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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/31 20060101AFI20240412BHJP
   G01N 35/10 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
G01N1/31
G01N35/10 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020100405
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021196182
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518297927
【氏名又は名称】チューリッヒ大学
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT ZURICH
【住所又は居所原語表記】Raemistrasse 71 8006 Zuerich Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】景 虹之
(72)【発明者】
【氏名】坪内 洋平
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス・ペルクマンス
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエレ・ガット
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-123027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に関連する情報の解析に使用される解析装置であって、
前記生体試料を収容する収容部と、
前記収容部に収容されている前記生体試料を、試薬を滴下することで蛍光染色する染色部と、
前記染色部により蛍光染色された前記生体試料の画像を取得する画像取得部と、
前記染色部により蛍光染色された前記生体試料を、洗浄液による洗浄によって前記生体試料から前記試薬を溶出させて脱染する洗浄部と、
前記収容部、前記染色部、前記画像取得部、又は前記洗浄部の少なくとも1つを移動させる駆動部と、
前記画像取得部により取得された前記画像を解析し、かつ前記駆動部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記染色部と前記収容部とが第1位置条件となるように調整し、
前記画像取得部と前記収容部とが第2位置条件となるように調整し、
前記洗浄部と前記収容部とが第3位置条件となるように調整する、
解析装置。
【請求項2】
前記収容部が移動する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1位置条件、前記第2位置条件、前記第3位置条件の順に前記駆動部を制御する、
請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1位置条件、前記第3位置条件の順に前記駆動部を制御する、
請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項5】
前記画像取得部は、明視野照明を用いて、前記生体試料のデジタル位相差画像を取得する、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記収容部は、XYステージ上に配置される、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記収容部は、XYZの3方向に移動可能にする駆動機構に配置される、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項8】
前記洗浄部は、Z方向に移動可能にする駆動機構を備え、前記収容部の駆動機構に連結される、
請求項7に記載の解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内のタンパク質の情報を網羅的に取得してタンパク質の機能解析等を行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の3つの過程を1つのサイクルとして、当該サイクルの多重化によりサイクルが繰り返される生体試料の多重染色方法が開示されている。特許文献1に記載の多重染色方法では、サイクルにおける3つの過程は、それぞれ専用の市販機器を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/207004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の3つの過程が、3つの異なる専用の市販機器をそれぞれ用いて行われるため、各過程間で、生体試料を収容しているマイクロプレートを一の市販機器から取り出して、他の市販機器に設置する必要がある。このとき、反復するサイクルごとに各市販機器にマイクロプレートを再度設置すると、一の市販機器において、サイクル間でマイクロプレートの位置にずれが生じる。このような位置ずれによって、例えば蛍光イメージングにおいて用いられる顕微鏡等の撮影装置により撮影するときの撮影範囲にずれが生じ、実質的な撮影範囲が狭くなっていた。また、プロセスに要する時間のばらつきが大きかった。
【0005】
本開示(本発明)は、生体試料に関連する情報の実質的な撮影範囲を最大化することを目的とする。また、本開示は、プロセスに要する時間のばらつきを最小化し高品質の解析を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る解析装置は、生体試料に関連する情報の解析に使用される解析装置であって、前記生体試料を収容する収容部と、前記収容部に収容されている前記生体試料を蛍光染色する染色部と、前記染色部により蛍光染色された前記生体試料の画像を取得する画像取得部と、前記染色部により蛍光染色された前記生体試料を脱染する洗浄部と、前記収容部、前記染色部、前記画像取得部、又は前記洗浄部の少なくとも1つを移動させる駆動部と、前記画像取得部により取得された前記画像を解析し、かつ前記駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記染色部と前記収容部とが第1位置条件となるように調整し、前記画像取得部と前記収容部とが第2位置条件となるように調整し、前記洗浄部と前記収容部とが第3位置条件となるように調整する。
【0007】
これにより、生体試料に関連する情報の解析の精度が向上する。例えば、解析装置は、染色部、画像取得部、及び洗浄部を一体的に有し、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の過程を含む一サイクルを単一の装置内で完結させる。より具体的には、多重染色方法の実行に必要な3つのユニットを一つの装置に組み込むことで、解析装置は、マイクロプレートがXYステージから取り外されることなく、XYステージに保持された状態で、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の3つの過程を実行可能である。これにより、従来技術のような各過程間における試料容器の受け渡しが省かれ、実験のスループットが向上する。加えて、生体試料に関連する情報の実質的な撮影範囲が最大化する。また、プロセスに要する時間のばらつきが最小化する。結果として、高品質の解析が可能となる。
【0008】
一実施形態における解析装置では、前記収容部が移動してもよい。これにより、解析装置は、染色部、画像取得部、及び洗浄部の位置を固定した状態で各過程を実行可能である。解析装置は、各過程間で、例えば収容部のみを移動させることで、XYステージに保持されているマイクロプレートを各位置条件に基づく位置にスムーズに配置可能である。これにより、実験のスループットが向上する。
【0009】
一実施形態における解析装置では、前記制御部は、前記第1位置条件、前記第2位置条件、前記第3位置条件の順に前記駆動部を制御してもよい。これにより、解析装置は、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の各過程を順に正確に実行することができる。
【0010】
一実施形態における解析装置では、前記制御部は、前記第1位置条件、前記第3位置条件の順に前記駆動部を制御してもよい。これにより、解析装置は、試薬に含まれている蛍光染色に直接関わる薬品以外の余分な薬品を洗浄部において取り除きながら、染色部による蛍光染色の過程を実行可能である。結果として、蛍光染色の精度が向上する。加えて、解析装置は、マイクロプレートがXYステージから取り外されることなく、XYステージに保持された状態で、蛍光染色及び洗浄の2つの過程を実行可能である。これにより、従来技術のような各過程間における試料容器の受け渡しが省かれ、実験のスループットが向上する。
【0011】
一実施形態における解析装置では、前記画像取得部は、明視野照明を用いて、前記生体試料のデジタル位相差画像を取得してもよい。これにより、解析装置は、デジタル位相差画像を用いて生体試料を識別することで、染色部における生体試料の核染色を必要としない。画像取得部は、生体試料の核の識別に使用する蛍光チャンネルを生体試料に含まれるタンパク質の識別に割り当てることができる。結果として、実験効率が向上する。
【0012】
一実施形態における解析装置では、前記収容部は、XYステージ上に配置されてもよい。これにより、収容部は、XYの2方向に移動可能となる。
【0013】
一実施形態における解析装置では、前記収容部は、XYZの3方向に移動可能にする駆動機構に配置されてもよい。これにより、収容部は、XYZの3方向に移動可能となる。
【0014】
一実施形態における解析装置では、前記洗浄部は、Z方向に移動可能にする駆動機構を備え、前記収容部の駆動機構に連結されてもよい。これにより、洗浄部は、例えば洗浄ヘッド等の洗浄部が有する任意の構成を駆動機構によってZ方向に移動可能にする。加えて、洗浄部が収容部の駆動機構に連結されることで、収容部と共に洗浄部も、XYZの3方向に移動可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、生体試料に関連する情報の実質的な撮影範囲を最大化する。また、プロセスに要する時間のばらつきを最小化し高品質の解析を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係る解析装置の概略構成を示す模式図である。
図2図1の解析装置によって実行される動作の第1例を説明するためのフローチャートである。
図3図1の解析装置によって実行される動作の第2例を説明するためのフローチャートである。
図4図1の解析装置の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来技術の背景及び問題点についてより詳細に説明する。
【0018】
従来の多重染色方法では、細胞内で様々な機能を果たす多種のタンパク質に対して、数種類ずつ蛍光染色した後に、顕微鏡で蛍光イメージングが行われる。そして、蛍光染色された細胞内のタンパク質に対して脱染が行われる。その後、再度他の数種類のタンパク質を蛍光染色して、顕微鏡で蛍光イメージングを行い、脱染が行われる。以上のように、数種類のタンパク質を蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染するこれらの過程を、細胞内に存在する多種のタンパク質全体にわたって繰り返す。
【0019】
多重染色方法によって得られる蛍光画像に基づいて、数十種類、例えば40種類以上のタンパク質の情報が網羅的に取得可能である。このような網羅的な情報は、タンパク質の機能解析、病理診断研究、及び創薬研究等へ応用可能である。加えて、このような網羅的な情報は、個別の疾患の成り立ちを理解し、解明するための病理切片の網羅的な細胞のプロファイリングも可能にする。多重染色方法は、究極的には個別医療及びプレシジョンメディシン等に繋がる技術である。
【0020】
上述のとおり、特許文献1に記載の方法では、3つの過程が3つの異なる市販機器を用いてそれぞれ行われるため、一の過程で用いられる市販機器から細胞容器であるマイクロプレートを取り出して、次の過程で用いられる他の市販機器に設置する必要がある。このとき、反復するサイクルごとに各市販機器にマイクロプレートを再度設置すると、マイクロプレートの移動に起因して、一の市販機器において、サイクル間でマイクロプレートの位置にずれが生じる。
【0021】
例えば、蛍光イメージングの過程において、このような位置ずれは、顕微鏡で撮影する際の撮影範囲、すなわち観察視野に差をもたらし、大きな問題となる。撮影範囲、すなわち観察視野に差が生じると、一のサイクルで観察したマイクロプレート内の所定の位置にある細胞が次のサイクルで観察する細胞と異なってくる。これにより、個々の細胞内のタンパク質同士の関連性及び相互作用の関係を精度良く解析することが困難となる。
【0022】
特許文献1では、観察視野の差に対応するため、撮影装置により画像がトリミングされる方法も記載されている。例えば、一のサイクルにおける矩形領域としての撮影範囲と、他のサイクルにおける矩形領域としての撮影範囲との間で、互いに直交する2方向のそれぞれにおいてdx、dyのような差があるときに、全てのサイクルを実行したときの撮影範囲の共通部分が最終的な共通画像として出力される。このとき、他のサイクルにおける画像は、例えば一のサイクルにおける画像を基準として、位置ずれが補正されるように画像処理によってオフセットされる。
【0023】
しかしながら、特許文献1におけるこのようなトリミング方法では、最終的な共通画像において、撮影範囲の共通部分以外の範囲に含まれる情報は欠落することとなり、生体試料が有効に利用されない。すなわち、このようなトリミング方法では、実質的な撮影範囲が狭くなっていた。結果的に、生体試料の浪費が生じ、コストが増大する。また、プロセスに要する時間のばらつきも大きかった。
【0024】
本開示は、以上のような問題点を解決するために、生体試料に関連する情報の実質的な撮影範囲を最大化することを目的とする。また、本開示は、プロセスに要する時間のばらつきを最小化して高品質の解析を可能とする。さらに、本開示は、解析の精度が向上する解析装置を提供することを目的とする。加えて、本開示は、生体試料が有効に利用可能であり、コストを低減可能な解析装置を提供することを目的とする。
【0025】
本明細書において、「生体試料」は、例えば、マイクロプレートの各ウェルにおいて培養された細胞等を含む。以下の実施形態に関する記載では、一例として生体試料を細胞に限定して説明を行う。しかしながら、これに限定されず、生体試料は、組織切片(ティッシュ)を含んでもよい。本明細書において、「生体試料に関連する情報」は、例えば、一の細胞に含まれるタンパク質の情報、細胞の核、細胞質、及びミトコンドリア等を含む小器官の情報、並びに複数の細胞間の相互関係の情報等を含む。「タンパク質の情報」は、例えば、一の細胞に含まれる無数のタンパク質のそれぞれの形態、並びにタンパク質同士の位置関係、働き等の関連性、及び相互作用の関係等を含む。
【0026】
このような目的を達成するために、本開示の一実施形態に係る解析装置は、後述の染色部、画像取得部、及び洗浄部を一体的に有し、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の過程を含む一サイクルを単一の装置内で完結させる。解析装置は、生体試料に関連する情報、例えばタンパク質の情報の解析に使用される。
【0027】
以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態に係る解析装置の構成及び動作について主に説明する。
【0028】
図1は、本開示の一実施形態に係る解析装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照しながら、本開示の一実施形態に係る解析装置1の構成について主に説明する。
【0029】
収容部10は、細胞Sを収容する。収容部10は、図1にも示すとおり、細胞Sを複数のウェルのそれぞれに収容するマイクロプレート110を含む。例えば、マイクロプレート110は、96個又は384個のウェルを有する。収容部10は、このような構成に限定されず、マイクロプレート110に代えて、又は加えて、細胞Sを収容可能な任意の他の試料容器を含んでもよい。例えば、収容部10は、細胞培養ディッシュ、カバーガラスチャンバ、及びシャーレ等の細胞培養容器を含んでもよい。
【0030】
染色部20は、収容部10に収容されている細胞Sを蛍光染色する。例えば、染色部20は、細胞S内のタンパク質に対して蛍光染色を行う。蛍光染色は、図3において後述するように染色部20に加えて洗浄部40も用いて行われる。染色部20は、蛍光染色の機能を有する多連型ディスペンサを有する。染色部20は、多連型ディスペンサを例えばXYZの3方向に移動可能にする駆動機構210を有する。多連型ディスペンサは、チップラック220にあるチップ221を多連、例えば8連でノズルに装着し、試薬ラック230から抗体等の入った試薬231を吸引する。その後、多連型ディスペンサは、マイクロプレート110の各ウェルに、所定の液量の試薬231を滴下する。これにより、染色部20は、マイクロプレート110の各ウェルに収容されている細胞Sに対して抗体染色を行う。
【0031】
画像取得部30は、染色部20により蛍光染色された細胞Sの画像を取得する。画像取得部30は、例えば、レーザー共焦点顕微鏡を有する。画像取得部30は、マイクロプレート110に収容されている細胞Sに対して、レーザー共焦点顕微鏡によりウェルごとに順に撮影を行う。画像取得部30は、複数のレンズを有する顕微鏡310と、共焦点撮影部320と、を有する。
【0032】
共焦点撮影部320は、ダイクロイックミラー321、ピンホールアレイディスク322、マイクロレンズアレイディスク323、及びリレーレンズ324を有する。共焦点撮影部320は、ダイクロイックミラー325、第1バンドパスフィルタ326a、第1レンズ327a、蛍光観察用第1カメラ328a、第2バンドパスフィルタ326b、第2レンズ327b、及び蛍光観察用第2カメラ328bを有する。共焦点撮影部320は、励起用光源329を有する。
【0033】
蛍光観察では、励起用光源329は、特定の波長を有する励起光を、マイクロプレート110に向けて照射する。マイクロプレート110の各ウェルに収容されている細胞Sのうち励起された試料は、例えば励起光よりも長い波長の蛍光を放射する。ピンホールアレイディスク322を通過した蛍光に基づいて共焦点画像が形成される。蛍光は、ダイクロイックミラー321で反射し、リレーレンズ324を通過して、蛍光観察用第1カメラ328a及び蛍光観察用第2カメラ328bで結像する。
【0034】
ダイクロイックミラー325は、蛍光を分光する光学特性を有し、複数波長の励起光が同時に用いられることに対応するために配置されている。第1バンドパスフィルタ326a及び第2バンドパスフィルタ326bは、蛍光の波長帯域に対応する波長帯域を有し、画像のS/N比向上を目的として配置されている。細胞Sが放射する蛍光の波長帯域は様々であり、例えばフィルタホイル等を用いて必要な波長帯域に対応したバンドパスフィルタが複数配置されてもよい。
【0035】
図1では、画像取得部30は、リレーレンズ324よりも蛍光観察用カメラ側で、1つのダイクロイックミラー325を有し、バンドパスフィルタ、レンズ、及び蛍光観察用カメラの組を2組有すると説明したが、これに限定されない。画像取得部30は、このような2色に対応する光学系に限定されず、3色以上に対応する光学系を有してもよい。このとき、画像取得部30は、リレーレンズ324よりも蛍光観察用カメラ側で、ダイクロイックミラーを2つ以上有し、バンドパスフィルタ、レンズ、及び蛍光観察用カメラの組を3組以上有してもよい。
【0036】
洗浄部40は、染色部20により蛍光染色された細胞Sを脱染する。洗浄部40は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、ddH20(ヌクレアーゼフリー水)、及びIB(イメージングバッファ液)等を含む洗浄液410を有する。洗浄部40は、図1に示すような96ウェル、又は384ウェルのマイクロプレート110に対応する洗浄ヘッド420を有する。洗浄液410は、洗浄ヘッド420に供給される。洗浄部40は、洗浄後の廃液が排出される廃液用ボトル430を有する。洗浄部40は、洗浄ヘッド420を例えば上下(Z方向)に移動可能にする駆動機構440を有する。例えば、蛍光試薬は、洗浄部40による洗浄によって、細胞Sから溶出し、洗浄液410と共に廃棄される。
【0037】
染色部20の駆動機構210及び洗浄部40の駆動機構440のそれぞれは、図1のX方向に沿って配置されたレールに連結される。
【0038】
駆動部50は、収容部10、染色部20、画像取得部30、又は洗浄部40の少なくとも1つを移動させる。本明細書において、「A、B、又はCの少なくとも1つ」は、A、B、及びCのそれぞれを含むだけでなく、これらの2以上の任意の組み合わせも含む。図1に示すとおり、駆動部50は、収容部10を例えばXY方向に移動させることが可能なXYステージ510を有する。これに限定されず、駆動部50は、染色部20、画像取得部30、又は洗浄部40の少なくとも1つを移動させることが可能な任意のステージをさらに有してもよい。
【0039】
記憶部60、入力部70、出力部80、及び制御部90は、例えば情報処理機器に含まれる。このような情報処理機器は、例えば、解析装置1の他の構成部である染色部20、画像取得部30、洗浄部40、及び駆動部50を制御する。情報処理機器は、例えば、解析装置1の他の構成部と通信可能に接続されたPC(Personal Computer)等の任意の汎用の電子機器を含む。このような情報処理機器は、解析装置1に一体的に組み込まれていてもよいし、解析装置1の他の構成部とは別体として配置されてもよい。これに限定されず、情報処理機器は、1つ又は互いに通信可能な複数のサーバ機器であってもよいし、解析装置1に専用の他の電子機器であってもよい。記憶部60、入力部70、出力部80、及び制御部90は、以上のような1つの機器にまとめられる構成に限定されず、それぞれが単独で解析装置1の一部を構成してもよい。
【0040】
記憶部60は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を含む任意の記憶モジュールを含む。記憶部60は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部60は、解析装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、記憶部60は、システムプログラム、アプリケーションプログラム、及び通信によって受信された各種情報等を記憶してもよい。記憶部60は、情報処理機器に内蔵されているものに限定されず、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続されている外付けのデータベース又は外付け型の記憶モジュールであってもよい。
【0041】
入力部70は、ユーザの入力操作を受け付けて、ユーザの操作に基づく入力情報を取得する1つ以上の入力インタフェースを含む。例えば、入力部70は、物理キー、静電容量キー、出力部80のディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン、及び音声入力を受け付けるマイク等を含むが、これらに限定されない。
【0042】
出力部80は、ユーザに対して情報を出力する1つ以上の出力インタフェースを含む。例えば、出力部80は、情報を画像で出力するディスプレイ、又は情報を音声で出力するスピーカ等であるが、これらに限定されない。なお、入力部70又は出力部80の少なくとも一方は、情報処理機器と一体に構成されてもよいし、別体として構成されてもよい。
【0043】
制御部90は、1つ以上のプロセッサを含む。一実施形態において「プロセッサ」は、汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限定されない。制御部90は、解析装置1を構成する所定の構成部と通信可能に接続され、解析装置1全体の動作を制御する。
【0044】
制御部90は、例えば入力部70を用いたユーザの入力操作に基づいて、一のサイクルにおける蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の設定条件を予め取得する。加えて、制御部90は、例えば入力部70を用いたユーザの入力操作に基づいて、サイクルの反復回数の設定値も予め取得する。制御部90は、予め取得したサイクルの反復回数の設定値を記憶部60に格納する。
【0045】
制御部90は、サイクルにおいて、染色部20と収容部10とが第1位置条件となるように調整する。より具体的には、制御部90は、サイクルにおいて、細胞Sを染色部20により蛍光染色するときの染色部20に対する収容部10の第1位置条件が満たされるように染色部20又は収容部10の少なくとも一方の位置を駆動部50により調整する。本明細書において、「第1位置条件」は、例えば、多連型ディスペンサによってマイクロプレート110の各ウェルに試薬231を滴下するときの収容部10と染色部20との間の位置関係を含む。
【0046】
例えば、制御部90は、第1位置条件が満たされるように、少なくとも収容部10の位置を駆動部50により調整する。例えば、染色部20は固定されている一方で、収容部10が移動する。より具体的には、制御部90は、収容部10に含まれるマイクロプレート110の位置を、駆動部50のXYステージ510により調整する。収容部10は、第1位置条件が満たされる位置まで、XYステージ510によって搬送される。そうして染色部20の位置と収容部10のマイクロプレート110の位置とが互いに整合する。
【0047】
制御部90は、染色部20に対する収容部10の第1位置条件が満たされた状態で、染色部20を制御して細胞Sへの蛍光染色の過程を実行する。このとき、制御部90は、染色部20に加えて洗浄部40も制御しながら細胞Sへの蛍光染色の過程を実行する。制御部90は、染色部20が有する駆動機構210を制御して、多連型ディスペンサを例えばXYZの3方向に移動させながら蛍光染色の過程を実行する。
【0048】
制御部90は、サイクルにおいて、画像取得部30と収容部10とが第2位置条件となるように調整する。より具体的には、制御部90は、サイクルにおいて、蛍光染色された細胞Sの画像を画像取得部30により取得するときの画像取得部30に対する収容部10の第2位置条件が満たされるように画像取得部30又は収容部10の少なくとも一方の位置を駆動部50により調整する。本明細書において、「第2位置条件」は、例えば、マイクロプレート110に収容されている細胞Sに対して、レーザー共焦点顕微鏡によりウェルごとに順に撮影を行うときの収容部10と画像取得部30との間の位置関係を含む。
【0049】
例えば、制御部90は、第2位置条件が満たされるように、少なくとも収容部10の位置を駆動部50により調整する。例えば、画像取得部30は固定される一方で、収容部10が移動する。より具体的には、制御部90は、収容部10に含まれるマイクロプレート110の位置を、駆動部50のXYステージ510により調整する。収容部10は、第2位置条件が満たされる位置まで、XYステージ510によって搬送される。そうして画像取得部30の位置と収容部10のマイクロプレート110の位置とが互いに整合する。
【0050】
制御部90は、画像取得部30に対する収容部10の第2位置条件が満たされた状態で、蛍光染色された細胞Sに対する蛍光イメージングの過程を、画像取得部30を制御して実行する。例えば、制御部90は、画像取得部30が有する励起用光源329を制御して、励起光をマイクロプレート110に向けて照射する。例えば、制御部90は、画像取得部30が有する蛍光観察用第1カメラ328a及び蛍光観察用第2カメラ328bにより撮影された画像を、これらのカメラからそれぞれ取得する。例えば、制御部90は、画像取得部30から取得した画像のデータを記憶部60に格納する。例えば、制御部90は、画像取得部30から取得した画像を出力部80に表示する。
【0051】
制御部90は、サイクルにおいて、洗浄部40と収容部10とが第3位置条件となるように調整する。より具体的には、制御部90は、サイクルにおいて、蛍光染色された細胞Sを洗浄部40により脱染するときの洗浄部40に対する収容部10の第3位置条件が満たされるように洗浄部40又は収容部10の少なくとも一方の位置を駆動部50により調整する。本明細書において、「第3位置条件」は、例えば、洗浄ヘッド420によってマイクロプレート110の各ウェルを洗浄液410で洗浄するときの収容部10と洗浄部40との間の位置関係を含む。
【0052】
例えば、制御部90は、第3位置条件が満たされるように、少なくとも収容部10の位置を駆動部50により調整する。例えば、洗浄部40は固定される一方で、収容部10が移動する。より具体的には、制御部90は、収容部10に含まれるマイクロプレート110の位置を、駆動部50のXYステージ510により調整する。収容部10は、第3位置条件が満たされる位置まで、XYステージ510によって搬送される。そうして洗浄部40の位置と収容部10のマイクロプレート110の位置とが互いに整合する。
【0053】
制御部90は、洗浄部40に対する収容部10の第3位置条件が満たされた状態で、蛍光染色された細胞Sへの脱染の過程を、洗浄部40を制御して実行する。制御部90は、洗浄部40が有する駆動機構440を制御して、洗浄ヘッド420を例えば上下に移動させながら脱染の過程を実行する。
【0054】
以上のように、制御部90は、例えば蛍光染色の過程において、第1位置条件、第3位置条件の順に駆動部50を制御してもよい。制御部90は、例えばサイクルにおいて、第1位置条件、第2位置条件、第3位置条件の順に駆動部50を制御してもよい。
【0055】
その後、制御部90は、サイクルの回数が例えばユーザにより入力部70を用いて予め設定された反復回数に達したか否かを判定する。制御部90は、反復回数に達していないと判定すると、上記の蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染を含むサイクルを繰り返す。制御部90は、反復回数に達したと判定すると、画像取得部30により取得された複数の画像を網羅的に解析する。より具体的には、制御部90は、これらの画像の解析に基づいて、タンパク質の情報の解析を実行し、駆動部50、駆動機構210、及び駆動機構440を制御する。制御部90は、必要に応じて、解析結果を出力部80に出力してもよい。
【0056】
図2は、図1の解析装置1によって実行される動作の第1例を説明するためのフローチャートである。図2を参照しながら、解析装置1によって実行される動作の第1例について主に説明する。動作の第1例では、サイクルの全体の基本的なフローを説明するために、蛍光染色の過程を簡略化して説明する。このとき、制御部90は、サイクルにおいて、第1位置条件、第2位置条件、第3位置条件の順に駆動部50を制御する。
【0057】
初めに、例えばユーザは、所定のプロトコルに従い細胞Sをマイクロプレート110に培養する。例えばユーザは、作成された細胞Sを収容するマイクロプレート110を駆動部50のXYステージ510に設置する。
【0058】
ステップS100では、解析装置1の制御部90は、例えば、入力部70を用いたユーザの入力操作に基づいて、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染のサイクルを繰り返す反復回数の入力を入力部70により受け付ける。
【0059】
ステップS101では、制御部90は、細胞Sを染色部20により蛍光染色するときの染色部20に対する収容部10の第1位置条件が満たされるように駆動部50を制御する。例えば、制御部90は、第1位置条件が満たされるように、収容部10の位置を駆動部50により調整する。詳しくは、駆動部50のXYステージ510は、収容部10のマイクロプレート110を染色部20の多連型ディスペンサの滴下位置まで搬送し、第1位置条件が満たされる。また、予め記憶部60に格納された第1位置条件の値が調整に使用される。
【0060】
ステップS102では、制御部90は、収容部10に収容されている細胞Sを染色部20により蛍光染色するように染色部20を制御する。例えば、染色部20の多連型ディスペンサは、チップラック220にあるチップ221を多連、例えば8連でノズルに装着し、試薬ラック230から抗体等の入った試薬231を吸引する。その後、多連型ディスペンサは、マイクロプレート110の各ウェルに、所定の液量の試薬231を滴下する。これにより、染色部20は、マイクロプレート110の各ウェルに収容されている細胞Sに対して1次抗体染色、2次抗体染色、及び核染色等を行う。
【0061】
ステップS103では、制御部90は、ステップS102の蛍光染色の過程が終了した後、チップ221をノズルから外して、所定の容器にリリースし、染色部20において廃棄するように染色部20を制御する。
【0062】
ステップS104では、制御部90は、ステップS102において蛍光染色された細胞Sの画像を画像取得部30により取得するときの画像取得部30に対する収容部10の第2位置条件が満たされるように駆動部50を制御する。例えば、制御部90は、第2位置条件が満たされるように、収容部10の位置を駆動部50により調整する。詳しくは、駆動部50のXYステージ510は、収容部10のマイクロプレート110を画像取得部30による撮影位置まで搬送し、第2位置条件が満たされる。また、予め記憶部60に格納された第2位置条件の値が調整に使用される。
【0063】
ステップS105では、制御部90は、ステップS102において蛍光染色された細胞Sの画像を画像取得部30によりウェルごとに順に取得する。すなわち、制御部90は、画像取得部30を用いて蛍光イメージングの過程を実行する。
【0064】
ステップS106では、制御部90は、ステップS102において蛍光染色された細胞Sを洗浄部40により脱染するときの洗浄部40に対する収容部10の第3位置条件が満たされるように駆動部50を制御する。例えば、制御部90は、第3位置条件が満たされるように、収容部10の位置を駆動部50により調整する。詳しくは、駆動部50のXYステージ510は、収容部10のマイクロプレート110を洗浄部40の洗浄ヘッド420による脱染位置まで搬送し、第3位置条件が満たされる。また、予め記憶部60に格納された第3位置条件の値が調整に使用される。
【0065】
ステップS107では、制御部90は、ステップS102において蛍光染色された細胞Sを洗浄部40により脱染する。例えば、洗浄部40は、ブロッキングを行いながら洗浄液410を用いて洗浄を行い、細胞Sからの抗体溶出を達成する。
【0066】
ステップS108では、制御部90は、ステップS101と同様に、第1位置条件が満たされるように駆動部50を制御する。
【0067】
ステップS109では、制御部90は、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染のサイクルの回数がステップS100においてユーザにより入力された反復回数に達したか否かを判定する。制御部90は、反復回数に達したと判定するとステップS110の処理を実行する。制御部90は、反復回数に達していないと判定するとステップS102の処理を再度実行する。
【0068】
ステップS110では、制御部90は、ステップS109において反復回数に達したと判定すると、画像取得部30により取得された画像を解析する。より具体的には、制御部90は、画像取得部30により取得された画像の解析に基づいて、タンパク質の情報の解析を実行する。
【0069】
図3は、図1の解析装置1によって実行される動作の第2例を説明するためのフローチャートである。図3を参照しながら、解析装置1によって実行される動作の第2例について主に説明する。動作の第2例では、蛍光染色の過程を詳細に説明する。このとき、制御部90は、蛍光染色の過程において、第1位置条件、第3位置条件の順に駆動部50を制御する。すなわち、制御部90は、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の過程を順に行う上記の構成に加えて、蛍光染色に続けて洗浄部40による洗浄の過程をサイクルに含めて実行する。
【0070】
図3に示すステップS200乃至S202、及びステップS206乃至S213の制御部90による処理内容は、図2に示すステップS100乃至S110の処理内容とそれぞれ同一である。図3を用いた以下の説明では、図2と共通するステップの処理内容に関する説明は省略し、図2と相違するステップの処理内容について主に説明する。
【0071】
ステップS203では、制御部90は、ステップS202の蛍光染色の過程が終了した後、第3位置条件が満たされるように駆動部50を制御する。例えば、制御部90は、第3位置条件が満たされるように、収容部10の位置を駆動部50により調整する。詳しくは、駆動部50のXYステージ510は、収容部10のマイクロプレート110を洗浄部40の洗浄ヘッド420による洗浄位置まで搬送し、第3位置条件が満たされる。また、予め記憶部60に格納された第3位置条件の値が調整に使用される。
【0072】
ステップS204では、制御部90は、ステップS202において蛍光染色された細胞Sを洗浄部40により洗浄する。このとき、洗浄部40は、例えば、蛍光染色によって細胞S内のタンパク質に付着した蛍光色を除去するのではなく、試薬231に含まれている蛍光染色に直接関わる薬品以外の余分な薬品を取り除く。
【0073】
ステップS205では、制御部90は、染色部20による蛍光染色及び洗浄部40による洗浄のサイクルの回数が所定回数に達したか否かを判定する。制御部90は、所定回数に達したと判定すると、ステップS206の処理を実行する。制御部90は、所定回数に達していないと判定すると、ステップS201の処理を再度実行する。本明細書において、「所定回数」は、例えば、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の一サイクルにおいて、蛍光染色に用いられる蛍光色の数に対応する。例えば、蛍光染色に用いられる蛍光色の数が4色のとき、所定回数は4回である。
【0074】
以上のような一実施形態に係る解析装置1によれば、生体試料に関連する情報の解析の精度が向上する。例えば、解析装置1は、染色部20、画像取得部30、及び洗浄部40を一体的に有し、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の過程を含む一サイクルを単一の装置内で完結させる。より具体的には、多重染色方法の実行に必要な3つのユニットを一つの装置に組み込むことで、解析装置1は、マイクロプレート110がXYステージ510から取り外されることなく、XYステージ510に保持された状態で、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の3つの過程を実行可能である。これにより、従来技術のような各過程間における試料容器の受け渡しが省かれ、実験のスループットが向上する。本明細書において、「スループット」は、例えば、データ容量の大きさ及び時間的な速さ等を含む。加えて、生体試料に関連する情報の実質的な撮影範囲が最大化する。また、プロセスに要する時間のばらつきが最小化する。結果として、高品質の解析が可能となる。
【0075】
これにより、解析装置1では、例えば従来技術のように試料容器を市販機器から取り外して再度設置することでサイクル間において生じる位置ずれが生じ得ない。したがって、解析装置1は、サイクルを繰り返しても、マイクロプレート110の同一の位置にある同一の細胞Sを、各サイクルで正確に識別可能である。結果として、解析装置1は、生体試料に関連する情報も正確に解析可能である。
【0076】
従来技術において、試料容器を顕微鏡下に出し入れするとき、取り出し機構の繰り返し精度に限界があり、数百マイクロメートルの誤差が存在する。この誤差によって、顕微鏡で撮影する度に、撮影する細胞の範囲、すなわち視野が変化し、同一の細胞内にあるはずのタンパク質が異なる細胞の中に映ってしまう。細胞の大きさは数十マイクロメートル以下であるため、試料容器の取り出し機構の誤差は、細胞の大きさに比べて一桁大きい。したがって、試料容器の位置精度を向上させることは非常に重要である。
【0077】
解析装置1の場合、マイクロプレート110は、全サイクルが繰り返し実行される間、XYステージ510に常時保持されている。したがって、サイクル間で生じるマイクロプレート110の位置ずれは10マイクロメートル以下であり、例えば数マイクロメートル程度である。このように、解析装置1の場合、位置ずれは、細胞Sの大きさに比べて一桁小さい。したがって、サイクルを繰り返しても、マイクロプレート110の同一の位置にある同一の細胞Sを、画像取得部30に対して略同一の相対位置に配置させることが可能となる。解析装置1では、サイクル間でのマイクロプレート110の位置の再現性が非常に高い。結果として、反復する各サイクルにおいて撮影される細胞Sの視野が一定になる。このような高精度な位置再現性により、実験データの信頼性が向上し、解析結果の品質が高く維持される。
【0078】
以上のような位置ずれの抑制によって、解析装置1では、細胞Sが有効に利用可能であり、コストが低減可能である。例えば、解析装置1では、従来技術のように撮影範囲の共通部分以外の範囲に含まれる情報が欠落するような問題は生じ得ず、細胞Sを有効に利用可能である。加えて、撮影された各サイクル間の画像の位置合わせに関する画像処理の手間が省略され、実験効率が向上する。
【0079】
解析装置1では、収容部10が移動することで、染色部20、画像取得部30、及び洗浄部40の位置を固定した状態で各過程を実行可能である。解析装置1は、各過程間で、例えば収容部10のみを移動させることで、XYステージ510に保持されているマイクロプレート110を各位置条件に基づく位置にスムーズに配置可能である。これにより、実験のスループットが向上する。
【0080】
解析装置1は、第1位置条件、第2位置条件、第3位置条件の順に駆動部50を制御することで、蛍光染色、蛍光イメージング、及び脱染の各過程を順に正確に実行することができる。
【0081】
解析装置1は、第1位置条件、第3位置条件の順に駆動部50を制御することで、試薬231に含まれている蛍光染色に直接関わる薬品以外の余分な薬品を洗浄部40において取り除きながら、染色部20による蛍光染色の過程を実行可能である。これにより、蛍光染色の精度が向上する。加えて、解析装置1は、マイクロプレート110がXYステージ510から取り外されることなく、XYステージ510に保持された状態で、蛍光染色及び洗浄の2つの過程を実行可能である。これにより、従来技術のような各過程間における試料容器の受け渡しが省かれ、実験のスループットが向上する。
【0082】
収容部10は、XYステージ510上に配置されることで、XYの2方向に移動可能となる。
【0083】
収容部10が、細胞Sを複数のウェルのそれぞれに収容するマイクロプレート110を含むことで、実験のスループットが向上する。より具体的には、実験で得られるデータ容量が向上する。
【0084】
例えば、細胞の容器がマイクロ流体チャンバである従来技術の場合、細胞は、マイクロ流体チャンバ内に撒かれる。このとき、マイクロ流路は物理的な大きさに制限があり、撒ける細胞の量も制限される。結果として、実験で得られる情報量が少なく、実験のスループットが低い。
【0085】
一方で、解析装置1では、試料容器としてマイクロプレート110が用いられ、細胞Sを収容するウェルは例えば96個又は384個存在する。これにより、解析装置1は、大量の細胞Sを測定可能であり、実験のスループットを向上させることが可能である。加えて、圧倒的なデータ容量が得られるため、解析結果の信頼性が向上する。
【0086】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0087】
例えば、本開示は、上述した解析装置1の各機能を実現する処理内容を記述したプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得る。本開示の範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【0088】
例えば、上述した各構成部の形状、配置、向き、及び個数は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、配置、向き、及び個数は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0089】
図4は、図1の解析装置1の変形例を示す模式図である。図4を参照しながら、解析装置1の変形例について主に説明する。図1の実施例と図4の実施例とは、図4の実施例が、明視野照明330を備える点と、細胞Sからの蛍光がピンホールアレイディスク322を通過せずにダイクロイックミラー321に直接入射する点とで相違する。図4の実施例の解析装置1は、ピンホールアレイディスク322とマイクロレンズアレイディスク323とを移動させる手段を有する。
【0090】
例えば、解析装置1は、明視野照明330をさらに有してもよい。このとき、画像取得部30は、明視野照明330を用いて、細胞Sのデジタル位相差画像を取得してもよい。明視野照明330は、例えば、LED(Light Emitting Diode)を有する。
【0091】
一方、図1の実施例の解析装置1は、蛍光イメージングの過程において各サイクルで得た画像に対して、同一の細胞Sであることを判定するために、通常、細胞Sの核を用いて識別を実行する。解析装置1は、染色部20において細胞Sを核染色し、蛍光イメージングで細胞Sの核を識別して、個々の細胞Sを特定する。続いて、解析装置1は、タンパク質と各細胞Sとの関連付けを実行する。異なるサイクルで得られた画像では、細胞Sの核の画像を基準に位置関係が同定される。このため、解析装置1は、サイクルを繰り返すたびに、染色部20において細胞Sの核染色を実行する必要がある。解析装置1は、染色部20により染色された細胞Sの核を各サイクルで蛍光イメージングにより撮影するため、画像取得部30における蛍光チャンネルの1つを必ず細胞Sの核に割り当てる必要がある。
【0092】
図4の実施例の解析装置1は、細胞Sのデジタル位相差画像を取得することで、蛍光チャンネルを細胞Sの核に代えて解析対象とするタンパク質に割り当てることができ、各サイクルにおける蛍光イメージングの過程を効率的に実行することができる。例えば、画像取得部30は、明視野照明330で細胞Sを照射して、明視野画像を得る。例えば、画像取得部30は、得られた明視野画像に基づいて、細胞Sの核のデジタル位相差画像を生成する。解析装置1は、生成されたデジタル位相差画像に基づいて、細胞Sを特定する。
【0093】
画像取得部30は、顕微鏡310における対物レンズを一定間隔で光軸方向に2、3ケ所移動させる。画像取得部30は、対物レンズを一定間隔で隔てて明視野画像を取得し、取得された2、3枚の明視野画像に対して画像処理を施す。これにより、画像取得部30は、デジタル位相差画像を生成する。
【0094】
解析装置1は、デジタル位相差画像を用いて細胞Sを識別することで、染色部20における細胞Sの核染色を必要としない。したがって、解析装置1は、蛍光染色を効率よく実施できる。また、画像取得部30は、細胞Sの核の識別に使用する蛍光チャンネルを細胞Sに含まれるタンパク質の識別に割り当てることができる。結果として、実験効率が向上する。
【0095】
また、図4の実施例の解析装置1は、明視野照明330をオフとし、ピンホールアレイディスク322とマイクロレンズアレイディスク323とを図1の実施例の場合の位置に移動させることで、図1の実施例と同様に蛍光イメージングの過程を実行できる。図4の実施例の解析装置1は、デジタル位相差画像の取得と、蛍光イメージングとの両方を簡便な構成で達成可能である。簡便な構成でこれらの機能が達成されることで、解析装置1を小型にできる。加えて、このような解析装置1は、安定した高品質な作業を可能にする。
【0096】
上記実施形態では、解析装置1は、各過程において、収容部10の位置を駆動部50により調整すると説明したが、これに限定されない。例えば、解析装置1は、蛍光染色の過程において、第1位置条件が満たされるように染色部20、又は染色部20及び収容部10の両方の位置を駆動部50により調整してもよい。例えば、解析装置1は、蛍光イメージングの過程において、第2位置条件が満たされるように画像取得部30、又は画像取得部30及び収容部10の両方の位置を駆動部50により調整してもよい。例えば、解析装置1は、脱染の過程において、第3位置条件が満たされるように洗浄部40、又は洗浄部40及び収容部10の両方の位置を駆動部50により調整してもよい。
【0097】
上記実施形態では、収容部10はXYステージ510上に配置されると説明したが、これに限定されない。収容部10は、XYステージ510に代えて、又は加えて、XYZの3方向に移動可能にする駆動機構に配置されてもよい。これにより、収容部10は、XYZの3方向に移動可能となる。
【0098】
例えば、洗浄部40は、Z方向に移動可能にする上述の駆動機構440を有し、収容部10の駆動機構に連結されてもよい。より具体的には、洗浄部40は、収容部10が配置されている駆動機構に連結されてもよい。これにより、洗浄部40は、例えば洗浄ヘッド420等の洗浄部40が有する任意の構成を駆動機構440によってZ方向に移動可能にする。加えて、洗浄部40が収容部10の駆動機構に連結されることで、収容部10と共に洗浄部40も、XYZの3方向に移動可能となる。
【符号の説明】
【0099】
1 解析装置
10 収容部
110 マイクロプレート
20 染色部
210 駆動機構
220 チップラック
221 チップ
230 試薬ラック
231 試薬
30 画像取得部
310 顕微鏡
320 共焦点撮影部
321 ダイクロイックミラー
322 ピンホールアレイディスク
323 マイクロレンズアレイディスク
324 リレーレンズ
325 ダイクロイックミラー
326a 第1バンドパスフィルタ
326b 第2バンドパスフィルタ
327a 第1レンズ
327b 第2レンズ
328a 蛍光観察用第1カメラ
328b 蛍光観察用第2カメラ
329 励起用光源
330 明視野照明
40 洗浄部
410 洗浄液
420 洗浄ヘッド
430 廃液用ボトル
440 駆動機構
50 駆動部
510 XYステージ
60 記憶部
70 入力部
80 出力部
90 制御部
S 細胞(生体試料)
図1
図2
図3
図4