(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】円盤状回転工具
(51)【国際特許分類】
B23D 61/02 20060101AFI20240411BHJP
B27B 33/08 20060101ALI20240411BHJP
B23D 47/00 20060101ALI20240411BHJP
B26D 1/14 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B23D61/02 Z
B27B33/08 Z
B23D47/00 E
B26D1/14 B
(21)【出願番号】P 2023549381
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026349
(87)【国際公開番号】W WO2023047756
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2021154967
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165398
【氏名又は名称】兼房株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺香 慶一
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 一将
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-001501(JP,A)
【文献】中国実用新案第201572967(CN,U)
【文献】特開平04-053701(JP,A)
【文献】特開2005-096025(JP,A)
【文献】特開2001-038525(JP,A)
【文献】特開2004-314218(JP,A)
【文献】特開2019-077080(JP,A)
【文献】米国特許第04584920(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D61/02-61/10
B23D45/00-59/04
B26D1/14-1/24
B27B33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面を貫通する1つ以上のスリットが形成された円板状の台金と前記台金の外周に半径方向外方に突出して設けられた多数の歯を有する円盤状回転工具であって、
前記スリットのうちの1つ以上の特定スリットは、4回以上折り返されて4つ以上の指片を区画し、
前記特定スリットがもつ複数の前記指片のうちの3割以上は、前記指片の先端近傍の最も広い部分の幅が根元の幅より広い先太形状であり、前記指片の長さが前記根元の幅と前記最も広い部分の幅の平均値の6倍以上である特定指片であ
り、
前記特定指片を区画するスリットは、前記先端近傍の最も広い幅の両端と前記根元の幅の両端の間をそれぞれ直線で結ばれ、
前記特定指片を区画するスリットにおける、前記先端近傍の最も広い幅の両端と前記根元の幅の両端の間をそれぞれ結ぶ直線が為す角度が4°以上20°以下である円盤状回転工具。
【請求項2】
前記特定スリットがもつ複数の前記指片のうちの5割以上が前記特定指片である請求項
1に記載の円盤状回転工具。
【請求項3】
前記特定スリットは6回以上繰り返し折り返され、前記指片を6つ以上区画する請求項1
又は2に記載の円盤状回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材、木質系材料、プラスチック、鉄鋼材料、非鉄金属等、材質に制限の無い加工に用いられる丸鋸等の円盤状回転工具に係り、特に切削振動や切削騒音が発生しにくい円盤状回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
丸鋸などの円盤状回転工具を利用した切断において、その条件によっては切削振動が発生し、切断面の悪化や切削騒音の発生が問題になることがあるため、従来から円盤状回転工具には様々な振動低減に関する技術が検討され、ランダムピッチや内部スリット(スリット)などが発案されている。このうちスリットに関する特許や意匠は様々なものがあり、その種類を大別すると波形状のものや曲線状のものがある(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4144863号公報
【文献】特許第4136893号公報
【文献】特許第4236240号公報
【文献】特開2001-38525号公報
【文献】特開2000-153405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、切削振動や切削騒音の発生は十分に抑制できているとは言えず、切削振動や切削騒音の更なる抑制が求められた。
【0005】
本発明は上記実情に鑑み完成されたものであり、従来のスリットを設けた円盤状回転工具よりも切削振動、切削騒音の発生が少ない円盤状回転工具を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、スリットの適正な形態を発見し、本発明を完成した。すなわち、上記課題を解決する本発明の円盤状回転工具は、表裏面を貫通する1つ以上のスリットが形成された円板状の台金と前記台金の外周に半径方向外方に突出して設けられた多数の歯を有する円盤状回転工具であって、
前記スリットは、1回以上折り返されて指片を区画し、
前記指片の形状は、前記指片の先端近傍の最も広い部分の幅が根元の幅より広い先太形状であり、前記指片の長さが前記根元の幅と前記最も広い部分の幅の平均値の3倍以上である。
【0007】
スリットにより指片を区画し、その指片の形状を先太形状にすることで切削振動や切削騒音の発生を効果的に抑制できた。
【0008】
そして、前記スリットのうちの1つ以上は4回以上繰り返し折り返され、前記指片を4つ以上区画することが好ましい。この場合に指片は向きが交互に切り替わるように区画されている。
【0009】
更に、前記指片の両側線が為す角度が1°以上であることが好ましい。ここで「指片の両側線」とは、指片の根元の両側と最も広い部分の両側をそれぞれ結んだ直線である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の円盤状回転工具は、上記構成を有することにより切削振動や切削騒音の発生が抑制された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の円盤状回転工具の正面図である。
【
図2】本実施形態の円盤状回転工具に設けられた内部スリットの拡大図である。
【
図3】本実施形態の円盤状回転工具が備える指片の幅及び長さを測定する方法を示した概略図である。
【
図4】本実施形態の他の実施形態の円盤状回転工具に設けられた指片の拡大図である。
【
図5】本実施形態の他の実施形態の円盤状回転工具に設けられた指片の拡大図である。
【
図6】本実施形態の他の実施形態の円盤状回転工具に設けられた指片の拡大図である。
【
図7】本実施例における指片の両側線の為す角度とFEM解析により算出された平均モーダル減衰率との関係を示したグラフである。
【
図8】本実施例における指片の幅と長さの比とFEM解析により算出された平均モーダル減衰率との関係を示したグラフである。
【
図9】本実施例におけるスリットの折り返し回数(指片数)とFEM解析により算出された平均モーダル減衰率との関係を示したグラフである。
【
図11】実際に被削材を切削したときの騒音を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の円盤状回転工具について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の円盤状回転工具は、木材、木質系材料、プラスチック、鉄鋼材料、非鉄金属などに対して、切断、溝加工、ホゾ加工などの加工を行う工具である。なお、本明細書中に記載された数値は、数値範囲を新たに規定する際にその上限又は下限として任意に採用可能であり、更にはその数値範囲として採用された数値を含んでも含まなくても良い。
【0013】
本実施形態の円盤状回転工具は、
図1に示すように、円盤状の台金10と、台金10の外周に半径方向外方に突出して設けられた多数の歯20を有する。
【0014】
台金10は、円盤状であり、中央に中心軸孔11aが形成されている。台金10の外周には、歯20を形成する位置に対応した部位に多数の歯台11が形成されている。歯台11は、歯20が固定されている。歯20は、同ピッチで設けられた2つの歯21及び22とそれより大きなピッチで設けられた歯23を1組として、全周にわたって24組、計72個ある。歯20の数は特に限定されない。また、ピッチについても全周にわたって全て同じピッチとしても良いし、異なるピッチとしても良い。歯20は、台金10の厚みより厚い部材であり、台金10の歯台11に溶接などにより固定されている。
【0015】
また、歯20が9つごと(3組ごと)に外周スリット12が設けられている。外周スリット12は、歯21と歯23との間の歯底13から中心方向に向けて波形状に延設され最後に円弧状に丸められている。外周スリット12は、有していなくても良いし、異なる配置で有していても良い。更には、異なる形態をもつ複数種類の外周スリットを有していても良い。
【0016】
台金10は、径方向の同じ中程の位置で周方向に等間隔で8つの内部スリット15が設けられている。ここで、内部スリットの数は特に限定されず、配置についても特に限定されない。配置については等間隔でなくても良いし、半径方向における配置の位置も特に限定されず、複数の内部スリットを有する場合に、半径方向で全て同じ位置に設けても良いし、半径方向にずらして設けても良い。外周スリット12、内部スリット15は、共に表裏面を貫通するものであり、スリット内には粘弾性材料を充填することができる。
【0017】
内部スリット15の形態は、
図2に示すように、一端部15aから他端部15dまで連続した表裏面を貫通する溝であり、9回折り返して9つの指片151~159を台金10の一部として区画している。指片151~159は、全て先太形状であり、先端方向が互い違いに向き合っている。例えば、指片151は、両側線15b及び15cにより区画されており、先端方向(図面上方)に向かうにつれて幅が広くなっている。
【0018】
スリットを折り返す回数は1回以上であり、多い方が制振効果が高くなるが、その数は特に限定しない。折り返す回数の下限値としては、4回以上にすることが好ましく、6回以上にすることがより好ましい。上限値としては13回、11回が挙げられる。折り返す回数を減らすことで台金の剛性低下を抑制できる。
【0019】
ここで指片が先太形状であるとは、先端近傍の最も幅が広い部分における幅が根元の幅よりも広いことを意味する。ここで指片の根元とは、スリットにより区画された指片のうち台金に固定された側をいい、指片の先端とは、指片のうち自由に移動できる側をいう、次に指片の先端近傍とは、指片の先端から指片の根元までのうち、指片の先端から指片の長さの3分の1までの部分を意味する。
【0020】
図3を用いて具体的に説明する。
図3は、1回折り返した指片の拡大図であり、指片を区画するスリットが指片の両側で長さが異なるものである。
図3では、スリットのうち、紙面右方のスリットの方が紙面左方のスリットよりも短い。先端近傍の最も広い幅は、
図3では線分Aであり、根元の幅とは根元における最も幅が狭い線分Bである。この場合に指片の長さは、線分Aの中点Sと線分Bの中点Tとを結ぶ線分と垂直な線で左右のスリットをそれぞれ挟んだときの長さ(左側はL1、右側はL2)の平均値である。指片の長さは、全て同じであっても良いし、異なるものがあっても良い。1つのスリットを折り返して複数の指片を区画する場合には、隣接する指片についても長さを揃えても良いし、異なるものとしても良い。
【0021】
同一の指片において、先端近傍の最も幅が広い部分の幅と根元の幅との平均値(指片の幅)で指片の長さを割った値(指片の幅と長さの比)は、3以上であり、特に下限値としては、4倍、6倍とすることができる。指片の幅に対して指片の長さが長い方が(指片の幅と長さの比が大きい方が)制振効果が高くなる。上限値としては制振効果の向上がある程度小さくなる比である9倍を採用できる。
【0022】
線分Aの両端と線分Bの両端とを結んだ両側線は、指片の先端方向が拡がる方向に延びる。特にその角度は1°以上であることが好ましく、下限値として4°、6°が挙げられ、上限値としては、20°、13°、11°が挙げられ、これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。なお、指片が複数ある場合には、1つ以上が先太形状であれば充分であるが、複数の指片のうち先太形状である指片の割合は、3割以上であることが好ましく、5割以上であることがより好ましく、8割以上であることが更に好ましく、指片の全てであることが最も好ましい。
【0023】
指片の根元から先端方向への向きについては、特に限定しない。半径方向外側、半径方向内側、周方向に向いていても良いし、これらの方向と関係無い方向にしても良い。また指片が複数ある場合にはそれらの向きは同じであっても良いし、バラバラの向きでも良い。1つのスリットを複数回折り返して複数の指片を区画する場合には隣接する指片の向きは、
図2のように、互い違いである。
【0024】
ここで指片を区画するスリットは、先端近傍の最も広い幅の両端を通り、根元の幅の両端を通る。特に両側線と一致することが好ましいが、必ずしも一致することは必須ではない。例えば、スリットは曲線状(波形状、円弧状など)であっても良い。
【0025】
また、別のスリットにより区画されたスリットを近接して配置することができる。ここで近接とは、隣接するスリット間の距離が隣接するスリットのうちの短い方の指片の長さ以下であることをいう。また、スリットは、折り返されてスリットを区画するが、折り返されたスリットが複数集まってスリットの端部が他の指片の内部に侵入する形態を採用することもできる。具体的には
図4のように、1回折り返したスリットにより形成された指片171、173、175が同じ向きに並設されており、その指片171の内部から始まって、隣の指片173まで延びるように折り返して形成した指片172を形成することができる。同様に指片173の内部から指片175内部にまで折り返して形成した指片174を設けることができる。そうすると、独立したスリットにより区画された5つの指片171~175を近接して配置することができる。その他、
図5及び6のように、単純に指片を並設することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の円盤状回転工具について実施例に基づき詳細に説明を行う。有限要素法解析(FEM解析)により平均モーダル減衰率を算出した。平均モーダル減衰率は、その値が大きいほど振動減衰の効果が高いことを示す。
【0027】
(試験1:スリットの折り返す回数と指片の両側線の角度)
用いたモデルは、指片の長さ30mm、根元の幅5mmの1つの指片とした。指片の両側線の角度を-3°~20°までの範囲で変化させたときの指片の平均モーダル減衰率を算出した。参考までに指片の長さ26mm、根元の幅3mm、指片が並設された長さ37mm以内のときに、同一の面積内に形成可能な指片の数(スリットの折り返し回数)も算出した。結果を
図7に示す。
【0028】
図7より明らかなように、指片の両側線の角度が大きくなるにつれて平均モーダル減衰率は大きくなった。但し、同じ面積中に形成できる指片の数は少なくなった。試験3より、指片の数としては4以上11以下が好ましいことが分かった。図では好ましい範囲のみ記載している。更に指片の数としては6以上にすることが好ましい。指片の数から指片の両側線の角度は、1°~20°、更には1°~13°にすることが好ましいことが分かった。
【0029】
(試験2:指片の幅と長さの比)
指片の幅を5mmで一定として指片の長さを変化させたときの平均モーダル減衰率をFEM解析により算出した。結果を
図8に示す。
【0030】
図8より明らかなように、指片の幅と長さの比(=指片の長さ÷指片の幅)が大きいほど、平均モーダル減衰率は大きくなることが分かった。但し、指片の幅と長さの比が6程度までは平均モーダル減衰率の値が急激に上昇するがその後は緩やかな上昇を示し、更には9以上で上昇は殆ど認められなかった。そのため指片の幅と長さの比は4以上にすることが好ましく、6以上にすることがより好ましい。指片の剛性を一定以上に保つためには、上限値としては9以下にすることが好ましい。
【0031】
(試験3:スリットの折り返し回数)
スリットの折り返し回数を変化させたときの平均モーダル減衰率をFEM解析により算出した。折り返し回数と同じ数の指片が形成された。ここで指片の幅は5mm一定とし、指片の幅と長さの比を6とした。結果を
図9に示す。
【0032】
図9より明らかなように、折り返し回数が大きいほど、平均モーダル減衰率は大きくなることが分かった。但し、折り返し回数が4程度、更には6程度までは平均モーダル減衰率の値が急激に上昇するがその後は緩やかな上昇を示し、11以上、更には13以上で上昇は殆ど認められなかった。そのため折り返し回数は、4以上にすることが好ましく、6以上にすることがより好ましい。台金の剛性を一定以上に保つためには、上限値としては13以下にすることが好ましく、11以下にすることがより好ましい。
【0033】
(試験4:騒音測定)
実機を用いて切削時に発生する騒音の大きさ(A特性)を測定した。測定に用いた円盤状回転工具は、外径が380mmであり、被削材はベークライト板(厚み20mm)を用いた。回転数は5000rpm、送り速度は90mm/分とした。切削を行い、経過時間8500mSecまでは空転し、8500mSec~9000mSecまで切削を行った。その後、9000mSec以降は空転させた。騒音の測定結果を
図11に示す。
【0034】
図11より明らかなように、実施例の円盤状回転工具では比較例の円盤状回転工具よりも最大4~5dBAの騒音低減効果が認められた。
【0035】
用いた円盤状回転工具は、実施例では
図1に示す円盤状回転工具を、比較例では
図10に示す円盤状回転工具を用いた。実施例及び比較例の円盤状回転工具におけるスリット(外周スリット及び内部スリット)には粘弾性材料を充填している。比較例の円盤状回転工具は、
図1に示す円盤状回転工具と内部スリット85、86以外は類似の構成をもつ。具体的には、比較例の円盤状回転工具は、円盤状の台金80と、台金80の外周に半径方向外方に突出して設けられた多数の歯90とを有する。
【0036】
台金80は、円盤状であり、中央に中心軸孔81aが形成されている。台金80の外周には、多数の歯台81が形成されている。歯台81には、歯90が固定されている。歯90は、実施例の歯20と同様の構成をもつ。
【0037】
台金80は、実施例の円盤状回転工具と同様の外周スリット82をもち、内部スリット85、86が異なる構成をもつ。内部スリット85は、折り返し回数が6であり、指片を形成している点は実施例と同じであるが、形成した指片が先太形状ではなく両側線が平行である点で異なる。また、内部スリット85が区画する指片は、幅が全て異なるものである。
【符号の説明】
【0038】
10…台金 11…歯台 12…外周スリット 13…歯底
15…内部スリット 151~159…指片 20、21、22、23…歯