(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240411BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240411BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240411BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240411BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240411BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/131
(21)【出願番号】P 2022528267
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 CN2022085251
(87)【国際公開番号】W WO2023137878
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】202210057979.0
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513222359
【氏名又は名称】シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CAPCHEM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1901, Capchem Plaza, No. 9 Changye Road, Liulian Community, Pingshan Street, Pingshan District, Shenzhen City, 518118, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】銭 ▲ゆぃん▼嫻
(72)【発明者】
【氏名】胡 時光
(72)【発明者】
【氏名】▲とう▼ 永紅
(72)【発明者】
【氏名】李 紅梅
(72)【発明者】
【氏名】向 暁霞
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-176760(JP,A)
【文献】特開2016-004751(JP,A)
【文献】特開2017-199548(JP,A)
【文献】特開2018-092778(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111403807(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111755753(CN,A)
【文献】特開2017-097995(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110931863(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料層を含む正極と、負極と、非水電解液とを含むリチウムイオン電池であって、
前記正極材料層は、正極活物質を含み、
前記正極活物質は、Li
xNi
yCo
zM
1-y-zO
2を含み、ここで、0.9≦x≦1.2、0.5≦y≦1、0≦z≦0.5、0≦1-y-z≦0.5であり、MはMn、Alから選択される少なくとも1つの元素であり、
前記正極活物質は、E元素でドーピング又は被覆されており、前記E元素は、Ba、Zn、Ti、Mg、Zr、W、Y、Si、Sn、B、Co、Pから選択される1種又は複数種であり、
前記正極活物質は、金属リチウムに対する電位範囲が≧4.25Vであり、
前記非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、添加剤とを含み、前記添加剤は、構造式1で表される化合物を含み、
構造式1
式中、nは0又は1であり、
AはC又はOから選択され、
Xは
R
1とR
2が同時にHである場合はなく、かつX、R
1及びR
2は少なくとも1つの硫黄原子を含み、
前記リチウムイオン電池は、
0.1≦(H/T)×M/1000≦10;かつ
80≦H≦140、0.005≦T≦0.8、0.05≦M≦3
を満たし、ここで、Hは正極材料層の厚さを示し、単位はμmであり、
Tは正極材料層中のE元素の質量百分率含有量を示し、単位は%であり、
Mは非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量を示し、単位は%であることを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記正極活物質は、金属リチウムに対する電位範囲が4.25V~4.6Vであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン電池は、0.5≦(H/T)×M/1000≦6を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記正極材料層の厚さHは90~120μmであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記正極材料層中のE元素の質量百分率含有量Tは0.01%~0.2%であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mは0.1%~1%であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記構造式1で表される化合物は、下記の化合物1~22から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記電解質塩は、LiPF
6、LiBOB、LiDFOB、LiDFOP、LiPO
2F
2、LiBF
4、LiSbF
6、LiAsF
6、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiC(SO
2CF
3)
3、LiN(SO
2F)
2、LiClO
4、LiAlCl
4、LiCF
3SO
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記非水電解液は、補助添加剤をさらに含み、
前記補助添加剤は、環状硫酸エステル系化合物、スルトン系化合物、環状カーボネート系化合物、リン酸エステル系化合物、ホウ酸エステル系化合物及びニトリル系化合物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記補助添加剤の添加量は0.01%~30%であることを特徴とする、請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
前記環状硫酸エステル系化合物は、硫酸エチレン、硫酸1,3-プロピレン、又は4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2-オキシドから選択される少なくとも1種であり、
前記スルトン系化合物は、メタンジスルホン酸メチレン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン又は1-プロペン1,3-スルトンから選択される少なくとも1種であり、
前記環状カーボネート系化合物は、ビニルエチレンカボネート、フルオロエチレンカーボネート又は構造式2で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
構造式2
前記構造式2において、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1-C5基から選択される1種であり、
前記リン酸エステル系化合物は、トリス(トリメチルシラン)ホスフェート、構造式3で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
構造式3
前記構造式3において、R
31、R
32、R
32はそれぞれ独立してC1-C5の飽和炭化水素基、C1-C5の不飽和炭化水素基、C1-C5のハロゲン化炭化水素基、-Si(C
mH
2m+1)
3から選択され、mは1~3の自然数であり、かつR
31、R
32、R
33のうちの少なくとも1つは不飽和炭化水素基であり、
前記ホウ酸エステル系化合物は、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)から選択され、
前記ニトリル系化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ヘキサントリカルボニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバシン酸ジニトリルから選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵電池デバイスの技術分野に属し、具体的には、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年にリチウムイオン電池(LIBs)が初めて商業化されて以来、リチウムイオン電池は急速に市場の主流を占め、社会生活の一部となり、私たちの生活に大きな影響を及ぼしている。リチウムイオン電池技術の発展と高エネルギー密度に対する追求に伴い、重要なリチウムイオン電池の正極活物質である層状リチウムニッケル系酸化物材料が開発された。層状リチウムニッケル系酸化物材料は、エネルギー密度が高く、低温性能が良好であるなどの利点を有し、幅広く使用されている正極材料である。現在、層状リチウムニッケル系酸化物材料の容量のさらなる向上は、動作電圧(4.25V vs Li+/Li以上)を増大させることにより実現することができる。しかし、動作電圧の上昇は、通常、層状酸化物材料の構造の破壊をもたらし、金属イオンの溶出を引き起こし、電池サイクル寿命の短縮及びガスによる膨脹などの問題をもたらし、高電圧電池の安全性に影響を与える。
【0003】
また、動作電圧を増大させると、電解液が高電圧下で酸化分解し、電池サイクルなどの特性の劣化を引き起こし、高電圧リチウムイオン電池の発展を制限する恐れがある。高電圧動作条件でのリチウムイオン電池の電解液の適応性を向上させる最も簡単で効果的な方法は、耐高電圧の添加剤を開発することである。このような添加剤は、正極材料の表面に高電圧下で安定かつ緻密な界面膜を形成することで、電解液の酸化分解を効果的に抑制し、リチウムイオン電池の安全性及び高電圧下でのサイクル特性などを向上できる。また、正極材料に被覆又はドーピング元素を設けることにより、層状リチウムニッケル系酸化物材料の構造を効果的に不動態化し、正極材料表面での電解液の酸化分解を抑制し、活物質表面でのアルカリ残留量を減少させ、構造破壊及びガス発生などの問題を改善することができる。しかし、報告されている既存の高電圧電解液添加剤は、正極材料の被覆及び/又はドーピング元素の界面との良好な適合性を実現できず、形成される界面膜により電極界面インピーダンスが増大する問題がある。そのため、正極材料との適合性が高く、インピーダンスが低い電解液添加剤の開発は、高電圧リチウムイオン電池の発展にとって極めて重要である。
【発明の概要】
【0004】
従来の高電圧リチウムイオン電池に存在するサイクル特性が十分ではないという問題を解決するために、本発明によれば、リチウムイオン電池が提供される。
【0005】
上記の技術的問題を解決するために本発明が採用する技術的手段は以下の通りである。
【0006】
本発明によれば、正極材料層を含む正極と、負極と、非水電解液とを含むリチウムイオン電池であって、
前記正極材料層は、正極活物質を含み、
前記正極活物質は、Li
xNi
yCo
zM
1-y-zO
2を含み、ここで、0.9≦x≦1.2、0.5≦y≦1、0≦z≦0.5、0≦1-y-z≦0.5であり、MはMn、Alから選択される少なくとも1つの元素であり、
前記正極活物質は、E元素でドーピング又は被覆されており、前記E元素は、Ba、Zn、Ti、Mg、Zr、W、Y、Si、Sn、B、Co、Pから選択される1種又は複数種であり、
前記正極活物質は、金属リチウムに対する電位範囲が≧4.25Vであり、
前記非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、添加剤とを含み、前記添加剤は、構造式1で表される化合物を含み、
構造式1
式中、nは0又は1であり、
AはC又はOから選択され、
Xは
R
1とR
2が同時にHである場合はなく、かつX、R
1及びR
2は少なくとも1つの硫黄原子を含み、
前記リチウムイオン電池は、
0.1≦(H/T)×M/1000≦10;かつ
80≦H≦150、0.005≦T≦0.8、0.05≦M≦3
を満たし、ここで、Hは正極材料層の厚さを示し、単位はμmであり、
Tは正極材料層中のE元素の質量百分率含有量を示し、単位は%であり、
Mは非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量を示し、単位は%であるリチウムイオン電池が提供される。
【0007】
選択的に、前記正極活物質は、金属リチウムに対する電位範囲が4.25V~4.6Vである。
【0008】
選択的に、前記リチウムイオン電池は、0.5≦(H/T)×M/1000≦6を満たす。
【0009】
選択的に、前記正極材料層の厚さHは90~120μmである。
【0010】
選択的に、前記正極材料層中のE元素の質量百分率含有量Tは0.01%~0.2%である。
【0011】
選択的に、前記非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mは0.1%~1%である。
【0012】
選択的に、前記構造式1で表される化合物は、下記の化合物1~22から選択される1種又は複数種である。
【0013】
選択的に、前記電解質塩は、LiPF6、LiBOB、LiDFOB、LiDFOP、LiPO2F2、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO2F)2、LiClO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩から選択される少なくとも1種である。
【0014】
選択的に、前記非水電解液は、補助添加剤をさらに含み、前記補助添加剤は、環状硫酸エステル系化合物、スルトン系化合物、環状カーボネート系化合物、リン酸エステル系化合物、ホウ酸エステル系化合物及びニトリル系化合物のうちの少なくとも1種を含む。
好ましくは、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記補助添加剤の添加量は0.01%~30%である。
【0015】
選択的に、前記環状硫酸エステル系化合物は、硫酸エチレン、硫酸1,3-プロピレン又は4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2-オキシドから選択される少なくとも1種であり、
前記スルトン系化合物は、メタンジスルホン酸メチレン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン又は1-プロペン1,3-スルトンから選択される少なくとも1種であり、
前記環状カーボネート系化合物は、ビニルエチレンカボネート、フルオロエチレンカーボネート又は構造式2で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
構造式2
前記構造式2において、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1-C5基から選択される1種であり、
前記リン酸エステル系化合物は、トリス(トリメチルシラン)ホスフェート、構造式3で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
構造式3
前記構造式3において、R
31、R
32、R
32はそれぞれ独立してC1-C5の飽和炭化水素基、C1-C5の不飽和炭化水素基、C1-C5のハロゲン化炭化水素基、-Si(C
mH
2m+1)
3から選択され、mは1~3の自然数であり、かつR
31、R
32、R
33のうちの少なくとも1つは不飽和炭化水素基であり、
前記ホウ酸エステル系化合物は、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)から選択され、
前記ニトリル系化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ヘキサントリカルボニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバシン酸ジニトリルから選択される1種又は複数種である。
【0016】
本発明に係るリチウムイオン電池によれば、非水電解液中に構造式1で表される化合物が添加剤として添加されるとともに、正極活物質がE元素でドーピング又は被覆されることにより、構造式1で表される化合物が前記正極材料層の表面に形成する界面膜と、E元素でドーピング又は被覆有される正極活物質との結合効果は、良好である。これによって、この界面膜の緻密性及び安定性が効果的に向上し、リチウムイオン電池の高温サイクル安定性が向上する。構造式1で表される化合物、正極活物質中のE元素と界面膜との間の関係に基づいて、本発明者が多くの研究を行ったところ、正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、及び非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mを特定の範囲内に合理的に制御するとともに、関係式0.1≦(H/T)×M/1000≦10を満たすようにすることにより、構造式1で表される化合物とE元素の相乗作用が十分に発揮され、電池のインピーダンスが低減され、電池の高温サイクル特性が向上することを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明が解決しようとする課題、技術的手段及び有益な効果をより明確にするために、以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本明細書に記載の具体的な実施例は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0018】
本発明の実施例によれば、正極材料層を含む正極と、負極と、非水電解液とを含むリチウムイオン電池が提供される。前記正極材料層は、正極活物質を含む。前記正極活物質は、Li
xNi
yCo
zM
1-y-zO
2を含み、ここで、0.9≦x≦1.2、0.5≦y≦1、0≦z≦0.5、0≦1-y-z≦0.5であり、MはMn、Alから選択される少なくとも1つの元素である。前記正極活物質は、E元素でドーピング又は被覆されている。前記E元素は、Ba、Zn、Ti、Mg、Zr、W、Y、Si、Sn、B、Co、Pから選択される1種又は複数種である。前記正極活物質は、金属リチウムに対する電位範囲が≧4.25Vである。
前記非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、添加剤とを含む。前記添加剤は、構造式1で表される化合物を含む。
構造式1
式中、nは0又は1であり、
AはC又はOから選択され、
Xは
R
1とR
2が同時にHである場合はなく、かつX、R
1及びR
2は少なくとも1つの硫黄原子を含む。
前記リチウムイオン電池は、
0.1≦(H/T)×M/1000≦10;かつ
80≦H≦150、0.005≦T≦0.8、0.05≦M≦3
を満たし、ここで、Hは正極材料層の厚さを示し、単位はμmであり、
Tは正極材料層中のE元素の質量百分率含有量を示し、単位は%であり、
Mは非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量を示し、単位は%である。
【0019】
本発明に係るリチウムイオン電池によれば、非水電解液中に構造式1で表される化合物が添加剤として添加されるとともに、正極活物質がE元素でドーピング又は被覆されることにより、構造式1で表される化合物が前記正極材料層の表面に形成する界面膜と、E元素でドーピング又は被覆有される正極活物質との結合効果は、良好である。これによって、この界面膜の緻密性及び安定性が効果的に向上し、リチウムイオン電池の高温サイクル安定性が向上する。構造式1で表される化合物、正極活物質中のE元素と界面膜との間の関係に基づいて、本発明者が多くの研究を行ったところ、正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、及び非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mを特定の範囲内に合理的に制御するとともに、関係式0.1≦(H/T)×M/1000≦10を満たすようにすることにより、構造式1で表される化合物とE元素の相乗作用が十分に発揮され、電池のインピーダンスが低減され、電池の高温サイクル特性が向上することを見出した。
【0020】
いくつかの実施例において、nが0である場合、前記構造式1で表される化合物は、
R
1とR
2が同時にHである場合はなく、かつX、R
1及びR
2は少なくとも1つの硫黄原子を含む。
いくつかの実施例において、nが1である場合、前記構造式1で表される化合物は、
から選択され、R
1とR
2が同時にHである場合はなく、かつX、R
1及びR
2は少なくとも1つの硫黄原子を含む。
【0021】
好ましい実施例において、前記正極活物質は、金属リチウムに対する電位範囲が4.25V~4.6Vである。
【0022】
好ましい実施例において、前記リチウムイオン電池は、
0.5≦(H/T)×M/1000≦6
を満たす。
【0023】
0.1≦(H/T)×M/1000≦10に基づいて、さらに0.5≦(H/T)×M/1000≦6にすることにより、電池高温サイクル特性に対する正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T及び非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mの影響を相乗的に利用することができ、その結果、電池はより長い高温使用寿命及びより低いインピーダンスを有する。
【0024】
具体的には、前記正極材料層の厚さHは、80μm、85μm、90μm、95μm、100μm、105μm、110μm、115μm、120μm、125μm、130μm、135μm、140μm、145μm又は150μmから選択されてもよい。
【0025】
好ましい実施例において、前記正極材料層の厚さHは90~120μmである。
【0026】
正極材料層の厚さもリチウムイオン電池の設計及び製造において重要な技術的パラメータである。ポールピースのサイズが同じである場合、正極材料層の厚さが厚いほど、電池のエネルギー密度は高くなるが、内部抵抗も大きくなる。一方、正極材料層の厚さが薄くなると、電池のエネルギー密度は低くなり、商業用途に不利である。前記正極材料層の厚さHを上記の範囲とすることにより、電池は、より高いエネルギー密度及び低いインピーダンスを有する。
【0027】
具体的には、前記正極材料層中のE元素の質量百分率含有量Tは、0.005%、0.01%、0.015%、0.02%、0.05%、0.08%、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.5%、0.55%、0.6%、0.65%、0.7%、0.75%及び0.8%から選択されてもよい。
【0028】
好ましい実施例において、前記正極材料層中のE元素の質量百分率含有量Tは、0.01%~0.2%である。
【0029】
ドーピング処理を行う場合に、前記E元素は、前記正極活物質の格子に嵌入され、一部のコバルト、ニッケル、マンガン又はアルミニウムのサイトを置換して安定したドーピング状態を構成することによって、金属イオンの溶出が抑制される。被覆処理を行う場合、前記E元素は、酸化物又は金属塩の形態で前記正極活物質の外面に被覆されることによって、正極活物質と非水電解液との直接接触が回避されるとともに、正極材料表面のアルカリ残留量が減少し、正極活物質が高電圧動作条件下で引き起こす構造破壊及びガス発生などの問題が改善され、高電圧での電池のサイクル及び安全性などの特性が向上する。
【0030】
具体的には、前記非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mは、0.05%、0.08%、0.1%、0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、1%、1.1%、1.3%、1.5%、1.8%、2%、2.1%、2.3%、2.5%、2.8%又は3%から選択されてもよい。
【0031】
好ましい実施例において、前記非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mは0.1%~1%である。
【0032】
非水電解液に構造式1で表される化合物を添加することにより、正極活物質の表面に高電圧下で安定しかつ緻密な界面膜が形成され、電解液の酸化分解が効果的に抑制され、高電圧での電池の電気化学的特性が向上する。構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mが少なすぎると、界面膜の性能を向上させる作用を奏するのが困難になる。構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mが多すぎると、非水電解液の粘度が増大し、イオン移動に影響を与えるとともに、電池サイクルの過程において多くの副生成物が発生することで非水電解液の安定性に影響を与える恐れがある。
【0033】
いくつかの実施例において、前記構造式1で表される化合物は、下記化合物1~22から選択される1種又は複数種である。
【0034】
なお、以上は本発明の好ましい化合物であり、本発明を制限するものではない。
【0035】
当業者は構造式1の化合物の構造式を知っていれば、化学合成分野での技術常識に基づいて前記化合物の製造方法を知ることができる。例えば、化合物7は以下の方法により製造することができる。
ソルビトール、炭酸ジメチル、メタノール、塩基触媒である水酸化カリウム、及びDMFなどの有機溶媒を反応容器に入れ、加熱条件下で数時間反応させた後、特定量のシュウ酸を加えてpHを中性まで調整し、濾過し、再結晶させることにより、中間生成物1が得られ、次に中間生成物1、炭酸エステル、塩化チオニルなどを高温条件下でエステル化反応させることにより、中間生成物2が得られ、さらに過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤を用いて中間生成物2を酸化することにより、化合物7が得られる。
【0036】
好ましい実施例において、前記電解質塩は、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiBOB、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiDFOB、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2F)2、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiAlCl4、リチウムクロロボラン、炭素数が4以下の低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム及びリチウムイミドから選択される少なくとも1種である。具体的には、電解質塩は、LiBF4、LiClO4、LiAlF4、LiSbF6、LiTaF6、LiWF7などの無機電解質塩;LiPF6などのフルオロリン酸電解質塩類;LiWOF5などのタングステン酸電解質塩類;HCO2Li、CH3CO2Li、CH2FCO2Li、CHF2CO2Li、CF3CO2Li、CF3CH2CO2Li、CF3CF2CO2Li、CF3CF2CF2CO2Li、CF3CF2CF2CF2CO2Liなどのカルボン酸電解質塩類;CH3SO3Liなどのスルホン酸電解質塩類;LiN(FCO2)2、LiN(FCO)(FSO2)、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、環状1,2-パーフルオロエタンジスルホンイミドリチウム、環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホンイミドリチウム、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)などのイミド電解質塩類;LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3などのメチル電解質塩類;リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェートなどのシュウ酸電解質塩類;及びLiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2などのフッ素含有有機電解質塩類等であってもよい。
【0037】
通常、電解液中の電解質塩は、リチウムイオンの移動単位であり、電解質塩の濃度はリチウムイオンの移動速度に直接影響を与え、リチウムイオンの移動速度は負極の電位変化に影響を与える。電池の急速充電過程において、負極電位の急激低下によるリチウムデンドライトの形成が電池にセキュリティリスクをもたらすことを防止するとともに、電池のサイクル容量の減衰が速すぎることを防止するために、リチウムイオンの移動速度をできるだけ速くする必要がある。好ましくは、前記電解質塩の電解液中の総濃度は、0.5mol/L~2.0mol/L、0.5mol/L~0.6mol/L、0.6mol/L~0.7mol/L、0.7mol/L~0.8mol/L、0.8mol/L~0.9mol/L、0.9mol/L~1.0mol/L、1.0mol/L~1.1mol/L、1.1mol/L~1.2mol/L、1.2mol/L~1.3mol/L、1.3mol/L~1.4mol/L、1.4mol/L~1.5mol/L、1.5mol/L~1.6mol/L、1.6mol/L~1.7mol/L、1.7mol/L~1.8mol/L、1.8mol/L~1.9mol/L、又は1.9mol/L~2.0mol/Lであってもよく、さらに好ましくは0.6mol/L~1.8mol/L、0.7mol/L~1.7mol/L、又は0.8mol/L~1.5mol/Lであってもよい。
【0038】
いくつかの実施例において、前記非水電解液は、補助添加剤をさらに含む。前記補助添加剤は、環状硫酸エステル系化合物、スルトン系化合物、環状カーボネート系化合物、リン酸エステル系化合物、ホウ酸エステル系化合物及びニトリル系化合物のうちの少なくとも1種を含む。
好ましい実施例において、前記環状硫酸エステル系化合物は、硫酸エチレン、硫酸1,3-プロピレン、又は4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2-オキシドから選択される少なくとも1種である。
前記スルトン系化合物は、メタンジスルホン酸メチレン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、又は1-プロペン1,3-スルトンから選択される少なくとも1種である。
前記環状カーボネート系化合物は、ビニルエチレンカボネート、フルオロエチレンカーボネート、又は構造式2で表される化合物から選択される少なくとも1種である。
構造式2
前記構造式2において、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1-C5から選択される1種である。
前記リン酸エステル系化合物は、トリス(トリメチルシラン)ホスフェート、構造式3で表される化合物から選択される少なくとも1種である。
構造式3
前記構造式3において、R
31、R
32、R
32はそれぞれ独立してC1-C5の飽和炭化水素基、C1-C5の不飽和炭化水素基、C1-C5のハロゲン化炭化水素基、-Si(C
mH
2m+1)
3から選択され、mは1~3の自然数であり、かつR
31、R
32、R
33のうちの少なくとも1つは不飽和炭化水素基である。
【0039】
好ましい実施例において、前記不飽和リン酸エステル系化合物は、トリス(トリメチルシラン)ホスフェート、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパルギルメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、ジプロパルギルトリフルオロメチルホスフェート、ジプロパルギル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ジプロパルギルヘキサフルオロイソプロピルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、ジアリルトリフルオロメチルホスフェート、ジアリル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジアリル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートから選択される少なくとも1種であってもよい。
【0040】
前記ホウ酸エステル系化合物は、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)から選択される。
前記ニトリル系化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ヘキサントリカルボニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバシン酸ジニトリルから選択される1種又は複数種である。
【0041】
別の実施例において、前記補助添加剤は、電池特性を改善できる他の添加剤をさらに含んでもよい。例えば、電池の安全性を向上できる添加剤として、フルオロホスフェート、シクロホスファゼンなどの難燃剤、又はtert-アミルベンゼン、tert-ブチルベンゼンなどの過充電防止添加剤が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施例において、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記補助添加剤の添加量は0.01%~30%である。
【0043】
なお、特に明記のない限り、非水電解液中の前記補助添加剤のうちのいずれか1種の添加量は、10%以下、好ましくは、0.1-5%、さらに好ましくは、0.1%~2%である。具体的には、前記補助添加剤のうちのいずれか1種の添加量は、0.05%、0.08%、0.1%、0.5%、0.8%、1%、1.2%、1.5%、1.8%、2%、2.2%、2.5%、2.8%、3%、3.2%、3.5%、3.8%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、7.8%、8%、8.5%、9%、9.5%、10%であってもよい。
【0044】
いくつかの実施例において、補助添加剤がフルオロエチレンカーボネートから選択される場合、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記フルオロエチレンカーボネートの添加量は、0.05%~30%である。
【0045】
いくつかの実施例において、前記溶媒は、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及びカルボン酸エステル系溶媒のうちの1種又は複数種を含む。
【0046】
いくつかの実施例において、エーテル系溶媒は、環状エーテル又は鎖状エーテルを含み、好ましくは炭素数3~10の鎖状エーテル及び炭素数3~6の環状エーテルである。環状エーテルとして、具体的には、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,4-ジオキサン(DX)、クラウンエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-CH3-THF)、2-トリフルオロメチルテトラヒドロフラン(2-CF3-THF)のうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。前記鎖状エーテルは、具体的には、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルであってもよいが、これらに限定されない。鎖状エーテルは、リチウムイオンとの溶媒化能力が高く、イオン解離性を向上できるため、粘性が低く、高イオン伝導率を付与可能なジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンが特に好ましい。エーテル系化合物は、単独で使用してもよく、任意の組み合わせ及び比率で2種以上を組み合わせて使用してもよい。エーテル系化合物の添加量は特に制限されず、本発明の高度圧縮リチウムイオン電池の効果を大きく損なうことのない範囲内であれば任意である。非水溶媒体の体積を100%とすると、体積比は、通常1%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。また、体積比は、通常30%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。2種以上のエーテル系化合物を組み合わせて使用する場合、エーテル系化合物の総量を上記の範囲とすればよい。エーテル系化合物の添加量が上述した好ましい範囲内である場合、鎖状エーテルによるリチウムイオン解離度の向上、及び粘度低下によるイオン伝導率の改善効果が確保されやすい。また、負極活物質が炭素材料である場合、鎖状エーテルとリチウムイオンの共インターカレーション現象の発生を抑制できるため、入出力特性及び充放電速度特性が適切な範囲になることができる。
【0047】
いくつかの実施例において、ニトリル系溶媒は、具体的には、アセトニトリル、グルタロニトリル、マロノニトリルのうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。
【0048】
いくつかの実施例において、炭酸エステル系溶媒は、環状炭酸エステル又は鎖状炭酸エステルを含む。環状炭酸エステルは、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、ブチレンカーボネート(BC)のうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。鎖状炭酸エステルは、具体的には、炭酸ジメチル(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)のうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。環状炭酸エステルの含有量は、特に制限されず、本発明のリチウムイオン電池の効果を大きく損なうことのない範囲内であれば任意であるが、1種を単独で使用する場合、含有量の下限について、非水電解液の溶媒の総量に対して、体積比は、通常3%以上、好ましくは5%以上である。この範囲に設定することにより、非水電解液の誘電率の低下による電気伝導率の低下が回避され、非水電解質電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲にすることが容易になる。また、上限について、体積比は、通常90%以下、好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。この範囲に設定することにより、非水電解液の耐酸化/還元性が向上するため、高温保存時の安定性の向上に有利である。鎖状炭酸エステルの含有量は特に制限されず、非水電解液の溶媒総量に対して、体積比は、通常15%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。また、体積比は、通常90%以下、好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。鎖状炭酸エステルの含有量をこの範囲に設定することにより、非水電解液の粘度を適切な範囲にすることが容易になり、イオン伝導率の低下が抑制され、非水電解質電池の出力特性が良好な範囲になりやすい。2種以上の鎖状炭酸エステルを組み合わせて使用する場合、鎖状炭酸エステルの総量は上記の範囲を満たせばよい。
【0049】
いくつかの実施例において、好ましくはフッ素原子を有する鎖状炭酸エステル系(以下、「フッ素化鎖状炭酸エステル」と略記する)を使用してもよい。フッ素化鎖状炭酸エステルが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状炭酸エステルが複数のフッ素原子を有する場合、これらのフッ素原子は同一の炭素に結合してもよく、異なる炭素に結合してもよい。フッ素化鎖状炭酸エステルとして、フッ素化炭酸ジメチル誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体などが挙げられる。
【0050】
カルボン酸エステル系溶媒は、環状カルボン酸エステル及び/又は鎖状カルボン酸エステルを含む。環状カルボン酸エステルの例として、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトンのうちの1種又は複数種が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例として、例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(EP)、酢酸ブチル、プロピオン酸プロピル(PP)、プロピオン酸ブチルのうちの1種又は複数種が挙げられる。
【0051】
いくつかの実施例において、スルホン系溶媒は、環状スルホン及び鎖状スルホンを含む。好ましくは、環状スルホンである場合、通常、炭素数3~6、好ましくは炭素数3~5の化合物である。鎖状スルホンである場合、通常、炭素数2~6、好ましくは炭素数2~5の化合物である。スルホン系溶媒の添加量は特に制限されず、本発明のリチウムイオン電池の効果を大きく損なうことのない範囲内であれば任意である。非水電解液の溶媒の総量に対して、体積比は、通常0.3%以上、好ましくは体積比は0.5%以上、さらに好ましくは体積比は1%以上である。また、体積比は、通常40%以下、好ましくは体積比は35%以下、さらに好ましくは体積比は30%以下である。2種以上のスルホン系溶媒を組み合わせて使用する場合、スルホン系溶媒の総量は上記の範囲を満たせばよい。スルホン系溶媒の添加量が上記の範囲内である場合、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0052】
好ましい実施例において、前記溶媒は、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの混合物である。
【0053】
いくつかの実施例において、前記正極は、正極集電体をさらに含む。前記正極材料層は、前記正極集電体の表面に被覆される。なお、本発明の正極における正極集電体以外の部分は、正極材料層と呼ばれる。
【0054】
前記正極集電体は、電子伝導可能な金属材料から選択される。好ましくは、前記正極集電体は、Al、Ni、スズ、銅、ステンレス鋼のうちの1種又は複数種を含む。より好ましい実施例において、前記正極集電体は、アルミ箔から選択される。
【0055】
いくつかの実施例において、前記正極材料層は、正極バインダー及び正極導電剤をさらに含む。前記正極活物質と、前記正極バインダーと、前記正極導電剤とを混合することで前記正極材料層が得られる。
【0056】
いくつかの実施例において、前記正極バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペンの共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン及びポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂;アクリル酸系樹脂;及びスチレン・ブタジエンゴムのうちの1種又は複数種を含む。
【0057】
いくつかの実施例において、前記正極導電剤は、金属導電剤、炭素系材料、金属酸化物系導電剤、複合導電剤のうちの1種又は複数種を含む。具体的には、金属導電剤は、銅粉、ニッケル粉、銀粉などの金属であってもよい。炭素系材料は、導電性黒鉛、導電性カーボンブラック、導電性炭素繊維又はグラフェンなどの炭素系材料であってもよい。金属酸化物系導電剤は、酸化スズ、酸化鉄、酸化亜鉛などであってもよい。複合導電剤は、複合粉末、複合繊維などであってもよい。より具体的には、導電性カーボンブラックは、アセチレンブラック、350G、ケッチェンブラック、カーボンファイバー(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNTs)のうちの1種又は複数種であってもよい。
【0058】
いくつかの実施例において、前記負極は、負極材料層を含む。前記負極材料層は、負極活物質を含む。前記負極活物質は、ケイ素系負極、炭素系負極及びスズ系負極における1種又は複数種を含む。
【0059】
好ましい実施例において、前記炭素系負極は、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、メソカーボンミクロスフェアなどを含んでもよい。前記黒鉛は、天然黒鉛、人工黒鉛、アモルファスカーボン、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛、樹脂被覆黒鉛のうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。前記天然黒鉛は、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料として球状化、緻密化などの処理を行って得られた黒鉛粒子等であってもよい。前記人工黒鉛は、コールタールピッチ、石炭系重質原油、常圧残油、石油系重質原油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、フルフリルアルコール樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂などの有機物を高温下で黒鉛化することにより製造することができる。前記アモルファスカーボンは、タール、ピッチなどの黒鉛化されやすい炭素前駆体を原料とし、黒鉛化が発生しない温度範囲(400~2200℃の範囲)で1回以上の熱処理を行って得られたアモルファスカーボン粒子;樹脂などの黒鉛化されにくい炭素前駆体を原料として熱処理を行って得られたアモルファスカーボン粒子であってもよい。前記炭素被覆黒鉛は、天然黒鉛及び/又は人工黒鉛と、タール、ピッチ、樹脂などの有機化合物である炭素前駆体とを混合し、400~2300℃の範囲内で1回以上の熱処理を行って得られた天然黒鉛及び/又は人工黒鉛をコア黒鉛とし、アモルファスカーボンでそれを被覆して得られた炭素黒鉛複合体であってもよい。炭素黒鉛複合体は、コア黒鉛表面の全体又は一部にアモルファスカーボンが被覆される形態であってもよく、前記炭素前駆体に由来の炭素をバインダーとして複数の一次粒子を複合してなる形態であってもよい。また、ベンゼン、トルエン、メタン、プロパン、芳香族揮発性成分などの炭化水素ガスと、天然黒鉛及び/又は人工黒鉛とを高温下で反応させ、炭素を黒鉛表面に堆積させることで炭素黒鉛複合体を製造してもよい。前記黒鉛被覆黒鉛は、天然黒鉛及び/又は人工黒鉛と、タール、ピッチ、樹脂などの黒鉛化されやすい有機化合物の炭素前駆体とを混合し、約2400~3200℃の範囲で1回以上の熱処理を行って得られた天然黒鉛及び/又は人工黒鉛をコア黒鉛とし、黒鉛化物でこのコア黒鉛の表面の全体又は一部を被覆することにより、黒鉛被覆黒鉛を製造することができる。前記樹脂被覆黒鉛は、天然黒鉛及び/又は人工黒鉛と樹脂などとを混合し、400℃未満の温度で乾燥させて得られた天然黒鉛及び/又は人工黒鉛をコア黒鉛とし、樹脂などでこのコア黒鉛を被覆することにより製造することができる。前記タール、ピッチ、樹脂などの有機化合物として、石炭系重質原油、直留系重質原油、分解系石油重質原油、芳香族炭化水素、N環化合物、S環化合物、ポリフェニル、有機合成高分子、天然高分子、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から選択される炭素化可能な有機化合物などが挙げられる。
【0060】
好ましい実施例において、前記ケイ素系負極は、ケイ素材料、ケイ素の酸化物、ケイ素炭素複合材料及びケイ素合金材料などを含んでもよい。前記ケイ素系材料の添加量は、0より大きく30%未満である。好ましくは、前記ケイ素系材料の添加量の上限値は10%、15%、20%又は25%であり、前記ケイ素系材料の添加量の下限値は5%、10%又は15%である。前記ケイ素材料は、シリコンナノ粒子、シリコンナノワイヤー、シリコンナノチューブ、シリコン薄膜、3D多孔質シリコン、中空多孔質シリコンのうちの1種又は複数種である。
【0061】
好ましい実施例において、前記スズ系負極は、スズ、スズ-炭素、スズ-酸素、スズ系合金、スズ金属化合物を含んでもよい。前記スズ系合金とは、スズとCu、Ag、Co、Zn、Sb、Bi及びInのうちの1種又は複数種とからなる合金を指す。
【0062】
いくつかの実施例において、前記負極は、負極集電体をさらに含む。前記負極材料層は、前記負極集電体の表面に被覆される。なお、本発明の負極における負極集電体以外の部分は、負極材料層と呼ばれる。
【0063】
前記負極集電体は、電子伝導可能な金属材料から選択される。好ましくは、前記負極集電体は、Al、Ni、スズ、銅、ステンレス鋼のうちの1種又は複数種を含む。より好ましい実施例において、前記負極集電体は、アルミ箔から選択される。
【0064】
いくつかの実施例において、前記負極材料層は、負極バインダー及び負極導電剤をさらに含む。前記負極活物質と、前記負極バインダーと、前記負極導電剤とを混合することで前記負極材料層が得られる。前記負極バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペンの共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン及びポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂;アクリル酸系樹脂;ヒドロキシメチルセルロースナトリウム;及びスチレン・ブタジエンゴムのうちの1種又は複数種を含む。
【0065】
前記負極導電剤は、導電性カーボンブラック、導電性カーボンボール、導電性黒鉛、導電性炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン又は還元酸化グラフェンのうちの1種又は複数種を含む
【0066】
いくつかの実施例において、前記電池は、セパレータをさらに含む。前記セパレータは、前記正極と前記負極との間に位置する。
【0067】
前記セパレータは、既存の通常セパレータ、例えば、ポリマーセパレータ、不織布などであってもよく、単層PP(ポリプロピレン)、単層PE(ポリエチレン)、2層PP/PE、2層PP/PP及び3層PP/PE/PPなどのセパレータを含むが、これらに限定されない。
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0069】
以下の実施例で使用される構造式1で表される化合物を下表1に示す。
<表1>
【0070】
<表2>
表2:実施例及び比較例の各パラメータの設計
【0071】
実施例1
本実施例は、本発明に係る電池及びその製造方法を説明するためのものであり、以下の操作ステップを含む。
1)電解液の調製:エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを質量比EC:EMC=3:7で混合し、次に、モル濃度が1mol/Lとなるまでヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を加え、次に、添加剤を加えた。電解液における各添加剤の含有量を表2に示す。添加剤の含有量は、電解液の総質量に対する百分率で表される。
【0072】
2)正極板の製造
93:4:3の質量比で正極活物質、導電性カーボンブラックSuper-P及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極スラリーを得た。スラリーをアルミ箔の両面に均一に塗布し、乾燥、圧延及び真空乾燥を行い、超音波溶接機を用いてアルミ製引出線を溶接することにより、正極板を得た。正極板の厚さは80~150μmであった。正極活物質の選択及び正極材料層の厚さを表2に示す。
【0073】
3)負極板の製造
94:1:2.5:2.5の質量比で負極活物質改質天然黒鉛、導電性カーボンブラックSuper-P、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を混合した後、脱イオン水中に分散させて負極スラリーを得た。スラリーを銅箔の両面に塗布し、乾燥、ローラプレスを行い、超音波溶接機を用いてニッケル製引出線を溶接することにより、負極板を得た。
【0074】
4)セルの製造
正極板と負極板との間に厚さが20μmのポリエチレン微細孔膜をセパレータとして設け、次に、正極板、負極板及びセパレータからなるサンドイッチ構造を巻き取り、巻取体を押し潰した後、アルミプラスチックフィルムに入れ、正負極の引出線をそれぞれ引出した後、アルミプラスチックフィルムをホットプレスしてシーリングすることにより液注入されるセルを得た。
【0075】
5)セルの液注入及び形成
露点温度が-40℃以下に制御されたグローブボックスにおいて、調製された電解液をセルにおける空隙が満たされる量で注液孔よりセルに注入した。次に、以下のステップに従って形成を行った。0.05Cで180min定電流充電し、0.1Cで180min定電流充電し、24hr静置した後、シェーピングしてシールし、さらにカットオフ電圧となるまで0.2Cの電流で定電流充電し、常温で24hr静置した後、3.0Vとなるまで0.2Cの電流で定電流放電した。
【0076】
実施例2~49
実施例2~49は、本発明に係る電池及びその製造方法を説明するためのものであり、表2に示す電解液添加成分及び正極材料層以外、実施例1の操作ステップと同じである。
【0077】
比較例1~21
比較例1~21は、本発明に係る電池及びその製造方法を説明するためのものであり、表2に示す電解液添加成分及び正極材料層以外、実施例1の操作ステップと同じである。
【0078】
特性試験
上記のように製造されたリチウムイオン電池について以下の特性試験を行った。
高温サイクル特性試験
45℃で、実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を1C倍率で充電し、1C倍率で放電し、リチウムイオン電池の初期容量及び初期インピーダンスを記録し、リチウムイオン電池の容量が初期容量の80%に減衰するまでフル充電/フル放電サイクル試験を行った。サイクル数を記録した。
【0079】
(1)実施例1~32及び比較例1~14で得られた試験結果を表3に示す。
<表3>
【0080】
表3の試験結果から分かるように、正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mが関係式0.1≦(H/T)×M/1000≦10かつ80≦H≦150、0.005≦T≦0.8、0.05≦M≦3を満たす場合、リチウムイオン電池の高温サイクル数が効果的に増加し、リチウムイオン電池の高圧及び高温条件下での使用寿命が延長する。
【0081】
実施例1~32及び比較例4、10、11、13、14の試験結果から分かるように、正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mがその範囲制限を満たす場合でも、(H/T)×M/1000値が大きすぎるまたは小さすぎると、リチウムイオン電池は、良好な高温サイクル特性を有さなかった。また、比較例5、7~8、12の試験結果からわかるように、同様に、(H/T)×M/1000値が0.1~10であったが、正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mがその範囲を満たさなかったため、電池の高温サイクル特性を向上できなかった。これは、正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mの間には、強い関連性があることを示している。正極活物質にE元素をドーピングすることにより、正極活物質の高電圧条件下での安定性を効果的に向上でき、構造式1で表される化合物が正極活物質の表面で分解して形成した界面膜は正極活物質表面のE元素と結合する作用を有し、E元素との結合により界面膜の緻密性及び安定性が向上し、正極活物質の高温サイクル過程における構造崩壊が効果的に抑制され、金属イオンの溶出が抑制され、非水電解液溶媒の正極活物質表面での持続分解が回避されるとともに、この界面膜は良好なイオン伝導能力を有し、電池のインピーダンスを効果的に低下できる。関係式0.1≦(H/T)×M/1000≦10により正極材料層の厚さH、正極材料層中のE元素の質量百分率含有量T、非水電解液中の構造式1で表される化合物の質量百分率含有量Mの範囲を制御及び制限することにより、非水電解液中の構造式1で表される化合物と正極活物質の浸潤が効果的に抑制されるとともに、正極活物質表面は構造式1で表される化合物に接触するのに十分なE元素を有し、各要素の電池高温サイクル特性に対する影響を総合的に利用し、高圧高温サイクル特性に優れたリチウムイオン電池が得られる。
【0082】
実施例1、5及び20の試験結果から分かるように、正極活物質にドーピングされたE元素の含有量が低すぎる場合、高圧での正極活物質の構造安定性が低下し、界面膜の品質に影響を与え、電池サイクル時に構造破壊及びガス発生などの問題があり、電池サイクル特性に影響を与える。実施例1、2及び27の試験結果から分かるように、正極活物質にドーピングされたE元素の含有量が高すぎる場合、リチウムイオンの拡散が低下し、電池のインピーダンスが増大し、電池容量が減少する。
【0083】
実施例1、14~16及び25の試験結果から分かるように、構造式1で表される化合物の含有量の増加に伴い、電池サイクル特性は、最初良くなったが、次に悪くなった。つまり、本発明に記載の構造式1で表される化合物は、電解液中の添加量が0.5%である場合、電池全体の性能を向上させることができるが、含有量が低すぎると、高電圧下で安定かつ緻密な界面膜を形成しにくくなり、電解液の酸化分解が速くなり、含有量が高すぎると、正極片中の残留量も増加し、過剰な構造式1で表される化合物により電池内部の副反応が増加し、電池のインピーダンスが増大し、電池サイクルなどの特性が劣化する。
【0084】
実施例26~32の試験結果から分かるように、異なる元素で正極活物質をドーピングする際に、関係式0.1≦(H/T)×M/1000≦10及びH値、T値、M値の範囲に対する限定条件を満たす場合、リチウムイオン電池の高温サイクル数はいずれも比較的大きく向上するため、異なる元素でドーピングされた正極活物質は、いずれも構造式1で表される化合物と良好な相乗効果を有することを示している。
【0085】
(2)実施例1、33~38及び比較例15~21で得られた試験結果を表4に示す。
<表4>
【0086】
比較例15~21の試験結果から分かるように、動作電圧の増加に伴い、電池の初期容量が大きくなったが、正極材料の構造破壊の程度も増加し、電池の高温サイクル特性が顕著に低下した。実施例1及び33~28の試験結果から分かるように、構造式1で表される化合物を添加するとともに、関係式0.1≦(H/T)×M/1000≦10により制限することにより、正極活物質の表面に耐圧及び耐高温の界面膜が形成されるため、動作電圧の向上による電池高温サイクル特性に対する悪影響が効果的に抑制され、高容量と長使用寿命が両立するリチウムイオン電池が得られる。
【0087】
(3)実施例1、39~45で得られた試験結果を表5に示す。
<表5>
【0088】
表5の試験結果から分かるように、実施例1、39~45では、異なる構造式1で表される化合物を使用する場合、いずれもH値、T値及びM値に対する範囲限定は満たされている。これは、異なる構造式1で表される化合物のいずれにも含まれる環状硫黄含有基が正極活物質の表面界面膜の形成において決定的な役割を果たしたことを示している。分解によって生成したS元素が多く含まれる不動態膜とE元素でドーピングされた正極活物質は良好な結合強度を有するため、電解質イオンのデインターカレーション効率を向上させ、非水電解液の持続分解を抑制するためであると推測される。異なる構造式1で表される化合物は、いずれもドーピングされた正極活物質と良好な結合効果を有することにより、いずれも電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0089】
(4)実施例1、46~49で得られた試験結果を表6に示す。
<表6>
【0090】
表6の試験結果から分かるように、本発明に係るリチウムイオン電池系にPS(1,3-プロパンスルトン)、DTD(硫酸エチレン)、トリプロパルギルホスフェート、スクシノニトリルなどを補助添加剤として添加することにより、電池のサイクル特性がさらに向上する。構造式1で表される化合物と、添加されたPS(1,3-プロパンスルトン)、DTD(硫酸エチレン)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、トリプロパルギルホスフェート又はスクシノニトリルとの間にはある程度の共同分解反応が存在し、共同で電極表面の界面膜の形成に関与できるとともに、得られる界面膜が電極材料の安定性を向上できることで高電池の高温サイクル安定性を向上できるためであると推測される。
【0091】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではない。本発明の思想及び原則の範囲内に行われる全ての修正、同等置換及び改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。