(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ナフチルフェニルエーテル化合物およびそれを含む潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 105/18 20060101AFI20240411BHJP
C10M 129/16 20060101ALI20240411BHJP
C07C 43/257 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/13 20060101ALN20240411BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240411BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240411BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C10M105/18
C10M129/16
C07C43/257 C
C10N40:02
C10N40:30
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:12
C10N40:13
C10N50:10
C10N30:08
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2022580642
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2022005002
(87)【国際公開番号】W WO2022172934
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021020367
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】前田 達也
(72)【発明者】
【氏名】林 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】山下 孝平
(72)【発明者】
【氏名】畑 雅幸
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-261487(JP,A)
【文献】特開平1-316340(JP,A)
【文献】特開2000-44976(JP,A)
【文献】特開2013-18861(JP,A)
【文献】特開昭61-179296(JP,A)
【文献】SETHI, S. C. et al.,Preparation & Properties of Ethers of 3-Pentadecylphenol,Indian Journal of Technology,1964年,2(6),206-208,ISSN: 0019-5669
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C;C10M;C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
下記式(1)で示される、ナフチルフェニルエーテル化合物を含む、潤滑油組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同一または異なって、炭素数6~28の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり;mおよびnはそれぞれ0以上の実数であり、かつ、1.0≦m+n≦3.0を満たす)
【請求項8】
前記ナフチルフェニルエーテル化合物の質量平均分子量は420~700である、請求項2または7に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフチルフェニルエーテル化合物およびそれを含む潤滑油組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油や潤滑油組成物は、様々な機械装置などの可動部や可動面間の摩擦や摩耗を低減するために用いられる。
【0003】
特に、潤滑油、潤滑グリース等は、高温、高速、高荷重、放射線下といったより過酷な条件下で使用されるようになっており、いっそう優れた耐熱性を有する潤滑油剤が求められている。
【0004】
使用条件が高温、高速になった場合には、潤滑に用いられる潤滑油およびグリース等は油膜切れによる温度上昇や、熱劣化、酸化劣化を引き起こし、それによる潤滑油基油の蒸発の促進により、スラッジの生成、機械装置の破損や寿命低下につながる。
【0005】
このため、高温条件下で使用可能な潤滑油、グリースは種々検討されており、一般的には、高温条件での改良は、潤滑油およびグリースの組成中、最も多く含有する基油によるところが大きい。
【0006】
これまでに、アルキル炭素数が10~20個であるモノアルキルジフェニルエーテルあるいはジアルキルジフェニルエーテル75~25%から成る耐放射線性潤滑油(特許文献1)が知られている。
【0007】
さらに、酸化安定性を有する潤滑油として、炭素数1~20のアルキル基、フェニル基、炭素数7~26のモノアルキルフェニル基等を有する、ナフチルエーテル化合物も報告されている(特許文献2)。
【0008】
特許文献1に記載の潤滑油剤は、優れた耐熱性や耐放射線性を備えているが、現在、潤滑油、潤滑グリースなどの潤滑油剤は、より過酷な条件の下で使用されるようになっており、より優れた耐熱性の潤滑油剤が求められている。また、特許文献2では、実際に実施例で使用されているフェニルナフチルエーテル化合物はブチルフェニルナフチルエーテルであり、当該化合物では十分な耐熱性が得られないことが、本発明者らの研究によりわかってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭62-59760号公報
【文献】特開平1-316340号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明の課題は、前記問題点を解決することにある。すなわち、より優れた耐熱性を備え、より過酷な条件下で使用できる潤滑油として用いられる化合物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記構成のナフチルフェニルエーテル化合物によって、上記目的を達することを見出し、この知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の一局面に係るナフチルフェニルエーテル化合物は、下記式(1)で示される化合物である。
【0013】
【0014】
(式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数6~28の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり;mおよびnはそれぞれ0以上の実数であり、かつ、1.0≦m+n≦3.0を満たす)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1で合成したナフチルフェニルエーテルのガスクロマトグラフィー(GC)チャートを示す。
【
図2】
図2は、炭化水素基置換数を求めるためのモデル化合物の
1H-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のナフチルフェニルエーテル化合物は、上述したように、下記式(1)で示される化合物である。
【0017】
【0018】
式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数6~28の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。また、mおよびnはそれぞれ0以上の実数であり、かつ、1.0≦m+n≦3.0を満たす。
【0019】
このような構成のナフチルフェニルエーテル化合物は、上記先行文献に記載されているような従来の化合物と同等程度の低温特性(流動点)および潤滑性を維持しつつ、非常に優れた耐熱性を有するため、潤滑油として非常に有用である。より具体的には、前記ナフチルフェニルエーテル化合物は高温での蒸発損失が少なく、高温下における寿命も長いため、より高温で使用される高温用潤滑油または耐熱グリースの基油として好適に使用することができる。
【0020】
したがって、本発明によれば、より優れた耐熱性を備え、より過酷な条件下で使用できる潤滑油として用いられるナフチルフェニルエーテル化合物を提供することができる。
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本実施形態のナフチルフェニルエーテル化合物は、上記式(1)で示される化合物である。
【0023】
式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数6~28の炭化水素基であるが、例えば、前記式(1)中のmまたはnのうちいずれかが0である場合、R1およびR2のうちいずれか一方は水素原子であってもよい。すなわち、R1およびR2は、いずれか一方が水素原子であってもよいが、少なくとも一方は前記炭化水素基である。
【0024】
前記炭化水素基の炭素数が6未満であると、炭化水素基を有さないナフチルフェニルエーテルの物性が出現し、固化しやすくなる。また、分子量が小さいため蒸発量が多くなってしまう。一方で、炭素数が28を超えると分子同士の相互作用が大きくなり粘度が高くなりすぎる。また、炭化水素基が集合しやすくなり流動点が高くなりすぎる。R1およびR2が、炭素数6~28の炭化水素基であるとき、本実施形態のナフチルフェニルエーテル化合物は、優れた耐熱性、潤滑性、低温流動性を併せ持つ。
【0025】
本実施形態において、前記炭素数6~28の炭化水素基の構造は、直鎖もしくは分枝鎖である。具体的には、直鎖の炭化水素基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ヘキサコシル基、オクタコシル基などのアルキル基;オクテン基、デセン基、ヘキサデセン基、ドデセン基、オクタデセン基、イコセン基、ドコセン基、テコラコセン基、ヘキサコセン基、オクタコセン基等のアルキレン基;シクロヘキシル基等が挙げられる。分岐鎖の炭化水素基としては、例えば、1-メチルウンデシル基、1-エチルデシル基、1-メチルトリデシル基、1-エチルドデシル基、1-メチルペンタデシル基、1-エチルテトラドデシル基、1-メチルヘプタデシル基、1-エチルオクタデシル基、1-メチルノナデシル基、1-エチルオクタデシル基、2-エチルヘキシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基、1-ブチル-1-メチルペンチル基、1-ブチル-1-メチルへプチル基、1-メチル-1-ペンチルオクチル基、1-ヘキシル-1-メチルノニル基、1-へプチル-1-メチルデシル基、1-メチル-1-オクチルウンデシル基、1-デシル-1-メチルトリデシル基、1-ドデシル-1-メチルペンタデシル基、2-オクチルドデセン基、2-デシルテトラデセン基、シクロヘキシル基等が挙げられる。熱安定性に優れることから、炭化水素基は飽和炭化水素基であることが好ましい。前記炭化水素基は複数の種類を同時に用いてもよい。この場合、炭化水素基の炭素数はその平均で表す。
【0026】
これらの炭化水素基中でも、より優れた耐熱性が得られるという観点から、炭素数12~24の炭化水素基であることが好ましく、好適には、1-メチルウンデシル基、1-メチルトリデシル基、1-メチルペンタデシル基、1-メチル-1-オクチルウンデシル基、1-デシル-1-メチルトリデシル基、1-ドデシル-1-メチルペンタデシル基、ヘキサデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基等が例示される。
【0027】
上述したような炭化水素基は、前記式(1)において、mおよびnが、1.0≦m+n≦3.0を満たすのであれば、ナフチル基およびフェニル基のいずれに結合していてもよく、またナフチル基およびフェニル基のいずれの位置に結合していてもよい。また、例えば、m+nが1である場合、R1およびR2のうちいずれかが水素原子であってもよい。
【0028】
上記式(1)の化合物において、mおよびnはそれぞれ0以上の実数であり、かつ、1.0≦m+n≦3.0を満たす。m+nが1.0未満となると、炭化水素基を有さないナフチルフェニルエーテルの物性が出現し、固化しやすくなる。また、分子量が小さいため蒸発量を十分に抑制することができない。一方でm+nが3.0を超えると、分子同士の相互作用が大きくなり粘度が高くなりすぎる。本実施形態において、m+nは、直鎖または分岐鎖の炭化水素基置換数(以下、単に、アルキル置換数とも称す)を示している。
【0029】
本実施形態の化合物は、例えば、0≦m+n≦2.0の化合物と、2.0≦m+n≦3.0の化合物との混合物等であってもよい。このように複数の異なるm+n値を有する化合物の混合物である場合、m+nの値は、本実施形態の化合物に含まれるナフチルフェニルエーテル化合物におけるm+nの平均値を意味する。
【0030】
好ましい実施形態において、前記m+nは1以上、2.5以下であることがより望ましい。
【0031】
本実施形態において、炭化水素基置換数は、後述の実施例に示す方法によって測定することができる。
【0032】
本実施形態のナフチルフェニルエーテル化合物の質量平均分子量は、420~700程度であることが好ましい。ナフチルフェニルエーテル化合物の質量平均分子量が大きいと耐熱性に優れる傾向があるが、動粘度が高くなりすぎたり潤滑性が劣るおそれがある。反対に質量平均分子量が小さいと、動粘度は低くなるが、耐熱性が劣る傾向にある。質量平均分子量が前記範囲であれば、動粘度や流動点が高すぎず、耐熱性が優れるという利点がある。
【0033】
なお、本実施形態におけるナフチルフェニルエーテル化合物の質量平均分子量とは、後述の実施例に示すように、1H-NMRを用いて測定した値である。なお、以下では質量平均分子量を単に「平均分子量」とも称す。
【0034】
上述したようなナフチルフェニルエーテル化合物の製造方法は、特に限定はされないが、例えば、以下のような合成方法で得ることができる。
【0035】
まず、2-ナフトールとN-メチル-2-ピロリドンを、炭酸カリウムとヨウ化銅と混合して窒素置換を行い、そこへブロモベンゼンを滴下することによって、ナフチルフェニルエーテルを得る。
【0036】
次に、例えば、触媒として塩化アルミニウム等を用いて、前記ナフチルフェニルエーテルと、直鎖もしくは分岐鎖オレフィン等とを反応させることによって、本実施形態のナフチルフェニルエーテル化合物を得ることができる。
【0037】
本発明には、上述したようなナフチルフェニルエーテル化合物を含む潤滑油組成物も包含される。
【0038】
本実施形態の潤滑油組成物には、前記ナフチルフェニルエーテル化合物以外に、その性能をさらに向上させる目的で、または、必要に応じてさらなる性能を付与するために、本発明の効果を損なわない範囲で、鉱物油の他、α-オレフィンオリゴマー、ポリオールエステル、ジエステル、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、変性シリコーン油、アルキルジフェニルエーテル油、マルチプルアルキレートシクロペンタン油、シラハイドロカーボン油などの合成油を混合することができる。さらに、必要に応じて酸化防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤、消泡剤、増粘剤、着色剤等の各種添加剤を単独でまたは複数を組み合わせて配合しても良い。
【0039】
添加剤としては、一般的に潤滑油に使用される酸化防止剤を特に限定なく使用することができるが、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物やアミン系化合物、リン系化合物、硫黄系化合物等が挙げられる。
【0040】
極圧剤としては、例えば、リン系化合物、硫黄系化合物等が挙げられる。
【0041】
摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンジチオカーバメートのようなモリブデン系化合物、グリセリンモノステアレートのような脂肪酸誘導体類等が挙げられる。
【0042】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、およびイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0043】
消泡剤としては、例えば、ポリアクリレート、およびスチレンエステルポリマー等が挙げられる。
【0044】
増粘剤としては、例えば、金属石鹸(例えば、リチウム石鹸)、シリカ、膨張黒鉛、ポリ尿素、粘土(例えば、ヘクトライトまたはベントナイト)等が挙げられる。
【0045】
本実施形態の潤滑油組成物において、前記ナフチルフェニルエーテル化合物を基油として含む場合、その含有量は、耐熱性確保の観点から潤滑油組成物全体(総質量)に対して50~100質量%程度であることが好ましい。また、その場合、前記潤滑油組成物における添加剤等の含有量は、50~0質量%程度であることが好ましい。
【0046】
さらに、前記ナフチルフェニルエーテル化合物を潤滑油組成物の添加剤として使用することも可能であり、その場合、前記ナフチルフェニルエーテル化合物の含有量は潤滑油組成物全体(総質量)に対して1~49質量%程度であることが好ましい。
【0047】
また、本発明には、上述したようなナフチルフェニルエーテル化合物を含む、高温用潤滑油および耐熱グリースも包含される。
【0048】
上述したような潤滑油組成物、高温用潤滑油および耐熱グリースは、軸受用潤滑剤、含浸軸受用の潤滑剤、グリース基油、冷凍機油、可塑剤等として好適に使用される。特に、高温条件下で使用される各種潤滑油、例えば、軸受油、流体軸受油、含油軸受油、グリース基油、含油プラスチックス油、ギヤ油、ジェットエンジン油、断熱エンジン油、ガスタービン油、自動変速機油、真空ポンプ油、油圧作動液等として好適に使用できる。
【0049】
また、上述したようなナフチルフェニルエーテル化合物は耐放射線性にも優れているため、耐放射線性潤滑油または耐放射線性グリースとしても好適に使用できると考えられる。
【0050】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0051】
本発明の一局面に係るナフチルフェニルエーテル化合物は、下記式(1)で示される化合物である。
【0052】
【0053】
(式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数6~28の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり;mおよびnはそれぞれ0以上の実数であり、かつ、1.0≦m+n≦3.0を満たす)
このような構成により、従来の潤滑油より優れた耐熱性を有する化合物を提供することができる。
【0054】
本発明の他の局面に関する潤滑油組成物は、上述のナフチルフェニルエーテル化合物を含むことを特徴とする。
【0055】
本発明のさらに他の局面に関する高温用潤滑油および耐放射線性潤滑油は、上述のナフチルフェニルエーテル化合物を含むことを特徴とする。
【0056】
本発明のさらに他の局面に関する耐熱グリースおよび耐放射線性グリースは、上述のナフチルフェニルエーテル化合物を含むことを特徴とする。
【0057】
本発明に係る潤滑油組成物、高温用潤滑油、耐熱グリースは、非常に優れた耐熱性を備えているため、過酷な条件(特に高温下)での使用に適している。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
〔化合物の合成〕
(実施例1:化合物1)
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を取り付けた容積5L四つ口フラスコに、2-ナフトール504g(3.50モル)と炭酸カリウム961g(6.95モル)、ヨウ化銅135g(0.71モル)およびN-メチル-2-ピロリドン(以下NMPと記す)1500gを入れ、窒素置換を行ったのち反応系の温度を175℃まで加熱した。120℃になった時点でブロモベンゼン1120g(7.13モル)の滴下を開始した。滴下終了後、175℃で6時間攪拌を行った。反応終了後90℃になるまで自然冷却し、キョーワード1000s(アルカリ吸着剤;協和化学工業株式会社製)60gを投入し、30分間攪拌した。続けて、活性白土40gを投入し、90℃で30分攪拌した後、減圧ろ過により、固体分を除去した。ろ滓をNMPに攪拌し、減圧ろ過を3回繰り返した。得られたろ液を80Paにおいて165℃から170℃で減圧蒸留して、留分として常温で固体の2-ナフチルフェニルエーテル(2-ナフチルフェニルオキサイド:2-NPO)を取得した。ここで得られた化合物に5重量%の活性白土を加え90℃で30分攪拌し、減圧ろ過により混入したグリース等を除去した。ナフチルフェニルエーテルのガスクロマトグラフィー(GC)チャートを
図1に示した(測定条件は、後述する)。純度98.7%であった。ここで合成したナフチルフェニルエーテルは後述の実施例2から6までの反応材料としても使用した。
【0060】
次に、攪拌機、滴下ロート、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、上記で得られたナフチルフェニルエーテル200g(0.91モル)と無水塩化アルミニウム2.85g(0.021モル)を入れ、90℃に加熱して無水塩化アルミニウムを溶解したのち、反応系の温度を110℃に保ちながら、1-ヘキサデセン102g(0.45モル)を2時間かけて滴下し、置換反応を行った。滴下終了後、110℃で5時間攪拌を続けたのち、90℃になるまで自然冷却し、キョーワード1000sを無水塩化アルミニウムの5.5倍量投入し、30分間攪拌した。続けて、活性白土を無水塩化アルミニウムの3.65倍量投入し、90℃で30分攪拌した後、減圧ろ過により、無水塩化アルミニウムおよびその他副生する酸性物質を除去した。ここで得られたろ液を80Paにおいて260℃で減圧蒸留して、未反応の原料等を除去し、モノアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物1:アルキル(C16)-2-フェノキシナフタレン(C16-2-NPO))を得た。得られた化合物には、5重量%の活性白土を加え90℃で30分攪拌し、減圧ろ過により混入したグリース等を除去した。なお、評価はグリース等を除去した化合物1について行った。以下、実施例1~7、比較例1~3も同様にグリース等を除去して評価を行った。
【0061】
(実施例2:化合物2)
反応に容積500mLの四つ口フラスコを用い、実施例1で得たナフチルフェニルエーテル130g(0.59モル)と無水塩化アルミニウム1.11g(0.0083モル)、1-ヘキサデセン39.7g(0.18モル)を用い、80Paにおいて300℃で減圧蒸留して、未反応の原料およびモノアルキル置換体等を除去した以外は、実施例1と同様の条件で、ジアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物2:ジアルキル(C16)-2-フェノキシナフタレン(diC16-2-NPO))を得た。
【0062】
(実施例3:化合物3)
反応に容積500mLの四つ口フラスコを用い、実施例1で得たナフチルフェニルエーテル100g(0.45モル)と無水塩化アルミニウム1.07g(0.0080モル)、1-ドデセン38.2(0.23モル)を用い、80Paにおいて260℃から300℃で減圧蒸留して留分としてモノアルキル置換体を得た以外は、実施例1と同様の条件で、モノアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物3:アルキル(C12)-2-フェノキシナフタレン(C12-2-NPO))を得た。
【0063】
(実施例4:化合物4)
反応に容積500mLの四つ口フラスコを用い、実施例1で得たナフチルフェニルエーテル100g(0.45モル)と無水塩化アルミニウム1.93g(0.014モル)、1-ドデセン68.77(0.41モル)を用い、80Paにおいて300℃で減圧蒸留した以外は、実施例1と同様の条件で、ジアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物4:ジアルキル(C12)-2-フェノキシナフタレン(diC12-2-NPO))を得た。
【0064】
(実施例5:化合物5)
反応に容積500mLの四つ口フラスコを用い、実施例1で得たナフチルフェニルエーテル135g(0.61モル)と無水塩化アルミニウム2.40g(0.018モル)、2-オクチル-1-ドデセン85.8(0.31モル)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、モノアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物5:分岐型アルキル(C20)-2-フェノキシナフタレン(bC20-2-NPO))を得た。
【0065】
(実施例6:化合物6)
反応に容積100mLの四つ口フラスコを用い、実施例1で得たナフチルフェニルエーテル33g(0.15モル)と無水塩化アルミニウム0.71g(0.0053モル)、2-デシル-1-テトラデセン85.8(0.31モル)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、モノアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物6:分岐型アルキル(C24)-2-フェノキシナフタレン(bC24-2-NPO))を得た。
【0066】
(実施例7:化合物10)
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を取り付けた容積2Lの四つ口フラスコに、1-ナフトール250g(1.73モル)と炭酸カリウム479g(3.47モル)、ヨウ化銅66g(0.35モル)およびNMP380gを入れ、窒素置換を行ったのち反応系の温度を175℃まで加熱した。120℃になった時点でブロモベンゼン545g(3.47モル)の滴下を開始した。滴下終了後、175℃で6時間攪拌を行った。反応終了後90℃になるまで自然冷却し、キョーワード1000sを30g投入し、30分間攪拌した。続けて、活性白土20gを投入し、90℃で30分攪拌した後、減圧ろ過により、固体分を除去した。ろ滓をNMPに攪拌し、減圧ろ過を3回繰り返した。得られたろ液を80Paにおいて165℃から170℃で減圧蒸留して、留分として1-ナフチルフェニルエーテル(1-ナフチルフェニルオキサイド:1-NPO)を取得した。ここで得られた化合物に5重量%の活性白土を加え90℃で30分攪拌し、減圧ろ過により混入したグリース等を除去した。純度99.0%であった。
【0067】
次に、攪拌機、滴下ロート、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに、上記で得られた1-ナフチルフェニルエーテル110g(0.50モル)と無水塩化アルミニウム1.57g(0.012モル)を入れ、90℃に加熱して無水塩化アルミニウムを溶解したのち、反応系の温度を110℃に保ちながら、1-ヘキサデセン56g(0.25モル)を1時間かけて滴下し、置換反応を行った。滴下終了後、110℃で5時間攪拌を続けたのち、90℃になるまで自然冷却し、キョーワード1000sを無水塩化アルミニウムの5.5倍量投入し、30分間攪拌した。続けて、活性白土を無水塩化アルミニウムの3.65倍量投入し、90℃で30分攪拌した後、減圧ろ過により、無水塩化アルミニウムおよびその他副生する酸性物質を除去した。ここで得られたろ液を80Paにおいて260℃で減圧蒸留して、未反応の原料等を除去し、モノアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ナフチルフェニルエーテル(化合物10:アルキル(C16)-1-フェノキシナフタレン(C16-1-NPO))を得た。得られた化合物には、5重量%の活性白土を加え90℃で30分攪拌し、減圧ろ過により混入したグリース等を除去した。
【0068】
(比較例1:化合物7)
攪拌機、滴下ロート、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコにジフェニルエーテル200g(1.18モル)と無水塩化アルミニウム1.00g(0.0075モル)を入れ、90℃に加熱して無水塩化アルミニウムを溶解した。その後、反応系の温度を100℃に保ちながら、1-ヘキサデセン186g(0.83モル)を2時間かけて滴下し、置換反応を行った。滴下終了後、100 ℃で1時間攪拌を続けたのち、90 ℃になるまで自然冷却し、キョーワード1000sを無水塩化アルミニウムの5.5倍量投入し、30分間攪拌した。続けて、活性白土を無水塩化アルミニウムの3.65倍量投入し、90℃で30分攪拌した後、減圧ろ過により、無水塩化アルミニウムおよびその他副生する酸性物質を除去した。ここで得られたろ液(反応ろ液A)を80Paにおいて250℃から260℃で減圧蒸留して、留分としてモノアルキル置換ジフェニルエーテル(化合物7:アルキル(C16)ジフェニルエーテル(C16-DPO))を得た。ここで得られた化合物に5重量%の活性白土を加え90℃で30分攪拌し、減圧ろ過により混入したグリース等を除去した。
【0069】
(比較例2:化合物8)
比較例1で得られた反応ろ液Aを80Paにおいて290℃で減圧蒸留して、未反応の原料およびモノアルキル置換体等を除去し、ジアルキル置換体を主成分とするアルキル置換ジフェニルエーテル(化合物8:ジアルキル(C16)ジフェニルエーテル(diC16-DPO))を得た。
【0070】
(比較例3:化合物9)
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を取り付けた容積5L四つ口フラスコに4-secブチルフェニル100g(0.67モル)と1-ブロモナフタレン275g(1.33モル)、炭酸カリウム138g(1.33モル)、ヨウ化銅25g(0.13モル)およびN-メチル-2-ピロリドン(以下NMPと記す)350gを入れ、窒素置換を行った。その後、175℃で12時間攪拌を行った。反応終了後90℃になるまで自然冷却しキョーワード1000s20gを投入し、30分間攪拌した。続けて、活性白土15gを投入し、90℃で30分攪拌した後、減圧ろ過により、固体分を除去した。ろ滓をNMPに攪拌し、減圧ろ過を3回繰り返した。得られたろ液を80Paにおいて190℃から220℃で減圧蒸留して、留分として4-secブチルフェニル-1-ナフチルエーテル(化合物9)を取得した。ここで得られた化合物に5重量%の活性白土を加え90℃で30分攪拌し、減圧ろ過により混入したグリース等を除去した。
【0071】
[1H-NMR測定条件と炭化水素基置換数算出条件]
1H-NMRは日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置JNM-ECX400を使用して測定した。測定条件は、温度は80℃、溶媒および標準物質は不使用で行った。
【0072】
化学シフトは同一の化合物を溶媒に重クロロホルム、標準物質にTMSを用いた測定を行い、比較することにより求めた。重クロロホルムとベンゼン環のピークが重複し、正確な積分値を求めることができないためである。
【0073】
上記条件において1H-NMRを使用して、得られた化合物1~10を解析し、各化合物の質量平均分子量を求めた。
【0074】
また、化合物1~10の炭化水素基置換数は、各化合物について
1H-NMRスペクトルを解析して求めた。具体的には、
図2に示すモデル化合物の
1H-NMRスペクトルを用いて、算出方法について説明する。
【0075】
図2において、a(ケミカルシフト6.5~7.3)は芳香環の水素のピークを示す。b
1(ケミカルシフト2.8~3.3)およびb
2(ケミカルシフト2.2~2.7)はベンジル位の水素のピークを示す。c(ケミカルシフト0.5~1.9)は炭化水素基の水素のピークを示す。
【0076】
これらa、b1、b2およびcのピークの積分値(比)を基に、次の式より炭化水素基置換数を算出する:
炭化水素基置換数(m+n)=(芳香環の水素数)×(b1+b2+c)/[(炭化水素基の平均水素数)×a+b1+b2+c]
【0077】
<純度測定>
[ガスクロマトグラフィー(GC)測定条件]
ガスクロマトグラフィーは島津製作所製のGC-2010 Plusを使用して測定した。カラムはUltra ALLOY+-17、キャリアーガスは窒素ガスを使用した。測定温度条件は、50℃で2分間保持した後、毎分25℃ずつ100℃まで昇温、100℃からは毎分15℃で350℃まで昇温し、350℃で15分保持した。
【0078】
<評価試験>
[TG法による蒸発量の測定]
TG法による蒸発量は日立ハイテクノロジーズ社製ST7200RVを使用して測定した。キャリアーガスは空気(200ml/min)、試料容器はアルミニウム深皿パンを使用し、試料量は5mg、温度は250℃で、30分保持した時の各化合物の蒸発量(%)を測定した。
【0079】
本試験では、評価基準を、30分後の蒸発量27%以下を満たす化合物を、合格とする。
【0080】
[薄膜加熱試験]
上記化合物1~10をそれぞれ0.5g、材質S45Cの50Φ凹面皿に秤量した。これを、200℃の恒温槽に静置し、2時間毎に恒温槽から取り出して重量測定を実施し、室温に戻した際の流動性を確認した。そして、室温での流動性を失った時間を薄膜寿命とした。本試験では、薄膜寿命25時間以上を合格として判定する。
【0081】
[潤滑性試験(SRV)]
OPTIMOL社のSRV-5を使用して、潤滑性を測定した。上部試験片は1/2インチSUJ2ボール、下部試験片はSK-5プレートを使用した。温度40℃、荷重50N、速度40mm/sで50秒の慣らし運転をした後に、温度40℃、荷重100N、速度40mm/sで600秒の本試験を実施して、摩擦係数(COF)を測定し、100Nでの平均COFを求めた。本試験では、平均COF0.150以下を合格として判定する。
【0082】
[流動性]
JIS K2269(1987年)に基づいて、化合物1~10の流動点(℃)を測定した。本試験では、-20℃以下を合格として判定する。
【0083】
[粘度特性]
40℃動粘度(mm2/s)を、JIS K 2283(2000年)に従って測定、算出した。
【0084】
以上の結果を、表1および表2にまとめる。
【0085】
【0086】
【0087】
(考察)
表1の結果から、本発明に関する実施例のナフチルフェニルエーテル化合物1~6および化合物10が、上述した蒸発量および薄膜寿命の両方の合格基準をすべて満たすことが示された。つまり、高温での蒸発損失が少なく、高温下における寿命も長いため、耐熱性に非常に優れることがわかった。通常は、化合物の分子量が小さくなれば蒸発量が多くなることが知られているが、本発明の化合物では、実施例1、2および7と比較例2を比較すると炭化水素基の炭素数が同一であっても蒸発量が抑えられていた。実施例2、4、6および7と比較例2を比較すると、同等の分子量であっても、蒸発量は抑えられていた。同等の動粘度を有する実施例3および比較例2を比較すると、本発明の構造を有する場合は、摩擦係数が優れることが分かった。実施例1~7と比較例3を比較すると、同じナフチルエーテルであっても炭化水素基(R1、および又はR2)の炭素数の違いにより、実施例1~7は良好な特性を示した。さらに、本発明の化合物では、低温流動性、潤滑性においても、従来潤滑剤として使用されている化合物と比べて遜色ない性能を備えていることも確認できた。実施例では40℃動粘度は比較例よりも高かったが、潤滑剤として使用することは可能であった。ゆえに、ナフチルフェニルエーテルの炭化水素基が炭素数6~28であり、炭化水素基置換数が1.0≦m+n≦3.0であるとき、耐熱性と低温流動性、潤滑性を併せ持つことが確認できた。
【0088】
一方、表2の結果によれば、従来から使用されている比較例1および2のジフェニルエーテル化合物や、比較例3のブチルフェニルナフチルエーテルでは、蒸発量が多く、また薄膜寿命も短く、本発明の化合物ほどの耐熱性を得ることができなかった。また、すべての実施例および比較例1、2は流動点測定後、雰囲気温度を流動点以上の温度に上昇させた場合再び流動性が確認できたが、比較例3は室温まで戻しても固体のままであった。
【0089】
NPOは常温で固体であり、R2が炭素数4、m+n=1である比較例3は炭化水素基が短いため、NPOの物性が大きく作用し、固化しやすい性質を有していたと考えられる。また、炭化水素基の炭素数が28を超えると分子同士の相互作用が大きくなり、粘度や流動点が高くなりすぎると考えられる。
【0090】
この出願は、2021年2月12日に出願された日本国特許出願特願2021-020367を基礎とするものであり、その内容は本願に含まれるものである。
【0091】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のナフチルフェニルエーテル化合物は、耐熱性に非常に優れているため、高温用潤滑油および耐熱グリース等として好適に用いることができ、広範な産業上の利用可能性を有する。