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特許7470832需要調整システム、需要調整方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】需要調整システム、需要調整方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240411BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 130
H02J3/00 180
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023011745
(22)【出願日】2023-01-30
(62)【分割の表示】P 2019071636の分割
【原出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2023052756
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 逸郎
【審査官】橋沼 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-146761(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178169(WO,A1)
【文献】特開2008-021152(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063409(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/013754(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
需要家の総需要を分析して機器毎の需要を推定する推定手段と、
前記需要家からの買電価格と当該需要家に対する売電価格との関係に基づいて、当該需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されるように、前記需要家に対する売電価格が当該需要家からの買電価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器から優先的に、電力系統に逆潮される電力が発生する時間帯に稼働するように、機器の稼働スケジュールを調整する調整手段と
を有する需要調整システム。
【請求項2】
機器に応じた稼働スケジュールの調整を通知する画面を前記需要家に提示する提示手段を更に有する、請求項に記載の需要調整システム。
【請求項3】
調整後の稼働スケジュールにより、対応する機器の動作を個別に制御する制御手段を更に有する、請求項に記載の需要調整システム。
【請求項4】
コンピュータに、
需要家の総需要を分析して機器毎の需要を推定する処理と、
前記需要家からの買電価格と当該需要家に対する売電価格との関係に基づいて、当該需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されるように、前記需要家に対する売電価格が当該需要家からの買電価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器から優先的に、電力系統に逆潮される電力が発生する時間帯に稼働するように、機器の稼働スケジュールを調整する処理と
を実行させる需要調整方法。
【請求項5】
コンピュータに、
需要家の総需要を分析して機器毎の需要を推定する機能と、
前記需要家からの買電価格と当該需要家に対する売電価格との関係に基づいて、当該需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されるように、前記需要家に対する売電価格が当該需要家からの買電価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器から優先的に、電力系統に逆潮される電力が発生する時間帯に稼働するように、機器の稼働スケジュールを調整する機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要調整システム、需要調整方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統から受電される電力は、電力計で計測することができる。現在、通信機能を有する電力計(いわゆるスマートメータ)で計測された電力量(以下「総需要」ともいう)を分析して需要地に存在する機器毎の電力量(以下「需要」という)を推定する技術が提案されている。この技術は、電力ディスアグリゲーション技術等と呼ばれている。今日、電力ディスアグリゲーション技術は、需要地内で電力の供給を受ける機器毎の需要を視覚化する目的で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】“一般家庭向けの電力管理・効率化サービス「Bidgely」”、[online]、The SV Startups100、[平成30年11月26日検索]、インターネット(URL:https://svs100.com/bidgely/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
需要家に電気を供給する小売電気事業者の多くは、発電設備を備えている。発電設備はそれぞれ特有の発電パターンを有しており、例えば火力発電設備は一日を通して一定の電力を出力する。一方、需要家における需要の多くは、一日の間に変動する。例えば日中の需要が大きく夜間の需要は少ない。
自身の発電能力を、電気の供給契約を結んでいる需要家の総需要が超える場合、小売電気事業者は、電気を市場から調達して需要家に提供する。市場での電気の取引価格は、需給関係によって決まる。例えば需要が多くなる夕方などの時間帯の取引価格が高くなる。一方で、需要が減少する深夜の取引価格は安くなる。
【0005】
このため、小売電気事業者にとっては、調達価格が高い時間帯に市場から調達する電力が少ないことが望ましい。実際、調達価格が低下する深夜の時間帯では、需要家が支払う電力料金も低く設定されており、需要家の需要を夜間に誘導している。ただし、前述した電力ディスアグリゲーション技術においても、機器別の需要の現状を視覚化することにとどまっている。
【0006】
また、昨今では、太陽光発電設備等の分散型電源を設ける需要家も増えている。分散型電源を設ける需要家は余剰電力を小売電気事業者に売電することが可能であるが、その単価は、需要家が小売電気事業者に支払う電気料金の単価よりも安い。従って、需要家においても、需要の一部を売電期間に移すことができれば、売電により小売電気事業者から得られる金額が低減したとしてもそれ以上に小売電気事業者に支払う電気料金が低減するため需要家の利益が多くなる。
【0007】
本発明は、小売電気事業者が需要家から買い取る価格と小売電気事業者が需要家に販売する価格との関係に基づいて需要家側の個別の機器の需要構成を調整しない場合に比して、需要家の経済的利益を合理的に増やすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、需要家の総需要を分析して機器毎の需要を推定する推定手段と、前記需要家からの買電価格と当該需要家に対する売電価格との関係に基づいて、当該需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されるように、前記需要家に対する売電価格が当該需要家からの買電価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器から優先的に、電力系統に逆潮される電力が発生する時間帯に稼働するように、機器の稼働スケジュールを調整する調整手段とを有する需要調整システムである。
請求項2に記載の発明は、機器に応じた稼働スケジュールの調整を通知する画面を前記需要家に提示する提示手段を更に有する、請求項に記載の需要調整システムである。
請求項に記載の発明は、調整後の稼働スケジュールにより、対応する機器の動作を個別に制御する制御手段を更に有する、請求項に記載の需要調整システムである。
請求項に記載の発明は、コンピュータに、需要家の総需要を分析して機器毎の需要を推定する処理と、前記需要家からの買電価格と当該需要家に対する売電価格との関係に基づいて、当該需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されるように、前記需要家に対する売電価格が当該需要家からの買電価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器から優先的に、電力系統に逆潮される電力が発生する時間帯に稼働するように、機器の稼働スケジュールを調整する処理とを実行させる需要調整方法である。
請求項に記載の発明は、コンピュータに、需要家の総需要を分析して機器毎の需要を推定する機能と、前記需要家からの買電価格と当該需要家に対する売電価格との関係に基づいて、当該需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されるように、前記需要家に対する売電価格が当該需要家からの買電価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器から優先的に、電力系統に逆潮される電力が発生する時間帯に稼働するように、機器の稼働スケジュールを調整する機能とを実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、小売電気事業者が需要家から買い取る価格と小売電気事業者が需要家に販売する価格との関係に基づいて需要家側の個別の機器の需要構成を調整しない場合に比して、需要家の経済的利益を合理的に増やすことができる
請求項記載の発明によれば、需要家に対して調整の内容を知らせることができる。
請求項記載の発明によれば、機器の稼働スケジュールの調整をサービスとして提供できる。
請求項記載の発明によれば、小売電気事業者が需要家から買い取る価格と小売電気事業者が需要家に販売する価格との関係に基づいて需要家側の個別の機器の需要構成を調整しない場合に比して、需要家の経済的利益を合理的に増やすことができる。
請求項記載の発明によれば、小売電気事業者が需要家から買い取る価格と小売電気事業者が需要家に販売する価格との関係に基づいて需要家側の個別の機器の需要構成を調整しない場合に比して、需要家の経済的利益を合理的に増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1で想定するネットワークシステムの概要を説明する図である。
図2】実施の形態1で使用する稼働スケジュール調整サーバの機能構成の一例を示す図である。
図3】実施の形態1で使用する稼働スケジュール調整サーバによる制御例を説明するフローチャートである。
図4】ディスアグリゲーションを説明する図である。
図5】需要と電気の取引価格の関係を説明する図である。
図6】稼働タイミングを調整した後の需要と電気の取引価格の関係を説明する図である。
図7】需要家側の機器制御端末に表示される通知画面の一例を示す図である。
図8】実施の形態2で想定するネットワークシステムの概要を説明する図である。
図9】実施の形態2で使用する稼働スケジュール調整サーバの機能構成の一例を示す図である。
図10】実施の形態2で使用する稼働スケジュール調整サーバによる制御例を説明するフローチャートである。
図11】機器別の需要と逆潮電力の関係を説明する図である。(A)は需要家の総需要と機器毎の需要の関係を示し、(B)は逆潮電力が発生する時間帯の例を示す。
図12】稼働タイミングを調整した後の機器別の需要と逆潮電力の関係を説明する図である。(A)は稼働タイミングを調整した後の需要家の総需要と機器毎の需要の関係を示し、(B)は稼働タイミングを調整した後の逆潮電力が発生する時間帯の例を示す。
図13】需要家側の機器制御端末に表示される通知画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
<実施の形態1>
<ネットワークシステムの説明>
図1は、実施の形態1で想定するネットワークシステム1の概要を説明する図である。
図1に示すネットワークシステム1は、電力系統10を通じて受電する需要家システム20と、電気の取引価格に応じて需要家システム20を構成する機器23の稼働スケジュールを調整するサービスを提供する稼働スケジュール調整システム30と、通信網としてのインターネット40とで構成されている。
【0013】
ここでの稼働スケジュール調整システム30は、需要家が使用する機器23の稼働スケジュールの調整を通じ、小売電気事業者の収益の改善を図る。
詳細については後述するが、稼働スケジュール調整システム30は、市場からの調達価格が高い時間帯に稼働される機器23を調達価格がより低い時間帯に稼働させることにより、調達費用の低減を実現する。なお、稼働スケジュールの調整には、需要家の活動と機器23の役割との関係が考慮される。
稼働スケジュール調整システム30は、需要調整システムの一例である。
【0014】
本実施の形態の場合、需要家システム20は、電力系統10から単位時間毎に受電する総需要を計測する電力計21と、需要地内での電力の供給に使用される電力線22と、電力を消費する機器23と、インターネット40との通信と需要地内における通信とを制御するルータ(RT)24と、機器23の動作を制御する機器制御端末25とを有している。
本実施の形態の場合、機器23の稼働スケジュールは、稼働スケジュール調整システム30から指示される。
【0015】
電力計21は、例えば30分毎に計測される総需要をインターネット40経由で総需要データベース32に送信する通信機能を有している。この種の電力計21は、スマートメータとも呼ばれる。もっとも、本実施の形態では、電力計21で計測された総需要は、機器毎の需要の推定に用いられるため、推定の精度を上げるには計測単位が短い方が望ましい。例えば電力計21は、10分毎、5分毎又は1分毎に計測された総需要を総需要データベース32に送信してもよい。
本実施の形態における機器23は、モーター等の動力機器である。もっとも、機器23は動力機器に限定されない。例えばルータ24も機器23の一形態である。なお、図中のNは2以上の自然数である。
【0016】
機器制御端末25は、稼働スケジュール調整システム30から通知される調整後の稼働スケジュールに基づいて、対応する機器23の動作を制御するコンピュータ端末である。従って、機器制御端末25は、制御手段の一例である。
なお、機器制御端末25は、後述するコンピュータとしてのハードウェア構成を有している。ここでの機器制御端末25には、通知された稼働スケジュールに基づいて、対応する機器23の動作を個別に制御するためのプログラムがインストールされている。本実施の形態における稼働スケジュールの調整には、需要の増減を伴う場合、動作モードの変更も含む。例えば需要が大きい高速動作モードを需要が小さい低速動作モードに変更することも、本実施の形態における稼働スケジュールの調整に含まれる。
【0017】
本実施の形態における稼働スケジュール調整システム30は、需要家システム20を構成する機器23の稼働スケジュールを調整する稼働スケジュール調整サーバ31と、需要家毎の総需要の情報を蓄積する総需要データベース(総需要DB)32と、市場から調達する電力の価格(調達価格)を蓄積する調達価格データベース(調達価格DB)33と、小売電気事業者が需要家に販売する電気の価格(売電価格)を蓄積する売電価格データベース(売電価格DB)34と、稼働スケジュールの調整に協力した需要家に付与される対価としてのポイントを蓄積するポイントデータベース(ポイントDB)35とを有している。
【0018】
稼働スケジュール調整サーバ31は、将来の総需要を需要家毎に予測し、予測された総需要のピークが調達価格の高い時間帯から低い時間帯に移動するように機器毎の稼働スケジュールを調整する。前述したように稼働スケジュールの調整には、稼働期間と停止期間の変更に限らず、需要の変動を伴う動作モードの変更も含まれる。稼働スケジュール調整サーバ31が実行する処理機能の詳細については後述する。
【0019】
総需要データベース32には、需要家システム20に設置された電力計21から通知される総需要の値が需要家に対応付けて記録されている。
調達価格データベース33には、市場で取引される電気の時間帯別の調達価格が蓄積されている。市場とは、例えば前日スポット市場、1時間前市場である。
売電価格データベース34には、需要家と小売電気事業者との契約内容によって定まる時間帯ごとの電気料金の情報が蓄積されている。
【0020】
稼働スケジュール調整サーバ31と、総需要データベース32と、売電価格データベース34と、ポイントデータベース35が管理の対象とする需要家は、特定の小売電気事業者との間で電力の小売契約を有している需要家である。本実施の形態の場合、特定の小売電気事業者は、稼働スケジュール調整システム30の運用者と一致するか、稼働スケジュール調整システム30の運用者との間に資本関係を有しているか、サービスの提供に関する業務上の契約関係を有している。
もっとも、複数の小売電気事業者から委託を受けて稼働スケジュールの調整サービスを提供する場合、各データベースには、小売電気事業者が異なる需要家の情報が混在する。
【0021】
図1に示す稼働スケジュール調整システム30には、稼働スケジュール調整サーバ31と、総需要データベース32と、調達価格データベース33と、売電価格データベース34が含まれているが、稼働スケジュール調整システム30を構成するサーバやデータベースは、それぞれ別の事業者が運用するシステム内に存在してもよい。例えば別の事業者は電力会社及びその関連会社であり、稼働スケジュール調整サーバ31の事業者とは独立でもよい。ここでの稼働スケジュール調整サーバ31も、需要調整システムの一例である。
【0022】
図2は、実施の形態1で使用する稼働スケジュール調整サーバ31の機能構成の一例を示す図である。
稼働スケジュール調整サーバ31は、コンピュータとしての構成を有している。すなわち、稼働スケジュール調整サーバ31は、プログラム(基本ソフトウェアを含む)の実行を通じて装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit)と、BIOS(Basic Input Output System)等を記憶するROM(Read Only Memory)と、プログラムの実行領域として使用されるRAM(Random Access Memory)と、不揮発性の記憶装置等を有している。不揮発性の記憶装置には、例えば半導体メモリ、ハードディスク装置を使用する。
【0023】
本実施の形態の場合、稼働スケジュール調整サーバ31は、プログラムの実行を通じて図2に示す機能を実現する。
図2の場合、稼働スケジュール調整サーバ31は、各需要家の総需要から需要家システム20(図1参照)内に設けられた機器23(図1参照)毎の需要に分解するディスアグリゲーション部311と、過去の実績値、直前の需要の状況、需要地に関する天気予報等に基づいて機器23別の需要を予測する需要予測部312と、小売電気事業者が市場から電力を調達する場合の価格(調達価格)を調達価格データベース33から取得する調達価格取得部313と、小売電気事業者が需要家に販売する電力の価格(売電価格)を売電価格データベース34から取得する売電価格取得部314と、機器毎に予測された需要と調達価格と売電価格との関係に基づいて機器23の稼働スケジュールを個別に調整する稼働スケジュール調整部315と、稼働スケジュールの調整に協力した需要家に対し、予め定めた規則によって特定されるポイントを付与するポイント付与部316としての機能を実行する。
【0024】
なお、ディスアグリゲーション部311には、既知の技術の使用が可能である。例えば需要家システム20を構成する機器23(図1参照)は必ずしも既知である必要はなく、全ての機器23が未知でもよい。もっとも、既知の機器23が多ければ推定の精度も高くなる。本実施の形態におけるディスアグリゲーション部311は、例えば総需要を機器毎の需要に分解する学習済みモデルを用い、機器毎の需要を推定する。ここでのディスアグリゲーション部311は、推定手段の一例である。
【0025】
例えば需要地が工場である場合、総需要は、気温などに依存する空調機器の需要、稼働が必須である(稼働のタイミングをコントロールできない)工場設備の需要、稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備の需要に分解される。
本実施の形態では、個々の機器に分解した後に、需要の変動パターンが類似するグループ毎に分類している。ここでの分類には、例えば需要の変動パターンと機器の稼働タイミングとの関係を機械学習したモデルを使用してもよい。
なお、稼働のタイミングがコントロール可能であることは、稼働のタイミングの自由度が高いことを意味する。
【0026】
本実施の形態における需要予測部312は、同じ需要家について蓄積されている機器毎の需要の傾向から需要を予測する。もっとも、規模や業種が類似する需要家に共通する需要の傾向から各機器の需要を予測してもよい。
なお、電力計21(図1参照)からほぼリアルタイムで総需要が通知され、各機器における直前(例えば数時間前からの現在時刻まで)の需要の情報も利用可能である場合には、直前の変化パターンに基づいて現在時刻以降に発生する需要の変化を予測してもよい。
【0027】
また、当日の気象又は環境に関する予測データを利用可能な場合には、予測データに基づいて、現在時刻以降に発生する需要の変化を予測してもよい。ここでの予測データには、例えば天気予報、微小粒子状物質の濃度の予報、気温の予報、湿度の予報等が含まれる。気象や環境に関する予測データを利用できれば、空調機器の当日の稼働状態も高い精度で予測できる。
同様に、当日の生産計画、活動予定等が分かれば、工場設備の需要も高い精度で予測できる。
なお、ディスアグリゲーション部311の機能は、需要予測部312の機能とは別の事業者が実行してもよく、処理結果だけを需要予測部312が取得してもよい。
【0028】
調達価格取得部313は、調達価格データベース33から時間帯別の調達価格を逐次取得する。ここでの調達価格は、小売電気事業者が調達に使用している市場における調達価格である。調達価格には、長期計画のように契約で定まる価格、前日計画のように入札で定まる価格、当日運用のようにリアルタイムで定まる価格等が含まれる。ここでの調達価格取得部313は、第1の取得手段の一例である。
売電価格取得部314は、売電価格データベース34から需要家別の売電価格を取得する。売電価格は、需要家が契約した小売電気事業者のサービスによって定まり、季節や時間帯によっても変動する。売電価格取得部314は、第2の取得手段の一例である。
【0029】
稼働スケジュール調整部315は、小売電気事業者の損失が小さくなるように又は利益が大きくなるように一部の機器23の稼働スケジュールを調整する。稼働スケジュール調整部315は、調整手段の一例である。
このため、稼働スケジュール調整部315は、小売電気事業者の損失を低減する又は利益を増加させる時間帯を特定する機能を有している。
【0030】
小売電気事業者の損失を低減する又は利益を増加させるには、例えば市場からの調達価格を下げればよい。市場からの調達価格を下げるには、例えば需要家側の需要の一部を、調達価格がピークの時間帯から他の時間帯に移動できればよい。
そこで、本実施の形態における稼働スケジュール調整部315は、調達価格がピークの時間帯を、小売電気事業者の損失を低減する又は利益を増加させる時間帯の一例として特定する。因みに、調達価格がピークの時間帯とは、他の時間帯に比べて電力の価格が高い時間帯のことであり、例えばオフィス需要が高まる7時から10時の時間帯と電灯需要が高まる17時から21時の時間帯が該当する。このようにピークとは最大の意味ではなく、極大の意味である。従って、ピークは1日の間に複数存在し得る。
【0031】
なお、小売電気事業者の損失の低減又は利益の増加は、需要家に対する売電価格よりも高い価格による電力の調達を減らすことでも実現が可能である。需要家に対する売電価格より高い価格による電力の調達を減らすには、例えば需要家側の需要の一部を、市場からの調達価格の方が需要家への売電価格よりも高い時間帯から他の時間帯に移動できればよい。
そこで、本実施の形態における稼働スケジュール調整部315は、市場からの調達価格が需要家に対する売電価格よりも高い時間帯を、小売電気事業者の損失を低減する又は利益を増加させる時間帯の一例として特定する。なお、市場からの調達価格が需要家に対する売電価格よりも高い時間帯のうち、他の時間帯に比して売電価格との差がより大きい時間帯を優先してもよい。この時間帯は、小売電気事業者の調達負担がより大きい時間帯だからである。
【0032】
また、小売電気事業者の損失の低減又は利益の増加は、需要家に電力を販売する場合における単価電力当たりの利益が小さい時間帯における需要を減らすことでも実現が可能である。単価電力当たりの利益が小さい時間帯における需要を減らすには、例えば需要家側の需要の一部を、単位電力当たりの利益が小さい時間帯から利益がより大きい他の時間帯に移動できればよい。
そこで、本実施の形態における稼働スケジュール調整部315は、市場からの調達価格が需要家に対する売電価格よりも低い時間帯のうち、他の時間帯に比して売電価格との差がより小さい時間帯を、小売電気事業者の損失を低減する又は利益を増加させる時間帯の一例として特定する。調達価格と売電価格との差が小さい時間帯の需要を差がより大きい時間帯に移動できれば、小売電気事業者の利益がより大きくなるためである。
【0033】
この他、稼働スケジュール調整部315は、稼働スケジュールを調整する機器23を特定する機能も有する。基本的には、特定された時間帯に動作している機器23を稼働スケジュールの調整対象とする。市場での調達価格と需要家に対する売電価格との差が大きい時間帯に動作していない機器23の稼働スケジュールを調整しても、小売電気事業者における経済上の利点が小さいためである。
機器23の特定には、機器23の稼働の状況、稼働スケジュールの自由度の高さ、需要地の気象又は環境、需要家の活動の内容、需要の大きさ等が参照される。
【0034】
例えば稼働スケジュールの自由度の高さが同程度であれば、需要の大きい機器23を優先的に稼働スケジュールの調整を検討する。稼働スケジュールの調整に伴う需要の移動の効果が相対的に大きいためである。
ここでの特定には、例えば需要地で使用される機器23の稼働スケジュールと需要の関係を機械学習したモデルを使用してもよい。
【0035】
なお、稼働スケジュールを調整する機器23の特定には制約がある。例えば需要家の活動との関係で、特定の時間帯での稼働が必須の場合である。この種の機器23は、需要が大きくても、稼働スケジュールの調整対象から除外される。
本実施の形態における稼働スケジュール調整部315は、調整済みの稼働スケジュールを需要家に通知する機能も有している。この意味で、稼働スケジュール調整部315は、提示手段の一例でもある。
ポイント付与部316は、機器の稼働スケジュールが調整された需要家に対してポイントを付与する。ポイント付与部316は、付与手段の一例である。
【0036】
<制御例>
図3は、実施の形態1で使用する稼働スケジュール調整サーバ31(図1参照)による制御例を説明するフローチャートである。なお、図中の記号Sはステップを表している。
図3に示す処理手順は、需要調整方法の一例である。
まず、稼働スケジュール調整サーバ31は、需要家の総需要を取得する(ステップ1)。総需要は、電力計21(図1参照)で計測される実績値であり、総需要データベース32(図1参照)から取得される。
【0037】
次に、稼働スケジュール調整サーバ31は、取得された総需要から機器毎の需要を推定する(ステップ2)。この処理はディスアグリゲーション部311(図2参照)が実行する。
図4は、ディスアグリゲーションを説明する図である。(A)はディスアグリゲーション前の総需要の時間変化を示し、(B)はディスアグリゲーション後の機器別の需要の時間変化を示す。ここでの横軸は時間であり、縦軸は需要である。図4の場合、横軸は1日のうちのある時間帯を表している。
【0038】
図4(A)に示すディスアグリゲーション前の総需要の時間変化を示す波形からは、総需要の時間変化を把握することは可能でも、中央付近に総需要のピークが現れる理由までは分からない。
一方、図4(B)に示すディスアグリゲーション後の波形からは、総需要の時間変化を示す波形だけでなく、需要地で用いられている機器毎の需要の時間変化も把握できる。
【0039】
図4(B)の場合、総需要は、ほぼ一定の待機電力と、気温などに依存して変動する空調機器の需要と、稼働が必須である工場設備に対応するほぼ一定の需要と、稼働のタイミングをコントロール可能である工場設備に対応する需要とに分解される。図4では、待機電力を各機器の需要とは独立に表している。
【0040】
図3の説明に戻る。本実施の形態の場合、稼働スケジュール調整サーバ31は、推定された機器毎の需要に基づいて、機器23毎に需要を予測する(ステップ3)。
例えば需要地の天気予報、需要家の活動予定等を用いて機器毎に需要を予測する。空調機器の需要は、予測の対象とする日の気温や湿度の影響を受けて変動し易い特徴がある。
また例えば受注量に応じて稼働の状態が変動する工場設備の需要は、予測の対象とする日の生産スケジュールの影響を受けて変動し易い特徴がある。
機器毎の需要にディスアグリゲーションされていることで、機器毎の需要は高い精度での予測が可能である。
【0041】
次に、本実施の形態における稼働スケジュール調整サーバ31は、市場からの調達価格を取得する(ステップ4)。また、稼働スケジュール調整サーバ31は、需要家に対する売電価格を取得する(ステップ5)。
なお、調達価格と売電価格の取得のタイミングは、図3に示すタイミングに限らない。ステップ6の処理が開始されるまでに取得されていればよい。
次に、稼働スケジュール調整サーバ31は、小売電気事業者の損失を低減する又は利益を増加させる時間帯を特定する(ステップ6)。例えば調達価格がピークの時間帯が特定される。また例えば小売電気事業者の損失が大きい時間帯又は利益が小さい時間帯が特定される。これらの時間帯は、調達価格と売電価格の比較により特定される。
【0042】
続いて、稼働スケジュール調整サーバ31は、特定された時間帯に稼働する機器23を特定する(ステップ7)。
図5は、需要と電気の取引価格の関係を説明する図である。(A)は需要家の総需要と機器毎の需要の関係を示し、(B)は市場からの調達価格と需要家に対する売電価格の関係を示す。
図5(A)の横軸は時間であり、縦軸は需要である。一方、図5(B)の横軸は時間であり、縦軸は価格(例えば円)である。
図5の場合、横軸は1日であり、時間軸の左端が0時、右端が24時である。従って、時間軸の中央は12時である。
【0043】
図5(B)の場合、売電価格はほぼ一定であり、調達価格は2つのピークを有している。1つ目のピークは低く、2番目のピークはより高く期間も長い。1つ目のピークはオフィス需要に対応し、2つ目のピークは電灯需要と午後の冷暖房需要に対応する。
図5(A)に示す総需要は午前と午後に2つのピークを有している。図5(A)に示す総需要は、待機電力と、空調機器の需要と、稼働が必須の工場設備の需要と、稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備の需要とで構成されている。空調機器の需要は午前よりも午後に増加することが分かる。稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備の需要も同じである。
図5の場合、需要家に対する売電価格に比して調達価格が高い午後の時間帯に総需要が増加しており、その原因が、空調機器の需要、稼働が必須の工場設備の需要、稼働のタイミングがコントロール可能な工場設備の需要であることが分かる。
【0044】
図3の説明に戻る。次に、稼働スケジュール調整サーバ31は、需要地における気象若しくは環境又は需要家の活動の内容に応じて需要が変動する機器の稼働スケジュールを、調達価格がより低い時間帯に移動する(ステップ8)。
理想的には、売電価格より高い時間帯に稼働している全ての機器23を、調達価格が売電価格よりも低い時間帯の稼働に切り替えることが望ましい。
もっとも、現実には様々な制約により、そのような調整は困難である。例えば外気温が35℃以上の場合に空調機器を止めることは困難である。また、生産能力の観点からも、必要な生産量を確保できない可能性がある。
そこで、本実施の形態の場合には、稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備に限り、午後の稼働を午前中に前倒ししている。
【0045】
図6は、稼働タイミングを調整した後の需要と電気の取引価格の関係を説明する図である。(A)は需要家の総需要と機器毎の需要の関係を示し、(B)は市場からの調達価格と需要家に対する売電価格の関係を示す。
図6(A)の横軸は時間であり、縦軸は需要である。一方、図6(B)の横軸は時間であり、縦軸は価格(例えば円)である。図6の場合も、横軸は1日であり、時間軸の左端が0時、右端が24時である。
【0046】
図6の場合、矢印で示すように、調達価格が高い午後の時間帯における総需要(太線で示す外縁部分)は低下し、相対的に調達価格が低い午前の時間帯における総需要が増加している。この調整により、電力系統10から供給を受ける電力量(総需要)は変わらないが、調達費用の削減が実現される。
図3の説明に戻る。本実施の形態の場合、稼働スケジュール調整サーバ31は、調整後の稼働スケジュールを需要家に通知する(ステップ9)。もっとも、稼働スケジュールの自動調整の了解が事前に得られている場合には、この通知は不要である。
【0047】
本実施の形態では、稼働スケジュールの調整を実行に移す前に、需要家の了解を求めている。
図7は、需要家側の機器制御端末25に表示される通知画面260の一例を示す図である。
図7に示す通知画面260は、タイトル261と、説明文262と、許可用のボタン(図中の「はい」)263と、不許可用のボタン264(図中の「いいえ」)とで構成されている。
【0048】
図7の場合、タイトル261には「稼働スケジュールの調整のお願い」と記載されている。本実施の形態における稼働スケジュールの調整は、小売電気事業者の都合に起因するためである。
説明文262には、協力をお願いする内容、協力頂ける場合に付与する対価の内容、需要家に求める作業の内容が記載されている。具体的には、「稼働スケジュールの調整へのご協力をお願いいたします。調整にご協力いただいた場合、××ポイントを付与させていただきます。ご協力いただけますか?」との文が記載されている。
図7の場合、稼働スケジュールを調整する機器や調整後の稼働スケジュールの内容が示されていないが、示されることが望ましい。
【0049】
図7の場合、対価としての価値としてポイントが示されているが、対価としての価値は、金銭そのもの、金銭や割引を受け取る権利、他のサービスを受ける権利やアップグレードを受ける権利、優先権その他の需要家の利益を含む。
付与される価値の大きさは、固定値でもよいし、小売電気事業者が受ける利益に連動して増減してもよい。
図3の説明に戻る。稼働スケジュール調整サーバ31は、調整が許可されたか否かを判定する(ステップ10)。
【0050】
ステップ10で肯定結果が得られた場合(図7でボタン263が操作された場合)、稼働スケジュール調整サーバ31は、ポイントを付与する(ステップ11)。勿論、需要家の機器制御端末25は、通知された調整後の稼働スケジュールに従って対応する機器23の動作を制御する。
一方、ステップ10で否定結果が得られた場合(図7でボタン264が操作された場合)、稼働スケジュール調整サーバ31は、ポイントを付与することなく、稼働スケジュールの調整をキャンセルする(ステップ12)。この場合、需要家の機器制御端末25は、通知された調整後の稼働スケジュールを実行しない。
【0051】
本実施の形態の場合、需要家毎の事情に則し、機器毎に稼働スケジュールの調整を提示できる。結果的に、小売電気事業者は、従前に比して調達費用を低減できる。
一方、稼働スケジュールの調整に協力した需要家においても、ポイント等の価値を受け取ることができる。ポイントを付与する主体は、本実施の形態に係るサービスを提供する事業者でもよいし、小売電気事業者でもよい。
また、本実施の形態に係るサービスの普及により、電力の需給関係が緩和され、市場における取引価格の低減も期待される。
【0052】
<実施の形態2>
前述の実施の形態1の場合には、小売電気事業者側の都合により機器毎の稼働スケジュールを調整しているが、本実施の形態の場合には、需要家側の都合により機器毎の稼働スケジュールを調整する。
【0053】
図8は、実施の形態2で想定するネットワークシステム1Aの概要を説明する図である。図8には、図1との対応部分に対応する符号を付して示している。
図8に示すネットワークシステム1Aは、電力系統10を通じて受電する需要家システム20Aと、需要家システム20Aに設けられている分散型電源26から電力を買い取る場合の価格(買取価格)と小売電気事業者が需要家に販売する電気の価格(売電価格)との関係に応じて需要家システム20Aを構成する機器23の稼働スケジュールを調整するサービスを提供する稼働スケジュール調整システム30Aと、通信網としてのインターネット40とで構成されている。
ここでの稼働スケジュール調整システム30Aは、需要調整システムの一例である。
【0054】
本実施の形態における需要家システム20Aは、分散型電源26を有する点で実施の形態における需要家システム20(図1参照)と異なっている。本実施の形態における分散型電源26は、例えば太陽光発電設備、熱と電気を発生するコジェネレーションシステム、風力発電設備である。このうち自然エネルギーを電気に変換する太陽光発電設備と風力発電設備は、自然環境に応じて発電する時間帯と発電量が変化する。一方、化学エネルギーを使用する燃料電池その他のコジェネレーションシステムは、稼働時間と発電量をコントロールできる。
本実施の形態では、分散型電源26で発電された電力のうち余剰電力が電力系統10に逆潮される。このため、電力計21は、逆潮される電力量も計測する機能を備えている。逆潮された電力は、小売電気事業者によって買い取られる。なお、単位電力量当たりの買電価格は、予め定められている。
【0055】
本実施の形態における稼働スケジュール調整システム30Aは、需要家が使用する機器23の稼働スケジュールを積極的に調整することにより、需要家の収益を改善する。
詳細については後述するが、稼働スケジュール調整システム30Aは、電力系統10に逆潮される電力(逆潮電力)が発生する時間帯に他の時間帯の需要の一部を移動させることにより、需要家が小売電気事業者に支払う電気料金の低減を実現する。なお、売電価格が買電価格よりも高いことが前提である。本実施の形態の場合も、稼働スケジュールの調整には、需要家の活動と機器の役割との関係が考慮される。
ここでの稼働スケジュール調整システム30Aも、需要調整システムの一例である。
【0056】
本実施の形態における稼働スケジュール調整システム30Aは、需要家システム20Aを構成する機器23の稼働スケジュールを調整する稼働スケジュール調整サーバ31Aと、需要家毎の総需要の情報を蓄積する総需要データベース32と、小売電気事業者が需要家に対して販売する電気の価格(売電価格)に関する情報を蓄積する売電価格データベース(売電価格DB)34と、小売電気事業者が需要家から余剰電力を買い取る電気の価格(買電価格)に関する情報を蓄積する買電価格データベース(買電価格DB)36と、需要家からの買電の履歴に関する情報を蓄積する買電履歴データベース(買電履歴DB)37を有している。
【0057】
実施の形態1との違いは、調達価格データベース33(図1参照)とポイントデータベース35(図1参照)が削除されている点と、買電価格データベース36と買電履歴データベース37が追加されている点との2点である。買電価格データベース36には、小売電気事業者が需要家から電力を買い取る場合の価格が蓄積されている。買電履歴データベース37には、需要家が電力系統10に電力を逆潮した時刻と逆潮された電力の値が蓄積されている。
また、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、稼働スケジュールの調整のために参照する情報が実施の形態1と異なっている。稼働スケジュールの調整手法の詳細については後述する。
【0058】
図9は、実施の形態2で使用する稼働スケジュール調整サーバ31Aの機能構成の一例を示す図である。図9には、図2との対応部分に対応する符号を付して示している。
図9に示す稼働スケジュール調整サーバ31Aは、各需要家の総需要から需要家システム20A(図8参照)内に設けられた機器23(図8参照)毎の需要に分解するディスアグリゲーション部311と、過去の実績値、直前の需要の状況、需要地に関する天気予報等に基づいて機器23別の需要を予測する需要予測部312と、小売電気事業者が需要家に販売する電力の価格(売電価格)を売電価格データベース34から取得する売電価格取得部314と、需要家が小売電気事業者に販売する電力の価格(買電価格)を買電価格データベース36から取得する買電価格取得部317と、需要家が小売電気事業者に販売した電力の履歴を買電履歴データベース37から取得する買電履歴取得部318と、機器毎に予測された需要と買電価格と売電価格との関係に基づいて機器23の稼働スケジュールを個別に調整する稼働スケジュール調整部315Aとしての機能を実行する。
【0059】
本実施の形態の場合、買電価格は一定と仮定するが、時間帯に応じて変動してもよい。また、稼働スケジュール調整部315Aは、需要家が支払う電気料金が小さくなるように一部の機器23の稼働スケジュールを調整する。稼働スケジュール調整部315Aは、調整手段の一例であると共に提示手段の一例でもある。
本実施の形態における稼働スケジュール調整部315Aは、分散型電源26(図8参照)が電力系統10に電力を逆潮する時間帯を予測する機能を有している。電力系統10への逆潮が発生する時間帯は、需要家が設置する分散型電源26の種類や需要家の需要のパターンによっても異なる。
【0060】
また、稼働スケジュール調整部315Aは、稼働スケジュールを調整する機器23を特定する機能も有している。基本的には、逆潮が発生している時間帯とは別の時間帯に動作している機器23を稼働スケジュールの調整対象とする。逆潮が発生している時間帯に動作している機器23の稼働スケジュールを調整しても需要家には経済上の利点が少ないためである。
機器23の特定の手法は、実施の形態1で説明した稼働スケジュール調整部315(図2参照)と同じである。
【0061】
図10は、実施の形態2で使用する稼働スケジュール調整サーバ31A(図8参照)による制御例を説明するフローチャートである。図10には、図3との対応部分に対応する符号を付して示している。
図10に示す処理手順は、需要調整方法の一例である。
本実施の形態における稼働スケジュール調整サーバ31Aは、ステップ1~ステップ3(図3参照)の実行後に、需要家からの買電価格を取得する(ステップ21)。
この後、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、需要家に対する売電価格を取得する(ステップ5)。
【0062】
続いて、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、分散型電源26が電力系統に電力を逆潮する時間帯を予測する(ステップ22)。この時間帯は、需要家毎の買電履歴、天気予報、各機器23の需要などから予測される。例えば自然エネルギーを電力に変換する分散型電源26であれば、天気予報に基づいて、電力が発生される時間帯とおおよその発電量を予測できる。また、コジェネレーションシステムとしての分散型電源26の場合には、過去の買電履歴や発電スケジュールが分かれば、電気が発生される時間帯とおおよその発電量を予測できる。
発電される時間帯と発電量が分かれば、機器別の需要の大小関係により逆潮が発生する時間帯を予測することが可能である。言うまでもなく、発電された電力を機器23で優先的に消費する設定であり、かつ、分散型電源26の発電量よりも機器23の総需要の方が大きい場合には逆潮が発生しない。逆潮が発生しない場合、以下の処理はスキップされる。
【0063】
図11は、機器別の需要と逆潮電力の関係を説明する図である。(A)は需要家の総需要と機器毎の需要の関係を示し、(B)は逆潮電力が発生する時間帯の例を示す。
図11(A)の横軸は時間であり、縦軸は需要である。図11(A)の場合、横軸は1日であり、時間軸の左端が0時、右端が24時である。従って、時間軸の中央は12時である。
図11(A)に示す需要の波形は、図5に示す需要の波形と同じである。また、ディスアグリゲーション後の機器毎の需要も同じである。
【0064】
図11(B)の横軸は時間である。なお、縦軸は逆潮電力である。図11(B)の場合も、横軸は1日であり、時間軸の左端が0時、右端が24時である。従って、時間軸の中央は12時である。
図11(B)の場合、逆潮電力の発生を示す波形は、12時付近に現れている。なお、需要家が小売電気事業者から購入する電気の価格(買電価格)は1日を通して25円/kWhであるのに対し、需要家が小売電気事業者に販売する電気の価格(売電価格)は10円/kWhである。勿論、具体的な数値は一例である。いずれにしても、売電価格が買電価格より低いので、需要家は売電するよりも自身で消費した方が小売電気事業者に支払う電気料金が安く済む。なお、売電に対して受け取る金額も減るが、それ以上に小売電気事業者に支払う電気料金が減る。
【0065】
続いて、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、需要地における気象若しくは環境又は需要家の活動の内容に応じて需要が変動する機器の稼働スケジュールを、分散型電源26が電力系統10に逆潮する時間帯に移動する(ステップ24)。本実施の形態の場合には、稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備の午後の稼働を、逆潮が発生する正午前後の時間帯に前倒しする。
【0066】
図12は、稼働タイミングを調整した後の機器別の需要と逆潮電力の関係を説明する図である。(A)は稼働タイミングを調整した後の需要家の総需要と機器毎の需要の関係を示し、(B)は稼働タイミングを調整した後の逆潮電力が発生する時間帯の例を示す。
図12には、図11との対応部分に対応する符号を付して示している。
図12(A)の横軸は時間であり、縦軸は需要である。図12(B)の横軸は時間である。なお、縦軸は逆潮電力である。図12の場合も横軸は1日であり、時間軸の左端が0時、右端が24時である。従って、時間軸の中央は12時である。
【0067】
図12の場合、稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備の午後の需要が電力の逆潮が発生する時間帯に移動されている。
図12(A)では、稼働スケジュールの調整に伴う需要の変化を矢印で表している。12時付近の矢印は需要の増加を表し、午後の矢印は需要の低下を表している。このことは、逆潮電力が発生する時間帯の需要が増加し、逆潮電力が発生しない時間帯の需要が低下することを意味する。このため、需要が低下した時間帯に需要家が小売電気事業者に支払う電気料金は稼働スケジュールを調整する前に比して低下する。
また、図12(B)では、逆潮電力のピーク値が低下している。このことは、自家消費分の増加により需要家が小売電気事業者に販売する逆潮電力が減ることを意味している。一方で、前述したように、午後の時間帯では、需要家が小売電気事業者から購入する電力が、逆潮電力と同量だけ低減している。
【0068】
本実施の形態の場合、需要家が逆潮電力を販売する電気の価格よりも、小売電気事業者から電気を購入する価格が15円/kWhだけ高い。このため、需要家にとっては、稼働スケジュールの調整によって逆潮電力が減ったとしても、その分だけ小売電気事業者から購入する電力も同量だけ減ることになるので、全体としては、需要家が小売電気事業者に支払う電気料金が実質的に低減されることになる。
ここで、電気料金が実質的に低減されるとは、需要家が、受電の対価として小売電気事業者に支払う電気料金から売電の対価として小売電気事業者から受け取る金額を差し引いた金額が低減することをいう。
【0069】
図10の説明に戻る。特定された機器23が稼働する時間帯を分散型電源が電力系統10に逆潮する時間帯に移動させる稼働スケジュールの調整が終了すると、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、調整後の稼働スケジュールを需要家に通知する(ステップ9)。もっとも、稼働スケジュールの自動調整の了解が事前に得られている場合には、この通知は不要である。
【0070】
本実施の形態では、稼働スケジュールの調整を実行に移す前に、需要家の了解を求めている。
図13は、需要家側の機器制御端末25に表示される通知画面260Aの一例を示す図である。
図13に示す通知画面260Aは、タイトル261Aと、説明文262Aと、許可用のボタン(図中の「はい」)263Aと、不許可用のボタン264A(図中の「いいえ」)とで構成されている。
【0071】
図13の場合、タイトル261Aには「稼働スケジュールの調整のご提案」と記載されている。本実施の形態における稼働スケジュールの調整は、需要家側の利益を想定するためである。もっとも、需要家側の需要が大きい時間帯は、多くの場合、小売電気事業者が電力を調達する市場の調達価格が高い時間帯と重なっている。このため、本実施の形態の場合における稼働スケジュールの調整は、市場からの調達費用が低減する意味で小売電気事業者の利益にもなる。
【0072】
説明文262Aには、提案の内容、提案の実行時に得られる利益の内容、需要家に求める作業の内容が記載されている。具体的には、「○○機器の稼働スケジュールの調整をご提案します。〇〇機器を11:00-13:00に稼働させることにすると、月額でYY円(見込み)の実質利益が発生します。調整を実行しますか?」との文が記載されている。
ここでの実質利益とは、前述したように、需要家が電気料金として小売電気事業者に支払う金額から売電に対する対価として需要家が小売電気事業者から受け取る金額を差し引いた金額が、調整前から減少する金額のことである。
【0073】
図13の場合、対価としての金額が示されているが、対価は、ポイント、金銭や割引を受け取る権利、他のサービスを受ける権利やアップグレードを受ける権利、優先権その他の需要家の利益を含む。
本実施の形態の場合、対価は、需要家の実質的な利益を表しているが、予め定めた固定値でもよい。
図10の説明に戻る。稼働スケジュール調整サーバ31Aは、調整が許可されたか否かを判定する(ステップ10)。
【0074】
ステップ10で肯定結果が得られた場合(図13でボタン263Aが操作された場合)、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、そのまま処理を終了する。勿論、需要家の機器制御端末25は、通知された調整後の稼働スケジュールに従って対応する機器23の動作を制御する。
一方、ステップ10で否定結果が得られた場合(図13でボタン264Aが操作された場合)、稼働スケジュール調整サーバ31Aは、稼働スケジュールの調整をキャンセルする(ステップ12)。この場合、需要家の機器制御端末25は、通知された調整後の稼働スケジュールを実行しない。
【0075】
本実施の形態の場合、需要家側に設けられた分散型電源26から電力系統10に逆潮される余剰電力を低減するように、機器毎に稼働スケジュールが調整される。
本実施の形態では、小売電気事業者が需要家から買い取る電力の価格が、小売電気事業者が需要家に販売する電力の価格よりも常に安い。このため、需要家は、稼働スケジュールの調整による受電電力の低減により、利益を受けることが可能になる。
また、需要家での需要が大きい時間帯は、市場で取引される電力の価格が高いため、小売電気事業者にとっても供給する電力の低減によって調達費用を低減することが可能である。
【0076】
<他の実施の形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、前述の実施の形態に記載の範囲に限定されない。前述した実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0077】
例えば実施の形態2においては、需要家の分散型電源26(図8参照)が電力を逆潮する時間帯と機器毎の需要の時間変化の関係に基づいて、機器23の稼働スケジュールを個別に調整しているが、小売電気事業者が需要家から買い取る電力の価格と小売電気事業者が需要家に販売する電力の価格との関係に基づいて機器23の稼働スケジュールを個別に調整してもよい。
具体的には、売電気事業者が需要家に販売する電力の価格が、需要家から売電気事業者が買い取る電力の価格より高い時間帯における需要が他に比べて多い機器23から優先的に電力が逆潮される時間帯に稼働スケジュールを移動させるように制御を実行してもよい。この処理は、実施の形態2で説明した処理手順(図10参照)によって実現できる。
【0078】
前述の実施の形態の場合には、稼働スケジュール調整サーバ31(図1参照)及び31A(図8参照)がいずれもインターネット40上に配置されている場合について説明したが、稼働スケジュール調整サーバ31等は、需要家システム20、20A(図1図8参照)に設けられていてもよい。
この場合、稼働スケジュール調整サーバ31等による制御は、特定の需要家だけを対象とする専用の制御となる。なお、稼働スケジュール調整サーバ31A等の機能は、分散型電源26の一部として実装されてもよい。
【0079】
前述の実施の形態においては、気温などによって需要が変動する機器の一例として空調機器を例示しているが冷蔵機器でもよい。
また、前述の実施の形態の場合には、需要家システム20を構成する機器23の一例として動力機器を例示しているが、機器23は動力機器に限らず事務機器や家庭用機器でもよい。
【0080】
前述の実施の形態においては、30分単位で需要を計測する電力計21を使用しているが、需要の計測単位は30分に限らない。例えば1分単位でもよい。また、需要の予測単位も30分に限らず、1分その他の時間長を単位としてもよい。
また、前述の実施の形態の場合には、稼働のタイミングをコントロール可能な工場設備の稼働スケジュールを1日の範囲で再スケジュールしているが、ある日の作業を別の日に割り当てる等、複数日にわたって再スケジュールしてもよい。
また、前述の実施の形態においては、稼働スケジュールの調整の内容を需要家に対して事前に通知しているが、需要家には事後的に通知してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1、1A…ネットワークシステム、10…電力系統、20、20A…需要家システム、21……電力計、22…電力線、23…機器1~N、24…ルータ、25…機器制御端末、26…分散型電源、30、30A…稼働スケジュール調整システム、31、31A…稼働スケジュール調整サーバ、32…総需要データベース、33…調達価格データベース、34…売電価格データベース、35…ポイントデータベース、36…買電価格データベース、37…買電履歴データベース、40…インターネット、311…ディスアグリゲーション部、312…需要予測部、313…調達価格取得部、314…売電価格取得部、315、315A…稼働スケジュール調整部、316…ポイント付与部、317…買電価格取得部、318…買電履歴取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13