(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】眼疾患の予防または治療用点眼組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4439 20060101AFI20240411BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240411BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P27/02
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2022529470
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 KR2020016538
(87)【国際公開番号】W WO2021101344
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0150781
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513217229
【氏名又は名称】サムジン ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】517423811
【氏名又は名称】アプタバイオ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APTABIO THERAPEUTICS INC.
【住所又は居所原語表記】Tower-A0504,13,Heungdeok 1-ro,Giheung-gu,Yongin-si,Gyeonggi-do 16954,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キ,ミンヒョ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジンチョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミファ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドンハ
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ソンファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,スジン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1821593(KR,B1)
【文献】特開2013-082751(JP,A)
【文献】特開2002-241265(JP,A)
【文献】特開平05-213757(JP,A)
【文献】Lu, Guang W. et al.,Recent Patents on Drug Delivery & Formulation,2010年,Vol.4, No.1,p.49-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として0.1w/v%~2.0w/v%含み、
可溶化剤および緩衝液を含むpH範囲が3.5~8.5である、
脈絡膜血管新生(CNV)の予防または治療用点眼剤。
[化学式I]
【請求項2】
下記化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として0.1w/v%~2.0w/v%含み、
可溶化剤および緩衝剤を含み、pH範囲が4.5~8.5である、
脈絡膜血管新生(CNV)の予防または治療用点眼剤。
[化学式I]
【請求項3】
前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩である、請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項4】
前記可溶化剤の濃度は、0.1w/v%~25.0w/v%である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項5】
前記可溶化剤は、界面活性剤、溶剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項6】
前記可溶化剤は、1種以上の界面活性剤を含むものである、請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項7】
脈絡膜血管新生(CNV)の予防または治療用点眼剤の製造のための、下記化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として0.1w/v%~2.0w/v%含み、可溶化剤および緩衝剤を含み、3.5~8.5のpH範囲を有する点眼組成物の使用。
[化学式I]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩から選択される有効成分を含む点眼製剤に関し、本発明に係る点眼剤は、保存安定性および安全性に優れ、眼疾患の予防または治療のために眼球内へ直接注射することなく点眼だけで前眼部はもちろん後眼部まで有効成分が到達し、眼疾患の予防または治療に優れた効力を示す。
【背景技術】
【0002】
本発明が目的とする眼疾患は、眼または眼の一部もしくは眼の特定領域に影響を及ぼしたり関与したりする疾患である。眼は、眼球および眼球を構成する組織や体液、眼輪筋、および眼球内の視神経または眼球に隣接する視神経部分を含む。前眼部疾患は、水晶体嚢(lens capsule)の後壁または毛様体筋の前方に位置する眼輪筋、眼瞼、または眼球組織や体液などの前眼領域および部位に影響を及ぼしたり関与したりする疾患である。つまり、前眼部疾患は、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房、水晶体または水晶体嚢、および前眼領域または部位を通る血管および神経に一次的に影響を及ぼしたり関与したりする。そして、後眼部疾患は、脈絡膜または強膜、硝子体、硝子体房(vitreous chamber)、網膜、視神経、および後眼領域または部位を通る血管および神経などの後眼領域および部位に一次的に影響を及ぼしたり関与したりする疾患である。したがって、黄斑変性(非滲出型加齢黄斑変性および滲出型加齢黄斑変性などの加齢黄斑変性(Age-related macular degeneration、AMD))、脈絡膜血管新生(Choroidal neovascularization)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、黄斑浮腫(Macular edema、嚢胞性黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫)、ベーチェット病(Behcet's disease)、網膜障害(Retinal disorders)、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy、増殖性糖尿病性網膜症を含む)、網膜動脈閉塞症(Retinal arterial occlusive disease)、網膜静脈閉塞症(Retinal vein occlusion)、ブドウ膜炎、網膜剥離、後眼部の外傷、レーザー治療により引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、光線力学的療法または光凝固術により引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、網膜色素変性症、緑内障、および緑内障により引き起こされるか、または影響を受ける疾患が後眼部疾患に含まれ得る。本明細書において、緑内障により引き起こされるか、または影響を受ける疾患は、緑内障に含まれるものとして定義される。
【0003】
一方、本発明の組成物による主な調節機構に含まれる血管新生(Angiogenesis)は、既存の微細血管から新しい血管が発芽し、この発芽した血管が増殖して新しい毛細血管が生成される過程をいう。血管新生は、成長因子、サイトカイン、およびその他の生理学的分子などの様々な血管新生促進刺激のみならず低酸素症および低pHなどのその他の因子に反応して発生する高度の調節プロセスである。血管新生は、人体において、胚の発生、胎児の成長、胎盤の増殖、黄体形成、組織再生、創傷治癒の際に非常に重要で正常な過程である。しかし、血管新生が異常に増加したり正常に調節されなかったりすると、血管新生そのものが病因となって疾患を起こすことがある。血管新生に関連する代表的な疾患としては、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy)、未熟児網膜症(Retinopathy of prematurity;ROP)、加齢黄斑変性(Age-related macular degeneration)、角膜血管新生、血管新生緑内障、斑点の変性、翼状片(Pterygium)、網膜色素変性症(Retinitis pigmentosa)、顆粒性結膜炎などの眼疾患がある。眼球では、血管新生メカニズムが抑制されなければならないが、これが間違ったシグナルにより活性化してしまうと、深刻な眼疾患を起こし、後天性失明の主な原因になることもある。特に網膜は、他の筋肉よりも酸素消費量が多く、活性酸素に対する反応が速い器官であり、高濃度のブドウ糖は、活性酸素の活性化によりVEGFの発現を促進することで眼球損傷を進行および加速化させることが報告されている。血管新生に関連する眼疾患の治療法としては、レーザー治療、光凝固術、冷凍凝固術、そして光線力学的療法など、手術による治療法があるが、すべての患者に適用して施術できないという大きな制約があるだけでなく、成功率も低いことが知られている。
【0004】
眼球は、複雑な組織で構成されており、組織間の薬物送達を妨げる様々な要因により、有効成分を点眼するだけで眼球組織内に薬理活性成分を送達するには限界がある。このため、角結膜関連疾患治療剤以外の眼疾患に対しては、点眼剤として市販される製品は非常に限定的であり、特に、後眼部疾患の治療のために用いられている薬物は、主に眼球内注射(intravitreal injection)によって投与されるが、一回の投与量に制限がある上、繰り返される注射により患者の順応度が低く、出血、痛み、感染、網膜剥離などの危険性が非常に大きい。これらの理由から後眼部疾患は、患者の順応度が顕著に低く治療費用への負担も非常に大きくて、注射ではなく点眼のみで目標とする組織まで薬物が送達でき、治療効果を示すことのできる新しい形態の組成物が至急求められている状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩から選択される有効成分を含む点眼製剤に関し、本発明に係る点眼剤は、安定性が良好で経時的変化に対して品質が変わることなく安定しており、眼疾患の治療のために眼球内へ直接注射することなく点眼だけで前眼部はもちろん後眼部を含む目標部位まで有効成分が到達し、患者の服薬順応度が高いため、後眼部疾患の治療剤として有用である。
【0006】
特許文献1(大韓民国登録特許10-1280160号)には、骨粗鬆症の予防および治療用組成物が記載されており、特許文献2(大韓民国登録特許10-1633957号)には、腎疾患の予防または治療用組成物が記載されており、有効成分として本発明のピラゾール系化合物が記載されている。しかし、ピラゾール系化合物(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール)の点眼剤としての使用可能性については全く言及されていない。また、先行文献に記載されている骨粗鬆症および腎疾患の治療に点眼剤を使用した例は皆無である。本発明は、一実施形態による点眼組成物が眼内血管新生を効率的に抑制することにより眼疾患の予防または治療用点眼剤として使用可能であることを確認した。これにより、本発明に係る点眼組成物が先行文献に明示された用途以外に眼疾患の治療にも適用可能であることを確認した。
【0007】
既存のすべての網膜疾患治療剤が、深刻な副作用にもかかわらず眼球内注射による投与方法を選択しているのは、薬物が点眼によって後眼部の網膜まで到達し難いからである。本発明では、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の安定性および安全性を確保した液状の点眼組成物を開発し、最終的には動物試験により本発明の組成物が点眼投与だけでも眼球内注射による既存の治療剤よりも網膜の治療にさらに優れた効果を有することを開示している。結論として、本発明の化合物(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール)に対する安定性および安全性の確保と点眼による本化合物の後眼部送達およびin vivo評価による動物治療効果は、研究事例が全くなく、本発明によって初めて証明された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するための方法は以下の通りである。本発明で開示された様々な要素の全ての組み合わせが本発明の範囲に属するが、下記具体的な説明により本発明の範囲が限定されるものでなない。
【0009】
本発明は、下記化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、可溶化剤および緩衝剤を含み、pH範囲が3.5~8.5である眼疾患の予防または治療用点眼剤を提供する。前記眼疾患は、特に、後眼部疾患であり得る。例えば、本発明は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール[化学式1]またはその薬学的に許容される塩を有効成分として0.1w.v%~2.0w/v%含み、可溶化剤および緩衝剤を含み、pH範囲が3.5~8.5または4.5~8.5である、眼疾患または後眼部疾患の治療用点眼剤を提供する。
[化学式I]
【0010】
一実施形態による点眼剤は、本発明の有効成分である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を0.1w/v%以上、2.0w/v%以下で含んでもよい。一実施形態の点眼剤は、有効成分を0.1w/v%以上、2.0w/v%以下で含むため、眼に直接点眼しても十分な効力が発現されつつ、有効成分が十分に溶解でき、優れた安定性および安全性が達成され得る。以下、本明細書において「有効成分」は、特に言及しない限り、「3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩」を意味する。
【0011】
本発明において、薬学的に許容される塩は、医薬業界で通常用いられる塩を意味し、例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、およびマグネシウムなどで製造された無機イオン塩、塩酸、硝酸、リン酸、臭素酸、ヨウ素酸、過塩素酸、錫酸、および硫酸などで製造された無機酸塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、カルボン酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などで製造された有機酸塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸などで製造されたスルホン酸塩、グリシン、アルギニン、リジンなどで製造されたアミノ酸塩、およびトリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、ピリジン、ピコリンなどで製造されたアミン塩などがあるが、これらの塩によって本発明で意味する塩の種類が限定されるものではない。例えば、一実施形態において、薬学的に許容される塩は、塩酸塩であってもよい。
【0012】
本発明の組成物は、経口送達される組成物とは異なり、眼に適用される点眼組成物であるため、異物感および刺激感が少なく角結膜に損傷を与えないpH範囲で提供されるべきであり、本発明が目的とする後眼部組織の治療に有効性を示さなければならない。また、本発明の点眼組成物に含まれる3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールは、pHによって安定性が異なってくる活性物質であるため、薬物の化学的安定性を向上し、眼への刺激を最小限に抑え、薬物の後眼部送達のためにpH3.5~8.5で製造され、例えば、pH4.5~8.5で製造される。
【0013】
一実施形態による点眼剤は、可溶化剤を含んでもよい。一実施形態において、可溶化剤は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの溶解度を増大させるために用いられ、界面活性剤、溶剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。一実施形態の点眼剤は、界面活性剤のうちから1種以上を含んでもよく、溶剤のうちから1種以上を含んでもよい。一実施形態において、可溶化剤は、界面活性剤、溶剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上のものであってもよい。
【0014】
一実施形態の点眼剤は、前述の可溶化剤を含むため、有効成分が溶解しやすく、長期間保存しても析出しないなど、物理的安定性および化学的安定性が向上できる。一実施形態の点眼剤において、可溶化剤の濃度は、0.1w/v%~25.0w/v%であってもよい。一実施形態において、可溶化剤の種類は、特に限定されないが、例えば、以下の界面活性剤、溶剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。本発明の活性物質である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの水に対する溶解度は、約3.4μg/mLと測定される。したがって、一実施形態の点眼剤は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールを0.1%(1,000μg/mL)~2.0%(20,000μg/mL)まで溶解させるために可溶化剤を含んでもよい。
【0015】
本発明の可溶化剤のうち、界面活性剤は、水または水溶液に3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールを溶かした際に、有効成分と水溶液との界面張力を下げることで有効成分を溶かすために用いる添加剤であり、有効成分が水溶液の状態または溶剤と混合した状態で有効成分が容易に溶解し析出しないように安定化させる物質である。
【0016】
一実施形態の点眼剤において、界面活性剤の種類は、一実施形態の有効成分を安定化できるものであれば特に限定されず、当技術分野の通常の技術者であれば公知の界面活性剤の中から適切なものを選択して用いることができる。
【0017】
例えば、一実施形態の点眼剤は、界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0018】
例えば、一実施形態の点眼剤は、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Polysorbates)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(Myrj)、ソルビタンエステル(Span)、グリセロールモノステアレート、ノノキシノール、オクトシノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(Poloxamer)、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油(Cremophor)、シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピルベータデックスからなる群から選択される1種以上を含んでもよいが、実施形態がこれらに限定されるものではない。
【0019】
例えば、一実施形態の点眼剤は、界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油、ヒドロキシプロピルベータデックス、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を含んでもよいが、これに限定されない。
【0020】
例えば、一実施形態の点眼剤は、イオン性界面活性剤として、陰イオン性、陽イオン性、および両性イオン界面活性剤を含んでもよい。
【0021】
一実施形態の点眼剤は、例えば、陰イオン性界面活性剤として、スルフェート類(sulfates;alkyl sulfates,alkyl ether sulfates)、スルホネート類(sulfonates;docusates,alkyl benzene sulfonates)、カルボキシレート類(carboxylates;alkyl carboxylates-fatty acid salts,carboxylate fluoro surfactant)、およびホスフェート類(phosphates;alkyl aryl ether phosphates,alkyl ether phosphates)からなる群から選択される1種以上を含んでもよいが、これに限定されない。
【0022】
例えば、一実施形態の点眼剤は、陰イオン性界面活性剤として、アルキルスルフェートの一例であるラウリル硫酸ナトリウムを含んでもよい。例えば、一実施形態の点眼剤は、陽イオン性界面活性剤として、4級アンモニウム類およびピリジニウム類(quaternary ammonium and pyridinium cationic surfactants)からなる群から選択される1種以上を含んでもよいが、これに限定されず、一例として、ベンザルコニウム塩酸塩を含んでもよい。
【0023】
一実施形態の点眼剤は、両性イオン界面活性剤として、リン脂質類(phospholipids)から選択される1種以上を含んでもよいが、これに限定されず、一例として、レシチンを含んでもよい。
【0024】
本発明の可溶化剤のうち、溶剤は、液状として有効成分を分子またはイオン状態で均一に分散した混合物(溶液)となるように溶かすことのできる添加剤であって、水のない状態または水溶液の状態で界面活性剤とともに3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの溶解を増大させる物質である。
【0025】
一実施形態の点眼剤において、溶剤の種類は、一実施形態の有効成分を十分に溶解できるものであれば特に限定されず、当技術分野の通常の技術者であれば公知の溶剤の中から本発明に適したものを選択して使用することができる。
【0026】
例えば、一実施形態の点眼剤は、溶剤として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの水溶性グリコール、およびプロピレングリコールジアセテートなどの前記水溶性グリコールのエステル類、ヒマシ油、ラノリンオイル、ミネラルオイル、落花生油、ラノリンオイルなどの天然油、合成油、または半合成油、Capmul MCM NFなどの中鎖脂肪酸(カプリン酸およびカプリル酸)モノ-およびジ-グリセリン(Capmul MCM)、エタノール、フェニルエチルアルコール、カプリル酸トリグリセリド類、カプリン酸トリグリセリド類、およびカプリル酸カプリン酸トリグリセリド類の中から選択される1つ以上を含んでもよい。
【0027】
例えば、一実施形態において、溶剤は、ヒマシ油、エタノール、プロピレングリコール、フェニルエチルアルコール、プロピレングリコールジアセテート、グリセリン、中鎖脂肪酸(カプリン酸およびカプリル酸)モノ-およびジ-グリセリン(Capmul MCM)、およびこれらの混合物からなる群から選択してもよいが、これに限定されない。
【0028】
本発明において、緩衝剤とは、酸や塩基を加えても共通イオン効果により溶液の水素イオン指数が大きく変化するのを防ぐために用いられる医薬品添加剤を意味する。本発明の有効成分である3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールは、pHによって析出および類縁物質の発生程度、すなわち、物理化学的安定性が変わってくる物質であるため、本発明の組成物において3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールを安定化できる範囲のpHを維持するために緩衝剤を用いてもよい。
【0029】
一実施形態の点眼剤において、緩衝剤の種類は、一実施形態の有効成分を安定化できる範囲のpHを維持できるものであれば特に限定されず、当技術分野の通常の技術者であれば公知の緩衝剤の中から本発明に適したものを選択して使用することができる。
【0030】
例えば、一実施形態の緩衝剤は、弱酸とその共役塩基、または弱塩基にその共役酸を入れて作った緩衝溶液の形態で製造して用いてもよく、クエン酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、トリス塩緩衝液などの形態で調製して用いてもよいが、これに限定されない。具体的には、クエン酸緩衝溶液は、クエン酸および/またはその薬学的に許容される塩とクエン酸の共役塩基として用いられる酢酸、水酸化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、アンモニウム塩などを混合して用いてもよく、酢酸塩(酢酸アンモニウム)緩衝液は、酢酸および/またはその薬学的に許容される塩である酢酸アンモニウム、酢酸カリウムなどを用いて製造してもよく、リン酸塩緩衝液は、リン酸および/またはその薬学的に許容される塩と水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを混合して製造してもよく、ホウ酸塩緩衝液は、ホウ酸および/またはその薬学的に許容される塩と塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カリウムなどを混合して製造してもよく、トリス緩衝液は、2-アミノ-2ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールおよび/または塩化ナトリウムを含む塩酸塩、酢酸塩などを混合して製造してもよいが、これに限定されない。
【0031】
本発明の緩衝剤とともに組成物のpHを調整するために酸性化剤または塩基性化剤を用いてもよく、酸性化剤として、クエン酸、塩酸、リン酸、酢酸、硫酸などを用いてもよく、塩基性化剤として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウムなどを用いてもよいが、これに限定されない。
【0032】
また、本発明の点眼剤は、さらに、増粘剤および等張化剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含んでもよい。
【0033】
一実施形態の点眼剤が増粘剤を含む場合、増粘剤の種類は、特に限定されず、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、非晶質セルロース、でん粉誘導体を含む多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0034】
等張化剤は、点眼液の浸透圧が涙液と同様の浸透圧を維持できる程度の分量で添加してもよく、塩化ナトリウムを含む塩化物、マンニトールを含む糖類を用いてもよいが、これに限定されない。
【0035】
本発明において、目的とする眼疾患は、前眼部疾患および後眼部疾患を含み、例えば、後眼部疾患が選択され得る。前眼部疾患は、水晶体嚢(lens capsule)の後壁または毛様体筋の前方に位置する眼輪筋、眼瞼、または眼球組織や体液などの前眼領域および部位に影響を及ぼしたり関与したりする疾患である。前眼部疾患は、眼球乾燥症、角膜炎、結膜炎、強膜炎、白内障、瞼裂斑、結膜母斑、太田母斑、および角膜混濁(角膜タトゥー)からなる群から選択される1種以上であるか、またはその他の結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房、水晶体または水晶体嚢、および前眼領域またはその部位を通る血管および神経に関連する疾患からなる群から選択される1種以上であり得る。
【0036】
後眼部疾患は、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、未熟児網膜症(ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)、虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、ベーチェット病(Behcet's disease)、網膜障害(Retinal disorders)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、網膜炎、ブドウ膜炎、レーベル遺伝性視神経症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、血管新生緑内障、網膜血管新生および脈絡膜血管新生(CNV)、後眼部の外傷、レーザー治療により引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、光線力学的療法または光凝固術により引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、網膜色素変性症、緑内障および緑内障により引き起こされるか、または影響を受ける疾患からなる群から選択される1種以上であり得る。
【0037】
本発明の3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールを含む点眼剤は、優れた物理的安定性および化学的安定性を示すことが確認でき(試験例1)、優れた安全性を示し優れた点眼感が達成できることが確認できる(試験例2)。また、非臨床試験により、注射で投与せずに点眼投与するだけでも、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールが後眼部まで分布することが確認(試験例3および5)できた。また、代表的な後眼部疾患である黄斑変性および黄斑浮腫治療剤の開発に用いられるCNV誘発動物を用いて効力試験を行った結果、点眼だけでも優れた治療効果があることが確認できた(試験例3~5参照)。
【0038】
一方、黄斑変性および黄斑浮腫などの失明を伴う後眼部疾患の場合、眼球内注射の投与方法が唯一の治療方法として用いられているが、注射治療に対する患者の順応度が非常に低く、治療3年目以降からは周期的な眼球内注射投与がなされず、結局徐々に失明に至ることが知られている。このような疾患に対して、本発明の3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの点眼剤を適用すれば、眼球内に直接注射しなければならない従来の後眼部疾患治療剤の注射投与に対する恐怖感、痛み、出血、炎症、および低い順応度による失明など、様々な副作用を改善することができる。また、一実施形態による点眼剤は、患者自らが容易に投与できるという利点があるため、後眼部疾患を含む眼疾患患者に非常に有用である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の物理化学的安定性および安全性に優れた点眼剤を提供することができ、後眼部まで3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物を送達して優れた効力を発現することにより、注射投与なしでも前眼部疾患はもちろん後眼部疾患の治療に使用可能である。
【0040】
前記点眼組成物は、液状点眼剤として製造してもよいが、実施形態がこれに限定されるものではなく、製剤化方法によって軟膏剤、ゲル化剤などに製剤化することができる。
【0041】
本発明は、化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、可溶化剤および緩衝剤を含む点眼剤を、治療を必要とする対象体に投与するステップを含む眼疾患の予防または治療方法を提供することができる。
【0042】
本発明は、化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、可溶化剤および緩衝剤を含む点眼剤の、眼疾患の予防または治療のための用途を提供することができる。
【0043】
本発明は、眼疾患の予防または治療のための点眼剤を製造するために、化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、可溶化剤および緩衝剤を含む点眼用組成物の用途を提供することができる。
【0044】
本発明は、化学式Iで表される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩、可溶化剤、および緩衝剤を混合するステップを含む点眼剤の製造方法を提供することができる。前記製造方法は、他の添加剤を混合するステップをさらに含んでもよい。
【0045】
本発明に係る点眼剤の用途、点眼用組成物の用途、製造方法、および前記点眼剤を投与するステップを含む予防または治療方法に関しては、矛盾しない限り、前述の点眼剤の説明を同様に適用することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明は、眼疾患の治療に有効性を示す3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の点眼剤に関し、前記点眼剤は、患者の服薬順応度が高いだけでなく、保存安定性および安全性に優れており、眼疾患治療剤として有用である。本発明の点眼剤は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールの安定化および安全性の向上により後眼部まで薬物を送達し、既存の眼球内注射法により投与される抗VEGF薬物と類似するか、またはより優れた効果を示し、黄斑変性などの後眼部疾患患者に対しても注射投与に加えて新しい治療選択肢を提供できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1-3】試験例1に基づいて測定した点眼組成物のpHによる類縁物質生成量に関するグラフである。
【
図4】試験例3に基づいて本発明の組成物(実施例13)および対照群投与後のFFAを用いて網膜映像評価を行った後、CNV病変の大きさを観察して数値化した結果を示すグラフである。
【
図5】試験例3に基づいて本発明の組成物(実施例13)および対照群投与後のFFAを用いて網膜映像評価を行い、CNV病変の大きさを比較した写真である。
【
図6】試験例3に基づいて本発明の組成物(実施例13)および対照群投与後のOCTを用いて網膜映像評価を行った後、CNV病変の断面積を観察して数値化した結果を示すグラフである。
【
図7】試験例3に基づいて本発明の組成物(実施例13)および対照群投与後のOCTを用いて網膜映像評価を行い、CNV病変の断面積の大きさを比較した写真である。
【
図8】試験例4に基づいて本発明の組成物のうち実施例19、比較例2、および対照群投与後のFFAを用いて網膜映像評価を行った後、CNV病変の大きさを観察して数値化した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないことは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0049】
実施例1~9:pH7.2の0.1w/v%~0.5w/v%APX-115点眼液の製造
3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール塩酸塩(APX-115)を含む組成物を下記表1の通り可溶化剤および緩衝剤を添加して製造した。
【0050】
下記実施例の組成物の製造において、有効成分の濃度により必要に応じて加温するか、またはpHを調整して製造した。
【表1】
【0051】
実施例1~9において、緩衝液は、無水リン酸二水素ナトリウムおよび無水リン酸ナトリウムを用い、必要に応じて0.5Nの水酸化ナトリウム溶液でpHを調整した。
【0052】
実施例1:0.2gのエタノールと2gのポリソルベート80を混合して均質化した。前記混合液を40℃以上に加温してから0.1gのAPX-115を入れ、超音波処理して溶解および均質化した後、緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0053】
実施例2:0.2gのヒマシ油に0.1gのAPX-115を入れて40℃以上に加温した後、超音波処理して溶解および均質化した。APX-115が溶解している混合液に、実施例1の緩衝液に2gのラウリル硫酸ナトリウムを溶解させた緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0054】
実施例3:10.0%のポリオキシル35ヒマシ油溶液25mLに0.5Nの水酸化ナトリウム液を入れてpHを9.0以上に調整した後、0.25gのAPX-115を入れて溶解および均質化した。APX-115が溶解している混合液に緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0055】
実施例4:0.2gのプロピレングリコールと5gのポリソルベート80を混合して均質化した混合液に0.5Nの水酸化ナトリウム液を入れてpHを9以上に調整した後、0.25gのAPX-115を入れて溶解および均質化した。APX-115が溶解している混合液に緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0056】
実施例5~6:表1に記載された分量の可溶化剤をそれぞれ均一に混和した後、0.25gのAPX-115を入れて40℃以上に加温し、振とう混和して溶解および均質化した。混合液に緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0057】
実施例7:1gのエタノールおよび1gのヒマシ油を均一に混和した後、0.25gのAPX-115を入れ、40℃以上に加温および超音波処理して溶解および均質化した。APX-115が溶解している混合液に、実施例1の緩衝液に5gのラウリル硫酸ナトリウムを溶解させた緩衝液(5%ラウリル硫酸ナトリウム緩衝液)を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0058】
実施例8:1gのプロピレングリコールおよび1.5gのヒマシ油を混合して均質化した混合液に0.5Nの水酸化ナトリウム液を入れてpHを9以上に調整した後、1.0gのAPX-115を入れて溶解および均質化した。APX-115が溶解している混合液に10gのポリソルベート80を入れて混和した後、緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0059】
実施例9:2gのエタノール、1.5gのプロピレングリコール、および1.5gのヒマシ油を混合して均質化した混合液を40℃以上に加温した後、2.0gのAPX-115を入れて溶解および均質化した。APX-115が溶解している混合液に20gのポリオキシル35ヒマシ油を入れて混和した後、緩衝液を入れて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。
【0060】
実施例10~14:pH3.5~8.5の0.5w/v%APX-115点眼液の製造
下記表2に基づいて、APX-115および可溶化剤を含み、pHの異なる点眼液を製造した。
【表2】
【0061】
実施例10~14:表2に基づいて、ヒドロキシプロピルベータデックスを除いた可溶化剤それぞれの分量を秤量して均一に混和した後、0.5gのAPX-115を入れ、振とう混和して溶解および均質化した。該当するpHに調整された点眼液を製造するために、実施例10~14のpHに適した緩衝液をそれぞれ製造した後、5gのヒドロキシプロピルベータデックスを入れて溶解した。製造されたヒドロキシプロピルベータデックスを含む緩衝液をAPX-115が溶解している混合液に入れて体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。実施例10~14の各点眼液に適するpHに調整するために、以下の緩衝剤を用いて緩衝液を製造した。具体的には、pH3.5の酢酸アンモニウム緩衝液は、酢酸アンモニウムおよび塩酸、pH4.5の酢酸塩緩衝液は、酢酸および酢酸ナトリウム塩、pH5.5のクエン酸塩緩衝液は、クエン酸およびリン酸水素二ナトリウム、pH7.2のリン酸塩緩衝液は、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸ナトリウム、pH8.5のホウ酸塩緩衝液は、ホウ砂を用いて製造した。
【0062】
実施例15~22:pH4.5~8.5の
1.0w/v%または0.5w/v%APX-115点眼液の製造
下記表3に基づいて、APX-115および可溶化剤を含み、pHの異なる点眼液を製造した。
【表3】
【0063】
表3に基づいて、ヒドロキシプロピルベータデックスを除いた可溶化剤それぞれの分量を秤量して均一に混和した後、0.5gのAPX-115を入れ、振とう混和して溶解および均質化した。該当するpHに調整された点眼液を製造するために、実施例15~22のpHに適した緩衝液をそれぞれ製造した後、5gのヒドロキシプロピルベータデックスを入れて溶解した。それぞれのpHに合わせて製造されたヒドロキシプロピルベータデックスを含む緩衝液をAPX-115が溶解している液に入れて体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。pH4.5、7.2、および8.5の緩衝液は、実施例10~14で用いられた緩衝液と同様の方法で製造した緩衝液を用い、pH6.0の緩衝液は、リン酸水素二ナトリウムおよびクエン酸を用いて製造した(リン酸でpHを調整)。
【0064】
実施例23~31:pH7.2の0.5w/v%APX-115点眼液の製造
下記表4に基づいて、APX-115および可溶化剤を含み、pHが7.2である0.5w/v%APX-115点眼液を製造した。
【表4】
【0065】
実施例23~31それぞれに該当する可溶化剤を均一に溶解および混和した後、加温(40℃以上)した。可溶化剤が混和した各組成物にAPX-115を500mg入れて攪拌し十分に溶解させた後、pH7.2の緩衝液を用いて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.5w/v%APX-115点眼液を製造した。pH7.2の緩衝液は、実施例1~9の製造に用いられた緩衝液と同様の方法で製造された液を用いた。
【0066】
実施例32~40:pH6.0の0.5w/v%APX-115点眼液の製造
下記表5に基づいて、APX-115および可溶化剤を含み、pHが6.0である0.5w/v%APX-115点眼液を製造した。
【表5】
【0067】
pH9以上の溶液(水酸化ナトリウム溶液)にAPX-115を500mg入れ、十分に攪拌して溶解させた後、下記表5に記載の組成に従って添加剤を含む緩衝液を用いて最終的に体積が100mLとなるように調整し、0.5w/v%APX-115点眼液を製造した。pH6.0の緩衝液は、リン酸水素二ナトリウムおよびクエン酸を用いて製造し、実施例16および20の製造に用いられた緩衝液と同じ緩衝液を用いた。
【0068】
比較例1~8:pH3.0以下または9.0以上のAPX-115点眼液の製造
実施例10~22の組成物と成分は同一でpHは異なる組成物を製造するために、下記表6に示す通りAPX-115を含む組成物を製造した。
【表6】
【0069】
表6に基づいて、ヒドロキシプロピルベータデックスを除く可溶化剤それぞれの分量を秤量して均一に混和した後、0.5gのAPX-115を入れ、振とう混和して溶解および均質化した。該当するpHに調整された点眼液を製造するために、比較例1~8のpHに適した緩衝液をそれぞれ製造した後、5gのヒドロキシプロピルベータデックスを入れて溶解した。各pHに合わせて製造された緩衝液をAPX-115が溶解している液に入れて体積が100mLとなるように調整し、0.22μm滅菌フィルターで濾過した。pH2.5およびpH3.0の緩衝液は、リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸を用い、pH9.0の緩衝液は、四ホウ酸ナトリウムおよび塩酸を、pH9.5の緩衝液は、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールおよび塩酸を用いて製造した。
【0070】
試験例1:類縁物質試験
前記実施例および比較例で製造した溶液を40℃/75%RH条件下で保管した。4週間後にAPX-115分解産物中の最大未知の類縁物質の生成量を下記条件のHPLC法で測定した。
<分析条件>
-カラム:Kromasil C18(4.6×150mm,5μm)
-カラム温度:30℃
-移動相:20mM Ammonium Formate(pH3.0)/アセトニトリル=20/80(v/v)
-波長:293nm
-注入量:10μl
【0071】
添加剤組成は同じでpH範囲のみpH3.5~8.5と互いに異なる実施例10~14は、
図1から分かるように、主成分に由来する類縁物質が効果的に抑制され、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の化学的安定性が改善されたことが分かる。一方、添加剤組成は同じであるが、pHが3.0以下である比較例1および2、pHが9.0以上である比較例3および4は、製造後の保管から4週間以内に0.5%以上の不純物が発生したため、化学的安定性が改善されていないことが確認できる。
【0072】
また、添加剤組成は同じでpH範囲のみpH3.5~8.5と異なる実施例15~18は、
図2から分かるように、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の安定性が改善されたが、比較例5(pH3.0)および比較例6(pH9.0)の組成物は、実施例の組成物に比べて低い安定性を示した。
【0073】
また、pHが3.5~8.5の範囲である実施例19~22は、
図3から分かるように、不純物の発生が少なく、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の安定性が改善されたが、比較例7(pH3.0)および比較例8(pH9.0)の組成物は、実施例の組成物に比べて低い安定性を示した。
【0074】
すなわち、試験例1の結果から、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物を含む一実施形態の点眼剤は、3.5~8.5のpH範囲で優れた安定性を示すことを確認した。
【0075】
ICHガイドラインによれば、1日の最大投与量が1mg以上10mg以下である完成医薬品の場合、構造未知の不純物(unknown impurity)の管理基準が0.5%以下に設定されている。したがって、pH3.5~8.5のpH範囲を有する実施例10~22の組成物は、pH3.0以下またはpH9.0以上のpH範囲を有する比較例1~8の組成物に比べて、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の安定性を著しく改善することが確認できる。
【0076】
試験例2:眼粘膜刺激性試験
体重2.0~2.7kgのニュージーランドホワイト種ウサギの両眼に、前記実施例10~14、比較例1~4の組成物をそれぞれ50μLずつ1回点眼した後、実験動物の行動を観察した。実施例10~14を試験群とし、比較例1~4を比較群とし、市販の点眼剤であるジクアス(登録商標)を陽性対照群として用いた。薬物の投与直後に、各ウサギの行動を観察し、下記表に示した。
【表7】
【0077】
ウサギを用いた眼粘膜刺激性評価の結果、本発明の組成物である実施例10~14は、刺激強度の強い比較例1~4と異なり、市販のジクアス(登録商標)と同様の反応程度(まばたき)を示し、pH3.5~8.5の本発明の組成物は、眼粘膜刺激にも良好な結果を示すことを確認した。特に、pH4.5~8.5の組成がより優れた眼粘膜刺激性を示すことを確認した。
【0078】
試験例3:眼組織分布試験(硝子体内PK評価)
本発明の組成物を注射で投与せずに点眼投与だけで後眼部に薬物が送達されて治療効果を示すか確認するため、試験例3の試験によって後眼部組織のうち網膜/脈絡膜に隣接している硝子体内の有効成分濃度を確認した。また、先行した安定性研究(試験例1)から、組成物のpHによって組成物の安定性に差があることを確認し、pHによる有効成分のイオン化傾向が変わってくるため、組成物のpHによって後眼部組織に送達される有効成分の量を評価するために、各pH別にPK分布試験を行った。
【0079】
本試験例3の評価方法は、点眼によって送達された眼の内側にある硝子体内の薬物の量を測定することにより、標的器官である後眼部に到達できる薬物の量を比較し、後眼部疾患に対する効力を予測できる効率的な評価方法である。
【0080】
体重2.0~2.7kgのニュージーランドホワイト種ウサギの両眼に本発明の組成物のうち、pH3.5~8.5の範囲で製造された実施例およびpH3.5以下またはpH9.5以上の比較例の組成物をそれぞれ40μLずつ1回点眼し、その30分後に実験動物の眼組織から硝子体液(vitreous humor)を採取し、LC/MS/MS装置を用いて検体内の化合物濃度を測定した。
<分析条件>
-カラム:Waters Acquity UPLC BEH C18(50×2.1mm,1.7mm)
-カラム温度:40℃
-移動相:アセトニトリル/0.1% formic acid=70/30(v/v)
-注入量:5μl
-流量:0.2mL/分
【表8】
【0081】
ウサギを用いた眼球PK試験の結果、pH3.0の比較例2とpH9.5の比較例4の硝子体液中の有効成分濃度は、非常に低いことが観察され、点眼後に後眼部まで送達される有効成分の量が非常に少ないことが確認できた。これに対し、pH3.5~8.5の実施例1、3、10、11、13、14、16および34の硝子体液中の有効成分濃度は、比較例に比べて著しく高いことが観察された。特に、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物は、薬物の特性上、pH5以下から最大値の親脂溶性(疎水性)を有するため、理論的にはpH5以下の酸性での生体膜透過力が全て同じであるにもかかわらず、pH3.0以下では後眼部への有効成分の送達が非常に低くなることが確認された。
【0082】
以上の結果から、pH3.5~8.5のpH範囲で、点眼後、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の後眼部までの送達力が最も優れていることが確認できる。
【0083】
また、一実施形態の点眼組成物において、硝子体液中の有効成分濃度は、異なる可溶化剤を用いた場合でも同程度の濃度を示すため、本願の有効成分を可溶化できる可溶化剤であれば有効成分の後眼部への送達に大きな影響を与えないことが確認できた。
【0084】
試験例4:CNVモデルマウスを用いた点眼組成物の有効性評価
先行した眼組織分布試験(試験例3)から、一実施形態による各pH別の点眼組成物を投与した際に後眼部組織である網膜に隣接している硝子体にまで有効成分が分布していることを確認した。その後、本発明の点眼組成物(実施例13)の脈絡膜血管新生(choroidal neovasculariation,CNV)抑制効果を確認するために、本発明の組成物を試験物質とし、プラセボ物質を陰性対照物質(G1)とし、市販の注射剤アイリーア(Eylea(登録商標))を陽性対照物質(G2)として、CNVモデルマウスにおける効力を評価した。
【0085】
陰性対照物質(G1)および試験物質(G3およびG4)は、CNV誘導の翌日から1回5uLの用量で点眼し、陽性対照物質(G2)は、CNV誘導の翌日に36G注射器を用いて1uL(20ug/uL)の用量で硝子体に直接1回注射した。陰性対照物質は、1日4回投与し、試験物質は、1日の投与回数を4回投与群(G3)および8回投与群(G4)に分けて1日の投与回数による効力を比較評価した。
【0086】
具体的には、CNV誘導後12日目に実験動物を全身麻酔した後、蛍光造影剤を腹腔注射し、麻酔点眼剤を眼球に点眼してさらに局所麻酔してから散瞳剤を点眼して散瞳を誘導した後、網膜映像評価を行い、その結果を
図4~
図7に示した。
【0087】
試験の結果、
図4~7から分かるように、本発明の組成物は、1日4回の投与(G3)のみで硝子体内に直接注射するアイリーア(Eylea(登録商標))投与群(陽性対照群、G2)と比較して同等以上の効力を示した。
【0088】
網膜映像評価のうちFFA(fundus fluorescein angiography)を用いた評価を行い、その結果を
図4および5に示した。
図4および5を参照すると、陰性対照群(G1)と試験群(G3およびG4)の比較において有意な差が見られ、試験群において病変の大きさが減少しており治療効果があることが確認できる。また、4回の投与(G3)だけでも陽性対照群(G2)であるアイリーアと比較して同様の治療効果を示すことが確認できる。
【0089】
図6および7には、網膜映像評価のうちOCT(optial coherence tomography)を用いた評価結果を示した。
図6および7を参照すると、試験物質投与群(G3、G4)は、試験群において病変の断面積が減少しており治療効果があることが確認でき、陰性対照群と試験群の比較においても統計的に有意な差が見られる。また、1日4回の点眼(G3)だけでも陽性対照群(G2)であるアイリーア投与群と比較して同等以上の治療効果を示すことが確認できる。
【0090】
試験例4によって本発明の組成物の効力を評価した結果、本発明の組成物は、CNV動物モデルにおいて、市販のアイリーア注射剤(陽性対照群、G2)と比較して同等以上の効力があることを確認した。
【0091】
試験例5:点眼組成物のpH変化による有効性評価
試験例4と同様の方法により、組成は同一であるがpHが異なる各点眼組成物の有効性評価を行った。
【0092】
本発明の点眼組成物のうち、優れた安定性および優れたPK結果を示す実施例19(G3)と、低い安定性および良くないPK試験結果を示す比較例2(G4)の脈絡膜血管新生(choroidal neovascularization、CNV)抑制効果を確認するために、本発明の組成物のうち、実施例19と比較例2を試験物質とし、プラセボ物質を陰性対照物質(G1)とし、市販の注射剤アイリーア(Eylea(登録商標))を陽性対照物質(G2)として、CNVモデルマウスにおける効力を評価した。
【0093】
陰性対照物質(G1)および試験物質(G3およびG4)は、CNV誘導の翌日から1回5uLの用量で1日4回点眼し、陽性対照物質(G2)は、CNV誘導の翌日に36G注射器を用いて1uL(20ug/uL)の用量で硝子体に直接1回注射した。
【0094】
試験の結果、
図8(FFAを用いた評価)から分かるように、本発明の組成物のうち、実施例19は、1日4回の投与(G3)のみで硝子体内に直接注射するアイリーア(Eylea(登録商標))投与群(陽性対照群、G2)と比較して同等以上の効力を示し、陰性対照物質投与群と比較して有意な治療効果を示すことが確認できた。一方、比較例2は、陰性対照物質投与群と比較して有意性のある治療効果を示さず、脈絡膜血管新生の抑制効果が低いか、またはほぼないことが分かった。
【0095】
本発明の試験例1~5から、可溶化剤と緩衝剤を含み、pH範囲が3.5~8.5に維持される3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール化合物の点眼液は、完成医薬品の安定性および安全性が確保でき、そして後眼部への薬物送達と治療効果に顕著な効果があることが確認できた。