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  • 特許-ウェットティシュー製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ウェットティシュー製品
(51)【国際特許分類】
   A47K 7/00 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
A47K7/00 E
A47K7/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020112134
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022011166
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】大岡 康伸
(72)【発明者】
【氏名】大篭 幸治
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-068869(JP,A)
【文献】特開2003-089957(JP,A)
【文献】特開平09-234167(JP,A)
【文献】実開昭55-044755(JP,U)
【文献】特開2020-048680(JP,A)
【文献】特開2003-290067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/00
A47K 10/16
A47L 13/17
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材として不織布を含むシートを、マルチスタンド式インターフォルダー法で積層した積層束と、前記積層束に含浸される薬液と、前記薬液が含浸された前記積層束を内部に収納する容器本体と、を備えるウェットティシュー製品であって、
前記不織布は、パルプ繊維含有量が40重量%以上85重量%以下であるパルプ含有複合型不織布であり、
前記薬液が含浸された状態での前記シートは、CD方向における伸びが40%以上120%以下、かつWCDが300gf/25mm以上800gf/25mm以下であ
前記パルプ含有複合型不織布は、不織布本体と、前記不織布本体の少なくとも一方の表面に一体化されたパルプ繊維層と、を含み、
前記不織布本体の通気度が250cm /cm /sec以上750cm /cm /sec以下である、ウェットティシュー製品。
【請求項2】
前記薬液が含浸されていない絶乾状態での前記シートに対する前記薬液の比率が150重量%以上320重量%以下である、請求項に記載のウェットティシュー製品。
【請求項3】
前記薬液が含浸されていない絶乾状態での前記シートの目付が25g/m以上70g/m以下である、請求項1または2に記載のウェットティシュー製品。
【請求項4】
前記シートの長さに対する前記容器本体の取出し口の長さの割合が10%以上40%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のウェットティシュー製品。
【請求項5】
前記薬液を含浸された前記積層束の密度が0.2g/cm以上0.7g/cm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のウェットティシュー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットティシュー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
対人や対物向けに様々なウェットティシュー製品が市販されている。なかでも、ウェットティシューのシートが一枚ずつ積層され、積層束をフィルムで包装したウェットティシュー製品が知られている。このウェットティシュー製品の製造方法は、2本の原反ロールから供給される幅広原反を相互に折り込み、得られた積層束を、バンドソーによって所望の寸法に裁断するロータリー式インターフォルダー法と、多数の原反ロールから供給される原反(シート基材)を流れ方向にそれぞれ折り込み、得られた積層束を、所望の寸法に裁断するマルチスタンド式インターフォルダー法に分類される。
【0003】
マルチスタンド式インターフォルダーは、生産速度が速く、大量生産に向いている方式であるが、この方法で得られたウェットティシュー製品は、シートを容器から取り出す際に、シートのCD方向を引っ張ることになるため、シートが伸びてしまうことや、シートが積層された際の表面張力によってシートが一枚ずつ正しく分離されず、連続して出てきてしまうといった問題がある。
【0004】
また、近年は家事の時短化や衛生意識の高まりから、布巾等の代わりにウェットティシューが使用されるケースも増加しており、従来のお手拭き用途にくらべ、清拭に適したシートが望まれている。しかしながら、従来のレーヨンスパンレース系の不織布では、横に伸びてしまうため、拭き取りにくくなる。一方、強度の高いスパンボンド不織布は拭き取り時の横伸びは少ないが、薬液の保持量が少なく、ウェットティシューに適さない。
【0005】
特許文献1には、パルプ繊維を全繊維の30質量%以上含有した不織布100質量部と、該不織布に含浸された薬液200~500質量部と、を含み、接触温冷感が0.60W/cm以上であるウェットティシューが開示されている。特許文献1では、パルプ繊維を30質量%以上含有する不織布をウェットティシューのシート基材として用いている。しかしながら、該不織布は、例えば、パルプ繊維40質量%、レーヨン40質量%、バイコン繊維20質量%をカード機にて一体的に繊維ウェブとし、得られた繊維ウェブに高速水流噴射することにより、繊維ウェブ中の繊維を交絡させたものにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-287710号公報(請求項1、段落0030、段落0032)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の不織布を用いてマルチスタンド式インターフォルダー法で製品化しても、ウェットティシューのシートが伸びてしまうことや、シートが積層された際の表面張力によってシートが一枚ずつ正しく分離されず、連続して出てきてしまうといった問題は十分に解消されない。
【0008】
本発明の目的は、マルチスタンド式インターフォルダーで製品化しており、取出しやすく清拭に適したウェットティシュー製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ウェットティシューのシート基材として所定のパルプ含有複合型不織布を用いるとともに、該パルプ含有複合型不織布の所定の特性を所定の範囲に調整することにより、所望のウェットティシュー製品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記のウェットティシュー製品に係る。
【0010】
(1)シート基材として不織布を含むシートを、マルチスタンド式インターフォルダー法で積層した積層束と、前記積層束に含浸される薬液と、前記薬液が含浸された前記積層束を内部に収納する容器本体と、を備えるウェットティシュー製品であって、
前記不織布は、パルプ繊維含有量が40重量%以上85重量%以下であるパルプ含有複合型不織布であり、
前記薬液を含浸された状態での前記シートは、CD方向における伸びが40%以上120%以下、かつWCDが300gf/25mm以上800gf/25mm以下である、ウェットティシュー製品。
(2)前記パルプ含有複合型不織布は、不織布本体と、前記不織布本体の少なくとも一方の表面に一体化されたパルプ繊維層と、を含む、上記(1)のウェットティシュー製品。
(3)前記不織布本体の通気度が250cm/cm/sec以上750cm/cm/sec以下である、上記(2)のウェットティシュー製品。
(4)前記薬液が含浸されていない絶乾状態での前記シートに対する前記薬液の比率が150重量%以上320重量%以下である、上記(1)~(3)のいずれかのウェットティシュー製品。
(5)前記薬液が含浸されていない絶乾状態での前記シートの目付が25g/m以上70g/m以下である、上記(1)~(4)のいずれかのウェットティシュー製品。
(6)前記シートの長さに対する前記容器本体の取出し口の長さの割合が10%以上40%以下である、上記(1)~(5)のいずれかのウェットティシュー製品。
(7)前記薬液を含浸された前記積層束の密度が0.2g/cm以上0.7g/cm以下である、上記(1)~(6)のいずれかのウェットティシュー製品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マルチスタンド式インターフォルダー法で製品化しており、取出しやすく清拭に適したウェットティシュー製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るウェットティシュー製品の一実施形態の外観を模式的に示す斜視図である。
図2】マルチスタンド式インターフォルダー法によるウェットティシューのシートの積層束の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係るウェットティシュー製品1の外観構成を示す。本実施形態のウェットティシュー製品1は、シート基材(ティシュー原反)として不織布を含むシート(不図示)を、マルチスタンド式インターフォルダー法で積層した積層束(図2)と、前記積層束に含浸される薬液(不図示)と、取出し口3を有し、薬液が含浸された積層束をその内部に収納する容器本体2と、容器本体2の取出し口3に開閉自在に取り付けられたフラップ4と、を備える。本実施形態のウェットティシュー製品1では、ウェットティシューのシート(以下単に「シート」ともいう)を、該シートのCD方向に引っ張ることにより、取出し口3の樹脂フィルムに設けられた隙間3Aからシートが1枚ずつ取り出される。なお、取出し口3は、本実施形態に限定されず、樹脂フィルムを設けなくてもよい。
【0014】
図2には、マルチスタンド式インターフォルダー法で積層した積層束の一実施形態を、複数のシート20の積層束として示している。各シート20は、パルプ繊維層30側が例えば外側に向き、不織布本体層31が内側を向き、一方の端部20aがシート20の上方向においてシート20の中央部付近まで折り返され、また、他方の端部20bがシート20の下方向においてシート20の中央部付近まで折り返されて、Z折りの形態で折り畳まれ、複数のシート20が同じ姿勢で上下に積層されている。シート20には表裏差が生じる。積層束の形態は本実施形態に限定されず、マルチスタンド式インターフォルダー法で積層可能な他の積層束の形態でもよい。
【0015】
本実施形態では、複数のシートが、マルチスタンド式インターフォルダー法により積層された積層束(クリップ)として構成されていることから、シートのCD方向(幅方向)に1枚ずつ引き出しやすくなっている。積層束は薬液が含浸されたのち、容器本体2の内部に収納される。使用者は、取出し口3の内側に張り付けられた樹脂フィルムの隙間3Aから、該積層束の頂部に位置するシートの端を指で摘み、該シートのCD方向に引っ張ることにより、該シートを容器本体2の外部に取り出す。該シートは取り出すときに負荷される引っ張り力により、次のシートの一部が浮き上がり、指で摘み易くなる。
【0016】
本実施形態では、取り出し口3の長さと、取出し口3の内側に張り付けられた樹脂フィルムの隙間3Aの長さと、が一致するように構成しているが、これに限定されず、隙間3Aの長さが取り出し口3の長さよりも小寸である形態でもよい。この形態では、後述の取出し口3の長さは隙間3Aの長さに読み替えられる。樹脂フィルムは用いなくてもよい。
【0017】
容器本体2は、取出し口3を有するピロー包装体である。ピロー包装とは、例えば、略中央部に設けられた取り出し口を有する一枚のフィルムを用意し、取り出し口が表側の面に位置するように該フィルムの一方向両端を背側に配して接着した後、該フィルムの他方向両端を接着して枕状の容器に包装することである。容器本体2を構成するフィルムの材質は液不透過性のものを特に限定なく使用できる。例えば、バリア性を有するフィルムとシール性を有するフィルムとの積層体が挙げられる。バリア性を有するフィルムには、例えば、アルミ蒸着フィルム、透明蒸着フィルム等がある。シール性を有するフィルムには、例えば、リニア低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)等の樹脂材料のフィルム等がある。耐傷性や美粧性を向上させる目的で、最外層にポリエチレンテレフタレート(PET)や2軸延伸ポリプロピレン(OPP)等の樹脂材料のフィルムを積層してもよい。フラップ4は、例えば、OPPやPETを用いることができ、繰り返し開封できるように、取出し口3と接する内面には粘着剤層が設けられている。容器本体2は本実施形態に限定されず、従来から公知のピロー包装体を特に限定なく使用できる。
【0018】
本実施形態のシートは、シート基材として、パルプ含有複合型不織布を含む。パルプ含有複合型不織布とは、例えば、米国特許第5284703号明細書に開示のような、不織布本体の少なくとも一方の表面にパルプ繊維層を一体化したものである。その一例をあげれば、不織布本体の一方の表面において不織布本体を構成する繊維とパルプ繊維とが絡み合ってパルプ繊維層が一体化されると共に、パルプ繊維の一部が不織布本体を厚み方向に突き抜けて他方の面に露出した状態になっており、不織布本体とパルプ繊維層とが極めて強固に結合し、一体化したものである。ここで、「一体化」とは、ウェットティシュー製品1の使用中に、不織布本体とパルプ繊維層とが、パルプ含有複合型不織布の機能を低下させる程度に剥離しないことを意味する。前述のパルプ含有複合型不織布は、例えば、不織布本体とパルプ繊維との積層体に対して水流交絡法により高圧の水を打ち込むことで製造できる。このとき、表裏差が出るように、不織布本体の表面にパルプ繊維を積層し、水流交絡で絡め合わせてもよい。ここで、裏表差とは、例えば、パルプ繊維の量の差であり、本実施形態では、一面は不織布本体を突き抜けたパルプ繊維が存在するものの、全体的には不織布面であり、他面はパルプ繊維からなるパルプ繊維層面である。このような表裏差があると、シートの取出し性が良好になりやすい。
【0019】
パルプ含有複合型不織布中の不織布本体としては一般的な不織布を使用できるが、好ましくはスパンボンド不織布、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを積層した複合不織布等が挙げられる。前記複合不織布の一実施形態では、スパンボンド不織布を50重量%以上含む。また、不織布本体を構成する繊維の材質としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ乳酸等が挙げられるが、これらの中でもポリオレフィンが好ましい。より具体的には、好ましくはポリプロピレン繊維を含む不織布本体、より好ましくはポリプロピレン繊維からなる不織布本体である。また、パルプ繊維としては特に限定されないが、例えば、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルース、ダグラスファー等の針葉樹晒クラフトパルプ(以下「NBKP」ともいう)が挙げられる。NBKPは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。不織布本体の坪量は例えば7g/m以上25g/m以下の範囲であり、パルプ繊維層の坪量は例えば15g/m以上50g/m以下の範囲であり、パルプ含有複合型不織布の坪量は例えば25g/m以上70g/m以下の範囲である。
【0020】
パルプ含有複合型不織布において、パルプ繊維含有量(以下「パルプ比」ともいう)は、例えば、40重量%以上90重量%以下の範囲、45重量%以上85重量%以下の範囲、又は50重量%以上80重量%以下の範囲であり、各範囲において、残部が不織布本体である。パルプ繊維含有量が40重量%より小さい場合、清拭した際に、紙粉が脱落し、拭き取りに適さなくなる傾向がある。パルプ繊維含有量が90重量%より大きいと、シート同士が張り付き易くなり、取出し性が悪くなる傾向がある。なお、パルプ含有複合型不織布におけるパルプ繊維の含有量は後述する方法で求められる。
【0021】
本実施形態では、パルプ含有複合型不織布の各構成、例えば、パルプ繊維の種類や含有量、繊維径や繊維長、パルプ繊維層の坪量(目付)、不織布本体の種類や含有量、不織布本体の坪量(目付)、不織布本体を構成する繊維の材質や構成比等を適宜選択することにより、パルプ含有複合型不織布をシート基材として含むウェットティシューのシートの各物性を、当業者が複数回の実験で容易に所定の範囲に調整することができる。例えば、パルプ含有複合型不織布において、例えば、不織布本体の目付量や、パルプ繊維含有量等を適宜選択することにより、本実施形態で規定される物性(特にWET状態でのCD方向における伸び及びWCD)を有するシートが得られる。例えば、不織布本体の目付を7g/m以上~25g/m以下の範囲、9g/m以上20g/m以下の範囲又は11g/m以上15g/m以下の範囲とすることにより、所定の物性を容易に得ることができる。
【0022】
(薬液が含浸された状態でのCD方向における伸び及びWCD
パルプ含有複合型不織布をシート基材とする本実施形態のシートは、薬液が含浸された状態(以下「WET状態」ともいう)でのCD方向における伸び(以下「CD方向伸び」ともいう)が40%以上120%以下の範囲、45%以上90%以下の範囲、又は50%以上80%以下の範囲であり、かつWCD(横強度)とはWET状態でのCD方向の引張強度であり、WCDが300gf/25mm以上800gf/25mm以下の範囲、380gf/25mm以上700gf/25mm以下の範囲、又は430gf/25mm以上600gf/25mm以下の範囲である。なお、ここでの薬液含浸量は、薬液が含浸されていない絶乾状態でのシート100重量%に対して150重量%以上320重量%以下の範囲である。CD方向伸び及びWCDは、JIS L 1913:2010に準拠して測定される。
【0023】
CD方向伸びが40%より小さいと、シートが固くて拭きとりにくくなる傾向があり、120%より大きいと、取出しの際にシートが伸びて取出しにくくなる傾向がある。また、WCDが300gf/25mmより小さいと、清拭時に破れやすく拭きにくくなる傾向があり、800gf/25mm以上より大きいと、シートが固くて拭きとりにくくなる傾向がある。
【0024】
(通気度)
本実施形態のシートは、通気度が例えば250cm/cm/sec以上750cm/cm/sec以下の範囲、300cm/cm/sec以上650cm/cm/sec以下の範囲、又は350cm/cm/sec以上600cm/cm/sec以下の範囲である。通気度が250cm/cm/secよりも小さいと、清拭したときにパルプ繊維が脱落しやすくなって清拭に適さない傾向にある。通気度が750cm/cm/secよりも大きいと、強度が弱くなりやすい傾向にある。本実施形態の通気度は、シートを後述の方法で処理してパルプ繊維を溶解及び除去した不織布本体のみについて、JIS L 1913:2010フラジール法に準拠して測定した値である。
【0025】
(薬液が含浸されていない絶乾状態でのシートに対する薬液の比率)
薬液が含浸されていない絶乾状態(以下「ドライ状態」ともいう)でのシートに対する、ウェットティシュー化するための薬液の比率は、例えば、シート100重量%に対して、150重量%以上320重量%以下の範囲、180重量%以上300重量%以下の範囲、又は210重量%以上280重量%以下の範囲である。薬液の比率が150重量%より小さいと、清拭時に汚れが落ちにくく、拭き取りに適さない傾向にある。薬液の比率が320重量%より大きいと、シートを積層したときに張り付き易くなって、一枚ずつ取出しにくくなる傾向にある。本明細書において、ドライ状態とは、シートを60℃の乾燥機(恒温機)内で、シートの質量が一定になるまでシートを乾燥させた状態である。
【0026】
(薬液)
本実施形態のシートに含浸される薬液としては、この分野で常用される薬液を特に限定なく使用でき、例えば、除菌剤を含み、必要に応じて保湿剤、医薬部外品及び化粧品等に一般的に用いられる各種成分等を含むことがある薬液が挙げられる。薬液の一実施形態は、例えば、各成分を水に溶解又は分散させた形態が挙げられる。
【0027】
除菌剤としては、この分野で常用される成分を特に限定なく使用でき、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム等の第四級アンモニウム塩や、ポリアミノプロピルビグアニド、パラベン、安息香酸及びその塩類、クロルクレゾール、クロロブタノール、サリチル酸及びその塩類、ソルヒビン酸及びその塩類、デヒドロ酢酸及びその塩類、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、パラオキシ安息香酸エステル及びそのナトリウム塩、フェノキシエタノール、フェノール、ラウリルジアノエチルグリシンナトリウム、レゾルシン、イソプロピルメチフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、オルトフェニルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン等が挙げられる。除菌剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。除菌剤の薬液における含有量は除菌剤の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、薬液全量の
0.1重量%以上5.0重量%以下の範囲である。
【0028】
保湿剤としては、この分野で常用される成分を特に限定なく使用でき、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、乳酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等の有機酸類、尿素、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエステル等のアルキレングリコール類、また、油溶性成分のエモリエント剤として作用する、天然油脂、長鎖脂肪酸、脂肪酸エステル、ラノリン、ラノリンアルコール、ポリオキシエチレンミツロウ等のラノリン類、リン脂質、セラミド類や、アロエ抽出エキス等の天然保湿成分等が挙げられる。保湿剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。保湿剤の薬液における含有量は除菌剤や保湿剤の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、薬液全量の0.0001質量%以上10.0質量%以下の範囲である。
【0029】
また、医薬部外品及び化粧品等に一般的に用いられる各種成分(以下「添加成分」ともいう)としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、ゲル化剤、乳化剤、増粘剤、pH調整剤、金属封鎖剤、界面活性剤、安定化剤、変色防止剤、香料、着色剤等が挙げられる。添加成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
(ドライ状態での目付)
ドライ状態でのシートの目付(単位面積当たりの質量)は、例えば、25g/m以上70g/m以下の範囲、30g/m以上65g/m以下の範囲、又は35g/m以上55g/m以下の範囲である。ドライ状態でのシートの目付が25g/mよりも小さいと、シートが薄く、清拭に適さない傾向にある。ドライ状態でのシートの目付が70g/mよりも大きいと、シートが固くなって拭き難くなる傾向にある。ここで、ドライ状態とは、前述した通りである。また、シートの目付は、JIS L 1913:2010に準拠して測定される。
【0031】
(シートの長さに対する取出し口の長さの割合)
シートの長さに対する取出し口3の長さ(又は取出し口3の内側に張り付けられた樹脂フィルムの隙間3Aの長さ)の割合(シートの長さ/取出し口の長さ、以下「長さ割合」ともいう)が、例えば、10%以上40%以下の範囲、14%以上35%以下の範囲、又は18%以上30%以下の範囲である、長さ割合が10%よりも小さいと、シートを取出しにくい傾向にあり、40%よりも大きいと、シートと取出し口との抵抗が小さくなり、シートが繋がって出てくる傾向がある。ここで、シートの長さとは、シートの取出し方向(CD方向)と直交する方向の長さであり、例えば、120mm以上300mm以下の範囲である。また、シートの取出し方向(CD方向)の長さは、例えば、150mm以上250mm以下の範囲である。シートの取出し方向と直交する方向の長さ及び取出し方向の長さが前述の範囲である場合、拭き取り性や取出し性が良好になりやすい。
【0032】
(薬液含浸積層束の密度)
薬液を含浸された積層束(クリップ)の密度(以下「クリップ密度」ともいう)は、例えば、0.2g/cm以上0.7g/cm以下の範囲である。この範囲である場合、シートの取出し性が良好となる。クリップ密度が0.2g/cmよりも小さいと、容器本体2中でクリップの積層状態等が乱れて、シートが取出しにくくなる傾向にあり、0.7g/cmよりも大きいと、シートが繋がって出てくる傾向がある。クリップ密度は、下記式で表される。
クリップ密度=(薬液を含浸させた後のクリップ重量/クリップ体積)×100
薬液の含浸量は、前述した、ドライ状態でのシートに対する薬液の比率の範囲内である。クリップの体積は、JIS準拠の金尺を使い、縦×横×高さを測定して求める。また、
1つのクリップにおけるシートの積層枚数は、例えば、30枚以上70枚以下の範囲である。シートの積層枚数がこの範囲である場合、クリップの密度が上述の範囲内に入りやすくなる。
【0033】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本実施形態をさらに説明する。
(実施例1~6及び比較例1~4)
不織布本体としてスパンボンド不織布(坪量12g/m、ポリプロピレン)を用い、水流交絡処理における水流圧力を変化させて、表1に示す各特性を有するウェットティシューペーパー原反(いわゆるウェットティシューのシート、パルプ含有複合型不織布)を製造し、得られたウェットティシューペーパー原反をマルチスタンド式インターフォルダー法にて所定の組数で積層及び所定寸法に裁断して積層束を作製し、得られた積層束に表1に示す割合で薬液を含浸し、ウェットティシューのシートの引き出し方向がCD方向となるように、薬液含浸積層束をピロー包装し、実施例1~6及び比較例1~4の各ウェットティシュー製品を作製した。
【0035】
表1に示す各特性は、次のようにして測定した。
(目付(単位面積質量)、WET状態でのCD方向伸び及びWCD(引張強度))
JIS L 1913:2010に準拠して測定した。なお、単位面積質量は、60℃の乾燥機で絶乾後、JIS P8111:1998に準拠して調湿した後に、JIS L 1913:2010に準拠して測定した。
(パルプ比)
シート(パルプ含有複合型不織布)を1cm角に裁断し、試験片とした。試験片の重量を測定した後、試験片を酢酸緩衝液(pH4~4.5)約700mLに浸し、セルロース分解酵素(セルラーゼオノヅカ3S)を1重量%となるように添加し、40℃、166rpmで半日から1日程度放置した。その後、試験片(パルプ繊維が分解除去された不織布本体)を酵素液から取出し、水で洗浄し、乾燥し、不織布本体の重量を測定し、パルプ比を次の式から求めた。
パルプ比(%)=(試験片中の不織布本体の重量/試験片の重量)×100
(不織布本体の通気度)
パルプ比を求める方法で利用したのと同様の酵素処理を実施して得られた不織布本体について、JIS L 1913:2010フラジール法に準拠して通気度を測定した。
(ドライ状態のシートに対する薬液の比率)
薬液を含浸させたシートの重量を測定し、絶乾前重量(g)とした。このシートを重量が一定になるまで、60℃乾燥機内に入れて乾燥した後重量を測定し、絶乾後重量(g)とした。絶乾前重量(g)及び絶乾後重量(g)を用い、下記の式に従って薬液の比率(%)を求めた。
ドライ状態のシートに対する薬液の比率(%)=〔(絶乾前重量-絶乾後重量)/絶乾後重量〕×100
【0036】
実施例1~6及び比較例1~4の各ウェットティシュー製品について、30人のモニターによる、次の官能評価を実施した。結果を表1に示す。
(シートの取出し性)
モニターがシートを全て取出した際の、取出し易さを評価した。
(繊維の脱落)
主にパルプ繊維の脱落について評価した。シートをSUS430のプレートに、往復30回擦り付けた後、SUSプレートに付着した繊維の量を目視評価した。
(拭き取りやすさ)
モニターがシートで清拭した際の拭き取りやすさを評価した。
(汚れの落ちやすさ)
モニターがシートで汚れを拭き取った際の、汚れの落ち具合を評価した。
(シートの柔らかさ)
モニターがシートで対処物の凹凸面を清拭した際に、対処物に追随しているかを評価した。
(シートの破れにくさ)
モニターがシートを取り扱った際の、破れにくさを評価した。
【0037】
以上の評価試験について、次の基準に従って評価した。
モニター30人中、
30~25人が良い…◎
24~16人が良い…〇
15~10人が良い…△
9~5人が良い…×
4~0人が良い…××
【0038】
【表1】
【0039】
表1から、特にシートの目付を40~65g/mの範囲とし、かつパルプ比を65~90%の範囲とすることにより、CD方向伸びを45~90%の比較的低い範囲、及びWCDを400~800gf/25mmの比較的高い範囲とすることができ、各官能評価で良好な結果が非常に得やすいシート及びウェットティシュー製品が得られることがわかる。また、シートの目付が30~35g/mの範囲であっても、パルプ比を35%以上65%未満の範囲とすることにより、比較的良好なシート及びウェットティシュー製品が得られることも分かる。
【符号の説明】
【0040】
1 ウェットティシュー製品
2 容器本体
3 取り出し口
3A 樹脂フィルムの隙間
4 フラップ
20 シート
20a シートの一端
20b シートの他端
30 パルプ含有不織布層
31 不織布本体層
図1
図2