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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】ピペット装置および分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
G01N35/10 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020079836
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021173710
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】395018251
【氏名又は名称】マッスル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 博文
(72)【発明者】
【氏名】奥 博司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 有棋
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-239697(JP,A)
【文献】特開平08-094640(JP,A)
【文献】実開昭58-032466(JP,U)
【文献】特開2011-163771(JP,A)
【文献】実開昭56-004859(JP,U)
【文献】特開昭56-112651(JP,A)
【文献】実開昭58-140468(JP,U)
【文献】特開2006-098226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吸引可能であるとともに、流体を所定の吐出精度で吐出可能である第1シリンジと、
流体を吸引可能であるとともに、流体を前記第1シリンジよりも高い精度で吐出可能である第2シリンジと、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジに対して共通に設けられるノズルと、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジを連通させるとともに、前記ノズルに連通される流路と、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジが個別または協動して前記ノズルから流体を吸引および吐出するように、前記第1シリンジおよび前記第2シリンジを駆動させる駆動部と、を備え、
前記第1シリンジは、
第1シリンジバレルと、
前記第1シリンジバレル内に配置され、前記第1シリンジバレルに対して相対的に進退可能である第1プランジャーと、
を有し、
前記第2シリンジは、
第2シリンジバレルと、
前記第2シリンジバレル内に配置され、前記第2シリンジバレルに対して相対的に進退可能である第2プランジャーと、
を有し、
前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルは、同期して前記第1プランジャーおよび前記第2プランジャーに対して進退可能であり、
前記駆動部は、
前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルを同期して駆動させるシリンダ駆動部と、
前記第1プランジャーおよび前記第2プランジャーのうちいずれか一方を、対応する前記第1シリンジバレルまたは前記第2シリンジバレルに対して進退するように駆動させるプランジャー駆動部と、
を有するピペット装置。
【請求項2】
前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルは、
共通のシリンジベースに設けられており、
前記シリンダ駆動部は、
前記シリンジベースを進退させることにより、前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルを、前記第1プランジャーおよび前記第2プランジャーに対して進退させ、
前記プランジャー駆動部は、
前記第1プランジャーを前記第1シリンジに対して進退させ、
前記第2プランジャーは、
作動せずに固定されており、
前記第1シリンジは、
前記第1プランジャーおよび前記シリンジベースに設けられた前記第1シリンジバレルが相互に進退することにより、流体の吸引および吐出を行い、
前記第2シリンジは、
前記第2プランジャーに対して前記シリンジベースに設けられた前記第2シリンジバレルが進退することにより、流体の吸引および吐出を行う、
請求項1に記載のピペット装置。
【請求項3】
前記第2シリンジは、
前記第2プランジャーに設けられるとともに、前記第2シリンジバレル内に連通する圧力測定流路と、
前記圧力測定流路内の流体の圧力を測定する圧力検知部と、
をさらに有する、
請求項2に記載のピペット装置。
【請求項4】
前記圧力測定流路は、
前記第2プランジャーの内部において、前記第2シリンジバレルから退出する方向の端部側に向けて形成されており、
前記圧力検知部は、
前記第2プランジャーと同軸上であって、前記第2プランジャーの端部側に設けられている、
請求項3に記載のピペット装置。
【請求項5】
前記第2シリンジは、
前記第2シリンジバレル内に配置され、前記第2シリンジバレルの内面との間に流体を貯溜するための貯溜空間となる間隙を形成する挿通部、を有し、
前記第2プランジャーが前記第2シリンジバレルに対して相対的に進退することにより、前記間隙内に流体を吸引するとともに、前記間隙内に貯留された流体を吐出させる、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のピペット装置。
【請求項6】
前記挿通部は、
前記第2プランジャーに対して一体に形成されており、前記第2プランジャーとともに前記第2シリンジバレルに対して相対的に進退する、
請求項5に記載のピペット装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のピペット装置を備えた、
分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試液等の流体を吸引および吐出するためのピペット装置、およびピペット装置を有する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試験や検査に用いられる試液等の流体を容器から吸引し、吸引した試液等を所定量ずつ別の容器等(例えばキュベット)に吐出するピペット装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ピペット装置は、シリンジおよび駆動装置を備えており、シリンジは、シリンジバレルおよびプランジャーを有している。プランジャーは、シリンジバレルの内部に挿通されており、シリンジバレルに対して進退可能である。シリンジバレルには、ノズルが連結されており、ノズルにはディスポーザブルチップが接続される。駆動装置がプランジャーをシリンジバレルに対して進退させることにより、容器からディスポーザブルチップ内に試液が吸引され、吸引された試液がキュベットに対して吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/193404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでピペット装置による流体の吸引容量は、シリンジの容積によって決定され、シリンジの容積は、シリンジバレルの断面積とプランジャーの移動量の積に比例する。流体の吸引容量を増大させるために、シリンジバレルの断面積を大きくすることが考えられる。
【0006】
一方、ピペット装置による流体の吐出量の分解能(分注精度)は、シリンジバレルの断面積とプランジャーの移動量の制御に関係している。このため、シリンジバレルの断面積を大きくした場合、微少量ずつ流体を吐出するには、プランジャーの移動量をより精密に制御する必要がある。
【0007】
しかしながら、プランジャーの移動量を精密に制御するには、複雑な駆動装置の制御機構が必要になる。このため、シリンジバレルの断面積が大きいシリンジでは、吐出量の分解能に限界があった。
【0008】
このように、シリンジへの流体の吸引容量と、吐出量の分解能は、使用するシリンジの容積および断面積により決定されるため、1台のピペット装置で大容量の流体の吸引と吐出、および微少量の流体の高精度な吐出とを両立させることは困難であった。
【0009】
また、流体の吐出量の分解能を向上させるためには、シリンジバレルの断面積を小さくしてシリンジを小容量にすることが考えられる。しかしながら、小容量のシリンジを製作するにはシリンジバレルの内径およびプランジャー径を小さくする必要がある。細く長いシリンジバレルを精度よく、またシリンジバレル内面の表面粗さを小さく仕上げることは容易ではない。
【0010】
また、プランジャー径を細くした場合、シリンジバレルと同軸でプランジャーを駆動させなければプランジャーの変形や、プランジャーの変形によりガスケットの偏摩耗が発生して流体の漏れが発生するなど、シリンジの作動や耐久性の点で問題がある。
【0011】
本発明の第1の目的は、大容量の流体の吸引と吐出、および微少量の流体の高精度な吐出とを両立させたピペット装置を提供することであり、第2の目的は、シリンジバレルの加工が容易であって耐久性が高い小容量のシリンジを備えたピペット装置および分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のピペット装置は、
流体を吸引可能であるとともに、流体を所定の吐出精度で吐出可能である第1シリンジと、
流体を吸引可能であるとともに、流体を前記第1シリンジよりも高い精度で吐出可能である第2シリンジと、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジに対して共通に設けられるノズルと、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジを連通させるとともに、前記ノズルに連通される流路と、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジが個別または協動して前記ノズルから流体を吸引および吐出するように、前記第1シリンジおよび前記第2シリンジを駆動させる駆動部と、を備える。
【0013】
また、本発明の分析装置は、本発明に係るピペット装置を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明のピペット装置および分析装置によれば、大容量の流体の吸引と吐出、および微少量の流体の高精度な吐出を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態1に係るピペット装置の全体構成を示す側面図である。
図2図2は、図1のピペット装置を+Z方向から見た図である。
図3図3は、図2のA―A線における断面図である。
図4図4は、図1のB―B線における断面図である。
図5図5は、図1のC―C線における断面図である。
図6図6は、図1のD―D線における断面図である。
図7図7は、ピペット装置の動作状態を示す図である。
図8図8は、ピペット装置の動作状態を示す図である。
図9図9は、ピペット装置の動作状態を示す図である。
図10図10は、本発明の実施形態2に係る分析装置の動作状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態にかかるピペット装置は、
流体を吸引可能であるとともに、流体を所定の吐出精度で吐出可能である第1シリンジと、
流体を吸引可能であるとともに、流体を前記第1シリンジよりも高い精度で吐出可能である第2シリンジと、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジに対して共通に設けられるノズルと、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジを連通させるとともに、前記ノズルに連通される流路と、
前記第1シリンジおよび前記第2シリンジが個別または協動して前記ノズルから流体を吸引および吐出するように、前記第1シリンジおよび前記第2シリンジを駆動させる駆動部と、を備える、ピペット装置である(第1の構成)。
【0017】
上記構成によれば、第1シリンジおよび、第1シリンジよりも精度の高い吐出が可能な第2シリンジが駆動装置によって個別または協動して駆動されて共通のノズルから流体が吸引および吐出される。第1シリンジおよび第2シリンジを協動させることによって大容量の流体の吸引と吐出が可能となり、また、第2シリンジによって微少量の流体の吐出を高精度で行うことが可能である。このため、大容量の流体の吸引と吐出、および微少量の流体の高精度な吐出を両立させることができる。
【0018】
上記第1の構成において、
前記第1シリンジは、
第1シリンジバレルと、
前記第1シリンジバレル内に配置され、前記第1シリンジバレルに対して相対的に進退可能である第1プランジャーと、
を有し、
前記第2シリンジは、
第2シリンジバレルと、
前記第2シリンジバレル内に配置され、前記第2シリンジバレルに対して相対的に進退可能である第2プランジャーと、
を有し、
前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルは、同期して前記第1プランジャーおよび前記第2プランジャーに対して進退可能であり、
前記駆動部は、
前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルを同期して駆動させるシリンダ駆動部と、
前記第1プランジャーおよび前記第2プランジャーのうちいずれか一方を、対応する前記第1シリンジバレルまたは前記第2シリンジバレルに対して進退するように駆動させるプランジャー駆動部と、
を有してもよい(第2の構成)。
【0019】
上記構成によれば、第1シリンジバレルおよび第2シリンジバレルは、シリンダ駆動部により、同期して第1プランジャーおよび第2プランジャーに対して進退するように駆動され、プランジャー駆動部は、第1プランジャーおよび第2プランジャーのうちいずれか一方を、対応する第1シリンジバレルまたは第2シリンジバレルに対して進退するように駆動する。このため、第1シリンジバレルおよび第2シリンジバレルと、それぞれに対応するプランジャーを単独または相互に連携して動作をさせることにより、簡単な構成で微少量から大容量まで流体の吸引と吐出を行うとともに、微少量の流体の高精度な吐出を行うことができる。
【0020】
上記第2の構成において、
前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルは、
共通のシリンジベースに設けられており、
前記シリンダ駆動部は、
前記シリンジベースを進退させることにより、前記第1シリンジバレルおよび前記第2シリンジバレルを、前記第1プランジャーおよび前記第2プランジャーに対して進退させ、
前記プランジャー駆動部は、
前記第1プランジャーを前記第1シリンジに対して進退させ、
前記第2プランジャーは、
作動せずに固定されており、
前記第1シリンジは、
前記第1プランジャーおよび前記シリンジベースに設けられた前記第1シリンジバレルが相互に進退することにより、流体の吸引および吐出を行い、
前記第2シリンジは、
前記第2プランジャーに対して前記シリンジベースに設けられた前記第2シリンジバレルが進退することにより、流体の吸引および吐出を行ってもよい(第3の構成)。
【0021】
上記構成によれば、第1シリンジバレルおよび第2シリンジバレルは、共通のシリンジベースに設けられている。一つのシリンジベースに複数のシリンジを設けることにより、部品点数および組立工数の削減を図ることができる。
【0022】
上記第3の構成において、
前記第2シリンジは、
前記第2プランジャーに設けられるとともに、前記第2シリンジバレル内に連通する圧力測定流路と、
前記圧力測定流路内の流体の圧力を測定する圧力検知部と、
をさらに有してもよい(第4の構成)。
【0023】
上記構成によれば、圧力検知部は、作動せずに固定された第2プランジャーに設けられた圧力測定流路内の流体の圧力を測定する。第2プランジャーは進退せずに固定されているため、圧力測定部に接続されるハーネス等の配線部に加わる負担を軽減することができ、電気的な信頼性と耐久性を向上させることができる。
【0024】
上記第4の構成において、
前記圧力測定流路は、
前記第2プランジャーの内部において、前記第2シリンジバレルから退出する方向の端部側に向けて形成されており、
前記圧力検知部は、
前記第2プランジャーと同軸上であって、前記第2プランジャーの端部側に設けられていてもよい(第5の構成)。
【0025】
上記構成によれば、圧力検知部は、第2プランジャーと同軸上であって、第2プランジャーの端部側に設けられている。このため、圧力検知部を設けるための隔室が不要となり、デッドボリュームを少なくしてピペット装置をコンパクトにすることができる。また、第2シリンジ内の圧力を直接検出するため、検出精度を向上させることができる。
【0026】
上記第1から第5の構成において、
前記第2シリンジは、
前記第2シリンジバレル内に配置され、前記第2シリンジバレルの内面との間に流体を貯溜するための貯溜空間となる間隙を形成する挿通部、を有し、
前記第2プランジャーが前記第2シリンジバレルに対して相対的に進退することにより、前記間隙内に流体を吸引するとともに、前記間隙内に貯留された流体を吐出させてもよい(第6の構成)。
【0027】
上記構成によれば、第2シリンジバレルと挿通部との間に間隙が形成され、この間隙が流体を貯留するための貯留空間とされる。第2シリンジバレルと挿通部の間隙の断面積を小さくすることにより、第2シリンジを小容量として、流体の吐出量の分解能を向上させることができる。このため、小容量のシリンジを製作するために小径で長尺の穴加工を行って小径のシリンジバレルを形成する必要がなく、小容量で吐出精度の高いシリンジを容易に構成することができる。
【0028】
上記第6の構成において、
前記挿通部は、
前記第2プランジャーに対して一体に形成されており、前記第2プランジャーとともに前記第2シリンジバレルに対して相対的に進退してもよい(第7の構成)。
【0029】
上記構成によれば、挿通部は、第2プランジャーに対して一体に形成されている。このため、部品点数の削減および組立工数の削減を図ることができる。
【0030】
本発明の一実施形態にかかる分析装置は、
上記第1から第7のいずれかの構成のピペット装置を備えている。
【0031】
上記構成によれば、第1シリンジおよび、第1シリンジよりも精度の高い吐出が可能な第2シリンジが駆動装置によって個別または協動して駆動されて共通のノズルから流体が吸引および吐出されるピペット装置を備えている。ピペット装置の第1シリンジおよび第2シリンジを協動させることによって大容量の流体の吸引と吐出が可能となり、また、第2シリンジによって微少量の流体の吐出を高精度で行うことが可能である。このため、大容量の流体の吸引と吐出、および微少量の流体の高精度な吐出を両立させることができる。
【0032】
[実施形態1]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係るピペット装置100について詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。また、各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0033】
以下の図では、ピペット装置100の使用状態における鉛直上方を+Z方向とし、使用状態における鉛直下方を-Z方向とする。また、+Z方向に直交する一方向を+X方向とし、+Z方向および+X方向に直交する一方向を+Y方向とする。+X方向および+Y方向のそれぞれ反対方向を-X方向および-Y方向とする。
【0034】
[全体構成]
まず、ピペット装置100の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るピペット装置100の全体構成を示す側面図である。図1に示すように、ピペット装置100は、ケーシング10、第1シリンジ30、第2シリンジ40、シリンジベース50、流路60、ノズル70、第1駆動部80、および第2駆動部90を有している。
【0035】
ケーシング10は、ピペット装置100の基体をなす部分である。ケーシング10は、板金で構成されている。
【0036】
第1シリンジ30は、流体を吸引可能であるとともに、流体を所定の吐出精度で吐出可能である。第1シリンジ30は、第1シリンジバレル31、および第1プランジャー33を有している。第1シリンジ30は、Z方向に平行に配置されている。
【0037】
第1シリンジバレル31は、シリンジベース50に形成された円筒状の第1空洞51、およびシリンジベース50に固定されたノズル固定部58によって構成されている。第1シリンジバレル31を構成するシリンジベース50およびノズル固定部58は、第2駆動部90によってZ方向に進退される。このため、第1シリンジバレル31は、Z方向に進退可能である。
【0038】
第1プランジャー33は、第1シリンジバレル31内に挿入されている。第1プランジャー33は、第1駆動部80によってZ方向に進退される。
【0039】
本実施形態では、シリンジベース50および第1プランジャー33は、それぞれZ方向に進退可能である。このため、第1シリンジ30は、第1プランジャー33およびシリンジベース50に設けられた第1シリンジバレル31が相互に進退することにより、第1シリンジバレル31内に流体を吸引し、または第1シリンジバレル31内に吸引されている流体を吐出することができる。
【0040】
第2シリンジ40は、流体を吸引可能であるとともに、流体を第1シリンジ30よりも高い精度で吐出可能である。第2シリンジ40は、第2シリンジバレル41、および第2プランジャー43を有している。第2シリンジ40は、Z方向に平行に配置されている。
【0041】
第2シリンジバレル41は、シリンジベース50に形成された円筒状の第2空洞52、およびシリンジベース50に固定されたノズル固定部58によって構成されている。第2シリンジバレル41を構成するシリンジベース50およびノズル固定部58は、第2駆動部90によってZ方向に進退される。このため、第2シリンジバレル41は、Z方向に進退可能である。
【0042】
第2プランジャー43は、第2シリンジバレル41内に挿入されている。本実施形態では、第2プランジャー43は、固定部49を介してケーシング10に固定されており、シリンジベース50がZ方向に進退可能である。このため、第2シリンジ40は、第2プランジャー43に対してシリンジベース50に設けられた第2シリンジバレル41が進退することにより、第2プランジャー43が第2シリンジバレル41に対して相対的に進退することとなる。これにより、第2シリンジバレル41内に流体を吸引し、または第2シリンジバレル41内に吸引されている流体を吐出することができる。
【0043】
シリンジベース50は、ノズル固定部58とともに第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41を構成している。シリンジベース50およびノズル固定部58は、第1ガイド軸53および第2ガイド軸54によってZ方向に進退可能に支持されている。第1ガイド軸53および第2ガイド軸54は、Z方向に平行に配置されている。
【0044】
シリンジベース50およびノズル固定部58は、第2駆動部90によってZ方向に進退される。第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41が共通のシリンジベース50に設けられていることにより、第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41を、同期して第1プランジャー33および第2プランジャー43に対して進退させることが可能である。
【0045】
流路60は、第1シリンジ30(第1シリンジバレル31)および第2シリンジ40(第2シリンジバレル41)を連通させるとともに、ノズル70に連通されている。流路60は、シリンジベース50とノズル固定部58の間に形成されている。
【0046】
ノズル70は、第1シリンジ30および第2シリンジ40に対して共通に設けられている。ノズル70は、ノズル固定部58に取り付けられている。ノズル70の内部には、ノズル流路71が形成されている。ノズル流路71は、流路60に連通されており、流路60を介して第1シリンジ30および第2シリンジ40に連通されている。ノズル70は、シリンジベース50およびノズル固定部58とともにZ方向に進退可能である。
【0047】
ノズル70の先端には、交換可能なディスポーザブルチップ72が取り付けられる。第1シリンジ30および/または第2シリンジ40によって流体が吸引されることでディスポーザブルチップ72内に試液等の流体が吸引される。また、第1シリンジ30および/または第2シリンジ40によって流体が吐出されることでディスポーザブルチップ72内に吸引されていた試液等の流体が吐出される。
【0048】
ノズル70は、ケーシング10に固定されたチップ離脱部74を貫通している。チップ離脱部74は、ノズル70の先端に取り付けられたディスポーザブルチップ72を離脱させる場合に、ディスポーザブルチップ72に当接してノズル70の先端から離脱させるための部材である。具体的には、ディスポーザブルチップ72が取り付けられたノズル70が+Z方向に移動した状態(例えば、図9参照)で、ディスポーザブルチップ72に当接し、ディスポーザブルチップ72をノズル70の先端から離脱させる。
【0049】
第1駆動部80は、第1プランジャー33を第1シリンジバレル31に対して進退させることにより、第1シリンジ30に流体の吸引または吐出を行わせる。第1駆動部80は、第1モータ81、ネジ軸82、および移動部83を有している。第1駆動部80は、第1モータ81の回転駆動力をZ方向の直線方向の駆動力に変換し、第1プランジャー33をZ方向に進退させる機構を構成している。第1駆動部80は、本発明のプランジャー駆動部に相当する。
【0050】
第1モータ81は、ケーシング10に固定されており、制御部(図示せず)の駆動制御により、ネジ軸82を正逆方向に回転させる。
【0051】
ネジ軸82は、一端が第1モータ81の駆動軸に接続されている。ネジ軸82は、Z方向に平行に配置され、第1シリンジ30および第1ガイド軸53と平行になるように配置されている。
【0052】
移動部83は、ネジ軸82に螺合するナット部84を有するとともに、第1ガイド軸53によってZ方向に進退可能に支持されている。また、移動部83には、第1プランジャー33が接続されている。
【0053】
第1モータ81が制御部(図示せず)の駆動制御により、ネジ軸82をある角度だけ正逆方向に回転させると、ネジ軸82に螺合した移動部83は、ネジ軸82の回転方向および回転角度に応じてZ方向に進退する。これにより、第1プランジャー33をZ方向に進退させることができる。
【0054】
第2駆動部90は、シリンジベース50を進退させることにより、第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41を、同期させた状態で第1プランジャー33および第2プランジャー43に対して進退させ、第1シリンジ30および第2シリンジ40に流体の吸引または吐出を行わせる。第2駆動部90は、第2モータ91、およびネジ軸92を有している。第2駆動部90は、本発明のシリンダ駆動部に相当する。
【0055】
第2モータ91は、ケーシング10に固定されており、制御部(図示せず)の駆動制御により、ネジ軸92を正逆方向に回転させる。
【0056】
ネジ軸92は、一端が第2モータ91の駆動軸に接続されている。ネジ軸92は、Z方向に平行に配置され、シリンジベース50に形成されたナット穴部55に螺合している。
【0057】
第2モータ91が制御部(図示せず)の駆動制御により、ネジ軸92をある角度だけ正逆方向に回転させると、シリンジベース50は、ネジ軸92の回転方向および回転角度に応じてZ方向に進退する。これにより、第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41を、同期させた状態でZ方向に進退させることができる。
【0058】
第1駆動部80および第2駆動部90は、ピペット装置100内または外部に設けられる制御部(図示せず)により駆動制御される。制御部は、第1シリンジ30および第2シリンジ40が個別および/または協動して流体を吸引および吐出するように、第1駆動部80および第2駆動部90を駆動制御する。
【0059】
図2は、図1のピペット装置100を+Z方向から見た図である。図2に示すように、ケーシング10にはチップ離脱部74が固定されている。ノズル70は、チップ離脱部74を貫通するように設けられている。
【0060】
図3は、図2のA―A線における断面図である。図3に示すように、第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41は、シリンジベース50に形成された円筒状の第1空洞51、第2空洞52、およびノズル固定部58によって構成されている。
【0061】
シリンジベース50とノズル固定部58の間には、流路60が形成されている。流路60は、シリンジベース50とノズル固定部58に形成された溝によって構成されている(図6参照)。流路60は、第1シリンジバレル31、第2シリンジバレル41、およびノズル流路72を連通させている。流路60から流体が漏れないように、流路60の周囲にはパッキン68が配置されている。
【0062】
第1プランジャー33は、第1シリンジバレル31内に挿入されている。第1プランジャー33の端部付近には、ガスケット34が取り付けられている。ガスケット34は、第1シリンジバレル31の内面に接触し、第1シリンジバレル31と第1プランジャー33の間隙から流体が漏れないようにしている。
【0063】
第1シリンジバレル31および第1プランジャー33は、第1駆動部80および第2駆動部90によってそれぞれZ方向に進退する。第1シリンジバレル31および第1プランジャー33の相対的な動作により、第1プランジャー33が第1シリンジバレル31に対して相対的に進退することとなり、流路60を介して第1シリンジバレル31内に流体を吸引し、または第1シリンジバレル31内に吸引されている流体を吐出することができる。
【0064】
第2シリンジバレル41内には、第2プランジャー43、および挿通部48が挿入されている。本実施形態では、第2プランジャー43と挿通部48は、一体の部材である。
【0065】
第2プランジャー43には、ガスケット44が取り付けられている。ガスケット44は、第2シリンジバレル41の内面に接触し、第2シリンジバレル41と第2プランジャー43の間隙から流体が漏れないようにしている。
【0066】
挿通部48は、ノズル固定部58まで伸びている。ノズル固定部58と挿通部48との間には、ガスケット59が配置されている。挿通部48は、第2シリンジバレル41の内面との間に間隙を有している。この間隙は、流体を貯溜するための貯溜空間49を構成する(図5参照)。
具体的には、ガスケット44とガスケット59に挟まれた、第2シリンジバレル41の内面と挿通部48との間に形成された間隙が、貯溜空間49となる。貯溜空間49は、流路60と連通している。
【0067】
第2シリンジバレル41が第2駆動部90によってZ方向に進退されることにより、ケーシング10に固定されている第2プランジャー43および挿通部48が第2シリンジバレル41に対して相対的に進退し、ガスケット44とガスケット59に挟まれた貯溜空間49の容積が増減する。これにより、第2シリンジバレル41(貯溜空間49)内に流路60を介して流体を吸引し、または第2シリンジバレル41(貯溜空間49)内に吸引されている流体を流路60を介して吐出することができる。
【0068】
第2シリンジバレル41に挿通部48が挿入されていることにより、第2シリンジバレル41の容積は小さくなる。第2シリンジバレル41の実質的な断面積は、貯溜空間49の断面積となるため、第1シリンジバレル31の断面積よりも小さくすることができる。このため、第2シリンジ40による流体の吐出量の分解能を第1シリンジ30による流体の吐出量の分解能よりも高くすることができる。
【0069】
第2シリンジ40には、圧力測定流路65、および圧力検知部95が設けられている。圧力測定流路65は、第2プランジャー43の内部に形成されている。圧力測定流路65の+Z方向の端部は、第2プランジャー43の端面において開放されている。また、圧力測定流路65の-Z方向の端部は、2シリンジバレル41(貯溜空間49)内に連通している。
【0070】
圧力検知部95は、圧力測定流路65内の流体の圧力を測定する。圧力検知部95は、第2プランジャー43と同軸上であって、第2プランジャー43の+Z方向の端部側に設けられている。圧力検知部95は、圧力測定流路65内の流体圧力の変化を測定することにより、例えば、ノズル70の先端が試液の液面に接近したことを検知することができる。
【0071】
図4は、図1のB―B線における断面図である。図4は、第1シリンジ30の断面を示している。図4に示すように、第1シリンジバレル31は、シリンジベース50に形成された円筒状の第1空洞51、およびノズル固定部58によって構成されている。
【0072】
シリンジベース50とノズル固定部58の間には、流路60が形成されている。流路60は、第1シリンジバレル31を第2シリンジバレル41およびノズル流路72に連通させている。
【0073】
第1プランジャー33は、第1シリンジバレル31内に挿入されている。第1プランジャー33の端部付近には、ガスケット34が取り付けられている。
【0074】
シリンジベース50は、第2駆動部90によってZ方向に進退するため、第1シリンジバレル31もシリンジベース50とともにZ方向に進退する。また、第1プランジャー33は、第1駆動部80によってZ方向に進退する。第1シリンジバレル31および第1プランジャー33の相対的な動作により、第1プランジャー33が第1シリンジバレル31に対して相対的に進退することとなり、流路60を介して第1シリンジバレル31内に流体を吸引し、または第1シリンジバレル31内に吸引されている流体を吐出することができる。
【0075】
図5は、図1のC―C線における断面図である。図5は、第2シリンジ40の断面を示している。図5に示すように、第2シリンジバレル41は、シリンジベース50に形成された円筒状の第2空洞52、およびノズル固定部58によって構成されている。
【0076】
シリンジベース50とノズル固定部58の間には、流路60が形成されている。流路60は、第2シリンジバレル41を第1シリンジバレル31およびノズル流路72に連通させている。
【0077】
第2シリンジバレル41内には、第2プランジャー43、および挿通部48が挿入されている。
【0078】
第2プランジャー43に設けられたガスケット44は、第2シリンジバレル41の内面に接触し、第2シリンジバレル41と第2プランジャー43の間隙から流体が漏れないようにしている。
【0079】
挿通部48は、ノズル固定部58まで伸びている。ノズル固定部58と挿通部48との間に設けられたガスケット59は、ノズル固定部58と挿通部48との間隙から流体が漏れないようにしている。
【0080】
挿通部48は、第2シリンジバレル41の内面との間に貯溜空間49を構成する間隙を有している。具体的には、ガスケット44とガスケット59に挟まれた、第2シリンジバレル41の内面と挿通部48との間に形成された間隙が、貯溜空間49となる。貯溜空間49は、流路60と連通している。
【0081】
シリンジベース50は、第2駆動部90によってZ方向に進退するため、第2シリンジバレル41もシリンジベース50とともにZ方向に進退する。第2シリンジバレル41がZ方向に進退することにより、ケーシング10に固定されている第2プランジャー43および挿通部48が第2シリンジバレル41に対して相対的に進退し、ガスケット44とガスケット59に挟まれた貯溜空間49の容積が増減する。これにより、第2シリンジバレル41(貯溜空間49)内に流路60を介して流体を吸引し、または第2シリンジバレル41(貯溜空間49)内に吸引されている流体を流路60を介して吐出することができる。
【0082】
第2シリンジ40には、圧力測定流路65、および圧力検知部95が設けられている。圧力測定流路65の+Z方向の端部651は、第2プランジャー43の端面において開放されている。また、圧力測定流路65の-Z方向の端部652は、2シリンジバレル41(貯溜空間49)内に連通している。圧力測定流路65内の流体圧力の変化は、圧力検知部95によって測定される。
【0083】
図6は、図1のD―D線における断面図である。図6は、流路60の断面を示している。図6に示すように、流路60は、シリンジベース50とノズル固定部58に形成された溝によって構成されている。流路60は、第1シリンジバレル31、第2シリンジバレル41(貯溜空間49)、およびノズル流路72を連通させている。
【0084】
図7から図9は、ピペット装置100の動作状態を示す図である。
【0085】
図7は、第1シリンジ30の内容量が最小、第2シリンジ40の内容量も最小になっている状態を示している。図8は、第1シリンジ30の内容量が最小、第2シリンジ40の内容量が最大になっている状態を示している。図9は、第1シリンジ30の内容量が最大、第2シリンジ40の内容量が最小になっている状態を示している。なお、図1および図3は、第1シリンジ30の内容量が最大、第2シリンジ40の内容量も最大になっている状態を示している。
【0086】
第1シリンジ30および第2シリンジ40が個別および/または協動して流体を吸引および吐出することにより、微少量から大容量まで流体の吸引と吐出を行うことができる。特に、第2シリンジ40を作動させて流体を吐出させることにより、微少量の流体の高精度な吐出を行うことができる。
【0087】
図7に示す状態では、シリンジベース50と移動部83が相対的に最も接近していることにより、第1プランジャー33が、第1シリンジバレル31内に最も深く挿入されている状態となっている。このため、第1シリンジ30の内容量が最小となっている。
【0088】
また、シリンジベース50が最も+Z方向に移動していることにより、第2プランジャー43が、第2シリンジバレル41内に最も深く挿入されている状態となっている。このため、第2シリンジ40の内容量も最小になっている。
【0089】
図8に示す状態では、シリンジベース50と移動部83が相対的に最も接近していることにより、第1プランジャー33が、第1シリンジバレル31内に最も深く挿入されている状態となっている。このため、第1シリンジ30の内容量が最小となっている。
【0090】
一方、シリンジベース50が最も-Z方向に移動していることにより、第2プランジャー43が、第2シリンジバレル41に対して最も浅く挿入されている状態となっている。このため、第2シリンジ40の内容量は最大になっている。
【0091】
図9に示す状態では、シリンジベース50と移動部83が相対的に最も離隔していることにより、第1プランジャー33が、第1シリンジバレル31内に最も浅く挿入されている状態となっている。このため、第1シリンジ30の内容量が最大となっている。
【0092】
一方、シリンジベース50が最も+Z方向に移動していることにより、第2プランジャー43が、第2シリンジバレル41に対して最も深く挿入されている状態となっている。このため、第2シリンジ40の内容量は最小になっている。
【0093】
図1および図3に示す状態では、シリンジベース50と移動部83が相対的に最も離隔していることにより、第1プランジャー33が、第1シリンジバレル31内に最も浅く挿入されている状態となっている。このため、第1シリンジ30の内容量が最大となっている。
【0094】
また、シリンジベース50が最も-Z方向に移動していることにより、第2プランジャー43が、第2シリンジバレル41に対して最も浅く挿入されている状態となっている。このため、第2シリンジ40の内容量も最大になっている。
【0095】
以上説明したピペット装置100によれば、第1シリンジ30および、第1シリンジ30よりも精度の高い吐出が可能な第2シリンジ40が第1駆動部80および第2駆動部90によって個別または協動して駆動されて共通のノズル70から流体が吸引および吐出される。第1シリンジ30および第2シリンジ40を協動させることによって大容量の流体の吸引と吐出が可能となり、また、第2シリンジ40によって微少量の流体の吐出を高精度で行うことが可能である。このため、大容量の流体の吸引と吐出、および微少量の流体の高精度な吐出を両立させることができる。
【0096】
また、第2シリンジバレル41と挿通部48との間に間隙が形成され、この間隙が流体を貯留するための貯留空間49とされる。第2シリンジバレル41と挿通部48の間隙の断面積を小さくすることにより、第2シリンジ40を小容量として、流体の吐出量の分解能を向上させることができる。このため、小容量のシリンジを製作するために小径で長尺の穴加工を行って小径のシリンジバレルを形成する必要がなく、小容量で吐出精度の高いシリンジを容易に構成することができる。
【0097】
[実施形態2]
次に、実施形態2に係る分析装置200、および分析装置200の動作の一例について説明する。図10は、本発明の実施形態2に係る分析装置200の動作状態を示す図である。分析装置200は、複数のピペット装置100を備えている。以下の説明では、分析装置200に備えられた複数のピペット装置100のうち、一つのピペット装置100について説明する。また、以下では、実施形態1のピペット装置100と同一の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0098】
分析装置200は、ピペット装置100、移動機構210、制御部(図示せず)を有している。移動機構210は、ピペット装置100をX方向、Y方向、およびZ方向に移動させることが可能である。制御部は、分析作業の手順に沿って分析対象試料(試液)の吸引と分注を行うように、ピペット装置100および移動機構210の動作を制御する。
【0099】
[ユニットイニシャライズ]
ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を駆動させて、第1シリンジ30の内容量が最小、第2シリンジ40の内容量が最大になる状態を原点位置とする(図8参照)。また、原点位置から所定高さだけシリンジベース50と第1プランジャー33を+Z方向に上昇させた位置(例えば、0.5mm程度上昇)を初期位置とする。初期位置の設定後、ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を駆動させて、第1シリンジ30の内容量が最大、第2シリンジ40の内容量が最小になっている状態(図9)で待機する。
【0100】
[ディスポーザブルチップ装着]
分注動作が開始されると、まずノズル70にディスポーザブルチップ72を装着する。移動機構210をXY方向(水平方向)に作動させて、ピペット装置100をチップ装着位置P1の上方に移動させ、続いて移動機構210を-Z方向(鉛直下方向)に作動させて、ピペット装置100を所定高さまで下降させる。
【0101】
ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を同期して駆動し、第1シリンジ30の内容量を最小に維持しながら、シリンジベース50を下降させてノズル70を-Z方向に移動させる。ノズル70の先端部がケーシング10からせり出す動きにより、ノズル70の先端部をディスポーザブルチップ72に押し当てて、ディスポーザブルチップ72を装着する。ディスポーザブルチップ72を装着した後、移動機構210を+Z方向(鉛直上方向)に作動させ、ピペット装置100を所定高さまで上昇させてチップ装着位置P1から退避させる。
【0102】
[液面検出]
分析対象試料(試液)の吸引を開始する。まず、分析対象試料(試液)の液面の検出を行う。移動機構210をXY方向(水平方向)に作動させて、ピペット装置100を分析対象試料容器P2の上方に移動させ、続いて移動機構210を-Z方向(鉛直下方向)に作動させて、ピペット装置100を所定高さまで下降させる。
【0103】
ピペット装置100を所定高さまで下降させた後、ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を同期して駆動し、ノズル70をケーシング10に対して引き込むようにしながら、さらにピペット装置100を下降させる。
【0104】
この場合、第1シリンジ30の内容量を最小に維持しながら、第2シリンジ40の容積が圧縮されるため、ノズル70の先端部から空気を吐出しながら、圧力検知部95によって第2シリンジ40内の圧力を監視する。ノズル70の先端部が分析対象試料(試液)の液面に接近すると、第2シリンジ40内の圧力が微少変化するため、圧力検知部95によって圧力の微少変化を検知することにより、分析対象試料(試液)の液面位置を特定する。
【0105】
なお、液面検出時は、圧力検知部95の検出感度を上げるために、第1シリンジ30の内容量を最小に維持することによってデッドボリュームを最小にすることが好ましい。
【0106】
[分析対象試料吸引]
分析対象試料を吸引する場合、移動機構210をZ方向(鉛直方向)に作動させて、ディスポーザブルチップ72の先端を分析対象試料(試液)に漬けた状態で、ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を同期して駆動し、第1シリンジ30および第2シリンジ40を吸引方向に作動させる。
【0107】
所定量の分析対象試料(試液)をディスポーザブルチップ72内に吸引した後、ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を停止させる。その後、移動機構210を+Z方向(鉛直上方向)に作動させ、ピペット装置100を所定高さまで上昇させてチップ装着位置P1から退避させる。
【0108】
[分注(吐出)動作]
分注(吐出)動作を行う場合、移動機構210をXY方向(水平方向)に作動させて、ピペット装置100を検査試薬容器P3の上方に移動させ、続いて移動機構210を-Z方向(鉛直下方向)に作動させて、ピペット装置100を所定高さまで下降させる。分注量に応じて、ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を同期して駆動し、ディスポーザブルチップ72内に吸引した分析対象試料(試液)を検査試薬容器P3に吐出する。
【0109】
吸引した分析対象試料(試液)を複数の検査試薬容器P3に吐出する場合は、各検査試薬容器P3に対して、移動機構210による移動と、ピペット装置100による吐出とを繰り返し実施する。分析対象試料(試液)を所定数の検査試薬容器P3に吐出した後、ディスポーザブルチップ72内の余剰の分析対象試料(試液)は、廃棄位置にて全て吐出して廃棄する。
【0110】
[ディスポーザブルチップ離脱]
分注動作が終了すると、ディスポーザブルチップ72を離脱させる。移動機構210をXY方向(水平方向)に作動させて、ピペット装置100をチップ離脱位置P4の上方に移動させ、ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を駆動させて、第1シリンジ30の内容量が最大、第2シリンジ40の内容量が最小になっている状態(図9)に移行させる。ノズル70の先端部を上昇させ、ディスポーザブルチップ72をチップ離脱部74に当接させることにより、ディスポーザブルチップ72をノズル70の先端から離脱させることができる。離脱させたディスポーザブルチップ72は、使用済みチップとしてチップ離脱位置P4に廃棄する。
【0111】
[分注(吐出)動作終了]
ディスポーザブルチップ離脱動作が終了すると、分注(吐出)動作を終了する。移動機構210をXY方向(水平方向)およびZ方向に作動させて、ピペット装置100を所定位置に移動させる。ピペット装置100の第1駆動部80および第2駆動部90を駆動させてピペット装置100を設定された初期位置の状態として待機させる。
【0112】
[変形例]
【0113】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0114】
例えば、ピペット装置100を構成する各部材の形状や配置は、実施形態のものに限定されない。例えば、本実施形態では、第1シリンジバレル31および第2シリンジバレル41の内径は、略同径としたが、差異を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、試液等の流体を吸引および吐出するためのピペット装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0116】
100 ピペット装置
30 第1シリンジ
40 第2シリンジ
60 流路
70 ノズル
80 第1駆動部
90 第2駆動部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10