(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】低いGWPを有するフッ素化化合物を含む伝熱流体を使用する半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240411BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240411BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240411BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20240411BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240411BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/205
H01L21/52 F
C09K5/04 Z
H01L21/66 H
H01L21/02 Z
(21)【出願番号】P 2021535851
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2019086212
(87)【国際公開番号】W WO2020127666
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-17
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アンテヌッチ, エマヌエーラ
(72)【発明者】
【氏名】ブラガンテ, レタンツィオ
(72)【発明者】
【氏名】カペリュシュコ, ヴァレーリー
(72)【発明者】
【氏名】ミッレファンティ, ステファノ
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-529975(JP,A)
【文献】特表2013-523639(JP,A)
【文献】特開2006-160749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0331325(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/52
C09K 5/04
H01L 21/66
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスの製造方法であって、前記方法が、半導体デバイスが伝熱流体と熱交換する工程を含み、前記伝熱流体が、一般式:
Ph(OR
f)
x (I)
(式中、Phは、1つ以上のエーテル基-OR
fと結合した芳香環であり、
ここで、各-R
fは、
- 少なくとも1つのC-F結合
及び少なくとも1つのC-H結合を含む一価のフッ素化アルキル基であり、
- 直鎖状であることができるか又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる、且つ、任意選択的に、O、N若しくはSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含むことができる、炭素
鎖を有し、
並びに、X>1の場合、同じ分子上の-R
f基は、互いに等しいか又は異なることができる)
を有する1つ以上の化合物を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記方法が、エッチャー、アッシャー、ステッパー及びプラズマ強化化学蒸着(PECVD)チャンバーから選択される半導体処理装置の1つ以上を用いることを含み、前記半導体処理装置が、前記半導体デバイスと熱交換する少なくとも1つの温度制御装置(TCU)を含み、ここで、前記TCUが前記伝熱流体を含む方法。
【請求項3】
半導体デバイスの熱衝撃試験方法である請求項1に記載の方法であって、前記方法が、任意の順に:
i.前記伝熱流体でできている第1浴を用いて、前記半導体デバイスを-10℃~-100
℃に含まれる温度に冷却する工程と、
ii.前記伝熱流体でできている第2浴を用いて、前記半導体を60℃~250℃に含まれる温度に加熱する工程と
を含む方法。
【請求項4】
半導体デバイスの気相はんだ付け方法である請求項1に記載の方法であって、前記方法が、
i.はんだ付けペーストを含む半導体デバイスを提供する工程、
ii.前記伝熱流体をその沸点で含む密室を、前記伝熱流体の加熱された蒸気が前記密室内に生成されるように提供する工程、
iii.前記半導体デバイスを、前記伝熱流体の前記蒸気と接触して、前記密室に導入し、それによって前記加熱された蒸気との接触により前記はんだ付けペーストを溶融させる工程
を含む方法。
【請求項5】
一般式(I)を有する前記化合物において、xが1、2、3及び4か
ら選択さ
れる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
一般式(I)を有する前記化合物において、同じ分子上の多数のR
f基が互いに等しい、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
一般式(I)を有する前記化合物において、各R
f基が精密に1つのC-H結合を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一般式(I)を有する前記化合物において、各R
f基が2位の炭素原子上に精密に1つのC-H結合を有する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
一般式(I)の前記1つ以上の化合物が前記伝熱流体の少なくとも5重量
%を構成する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、
1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン
1,4-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,3-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン
1,3-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン
1,2-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,2-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,3-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,4-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
及びそれらの混合物
から選択される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記伝熱流体が30未
満の、Hodnebrog et.al.に、Review of Gephisics,51/2013,p300-378に報告されている方法に従って測定されるGWP100を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月20日出願の欧州特許出願第18214417.0号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全体内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、低いGWPを有する選択されたフッ素化化合物を含む伝熱流体を使用する半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体業界において、温度制御は、製造制御システムの非常に重要な部分である。集積回路などの半導体デバイスの製造は、シリコンウェハーの調製、デバイス(例えば、プロセッサなどの集積回路)の構築及び試験などの、異なる工程を通過し、この試験は、製造プロセスに沿った幾つかのステーションで行われ、所要の試験に合格することができるデバイスのみがそのときその後の使用のために放たれるので、製造の不可欠な部分である。
【0004】
伝熱流体は、半導体デバイスの製造中に定期的に行われる多数のプロセスで除熱する若しくは加熱するために又は一定温度を維持するために使用される。
【0005】
伝熱流体は、熱源の冷却、熱シンクの加熱を達成するために又は熱源によって生成した望ましくない熱を除去するため1つの物体から別の物体へ、典型的には、熱源から熱シンクへ熱を伝えるために一般に使用される。伝熱流体は、熱源と熱シンクとの間に熱経路を提供し;それは、熱流を向上させるためにループシステム若しくは他のフローシステムによって循環させられ得るか、又はそれは、熱源及び熱シンクと直接接触していることができる。より簡単なシステムは、空気の流れを伝熱流体として単に使用し、より複雑なシステムは、システムのある部分において加熱され又は冷却され、次いで配送されて半導体デバイスと熱接触してそれと熱交換する、特別に設計されたガス又は液体を使用する。
【0006】
温度制御装置(TCU)は、全て、半導体デバイスの製作のための生産ラインに沿って用いられ、ウェハーエッチング及び堆積プロセス、イオン注入並びにリソグラフィックプロセスのような工程中に望ましくない熱を除去するために伝熱流体を使用する。伝熱流体は、典型的には、温度制御を必要とするウェハー取付台及び各プロセスツールを通して循環させられ、それ自体の個別のTCUを有する。
【0007】
温度制御に関する限り特に重要ないくつかのツールは、シリコンウェハーエッチャー、ステッパー及びアッシャーである。エッチングは、70℃~150℃の範囲の温度で反応性プラズマを使用して行われ、ウェハーの温度は、プラズマ処理の間中、精密に制御されなければならない。プラズマ処理の後に、エッチされた部品は、エッチされた部分を除去する溶媒中に普通は浸漬される。この第2工程は、それが穏和な又は周囲温度で行われるので普通は温度制御を必要としない。本出願において「エッチャー」に言及する場合、それは、高温でのプラズマ処理が行われる及びそれ故TCUを必要とする装置を意図する。
【0008】
ステッパーは、網線を形成するためのウェハーのリソグラフィーに使用され、それらは、次いで感光性マスクを露光するために使用される。このプロセスは、40℃~80℃の温度で実施されるが、温度制御は、良好な結果を確保するためにプロセスに沿ってウェハーが精密な固定温度(±0.2℃)に維持される必要があるので極めて重要である。
【0009】
アッシングは、感光性マスクがウェハーから除去される、及び40℃~150℃の温度で行われるプロセスである。システムはプラズマを使用し、ここでもまた、温度制御は特に重要である。
【0010】
別の関連プロセスは、酸化ケイ素、炭化ケイ素及び/又は窒化ケイ素の膜がチャンバー内でウェハー上に成長するプラズマ強化化学蒸着(PECVD)である。この場合にもまた、この工程が行われる温度は50℃~150℃の範囲で選択することができるが、蒸着プロセスの間中、ウェハーは、選択された温度で一様に保たれなければならない。
【0011】
半導体デバイス製造施設において、典型的には、各エッチャー、アッシャー、ステッパー及びプラズマ強化化学蒸着(PECVD)チャンバーは、伝熱流体が再循環させられるそれらの独自のTCUを有する。
【0012】
伝熱流体が半導体デバイスの製造に使用される別のプロセス工程は、気相リフロー(VPR)はんだ付けである。これは、表面実装デバイス、マルチチップモジュール及びハイブリッド構成要素を回路基板に結び付けるために用いられる最も一般的な方法である。この方法において、はんだ付け材料はペースト形態で適用され、そのとき半導体デバイス、例えば未完成回路基板は、その気相と平衡にあるその沸点での伝熱流体が入った密室中に置かれる。気相の流体は、熱をはんだ付けペーストに伝え、ペーストはそのとき溶融し、接点を安定させる。この場合に、流体は、回路基板と直接接触するので、流体は、誘電性で且つ非腐食性でなければならない。この適用のために、伝熱流体の沸点は、はんだ付けペーストを溶融させるのに十分であることがまた重要である。
【0013】
多くの半導体デバイスの製造プロセスの重要な部分である別のシステムは、熱衝撃試験である。熱衝撃試験において、半導体デバイスは、2つの非常に異なる温度で試験される。異なる標準が存在するが、一般に、試験は、半導体デバイスを高温及び低温にかけ、次いでデバイスの物理的及び電子的特性を試験することにある。典型的には、試験される半導体デバイスは、高温浴(それは、60℃~250℃の温度にあることができる)及び低温浴(それは、典型的には-10℃~-100℃の温度にあることができる)に交互に直接浸漬される。2つの浴間の転送時間は、一般的には10秒未満の、最小限にされなければならない。またこの試験において、浴を構成する流体はデバイスと直接接触し、それ故、誘電性で、且つ、非腐食性でなければならない。加えて、浴の汚染を回避するために、同じ流体が低温浴に及び高温浴に両方で使用されることが非常に好ましい。それ故、広範囲の温度で液体として存在する伝熱流体が好ましい。
【0014】
一般に使用される伝熱流体の多くは、半導体デバイス製造での多くの用途にそれらをふさわしくないものにする制限を有する。例えば、脱イオン水及び水/グリコール混合物は、半導体に対して腐食性であり、及びそれらの温度範囲は限定される。水/グリコール混合物は、また、有用なより低い温度範囲において粘性があり過ぎる。シリコーンオイル及び炭化水素油もまた、使用されることがあるが、それらは高可撚性であり、これは、それらの適用分野を厳しく限定する。
【0015】
半導体デバイスの製造で現在使用されている伝熱流体は、それ故典型的には、誘電性であり、非腐食性であり、且つ、それらを容易にポンプ送液可能にする比較的低い粘度を持った、広い温度範囲で液体状態で存在する液体である。
【0016】
フッ素化液体流体は、非常に有効な伝熱流体である。SolvayのGalden及び3MのFluorinerなどの市販製品が存在し: これらは、誘電性である、高い熱容量、低い粘度を有する、且つ、非毒性で及び化学的に不活性である液体ポリマーであるので、電池の材料とも、そのエレクトロニクスとも相互作用しない。今までのところ使用されたこれらのフッ素化流体に関連した欠点は、それらの高いGWP値である。
【0017】
GWP(地球温暖化係数)は、所与の温室効果ガスがどのくらいの熱を大気中で取り込むことができるかを示す、所与の化合物について測定することができる特質(「1」をCO2に見合う基準値と考える)であり、特定の時間的間隔、典型的には100年にわたって計算される(GWP100)。
【0018】
GWP100の決定は、化合物の大気寿命に関する実験データと、当技術分野において標準的である特定の計算ツールを使ったその放射効率とを組み合わせることによって行われ、例えば、Hodnebrog et. al.によってReview of Gephisics,51/2013,p300-378に公表された広範なレビューに記載されている。CF4及びクロロ/フルオロアルカンなどの高度に安定したハロゲン化分子は、非常に高いGWP100(CF4については7350、CFC-11については4500)を有する。
【0019】
長年にわたって、高い値のGWPを有する伝熱流体(エアコンシステムに使用されるクロロ/フルオロアルカンなどの)は、業界によって段階的に廃止され、より低いGWP100値を有する化合物で置き換えられてきているが、可能な限り低いGWP100値を有する伝熱流体への継続的な関心は依然として存在する。
【0020】
ハイドロフルオロエーテル、特に分離型ヒドロフルオロエーテルは、それらの特性の残りが過去に使用されたCFCのそれらと比較できるのに、比較的低いGWP100値を有する傾向があり、こういう訳で、いくつかハイドロフルオロエーテルは、工業的に使用されており、伝熱流体として好評を博しており、例えば、商品名「Novec(登録商標)」で3Mによって市場に出されている。
【0021】
ハイドロフルオロエーテルは、それらが液体であるそれらの幅広い温度範囲のために、及び粘度が動作温度で余りにも高いものであるべきでない二次ループ冷却システムでの使用のための低温二次冷媒としての用途向けにそれらを有用にする、広範囲の温度でのそれらの低い粘度のために伝熱媒体として広く記載されている。
【0022】
フッ素化エーテルは、例えば、米国特許第5713211号明細書に3Mによって、米国特許出願公開第2007/0187639号明細書にDupontによって並びに国際公開第2007/099055号パンフレット及び国際公開第2010034698号パンフレットにSolvay Solexisによって記載されている。
【0023】
しかしながら、CFCよりもはるかに低いが、分離型ハイドロフルオロエーテルのGWP100は、米国特許第5713211号明細書(表5)に示されているように依然として70~500の範囲にある。
【0024】
【0025】
他のハイドロフルオロオレフィンが、例えばChemours(Opteon(商標))によって及びHoneywell(Solstice(商標))によって伝熱流体として商業化されている。これらの化合物は、非常に低いGWP、約1を有するが、先に引用された化合物とは違って、はるかにより可撚性であり、それ故、これは、それらの使用分野を限定する。
【0026】
それ故、半導体デバイスの製造での使用のための有効な伝熱流体であって、良好な誘電特性を有し、広い温度範囲で液体であり、不燃性であり、且つ、非常に低いGWP(30以下)を有する伝熱流体が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、半導体デバイスの製造方法であって、前記方法が、半導体デバイスが伝熱流体と熱交換する工程を含み、伝熱流体が、一般式:
Ph(ORf)x (I)
(式中、Phは、1つ以上のエーテル基-ORfと結合した芳香環であり、ここで、各-Rfは、少なくとも1つのC-F結合を含む一価のフッ素化アルキル基であり、直鎖状であることができるか又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる、且つ、任意選択的に、O、N若しくはSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含むことができる炭素鎖を有し、及びここで、X>1である場合、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しい又は異なることができる)
を有する1つ以上の化合物を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明における用語「半導体デバイス」は、半導体材料の特性を活用する任意の電子デバイスを含む。半導体デバイスは、単一デバイスとして、及び単一半導体基板又はウェハー上で製造され、相互連結された(2から始まって10億になる)多数のデバイスからなる集積回路としての両方で製造される。用語「半導体デバイス」は、ダイオード及びトランジスタなどの、基本的なビルディングブロック、これらの基本的ブロックから構築される、プロセッサ、メモリチップ、集積回路、回路基板、光電管及び太陽電池、センサ等などの、アナログ、デジタル及び混合信号回路にまで及ぶ複合体構造までの両方を含む。用語「半導体デバイス」は、また、半導体材料ウェハーから誘導される半導体業界の任意の中間体又は未完成製品を含む。
【0029】
序論において述べられたように、半導体デバイスの製造中に使用される伝熱流体は、フルオロ化合物を含む。特にハイドロフルオロエーテルは、それらの化学的不活性、誘電性、それらが液体であり、且つ、ポンプ送液可能である(使用の温度で1~50cpsの粘度を典型的には有する)幅広いT範囲、低い燃焼性及び比較的低いGWPのためにこの分野において用途を見出している。
【0030】
この分野での使用のための市販のハイドロフルオロエーテルは、例えば、全てのこれらの特性を約70~300の比較的低いGWP100と組み合わせている3MのNovec(商標)シリーズからのものである。
【0031】
さらに、GWPは、現在商業化されているハイドロフルオロエーテルよりもさらに低いGWPを有する、BTMSに使用することができる新しい流体を開発する要求が常に存在するように今日決定的に重要な特性である。
【0032】
本発明は、実際に、半導体デバイスの製造であって、前記方法が、半導体デバイスが伝熱流体と熱交換する工程を含み、伝熱流体が、一般式:
Ph(ORf)x (I)
(式中、Phは、1つ以上のエーテル基-ORfと結合した芳香環であり、ここで、各-Rfは、少なくとも1つのC-F結合を含む一価のフッ素化アルキル基であり、直鎖状であることができるか又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる、且つ、任意選択的に、O、N若しくはSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含むことができる炭素鎖を有し、及びここで、X>1である場合、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しい又は異なることができる)
を有する1つ以上の化合物を含む方法に関する。
【0033】
本出願人は、意外にも、本発明の方法に用いられる伝熱流体が、不燃性であり、効率的な伝熱を提供し、幅広い温度範囲にわたって使用することができ、且つ、伝熱流体として商業化された他のハイドロフルオロエーテルに対して等しい又は改善された誘電特性を有することを見出した。意外にも、本発明に使用される伝熱流体は、それが実験の部において下に示されるように、一般に10よりも低い及びいくつかの材料については2よりもさらに低い、極めて低いGWP100を有する。これは、特に予想外の結果であり、実際に、上で引用されたHodnebrog et. al.などの先のレビューは、フッ素化芳香族エーテル化合物を低いGWP化合物として研究又は提案しなかった。
【0034】
それ故、一般式(I)に従ったこれらの選択された化合物を使用して、30未満、好ましくは10未満、さらにいっそう好ましくは5未満のGWP100値を有する伝熱流体を調合することができる。本発明による伝熱流体は、また、低い毒性を有し、全体範囲にわたって良好な伝熱特性及び比較的低い粘度を示す約-100℃~約200℃の広い範囲で液体状態で存在する。また、本発明の流体は、電気適合性を有する、すなわち、それらは、非腐食性であり、高い誘電強度、高い体積抵抗率及び極性材料に対して低い溶解力を有する。本発明の流体の電気特性は、回路と直接接触したエレクトロニクス用の浸漬冷却システムで並びにループ及び/又は導電性プレートを使用する間接接触用途でそれらが使用できるようなものである。
【0035】
考慮すべき別の重要な因子は、半導体デバイス用の伝熱システムが、設計で及び伝熱流体が分配される方法で大きく変わるが、半導体デバイスと熱交換しなければならない、及び次いでポンプ送液され、伝熱流体の温度を制御するシステムの外部の、熱交換器に再循環される伝熱流体を一般に必要とすることである。多数のパラメータが、熱交換する流体の能力に影響を及ぼす。40℃及び1気圧(101325Pa)圧力で3~100のPrandtl数を有する伝熱流体の使用がシステムの最適な性能及びエネルギー効率を得ることを可能にすることが分かった。好ましくは、本発明の方法に用いられる伝熱流体は、40℃及び1気圧圧力で20~90、より好ましくは30~80、さらにいっそう好ましくは40~70のPrandtl数を有する。
【0036】
Prandtl数(Pr)は、
(ここで:
c
p=比熱J/kg*Kであり、
μ=動的粘度N*s/m
2であり、
k=熱伝導率W/mKである)
と定義される無次元数である。
【0037】
Prandtl数は、所与の温度(T)及び圧力(P)条件での所与の流体について、熱伝導及び熱対流の中で何が主要な現象であるかを示す。1よりも低いPrandtl数は、伝導が対流よりも著しいことを示し、一方、1よりも高いPrandtl数は、対流が伝導よりも著しいことを示す。Prandtl数は、流体製造業者によって提供される伝熱流体の特性表に一般に見出される。
【0038】
好ましくは、本発明のための一般式(I)に従った化合物は、1、2、3又は4から選択されるxの値を有し、より好ましくは、xは、2及び3から選択され、さらにいっそう好ましくはx=2である。各Rfは、直鎖状である又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる好ましくはC1~C10、より好ましくはC2~C6炭素鎖を有する。炭素鎖は、O、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に任意選択的に含み得、鎖中にヘテロ原子が存在する場合に、ヘテロ原子はOであることが好ましい。
【0039】
上で述べられたように、各Rf基は、少なくとも1つのC-F結合を含まなければならない。好ましくは、各Rf基は、また、少なくとも1つのC-H結合を含む。より好ましくは、各Rfは、ただ一つのC-H結合を持ったフッ素化アルキル基であり、さらにいっそう好ましくは、ここで、前記ただ一つのC-H結合は、炭素鎖の2位の炭素原子上にある。
【0040】
Ph環の6個のC原子のうち、x個は、-ORf基と結合し、(6-x)個は、任意のタイプの置換基と結合することができ、好ましくはそれらは、H原子と又はF原子と、より好ましくはH原子と結合している。
【0041】
本発明の方法での使用のための式(I)に従った化合物は、一価若しくは多価フェノールをフッ素化オレフィン、好ましくは完全フッ素化オレフィンと反応させることによって容易に調製することができる。Ph-OH基は二重C=C結合に付加し、H原子は2位のC原子上に付加する。結果として生じた化合物は、したがってハイドロフルオロエーテルである。このハイドロフルオロエーテルは、さらにフッ素化してパーフルオロエーテルにすることができるが、好ましくは、上で既に述べられたように、ハイドロフルオロエーテルとして使用される。
【0042】
本明細書での使用のための好ましい一価及び多価フェノールは、フェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール及びカテコールである。本明細書での使用のための好ましいフッ素化オレフィンは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン並びにパーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル及びパーフルオロプロピルビニルエーテルなどのパーフルオロビニルエーテルである。
【0043】
上述の一般式によって包含されるものの中で最も好ましい化合物は:
式:
の1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、
式:
の1,4-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
並びにそれらの相当するオルト及びメタ異性体
1,3-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン
1,3-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン
1,2-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
並びにパーフルオロメチルビニルエーテルとカテコール、レゾルシノール及びヒドロキノンとの相当する誘導体:
1,2-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,3-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
1,4-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
である。
【0044】
本発明の方法での使用のための伝熱流体は、好ましくは5%超、より好ましくは50%超、さらにいっそう好ましくは90%超の上の式(I)に従った1つ以上の化合物を含む。一実施形態において、伝熱流体は、上の一般式に従った1つ以上の化合物で完全にできている。
【0045】
いくつかの実施形態において、本発明の伝熱流体は、式(I)に従った化合物のブレンドを含む。ブレンドは、より大きい温度範囲で液体である流体を提供するのに有益であり得る。好ましいブレンドは、同じ置換基を芳香環の異なる位置に有する少なくとも2つの異なる異性体を含むブレンドである。
【0046】
全ての実施形態において、熱交換流体は、CFC及びフルオロアルカン、例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロメタン、1,1,1,2,2,ペンタフルオロエタンなどを本質的に含まないことが好ましい。これらの物質は、高いGWP100を有し、少量でさえも、式(I)に従ったその主構成要素を超えて熱交換流体のGWP100に寄与する。
「本質的に含まない」について、本発明における熱交換流体は、5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満(全ての百分率は、熱交換流体の全体の重量パーセントとして表される)の所与の構成要素を含むことを意図する。
【0047】
本発明の伝熱流体は、半導体デバイスが伝熱流体と熱交換することを必要とする半導体デバイスの製造の工程全てで使用することができる。エッチャー、アッシャー、ステッパー及びプラズマ強化化学蒸着(PECVD)チャンバーなどの半導体処理装置を用いる場合に特に、これらの装置のそれぞれは、精密な温度制御及び/又は放熱を必要とし、それ故、それらは、本発明の方法の選択された伝熱流体を含むことができる温度制御装置(TCU)を装備している。
【0048】
加えて、試験に合格するそれらのデバイスのみがさらに処理されるので、半導体デバイス製造の不可欠な部分である、熱衝撃試験において、半導体デバイスは、少なくとも2つの浴、典型的には-10~-100℃の温度での低温浴、及び典型的には60℃~250℃の温度での高温浴を用いて冷却及び加熱される。本発明の方法の選択された伝熱流体は、前記浴において有利に使用することができるし、流体が液体状態にある大きい温度範囲のおかげで両浴に同じ流体を使用することができるので、浴の交差汚染のリスクが全くない。
【0049】
本発明の方法は、また、気相はんだ付けにおいて用途を見出すことができ、実際に、本発明の方法の選択された伝熱流体は、はんだ付けペーストの沸点に沿った沸点を有するように調合することができ、その結果さらに「硬化させられ」なければならないはんだ付けペーストを含む半導体デバイスを、その加熱された気相と平衡にあるその沸点での本発明の方法の選択された伝熱流体を含有する密室に導入することができる。加熱された蒸気は、半導体デバイスに熱を伝え、それによってはんだ付けペーストを溶融させ、それ故必要に応じて接点を固定するであろう。
【0050】
追加の利点は、全体の半導体デバイス製造施設にわたってただ一つの伝熱流体の使用を潜在的に可能にする、ただ一つの伝熱流体を多数の用途に使用できることである。
【0051】
ある態様において、本発明は、半導体デバイスと熱交換する方法であって、前記方法が、エッチャー、アッシャー、ステッパー及びプラズマ強化化学蒸着(PECVD)チャンバーから選択される1つ以上の半導体処理装置を用いることを含み、前記半導体処理装置が、前記半導体デバイスと熱交換する少なくとも1つの温度制御装置(TCU)を含み、前記TCUが伝熱流体を含み、前記伝熱流体が一般式
Ph(ORf)x (I)
(式中、Phは、1つ以上のエーテル基-ORfと結合した芳香環であり、
ここで、各-Rfは、
- 少なくとも1つのC-F結合を含む一価のフッ素化アルキル基であり、
- 直鎖状であることができるか又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる、且つ、任意選択的に、O、N若しくはSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含むことができる、炭素鎖、好ましくはC1~C10炭素鎖を有し、
並びに、X>1の場合、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しいか又は異なることができる)
を有する1つ以上の化合物を含む方法に関する。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、半導体デバイスの熱衝撃試験方法であって、前記方法が、任意の順で:
i.伝熱流体でできている第1浴を用いて、前記半導体デバイスを-10℃~-100℃、好ましくは-40℃~-80℃に含まれる温度に冷却する工程と、
ii.前記伝熱流体でできている第2浴を用いて、前記半導体を60℃~250℃に含まれる温度に加熱する工程と
を含み、
ここで、前記伝熱流体が、
Ph(ORf)x (I)
(式中、Phは、1つ以上のエーテル基-ORfと結合した芳香環であり、
ここで、各-Rfは、
- 少なくとも1つのC-F結合を含む一価のフッ素化アルキル基であり、
- 直鎖状であることができるか又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる、且つ、任意選択的に、O、N若しくはSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含むことができる、炭素鎖、好ましくはC1-C10炭素鎖を有し、
並びに、X>1の場合、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しいか又は異なることができる)
を有する1つ以上の化合物を含む方法に関する。
【0053】
別の態様において、本発明は、伝熱流体が熱源として使用される半導体デバイスのための気相はんだ付け方法であって、前記方法が、
i.はんだ付けペーストを含む半導体デバイスを提供する工程、
ii.前記伝熱流体をその沸点で含む密室を、前記伝熱流体の加熱された蒸気が前記密室内に生成されるように提供する工程、
iii.前記半導体デバイスを、前記伝熱流体の前記蒸気と接触して、前記密室に導入し、それによって前記加熱された蒸気との接触により前記はんだ付けペーストを溶融させる工程
を含み、
ここで、前記伝熱流体が、一般式:
Ph(ORf)x (I)
(式中、Phは、1つ以上のエーテル基-ORfと結合した芳香環であり、
ここで、各-Rfは、
- 少なくとも1つのC-F結合を含む一価のフッ素化アルキル基であり、
- 直鎖状であることができるか又は分岐及び/若しくはサイクルを含むことができる、且つ、任意選択的に、O、N若しくはSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含むことができる、炭素鎖、好ましくはC1~C10炭素鎖を有し、
並びに、X>1の場合、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しいか又は異なることができる)
を有する1つ以上の化合物を含む方法に関する。
【0054】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0055】
本発明は、これから以下の実施例に関連してより詳細に説明されるが、その目的は例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
使用される原材料
ヒドロキノン、KOH、アセトニトリルは、全てSigma Aldrichから供給された。
テトラフルオロエチレンは、Solvayから供給された。Novec(商標)7000、7100及び7200は、3M製の市販のハイドロフルオロエーテルである。
標準:
電気特性の測定は、以下の標準:
体積抵抗率-ASTM D5682-08[2012]
誘電強度-ASTM D877/D877M-13
誘電率-ASTM D924-15
に従って行った。
【実施例】
【0057】
1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE 1,4)の合成:
600mLの鋼オートクレーブに、16gのKOH及び360mLのアセトニトリルと共に、60.0gのヒドロキノンをロードした。オートクレーブを4回窒素でパージし、適度な減圧(0.2バール)に引いた。混合物を70℃で30分間激しく撹拌し、次いでテトラフルオロエチレンを6時間かけて10バールまで徐々に導入した。反応器を合計20h撹拌するままにし、次いでそれを冷却し、テトラフルオロエチレン圧力を解除した。その内容物を次いで4回窒素でパージした。テトラフルオロエチレンの消費は、110gであった。468gの混合物を反応器からアンロードした。この混合物を分液漏斗において1.5Lの水で希釈し、塩酸で中和した。底部の有機層を2回0.5Lの水で洗浄し、次いで最後にトップの水層から分離し、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、15ミリバールの減圧で94℃で蒸留した。150gの純粋な1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼンが得られた。
【0058】
HFE1,4についてのGWP100は、領域3500~500cm-1にわたる赤外スペクトルの積分された吸収断面積、OHラジカルとの反応のキネティックを測定すること、結果としての大気寿命及び放射強制効率を計算することによって、確立された手順に従ってUniversity of Osloで測定された。これらの測定の結果として、1.8のGWP100が得られた。
【0059】
GWP100に関連するHFE1,4データ;
3500~500cm-1での積分された吸収断面積;
53.6cm2分子-1cm-1
放射強制効率(計算値)=0.165Wm-2
298KでのOHラジカルキネティック kHFE1,4+OH=2×10-13cm3分子-1s-1
HFE1,4の大気寿命=2ヶ月
GWP100=1.8
【0060】
他の市販のハイドロフルオロエーテルと比べてHFE1,4の電気及び熱特性:
【0061】
【0062】
本発明による化合物:
1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE 1,4)
1,3-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE 1,3)
1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE 1,2)
の他の物理的特性:
【0063】
【0064】
結果は、どの程度本発明の化合物が同様な目的のために使用されている既存の市販流体と比較されるときに全体的に見て等しい又は改善された特性を有するか、且つ、より低いGWPを有するかを示す。これらの化合物を含む伝熱流体は、本発明の方法に、特に記載された用途に、すなわち、エッチャー、アッシャー、ステッパー及びプラズマ強化化学蒸着(PECVD)チャンバーなどの生産装置のためのTCUに、及び/又は半導体デバイスの熱衝撃試験用の浴に及び/又は半導体デバイスの気相はんだ付けのために使用することができる。