。しかし上記焼成温度が1200℃を超えると、焼成シリカ粉体同士の融着が起こりやすくなるため、凝集して粗大化し易くなる。上記焼成温度は、1150℃以下がより好ましく、更に好ましくは1100℃以下である。
【0078】
上記焼成する時間(焼成時間)は、焼成温度や未焼成のシリカ粉体の粒子径等に応じて設定すればよいが、例えば、45分以上、1時間15分以下が好ましい。
【0079】
上記焼成は、例えば、電気炉を用いて行えばよい。また、上記焼成は、例えば、空気中で行えばよい。焼成して得られた焼成シリカ粉体は、必要に応じて、粉砕してもよい。
【0080】
上記焼成シリカ粉体は、平均粒子径d1が0.01~5μm、およびFe含有量が1ppm(質量基準。以下同じ。)以下を満足することが好ましい。
【0081】
(平均粒子径d1)
上記焼成シリカ粉体の平均粒子径d1は、0.1μm以上がより好ましく、更に好ましくは0.2μm以上である。上記焼成シリカ粉体の平均粒子径d1は、4μm以下がより好ましく、更に好ましくは3μm以下、特に好ましくは2μm以下、最も好ましくは1μm以下である。上記平均粒子径d1は、透過型電子顕微鏡を用いて粒子径を測定し、個数平均値として求めた値である。
【0082】
(Fe含有量)
上記焼成シリカ粉体に含まれるFe量は、0.8ppm以下がより好ましく、更に好ましくは0.5ppm以下、特に好ましくは0.3ppm以下である。Fe含有量は、できるだけ少ない方が望ましく、最も好ましくは0ppmである。
【0083】
上記焼成シリカ粉体は、最大粒子径d2が0.01~10μmを満足することが好ましい。上記最大粒子径d2は、0.1μm以上がより好ましく、更に好ましくは0.2μm以上である。上記焼成シリカ粉体の最大粒子径d2は、8μm以下がより好ましく、更に好ましくは6μm以下、特に好ましくは4μm以下、最も好ましくは2μm以下である。
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0085】
<実施例1>
[実験例1]
(アルコール分散液調製工程)
撹拌機、滴下装置、および温度計を備えた容量200Lの反応器に、メタノールを67.54kgと、28質量%アンモニア水(水および触媒)を26.33kg仕込み、撹拌しながら液温を33±0.5℃に調節した。一方、メタノール5.59kgにテトラメトキシシラン13.45kgを溶解させた溶液を滴下装置に仕込み、反応器中の液温を33±0.5℃に保持しながら、滴下装置から前記溶液を3時間かけて連続滴下した。反応液中におけるテトラメトキシシランの濃度は3.0mmol/g、水の濃度は4.2mmol/g、アルコールの量は64.8質量%、アンモニアの濃度は1.6mmol/gであった。水とテトラメトキシシランのモル比(水/テトラメトキシシラン)は1.4、アンモニアと、アンモニアと水との合計の質量比[アンモニア/(アンモニア+水)]は0.28であった。
【0086】
滴下終了後、反応器中の液温を33±0.5℃に保持しながら更に1時間撹拌することによって、テトラメトキシシランの加水分解縮合を行い、シリカ粒子を含むアルコール分散液を調製した。
【0087】
次に、シリカ粒子を含むアルコール分散液を、シリカ粒子の濃度が20質量%になるまで濃縮した。
【0088】
(水置換工程および保持工程)
次に、濃縮して得られたシリカ粒子を含むアルコール分散液に含まれるメタノールを、蒸留装置を用いて水に置換し、得られたシリカ粒子を含む水分散液を液温99.5℃で5時間以上保持した後、シリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の濃度が20質量%になるように調整した。なお、メタノールの沸点は、64.7℃である。
【0089】
ここで、保持後のシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の濃度を測定した。また、保持後のシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の平均粒子径を次の手順で測定した。保持後のシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子を、遠心分離機を用いて溶媒と分離した。遠心分離は、遠心力10万G以上で1時間行い、沈殿物を取り出した。得られた沈殿物を80℃で、10時間、0.007MPaの条件で真空乾燥し、シリカ粒子を得た。得られたシリカ粒子を、1視野に含まれるシリカ粒子の数が100~300個となる測定倍率で透過型電子顕微鏡を用いて観察し、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる全粒子の平均粒子径を算出した。
【0090】
また、保持後のシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の29Si-固体NMRを測定し、シリカ粒子のシロキサン結合率を算出した。保持後のシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子は、遠心分離機を用いて、上述した条件で溶媒と分離した。得られたシリカ粒子を、固体NMR装置(BRUKER社製、AVANCE400)により、ケミカルシフト(δ)-130ppm~-80ppmの範囲で測定した。ケミカルシフト(δ)-130ppm~-80ppmの範囲における全シグナルの合計面積を100%としたとき、ケミカルシフト(δ)-111.4ppmにピークを有するシグナルの面積の割合を、シロキサン結合率として算出した。
【0091】
(乾燥工程)
次に、保持後のシリカ粒子を含む水分散液を、噴霧乾燥装置(藤崎電機株式会社製、MDL-015MGC型。スプレードライヤー)を用いて噴霧乾燥し、シリカ粉体を得た。ノズルから噴霧させて乾燥するときの噴霧口の温度(ノズル出口温度)は200℃、噴霧圧は5kg/cm2、風量は2m3/minとした。
【0092】
[実験例2]
実験例1のアルコール分散液調製工程において、テトラメトキシシランを溶解する溶媒としてメタノールを用いず、滴下装置からテトラメトキシシラン13.45kgを連続滴下する点以外は、実験例1と同じ条件でシリカ粉体を製造した。反応液中におけるテトラメトキシシランの濃度は3.1mmol/g、アルコールの量は62.9質量%であった。
【0093】
[実験例3]
実験例2において、アルコール分散液調製工程における反応器に仕込むメタノールを58kg、28質量%アンモニア水(水および触媒)を12kgとする点と、滴下装置から連続滴下するテトラメトキシシランを35kgとする点以外は、実験例2と同じ条件でシリカ粉体を製造した。反応液中におけるテトラメトキシシランの濃度は4.8mmol/g、水の濃度は1.2mmol/g、アルコールの量は55.2質量%、アンモニアの濃度は0.5mmol/gであった。水とテトラメトキシシランのモル比(水/テトラメトキシシラン)は0.25、アンモニアと、アンモニアと水との合計の質量比[アンモニア/(アンモニア+水)]は0.28であった。
【0094】
[実験例4]
実験例3において、保持後におけるシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の濃度が30質量%になるように調整する以外は、実験例3と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0095】
[実験例5]
実験例3において、保持後におけるシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の濃度が40質量%になるように調整する以外は、実験例3と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0096】
[実験例6]
実験例3において、アルコール分散液調製工程で得られたシリカ粒子を含むアルコール分散液に含まれるメタノールを水に置換せずに、液温99.5℃で5時間以上保持した点と、保持後のシリカ粒子を含む水分散液にブタノールを4kg添加してから噴霧乾燥した点以外は、実験例3と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0097】
[実験例7]
実験例1において、アルコール分散液調製工程で得られたシリカ粒子を含むアルコール分散液に含まれるメタノールを水に置換せずに、液温99.5℃で5時間以上保持した点と、保持後のシリカ粒子を含む水分散液にブタノールを4kg添加してから乾燥工程を行った点と、乾燥工程において、噴霧乾燥装置の代わりに、瞬間真空乾燥装置(ホソカワミクロン株式会社製、クラックスシステム8B型)を用いて真空乾燥した点以外は、実験例1と同じ条件でシリカ粉体を製造した。瞬間真空乾燥装置での加熱管温度は175℃、減圧度は0.03MPaとした。
【0098】
[実験例8]
実験例1の乾燥工程において、噴霧乾燥装置の代わりに、瞬間真空乾燥装置(ホソカワミクロン株式会社製、クラックスシステム8B型)を用いて真空乾燥した点以外は、実験例1と同じ条件でシリカ粉体を製造した。瞬間真空乾燥装置での加熱管温度は175℃、減圧度は0.03MPaとした。
【0099】
[実験例9]
実験例3において、アルコール分散液調製工程における反応器に仕込むメタノールを54kgとし、28質量%アンモニア水(水および触媒)を13kgとした点と、滴下装置から連続滴下するテトラメトキシシランを76kgとした点と、滴下装置から前記溶液を連続滴下する時間を4時間とした点と、蒸留装置を用いて水に置換した後、保持工程後、噴霧前に、シリカ粒子を含む水分散液にメトキシ酢酸を0.2kgと、28質量%アンモニア水を0.2kg添加した点以外は、実験例3と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
反応液中におけるテトラメトキシシランの濃度は5.6mmol/g、水の濃度は0.7mmol/g、アルコールの量は37.8質量%、アンモニアの濃度は0.3mmol/gであった。水とテトラメトキシシランのモル比(水/テトラメトキシシラン)は0.12、アンモニアと、アンモニアと水との合計の質量比[アンモニア/(アンモニア+水)]は0.28であった。
【0100】
[実験例10]
実験例9において、保持後におけるシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の濃度が50質量%になるように調整する以外は、実験例9と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0101】
[実験例11]
実験例10において、蒸留装置を用いて水に置換した後、保持工程後、噴霧前に、シリカ粒子を含む水分散液に添加するメトキシ酢酸を0.2kgとし、28質量%アンモニア水を0.4kgとした点以外は、実験例10と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0102】
[実験例12]
実験例10において、蒸留装置を用いて水に置換した後、保持工程後、噴霧前に、シリカ粒子を含む水分散液に添加するメトキシ酢酸を0.3kgとし、28質量%アンモニア水を0.2kgとした点以外は、実験例10と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0103】
[実験例13]
実験例10において、蒸留装置を用いて水に置換した後、保持工程後、噴霧前に、シリカ粒子を含む水分散液にメトキシ酢酸を添加する代わりに酢酸を添加した点以外は、実験例10と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0104】
[実験例14]
実験例10において、蒸留装置を用いて水に置換した後、保持工程後、噴霧前に、シリカ粒子を含む水分散液にメトキシ酢酸を添加する代わりに乳酸を添加した点以外は、実験例10と同じ条件でシリカ粉体を製造した。
【0105】
シリカに対する酸の量およびシリカに対する塩基の量は、保持後におけるシリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の量を分析、定量し、その結果に基づいて決定した。
【0106】
上記実験例1~14について、アルコキシシラン(テトラエトキシシラン)の添加条件、シリカ粒子を含む水分散液における分散媒の成分、シリカ粒子を含む水分散液におけるシリカ粒子の濃度、シリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子の平均粒子径、シリカ粒子を含む水分散液に含まれるシリカ粒子のシロキサン結合率、および乾燥方法を下記表1または表2に示す。
【0107】
実験例1~14で得られた乾燥後のシリカ粉体を次の手順で評価した。
【0108】
<平均粒子径D1、最大粒子径D2>
シリカ粒子の濃度が1質量%となるように乾燥後のシリカ粉体をメタノールに入れ、超音波分散機により10分間かけてシリカ粒子を分散させ、粒子径測定用試料を調製した。得られた試料中のシリカ粒子の個数平均粒子径をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製の「LA-920」)を用いて測定し、平均粒子径D1とした。また、同様に、上記乾燥後のシリカ粉体に含まれるシリカ粒子のうち最も大きい粒子の粒子径(最大粒子径)D2を測定した。また、上記最大粒子径D2と上記平均粒子径D1との比(D2/D1)を算出した。
【0109】
本発明では、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した平均粒子径D1、および最大粒子径D2に基づいて、乾燥後のシリカ粉体の物性を評価した。
【0110】
<平均粒子径A、最大粒子径B>
参考データとして、透過型電子顕微鏡を用いて次の手順でシリカ粒子の平均粒子径Aと最大粒子径Bを測定した。シリカ粒子の濃度が1質量%となるように乾燥後のシリカ粉体をメタノールに入れ、超音波分散機により10分間かけてシリカ粒子を分散させた分散液を調製した。得られた分散液に透過型電子顕微鏡観察用の銅メッシュを1回浸漬した後、この銅メッシュを透過型電子顕微鏡の試料台に載せて、室温でメタノールが蒸発した後に、1視野に含まれるシリカ粒子の数が100~300個となる測定倍率で透過型電子顕微鏡観察し、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる全粒子の粒子径の個数平均を、平均粒子径Aとして算出した。また、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる粒子のうち、最も大きい粒子の粒子径(最大粒子径)Bを測定した。また、上記最大粒子径Bと上記平均粒子径Aとの比(B/A)を算出した。
【0111】
<粗大粒子の個数頻度>
乾燥後のシリカ粉体について、上記透過型電子顕微鏡を用いて粒子径を測定して一次粒子径の平均粒子径Aを求めたときに、平均粒子径Aに対して4倍以上の粒子径を有する粗大粒子が観察された場合は、4倍以上の粒子径を有する粗大粒子の割合(個数頻度)(%)を算出した。
【0112】
<CV値>
乾燥後のシリカ粉体について、上記透過型電子顕微鏡を用いて算出した粒子径に基づいて、平均粒子径A、および標準偏差を算出し、下記式に従ってCV値を求めた。
CV値(%)=100×(粒子径の標準偏差/平均粒子径A)
【0113】
<炭素原子含有量>
乾燥後のシリカ粉体に含まれる炭素原子量を、CNH分析装置(elementar社製、vario EL cube)を用いて測定した。燃焼管温度は1150℃、還元管温度は850℃とした。
【0114】
<Fe含有量>
乾燥後のシリカ粉体に含まれるFe量を、誘導結合プラズマ質量分析装置(アジレント社製、7700型)を用いて測定した。なお、前処理として、乾燥後のシリカ粉体5gをフッ酸と硝酸の混酸に溶解させた後、乾固させ、硝酸および過酸化水素水で溶解し、20mlに定容したものをFe含有量測定用溶液とした。
【0115】
<シロキサン結合率>
乾燥後のシリカ粉体の29Si-固体NMRを測定し、シリカ粒子のシロキサン結合率を算出した。29Si-固体NMRの測定には、固体NMR装置(BRUKER社製、AVANCE400)を用い、ケミカルシフト(δ)-130ppm~-80ppmの範囲で測定した。ケミカルシフト(δ)-130ppm~-80ppmの範囲における全シグナルの合計面積を100%としたとき、ケミカルシフト(δ)-111.4ppmにピークを有するシグナルの面積の割合を、シロキサン結合率として算出した。
乾燥後のシリカ粉体について、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて算出した平均粒子径D1、最大粒子径D2、最大粒子径D2と平均粒子径D1との比(D2/D1)、透過型電子顕微鏡を用いて算出した平均粒子径A、最大粒子径B、最大粒子径Bと平均粒子径Aとの比(B/A)、粗大粒子の割合(個数頻度)、CV値、炭素原子含有量、Fe含有量、およびシロキサン結合率を下記表1または表2に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
上記表1および表2から次のように考察できる。実験例1~5、9~14は、本発明で規定する要件を満足する例であり、炭素原子含有量およびFe含有量が低いため純度が高く、またシロキサン結合率が高く、凝集していないシリカ粉体が得られた。特に、実験例1、3~5を比較すると、実験例3~5は、実験例1に比べてテトラメトキシシランが高濃度であったが、凝集していないシリカ粉体が得られた。また、実験例3と実験例9を比較すると、シリカ粒子を含む水分散液に添加剤としてメトキシ酢酸および28質量%アンモニア水を添加しても、乾燥して得られたシリカ粉体の性状は同じであった。また、実験例9と実験例10を比較すると、実験例10のように、シリカ粒子を含む水分散液におけるシリカ粒子が高濃度であっても噴霧乾燥によって実験例9と同じ性状のシリカ粉体が得られることが分かる。従って実験例9と実験例10を比較すると、実験例10の方がシリカ粒子の生産効率は高いことが分かる。また、実験例10、13、14を比較すると、添加剤としてメトキシ酢酸の代わりに酢酸や乳酸を用いても、乾燥して得られたシリカ粉体の性状は同じであった。
【0119】
一方、実験例6~8は、本発明で規定する要件を満足しない例である。これらのうち実験例6は、シリカ粒子を含むアルコール分散液に含まれるメタノールを水に置換せずにシリカ粉体を製造したため、乾燥後のシリカ粉体に含まれる炭素原子量を低減できなかった。実験例7は、シリカ粒子を含むアルコール分散液に含まれるメタノールを水に置換せずにシリカ粉体を製造したため、乾燥後のシリカ粉体に含まれる炭素原子量を低減できなかった。また、濃縮して得られたシリカ粒子を含む水分散液を真空乾燥したため、乾燥後のシリカ粉体に含まれるFe量を低減できなかった。実験例8は、シリカ粒子を含むアルコール分散液に含まれるメタノールを水に置換して得られたシリカ粒子を含む水分散液を真空乾燥したため、シリカ粉体が凝集した。
【0120】
次に、実験例1~7で得られた乾燥後の未焼成シリカ粉体を坩堝に入れ、電気炉を用い、空気中で、1050℃で1時間焼成した後、冷却し、焼成シリカ粉体を製造した。得られた焼成シリカ粉体について、上記乾燥後の未焼成シリカ粉体と同じ条件で、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製の「LA-920」)を用いて粒子径を測定し、平均粒子径d1を算出した。また、焼成シリカ粉体に含まれる粒子のうち、最も大きい粒子の粒子径(最大粒子径d2)を測定した。測定結果を上記表1に示す。
【0121】
また、実験例9~14で得られた乾燥後の未焼成シリカ粉体を上記実験例1~7と同じ条件で焼成し、焼成シリカ粉体を製造した。得られた焼成シリカ粉体は、1視野に含まれるシリカ粒子の数が100~300個となる測定倍率で透過型電子顕微鏡観察し、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる全粒子の粒子径の個数平均を、平均粒子径d1として算出した。また、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる粒子のうち、最も大きい粒子の粒子径(最大粒子径d2)を測定した。測定結果を上記表2に示す。
【0122】
また、得られた焼成シリカ粉体に含まれるFe量を、上記乾燥後の未焼成シリカ粉体と同じ条件で測定した。測定結果を上記表1または表2に示す。
【0123】
上記表1および表2から次のように考察できる。実験例1~6、9~14で得られた焼成シリカ粉体は、濃縮して得られた未焼成シリカ粒子を含む水分散液を噴霧乾燥したため、焼成後においてもFe含有量が低く、純度が高かった。一方、実験例7で得られた焼成シリカ粉体は、濃縮して得られた未焼成シリカ粒子を含む水分散液を真空乾燥したため、焼成後においてもシリカ粉体にFeが残存した。
【0124】
<実施例2>
[実験例21]
水248g、エチルアルコール(関東化学社製)207g、および濃度28質量%アンモニア水(関東化学社製)43gを容量2Lのガラス製反応器に入れて撹拌した。反応器内の液温を35±0.5℃に調節し、反応器にテトラメトキシシラン(多摩化学社製)9gを一気に加えた。その後、1時間撹拌した。1時間撹拌することによって、テトラメトキシシランは加水分解・縮合し、シリカ粒子を含むアルコール分散液が得られた。
【0125】
得られた分散液に含まれるシリカ粒子のCV値を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて次の手順で測定した。分散液に含まれるシリカ粒子を、遠心分離機を用いて溶媒と分離した。遠心分離は、遠心力10万G以上で1時間行い、沈殿物を取り出した。得られた沈殿物を80℃で、10時間、0.007MPaの条件で真空乾燥し、シリカ粒子を得た。得られたシリカ粒子を、1視野に含まれるシリカ粒子の数が100~300個となる測定倍率で透過型電子顕微鏡観察し、得られた5視野以上の透過型電子顕微鏡像に含まれる全粒子の平均粒子径を算出した。また、粒子径の標準偏差を算出した。平均粒子径および標準偏差に基づいて、下記式に従ってCV値を求めた。下記表3に、透過型電子顕微鏡を用いて求めたCV値を示す。
CV値(%)=100×(粒子径の標準偏差/平均粒子径)
【0126】
また、得られた分散液に含まれるシリカ粒子の平均粒子径をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製の「LA-920」)を用いて次の手順で測定した。分散液に含まれるシリカ粒子を、遠心分離機を用いて溶媒と分離した。遠心分離は、遠心力10万G以上で1時間行い、沈殿物を取り出した。得られた沈殿物を80℃で、10時間、0.007MPaの条件で真空乾燥し、シリカ粒子を得た。得られたシリカ粒子における粒径を、上記レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定し、個数平均を平均粒子径として算出した。また、最も大きい粒子の粒子径(最大粒子径)を測定した。下記表3に、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて求めた平均粒子径、最大粒子径を示す。
【0127】
[実験例22]
上記実験例3で得られたシリカ粒子を含むアルコール分散液について、上記実験例21と同じ手順で、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて分散液に含まれるシリカ粒子のCV値を求め、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて分散液に含まれるシリカ粒子の平均粒子径および最大粒子径を求めた。下記表3に結果を示す。
【0128】
【0129】
上記表3から次のように考察できる。実験例21に示すように、反応器内の溶液にテトラメトキシシランを一気に添加すると、シリカ粒子が凝集することが分かる。一方、実験例22に示すように、反応器の溶液にテトラメトキシシランを含む溶液を連続滴下して添加すると、シリカ粒子の凝集は抑えられることが分かる。