(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ナノ粒子炭化ケイ素及びナノ粒子炭化ケイ素を含む電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240411BHJP
C01B 32/977 20170101ALI20240411BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B32/977
H01M4/136
(21)【出願番号】P 2021544468
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2020052065
(87)【国際公開番号】W WO2020157079
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】102019102083.2
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521336266
【氏名又は名称】シュレッター,ルートヴィヒ
【氏名又は名称原語表記】SCHLETTER,Ludwig
【住所又は居所原語表記】An der Wieskapelle 4,83527 Haag i.OB(DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シュレッター,ルートヴィヒ
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502420(JP,A)
【文献】特開2013-071886(JP,A)
【文献】F. LOMELLO ET AL,Processing of nano-SiC ceramics: Densification by SPS and mechanical characterization,JOURNAL OF THE EUROPEAN CERAMIC SOCIETY,2012年03月01日,Vol.32, No.3,p.633-641
【文献】D. CLEMENT ET AL,New Laboratory Spectra of Isolated [beta]-SiC Nanoparticles: Comparison with Spectra Taken by the lnfrared Space Observatory,ASTROPHYSICAL JOURNAL,2003年09月01日,Vol.594, No.1,p.642-650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 32/977
H01M 4/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次リチウムイオン電池の電極の電極活物質であって、前記電極活物質が二次粒子の形態のナノ粒子炭化ケイ素SiCを含
み、前記二次粒子がSiC一次粒子の凝集体により構成され、前記一次粒子の平均粒子サイズが40~100nmの範囲であり、前記二次粒子の平均粒子サイズが1~10μmである、電極活物質。
【請求項2】
前記凝集体が1200~1600g/lのかさ密度を有する、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
前記凝集体が1500~3000g/l(1.5~3g/cm
3)の圧縮密度を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項4】
前記ナノ粒子炭化ケイ素SiCの粉体抵抗が28Ω・cm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項5】
前記SiCが、Mg、Nb、Zr、B、Cr、V、Sc、Y、Al、N、P、La、Er及びGa、並びに、それらの混合物から選択される元素を使用してドープされている、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項6】
前記元素が、B及び/若しくはAl、又は、N及び/若しくはPである、請求項5に記載の電極活物質。
【請求項7】
前記SiCが3C結晶構造中に存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項8】
前記ナノ粒子炭化ケイ素SiCが、6H-SiC、4H-SiC又は15R-SiCを単相又はそれらの混合物として含む結晶構造内に存在する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の電極活物質を含有する、二次リチウムイオン電池用の電極。
【請求項10】
前記電極活物質の密度が1.5~3g/cm
3である、請求項
9に記載の電極。
【請求項11】
前記電極がアノードである、請求項
9又は
10に記載の電極。
【請求項12】
前記SiCがN又はAlを使用してドープされる、請求項
11に記載の電極。
【請求項13】
Alを使用してドープされた前記電極が、Liに対して0.4V+/-0.05Vにプラトーを有する、請求項
12に記載の電極。
【請求項14】
請求項
12又は
13に記載の電極であるアノードを含む、二次リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子炭化ケイ素及びその使用、並びに、ナノ粒子炭化ケイ素を含む電極及びその電極を有する二次リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
混合ドープ又はノンドープのリチウム金属酸化物は、いわゆる「リチウムイオン電池」の電極材料として、重要性を増している。例えば、リチウムイオン蓄電池は、二次リチウムイオン電池とも称され、電池駆動の自動車用の有望な電池であると考えられており、現在、多くの車種において使用されている。さらに、リチウムイオン電池は、例えば、電動工具、コンピュータ及び携帯電話において使用されている。特に、カソードと電解質だけでなく、アノードもまた、リチウム含有材料で構成されている。
【0003】
例えば、LiM2O4及びLiCoO2は、カソード材料として使用される。Goodenough et al.(US 5,910,382)は、リチウムイオン電池のカソード材料として、ドープ又はノンドープの混合リチウム遷移金属リン酸塩、特に、LiFePO4を提案している。
【0004】
現在市場をリードし、既に非常に高性能なリチウムイオン電池では、電解質は通常液体であり、カルボン酸エステル等の有機溶媒と、リチウム含有導電性塩とにより構成されている。そのようなカルボン酸エステルとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)が挙げられる。実践上は、導電性塩としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6が広く使用されている。
【0005】
二次リチウムイオン電池における固体電解質の場合、典型的にはリチウム塩が使用される。例えば、JP-A 1990-2-225310では、リン酸チタンリチウムが固体電解質として提案されている。リン酸チタンリチウムは、その構造及びドーピングに応じて、リチウムイオン伝導率が高くなり、電気伝導率が低くなる。
【0006】
アノード材料としては、典型的には、グラファイトや、上記のようにリチウム化合物、例えば、チタン酸リチウムが、特に大容量電池用に使用されている。最近では、SiCの様々な修飾もまた、特に様々な炭素同素体を備えた複合材料として評されている。SiC自体、その構造及び特性がダイヤモンドに類似している。SiCの特別な特徴の1つは、原子構造がそれぞれ異なる多くの種々異なる相に現れる、SiCのポリタイプの性質である。従来において知られている全てのSiCのポリタイプでは、各ケイ素原子は共有結合によって4つの炭素原子に結合しており、炭素原子についても同様であって、それによって四面体構造を有している。
【0007】
いわゆる立方晶相β-SiC(そのabc層シーケンスのため、3Cとも称される)は、閃亜鉛鉱構造で結晶化する。閃亜鉛鉱構造とは、ダイヤモンドの構造に関連する構造である。他のポリタイプ(合計27)は、六方晶構造や菱面体晶(15R-SiC、21R-SiCなど)構造を有しており、全体的には六角形タイプが最も頻繁に発生する。最も単純な六方晶構造(α-SiCとも称される)はウルツ鉱様であり、ab層シーケンスのため、2Hとも称される。より頻繁に発生し、最も技術的に重要であるポリタイプは、ポリタイプ4H及び6H(層シーケンスはabcb及びabcacb)であり、これらは、純粋な六角形の2Hポリタイプ及び純粋な立方体のポリタイプ3Cの混合物を表しており、しばしばα-SiCとも称される。これらのポリタイプでは、2つの六方晶の層の間には、1つ(4H)又は2つ(6H)の立方体の層が埋め込まれている。立方晶相SiCは、理論的には安定したLiインターカレーション構造と高電位(Li/Li+>0.1V)を持ち、化学的にほぼ不活性で安定している。しかしながら、実践上は、いわゆる「バルク」SiCでは、リチウムイオンのインターカレーションができないことが示されている。この問題は、従来では炭素同素体を追加することによって克服されていた。
【0008】
Zheng et al.(Electrochimica Acta 52 (2007) 5863 - 5867)は、リチウムイオン電池用の電極について記述しており、この電極は、元素ケイ素と炭素を含む複合材料で作製されている。
【0009】
JP 2008066128は、リチウムイオン電池用の電極を製造する方法を記述しており、この方法では、ポリシラン及び炭素源から出発して、炭素材料上に炭化ケイ素を有する複合材料が作製される。US 8,734,674 B1は、炭化ケイ素のリチウムイオン容量が、追加の黒鉛化によって改善される方法を開示している。
【0010】
さらに、Kumar et al.(RSC Adv., 2013, 3, 15028 - 15034)は、リチウムイオン電池のアノードの材料として炭化ケイ素を使用することについて記述しており、ここでは、3C-SiCが化学気相蒸着によって生成される。Lipson et al.(J. Phys. Chem. C2012, 116, 20949 - 20957)は、炭化ケイ素の電気化学的リチウム化能力の表面黒鉛化による改善について記述している。
【0011】
初期の提案においては、ナノ結晶SiC、特にウィスカー又はファイバー形態のものである場合に、リチウムイオンの挿入が可能であるというものがあった。
【0012】
そのため、WO2016/078955は、リチウムイオン二次電池のアノード材料としての粒子又はファイバー形態の、比較的詳細に特徴付けられていないSiCを開示し、同様にCN103137973Aは、この目的で非化学量論的4H及び6H-SiCを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、既知のSiCよりも改善された電極及び電池、特に二次リチウムイオン電池を製造可能なナノ粒子炭化ケイ素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、二次粒子の形態の化学量論的ナノ粒子炭化ケイ素SiCであって、前記二次粒子がSiC一次粒子(一次結晶)の凝集体により構成され、前記一次粒子の粒子サイズが5~100nmの範囲であり、前記二次粒子の平均サイズが1~10μmである、ナノ粒子炭化ケイ素SiCによって達成される。
【0015】
一次粒子のサイズ範囲は、好ましくは10~100nmの範囲であり、より好ましくは40~100nmの範囲である。これらは選択されるゾルゲル法(以下を参照)によって追加のスクリーニング又は粉砕ステップを行わずに典型的に得られる範囲であるため、これらの範囲では、生産において経済的な利点が得られる。さらに小さな粒子サイズは、以後の処理において利点を得られるが、追加の粉砕ステップを通じてのみアクセス可能であり、上記の理由のため、望ましいものの特に好ましいとは限らない実施形態を表す。一次粒子が100nmより大きいと、二次粒子もまた大きくなりすぎるため、懸濁液中において電極フィルムを損傷することなく均一に適用することができなくなる。加えて、これらのサイズから、リチウムイオンのインターカレーションに対する粒子の能力は、50%の規模にまで大幅に減少する。
【0016】
凝集体は、典型的には1200~1600g/l(1.2~1.6g/cm3)のかさ密度、及び、1500~3000g/l(1.5~3g/cm3)の圧縮密度を有する。これらの予想外に高い値により、本発明による材料の改善された処理、特に、自動化された処理が可能になり、その理由としては、かさ密度及び圧縮密度のより低い材料よりも多くの材料をデバイス内に導入することができること、及び、後者の値の場合は、電極あたりの活物質の量(電極の活性質量密度)を増やすことができ、それによって電極のエネルギー密度、ひいてはバッテリーの容量を増やすことができることが挙げられる。二次粒子のD90値は、バッチにもよるが、通常8~10μmである。本発明に係る材料を活物質として使用する場合の効率的な電極製造のために、二次粒子は、サイズが2μm以下であるが、15μm未満であることが必要となる。
【0017】
本発明に係る炭化ケイ素は、28Ω・cm未満の粉体抵抗を有することが有利であり、10Ω・cm未満の粉体抵抗を有することが特に好ましい。
【0018】
本発明の好ましい改良では、本発明に係るナノ粒子炭化ケイ素SiCは、3C結晶構造中に存在する。これによって、熱伝導率が他の構造タイプに比べて若干高くなり、電池の熱管理において有利になり得ると共に、化学的及び熱的耐久性も若干高くなり、長期安定性及び高いサイクル安定性において有利になり得る。しかしながら、本発明の他の実施形態では、6H-SiC又は4H-SiC又は15R-SiC等のさらなる結晶構造もまた、単相又はそれらの混合物として存在し得ると共に、多形又は多結晶SiC変形体としても存在し得る。
【0019】
さらなる実施形態では、本発明に係る炭化ケイ素は、Mg、Nb、Zr、B、Cr、V、Sc、Y、Al、N、P、La、Er及びGa、並びに、それらの混合物から選択される少なくとも1つの元素を使用してドープされている。該元素は、好ましくは、いわゆるnドーピングについてはN及び/又はPから、又は、いわゆるpドーピングについてはB及び/又はAlから選択される。このドーピングによって、使用中のアノードにおける炭化ケイ素の安定性及びサイクル抵抗をさらに向上することができる。特に、このことは、個々の又は複数の(例えば、SiC:Al/B)ドーパント金属イオンが、格子構造内に組み込まれる場合に達成される。ドーパント金属イオンは、好ましくは、ケイ素に対して0.05~6at%又は3.5~5.5at%の量で含まれ、典型的には5原子%、他の実施形態では3.5~4.5原子%の量で含まれる。ドーパント金属カチオンは、結晶格子内の置換として組み込まれる。その量はドーパント元素に応じて選択されるが、その理由は、その量が格子に組み込まれた後の結晶構造に影響を与えるためであり、このことは、特にSiより大きい元素の原子の場合において該当する。したがって、基本的に、Siよりも小さい原子半径を有する元素は、比較的大量に、例えば、Siに対して6at%が組み込まれ得る一方で、Alよりも大きい原子半径を有する元素は、好ましくは比較的少量、例えば4.5at%以下、例えば、既に上述した3.5~4.5at%で組み込まれ得るといえる。
【0020】
これらの元素は、その純粋な元素の形態(例えば、アルミニウムの場合)で、又は、酢酸塩、アセチルアセトナート、塩化物、硝酸塩、硫酸塩若しくはリン酸塩(リンドーピング、若しくは、ドーパント元素としてのリンとの混合ドーピングのみ)及びホウ酸塩(ホウ素ドーピング、又は、ドーパント元素としてのホウ素との混合ドーピングのみ)の形態で使用されてもよい。
【0021】
特に大変好ましくは、本発明に係る炭化ケイ素は、B及び/若しくはAl(したがって、SiC:Al、SiC:B、SiC:Al/B)、又は、N及び/若しくはP(したがって、SiC:N、SiC:P、SiC:N/P)を使用してドープされる。すなわち、本発明に係る炭化ケイ素は、nドープ又はpドープされている。
【0022】
nドーピングは、窒素を用いて、例えば、硝酸、塩化アンモニウム、硝酸カリウム若しくはメラミンを開始ゾルに添加することによって実行可能であり、又は、リンを用いて、リン酸、リン酸二水素カリウム若しくはリン酸水素二ナトリウムを開始ゾルに添加することによって実行可能である。pドーピングは、ホウ素を用いて、例えば、四ホウ酸二ナトリウム若しくはホウ素アセチルアセトナートを添加することによって実行可能であり、又は、アルミニウムを用いて、アルミニウム粉末、塩化アルミニウム若しくはアルミニウムアセチルアセトナートを添加することによって実行可能である。
【0023】
本発明に係るナノ粒子炭化ケイ素は、好ましくは、二次リチウムイオン電池の電極における活性材料として使用される。他の可能な用途としては、例えば、太陽光発電装置及び太陽電池、又は、発光ダイオード及び半導体部品が挙げられる。
【0024】
本発明による炭化ケイ素は、一実施形態では、二次リチウムイオン電池の電極の活物質として使用される。該電極は、カソードとアノードの両方であり得る。好ましくは、この場合の電極は、アノードである。
【0025】
本発明のさらに好ましい改良では、アノードのSiCは、N又はAlを使用してドープされる。
【0026】
Alを使用してドープされた電極は、電圧図のLiに対して0.4V+/-0.1Vにプラトーを有する。いわゆるプラトーが存在することは、強い電圧降下がある場合よりも有利であり、その理由としては、後者はまた、例えば、本発明に係る材料を含むアノードとNMC(リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物)等の典型的なカソードとにより構成されるセルにて、過度に大きな電位窓を生じさせるためである。セル電圧は電気化学ポテンシャルの差であり、典型的にはLiリファレンスに対して測定される。実用での電子機器では小さな電圧変化を補償する必要があるため、セルの電圧降下が小さいと、実用において利点がある。本発明に係る材料について今回の場合に得られるような低電位によって、セル電圧が高くなり、そのためエネルギー密度がより高くなる。
【0027】
本発明に係る電極は、さらに結合剤を含む。結合剤としては、それ自体が当業者にとって既知である任意の結合剤が使用可能であり、そのような結合剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二フッ化ポリビニリデン(PVDF)、二フッ化ポリビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-HFP)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリロメタクリレート(PMMA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、並びに、それらの誘導体及び混合物が挙げられる。
【0028】
好ましくは、該電極は少なくとも50重量%以上の活物質の割合を有し、より好ましくは、90重量%以上の活物質の割合を有する。本発明に係る電極において、このような高含有量の活物質が含まれていても、その機能性は制限されない。
【0029】
さらに、本発明は、上記の実施形態に係るアノードに関し、特に、さらなる実施形態では、本発明に係るドープされた炭化ケイ素を含むアノードを含む二次リチウムイオン電池に関する。
【0030】
本発明のさらなる特徴及び利点は、本発明の特別な実施形態である以下の例から得られるが、それらの例は、本発明の範囲を限定するものとして理解されない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】アルミニウムを使用してドープされたSiC(3C-SiC:Al)のSEM写真を示す。
【
図2】3C-SiC:Alの
EDXスペクトルを示す。
【
図3】窒素を使用してドープされたSiC(3C-SiC:N)のSEM写真を示す。
【
図4】本発明に係る電極の、3C-SiC:Al対Liによる電圧図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
測定方法
BET表面積の決定は、DIN 66131(DIN-ISO 9277)に従って実施した。この目的で、Micromeritics Gemini V又はMicromeritics Gemini VIIを測定デバイスとして使用した。
【0033】
X線粉末回折図(XRD)の測定は、Siemens XPERTSYSTEM PW3040/00と、ソフトウェアDY784とを使用して実行した。
【0034】
SEM写真は、Gemini TFEカラムに接続されたLEO 1530 VP顕微鏡を使用して、4kVの加速電圧で実行した。
【0035】
圧縮密度及び粉体抵抗の測定は、同時に、Loresta-GP MCP-T610抵抗測定装置を備えたMitsubishi MCP-PD51タブレットプレス装置で実行された。この装置は、窒素が適用されたグローブボックス内に設置されており、それによって潜在的な酸素及び水分の干渉効果を排除している。タブレットプレスの油圧作動は、手動油圧プレスEnerpac PN80-APJ(最大10,000psi/700bar)によって実施した。
【0036】
これらの測定を、以下の設定により行った。
サンプル量 4g
印加圧力 7.5kN
抵抗計 Loresta GP Loresta GP
測定センサ設定 ESP ESP
極 線形 線形
極間隔 3mm 3mm
極サイズ 1.4mm 1.4mm
サンプル形状 円形 円形
サンプルサイズ 直径=20mm 20mm
サンプルの厚さ サンプルに依存 5mm
測定位置 X:10mm;Y:10mm (10,10)
RCF 自動計算 2.758
【0037】
続いて、粉体抵抗を、以下の式に従って計算した。
粉体抵抗[Ω・cm]=抵抗[Ω]×厚さ[cm]×RCF
【0038】
圧縮密度は、以下の式に従って計算した。
圧縮密度(g/cm3)=サンプルの質量(g)/Π×r2(cm2)×サンプルの厚さ(cm)
一般的な製造公差は、最大3%である。
【0039】
電極内の活物質の密度の決定
活物質の材料密度を決定するために、活物質50%、Super-Pカーボン30wt%及び結合剤(NMP、N-メチル-2-ピロリドン)20wt%の組成を有する電極(厚さ約60μm)を作成した。
【0040】
この目的のために、適切な量を50mlのスクリュートップジャーにおいて秤量し、クロスバー攪拌要素を使用したマグネチックスターラーにて600rpmで5分間混合し、超音波フィンガーHielscher UP200Sを使用して1分間分散させた後、直径4mmのガラスビーズ20個を添加してガラスを閉じ、10rpmの速度で回転テーブル上にて少なくとも15時間回転させた。電極コーティングについては、このようにして得られた均質な懸濁液を、200μmのギャップ幅及び20mm/秒の供給速度を有するドクターブレード実験用スキージを使用して、アルミニウムキャリア箔上に塗布した。
【0041】
真空乾燥キャビネット内で80℃で乾燥した後、直径13mmの電極をフィルムから打ち抜き、Specac社製の単軸油圧実験用プレスで10トンの負荷で60秒間、室温で機械的に後圧縮した。密度を決定するために、正味の電極重量は、キャリア箔の単位面積あたりの総重量及び既知の重量から決定し、正味の電極の厚さは、マイクロメータねじからキャリア箔の既知の厚さを引いたものを使用して決定した。
【0042】
電極内のg/cm3単位の有効質量密度は、以下により計算される。
(電極式における活物質の割合(50%)×電極の正味重量(g)/(π(0.65cm)2×正味の電極の厚さ(cm))
電極中の活物質密度の値としては、本発明に係る材料について1.7g/cm3が見出された。
【0043】
粒子サイズ分布の決定:
混合物又は懸濁液及び生成された材料についての粒子サイズ分布は、市販の装置を使用する光散乱法に基づいて決定される。該方法は、それ自体は当業者にとって既知であり、特に、JP2002-151082及びWO02/083555の開示も参照される。今回の場合、粒子サイズ分布は、レーザー回折計(独国ヘレンベルクのMastersizer S, Firma Malvern Instruments社製)及び製造者のソフトウェア(バージョン2.19)を使用して、測定ユニットとしてMalvern Small Volume Sample Dispersion Unit, DIF2002を使用して、DIN66133に従って決定した。以下の測定条件を選択した:圧縮範囲、アクティブビーム長2.4mm、測定範囲:300 RF、0.05~900μm。サンプルの準備及び測定は、製造者の仕様書に従って実施した。
【0044】
D90値は、測定されたサンプルの粒子の90%が、より小さい又は等しい粒子直径を有する値を示す。同様に、D50値及びD10値は、測定されたサンプルの粒子の50%又は10%がそれぞれ、より小さい又は等しい粒子直径を有する値を示す。
【0045】
本発明に係る1つの特に好ましい実施形態によれば、前述の説明において言及された値は、総体積中のそれぞれの粒子の体積割合に対するD10値、D50値、D90値、及び、D90値とD10値との差について適用される。したがって、本発明に係る本実施形態に係る本説明で言及されるD10値、D50値及びD90値は、測定されたサンプル中の粒子の10体積%又は50体積%又は90体積%が、より小さい又は等しい粒子径を有するところの値を指定している。これらの値が保たれる場合、本発明によれば特に有利な材料が提供され、相対的に粗い粒子(比較的大きな体積成分を有する)による、処理能力及び電気化学的製品特性に対する負の影響が回避される。D10値、D50値、D90値、及び、D90値とD10値との差について本説明において言及されている値は、粒子のパーセント及び体積パーセントの両方に関して、特に好ましく適用される。
【0046】
本発明に係る炭化ケイ素に加えて追加の成分を含む組成物(例えば、電極材料)の場合、特に炭素質組成物の場合には、上記の光散乱法は誤解を招く結果を生じさせる可能性がある。炭化ケイ素粒子は、追加の(例えば、炭素質)材料によって接着して、より大きな凝集体を形成し得るためである。しかしながら、そのような組成物における本発明に係る材料の粒子サイズ分布は、以下のようなSEM記録に基づいて決定可能である:少量の粉末サンプルをアセトン中に懸濁させ、超音波を使用して10分間分散させる。その後すぐに、懸濁液の数滴を走査型電子顕微鏡(SEM)のサンプルプレート上に滴下する。サンプルの固体濃度及び液滴の数は、粉末粒子からなる実質的に単層の層がキャリア上に形成され、それによって粉末粒子の相互の隠蔽を防ぐように測定される。粒子が沈降によってサイズに応じて分離する前に、滴下は迅速に行う必要がある。空気中で乾燥させた後、サンプルをSEMの測定チャンバーに移す。この例では、これはタイプLEO 1530のデバイスであり、このデバイスを、電界放出電極を使用して、励起電圧1.5kV及びサンプル距離4mmで動作させる。少なくとも20のランダムに配置されたサンプルの詳細拡大を、20,000倍の拡大率で記録する。これらはそれぞれ、オーバーレイされた倍率スケールと共に、DIN A4シートに印刷される。可能であれば、少なくとも20枚のシートのそれぞれに、粉末粒子を構成する本発明に係る材料の少なくとも10個の遊離した可視粒子をランダムに選択する。ここで、本発明に係る材料の粒子境界は、固定された直接接着ブリッジがないことによって定義される。これに対し、存在する可能性のある炭素材料に起因するブリッジは、粒子境界に含まれる。投影の最長軸及び最短軸はそれぞれ、定規を使用して選択した各粒子について測定して、スケール比に基づいて実際の粒子の寸法に変換する。測定された各SiC粒子について、最長軸及び最短軸の算術平均値を粒子径として定義する。続いて、測定されたSiC粒子は、光散乱測定と同様にサイズクラスに分類する。サイズクラス全体でそれぞれ関連する粒子の数をプロットすると、粒子の数に関した差分の粒子サイズ分布が得られる。粒子数を小さい粒子クラスから大きい粒子クラスへと順に合計すると、累積粒子サイズ分布が得られ、そこからD10、D50及びD90をサイズ軸上で直接読み取ることができる。
【0047】
記載された方法は、本発明に係る材料を含む電池電極にも適用される。しかしながら、その場合には、粉末サンプルの代わりに、電極の新しい切断面又は破砕面をサンプルキャリアに固定し、SEMで調査する。
【0048】
例示的実施形態
本発明に係るSiCは、例えば、Yajima et al. Chem.Lett. 1975, 931又はB.Friedel, Dissertation Paderborn, 2007, B. Kettner et al. In Adv. Eng. Mater. 2018, 1701067によって大まかに記載されたものと同様にして、修正されたゾルゲル法によって生成した。
【0049】
実施例1
ナノ粒子炭化ケイ素(3C-SiC)の製造
1.1 ゾル-ゲルSi-C前駆体の製造:
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)135gを、エタノール170ml中に溶解した。さらに、ショ糖60gの溶液を60℃で蒸留水75mL中に生成し、HCl(1M)37.15mlを触媒として一滴ずつ加えて、転化糖を形成した。続いて、両方の溶液を攪拌しながら互いに混合し、放冷させた。使用するTEOS/水/ショ糖/HClのモル比には、1/6.5/0.3/0.06の比率が有利であることが証明されている。これらの(個々の又は全ての)比率が+/-10%の範囲で変動しても、本発明の範囲で使用可能であり、最終製品に変化が生じることはない。あるいは、ショ糖溶液の代わりに、液糖(転化糖、122g 70%)を直接使用することもできる。その後、水は追加されず、HCl(5.2mL 1M)の追加もごくわずかであるが、これらの追加は、ゲル化プロセスを開始するために必要なだけだからである。
【0050】
得られたゾルを48時間及び60℃で乾燥させ、続いて100~160℃、好ましくは150℃で24時間乾燥させた。このようにして得られた乾燥した黒色の粗粒顆粒(「キセロゲル」)を、続いてアルゴン下にて1100℃で15時間にわたって焼結し、必要に応じて粉砕した。顆粒中のC/Siのモル比は、3.6であった。この比は特に好ましいが、本発明による純相3C-SiCは、3.2~4.0C/Siの範囲でも得られる。この範囲外では、溶融SiO2や炭素残留物、その他のSiCなど、さまざまな異相が最終製品に見られる。グラフェン残留物もまた、本発明に係る材料の表面上に形成され得る。Kettner et al.(前掲)は、ここに記載した方法に関連する種々異なる量の出発物質を使用し、反応条件もまた変更し、それによって混合相を取得している(前掲、第3.1章及び3.2章)。
【0051】
1.2.前駆体からのSiC製造
続いて、顆粒を1800℃で5時間焼結し、1000℃から1800℃への加熱速度を100℃/分の温度勾配で行った。その後、30分以内に室温(25℃)へと冷却した。このようにして得られたナノ粒子純相及び化学量論的3C-SiCの粒子サイズは、一次粒子では40~100nm、D90値は63nm(+/-1nm)であり、二次粒子では1~10μm、D90値は8μmであった。
【0052】
一次粒子のサイズは、加熱速度(加熱変化率)及び1800℃での温度処理の持続時間によって、有利に制御されてもよい。サイズが80~100μmの特に大きな一次結晶子は、顆粒をよりゆっくりと加熱する、例えば、10℃/分で8時間焼結することにより得られる。加熱速度が速く、1800℃での温度処理が短ければ、得られる一次結晶子が小さくなることが原則として見出された。
【0053】
実施例2
ドープされたナノ粒子炭化ケイ素(3C-SiC)の製造
製造は、ドープされていないSiCと同様に実行される。しかしながら、ショ糖を添加する前に、(1つ以上の)ドーパント元素又は純粋な元素に対応する化合物を、60℃に加熱した水へと導入する。それ以外は、実施例1と同様の方法で行う。このようにして得られたゾルを、ドーパント元素/化合物に応じて、部分的に着色する。
【0054】
ドーパント化合物/元素の量は、いずれの場合も、1M Siに対して5%であった。
【0055】
このようにして得られたドープされたSiCは、いずれの場合も、EPR(電子常磁性共鳴)分光法及びXRDによって調査した。
【0056】
今回の場合、以下のドープされた3C-SiCナノ粒子が得られた。
【0057】
2.1 3C-SiC:Al(Siに対して5at%Al) アルミニウムアセチルアセトナート又は元素アルミニウムを添加することにより、濃青色の3C-SiC:Alが得られた。
【0058】
図1に、3C-SiC:AlのSEM記録を示す。一次粒子(一次結晶子)及びそれらからなる凝集体が明確に認識可能である。
【0059】
図2は、本発明に係る3C-SiC:AlのEDX記録を示す。Si及びAlの反射が明確に認識可能である。
【0060】
2.2 3C-SiC:P(Siに対して5at%P) リン酸二水素カリウムを添加することにより得られた。
【0061】
2.3 3C-SiC-N(Siに対して5at%N) 硝酸を添加することにより、濃青色の3C-SiC:Nが得られた。
【0062】
図3に、3C-SiC:NのSEM記録を示す。一次粒子(一次結晶子)及びそれらからなる凝集体が明確に認識可能である。
【0063】
2.4 3C-SiC-B アセチルアセトナートホウ素を添加することによって得られた。
【0064】
2.5 3C-SiC-Er エルビウムアセチルアセトナートを添加することによって得られた。
【0065】
実施例3
活物質として3C-SiC:Al及び3C-SiC:Nを有する薄膜電極は、例えば、Anderson et al., Electrochem. 及びSolid State Letters 3 (2) 2000, pages 66-68に記載されたようにして製造された。電極組成物は、典型的には、活物質50重量部と、Super Pカーボン30重量部と、結合剤としてのポリフッ化ビニリデン(Solvay 21216)20%から構成されていた。この電極組成物より、懸濁液をN-メチル-2-ピロリドン中に生成した。スラリーの固形分は、11.5%であった。
【0066】
電極懸濁液は、ドクターブレード(スキージ)を使用して、約200μmの高さで分注し、N-メチルピロリドンを105℃で真空下で蒸発させた。20~25μmの厚さが得られるまで、乾燥した電極を複数回巻くか適切な圧力で圧縮した。続いて、電極を切り出して(直径13mm)、IRプレスにて5トン(3.9トン/cm2)の圧力により20秒間室温で圧縮した。
【0067】
その後、電極を一晩の間120℃で真空下にて乾燥させ、アルゴンで満たされたグローブボックス内にて該電極をリチウム金属に対して半電池で取り付けて、電気化学的に測定を行った。電極電荷は、SiC:Nについては0.7mg/cm2、SiC:Alについては4.6mg/cm2であった。
【0068】
電気化学的測定は、リチウム金属(リチウム製の対電極及び参照電極)に対して、電解質としてLP30(ダルムシュタットのMerck社製)を使用して実行した(EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート)=1:1、1M LiPF
6)。試験方法は、CCモード、すなわち、Li/Li
+に対して電圧制限0.05V~2.0Vの間におけるC/100レートの定電流のサイクルにて実行した。活物質として3C-SiC:Alを有する電極では、400~500mAh/gの間の可逆静電容量が得られた。脱リチウム化を行うと、いわゆるプラトーが0.4V対Liで観察された(
図4)。該電極は、活物質として2.6mgの3C-SiC:Alを含んでいた。総測定時間は、190時間であった。
【0069】