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  • 特許-気体捕集装置および気体捕集方法 図1
  • 特許-気体捕集装置および気体捕集方法 図2
  • 特許-気体捕集装置および気体捕集方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】気体捕集装置および気体捕集方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
G01N1/22 X
G01N1/22 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020191832
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080642
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390000686
【氏名又は名称】株式会社住化分析センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小谷 智弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聖人
(72)【発明者】
【氏名】三枝 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小俣 美郁子
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-235416(JP,A)
【文献】特表2013-543969(JP,A)
【文献】特開2003-050201(JP,A)
【文献】特開2020-020586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0320271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収納するチャンバと、
前記チャンバに第1弁を備える第1流路を介して連通し、フィルタが内壁に取り付けられた第1捕集部と、
前記第1捕集部に第2弁を備える第2流路を介して連通し、前記チャンバ及び前記第1捕集部内を減圧する減圧部と、
前記第1捕集部の内壁及びフィルタを加熱又は冷却する加熱冷却部と、
前記第1捕集部に第3流路を介して連通する第2捕集部と、を備え、
前記第1弁及び第2弁を開放し、前記第1捕集部の内壁及びフィルタを冷却することで前記試料から放出された気体を捕集し、
前記第1弁及び第2弁を閉塞し、前記第1捕集部の内壁及びフィルタを加熱することで前記第1捕集部に捕集した気体を放出し、前記第2捕集部で捕集し、
前記減圧部は、ターボ分子ポンプと、真空ポンプとを備え、
前記第2流路は、前記減圧部と前記第2弁との間に、前記真空ポンプへの流路と、前記ターボ分子ポンプ及び真空ポンプへの流路とを切り替える切り替え弁を備えており、前記ターボ分子ポンプ及び前記真空ポンプの両方で第1捕集部を減圧し、前記第1捕集部を10 ~10 -6 Paという真空環境にまで減圧する、気体捕集装置。
【請求項2】
前記チャンバの内壁を加熱する第1加熱部を備え、
前記第1弁及び第2弁を開放しているときに、前記第1加熱部で前記チャンバの内壁を加熱する、請求項1に記載の気体捕集装置。
【請求項3】
前記第3流路が第3弁を備え、
前記第1捕集部に第4弁を備える第4流路を介して連通するキャリアガス供給部をさらに備え、
前記第1弁及び第2弁を閉塞し、前記第1捕集部の内壁及びフィルタを加熱しているときに、前記第3弁及び前記第4弁を開放し、前記キャリアガス供給部から前記第1捕集部に供給するキャリアガスとともに前記気体を第2捕集部に移送する、請求項1又は2に記載の気体捕集装置。
【請求項4】
前記チャンバ内に前記試料を載置する載置台を備え、
前記載置台が、前記試料を加熱する第2加熱部を備えている、請求項1~3の何れか一項に記載の気体捕集装置。
【請求項5】
前記第1弁及び第2弁が、ゲートバルブである、請求項1~4の何れか一項に記載の気体捕集装置。
【請求項6】
チャンバに試料を収納する収納工程と、
前記チャンバに連通する第1捕集部を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の開始後、前記チャンバから前記第1捕集部を経て減圧部に至る流路を前記減圧部により減圧することにより前記チャンバにて前記試料から放出された気体を前記第1捕集部に移送し、冷却することで捕集する第1捕集工程と、
第1捕集工程後、前記第1捕集部と、前記チャンバ及び前記減圧部とを遮断する遮断工程と、
前記遮断工程後、前記第1捕集部を加熱して前記気体を放出し、前記第1捕集部に連通する第2捕集部で捕集する第2捕集工程と、を包含し、
前記減圧部は、ターボ分子ポンプと、真空ポンプとを備え、
前記第1捕集工程では、前記ターボ分子ポンプ及び前記真空ポンプの両方で前記第1捕集部を減圧し、前記第1捕集部を10 ~10 -6 Paという真空環境にまで減圧する、気体捕集方法。
【請求項7】
前記冷却工程において、前記第1捕集部の内壁及び当該内壁に設けられたフィルタを冷却する、請求項6に記載の気体捕集方法。
【請求項8】
前記収納工程後、第1捕集工程が終了するまでの間、前記チャンバの内壁を加熱する、請求項6又は7に記載の気体捕集方法。
【請求項9】
前記第2捕集工程において、前記第1捕集部にキャリアガスを供給することで、当該キャリアガスと共に、前記第1捕集部に捕集した気体を第2捕集部に移送する、請求項6~8の何れか一項に記載の気体捕集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体捕集装置および気体捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、真空環境からガスを受け取るためのガス入口開口、ガスを移送するガス出口、および、収集フェーズにおいてガスを吸着し移送フェーズにおいてガスを脱着する内壁を有する中空要素と、収集フェーズにおける中空要素外部の第一の位置から前記移送フェーズにおける前記中空要素内部の第二の位置に移動可能な充填要素と、を有し、記第二の位置は前記内壁に沿った前記ガス出口への移送チャネルを開いたまま残す、装置が記載されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、真空中において試験体からガスを取り出す試料室と、第一の真空バルブを介して試料室からガスを取込む中間室と、第二の真空バルブを介して中間室からガスを取込む第一の分析室と、オリフィスを介して中間室からガスを取込む第二の分析室と、第二の分析室からガスを排気する排気部と、試料室に取り出されたガス量を計測する真空計と、真空計で計測されたガス量に応じて、第一及び第二の真空バルブの開閉を制御する制御演算部と、第一の分析室又は第二の分析室に取り込まれたガスを分析する質量分析計と、を備えるガス分析装置が記載されている。特許文献2のガス分析装置は真空計で計測したガス量が閾値以上であると、制御演算部が第二の真空バルブを閉じ、第一の真空バルブを開け、第二の分析室に取り込まれたガスを分析し、真空計で計測したガス量が閾値未満であると、第一及び第二の真空バルブを開け、第一の分析室に取り込まれたガスを分析する。
【0004】
また、例えば、特許文献3には、サンプルから放出されるガスを検出するガス分析装置であって、低ガス放出処理済材料からなる、サンプル台及び真空チャンバと、真空チャンバの外部からサンプル台に置かれるサンプルを非接触で加熱する加熱手段と、加熱によりサンプルから放出したガスを測定する検出部と、真空チャンバ内を真空状態にするタンデム型ポンプと、タンデム型ポンプと検出部との間に配置され、検出部側へのガスの戻りを抑制するオリフィスと、を備えるガス分析装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-543969号公報(2013年12月9日公表)
【文献】特開2020-20586号公報(2020年2月6日公開)
【文献】特開2018-141657号公報(2018年9月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような特許文献1~3に記載される気体捕集装置は、試料を収納するチャンバ内部の減圧開始から減圧終了までの間において試料から放出される気体を捕集できないという問題がある。
【0007】
すなわち、本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、試料を収納するチャンバ内部の減圧開始から減圧終了までの間において、試料から放出される気体を首尾よく捕集する新規な気体捕集装置及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る気体捕集装置は、試料を収納するチャンバと、前記チャンバに第1弁を備える第1流路を介して連通し、フィルタが内壁に取り付けられた第1捕集部と、前記第1捕集部に第2弁を備える第2流路を介して連通し、前記チャンバ及び前記第1捕集部内を減圧する減圧部と、前記第1捕集部の内壁及びフィルタを加熱又は冷却する加熱冷却部と、前記第1捕集部に第3流路を介して連通する第2捕集部と、を備え、前記第1弁及び第2弁を開放し、前記第1捕集部の内壁及びフィルタを冷却することで前記試料から放出された気体を捕集し、前記第1弁及び第2弁を閉塞し、前記第1捕集部の内壁及びフィルタを加熱することで前記第1捕集部に捕集した気体を放出し、前記第2捕集部で捕集する。
【0009】
また、本発明の一態様に係る気体捕集方法は、チャンバに試料を収納する収納工程と、前記チャンバに連通する第1捕集部を冷却する冷却工程と、前記冷却工程の開始後、前記チャンバから前記第1捕集部を経て減圧部に至る流路を前記減圧部により減圧することにより前記チャンバにて前記試料から放出された気体を前記第1捕集部に移送し、冷却することで捕集する第1捕集工程と、第1捕集工程後、前記第1捕集部と、前記チャンバ及び前記減圧部とを遮断する遮断工程と、前記遮断工程後、前記第1捕集部を加熱して前記気体を放出し、前記第2捕集部で捕集する第2捕集工程と、を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、試料を収納するチャンバ内部の減圧開始から減圧終了までの間において、試料から放出される気体を首尾よく捕集する新規な気体捕集装置及びその関連技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る気体捕集装置100の概略を説明する図である。
図2】本発明の一態様に係る気体捕集装置100が備えている第1捕集管20の概略を説明する図である。
図3】本発明の一態様に係る気体捕集装置100において気体を捕集するための一連の操作を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<気体捕集装置100>
図1及び図2を用いて、本発明の一態様に係る気体捕集装置100について詳細に説明する。図1は、一態様に係る気体捕集装置100の概略を説明する図であり、図2は、気体捕集装置100が備えている第1捕集管20の概略を説明する図である。
【0013】
図1に示すように、気体捕集装置100は、チャンバ10、第1捕集管20(第1捕集部)、減圧部30、加熱冷却部40、第2捕集管50(第2捕集部)、及びキャリアガス供給部60を備えている。気体捕集装置100は、チャンバ10が弁体12A(第1弁)を備えた配管12(第1流路)を介して第1捕集管20に連通し、第1捕集管20が弁体22A(第2弁)を備えた配管22(第2流路)を介して減圧部30に連通している。
【0014】
また、気体捕集装置100は、第2捕集管50が弁体52A(第3弁)を備えた配管52(第3流路)を介して第1捕集管20に連通し、キャリアガス供給部60が弁体61A(第3弁)を備えた配管61(第3流路)を介して第1捕集管20に連通している。
【0015】
気体捕集装置100が気体を捕集する対象である試料Sは、真空環境下で気体を放出する試料であり、例えば、電気・電子・半導体・自動車・建築・包装・衣料・医療・宇宙等、製品の不具合を引き起こすガスを放散する可能性のある材料が試料として挙げられる。このような、試料は、チャンバ内における真空度の変化に伴って試料の性状が変化したり
、試料の性状の変化に伴い放出される気体の挙動が変化したりすることがある。また、試料によっては、真空環境に至るまでもなく、減圧の初期において試料から放出される気体が存在したり、チャンバ内が真空環境に至った後、しばらくしてから放出されたりする気体も存在する。気体捕集装置100によれば、減圧初期から真空環境に至る過程も含め、試料から放出される気体を残さず首尾よく捕集することができる。
【0016】
気体捕集装置100は、弁体12A及び弁体22Aを開放し、減圧部30によりチャンバ10内と第1捕集管20内とをまとめて減圧する。すなわち、チャンバ10、第1捕集管20、及び減圧部30をこの順で互いに連通させ、減圧部30による吸引力でチャンバ10内において試料Sから放出された気体を第1捕集管20内に移送する。このとき、弁体52A及び弁体61Aは閉塞しておくとよい。
【0017】
これにより、気体捕集装置100は、減圧部30による減圧の初期から所定の真空度に至るまでの間も含め、減圧に伴って当該チャンバ10内から第1捕集管20内に移送された気体を加熱冷却部40によって冷却することができる。よって、気体捕集装置100は、試料Sから放出された気体(アウトガス、又は目的成分ともいう)を第1捕集管20内において首尾よく凝集又は凝固することができ、第1捕集管20内に捕集することができる。
【0018】
また、気体捕集装置100は、第1捕集管20内に気体を捕集した後に、弁体12A及び弁体22Aを閉塞し、第1捕集管20内に一旦捕集した気体を加熱冷却部40によって加熱するとよい。これにより、気体捕集装置100は、第1捕集管20内に捕集した目的成分を再度気化して放出できる。気体捕集装置100は、弁体52A及び弁体61Aを開放することで、第1捕集管20内の気体をキャリアガスと共に第2捕集管50に首尾よく移送できる。
【0019】
〔チャンバ10〕
図1に示す、チャンバ10は、その内部に試料Sを載置する載置台11が設けられており、配管12を介して第1捕集管20に連通している。チャンバ10は、パージガス供給部13を備え、配管14を介してパージガスをチャンバ10内に供給することができる。チャンバ10には気圧計測部15が設けられている。なお、チャンバ10にはハッチ(不図示)が設けられており、試料Sを当該ハッチからチャンバ10内に搬入し、載置台11に載置するとよい。
【0020】
チャンバ10の内壁は、例えば、ステンレス、ハステロイ(登録商標)、及びインコネル(登録商標)等の耐腐食性合金により形成されていることが好ましい。
【0021】
チャンバ10は、当該チャンバ10の内壁を加熱する熱源(第1加熱部,不図示)を備えている。チャンバ10の内壁を熱源で加熱することにより、試料Sから放出された気体がチャンバ10の内壁に吸着されたり、当該内壁で冷やされ、捕集されたりすることを好適に防止することができる。チャンバ10の内壁の温度は、気体を捕集する試料の種類、及び試料が放出する気体の種類に応じて設計すればよく、限定されるものではない。例えば、当該内壁の温度は、室温~350℃の範囲内の温度に加熱することが好ましく、室温~280℃の範囲内の温度に加熱することがより好ましい。第1加熱部は、チャンバ10の内壁を加熱することができれば、電熱ヒータ等の抵抗熱源、スチームヒータ及び温水ヒータ等の熱媒を用いる熱源、及び赤外線ヒータ等の非接触式の熱源等といった種々の熱源を用いてよい。
【0022】
載置台11は試料Sを載置する台であり、試料Sを加熱する熱源(第2加熱部,不図示)を備えている。載置台11において試料Sを加熱することにより、当該試料Sから首尾
よく気体を放出させることができる。載置台11の温度は、気体を捕集する試料の種類に応じて設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、室温~350℃の範囲内の温度に加熱することが好ましく、室温~280℃の範囲内の温度に加熱することがより好ましい。載置台11は、チャンバ10の内壁と同じく、ステンレス等により形成されていることが好ましい。
【0023】
第2加熱部には、第1加熱部と同様の熱源を採用できるため、その説明を省略する。チャンバの内壁を加熱する第1加熱部及び載置台を加熱する第2加熱部は、それぞれ連動し、又は独立して、同じ温度になるように制御してもよく、それぞれ異なる温度になるように制御してもよい。
【0024】
チャンバ10は、配管12を介して第1捕集管20に連通しており、配管12には弁体12Aが設けられている。弁体12Aは、ゲートバルブ、ボールバルブ、チョークバルブ、及びシリンジバルブ等により実現され得る。中でも、弁体12Aは、真空遮断、密閉性の維持という観点から、ゲートバルブであることがより好ましい。なお、弁体12Aは自動式又は手動式で流路を開閉できればよい。
【0025】
パージガス供給部13はパージガスを貯留するボンベであり得、配管14が備えている弁体14Aを開放することでチャンバ10内にパージガスを供給する。気体捕集装置100は、弁体14Bを開放することで、パージガス供給部13から供給されパージガスと共にチャンバ10内における例えば空気等の残留ガスをチャンバ10外に排出することができる。パージガスには、例えば、高純度空気、並びに窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。気体捕集装置100は、パージガスにより、例えば、試料をチャンバ10内に搬入する前にチャンバ10内を不活性ガス雰囲気しておいてもよく、試料をチャンバ10内に搬入した後にパージガスを供給し、チャンバ10内を不活性ガス雰囲気にしてもよい。弁体14A及び弁体14Bには、弁体12Aと同じく、ゲートバルブ、ボールバルブ、チョークバルブ、及びシリンジバルブ等の公知のバルブを採用することができる。なお、パージガス供給部13がチャンバ10内にパージガスを供給している間、弁体12Aは閉塞しておいてもよく、開放しておいてもよいが、閉塞しておくことが好ましい。
【0026】
気圧計測部15は、チャンバ10内の気圧を計測する気圧計と、気圧の変化を検知するセンサとを備えているとよい。当該気圧計は、例えば、隔膜真空計、ピラニー真空計及び電離真空計等を使用し得る。当該センサは、例えば、ピエゾ抵抗方式センサ、及びMEMSデバイス等により実現され得る。気体捕集装置100は、気圧計測部15により検知された気圧の変化に応じ、制御部(不図示)が減圧部30を制御し、これによりチャンバ10内及び第1捕集管20内の気圧を調整してもよい。
【0027】
〔第1捕集管20〕
図2に例示するように、第1捕集管20はフィルタ21を備えていることが好ましい。フィルタ21は、加熱冷却部40から第1捕集管20の内壁を介して熱を受け取り、又は熱を放出できるように当該内壁に取り付けられている。これにより、第1捕集管20の内壁及びフィルタ21の両方によって、チャンバ10から移送されてきた気体を効率的に冷却でき、効率的に加熱できる。第1捕集管20の内壁及びフィルタ21は、好適に熱を伝導する観点から、例えば、ステンレス、ハステロイ(登録商標)、及びインコネル(登録商標)等の耐腐食性合金により形成されていることが好ましい。
【0028】
図2に示すように、フィルタ21はフィルタ21A~21Eのように多層構造を取ることが好ましく、図2に例示するフィルタ21Aのように、フィルタ21A~21Eはメッシュ状のフィルタであり網目に流路Aが設けられている。図2中に示されている矢印に沿って気体が流れ、フィルタ21A~21Eの流路Aを通過するときに、気体がフィルタ2
1A~21Eによって冷却され、凝集又は凝固することで捕捉される。また、フィルタ21A~21Eが加熱されると、捕捉した気体が放出される。フィルタ21Aに設けられる流路Aは、第1捕集管20内における配管12側から配管22側への気体の流れ、及び配管61側から配管52側への気体の流れを遮断しない程度の広さを有していればよい。すなわち、フィルタ21を構成するフィルタのそれぞれは、減圧部30によって吸引される気体の流れを遮断しなければ、メッシュに限定されず、プレートであってもよく、流路の数及びフィルタに占める流路の広さは限定されない。なお、フィルタは、フィルタ21のように多層構造(複数枚)のフィルタであってもよく、単層構造(1枚)のフィルタであってもよく、フィルタの枚数及び種類の組み合わせは限定されるものではなく、より多層構造であることが好ましい。
【0029】
また、気体捕集装置100は、フィルタ21A、21B、21C、21D、21Eのそれぞれに隙間を設け、各フィルタの間に例えば、シリカ、ゼオライト、ポリマー材料(例えばTENAX(登録商標)等)、炭素素材(例えば活性炭)、アルミナ等の充填材あるいはガラスや金属等を繊維状にしたウールを充填し、これにより気体を捕集してもよい。
【0030】
〔減圧部30〕
減圧部30は、ターボ分子ポンプ31と、ドライポンプ、及びロータリーポンプ等により実現される真空ポンプ32とを備えている。減圧部30は配管22を介して第1捕集管20に連通し、配管22が備えている切り替え弁22Bを備えている。弁体22Aは、弁体12Aと同様であるため、その説明を省略する。切り替え弁22Bは、例えば、手動式又は自動式の三方弁であってよく、例えば、電磁式三方弁であってよい。減圧部30は、弁体22Aを開放し、切り替え弁22Bによってターボ分子ポンプ31及び真空ポンプ32の両方を第1捕集管20に連通させることで、チャンバ10内及び第1捕集管20内の両方において10~10-6Paという真空環境を実現することができる。また、減圧部30は、弁体22Aを開放し、切り替え弁22Bによって第1捕集管20と真空ポンプ32とを直接的に連通させ、減圧操作の初期において第1捕集管20内を減圧し、その後、切り替え弁22Bによって、ターボ分子ポンプ31及び真空ポンプ32の両方を第1捕集管20に連通させてもよい。
【0031】
〔加熱冷却部40〕
加熱冷却部40は、第1捕集管20の周囲を覆う冷却部(不図示)及び加熱部(不図示)の両方を備えている。加熱冷却部40が備えている冷却部は、第1捕集管20の内壁及びフィルタ21を冷却する冷媒を冷却源とすることが好ましく、冷媒には、例えば、液体窒素、液化アルゴン等の液化ガスが例示される。加熱冷却部40が備える冷却部は、第1捕集管20内の真空環境、及び第1捕集管20に捕集すべき気体の種類に応じて、冷却温度を設定すればよく、例えば、0℃以下、より好ましくは、-100℃以下の温度まで第1捕集管20の内壁及びフィルタ21を冷却することが好ましい。
【0032】
加熱冷却部40が備えている加熱部は、第1捕集管20の内壁及びフィルタ21を加熱できればよく、チャンバ10における第1加熱部及び第2加熱部と同様に、電熱ヒータ等の抵抗熱源、スチームヒータ等の熱媒を用いる熱源、及び赤外線ヒータ等の非接触式熱源等の種々の熱源を用いてよく、電熱ヒータであることがより好ましい。なお、加熱冷却部40が備える加熱部は、第1捕集管20内に捕集された気体の種類に応じて加熱温度を設定すればよく、例えば、室温~350℃の範囲内の温度に加熱することが好ましく、室温~280℃であることがより好ましい。
【0033】
また、第1捕集管20の周囲を覆う加熱冷却部40は、第1捕集管20に接続された各流路を除き、熱媒、及び冷媒の流路も含め、断熱部(不図示)によって覆われていることが好ましい。これにより、第1加熱部を備えているチャンバ10と加熱冷却部40とを互
いに断熱しつつ、加熱冷却部40における冷却効率及び加熱効率を高めることがより好ましい。なお、断熱部は、例えば、真空断熱材によって実現するとよい。
【0034】
〔第2捕集管50〕
第2捕集管50は、弁体52Aを備えた配管52を介して第1捕集管20から移送されてきた気体を捕集する。第2捕集管50には、充填材51として、シリカ、シリカ、ゼオライト、ポリマー材料(例えばTENAX(登録商標)等)、炭素素材(例えば活性炭)、アルミナ等の充填材あるいはガラスや金属等を繊維状にしたウールを充填しておき、これにより、気体を吸着し捕集してもよい。第2捕集管50の内壁は、第1捕集管20と同じく、耐腐食性合金等で形成されていることが好ましい。また、第2捕集管50は、第2捕集管50内を密閉した後、気体捕集装置100から着脱可能なように配管52に接続されている。第2捕集管50は、気体を捕集した後、気体捕集装置100から取り外され得る。第2捕集管50に捕集された気体は、例えば、GC-MS等の分析装置によって、成分及びその量が分析され得る。
【0035】
一態様に係る気体捕集装置において、第2捕集部は、第1捕集部から移送されてきた気体を冷却し、凝集するための冷却部により冷却してもよい。また、第2捕集部は、キャリアガス供給部から供給されてくる過剰なキャリアガスを当該第2捕集部外に排出する排出管(排出部)が設けられていてもよい。ここで、排出管は開閉可能な弁体を備えていることが好ましい。
【0036】
〔キャリアガス供給部60〕
キャリアガス供給部60はキャリアガスを貯留するボンベであり得、配管61が備えている弁体61Aを開放することでチャンバ10内にキャリアガスを供給する。キャリアガスには、パージガスと同じく、例えば、高純度空気、並びに窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。キャリアガス供給部60から供給されたキャリアガスは、弁体52Aを開放することで第1捕集管20内に放出された気体と共に第2捕集管50に移送される。弁体52A及び弁体61Aには、弁体12Aと同じく、ゲートバルブ、ボールバルブ、チョークバルブ、及びシリンジバルブ等の公知のバルブを採用することができ、手動式又は自動式のバルブであってよい。なお、パージガス供給部13がチャンバ10内にパージガスを供給している間、弁体52A及び弁体61Aは閉塞しておくとよい。
【0037】
〔制御部〕
一態様に係る気体捕集装置は、制御部を備えてもよい。制御部は、例えば、第1加熱部によるチャンバの内壁の温度制御、第2加熱部による載置台の温度制御、並びに加熱冷却部による第1捕集部の内壁及びフィルタの温度制御、並びに、減圧部による気圧制御を行なってもよい。また、これら温度制御及び気圧制御に伴って、制御部が、第1流路に設けられた第1弁、第2流路に設けられた第2弁、第3流路に設けられた第3弁、及び第4流路に設けられた第4弁、並びにその他の流路の弁体も含め、各弁体における開閉制御するようになっていてもよい。これらの制御は、互いに連動するか、又はそれぞれ独立して制御してもよい。一態様に係る気体捕集装置における温度制御及び気圧制御、及びこれに伴う各弁体の制御は、予め設定されたタイミングチャートに基づいて行ってもよく、第1加熱部、第2加熱部、及び加熱冷却部の温度を検知する温度センサ、及び、チャンバに設けられた気圧センサ等によって、温度及び気圧を検知しながら制御してもよい。
【0038】
<気体捕集方法>
本発明の一態様に係る気体捕集方法は、チャンバに試料を収納する収納工程と、前記チャンバに連通する第1捕集部を冷却する冷却工程と、前記冷却工程の開始後、前記チャンバから前記第1捕集部を経て減圧部に至る流路を前記減圧部により減圧することにより前記チャンバにて前記試料から放出された気体を前記第1捕集部に移送し、冷却することで
捕集する第1捕集工程と、第1捕集工程後、前記第1捕集部と、前記チャンバ及び前記減圧部とを遮断する遮断工程と、前記遮断工程後、前記第1捕集部を加熱して前記気体を放出し、前記第2捕集部で捕集する第2捕集工程と、を包含している。ここで、一態様に係る気体捕集方法は、前記収納工程後、第1捕集工程が終了するまでの間、前記チャンバの内壁を加熱する加熱工程を含んでいることが好ましい。
【0039】
本発明の一態様に係る気体捕集方法は、チャンバ、第1捕集部、及び減圧部がこの順で流路を介して連通し、かつ、第1捕集部に第2捕集部が流路を介して連通する装置を用いて、第2捕集部に気体を捕集する方法である。典型的には、本発明の一態様に係る気体捕集装置を用いて気体を捕集する気体捕集方法である。以下に図3を用いて、本発明の一態様に係る気体捕集方法についてより詳細に説明する。図3は、本発明の一態様に係る気体捕集装置100により行なわれる気体捕集方法における一連の操作を例示するフローチャートである。
【0040】
〔収納工程〕
収納工は、試料をチャンバに収納する工程である。収納工程では、チャンバ内に試料を収納する前、及び試料を収納した後において、パージガスによってチャンバ内を置換しておくことが好ましい。なお、収納工程は、後述する第1捕集工程によりチャンバの減圧を開始する前であれば、冷却工程の開始前、冷却工程の開始後の何れに行なってもよい。
【0041】
気体捕集装置100では、チャンバ10内の載置台11に試料Sを載置することで収納工程が行なわれる(図3のS10)。このとき、チャンバ10と、当該チャンバ10に配管12を介して連通する第1捕集管20とは、弁体12Aにより遮断されていることがより好ましい。
【0042】
〔冷却工程〕
一態様に係る気体捕集方法は、チャンバ内の減圧を開始する前に、当該チャンバに連通する第1捕集部を予め冷却する冷却工程を包含している。第1捕集部は、その内壁にフィルタが取り付けられていることが好ましい。冷却工程では、後述する第1捕集工程が終了するまでの間、第1捕集部の内壁及びフィルタの温度を所定の冷却温度に維持するとよい。冷却工程における所定の冷却温度は、試料に応じて適宜設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、0℃以下であり、-100℃以下であることがより好ましい。一態様に係る気体捕集方法では、冷却工程において、第1捕集部の内壁及びフィルタの温度が、所定の冷却温度に達するまで冷却し、後述する第1捕集工程が終了するまで間、当該所定の冷却温が維持するとよい。気体捕集装置100では、第1捕集管20の内壁及び当該内壁に取り付けられたフィルタ21を、加熱冷却部40によって冷却することで冷却工程が行なわれる(図3のS11)。
【0043】
〔第1捕集工程〕
第1捕集工程は、チャンバ及び当該チャンバに連通する第1捕集部を第1捕集部に連通する減圧部により減圧し、これによりチャンバ内にて試料から放出された気体を、減圧部の吸引力によって第1捕集部に移送し、第1捕集部にて冷却することで凝集又は凝固させる。これにより、チャンバ内の試料から放出された気体を第1捕集部にて捕集する。第1捕集工程において、減圧部によるチャンバ内及び第1捕集部内の気圧は、特に限定されないが、10~10-6Paの範囲内であることが好ましい。なお、第1捕集工程において第1捕集部の内壁、及びフィルタは所定の冷却温度に維持されている。また、第1捕集工程が終了するまでの間、チャンバ内壁を加熱することがより好ましい。なお、第1捕集工程において、チャンバの内壁を加熱する場合、試料の種類に応じて加熱温度を設定すればよく、例えば室温~350℃の範囲内の温度に加熱することが好ましく、室温~280℃であることがより好ましい。これによって、試料から放出された気体がチャンバの内壁
に吸着されたり、当該内壁で冷やされて捕集されたりすることを好適に防止することができる。従って、気体を第1捕集部に首尾よく移送することができる。なお、第1捕集工程は、試料の種類や当該試料から放出される気体の種類等に応じて、第1捕集工程における気体を捕集するための所定の時間を設定すればよい。
【0044】
気体捕集装置100では、載置台11に試料Sを載置し、チャンバ10内をパージガスにより置換した後に、チャンバ10の内壁及び載置台11が加熱され(図3のS12)、それに続いて、弁体12A及び弁体22Aを開放することで、ターボ分子ポンプ31及び真空ポンプ32の両方により、チャンバ10内及び第1捕集管20内を減圧し、これにより第1捕集工程を行なう(図3のS13)。
【0045】
〔遮断工程〕
遮断工程は、第1捕集工程後、チャンバと第1捕集部とを連通する流路、及び第1捕集部と減圧部とを連通する流路を遮断し、これによりチャンバ内にて試料から放出された気体を目的成分として第1捕集部に封入する。
【0046】
気体捕集装置100では、配管12が備えている弁体12A、及び配管22が備えている弁体22Aを閉塞することで、チャンバ10及び減圧部30から第1捕集管20内を遮断する(図3のS14)。これにより第1捕集管20内に目的成分を封入する。
【0047】
〔第2捕集工程〕
第2捕集工程は、遮断工程において第1捕集部に捕集した目的成分を加熱し、再度気化する。これにより、第1捕集部に連通する第2捕集部に移送し、当該気体を第2捕集部内にて捕集する。なお、第2捕集工程において、第2捕集部の内壁及びフィルタを加熱するときの加熱温度は、例えば室温~350℃の範囲内の温度に加熱することが好ましく、目的成分に応じて温度設定することがより好ましい。また、第2捕集工程では、第1捕集部内にキャリアガスを供給することにより、目的成分の気体をキャリアガスと共に、第2捕集部に移送することがより好ましい。
【0048】
気体捕集装置100では、配管12が備えている弁体12A、及び配管22が備えている弁体22Aを閉塞した状態で、第1捕集管20内を加熱する(図3のS15)。次いで、配管52が備えている弁体52A、及び配管61が備えている弁体61Aを開放し、目的成分としての気体をキャリアガスと共に第2捕集管50に移送する(図3のS16)。
【0049】
第2捕集管50に移送され捕集された気体は、例えば、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)等の公知の分析方法によって、定性的及び/又は定量的に分析され得る(図3のS17)。
【0050】
これまで説明した各工程は、前述した制御部によって制御してもよい。つまり、制御部は、前述した収納工程、冷却工程、第1捕集工程、遮断工程、第2捕集工程を行うように制御するものであってもよい。各工程を行うように気体捕集装置100を制御するために、制御部は、弁体12A、弁体22A、弁体52A、弁体61A、ターボ分子ポンプ31、真空ポンプ32、その他、気体捕集装置100が備える各構成を制御する。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、半導体デバイス分野及び航空宇宙分野において用いられる材料に含
まれる成分の分析に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 チャンバ
11 載置台
12 配管(第1流路)
12A 弁体(第1弁)
20 第1捕集管(第1捕集部)
21 フィルタ(第1捕集部)
22 配管(第2流路)
22A 弁体(第2弁)
30 減圧部
31 ターボ分子ポンプ(減圧部)
32 真空ポンプ(減圧部)
40 加熱冷却部
50 第2捕集管(第2捕集部)
51 充填材(第2捕集部)
52 配管(第3流路)
52A 弁体(第3弁)
60 キャリアガス供給部
61 配管(第4流路)
61A 弁体(第4弁)
100 気体捕集装置
S 試料

図1
図2
図3