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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240412BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240412BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240412BHJP
   H05K 7/20 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C09K5/14 E
H01L23/36 M
H05K7/20 F
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021536844
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025001
(87)【国際公開番号】W WO2021019982
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019140637
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000145987
【氏名又は名称】株式会社昭和丸筒
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外谷 栄一
(72)【発明者】
【氏名】松井 孝二
(72)【発明者】
【氏名】西尾 裕也
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和希
(72)【発明者】
【氏名】香川 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-055021(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179318(WO,A1)
【文献】特開2014-150161(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158942(WO,A1)
【文献】特開2013-149715(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063541(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
C09K 5/14
H01L 23/373
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部と、
主面方向に積層された前記複数の熱伝導部の、隣接する界面同士を接合する接合部と
を備え、
全体としてシート状をなす熱伝導シートであって、
前記熱伝導部は、空隙部を含んでおり、
前記接合部は、柔軟性を有する樹脂材料を含む材料で構成されると共に、部分的に空隙層を形成しており、
前記樹脂材料の一部が、前記熱伝導部の前記空隙部に部分的に侵入させており、
前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.2N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.2 [W/m・K]、前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.8N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.8 [W/m・K]としたとき、1.5≦λ 0.8 /λ 0.2 ≦3.5の関係を満足する熱伝導シート。
【請求項2】
請求項に記載の熱伝導シートであって、
前記樹脂材料は、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し前記環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、前記第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマーを含み、前記環状分子を介して、前記ポリロタキサンと前記第二ポリマーとが結合しているものである熱伝導シート。
【請求項3】
それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部と、
主面方向に積層された前記複数の熱伝導部の、隣接する界面同士を接合する接合部と
を備え、
全体としてシート状をなす熱伝導シートであって、
前記熱伝導部は、空隙部を含んでおり、
前記接合部は、柔軟性を有する樹脂材料を含む材料で構成されると共に、部分的に空隙層を形成しており、
前記樹脂材料の一部が、前記熱伝導部の前記空隙部に部分的に侵入させており、
前記樹脂材料は、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し前記環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、前記第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマーを含み、前記環状分子を介して、前記ポリロタキサンと前記第二ポリマーとが結合しているものである熱伝導シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記接合部中における前記空隙層の占める割合は、2体積%以上30体積%以下である熱伝導シート。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導部は、鱗片状をなす黒鉛、及び樹脂繊維を含む材料で構成されたものである熱伝導シート。
【請求項6】
請求項に記載の熱伝導シートであって、
前記樹脂繊維は、アラミド繊維である熱伝導シート。
【請求項7】
請求項又はに記載の熱伝導シートであって、
前記黒鉛は、膨張化黒鉛である熱伝導シート。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの主面について、レーザーフラッシュ法を用いて測定される前記熱伝導シートの厚さ方向における熱伝導率が10W/m・K以上200W/m・K以下である熱伝導シート。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの面内方向における前記熱伝導部の幅は、50μm以上300μm以下である熱伝導シート。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの厚さは、0.2mm以上5mm以下である熱伝導シート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートをその厚さ方向に0.2N/mm2の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さは、0.1mm以上5mm以下であ熱伝導シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの表面粗さRaは、0.1μm以上100μm以下であ熱伝導シート。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの法線と前記熱伝導部の法線とのなす角が、25°以上90°以下である熱伝導シート。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導部と接合部との界面が、曲面状に形成されてなる熱伝導シート。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの主面方向において、互いに積層された前記熱伝導部と接合部とは、その膜厚をそれぞれ部分的に異ならせてなる熱伝導シート。
【請求項16】
それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部を主面方向に積層した熱伝導シートの製造方法であって、
熱伝導部を構成する熱伝導部形成用シートに、未硬化の樹脂材料を含浸する工程と、
前記未硬化の樹脂材料を含浸された熱伝導部形成用シートを、ロール状に巻き取る工程と、
前記巻き取られた巻取体の状態で、前記未硬化の樹脂材料を硬化させる工程と、
前記樹脂材料が硬化された巻取体を、前記ロール状の軸方向に垂直、平行又は傾斜した平面で断裁する工程と、
を含み、
前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.2N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.2 [W/m・K]、前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.8N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.8 [W/m・K]としたとき、1.5≦λ 0.8 /λ 0.2 ≦3.5の関係を満足する熱伝導シートの製造方法。
【請求項17】
それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部を主面方向に積層した熱伝導シートの製造方法であって、
熱伝導部を構成する熱伝導部形成用シートに、未硬化の樹脂材料を含浸する工程と、
前記未硬化の樹脂材料を含浸された熱伝導部形成用シートを、ロール状に巻き取る工程と、
前記巻き取られた巻取体の状態で、前記未硬化の樹脂材料を硬化させる工程と、
前記樹脂材料が硬化された巻取体を、前記ロール状の軸方向に垂直、平行又は傾斜した平面で断裁する工程と、
を含み、
前記樹脂材料は、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し前記環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、前記第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマーを含み、前記環状分子を介して、前記ポリロタキサンと前記第二ポリマーとが結合しているものである熱伝導シートの製造方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の熱伝導シートの製造方法であって、さらに、
前記熱伝導部形成用シートに未硬化の樹脂材料を含浸する工程に先立ち、
前記熱伝導部形成用シートを、ロール状の巻取体として準備する工程を含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項19】
請求項16~18のいずれか一項に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記未硬化の樹脂材料が、熱硬化性樹脂である熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や車両用ヘッドライト、車載電池等の発熱部材に対する放熱が急務となっている。例えばコンピュータの中央演算処理装置(CPU)、画像処理用演算プロセッサ(GPU)、スマートフォンのSoC、組み込み機器のDSPやマイコン、あるいはトランジスタ等の半導体素子、発光ダイオード(LED)やエレクトロルミネッセンス(EL)、液晶等の発光体といった電子部品の小型化、高集積化により、発熱量が大きくなる傾向にある。これらの電子部品の発熱による装置やシステムの寿命低下、誤作動が問題となってきており、電子部品の放熱対策への要求は、年々高まってきている。
【0003】
このような発熱体に対する放熱対策として、空冷ファンを用いた強制冷却の他、金属製の放熱フィンやペルチェ素子等の放熱部材が使用されている。このような放熱部材は、発熱体と熱的に接続する面において、界面に断熱層となる空気層が形成されるのを防ぐために、グリスが塗布されてきた。しかしながら、一般的なグリスは熱伝導性が高くない。そのため、熱伝導率が比較的高いダイヤモンドを分散させたダイヤモンドグリスも用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ダイヤモンドグリスは、高価である。また、ダイヤモンドグリスを用いた場合でも、十分な熱伝導性を得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-530220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の一は、厚さ方向への熱伝導性に優れ、柔軟性にも優れる熱伝導シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の側面に係る熱伝導シートによれば、それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部と、主面方向に積層された前記複数の熱伝導部の、隣接する界面同士を接合する接合部とを備え、全体としてシート状をなす熱伝導シートであって、前記熱伝導部は、空隙部を含んでおり、前記接合部は、柔軟性を有する樹脂材料を含む材料で構成されると共に、部分的に空隙層を形成しており、前記樹脂材料の一部が、前記熱伝導部の前記空隙部に部分的に侵入させており、前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.2N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.2 [W/m・K]、前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.8N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.8 [W/m・K]としたとき、1.5≦λ 0.8 /λ 0.2 ≦3.5の関係を満足することができる。上記構成により、熱伝導部の空隙部及び接合部の空隙層でもって熱伝導シートの柔軟性、可撓性を高めつつ、熱伝導部の空隙部の一部に樹脂材料を侵入させることで、熱伝導部同士の間に空隙層を形成しつつもこれら熱伝導部同士を接合させる強度を保つことが可能となる。
また、本発明の第2の側面に係る熱伝導シートによれば、上記構成に加えて、前記樹脂材料は、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し前記環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、前記第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマーを含み、前記環状分子を介して、前記ポリロタキサンと前記第二ポリマーとが結合しているものとすることができる。
さらに、本発明の第3の側面に係る熱伝導シートによれば、それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部と、主面方向に積層された前記複数の熱伝導部の、隣接する界面同士を接合する接合部とを備え、全体としてシート状をなす熱伝導シートであって、前記熱伝導部は、空隙部を含んでおり、前記接合部は、柔軟性を有する樹脂材料を含む材料で構成されると共に、部分的に空隙層を形成しており、前記樹脂材料の一部が、前記熱伝導部の前記空隙部に部分的に侵入させており、前記樹脂材料は、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し前記環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、前記第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマーを含み、前記環状分子を介して、前記ポリロタキサンと前記第二ポリマーとが結合しているものとすることができる。
【0008】
【0009】
さらにまた、本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記接合部中における前記空隙層の占める割合は、2体積%以上30体積%以下とできる。
【0010】
さらにまた、本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導部は、鱗片状をなす黒鉛、及び樹脂繊維を含む材料で構成されたものとできる。
【0011】
さらにまた、本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記樹脂繊維は、アラミド繊維とできる。
【0012】
さらにまた、本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記黒鉛を、膨張化黒鉛とできる。
【0013】
さらにまた、本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートの主面について、レーザーフラッシュ法を用いて測定される前記熱伝導シートの厚さ方向における熱伝導率を10W/m・K以上200W/m・K以下にできる。
【0014】
さらにまた、本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートの面内方向における前記熱伝導部の幅を、50μm以上300μm以下とできる。
【0015】
さらにまた、本発明の第10の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートの厚さを、0.2mm以上5mm以下とできる。
【0016】
さらにまた、本発明の第11の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートをその厚さ方向に0.2N/mm2の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さは、0.1mm以上5mm以下とできる。
【0017】
さらにまた、本発明の第12の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートの表面粗さRaを、0.1μm以上100μm以下とできる。
【0018】
【0019】
さらにまた、本発明の第13の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートの法線と前記熱伝導部の法線とのなす角を、25°以上90°以下とできる。
【0020】
さらにまた、本発明の第14の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導部と接合部との界面を、曲面状に形成することができる。上記構成により、熱伝導シートを厚さ方向に押圧した際、熱伝導部と接合部とが曲面状に積層されたことでより変形し易くなり、例えば発熱体と面接触させる際に隙間が形成されないように密着させやすくなって熱伝導性が高められる。
【0021】
さらにまた、本発明の第15の側面に係る熱伝導シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導シートの主面方向において、互いに積層された前記熱伝導部と接合部とは、その膜厚をそれぞれ部分的に異ならせることができる。
【0022】
さらにまた、本発明の第16の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部を主面方向に積層した熱伝導シートの製造方法であって、熱伝導部を構成する熱伝導部形成用シートに、未硬化の樹脂材料を含浸する工程と、前記未硬化の樹脂材料を含浸された熱伝導部形成用シートを、ロール状に巻き取る工程と、前記巻き取られた巻取体の状態で、前記未硬化の樹脂材料を硬化させる工程と、前記樹脂材料が硬化された巻取体を、前記ロール状の軸方向に垂直、平行又は傾斜した平面で断裁する工程とを含み、前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.2N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.2 [W/m・K]、前記熱伝導シートを、その厚さ方向に0.8N/mm 2 の面圧で押圧した際の、前記熱伝導シートの厚さ方向での熱伝導率をλ 0.8 [W/m・K]としたとき、1.5≦λ 0.8 /λ 0.2 ≦3.5の関係を満足することができる。これにより、樹脂材料を含浸させた熱伝導部形成用シートをロール状に巻き取ることで、積層状態を容易に得ることができる。また巻取体とすることで、その後のハンドリングや裁断も容易に行い易くなり、低コストで熱伝導シートが得られる。
さらにまた、本発明の第17の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、それぞれが一方の主面から他方の主面に連続して設けられた複数の熱伝導部を主面方向に積層した熱伝導シートの製造方法であって、熱伝導部を構成する熱伝導部形成用シートに、未硬化の樹脂材料を含浸する工程と、前記未硬化の樹脂材料を含浸された熱伝導部形成用シートを、ロール状に巻き取る工程と、前記巻き取られた巻取体の状態で、前記未硬化の樹脂材料を硬化させる工程と、前記樹脂材料が硬化された巻取体を、前記ロール状の軸方向に垂直、平行又は傾斜した平面で断裁する工程と、を含み、前記樹脂材料は、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し前記環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、前記第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマーを含み、前記環状分子を介して、前記ポリロタキサンと前記第二ポリマーとが結合しているものとすることができる。
【0023】
さらにまた、本発明の第18の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記に加えて、さらに、前記熱伝導部形成用シートに未硬化の樹脂材料を含浸する工程に先立ち、記熱伝導部形成用シートを、ロール状の巻取体として準備する工程を含むことができる。これにより、予めロール状で用意された熱伝導部形成用シートに対して、樹脂材料を含浸後、再度別のロールに巻き取ることで、長尺の熱伝導部形成用シートを用意しつつも、省スペースで効率良く樹脂材料を含浸させることが可能となり、裁断済みの矩形状の熱伝導部形成用シートを多数枚用意して含浸させる方法と比べ、生産効率を向上できる利点が得られる。
【0024】
さらにまた、本発明の第19の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記何れかに加えて、前記未硬化の樹脂材料を、熱硬化性樹脂とできる。これにより、熱硬化性樹脂の樹脂材料を巻取体に含浸させた状態でも、加熱によって容易に硬化させることが可能となり、生産効率を向上できる利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態1に係る熱伝導シートを用いた放熱装置を示す模式断面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る熱伝導シートを示す一部拡大図付き模式平面図である。
図3】本発明の実施形態1に係る熱伝導シートを示す一部拡大図付き模式斜視図である。
図4】本発明の実施形態1に係る熱伝導シートを示す模式側面図である。
図5図5A及び図5Bは、接合部を構成する樹脂材料の一例の概念図である。
図6】実施形態2に係る熱伝導シートを示す一部拡大図付き模式斜視図である。
図7】実施形態2に係る熱伝導シートを示す模式側面図である。
図8】実施形態3に係る熱伝導シートを示す模式平面図である。
図9図9A図9Cは、実施形態1に係る熱伝導シートの製造方法を示す模式断面図である。
図10】実施形態1に係る熱伝導シートの積層工程の他の例を示す模式断面図である。
図11】実施形態1に係る熱伝導シートの積層工程の他の例を示す模式断面図である。
図12図12A図12Dは、実施形態2に係る熱伝導シートの製造方法を示す模式断面図である。
図13図13A図13Bは、実施形態2に係る熱伝導シートの押圧工程の前後における熱伝導シートの厚さの変化、及び熱伝導部の傾きの変化を模式的に示す縦断面図である。
図14図14A図14Dは、実施形態3に係る熱伝導シートの製造方法を示す模式断面図である。
図15】実施形態4に係る熱伝導シートの製造方法を示す模式図である。
図16図15の巻取体の樹脂材料を硬化させる状態を示す模式断面図である。
図17】積層体に対する裁断位置を示す模式斜視図である。
図18】積層体に対する裁断位置の他の例を示す模式斜視図である。
図19図19A図19Cは、積層体に対する裁断位置のさらに他の例を示す模式断面図である。
図20】実施例4に係る熱伝導シートの拡大断面写真である。
図21】実施例1に係る熱伝導シートの拡大断面写真である。
図22図23の要部拡大断面写真である。
図23】実施例1に係る熱伝導シートの要部拡大断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[実施形態1]
【0027】
熱伝導シートは、様々な発熱体の放熱部材として利用することができる。発熱体には、例えばCPUやGPU、DSP、マイコン等の演算素子、トランジスタ等の駆動素子、LED、O-LED、液晶等の発光素子、ハロゲンランプ等の光源、モータ等の駆動部品等が好適に挙げられる。ここでは、実施形態1として放熱シートをCPUに適用した例を説明する。ここでは、図1の模式断面図に示すように発熱体HGであるCPUと、放熱器HSである冷却フィンとの間に熱伝導シート100を熱的に結合した放熱装置1000を構成している。
(熱伝導シート100)
【0028】
まず、実施形態1に係る熱伝導シート100を、図2~4に基づいて説明する。これらの図において、図2は、実施形態1に係る熱伝導シート100を模式平面図、図3は熱伝導シート100を模式斜視図、図4は熱伝導シート100を模式側面図、図5は接合部を構成する樹脂材料の一例の概念図を、それぞれ示している。
【0029】
図2図4に示すように、実施形態1に係る熱伝導シート100は、層状をなす複数の熱伝導部10と、各熱伝導部10を接合する接合部20とを備え、全体としてシート状をなしている。熱伝導部10は、鱗片状をなす黒鉛(鱗片状黒鉛)11、及び樹脂繊維12を含む材料で構成され、熱伝導シート100の一方の主面から他方の主面にわたって設けられたもの、言い換えると、熱伝導部10は、熱伝導シート100の両主面に露出しているものである。接合部20は、柔軟性を有する樹脂材料で構成されたものであり、黒鉛11は、その厚さ方向が、層状の熱伝導部10の厚さT10の方向に沿うように配向している。本実施形態に係る熱伝導シート100では、熱伝導シート100の法線N100と熱伝導部10の法線N10とのなす角θ1が25°以上90°以下である。
【0030】
言い換えると、熱伝導シート100の面方向に沿って互いに交差する軸をx軸及びy軸と設定し、x軸及び前記y軸と交差する軸をz軸と設定したとき、熱伝導シート100は、x軸方向に延在する複数の熱伝導部10と、柔軟性を有する樹脂材料で構成され、各熱伝導部10をy軸方向に接合する接合部20とを備えている。そして、熱伝導部10は、複数個の鱗片状をなす黒鉛(鱗片状黒鉛)11と、樹脂繊維12とを含む材料で構成されている。そして、熱伝導部10中において、黒鉛(鱗片状黒鉛)11は、その厚さ方向がy軸方向に沿うように配向している。
【0031】
さらに言い換えると、本実施形態に係る熱伝導シート100は、熱伝導シート100の厚さT100の方向である第1方向に優先的に熱を伝導すると共に、第1方向と交わる第2方向に延在する複数の熱伝導部10と、柔軟性を有する樹脂材料で構成され、各熱伝導部10を第1方向及び第2方向と交わる第3方向に接合する接合部20と、を備えており、熱伝導部10は、鱗片状をなし、その厚さ方向が第3方向に沿うような配向を有する黒鉛11と、樹脂繊維12とを含む材料で構成されている。
【0032】
このような構成により、熱伝導シート100は、シート状をなす熱伝導シート100の面内の所定方向に対する厚さ方向の熱伝導性、言い換えると、y軸方向に比してz軸方向の熱伝導性が高く、z軸方向(すなわち、熱伝導シート100の厚さ方向)に優先的に熱を伝導することができ、熱伝導シート100全体として、厚さ方向への熱伝導性に優れたものとすることができると共に、柔軟性も優れたものとすることができる。その結果、例えば発熱体HGの表面形状に好適に追従し、好適に熱伝導、放熱することができる。より具体的には、発熱体HGとの密着性が向上し、熱伝導シート100と発熱体HGとの間に、空気層が残ることによる熱伝導性の低下を効果的に防止することができる。特に、熱伝導シート100の厚さ方向への熱伝導性に優れていることから、発熱体HGとの接触面積を大きくし、全体としての熱伝導性、放熱性を優れたものとすることができる。また、発熱体HGが、複雑形状を有するものや、表面の凹凸が大きいものであっても、当該部材の表面形状に好適に追従することができ、前述したような機能を効果的に発揮することができる。
【0033】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。すなわち、熱伝導部10が熱伝導性の高い材料として鱗片状黒鉛11を含み、当該鱗片状黒鉛11が熱伝導部10において所定の方向に配向していると共に、熱伝導部10が熱伝導シート100の一方の主面から他方の主面にわたって連続して設けられていることにより、鱗片状黒鉛11の含有率を極端に高くしなくても、熱伝導シート100の厚さ方向において、鱗片状黒鉛11同士の距離を短くし、接触しあう鱗片状黒鉛11の割合を効果的に高めることができる。その結果、十分な柔軟性を確保しつつ、厚さ方向への熱伝導性を特に優れたものとすることができる。
【0034】
また、熱伝導部10に加え、柔軟性を有する樹脂材料で構成された接合部20を備えることにより、熱伝導シート100の柔軟性を特に優れたものとすることができる。そして、熱伝導シート100の柔軟性が優れたものであることにより、発熱体HGの表面形状への追従性が向上し、前記部材が複雑形状を有するものである場合や表面に比較的大きな凹凸を有するものであっても、熱伝導シート100と前記部材との間に不本意な隙間が生じることを効果的に防止することができる。その結果、前記部材の放熱等を好適に行うことができる。
【0035】
また、熱伝導部10が鱗片状黒鉛11に加え、樹脂繊維を含むことにより、熱伝導部10中における鱗片状黒鉛11の含有率が比較的高い場合であっても、熱伝導部10中に鱗片状黒鉛11を好適に保持することができ、かつ、熱伝導部10の柔軟性、熱伝導シート100全体の柔軟性を高いものとすることができる。
【0036】
これに対し、上記のような条件を満たさないと、満足のいく結果が得られない。例えば、熱伝導部に対応する部位のみで構成され、接合部に対応する部位を有さないシート材では、当該シート材全体としての柔軟性が不十分となり、当該シート材が適用される部材の形状等によっては、十分な熱伝導性を発揮することができない。また、接合部に対応する部位のみで構成され、熱伝導部に対応する部位を有さないシート材では、熱伝導性が低いものとなる。さらに熱伝導部が樹脂繊維を含まない場合、例えばシート材全体としての柔軟性を十分に優れたものとすることが困難となる。さらにまた、熱伝導部において、樹脂繊維の代わりに、溶融した樹脂、溶解した樹脂等により緻密な樹脂層を形成した場合、例えば、シート材全体としての柔軟性を十分に優れたものとすることが困難となる。さらにまた、熱伝導部が黒鉛を含まない場合、熱伝導性が低いものとなる。加えて、熱伝導部における黒鉛(鱗片状黒鉛)が上記以外の配向を有する場合や配向性を有さない場合、シート材の厚さ方向への熱伝導性を十分に優れたものとすることが困難となる。また、鱗片状をなす黒鉛、及び樹脂繊維を含む材料で構成された熱伝導部を有していても、当該熱伝導部が、熱伝導シートの一方の主面から他方の主面にわたって設けられていない場合、例えば、熱伝導部が、一方の面のみに露出している場合や、両面とも露出していない場合には、熱伝導シートの使用時において、熱伝導シートに接触する部材からの放熱が不十分となる。また、鱗片状の黒鉛(鱗片状黒鉛)の代わりに一般的な黒鉛粒子(略球状、不定形状の粒子等)を用いた場合も、シート材の厚さ方向への熱伝導性を十分に優れたものとすることが困難となる。また、熱伝導シートの法線と熱伝導部の法線とのなす角θ1が前記下限値未満であると、熱伝導シートの厚さ方向への伝熱が不十分となり、熱伝導シートの使用時において、熱伝導シートに接触する部材からの放熱が不十分となる。
【0037】
なお、熱伝導部10においては、熱伝導部10中に含まれる複数個の鱗片状黒鉛11のうちの多数が前記のような配向を示していればよく、すべての鱗片状黒鉛11について、鱗片状黒鉛11の厚さ方向が、層状の熱伝導部10の厚さ方向(特に、図3図4に示す構成では、y軸方向)に沿うように配向していなくてもよい。このような場合でも、前述したような効果が十分に発揮される。
【0038】
熱伝導部10中に含まれる鱗片状黒鉛11のうち、前記の配向を示す鱗片状黒鉛11の割合は、個数基準で、50%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましく、70%以上であるのがさらに好ましい。
【0039】
また、前述した配向は、鱗片状黒鉛11の厚さ方向(法線方向)と層状の熱伝導部10の厚さ方向(特に、図3図4に示す構成では、y軸方向)とは、完全に一致していることを意味するものではなく、例えば、鱗片状黒鉛11の厚さ方向(法線方向)と層状の熱伝導部10の厚さ方向とのなす角θは、20°以下であればよく、特に、10°以下であるのが好ましい。
【0040】
また、前述したように、熱伝導シート100の法線N100と熱伝導部10の法線N10とのなす角θ1は、25°以上90°以下であればよいが、30°以上90°以下であるのが好ましく、35°以上90°以下であるのがより好ましく、40°以上90°以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
(熱伝導部)
【0041】
熱伝導シート100は、熱伝導シートの一方の主面から他方の主面にわたって設けられた複数の熱伝導部10を備えている。本実施形態においては、熱伝導シート100の平面視で、各熱伝導部10は、x軸方向に延在している。熱伝導部10は、熱伝導シート100全体の熱伝導性(特に、熱伝導シート100の厚さ方向(z軸方向)の熱伝導性)において、主に寄与する部位である。
【0042】
熱伝導部10は、複数個の鱗片状の黒鉛(鱗片状黒鉛)11と、樹脂繊維12とを含んでいる。このような熱伝導部10は、その内部に、樹脂繊維12や黒鉛(鱗片状黒鉛)11等の隙間として微小な空隙部を有している。このような微小な空間に、後に詳述する接合部20の構成材料の一部が入り込むことにより、熱伝導部10と接合部20との密着性を向上させることができ、熱伝導シート100の耐久性を向上させることができる。また、前記微小な空間中の空気を排除して、空気よりも熱伝導率の大きい接合部20の構成材料が侵入することにより、熱伝導シート100の熱伝導性のさらなる向上にも寄与することができる。
(鱗片状黒鉛)
【0043】
各熱伝導部10に含まれる複数個の鱗片状黒鉛11は、所定の方向に配向している。すなわち、鱗片状黒鉛11は、その厚さ方向が層状の熱伝導部10の厚さ方向(特に、図3図4に示す構成では、y軸方向)に沿うように配向している。
【0044】
これにより、熱伝導シート100は、熱伝導シート100の厚さ方向(y軸に直交するz軸方向)の熱伝導性に優れたものとなる。
【0045】
本明細書において、鱗片状とは、厚さに対する主面の大きさが十分に大きいものであればよく、例えば、平板状であっても、湾曲板状であってもよい。
【0046】
鱗片状黒鉛11の扁平度の相加平均値(平均扁平度)は、2以上であるのが好ましく、3以上100以下であるのがより好ましく、5以上50以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
なお、鱗片状黒鉛11の扁平度とは、鱗片状黒鉛11の主面における短軸長Ly[μm]の鱗片状黒鉛11の厚さt[μm]に対する比率(Ly/t)のことを言う。鱗片状黒鉛11の平均扁平度としては、例えば、走査型電子顕微鏡による観察で、無作為に抽出した100個の鱗片状黒鉛11についての扁平度の相加平均値を採用することができる。以下に説明する鱗片状黒鉛11の主面における短軸長Lyの相加平均値(平均短軸長さ)、鱗片状黒鉛11の厚さtの相加平均値(平均厚さ)についても、同様にして求めることができる。
【0048】
鱗片状黒鉛11の主面における短軸長Lyの相加平均値(平均短軸長)は、0.2μm以上50μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上30μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。
【0049】
鱗片状黒鉛11は、鱗片状をなす黒鉛であればよいが、鱗片状黒鉛11としては、膨張化黒鉛を好適に用いることができる。これにより、熱伝導シート100の強度、信頼性、熱伝導性をさらに優れたものとすることができる。
【0050】
膨張化黒鉛は、例えば、層状結晶構造を有する黒鉛を原料として、酸化剤で酸処理して層間化合物を形成した後、洗浄し、高温で加熱処理して層間化合物を膨張させることにより得られる。
【0051】
膨張化黒鉛の原料としては、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、キッシュ(kish)黒鉛等、層状結晶構造を有する黒鉛粒子が挙げられる。
【0052】
前記酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、燐酸、過塩素酸等の酸とクロム酸、過マンガン酸、過沃素酸、過酸化水素等が挙げられる。
【0053】
前記加熱処理の温度は、400℃以上1000℃以下であるのが好ましい。
【0054】
熱伝導部10中における鱗片状黒鉛11の含有率は、特に限定されないが、10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、30質量%以上85質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以上80質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。
(樹脂繊維)
【0056】
各熱伝導部10は、樹脂繊維12を含んでいる。これにより、熱伝導部10内に、前述した鱗片状黒鉛11を好適に保持することができる。また、緻密な樹脂層を設ける場合に比べて、柔軟性を高めることができる。また、熱伝導シート100を変形させた場合においても、熱伝導シート100全体として鱗片状黒鉛11同士が好適に接触した状態を確保することができる。
【0057】
樹脂繊維12の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリパラフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)、ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテルケトン;アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、これらの各種樹脂の構成モノマーの共重合体(例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合体)、変性樹脂(例えば、マレイン酸変性樹脂等)、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
中でも、樹脂繊維12は、アラミド樹脂で構成されたものであるのが好ましい。これにより、熱伝導部10の強度、熱伝導シート100全体の強度をより優れたものとすることができる。また、熱伝導シート100の耐熱性をより優れたものとすることができる。また、熱伝導シート100の成形時等に不本意に樹脂繊維12が溶融、変形してしまうこと等を効果的に防止し、より確実に、熱伝導シート100の柔軟性をより優れたものとすることができる。なお、樹脂繊維12としては、互いに異なる組成の複数種の繊維を用いてもよい。
【0059】
樹脂繊維12の平均長さは、特に限定されないが、1.5mm以上20mm以下であるのが好ましく、2.0mm以上18mm以下であるのがより好ましく、3.0mm以上16mm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10中において鱗片状黒鉛11をより好適に保持することができ、鱗片状黒鉛11の不本意な脱落をより確実に防止することができる。その結果、熱伝導シート100の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。また、熱伝導シート100の柔軟性をより優れたものとすることができる。
【0060】
なお、本実施形態に係る熱伝導シートにおいて、繊維の平均長さとしては、例えば、走査型電子顕微鏡による観察で、無作為に抽出した100本の繊維についての長さの相加平均値を採用することができる。
【0061】
樹脂繊維12の平均幅は、1.0μm以上50μm以下であるのが好ましく、2.0μm以上40μm以下であるのがより好ましく、3.0μm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10中において鱗片状黒鉛11をより好適に保持することができ、鱗片状黒鉛11の不本意な脱落をより確実に防止することができる。その結果、熱伝導シート100の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。また、熱伝導シート100の柔軟性をより優れたものとすることができる。
【0062】
なお、本実施形態に係る熱伝導シートにおいて、繊維の平均幅としては、例えば、走査型電子顕微鏡による観察で、無作為に抽出した100本の繊維についての幅の相加平均値を採用することができる。
【0063】
熱伝導部10中における樹脂繊維12の含有率は、特に限定されないが、7質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、12質量%以上70質量%以下であるのがより好ましく、18質量%以上50質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。
【0064】
これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。
(その他の成分)
【0065】
熱伝導部10は、前述した以外の成分を含んでいてもよい。このような、その他の成分としては、例えば、バインダー、凝集剤、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、プライマー、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、レベリング剤、増粘剤、分散剤、老化防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、腐食防止剤、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、フラーレン、金属繊維、金属粒子等が挙げられる。
【0066】
20℃における熱伝導部10についての熱伝導シート100の厚さ方向(z軸方向)の熱伝導率は、10W/m・K以上200W/m・K以下であるのが好ましく、15W/m・K以上180W/m・K以下であるのがより好ましく、20W/m・K以上160W/m・K以下であるのがさらに好ましい。なお、本実施形態に係る熱伝導シートにおいて、熱伝導率としては、JIS R1611に準拠して、レーザーフラッシュ法により熱拡散率(mm2/s)を求め、熱拡散率と熱容量(密度×比熱)との積として算出した値を採用することができる。
【0067】
熱伝導部10の厚さ(熱伝導部10の厚さ方向の長さ。図3図4に示す構成では、y軸方向の長さ。)は、特に限定されないが、50μm以上300μm以下であるのが好ましく55μm以上270μm以下であるのがより好ましく、60μm以上250μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。また、熱伝導シート100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0068】
なお、熱伝導シート100が備える複数の熱伝導部10は、同一の厚さを有するものであってもよいし、異なる厚さを有するものであってもよいが、互いに異なる厚さの熱伝導部10を有する場合、熱伝導シート100が備える複数の熱伝導部10の全個数のうち、厚さが前記の範囲内に含まれるものの割合が50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
【0069】
熱伝導シート100全体に占める熱伝導部10の体積率は、30体積%以上90体積%以下であるのが好ましく、40体積%以上85体積%以下であるのがより好ましく、50体積%以上82体積%以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。
(接合部)
【0070】
熱伝導シート100は、前述した各熱伝導部10を熱伝導部10の主面と接触して接合する接合部20を複数個備えている。特に、本実施形態では、接合部20は、x軸方向に延在している。
【0071】
熱伝導シート100は、少なくとも1つの接合部20を備えていればよいが、図示の構成では、複数の接合部20を備えている。より具体的には、図示の構成では、熱伝導シート100は、複数の接合部20と共に複数の熱伝導部10を備えており、y軸方向に沿って、熱伝導部10と接合部20とが交互に配置され、y軸方向の両端部に熱伝導部10が配置されている。言い換えると、熱伝導シート100が備える熱伝導部10の個数をn個としたとき、熱伝導シート100が備える接合部20の個数は(n-1)個である。
【0072】
また接合部20は、柔軟性を有する樹脂材料で構成されている。さらに接合部は、部分的に空隙層を形成している。空隙層には、空気や、樹脂材料が硬化した際に発生するガスが含まれている。また樹脂材料の一部は、熱伝導部の空隙部に侵入している。接合部中における空隙層の占める割合は、2体積%以上30体積%以下とすることが好ましい。
(樹脂材料)
【0073】
接合部20を構成する樹脂材料(柔軟性を有する樹脂材料)は、隣り合う熱伝導部10を接合する機能を有している。接合部20を構成する樹脂材料は、柔軟性を有している。したがって、熱伝導シート100は、例えば、当該発熱体HGの表面形状に好適に追従することができる。その結果、例えば、前記部材との関係で、好適に熱伝導、放熱することができる。また、熱伝導シート100が変形した際に、熱伝導シート100が破損すること等を好適に防止することができる。
【0074】
接合部20を構成する樹脂材料は、前述した熱伝導部10を構成する樹脂繊維12とはことなり、十分に緻密なものである。このような接合部20は、後に詳述するように、液状をなす樹脂材料20’や、シート状をなす樹脂材料20’(液状をなす組成物をシート状に成形したもの)を用いて好適に形成される。
【0075】
接合部20を構成する樹脂材料は、特に限定されないが、硬質樹脂以外の樹脂材料、例えば、柔軟性エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、熱可塑性エラストマー等が好適に用いられる。
【0076】
また、接合部20を構成する樹脂材料としては、図5に示すように、環状分子41と、直鎖状の分子構造を有し環状分子41を串刺し状に包接する第一ポリマー42と、第一ポリマー42の両端付近に設けられた封鎖基43とを有するポリロタキサン40、及び第二ポリマー50を含み、環状分子41を介して、ポリロタキサン40と第二ポリマー50とが結合しているものであるのが好ましい。
【0077】
これにより、接合部20を介した熱伝導部10同士の接合強度、熱伝導シート100の耐久性を十分に優れたものとしつつ、熱伝導シート100の耐熱性(例えば、200℃以上の使用環境にも耐えられる耐熱性)、柔軟性を特に優れたものとすることができる。また、このような樹脂材料は、熱伝導シート100の製造時において、熱伝導部10中に存在する微小な空隙部に侵入しやすい。したがって、熱伝導シート100の耐久性や熱伝導性をさらに向上させる上でも有利である。
【0078】
特に、図5Aに示すような状態の樹脂材料(接合部20)に、矢印方向の変形の応力が負荷された場合、樹脂材料は、図5Bに示すような形態を採ることができる。すなわち、環状分子41が第一ポリマー42に沿って移動可能であるため(換言すると、第一ポリマー42が環状分子41内を移動可能であるため)、変形の応力を樹脂材料内(接合部20中)で好適に吸収することができる。したがって、大きな変形力(例えば、ひねりの外力等)が加わった場合であっても、接合部20が破損したり、接合部20が熱伝導部10から剥離してしまうこと等を効果的に防止することができる。
【0079】
以下、ポリロタキサン40と第二ポリマー50と含む樹脂材料について詳細に説明する。ポリロタキサン40を構成する環状分子41は、第一ポリマー42に沿って移動可能なものであればよいが、置換されていてもよいシクロデキストリン分子であるのが好ましく、該シクロデキストリン分子がα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びこれらの誘導体よりなる群から選択されるものであるのが好ましい。
【0080】
ポリロタキサン40中の環状分子41の少なくとも一部は、上述のように、第二ポリマー50の少なくとも一部と結合する。
【0081】
環状分子41が有する官能基(第二ポリマー50と結合する官能基)としては、例えば、-OH基、-NH2基、-COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、光架橋基等が挙げられる。なお、光架橋基としては、例えば、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩、スチリルキノリウム塩等が挙げられる。
【0082】
環状分子41が第一ポリマー42により串刺し状に包接される際に環状分子41が最大限に包接され得る量を1とした場合、第一ポリマー42に串刺し状に包接されている環状分子41の量は、0.001以上0.6以下であるのが好ましく、0.01以上0.5以下であるのがより好ましく、0.05以上0.4以下であるのがさらに好ましい。なお、異なる2種以上の環状分子41を用いてもよい。
【0083】
ポリロタキサン40を構成する第一ポリマー42としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びその他オレフィン系単量体との共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合樹脂等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体または変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン等のポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類やこれらの誘導体が挙げられ、特に、ポリエチレングリコールであるのが好ましい。
【0084】
第一ポリマー42の重量平均分子量は、1万以上であるのが好ましく、2万以上であるのがより好ましく、3.5万以上であるのがさらに好ましい。なお、異なる2種以上の第一ポリマー42を用いてもよい。
【0085】
環状分子41と第一ポリマー42との組み合わせとしては、環状分子41が置換されていてもよいα-シクロデキストリンであり、第一ポリマー42がポリエチレングリコールであるのが好ましい。
【0086】
ポリロタキサン40を構成する封鎖基43は、環状分子41が第一ポリマー42から脱離することを防止する機能を有する基であれば、特に限定されないが、例えば、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニル等が挙げられる。置換基は、1つまたは複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類、ステロイド類等が挙げられる。置換ベンゼン類、置換多核芳香族類を構成する置換基としては、例えば、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニル等が挙げられる。置換基は、1つまたは複数存在してもよい。なお、異なる2種以上の封鎖基43を用いてもよい。
【0087】
樹脂材料(接合部20)中において、少なくとも一部のポリロタキサン40が、環状分子41を介して、第二ポリマー50と結合しているが、樹脂材料(接合部20)中、第二ポリマー50と結合していないポリロタキサン40が含まれていてもよいし、ポリロタキサン40同士が結合していてもよい。
【0088】
第二ポリマー50は、環状分子41を介して、ポリロタキサン40と結合するものである。第二ポリマー50が有する環状分子41と結合する官能基としては、例えば、-OH基、-NH2基、-COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、光架橋基等が挙げられる。なお、光架橋基としては、例えば、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩、スチリルキノリウム塩等が挙げられる。
【0089】
第二ポリマー50としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びその他オレフィン系単量体との共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合樹脂等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体または変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン等のポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類の各種樹脂の骨格を有し、前述した官能基を有するもの等が挙げられる。
【0090】
また、第二ポリマー50と環状分子41とは、架橋剤により化学結合されていてもよい。
【0091】
架橋剤の分子量は、2000未満であるのが好ましく、1000未満であるのがより好ましく、600未満であるのがさらに好ましく、400未満であるのが最も好ましい。
【0092】
架橋剤としては、例えば、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ジビニルスルホン、1,1'-カルボニルジイミダゾール、アルコキシシラン類等が挙げられる。なお、異なる2種以上の架橋剤を用いてもよい。
【0093】
また、第二ポリマー50は、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。樹脂材料(接合部20)中において、少なくとも一部の第二ポリマー50が、環状分子41を介して、ポリロタキサン40と結合しているが、樹脂材料(接合部20)中、ポリロタキサン40と結合していない第二ポリマー50が含まれていてもよいし、第二ポリマー50同士が結合していてもよい。なお、異なる2種以上の第二ポリマー50を用いてもよい。
【0094】
樹脂材料(接合部20)中における第二ポリマー50の含有量に対するポリロタキサン40の含有量の比率は、重量比で、1/1000以上であるのが好ましい。
(その他の成分)
【0095】
接合部20は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、プライマー、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、レベリング剤、増粘剤、分散剤、老化防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、腐食防止剤等が挙げられる。
【0096】
本実施形態に係る熱伝導シート100は、層状をなすものである。接合部20の厚さT20(層状をなす接合部20の厚さ方向の長さ。図3図4に示す構成では、y軸方向の長さ。)は、特に限定されないが、0.1μm以上200μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上100μm以下であるのがより好ましく、0.1μm以上50μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。また、熱伝導シート100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0097】
なお、熱伝導シート100が複数の接合部20を備える場合、これら複数の接合部20は、同一の厚さを有するものであってもよいし、異なる厚さを有するものであってもよいが、互いに異なる厚さの接合部20を有する場合、熱伝導シート100が備える複数の熱伝導部10の全個数のうち、厚さが前記の範囲内に含まれるものの割合が50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
【0098】
図示の構成では、熱伝導シート100の両面において、熱伝導部10と接合部20とは面一であるが、熱伝導部10が設けられた部位での熱伝導シート100の厚さT100と、接合部20が設けられた部位での熱伝導シート100の厚さT100とが異なっていてもよい。例えば、図示の構成では、各接合部20は、熱伝導シート100の両主面に露出しているが、接合部20のうちの少なくとも1つは、熱伝導シート100の一方の面のみに露出していてもよいし、熱伝導シート100の両主面のいずれにも露出していないものであってもよい。
【0099】
熱伝導シート100全体に占める接合部20の体積率は、10体積%以上70体積%以下であるのが好ましく、15体積%以上60体積%以下であるのがより好ましく、18体積%以上50体積%以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導部10の熱伝導性及び柔軟性を、より高いレベルで両立することができる。
【0100】
なお、図示の構成では、熱伝導部10と接合部20との境界が明確であるが、例えば熱伝導部10、接合部20のうちの少なくとも一方の構成材料の拡散、相溶等により、熱伝導部10と接合部20との境界が不明確になっていてもよい。このような場合でも、熱伝導部10は、鱗片状黒鉛11の含有率及び樹脂繊維12の含有率が接合部20におけるこれらの含有率よりも高い領域であり、接合部20は、前記樹脂材料の含有率が熱伝導部10における前記樹脂材料の含有率よりも高い領域であり、両者の区別をすることができる。
【0101】
また熱伝導シート100の用途は、特に限定されないが、例えば各種の放熱シート等として用いることができる。
【0102】
熱伝導シート100の厚さT100(z軸方向の長さ)は、0.2mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上4mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上3mm以下であるのがさらに好ましい。これにより、発熱体HGの表面形状により好適に追従することができ、より好適に熱伝導、放熱することができる。また、熱伝導シート100の柔軟性及び耐久性をより高いレベルで両立することができる。
【0103】
熱伝導シート100の両主面における表面粗さRaは、0.1μm以上100μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上80μm以下であるのがより好ましく、0.3μm以上60μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導シート100の生産性が著しく低下することを防止しつつ、発熱体HGの表面形状により好適に追従することができ、より好適に熱伝導、放熱することができる。
【0104】
なお、熱伝導シート100の表面粗さRaは、例えば、JIS B 0601-2013に準拠して測定することができる。また、熱伝導シート100の表面粗さRaは、研磨処理等により調整することができる。
(熱伝導シート100の厚さ方向での熱伝導率)
【0105】
熱伝導シート100を、その厚さ方向に0.2N/mm2の面圧で押圧した際の、熱伝導シート100の厚さ方向での熱伝導率をλ0.2[W/m・K]、熱伝導シート100を、その厚さ方向に0.8N/mm2の面圧で押圧した際の、熱伝導シート100の厚さ方向での熱伝導率をλ0.8[W/m・K]としたとき、1.5≦λ0.8/λ0.2≦3.5の関係を満足するのが好ましく、1.7≦λ0.8/λ0.2≦3.2の関係を満足するのがより好ましく、1.9≦λ0.8/λ0.2≦3.0の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0106】
λ0.8/λ0.2の値が小さすぎると、熱伝導シートと接触させる部材の条件によっては、熱伝導シートと発熱体HGや放熱体との密着性が不十分となって、熱伝導性が十分に発揮されないおそれがある。一方でλ0.8/λ0.2が大きすぎると、形状の安定性が低下して、熱伝導シートの耐久性が低下したり、ロット毎の性能ばらつきが大きくなって安定した性能を維持できないおそれがある。したがって、λ0.8/λ0.2は、上記の範囲内とすることが望ましい。
【0107】
熱伝導シート100の主面について、レーザーフラッシュ法を用いて測定される熱伝導シート100の厚さ方向における熱伝導率は、10W/m・K以上200W/m・K以下であるのが好ましく、15W/m・K以上180W/m・K以下であるのがより好ましく、20W/m・K以上160W/m・K以下であるのがさらに好ましい。
【0108】
これにより、熱伝導シートの熱伝導性を高く保ち、より好適に熱伝導、放熱できるという効果が得られる。
【0109】
熱伝導シート100をその厚さ方向に0.2N/mm2の面圧で押圧した際の、当該熱伝導シート100の厚さは、0.1mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上4mm以下であるのがより好ましく、0.3mm以上3mm以下であるのがさらに好ましい。
【0110】
これにより、発熱体HG及び放熱体表面の凹凸を、高い追従性を持った熱伝導シートの厚さで吸収し、密着性を十分に担保することで、界面熱抵抗を低く抑え、より好適に熱伝導、放熱できる という効果が得られる。
[実施形態2]
【0111】
次に、実施形態2に係る熱伝導シートを、図6図7に基づいて説明する。これらの図において、図6は実施形態2に係る熱伝導シート200の模式斜視図を、図7は実施形態2に係る熱伝導シート200の模式側面図を、それぞれ示している。以下の説明では、前述した実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項についての説明は適宜省略する。
【0112】
前述した実施形態では、熱伝導シート100の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していた(これらのなす角が90°であった)のに対し、実施形態2に係る熱伝導シート200では、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していない。上述したように、本実施形態に係る熱伝導シート200では、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とのなす角θ1が25°以上90°以下であればよく、本実施形態のように、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していなくてもよい。このような場合でも、前述したような効果が得られる。
【0113】
また、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していないことにより、熱伝導シート200の厚さ方向の圧力に対する耐久性が向上する。これは、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交している場合、熱伝導シート200の厚さ方向の圧力が加わった際に、熱伝導部10と接合部20とでの剛性の違い等により、熱伝導部10が座屈し、熱伝導部10と接合部20とが剥離しやすいのに対し、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していない場合には、熱伝導シート200の厚さ方向の圧力が加わった際に、当該圧力には、熱伝導部10と接合部20とを押し付ける方向の力の成分が含まれ、当該成分が熱伝導部10と接合部20とを密着させるのに寄与するためであると考えられる。
【0114】
本実施形態のように、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していない場合、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とのなす角θ1は、30°以上85°以下であるのが好ましく、35°以上80°以下であるのがより好ましく、40°以上75°以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
[実施形態3]
【0115】
次に、実施形態3に係る熱伝導シートを、図8に基づいて説明する。図8は、実施形態3に係る熱伝導シート300の模式平面図を示している。以下の説明では、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は適宜省略する。
【0116】
本実施形態の熱伝導シート300は、前述した実施形態の熱伝導シート100と同様の構成を有するシート本体100’と、その外周に接触して設けられた枠体30とを備えている。すなわち、枠体30を備えている以外は、前述した実施形態と同様の構成を有している。
【0117】
このような構成により、熱伝導部10と接合部20との接合強度が比較的低い場合や、熱伝導部10自体の強度が低い場合、接合部20自体の強度が低い場合等であっても、熱伝導シート300の破損を好適に防止することができる。特に、熱伝導シート300が適用される発熱体HGの表面を追従させる際に、熱伝導シート300を比較的大きく変形させた場合等であっても、熱伝導シート300が破損してしまうことを好適に防止することができる。また、熱伝導シート300を製造する際に、不本意な変形が生じることを効果的に防止することができ、所望の形状の熱伝導シート300をより好適に製造することができる。特に、前述したような厚み(z軸方向の長さ)が比較的小さい熱伝導シート300をより好適に製造することができる。
【0118】
枠体30の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルや、これらの共重合体等の各種樹脂材料や、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼等の各種金属材料等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、特に、ポリ塩化ビニリデンが好ましい。ポリ塩化ビニリデンは、各種の樹脂材料等に対する密着性に優れると共に、自己粘着性も有しているため、シート本体100’からの不本意な脱落を効果的に防止することができ、前述したような効果をより顕著に発揮することができる。また、ポリ塩化ビニリデンは、引張弾性率も大きいため、熱伝導シート300の製造時における取り扱いの容易性が特に優れたものとなる。
【0119】
枠体30の幅Wは、3μm以上2000μm以下であるのが好ましく、5μm以上150μm以下であるのがより好ましく、30μm以上1000μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導シート100の柔軟性を十分に優れたものとしつつ、枠体30を設けることによる効果がより顕著に発揮される。なお、枠体30の幅Wは、各部位で一定であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0120】
枠体30のz軸方向の長さは、特に限定されないが、0.2mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上4mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上3mm以下であるのがさらに好ましい。
【0121】
なお、後述する図14Cの構成では、枠体30は、シート本体100’の外周全体に設けられているが、シート本体100’の外周の一部にのみ設けられていてもよい。例えば、枠体30は、シート本体100’のy軸に平行な辺と、それらに接続するx軸に平行な辺の一部とのみに設けられていてもよい。このような場合でも、前述したような効果が十分に発揮される。また、枠体30の材料の使用量を抑制することができ、省資源、コストの低減等の観点からも有利である。
(熱伝導シートの使用形態)
【0122】
次に、本実施形態に係る熱伝導シートの使用形態について説明する。本実施形態に係る熱伝導シートは、熱伝導性、特に、厚さ方向への熱伝導性に優れ、柔軟性にも優れている。したがって、発熱体HGである高温部材の冷却に好適に用いることができる。本実施形態に係る熱伝導シートは、通常、高温部材の表面の少なくとも一部に接触するようにして用いられる。また、本実施形態に係る熱伝導シートは、適用される高温部材の大きさ、形状等に応じて、必要に応じて切断して用いてもよい。また、単一の高温部材に、複数枚の熱伝導シートを適用してもよい。
【0123】
高温部材としては、当該高温部材が置かれる雰囲気よりも高温になる部材であれば、特に限定されない。例えばコンピュータの中央演算処理装置(CPU)、画像処理用演算プロセッサ(GPU)、FPGA、ASIC等の電子部品、発光ダイオード(LED)、液晶、エレクトロルミネッセンス(EL)等の電子部品等が挙げられる。
【0124】
熱伝導シートが適用される高温部材としては、その表面の最高到達温度(熱伝導シートを適用しなかった場合に到達する最高温度)が、40℃以上250℃以下のものが好ましく、50℃以上200℃以下のものがより好ましく、60℃以上180℃以下のものがさらに好ましい。このような高温部材としては、例えば、コンピュータの中央演算処理装置(CPU)、画像処理用演算プロセッサ(GPU)等の電子部品や、発光ダイオード(LED)、液晶、エレクトロルミネッセンス(EL)等の電子部品、リチウムイオン電池等の各種電池等が挙げられる。
[実施形態1に係る熱伝導シートの製造方法]
【0125】
次に、実施形態に係る熱伝導シートの製造方法について説明する。まず、前述した実施形態1に係る熱伝導シート100の製造方法を、図9A図11を参照して説明する。これらの図において、図9A図9Cは実施形態1に係る熱伝導シートの製造方法を示す模式断面図、図10図11は、それぞれ、積層工程の他の例を示す模式断面図である。
【0126】
実施形態1に係る熱伝導シートの製造方法は、
図9Aに示すように、熱伝導部10の形成に用いる熱伝導部形成用シート10’を用意する熱伝導部形成用シート準備工程と、
図9Bに示すように、樹脂材料20’を介して熱伝導部形成用シート10’を積層し積層体60を得る積層工程と、
図9Cに示すように、積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向に切断する切断工程と
を含む。これにより、厚さ方向への熱伝導性に優れ、柔軟性にも優れる熱伝導シートを好適に製造することができる熱伝導シートの製造方法を提供することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
(熱伝導部形成用シート準備工程)
【0127】
熱伝導部形成用シート準備工程では、図9Aに示すように熱伝導部10の形成に用いる熱伝導部形成用シート10’を用意する。熱伝導部形成用シート10’としては、例えば、鱗片状の黒鉛(鱗片状黒鉛)11と樹脂繊維12とを混抄することに得られたものを用いることができる。混により得られた熱伝導部形成用シート10’は、鱗片状黒鉛11の厚さ方向が、当該熱伝導部形成用シート10’の厚さ方向に沿うように、好適に配向したものとなる。
【0128】
混抄によりシート状に成形した後に、乾燥処理を施すのが好ましい。これにより、混抄時に用いた水分を除去することができ、取り扱いが容易となる。また、熱伝導部形成用シート10’の形状の安定性、強度が向上する。
【0129】
混抄によりシート状に成形した後に、当該シートの厚さ方向に加熱加圧処理を施すのが好ましい。これにより、鱗片状黒鉛11をより好適に配向させることができる。また、熱伝導部形成用シート10’の形状の安定性、強度が向上する。また、混抄時に用いた水分を除去することができ、取り扱いが容易となる。
【0130】
特に、熱伝導部形成用シート10’は、以下の各工程を有する方法を用いて製造されたものであるのが好ましい。すなわち、熱伝導部形成用シート10’は、鱗片状の黒鉛(鱗片状黒鉛)11と樹脂繊維12とを混抄する混抄工程と、混抄物の厚さ方向に加圧する第一加圧工程(第一プレス工程)と、乾燥工程と、混抄物の厚さ方向に加圧しつつ加熱する第二加圧工程(第二プレス工程)とを有する方法により製造されたものであるのが好ましい。
【0131】
第一加圧工程は、室温(例えば10℃以上35℃以下)で、好適に行うことができる。また、第一加圧工程におけるプレス圧力は、例えば、1MPa以上30MPa以下とすることができる。
【0132】
乾燥工程は、減圧、加熱、自然乾燥により行うことができるが、加熱により行う場合、加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることができる。
【0133】
第二加圧工程における加熱温度(熱プレス表面温度)は、例えば100℃以上400℃以下とすることができる。また、第二加圧工程におけるプレス圧力は、例えば、10MPa以上40MPa以下とすることができる。
【0134】
熱伝導部形成用シート10’の構成材料(鱗片状黒鉛11、樹脂繊維12等)としては、前述した枠体30の構成材料と同様のものが挙げられ、前述した熱伝導部10で説明したのと同様の条件を満足するものであるのが好ましい。これにより、前述したのと同様の効果が得られる。
【0135】
熱伝導部形成用シート10’の厚さは、通常、前述した熱伝導部10の厚さと同様である。本工程では、通常、熱伝導部形成用シート10’を複数枚準備するが、例えば、帯状(反物状)の熱伝導部形成用シート10’を1枚のみ準備してもよい。このような場合であっても、後の積層工程で好適に積層体を得ることができる。
(積層工程)
【0136】
積層工程では、図9Bに示すように樹脂材料20’を介して、熱伝導部形成用シート10’を積層して積層体60を得る。樹脂材料20’は、熱伝導シート100において、接合部20となるべきものである。本工程で用いる樹脂材料20’は、液状をなすものであってもよいし、シート状をなすもの(例えば、プリプレグ等)であってもよい。
【0137】
樹脂材料20’は、前述した接合部20を構成する樹脂材料に対応する材料である。より具体的には、樹脂材料20’は、前述した接合部20を構成する樹脂材料と同一の条件を満足するものであってもよいし、その前駆体であってもよい。前駆体としては、重合度がより低いモノマー、ダイマー、オリゴマーやプレポリマー等のほかに、架橋度がより低い樹脂材料等が挙げられる。
【0138】
樹脂材料(樹脂材料組成物)20’は、上記以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、重合開始剤、架橋剤、溶媒等が挙げられる。本工程で用いる樹脂材料20’が液状をなすものである場合、本工程では、通常、樹脂材料20’を熱伝導部形成用シート10’の表面に塗工する。樹脂材料20’の塗工量は、熱伝導部形成用シート10’の各部位で同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、樹脂材料20’は、熱伝導部形成用シート10’の表面全体に付与してもよいし、熱伝導部形成用シート10’の表面の一部にのみ付与してもよい。
【0139】
図9A図9Bに示す構成では、複数枚用意された枚葉の熱伝導部形成用シート10’を、樹脂材料20’を介して積層しているが、例えば、図10に示す積層体60Bのように、樹脂材料20’が付与された熱伝導部形成用シート10’(特に、帯状の熱伝導部形成用シート10’)を巻回してもよい。また図11に示す積層体60Cのように、樹脂材料20’が付与された熱伝導部形成用シート10’(特に、帯状の熱伝導部形成用シート10’)を蛇腹状に折りたたむことにより積層体60Cを得てもよい。
【0140】
本工程においては、少なくとも、樹脂材料20’を介して熱伝導部形成用シート10’を積層する処理を行えばよいが、必要に応じて他の処理を行ってもよい。例えば、樹脂材料20’を軟化または溶融させる加熱処理を行ってもよいし、樹脂材料20’が溶媒を含むものである場合、減圧、加熱、風乾等により、乾燥処理を行ってもよいし、樹脂材料20’の重合度、架橋度を高めるための重合処理、架橋処理を行ってもよいし、熱伝導部形成用シート10’と樹脂材料20’との密着性(熱伝導部10と接合部20との密着性)を高めるための加圧処理(圧着処理)を行ってもよい。
【0141】
また、本工程では、予め、樹脂材料20’によって複数の熱伝導部形成用シート10’が接合されたユニットを用意しておき、当該ユニットをさらに積層、接合することにより、目的とする積層体60を得てもよい。
(切断工程)
【0142】
切断工程では、図9Cに示すように積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向(積層体60の厚さ方向)に切断する。これにより、前述した熱伝導シート100が得られる。特に、複数回切断を行うことにより、複数枚の熱伝導シート100が得られる。このとき、切断時の厚さを調整することにより、所望の厚さの熱伝導シート100を得ることができる。複数枚の熱伝導シート100を得る場合、各熱伝導シート100は、同一の厚さを有するものであってもよいし、互いに異なる厚さを有するものであってもよい。また、1枚の熱伝導シート100の各部位において、厚さが異なるように、積層体60を切断してもよい。
【0143】
また、本工程は、積層体60を冷却した状態で行ってもよい。これにより、例えば本工程における樹脂材料20’の弾性変形をより効果的に抑制し、本工程をより効率よく行うことができる。また、切断厚さ(熱伝導シート100の厚さT100)が比較的薄い場合であっても、本工程を好適に行うことができ、歩留まりの低下を効率よく防止することができる。積層体60を冷却した状態で本工程を行う場合、本工程における積層体60の温度は、10℃以下であるのが好ましく、0℃以下であるのがより好ましく、-10℃以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
[実施形態2に係る熱伝導シートの製造方法]
【0144】
次に、実施形態2に係る熱伝導シートの製造方法について、図12A図13Bに基づいて説明する。図12A図12Dは、実施形態2に係る熱伝導シートの製造方法を示す模式断面図である。図13A図13Bは、押圧工程の前後における熱伝導シートの厚さの変化、及び熱伝導部の傾きの変化を模式的に示す縦断面図であり、図13Aが押圧工程の前の状態を示す図であり、図13Bが押圧工程の後の状態を示す図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についての説明は適宜省略する。
【0145】
実施形態2に係る熱伝導シートの製造方法は、
図12Aに示すように、熱伝導部10の形成に用いる熱伝導部形成用シート10’を用意する熱伝導部形成用シート準備工程と、
図12Bに示すように、樹脂材料20’を介して熱伝導部形成用シート10’を積層し積層体60を得る積層工程と、
図12Bに示すように、積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向から所定角度傾斜した方向で切断する切断工程と、
図12Cに示すように、切断により得られた熱伝導シート200をその厚さ方向に押圧する押圧工程とを含む。図12Bに示す切断工程では、積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向(積層体60の厚さ方向)に対して、所定角度θ2傾斜した方向から切断する。言い換えると、前述した実施形態1に係る製造方法とは、積層体60の切断方向が異なり、かつ押圧工程をさらに有している以外は、同様である。このような構成により、図6に示したように、熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とが直交していない熱伝導シート200を好適に製造することができる。
【0146】
また、上記のような切断工程の後に、図12Cに示すような押圧工程を有することにより、押圧工程前に比べて、熱伝導部10と接合部20との密着性をさらに高め、熱伝導シートの耐久性をより優れたものとすることができる。また、より薄型の熱伝導シート200を好適に製造することができると共に、熱伝導シート200における熱伝導シート200の法線N100と熱伝導部10の法線N10とのなす角をより好適に調整することができる(図13A図13B参照)。
【0147】
切断工程での積層体60の切断方向は、以下の条件を満足するのが好ましい。すなわち、熱伝導部形成用シート10’の積層方向(熱伝導部形成用シート10’の法線方向。積層体60の厚さ方向。)と切断方向とのなす角θ2は、5°以上85°以下であるのが好ましく、7°以上60°以下であるのがより好ましく、10°超50°以下であるのがさらに好ましく、15°超40°以下であるのがもっとも好ましい。これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0148】
また、押圧工程での圧力は、特に限定されないが、0.01MPa以上1MPa以下であるのが好ましく、0.03MPa以上0.7MPa以下であるのがより好ましく、0.05MPa以上0.5MPa以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
[実施形態3に係る熱伝導シートの製造方法]
【0149】
次に、実施形態3に係る熱伝導シートの製造方法について、図14A図14Dに基づいて説明する。図14A図14Dは、実施形態3に係る熱伝導シート300の製造方法を示す模式断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についての説明は適宜省略する。
【0150】
実施形態3に係る熱伝導シート300の製造方法は、
図14Aに示すように、熱伝導部10の形成に用いる熱伝導部形成用シート10’を用意する熱伝導部形成用シート準備工程と、
図14Bに示すように、樹脂材料20’を介して熱伝導部形成用シート10’を積層し積層体60を得る積層工程と、
図14Cに示すように、積層体60に枠体形成用膜30’を設ける枠体形成用膜設置工程と、
図14Dに示すように、枠体形成用膜30’が設置された積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向に切断する切断工程とを含む。言い換えると、前述した実施形態1に係る製造方法とは、積層工程と切断工程との間に枠体形成用膜設置工程をさらに含む以外は、同様である。
【0151】
このような構成により、例えば熱伝導シート300において、前述したような枠体30の機能を発揮させることができる。また、例えば後の切断工程における積層体60の不本意な変形を抑制することができ、熱伝導シート300において、不本意な厚さのばらつきが生じることをより効果的に防止することができる。
【0152】
なお、図14D中では、切断工程において、積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向(積層体60の厚さ方向)に切断する場合について示しているが、前述した実施形態2のように、積層体60を熱伝導部形成用シート10’の積層方向(積層体60の厚さ方向)に対して、所定角度傾斜した方向から切断してもよい。また、実施形態3に係る熱伝導シート300の製造方法において、切断工程の後に、前述した実施形態2で説明したような押圧工程をさらに有していてもよい。
(枠体形成用膜設置工程)
【0153】
図14Cに示す枠体形成用膜設置工程では、積層体60に枠体形成用膜30’を設ける。枠体形成用膜30’は、任意の形態で設置してもよいが、積層体60の対向する2つの側面(厚さ方向の面)ならびにそれらに接続する上面及び下面(積層体60の積層方向についての上面及び下面)の少なくとも一部に設置するのが好ましい。このような構成により、例えば、熱伝導シート300において、前述したような枠体30の機能をより効果的に発揮させることができる。また、例えば、後の切断工程における積層体60の不本意な変形をより効果的に抑制することができ、熱伝導シート300において、不本意な厚さのばらつきが生じることをさらに効果的に防止することができる。
【0154】
特に、図示の構成では、積層体60の対向する2つの側面に加えて、上面及び下面の全体にわたって、連続的に枠体形成用膜30’を設置している。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0155】
また、実施形態3に係る熱伝導シート300では、積層体60に枠体形成用膜30’を巻回することにより、枠体設置工程を行う。これにより、本工程中に、不本意に枠体形成用膜30’が剥離したり、脱落してしまうことをより効果的に防止することができ、前述したような効果がより確実に発揮される。また、切断工程での積層体60の形状の安定性が特に優れたものとなる。
【0156】
積層体60に枠体形成用膜30’を巻回する場合、枠体形成用膜30’の厚さは、3μm以上100μm以下であるのが好ましく、5μm以上80μm以下であるのがより好ましく、7μm以上50μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、熱伝導シート300の柔軟性を十分に優れたものとしつつ、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0157】
枠体形成用膜30’の構成材料としては、前述した枠体30の構成材料と同様のものが挙げられ、前述した枠体30で説明したのと同様の条件を満足するものであるのが好ましい。これにより、前述したような効果が得られる。
[実施形態4に係る熱伝導シートの製造方法]
【0158】
以上の例では、熱伝導部形成用シート10’を樹脂材料20’を介して積層する方法について説明したが、本発明は熱伝導部と接合部の積層構造を得る方法を上記に限定するものでない。例えば熱伝導部形成用シート10’に樹脂材料20’を含浸させた状態で積層し、積層状態の熱伝導部形成用シート10’に対して樹脂材料20’を硬化させることで、熱伝導部と接合部の積層構造を得ることもできる。また積層方法も、シート状に切断した熱伝導部形成用シート10’を多数枚積層する他、予め形成された一の熱伝導部形成用シート10’を巻き取ったり折曲させることで、積層状態とすることができる。
【0159】
例えば、図15に示すように予め作成された熱伝導部形成用シート10’をロール状に巻き取った巻取体RL1を準備しておく。そして熱伝導部形成用シート10’の一端を巻取体RL1から引き出して、液体状の樹脂材料20’に含浸させる。例えば液体状の樹脂材料20’を蓄えた樹脂槽BTに、ロールから引き出した熱伝導部形成用シート10’を浸漬させる。あるいはキスコートやダイコート等のコーターを用いたり、スプレーで塗布してもよい。
【0160】
このようにして樹脂材料20’を含浸あるいは塗布した熱伝導部形成用シート10’を、再び別のロールRO2に巻き取る。この状態で、樹脂材料20’を硬化させることで、積層体60Dを得ることができる。例えば、熱可塑性樹脂や紫外線硬化性樹脂を用いることで、未硬化の樹脂材料20’を含浸された積層状態にある熱伝導部形成用シート10’に対して、加熱や紫外線照射などの処理によって樹脂材料20’を硬化させた積層体60Dを、巻取体RL2として得ることが可能となる。樹脂材料20’の硬化に際しては、例えば図16に示すように閉塞空間CS内に置かれた巻取体RL2を回転させながら、ヒータHTで加熱、あるいは紫外線を照射する。
【0161】
またこの方法であれば、樹脂材料20’が未硬化の状態で樹脂の含浸量を調整することが可能となる。予め巻取体RL1の重量を測定しておくことで、樹脂材料20’を含浸した巻取体RL2の重量を測定すれば、その差分から、樹脂材料20’の含浸量が計算できる。この樹脂材料20’の含浸量が、熱伝導部形成用シート10’に対して多すぎる場合は、巻取体RL2を回転させて遠心分離によって樹脂材料20’を払い落とし、所望の含浸量に調整することができる。また樹脂材料20’の含浸量が少なすぎる場合は、再度樹脂材料20’を熱伝導部形成用シート10’に含浸させるように、含浸工程に差し戻すことができる。また、液体状の樹脂材料20’が未硬化の状態で巻取体RL2を放置して、樹脂材料20’の一部を自然に滴下させて含浸量を調整してもよい。ただしこの場合も、樹脂材料20’が巻取体RL2に均一に分布されるよう、巻取体RL2を一定の速度で回転させることが好ましい。
【0162】
このようにして所望の量の樹脂材料20’を含浸させた巻取体RL2に対して、樹脂材料20’を硬化させて、積層体60Dを得ることができる。さらに、この積層体60Dに対して、切断工程を行う。切断は、図17の断面図に示すように、巻取体RL2の巻取軸方向に垂直な平面を切断面として、切断面同士の互いに平行とし、その間隔を熱伝導シート100の厚さに対応させて断裁する。これにより、切断された熱伝導シートの原紙が得られる。さらに、得られた熱伝導シートの原紙を、必要に応じて所望の大きさに切断して(例えば図17において破線で示す矩形状)、熱伝導シート100が得られる。なお得られる熱伝導シート100における熱伝導部10と接合部20の界面は、図3に示したような直線状とならず、円弧状に湾曲したものとなる。また、熱伝導シート原紙の切断された位置によって、そのパターンも多少相違する。
【0163】
また、積層体60Dの切断位置は、図17に示したようなロールRO2と直交する平面に限らず、例えば図18の側面図に示すように、ロールRO2に対して傾斜させた平面で切断してもよい。この切断方法であれば、切断された熱伝導シート原紙の、熱伝導部10と接合部20の界面を、図7の断面図に示したような傾斜させた状態とすることができる。
【0164】
あるいは図19A図19Cの断面図に示すように、巻取体RL2のロールRO2と平行な平面を切断面としてもよい。この場合も切断面同士の互いに平行とし、その間隔を熱伝導シート100の厚さに対応させて断裁する。これにより、切断された熱伝導シートの原紙が得られる。さらに、得られた熱伝導シートの原紙を、必要に応じて所望の大きさに切断して、熱伝導シート100が得られる。なお得られる熱伝導シート100における熱伝導部10と接合部20のパターンは、図3に示したような各位置で等しい幅や角度とならず、若干傾斜したものとなる。また、熱伝導シート原紙の切断された位置によって、その幅や角度も多少相違する。図19Aの例では、切断位置をロールRO2を通らない位置としたが、この例に限らず、例えば図19の断面図に示すように、ロールRO2を通る半径に沿った断面としてもよい。この切断方法であれば、切断された熱伝導シート原紙の、熱伝導部10と接合部20のパターンを、切断位置によらず概ね一定とすることができ、一の積層体60Dから均質な熱伝導シート100を得ることが可能となる。あるいは図19Cの断面図に示すように、ロールRO2を中心とする一定の領域内で、切断面を互いに平行として切断すると共に、残りの領域はこの切断面と直交する方向に設定してもよい。この方法であれば、図19Bの断面図のように切断面を斜めにすることなく、図19Cにおいて垂直方向と水平方向の2方向のみとできるので、切断を容易に行える利点が得られる。
【0165】
なお、以上のように熱伝導部形成用シート10’を巻き取る構成においては、図15に示したように必ずしも断面視を真円状に巻き取る構成に限らず、楕円状やトラック形状等としてもよい。また上述した例では芯体としてロールRO2を用いて巻き取る構成を示したが、芯体のないコアレスの巻取体としてもよい。
【0166】
さらに以上の例では、熱伝導シート100は平面視矩形状とした例を説明したが、発熱体HGや放熱具の形状に応じて熱伝導シート100の形状は適宜設定できることはいうまでもない。
【0167】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、熱伝導シートの製造方法においては、前述した工程に加え、他の工程(前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)をさらに有していてもよい。例えば、切断工程の後処理として、シートの表面を研磨する工程を有していてもよい。これにより、より好適に熱伝導部を外部に露出させることができると共に、表面粗さRaをより好適に調整することができる。また、前述した実施形態2に係る熱伝導シートの製造方法において、押圧工程を省略してもよい。
【0168】
また、本発明の熱伝導シートは、前述した方法で製造されたものに限定されず、いかなる方法で製造されたものであってよい。また、本発明の熱伝導シートは、前述した熱伝導部、接合部、枠体以外の構成を有するものであってもよい。
【0169】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に温度条件を示していない処理、測定については、20℃で行った。
(1)熱伝導シートの製造
【0170】
各実施例及び各比較例の熱伝導シートを以下のようにして製造した。
(実施例1)
(熱伝導部形成用シートの製造)
【0171】
まず、樹脂繊維としてのアラミド樹脂と、鱗片状黒鉛としての膨張化黒鉛を混抄し(混抄工程)、その後、20℃でプレス圧力1MPaの加圧処理(第一加圧工程)を行い、さらに、140℃で乾燥処理を施した後に、プレス圧力5MPaで180℃の加圧処理を2分間行い(第二加圧工程)、さらに150mm×150mmの正方形状に切断することにより、複数枚の熱伝導部形成用シートを得た。得られた熱伝導部形成用シート中において、鱗片状黒鉛は、その厚さ方向が、熱伝導部形成用シートの厚さ方向に沿うように配向していた。また、得られた熱伝導部形成用シートの厚さは、65μmであった。
(積層体の製造)
【0172】
次に、熱伝導部形成用シートのうちの1枚をガラス板に載置し、当該熱伝導部形成用シートの一方の主面(上面)全体に、樹脂材料として無溶媒一液型のエラストマー生地であるセルム・エラストマー(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社製)3gを塗工した。当該セルム・エラストマーは、環状分子と、直鎖状の分子構造を有し環状分子を串刺し状に包接する第一ポリマーと、第一ポリマーの両端付近に設けられた封鎖基とを有するポリロタキサン、及び第二ポリマー含み、環状分子を介して、ポリロタキサンと第二ポリマーとが結合しているものであり、前述した好ましい条件を満足するものである。
【0173】
次に、上記のようにして樹脂材料が塗工された熱伝導部形成用シート上に、樹脂材料が塗工されていない前記熱伝導部形成用シートを載置した。上記のように、最上層の熱伝導部形成用シートへのセルム・エラストマー(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社製)の塗工と、そこへの樹脂材料が塗工されていない前記熱伝導部形成用シートの載置を繰り返し行うことにより、25枚の熱伝導部形成用シートと25層の樹脂材料層とを備えた積層体が得られた。
【0174】
次に、この積層体を2枚のガラス板で挟み込み、クランプを用いて加圧して、前記の各層を圧着した。この状態で、150℃×3時間の加熱処理を行い、樹脂材料としてのセルム・エラストマーを硬化させた。
(熱伝導シートの製造)
【0175】
次に、上記のようにして得られた積層体(樹脂材料としてのセルム・エラストマーが硬化した状態の積層体)をその厚さ方向に切断し(切断工程)、さらに、表面を紙やすりで研磨すること(研磨工程)により、図2図4に示すような熱伝導シートを得た。
【0176】
このようにして得られた熱伝導シートは、層状をなす複数の熱伝導部と、前記各熱伝導部を接合する接合部とを備え、全体としてシート状をなすものであった。そして、熱伝導部は、鱗片状をなす黒鉛、及び樹脂繊維を含む材料で構成され、前記熱伝導シートの一方の主面から他方の主面にわたって設けられたものであり、記接合部は、柔軟性を有する樹脂材料で構成されたものであり、黒鉛は、その厚さ方向が、層状の前記熱伝導部の厚さ方向に沿うように配向しており、熱伝導シートの法線と熱伝導部の法線とのなす角が90°であった。
【0177】
言い換えると、本実施例で得られた熱伝導シートは、当該熱伝導シートの面方向に沿って互いに交差する軸をx軸及びy軸と設定し、x軸及びy軸と交差する軸をz軸と設定したとき、y軸方向に比してz軸方向の熱伝導性が高く、かつ、x軸方向に延在する複数の熱伝導部と、樹脂材料で構成され、各熱伝導部をy軸方向に接合する接合部20とを備えたものであり、熱伝導部は、鱗片状をなし、当該鱗片の厚さ方向がy軸方向に沿うような配向を有する黒鉛と、樹脂繊維とを含む材料で構成されているものであった。
【0178】
このようにして得られた熱伝導シートの厚さは0.3mmであった。熱伝導シートの両面の表面粗さRaは50μmであった。また、熱伝導シートにおいて、熱伝導部形成用シートにより形成された熱伝導部の厚さは65μmであり、樹脂材料としてのセルム・エラストマーの硬化物で構成された接合部20の厚さは50μmであった。また、熱伝導部中における樹脂繊維の含有率は25質量%、鱗片状黒鉛の含有率は75質量%であった。
(実施例2~5)
【0179】
熱伝導部形成用シートの製造に用いる樹脂繊維、鱗片状黒鉛の条件を変更すると共に、接合部形成用の樹脂材料の種類、塗布条件、熱伝導部形成用シートと樹脂材料との積層条件を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。
(実施例6)
【0180】
切断工程で、熱伝導部形成用シートの積層方向(熱伝導部形成用シートの法線方向)と切断方向とのなす角を19°にすると共に、切断工程と研磨工程との間に、切断工程で得られたシート部材をその厚さ方向に押圧する押圧工程を設けた以外は、前記実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した(図2図6図7参照)。押圧工程での圧力は、0.2MPaとした。
(実施例7~10)
【0181】
熱伝導部形成用シートの製造に用いる樹脂繊維、鱗片状黒鉛の条件を変更すると共に、接合部形成用の樹脂材料の種類、塗布条件、熱伝導部形成用シートと樹脂材料との積層条件、切断工程での熱伝導部形成用シートの積層方向(熱伝導部形成用シートの法線方向)と切断方向とのなす角を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例6と同様にして熱伝導シートを製造した。
(実施例11)
【0182】
まず、前記実施例1と同様にして、25枚の熱伝導部形成用シートと25層の樹脂材料層とを備えた積層体(樹脂材料としてのセルム・エラストマーが硬化した状態の積層体)を得た。
【0183】
次に、当該積層体の対向する2つの側面、上面及び下面の全体を、11μmのポリ塩化ビニリデン製のフィルムで巻回し、平均幅100μmの枠体形成用膜を設けた。
【0184】
その後、上記のようにして得られた枠体形成用膜が設けられた状態の積層体を、その厚さ方向に切断し(切断工程)、さらに、表面を紙やすりで研磨すること(研磨工程)により、熱伝導部と接合部とを備えるシート本体と、その外周に接触して設けられた枠体とを備える熱伝導シートを得た(図8参照)。
(実施例12~15)
【0185】
熱伝導部形成用シートの製造に用いる樹脂繊維、鱗片状黒鉛の条件を変更すると共に、接合部形成用の樹脂材料の塗布条件、熱伝導部形成用シートと樹脂材料との積層条件、枠体形成用膜の条件を調整することにより、表2に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例6と同様にして熱伝導シートを製造した。
(実施例16)
【0186】
まず、前記実施例1と同様にして、25枚の熱伝導部形成用シートと25層の樹脂材料層とを備えた積層体(樹脂材料としてのセルム・エラストマーが硬化した状態の積層体)を得た。
【0187】
次に、当該積層体の対向する2つの側面、上面及び下面の全体を、11μmのポリ塩化ビニリデン製のフィルムで巻回し、平均厚さ100μmの枠体形成用膜を設けた。
【0188】
その後、上記のようにして得られた枠体形成用膜が設けられた状態の積層体を、切断し(切断工程)、切断工程で得られたシート部材をその厚さ方向に押圧し(押圧工程)、さらに、表面を紙やすりで研磨すること(研磨工程)により、熱伝導部と接合部とを備えるシート本体と、その外周に接触して設けられた枠体とを備える熱伝導シートを得た(図8参照)。切断工程では、熱伝導部形成用シートの積層方向(熱伝導部形成用シートの法線方向)と切断方向とのなす角を19°に調整した。
(比較例1)
【0189】
本比較例では、前記実施例1で製造した熱伝導部形成用シートを、そのまま熱伝導シートとして用いた。すなわち、本比較例の熱伝導シートにおいて、鱗片状黒鉛は、その厚さ方向が、熱伝導シートの厚さ方向に沿うように配向していた。
(比較例2)
【0190】
熱伝導部形成用シートの製造時において、鱗片状黒鉛の代わりに球状の黒鉛(黒鉛粒子)を用いた以外は、前記実施例6と同様にして熱伝導シートを製造した。黒鉛粒子の平均粒径は、20μmであった。
【0191】
前記各実施例及び比較例の熱伝導シートの構成を表1、表2にまとめて示す。また、いずれの熱伝導シートも、両方の主面に、各熱伝導部及び各接合部が露出していた。なお、表1、表2中、セルム・エラストマー(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社製)の硬化物を「SeRM」、柔軟性フェノール樹脂(DIC社製、J-325)の硬化物を「PH」で示した。また、表1、表2中、熱伝導シートの法線と熱伝導部の法線とのなす角をθ1で示し、熱伝導部形成用シートの積層方向と切断方向とのなす角をθ2で示した。また、前記各実施例で用いた鱗片状黒鉛は、いずれも、平均扁平度が3以上100以下であり、平均短軸長が0.2μm以上50μm以下のものであった。また、前記各実施例の熱伝導シートでは、いずれも、熱伝導部を構成する全鱗片状黒鉛のうち、鱗片状黒鉛の厚さ方向(法線方向)とy軸方向とのなす角が10°以下のものを割合が、個数基準で、80%以上であった。
【0192】
【表1】
【0193】
【表2】
(2)評価
【0194】
まず、実施例1~16及び比較例1~2に係る各熱伝導シートの熱伝導率を、レーザーフラッシュ法を用いて測定した。この結果を、表3に示す。なお、レーザーフラッシュ法を用いた熱伝導率の測定には、Netzsch社製熱伝導率測定装置LFA447 NanoFlashを用いた。
【0195】
【表3】
【0196】
次に、市販のパーソナルコンピューター(富士通社製、FMVD13002)のマザーボード上のCPU上に、グリスを介して固定された冷却フィンを取り外し、CPU上のグリスを丁寧に拭き取った。次に、CPU上に、その大きさに切り取った前記実施例1の熱伝導シートを設置し、当該熱伝導シートに冷却フィンを固定し直した。その後、20℃に温度管理された室内で、パーソナルコンピューターを起動し、所定の処理を行わせた際のCPU温度を、Speccy(Piriform Ltd社製)により測定した。
【0197】
前記実施例2~16及び各比較例の熱伝導シートについても同様の測定を行った。上記測定を行った際の、前記所定の処理を開始してから30分後のCPU温度を、以下の基準に従い評価した。CPU温度が低いほど、熱伝導シートの厚さ方向への熱伝導性に優れていると言える。
A:CPU温度が60℃未満である。
B:CPU温度が60℃以上65℃未満である。
C:CPU温度が65℃以上70℃未満である。
D:CPU温度が70℃以上75℃未満である。
E:CPU温度が75℃以上である。
【0198】
これら実施例1~16及び比較例1~2に係る各熱伝導シートの評価結果を、以下の表4に示す。
【0199】
【表4】
【0200】
表3から明らかなように、本実施形態に係る熱伝導シートは、いずれも、厚さ方向への熱伝導性に優れていた。また、本実施形態に係る熱伝導シートは、いずれも、柔軟性に優れており、高温部材であるCPUの表面への形状追従性に優れていた。また、上記の評価に用いた各熱伝導シートをパーソナルコンピューターから取り出し、その外観を観察したところ、実施例6~10及び16の熱伝導シートでは、熱伝導部の座屈が防止され、熱伝導シート全体にわたって、熱伝導部と接合部とが密着した状態を保持していた。また、本実施形態に係る熱伝導シートでは、このような優れた特性を有する熱伝導シートを好適に製造することができた。特に、枠体形成用膜を用いた前記実施例11~16では、積層体の切断をより容易に行うことできた。これに対し、各比較例の熱伝導シートでは、満足のいく結果が得られなかった。
【0201】
なお、熱伝導シートの代わりに、ダイヤモンドグリスを用いて、前記と同様の評価を行ったところ、CPU温度は83℃となった。
【0202】
また、熱伝導部の厚さT10を50μm以上300μm以下の範囲内で変更し、接合部の厚さT20を0.1μm以上200μm以下の範囲内で変更し、熱伝導部中における鱗片状黒鉛の含有率を10質量%以上90質量%以下の範囲内で変更し、熱伝導部中における樹脂繊維の含有率を10質量%以上90質量%以下の範囲内で変更し、樹脂繊維の平均長さを1.5mm以上20mm以下の範囲内で変更し、樹脂繊維の平均幅を1.0μm以上50μm以下の範囲内で変更し、熱伝導部中における樹脂繊維の含有率XF[質量%]に対する鱗片状黒鉛の含有率XG[質量%]の比率(XG/XF)を0.10以上9.0以下の範囲内で変更し、熱伝導シート全体に占める熱伝導部の体積率を30体積%以上90体積%以下の範囲内で変更し、熱伝導シート全体に占める接合部の体積率を10体積%以上70体積%以下の範囲内で変更し、枠体の幅Wを30μm以上1000μm以下の範囲内で変更した以外は、前記各実施例及び各比較例と同様にして熱伝導シートを製造し、前記と同様にして評価を行ったところ、前記と同様の傾向が確認された。
【0203】
また、枚葉の熱伝導部形成用シートを用いる代わりに、帯状の熱伝導部形成用シートを用い、当該帯状の熱伝導部形成用シートに樹脂材料を付与して、巻回する方法、及び蛇腹状に折りたたむ方法を採用した以外は、前記各実施例及び各比較例と同様にして熱伝導シートを製造し、前記と同様にして評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
(積層体の断面写真)
【0204】
さらに、上述した実施例における熱伝導シートの断面の拡大写真を、図20図23に示す。これらの図において、図20は実施例4に係る熱伝導シート、図21は実施例1に係る熱伝導シート、図22図23の要部拡大断面写真、図23は実施例1に係る熱伝導シートの要部拡大断面写真をそれぞれ示している。また各図の上下方向が、熱伝導シートの厚さ方向に該当する。さらに図20は高密度品、図21は低密度品にあたる。図22に示すように、高密度品においては、熱伝導部10の厚さが約65μmであり、層状の熱伝導部10同士の間に接合部20として樹脂材料が存在することが判る。このように接合部20は、必ずしも中実な層状に存在する必要はなく、部分的にあるいは離散的に樹脂材料で接合された部材として存在する。いいかえると、熱伝導部10同士の間には比較的大きな比率で空隙層が存在する。このような層状の熱伝導部10間の隙間は、部分的に層状に形成されており、層間の隙間として存在する。このような空隙層の存在により、熱伝導シートの柔軟性や可撓性が高められ、熱伝導シートと面接触する発熱体HGや放熱器の表面の形状や凹凸に追従させて、これらの界面で密着させやすくなる。また、熱伝導部10にも空隙部を設けることで、このような熱伝導シートの柔軟性が高められる。その一方で、熱伝導部10の空隙部の一部に樹脂材料を侵入させることで、熱伝導部10同士の間に空隙層を形成しつつもこれら熱伝導部10同士を接合させる強度を保つことが可能となる。
【0205】
また、図23の低密度品においては、このような熱伝導部10間の空隙層がより大きな傾向が表れている。すなわち、より軽量で変形性に富んだ熱伝導シートが得られる。また、接合部20は空隙層を形成しつつも、部分的に樹脂材料で接合されているため、層状の熱伝導シートが維持される。
【0206】
以上の通り、本発明の実施形態に係る熱伝導シート及びその製造方法によれば、厚さ方向への熱伝導性に優れ、柔軟性にも優れる熱伝導シートを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明に係る熱伝導シート及びその製造方法は、コンピュータに内蔵されるCPUやMPU、GPU、SoC等の電子部品やLED、液晶、PDP、EL、携帯電話等の発光素子等の電子部品の放熱シート等として好適に利用できる。また、車両用のヘッドライト、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両用の電源として用いられる電池ブロック、半導体駆動素子やMCU等の発熱体とヒートシンクとの間に介在される緩衝シートとしても好適に利用できる。
【符号の説明】
【0208】
1000…放熱装置
100、200、300…熱伝導シート
100’…シート本
0…熱伝導部
10’…熱伝導部形成用シート
11…黒鉛(鱗片状黒鉛)
12…樹脂繊維
20…接合部
20’…樹脂材料
30…枠体
30’…枠体形成用膜
40…ポリロタキサン
41…環状分子
42…第一ポリマー
43…封鎖基
50…第二ポリマー
60、60B、60C、60D…積層体
HS…放熱器
HG…発熱体
T100…厚さ
T10…厚さ
T20…厚さ
N100…法線
N10…法線
W…幅
RL1、RL2…巻取体
RO2…ロール
BT…樹脂槽
CS…閉塞空間
HT…ヒータ
図1
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