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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】食事介護又は介助用のトレーニング装置
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20240412BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B23/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020063324
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162682
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)[ウェブサイトの掲載日]令和元年7月5日 [ウェブサイトのアドレス]https://www.jstage.jst.go.jp/article/ijat/13/4/13_499/_article/-char/ja (2)[発行日]令和元年7月5日 [刊行物]International Journal of Automation Technology,Vol.13,No.4,p499-505,富士技術出版 (3)[開催日]令和元年8月4日 [集会名、開催場所]第17回日本口腔ケア協会学術大会 国立大学法人旭川医科大学 看護学科棟(旭川市緑が丘東2条1-1-1) (4)[発行日]令和元年8月12日 [刊行物]地域ケアリング2019年8月号,Vol.21,No.9,p59-61,株式会社北陵館 (5)[開催日]令和元年9月14日 [集会名、開催場所]日本口腔看護研究会 第6回北海道地区セミナー 公立大学法人札幌市立大学 看護学部(札幌市中央区北11条西13丁目) (6)[発行日]令和元年11月8日 [刊行物]第62回自動制御連合講演会講演論文集,PDF,1K3-03,日本機械学会 (7)[開催日]令和元年11月8日 [集会名、開催場所]第62回自動制御連合講演会 札幌コンベンションセンター(札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1) (8)[ウェブサイトの掲載日]令和2年3月3日 [ウェブサイトのアドレス]https://shingi.jst.go.jp/list/iryo/2019_iryo.html
(73)【特許権者】
【識別番号】509180566
【氏名又は名称】公立大学法人札幌市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】三谷 篤史
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-173504(JP,A)
【文献】特開2012-181364(JP,A)
【文献】特開2010-085687(JP,A)
【文献】特開2018-120205(JP,A)
【文献】特開2019-152461(JP,A)
【文献】特開2008-064824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舌が再現された弾性部材からなる舌再現モデルと、
前記舌再現モデルの変形の程度を検出する変形度センサー、及び、前記舌再現モデルに印加された圧力を検出する圧力センサーの少なくともいずれかからなる、前記舌再現モデルに設けられた複数のセンサーと、
前記舌再現モデルに食事用の器具が接触した場合に、前記複数のセンサーにおける検出結果に基づいて、前記舌再現モデルに接触した前記器具の位置及び接触力を評価する評価手段とを備えており、
前記舌再現モデルが、前記器具が接触する表面と反対側の表面に形成された凹部である反対側凹部を有しており、
前記反対側凹部内に別の凹部が形成されており、
前記複数のセンサーが、前記変形度センサーとして、前記別の凹部と対向し、前記別の凹部の内表面までの距離を検出するセンサーを含んでいることを特徴とする食事介護又は介助用のトレーニング装置。
【請求項2】
前記複数のセンサーが、一直線状に並ばないように配置された3つのセンサーを含んでおり、
前記評価手段が、前記3つのセンサーにおける前記舌再現モデル上の基準位置に前記器具が接触した際の検出値との違いに基づいて前記器具の位置を評価することを特徴とする請求項1に記載の食事介護又は介助用のトレーニング装置。
【請求項3】
前記舌再現モデルが、前記器具が接触する表面に形成された凹部である接触側凹部を有しており、
前記複数のセンサーが、前記接触側凹部に対応する位置に配置された前記圧力センサーを含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の食事介護又は介助用のトレーニング装置。
【請求項4】
前記舌再現モデルが、前記器具が接触する表面と反対側の表面に形成された凹部である反対側凹部を有しており、
前記反対側凹部内に突起が形成されており、
前記複数のセンサーが、前記圧力センサーとして、前記突起と対向し、前記舌再現モデルに前記器具が押し付けられた際に前記突起から作用する圧力を検出するセンサーを含んでいることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の食事介護又は介助用のトレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食事介護又は介助用のトレーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食事介護又は介助用のトレーニング装置の一例として特許文献1の装置がある。特許文献1の装置においては、口腔ケア(スプーンテクニック等)の訓練のため、くちびると舌に対応する部分に圧力センサーが設けられた口腔再現モデルが用いられる。そして、口腔再現モデルに対して実施された口腔ケアの訓練に関し、圧力センサーの検出結果に基づき、訓練において適切な順序で口腔ケアのステップが実施されたかが評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-173504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置は、上記の通りスプーンテクニック等の口腔ケアをステップの順序の観点で評価するものである。しかしながら、かかる観点以外においても、スプーン等の食事用の器具が適切に使用されたか否かを多面的に評価する装置が求められている。
【0005】
本発明の目的は、スプーン等の食事用の器具が適切に使用されたか否かを多面的に評価することができる食事介護又は介助用のトレーニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の食事介護又は介助用のトレーニング装置は、舌が再現された弾性部材からなる舌再現モデルと、前記舌再現モデルの変形の程度を検出する変形度センサー、及び、前記舌再現モデルに印加された圧力を検出する圧力センサーの少なくともいずれかからなる、前記舌再現モデルに設けられた複数のセンサーと、前記舌再現モデルに食事用の器具が接触した場合に、前記複数のセンサーにおける検出結果に基づいて、前記舌再現モデルに接触した前記器具の位置及び接触力を評価する評価手段とを備えている。
【0007】
本発明の食事介護又は介助用のトレーニング装置によると、舌再現モデルに複数のセンサーが設けられ、これらのセンサーの検出結果が示す器具の位置及び接触力に基づいて器具の使用状況が評価される。したがって、器具をモデルに接触させた際にその器具が適切に使用されているかを、器具の位置及び接触力という多面的な観点で適切に評価できる。なお、かかる評価の対象となる器具の位置とは、モデルの表面における器具の接触位置であってもよいし、モデルに接触した際の器具の姿勢(例えば、モデルに対する傾き)であってもよい。また、接触位置及び姿勢の両方が評価の対象となってもよい。
【0008】
また、本発明においては、前記複数のセンサーが、一直線状に並ばないように配置された3つのセンサーを含んでおり、前記評価手段が、前記3つのセンサーにおける前記舌再現モデル上の基準位置に前記器具が接触した際の検出値との違いに基づいて前記器具の位置を評価することが好ましい。これによると、舌再現モデルに少なくとも3つのセンサーが設けられていると共に、これらのセンサーが一直線状に並んでいない。仮に、これらのセンサーが一直線状に並んでいるとすると、かかる一直線に関して対称な2点の一方に器具が接触した場合と他方に器具が接触した場合とをセンサーの検出結果に基づいて区別しにくい。これに対し、上記の通りセンサーが一直線状に並んでいないため、器具の位置を適切に評価しやすい。
【0009】
また、本発明においては、前記舌再現モデルが、前記器具が接触する表面に形成された凹部である接触側凹部を有しており、前記複数のセンサーが、前記凹部に対応する位置に配置された前記圧力センサーを含んでいることが好ましい。これによると、適切な接触位置である舌の凹部を再現するように接触側凹部を形成することで、被訓練者にとって器具の適切な接触位置の学習を可能にしている。
【0010】
また、本発明においては、前記舌再現モデルが、前記器具が接触する表面と反対側の表面に形成された凹部である反対側凹部を有しており、前記反対側凹部内に突起が形成されており、前記複数のセンサーが、前記圧力センサーとして、前記突起と対向し、前記舌再現モデルに前記器具が押し付けられた際に前記突起から作用する圧力を検出するセンサーを含んでいることが好ましい。これによると、器具が接触する表面(表側)とは反対側の表面(裏側)に圧力センサーが設けられている。このため、器具をモデルに接触させる際、センサーが器具と直接接触しないので、被訓練者にとって器具が舌に接触する感覚が適切に再現されやすい。一方、センサーがモデルの裏側に設けられていることで、器具がモデルに印加する圧力をセンサーが適切に検出しにくくなるとも考えられる。しかしながら、上述の構成によると、モデルの裏側に設けられた突起がセンサーに圧力を作用させ、これをセンサーが検出する。このため、器具が押し付けられた圧力がセンサーに伝わりやすく、センサーが適切に圧力を検出しやすい。
【0011】
また、本発明においては、前記舌再現モデルが、前記器具が接触する表面と反対側の表面に形成された凹部である反対側凹部を有しており、前記反対側凹部内に別の凹部が形成されており、前記複数のセンサーが、前記変形度センサーとして、前記別の凹部と対向し、前記別の凹部の内表面までの距離を検出するセンサーを含んでいることが好ましい。これによると、器具が接触する表面(表側)とは反対側の表面(裏側)に変形度センサーが設けられている。このため、器具をモデルに接触させる際、センサーが器具と直接接触しないので、被訓練者にとって器具が舌に接触する感覚が適切に再現されやすい。一方、センサーがモデルの裏側に設けられていることで、器具がモデルを変形させる度合いをセンサーが適切に検出しにくくなるとも考えられる。しかしながら、上記構成によると、反対側凹部の内表面の変動が、センサーが捉えやすい範囲内に収まるように、反対側凹部を構成することができる。したがって、センサーがモデルの変形度合いを適切に検出しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る食事介護又は介助用のトレーニング装置の概略構成図である。
図2図1のトレーニング装置に設けられた舌モデルを表側から見た図である。
図3図1のトレーニング装置に設けられた舌モデルを裏側から見た図である。
図4図2のIV-IV線断面図である。
図5図2のV-V線断面図である。
図6図1のトレーニング装置に設けられた舌モデルに取り付けられたセンサーユニットを、舌モデルの表側から見た図である。
図7図1のトレーニング装置に設けられた舌モデルを用いた第1実験例において荷重を加えた位置を示す図である。
図8図1のトレーニング装置に使用される口唇モデルを用いた第2実験例の状況を示す図である。
図9】第2実験例の結果を示すグラフである。
図10】第2実験例の別の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る食事介護又は介助用のトレーニング装置1について、図1図10を参照しつつ説明する。トレーニング装置1は、スプーン、フォーク等の食事用の器具を用いた食事介護又は介助を被訓練者に訓練させるために使用される。トレーニング装置1は、図1に示すように、被介護者の頭部を再現した頭部モデル10及び頭部モデル10と接続された制御部200(本発明における評価手段)を備えている。頭部モデル10は、上顎部11、下顎部12、顎関節部13、サーボモーター14及び舌モデル100(本発明における舌再現モデル)を含んでいる。下顎部12は上顎部11に対し、顎関節部13を介して開閉可能に取り付けられている。サーボモーター14は、下顎部12を上顎部11に対して開閉させる。舌モデル100は、上顎部11と下顎部12の間に挟まれている。下顎部12が上顎部11に対して閉じた位置にあるときには、舌モデル100が上顎部11と下顎部12の間に収容された状態となる。下顎部12が上顎部11に対して開いた位置(図1に示す位置)にあるときには、舌モデル100が外部に露出した状態(図1に示す状態)となる。舌モデル100には、後述の通り、食事用の器具の接触状況を検出する複数のセンサーが設けられている。制御部200は、サーボモーター14を制御する制御処理や、舌モデル100に設けられたセンサーからの検出信号に基づいて、食事用の器具が適切に使用されたかどうかを評価する評価処理を実行するコンピュータを備えている。コンピュータは、
PU(Central Processing Unit)等のハードウェアがソフトウェアに従って演算処理、入出力処理等の各種の情報処理を実行する。これにより、制御部200は、上記制御処理及び評価処理を実行する。
【0014】
なお、本実施形態においては上記の通り、舌モデル100のセンサーを用いて食事用の器具が適切に使用されたかどうかを評価する。しかし、舌モデル100に加えて口唇モデル300を頭部モデル10に設け、この口唇のモデルにセンサー(例えば、後述の第2実験例におけるセンサーユニット310)を設けてもよい。口唇モデル300は、上顎部11の前方に設けられた固定部19を介して、歯の前方に配置されるように頭部モデル10に固定される。この場合、器具が適切に使用されたかどうかが、舌モデル100への器具の接触状況のみならず、口唇のモデルへの器具の接触状況にも基づいて評価可能になる。
【0015】
次に、舌モデル100についてより詳細に説明する。以下の舌モデル100の説明において、上顎部11側を表側とし、下顎部12側を裏側とする。図2に示す舌モデル100の表面が表側の面となり、図3に示す舌モデル100の表面が裏側の面になる。また、以下の記載において、舌モデル100に形成された凹部等の形状の説明は、立体形状に関する旨の断りのない限り、図2中又は図3中の形状(平面形状)の説明を示すものとする。舌モデル100は、人体の舌を再現したモデルであり、シリコン等の合成樹脂製の弾性を有する部材からなる。舌モデル100は、図2及び図3に示すように、舌の先端及び付け根を結ぶ方向(以下、「縦方向」という。)に沿った一平面Cに関して概ね対称な立体形状を有している。舌モデル100は、図2図4に示すように、舌の立体形状を反映した本体部101と、本体部101における舌の付け根側の端部と連結した固定部102とを有している。固定部102は顎関節部13に固定されている。
【0016】
図2図4及び図5に示すように、舌モデル100の表側の面には、本体部101及び固定部102に跨る楕円状の凹部100a(本発明における接触側凹部)が形成されている。凹部100aは、浅いすり鉢状の内面を有する立体形状となるように形成されている。凹部100aにおける表側の面からの深さが最も大きい最深点は、食事用の器具が載置されるべき適切な位置100b(以下、器具適切位置100bという。)に対応する。図3図4及び図5に示すように、舌モデル100の裏側の面には、舌モデル100の外形と概ね相似な外形を有する凹部111が、本体部101及び固定部102の両方に跨って形成されている。図3に示すように、凹部111内における本体部101側の領域には、台形状の凹部112(本発明における反対側凹部)が形成されている。凹部112内には1個の円形の突起121及び2個の円形の凹部122が形成されている。突起121は、凹部112の内表面から下顎部12に向かって突出している。突起121は、縦方向に関して凹部112の中央よりやや舌の付け根側に配置されている。2個の凹部122は、凹部112における舌の先端側の端部付近に、平面Cに関して互いに対称に配置されている。凹部112における舌の付け根側の端部には1個の円形の凹部123が形成されている。凹部123は平面Cと舌モデル100の表面との交線上に配置されている。凹部111、112、122及び123は、舌モデル100の裏側の面からの深さに関し、図4及び図5に示すように、凹部111→凹部112→凹部122(123)の順に深くなっている。なお、凹部122の深さと凹部123の深さは等しい。
【0017】
舌モデル100の裏側の面には、図6に示すセンサーユニット130が固定されている。センサーユニット130は、基板131並びに基板131の一表面に固定された圧力センサー132及び変形度センサー133~135を有している。センサーユニット130は、凹部111の外形と概ね相似であり且つこれよりやや小さい外形を有している。センサーユニット130は、基板131において上記センサーが固定された表面が凹部111の内表面と向かい合うように凹部111内に嵌め込まれている。この状態において、図4図6に示すように、圧力センサー132が突起121と、変形度センサー133及び134が2個の凹部122と、変形度センサー135が凹部123とそれぞれ向かい合っている。変形度センサー133~135は、圧力センサー132を内部に含む二等辺三角形の頂点の位置に配置されている。つまり、これらのセンサーは一直線状に配置されていない。
【0018】
圧力センサー132は、静電容量方式のセンサーであり、突起121が接触するとその接触圧を検出する。変形度センサー133~135のそれぞれは、発光素子及び受光素子を有する距離センサーである。発光素子が光を出射すると、その光は物体に当たって反射し、その反射光が受光素子に受け取られる。この光の飛翔時間に基づいてセンサーから物体までの距離の検出が可能である。これに基づき、変形度センサー133及び134は、これらと向かい合った凹部122の内面までの距離を検出する。変形度センサー135は、これと向かい合った凹部123の内面までの距離を検出する。圧力センサー132及び変形度センサー133~135の検出結果を示す信号は、これらのセンサーから制御部200に送信される。例えば、これらのセンサーからの信号は電圧信号であり、その電圧値がこれらのセンサーが検出した圧力又は距離を示す。なお、各凹部122は、変形度センサー133、134が凹部122の内表面に生じた変動を検出しやすいように、また、凹部123は変形度センサー135が凹部123の内表面に生じた変動を検出しやすいように調整されている。つまり、変形度センサー133及び134から凹部122の内表面までの距離、および変形度センサー135から凹部123の内表面までの距離がこれらのセンサーによる検出に適した範囲に調整されている。
【0019】
次に、トレーニング装置1を用いた食事介護又は介助の訓練において制御部200が実行する処理について説明する。訓練が開始すると、制御部200は、下顎部12が上顎部11に対して閉じた位置にある状態から、サーボモーター14を制御して上顎部11に対して開いた状態となるように下顎部12を駆動する。これにより、舌モデル100がトレーニング装置1の外部へと露出する。これに応じ、訓練者は、スプーン、フォーク等の食事用の器具を舌モデル100上に載置する。このとき、食事用の器具が押し付けられることで舌モデル100が変形する。これによって突起121が圧力センサー132へと圧力を作用させると共に、凹部122と変形度センサー133及び134の距離並びに凹部123と変形度センサー135の距離が変動する。かかる圧力及び距離の変動が圧力センサー132及び変形度センサー133~135によって検出され、検出結果を示す信号が制御部200へと送信される。制御部200は、かかる信号に基づき、食事用の器具の接触位置が図2に示す器具適切位置100b(本発明における基準位置)からどちらにどれだけずれたかを評価する。
【0020】
具体的には、制御部200は、器具適切位置100bに器具が接触した場合における圧力センサー132及び変形度センサー133~135(以下、「4つのセンサー」という。)のそれぞれに関する基準値を保有している。そして、制御部200は、4つのセンサーのそれぞれにおける検出値を基準値に照らし、もって、器具の接触位置を評価する。例えば、変形度センサー133及び134における検出結果が、器具適切位置100bに器具が接触した場合と比べて変形度合いが大きいことを示すと共に、圧力センサー132及び変形度センサー135における検出結果が、器具適切位置100bに器具が接触した場合と比べて変形度合いが小さいことを示したとする。この場合、器具の接触位置が器具適切位置100bより舌の先端側にずれていると評価される。これは、器具適切位置100bよりも舌の先端側に配置された変形度センサー133及び134において変形度合いが大きくなったことと、器具適切位置100bよりも舌の付け根側に配置された変形度センサー135において変形度合いが小さくなったこととを各センサーの検出結果が示したためである。また、センサーの検出値と基準値の差の大きさに応じて、器具の接触位置と器具適切位置100bのずれの大きさが評価される。
【0021】
そして、制御部200は、器具の接触位置が器具適切位置100bの近傍にある場合に、圧力センサー132における検出結果に基づいて、舌モデル100への器具の接触力の大きさを評価する。かかる評価の結果、器具の接触力が適切な範囲内にある場合には、制御部200は、器具が適切に使用されたと評価する。一方、器具の接触力が適切な範囲内にない場合や、器具の接触位置が器具適切位置100bの近傍にない場合に、制御部200は、器具が適切に使用されていないと評価する。なお、器具の接触力が適切な範囲からどれだけずれているかや、器具の接触位置が器具適切位置100bからどれだけずれているかに基づき、制御部200が器具の使用の適切度を段階的に評価してもよい。制御部200は、評価結果をディスプレイ等の出力手段に表示させる。これに加えて、又は代えて、評価結果が制御部200によって各種の記録媒体に記録されてもよい。
【0022】
[第1実験例]
以下、舌モデル100及びセンサーユニット130に関して実施された第1実験例について説明する。本実験例では、舌モデル100に荷重を加えた場合の各センサーの検出信号(電圧信号)について、荷重を加える位置を変更しつつ電圧を測定した。まず、舌モデル100を平らな面上に水平に載置し、その上にスプーンを載置した。スプーンの接触位置は、舌モデル100に対して図7に示すように設定されたxy座標に関し、原点O((x,y)=(0,0))の位置とした。なお、原点Oは、器具適切位置100bに対応する。x方向は、図2及び図3に示す平面Cと直交する方向に対応する。y方向は、図2及び図3に示す縦方向に対応する。そして、スプーン上に様々な分銅を乗せることで舌モデル100に種々の大きさの荷重を加えつつ、4つのセンサーのそれぞれについて検出信号が示す検出値(電圧値(V))を測定した。その結果、スプーンによる舌モデル100に対する通常の接触力の範囲において、荷重に対する各センサーの検出値がいずれも概ね線形に変化した。
【0023】
次に、荷重を一定に保持しつつ、舌モデル100へのスプーンの接触位置を変えながら、各センサーの検出信号を測定した。表1はその結果を示す。表1の“位置”は荷重を加えた位置を上記xy座標系に従って示したものである。表1は、位置(0,0)の検出値を基準としたとき、その他の各位置における検出値が増加したか減少したかに応じてスプーンの接触位置が器具適切位置100bからいずれの方向にずれたかを判定できることを以下の通り示している。第1に、表1における位置(0,-5)に係る検出値の通り、変形度センサー135の検出値が基準から増加すると共にその他3つのセンサーの検出値が基準から減少することは、スプーンの接触位置が器具適切位置100bから-y方向にずれていることを示している。第2に、表1における位置(0,5)に係る検出値の通り、変形度センサー133及び134の検出値が基準から増加すると共にその他2つのセンサーの検出値が基準から減少することは、スプーンの接触位置が器具適切位置100bから+y方向にずれていることを示している。第3に、表1における位置(-5,0)に係る検出値の通り、変形度センサー133の検出値が基準から増加すると共にその他3つのセンサーの検出値が基準から減少することは、スプーンの接触位置が器具適切位置100bから-x方向にずれていることを示している。第4に、表1における位置(5,0)に係る検出値の通り、変形度センサー134の検出値が基準から増加すると共にその他3つのセンサーの検出値が基準から減少することは、スプーンの接触位置が器具適切位置100bから+x方向にずれていることを示している。
【0024】
[表1]
【0025】
表1に基づくスプーンの接触位置の評価方法について説明する。例えば、スプーンの接触力が本実験例の条件と大きく変わらない場合には、次の方法が採用されてよい。まず、表1の位置(0,0)のときの4つのセンサーによる検出値を基準値として制御部200に保持させておく。そして、トレーニング装置1を用いた食事介護又は介助の訓練において、各センサーにおける実際の検出値と基準値とを制御部200に比較させる。この比較結果に基づき、各センサーにおける実際の検出値が基準値からどのようにずれているかに基づいて制御部200にスプーンの接触位置を評価させる。例えば、変形度センサー133の検出値が基準値より大きいと共にその他3つのセンサーの検出値が基準値より小さい場合には、上記の通り、スプーンの接触位置が器具適切位置100bから-x方向にずれていると制御部200に評価させる。また、変形度センサー133及び134の検出値が基準値より大きいと共にその他2つのセンサーの検出値が基準値より小さい場合には、スプーンの接触位置が器具適切位置100bから+y方向にずれていると制御部200に評価させる。
【0026】
また、スプーンの接触力が本実験例の条件からある程度変化する場合には、次の方法が採用されてよい。まず、スプーンによる舌モデル100への接触力を様々に変えるとともに、上記のようにスプーンの接触位置を変更しつつ、4つのセンサーによる検出値を取得する。これにより、接触力ごとに表1のような検出値のテーブルが取得される。かかる接触力ごとのテーブルを、接触力の大きさ及び器具適切位置100bからのずれの方向と検出値を互いに対応付けつつ制御部200に保持させる。そして、トレーニング装置1を用いた食事介護又は介助の訓練において、4つのセンサーによる実際の検出値を上記基準テーブルと照らし合わせ、テーブルに含まれる値のうち、実際の検出値と最も近いものと対応する接触力の大きさ及びずれの方向を抽出させることにより、制御部200に接触位置及び接触力を評価させる。
【0027】
[第2実験例]
頭部モデル10に加える口唇のモデルである口唇モデル300及びこれに固定されたセンサーユニット310を図8に示すように作製した。口唇モデル300は、人体の口唇を再現したモデルであり、円弧状に湾曲した平板型の形状を有し、シリコン等の合成樹脂製の弾性を有する部材からなる。センサーユニット310は、センサー311~313及び樹脂製の基板314を有している。センサー311~313は、変形度センサー135と同様の構成を有する変形度センサーであり、基板314内に固定されている。センサー311~313は、口唇モデル300の延びる方向に沿って並んでおり、各位置において口唇モデル300の変形の程度を検出する。実験Aとして、かかる口唇モデル300及びセンサーユニット310を平らな面上に水平に載置し、さらにその上に分銅を置くことでセンサーユニット310に荷重を加えた。かかる操作を荷重の大きさを変えつつ実施し、各センサーにおける検出値を取得した。また、実験Bとして、口唇モデル300及びセンサーユニット310を平らな面上に置かれたスプーン上に載置し、さらにその上に分銅を置くことでセンサーユニット310に荷重を加えた。かかる操作を荷重の大きさを変えつつ実施し、各センサーにおける検出値を取得した。なお、実験Bは、口唇モデル300及びセンサーユニット310を頭部モデル10に設け、これに対してスプーンで訓練を行った場合に、スプーンが口唇モデル300の下部に接触してこれに荷重を加える状況を模擬的に再現したものである。
【0028】
実験Aの結果が図9に、実験Bの結果が図10にそれぞれ示されている。図9及び図10において、横軸は荷重の大きさ(g重)を示し、縦軸は検出値(V)を示す。これらのグラフによると、訓練において検出が必要である100~200g重の範囲を含めて、実験A及びBのいずれにおいても検出値が荷重に比例して上昇している。したがって、口唇モデル300及びセンサーユニット310は接触力を適切に検出することが可能な構成であることが分かる。
【0029】
[実施形態の効果]
以上説明した本実施形態によると、4つのセンサーを含むセンサーユニット130が舌モデル100に設けられ、これらのセンサーの検出結果が示す器具の接触位置及び接触力に基づいて器具の使用状況が評価される。したがって、器具を舌モデル100に接触させた際にその器具が適切に使用されているかを、器具の接触位置及び接触力という多面的な観点で適切に評価できる。
【0030】
また、本実施形態においては、上記の通り、センサーユニット130に設けられた4つのセンサーが一直線状に並んでいない。仮に、これらのセンサーが一直線状に並んでいるとすると、かかる一直線に関して対称な2点の一方に器具が接触した場合と他方に器具が接触した場合とをセンサーの検出結果に基づいて区別しにくい。これに対し、上記の通りセンサーが一直線状に並んでいないため、器具の接触位置を適切に評価しやすい。なお、センサーユニット130には、一直線状に並んでいない3つのセンサーが設けられてもよいし、一直線状に並んでいない5つの以上のセンサーが設けられてもよい。
【0031】
また、本実施形態においては、舌モデル100に凹部100aが形成されており、この凹部100aの最深点が、器具の最適位置である器具適切位置100bとなっている。したがって、適切な接触位置である舌の凹部を再現するように凹部100aを形成することで、被訓練者にとって器具の適切な接触位置の学習を可能にしている。
【0032】
また、本実施形態においては、器具が接触する表面(表側)とは反対側の表面(裏側)に圧力センサー132が設けられている。このため、器具を舌モデル100に接触させる際、圧力センサー132が器具と直接接触しないので、被訓練者にとって器具が舌に接触する感覚が適切に再現されやすい。一方、圧力センサー132が舌モデル100の裏側に設けられていることで、器具が舌モデル100に印加する圧力を圧力センサー132が適切に検出しにくくなるおそれもある。しかしながら、本実施形態の構成によると、舌モデル100の裏側に設けられた突起121が圧力センサー132に圧力を作用させ、これを舌モデル100が検出する。このため、器具が押し付けられた圧力が圧力センサー132に伝わりやすく、圧力センサー132が適切に圧力を検出しやすい。
【0033】
また、本実施形態においては、器具が接触する表面(表側)とは反対側の表面(裏側)に変形度センサー133~135が設けられている。このため、器具を舌モデル100に接触させる際、変形度センサー133~135が器具と直接接触しないので、被訓練者にとって器具が舌に接触する感覚が適切に再現されやすい。一方、変形度センサー133~135が舌モデル100の裏側に設けられていることで、器具が舌モデル100を変形させる度合いをセンサーが適切に検出しにくくなることも考えられる。しかしながら、本実施形態の構成によると、凹部122又は123の内表面までの距離を変形度センサー133~135が検出する。そして、凹部122又は123は、変形度センサー133~135が凹部122又は123の内表面に生じた変動を検出しやすいように調整されている。したがって、変形度センサー133~135における検出結果に基づいて舌モデル100の変形度合いを適切に検出しやすい。
【0034】
<変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0035】
例えば、上述の実施形態においては、圧力センサー132並びに変形度センサー133~135における検出結果に基づいて舌モデル100への器具の接触位置が評価されている。しかし、これら4つのセンサーにおける検出結果に基づいて舌モデル100に接触した器具の姿勢(例えば、舌モデル100に対する傾き)が評価されてもよい。舌モデル100への器具の接触位置が同じであっても、器具の姿勢によって4つのセンサーにおける検出結果が異なった結果になる場合がある。そこで、器具の姿勢を種々に変更した場合における4つのセンサーの検出結果を基準値として制御部200に保持させておき、訓練においては、4つのセンサーからの検出結果と基準値との比較に基づき、制御部200に器具の姿勢を評価させてもよい。
【0036】
また、上述の実施形態では、器具が適切に使用されたか否かに係る評価結果が出力手段に表示されるものとしている。しかしながら、評価結果が、頭部モデル10の顎関節部13に取り付けられたサーボモーター14により下顎部12を閉じさせることで示されてもよい。あるいは、トレーニング装置1の任意の位置に取り付けられたLEDの発光やスピーカーからの音声等によって評価結果が示されてもよい。
【0037】
また、上述の実施形態に加え、上顎部11に口唇モデル300及びセンサーユニット310を取り付けると共に、サーボモーター14が下顎部12を閉じさせることにより、モデルに器具をくわえさせ、さらに、その状態から器具を引き抜く際に器具が口唇モデル300に与える刺激の大きさ及び位置を、センサーユニット310における検出結果に基づいて制御部200に評価させてもよい。この場合、センサー311~313はセンサーユニット310上で一直線上に並んでいないことが好ましい。さらに、各センサーにおける検出結果に基づき、舌モデル100への器具の接触力の大きさ及び位置と、口唇モデル300への器具の接触力の大きさ及び位置とが、いずれも所定の基準条件を満たした場合に、下顎部12を閉じさせる動作と咀嚼動作(開閉動作)とを行うように制御部200がサーボモーター14を制御してもよい。
【0038】
また、上述の実施形態に加え、頭部モデル10の咽頭部に当たる位置に視覚センサーを設けると共に、当該視覚センサーから取得される画像に画像処理(画像認識処理)を施すことによって器具の動きを検出し、この動きを制御部200に評価させてもよい。
【0039】
また、上述の実施形態に加え、器具の動きをより適切に検出するために上顎部11の任意の位置に1つまたは複数のセンサーを取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 トレーニング装置
100a、111、112、121~123 凹部
100b 器具適切位置
100 舌モデル
130、310 センサーユニット
132 圧力センサー
133~135 変形度センサー
200 制御部
300 口唇モデル
311~313 センサー
図1
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図7
図8
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図10