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特許7470736食品付着防止表面を備える物品、食品付着防止表面の形成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】食品付着防止表面を備える物品、食品付着防止表面の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/16 20060101AFI20240411BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240411BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240411BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20240411BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20240411BHJP
   C25D 11/24 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C25D11/16 301
B32B5/18
B32B9/00 A
C25D11/04 302
C25D11/12 Z
C25D11/24 302
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022081058
(22)【出願日】2022-05-17
(65)【公開番号】P2023169750
(43)【公開日】2023-11-30
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩幸
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特許第6322721(JP,B2)
【文献】特許第6415590(JP,B2)
【文献】特開2021-011616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/18,9/00
C25D 11/04,11/12,11/16,11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の付着を抑制する食品付着防止表面を備える物品であって、
アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材と、
前記基材の表面に形成された凹凸構造と、
前記凹凸構造の表面に形成されたポーラスアルミナ層と、を備え、
前記凹凸構造は、10μm以上100μm以下のうねりを有し、
前記ポーラスアルミナ層は、前記凹凸構造に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で形成された細孔を有し、
前記食品付着防止表面における液滴の転落角が30°以下であることを特徴とする食品付着防止表面を備える物品。
【請求項2】
前記液滴は、粘度が50mPa・s以上であることを特徴とする請求項1に記載の食品付着防止表面を備える物品。
【請求項3】
食品の付着を抑制する食品付着防止表面の形成方法であって、
アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材を用意する基材用意工程と、
前記基材の表面に凹凸構造を形成する凹凸構造形成工程と、
前記凹凸構造の表面にポーラスアルミナ層を形成するポーラスアルミナ層形成工程と、を行い、
前記ポーラスアルミナ層形成工程は、
前記凹凸構造を陽極酸化することによって、複数の細孔を有する前記ポーラスアルミナ層を形成する陽極酸化工程と、
前記ポーラスアルミナ層を、エッチング液に接触させることによって、前記ポーラスアルミナ層の前記複数の細孔を拡大させるエッチング工程と、を含み、
前記凹凸構造は、10μm以上100μm以下のうねりを有し、
前記ポーラスアルミナ層は、前記凹凸構造に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で形成された前記複数の細孔を有し、
食品付着防止の対象となる液滴の転落角が30°以下であることを特徴とする食品付着防止表面の形成方法。
【請求項4】
前記液滴は、粘度が50mPa・s以上であることを特徴とする請求項3に記載の食品付着防止表面の形成方法。
【請求項5】
前記凹凸構造形成工程は、前記基材に粒径100μm以上500μm以下の粒子を吹き付けるサンドブラスト処理を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の食品付着防止表面の形成方法。
【請求項6】
前記ポーラスアルミナ層形成工程は、前記エッチング工程の後に、更に前記陽極酸化工程を行うことを特徴とする請求項3又は4に記載の食品付着防止表面の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品付着防止表面を備える物品、食品付着防止表面の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンバーグやチョコレート等の食品は、成型する際に型へ付着することがある。そこで、型は、衛生面や食品ロスの観点により、食品の付着防止が望まれている。
【0003】
例えば特許文献1には、ハンバーグ等の食品と接触する器具の表面に、直径50μm以下、深さ15μm未満の略球面状微小凹部と、幅5μm以下、深さ15μm未満、長さの50μm以上の線状溝の、ミクロな凹凸構造を形成することで、食品の付着を抑制していることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、チョコレート等の食品を型に充填して成型を行う際に、基材にフッ素含有樹脂をコーティングした押し型を振動させながら型枠に挿入することで、食品の付着を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-130113号公報
【文献】特開2004-121063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、高粘度の食品は、型枠に付着して残留しやすい。そのため、型の表面には更に高い撥水性や撥油性が求められている。しかし、特許文献1や特許文献2のように、ミクロの凹凸構造を形成したり、フッ素含有コーティングしたりする表面処理のみでは、特に高粘度の物質の滑り性、離型性を向上させることができなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、物質の付着を抑制する付着防止表面を備える物品及び付着防止表面の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明の食品付着防止表面を備える物品によれば、食品の付着を抑制する食品付着防止表面を備える物品であって、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材と、前記基材の表面に形成された凹凸構造と、前記凹凸構造の表面に形成されたポーラスアルミナ層と、を備え、前記凹凸構造は、10μm以上100μm以下のうねりを有し、前記ポーラスアルミナ層は、前記凹凸構造に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で形成された細孔を有し、前記食品付着防止表面における液滴の転落角が30°以下である、ことにより解決される。
上記の食品付着防止表面を備える物品によれば、ミクロ構造を形成した凹凸表面に、ナノ構造であるポーラスアルミナ層を備えることで、物品の表面を理想的なフラクタル面とすることができる。したがって、物品の表面に付着する食品の接触点を無限に増やすことで、界面の空気層が極限まで増加し、物質の表面自由エネルギーの影響を受けにくくなるため、食品の付着を抑制することができる。
すなわち、上記構成により、食品の付着を抑制する食品付着防止表面を備える物品を提供することが可能となる。
【0009】
また、上記の食品付着防止表面を備える物品において、前記液滴は、粘度が50mPa・s以上であると好適である。
このように、物品に付着する物質の粘度が高い場合であっても、食品の付着を抑制することができる。
【0010】
前記課題は、本発明の食品の付着を抑制する食品付着防止表面の形成方法によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材を用意する基材用意工程と、前記基材の表面に凹凸構造を形成する凹凸構造形成工程と、前記凹凸構造の表面にポーラスアルミナ層を形成するポーラスアルミナ層形成工程と、を行い、前記ポーラスアルミナ層形成工程は、前記凹凸構造を陽極酸化することによって、複数の細孔を有する前記ポーラスアルミナ層を形成する陽極酸化工程と、前記ポーラスアルミナ層を、エッチング液に接触させることによって、前記ポーラスアルミナ層の前記複数の細孔を拡大させるエッチング工程と、を含み、前記凹凸構造は、10μm以上100μm以下のうねりを有し、前記ポーラスアルミナ層は、前記凹凸構造に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で形成された前記複数の細孔を有し、食品付着防止の対象となる液滴の転落角が30°以下である、ことにより解決される。
上記構成により、食品の付着を抑制する食品付着防止表面の形成方法を提供することが可能となる。
【0011】
また、上記の食品付着防止表面の形成方法において、前記液滴は、粘度が50mPa・s以上であると好適である。
このように、物品に付着する物質の粘度が高い場合であっても、食品の付着を抑制することができる。
【0012】
また、上記の食品付着防止表面の形成方法において、前記凹凸構造形成工程は、前記基材に粒径100μm以上500μm以下の粒子を吹き付けるサンドブラスト処理を含むと好適である。
このように、サンドブラスト処理により凹凸構造を形成することができるため、エンボスロール等を用いる表面加工処理よりも、生産コストを低減することができる。
【0013】
また、上記の食品付着防止表面の形成方法において、前記ポーラスアルミナ層形成工程は、前記エッチング工程の後に、更に前記陽極酸化工程を行うと好適である。
このように、陽極酸化工程とエッチング工程を繰り返すことで、より物質の付着を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の食品付着防止表面を備える物品及び食品付着防止表面の形成方法によれば、物質の付着を抑制する食品付着防止表面を備える物品及び食品付着防止表面の形成方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る付着防止表面を備える物品を示す模式断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る付着防止表面の形成方法を説明する模式断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る付着防止表面の形成方法を示すフロー図である。
図4A】実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
図4B】比較例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
図4C】比較例2の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
図4D】比較例3の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
図5A】実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図5B】比較例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図5C】比較例2の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図5D】比較例3の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図6A】実施例1の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
図6B】比較例3の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍)である。
図7A】実施例1の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)である。
図7B】比較例3の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る付着防止表面を備える物品、付着防止表面の形成方法について図1乃至図7Bを参照して説明する。
【0017】
<付着防止表面を備える物品B>
本実施形態の付着防止表面Mを備える物品Bは、図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材10と、基材10の表面に形成された凹凸構造20と、凹凸構造20の表面に形成されたポーラスアルミナ層30と、を備え、凹凸構造20は、10μm以上100μm以下のうねりを有し、ポーラスアルミナ層30は、凹凸構造20に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で形成された細孔を有し、付着防止表面Mにおける液滴の転落角が30°以下である。
【0018】
(基材10)
基材10は、図2(a)に示すように、全体がアルミニウム又はアルミニウム合金から構成され、基材表面10aにアルミニウム又はアルミニウム合金を有する。なお、少なくとも基材表面10aがアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆されていればよい。
基材10がアルミニウム又はアルミニウム合金でない場合や、陽極酸化できない場合、基材10の上に陽極酸化可能なアルミニウム又はアルミニウム合金を積層した後に陽極酸化を行うことでポーラスアルミナ層30を形成すればよい。この場合、基材10の素材や材質は特に限定されないが、例えば、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、樹脂、ゴム、ガラス、木材を含む群より選択される一種以上の物質を含有するものが挙げられる。
【0019】
(凹凸構造20)
凹凸構造20は、図2(b)に示すように、物理的処理によって形成される微細な凹凸であり、基材10の基材表面10a上に形成される。凹凸構造20は、例えば、サンドブラスト処理、ショットブラスト処理、エンボス加工処理等の表面加工処理により形成することができるが、これらの中でも要求される形状やコストという理由から、サンドブラスト処理により形成させることが好ましい。
【0020】
凹凸構造20は、例えば、サンドブラストを基材表面10aに吹き付けて形成される、ミクロ構造である。サンドブラストの平均粒子径は、10μm以上600μm以下、好ましくは30μm以上500μm以下、より好ましくは50μm以上400μm以下であるとよい。
【0021】
また凹凸構造20がエンボス加工処理によって形成される場合には、基材表面10aに接触させるエンボスロールの起伏は、5μm以上105μm以下、好ましくは10μm以上100μm以下であるとよい。
【0022】
(ポーラスアルミナ層30)
ポーラスアルミナ層30は、図2(c)に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金に対して陽極酸化とエッチングを繰り返して形成した層であり、基材10に形成された凹凸構造20の凹凸表面20a上に形成される層である。
詳しく述べると、ポーラスアルミナ層30は、陽極酸化を利用して、規則正しく配列されたナノ構造の円柱状の細孔が形成された層である。ポーラスアルミナ層30は、電解初期にできる伝導性の皮膜であるバリア層と、細孔を有する六角形の皮膜セルが集合したポーラス層とを有する。円柱状の細孔は、酸化膜に対して垂直に配向し、一定の条件下(電圧、電解液の種類、温度等)では自己組織的な規則性を示す。
【0023】
ポーラスアルミナ層30の表面は、ブラスト処理等の物理的処理によって形成される微細な凹凸構造20(ミクロ構造を有する凹凸表面20a)に沿って、ナノ構造の細孔が形成されることで、理想的なフラクタル面とすることができる。
理想的なフラクタル面は、例えば、10μm以上100μm以下のうねりを有する凹凸構造20に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で直径10nm以上30nm以下の細孔が形成されたポーラスアルミナ層30により構成される。
凹凸構造20の表面うねり(Wa)は、白色干渉顕微鏡(例えば、株式会社菱化システム社製の白色干渉顕微鏡VertScan2.0、R5300GL-M100)を用いて測定したときに、5μm以上105μm以下、好ましくは10μm以上100μm以下であるとよい。
ポーラスアルミナ層30は、走査電子顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテク社製の走査電子顕微鏡SU7000)を用いて測定したときに、凹凸構造20に沿って45nm以上505nm以下、好ましくは50nm以上500nm以下の間隔で細孔が形成されるとよい。また細孔の直径は、5nm以上50nm以下、好ましくは10nm以上30nm以下であるとよい。
【0024】
(付着防止表面M)
付着防止表面Mは、物品Bの最表面に形成されており、凹凸構造20の上に形成されたポーラスアルミナ層30の表面に相当する。付着防止表面Mは、本実施形態に係る付着防止表面Mの形成方法(図3)によって形成される。本実施形態に係る物品Bは、付着防止表面Mを表面に形成したことにより、液滴の転落角が30°以下となっている。
ここで、液滴は、水、親水性の液体、疎水性(親油性)の液体の液滴を含む。液体は、例えば、水、サラダ油、ケチャップ、マヨネーズ、ソース、醤油、チョコレート、化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス、液体樹脂、雪等が挙げられる。
【0025】
本実施形態において付着防止の対象となる液体は、特に、25℃での粘度が50mPa・s以上の高粘度のペースト又はスラリー状の流動性物質が好適である。具体的には、サラダ油(約50~80mPa・s)、ケチャップ(約1000~2000mPa・s)、マヨネーズ(約2000~20000mPa・s)等の固形分が分散された高粘度の液状物が挙げられる。
なお、低粘度の液体は、具体的には、水(約1mPa・s)、醤油(約5~10mPa・s)、ソース(約5~10mPa・s)等の液状物が挙げられる。
【0026】
付着防止表面Mにおける液滴の転落角は、25℃で、水平な状態で付着防止表面Mに、6μLの液体を滴下し、液滴を静止させた後に物品Bを徐々に傾斜させ、液滴が滑り始める傾斜角度を測定したときに、25℃での粘度が50mPa・s以上の高粘度の場合は、40°以下、好ましくは35°以下、より好ましくは30°以下であるとよい。
25℃での粘度が50mPa・s未満の低粘度の場合は、7°以下、好ましくは5°以下、より好ましくは3°以下であるとよい。
【0027】
また、付着防止表面Mにおける液体の接触角は、25℃で一般的な接触角計(例えば、協和界面化学社製、型番CA-X)を用いて測定したときに、25℃での粘度が50mPa・s以上の高粘度の場合は、125°以上、好ましくは130°以上、より好ましくは135°以上であるとよい。
25℃での粘度が50mPa・s未満の低粘度の場合は、135°以上、好ましくは140°以上、より好ましくは145°以上であるとよい。
【0028】
上記構成により、付着防止表面Mを理想的なフラクタル面とすることで、付着する物質の接触点を無限に増やし、界面の空気層が極限まで増加させることができる。そのため、付着防止表面Mは、物質の表面自由エネルギーの影響を受けにくくなるため、物質の付着を抑制することができる。
このように、例えば、食品の型枠に食品が付着した場合であっても、型枠が付着防止表面Mを備えることで、離型性が向上し、衛生面の向上及び食品ロスの低減を図ることができる。
【0029】
また、付着防止表面Mの撥水及び撥油性を向上させるために、付着防止表面Mの表面にはフッ素含有コーティング層が形成される。フッ素含有コーティング層は、フッ素を含有する樹脂製のコーティング層であり、ポーラスアルミナ層30の上に形成される。
フッ素含有コーティング層は、オプツールDSXシリーズ(ダイキン工業社製)等のパーフルオロポリエーテル(PFPE)を含有した撥水、撥油材料で形成することが好ましい。
なお、フッ素含有コーティング層の膜厚は、5nm以上100nm以下、好ましくは5nm以上50nm以下、より好ましくは5nm以上20nm以下であるとよい。
【0030】
<付着防止表面Mの形成方法>
本実施形態の付着防止表面Mを備える物品Bは、図3に示すように、以下の付着防止表面の形成方法よって形成される。
【0031】
具体的には、本実施形態の付着防止表面の形成方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材10を用意する基材用意工程(ステップS1)と、前記基材10の表面に凹凸構造20を形成する凹凸構造形成工程(ステップS2)と、前記凹凸構造20の表面にポーラスアルミナ層30を形成するポーラスアルミナ層形成工程(ステップS3)と、を行い、前記ポーラスアルミナ層形成工程は、前記凹凸構造20を陽極酸化することによって、複数の細孔を有する前記ポーラスアルミナ層30を形成する陽極酸化工程(ステップS31)と、前記ポーラスアルミナ層30を、エッチング液に接触させることによって、前記ポーラスアルミナ層30の前記複数の細孔を拡大させるエッチング工程(ステップS32)と、を含み、前記凹凸構造20は、10μm以上100μm以下のうねりを有し、前記ポーラスアルミナ層30は、前記凹凸構造20に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で形成された前記複数の細孔を有し、付着防止の対象となる液滴の転落角が30°以下であることを特徴とする。
【0032】
また、フッ素含有コーティング層形成工程(ステップS4)では、ポーラスアルミナ層30の上にフッ素含有コーティング層を形成する。
【0033】
以上のステップS1~S4で、付着防止表面Mを備える物品Bを得ることができる。
以下、各ステップについて、詳細に説明をする。
【0034】
(基材用意工程)
基材用意工程(ステップS1)では、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する基材10を用意する。このとき、事前に、基材10の基材表面10aを洗浄したり、帯電処理をしたりするなど、陽極酸化を行いやすくし、アルミニウム層の成膜性(積層性)を向上させるような前処理を行ってもよい。
基材10がアルミニウム又はアルミニウム合金でない場合や、陽極酸化できない場合は、基材10の上に陽極酸化可能なアルミニウム又はアルミニウム合金を積層する。アルミニウム又はアルミニウム合金を積層は、基材10の材料等に応じて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、化学蒸着法等の方法を用いて行うことが可能であるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0035】
(凹凸構造形成工程)
凹凸構造形成工程(ステップS2)では、基材10の基材表面10aに凹凸構造20を形成する。具体的には、基材表面10aに粒径100μm以上500μm以下の粒子を吹き付けるサンドブラスト処理を行う。
【0036】
(ポーラスアルミナ層形成工程)
ポーラスアルミナ層形成工程(ステップS3)は、凹凸構造20を陽極酸化することによって、複数の細孔を有するポーラスアルミナ層30を形成する陽極酸化工程(ステップS31)と、ポーラスアルミナ層30を、エッチング液に接触させることによって、ポーラスアルミナ層30の複数の細孔を拡大させるエッチング工程(ステップS32)と、を含む。
【0037】
(陽極酸化工程)
陽極酸化工程(ステップS31)では、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された基材10の基材表面10aを陽極酸化することによって、複数の細孔を有するポーラスアルミナ層30を形成する。
ポーラスアルミナ層30は、硫酸、シュウ酸、又はリン酸等の酸性電解液又はアルカリ性電解液中にアルミニウム基材を浸漬し、これを陽極として電圧を印加すると、アルミニウム基材の表面で酸化と溶解が同時に進行し、その表面に細孔を有する酸化膜を形成することができる。陽極酸化条件を調整することにより、細孔間隔、細孔の深さ、細孔の形状等を調節できる。電解液は、例えば、0.3%シュウ酸(10℃)を用いると好適である。また、陽極酸化の電圧は、50V以上150V以下であると好適である。陽極酸化の電圧印加時間は、100秒以上300秒以下であると好適である。
【0038】
(エッチング工程)
エッチング工程(ステップS32)では、ポーラスアルミナ層30を、エッチング液に接触させることによって、ポーラスアルミナ層30の複数の細孔を拡大させる。
エッチング液は、例えば10質量%のリン酸や、ギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸の水溶液、クロム酸リン酸混合水溶液、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリの水溶液を用いることができる。エッチング液は、例えば、1mоl/Lリン酸(30℃)を用いると好適である。またエッチング時間は、15分以上30分以下であると好適である。
【0039】
ポーラスアルミナ層形成工程では、エッチング工程の後に、再び陽極酸化工程を行い、陽極酸化工程とエッチング工程とを繰り返す。エッチング工程で細孔の孔径を拡大させた後、再び陽極酸化することによって、細孔を深さ方向に成長させると共に、ポーラスアルミナ層30を厚くする。ここで、細孔の成長は、既に形成されている細孔の底部から始まるので、細孔の側面は階段状になる。その後、ポーラスアルミナ層30をエッチング液に接触させることによって、細孔の孔径を更に拡大させる。
このように、陽極酸化工程及びエッチング工程を繰り返すことによって、ブラスト処理等の物理的処理によって形成される微細な凹凸構造20に沿って、ナノ構造の細孔が形成されることで、理想的なフラクタル面とすることができる。なお、陽極酸化工程及びエッチング工程のそれぞれの条件、時間、回数を調整することによって、細孔の側面は、階段状にもできるし、滑らかな曲面あるいは斜面にもできる。
【0040】
(フッ素含有コーティング層形成工程)
フッ素含有コーティング層形成工程(ステップS4)では、ポーラスアルミナ層30の上にフッ素含有コーティング層を形成する。
【0041】
本実施形態では、主として本発明に係る付着防止表面を備える物品、付着防止表面の形成方法について説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例
【0042】
以下、本発明の付着防止表面を備える物品、付着防止表面の形成方法の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0043】
<試験1 付着防止表面の形成>
実施例1の試料は、アルミニウムで構成された基材の表面に、平均粒子径が100μm以上500μm以下のサンドブラストを吹き付けた後、陽極酸化処理とエッチング処理を繰り返し行って、ポーラスアルミナ層を形成した。その後、ポーラスアルミナ層の表面をフッ素含有樹脂でコーティングして、フッ素含有コーティング層を形成した。
【0044】
このとき、アルミニウム表面から100~1000nmを陽極酸化させ、10μm以上100μm以下のうねりを有する凹凸構造に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で直径10nm以上30nm以下の細孔が形成された状態が最も良好であることが分かった。
当該表面状態を作成する処理条件として、電解液(0.3%シュウ酸、10℃)を用いて、アルミニウムを陽極酸化(120V、120秒処理)した後、エッチング液(1mоl/Lリン酸、30℃)を用いて、20分エッチングした。上記条件の陽極酸化処理を5回、エッチング処理を4回繰り返すことで、当該表面状態を作成した。
【0045】
また、フッ素含有コーティング層は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を含有した撥水、撥油材料であるダイキン工業社製のオプツールUD509をパーフルオロポリエーテルフッ素系流体(ガルデン)にて0.1%まで希釈した溶液に浸漬若しくは吹き付けを行い、自然乾燥、150℃で60分間、大気雰囲気下で焼成後、ガルデンにて余剰分を洗い流して形成した。
【0046】
比較例1の試料は、アルミニウムで構成された基材の表面を、フッ素含有樹脂でコーティングして、実施例1と同様のフッ素含有コーティング層を形成した。
【0047】
比較例2の資料は、アルミニウムで構成された基材の表面に、実施例1と同様に平均粒子径が100μm以上500μm以下のサンドブラストを吹き付けた。その後、表面をフッ素含有樹脂でコーティングして、実施例1と同様のフッ素含有コーティング層を形成した。
【0048】
比較例3の資料は、アルミニウムで構成された基材の表面に、実施例1と同様の条件で陽極酸化処理とエッチング処理を繰り返し行って、ポーラスアルミナ層を形成した。その後、ポーラスアルミナ層の表面をフッ素含有樹脂でコーティングして、実施例1と同様のフッ素含有コーティング層を形成した。
【0049】
図4A図5Dは、それぞれ実施例1、比較例1~3の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真であり、図6A図7Bは、実施例1及び比較例3の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
実施例1の試料は、形成した凹凸構造について、株式会社菱化システム社製の白色干渉顕微鏡VertScan2.0、R5300GL-M100のWaveモードを用いて、表面うねり(Wa)を測定した。また、形成したポーラスアルミナ層について、株式会社日立ハイテク社製の走査電子顕微鏡SU7000を用いて、表面観察を行った。
実施例1の試料では、ポーラスアルミナ層が10μm以上100μm以下のうねりを有する凹凸構造に沿って、50nm以上500nm以下の間隔で直径10nm以上30nm以下の細孔が形成され、理想的なフラクタル面が形成されていることが分かった。また、フッ素含有コーティング層の膜厚は、10~12nmであった。
なお比較例3の試料では、10nm以上50nm以下の間隔で直径40nm以上400nm以下の細孔が形成された。
【0050】
<試験2 液滴付着防止試験>
実施例1、比較例1~3の試料を用いて付着防止試験を行った。具体的には、25℃において、水(粘度1mPa・s)、ソース(粘度5~10mPa・s)、醤油(粘度5~10mPa・s)、サラダ油(粘度50~80mPa・s)、ケチャップ(粘度1000~2000mPa・s)、マヨネーズ(粘度2000~20000mPa・s)に対する各試料の表面における接触角及び転落角を測定した。
【0051】
各試料の表面における接触角を表1に、転落角を表2に示す。接触角は、25℃で接触角計(協和界面化学社製、型番CA-X)を用いて測定した。転落角は、25℃で、水平な状態で各試料の表面に6μLの液体を滴下し、液滴を静止させた後に各試料を徐々に傾斜させ、液滴が滑り始める傾斜角度を、測定を行った。
なお、接触角の測定において、高粘度であるケチャップ、マヨネーズについては、正確な接触角を測定できなかった。
また、転落角の測定において、試料に液滴が付着してしまい液滴が転落しなかったものは、転落角を測定できなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1及び表2に示されるように、実施例1の試料では、凹凸構造に沿ってポーラスアルミナ層を形成することで、理想的なフラクタル面となり、食品の滑り性を向上しているため、食品が付着することなく離型させることができる。具体的には、25℃での粘度が50mPa・s以上である食品(サラダ油、ケチャップ、マヨネーズ)の場合は、転落角が30°以下であるため、食品が付着することなく離型させることができた。
25℃での粘度が50mPa・s未満である食品(ソース、醤油)の場合は、転落角が7°以下であるため、食品が付着することなく離型させることができた。
【0055】
また、接触角について、具体的には、25℃での粘度が50mPa・s以上である食品(サラダ油)の場合は、接触角が125°以上であった。
25℃での粘度が50mPa・s未満である食品(ソース、醤油)の場合は、接触角が145°以上であった。
【0056】
<試験3 離型性確認試験>
実施例1、比較例1及び比較例3の試料を用いてチョコレートの離型性確認試験を行った。具体的には、60℃で湯煎したチョコレート(グリコ社製、カプリコエアーインチョコ)を各試料上で固めて自然乾燥させた後、表面から離型するときの剥離力を測定した。
【0057】
各試料の表面における剥離力を表3に示す。剥離力は、軽い力で試料からチョコレートを剥離できるものを○、力をかけて剥離できるものを△、試料に付着して剥離できないものを×とした。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示されるように、実施例1の試料では、凹凸構造に沿ってポーラスアルミナ層を形成することで、理想的なフラクタル面となり、食品の滑り性を向上しているため、比較例よりも軽い力でチョコレートを剥離することができた。
【0060】
以上のように、本発明では、付着防止の対象となる物質の表面自由エネルギーに応じた表面形状を、アルミニウム基材に形成した凹凸構造に沿って、ポーラスアルミナ層を形成することで作成し、その表面上にフッ素含有コーティングを施すことで、表面の滑り性を向上させている。実施例で示した食品に限らず、他の離型する物質に適した表面形状を作成する事で、様々な物資に本発明の技術思想を適用することが可能である。例えば、食品工場における食品の型枠だけではなく、工業製品加工工場における樹脂成型時の型枠や、住宅における屋根及び壁等の物資に、本発明の技術思想を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
B 物品
M 付着防止表面
10 基材
10a 基材表面
20 凹凸構造
20a 凹凸表面
30 ポーラスアルミナ層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B