(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】アーク判定装置、遮断器、アーク判定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240412BHJP
H01H 83/20 20060101ALI20240412BHJP
H01H 83/02 20060101ALI20240412BHJP
H02H 3/02 20060101ALI20240412BHJP
H02H 3/093 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
G01R31/12 Z
H01H83/20
H01H83/02 H
H02H3/02 F
H02H3/02 G
H02H3/093 D
(21)【出願番号】P 2020142955
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生島 剛
(72)【発明者】
【氏名】松田 啓史
(72)【発明者】
【氏名】塩川 明実
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-292555(JP,A)
【文献】特開2005-117750(JP,A)
【文献】特開2004-153877(JP,A)
【文献】特開2020-076705(JP,A)
【文献】特開平03-231169(JP,A)
【文献】特開2000-258471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0002136(US,A1)
【文献】特開2009-278744(JP,A)
【文献】特開2010-161919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
G01R 31/50-31/74
H01H 83/20
H01H 83/02
H02H 3/02
H02H 3/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された前記電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する処理部と、を備え、
前記特徴量は、第2位相差に対する第1位相差の比であり、
前記第1位相差は、前記電流検出部の前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差であり、
前記第2位相差は、前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差である、
アーク判定装置。
【請求項2】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された前記電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する処理部と、を備え、
前記処理部は、前記電流検出値の半周期毎に前記特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定し、複数回連続して前記特徴量が前記所定の条件を満たすという判定を行った場合、前記電路に前記アークが発生したと判定し、
前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差を第1位相差とし、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差を第2位相差とし、
前記特徴量は、前記第2位相差に対する前記第1位相差の比率を含む、
アーク判定装置。
【請求項3】
前記電路は、一対の配線を有し、
前記処理部は、前記一対の配線の間でアークが発生したか否かを判定する、
請求項2に記載のアーク判定装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記電流検出値の半周期毎において、前記ピーク電流値が、前記負荷に流れる負荷電流のピーク電流値の電流領域よりも大きい閾値以上の場合は、前記電路にアークが発生したと判定する、
請求項2又は3に記載のアーク判定装置。
【請求項5】
前記ローパスフィルタの前段又は後段に設けられ、前記ローパスフィルタの処理前又は処理後の前記電流検出値を増幅する増幅器を更に備える、
請求項2~4の何れか1項に記載のアーク判定装置。
【請求項6】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された前記電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する処理部と、を備え、
前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加して所定電流値に到達する迄の位相差を含み、
前記所定電流値は、前記基準電流値より大きくかつピーク電流値よりも小さい電流値である、
アーク判定装置。
【請求項7】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された前記電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する処理部と、を備え、
前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加してピーク電流値に到達する迄の位相差を含む、
アーク判定装置。
【請求項8】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された前記電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する処理部と、
前記ローパスフィルタの前段又は後段に設けられ、前記ローパスフィルタの処理前又は処理後の前記電流検出値を増幅する増幅器と、を備え、
パラレルアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、シリーズアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、を備え、
前記シリーズアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインは、前記パラレルアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインよりも大きい、
アーク判定装置。
【請求項9】
前記処理部は、一定時間内の前記特徴量の分布を求め、前記分布に基づいて、前記電路に前記アークが発生したか否かを判定する、
請求項8に記載のアーク判定装置。
【請求項10】
前記電路は、一対の配線を有し、
前記処理部は、前記一対の配線のうちの一方の配線でアークが発生したか否かを判定する、
請求項9に記載のアーク判定装置。
【請求項11】
前記特徴量は、前記高周波成分が除去された前記電流検出値の時間微分を含む、
請求項8に記載のアーク判定装置。
【請求項12】
前記特徴量は、前記電流検出値の半周期のピーク電流値を含む、
請求項1~11の何れか1項に記載のアーク判定装置。
【請求項13】
前記ローパスフィルタ及び前記増幅器は、ハードウエア処理を実行するように構成され、
前記処理部は、ソフトウエア処理を実行するように構成される、
請求項5に記載のアーク判定装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のアーク判定装置と、
前記アーク判定装置の前記処理部の判定結果に応じて、前記電路を開閉する開閉部と、を備える、
遮断器。
【請求項15】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出処理と、
前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタ処理と、
前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する抽出判定処理と、を含み、
前記特徴量は、第2位相差に対する第1位相差の比であり、
前記第1位相差は、前記電流検出処理での電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差であり、
前記第2位相差は、前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差である、
アーク判定方法。
【請求項16】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出処理と、
前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタ処理と、
前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する抽出判定処理と、を含み、
前記抽出判定処理では、前記電流検出値の半周期毎に前記特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定し、複数回連続して前記特徴量が前記所定の条件を満たすという判定を行った場合、前記電路に前記アークが発生したと判定し、
前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差を第1位相差とし、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差を第2位相差とし、
前記特徴量は、前記第2位相差に対する前記第1位相差の比率を含む、アーク判定方法。
【請求項17】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出処理と、
前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタ処理と、
前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する抽出判定処理と、を含み、
前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加して所定電流値に到達する迄の位相差を含み、
前記所定電流値は、前記基準電流値より大きくかつピーク電流値よりも小さい電流値である、
アーク判定方法。
【請求項18】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出処理と、
前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタ処理と、
前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する抽出判定処理と、を含み、
前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加してピーク電流値に到達する迄の位相差を含む、
アーク判定方法。
【請求項19】
交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する電流検出処理と、
ローパスフィルタを用いて、前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去するローパスフィルタ処理と、
処理部を用いて、前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する抽出判定処理と、
前記ローパスフィルタの前段又は後段に設けられた増幅器を用いて、前記ローパスフィルタの処理前又は処理後の前記電流検出値を増幅する増幅処理と、を含み、
パラレルアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、シリーズアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、を含み、
前記シリーズアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインは、前記パラレルアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインよりも大きい、
アーク判定方法。
【請求項20】
請求項15~19の何れか1項に記載のアーク判定方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アーク判定装置、遮断器、アーク判定方法、及びプログラムに関し、より詳細には、交流電源と負荷との間の電路にアークが発生したか否かを判定するアーク判定装置、当該アーク判定装置を備える遮断器、アーク判定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、交流電源と負荷との間の電路に流れる電流から各種情報を検出し、検出した各種情報に基づいてアーク異常などを検出し、そのアーク異常などの検出結果に基づいて電路を遮断する小型回路遮断器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の小型回路遮断器では、アーク異常を検出するとき、電路を流れる電流に含まれる高周波成分を用いる。ところが、電路のアーク発生箇所に対して並列に容量性負荷が接続されている場合、上記の高周波成分は、容量性負荷に吸収されて小型検出遮断器に受信されない場合がある。この結果、アークが発生しても、小型検出遮断器でアークの発生を検出できない場合がある。
【0005】
本開示は、上記の問題に鑑み、アーク発生の判定精度の向上を図ることができるアーク判定装置、遮断器、アーク判定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るアーク判定装置は、電流検出部と、ローパスフィルタと、処理部と、を備える。前記電流検出部は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタは、前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。前記処理部は、前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記特徴量は、第2位相差に対する第1位相差の比である。前記第1位相差は、前記電流検出部の電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差である。前記第2位相差は、前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差である。
本開示の一態様に係るアーク判定装置は、電流検出部と、ローパスフィルタと、処理部と、を備える。前記電流検出部は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタは、前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。前記処理部は、前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記処理部は、前記電流検出値の半周期毎に前記特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定し、複数回連続して前記特徴量が前記所定の条件を満たすという判定を行った場合、前記電路に前記アークが発生したと判定する。前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差を第1位相差とする。前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差を第2位相差とする。前記特徴量は、前記第2位相差に対する前記第1位相差の比率を含む。
本開示の一態様に係るアーク判定装置は、電流検出部と、ローパスフィルタと、処理部と、を備える。前記電流検出部は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタは、前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。前記処理部は、前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加して所定電流値に到達する迄の位相差を含む。前記所定電流値は、前記基準電流値より大きくかつピーク電流値よりも小さい電流値である。
本開示の一態様に係るアーク判定装置は、電流検出部と、ローパスフィルタと、処理部と、を備える。前記電流検出部は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタは、前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。前記処理部は、前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加してピーク電流値に到達する迄の位相差を含む。
本開示の一態様に係るアーク判定装置は、電流検出部と、ローパスフィルタと、処理部と、増幅器と、を備える。前記電流検出部は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタは、前記電流検出部で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。前記処理部は、前記ローパスフィルタで高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記増幅器は、前記ローパスフィルタの前段又は後段に設けられ、前記ローパスフィルタの処理前又は処理後の前記電流検出値を増幅する。前記アーク判定装置は、パラレルアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、シリーズアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、を備える。前記シリーズアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインは、前記パラレルアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインよりも大きい。
【0007】
本開示の一態様に係る遮断器は、前記アーク判定装置と、開閉部と、を備える。前記開閉部は、前記アーク判定装置の前記処理部の判定結果に応じて、前記電路を開閉する。
【0008】
本開示の一態様に係るアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理と、を含む。前記電流検出処理は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタ処理は、前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記特徴量は、第2位相差に対する第1位相差の比である。前記第1位相差は、前記電流検出処理での電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差である。前記第2位相差は、前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差である。
本開示の一態様に係るアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理と、を含む。前記電流検出処理は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタ処理は、前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記抽出判定処理では、前記電流検出値の半周期毎に前記特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定し、複数回連続して前記特徴量が前記所定の条件を満たすという判定を行った場合、前記電路に前記アークが発生したと判定する。前記電流検出値の半周期において、前記電流検出値が基準電流値から増加してピーク電流値に達する迄の位相差を第1位相差とし、前記電流検出値が前記基準電流値から増加して前記ピーク電流値を経て前記基準電流値に戻るまでの位相差を第2位相差とする。前記特徴量は、前記第2位相差に対する前記第1位相差の比率を含む。
本開示の一態様に係るアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理と、を含む。前記電流検出処理は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタ処理は、前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加して所定電流値に到達する迄の位相差を含む。前記所定電流値は、前記基準電流値より大きくかつピーク電流値よりも小さい電流値である。
本開示の一態様に係るアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理と、を含む。前記電流検出処理は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタ処理は、前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記特徴量は、前記電流検出値の半周期において、基準電流値から増加してピーク電流値に到達する迄の位相差を含む。
本開示の一態様に係るアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理と、増幅処理と、を含む。前記電流検出処理は、交流電源と負荷の間の電路に流れる電流を検出する。前記ローパスフィルタ処理は、ローパスフィルタを用いて、前記電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、処理部を用いて、前記ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した前記特徴量に基づいて、前記電路にアークが発生したか否かを判定する。前記増幅処理は、前記ローパスフィルタの前段又は後段に設けられた増幅器を用いて、前記ローパスフィルタの処理前又は処理後の前記電流検出値を増幅する。パラレルアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、シリーズアーク発生の有無を判定するための、前記増幅器、前記ローパスフィルタ及び前記処理部と、を含む。前記シリーズアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインは、前記パラレルアーク発生の有無を判定するための前記増幅器のゲインよりも大きい。
【0009】
本開示の一態様に係るプログラムは、前記アーク判定方法を1以上のプロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、アーク発生の判定精度の向上を図ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る遮断器が交流電源と負荷との間の電路に接続された状態を説明する説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るアーク判定装置の概略構成を示す構成図である。
【
図3】
図3Aは、パラレルアーク電流の特徴を説明する説明図である。
図3Bは、突入電流の特徴を説明する説明図である。
【
図4】
図4Aは、シリーズアーク電流の特徴を説明する説明図である。
図4Bは、負荷電流の一例を説明する説明図である。
【
図5】
図5は、電流波形の極性を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、所定電流位相差及びピーク電流位相差を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、ピーク電流位相比を説明する説明図である。
【
図8】
図8は、電流検出値の時間微分を説明する説明図である。
【
図9】
図9は、パラレルアーク電流の電流領域と負荷電流の電流領域との関係を説明する説明図である。
【
図10】
図10は、シリーズアーク処理系統を複数備える場合の変形例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態
(1)概要
図1に示すように、本実施形態に係るアーク判定装置1は、交流電源2と負荷3との間の電路4において、アーク5が発生したか否かを判定する装置である。電路4には、複数(
図1の例では2つ)の負荷3が接続されている。
【0013】
ここで、判定対象となるアーク5は、例えば、シリーズアーク51及びパラレルアーク52を含む。シリーズアーク51は、電路4を構成する一対の配線4a,4bのうちの一方の配線で発生するアークである。シリーズアーク51の発生時には、電路4には、例えば負荷電流相当の大きさの電流(シリーズアーク電流)が流れる。負荷電流とは、負荷3に供給される駆動電流である。パラレルアーク52は、電路4を構成する一対の配線4a,4bの間で発生するアークである。パラレルアーク52の発生時には、電路4には、突入電流以上の大きさの電流(パラレルアーク電流)が流れる。突入電流とは、例えば負荷3の電源投入時に一時的に流れる大電流である。なお、シリーズアーク電流とパラレルアーク電流を区別しない場合は、単にアーク電流と記載する。
【0014】
本実施形態では、複数の負荷3は、例えば、建物に配置された電気機器である。交流電源2は、例えば、系統電源である。電路4は、建物の内部に設けられており、交流電源2からの電力を複数の負荷3に供給するための給電路である。アーク判定装置1は、例えば、建物に設置された遮断器10の内部に設置されている。遮断器10は、電路4に異常電流(例えば、短絡電流、過負荷電流及び漏電電流など)が発生したときに電路4を遮断する装置(例えば漏電遮断器)である。
図1の例では、アーク判定装置1は、遮断器10の内部に設置されるが、遮断器10の外に配置されてもよい。
【0015】
複数の負荷3は、電路4において、互いに並列に接続されている。複数の負荷3は、容量性負荷31を含む。容量性負荷31は、大容量(例えば数μF)のコンデンサ31aを有する負荷である。容量性負荷31は、そのコンデンサ31aによって、電路4を流れる電流に含まれる高周波成分をバイパスする。
【0016】
このように、電路4に容量性負荷31が接続されている状態で、電路4でアーク5が発生したとき、アーク電流に含まれる高周波成分は、容量性負荷31に吸収されてしまう場合がある。この場合は、特許文献1記載の従来例のように電流の高周波成分を分析するものでは、アークが発生したことを判定できない場合がある。
【0017】
本実施形態では、アーク判定装置1は、電流に含まれる高周波成分を用いずにアーク5の発生の有無を判定する。これにより、電路4に容量性負荷31が接続されている場合でも、アーク5の発生の有無を判定可能とし、その結果、従来例よりも、アーク発生の判定精度の向上を図ることができる。以下、本実施形態に係るアーク判定装置1を備える遮断器10について、詳しく説明する。
【0018】
(2)詳細説明
(2-1)遮断器
図1に示すように、遮断器10は、電路4に設置されている。
【0019】
電路4は、主電路41と複数の分岐路42とを有する。主電路41は、交流電源2に接続されている。複数の分岐路42は、主電路41から分岐している。各分岐路42には、負荷3が接続される。電路4は、一対の配線4a,4bを有する。より詳細には、主電路41は、一対の配線41a,41bを有する。分岐路42は、一対の配線42a,42bを有する。分岐路44の一対の配線42a,42bのうち、一方の配線42aは、主電路41の一方の配線41aから分岐し、他方の配線42bは、主電路41の他方の配線41bから分岐している。電路4の配線4aは、主電路41の配線41aと複数の分岐路42の各々の配線42aとで構成されている。電路4の配線4bは、主電路41の配線41bと複数の分岐路42の各々の配線42bとで構成されている。
【0020】
遮断器10は、開閉部101と、アーク判定装置1と、制御部102とを備える。
【0021】
開閉部101は、例えば電磁開閉器である。開閉部101は、主電路41に設けられており、主電路41(すなわち一対の配線41a,41b)を開閉する。
【0022】
電流検出部15は、電路4(例えば主電路41)に流れる電流を検出する。なお、電流は、電路4を流れる電流のうちの時間変化する成分(変動成分)を含む。より詳細には、電流検出部15は、主電路41の一対の配線41a,41bのうちの一方の配線(例えば配線41a)に流れる電流を検出する。本実施形態では、電流検出部15は、例えば電流検出抵抗であり、上記の一方の配線41aに設けられている。すなわち、本実施形態では、電流検出部15は、上記の一方の配線41aに流れる電流を電流検出用抵抗の両端間電圧に変換して検出する。
【0023】
なお、電流検出部15は、電流検出用抵抗の代わりに電流センサであってもよい。電流センサは、電流に比例して発生する磁束を磁気鉄芯と磁気センサの組み合わせで測定(検出)することで、配線41aと非接触で電流を検出する方式の電流検出部である。以下、電流検出部15を電流検出用抵抗15と記載する場合がある。
【0024】
アーク判定装置1は、電流検出部15で検出された電流検出値に基づいて、電路4にアーク5が発生したか否かを判定する。アーク判定装置1の詳細は、後述する。
【0025】
制御部102は、電流検出部15の検出結果に応じて、電路4に異常電流(例えば漏電)が発生したか否かを判定する。また、制御部102は、制御部102による異常電流の発生の有無の判定結果及びアーク判定装置1によるアークの発生の有無の判定結果に応じて、開閉部101の開閉を制御する。より詳細には、制御部102は、制御部102が異常電流が発生していないと判定した場合、かつアーク判定装置1がアーク5が発生していないと判定した場合は、開閉部101の閉状態を維持する。これにより、主電路41gが導通状態に維持される。また、制御部102は、制御部102が異常電流が発生したと判定した場合、又は、アーク判定装置1がアークが発生したと判定した場合は、開閉部101を閉状態から開状態に切り換える。これにより、主電路41が遮断される。
【0026】
(2-2)アーク判定装置
図2に示すように、アーク判定装置1は、電流検出部15と、増幅器16と、ローパスフィルタ(LPF)17と、ADコンバータ18と、パラレルアーク処理部19とを備える。また、アーク判定装置1は、増幅器20と、ローパスフィルタ(LPF)21と、ADコンバータ22と、シリーズアーク処理部23とを備える。
【0027】
本実施形態では、電流検出部15は、遮断器10とアーク判定装置1とで共用されるが、共用されなくてもよい。すなわち、アーク判定装置1及び遮断器10はそれぞれ、別々の電流検出部を備えていてもよい。
【0028】
ここで、電流検出部15、増幅器16、電流検出部15、ローパスフィルタ17、ADコンバータ18、及びパラレルアーク処理部19は、パラレルアーク処理系統S1を構成する。パラレルアーク処理系統S1は、パラレルアーク52の発生の有無を判定するための処理系統である。また、電流検出部15、増幅器20、ローパスフィルタ21、ADコンバータ22、及びシリーズアーク処理部23は、シリーズアーク処理系統S2を構成する。シリーズアーク処理系統S2は、シリーズアーク51の発生の有無を判定するための処理系統である。2つの処理系統は、増幅器16,20の間でゲイン(増幅率)が異なる点と、処理部19,23の間で処理内容が異なる点以外は、同様に構成されている。
【0029】
(2-2-1)パラレルアーク処理系統
上述のように、パラレルアーク処理系統S1は、電流検出部15、増幅器16、ローパスフィルタ17、ADコンバータ18、及びパラレルアーク処理部19を含む。
【0030】
電流検出部15は、遮断器10の電流検出部(電流検出用抵抗)15である。
【0031】
増幅器16は、電流検出部15で検出された電流検出値(本実施形態では電路4に流れる電流を電圧に変換した値)を第1増幅率で増幅し、増幅した電流検出値をローパスフィルタ17に出力する。この増幅器16の処理を増幅処理と記載する場合がある。ここで、第1増幅率は、増幅器16に入力された電流検出値がパラレルアーク電流に対する電流検出値である場合に、その電流検出値をパラレルアーク処理部19で処理するのに適した増幅率である。
【0032】
増幅器16は、例えば差動アンプである。すなわち、増幅器16は、2つの入力端と1つの出力端とを有する。2つの入力端はそれぞれ、電流検出用抵抗15の両端に接続されており、電流検出用抵抗15の両端電圧を入力する。出力端は、ローパスフィルタ17の入力端に接続されている。増幅器16は、2つの入力端に入力された電圧の差を第1増幅率で増幅して出力端から出力する。
【0033】
ローパスフィルタ17は、増幅器16で増幅された電流検出値のうち、高周波成分を除去し、高周波成分以外の成分をADコンバータ18を介してパラレルアーク処理部19に出力する。以下、このローパスフィルタ17の処理をフィルタ処理と記載する場合がある。
【0034】
なお、本実施形態では、増幅器16は、ローパスフィルタ17の前段に設けられるが、ローパスフィルタ17の後段に設けられてもよい。この場合は、ローパスフィルタ17の出力は、増幅器16及びADコンバータ18を介してパラレルアーク処理部19に出力される。
【0035】
ADコンバータ18は、ローパスフィルタ17の出力(アナログ値)をデジタル値に変換し、変換したデンタル値をパラレルアーク処理部19に出力する。
【0036】
パラレルアーク処理部19は、ADコンバータ18の出力(すなわち高周波成分が除去されかつデジタル化された電流検出値)に基づいて、電路4にパラレルアーク52が発生したか否かを判定する。パラレルアーク処理部19は、特徴量抽出部19aと、判定部19bとを備える。特徴量抽出部19aは、ADコンバータ18から取得した電流検出値から半周期毎に特徴量(例えばピーク電流値)を抽出する。判定部19bは、特徴量抽出部19aで抽出された特徴量に基づいて、電路4にパラレルアーク52が発生したか否かを判定する。この判定結果は、遮断器10の制御部102に出力される。
【0037】
なお、上記の半周期とは、
図5に示すように、電流測定値(すなわち流路4を流れる電流Ia)の極性が正極性となる場合の半周期T1とする。なお、半周期を、電流Iaの極性が負極性となる半周期T2としてもよいし、半周期T1及び半周期T2の両方としてもよい。なお、正極性とは、電流Iaの振幅が、
図5の縦軸のプラス側(上側)を向く状態であり、負極性とは、電流Iaの振幅が、
図5の縦軸のマイナス側(下側)を向く状態である。
【0038】
より詳細には、判定部19bは、電流検出値の半周期毎に、抽出された特徴量(例えばピーク電流値)が所定の条件を満たすか否かを判定する。例えば、判定部19bは、予め決められた所定回数(例えば5回)、上記の判定を行う。そして、判定部19bは、複数回(例えば3回)連続して特徴量が所定の条件を満たすという判定を行った場合、電路4にパラレルアーク52が発生したと判定する。また、判定部19bは、複数回(例えば3回)連続して特徴量が所定の条件を満たさないという判定を行った場合、電路4にパラレルアーク52が発生していないと判定する。
【0039】
ここで、上記の所定の条件とは、例えば、特徴量(例えばピーク電流値)が所定範囲内の値(例えば所定閾値以上の値)を取るという条件である。したがって、この場合、判定部19bは、複数回(例えば3回)連続して、抽出した特徴量が所定範囲内の値を取った場合、電路4にパラレルアーク52が発生したと判定する。
【0040】
すなわち、パラレルアーク電流は、突入電流以上の大電流であるため、定常時(すなわち突入電流及びアーク電流が発生していない時)の負荷電流と比べて、電流の大きさ(振幅)がかなり大きい。この場合は、判定部19bは、特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定するだけで、パラレルアーク52の発生の有無を正確に判定することが可能である。しかし、負荷電流が突入電流である場合は、パラレルアーク電流と突入電流とは、電流の大きさの範囲(電流領域)が部分的に重なる。このため、この場合は、単に、判定部19bは、特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定するだけでは、パラレルアーク52の発生の有無を正確に判定することができない。
【0041】
ところが、パラレルアーク電流と突入電流とでは、下記の特徴的な違いがある。すなわち、突入電流では、
図3Bに示すように、ピーク電流値は、負荷3の電源投入時(時点t1)は、ある程度大きな電流値(例えば所定閾値Iq以上の電流値)を取るが、電源投入時(t1)以降は、急激に低下する。これに対し、パラレルアーク電流では、
図3Aに示すように、ピーク電流値は、その発生時(時点t1)から、突入電流以上の大きな電流値(例えば所定閾値Iq以上の電流値)を維持した状態で、或る程度の時間持続する。なお、
図3A及び
図3Bにおいて、黒丸「●」は、各半周期で検出されたピーク電流値を示す。
【0042】
このように、パラレルアーク電流と突入電流とでは、ともに閾値Iq以上の電流値を取るが、パラレルアーク電流は、閾値Iq以上の電流値をある程度の時間維持するのに対し、突入電流は、閾値Iq以上の電流値は一時的である、という特徴的な違いがある。このため、判定部19bは、1回でなく複数回連続して、特徴量(例えばピーク電流値)が所定の条件を満たしたと判定した場合に、電路4にパラレルアーク52が発生したと判定する。これにより、パラレルアーク電流と負荷電流とを区別して、より正確に、パラレルアーク52が発生したことを判定することが可能である。
【0043】
(2-2-2)シリーズアーク処理系統
上述のように、シリーズアーク処理系統S2は、電流検出部15、増幅器20、ローパスフィルタ21、ADコンバータ22、及びシリーズアーク処理部23を含む(
図2参照)。
【0044】
電流検出部15は、パラレルアーク処理系統S1と共用されている。
【0045】
増幅器20は、電流検出部15で検出された電流検出値を第2増幅率で増幅し、増幅した電流検出値をローパスフィルタ21に出力する。以下、この増幅器20の処理を増幅処理と記載する場合がある。ここで、第2増幅率は、増幅器20に入力された電流検出値がシリーズアーク電流に対する電流検出値である場合に、その電流検出値をシリーズアーク処理部23で処理するのに適した増幅率である。シリーズアーク電流は、パラレルアーク電流よりも小さいため、第2増幅器20の第2増幅率(ゲイン)は、第1増幅器16の第1増幅率(ゲイン)よりも大きい。
【0046】
増幅器20は、増幅率以外は増幅器16と同じ構成である。増幅器20は、例えば差動アンプであり、2つの入力端と1つの出力端とを有する。2つの入力端はそれぞれ、電流検出用抵抗15の両端に接続されており、電流検出用抵抗15の両端電圧を入力する。出力端は、ローパスフィルタ21の入力端に接続されている。増幅器20は、2つの入力端に入力された電圧の差を第2増幅率で増幅して出力端から出力する。
【0047】
ローパスフィルタ21は、ローパスフィルタ17と同じ構成である。ローパスフィルタ21は、増幅器20で増幅された電流検出値のうち、高周波成分を除去し、高周波成分以外の成分をADコンバータ22を介してシリーズアーク処理部23に出力する。以下、このローパスフィルタの処理をフィルタ処理と記載する場合がある。
【0048】
なお、本実施形態では、増幅器20は、ローパスフィルタ21の前段に設けられるが、ローパスフィルタ21の後段に設けられてもよい。この場合は、ローパスフィルタ21の出力信号は、増幅器20及びADコンバータ22を介してシリーズアーク処理部23に出力される。
【0049】
ADコンバータ22は、ローパスフィルタ21の出力(アナログ値)をデジタル値に変換し、変換したデンタル値をシリーズアーク処理部23に出力する。
【0050】
シリーズアーク処理部23は、ADコンバータ22の出力(すなわち高周波成分が除去されかつデジタル化された電流検出値)に基づいて、電路4にシリーズアーク51が発生したか否かを判定する。シリーズアーク処理部23は、特徴量抽出部23aと、判定部23bとを備える。特徴量抽出部23aは、ADコンバータ18から取得した電流検出値から半周期毎に特徴量(例えばピーク電流値)を抽出する。判定部23bは、特徴量抽出部23aで抽出された特徴量に基づいて、電路4にシリーズアーク51が発生したか否かを判定する。この判定結果は、遮断器10の制御部102に出力される。
【0051】
より詳細には、判定部23bは、一定時間(例えば6半周期分の時間)内の特徴量(例えばピーク電流値)の分布を求め、その分布に基づいて、電路4にシリーズアーク51が発生したか否かを判定する。更に詳細には、判定部23bは、上記の分布がランダムに分布しているか否か(換言すれば、上記の分布の幅が規定幅よりも大きいか否か)に基づいて、電路4にシリーズアーク51が発生したか否かを判定する。すなわち、判定部23bは、上記の分布がランダムである場合(換言すれば上記の分布の幅が規定幅よりも大きい場合)は、電路4にシリーズアーク51が発生したと判定する。また、判定部23bは、上記の分布がランダムでない場合(換言すれば上記の分布の幅が規定幅内に収まっている場合)は、電路4にシリーズアーク51が発生していないと判定する。
【0052】
なお、判定部23bでは、特徴量の分布がランダムである場合は、分布の幅が規定幅よりも大きくなり易く、特徴量の分布がランダムでない場合は、分布の幅が規定幅以下になり易いという性質を利用している。
【0053】
なお、上記の規定幅は、例えば、定常時(すなわち突入電流及びアーク電流が発生していない時)の負荷電流において、一定時間内の特徴量の分布を含む幅、又は、その幅よりも少し大きい幅である。判定部23bには、予め、上記の規定幅が設定されている。
【0054】
すなわち、定常時の負荷電流では、
図4Bに示すように、一定時間(
図4Bの例では6半周期分の時間)内の特徴量(例えばピーク電流値Ip)は、あまり変化しない。換言すれば、一定時間内の特徴量(例えばピーク電流値Ip)の分布は、規定幅W1内に収まっている。なお、
図4Bの例では、規定幅W1は、一定時間内の特徴量(例えばピーク電流値Ip)を丁度含む幅よりも少し大きい幅に設定されている。
【0055】
これに対し、シリーズアーク電流では、
図4Aに示すように、一定時間(
図4Aの例では6半周期分の時間)の特徴量(例えばピーク電流値Ip)は、ランダムに変化する。換言すれば、一定時間内の特徴量(例えばピーク電流値Ip)の分布は、規定幅W1内に収まらない。なお、
図4Aに示す規定幅W1は、
図4Bに示す規定幅W1と同じである。
【0056】
すなわち、定常時の負荷電流では、特徴量はあまり変化しない(すなわち特徴量はランダムに変化しない)ため、特徴量の分布は、規定幅W1内に収まるのに対し、シリーズアーク電流では、特徴量がランダムに変化するため、特徴量は規定幅W1を超えて分布する、という特徴的な違いある。このため、判定部23bは、一定時間内の特徴量の分布を求め、その分布に基づいて、シリーズアーク電流が発生したか否かを判定する。これにより、シリーズアーク電流と負荷電流とを区別して、より正確に、シリーズアーク51が発生したことを判定することが可能である。
【0057】
(2-2-3)ハードウエア処理とソフトウエア処理
増幅器16,20の増幅処理、及びローパスフィルタ17,21のフィルタ処理は、ハードウェアで実行される。すなわち、増幅器16,20及びローパスフィルタ17,21はそれぞれ、ハードウエアで構成されている。また、パラレルアーク処理部19及びシリーズアーク処理部23の各処理は、ソフトウエア処理で実行される。すなわち、パラレルアーク処理部19及びシリーズアーク処理部23は、例えば、プロセッサがソフトウエア処理を実行することで実現される。
【0058】
ここで、ハードウエア処理とは、処理内容が変更できない演算回路を用いて処理を実行することである。処理内容が変更できない演算回路とは、例えば、オペアンプなど、回路素子を用いて構成された演算回路である。すなわち、本実施形態では、増幅器16,20及びローパスフィルタ17,21は、処理内容が変更できない演算回路を用いて構成されている。
【0059】
また、ソフトウエア処理とは、処理内容が変更可能な演算回路を用いて処理を実行することである。処理内容が変更可能な演算回路とは、処理内容を規定したプログラムを変更することで処理内容が変更可能な演算回路であり、例えばCPU(Central Processing Unit)などである。
【0060】
本実施形態では、パラレルアーク処理部19及びシリーズアーク処理部23は、演算処理装置25によって構成されている。演算処理装置25は、CPU及びメモリを有するコンピュータを主構成としており、メモリに格納されているプログラムをCPUで実行することにより、各処理部19,23の機能を実現する。プログラムは、予めコンピュータのメモリに記録されていてもよいし、メモリカードのような記録媒体に記録されて提供されてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよい。
【0061】
また、演算処理装置25は、複数(
図2の例では2つ)の入力端子25a,25bと、1つ以上(
図2の例では1つ)の出力端子25cとを有する。2つの入力端子25a,25bはそれぞれ、ADコンバータ18,22の出力が入力される端子である。演算処理装置25は、入力端子25aへの入力に対しては、パラレルアーク処理部19の機能を実行して処理し、入力端子25bへの入力に対しては、シリーズアーク処理部23の機能を実行して処理する。出力端子25cは、パラレルアーク処理部19の判定結果(パラレルアーク52の発生の有無)、及びシリーズアーク処理部23の判定結果(シリーズアーク51の発生の有無)を外部(制御部102)に出力する端子である。出力端子25cは、制御部102の入力端子に接続されている。
【0062】
このように、増幅器16,20及びローパスフィルタ17,21が、ハードウエア処理を実行するように構成されており、パラレルアーク処理部19及びシリーズアーク処理部23が、ソフトウエア処理を実行するように構成されている。これにより、回路規模を過剰に複雑にすることなく、処理部19,23のソフトウエア処理を簡素化できる。
【0063】
なお、演算処理装置25は、制御部102を含んでもよい。
【0064】
(2-2-4)動作説明
次に
図1を参照して、アーク判定装置1の動作を説明する。
【0065】
電路4でパラレルアーク電流が発生すると、電流検出部15がパラレルアーク電流の電流検出値を検出する。そして、増幅器16がその電流検出値を第1増幅率で増幅し、ローパスフィルタ17が、その増幅された電流検出値から高周波成分を除去し、ADコンバータ18が、高周波成分が除去された電流検出値(アナログ値)をデジタル値に変換して、パラレルアーク処理部19に出力する。そして、パラレルアーク処理部19は、高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出する。そして、パラレルアーク処理部19は、半周期毎に特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定し、複数回連続して特徴量が所定の条件を満たすという判定を行ったか否かに基づいて、電路4にアークが発生したか否かを判定する。そして、パラレルアーク処理部19は、その判定結果を制御部102に出力する。
【0066】
なお、電流検出部15が検出したパラレルアーク電流の電流検出値は、増幅器20、ローパスフィルタ21及びADコンバータ22を介してシリーズアーク処理部23にも出力される。そして、シリーズアーク処理部23は、その電流検出値に基づいて、アークの発生の有無の判定を行う。しかし、増幅器20の第2増幅率は、シリーズアーク電流をシリーズアーク処理部23で処理するに適した増幅率であって、パラレルアーク電流をシリーズアーク処理部23で処理するのに適した増幅率ではない。このため、本実施形態では、シリーズアーク処理部23が、パラレルアーク電流に対する電流検出値に基づいてパラレルアークが発生したことを判定することを想定していない。なお、この場合、シリーズアーク処理部23が、パラレルアークをシリーズアークと間違えて、アークの発生を検出する可能性がある。この場合は、アークの種類は間違えているが、アークの発生は正しく判定される。
【0067】
他方、電路4でシリーズアーク電流が発生すると、電流検出部15がシリーズアーク電流の電流検出値を検出する。そして、増幅器20がその電流検出値を第2増幅率で増幅し、ローパスフィルタ21が、その増幅された電流検出値から高周波成分を除去し、ADコンバータ22が、高周波成分が除去された電流検出値をアナログ値からデジタル値に変換して、シリーズアーク処理部23に出力する。そして、シリーズアーク処理部23は、高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、一定時間内の特徴量の分布を求め、その分布に基づいて、電路4にアークが発生したか否かを判定する。そして、パラレルアーク処理部19は、その判定結果を制御部102に出力する。
【0068】
なお、電流検出部15が検出したシリーズアーク電流の電流検出値は、増幅器16、ローパスフィルタ17及びADコンバータ18を介してパラレルアーク処理部19にも出力される。そして、パラレルアーク処理部19は、その電流検出値に基づいて、アークの発生の有無の判定を行う。しかし、増幅器16の第1増幅率は、パラレルアーク電流をパラレルアーク処理部19で処理するに適した増幅率であって、シリーズアーク電流をパラレルアーク処理部19で処理するのに適した増幅率ではない。このため、本実施形態では、パラレルアーク処理部19が、その電流検出値に基づいてシリーズアークが発生したことを判定することを想定していない。なお、この場合、パラレルアーク処理部19が、シリーズアークをパラレルアークと間違えて、アークの発生を検出する可能性がある。この場合は、アークの種類は間違えているが、アークの発生は正しく判定される。
【0069】
(3)主要な効果
以上、本実施形態に係るアーク判定装置1は、電流検出部15と、ローパスフィルタ17,21と、処理部19,23とを備える。電流検出部15は、交流電源2と負荷3の間の電路4に流れる電流を検出する。ローパスフィルタ17,21は、電流検出部15で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。処理部19,23は、ローパスフィルタ17,21で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量(例えばピーク電流値Ip)を抽出し、抽出した特徴量に基づいて、電路4にアークが発生したか否かを判定する。
【0070】
この構成によれば、電流に含まれる高周波成分を用いずに、アーク発生の有無を判定することができる。このため、交流電源2と負荷3との間の電路4に容量性負荷31(すなわち電流に含まれる高周波成分を吸収する負荷)が接続されている場合でも、アーク発生の有無を判定可能とし、その結果、従来例よりも、アーク発生の判定精度の向上を図ることができる。
【0071】
(4)変形例
上記の実施形態の変形例を説明する。以下の説明では、上記の実施形態と同じ部分の説明は同じ符号を付して省略し、上記の実施形態と異なる部分のみを説明する場合がある。また、以下で説明する変形例は、組み合わせて実施してもよい。
【0072】
(4-1)変形例1
上記の実施形態では、パラレルアーク処理部19は、特徴量としてピーク電流値を抽出するが、特徴量は、ピーク電流値に限定されない。例えば、特徴量は、所定電流位相差、ピーク電流位相差、又はピーク電流位相比であってもよい。以下、これらの特徴量について詳しく説明する。
【0073】
(4-1-1)所定電流位相差
パラレルアーク処理部19で抽出される特徴量は、
図6に示すように、所定電流位相差Δω1であってもよい。所定電流位相差Δω1とは、電流検出部15の電流検出値(すなわち電路4に流れる電流)の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加して所定電流値Isに到達する迄の位相差である。所定電流値Isは、基準電流値Irより大きくかつピーク電流値Ipよりも小さい電流値である。
図6の例では、所定電流値Isは、電流検出値の半波の左半分(立ち上がり部分)に在る点での値であるが、電流検出値の半波の右半分(立ち下がり部分)に在る点での値であってもよい。より詳細には、所定電流位相差Δω1は、電流検出値の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加して所定電流値Isに到達する迄の時間差Δt1を位相差に変換した値である。基準電流値Irは、電流検出値が立ち上がり始める時の電流値である。基準電流値Irは、例えば、電流検出値のゼロクロス点であるが、ゼロクロス点の近くの点であってもよい。
【0074】
本変形例によれば、特徴量として所定電流位相差Δω1を抽出するため、アーク電流の波形に特有な「立ち上がり部分」又は「立ち下がり部分」に着目して、アーク発生の有無の判定することができる。
【0075】
(4-1-2)ピーク電流位相差
パラレルアーク処理部19で抽出される特徴量は、
図6に示すように、ピーク電流位相差Δω2であってもよい。ピーク電流位相差Δω2とは、電流検出部15の電流検出値(すなわち電路4に流れる電流)の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加してピーク電流値Ipに到達する迄の位相差である。より詳細には、ピーク電流位相差Δω2は、電流検出値の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加してピーク電流値Ipに到達する迄の時間差Δt2を位相差に変換した値である。基準電流値Irは、電流検出値が立ち上がり始める時の電流値である。基準電流値Irは、例えば、電流検出値のゼロクロス点であるが、ゼロクロス点の近くの点であってもよい。
【0076】
本変形例によれば、特徴量としてピーク電流位相差Δω2を抽出するため、アーク電流の波形に特有な「立ち上がりの遅れ」に着目して、アーク発生の有無の判定することができる。
【0077】
(4-1-3)ピーク電流位相比
パラレルアーク処理部19で抽出される特徴量は、
図7に示すように、ピーク電流位相比R1であってもよい。ピーク電流位相比R1とは、第2位相差Δω4に対する第1位相差Δω3の比(すなわちR1=Δω3/Δω4)である。第1位相差Δω3とは、電流検出部15の電流検出値(すなわち電路4を流れる電流)の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加してピーク電流値Ipに達する迄の位相差である。より詳細には、第1位相差Δω3とは、電流検出値の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加してピーク電流値Ipに達する迄の時間差Δt3を位相差に変換した値である。第2位相差Δω4は、電流検出値の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加してピーク電流値Ipを経て基準電流値Irに戻るまでの位相差である。より詳細には、第2位相差Δω4は、電流検出値の半周期において、電流検出値が基準電流値Irから増加してピーク電流値Ipを経て基準電流値Irに戻るまでの時間差Δt4を位相差に変換した値である。
図7の例では、基準電流値Irは、電流検出値のゼロクロス点の近くの点であるが、電流検出値のゼロクロス点であってもよい。
【0078】
本変形例によれば、特徴量としてピーク電流位相比R1(=Δω3/Δω4)を抽出するため、瞬間的にピーク電流値に到達する負荷電流とアーク電流とを区別して、アーク発生の有無を判定することができる。
【0079】
(4-1-4)特徴量の組み合わせ
パラレルアーク処理部19の判定部19bは、特徴量として、ピーク電流値Ip、所定電流位相差Δω1、ピーク電流位相差Δω2、及びピーク電流位相比R1のうちの2つ以上を組み合わせて用いてもよい。この場合、判定部19bは、組み合わせた特徴量の各々で個別にアーク発生の有無の判定を行う。そして、判定部19bは、それらの判定結果の全てでアークが発生したと判定した場合に、最終的に、アークが発生したと判定し、それ以外の場合は、アークは発生していないと判定してもよい。
【0080】
(4-2)変形例2
上記の実施形態では、シリーズアーク処理部23は、特徴量としてピーク電流値を抽出するが、特徴量は、ピーク電流値に限定されない。例えば、特徴量は、電流検出値の時間微分、所定電流位相差、又はピーク電流位相差であってもよい。なお、所定電流位相差及びピーク電流位相差は、変形例1で説明した所定電流位相差Δω1及びピーク電流位相差Δω2と同じであるので、ここでの説明は省略する。以下で、電流検出値の時間微分について詳しく説明する。
【0081】
(4-2-1)電流検出値の時間微分
シリーズアーク処理部23で抽出される特徴量は、
図8に示すように、電流検出部15の電流検出値(すなわち電路4を流れる電流)の時間微分dI/dtであってもよい。より詳細には、電流検出値の時間微分dI/dtは、例えば、電流検出値の半周期(半波)の両半部分(
図8での左右両半部分)のうちの一方の半部分(例えば左半部分)の所定電流値(
図8の例では中間電流値Iu)での接線である。なお、半波の右半部分及び左側部分はそれぞれ、半波の立ち上がり部分及び立ち下がり部分である。中間電流値Iuとは、例えば、ピーク電流値Ipの2分の1の大きさの電流値であるが、ピーク電流値Ipの2分の1の大きさに限定するものではない。
【0082】
本変形例によれば、特徴量として電流検出値の時間微分dI/dtを抽出するため、アーク電流の波形に特有な「立ち上がり部分」又は「立ち下がり部分」に着目して、アーク発生の有無の判定することができる。
【0083】
(4-2-2)特徴量の組み合わせ
シリーズアーク処理部23の判定部23bは、特徴量として、ピーク電流値Ip、電流検出値の時間微分dI/dt、所定電流位相差Δω1及びピーク電流位相差Δω2のうちの2つ以上を組み合わせて用いてもよい。この場合、判定部23bは、組み合わせた特徴量の各々で個別にアーク発生の有無の判定を行う。そして、判定部23bは、それらの判定結果の全てでアークが発生したと判定した場合に、最終的に、アークが発生したと判定し、それ以外の場合は、アークは発生していないと判定してもよい。
【0084】
(4-3)変形例3
図9に示すように、上記の実施形態において、負荷電流のピーク電流値Ip1は、突入電流以下の電流であり、パラレルアーク電流のピーク電流値Ip2は、突入電流以上の電流である。従って、負荷電流のピーク電流値Ip1の電流領域K1と、パラレルアーク電流のピーク電流値Ip2の電流領域K2は、例えば、突入電流の電流領域(重畳領域)K3で重なっている。
【0085】
ここで、第1閾値n1は、重畳領域K3の上限値m1よりも大きい値(例えば少し大きい値)である。すなわち、第1閾値n1は、負荷電流のピーク電流値Ip1の電流領域K1よりも大きい値である。第2閾値n12は、重畳領域K3の下限値m2よりも小さい値(例えば少し小さい値)である。すなわち、第2閾値n12は、パラレルアーク電流のピーク電流値Ip2の電流領域K2よりも小さい値である。
【0086】
この場合、電路4を流れる電流のピーク電流値Ipが第1閾値n1以上の場合は、当該電流は、パラレルアーク電流である。また、当該電流のピーク電流値Ipが第2閾値n12以下の場合は、当該電流は、負荷電流の電流信号である。また、当該電流のピーク電流値Ipが第1閾値n1未満でかつ第2閾値n12を超える場合は、この条件だけでは、当該電流は、負荷電流であるかパラレルアーク電流であるかは特定できない。
【0087】
このような負荷電流とパラレルアーク電流との関係を考慮し、本変形例では、パラレルアーク処理部19の判定部19bは、電流検出部15の電流検出値(すなわち電路4を流れる電流)の半周期毎において、ピーク電流値Ipが第1閾値n1を超える場合は、無条件で、電路4にパラレルアークが発生したと判定する。また、判定部19bは、電流検出値の半周期毎において、ピーク電流値Ipが第2閾値n12以下である場合は、無条件で、電路4に負荷電流が流れている(すなわち電路4にパラレルアークは発生していない)と判定する。また、判定部19bは、電流検出値の半周期毎において、ピーク電流値Ipが第1閾値n1未満でかつ第2閾値n12を超える場合は、上記の実施形態で説明したように、特徴量に基づいて、電路4にパラレルアークが発生したか否かを判定する。
【0088】
本変形例によれば、パラレルアーク処理部19は、負荷電流の電流領域K1よりも大きい閾値n1を超える電流検出値(すなわち負荷電流の可能性が無い電流)に対しては、無条件で、パラレルアークが発生したと判定する。このため、負荷電流の電流領域K1よりも大きい閾値を超える電流検出値に対しては、即時に、パラレルアークが発生したことを判定することができる。
【0089】
(4-4)変形例4
図10に示すように、上記の実施形態において、アーク判定装置1は、シリーズアーク処理系統S2を複数(
図10の例では2つ)備えている。すなわち、アーク判定装置1は、増幅器20、ローパスフィルタ21、ADコンバータ22及シリーズアーク処理部23を、複数組(
図10の例では2組)備えている。一方の組は、増幅器20A、ローパスフィルタ21A、ADコンバータ22A及シリーズアーク処理部23Aである。もう一方の組は、増幅器20B、ローパスフィルタ21B、ADコンバータ22B及シリーズアーク処理部23Bである。各組は、互いに並列に接続されている。
【0090】
演算処理装置25は、2つのシリーズアーク処理系統S2の各々毎に入力端子25b,25dを有する。
【0091】
増幅器20Aと増幅器20Bは、互いに異なる増幅率(ゲイン)を有する。より詳細には、増幅器20Aの増幅率は、増幅器16の増幅率よりも大きく、増幅器20Bの増幅率は、増幅器20Aの増幅率よりも大きい。ローパスフィルタ21Aとローパスフィルタ21Bは、互いに同じ構成である。ADコンバータ22AとADコンバータ22Bは、互いに同じ構成である。シリーズアーク処理部23Aとシリーズアーク処理部23Bは、互いに同じ構成である。
【0092】
本変形例では、シリーズアーク電流の電流領域は、複数(例えば2つ)の部分領域(第1部分領域及び第2部分領域)に区分されている。第2部分領域は、第1部分領域よりも大きい電流領域である。増幅器20Aの増幅率は、シリーズアーク電流が電流検出部15で検出されたときに、シリーズアーク電流の第2部分領域(電流領域の大きい方の部分領域)をシリーズアーク処理部23Aで処理するのに適した増幅率である。増幅器20Bの増幅率は、シリーズアーク電流が電流検出部15で検出されたときに、シリーズアーク電流の第1部分領域(電流領域の小さい方の部分領域)をシリーズアーク処理部23Bで処理するのに適した増幅率である。すなわち、本変形例では、シリーズアーク電流が電流検出部15で検出されたときに、シリーズアーク電流の電流領域のうち、第2部分領域は、シリーズアーク処理部23Aで処理され、第1部分領域は、シリーズアーク処理部23Bで処理される。
【0093】
このように、アーク判定装置1は、シリーズアーク処理系統S2を複数備えており、複数の増幅器20A,20Bの増幅率は互いに異なる。このため、シリーズアーク電流においてアークを検出するための電流範囲(電流ダイナミックレンジ)を広く取ることができる。
【0094】
なお、本変形例では、増幅器20A,20Bはそれぞれ、単一の差動アンプで構成されるが、複数の差動アンプを直列に接続して構成されてもよい。
【0095】
(4-5)その他の変形例
上記の実施形態のアーク判定装置1は、パラレルアーク処理系統S1とシリーズアーク処理系統S2との両方を備えるが、それら2つの処理系統S1,S2のうちの一方のみを備えてもよい。
【0096】
(5)装置以外の態様
アーク判定装置1と同様の機能は、アーク判定方法、コンピュータプログラム、又はコンピュータプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0097】
上記のアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理とを含む。電流検出処理は、交流電源2と負荷3の間の電路4に流れる電流を検出する。ローパスフィルタ処理は、電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて、電路4にアーク5が発生したか否かを判定する。
【0098】
上記のプログラムは、上記のアーク判定方法を、1つ以上のプロセッサに実行させる。
【0099】
(6)まとめ
以上説明した実施形態及び変形例から明らかなように以下の態様を取り得る。
【0100】
第1の態様のアーク判定装置(1)は、電流検出部(15)と、ローパスフィルタ(17,21)と、処理部(19,23)と、を備える。電流検出部(15)は、交流電源(2)と負荷(3)の間の電路(4)に流れる電流を検出する。ローパスフィルタ(17,21)は、電流検出部(15)で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。処理部(19,23)は、ローパスフィルタ(17,21)で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて、電路(4)にアーク(5)が発生したか否かを判定する。
【0101】
この構成によれば、電流の高周波成分を用いずに、アーク(5)の発生の有無を判定することができる。このため、交流電源(2)と負荷(3)との間の電路(4)に容量性負荷(31)(すなわち電流に含まれる高周波成分を吸収する負荷(3))が接続されている場合でも、アーク(5)の発生の有無を判定することができ、この結果、従来例よりも、アーク発生の判定精度の向上を図ることができる。
【0102】
第2の態様のアーク判定装置(1)では、第1の態様において、処理部(23)は、一定時間内の特徴量の分布を求め、前記分布に基づいて、電路(4)にアーク(5)が発生したか否かを判定する。
【0103】
この構成によれば、アーク電流(例えばシリーズアーク電流)と負荷電流とを区別して、アーク(5)の発生の有無を判定することができる。
【0104】
第3の態様のアーク判定装置(1)では、第2の態様において、電路(4)は、一対の配線(4a,4b)を有する。処理部(23)は、一対の配線(4a,4b)のうちの一方の配線でアーク(シリーズアーク(51))が発生したか否かを判定する。
【0105】
この構成によれば、シリーズアーク(51)を判定対象とすることができる。
【0106】
第4の態様のアーク判定装置(1)では、第2又は第3の態様において、特徴量は、高周波成分が除去された電流測定値の時間微分(dI/dt)を含む。
【0107】
この構成によれば、アーク電流の波形に特有な「立ち上がり部分」又は「立ち下がり部分」に着目して、アーク(5)の発生の有無の判定することができる。
【0108】
第5の態様のアーク判定装置(1)は、第1~第4の態様の何れか1つにおいて、増幅器(20)を更に備える。増幅器(20)は、ローパスフィルタ(21)の前段又は後段に設けられ、ローパスフィルタ(21)の処理前又は処理後の電流検出値を増幅する。
【0109】
この構成によれば、電流検出値を増幅するため、アーク(5)の発生の有無の判定の精度を向上させることができる。
【0110】
第6の態様のアーク判定装置(1)では、第5の態様において、増幅器(20A,20B)、ローパスフィルタ(21A,21B)及び処理部(23A,23B)は、複数組備えられている。複数の組の各々の増幅器(20A,20B)は、互いに異なるゲインを有する。
【0111】
この構成によれば、シリーズアーク電流においてアーク(5)を検出するための電流範囲(電流ダイナミックレンジ)を広く取ることができる。
【0112】
第7の態様のアーク判定装置(1)は、第1の態様において、処理部(19)は、電流検出値の半周期毎に特徴量が所定の条件を満たすか否かを判定し、複数回連続して特徴量が所定の条件を満たすという判定を行った場合、電路(4)にアーク(5)が発生したと判定する。
【0113】
この構成によれば、アーク電流(例えばパラレルアーク電流)と負荷電流とを区別して、アーク(5)の発生の有無を判定することができる。
【0114】
第8の態様のアーク判定装置(1)では、第7の態様において、電路(4)は、一対の配線(4a,4b)を有する。処理部(19)は、一対の配線(4a,4b)の間でアーク(パラレルアーク(52))が発生したか否かを判定する。
【0115】
この構成によれば、パラレルアーク(52)を判定対象とすることができる。
【0116】
第9の態様のアーク判定装置(1)では、第7又は第8の態様において、電流検出値の半周期において、電流検出値が基準電流値(Ir)から増加してピーク電流値(Ip)に達する迄の位相差を第1位相差(Δω3)とする。電流検出値が基準電流値(Ir)から増加してピーク電流値(Ip)を経て基準電流値(Ir)に戻るまでの位相差を第2位相差(Δω4)とする。特徴量は、第2位相差(Δω4)に対する第1位相差(Δω3)の比率(R1)を含む。
【0117】
この構成によれば、瞬間的にピーク電流値に到達する負荷電流とアーク電流とを区別して、アーク(5)の発生の有無を判定することができる。
【0118】
第10の態様のアーク判定装置(1)では、第7~第9の態様の何れか1つにおいて、処理部(23)は、電流検出値の半周期毎において、ピーク電流値(Ip)が、閾値(n1)以上の場合は、電路(4)にアーク(5)が発生したと判定する。閾値(n1)は、負荷(3)に流れる負荷電流のピーク電流値(Ip1)の電流領域(K1)よりも大きい。
【0119】
この構成によれば、負荷電流の電流領域(K1)よりも大きい閾値(n1)以上の電流検出値(すなわち負荷電流の可能性が無い電流)に対しては、無条件で、パラレルアーク(52)が発生したと判定する。このため、負荷電流の電流領域(K1)よりも大きい閾値(n1)以上の電流に対しては、即時に、パラレルアーク(52)が発生したことを判定することができる。
【0120】
第11の態様のアーク判定装置(1)は、第7~第10の態様の何れか1つにおいて、増幅器(16)を更に備える。増幅器(16)は、ローパスフィルタ(17)の前段又は後段に設けられ、ローパスフィルタ(17)の処理前又は処理後の電流検出値を増幅する。
【0121】
この構成によれば、シリーズアーク電流においてアーク(5)を検出するための電流範囲(電流ダイナミックレンジ)を広く取ることができる。
【0122】
第12の態様のアーク判定装置(1)では、第1~第11の態様の何れか1つにおいて、特徴量は、電流検出値の半周期のピーク電流値(Ip)を含む。
【0123】
この構成によれば、特徴量として容易に検出可能である。
【0124】
第13の態様のアーク判定装置(1)では、第1~第12の態様の何れか1つにおいて、特徴量は、電流検出値の半周期において、基準電流値(Ir)から増加して所定電流値(Is)に到達する迄の位相差(Δω1)を含む。所定電流値(Is)は、基準電流値(Ir)より大きくかつピーク電流値(Ip)よりも小さい電流値である。
【0125】
この構成によれば、アーク電流の波形に特有な「立ち上がり部分」又は「立ち下がり部分」に着目して、アーク(5)の発生の有無の判定することができる。
【0126】
第14の態様のアーク判定装置(1)では、第1~第13の態様の何れか1つにおいて、特徴量は、電流検出値の半周期において、基準電流値(Ir)から増加してピーク電流値(Ip)に到達する迄の位相差(Δω2)を含む。
【0127】
この構成によれば、アーク電流の波形に特有な「立ち上がりの遅れ」に着目して、アーク(5)の発生の有無の判定することができる。
【0128】
第15の態様のアーク判定装置(1)では、第5,第6,第11の態様の何れか1つにおいて、ローパスフィルタ(17,21)及び増幅器(16,20)は、ハードウエア処理を実行するように構成される。処理部(19,23)は、ソフトウエア処理を実行するように構成される。
【0129】
この構成によれば、回路規模を過剰に複雑にすることなく、処理部(19,23)のソフトウエア処理を簡素化できる。
【0130】
第16の態様のアーク判定装置(1)では、第1~第15の態様の何れか1つにおいて、増幅器(16,20)を更に備える。増幅器(16,20)は、ローパスフィルタ(17,21)の前段又は後段に設けられ、ローパスフィルタ(17,21)の処理前又は処理後の電流検出値を増幅する。アーク判定装置(1)は、パラレルアーク発生の有無を判定するための、増幅器(16)、ローパスフィルタ(17)及び処理部(19)と、シリーズアーク発生の有無を判定するための、増幅器(20)、ローパスフィルタ(21)及び処理部(23)と、を備える。シリーズアーク発生の有無を判定するための増幅器(20)のゲインは、パラレルアーク発生の有無を判定するための増幅器(16)のゲインよりも大きい。
【0131】
この構成によれば、シリーズアーク発生の有無を判定するための増幅器(16)と、パラレルアーク発生の有無を判定するための増幅器(20)とで、ゲインを異ならせることができる。
【0132】
第17の態様の遮断器(10)は、第1~第16の態様の何れか1つにおいて、アーク判定装置(1)と、開閉部(101)と、を備える。開閉部(101)は、アーク判定装置(1)の処理部(19,23)の判定結果に応じて、電路(4)を開閉する。
【0133】
この構成によれば、アーク判定装置(1)の作用効果を有する遮断器(10)を提供することができる。
【0134】
第18の態様のアーク判定方法は、電流検出処理と、ローパスフィルタ処理と、抽出判定処理と、を含む。電流検出処理は、交流電源(2)と負荷(3)の間の電路(4)に流れる電流を検出する。ローパスフィルタ処理は、電流検出処理で検出された電流検出値から高周波成分を除去する。抽出判定処理は、ローパスフィルタ処理で高周波成分が除去された電流検出値から半周期毎に特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて、電路(4)にアーク(5)が発生したか否かを判定する。
【0135】
この構成によれば、電流検出値の高周波成分を用いずに、アーク(5)の発生の有無を判定することができる。このため、交流電源(2)と負荷(3)との間の電路(4)に容量性負荷(31)(すなわち電流に含まれる高周波成分を吸収する負荷(3))が接続されている場合でも、アーク(5)の発生の有無を判定することができる。
【0136】
第19の態様のプログラムは、第18の態様のアーク判定方法を1以上のプロセッサに実行させる。
【0137】
この構成によれば、アーク判定方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムを提供することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 アーク判定装置
2 交流電源
3 負荷
4 電路
4a,4b 配線
5 アーク
10 遮断器
15 電流検出部
16,20,20A,20B 増幅器
17,21,21A,21B ローパスフィルタ
18,22,22A,22B ADコンバータ
19 パラレルアーク処理部
23,23A,23B シリーズアーク処理部
51 シリーズアーク
52 パラレルアーク
101 開閉部
dt/dI 時間微分
Ip,Ip1,Ip2 ピーク電流値
Iq 所定閾値
Ir 基準電流値
Is 所定電流値
Iu 中間電流値
K1 電流領域
n1 第1閾値(閾値)
R1 ピーク電流位相比
Δω1 所定電流位相差
Δω2 ピーク電流位相差
Δω3 第1位相差
Δω4 第2位相差