IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄住金テックスエンジ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-無線通信機器 図1
  • 特許-無線通信機器 図2
  • 特許-無線通信機器 図3
  • 特許-無線通信機器 図4
  • 特許-無線通信機器 図5
  • 特許-無線通信機器 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】無線通信機器
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/16 20060101AFI20240411BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20240411BHJP
   H01Q 19/30 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01Q9/16
G06K19/077 280
H01Q19/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023143951
(22)【出願日】2023-09-05
【審査請求日】2023-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀明
(72)【発明者】
【氏名】竹田 宏孝
(72)【発明者】
【氏名】花野 元紀
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-121256(JP,A)
【文献】特開2002-269520(JP,A)
【文献】特開2019-016855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 9/16
G06K 19/077
H01Q 19/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射器として機能する放射手段を備えた無給電線型の無線通信機器であって、
前記放射手段は、
軸心を合わせて隙間を形成し又は絶縁材を配置し、絶縁状態とされた金属製の丸棒A、Bをそれぞれ有する平行に配置された第1、第2の放射部を有し、
前記第1の放射部は、前記丸棒Aと前記丸棒Bとが固有情報を記録したIC素子を搭載したシート状配線基材を介して接続され、
前記第1の放射部の前記丸棒Aと前記第2の放射部の前記丸棒Bとが、かつ、前記第1の放射部の前記丸棒Bと前記第2の放射部の前記丸棒Aとが、導体を介して、たすき掛けに接続されていることを特徴とする無線通信機器。
【請求項2】
前記第2の放射部は、前記第1の放射部に対してその一側に2本以上平行に配置され、
隣り合う、一方の前記第2の放射部の前記丸棒Aと、他方の前記第2の放射部の前記丸棒Bとが、かつ、一方の前記第2の放射部の前記丸棒Bと、他方の前記第2の放射部の前記丸棒Aとが、導体を介して、たすき掛けに接続されていることを特徴とする請求項1記載の無線通信機器。
【請求項3】
前記放射手段の前記丸棒A、Bに対して、
その一側に平行に配置される、反射器として機能する金属製の丸棒Cと、
その他側に平行に配置される、導波器として機能する金属製の丸棒Dとを、
更に有することを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信機器。
【請求項4】
前記丸棒Dは、複数本平行に配置されていることを特徴とする請求項3記載の無線通信機器。
【請求項5】
前記丸棒A~Dはそれぞれ、該丸棒A~Dを支持する支持体に、移動不能に取付け固定されていることを特徴とする請求項4記載の無線通信機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射器を備えた無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
製造工場等において、製品等の識別や管理にRFタグが利用されることがある。固有情報が埋め込まれたRFタグを製品等に取り付けておき、リーダ/ライタが無線通信によりRFタグと情報をやり取りすることにより、製品等の物流管理や位置管理を実現することができる。
RFタグとしては、内蔵電池により駆動するアクティブ型と、電池を保有せず、外部から受信する電波をエネルギー源として駆動するパッシブ型とがある。このアクティブ型のRFタグは、通信距離を長距離とすることが可能であるが、単価が高く、内蔵電池の残容量を把握する必要がある。一方、パッシブ型のRFタグは、単価が安く、電池の残容量を把握する必要はないが、一般的に通信距離が5m~6m程度であり、用途によっては通信距離を延ばすことが求められる。
そこで、本発明者らは、放射器に市販のパッシブ型のRFタグ(シール型やモールド型)を使用した無線通信機器を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-16855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記無線通信機器により、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることができたが、更なる性能向上が望まれていた。
本発明の課題は、従来よりも、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることが可能な無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記無線通信機器の性能向上を図るに際し、以下の知見を得た。
・無線通信機器に反射器と導波器を組み込んだとしても、その性能は選択したRFタグの性能に依存する。
・選択したRFタグの種類に応じて、反射器と導波器の長さや間隔を調整する必要があり、設計や製作に負担がかかる。
・使用するRFタグは、市販のパッケージ化された製品であるため、性能向上のための改造ができない。
・量産化する場合は、特定のRFタグに絞ることが望ましい。
本発明者らは、無線通信機器の更なる性能向上を図るため、上記した知見を基に、放射器の構成について種々検討を行うことにより、本発明に想到した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1] 放射器として機能する放射手段を備えた無給電線型の無線通信機器であって、
前記放射手段は、
軸心を合わせて隙間を形成し又は絶縁材を配置し、絶縁状態とされた金属製の丸棒A、Bをそれぞれ有する平行に配置された第1、第2の放射部を有し、
前記第1の放射部は、前記丸棒Aと前記丸棒Bとが固有情報を記録したIC素子を介して接続され、
前記第1の放射部の前記丸棒Aと前記第2の放射部の前記丸棒Bとが、かつ、前記第1の放射部の前記丸棒Bと前記第2の放射部の前記丸棒Aとが、導体を介して、たすき掛けに接続されていることを特徴とする無線通信機器。
【0007】
[2] 前記第2の放射部は、前記第1の放射部に対してその一側に2本以上平行に配置され、
隣り合う、一方の前記第2の放射部の前記丸棒Aと、他方の前記第2の放射部の前記丸棒Bとが、かつ、一方の前記第2の放射部の前記丸棒Bと、他方の前記第2の放射部の前記丸棒Aとが、導体を介して、たすき掛けに接続されていることを特徴とする上記[1]記載の無線通信機器。
【0008】
[3] 前記放射手段の前記丸棒A、Bに対して、
その一側に平行に配置される、反射器として機能する金属製の丸棒Cと、
その他側に平行に配置される、導波器として機能する金属製の丸棒Dとを、
更に有することを特徴とする上記[1]又は[2]記載の無線通信機器。
[4] 前記丸棒Dは、複数本平行に配置されていることを特徴とする上記[3]記載の無線通信機器。
[5] 前記丸棒A~Dはそれぞれ、該丸棒A~Dを支持する支持体に、移動不能に取付け固定されていることを特徴とする上記[3]又は[4]記載の無線通信機器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無線通信機器によれば、従来よりも、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)、(b)は、それぞれ本発明の一実施の形態に係る無線通信機器の平面図、側面図である。
図2】(a)、(b)は、それぞれ同無線通信機器の放射手段の第1の放射部の部分拡大平面図、部分拡大側面図である。
図3】変形例に係る無線通信機器の放射手段の平面図である。
図4】(a)~(c)は、本発明の一実施の形態に係る無線通信機器を用いた無線通信機能の説明図である。
図5】同無線通信機器の放射手段の第1の放射部をクロスするように配置した例を示す説明図である。
図6】(a)、(b)は、実施例に係る無線通信機器の放射手段の同相合成のイメージを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(a)、(b)、図2(a)、(b)に示すように、本発明の一実施の形態に係る無線通信機器10は、放射器として機能する放射手段11、反射器12、及び、導波器13を備えた無給電線型の機器であり、製品等の物流管理や位置管理に広く利用することができる機器である。なお、放射手段11、反射器12、及び、導波器13は、放射手段11に対してその両側に、反射器12と導波器13がそれぞれ配置されるように、支持体14に取付けられており、放射手段11からみて導波器13の方向に指向性が得られることから、その指向方向D(図1(a)、(b)中の矢印を参照)を前方として、以下、詳しく説明する。
【0012】
無線通信機器10が無給電線型とは、機器に給電線が設けられておらず、外部から受信する電波をエネルギー源として駆動するパッシブ型であることを意味する。
無線通信機器10の放射手段11、反射器12、及び、導波器13は、図1(a)、(b)に示すように、金属製やプラスチック製の角柱材(棒材)で構成された支持体14に、平面視して、支持体14の長手方向に直交する方向に軸心を合わせて取付け固定されているが、支持体14の材質や形状(断面形状)等は、放射手段11、反射器12、及び、導波器13を取付け固定でき、無線通信機器10として機能できれば、特に限定されるものではない。
【0013】
放射手段11は、平行に配置される第1、第2の放射部15、16を有し、この第1、第2の放射部15、16がそれぞれ、2本の丸棒(丸棒Aの一例)17と丸棒(丸棒Bの一例)18を有している(基本的にはダイポールアンテナの構成)。このように、放射手段11の第1、第2の放射部15、16をそれぞれ丸棒17、18で構成することにより、他の形状と比較して電気的な優位性が得られる。
丸棒17、18は、断面円形の円柱状(中実であり中空(パイプ)ではない)の棒であり、アルミニウム合金やステンレス等の金属製であるが、運搬のし易さ(軽量化)等を考慮すれば、アルミニウム合金で構成することが好ましい。この丸棒17、18の直径は、例えば、3mm~10mm程度であり、径が大きいほど表皮効果が得られ易くなる(電流が流れ易くなる)が、運搬のし易さ等を考慮すれば、3mm~7mm程度が好ましい。
なお、丸棒17、18の断面形状は、真円であるが、楕円等であってもよい。
【0014】
丸棒17と丸棒18とは、軸心を合わせて(同一軸心上に)絶縁状態で配置される。
ここで、「軸心を合わせて」とは、丸棒17の軸心と丸棒18の軸心を完全一致させる場合のみならず、放射器としての機能を損なわない範囲で、僅かにずれる場合も含む。
上記絶縁状態は、丸棒17と丸棒18との間に隙間19(空気の層)を形成することで実施できるが、絶縁材を配置することで実施することが製造上好ましい。なお、絶縁材としては、例えば、プラスチックのシート材、紙、硬化樹脂(液状の樹脂を隙間に充填して硬化)等を使用できるが、絶縁状態にできれば、特に限定されるものではない。
軸心を合わせて対向する丸棒17と丸棒18の端面間の距離、すなわち、隙間19の間隔dは、狭ければ狭いほど放射器としての性能が向上するため、例えば、3mm以下であればよいが、1mm以下が好ましく、500μm以下が更に好ましく、300μm以下が特に好ましい。一方、下限は、0μm超であるが、現実的には100μm程度あればよい。
なお、上記絶縁材を用いる場合は、絶縁材の厚みを上記寸法に調整すればよい。
【0015】
第1の放射部15を構成する丸棒17と丸棒18とは、図1(a)、(b)、図2(a)、(b)に示すように、IC素子(ICチップ、半導体)20を介して電気的に接続されている。
IC素子20は、ケイ素(Si)をベースとした周知の構造のものであり、固有情報である識別コードが記録(エンコード)され、アンテナから電波を受信することで得られる起電力により、記憶された識別コードを無線で外部に送信する構造となっている。
なお、IC素子20は、市販のRFタグ(シールタグ、インレイ)からIC素子20を含む領域を切り抜いて使用できるが、市販のIC素子に対して固有情報を記録することにより使用することもできる。この市販のRFタグからのIC素子20の切り抜きは、シート状基材21上に形成した(シート状基材21と一体となった(パターニングされた))配線(図示しない)と共に、アンテナ部分を除くように行うのがよい。
【0016】
IC素子20の丸棒17、18への接続は、シート状基材21上に形成した配線を用いて実施しているが、IC素子に別途接続した導体(銅線等)を用いて実施することもできる。
この配線や導体(以下、配線等とも記載)の丸棒17、18に対する取付け位置は、丸棒17、18の対向側の端面に近ければ近いほど放射器としての性能が向上するため、丸棒17、18の対向側の端部、例えば、端面から10mmまでの範囲であればよいが、5mmまでの範囲が好ましく、2mmまでの範囲が更に好ましく、1mmまでの範囲が特に好ましい。
なお、配線等の丸棒に対する取付けは、丸棒から配線等が外れない構成であれば、特に限定されるものではなく、例えば、粘着性のあるテープや樹脂(接着剤)等を用いて実施できるが、丸棒の端部に小穴を形成し、ねじ止めすることにより実施することもできる。
【0017】
平行に配置された、第1の放射部15の丸棒17、18と、第2の放射部16の丸棒17、18とが、それぞれ導体(銅線(配線)等)22、23を介して、たすき掛けに(たすき掛け状態で)接続されている。具体的には、第1の放射部15の図1上側(一方)の丸棒17と第2の放射部16の図1下側(他方)の丸棒18とが、導体22により電気的に接続され、かつ、第1の放射部15の図1下側の丸棒18と第2の放射部16の図1上側の丸棒17とが、導体23により電気的に接続されている。
上記導体の丸棒17、18に対する取付け位置は、丸棒17、18の対向側の端面に近ければ近いほど放射器としての性能が向上するため、丸棒17、18の対向側の端部、例えば、端面から10mmまでの範囲であればよいが、5mmまでの範囲が好ましく、2mmまでの範囲が更に好ましく、1mmまでの範囲が特に好ましい。
これにより、第1の放射部15のみを使用した場合と比較して、放射器としての性能を向上できる。
【0018】
なお、第2の放射部16は、図3に示すように、第1の放射部15に対してその後方(一側)に、2本平行に配置されていることが好ましい。なお、第2の放射部の本数は3本以上でもよく、本数の上限については特に限定されるものではないが、現実的には10本程度であり、好ましくは5本程度である。
ここで、第2の放射部16を2本以上の複数本配置する場合、平行に配置された、隣り合う、図3左側(一方)の第2の放射部16の丸棒17、18と、図3右側(他方)の第2の放射部16の丸棒17、18とが、それぞれ導体(銅線(配線)等)24、25を介して、たすき掛けに(たすき掛け状態で)接続される。具体的には、図3左側の第2の放射部16の図3上側(一方)の丸棒17と、図3右側の第2の放射部16の図3下側(他方)の丸棒18とが、導体24により電気的に接続され、かつ、図3左側の第2の放射部16の図3下側の丸棒18と、図3右側の第2の放射部16の図3上側の丸棒17とが、導体25により電気的に接続されている。
以上の構成が、放射手段11aとなる。
これにより、放射手段11aは、第1の放射部15と1本の第2の放射部16を使用した放射手段11(図1参照)と比較して、放射器としての性能を更に向上できる。
【0019】
上記した第1、第2の放射部15、16の丸棒17、18の支持体14への取付け固定は、保持手段26、具体的には、支持体14の上面に取付け固定された支持台27上に、丸棒17と丸棒18の対向側を配置し、丸棒17、18を支持台27上にねじ止め(図示しない)すること、により実施できるが、丸棒17、18を支持体14に取付け固定できれば、特に限定されるものではない。
なお、支持台27上の放射手段11は、外部に露出した構成となっているが、例えば、IC素子20や配線22、23も含めてカバー材等により覆われていることが好ましい。また、第1の放射部15については、丸棒17、18、IC素子20、配線、及び、導体22、23を樹脂等で被覆して一体化することもでき、第2の放射部16についても、丸棒17、18及び導体22、23を樹脂等で被覆して一体化することができる(図3に示す導体24、25も同様)。
【0020】
放射手段11の後方(一側)には、図1(a)、(b)に示すように、反射器12として機能する金属製の丸棒(丸棒Cの一例)28が、放射手段11の第2の放射部16の丸棒17、18に対して平行に配置されている。
丸棒28は、上記丸棒17、18と同じ構成、すなわち、断面円形(真円や楕円等)の円柱状の棒であり、アルミニウム合金やステンレス等の金属製であるが、アルミニウム合金で構成することが好ましい。この丸棒28の直径は、例えば、3mm~10mm程度であるが、4mm~7mm程度が好ましい。
なお、丸棒28の支持体14への取付け固定は、保持手段29、具体的には、支持体14の上面に取付け固定された支持台30を貫通させてねじ止めすることにより実施できるが、丸棒28を支持体14に取付け固定できれば、特に限定されるものではない。
【0021】
放射手段11を挟んで反射器12とは反対側、すなわち放射手段11の前方(他側)には、図1(a)、(b)に示すように、導波器13として機能する2本の金属製の丸棒(丸棒Dの一例)31が、上記放射手段11の第1の放射部15の丸棒17、18に対して平行に配置されている。なお、丸棒は、1本でもよく、また、3本以上の複数本でもよいが、現実的な上限は10本程度である。このように、導波器13の本数を複数本とすることで、通信距離を更に延ばすことができる。
丸棒31は、上記丸棒17、18、28と同じ構成、すなわち、断面円形(真円や楕円等)の円柱状の棒であり、アルミニウム合金やステンレス等の金属製であるが、アルミニウム合金で構成することが好ましい。この丸棒31の直径は、例えば、3mm~10mm程度であるが、4mm~7mm程度が好ましい。
なお、丸棒31の支持体14への取付け固定は、保持手段32、具体的には、支持体14の上面に取付け固定された支持台33を貫通させてねじ止めすることにより実施できるが、丸棒31を支持体14に取付け固定できれば、特に限定されるものではない。
【0022】
上記した放射手段11の第1、第2の放射部15、16(丸棒17、18)、反射器12(丸棒22)、及び、導波器13(丸棒25)の各長さは、図1(a)に示すように、第1、第2の放射部15、16の長さL1を基準として、反射器12の長さL2を僅かに長く、導波器13の長さL3を僅かに短くする。なお、第1の放射部15と第2の放射部16の長さL1は同じである。
具体的には、固有情報を記録したIC素子18に使用する電波の周波数が920MHzであることから、波長λは32.6cmとなるので、第1、第2の放射部15、16の長さL1は163.0mm(=λ/2)となる。なお、第1、第2の放射部15、16を構成する丸棒17と丸棒18の各長さは同じであり、81.5mm(=λ/4)となる。
この第1、第2の放射部15、16の長さL1を基準として、動作確認を行いながら、反射器12の長さL2と導波器13の長さL3を調整する。例えば、長さL2は長さL1よりも数mm(5mm以下)程度長くし、また、長さL3は長さL1よりも数mm(5mm以下)程度短くする。なお、導波器13として機能する丸棒を複数本配置する場合は、前方(放射手段11から離れる方向)へ向けて、各長さを、例えば、少しずつ(数mm(5mm以下)程度ずつ)短くする。
更に、隣り合う放射手段11(第2の放射部16)と反射器12との間隔S1、放射手段11(第1の放射部15)と導波器13との間隔S2、導波器13と導波器13との間隔S3も、動作確認を行いながら調整する。なお、第1の放射部15と第2の放射部16の間隔Sはλ/8程度である。また、第2の放射部16を2本以上の複数本配置する場合も、隣り合う第2の放射部16の間隔はλ/8程度である。
【0023】
以上に示した本発明の無線通信機器10は、給電線のない構造であり、反射器12及び導波器13を含めた全体がパッシブ型のRFタグとして機能するものである。
このように、給電線が不要であることにより、第1、第2の放射部15、16の長さを原理上の長さにできるため、波長短縮等の設計を省略でき(設計の簡素化と容易化が図れ)、これにより、効率よく製造でき、性能の向上が図れ、品質の安定化も図れる。
従って、本発明の無線通信機器10では、放射手段11、反射器12、及び、導波器13を、支持体14に移動不能に取付け固定できるため、前記した特許文献1に記載のように、反射器や導波器を、支持体の長手方向にスライド可能な構成にしなくてもよい。
【0024】
続いて、本発明を適用した無線通信機器10の無線通信機能について、図4(a)~(c)を参照しながら説明する。なお、各構成要素には、前記した実施の形態の無線通信機器10と共通の符号を付して説明する。
まず、無線通信機器10は、無線通信機器10やアンテナ50の傾きに対応可能である。以下、この点について説明する。
【0025】
放射手段11の偏波特性が水平偏波である場合、図4(a)に示すように、水平方向に延出する反射器12及び導波器13を備える無線通信機器10では、アンテナ50との間で偏波方向が合っていれば、IC素子20(固有情報)を確実に検知することができる。
しかしながら、図4(b)に示すように、指向方向Dを軸とする回転方向に無線通信機器10とアンテナ50とが相対的に傾くと、無線通信機器10とアンテナ50との間で偏波方向がずれて、通信距離が徐々に短くなる。このように無線通信機器10とアンテナ50との相対的な傾きによっては、IC素子20の未検知が発生するおそれがある。
【0026】
そこで、図4(c)に示すように、放射手段11(第1、第2の放射部15、16)、反射器12、及び、導波器13をそれぞれクロスするように配置する、すなわち放射手段11、反射器12、及び、導波器13をそれぞれ指向方向Dに対して垂直に四方向に延びるように配置する。なお、クロスするように配置する場合も、放射手段11、反射器12、及び、導波器13を相互に平行に配置する。すなわち、放射手段11、反射器12、及び、導波器13を1セットとして、これを2セット有する構成が無線通信機器となる。
このようにクロスアンテナ化することにより、指向方向Dを軸とする回転方向に無線通信機器10とアンテナ50とが相対的に傾いたとしても(例えば図4(c)に示すように、アンテナ50が傾いたとしても)、すなわち無線通信機器10とアンテナ50との間で偏波方向がずれても、IC素子20を確実に検知することができる。
【0027】
図5に、放射手段11(第1、第2の放射部15、16)、反射器12、及び、導波器13をクロスするように配置する構成例を示す。
支持体60の左右側面を貫通させるようにして第1の放射部15(丸棒17、18)を配設し、また、支持体60の上下面を貫通させるようにして第1の放射部15(丸棒17、18)を配設する(第2の放射部16の丸棒17、18、反射器12の丸棒28、及び、導波器13の丸棒31についても同様)。クロスさせる位置は指向方向Dにおいて同位置であるのが好ましいが、図5に示すように、略同位置とみなせる範囲であれば、指向方向Dで多少のずれがあってもよい。これは、放射手段11、反射器12、及び、導波器13の相互の間隔が変わらなければ、通信距離に影響がないからである。
【0028】
上記した構成により、二次元構造では困難であった円偏波にも対応でき、無線通信機器10やアンテナ50の傾きに対応可能となる。すなわち、無線通信機器10やアンテナ50の傾きが変動するような使用環境下であれば、図4(c)で説明したようにクロスアンテナ化すればよい。
【0029】
次に、無線通信機器10の使用例について説明する。
まず、トラッキングを行う対象物に無線通信機器10を設置する。
また、対象物とは異なる場所にリーダを設置する。このリーダのアンテナとしては、指向性を持たせるために例えば八木・宇田アンテナを用いる。無線通信機器10とアンテナとは、相互に通信可能な高さ位置となるようにそれぞれ設置する(図4(a)参照)。
このようにした使用例では、リーダが無線通信により無線通信機器10のIC素子20と情報をやり取りすることにより識別することができる。
また、リーダと無線通信機器10とが無線通信する電波の強度に基づいて、その間の距離を推定することも可能である。
【実施例
【0030】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、3素子(放射器、反射器、及び、導波器が1本ずつ)で構成され、給電線(接続ケーブル:15m)が設けられたアンテナ(リーダ)を使用し、通信距離1mでの電界強度を測定した。
なお、測定対象には、放射器として機能する放射手段を、1)第1の放射部のみで構成した場合、2)第1の放射部(Ra1)と1本の第2の放射部(Ra2)で構成した場合(図1参照)、3)第1の放射部(Ra1)と2本の第2の放射部(Ra2、Ra3)で構成した場合(図3参照)の3種類を用いた。
その結果、上記1)の場合、-45dBm~-48dBmの受信電波強度が得られた。この第1の放射部と、反射器及び導波器とで構成される無線通信機器では、従来の市販のRFタグを改造することなく用いた無線通信機器(特許文献1)よりも、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることができることを確認できた。
【0031】
また、上記2)の場合、-39dBm~-40dBmの受信電波強度が得られ、上記1)の場合よりも約7dBm電波強度が増加した。
上記2)の場合、図6(a)に示す同相合成のイメージから分かるように、第1の放射部(Ra1)のIC素子が励起されると同時に、第1の放射部(Ra1)から放射される電波の逆相となる電波が放射される。
その結果、第1の放射部(Ra1)と第2の放射部(Ra2)との間で、同相となる第1の放射部(Ra1)同相合成と1本の第2の放射部(Ra2)同相合成が形成され、更にその2つが合成される。
従って、第1、第2の放射部(Ra1、Ra2)を有する放射手段と導波器との間の電波強度は、通常の放射器1本に比べて4~8倍になると推測できる。
【0032】
更に、上記3)の場合、図6(b)に示す同相合成のイメージから推測できるように、-32dBm~-33dBmの受信電波強度が得られ、上記2)の場合よりも約7dBm電波強度が増加した。
【0033】
以上のことから、本発明の無線通信機器を使用することにより、従来よりも、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることができることを確認できた。
【0034】
以上、本発明を、一実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の無線通信機器を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、無線通信機器が、放射手段、反射器、及び導波器を有する構成について説明したが、理論上は、放射手段のみ(反射器と導波器は不要)を有する構成にしてもよく、また、放射手段と反射器(導波器は不要)を有する構成にしてもよく、更には、放射手段と導波器(反射器は不要)を有する構成にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、従来よりも、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることが可能な無線通信機器を提供できることから、産業上有用である。
【符号の説明】
【0036】
10:無線通信機器、11、11a:放射手段、12:反射器、13:導波器、14:支持体、15:第1の放射部、16:第2の放射部、17:丸棒(丸棒A)、18:丸棒(丸棒B)、19:隙間、20:IC素子、21:シート状基材、22~25:導体、26:保持手段、27:支持台、28:丸棒(丸棒C)、29:保持手段、30:支持台、31:丸棒(丸棒D)、32:保持手段、33:支持台、50:アンテナ、60:支持体
【要約】
【課題】従来よりも、通信距離を延ばし、無線通信機能を向上させることが可能な無線通信機器を提供すること。
【解決手段】放射器として機能する放射手段11を備えた無給電線型の無線通信機器10であり、放射手段11は、軸心を合わせて隙間19を形成し又は絶縁材を配置し、絶縁状態とされた金属製の丸棒17、18をそれぞれ有する平行に配置された第1、第2の放射部15、16を有し、第1の放射部15は、丸棒17と丸棒18とが固有情報を記録したIC素子20を介して接続され、第1の放射部15の丸棒18と第2の放射部16の丸棒18とが、かつ、第1の放射部15の丸棒18と第2の放射部16の丸棒17とが、導体22、23を介して、たすき掛けに接続されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6