(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】触媒被覆膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240411BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240411BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240411BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240411BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240411BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/86 B
B01J37/02 301C
B01J37/02 301D
B01J37/04 102
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022567117
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021075034
(87)【国際公開番号】W WO2022058260
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】102020124217.4
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ピシュチェク,パスカル
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-298860(JP,A)
【文献】特開2016-167452(JP,A)
【文献】特開2005-085544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0068213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒被覆膜(CCM)の製造方法であって、
担持触媒粒子(13)、プロトン伝導性イオノマ(15)、および分散剤を備えた第1のインク組成物を有する少なくとも第1のインク(16)であって、担持触媒粒子(13)の割合が、プロトン伝導性イオノマ(15)の割合よりも少ない、少なくとも第1のインク(16)を調製および/または提供し、
ロール(22)上に提供されたウェブ形状のプロトン伝導膜材料(20)を巻き出し、
第1の被覆ツール(17)により、膜材料(20)の少なくとも一部に、第1のインク(16)の少なくとも1つの層を被覆し、
散布装置(29)により、最外インク層の膜材料(20)とは反対側の表面上に、触媒粒子(13)からなるまたは触媒粒子(13)を備えた触媒粉末を散布する、
ステップを備え
、
まだ濡れたまたは湿った状態にある最外インク層上に、触媒粉末を散布することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
担持触媒粒子(13)、プロトン伝導性イオノマ(15)、および分散剤を備えた少なくとも第2のインク(18)であって、プロトン伝導性イオノマ(15)の割合が、担持触媒粒子(13)の割合よりも少ない、少なくとも第2のインク(18)を調製および/または提供し、
前記触媒粉末を散布する前に、第1のインク(16)の最外層に第2のインク(18)の少なくとも1つの層を被覆することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1の被覆ツール(17)により、膜材料(20)の両側に第1のインク(16)を被覆し、時間的に引き続いて、第2の被覆ツール(19)により、膜材料(20)の両側に被覆された第1のインク(16)の最外層の各々に第2のインク(18)を被覆し、第2のインク(18)の被覆に時間的に引き続いて、それぞれの最外層の両側に、触媒粉末を散布することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
第1のインク(16)でコーティングされた膜材料(20)が中間乾燥ユニット(23)に運ばれ、第2のインク(18)が被覆される前に、そこで第1のインク(16)のドライエッジフィルムを形成するように、第1のインク(16)が部分的に乾燥されることを特徴とする、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
第1のインク(16)の被覆後、第1のインク(16)の層の層厚測定が実行されることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
触媒粉末を散布した後、電極厚さの層厚測定が行われ、第1のインク(16)および/または第2のインク(18)、および/または触媒粉末が、測定された電極の厚さの関数として、膜材料(20)の後続するセクションに被覆されることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
少なくとも1つのインク(16,18)でコーティングされ、触媒粉末が被覆された膜材料(20)が、コーティングを完全に乾燥させる乾燥ユニット(24)に搬送されることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1つのインク(16,18)でコーティングされ、触媒粉末が被覆された膜材料(20)の触媒粒子装填量が、X線蛍光分析によって測定され、少なくとも1つのインク(16,18)中の担持触媒粒子(13)の割合が、測定された触媒粒子装填量の関数として調整されることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
少なくとも1つのインク(16,18)でコーティングされ、触媒粉末が被覆された膜材料(20)が、個々の触媒被覆膜に切断されることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒被覆膜(CCM)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池装置は、電気エネルギーを生成するために、燃料と酸素を化学反応させて水を生成するように使用される。この目的のために、燃料電池は、電極が割り当てられたコアコンポーネントとして、プロトン伝導性(電解質)膜を含む。複数の燃料セルを組み合わせて燃料電池スタックを形成する燃料電池装置の動作中、燃料、特に水素(H2)または水素含有ガス混合物がアノードに供給される。水素含有混合物の場合、これはまず改質されて水素を提供する。アノードでは、H2からH+への電気化学的酸化が電子の放出とともに生じる。アノードで供給された電子は、電線を介してカソードに供給される。酸素または酸素含有ガス混合物がカソードに供給されて、電子の吸収とともにO2のO2-への還元が行なわれる。
【0003】
特許文献1~3は、触媒被覆膜の工業的製造を記載しており、膜は、その後電極材料で被覆するためにウェブ形態で提供される。特に、特許文献1は、それにより、ロールからロールへの膜材料のコーティングを提案しており、異なるインク組成物が基体をコーティングするために使用される。
【0004】
燃料電池の動作では、膜電極アセンブリのカソード側に最大量の水分または液体が存在することが分かっているため、触媒層の適切な組成を通した効率的な水分管理が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/106504号
【文献】国際公開第2016/149168号
【文献】国際公開第2002/043171号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、触媒粒子の改善された粒子分布、延いては燃料電池の改善された効率および改善された水管理を提供するように、触媒被覆膜の製造方法をさらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。本発明の有用な発展を伴う有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0008】
本発明による方法は、特に、
担持触媒粒子、プロトン伝導性イオノマ、および分散剤を備えた第1のインク組成物を有する第1のインクであって、担持触媒粒子の割合が、プロトン伝導性イオノマの割合よりも少ない(lags behind)、第1のインクを調製および/または提供し、
ロール上に提供されたウェブ形状のプロトン伝導膜材料を巻き出し、
第1の被覆ツールにより、膜材料の少なくとも一部に、第1のインクの少なくとも1つの層を被覆し、
散布装置により、最外インク層の膜材料とは反対側の表面上に、触媒粒子からなるまたは触媒粒子を備えた触媒粉末を散布する、
ステップを備える。
【0009】
この方法は、異なる密度の触媒装填量を用いた多段階プロセスを使用することを特徴としており、膜と直接接触する層は、触媒コーティングされた膜の電極の縁部の層よりもイオノマの割合が高く、したがって触媒粒子の割合が低い。最外インク層上の触媒粒子の最終層、特に多孔性であり、したがって部分的にのみ閉じている層は、プロトン伝導性(コア)膜から最も離れたCCM(catalyst-coated membranes, 触媒被覆膜)の位置において、最大量の触媒が優勢であることを意味し、それにより燃料セルの反応をさらに促進する。このようにして、電極とそれに隣接するガス拡散層との間の移行部において触媒密度が増加する。このように燃料電池反応のためのより多くの粒子、したがってより多くの割合の触媒がそこに存在するため、このことは、それぞれの電極の外層で反応性が促進されるという本質的な利点を反映している。これは、所望の電力を提供するために、例えば自動車で使用するために多数のそのような膜電極アセンブリが必要とされるため、特に有利である。膜からの距離の増加に伴って増加する触媒密度は、本発明による方法では段階的にしか増加せず、したがって通常非常に高価な触媒材料を節約することができる。膜に近いインク組成物が、膜の遠くにあるインク組成物よりも、インクに隣接する膜にとって有害な成分の比率が低くなるように寸法を決める(dimensioned)こともできる。
【0010】
担持触媒粒子、プロトン伝導性イオノマ、および分散剤を備えた少なくとも第2のインクが調製および/または提供されるという有利な可能性が与えられ、プロトン伝導性イオノマの割合は、担持触媒粒子の割合よりも少ない(lags behind)。次に、触媒粉末を散布(dusted)する前に、第2のインクの少なくとも1つの層を第1のインクの最外層に適用する。したがって、触媒粒子の密度の漸増も実現できる。
【0011】
尚、3種以上のインクを複数用いてもよく、2種のインク、および2種のインク組成物に限定されるものではない。触媒粉末を散布することは、好ましくは常に最外インク層の被覆後に実施される。しかしながら、原則として、中間層に触媒粉末を散布することも可能である。
【0012】
膜にカソードとアノードを同時に被覆するために、第1の被覆ツールにより、膜材料の両側に第1のインクを被覆し、時間的に引き続いて、第2の被覆ツールにより、膜材料の両側に被覆された第1のインクの最外層の各々に第2のインクを被覆し、第2のインクの被覆に時間的に引き続いて、それぞれの最外インク層の両側に、触媒粒子粉末を散布する場合、有利であることが立証された。
【0013】
第1のインクでコーティングされた膜材料は、第2のインクが適用される前に第1のインクを乾燥させる中間乾燥ユニットに搬送することが可能である。このようにして、個々のインクコーティングの混合を避けることができるので、電極の縁部までの各インクコーティングにおける触媒粒子の画定された、特に徐々に増加する分布が存在する。
【0014】
触媒粉末を、まだ湿った状態または濡れた状態にある最外インク層上に散布(dusted)すると、有利であることが判明した。これにより、個々の触媒粒子が散布中に最外層に部分的に浸透し、それにより最終的な触媒被覆膜(CCM)の複合体に確実に結合される。
【0015】
最外インク層が部分的にしか乾燥していないときに、最外インク層上に触媒粒子を散布する場合も有用であるが、これは部分的な乾燥の結果として最外層のインク層の粘度が増加することにより、散布された触媒粒子が最外インク層に深く浸透し過ぎないようにするためである。
【0016】
散布された触媒粉末は、担持された、特に炭素担持された触媒粒子からなることができる。しかしながら、触媒散布のために担持されていない触媒粒子を使用することも可能である。
【0017】
第2のインクが適用される部分に第1のインクのドライエッジフィルムのみを形成するように第1のインクを専ら部分的に乾燥させる中間乾燥ユニットを設けることにより、製造プロセスを加速することができる。このようにして、第1のインクの一部のみが乾燥され、その上に2つのインクを混合することなく第2のインクを被覆することができるので、プロセス時間が短縮される。
【0018】
第1のインクの被覆後に第1のインクの層の層厚測定を行う場合、有利であることが判明した。この膜厚測定は、例えば乾式または湿式で行うことができる。膜材料上の第1のインクの層厚に関する情報を使用して、その後の電気化学反応に影響を与えるさまざまなパラメータを制御することができる。例えば、第1のインクが過度に厚く被覆される場合、第1のインクを有する膜材料の後続するセクションの層厚を減少させるために、第1のインクが、より少なくなるように膜材料の後続するセクションに被覆され得る。したがって、このようにして、膜材料の先行するセクションにおいて測定された層厚の関数として、第1のインクを、膜材料の後続するセクションに適用することが可能である。
【0019】
しかしながら、全体として、最終的な(限界の)電極の厚さを特定することもできるので、その後に被覆される第2のインク、および/またはその後に散布される触媒粉末を、第1のインクの測定された層の厚さの関数として、電極の厚さを制限するように適用する場合、有利であることが判明した。
【0020】
触媒粉末を散布した後、電極の厚さの層厚測定を実施し、測定された電極の厚さに応じて第1のインクおよび/または第2のインクおよび/または触媒粉末を、膜材料の後続するセクションに適用することも可能である。このようにまた、特定の制限された電極厚さを維持することが可能である。
【0021】
膜材料をよりよく取り扱い、必要に応じて膜材料を巻き取ることができるようにするために、少なくとも1つのインクでコーティングされるとともに触媒粉末が被覆された膜材料を乾燥ユニットに搬送し、そこでコーティングが完全に乾燥される場合、有利であることが判明した。
【0022】
少なくとも1つのインクでコーティングされ、触媒粉末が被覆された膜材料の触媒粒子充填量がX線蛍光分析によって測定され、インク中の触媒粒子の割合が、測定された触媒粒子の充填量に応じて調整される場合、さらに有利である。このようにして、早い段階で、インク中または散布された触媒粒子粉末層中の過剰または残留触媒粒子に対処することが可能であり、それにより不合格品、すなわち不十分に製造された触媒被覆膜の割合を減少させる。
【0023】
燃料セルスタックでのその後の使用のために、少なくとも1つのインクで被覆され、触媒粉末が散布された膜材料が個々の触媒被覆膜(CCM)に切断される場合に有用であることが判明した。
【0024】
本明細書中において上述した特徴および特徴の組み合わせ、ならびに図の説明で以下に述べた、および/または図に単独で示した特徴および特徴の組み合わせは、それぞれの場合に示された組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも、または単独でも、本発明の範囲から逸脱することなく使用することができる。したがって、実施形態はまた、図に明示的に示したり説明したりしていないが、それらの特徴の別個の組み合わせにより、説明された実施形態から生じ、生成可能である本発明に包含され、開示されていると見なされるべきである。
【0025】
本発明のさらなる利点、特徴、および詳細は、特許請求の範囲、以下の好ましい実施形態の説明、および図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】触媒被覆膜を製造するための装置の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、燃料セル1を示す。ここで、半透過性の電解質膜2は、第1の側3が第1の電極4、ここではアノードで覆われ、第2の側5が第2の電極6、ここではカソードで覆われている。第1の電極4および第2の電極6は担体粒子14を備え、その上に白金、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属または貴金属を含む混合物の触媒粒子13が配置または担持される。これらの触媒粒子13は、燃料電池1の電気化学反応における反応促進剤として機能する。担体粒子14は、炭素質であってもよい。しかしながら、適切なコーティングを有する金属酸化物または炭素から形成された担体粒子14も可能である。このようなポリマー電解質膜燃料電池(PEM燃料電池)では、燃料または燃料分子、特に水素は、第1の電極5(アノード)でプロトンと電子に分割される。電解質膜2は、陽子(例えばH
+)は通過させるが、電子(e
-)は通過させない。この例示的な実施形態では、電解質膜2は、イオノマ、好ましくはスルホン化テトラフルオロエチレンポリマー(PTFE)またはパーフルオロスルホン酸(PFSA)のポリマーから形成される。次の反応がアノードで生じる:2H
2→4H
++4e
-(酸化/電子放出)。
【0028】
プロトンが電解質膜2を通過して第2の電極6(カソード)に向かう間、電子は外部回路を介してカソードまたはエネルギー貯蔵部に伝達される。カソードガス、特に酸素または酸素含有空気がカソードに供給されるため、ここでは次の反応が生じる:O2+4H++4e-→2H2O(還元/電子捕獲)。
【0029】
ガス拡散層7,8が電極4,6のそれぞれに割り当てられ、そのうちの一方のガス拡散層7はアノードに割り当てられ、他方のガス拡散層8はカソードに割り当てられる。さらに、アノード側ガス拡散層7には、燃料ガスを供給するためのバイポーラプレート9として設計された流れ場板が割り当てられ、このバイポーラプレートは、燃料流れ場11を有する。燃料流れ場11により、燃料がガス拡散層7を介して電極4に供給される。カソード側では、同じくバイポーラプレート10として設計されたカソードガス流れ場12を備えた流れ場板が、カソードガスを電極6に供給するようにガス拡散層8に関連付けられる。
【0030】
電極4,6は、ナノ粒子として、例えばコアシェルナノ粒子として形成される複数の触媒粒子13で形成される。貴金属または貴金属合金が表面のみに位置し、ニッケルや銅などの低価金属がナノ粒子のコアを形成するため、コアシェルナノ粒子は表面積が大きいという利点を有する。
【0031】
触媒粒子13は、複数の導電性担体粒子14上に配置または支持される。さらに、イオノマ結合剤15は、担体粒子14および/または触媒粒子13の間に存在し、好ましくは膜2と同じ材料から形成される。このイオノマ結合剤15は、パーフルオロスルホン酸を含むポリマーまたはイオノマとして形成されることが好ましい。この場合、イオノマ結合剤15は、30パーセントを超える多孔率を有する多孔質形態である。これにより、特にカソード側で、酸素拡散抵抗が増加しないことが保証され、したがって、触媒粒子13への貴金属の装填をより少なくするか、担体粒子14への触媒粒子13の装填をより少なくすることが可能になる(
図2)。
【0032】
以下、触媒被覆膜(CCM)の製造方法について説明する。まず、担持触媒粒子13、プロトン伝導性イオノマ15、および分散剤を含む第1のインク組成物を備えた第1のインク16が調製および/または提供される。イオノマ15は、好ましくは、膜2と同じ材料から形成される。適切な分散剤には、イソプロパノールまたはアセトンが含まれる。この第1のインク16において、担持された触媒粒子の割合は、プロトン伝導性イオノマ15の割合よりも少ない(lags behind)。さらに、担持された触媒粒子13、プロトン伝導性イオノマ15、および分散剤を含むインク組成物を備えた第2のインク18が調製または提供される。この第2のインク18では、プロトン伝導性イオノマ15の割合は、担持された触媒粒子13の割合よりも少ない。好ましくは、「少ない(lagging behind)」とは、少なくとも10パーセント、さらに好ましくは少なくとも30パーセント、最も好ましくは少なくとも50%の比率の差を意味すると理解される。最後に、担持された触媒粒子13の触媒粉末コーティング30が、それぞれの隣接するガス拡散層7,8に隣接するそれぞれの電極4,6の最端部を表す最も外側のインク層上に散布される。
【0033】
図3に示すように、ロール22上に提供されたウェブ状のプロトン伝導性膜材料が巻き出され、最初に搬送方向21にフィルムクリーニングユニット25へと供給され、そこで膜材料20が、埃や堆積物がないように洗浄される。続いて、膜材料20はさらに搬送方向21に第1の被覆ツール17へと運ばれ、そこで第1のインク16が膜材料20の少なくとも一部に、好ましくは完全に被覆される。搬送方向21における第1の被覆ツール17の下流において、第1のインク16の層の層厚測定が、層厚測定装置27によって実行される。搬送方向21における第1の被覆ツール17の下流において、第1のインク16に別のインクが印刷される前に第1のインク16を乾燥させるように中間乾燥ユニット23が設けられる。ここに示される中間乾燥ユニット23は、膜材料20に被覆された第1のインク16の最外層に、続いて第2のインク18を第2の被覆ツール19を用いて搬送方向21に被覆する前に、そこに第1のインク16のドライエッジフィルムを形成させるように第1のインク16を専ら部分的に乾燥させるように構成される。第2の被覆ツール19の搬送方向21の下流には、第1のインク16および第2のインク18から形成されたコーティングを測定するための層厚測定装置27が再び設けられる。この層厚測定装置27は、一般的なウェットフィルムブランケットを測定するために使用することができる。搬送方向21における第2の被覆ツール19の下流には、散布装置29が設けられており、その装置により、触媒粒子13からなるまたは触媒粒子13を含んだ粉体が、最外インク層の膜材料20とは反対側に面する表面上に散布される。この触媒粉末は、まだ濡れた状態または湿った状態にある最も外側のインク層に散布することができ、それにより触媒粉末を最外層のインク層に部分的に浸透させ、従って電極4,6を完成させる。したがって、触媒粒子13の密度は、膜2からの距離とともに徐々に増加する。散布装置29の搬送方向21における後方には、インク16,18で被覆され、触媒粉末が散布された膜材料20を完全に乾燥させるように設計された乾燥ユニット24が続く。搬送方向21における乾燥ユニット24の下流には、例えば光学的層厚測定ヘッドによって乾燥電極膜を測定することが可能な、別の層厚測定装置27がある。さらに、X線蛍光分析ユニット26が設けられて、インク16,18で被覆され、触媒粉末が散布された膜材料20の触媒粒子装填量(catalyst particle loading)を判定する。ここで、インク16,18および触媒粉末コーティング30内の担持触媒粒子13の割合を、次いで、測定された触媒粒子装填量の関数として調整することができる。コーティングされた膜材料20が別のロール22に再び巻き取られる前に、膜材料20は、電極層などに存在する穴をマークすることができる欠陥マーキング用ユニット28を通され、それにより、膜材料20が続いて個々の触媒コーティングされた膜(CCM)に切断されるときに、欠陥のあるコーティングを有するものが除外される。
【0034】
結果として、本発明による方法は、触媒ペーストまたはインク16,18で被覆された膜電極アセンブリを大量に提供するように、工業規模で製造することを可能にする。本発明に従って製造された触媒被覆膜は、触媒粒子13の密度が段階的に変化するため、製造費用が安価になる。プロトン伝導膜2からの距離の増加に伴うこの漸進的な増加により、燃料電池反応の効率の増加も観察することができる。この方法は、個々の燃料電池の製造のサイクル時間の短縮をもたらす。
【符号の説明】
【0035】
1…燃料セル
2…電解質膜
3…膜の第1の側
4…電極/アノード
5…膜の第2の側
6…電極/カソード
7…アノード側ガス拡散層
8…カソード側ガス拡散層
9…燃料ガスのバイポーラプレート
10…カソードガスのバイポーラプレート
11…燃料流れ場
12…カソードガス流れ場
13…触媒粒子
14…担体粒子
15…イオノマ/イオノマバインダ
16…第1のインク
17…第1の被覆ツール(application tool)/被覆媒体(application medium)
18…第2のインク
19…第2の被覆ツール(application tool)/被覆媒体(application medium)
20…膜材料(ウェブ形状)
21…搬送方向
22…ロール
23…中間乾燥ユニット
24…乾燥ユニット
25…フィルムクリーニングユニット
26…X線蛍光分析装置
27…膜厚測定装置
28…欠陥マーキング用ユニット
29…散布装置(dusting device)
30…触媒粉末コーティング