(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】エクオール含有食品組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240411BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240411BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240411BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L5/00 H
A23L29/00
A23L5/00 J
(21)【出願番号】P 2024003268
(22)【出願日】2024-01-12
(62)【分割の表示】P 2020190642の分割
【原出願日】2020-11-17
【審査請求日】2024-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】山本 侑平
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/032838(WO,A1)
【文献】特開2008-61584(JP,A)
【文献】国際公開第2008/153158(WO,A1)
【文献】特開2014-233259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクオール、並びにクエン酸、乳酸、グルコン酸及び酢酸を含む食品組成物であって、前記クエン酸、乳酸、グルコン酸及び酢酸の含有率の合計が食品組成物を100重量%としたとき1.5~29重量%である食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクオール及び有機酸を含む食品組成物に関する。特に、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物に関する。また、該食品組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクオール含有組成物には、主に食品として使用されることが多く、その風味、とりわけ香りは重要な要素となる。
これまでに、エクオールを含有する食品組成物において風味剤を加えて風味を改善すること(特許文献1)やpH制御のためにpH調整剤を加えること(特許文献2)は知られていたが、風味改善のためにpH調整剤を用いることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-139424号公報
【文献】特許5769419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的に加えて、又は上記目的以外に、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明者は、以下の発明を見出した。
<1> エクオール及び有機酸を含む食品組成物。
<2> 上記<1>において、前記有機酸の含有率が、食品組成物を100重量%としたとき1.5~29重量%、好ましくは1.7~25重量%、より好ましくは2.0~22重量%であるのがよい。
【0006】
<3> 上記<1>又は<2>において、前記有機酸が、炭酸、炭酸水素、クエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、リンゴ酸及びオロト酸、並びにそのアンモニウム塩、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩及びそのキレートからなる群から選ばれる少なくとも一種であるのがよい。
特に、前記有機酸が、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、オロト酸、リン酸、及びグルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、より好ましくはクエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも一種であるのがよく、最も好ましくはクエン酸、乳酸、リン酸、及び酢酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのがよい。
【0007】
<4> 上記<1>~<3>のいずれかにおいて、前記エクオールが、嫌気性微生物の培養工程を利用して製造されるのがよい。
<5> 上記<4>において、前記嫌気性微生物がアッサカロバクター(Asaccharobacter)属またはアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物であるのがよい。
<6> 上記<4>又は<5>のいずれかにおいて、培養工程の培養終了液のpHを前記有機酸で3.0~5.5、好ましくは3.5~5.0、より好ましくは4.0~5.0に調整するのがよい。
【0008】
<7> ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を嫌気性微生物で培養する工程;を有することにより、エクオール含有食品組成物を得る方法であって、
前記培養工程において、炭酸、炭酸水素、クエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、リンゴ酸及びオロト酸、並びにそのアンモニウム塩、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩及びそのキレートからなる群から選ばれる少なくとも一種である有機酸を添加することを特徴とするエクオール含有食品組成物の製造方法。
なお、前記有機酸は、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、オロト酸、リン酸、及びグルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、より好ましくはクエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも一種であるのがよく、最も好ましくはクエン酸、乳酸、リン酸、及び酢酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのがよい。
【0009】
<8> 上記<7>において、エクオール含有食品組成物を100重量%としたとき、前記有機酸の含有率が、1.5~29重量%、好ましくは1.7~25重量%、より好ましくは2.0~22重量%であるのがよい。
<9> 上記<7>又は<8>において、前記嫌気性微生物がアッサカロバクター(Asaccharobacter)属またはアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物であるのがよい。
<10> 上記<7>~<9>のいずれかにおいて、前記培養工程の培養終了液のpHを前記有機酸で3.0~5.5、好ましくは3.5~5.0、より好ましくは4.0~5.0に調整するのがよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物を提供することができる。
また、本発明により、上記効果に加えて、又は上記効果以外に、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、エクオール及び有機酸を含む食品組成物を提供する。本発明は、特に、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物を提供する。
また、本発明は、該食品組成物の製造方法を提供する。以下、順に説明する。
【0012】
<エクオール及び有機酸を含む食品組成物>
本発明は、エクオール及び有機酸を含む食品組成物を提供する。本発明は、特に、風味、特に香りが改善された、エクオール及び有機酸を含む食品組成物を提供する。
本願において、「風味」とは、香り、食用とした際には食味などを含めたものをいう。なお、本発明において、特に「香り」を改善することができる。
本発明の食品組成物は、有機酸を有する。
該有機酸として、炭酸、炭酸水素、クエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、リンゴ酸及びオロト酸、並びにそのアンモニウム塩、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩及びそのキレートからなる群から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。特に、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、オロト酸、リン酸、及びグルコン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましく、より好ましくはクエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも一種であるのがよく、最も好ましくはクエン酸、乳酸、リン酸、及び酢酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であるのがよい。
【0013】
該有機酸は、食品組成物を100重量%としたとき、
1.5~29重量%、好ましくは1.7~25重量%、より好ましくは2.0~22重量%であるのがよい
【0014】
エクオールは、嫌気性微生物の培養工程を利用して製造されるのがよい。
嫌気性微生物は、アッサカロバクター(Asaccharobacter)属またはアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物であるのがよい。
また、培養工程の培養最終液のpHを前記有機酸で3.0~5.5、好ましくは3.5~5.0、より好ましくは4.0~5.0に調整するのがよい。
なお、培養工程について、本発明の食品組成物の製造方法において詳述する。
【0015】
本発明の組成物は、風味を損なわない限り、エクオール又は有機酸以外の成分を含んでもよい。
上記の成分として、例えば、アミノ酸、糖類、ビタミン類、ミネラル類、イソフラボン類、食物繊維、賦形剤などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0016】
<エクオール含有食品組成物の製造方法>
本発明は、上述の食品組成物、特に風味、特に香りを改善した食品組成物を、例えば、次のような製造方法により得ることができる。
本発明は、該製造方法をも提供する。
該製造方法は、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を嫌気性微生物で培養する工程;を有することにより、エクオール含有食品組成物を得る方法であって、
該培養工程において、前記有機酸を添加することを特徴とする。
【0017】
本発明の方法は、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料を嫌気性微生物で培養する工程を有する。
該培養工程は、エクオールを産生することができれば、その条件等は特に限定されない。例えば、従来公知の条件を用いることができるが、該条件に限定されない。
【0018】
<<エクオール原料>>
本発明の製造方法において用いるエクオール原料は、文字通り、エクオールの原料として用いられるものであれば、その形態は問わない。
エクオール原料は、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種であればよく、その形態は問わない。例えば、ダイゼイン配糖体そのもの、ダイゼインそのもの、又はジヒドロダイゼインそのものであっても、それらを含有するもの、例えば大豆、大豆加工物、大豆胚軸、大豆胚軸加工物、例えば大豆胚軸抽出物、具体的には市販イソフラボンであってもよい。
【0019】
<<嫌気性微生物>>
本発明の製造方法において用いるエクオール資化する微生物は、上記エクオール原料からエクオールを産生する嫌気性微生物であれば、特に限定されない。
嫌気性微生物は、例えば、37℃付近(例えば30~42℃)の温度でエクオールを産生することができる。
なお、エクオール資化能は、培養物中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン、エクオール等を定量することにより確認することができる。これらの定量は、当業者であれば、例えばWO2012/033150、特開2012-135217、特開2012-135218、特開2012-135219等の記載に基づき行うことができる。これらの定量方法の一例を以下に示す。
【0020】
例えば、培養液に酢酸エチルを加えて、激しく攪拌した後遠心し、酢酸エチル層を取り出す。必要に応じて同培養液に同様の操作を数回行い、それら酢酸エチル層を合わせてエクオール抽出液を得ることができる。この抽出液をエバポレーターで減圧下に濃縮、乾固し、メタノールに溶解させる。これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜等の膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィー測定サンプルとすることができる。高速液体クロマトグラフィーの条件は例えば以下のものを例示することができるがこれに限定されない。
【0021】
[高速液体クロマトグラフィー条件]
カラム:Phenomenox Luna 5uC18、2.0mm×150mm(島津ジーエルシー)
移動相:水/メタノール[55:45,v/v]
流速:0.2mL/min
カラム温度:40℃
検出:UV280nm
保持時間:ジヒドロダイゼインが13.8分、ダイゼインが19.6分、グリシテインが22.5分、エクオールが25.6分、ゲニステインが35.0分
【0022】
嫌気性微生物として、以下の属に分類される微生物を挙げることができるがこれらに限定されない。
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属
アッサカロバクター(Asaccharobacter)属
バクテロイデス(Bacteroides)属
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属
クロストリジウム(Clostridium)属
エガセラ(Eggerthella)属
エンテロコッカス(Enterococcus)属
エンテロハブダス(Enterorhabdus)属
ユーバクテリウム(Eubacterium)属
フィネゴルディア(Finegoldia)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属
ラクトコッカス(Lactococcus)属
パラエガセラ(Paraeggerthella)属
ペディオコッカス(Pediococcus)属
シャーペア(Sharpea)属
スラキア(Slackia)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ベイロネラ(Veillonella)属
【0023】
嫌気性微生物として、具体的には、以下の微生物を挙げることができるがこれらに限定されない。
アッサカロバクター・セラツス (Asaccharobacter celatus)
アドレクラウチア・エクオリファシエンス (Adlercreutzia equolifaciens)
バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)
クロストリジウム・エスピー(Clostridium sp.)
エガセラ・エスピー(Eggerthella sp. )
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)
エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)
エンテロハブダス・ムコシコラ(Enterorhabdus mucosicola)
ユーバクテリウム・エスピー(Eubacterium sp.)
フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)
ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)
ラクトバチルス・エスピー(Lactobacillus sp.)
ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)
パラエガセラ・エスピー(Paraeggerthella sp.)
ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)
シャーペア・アザブエンシス(Sharpea azabuensis)
スラキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)
スラキア・イソフラボニコンバーテンス(Slackia isoflavoniconvertens)
スラキア・エスピー(Slackia sp.)
ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)
ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)
ベイロネア・エスピー(Veillonella sp.)
【0024】
上記記載の微生物のうち、特に以下に記載する微生物のいずれか又はこれらの菌と同様の種としての性質を有する類縁の菌をより好ましい嫌気性微生物として挙げることができる。
・アッサカロバクター(Asaccharobacter)属またはアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物。
特に、以下であるのがよい。
・アッサカロバクター・セラツス (Asaccharobacter celatus) DSM 18785株
・アドレクラウチア・エクオリファシエンス (Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株
【0025】
なお、上記嫌気性微生物は、その寄託番号に示された寄託機関から入手することができる。各受託番号は、当該嫌気性微生物が、それぞれ次の寄託機関に寄託されていることを示す。
FERM 特許生物寄託センター;International Patent Organism Depositary (IPOD)
http://unit.aist.go.jp/pod/ci/index.html
DSM German Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)
http://www.dsmz.de/
KCCM Korean Culture Center of Microorganisms
【0026】
本発明においては、エクオールの産生能を有する嫌気性微生物は、エクオールの生産に適した条件で培養される。本発明におけるエクオールの生産に適した条件とは、エクオールの生成活性を持つ嫌気性微生物の生存と活動が維持される条件を言う。より具体的には、嫌気性微生物の生存が可能な気相条件(嫌気性条件)が維持され、当該嫌気性微生物の活性と増殖を支持するための栄養素が与えられることを言う。嫌気性微生物の生存に適した種々の培地組成が公知である。したがって、先に示したエクオールの産生能を有する嫌気性微生物について、当業者は、適切な培地組成を選択することができる。たとえば、Difco社製のBHI培地や、実施例において用いた等を使用することができるがこれらに限定されない。
【0027】
本発明で用いられる培地には、水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
ソルボース、フラクトース、グルコース等の糖類;
メタノール等のアルコール類;
吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸等有機酸類、またはこれらの塩。
【0028】
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に培地中の嫌気性微生物を発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10wt/vol%の範囲から添加量を選択することによって、過不足を避けることができる。
【0029】
上記の炭素源に加えて、培地には、窒素源が加えられる。本発明において、窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。好ましい無機窒素源は、アンモニウム塩、及び硝酸塩である。より好ましい無機窒素源は、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダである。
一方、好ましい有機窒素源はアミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンN等)、肉エキス、肝臓エキス、消化血清末等である。より好ましい有機窒素源はアルギニン、システイン、シトルリン、リジン、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンN等)である。
【0030】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、エクオールの製造に適した他の有機物あるいは無機物を培地に加えることもできる。たとえば、ビタミン等の補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、嫌気性微生物の増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0031】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
【0032】
これらの無機化合物やビタミン類、あるいは増殖補助因子を添加して培養液を製造する方法として、従来公知の手法を用いることができる。培地は、液体、半固体、あるいは固体とすることができる。本発明において、好ましい培地の形態は、液体培地である。
本発明の培地は、デキストリン類を含むことができる。デキストリン類を含む培地で嫌気性微生物を培養すれば、培養後に改めて培養物にデキストリン類を接触させることなく、エクオールおよびデキストリン類を含む液を調製することができる。
デキストリン類の培地への添加は、微生物の培養前および培養中に行うことができる。
【0033】
本発明において、嫌気性微生物は、公知の微生物の培養方法にしたがって培養することができる。工業的な製造には、培地や基質ガスを連続的に供給することができ、かつ培養物を回収するための機構を備えた連続培養システム (continuous fermentation system)を使用することもできる。
【0034】
エクオール含有食品組成物の製造において、嫌気性微生物を用いる場合、連続培養システム内への酸素の混入を防ぐのがよい。培養器は通常用いられる培養槽がそのまま利用できる。エクオールの製造にも利用することができる培養タンクが市販されている。培養槽内に混入する酸素を、窒素等の不活性気体で置換することにより、嫌気的な雰囲気を作ることができる。
【0035】
培養槽の形状によっては、培地を十分に撹はんするため、撹はん機等を利用することもできる。培養槽内の培養物を攪拌することによって、培地成分や基質ガスを嫌気性微生物に接触させる機会を増やして、エクオールの生成効率を最適化することができる。また基質ガスをナノバブルとして供給することもできる。
【0036】
本発明においては、エクオールの製造を、通気せずゴム栓で密栓したビンや試験管内等の密閉系で行うこともあるが、水素を含む1種類以上の気体からなる気相下で行うこともできる。気相下で行う場合、水素濃度は特に限定されない。
【0037】
本発明の方法を気相下で行う場合、気相を構成する気体の組み合わせは特に制限されるものではなく、水素の他に二酸化炭素、窒素等から選択される1種類以上の気体を構成成分として用いることが可能である。また、効率よくエクオールを回収するためには、気相を構成する混合気体の培養槽への通気量は0.01~2.0V/V/Mガス量/液量/分であることが好ましい。
【0038】
本発明において、嫌気性微生物を培養する際は常圧で行うこともできるが、加圧する場合、加圧条件は、当該微生物が生育できる条件であれば特に限定されるものではない。好ましい加圧条件としては、0.02~0.2MPaの範囲を挙げることができるがこれに限定されない。
【0039】
エクオールの回収量を増加させるため、培養槽の温度は特に制限されるものではないが、好ましくは30℃~40℃をさらに好ましくは33℃~38℃の温度を挙げることができる。
発酵時間は、エクオールの生成量に応じて、イソフラボン類の残存量等に応じても適宜設定できる。例えば8~120時間、好ましくは12~72時間、特に好ましくは16~60時間を例示することができるがこれらに限定されない。
【0040】
培養工程の培養終了液に、風味改善を目的に有機酸を添加することができる。添加量については、風味改善の効果が出る限り制限はないが、例えばpHを指標に添加することができる。有機酸添加に際して、培養終了液のpHを前記有機酸で3.0~5.5、好ましくは3.5~5.0、より好ましくは4.0~5.0に調整するのがよい。
【0041】
本発明の培養工程により得られた発酵培養物は、必要に応じて加熱乾燥処理あるいは噴霧乾燥処理、凍結乾燥処理により固形状にして使用することができる。加熱乾燥処理あるいは噴霧乾燥処理は、例えばスプレードライ装置を使用して行うことができる。凍結乾燥処理は凍結乾燥装置を使用して行うことができる。加熱乾燥処理もしくは噴霧乾燥処理もしくは凍結乾燥処理された発酵培養物は、必要に応じて粉末化処理に供してもよい。
【0042】
本発明の培養工程により得られたエクオールを含有する食品組成物は、飲食物(サプリメントを含む)等の素材として提供することができる。
【0043】
本発明に係るエクオール含有食品組成物を飲食物として提供する場合、一般の食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品、食品添加物等として使用できる。食品の形態としては、本発明のエクオール含有食品組成物を含む清涼飲料、ミルク、プリン、ゼリー、飴、ガム、グミ、ヨーグルト、チョコレート、スープ、クッキー、スナック菓子、アイスクリーム、アイスキャンデー、パン、ケーキ、シュークリーム、ハム、ミートソース、カレー、シチュー、チーズ、バター、ドレッシング、サプリメント、トクホ飲料、栄養ドリンク等を例示することができる。
【0044】
本発明に係るエクオール含有食品組成物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用してエクオール含有組成物とすることができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、及びこれら加水分解物、バター等が挙げられる。糖質としては糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維等が挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂、パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂等が挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸等が挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラル等が挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0045】
これらの食品中のエクオール含有食品組成物の配合割合は、食品の種類、エクオールの含量、摂取対象者の年齢や性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、食品100gに対して0.01~100g、好ましくは0.1~10g、更に好ましくは0.5~5gとなる割合を挙げることができるがこれらに限定されない。エクオールを含む食品組成物を含む食品の一日当たりの摂取量については、組成物中のエクオールの含量、摂取者の年齢や体重、摂取回数等によって異なるが、例えば成人1日当たり、0.01~10gに相当する組成物の量を挙げることができる。
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
〔実施例1〕
(前培養培地の調製)
Anaerobe Basal Broth(ABB)培地(Thermo scientific社)を2L発酵槽に1L分注した。その後、窒素ガスでガス置換し、滅菌した。
(本培養培地の調製)
ABB培地にダイゼインを600mg/Lとなるように添加し、2L発酵槽に1L分注した。その後、窒素ガスでガス置換し、滅菌した。
(前培養)
前培養培地に、アッサカロバクター・セラツス (Asaccharobacter celatus) DSM 18785株を植菌した後、窒素ガスでガス置換し、37℃で1日間培養した。
【0047】
(本培養)
上記前培養した各菌株を本培養培地にそれぞれ植菌した後、水素/窒素混合ガスでガス置換し、37℃で5日間培養した。
(酸性化工程)
上記本培養終了液に、クエン酸、乳酸、リン酸、グルコン酸、酢酸、リンゴ酸、オロト酸を添加することによって、pH5.0まで低下させ、加熱による殺菌を実施した。
(凍結乾燥)
本培養終了液を孔径0.2μmのフィルターを用いて除菌した後に、凍結乾燥し、粉体1を得た。
【0048】
〔実施例2〕
実施例1において、アッサカロバクター・セラツス (Asaccharobacter celatus) DSM 18785株の代わりに、アドレクラウチア・エクオリファシエンス (Adlercreutzia equolifaciens) DSM 19450株を用いた以外、実施例1と同様な方法により、粉体2を得た。
【0049】
〔比較例1〕
実施例1において、各種有機酸の代わりに、10%塩酸を用いた以外、実施例1と同様な方法により、粉体C1を得た。
〔比較例2〕
実施例2において、各種有機酸の代わりに、10%塩酸を用いた以外、実施例2と同様な方法により、粉体C2を得た。
【0050】
(香りの評価)
得られた粉体1、粉体2、並びに粉体C1、C2について、香りを評価した。香りは、30代~50代の男女について4名を選出し、官能試験により下記基準により評価AAA~Aの結果を得た。
【0051】
AAA:香りが良い;
AA:培地由来の香りがするが気にならない;
A:培地由来の香りがする
【0052】
官能試験の結果を表1及び表2に示す。なお、表において、「AC」はアッサカロバクター・セラツス (Asaccharobacter celatus) DSM 18785株を示し、「AE」はアドレクラウチア・エクオリファシエンス (Adlercreutzia equolifaciens) DSM 19450株を示す。
表1及び表2から明らかなように、実施例1及び2の粉体1及び粉体2、即ちpH調整剤として有機酸を用いて得た粉体は、比較例1及び2の粉体C1及びC2、即ちpH調整剤として塩酸を用いて得た粉体と比較して培地成分に由来する特有の香りが低減されることを確認した。なお、各有機酸の粉体中含有率を表3に記載した。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】