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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】液晶素子、車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1343 20060101AFI20240411BHJP
   B60Q 1/115 20060101ALI20240411BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20240411BHJP
   F21S 41/64 20180101ALI20240411BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240411BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20240411BHJP
   F21W 102/155 20180101ALN20240411BHJP
   F21W 107/17 20180101ALN20240411BHJP
【FI】
G02F1/1343
B60Q1/115
B60Q1/14 E
F21S41/64
G02F1/13 505
G02F1/13357
F21W102:155
F21W107:17
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020124330
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022021002
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】北園 卓也
(72)【発明者】
【氏名】関口 達也
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-167039(JP,A)
【文献】特開2006-151239(JP,A)
【文献】特開2020-104679(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0136111(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0268837(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1343
G02F 1/13
G02F 1/13357
B60Q 1/10-1/115
F21S 41/00-41/698
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用前照灯の配光パターンに対応する像を生成するための液晶素子であって、
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置された液晶層と、
前記第1基板の一面側に設けられた共通電極と、
前記第2基板の一面側に設けられた複数の画素電極と、
を含み、
前記複数の画素電極の各々と前記共通電極の平面視で重なる各領域において画素部が構成されており、
前記複数の画素電極の各々は、複数の仮想分割線に対応する間隙で隔てられて互いに分離して配置されており、
前記複数の仮想分割線は、第1方向とのなす角度が大きいものほど、当該第1方向と直交する第2方向に沿った仮想中心線との交点が相対的に当該仮想中心線上の仮想中心点から離れた位置となるように設定されるものであり、
前記複数の画素電極は、それらの平面視形状が前記仮想中心線を挟んで線対称である、
液晶素子。
【請求項2】
前記仮想中心点は、前記複数の仮想分割線のうち前記第1方向と略平行な1つの仮想分割線と前記仮想中心線との交点である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記複数の画素電極は、少なくとも1つの平面視において菱形の画素電極を含み、
当該菱形の画素電極は、前記仮想中心線と重なる位置に配置されている、
請求項1又は2に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記第2基板の一面側に配置された複数の配線と、
前記第2基板の一面側に前記複数の配線を覆って配置された絶縁層と、
を更に含み、
前記複数の画素電極は、前記絶縁層の前記第2基板と接しない面に配置され、かつ、各々、前記複数の配線の何れかと前記絶縁層のスルーホールを通して接続されている、
請求項1~3の何れか1項に記載の液晶素子。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の液晶素子と、
前記液晶素子へ光を入射させる光源と、
前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光板と、
前記液晶素子と前記一対の偏光板により生成される像を投影する投影レンズと、
を含む、車両用前照灯。
【請求項6】
前記投影レンズによって前記像を投影して得られる照射光は、各々独立に点灯又は消灯が切り替えられる複数の個別領域を含み、
前記複数の個別領域は、前記液晶素子の前記複数の画素電極に対応づけられている、
請求項5に記載の車両用前照灯。
【請求項7】
前記複数の個別領域の各々は、複数の分割線によって区分けされており、
前記複数の分割線は、前記車両用前照灯の搭載される車両が傾斜していない場合において、水平方向とのなす角度が大きいものほど、鉛直方向に沿った仮想基準線との交点が相対的に当該仮想基準線上の仮想基準点から離れた位置となるように設定される、
請求項6に記載の車両用前照灯。
【請求項8】
前記複数の個別領域は、それらの平面視形状が前記仮想基準線を挟んで線対称である、
請求項7に記載の車両用前照灯。
【請求項9】
前記仮想基準点は、前記車両が傾斜していない場合における、前記複数の分割線のうち水平方向と略平行な1つの分割線と前記仮想基準線との交点である、
請求項7に記載の車両用前照灯。
【請求項10】
前記複数の個別領域は、少なくとも1つの平面視において菱形の個別領域を含み、
当該菱形の個別領域は、前記仮想基準線と重なる位置に配置されている、
請求項~9の何れか1項に記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及びこれを用いる車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平3-167039号公報(特許文献1)には、二輪車のカーブ路走行時などにおける傾斜に伴って前照灯の照射範囲(特にカットオフライン)が変化することによる対向車等へのグレアを防ぐために、車体の傾斜に応じて前照灯の光照射範囲を可変に設定するコーナリング前照灯が記載されている。
【0003】
上記した前照灯では、照射光において比較的大きな暗点(黒点)が生じてしまい、照射光の見栄えが損なわれる場合があるという点で改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-167039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、車体の傾斜に応じて可変させる照射光の見栄えを向上することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)車両用前照灯の配光パターンに対応する像を生成するための液晶素子であって、(b)対向配置される第1基板及び第2基板と、(c)前記第1基板と前記第2基板の間に配置された液晶層と、(d)前記第1基板の一面側に設けられた共通電極と、(e)前記第2基板の一面側に設けられた複数の画素電極と、を含み、(f)前記複数の画素電極の各々と前記共通電極の平面視で重なる各領域において画素部が構成されており、(g)前記複数の画素電極の各々は、複数の仮想分割線に対応する間隙で隔てられて互いに分離して配置されており、(h)前記複数の仮想分割線は、第1方向とのなす角度が大きいものほど、当該第1方向と略直交する第2方向に沿った仮想中心線との交点が相対的に当該仮想中心線上の仮想中心点から離れた位置となるように設定されるものであり(i)前記複数の画素電極は、それらの平面視形状が前記仮想中心線を挟んで線対称である、液晶素子である。
[2]本発明に係る一態様の車両用前照灯は、(a)前記[1]の液晶素子と、(b)前記液晶素子へ光を入射させる光源と、(c)前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光板と、(d)前記液晶素子と前記一対の偏光板により生成される像を投影する投影レンズと、を含む、車両用前照灯である。
【0007】
上記構成によれば、車体の傾斜に応じて可変させる照射光の見栄えを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の車両用前照灯を備える二輪車の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、一実施形態の車両用前照灯の構成を示す図である。
図3図3(A)および図3(B)は、車両用前照灯による光照射の様子を概略的に説明するための図である。
図4図4は、図3(A)に示すa部の拡大図である。図4(B)は、各個別領域の形状や配置の決め方を説明するための図である。
図5図5は、図3(A)に示すa部における各画素部に対応して設けられる画素電極の一例を示す平面図である。
図6図6(A)は、液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。図6(B)は、液晶素子の別の構成例を示す模式的な断面図である。
図7図7は、別の実施形態の車両用前照灯による各個別領域を示す図である。
図8図8は、別の実施形態における各個別領域を設けるための液晶素子の構成例を示す。
図9図9は、各分割線の位置を定める方法の一例を説明する。
図10図10は、参考例の液晶素子における複数の画素部を部分的に拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
始めに、参考例の液晶素子を用いた場合において車両用前照灯(車両用灯具)の照射光に比較的大きな暗点が生じ得る理由について詳細に説明する。図10は、参考例の液晶素子における複数の画素部を部分的に拡大して示した図である。参考例の液晶素子では、複数の画素部210、211、212、213を備える。詳細には、画素部210は、上側中央の逆三角形状の画素部であり、画素部211は、下側中央の三角形状の画素部であり、各画素部212は、右側に放射状に配置された画素部であり、各画素部213は、左側に放射状に配置された画素部である。各画素部210、211、212、213は、それぞれの一端部が中心部に向かって集まるように放射状に配置されている。これらの画素部210等の透過率を個別に制御し、各画素部210等に光を入射させてその透過光を投影することで、車体の傾斜に応じて前照灯の光照射範囲を可変に設定することができる。
【0010】
ここで、各画素部210、211、212、213は、隣り合うもの同士の相互間にある程度の間隙が設けられている(図示省略)。これらの間隙は隣り合う画素部210等に対応する電極同士が短絡しないようにするためのものであり、製造時のエッチング精度にもよるが、例えば10μm程度の幅を要する。このため、各画素部210等の一端部同士の間には比較的に大きな空白領域220が生じる。空白領域220は、例えばその幅(径)が300μm程度となり得る。空白領域220は、画素部の配置されない領域であるため、例えば液晶素子がノーマリーブラック型である場合には空白領域220が常に遮光状態となる。この空白領域220によって照射光の中に生じる暗点の大きさは、二輪車等の前方に投影されることで非常に目立つものとなり得る。これに対して、以下に開示する実施形態の車両用前照灯では、液晶素子の各画素部の形状を工夫することで大きな暗点を生じないようにしている。
【0011】
図1は、一実施形態の車両用前照灯を備える二輪車の概略的な構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の車両用前照灯100は、二輪車101の前部の所定位置に設置され、この二輪車101の前方へ光照射を行うためのものである。図1に概略的に示すように、二輪車101は、カーブ路などを走行する際にはその進行方向に応じて搭乗者により左右いずれかに傾けられる。このとき、二輪車101の傾斜に伴って車両用前照灯100も図示のように左右いずれかに傾いた状態となる。
【0012】
図2は、一実施形態の車両用前照灯の構成を示す図である。図2に示す車両用前照灯100は、傾きセンサ2によって検出される二輪車101の左右方向への傾き角度に応じて光照射範囲と減光範囲(または非照射範囲)を可変に設定して車両前方への光照射を行うためのものである。この車両用前照灯100は、光源1、傾きセンサ2、コントローラ3、ドライバ4、液晶素子5、一対の偏光板6a、6b、投影レンズ7を含んで構成されている。コントローラ3は、光源1、傾きセンサ2およびドライバ4とそれぞれ接続されている。ドライバ4は、液晶素子5と接続されている。
【0013】
光源1は、例えば青色光を放出する発光素子(LED)に黄色蛍光体を組み合わせて構成された白色光LEDを含んで構成されている。光源1は、例えば、マトリクス状あるいはライン状に配列された複数の白色光LEDを備える。なお、光源1としてはLEDのほかに、レーザー、さらには電球や放電灯など車両用ランプユニットに一般的に使用されている光源が使用可能である。光源1の点消灯状態はコントローラ3によって制御される。光源1から出射する光は、偏光板6aを介して液晶素子(液晶パネル)5に入射する。なお、光源1から液晶素子5へ至る経路上に他の光学系(例えば、レンズや反射鏡、さらにはそれらを組み合わせたもの)が存在してもよい。
【0014】
傾きセンサ(傾斜センサ)2は、二輪車101に設置されてこの二輪車101の傾き角度を検出するものである。ここでいう傾き角度とは、上記図1に示したように二輪車101が左右いずれかへ傾く際における傾きを角度で表したものであり、例えば鉛直方向を基準とした角度で示される。この場合、傾きがない場合に傾き角度θ=0°となる。
【0015】
コントローラ3は、傾きセンサ2によって検出される傾き角度に応じて減光範囲と光照射範囲を設定し、これら減光範囲と光照射範囲を含んだ配光パターンに対応した像を形成するための制御信号を生成してドライバ4へ供給する。このコントローラ3は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。
【0016】
ドライバ4は、コントローラ3から供給される制御信号に基づいて液晶素子5に駆動電圧を供給することにより、液晶素子5の各画素部における液晶層の配向状態を個別に制御するものである。このドライバ4は、例えばCOG(Chip On Glass)技術を用いて液晶素子5の基板上に実装されていてもよい。
【0017】
液晶素子5は、それぞれ個別に制御可能な複数の画素部(光変調領域)を備えており、ドライバ4から与えられる液晶層への印加電圧の大きさに応じて各画素部による光変調状態(液晶層の配向状態)が可変に設定される。この液晶素子5に偏光板6aを介して光源1からの光が照射され、透過光が偏光板6bを通過することにより、上記した光照射範囲と減光範囲に対応した明暗(あるいはこれに加えて色調)を有する像が形成される。例えば、液晶素子5は、垂直配向型の液晶層を備えるものであり、直交ニコル配置された一対の偏光板6a、6bの間に配置されており、各画素部において液晶層への電圧が無印加(あるいは閾値以下の電圧)である場合に光透過率が極めて低い状態(遮光状態)となり、液晶層へ電圧が印加された場合に光透過率が相対的に高い状態(透過状態)となるものである。
【0018】
一対の偏光板6a、6bは、例えば互いの偏光軸を略直交させており、液晶素子5を挟んで対向配置されている。本実施形態では、液晶層に電圧無印加としているときに光が遮光される(透過率が極めて低くなる)動作モードであるノーマリーブラック型を想定する。各偏光板6a、6bとしては、例えば一般的な有機材料(ヨウ素系、染料系)からなる吸収型偏光板を用いることができる。また、耐熱性を重視したい場合には、ワイヤーグリッド型偏光板を用いることも好ましい。ワイヤーグリッド型偏光板とはアルミニウム等の金属による極細線を配列してなる偏光板である。また、吸収型偏光板とワイヤーグリッド型偏光板を重ねて用いてもよい。
【0019】
投影レンズ7は、液晶素子5を透過する光によって形成される像(光照射範囲と減光範囲に対応した明暗を有する像)を広げて二輪車101の前方へ投影するものであり、適宜設計されたレンズが用いられる。本実施形態では、反転投影型のプロジェクターレンズが用いられる。
【0020】
図3(A)および図3(B)は、車両用前照灯による光照射の様子を概略的に説明するための図である。また、図4は、図3(A)に示すa部の拡大図である。車両用前照灯による照射光は、個別領域20~33および個別領域40~53に対してそれぞれで個別に点灯と消灯を切り替えられる。ここでいう「点灯」とは照射光が与えられており相対的に明るい状態をいい、「消灯」とは照射光が与えられないか又は極弱い照射光のみ与えられており相対的に暗い状態をいう。図中において模様を付された個別領域は点灯しているものとする。また、V線は鉛直方向に平行であり、H線は水平方向に平行である。なお、実際には各個別領域がより細かく区画されることで、二輪車101の傾斜角度に応じて細やかに配光制御を行うことができるが、ここでは説明の便宜上、個別領域の数を少なくした実施形態を例示している。
【0021】
直進走行時かつ路面にも傾斜がなく、二輪車101が傾斜していない場合には、車両用前照灯100も傾斜しないので、H線より上側に対応する各個別領域20、22、23、24、28、29、30(図3(A)参照)、並びに各個別領域40、41、42、43、47、48、52、53、54(図4(A)参照)を消灯とし、H線より下側に存在する各個別領域を点灯とする。それにより、対向車102へのグレアを防止することができる。
【0022】
他方、カーブ路走行時および/または路面に傾斜がある場合などで二輪車101が傾斜した場合には、車両用前照灯100も傾斜するので、例えばH線より上側に存在する各個別領域20、22、23、28、29、30、31(図3(B)参照)、並びに各個別領域40、41、42、43、50、51、52、53(図4(A)参照)を消灯とし、H線より下側に存在する各個別領域を点灯とする。それにより、対向車102へのグレアを防止することができる。それにより、二輪車101の傾斜時にも対向車102へのグレアを防止することができる。なお、図3(B)の制御態様は例示であり、二輪車101の傾斜方向および傾斜角度に応じて、各個別領域の点消灯が適宜選択される。
【0023】
図4(B)は、各個別領域の形状や配置の決め方を説明するための図である。図示のように、各個別領域に区分けするための分割線60、61、62、63、64、65、66を設定する。これらの分割線60~66は、二輪車101の傾斜方向および傾斜角度に応じて照射光にカットオフライン(明領域と暗領域の境界)を設ける位置に対応するものである。詳細には、分割線60~62は、各々、図中の右上側から左下側へ向けて伸びる直線であり、各々、H線に対して斜交している。各々とH線とのなす角度は、分割線60とのなす角度が最も大きく、次に分割線61とのなす角度が大きく、分割線62とのなす角度が最も小さい。同様に、分割線64~66は、各々、図中の左上側から右下側へ向けて伸びる直線であり、各々、H線に対して斜交している。各々とH線とのなす角度は、分割線64とのなす角度が最も大きく、次に分割線65とのなす角度が大きく、分割線66とのなす角度が最も小さい。分割線60と分割線64、分割線61と分割線65、分割線62と分割線66のそれぞれは左右方向において対称に設けられている。そのため、分割線60と分割線64の各々とV線との交点は同じ位置となり、これをX1とする。同様に、分割線61と分割線65の各々とV線との交点は同じ位置となり、これをX2とする。同様に、分割線62と分割線66の各々とV線との交点は同じ位置となり、これをX3とする。また、分割線63は、V線の下側に配置されてこのV線と平行に伸びる直線であり、H線に対して略直交に交差している。分割線66とV線との交点をX4とする。
【0024】
本実施形態では、各個別領域を設定するための分割線のそれぞれについて、各交点X1~X4がV線上(鉛直方向に沿った仮想基準線上)において同一位置に集まらずに上下方向に分散して配置されるように、各分割線60~66の配置を設定している。より具体的には、H線、すなわち水平方向とのなす角度が大きい分割線ほどその分割線とV線との交点がV線上において相対的に上側に位置するように、各分割線の配置を定めている。図示の例では、分割線60、64とV線との交点X1が最も上側となり、分割線61、65とV線との交点X2が次に上側となり、分割線62、66とV線との交点X3が次に上側となり、分割線63とV線との交点X4が最も下側となるように、各分割線60~66の配置が定められている。分割線66は、水平方向と略平行なものであり、この分割線66とV線との交点X4は複数の交点のうち最も下側に位置する仮想基準点である。他の交点X1、X2、X3は、この順で仮想基準点である交点X4から離れた位置に配置されている。そして、このように配置が設定された各分割線60~66によって区分けされる領域の各々に対応して各個別領域を設けている(図4(A)参照)。このようにすることで、各個別領域の端部が一か所に集中することを回避することができるので、大きな暗点の発生を防ぐことができる。また、各図に示すように、各個別領域は、V線を挟んで線対称な形状を有している。さらに、本実施形態では、平面視においてV線と重なる位置に配置された菱形の個別領域40、41が存在する。これらの菱形の個別領域40、41は、H線を挟んで対象配置される分割線60~62、64~66が交わることで画定される個別領域のうちV線と重なるものである。
【0025】
上記のような各個別領域における点灯/消灯を実現するには、例えば、各個別領域に対応した平面視形状の複数の画素電極と、これら画素電極に対向配置される共通電極を有する液晶素子を用い、この液晶素子に光源からの光を入射させて各画素電極と共通電極の間に与える電圧を個別に制御すればよい。
【0026】
図5は、図3(A)に示すa部における各画素部に対応して設けられる画素電極の一例を示す平面図である。図5では、各画素電極に対する配線の結線状態も合わせて示している。図示のように各画素電極は、上記した図4(A)に示した各個別領域20~33、40~53のそれぞれに対応した平面視形状を有しており、かつ、仮想中心線oを挟んで線対称の形状に設けられている。また、各画素電極は、平面視における相互間に導電膜などの導電体が存在しない間隙が設けられており、互いに物理的および電気的に分離している。また、上記した菱形の個別領域40、41に対応する2つの画素電極は、仮想中心線oと重なる位置に配置されている。
【0027】
詳細には、間隙70は、上記した分割線60に対応した仮想分割線に基づいて設けられるものであり、図中右上側から左下側へ伸びている。同様に、間隙71は上記した分割線61に対応した仮想分割線に基づいて設けられ、間隙72は上記した分割線62に対応した仮想分割線に基づいて設けられ、間隙73は上記した分割線63に対応した仮想分割線に基づいて設けられ、間隙74は上記した分割線64に対応した仮想分割線に基づいて設けられ、間隙75は上記した分割線65に対応した仮想分割線に基づいて設けられ、間隙76は上記した分割線66に対応した仮想分割線に基づいて設けられるものである。なお、仮想分割線とは、上記した個別領域を区分けする各分割線と相似形で、画素電極のサイズに当てはめて適宜尺度が調整された仮想的な分割線をいい、図示すると上記図4(B)と同様になる。間隙70~76は、それぞれ直線状に設けられており、かつ所定の仮想中心線oとの交点が上記した分割線における交点X1~X4と同様に分散して配置される。詳細には、各交点は、交点X4に対応する仮想中心点が最も下側となり、それ以外の交点X1~X3に対応する交点がこの順で仮想中心点から離れた位置となるように設けられている。各画素電極は、各間隙70~76によって隔てられ、互いに分離している。
【0028】
また、各画素電極への電圧印加に用いる配線については、例えば、各画素電極を設ける層の下側に、絶縁層を介して隔離して設けるとよい。それにより、画素電極の数が多くなり、また形状が複雑になったとしても、図5に点線および黒丸で各画素電極に対する配線の結線状態を示すように、画素電極の下側へ各配線78を配置することができる。
【0029】
図6(A)は、液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。液晶素子5は、対向配置された上基板(第1基板)11および下基板(第2基板)12、共通電極(対向電極)13、複数の画素電極14、複数の配線(配線電極)16、絶縁層(絶縁膜)17、液晶層18を含んで構成されている。
【0030】
上基板11および下基板12は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。上基板11と下基板12の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を上基板11側若しくは下基板12側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。
【0031】
共通電極13は、上基板11の一面側に設けられている。この共通電極13は、下基板12の各画素電極14と対向するようにして一体に設けられている。共通電極13は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0032】
複数の画素電極14は、下基板12の一面側において絶縁層17の上側に設けられている。これらの画素電極14は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。上記の共通電極13と各画素電極14との重なる領域のそれぞれが上記した画素部(光変調領域)を構成する。各画素電極14は、上記した図5に示した形状に設けられている。
【0033】
複数の配線16は、下基板12の一面側において絶縁層17の下層側に設けられている。これらの配線16は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各配線16は、ドライバ4から各画素電極14に対して電圧を与えるためのものであり、絶縁層17に設けられたスルーホールを介して何れか1つの画素電極14と接続されている。これらの配線16が上記した図5に点線で示した配線78に対応している。各配線16は、絶縁層17を介して各画素電極14の下層側に設けられるので、配線や画素電極のレイアウト設計の自由度を高めることができる。
【0034】
絶縁層17は、下基板12の一面側において各配線16の上側にこれらを覆うようにして設けられている。すなわち、絶縁層17は、下基板12の一面側のほぼ全面を覆うように設けられている。この絶縁層17は、例えばSiO膜、SiON膜であり、スパッタ法などの気相プロセスあるいは溶液プロセスにより形成することができる。なお、この絶縁層17としては有機絶縁膜を用いてもよい。絶縁層17の層厚は、例えば1μm程度である。
【0035】
液晶層18は、上基板11と下基板12の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負であり、カイラル材を含み、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層21が構成される。本実施形態の液晶層18は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が一方向に傾斜した状態となり、各基板面に対して、例えば85°以上90°以下の範囲内のプレティルト角を有する略垂直配向となるように設定されている。
【0036】
なお、図示を省略しているが上基板11と下基板12の各々の一面側には適宜、液晶層18の配向状態を規制するための配向膜が設けられている。例えば本実施形態では液晶層18の配向状態を垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられる。また、共通電極13、各画素電極14、各配線16等を介してドライバ4と接続されており、例えばスタティック駆動される。なお、共通電極13を複数に分割してデューティ駆動(マルチプレックス駆動)を行ってもよい。
【0037】
図6(B)は、液晶素子の別の構成例を示す模式的な断面図である。上記した図6(A)に示した液晶素子との違いは、複数の画素間電極15が設けられている点であるので、相違点のみ詳細に説明する。複数の画素間電極15は、下基板12の一面側において絶縁層17の下層側に設けられている。また、各画素間電極15は、平面視で隣り合う画素電極14の間隙と重なる位置に配置されている。また、各画素電極15は、紙面奥側または手前側において1つの配線16と接続されている(図示省略)。これらの画素間電極15は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0038】
各画素間電極15は、近接する1つの画素電極14とスルーホールを介して接続されている。画素電極14への電圧印加時には、その画素電極14に接続された画素間電極15を介して配線部16から電圧を印加することにより、それらの画素間電極15と画素電極14が同電位になるので、画素電極14の相互間においても液晶層18へ電圧を印加することができる。それにより、画素部同士の相互間においても透過状態または遮光状態を制御することができるので、画素部同士の相互間における暗線の発生を抑制し、あるいは軽減することができる。
【0039】
図7は、他の実施形態の車両用前照灯による各個別領域を示す図である。上記した実施形態の場合よりも個別領域の数を多くすることで配光パターンをより高精細にしたものである。図7に示す実施形態における各個別領域の形状や位置は上記した実施形態と同様の決め方(図4(B)参照)により設定されており、各個別領域の端部が一か所に集中せずに分散して配置されている。このような各個別領域を設けるための液晶素子の構成例を図8に示す。図8に示す液晶素子5bは、図7に示した各個別領域に対応した平面視形状の複数の画素部を有する画素領域80を備えている。また、図8に示す液晶素子5bは、上基板11よりも下基板12のほうが大きく、その余白部分にドライバ4がCOG技術によって設けられて。ドライバ4への制御信号や電力の供給は、ドライバ4に接続されたフレキシブル配線基板81を介して行われる。なお、車両用前照灯の全体構成は上記した実施形態と同様である(図2参照)。また、投影レンズ7により像が反転投影されるので、液晶素子5bの実際の配置は図示のものと上下左右が反対となるようにされる。
【0040】
再び図7を参照し、各個別領域の構成について詳述する。分割線90aは、H線に対して右上がりに38.2°(deg)の角度を有して配置されている。例えば、二輪車101の傾き角度が38.2°の場合、二輪車101の傾きに追従してこの分割線90aを境界としてその下側の各個別領域を点灯、上側の各個別領域を消灯とすれば、カットオフラインを水平に形成して二輪車101へのグレアを防ぐことができる。同様に、分割線91aは、H線に対して右上がりに27.7°の角度を有し、分割線92aは、H線に対して右上がりに21.5°の角度を有し、分割線93aは、H線に対して右上がりに17.5°の角度を有し、分割線94aは、H線に対して右上がりに14.7°の角度を有し、分割線95aは、H線に対して右上がりに8.9°の角度を有し、分割線96aは、H線に対して右上がりに4.5°の角度を有してそれぞれ配置されている。また、各分割線90a~96aとV線との各交点は、H線とのなす角度が大きい分割線との交点ほどV線に沿って仮想基準点Pから離れて相対的に上側に離れて配置されている。また、各分割線90b~96bは、各分割線90a~96aと左右対称に設定されており、各々、対応する分割線同士(例えば、分割線90aと分割線90b)で同一位置に交点が配置されている。また、分割線97は、H線と平行であってH線の下側に配置されている。分割線97とV線との交点は上記した仮想基準点Pである。
【0041】
ここで、図7および図9を参照しながら、各分割線90a~96a、90b~96bとV線との交点の位置を定める方法の一例を説明する。各分割線とV線の交点は、分割線97とV線との交点である仮想基準点Pよりも図中上側において分散して配置されている。二輪車101における車両用前照灯100の設置位置の高さ(ランプ高さ)をh[単位:m]とする(図2参照)。例えば、傾き角度θが0°の場合のランプ高さhが0.85mであるとすると、日本国における現時点の法規で定められたカットオフライン(H線に対応)から0.57°(deg)だけ下向きの角度の照射光の照射距離(到達距離)は約85mとなる。
【0042】
ここで、傾き角度θが変化した際にも上記と同様に0.57°だけ下向きの照射光とした場合には、傾き角度θが大きいほど車両用前照灯100のランプ高さhが小さくなる(すなわち低い位置になる)ので、照射距離が短くなる。例えば、傾き角度θが38.2°の場合であれば照射距離は67.1mとなる。このため、いずれの傾き角度θにおいても照射距離を約85mとするには、照射光の水平方向から下向きに定義した角度であるカットオフ角度φを変える必要がある。例えば、傾き角度θが38.2°の場合、照射距離を約85mとするには、カットオフ角度φを0.45°にする必要がある。他の傾き角度θにおいても同様である。これらの関係を表にしたのが図9である。カットオフ角度φは、tan-1(h/85)を計算することで得られる。図示のように、傾き角度θが大きくなるほどカットオフ角度φが小さくなる相関関係がある。したがって、傾き角度θが0°の場合のカットオフ角度φである0.57°を基準として、それぞれの傾き角度θに対するカットオフ角度φを求め、それらと基準値の0.57°との差分(例えば、傾き角度θが38.2°の場合、0.12°)に対応して、各分割線90a等とV線との交点を定めればよい。
【0043】
以上のような実施形態によれば、車体の傾斜に応じて可変させる照射光の見栄えを向上することができる。
【0044】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した各実施形態における各個別領域やそれらに対応する各画素部の構成は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0045】
また、上記した実施形態では液晶素子の液晶層として垂直配向のものを説明していたが液晶層の構成はこれに限定されず、他の構成(例えばTN配向)であってもよい。また、液晶素子と偏光板との間に視角補償板を配置してもよい。また、画素間電極が省略されてもよい。
【0046】
また、上記した実施形態では、二輪車の前方に対して選択的な光照射を行う車両用前照灯を例示したが本開示の適用範囲はこれに限定されない。また、車両用途に限らず照明装置一般において本開示を適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:光源、2:傾きセンサ、3:コントローラ、4:ドライバ、5、5a:液晶素子、6a、6b:偏光板、7:投影レンズ、11:上基板、12:下基板、13:共通電極、14:画素電極、15:画素間電極、16:配線部、17:絶縁層、18:液晶層
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
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図10