(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】小梁端部の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20240411BHJP
E04B 1/48 20060101ALI20240411BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240411BHJP
E04B 5/32 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
E04B1/24 E
E04B1/48 A
E04B1/58 506F
E04B1/58 603
E04B5/32 D
(21)【出願番号】P 2021079559
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2021-08-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】山内 豊英
(72)【発明者】
【氏名】森 浩二
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-68001(JP,A)
【文献】特開2018-135668(JP,A)
【文献】特開2019-206812(JP,A)
【文献】特公昭53-26048(JP,B2)
【文献】特開2008-63805(JP,A)
【文献】特開2017-53102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B1/24
E04B1/38-1/61
E04B5/00-5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大梁に対して小梁端部を接合する構造であって、前記大梁のウエブの両側にそれぞれ前記小梁端部をガセットプレートにて接合し、
前記両側の小梁の下フランジに対してスプライスプレートを高力ボルトで接合し、さらに前記両側の小梁の上フランジには複数のシアコネクタを立設して前記大梁を跨いで床スラブを
設けるとともに、前記小梁端部に立設された
前記複数のシアコネクタ
に補強手段
を設け、前記床スラブに生じる引っ張り力を前記シアコネクタを介して前記小梁に伝達して曲げモーメントを負担させ
、
前記
補強手段は、U字筋であり、前記U字筋は2本を一対とし、それぞれの曲線部分が外側に位置するように重ね合わせて配筋し、
前記曲線部分が、前記複数のシアコネクタのうち最も端部の前記シアコネクタに接触することを特徴とする小梁端部の接合構造。
【請求項2】
大梁に対して小梁端部を接合する構造であって、前記大梁のウエブの両側にそれぞれ前記小梁端部をガセットプレートにて接合し、前記両側の小梁の下フランジに対してスプライスプレートを高力ボルトで接合し、さらに前記大梁および前記両側の小梁の上フランジには複数のシアコネクタを立設して前記大梁を跨いで床スラブを設けるとともに、前記大梁に立設された前記複数のシアコネクタに補強手段を設け、前記床スラブに生じる引っ張り力を前記シアコネクタを介して前記大梁および前記小梁に伝達して曲げモーメントを負担させ、
前記補強手段は、U字筋であり、前記U字筋は2本を一対とし、それぞれの前記U字筋の曲線部分が向かい合うように配筋し、
前記曲線部分が、前記複数のシアコネクタのうち前記大梁の上の前記シアコネクタに接触することを特徴とする小梁端部の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄骨造の小梁端部の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨小梁の端部接合部は、
図6に示すように、鉄骨小梁の端部接合部は、大梁に取付けたガセットプレート20と小梁21のウエブ22のみを高力ボルト23によって接合するピン接合形式とするものが一般的である。ピン接合形式の接合部は、ディテールが簡単で施工性が高いものの、計算上は端部の曲げモーメント負担がゼロになる。したがって、
図7のようにスパン中央の応力やたわみが大きくなるため、小梁断面が大きくなり、コスト増加の一因となることが少なくない。特に、積載荷重が大きい物流施設等では、応力上は余裕があっても、たわみ量を抑制するために小梁が大断面化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-68001号公報
【文献】特開2017-53102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の仕口構造は、大梁を2本の小梁で挟んで突き合わせて接合するものであるが、大梁と小梁の上フランジにわたってシアコネクタによって接合したスラブが載置されており、このスラブには小梁を跨いで補強部材が配置されている。また、特許文献2では梁と被接合部材の接合構造に係るもので、これらの上面には同様にスラブが設けられ、スラブには梁に固定された係止部材が埋設されて、このスラブを介して被接合部材と接合されている。そして、接合部材にはガセットプレートが溶接され、このガセットプレートは梁のウエブにボルト接合されている。また、被接合部材にはガセットプレートとは別体のスプライスプレートが突合せ溶接されるとともに、梁の下フランジにボルト接合されている。
【0005】
特許文献1に記載された発明と、特許文献2に記載された発明とは、いずれも大梁に小梁の端部を接合する構造であるが、前者は曲げモーメントを負担するためにスラブに対して小梁を跨いで補強部材を配置したものであり、後者はスプライスプレートを突合せ溶接することによって、圧縮力を被接合部材のウエブに伝達させることによって曲げモーメントを負担している。
【0006】
しかしながら、特に特許文献1に記載された発明では、スラブ筋とは別に鉄筋のような補強部材をスラブ内部に設けているが、この補強鉄筋は大梁の上フランジに設けられたシアコネクタと縁がついているものではないので、大梁と小梁の接合部の曲げモーメントを直接負担するものではない。
【0007】
本発明は、比較的簡単な構造を採用することによって、小梁の断面を大断面化することなく大梁と小梁の接合部の曲げモーメントに対抗することができる小梁端部の接合構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、大梁のウエブの両側にそれぞれ前記小梁端部をガセットプレートにて接合し、延期両側の小梁の下フランジに対してスプライスプレートを高力ボルトで接合し、さらに前記両側の小梁の上フランジには複数のシアコネクタを立設して前記大梁を跨いで床スラブを向けるとともに、前記小梁端部に立設されたシアコネクタには補強手段を接触して設け、前記床スラブに生じる引っ張り力を前記シアコネクタを介して前記小梁に伝達して曲げモーメントを負担させるという小梁端部の接合構造とした。大梁に対して小梁の下フランジにスプライスプレートを高力ボルトによって接合しているため、小梁端部を溶け込み溶接する剛接合よりも加工を簡素とすることができる。また、床スラブに埋め込まれることになる補強手段がシアコネクタを介して小梁の上フランジに直接応力を伝達することになるため、床スラブに生じる引っ張り力は小梁が負担することになるため、小梁断面を小さくすることができる。
【0009】
ここで、補強手段のより具体的な構成としては、U字筋を採用し、その配筋については2本を一対とし、それぞれの曲線部分が外側に位置するように重ね合わせるという手段、または2本を一対とし、それぞれのU字筋の曲線部分が向かい合うように配筋するという手段を用いた。U字筋をシアコネクタに結束などの手段によって接触させることによって、床スラブに生じる引っ張り力はU字筋からシアコネクタを介して床スラブに伝達されることになるが、U字筋のコンクリートに対する付着力によって床スラブの引っ張り力は効率よく小梁に伝達される。
【0010】
また、補強手段はU字筋に代えて孔空きプレートを採用するという手段も用いた。ここで孔空きプレートは2枚を一対として重ね合わせるという手段、または2枚を一対として小梁の延長方向に向き合って配置するという手段を選択的に用いた。孔空きプレートは床スラブの引っ張り力をシアコネクタを介して小梁に伝達するという作用を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明の小梁端部の接合構造によれば、床スラブに生じる引っ張り力を補強手段からシアコネクタを介して小梁に伝達して曲げモーメントを負担するので応力とたわみを低減させることができ、小梁の断面を小さくすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】1aは本発明の小梁端部の接合構造の一実施形態を示す側面図、1bは同平面図
【
図2】
図1の構造のモーメント分布とたわみ分布を示すグラフ
【
図3】3aは
図1の変形例を示す側面図、3bは同平面図
【
図4】4aは
図1の第3変形例を示す側面図、4bは同平面図
【
図5】5aは
図1の第4変形例を示す側面図、5bは同平面図
【
図7】
図6の構造のモーメント分布とたわみ分布を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に従って説明する。
図1は本発明の一実施形態の小梁端部の接合構造を示したもので、
図1aは側面図、
図1bは平面図である。図中、1は大梁、2・2は大梁1のウエブの両側面から突き合わされた小梁である。小梁2・2の大梁1に対する接合は、ガセットプレート3・3を高力ボルト4によってピン接合されている。また、小梁2・2の下フランジ5・5はスプライスプレート6にピン接合されている。7は小梁2・2の上フランジ8・8に設けられた床スラブであって、シアコネクタ9…9によって接合されている。10はシアコネクタ9に接触するように設けられた補強手段として機能するU字筋であって、本実施形態ではU字筋10の曲線部分が外側になるように両側から重ね合わせるように配筋している。ここで重要なことは、U字筋10はシアコネクタ9に必ず接触するように配筋することである。接触を確実にするためには、U字筋10をシアコネクタ9に結束して確実に位置を決めてコンクリートを打設することが好ましい。そして、U字筋10を接触させるシアコネクタ9は、小梁端部に立設されたものを利用することによって、床スラブ7に生じる引っ張り力がU字筋10からシアコネクタ9を経由して直接小梁2に伝達される。したがって、シアコネクタ9の立設位置が設計上で小梁端部に位置することが好ましいが、他のシアコネクタ9との間隔による制約からシアコネクタが小梁端部の好ましい位置に立設しない場合には、U字筋10を接触させるためのシアコネクタ9を独自に設けることがある。
図1bにおける鉄筋11…11は床スラブ7のひび割れ防止筋である。なお、U字筋10は引っ張り力に対して抵抗力を付与するために異形鉄筋が好ましい。
【0014】
図2は
図1に示した構造によるモーメント分布図、およびたわみ分布図であるが、
図6に示した従来の構造によるモーメント分布、および
図7のたわみ分布と比較しても、応力のみならずたわみも減少するため、同等の応力を確保するのであれば、従来の構造よりも小梁断面を小さくすることができる。
【0015】
図3は本実施形態の変形例を示したもので、
図3aは側面図、
図3bは平面図である。図中において
図1と同じ番号を付した部分は
図1と同様の構造を示している。
図1の構造と異なる構造は、U字筋10の配筋構造である。すなわち、
図3の変形例では一対のU字筋10の曲線部分が向かい合うように配筋している。この場合であってもU字筋10は小梁端部側のシアコネクタ9に接触するように配筋する。したがって、全体としての機能については
図1の構造と基本的に変わるところはない。
【0016】
図4は第3変形例を示すもので、U字筋に代えて補強手段として機能する孔空きプレート12を2枚重ねにしたものを2組に配設している。孔空きプレート12の素材は鋼板やステンレス鋼板など特に限定しないが、応力を効率よく伝達することができる強度が求められる。なお、孔の間隔についても特に限定しないが、例えば
図4に明らかなように、2枚を重ねて配設することによって、2枚の孔空きプレート12・12間にずれが生じた場合でも確実にシアコネクタ9を捕捉することになるので、応力伝達を確実にすることができる。孔空きプレート12にはシアコネクタ9を確保するための孔だけでなく、複数の孔が設けられることによって、床スラブ7のコンクリートとの付着力を高めることができ、より引っ張り力に抗することができる。
【0017】
図5は第4変形例を示すものであって、第3変形例にて用いた孔空きプレート12を重ねて設置するのではなく、小梁方向に2枚を独立して設置する。当該変形例ではこの態様を2組並列に設けている。この実施形態では図のように2組並列に設けているが、十分に応力に抵抗することができるのであれば、小梁の上フランジの中央部に1組のみ設置することもある。
【0018】
上記各実施形態に示したように、本発明の小梁端部の接合構造では、当該接合部が曲げモーメントを負担し、応力とたわみを低減しているため、従来のピン接合よりも小梁断面を小さくすることができる。また、接合は高力ボルトのみで構成しているため、小梁端部を完全溶け込み溶接とする一般的な剛接合よりも加工が簡素であり、品質管理も容易となる。さらに、従来のピン接合と比較すると、下フランジの高力ボルト接合としているため、床スラブにU字筋を配筋したり、孔空きプレートを配設するだけであり、現場における施工性も良好になる。
【符号の説明】
【0019】
1 大梁
2 小梁
3 ガセットプレート
4 高力ボルト
5 小梁の下フランジ
6 スプライスプレート
7 床スラブ
8 小梁の上フランジ
9 シアコネクタ
10 U字筋
11 ひび割れ防止筋
12 孔空きプレート