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特許7470680ポリマーコーティングされた紙または板紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ポリマーコーティングされた紙または板紙
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20240411BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240411BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20240411BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/36
B65D65/42 C
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021518590
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 IB2019058325
(87)【国際公開番号】W WO2020070632
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】1851198-0
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リブ、ビレ
(72)【発明者】
【氏名】ネヴァライネン、キンモ
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-318606(JP,A)
【文献】特開2006-111001(JP,A)
【文献】特開2012-066506(JP,A)
【文献】米国特許第05294483(US,A)
【文献】特開平02-274536(JP,A)
【文献】特開2013-095058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00、
B65D65/00-65/46、
C08J5/00-5/02、5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された少なくとも1つのコーティング層を含む紙または板紙であって、この少なくとも1つのコーティング層が前記の紙または板紙の表面上に直接適用されており、
このPET樹脂がPETコポリマーを少なくとも50重量%含み、ここで、前記PETコポリマーが、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPETコポリマーであり、前記PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比が99:1~50:50の範囲であり、前記PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比が99:1~50:50の範囲であり、前記PETコポリマーが0.57dl/g~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有し、
前記PET樹脂の残りが、0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETを含んでなることを特徴とする、紙または板紙。
【請求項2】
前記PET樹脂が、少なくとも70重量%の前記PETコポリマーを含む、請求項1に記載の紙または板紙。
【請求項3】
前記PET樹脂が、50g/m未満の坪量で基材に適用される、請求項1または2に記載の紙または板紙。
【請求項4】
前記PET樹脂が、PET以外のポリマー、顔料、染料、および充填剤からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の紙または板紙。
【請求項5】
前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも1つの追加のポリマーコーティング層をさらに含み、
この追加のポリマーコーティング層が前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の紙または板紙。
【請求項6】
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ乳酸(PLA)を含む、請求項5に記載の紙または板紙。
【請求項7】
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、押出コーティングまたは押出フィルムラミネートによって形成される、請求項5または6に記載の紙または板紙。
【請求項8】
前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも2つの追加のポリマーコーティング層を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の紙または板紙であって、
前記の追加のポリマーコーティング層の少なくとも1つは、前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有し、
前記の追加のポリマーコーティング層のうちの最外層は、0.7dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む、紙または板紙。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の紙または板紙を含む、オーブン加熱が可能なトレイ。
【請求項10】
PETコポリマーを少なくとも50重量%含むPET樹脂の、紙または板紙基材を直接コーティングするための使用であって、
ここで、前記PETコポリマーが、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPETコポリマーであり、前記PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比が99:1~50:50の範囲であり、前記PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比が99:1~50:50の範囲であり、前記PETコポリマーが0.57dl/g~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有し、
前記PET樹脂の残りが、0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETを含んでなる使用。
【請求項11】
前記PET樹脂が、少なくとも70重量%の前記PETコポリマーを含む請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記PET樹脂が、50g/m 未満の坪量で基材に適用される、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
前記PET樹脂が、PET以外のポリマー、顔料、染料、および充填剤からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
PET樹脂でコーティングされた紙または板紙基材を製造するための方法であって、
a)紙または板紙基材を提供すること、
b)押出コーティングにより、前記基材の表面に溶融PET樹脂の少なくとも1つの層を直接適用すること、
c)前記PET樹脂を冷却し、固化させること、および
d)前記PET樹脂で直接コーティングされた基材を回収することを含み、
前記PET樹脂がPETコポリマーを少なくとも50重量%含み、ここで、前記PETコポリマーが、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPETコポリマーであり、前記PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比が99:1~50:50の範囲であり、前記PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比が99:1~50:50の範囲であり、前記PETコポリマーが0.57dl/g~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有し、
前記PET樹脂の残りが、0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETを含んでなることを特徴とする、製造方法。
【請求項15】
前記PET樹脂が、少なくとも70重量%の前記PETコポリマーを含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記PET樹脂が、50g/m 未満の坪量で基材に適用される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記PET樹脂が、PET以外のポリマー、顔料、染料、および充填剤からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分を含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
更に、前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも1つの追加のポリマーコーティング層を適用することを含み、
この追加のポリマーコーティング層が前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有する、請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ乳酸(PLA)を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、押出コーティングまたは押出フィルムラミネートによって形成される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
請求項18~20のいずれか1項に記載の方法であって、
少なくとも2つの追加のポリマーコーティング層が、前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置され、
前記の追加のポリマーコーティング層の少なくとも1つは、前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有し、そして、
前記の追加のポリマーコーティング層のうちの最外層は、0.7dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマーコーティングされた紙および板紙に関する。より具体的には、本開示は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された少なくとも1つのコーティング層を含む紙または板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙および板紙をプラスチックでコーティングすることは、板紙の機械的特性をプラスチクフィルムのバリアおよびシーリング特性と組み合わせるためによく使用される。比較的少量の適切なプラスチック材料を備えた板紙であっても、多くの要求の厳しい用途に好適な板紙を作るために必要とされる特性を与え得る。
【0003】
押出コーティングは、溶融プラスチック材料を紙や板紙などの基材に適用して、非常に薄く、平滑で均一な層を形成するプロセスである。このコーティングは、押し出されたプラスチック自体によって形成することができ、または溶融プラスチックを接着剤として使用して、固形プラスチックフィルムを基材上にラミネートすることができる。押出コーティングに使用される一般的なプラスチック樹脂には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)が含まれる。
【0004】
押出コーティングおよびラミネートを使用して、例えば、防湿性、水蒸気、酸素、芳香などに対するバリア特性、汚れ耐性もしくはグリース耐性、ヒートシール性を達成し、および/または、基材表面に所望の仕上げもしくはテクスチャを与えることができる。
【0005】
紙または板紙そのものは、一般に乾燥製品の包装に適している。しかし、未処理の板紙は、湿気がパッケージの機械的特性に影響を与え、吸収されたグリースが紙の汚れを引き起こすため、湿分が多い製品やグリース分が多い製品と直接接触する場合の使用は制限される。これらの効果により、保護機能とパッケージの外観とが損なわれる。
【0006】
押出コーティングまたはラミネートは、紙および板紙の用途の範囲を大幅に拡大する。薄いプラスチック層は、グリースや湿気に対する耐性を与え、場合によっては耐熱性も与える。プラスチックコーティングは、ヒートシールにも使用されうる。用途に応じて、紙または板紙は、片面または両面上に押出コーティングを受けることができる。
【0007】
押出コーティングまたはラミネート加工された板紙の特性が特に有用である1つの用途は、オーブン加熱(オーブン調理)が可能なパック用、つまり包装された食品製品をオーブン中で調理または加熱するために使用されうる包装(パッケージ)の用途である。オーブン加熱が可能なパックでは、包装材料は、板紙中に吸収されることなく、高められた温度での湿分やグリースに耐えることができる必要がある。
【0008】
PETは、高められた温度での高い耐グリース性、ヒートシール性、耐熱性など、オーブン加熱が可能なパックで使用するための優れた特性を備えていることが分かっている。PETは、コーティングされた板紙の剛性および引裂強度も向上させる。
【0009】
環境的および経済的理由のため、バリア特性および保護特性が許容可能なレベルに維持されている限り、プラスチックコーティングを可能な限り薄く保つことが一般的に望ましい。一般に、コーティングが均一で欠陥がない限り、十分なバリアおよび保護特性を提供するために求められるのは非常に薄い層だけである。しかしながら、多くの場合、プラスチックコーティングの厚み(または坪量)のさらなる減少は、押出プロセスにおける接着性およびフィルム形成の安定性の損失、ならびにピンホールの形成によって制限される。例えば、従来のPET樹脂は、コーティングされた製品の不完全性につながる接着性およびフィルム形成の安定性の損失を生じることなく、40g/m未満まで減少させた坪量で紙または板紙上に押出コーティングすることができない。
【0010】
プラスチックを使用した紙および板紙の押出コーティングおよびラミネート加工では、基材へのプラスチックの十分な接着性が得られることが非常に重要である。プラスチックの接着性は、主に基材の表面特性および板紙に適用したときのプラスチック溶融物の熱含有量に依存する。プラスチックコーティングと紙または板紙との間の不十分な接着性は、常に一般的な問題である。
【0011】
ピンホールは、コーティングのプロセス中にプラスチックフィルムに形成される可能性のある微細な穴である。ピンホールが発生する主な理由には、基材表面の不規則性(例えば、表面粗さが大きいことや、繊維が緩いこと)、コーティングの分布が不均一であること、コーティングの坪量が低すぎることなどが挙げられる。
【0012】
接着性は、例えば、コロナ放電やオゾンで基材を表面処理することによって改善され得る。しかし、押出プロセスにおける良好な接着性およびフィルム形成の安定性を維持しつつ、特にPETの押出コーティングにおいて、プラスチックコーティングの坪量を減少させるための改善された解決策の必要性がなお存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
押出コーティングにおける十分な接着性およびフィルム形成の安定性を達成するために必要とされるPET樹脂の最小の坪量を低減することが、本開示の1つの目的である。
【0014】
紙または板紙に対するPET樹脂の良好な接着性を維持しながら、PET樹脂の低減された坪量、例えば40g/m未満の坪量を可能にする、PET樹脂がコーティングされた紙または板紙を提供することが、本開示の更なる目的である。
【0015】
PET樹脂が低い坪量を有するときの紙へのPET樹脂の接着性が改善された、PET樹脂がコーティングされた紙または板紙を提供することが、本開示の更なる目的である。
【0016】
押出プロセスにおけるフィルム形成の良好な安定性を維持しつつ、PET樹脂の低減された坪量、例えば40g/m未満の坪量を可能にする、PET樹脂がコーティングされた紙または板紙を製造するための方法を提供することが、本開示の更なる目的である。
【0017】
PET樹脂が低い坪量を有するときに押出プロセスにおけるフィルム形成の改善された安定性を可能にする、PET樹脂がコーティングされた紙または板紙を製造するための方法を提供することが、本開示の更なる目的である。
【0018】
上述の諸目的は、本開示を参照して当業者によって認識される他の諸目的と共に、本開示の様々な実施態様によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本明細書にて例示される第1の態様によれば、以下が提供される。
PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された少なくとも1つのコーティング層を含む紙または板紙であって、
このPET樹脂が、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むことを特徴とする、紙または板紙。
【0020】
紙は、一般に、木材のパルプまたはセルロース繊維を含む他の繊維状物質から薄いシートとして製造される材料であって、包装材料として、または、書き込み、描画、もしくは印刷に使用される材料を指す。
【0021】
板紙(paperboard)とは、一般に、箱やその他の種類の包装に使用されるセルロース繊維を含む、丈夫で厚い紙または厚紙(cardboard:段ボール)を指す。板紙は、最終用途の要件に応じて、漂白または無漂白、コーティングまたは非コーティングのいずれかであってよく、さまざまな厚みで製造され得る。
【0022】
本明細書で使用されるコーティングという用語は、基材の表面が組成物で覆われて、基材に所望の特性、仕上げまたはテクスチャー(texture:手触り)を付与する操作を指す。コーティングは、単層または多層コーティングであり得、ここでPETコーティング樹脂は、1つまたは複数の層で使用され得る。コーティングは、紙または板紙の片面または両面に適用され得る。
【0023】
今日のオーブン加熱可能なパック用のPET押出コーティングは、PETボトルの製造に使用されているものと同様のPETグレードを使用して製造される。使用される典型的なPETグレードは、約0.8~0.9dl/gのISO 1628に従って測定された固有粘度を有する。これらの従来のPET樹脂は、コーティングされた製品の欠陥につながる接着性およびフィルム形成の安定性を損なうことなく、コーティング坪量を40g/m未満まで減少させて紙または板紙上に押出コーティングすることができない。
【0024】
本発明者らは、固有粘度の低い特定タイプのPET樹脂を使用することにより、紙および板紙の押出コーティングにおける十分な接着性およびフィルム形成の安定性を達成するために必要なPET樹脂の最小の坪量を減少させることができることを今や見出した。印刷やヒートシール(熱封止)などの多くの転化操作では、適切な接着性が重要である。
【0025】
加えて、本発明で使用される特定タイプのPET樹脂は、標準の押出コーティンググレードのPETと比較して、押出コーティングプロセスでより高いライン速度を可能にするより良好な走行性(runnability)および酸素透過性の低下を含めて、さらなる利点を与えることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明によるPET樹脂のコーティング坪量の関数としての板紙基材への接着性を例証するグラフである。
図2図2は、本発明によるPET樹脂のコーティングの走行性を例証する2つのグラフを含む。
図3図3は、様々なPETグレードの押出コーティング(単層)の坪量の関数としての接着性を例証するグラフである。
図4図4は、様々なPETグレードの押出コーティング(単層)のライン速度の関数としての坪量を例証するグラフである。
図5図5は、様々なPETグレードの押出コーティング(単層)のライン速度の関数としての走行性(坪量の標準偏差)を例証するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明で使用されるPET樹脂は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む。いくつかの実施形態では、PETコポリマーは、0.55~0.63dl/gの範囲、好ましくは0.57~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する。一つの好ましい実施形態では、PETコポリマーは0.59dl/gの固有粘度を有する。
【0028】
いくつかの実施形態では、PETコポリマーは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPETコポリマーである。低い固有粘度と、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPET構造との組み合わせによって、接着性および走行性がさらに向上することが分かった。これにより、押出コーティングに必要なPET樹脂の坪量をさらに減少させることが可能になる。驚くべきことに、コポリマー組成物は、従来の高固有粘度のPETポリマーと比較して、コーティングの耐熱性を制限しない。
【0029】
いくつかの実施形態において、PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比は、99:1~50:50の範囲である。
【0030】
いくつかの実施形態において、PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比は、99:1~50:50の範囲である。
【0031】
いくつかの実施形態では、PETコポリマーは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位からなる。
【0032】
好ましい実施形態では、PET樹脂は、少なくとも50重量%のPETコポリマーを含み、ここで、このPETコポリマーは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含み、PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比は99:1~50:50の範囲であり、PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比は99:1~50:50の範囲であり、ここでPETコポリマーは、0.57~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する。
【0033】
本発明のPET樹脂は、0.7dl/g未満の固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む。いくつかの実施形態では、PET樹脂は、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%のPETコポリマーを含む。本発明のPET樹脂はまた、PETコポリマーからなるか、あるいは実質的にPETコポリマーからなる。PET樹脂がPETコポリマーからなるか、あるいは実質的にPETコポリマーからなる実施形態は、そのような単一材料コーティングが明らかなリサイクルの利点を与えるので、特に興味深い。
【0034】
PET樹脂の残りは、他のポリマーまたは非ポリマーコーティング成分で構成することができる。言い換えれば、PET樹脂は、上記PETコポリマーと別のポリマーとのブレンドであってよい。いくつかの実施形態では、PET樹脂の残りは、0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETを含んでなる。いくつかの実施形態では、PET樹脂の残りは、0.7~0.9dl/gのISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETを含んでなる。
【0035】
コーティング樹脂の配合は、コーティングおよびコーティングされた紙または板紙の使用目的によって大きく異なり得る。コーティング組成物は、製品の最終性能またはコーティングの処理を改善するために、様々な量の広範囲の成分を含み得る。いくつかの実施形態では、PET樹脂は、PET以外のポリマー、顔料(例えば、T1Oまたはカーボンブラック)、染料、およびフィラー(例えば、CaCO、タルク)からなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分を含む。
【0036】
本発明で使用されるPET樹脂は、例えば50g/m未満の坪量などのPET樹脂の低坪量で、フィルム形成の安定性および紙へのPET樹脂の接着性が改善されたコーティング紙または板紙の製造を可能にする。したがって、いくつかの実施形態では、PET樹脂は、50g/m未満の坪量で基板に適用される。
【0037】
本発明で使用されるPET樹脂は、例えば40g/m未満の坪量などのPET樹脂の低坪量で、押出コーティングされた紙または板紙の製造を可能にすると同時に、フィルム形成の良好な安定性および紙または板紙へのPET樹脂の良好な接着性を維持することを可能にする。したがって、いくつかの実施形態では、PET樹脂は、40g/m未満、より好ましくは35g/m未満の坪量で基材に適用される。
【0038】
本発明の紙または板紙は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むPET樹脂のみを用いてコーティングされてよい。代替的に、本発明の紙または板紙は、2つ以上のポリマーコーティング層のうちの1つとして、PET樹脂コーティング層を含み得る。本発明のPET樹脂コーティング層は、フィルム形成の良好な安定性および紙または板紙へのPET樹脂の良好な接着性を与えるので、それは、好ましくは、紙または板紙の表面上に直接適用される第1の(または最も内側の)コーティング層として使用され得る。押出コーティングされたPET樹脂コーティング層は、その後に適用または共押出されたポリマーコーティング層の接着性を高めるように機能し得る。押出コーティングされたPET樹脂コーティング層は、押出フィルムのラミネート(積層)プロセスにおいてポリマーフィルムのための接着剤として機能し得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、PET樹脂で押出コーティングされた紙または板紙は、押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも1つの追加のポリマーコーティング層をさらに含み、この追加のポリマーコーティング層は、押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有する。
【0040】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、押出コーティングまたは押出フィルムラミネートによって形成される。
【0041】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ乳酸(PLA)を含む。好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。
【0042】
0.7dl/g未満の固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むPET樹脂は、良好なヒートシール特性を有し、中間ポリマーコーティング層の上に適用される最も外側のコーティング層(または最上層)としても有用である可能性がある。
【0043】
いくつかの実施形態では、PET樹脂で押出コーティングされた紙または板紙は、押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも2つの追加のポリマーコーティング層をさらに含み、ここで、これらの追加のポリマーコーティング層の少なくとも1つは、押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有し、そして、最も外側の追加のポリマーコーティング層は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、紙または板紙上のPET樹脂層および追加のPETコーティング層は、50g/m未満、好ましくは40g/m未満、より好ましくは35g/m未満の総計坪量を有する。
【0045】
本発明の紙または板紙は、オーブン加熱可能なトレイの製造において特に有用である。本明細書に例示される第2の態様によれば、本明細書に記載された第1の態様による紙または板紙を含むオーブン加熱可能なトレイが提供される。
【0046】
本明細書に例示される第3の態様によれば、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度(IV)を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むPET樹脂の、紙または板紙基材のコーティングのための使用が提供される。
【0047】
本発明者らは、固有粘度の低い特定タイプのPET樹脂を使用することにより、紙および板紙の押出コーティングにおける十分な接着性およびフィルム形成の安定性を達成するために必要なPET樹脂の最小坪量を減少させることができることを見出した。
【0048】
第3の態様のPET樹脂は、第1の態様を参照して上述のようにさらに定義することができる。
【0049】
好ましい実施形態では、PET樹脂は、少なくとも50重量%のPETコポリマーを含み、ここで、このPETコポリマーは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含み、PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比は99:1~50:50の範囲であり、PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比は99:1~50:50の範囲であり、そしてPETコポリマーは、0.57~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する。
【0050】
本明細書に例示される第4の態様によれば、以下が提供される。
PET樹脂がコーティングされた紙または板紙基材を製造するための方法であって、
a)紙または板紙基材を提供すること、
b)押出コーティングによって、この基材の表面に溶融PET樹脂の少なくとも1つの層を適用すること、
c)PET樹脂を冷却して固化させること、および
d)PET樹脂がコーティングされた基材を回収することを含み、
このPET樹脂が、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度(IV)を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むことを特徴とする方法。
【0051】
第4の態様のPET樹脂は、第1の態様を参照して上述のようにさらに定義することができる。
【0052】
好ましい実施形態では、PET樹脂は、少なくとも50重量%のPETコポリマーを含み、ここで、このPETコポリマーは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含み、PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比は99:1~50:50の範囲であり、PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比は99:1~50:50の範囲であり、そしてPETコポリマーは、0.57~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する。
【0053】
本発明の紙または板紙は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むPET樹脂のみを用いてコーティングされていてよい。代替的に、本発明の紙または板紙は、2つ以上のポリマーコーティング層のうちの1つとして、PET樹脂コーティング層を含み得る。本発明のPET樹脂コーティング層は、フィルム形成の良好な安定性および紙または板紙へのPET樹脂の良好な接着性を与えるので、それは、好ましくは、紙または板紙の表面上に直接適用される第1の(または最も内側の)コーティング層として使用され得る。押出コーティングされたPET樹脂コーティング層は、その後に適用または共押出されたポリマーコーティング層の接着性を高めるように機能し得る。押出コーティングされたPET樹脂コーティング層は、押出フィルムラミネートプロセスにおけるポリマーフィルムのための接着剤として機能し得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、本方法は、押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも1つの追加のポリマーコーティング層を適用することをさらに含み、この追加のポリマーコーティング層は、第1の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有する。
【0055】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ乳酸(PLA)を含む。好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、第1の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有するポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、押出コーティングまたは押出フィルムラミネートによって形成される。好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のコーティング層は、第1のPET樹脂と一緒に共押出コーティングすることによって形成される。
【0057】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの追加のポリマーコーティング層は、押出コーティングされたPET樹脂の上に適用され、ここで、これらの追加のポリマーコーティング層の少なくとも1つは、押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有し、そして最も外側の追加のポリマーコーティング層は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む。
【0058】
一つの好ましい実施形態では、紙または板紙は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された少なくとも1つのコーティング層を含み、ここで、PET樹脂は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する少なくとも50重量%のPETコポリマー、および0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETからなる。
【0059】
一つの好ましい実施形態では、紙または板紙は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された第1のコーティング層であって、このPET樹脂は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する少なくとも50重量%のPETコポリマー、および0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETからなる第1のコーティング層、ならびに、0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETからなる第2のコーティング層を含む。
【0060】
一つの好ましい実施形態では、紙または板紙は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された第1のコーティング層であって、このPET樹脂は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する少なくとも50重量%のPETコポリマー、および0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETからなる第1のコーティング層;0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETからなる第2のコーティング層;ならびに、PET樹脂の押出コーティングによって形成された第3のコーティング層であって、このPET樹脂は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する少なくとも50重量%のPETコポリマー、および0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETからなる第3のコーティング層を含む。
【0061】
好ましい実施形態では、PETコポリマーは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含み、このPETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比は99:1~50:50の範囲であり、PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比は99:1~50:50の範囲であり、そしてPETコポリマーは、0.57~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する。
【0062】
いくつかの実施形態では、PET樹脂層および追加のPETコーティング層は、50g/m未満、好ましくは40g/m未満、より好ましくは35g/m未満の総計坪量を有するように基材へ適用される。
【0063】
本発明者らは、わずかに薄いコーティング(40g/mと比較して30g/m)を用いても、本発明のPETコポリマーおよび標準のPETグレードで共押出コーティングされた基材のMAP気密性(MAP tightness:MAPタイトネス)は、標準のPETグレードのみで押出コーティングされた基材についてのそれよりも著しく高いことを示した。
【0064】
本発明は様々な例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を加え、その要素を同等物に置き換えることができることは、当業者によって理解されるであろう。さらに、その本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正がなされてよい。それ故、本発明は、本発明を実施するために企図されるベストモードとして開示される特定の実施形態に限定されないが、本発明は、添付の特許請求の範囲内の全ての実施形態を包含することが意図される。
【実施例
【0065】
例1-板紙とPETコポリマーおよび標準的なPET樹脂との共押出コーティング
約350g/mの坪量を有する厚紙基材(Trayforma 350 Natura、Stora Enso Oy)に、標準的なPETグレードAおよびPETコポリマー樹脂Bを使用して押出コーティングパイロットラインで共押出コーティングした。PETコポリマー樹脂Bを押出機Bから厚紙基材に対して押出し、プラグはBBAAA-DDであった。共押出を、押出機Aおよび押出機Bにおいて、それぞれ140rpmおよび100rpmのスクリュー速度で行った。
【0066】
PETコポリマーBは、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPETコポリマーであり、ISO 1628に従って測定された0.59dl/gの固有粘度(IV)を有していた。標準的なPETグレードAは、0.82~0.85dl/gのISO 1628に従って測定された固有粘度(IV)、75~80℃のガラス転移温度(Tg)、245~250℃の溶融温度(Tm)を有していた。
【0067】
共押出された基材(A+B)を、接着性、走行性、およびMAP気密性(タイトネス)について分析し、標準的なPETグレード(A)のみを用いて調製された対応する基材と比較した。コーティングを繊維基材から手動で剥離させた。
【0068】
接着性
接着性試験を、X-figure切断法および表1の評価基準に基づく目視評価によって行った。
【0069】
【表1】
【0070】
接着性試験では、共押出された基材が20g/mのコーティング坪量に低減されるまで5の接着性評価を維持したことが示された(図1を参照)。標準のPETグレードAのみで作成された対応する基材は、30g/mのコーティング坪量に低減されるまで5の接着性評価を維持したことが示された(図1を参照)。
【0071】
走行性
横方向(クロス方向)および縦方向(機械方向)のコーティング坪量の標準偏差に基づいて、走行性を評価した。3未満の標準偏差レベルが許容され得る。
【0072】
走行性試験では、共押出された基材が15g/mの坪量に低減されるまで走行性を維持したことが示された(図2を参照)。標準PETグレードAのみで作成された対応する基材は、20g/mのコーティング坪量に低減されるまで走行性を維持した。
【0073】
MAP試験
PETコーティングされた基材の酸素透過性は、いわゆるガス置換包装(modified atmosphere packaging:MAP)を使用して評価された。コーティングされた基材はトレイの包装に使用され、蓋で密閉された。MAP気密性は、7日後、14日後、および28日後の包装内の酸素濃度に基づいて評価された。14日後の酸素濃度が1%未満であれば、許容され得ると看做される。これらの結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果は、コーティングがわずかに薄い場合でも(40g/mと比較して30g/m)、共押出された基材のMAP気密性が、標準PETグレードAのみで作成された基材よりも大幅に高いことを示している。標準PETグレードは、14日後に0.93%の酸素量の値を有する。この値は、1%未満ではあるけれども、測定の不確かさのため、許容され得るとは考えられないであろう。共押出された基材の0.37%の値は、コーティングが薄くても、明らかに許容範囲内にある。
【0076】
例2-異なるPETコポリマーの比較
5つの異なるポリ(エチレンテレフタレート)を、タンペレ工科大学(TUT)にある押出コーティングパイロットライン上の単一押出コーティングで試験に供した。試験を行ったPETグレードを表3に示す。
【0077】
これらのPETグレードは、化学構造および固有粘度が異なる。使用されたウェブ材料は、Stora Enso Trayforma 190であった。
【0078】
5つのPETグレードについて、押出コーティング(単層、押出機A、プラグAAAAA-DD、エアギャップ130mm、コロナ処理3.4kW)における坪量の関数としての接着性(接着力)を図3に示す。5つのPETグレードについて、押出コーティング(単層)におけるライン速度の関数としての坪量を図4に示す。5つのPETグレードについて、押出コーティング(単層)におけるライン速度の関数としての走行性(坪量の標準偏差)を図5に示す。
【0079】
試験に供した5つのPETグレードの場合で、押出コーティングのパラメーターは類似していた(図3を参照)。押出機Aのスクリュー速度は140rpmであり、PETグレードに依存するスループットは103~115kg/時となった。目標の溶融温度は、約300~310℃(比較例1、比較例2および比較例4)または280℃(発明例および比較例3)であった。
【0080】
明らかに、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールから形成された低粘度コポリマーを用いることによって、全体として最良の特性が達成された(本発明例)。
【0081】
【表3】

なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の押出コーティングによって形成された少なくとも1つのコーティング層を含む紙または板紙であって、
このPET樹脂が、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むことを特徴とする、紙または板紙。
[2].
前記PETコポリマーが、0.55dl/g~0.63dl/gの範囲、好ましくは0.57dl/g~0.61dl/gの範囲のISO 1628に従って測定された固有粘度を有する、上記項目1に記載の紙または板紙。
[3].
前記PETコポリマーが、テレフタル酸、イソフタル酸、モノエチレングリコール、およびジエチレングリコールからの繰り返し単位を含むPETコポリマーである、上記項目1または2に記載の紙または板紙。
[4].
前記PETコポリマー中のテレフタル酸:イソフタル酸のモル比が99:1~50:50の範囲である、上記項目3に記載の紙または板紙。
[5].
前記PETコポリマー中のモノエチレングリコール:ジエチレングリコールのモル比が99:1~50:50の範囲である、上記項目3に記載の紙または板紙。
[6].
前記PET樹脂が、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも90重量%の前記PETコポリマーを含む、上記項目1~5のいずれか1項に記載の紙または板紙。
[7].
前記PET樹脂の残りが、0.7dl/g以上のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETを含んでなる、上記項目1~6のいずれか1項に記載の紙または板紙。
[8].
前記PET樹脂が、50g/m 未満、好ましくは40g/m 未満、より好ましくは35g/m 未満の坪量で基材に適用される、上記項目1~7のいずれか1項に記載の紙または板紙。
[9].
前記PET樹脂が、PET以外のポリマー、顔料、染料、および充填剤からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分を含む、上記項目1~8のいずれか1項に記載の紙または板紙。
[10].
前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも1つの追加のポリマーコーティング層をさらに含み、
この追加のポリマーコーティング層が前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有する、上記項目1~9のいずれか1項に記載の紙または板紙。
[11].
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ乳酸(PLA)を含む、上記項目10に記載の紙または板紙。
[12].
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、押出コーティングまたは押出フィルムラミネートによって形成される、上記項目10または11に記載の紙または板紙。
[13].
前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも2つの追加のポリマーコーティング層を含む、上記項目10~12のいずれか1項に記載の紙または板紙であって、
前記の追加のポリマーコーティング層の少なくとも1つは、前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有し、
前記の追加のポリマーコーティング層のうちの最外層は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む、紙または板紙。
[14].
上記項目1~13のいずれか1項に記載の紙または板紙を含む、オーブン加熱が可能なトレイ。
[15].
0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度(IV)を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むPET樹脂の、紙または板紙基材をコーティングするための使用。
[16].
前記PET樹脂が、更に、上記項目2~9のいずれか1項に記載されているように定義される、上記項目11に記載の使用。
[17].
PET樹脂でコーティングされた紙または板紙基材を製造するための方法であって、
a)紙または板紙基材を提供すること、
b)押出コーティングにより、前記基材の表面に溶融PET樹脂の少なくとも1つの層を適用すること、
c)前記PET樹脂を冷却し、固化させること、および
d)前記PET樹脂でコーティングされた基材を回収することを含み、
前記PET樹脂が、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度(IV)を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含むことを特徴とする、製造方法。
[18].
前記PET樹脂が、更に、上記項目2~9のいずれか1項に記載されているように定義される、上記項目17に記載の方法。
[19].
更に、前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置された少なくとも1つの追加のポリマーコーティング層を適用することを含み、
この追加のポリマーコーティング層が前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有する、上記項目17または18に記載の方法。
[20].
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ乳酸(PLA)を含む、上記項目19に記載の方法。
[21].
前記の少なくとも1つの追加のコーティング層が、押出コーティングまたは押出フィルムラミネートによって形成される、上記項目19または20に記載の方法。
[22].
上記項目19~21のいずれか1項に記載の方法であって、
少なくとも2つの追加のポリマーコーティング層が、前記の押出コーティングされたPET樹脂の上に配置され、
前記の追加のポリマーコーティング層の少なくとも1つは、前記の押出コーティングされたPET樹脂とは異なる組成を有し、そして、
前記の追加のポリマーコーティング層のうちの最外層は、0.7dl/g未満、好ましくは0.65dl/g未満のISO 1628に従って測定された固有粘度を有するPETコポリマーを少なくとも50重量%含む、方法。
図1
図2
図3
図4
図5