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特許7470694食用油を含有する安定化された組成物及び食品中でのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】食用油を含有する安定化された組成物及び食品中でのその使用
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20240411BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20240411BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240411BHJP
【FI】
A23D9/007
A23L33/115
A23L5/00 D
A23L5/00 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021536426
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 IB2019000995
(87)【国際公開番号】W WO2020049361
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】201811026421.6
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール ポーラ
(72)【発明者】
【氏名】タン チャオラン
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴィン ハシム
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102210474(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108185023(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105748416(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0128831(US,A1)
【文献】特開平08-259943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
A61K
A61P
C11B
C11C
CApuls/REGISTRY(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 10~40重量%の食用油、
- ラクトース、
- マンニトール、及び
- タンパク質又はその加水分解産物及びデンプン又はその誘導体から選択される1種以上のカプセル化剤、
を含む組成物であって、
前記食用油は、魚油、オキアミ油及び微細藻類油から選択され、少なくとも20重量%の多価不飽和脂肪酸を含み、及び
前記ラクトースと前記マンニトールとの重量比は、1:3~3:1であり、
噴霧乾燥される、組成物。
【請求項2】
前記多価不飽和脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ステアリドン酸、リノレン酸及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
粉末である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
- モノ及びジステアリン酸グリセリル、並びに、レシチンから選択されるの1種以上の乳化剤、
- アスコルビン酸ナトリウム、L-パルミチン酸アスコルビル、及びビタミンEから選択される1種以上の抗酸化剤、
- リン酸三カルシウムである自由流動剤、及び
- アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホスフェート及びクエン酸エステルから選択される1種以上のキレート剤
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ラクトースと前記マンニトールとの組み合わされた量は、20~60重量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の生成方法であって、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の成分を含むエマルジョン又は水性分散系を生成するステップと、前記エマルジョン又は水性分散系を噴霧乾燥させるステップとを含む、生成方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の酸化に対する安定性を増大させるための、1:3~3:1の各重量比でのラクトースとマンニトールとの混合物の使用。
【請求項8】
栄養サプリメント又は栄養補助食品の調製のための、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項9】
最大で100重量%の、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物を含む食品又は栄養製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油を含有する安定化された組成物、こうした組成物を得るためのプロセス、こうした組成物の使用及びそれを含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、グリセリドエステルの形態における不飽和脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA、オメガ-3及びオメガ-6など)を含有する食用油は、有益な健康効果を有することが示されている。これらの健康効果には、コレステロールレベルの低下、冠動脈性心疾患の予防及び血小板凝集の抑制が含まれる。例えば、オメガ-3及びオメガ-6脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)を含有する魚油は、その健康上の利益のために食品及び栄養製品に使用されている。DHAの代替源である微細藻類油も抗肥満効果を有すると記載されている。
【0003】
しかし、PUFAは、酸化を受けやすい傾向を有し、結果として不快な味及び/又は臭い、例えば魚臭など、並びにバイオアベイラビリティの低下を有する可能性がある。加えて、酸化を受けやすい傾向に伴う問題から、PUFAを含有する製品の保管安定性も比較的短い。
【0004】
したがって、PUFAを酸化に対して安定化することを試みるいくつかの溶液が従来技術において既に開示されている。例えば、米国特許第4,963,385号明細書は、場合により金属イオンキレート剤と組み合わせて糖又は糖アルコールを使用することによる、酸化攻撃に対する安定剤系を記載している。金属イオンキレート剤との組み合わせは、魚油の酸化に対する相乗効果を提供すると記載されている。国際公開第94/01001号パンフレットは、カプセル封入化合物としてのカゼイン塩に基づく、マイクロカプセル化された油(好ましくは魚油)又は脂肪生成物を開示している。少なくとも1種の炭水化物と任意選択で組み合わせた、唯一の乳化剤としてのカゼイン塩の使用は、比較的安定な油又は脂肪生成物をもたらす。米国特許第4,438,106号明細書及び米国特許第6,638,557号明細書は、シクロデキストリンを使用することによって魚油を安定化することを提案しているが、これは、組成物の粘度を増大させる可能性があり、これは、組成物が粉末生成のために使用される場合に不都合であり得る。米国特許出願公開第2008/0138493号明細書は、食用油、好ましくは魚油の安定性を増大させるための、1種以上の糖アルコール(例えば、マンニトール)と、1種以上の還元糖(例えば、グルコースシロップ)との組み合わせの使用を開示している。いくつかのポリオールも抗酸化活性を有すると記載されており、例えばFaraji H.及びLindsay R.は、J.Agric.Food Chem,2004,54,7164-7171において、フルクトース、スクロース、ラフィノース、ソルビトール又はマンニトールについて、水相の16%で魚モデル水中油型エマルジョンに組み込んだ場合、抗酸化活性が確認されたことを開示している。フルクトースは、特に、最も高い抗酸化活性を有すると言及されており、マンニトールは、最も低い抗酸化能力を有すると言及されている。フルクトース及びマンニトールは、甘味料であり、その使用は、組成物の味に影響を与える可能性があることにも留意するべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PUFAの酸化に対する安定化は、従来技術において論じられてきたが、特に食用油が微細藻類油である場合、食用油を含有する安定化された組成物の必要性及び食用油の酸化を防止する必要性が依然として存在する。こうした組成物は、容易にカプセル化され、且
つ粉末に噴霧乾燥されることを可能にしながら、良好な味(すなわち組成物が酸敗に対する向上された安定性を有する)、良好な匂い(特に保管後)、安定なDHA含有量(特に保管中)を有することも必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、食用油を含有する組成物を特定の重量比のラクトース及びマンニトールによって安定化させ得ることを示す、本発明者らの予想外の結果に依拠している。これらの予想外の結果は、この特定の重量比のラクトース及びマンニトールを有する組成物が、(i)食用油の酸化を予防し、且つ/又は食用油を酸化から保護するだけでなく、(ii)この組成物が、容易にカプセル化され、且つ粉末に噴霧乾燥されることを可能にしながら、良好な味、良好な匂い(保管後でも)、安定なDHA含有量(特に保管中)を有することも示す。
【0007】
第1の態様では、したがって、本発明は、
- (i)10~40重量%、好ましくは20~30重量%の食用油、
- (ii)ラクトース、及び
- (iii)マンニトール
を含む組成物であって、食用油は、少なくとも20重量%、好ましくは25~40重量%、典型的には30~35重量%の多価不飽和脂肪酸を含み、及びラクトースとマンニトールとの重量比は、1:3~3:1、好ましくは1:2~2:1、より好ましくは1:1である、組成物に関する。
【0008】
本明細書で使用する場合、用語「食用油」は、非毒性であり且つ摂取することができる油を意味する。食用油は、健康上の利益を提供することが可能であることが好ましい。食用油は、大気圧において0℃~25℃の温度範囲内で典型的に液体であるトリグリセリド組成物である。この油は、一般に、疎水性であり、植物油又は動物油などの天然源から得られるか又は入手可能である。この油は、異なる起源由来の異なる油の混合物であり得る。好ましい実施形態では、食用油は、魚油、オキアミ(krill)油、微細藻類油であり、より好ましくは微細藻類油である。食用油は、本組成物の10~40重量%に相当する。本明細書で使用する場合、「10~40%、好ましくは20~30%」は、10%~40%のすべての値、すなわち10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%及び40%を意味する。
【0009】
好ましい実施形態では、多価不飽和脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ステアリドン酸、リノレン酸及びそれらの混合物からなる群において選択され、好ましくはDHA、EPA及びそれらの混合物、より好ましくはDHAから選択される。
【0010】
本明細書で使用する場合、用語「ラクトース」は、乳中に見られる、ガラクトース及びグルコースからなる二糖を指す。例えば、ラクトースは、エタノールを使用して乳清から沈殿させ、次いで単離することができる。
【0011】
本明細書で使用する場合、用語「マンニトール」は、糖類の還元、例えばマンノース又はフルクトースの水素化によって入手可能な糖アルコール、すなわちポリオールを指す。
【0012】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、噴霧乾燥される。噴霧乾燥前に(組成物の乾燥物質を基準にして)45~55%の水が他の構成成分(カプセル化剤、乳化剤、自由流動剤及びキレート剤)と共に添加されて、エマルジョンが作製される。噴霧乾燥後に得
られた粉末中に残留する水分は、2~3%の水分である。粉末の水分活性(a)も低く、特におよそ0.1~0.4である。したがって、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも2年の保存寿命を有する。
【0013】
別の好ましい実施形態では、前記組成物は、粉末である。好ましくは、こうした粉末では、平均粒径は、100~120μmであり、容積密度は、0.4~0.6g/cmである。粒径は、当業者に公知の技術、例えばコールターカウンターを使用して決定することができる。より好ましくは、本発明の組成物は、自由流動性粉末の形態である。本明細書で使用する場合、用語「自由流動性粉末」は、当業者に周知であり、粒子が実質的に凝集することなく(例えば、約10cm~50cmの開口面積を有するある容器から同様の寸法の別の容器に)注ぐことができる粒子性材料を含む。詳細には、用語「自由流動性」は、粘着性ではなく、したがって塊になるか又は接触表面に付着する傾向をほとんど又はまったく有しない粉末状の材料に使用される。いわゆる安息角θが粉末の流動特性の尺度としてときに使用される。安息角は、表面上に注いだ場合に平らな表面との間に粉末の円錐が形成する角度である。典型的には、自由流動性粉末について、θは、低く、例えば60°よりも小さいか又は45°よりも小さい、例えば40°以下である。好ましくは、本発明では、θは、約35~40°である。
【0014】
別の実施形態では、上で言及した組成物は、
- 1種以上の乳化剤、好ましくは2又は3種の乳化剤、
- 1種以上のカプセル化剤、好ましくは3種のカプセル化剤、
- 1種以上の抗酸化剤、好ましくは3種の抗酸化剤、
- 1種以上の自由流動剤、好ましくは1種の自由流動剤、及び
- 1種以上のキレート剤、好ましくは1種のキレート剤
も含む。
【0015】
本明細書で使用する場合、「乳化剤」は、エマルジョンを安定化する薬剤、特にエマルジョンの形成及び安定化を促進する表面活性の薬剤を意味する。好ましくは、乳化剤は、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸のモノ及びジグリセリド、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)、ポリリシノール酸ポリグリセロール(PGPR)、脂肪酸のポリグリセロールエステル、カゼインナトリウム、グリセロールのクエン酸の及び脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノ及びジグリセリドの酒石酸ジアセチルエステル(DATEM)、グリセリン酸オクチル及びデシル、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、脂肪酸のスクロースエステル、リン脂質、モノ及びジステアリン酸グリセリル及びレシチンの中から選択される。より好ましくは、乳化剤は、モノ及びジステアリン酸グリセリル及びレシチンの中から選択される。
【0016】
本明細書で使用する場合、「カプセル化剤」は、生理活性物質を物理的障壁によって包み、保護し、且つ被覆するために、活性成分を担体材料内に封入する薬剤を意味する。好ましくは、カプセル化剤は、タンパク質又はその加水分解産物及びデンプン又はその誘導体を含む薬剤の中から選択される。より好ましくは、カプセル化剤は、濃縮乳清タンパク質、及び/又は分離乳清タンパク質、及び/又は乳清粉末の中から選択される。さらに一層好ましくは、3種のカプセル化剤は、濃縮乳清タンパク質、分離乳清タンパク質及び脱塩乳清粉の中から選択される。
【0017】
本明細書で使用する場合、「抗酸化剤」は、他の分子の酸化を阻害する物質を意味する。本発明では、特定の重量比のラクトース及びマンニトールは、組成物に抗酸化特性を与え、用語「抗酸化剤」は、糖及び糖アルコールと異なる物質であると理解されなければならない。好ましくは、抗酸化剤は、アスコルビン酸ナトリウム、L-パルミチン酸アスコ
ルビル及びビタミンEの中から選択され、より好ましくは天然ビタミンEである。
【0018】
本明細書で使用する場合、「自由流動剤」は、粒子の詰まりを防止し、且つ塊が移動する場合に物理的障壁としての役割を果たす薬剤、バルク粉末の縁をコーティングし且つ滑らかにして粒子間摩擦を減少させる薬剤、大気からの過剰な水分を、バルク粉末によって吸収され得る前に吸着する薬剤を意味する。好ましくは、自由流動剤は、リン酸三カルシウムである。
【0019】
本明細書で使用する場合、「キレート剤」は、その分子が単一の金属イオンに対するいくつかの結合を形成することができる物質を意味する。好ましくは、キレート剤は、アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホスフェート及びクエン酸エステルの中から選択され、より好ましくはクエン酸ナトリウムである。
【0020】
別の実施形態では、上で言及した組成物において、ラクトースとそのマンニトールとの組み合わされた量は、20~60重量%、好ましくは35~55重量%、より好ましくは35~40重量%である。
【0021】
別の実施形態では、上で言及した組成物は、15~25重量%のラクトースと、15~25重量%のマンニトールとを含む。
【0022】
好ましい実施形態では、上で言及した組成物は、
- 20~30重量%の食用油、
- 15~25重量%のラクトース、
- 15~25重量%のマンニトール、
- 20~40重量%のカプセル化剤、特に3種のカプセル化剤、
- 1~5重量%の乳化剤、特に2又は3種の乳化剤、
- 1~5重量%の抗酸化剤、特に3種の抗酸化剤、
- 0.5~5重量%の自由流動剤、及び
- 1~5重量%のキレート剤
を含む。
【0023】
本発明の組成物では、構成成分の合計量は、100%である。
【0024】
最も好ましい実施形態では、上で言及した組成物は、
- 20~30重量%の微細藻類油、
- 15~25重量%のラクトース、
- 15~25重量%のマンニトール、
- 30~40重量%の濃縮乳清タンパク質、分離乳清タンパク質及び脱塩乳清粉、
- 1~5重量%のモノ及びジステアリン酸グリセリル及びレシチン、
- 1~5重量%のアスコルビン酸ナトリウム、L-パルミチン酸アスコルビル及びビタミンE、
- 0.5~5重量%のリン酸三カルシウム、及び
- 1~5重量%のクエン酸ナトリウム
を含む。
【0025】
さらに最も好ましい実施形態では、上で言及した組成物は、
- 少なくとも30重量%のDHAを有する、25重量%の微細藻類油、
- 19重量%のラクトース、
- 19重量%のマンニトール、
- 12重量%の濃縮乳清タンパク質、
- 5重量%の分離乳清タンパク質、
- 15重量%の脱塩乳清粉、
- 0.60重量%のモノ及びジステアリン酸グリセリル、
- 0.40重量%のレシチン、
- 1重量%のアスコルビン酸ナトリウム、
- 0.15重量%のL-パルミチン酸アスコルビル、
- 0.06重量%のビタミンE、
- 0.50重量%のリン酸三カルシウム、及び
- 2重量%のクエン酸ナトリウム
を含む。
【0026】
本発明の組成物は、酸化に対する良好な安定性を有する。したがって、ある実施形態では、組成物の油構成成分は、0時点(すなわち高温での保管前の最初の時点)での、ISO 3960に基づく1Meq/kg以下の過酸化物価を有する。別の実施形態では、組成物の油構成成分は、65℃の空気への12日の曝露後又は45℃の空気への48日の曝露後の、ISO 3960に基づく5Meq/kg以下、特に3Meq/kg以下の過酸化物価を有する。別の実施形態では、組成物の油構成成分は、65℃の空気への12日の曝露後又は45℃の空気への48日の曝露後の、ISO 6885に基づく20Meq/kg以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに一層好ましくは7以下のp-アニシジン値を有する。本明細書で使用する場合、「ISO 3960」(特にISO3960:2017)は、視覚によるエンドポイント検出を用いる、動物及び植物脂肪及び油の過酸化物価のヨウ素滴定による決定のための方法を指定する。過酸化物価は、過酸化物、特にヒドロペルオキシドとして油又は脂肪に化学的に結合する酸素の量の尺度である。本明細書で使用する場合、「ISO 3960に基づく」は、「ISO 3960に記載されている方法によって決定されること」を意味する。好ましい実施形態では、粉末試料において過酸化物価が決定される場合、前処理ステップを実施することができる。この前処理ステップは、次の通りに実施することができる。粉末試料(40~50g、0.01gまで正確に秤量される)を500mL分液漏斗の内部の50mL蒸留水に添加する。この混合物を穏やかに振とうして、水中に粉末を分散させる。次いで、この混合物に120mL石油エーテル(30℃/60℃の沸点範囲を有する)を添加し、振とうして乳化させる。150mLの無水エタノールを添加した後、分液漏斗を2回反転させ、2つの相が完全に分離するまで置いておく。上部の液体を取り出し、2つの部分に分ける(部分A:20mL及び部分B:40mL)。部分Aを105℃で乾燥させ、溶媒を蒸発させ、その後、秤量する。部分Bは、250mLヨウ素フラスコに入れ、その後、50/60℃でロータリーエバポレーターを使用して溶媒を蒸発させる。ISO 3960又はGB5009.227-2016に開示される方法に従って他のステップを実施する。本明細書で使用する場合、「ISO 6885」(特にISO 6685:2016)は、動物及び植物脂肪及び油におけるp-アニシジン値の決定のための方法を指定する。これは、存在するアルデヒド(主にα-及びβ-不飽和アルデヒド)の量の尺度である。本明細書で使用する場合、用語「組成物の油構成成分」は、石油エーテルを使用することによって組成物から抽出される油を意味する。なぜなら、ISO方法は、それぞれ油中の過酸化物価又はp-アニシジン値の尺度であるからである。したがって、ISO方法を使用するために粉末からの油の抽出が不可欠である。
【0027】
本発明の組成物は、0時点(すなわち保管前)及び/又は65℃の空気への12日の曝露後若しくは45℃の空気への48日の曝露後の1%以下の表面油値を特徴とする。本明細書で使用する場合、「表面油」は、コア材料中にカプセル封入されていない、マイクロカプセル化された粉末の表面上の遊離の油を意味する。これは、マイクロカプセル化の効率を評価するための指標である:大量の遊離の油は、不十分なカプセル化を示す。この表面油は、溶媒を使用することによって容易に抽出することができる。より具体的には、石
油エーテルでの2回の抽出が達成され、次いで2つの溶媒相を組み合わせ、蒸発させ、真空オーブン中で乾燥させる。したがって、全粉末の遊離の油の比を算出することができる。
【0028】
本発明の組成物は、安定なDHA含有量、特に7~8重量%の、マイクロカプセル化された粉末に含まれるDHA含有量も特徴とする。これは、本発明の組成物(並びにその粉末)中のDHA損失が存在しないことを意味する。DHA含有量は、次の方法によって測定することができる。タカジアスターゼを(特に粉末の形態の)組成物に添加し、混合物を蒸留水に溶解する。この混合物中の油を、続いてアンモニア、エタノール、エーテル及び石油エーテルを使用して3回抽出する。次いで、残留した溶媒を蒸発させ、真空乾燥させて、さらなる脂肪酸組成分析のための油を回収する。油を、KOH-メタノールを使用してメチルエステル化及びけん化し、それに続いてn-ヘプタンへの溶解を行う。DHA含有量は、脂肪酸組成から決定される。GB 5009.168-2016基準下の中国食品安全標準(China food safety standard)に記載されている方法も使用することができる。
【0029】
第2の態様では、本発明は、本発明の組成物を生成するプロセスにも関する。
【0030】
したがって、本発明は、食用油、ラクトース、マンニトールを含む組成物を生成するプロセスであって、本組成物中に含有される成分のエマルジョン又は水性分散系を生成するステップと、前記エマルジョン又は水性分散系を噴霧乾燥させるステップとを含むプロセスに関する。乾燥は、好ましくは、噴霧乾燥によって実施される。噴霧乾燥についての条件は、公知であるか、又は当業者によって容易に決定することができる。噴霧乾燥は、好ましくは、得られる粉末が100~120μmの平均粒径を有するような条件下で実施される。混合物は、食用油、ラクトース及びマンニトールなどの組成物の構成成分を合わせ、任意選択で撹拌してエマルジョンを形成させることによって調製することができる。したがって、前記エマルジョンを噴霧乾燥させることによって粒子性材料(すなわち粉末)が形成され、これを収集する。
【0031】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、10~40重量%の食用油、ラクトース、マンニトール、1種以上のカプセル化剤(好ましくは3種のカプセル化剤)、1種以上の乳化剤(好ましくは2又は3種の乳化剤)、1種以上の抗酸化剤(好ましくは3種の抗酸化剤)、1種以上の自由流動剤(好ましくは1種の自由流動剤)及び1種以上のキレート剤(好ましくは1種のキレート剤)を混合することによって得られる。
【0032】
最も好ましい実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも30重量%のDHAを有する、25重量%の微細藻類油;19重量%のラクトース;19重量%のマンニトール;12重量%の濃縮乳清タンパク質;5重量%の分離乳清タンパク質;15重量%の脱塩乳清粉;0.60重量%のモノ及びジステアリン酸グリセリル;0.40重量%のレシチン;1重量%のアスコルビン酸ナトリウム;0.15重量%のL-パルミチン酸アスコルビル;0.06重量%のビタミンE;0.50重量%のリン酸三カルシウム及び2重量%のクエン酸ナトリウムを混合することによって得ることができる。
【0033】
第3の態様では、本発明は、10~40重量%の食用油であって、少なくとも20重量%の多価不飽和脂肪酸を含む食用油を含む組成物の酸化に対する安定性を増大させるための、1:3~3:1、好ましくは1:2~2:1、より好ましくは1:1の各重量比でのラクトースとマンニトールとの混合物の使用にも関する。酸化に対する安定性は、官能評価(組成物が保管後も良好な味及び/若しくは匂いを有するかどうか)によって且つ/又は過酸化物価及び/若しくはp-アニシジン値の測定によって決定することができる。例えば、0時点での、ISO 3960に基づく1Meq/kg以下の過酸化物価、或いは
65℃の空気への12日の曝露後若しくは45℃の空気への48日の曝露後の、ISO 3960に基づく5Meq/kg以下の過酸化物価及び/又は65℃の空気への12日の曝露後若しくは45℃の空気への48日の曝露後の、ISO 6885に基づく20以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに一層好ましくは7以下のp-アニシジン値を有する組成物は、酸化に対する増大された安定性を有するとみなされる。
【0034】
第4の態様では、本発明は、栄養サプリメント又は栄養補助食品、特に栄養飲料及び咀嚼錠の調製のための、上に言及した組成物の使用にも関する。本発明の組成物は、そのままで摂取することもできるが、典型的には摂取前に食品又は栄養サプリメントに組み込まれる。
【0035】
第5の態様では、本発明は、最大で100重量%の、上に言及した通りの組成物を含む食品又は栄養製品に関する。例えば、本発明は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%、特に少なくとも50%を含む食品又は栄養製品に関する。食品中に存在する組成物の量は、食品自体の性質に依存することとなる。例えば、ベーカリー製品では比較的多い量の組成物が認められ得るのに対して、ある種の飲料ではより少ない量が必要とされる。適した食品としては、例えば、例えばベーカリー製品(例えば、パン、ビスケット又はクッキー、軽食バー)、油を主成分とする製品(例えば、スプレッド、サラダドレッシング)、乳製品(例えば、牛乳、還元乳製品、ヨーグルト、アイスクリーム)、乳児用調製粉乳(乳児及び低年齢幼児に与えられる液体又は再構成される粉末である)及び乳製品ではない飲料(例えば、フルーツジュース)が挙げられる。
【0036】
図面及び以下の実施例は、本発明のある種の実施形態及び態様を例示するために提供され、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1aは、3種の組成物(対照、ラクトースの50%置き換え、ラクトースの100%置き換え)についての、65℃での保管時間に伴う表面油変化に関する結果を表す。図1bは、3種の組成物(対照、ラクトースの50%置き換え、ラクトースの100%置き換え)についての、65℃での保管時間に伴う全酸化変化に関する結果を表す。図1cは、3種の組成物(対照、ラクトースの50%置き換え、ラクトースの100%置き換え)についての、65℃での保管時間に伴うDHA含有量変化に関する結果を表す。
図2図2a-iは、3種の組成物(対照、ラクトースの50%置き換え、ラクトースの100%置き換え)についての、65℃での保管時間に伴う質感変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
実施例1:加速条件によるDHA安定性に対するマンニトールの効果
DHA組成物及びその粉末の安定性に対する、マンニトール及びラクトースとのその混合物の効果を研究するために、0%、50%及び100%のラクトースをマンニトールと置き換えた。試験された組成物を下の表1に記載する。
【0039】
【表1】
【0040】
1.組成物の処理
次の通りに記載した工程により、組成物及びその粉末を得た:すべての水溶性の成分を純水(最後に45~50%の乾燥物質を作製するために、100gの組成物に対して例えば100~122gの水)に溶解し、低温殺菌した。DHAを含有する食用油を他の油溶性成分と混合して、均質な溶液を生成した。調製した水相及び油相を混合した。混合物を、明らかな油滴がなくなる(すなわち油滴が肉眼で認識できなくなる)まで高速せん断することによってエマルジョンを作製し、次いでホモジナイズした。エマルジョンを噴霧乾燥させ、噴霧乾燥粉末にリン酸三カルシウムを添加した。
【0041】
2.分析方法
次いで、組成物及びその粉末を分析した。標準の値を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
3.結果
結果を下の表3並びに図1及び2にまとめる。
【0044】
【表3】
【0045】
これらの試験及び結果を考慮すると、3種の組成物及びその粉末は、(良好から不良まで)次の通りに分類することができると思われる:
- 官能検査:
魚臭:100%置き換え<50%置き換え<対照
カラメル色:対照<50%置き換え<100%置き換え
- 表面油:対照<50%置き換え<100%置き換え
- 全酸化:50%置き換え<100%置き換え<対照(油の酸化的劣化を評価する場合、全酸化値又は「totox」値(TV)が有用であり得る。その算出は、次の通りである(過酸化物価は、Meq/kgで表される):TV=2*POV+AV;POVは、過酸化物価であり、AVは、p-アニシジン値である)。
- DHA含有量:3つすべての組成物について、明らかな変化は見られなかった。
【0046】
実施例2:45℃でのDHA安定性に対するマンニトールの効果
DHA組成物及びその粉末の安定性に対する、マンニトール及びラクトースとのその混合物の効果を研究するために、0%、50%及び100%のラクトースをマンニトールと置き換えた。試験された組成物を下の表4に記載する。
【0047】
【表4】
【0048】
1.組成物の工程フローチャート
工程は、実施例1と同じである。
【0049】
2.分析方法
次いで、組成物及びその粉末を分析した。標準の値を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
3.結果
結果を下の表6にまとめる。
【0052】
【表6】
【0053】
これらの試験及び結果を考慮すると、3種の組成物及びその粉末は、(良好から不良まで)次の通りに分類することができると思われる:
- 官能検査:
魚臭:100%置き換え<50%置き換え<対照
カラメル色:対照<50%置き換え<100%置き換え
- 表面油:対照<50%置き換え<100%置き換え
- 全酸化:50%置き換え<100%置き換え<対照(油の酸化的劣化を評価する場合、全酸化値又は「totox」値(TV)が有用であり得る。その算出は、次の通りである(過酸化物価は、Meq/kgで表される):TV=2*POV+AV;POVは、過
酸化物価であり、AVは、p-アニシジン値である)。
【0054】
過酸化物及びp-アニシジンの値に関して、より正確にはマンニトールによるラクトースの50%置き換えを有する組成物は、より良好な結果をもたらしたと思われる。これは、1:1の重量比のラクトース及びマンニトールに相当する。
図1
図2