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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ポリシロキサン系樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/442 20060101AFI20240411BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20240411BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20240411BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20240411BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08G77/442
C08F283/12
C08L83/08
C08L51/08
C08L83/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020063887
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161229
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】横井 宙是
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-021272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C08F 283/00-283/14
C08L 83/00- 83/16
C08L 51/00- 51/10
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)に由来する構成単位(a)と、
前記(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)に由来する構成単位(c)と、
前記(A)以外の、下記一般式(I):
-Si-(OR・・・(I)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
で示されるシラン化合物(B)に由来し、かつ、前記構成単位(a)以外の構成単位(b)と、
スルホン酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)に由来する構成単位(d)と、
前記(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)に由来する構成単位(e)と、
を含む、ポリシロキサン系樹脂。
【請求項2】
前記構成単位(a)の含有量は、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して、1重量%以上である、請求項1に記載のポリシロキサン系樹脂
【請求項3】
前記単量体(D)は、スルホエチルメタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カルシウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カルシウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カルシウム、スルホエチルメタクリル酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸アンモニウムおよびアクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウムからなる群より選択される1種類以上である、請求項1または2に記載のポリシロキサン系樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン系樹脂、ポリシロキサン系樹脂を含む樹脂組成物、およびポリシロキサン系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水を溶媒とする水系塗料は、人体や環境に対して悪影響が少ないことから、市場への普及が進んでおり、上塗り塗料だけでなく、上塗り塗料と基材とを付着させるためのプライマー塗料でもニーズが高まっている。
【0003】
プライマー塗料は、有機基材、無機基材等へ幅広く付着することが求められており、例えば、シランカップリング剤を用いることが有用とされている。シランカップリング剤の中でも、特に、アミノシランは、アミノ基の反応性により高い付着性を示すことが知られている。
【0004】
このようなアミノシランを含む塗料組成物として、例えば、特許文献1には、硬化性オルガノポリシロキサンと、極性基含有シラン化合物とを含む、防汚塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-143110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、水系塗料の材料として利用可能な、アミノシランを共縮合したポリシロキサン系樹脂(以下、「アミノ基含有ポリシロキサン系樹脂」とも称する。)は、これまで、合成が難しいとされていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、水に均一に分散または溶解し、かつ、付着性およびタック性に優れた塗料、とりわけ、水系塗料の材料として利用可能な、新規のポリシロキサン系樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の単量体材料を用いた、特定の製造方法を採用することにより、アミノ基含有ポリシロキサン系樹脂が得られることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、以下の構成を包含する。
<1>極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)に由来する構成単位(a)と、
前記(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)に由来する構成単位(c)と、
前記(A)以外の、下記一般式(I):
-Si-(OR・・・(I)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
で示されるシラン化合物(B)に由来し、かつ、前記構成単位(a)以外の構成単位(b)と、
酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)に由来する構成単位(d)と、
前記(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)に由来する構成単位(e)と、
を含む、ポリシロキサン系樹脂。
<2>さらに、下記一般式(II):
-Si-(OR4-n ・・・(II)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、nは、0、1または3の整数である。)で示されるシラン化合物(F)に由来する構成単位(f)を含む、<1>に記載のポリシロキサン系樹脂。
<3>前記構成単位(a)が、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して1重量%以上である、<1>または<2>に記載のポリシロキサン系樹脂。
<4>前記構成単位(b)が、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%以上である、<1>~<3>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂。
<5>前記構成単位(d)が、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して2重量%以上である、<1>~<4>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂。
<6>前記シラン化合物(A)の極性基が、アミノ基である、<1>~<5>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂。
<7>水に均一に分散または可溶である、<1>~<6>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂。
<8><1>~<7>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂を含む、樹脂組成物。
<9>水媒体である、<8>に記載の樹脂組成物。
<10>前記ポリシロキサン系樹脂に対して、水を30重量%以上、かつ、非水系溶媒を10重量%以下の割合で含む、<9>に記載の樹脂組成物。
<11>極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)と、
前記(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)と、
前記(A)以外の、下記一般式(I):
-Si-(OR ・・・(I)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
で示されるシラン化合物(B)と、
酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)と、
前記(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)と、
を脱水縮合およびラジカル重合させる工程を含み、前記脱水縮合およびラジカル重合が同時に行われる、ポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<12>前記脱水縮合およびラジカル重合工程において、さらに、下記一般式(II):
-Si-(OR4-n ・・・(II)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、nは、0、1または3の整数である。)で示されるシラン化合物(F)を同時に反応させることを含む、<11>に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<13>前記脱水縮合およびラジカル重合が、非水系溶媒中で行われる、<11>または<12>に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<14>前記脱水縮合およびラジカル重合工程の後に、前記非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程を含む、<11>~<13>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、水に均一に分散または溶解し、かつ、付着性およびタック性に優れた塗料、とりわけ、水系塗料の材料として利用可能な、新規のポリシロキサン系樹脂を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0012】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係る、ポリシロキサン系樹脂(以下、「本ポリシロキサン系樹脂」と称する。)は、
極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)に由来する構成単位(a)と、
前記(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)に由来する構成単位(c)と、
前記(A)以外の、下記一般式(I):
-Si-(OR・・・(I)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
で示されるシラン化合物(B)に由来し、かつ、前記構成単位(a)以外の構成単位(b)と、
酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)に由来する構成単位(d)と、
前記(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)に由来する構成単位(e)と、
を含む。
【0013】
アミノシランは、単独の状態であれば水に対して比較的安定であり、水溶液として扱うことができる。しかし、塗料として用いる場合、一般的には塗料がベース樹脂に対し数種類の配合物により構成されるため、特に水系塗料用途でアミノシランを用いることは困難とされていた。
【0014】
また、アミノシランを他のシラン化合物と共縮合させたポリシロキサン系樹脂については、これまで十分に検討がなされてこなかった。
【0015】
そのような中、本発明者は、アミノシランの有用性に鑑み、アミノシランを他のシラン化合物と共縮合させたポリシロキサン系樹脂を製造することができれば、付着性の向上・塗膜の強靭化が可能となり得る有用な塗料材料を提供できると考えた。
【0016】
本発明者は、上記着想に基づき検討を進めたところ、アミノシランをシラン化合物と共縮合させてポリシロキサン系樹脂とする場合には、アミノ基由来の塩基性が触媒として作用するため反応が進みすぎる結果、ゲル化するという問題が生じることを見出した。すなわち、アミノシランを共縮合したポリシロキサン系樹脂は安定性が悪く、特に、水媒体としたときの貯蔵安定性が悪く、とりわけ、高い濃度(例えば、30%以上)では、貯蔵安定性が極めて悪くなることを見出した。
【0017】
そこで、本発明者は、上記の問題を解決し得る手段について鋭意検討を行った結果、製造工程において、以下の(1)および(2)の工夫をすることにより、アミノ基含有ポリシロキサン系樹脂を得ることに成功し、さらに(3)の工夫をすることで、アミノ基含有ポリシロキサン系樹脂を水媒体として取り扱うことに成功した。
【0018】
(1)主鎖となるポリシロキサンを形成する単量体材料として、シラン化合物の一部に、脱水縮合し得る官能基を2つ有するシラン化合物(「D体」とも称する。)を用いる。
【0019】
(2)ポリシロキサンの脱水縮合とグラフト鎖の形成(例えば、アクリルモノマーのラジカル重合)とを同時に行う。
【0020】
(3)グラフト鎖を形成する材料の一部に、酸と塩基からなる塩構造を有する単量体を用いる。
【0021】
前記アミノ基含有ポリシロキサン系樹脂は、水に均一に分散または溶解する。また、前記アミノ基含有ポリシロキサン系樹脂は、無機成分のみならず有機成分に対しても、付着性およびタック性に優れる。したがって、本ポリシロキサン系樹脂は、塗料、とりわけ、水系塗料の材料として極めて有用である。
【0022】
なお、以下において、「極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)に由来する構成単位(a)」を、単に「構成単位(a)」と称し、「前記(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)に由来する構成単位(c)」を、単に「構成単位(c)」と称し、「前記(A)以外の、下記一般式(I):R -Si-(OR・・・(I)で示されるシラン化合物(B)に由来し、かつ、前記構成単位(a)以外の構成単位(b)」を、単に「構成単位(b)」と称し、「酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)に由来する構成単位(d)」を、単に「構成単位(d)」と称し、「前記(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)に由来する構成単位(e)」を、単に「構成単位(e)」と称し、「下記一般式(II):R -Si-(OR4-n・・・(II)で示されるシラン化合物(F)に由来する構成単位(f)」を、単に「構成単位(f)」と称することがある。
【0023】
また、以下において、「極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)」を、単に「シラン化合物(A)」と称し、「前記(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)」を、単に「シラン化合物(C)」と称し、「前記(A)以外の、下記一般式(I):R -Si-(OR・・・(I)で示されるシラン化合物(B)」を、単に「シラン化合物(B)」と称し、「酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)」を、単に「単量体(D)」と称し、「前記(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)」を、単に「単量体(E)」と称し、「下記一般式(II):R -Si-(OR4-n・・・(II)で示されるシラン化合物(F)」を、単に「シラン化合物(F)」と称することがある。
【0024】
〔2.ポリシロキサン系樹脂〕
本明細書において、「ポリシロキサン系樹脂」とは、主成分としてポリシロキサン構造を含む樹脂を意味する。ポリシロキサン系樹脂としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、シラン化合物(A)~(C)の脱水縮合により得られるポリシロキサン系樹脂、シラン化合物(A)~(C)および(F)の脱水縮合により得られるポリシロキサン系樹脂等が挙げられる。また、後述するグラフト鎖を有するポリシロキサンも、本明細書における「ポリシロキサン系樹脂」の範囲に包含される。
【0025】
本明細書において、「グラフト鎖」とは、主鎖であるポリシロキサンと重合により結合した側鎖を意味する。グラフト鎖としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、単量体(D)および/または単量体(E)に由来するポリマーが挙げられる。
【0026】
本ポリシロキサン系樹脂は、上述の通り、「構成単位(a)」、「構成単位(b)」、「構成単位(c)」、「構成単位(d)」および「構成単位(e)」を含む。また、本発明の一実施形態において、本ポリシロキサン系樹脂は、さらに、「構成単位(f)」を含む。以下、「構成単位(a)」~「構成単位(f)」の各々について、詳説する。
【0027】
<構成単位(a)>
構成単位(a)は、極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(A)に由来する。
【0028】
本明細書において、「極性基」とは、極性を有する官能基を意味する。
【0029】
(シラン化合物(A))
シラン化合物(A)は、極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物である。シラン化合物(A)は、シラン化合物(A)~(C)および(F)と脱水縮合し、ポリシロキサンを形成する。シラン化合物(A)に由来する構成単位(a)が、最終生成物である本ポリシロキサン系樹脂中に一定量含まれていることにより、構成単位(a)に含まれる極性基に基づく機能を付与することができるという利点を有する。
【0030】
シラン化合物(A)に含まれる極性基としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基等が挙げられる。反応性が高く、ポリシロキサン系樹脂に高い付着性等を付与し得るとの観点から、好ましくは、アミノ基である。
【0031】
シラン化合物(A)は、ラジカル重合性不飽和基を有していてもよい。その場合のラジカル重合性不飽和基としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。反応性の高さおよび汎用性の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0032】
シラン化合物(A)としては、極性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物であれば特に限定されないが、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
本発明の一実施形態において、構成単位(a)が由来するシラン化合物(A)の含有量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して1重量%以上であり、好ましくは、1.5重量%以上であり、より好ましくは、2重量%以上である。構成単位(a)が由来するシラン化合物(A)の含有量が1重量%以上であると、本ポリシロキサン系樹脂に、構成単位(a)に含まれる極性基に基づく機能を付与することができるという効果を奏する。構成単位(a)に含まれる極性基に基づく機能としては、例えば、極性基がアミノ基である場合、有機成分への高い付着性等であり得る。また、構成単位(a)が由来するシラン化合物(A)の含有量の上限は、貯蔵安定性の観点から、5.0重量%以下であることが好ましく、4.8重量%以下であることがより好ましく、4.5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
<構成単位(b)>
構成単位(b)は、前記シラン化合物(A)以外の、下記一般式(I):R -Si-(OR・・・(I)で示されるシラン化合物(B)に由来し、かつ、前記構成単位(a)以外の構成単位である。
【0035】
(シラン化合物(B))
シラン化合物(B)は、前記シラン化合物(A)以外の、下記一般式(I):R -Si-(OR・・・(I)で示されるシラン化合物である。シラン化合物(B)は、シラン化合物(A)~(C)および(F)と脱水縮合し、ポリシロキサンを形成する。シラン化合物(B)が前記ポリシロキサン中に一定量含まれていることにより、反応性を抑えることができるという利点を有する。
【0036】
本発明の一実施形態において、シラン化合物(B)は、前記シラン化合物(A)以外の、下記一般式(I):
-Si-(OR ・・・(I)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)
一般式(I)のRにおけるアルキル基およびアリール基は、ラジカル重合性不飽和基を有していてもよい。その場合のラジカル重合性不飽和基としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。反応性の高さおよび汎用性の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0037】
一般式(I)のRにおけるアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
一般式(I)のRにおけるアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0039】
一般式(I)のRは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0040】
一般式(I)で示される具体的な化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプリピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
特に、入手性の観点から好適な化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランが挙げられる。
【0042】
本発明の一実施形態において、構成単位(b)が由来するシラン化合物(B)の含有量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%以上であり、好ましくは、12重量%以上であり、より好ましくは、14重量%以上である。構成単位(b)が由来するシラン化合物(B)の含有量が10重量%以上であると、反応性を抑えることができるという効果を奏する。また、構成単位(b)が由来するシラン化合物(B)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、90重量%以下である。
【0043】
<構成単位(c)>
構成単位(c)は、前記シラン化合物(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物(C)に由来する。
【0044】
(シラン化合物(C))
シラン化合物(C)は、前記シラン化合物(A)以外の、ラジカル重合性基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物である。シラン化合物(C)は、シラン化合物(A)~(C)および(F)と脱水縮合し、ポリシロキサンを形成する。また、シラン化合物(C)中のラジカル重合性基は、単量体(D)および/または(E)中のラジカル重合性基との間でラジカル重合を行い、前記単量体(D)および/または(E)に由来するグラフト鎖を形成する。前記シラン化合物(C)が前記ポリシロキサン中に一定量含まれていることにより、グラフト鎖の形成が円滑に進み、目的物を得ることができるという利点を有する。
【0045】
本発明の一実施形態において、シラン化合物(C)は、下記一般式(III):
-Si-(OR4-a―b ・・・(III)
(式中、Rは重合性不飽和基を有する炭素数1~10の置換アルキル基、アルケニル基、または重合性不飽和基を有しかつ任意にそれ以外の置換基を有しても良いアリール基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは1~3の整数であり、bは0~2の整数であり、a+bは1~3の整数である。)で示される、加水分解性シリル基を有する化合物である。
【0046】
一般式(III)におけるaは1~3の整数であり、bは0~2の整数であり、a+bは1~3の整数であればよいが、特に、aが1であり、bが0または1であることが好ましい。
【0047】
一般式(III)のRは、ラジカル重合性不飽和基を有する炭素数1~10の置換アルキル基、アルケニル基、ラジカル重合性不飽和基を有する非置換または置換アリール基である。ラジカル重合性不飽和基としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。反応性の高さおよび汎用性の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0048】
がラジカル重合性不飽和基を有するアルキル基であるシラン化合物としては、例えば、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルメチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルジメチルメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルメチルジエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルメチルジメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルジメチルメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルトリエトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルメチルジエトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルジメチルエトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルメチルジメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルジメチルメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルトリエトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルメチルジエトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルジメチルエトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルジメチルメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルトリエトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルメチルジエトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
がアルケニル基であるシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
が重合性不飽和基を有しかつ任意にそれ以外の置換基を有しても良いアリール基であるシラン化合物としては、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルメチルジメトキシシラン、p-スチリルジメチルメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルメチルジエトキシシラン、p-スチリルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、反応性の高さおよび汎用性の観点から、Rとしては、(メタ)アクリロイル基置換アルキル基が好ましい。
【0052】
一般式(III)のRはそれぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基である。
【0053】
一般式(III)のRにおけるアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0054】
一般式(III)のRにおけるアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0055】
一般式(III)のRは、aが1であり、bが1である場合、メチル基であることが好ましい。
【0056】
一般式(III)のRは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0057】
シラン化合物(C)と、シラン化合物(A)~(C)および(F)とを縮合させやすいという観点から、一般式(III)におけるRのアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、最も好ましくは1である。特に、一般式(III)のRは、aが1であり、bが1である場合、メチル基であることが好ましい。
【0058】
本発明の一実施形態において、構成単位(c)が由来するシラン化合物(C)の含有量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して2~14重量%であり、好ましくは、3~12重量%であり、より好ましくは、4~10重量%である。構成単位(c)が由来するシラン化合物(C)の含有量が上記範囲内であると、水に対する分散性または溶解性の良い目的物を得ることができる。
【0059】
<構成単位(d)>
構成単位(d)は、酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(D)に由来する。
【0060】
本明細書において、「塩構造」とは、酸と塩基とを中和することにより得られる中性塩の構造を意味する。ここで、中和に供される酸は、強酸であってもよいし、弱酸であってもよい。また、中和に供される塩基は、強塩基であってもよいし、弱塩基であってもよい。
【0061】
本発明の一実施形態において、塩構造は、例えば、強酸と強塩基との中性塩の構造、強酸と弱塩基との中性塩の構造、弱酸と強塩基との中性塩の構造、または弱酸と弱塩基との中性塩の構造であり得る。より具体的な塩構造としては、例えば、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム等(強酸と強塩基との中性塩の構造)、スルホン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等(強酸と弱塩基との中性塩の構造)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム等(弱酸と強塩基との中性塩の構造)、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等(弱酸と弱塩基との中性塩の構造)等が挙げられる。本発明の一実施形態において、塩構造は、好ましくは、スルホン酸ナトリウムである。
【0062】
(単量体(D))
単量体(D)は、酸と塩基からなる塩構造およびラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体である。単量体(D)中のラジカル重合性基は、シラン化合物(C)中のラジカル重合性基との間でラジカル重合を行い、ポリシロキサン主鎖に対して前記単量体(D)に由来するグラフト鎖を形成する。単量体(D)が、酸と塩基からなる塩構造を有することにより、本ポリシロキサン系樹脂は、水に均一に分散または可溶である。
【0063】
単量体(D)中のラジカル重合性不飽和基は、シラン化合物(C)とのラジカル重合に寄与し得るものであれば特に限定されない。単量体(D)中のラジカル重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基等が挙げられる。反応性の高さおよび汎用性の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0064】
単量体(D)としては、酸と塩基からなる塩構造を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、スルホエチルメタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カルシウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カルシウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カルシウム、スルホエチルメタクリル酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸アンモニウム等が挙げられる。
【0065】
また、単量体(D)は、市販品として入手することができる。そのような市販品としては、例えば、日本乳化剤(株)製の「アントックスMS-2N-D」、東亞合成(株)製の「ATBS-Na」、三洋化成工業製の「エレミノールRS-3000」、浅田化学工業(株)製の「アクリル酸ナトリウム」、「アクリル酸カリウム」等が挙げられる。
【0066】
本発明の一実施形態において、構成単位(d)が由来する単量体(D)の含有量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して2重量%以上であり、好ましくは、2.3重量%以上であり、より好ましくは、2.5重量%以上であり、特に好ましくは、2.7重量%以上であり、とりわけ好ましくは、2.9重量%以上である。構成単位(d)が由来する単量体(D)の含有量が2重量%以上であると、水に均一に分散または可溶であるとの効果を奏する。また、構成単位(d)が由来する単量体(D)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、30重量%以下であり、より好ましくは、20重量%以下である。
【0067】
なお、本明細書において、「水に均一に分散または可溶である」とは、以下の方法でポリシロキサン系樹脂を含む溶液を評価したときに、「沈殿物」が生じないものを意味する:
実施例に記載の方法で製造したポリシロキサン系樹脂の水溶液を25℃の条件下で1週間静置し、目視にて観察することで、水溶液外観を評価する。
【0068】
換言すれば、「水に均一に分散または可溶である」とは、上記の方法でポリシロキサン系樹脂を含む溶液を評価したときに、ポリシロキサン系樹脂を含む溶液が、「無色透明」、「青白透明」または「白色分散」と評価されるものを意味する。
【0069】
<構成単位(e)>
構成単位(e)は、前記単量体(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(E)に由来する。
【0070】
(単量体(E))
単量体(E)は、前記単量体(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体である。単量体(E)中のラジカル重合性基は、シラン化合物(C)中のラジカル重合性基との間でラジカル重合を行い、ポリシロキサン主鎖に対して前記単量体(E)に由来するグラフト鎖を形成する。
【0071】
単量体(E)としては、前記単量体(D)以外の、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体であれば特に限定されないが、例えば、以下で示すような(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体が挙げられる。
【0072】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル>
本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~18個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルであり、水酸基、エポキシ基等の官能基を含まない(メタ)アルキル単量体であり得る。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、環状であるシクロアルキル基であってもよい。その具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)メタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0073】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体>
(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ラジカル重合性単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ラジカル重合性単量体;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体等の親水性を有するラジカル重合性単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体;トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート、β-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のふっ素含有ラジカル重合性単量体;等が挙げられる。
【0074】
また、上記ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体としては、特に限定されないが、ポリオキアルキレン鎖を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。その具体例としては、例えば、日本油脂(株)製ブレンマーPE-90、PE-200、PE-350、AE-90、AE-200、AE-350、PP-500、PP-800、PP-1000、AP-400、AP-550、AP-800、700PEP-350B、10PEP-550B、55PET-400、30PET-800、55PET-800、30PPT-800、50PPT-800、70PPT-800、PME-100、PME-200、PME-400、PME-1000、PME-4000、AME-400、50POEP-800B、50AOEP-800B、AEP、AET、APT、PLE、ALE、PSE、ASE、PKE、AKE、PNE、ANE、PNP、ANP、PNEP-600、共栄社化学(株)製ライトエステル130MA、041MA、MTG、ライトアクリレートEC-A、MTG-A、130A、DPM-A、P-200A、NP-4EA、NP-8EA、EHDG-A、日本乳化剤(株)製MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RMA-1120、RMA-564、RMA-568、RMA-506、MPG130-MA、Antox MS-60、MPG-130MA、RMA-150M、RMA-300M、RMA-450M、RA-1020、RA-1120、RA-1820、新中村化学工業(株)製NK-ESTER M-20G、M-40G、M-90G、M-230G、AMP-10G、AMP-20G、AMP-60G、AM-90G、LA等があげられる。
【0075】
本発明の一実施形態において、構成単位(e)が由来する単量体(E)の含有量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%以上であり、好ましくは、15重量%以上であり、より好ましくは、20重量%以上である。構成単位(e)が由来する単量体(E)の含有量が、ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%以上であると、ポリシロキサンマクロマーが安定化し、容易に目的物を得ることができる。また、構成単位(e)が由来する単量体(E)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、80重量%以下であり、好ましくは、60重量%以下であり、より好ましくは、50重量%以下である。
【0076】
<構成単位(f)>
構成単位(f)は、下記一般式(II):R -Si-(OR4-n・・・(II)で示されるシラン化合物(F)に由来する構成単位である。
【0077】
(シラン化合物(F))
シラン化合物(F)は、下記一般式(II):R -Si-(OR4-n・・・(II)で示されるシラン化合物である。シラン化合物(F)は、シラン化合物(A)~(C)および(F)と脱水縮合し、ポリシロキサンを形成する。
【0078】
本発明の一実施形態において、シラン化合物(F)は、下記一般式(II):
-Si-(OR4-n・・・(II)
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、nは、0、1または3の整数である。)で示される、加水分解性シリル基を有する化合物である。
【0079】
一般式(II)のRにおけるアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0080】
一般式(II)のRにおけるアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0081】
一般式(II)のRは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0082】
一般式(II)で示される具体的な化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリイソプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、トリフェニルモノメトキシシラン等が挙げられる。
【0083】
一般式(II)におけるnは0~3の整数であればよいが、特に、nが1であるトリアルコキシシラン化合物であることが好ましい。nが1である場合、架橋性の加水分解性シリル基が3つとなり、網目構造のポリマーを形成することができる。nが1の化合物の具体例としては、入手性の観点から好適な化合物としては、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0084】
シラン化合物(F)と、シラン化合物(A)~(C)および(F)とを縮合させやすいという観点から、一般式(II)におけるRのアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、最も好ましくは1である。
【0085】
本発明の一実施形態において、構成単位(f)が由来するシラン化合物(F)の含有量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%以上であり、好ましくは、20重量%以上であり、より好ましくは、30重量%以上である。構成単位(f)が由来するシラン化合物(F)の含有量が10重量%以上であると、高耐候性、強靭性、低タック性等の効果を奏する。また、構成単位(f)が由来するシラン化合物(F)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、80重量%以下である。
【0086】
本発明の一実施形態において、本ポリシロキサン系樹脂中のポリシロキサン(構成単位(a)~(c)、または構成単位(a)~(c)および(f))と、グラフト鎖(構成単位(d)~(e))との比率は、例えば、30:70~80:20であり、好ましくは、35:65~75:25であり、より好ましくは、38:62~70:30である。上記比率の上限は、貯蔵安定性の観点から、80:20以下であることが好ましい。また、上記比率の下限は、耐水性、耐候性、低タック性等の観点から、30:70以上であることが好ましい。
【0087】
本発明の一実施形態において、本ポリシロキサン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、5000~500000であり、好ましくは、8000~100000であり、より好ましくは10000~80000である。なお、本ポリシロキサン系樹脂の重量平均分子量の測定は、東ソー株式会社製の高速GPC装置HLC-8320GPCを用いて行われる。
【0088】
〔3.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」と称する。)は上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂を含む樹脂組成物である。本樹脂組成物に含まれる本ポリシロキサン系樹脂は、水に均一に分散または溶解し、かつ、水系塗料として用いた場合に、付着性およびタック性に優れた塗膜が得られるため、とりわけ、水系塗料用途において有用である。また、本ポリシロキサン系樹脂は、上記の性質を有するため、本樹脂組成物は、好ましくは水媒体であり得る。
【0089】
本樹脂組成物は、上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂に対して、例えば、水を30重量%以上、かつ、非水系溶媒を10重量%以下の割合で、好ましくは、水を35重量%以上、かつ、非水系溶媒を5重量%以下の割合で、より好ましくは、水を37重量%以上、かつ、非水系溶媒を3重量%以下の割合で含み得る。
【0090】
本明細書において「非水系溶媒」とは、水以外のすべての溶媒を意味する。本明細書における「非水系溶媒」は、水を含む混合溶媒であってもよく、水が50重量%未満の量で含まれる溶媒を含む。非水系溶媒としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソロブ等のセロソルブ類;セロソルブアセテート等のエーテルエステル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類;メタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、オクタノール等のアルコール類等が挙げられる。本発明の一実施形態において、非水系溶媒は、好ましくは、アルコール類であり、より好ましくは、2-プロパノールである。
【0091】
また、本樹脂組成物は、〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂の他に、硬化触媒を含んでいてもよい。本樹脂組成物を塗装する際に、加水分解性シリル基の加水分解縮合反応を促進させる硬化触媒を添加することにより、架橋反応が促進される。
【0092】
硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、有機金属化合物、塩基性触媒等が挙げられる。なかでも、活性の観点から、有機錫化合物、アミン化合物が好ましい。
【0093】
有機金属化合物としては、例えば、有機錫化合物、有機チタン化合物等が挙げられる。なかでも、硬化膜が着色しにくいという観点から、有機錫化合物が好ましい。
【0094】
有機錫化合物としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジオレイルマレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジメトキサイド、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジメチル錫ビス(オクチルチオグルコール酸エステル)塩、オクチル酸錫等が挙げられる。
【0095】
なかでも、水中での安定性の観点から、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジブチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジメチル錫ビス(オクチルチオグルコール酸エステル)塩等のメルカプチド系のものが好ましい。
【0096】
塩基性触媒としては、例えば、無機塩基化合物、アミン化合物等が挙げられる。なかでも、アミン化合物を好適に用いることができる。
【0097】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等が挙げられる。
【0098】
本樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲で、当該技術分野(とりわけ、塗料の分野)において通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、料、充填剤、可塑剤、成膜助剤、湿潤・分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、沈降防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、凍結防止剤、抗菌剤、抗かび剤、粘着付与剤、防錆剤等が挙げられる。添加剤としては、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0099】
〔4.ポリシロキサン系樹脂の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るポリシロキサン系樹脂の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、シラン化合物(A)と、シラン化合物(C)と、シラン化合物(B)と、単量体(D)と、単量体(E)と、を脱水縮合およびラジカル重合させる工程を含み、前記脱水縮合およびラジカル重合が同時に行われることを特徴とする。また、本発明の一実施形態において、本製造方法は、さらに、シラン化合物(F)を同時に反応させることを含む。
【0100】
本製造方法において、各化合物および単量体の脱水縮合およびラジカル重合を同時に行う方法としては、例えば、以下で示す(ステップ1)および(ステップ2)を含む方法が挙げられる。
【0101】
(ステップ1)
ステップ1では、反応容器中で、シラン化合物(A)~(C)、またはシラン化合物(A)~(C)および(F)(以下、「シラン化合物(A)~(C)」および「シラン化合物(A)~(C)および(F)」をまとめて「脱水縮合用シラン化合物」と称する場合がある。)と、水と、必要に応じて脱水縮合触媒と、を含む混合物の脱水縮合を行う。
【0102】
(ステップ2)
ステップ2では、前記ステップ1にて混合物全体の重量平均分子量が特定範囲の分子量となった後に、前記反応容器に、シラン化合物(C)と、単量体(D)と、単量体(E)と、ラジカル重合開始剤と、を連続添加して、少なくとも、ラジカル重合を行う。また、ステップ2では、前記ラジカル重合と同時に、前記脱水縮合用シラン化合物に由来する加水分解性シリル基間で脱水縮合が生じていてもよい。
【0103】
本発明の一実施形態において、前記ステップ1で添加する水のモル数は、前記脱水縮合用シラン化合物の合計モル数に対して、例えば、0.25倍以上であり、好ましくは、0.5倍以上である。水のモル数が、前記脱水縮合用シラン化合物の合計モル数に対して、0.25倍以上であると、適切に縮合を行うことができ、十分な耐水性、耐候性、低タック性が期待できる。水のモル数は、多い分には特に制限はないが、製造コストの観点から、前記脱水縮合用シラン化合物の合計モル数に対して、4.0倍以下に抑えることが好ましい。これらの観点を踏まえ、水のモル数は、前記脱水縮合用シラン化合物の合計モル数に対して、0.25~4.0倍が好ましく、0.5~3.0倍がさらに好ましく、1.0~2.5倍が特に好ましい。
【0104】
前記ステップ1における脱水縮合触媒は、前記脱水縮合用シラン化合物と、水と、を含む混合物の脱水縮合反応を促進することが可能な物質であれば、特に限定されない。
【0105】
本発明の一実施形態において、脱水縮合触媒としては、例えば、塩基性触媒、中性塩触媒等が挙げられる。
【0106】
塩基性触媒としては、前記脱水縮合用シラン化合物や希釈溶媒との相溶性から、有機塩基の触媒が好ましく、アミン化合物を好適に用いることができる。有機塩基の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。
【0107】
中性塩触媒として使用される中性塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化フランシウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化ラジウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラペンチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化グアニジウム;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、臭化フランシウム、臭化ベリリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、臭化ラジウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラペンチルアンモニウム、臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化グアニジウム;ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化フランシウム、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化ラジウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラペンチルアンモニウム、ヨウ化テトラヘキシルアンモニウム、ヨウ化グアニジウム;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウム、硫酸フランシウム、硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、硫酸ラジウム、硫酸テトラメチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラプロピルアンモニウム、硫酸テトラブチルアンモニウム、硫酸テトラペンチルアンモニウム、硫酸テトラヘキシルアンモニウム、硫酸グアニジウム;硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウム、硝酸フランシウム、硝酸ベリリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸ラジウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラエチルアンモニウム、硝酸テトラプロピルアンモニウム、硝酸テトラブチルアンモニウム、硝酸テトラペンチルアンモニウム、硝酸テトラヘキシルアンモニウム、硝酸グアニジウム;過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ルビジウム、過塩素酸セシウム、過塩素酸フランシウム、過塩素酸ベリリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸ストロンチウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸ラジウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラプロピルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラペンチルアンモニウム、過塩素酸テトラヘキシルアンモニウム、過塩素酸グアニジウム等が挙げられる。
【0108】
上記の塩基性触媒および中性塩触媒は、単独でも使用することができるし、2種以上を組合せ使用することもできる。
【0109】
本製造方法におけるステップ1の混合物は、前記脱水縮合用シラン化合物、水および脱水縮合触媒の他に、希釈溶媒を含んでもよい。前記脱水縮合用シラン化合物は疎水性であり、反応時に水を使用することから、希釈溶媒は水溶性であることが好ましい。希釈溶媒の量に制限はないが、多くなると得られるポリシロキサンの濃度が低くなるため、生産コストの面から好ましくない。希釈溶媒としては、セロソルブセテート等のエーテルエステル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類;メタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、オクタノール等のアルコール類等が挙げられる。本発明の一実施形態において、希釈溶媒は、好ましくは、アルコール類であり、より好ましくは、2-プロパノールである。
【0110】
前記ステップ2におけるラジカル重合開始剤は、ステップ1で使用されたラジカル重合性基を有する物質との間でラジカル重合反応を行うことが可能な物質であれば、特に限定されない。
【0111】
本発明の一実施形態において、ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等が挙げられる。
【0112】
本発明の一実施形態において、ラジカル重合開始剤の量は、例えば、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して0.01~10重量%であり、好ましくは、0.05~7重量%であり、より好ましくは、0.1~5重量%である。かかるラジカル重合開始剤の量が0.01重量%以上であると、重合が適切に進行する。また、ラジカル重合開始剤の量が10重量%以下であると、適切な分子量の重合体を得ることができる。
【0113】
本製造方法におけるステップ2では、前記シラン化合物(C)、単量体(D)、単量体(E)およびラジカル重合開始剤の他に、本発明の効果を奏する範囲内で、任意の添加剤を添加してもよい。そのような添加剤については、当業者により、適宜選択され得る。
【0114】
また、本製造方法において、シラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C)、単量体(D)、単量体(E)およびシラン化合物(F)は、上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載したものが援用される。
【0115】
本製造方法において、上記各成分の量は、ポリシロキサン系樹脂中の「構成単位(a)」~「構成単位(f)」の含有量が上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕で記載した範囲内になるように、当業者により適宜設定され得る。
【0116】
本発明の一実施形態において、本製造方法における脱水縮合およびラジカル重合は、非水系溶媒中で行われ得る。非水系溶媒としては、例えば、上記〔3.樹脂組成物〕に記載の非水系溶媒が使用され得る。
【0117】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、上記脱水縮合およびラジカル重合工程の後に、上記非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程を含むことが好ましい。当該工程を含むことにより、水系塗料として使用可能な、水に均一に分散または可溶であるポリシロキサン系樹脂が得られる。
【0118】
本発明の一実施形態において、非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程は、例えば、後述する実施例に記載の工程により行うことができる。
【0119】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、実施例に記載の方法であり得る。
【0120】
本製造方法により得られる本ポリシロキサン系樹脂は、例えば、建築内外装用、メタリックベースあるいはメタリックベース上のクリアー等の自動車用、アルミニウム、ステンレス、銀等の金属直塗用、スレート、コンクリート、瓦、モルタル、石膏ボード、石綿スレート、アスベストボード、プレキャストコンクリート、軽量気泡コンクリート、珪酸カルシウム板、タイル、レンガ等の窯業系直塗用、ガラス用、天然大理石、御影石等の石材用の塗料あるいは上面処理剤として好適に用いられる。
【0121】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0122】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0123】
〔材料〕
実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
【0124】
(シラン化合物(A))
3-アミノプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業(株)製の「KBM-903」
N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業(株)製の「KBM-603」
N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン:信越化学工業(株)製の「KBM-602」
(シラン化合物(B))
ジメチルジメトキシシラン(略称「DMDMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6329」
ジフェニルジメトキシシラン(略称「DPhDMS」):東京化成工業(株)製の「Diphenyldimethoxysilane」
(シラン化合物(C))
γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(3-(トリメトキシシリル)プロピルメタアクリレート、略称「TSMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-174」
(単量体(D))
アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム(略称「ATBS-Na」):東亞合成(株)社製の「ATBS-Na」
(単量体(E))
メチルメタクリレート(略称「MMA」):三菱ガス化学株式会社製
ブチルアクリレート(略称「BA」):株式会社日本触媒社製
(シラン化合物(F))
メチルトリメトキシシラン(略称「MTMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6033」
フェニルトリメトキシシラン(略称「PhTMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6124」
(その他)
純水
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
ラジカル重合開始剤:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):東京化成工業(株)製
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0125】
(重合安定性)
重合中の増粘により流動性がなくなり攪拌が不可能になるか否か、および、24時間後に取り出しが不可能になるか否かにより、重合安定性を評価した。問題なく重合工程が完了し、24時間後にゲル化せず払い出しが可能であった場合を「A」、重合工程は完了するが、24時間後にゲル化により払い出しが不可能であった場合を「B」、重合途中でゲル化し攪拌が不可能になった場合を「C」とした。
【0126】
(水溶液安定性)
評価サンプル全量の内、ポリシロキサン系樹脂成分が40重量%、水が60重量%を占めるように調製したサンプル100gを、目視にて観察することで、水溶液安定性(水置換性)を評価した。調製直後にポリシロキサン系樹脂が水に均一に分散または溶解し、23℃で2週間静置後に沈殿物が確認されなかった場合を「A」、調製直後にポリシロキサン系樹脂が水に均一に分散または溶解し、23℃で2週間静置後に沈殿物が確認された場合を「B」、調製直後にポリシロキサン系樹脂と水との相分離または沈降物が確認された場合を「C」と判断した。
【0127】
(貯蔵安定性)
固形分濃度40%に調整した樹脂含有水溶液をガラス瓶内に密閉した状態で、50℃に昇温した熱風乾燥機内に静置し、前記ガラス瓶を45度傾けた際に内溶液に流動性が確認できなくなった時点をゲル化点として、貯蔵安定性(50℃下でのゲル化日)を評価した。
【0128】
(付着性)
特開2014-118557号公報を参照して、付着性試験(碁盤目密着性試験)を行った。簡潔には、一液ファインウレタンU100(日本ペイント製)を塗布し、23℃、50%RHにて1週間養生した基材上に、固形分濃度が30%の樹脂を1平方メートあたり100gの量で塗装し、その後、23℃、50%RHにて1週間養生し、JIS K5600に準拠して、1mm間隔の25マスからなる碁盤目の密着性試験を行った。試験後にケイ酸カルシウム板上に樹脂が残存するマスの数を基準として、以下のとおり評価した。尚、評価は、A、B、Cの順に良好である。すなわち、Aが最良であり、Bが良であり、Cは不可である。
【0129】
A:20マス以上
B:10マスから19マス
C:9マス以下。
【0130】
(タック性)
ガラス板上に、固形分濃度が30%の樹脂を1平方メートあたり100gの量で塗装し、その後、23℃、50%RHにて静置し、12時間後に指触することでタック試験評価を行った。塗膜の粘着性を感じない場合を「A」、塗膜の粘着性は感じるが基材が持ち上がらない場合を「B」、塗膜の粘着性が感じ取れ、かつ基材が持ち上がる場合を「C」とした。評価は、A、B、Cの順に良好である。すなわち、Aが最良であり、Bが良であり、Cは不可である。
【0131】
〔実施例1〕
(ステップ1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備え、窒素ガスを導入した反応容器に、表1に記載の種類および量のシラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C-1)、シラン化合物(F)を仕込み、攪拌しながら純水9.74gを滴下し、反応容器内温度70℃にて1時間撹拌しながら反応させ、混合物を得た。
【0132】
(ステップ2)
(ステップ1)の混合物に対し、反応容器内温度70℃を維持したまま、表1に記載の種類および量のシラン化合物(C-2)、単量体(D)および単量体(E)、2-プロパノール50g、純水7g、ならびに2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2gの混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下し、その後、引き続き、70℃で3時間攪拌した。この後、得られた混合溶液をロータリーエバポレーターにより不揮発成分が90%以上になるまで脱気を行い、続いて、不揮発成分が40%になるように水で希釈を行った。室温まで冷却し、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0133】
なお、表1中の各成分の量の単位は、「g」である。また、シラン化合物(C)は、仕込み時期の違いにより、「シラン化合物(C-1)」、「シラン化合物(C-2)」と分けて表記している。
【0134】
〔実施例2〕
シラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C)およびシラン化合物(F)の量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0135】
〔実施例3〕
シラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C)、単量体(E)およびシラン化合物(F)の量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0136】
〔実施例4〕
シラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C)およびシラン化合物(F)の量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0137】
〔実施例5〕
シラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C)、単量体(E)およびシラン化合物(F)の量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0138】
〔実施例6〕
シラン化合物(A)の種類を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0139】
〔実施例7〕
シラン化合物(A)の種類、ならびにシラン化合物(B)およびシラン化合物(F)の量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0140】
〔実施例8〕
シラン化合物(B)の種類を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0141】
〔比較例1〕
シラン化合物(B)を仕込まず、シラン化合物(F)の種類および量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0142】
〔比較例2〕
シラン化合物(B)を仕込まず、シラン化合物(F)の種類および量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0143】
〔比較例3〕
単量体(D)を仕込まず、単量体(E)の量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン系樹脂を得た。
【0144】
〔比較例4〕
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応容器に、表1に記載の種類および量のシラン化合物(A)、シラン化合物(B)、シラン化合物(C-1)、シラン化合物(F)を仕込み、反応容器内温度70℃にて3時間撹拌しながら反応させた後、ロータリーエバポレーターにより不揮発成分が90%以上になるまで脱気を行い、ポリシロキサンマクロマーを合成する操作を行った。
【0145】
(ポリシロキサン系樹脂)
その後、以下の操作を行い、ポリシロキサン系樹脂を得る予定であったが、上記で合成したマクロマーが非常に不安定であり、上記ポリシロキサンマクロマーの合成段階ですでにゲル化していたため、最終のポリシロキサン系樹脂を得ることはできなかった。すなわち、実施例1と同様の各成分の種類および量を用いても、従来の方法では、ポリシロキサン系樹脂を得ることはできなかった。
・攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、2-プロパノール50gを仕込み、窒素ガスを導入しつつ70℃に昇温した後、上記操作により得られるポリシロキサンマクロマーと、表1に記載の種類および量のシラン化合物(C-2)、単量体(D)および単量体(E)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2g、2-プロパノール50g、純水7gの混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下し、引き続き、70℃で2時間攪拌する。その後、ロータリーエバポレーターにより不揮発成分が90%以上になるまで脱気を行い、続いて、不揮発成分が40%になるよう水で希釈し、室温まで冷却し、ポリシロキサン系樹脂を得る。
【0146】
実施例1~8および比較例1~4の結果を表2に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
〔結果〕
表2より、実施例では、重合安定性、水溶液安定性および貯蔵安定性が高いポリシロキサン系樹脂を製造できることが分かった。また、実施例のポリシロキサン系樹脂は、塗膜性能、すなわち、付着性およびタック性に優れることが分かった。以上より、本ポリシロキサン系樹脂は、水に均一に分散または溶解し、かつ、付着性およびタック性に優れた水系塗料の材料として利用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の樹脂は、水系塗料として使用可能であって、かつ、付着性およびタック性に優れた塗膜が得られる。したがって、本発明は、様々なコーティング剤の分野に好適に利用することができる。