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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】固体潤滑性構造体及びその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240412BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B3/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020143338
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2021037754
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019154790
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】安達 健太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 綾香
(72)【発明者】
【氏名】山野 水静
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-197017(JP,A)
【文献】特開平08-131941(JP,A)
【文献】特開2005-247971(JP,A)
【文献】特開平11-106779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0175513(US,A1)
【文献】特開2003-268158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層の表面にカルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造を有する固体潤滑性構造体。
【請求項2】
カルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造が、カルバミン酸のアミン塩の自己組織化体からなる凹凸構造である請求項1に記載の固体潤滑性構造体。
【請求項3】
カルバミン酸のアミン塩が、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層に含まれ、当該樹脂層の表面上に滲み出したアミン化合物と大気中の二酸化炭素が反応して得られたものである請求項1又は2に記載の固体潤滑性構造体。
【請求項4】
アミン化合物が、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層を形成する樹脂と相溶する化合物である請求項3に記載の固体潤滑性構造体。
【請求項5】
フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層を形成する樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載の固体潤滑性構造体。
【請求項6】
アミン塩を形成するアミン化合物又は表面上に滲み出したアミン化合物が、炭素数8以上の直鎖アルキルアミンである請求項1~5のいずれか1項に記載の固体潤滑性構造体。
【請求項7】
固体潤滑性構造体が固体潤滑材である請求項1~6のいずれか1項に記載の固体潤滑性構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の固体潤滑材による固体潤滑性付与方法。
【請求項9】
アミン化合物及びポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物を、フィルム若しくはシートに成型する工程、又は基材上に塗布して樹脂層を形成する工程(1)、
工程(1)で得られた該フィルム、該シート又は該樹脂層を、アミン化合物が該フィルム、該シート又は該樹脂層の表面上に滲み出る条件下に暴露する工程(2)を有する固体潤滑性構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その構造の一部又は全部が毀損しても自己修復できる固体潤滑性構造体、それによる固体潤滑性付与方法、及び固体潤滑性構造体の製造方法に関する。なお、本発明の固体潤滑性構造体は、撥水性及び滑氷(雪)性の性質を併せて有する。
【背景技術】
【0002】
従来からフッ素樹脂やシリコーン樹脂などを用いてコーティングするなどの化学的処理により、金属、ガラス、紙、布、プラスチック等の基材表面に撥水性等を付与することが行われている。
【0003】
一方、屋外に設置される各種器具、装置、建造物やそれらの部品などは、冬期に着氷や着雪が生じ、本来の機能が低下したり、破損が生じたり、場合によっては負傷の原因になることもある。そうした着氷や着雪を防止するため、従来、各種の表面処理がなされている。たとえば、表面に微細な凹凸を形成する方法、着氷(雪)防止剤を表面に散布する方法、着氷(雪)防止層を表面に設ける方法などが知られている。これらのうち着氷(雪)防止層を表面に設ける方法は、主として表面を撥水性にする(対水接触角を大きくする)ことで着氷(雪)を防止する方向で検討され実施されている。
【0004】
例えば、以下のものが知られている。
透明樹脂成形体を含む被塗物の表面に、水性クリヤ塗料組成物を塗装し、塗膜を形成することを含む、雪氷付着防止方法であって、前記水性クリヤ塗装組成物が、水分散性塗膜形成樹脂、凍結防止剤及びフッ素系界面活性剤を含み、前記フッ素系界面活性剤の含有量が、前記水分散性塗膜形成樹脂の固形分質量100質量部を基準として、0.1~10質量部の範囲である、雪氷付着防止方法(特許文献1)。
【0005】
撥水性のバインダー樹脂、DBP吸収量が45~450cm/100gの炭素単体物質、及び撥水撥油剤からなる表面処理用組成物であって、ポリテトラフルオロエチレン粒子を含まず、かつ滑落角の初回の滑落角が15度以下の塗膜を与える表面処理用組成物(特許文献2)。
【0006】
基材表面上において、使用環境の温度以上の融点を有するワックス又は油脂の結晶を析出させ、基材表面に微細な凹凸構造を形成させることを特徴とする基材表面への撥水付与方法(特許文献3)。
【0007】
また、基材表面に凹凸を形成するなどの構造的処理により基材表面の撥水性が変化することが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
さらに、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン等の固体潤滑材とこれらの潤滑性や寿命を改善するために潤滑剤と結合剤との混合物や潤滑剤の前処理剤の使用についても報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-44153号公報
【文献】特開2005-132919号公報
【文献】特開平08-131941号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Arthur W. Adamson, Alice P. Gast著、「Physical Chemistry of Surfaces, sixth edition」、Wiley-Interscience、1997年
【文献】M. Kawamura, 表面 2014, 65(12), 591-594.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしこれら撥水性表面や固体潤滑材等は、一度消耗すれば効果がなくなり再び新たな表面を施工し直さなければならなかった。
本発明は、固体の表面に固体潤滑性を新たに施工することなく繰り返し付与することができる固体潤滑性構造体、それによる固体潤滑性付与方法、及び固体潤滑性構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、基材表面上にポリオレフィン系樹脂とアミン化合物から成る樹脂組成物を塗工し、その被膜表面にアミン化合物を自発的に析出させ、大気中の二酸化炭素との反応でカルバメート化(カルバミン酸のアミン塩の生成)することで微細凹凸構造を形成させ、よって固体潤滑性を向上させることができることを見いだし、さらにこの微細凹凸構造は物理的作用により破壊・損傷されても、再生され、高い固体潤滑性を長期間に渡って持続させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に示す事項により特定される次のとおりのものである。
〔1〕フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層の表面にカルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造を有する固体潤滑性構造体。
〔2〕カルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造が、カルバミン酸のアミン塩の自己組織化体からなる凹凸構造である上記〔1〕の固体潤滑性構造体。
〔3〕カルバミン酸のアミン塩が、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層に含まれ、当該樹脂層の表面上に滲み出したアミン化合物と大気中の二酸化炭素が反応して得られたものである上記〔1〕又は〔2〕の固体潤滑性構造体。
〔4〕アミン化合物が、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層を形成する樹脂と相溶する化合物である上記〔3〕の固体潤滑性構造体。
〔5〕フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層を形成する樹脂がポリオレフィン系樹脂である上記〔1〕~〔4〕のいずれかの固体潤滑性構造体。
〔6〕アミン塩を形成するアミン化合物又は表面上に滲み出したアミン化合物が、炭素数8以上の直鎖アルキルアミンである上記〔1〕~〔5〕のいずれかの固体潤滑性構造体。
〔7〕固体潤滑性構造体が固体潤滑材である上記〔1〕~〔6〕のいずれかの固体潤滑性構造体。
〔8〕上記〔7〕の固体潤滑材による固体潤滑性付与方法。
〔9〕アミン化合物及びポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物を、フィルム若しくはシートに成型する工程、又は基材上に塗布して樹脂層を形成する工程(1)、
工程(1)で得られた該フィルム、該シート又は該樹脂層を、アミン化合物が該フィルム、該シート又は該樹脂層の表面上に滲み出る条件下に暴露する工程(2)を有する固体潤滑性構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の固体潤滑性構造体及びその製造方法を用いることにより、ポリオレフィン系樹脂という比較的安価な材料を用いることができ、ポリオレフィン系樹脂とアミン化合物を溶融混合させて塗工(塗膜形成)するという簡便な操作で、種々の基材に優れた固体潤滑性を付与することができる。
また、本発明の固体潤滑性構造体において、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層(以下、「フィルム等」という場合がある。)の表面の微細な凹凸構造は、物理的作用により破壊・損傷されても、再生できるため、高い固体潤滑性を長期間にわたり持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例9の評価サンプル1(塗工直後)の電子走査顕微鏡(SEM)の画像を示す。
図2】(a)実施例9の評価サンプル1(塗工8時間経過後)のSEMの画像を示す。(b)(a)の拡大図である。(c)(a)の断面図である。
図3】実施例9の評価サンプル1(機械的損傷直後)の電子走査顕微鏡(SEM)の画像を示す。
図4】実施例9の評価サンプル1(機械的損傷後8時間経過後)の電子走査顕微鏡(SEM)の画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の固体潤滑性構造体は、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層の表面にカルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造を有する。
本発明の固体潤滑性構造体を構成するカルバミン酸のアミン塩は、化学的に許容される微細凹凸構造であれば、特に制限されず、その微細凹凸構造は均一でなくともよい。また、その微細凹凸構造の幅及び高さの範囲は10nm~100μm、特に50nm~50μmが好ましく、後述する鱗片状などの厚みを有する形状の場合には、厚みの範囲は1nm~1μm、特に5nm~500nmが好ましい。凹凸構造の形状は特に制限されるものではなく、鱗片状、角柱状、円柱状、角錐状、円錐状、針状などのいずれであってもよい。その製造方法も、化学的に許容される方法であれば、特に制限されないが、フィルム等に含まれるアミン化合物が、表面上に滲み出して、大気中の二酸化炭素と反応して形成されたものであるのが好ましい。
また、カルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造は、カルバミン酸のアミン塩から構成されており、凹凸構造を有するものであれば、その生成過程は特に制限されないが、自己修復機能を有する点を考慮すると、生成したカルバミン酸のアミン塩が自己組織化した自己組織化体であるのが好ましい。
ここで、自己組織化体とは、アミン化合物と二酸化炭素の反応により生成したカルバミン酸のアミン塩が集合・再配列したものをいう。
【0017】
フィルム等に含まれるアミン化合物として、第一級、第二級又は第三級アミンであれば特に制限されず、複素環状第二級又は第三級アミン化合物も使用できる。例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-イコシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ(n-プロピル)アミン、ジ(n-ブチル)アミン、ジ(n-ペンチル)アミン、ジ(n-ヘキシル)アミン、ジ(n-ヘプチル)アミン、ジ(n-オクチル)アミン、ジ(n-ノニル)アミン、ジ(n-デシル)アミン、ジ(n-ドデシル)アミン、ジ(n-ウンデシル)アミン、ジ(n-トリデシル)アミン、ジ(n-テトラデシル)アミン、ジ(n-ペンタデシル)アミン、ジ(n-ヘキサデシル)アミン、ジ(n-ヘプタデシル)アミン、ジ(n-オクタデシル)アミン、ジ(n-ノナデシル)アミン、ジ(n-イコシル)アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ(n-プロピル)アミン、トリ(n-ブチル)アミン、トリ(n-ペンチル)アミン、トリ(n-ヘキシル)アミン、トリ(n-ヘプチル)アミン、トリ(n-オクチル)アミン、トリ(n-ノニル)アミン、トリ(n-デシル)アミン、トリ(n-ドデシル)アミン、トリ(n-ウンデシル)アミン、トリ(n-トリデシル)アミン、トリ(n-テトラデシル)アミン、トリ(n-ペンタデシル)アミン、トリ(n-ヘキサデシル)アミン、トリ(n-ヘプタデシル)アミン、トリ(n-オクタデシル)アミン、トリ(n-ノナデシル)アミン、トリ(n-イコシル)アミン、アンモニア、ピリジン、アニリン、モルホリン、シクロヘキシルアミン、モノエタノ-ルアミン、ジエタノ-ルアミン、トリエタノ-ルアミン、グアニジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、3,3’-イミノビス(N,N-ジメチルプロピルアミン)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、1,9-ジアミノノナン、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン、ATU(3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)、CTUグアナミン、ドデカン酸ジヒドラジド、m-キシリレンジアミン、ジアニシジン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、トリジンベ-ス、m-トルイレンジアミン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、メラミン、1,3-ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,4-ビス(アミノプロピル)ピペラジン、N-(3-アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)エ-テル、ピペラジン、シス-2,6-ジメチルピペラジン、シス-2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2-アミノメチルピペラジン、ピペリジン、2-アミノメチルピペリジン、4-アミノメチルピペリジン、1,3-ジ-(4-ピペリジル)-プロパン、4-(3-アミノプロピル)アニリン、ホモピペラジン、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N-メチル-1,3-プロパンジアミン、3-メチルアミノプロピルアミン、3-エチルアミノプロピルアミン、2-エチルアミノエチルアミン、3-ラウリルアミノプロピルアミン、3-(2-ヒドロキシエチルアミノ)プロピルアミン、ジ(2-エチル-n-ヘキシル)アミン、式:HN(CNH)Hで表される化合物(n≒5、商品名:ポリエイト、東ソ-社製)、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、1-(3-アミノプロピル)ピペラジン、3-アミノピロリジン、1-o-トリルビグアニド、N-(3-アミノプロピル)アニリン、N-アルキルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ[5.4,0]ウンデカ-7-エン、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピリジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4,0]デカ-5-エン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4-アミノ-3-ジメチルブチルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン,N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-[アミノ(ジプロピレンオキシ)]-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、4’-(2-アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリエトキシシラン、N-(6-アミノヘキシル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-11-アミノウンデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0018】
アミン化合物の中でも、第一級アミンがより好ましく、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-イコシルアミンが特に好ましい。
【0019】
さらに、フィルム等を形成する樹脂と相溶するアミン化合物が好ましい。この場合、相溶するとは、アミン化合物と樹脂を混合した場合に、アミン化合物が、樹脂中に略均一に分散している状態をいう。後述するようにフィルム等を形成する樹脂は、特に制限されないが、汎用性、価格等を考慮した場合にはポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系樹脂と相溶するアミン化合物として、炭素数8以上の直鎖アルキルアミンが好ましく、具体的には、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-イコシルアミン等のC8-20の第一級アミンが好ましく、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-へプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン等のC14-18の第一級アミンが特に好ましい。
【0020】
本発明の固体潤滑性構造体を構成するフィルム等を形成する樹脂は、フィルム又はシートに成型でき、又は基材上に塗装等の方法で樹脂層を形成できる樹脂であれば、特に制限されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル酸系樹脂等が挙げられるが、他の基材に対する汎用性、価格等を考慮すると、中でもポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂として、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂;プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンの単独重合体であるポリ-α-オレフィン;エチレンと、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、6-メチル-1-ヘプテン、イソオクテン、イソオクタジエン、デカジエン等の炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体であるエチレン-α-オレフィン共重合体;エチレン-プロピレン-α-オレフィン三元共重合体;エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM);ハードセグメントとしてポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンと、ソフトセグメントとしてエチレン-プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDM)等とを含むポリオレフィン系エラストマーなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0022】
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブチレン系樹脂等のポリ-α-オレフィン、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体であるエチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体、及びエチレン-プロピレン-α-オレフィン三元共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体がさらに好ましい。
より具体的には、非晶性ポリ-α-オレフィンとして知られているREXtacシリーズ(ハンツマン社製)が挙げられる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂は、必要に応じてオレフィン単位を主成分として含むポリオレフィン系重合体又はその変性物であってもよく、また、前記ポリオレフィン樹脂と混合して用いてもよい。なお、前記「主成分」とは、前記ポリオレフィン系樹脂を構成する全構造単位中、50質量%を超える割合を占める成分を意味する。そのような組成にすることにより、例えば、極性を有する基材との密着性を向上させることができる。
【0024】
前記ポリオレフィン系重合体又はその変性物として、具体的には、極性基を含有するポリオレフィン(以下、「極性基含有ポリオレフィン」とも略称する)が好ましい。該極性基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、無水マレイン酸等の酸無水物に由来する官能基、エポキシ基、ケイ素を含む官能基等が挙げられる。これらの極性基は、前記ポリオレフィン系重合体中、1種又は2種以上含まれていてもよい。これらの極性基のうち、水酸基、カルボキシル基、エステル基、及び無水マレイン酸に由来する官能基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、無水マレイン酸に由来する官能基がより好ましい。極性基含有ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体に対して極性基含有化合物を反応させてなるグラフト変性物、オレフィン及び極性基含有共重合性単量体を、公知の方法で共重合してなる共重合変性物等が挙げられる。該共重合は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでもよい。極性基含有ポリオレフィンを構成するオレフィン系重合体としては、前述のポリオレフィン系樹脂と同様のものが挙げられる。
【0025】
より具体的には、ポリオレフィンのマレイン酸又は無水マレイン酸によるグラフト変性物又は共重合変性物、ポリオレフィンのアクリル酸又はアクリル酸エステルによる共重合変性物、ポリオレフィンの酢酸ビニルによる共重合変性物又はこのけん化物、ポリオレフィンのビニルトリメトキシシランによる共重合変性物、ポリオレフィンのグリシジルメタクリレートによる共重合変性物、さらにこれらのポリオレフィン共重合変性物のマレイン酸又は無水マレイン酸による変性物等が挙げられ、中でも、無水マレイン酸に由来する官能基を有するポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは無水マレイン酸変性ポリエチレン系樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂、及び無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
そのようなポリオレフィン系樹脂の市販品としては、ユーメックスシリーズ(三洋化成工業(株)製)、モディックシリーズ(三菱ケミカル(株)製)、アドマーシリーズ(三井化学(株))、メルセンシリーズ(東ソー(株)製)等が挙げられる。
【0026】
本発明における固体潤滑材は、「表面における液体及び固体の潤滑性を向上させるため」という用途が限定された、フィルム、シート又は基材上に設けられた樹脂層の表面にカルバミン酸のアミン塩からなる凹凸構造を有する固体の材である。ここで、「液体及び固体」としては、水や氷(雪)が挙げられるが、特に制限されない。
【0027】
本発明の固体潤滑性付与方法は、固体潤滑材により表面における固体潤滑性を付与する方法である。本発明の固体潤滑性付与方法は、撥水性や滑氷(雪)性が要求される対象、例えば、屋外にて設置又は使用される各種機器、器具、装置、建物等やそれらの部品、航空機、船舶、鉄道車両、自動車、二輪車、宇宙船等の移動・輸送用機器やそれらの部品、傘、雨合羽、防水性ビニールバッグ等の雨具、テーブル、盆、流し台等の台所用製品、おむつ、ナプキン等の衛生用品を覆うためのフィルム、道路標識等の掲示板、農業用フィルム、携帯用電気製品、浴槽・洗面台などの建築材料、電線被覆材などの表面処理や車用ワックス等に適用することができるが、これらに制限されない。
【0028】
本発明の固体潤滑性構造体の製造方法は、アミン化合物及びポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物を、フィルム若しくはシートに成型する工程、又は基材上に塗布して樹脂層を形成する工程(1)、と工程(1)で得られた該フィルム、該シート又は該樹脂層を、アミン化合物が該フィルム、該シート又は該樹脂層の表面上に滲み出る条件下に暴露する工程(2)を有する。
【0029】
本発明の製造方法に使用される樹脂組成物に含まれるアミン化合物及びポリオレフィン系の樹脂として、具体的には、フィルム等に含まれるアミン化合物及びフィルム等を形成する樹脂として例示したものと同様のものを挙げることができる。樹脂組成物に含まれるアミン化合物とポリオレフィン系樹脂の混合比は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部の範囲が好ましく、0.2~10質量部の範囲がさらに好ましく、0.5~5質量部の範囲が特に好ましい。20質量部を超えると樹脂組成物により形成されるフィルム、シート又は樹脂層の強度が下がり、0.1質量部未満では表面に微細な凹凸構造ができない場合がある。
【0030】
樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、公知の方法によりポリオレフィン系樹脂とアミン化合物を混合して製造することができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂とアミン化合物を、ポリオレフィン系樹脂のガラス転移点若しくは溶融点以上に加熱して、タンブラー、ミキサー、ブレンダー等で混合し、スクリュー押出機、ロール等で混練することにより製造できる。
【0031】
本発明の製造方法に用いられる樹脂組成物には、該樹脂組成物より得られる成型品の物性を改善する観点から、種々の物性改善剤の1種又は2種以上を、本発明の効果を損なわない程度で、所望に応じて含有してもよい。該物性改善剤としては、特に制限はなく、例えば、ゴム、滑剤、酸化防止剤、可塑剤、光安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、フィラー等が挙げられる。該フィラーとしては、ガラス繊維等の繊維補強剤;シリカ、カーボンブラック等の無機粒子などが挙げられる。また、本発明の樹脂組成物には、さらに、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体系樹脂等の極性樹脂を含有させることもできる
【0032】
該樹脂組成物を、フィルム若しくはシートに成型する工程は、公知の方法により行うことでき、具体的には、T-ダイ法又はインフレーション法による溶融押出成型法、溶融流延法(溶液キャスト法)、カレンダー法等を例示することができる。該樹脂組成物を用いて基材上に樹脂層を形成する工程も、公知の方法により行うことができ、具体的には、溶融押出成型法において、基材となる樹脂と一緒に押し出して重ねる共押出法、ラミネート法、ヒートシール法、ウエットコーティング法等を例示することができる。
【0033】
前記樹脂層を形成する基材としては、その用途によって適宜選択することができ、各種プラスチック[ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレン等)、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、レーヨン及びポリアミド等]のフィルム、シート、フォーム又はフラットヤーン、紙(和紙及びクレープ紙等)、金属板、金属箔、織布、不織布、木材等が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法では、工程(1)に次いで、工程(1)で得られた該フィルム、該シート又は該樹脂層を、アミン化合物が該フィルム、該シート又は該樹脂層の表面上に滲み出る条件下に暴露する工程(2)を行うことにより、フィルム、シート及び樹脂層上を固体潤滑性とする。
【0035】
「アミン化合物が該フィルム、該シート又は該樹脂層の表面上に滲み出る条件下に暴露」とは、アミン化合物が自発的にフィルム等の表面上に滲み出してくる条件下にフィルム等を暴露するのが好ましく、具体的には、「大気中、大気温で、8時間以上暴露」する等を挙げることができる。例えば、暴露する温度を意図的に高めた条件下に暴露することにより、固体潤滑性表面の形成を早めることもできる。
【0036】
本発明の製造方法を用いることによる固体潤滑性表面が形成される工程においては、フィルム等の表面上に滲み出したアミン化合物と大気中の二酸化炭素が反応してカルバミン酸のアミン塩が形成され、それらがフィルム等の表面上に堆積して、フィルム等の表面に凹凸を形成する。したがって、フィルム等の表面上の二酸化炭素濃度を高くすることによっても、固体潤滑性表面の形成を早めることができる。
【0037】
前記したように、本発明の方法を用いれば、フィルム等の表面になんらかの衝撃が加わり、表面の一部又は全部の凹凸構造が毀損したとしても、アミン化合物が含まれるポリオレフィン系樹脂層がある限り、同様の反応がフィルム等の表面で起きて、固体潤滑性の表面が再生されることになる。
固体潤滑性表面の再生回数は、アミン化合物を含むポリオレフィン系樹脂層の厚みにより、厚いほど再生可能回数が増えることになる。
また、上述のように毀損した凹凸構造から生じたカルバミン酸のアミン塩の破片が低摩
擦を示す粉体材料として作用することで、更に固体潤滑性が向上する。
【実施例
【0038】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
エチレン-プロピレン共重合体(LICOCENE PP2602、クラリアントジャパン製、170℃における溶融粘度:5500~7000mPa・s、軟化点:95~102℃)100質量部、1-オクタデシルアミン1質量部を溶融混錬押出混練機で150℃に加熱して混練、押出して、アミンが均一に分散したエチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物1)を得た。
【実施例2】
【0040】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-ヘキサデシルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物2)を得た。
【実施例3】
【0041】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-テトラデシルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物3)を得た。
【実施例4】
【0042】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-オクチルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物4)を得た。
【実施例5】
【0043】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-デシルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物5)を得た。
【実施例6】
【0044】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-ドデシルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物6)を得た。
【実施例7】
【0045】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-ノナデシルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物7)を得た。
【実施例8】
【0046】
1-オクタデシルアミンの代わりに、1-イコシルアミンを用いる以外、実施例1と同様に行い、エチレン-プロピレン共重合体のペレット(樹脂組成物8)を得た。
【実施例9】
【0047】
[固体潤滑性膜の形成]
反応容器に500gの樹脂組成物1を投入し、その後150℃に加熱し、樹脂の溶融及び脱水を30分間行った。10cm×10cm×3mmのガラス片(フロート透明ガラス:ケイ・ジー・ワイ工業製)上に、溶融した樹脂組成物1を、厚みゲージとエアプレスを用いて厚み1mmで塗工し、評価サンプル1を得た。塗工直後の評価サンプル1(塗工直後)の表面の走査型電子顕微鏡画像(SEM画像)を図1に示す。図1から明らかなように、塗工直後の評価サンプル1の表面は滑らかであった。
【0048】
作成した評価サンプル1を25℃、65%RHの小型環境試験器(SH‐242:エスペック製)内に8時間放置した。8時間放置後の評価サンプル1(塗工8時間経過後)の表面のSEM画像を図2(a)、(b)及び(c)に示す。図2から明らかなように、評価サンプル1の表面には鱗片状の微細な凸凹構造が形成されていた。図2(a)及び(b)より鱗片幅は1~2μm、鱗片厚は0.1~0.2μmであった。また、図2(c)の断面図から鱗片高さは1μm以下であった。
また、評価サンプル1(塗工8時間経過後)のATR法によるFT-IR(AVATAR-370、Nicolet、USA)を測定したところ、以下のピークが観測された。IR cm-1:1376、1382、1391、1460、1486、1567、1645、2840、2849、2868、2917、2950、2954、3331.
1399cm-1は、COO対象伸縮振動に、1486cm-1は、NH 対象変角振動に、1567cm-1は、NHCOO変角振動に、3331cm-1はNH非対称伸縮振動に帰属されることから、ポリオレフィン表面上に滲み出した1-オクタデシルアミンが、空気中の二酸化炭素(CO)と反応し、カルバミン酸アミン塩を生成していることが明らかになった。
また、評価サンプル1(塗工8時間経過後)のXRD測定(RINT-2500、Rigaku、JAPAN;CuKα)を測定したところ、2θ=5.2°(d=1.7nm)にピークが観測され、これにより、表面に生成した1-オクタデシルアミンのカルバミン酸アミン塩は、約44°傾き階層的に自己組織化していることが示唆された。
【0049】
凹凸が形成された評価サンプル1の表面を金属ヘラにて削り取った。その時の評価サンプル1(機械的損傷直後)の削り取られた部分のSEM画像を図3に示す。図3より、削り取られた部分には凹凸構造がないことがわかった。その後、そのサンプルを25℃、65%RHの小型環境試験器(SH‐242:エスペック製)内に8時間放置した。8時間放置後の評価サンプル1(機械的損傷後8時間経過後)の表面のSEM画像を図4に示す。図4より、評価サンプル1の表面に再び微細な凸凹構造が形成されていることがわかった。
【実施例10】
【0050】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物2を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル2(塗工直後)、評価サンプル2(塗工8時間経過後)、評価サンプル2(機械的損傷直後)及び評価サンプル2(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例11】
【0051】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物3を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル3(塗工直後)、評価サンプル3(塗工8時間経過後)、評価サンプル3(機械的損傷後)及び評価サンプル3(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例12】
【0052】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物4を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル4(塗工直後)、評価サンプル4(塗工8時間経過後)、評価サンプル4(機械的損傷後)及び評価サンプル4(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例13】
【0053】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物5を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル5(塗工直後)、評価サンプル5(塗工8時間経過後)、評価サンプル5(機械的損傷後)及び評価サンプル5(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例14】
【0054】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物6を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル6(塗工直後)、評価サンプル6(塗工8時間経過後)、評価サンプル6(機械的損傷後)及び評価サンプル6(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例15】
【0055】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物7を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル7(塗工直後)、評価サンプル7(塗工8時間経過後)、評価サンプル7(機械的損傷後)及び評価サンプル7(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例16】
【0056】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物8を用いる以外は、実施例9と同様に行い、評価サンプル8(塗工直後)、評価サンプル8(塗工8時間経過後)、評価サンプル8(機械的損傷後)及び評価サンプル8(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【0057】
[比較例1]
10cm×10cm×3mmのガラス片(フロート透明ガラス:ケイ・ジー・ワイ工業製)の表面をアセトンにて洗浄し比較評価サンプル1とした。
【0058】
[比較例2]
樹脂組成物1に代えてエチレン-プロピレン共重合体(LICOCENE PP2602、クラリアントジャパン製)100質量部を用いる以外は、実施例9と同様に行い、比較評価サンプル2(塗工直後)、比較評価サンプル2(8時間経過後)をそれぞれ得た。
【0059】
(撥水性の評価)
各サンプルの25℃における水接触角を、自動極小接触角計(MCA-3:協和界面科学製)にて測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から、評価サンプル1~8においては、塗工後8時間経過すると水の接触角が著しく上昇して、撥水性の表面が形成されたことがわかった。また、機械的損傷直後は、水の接触角は低下するが、機械的損傷後8時間経過後は、水の接触角が、機械的損傷前と同じ水準まで回復しており、撥水性の表面が再生されたことがわかった。
これに対して、比較評価サンプル2では、塗工直後と塗工8時間経過後で、その接触角に変化が見られなかった。すなわち、アミン化合物を含まない比較評価サンプル2では、8時間経過しても、その表面状態が変わらないことが示唆された。
【0062】
(氷滑落角の測定)
各評価サンプルを小型環境試験器(SH‐242:エスペック製)内の試料台に固定し、サンプルの表面温度をマイナス25℃に維持した。サンプル上に7cm×7cm×7cmの氷ブロック(約310g)を配置し、ついで台座を30秒ごとに角度1度ずつ傾斜させていき、氷ブロックが1cm以上滑り落ちたときの試料台の角度(滑落角Φ)を測定した。測定は5回実施し、平均値にて評価を行った。滑落角Φが小さいほど、表面潤滑性が優れていることを意味する。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から、評価サンプル1~8においては、塗工後8時間経過すると氷の滑落角著しく低下して、潤滑性の表面が形成されたことがわかった。また、機械的損傷直後は、氷の滑落角は上昇するが、機械的損傷後8時間経過後は、氷の滑落角が、機械的損傷前と同じ水準まで低下しており、潤滑性の表面が再生されたことがわかった。
これに対して、比較評価サンプル2では、塗工直後と塗工8時間経過後で、その滑落角に変化が見られなかった。すなわち、アミン化合物を含まない比較評価サンプル2では、8時間経過しても、その表面状態が変わらないことが示唆された。
【実施例17】
【0065】
[固体潤滑性シートの形成]
反応容器に500gの樹脂組成物1を投入し、その後150℃に加熱し、樹脂の溶融及び脱水を30分間行った。溶融した樹脂組成物1を、小型熱プレス機(アズワン製)を用いて厚み2mmでホットプレス成型し、評価サンプル9を得た。成型直後の評価サンプル9(成型直後)の表面のSEM画像を確認したところ、図1と同様に、評価サンプル9(成型直後)の表面は滑らかであった。
【0066】
作成した評価サンプル9を25℃、65%RHの小型環境試験器(SH‐242:エスペック製)内に8時間放置した。8時間放置後の評価サンプル9(成型8時間経過後)の表面のSEM画像を確認したところ、図2と同様に、評価サンプル9(成型8時間経過後)の表面には微細な凸凹構造が形成されていた。
【0067】
凹凸が形成された評価サンプル9の表面を金属ヘラにて削り取った。その時の評価サンプル9(機械的損傷直後)の削り取られた部分のSEM画像を確認したところ、図3と同様に、削り取られた部分には凹凸構造がないことがわかった。その後、そのサンプルを25℃、65%RHの小型環境試験器(SH‐242:エスペック製)内に8時間放置した。8時間放置後の評価サンプル9(機械的損傷後8時間経過後)の表面のSEM画像を確認したところ、図4と同様に、評価サンプル9の表面に再び微細な凸凹構造が形成されていることがわかった。
【実施例18】
【0068】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物2を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル10(成型直後)、評価サンプル10(成型8時間経過後)、評価サンプル10(機械的損傷直後)及び評価サンプル10(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例19】
【0069】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物3を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル11(成型直後)、評価サンプル11(成型8時間経過後)、評価サンプル11(機械的損傷直後)及び評価サンプル11(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例20】
【0070】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物4を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル12(成型直後)、評価サンプル12(成型8時間経過後)、評価サンプル12(機械的損傷直後)及び評価サンプル12(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例21】
【0071】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物5を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル13(成型直後)、評価サンプル13(成型8時間経過後)、評価サンプル13(機械的損傷直後)及び評価サンプル13(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例22】
【0072】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物6を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル14(成型直後)、評価サンプル14(成型8時間経過後)、評価サンプル14(機械的損傷直後)及び評価サンプル14(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例23】
【0073】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物7を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル15(成型直後)、評価サンプル15(成型8時間経過後)、評価サンプル15(機械的損傷直後)及び評価サンプル15(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【実施例24】
【0074】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物8を用いる以外は、実施例17と同様に行い、評価サンプル16(成型直後)、評価サンプル16(成型8時間経過後)、評価サンプル16(機械的損傷直後)及び評価サンプル16(機械的損傷後8時間経過後)をそれぞれ得た。
【0075】
[比較例3]
樹脂組成物1に代えてエチレン-プロピレン共重合体(LICOCENE PP2602、クラリアントジャパン製)100質量部を用いる以外は、実施例17と同様に行い、比較評価サンプル3(成型直後)、比較評価サンプル3(8時間経過後)をそれぞれ得た。
【0076】
(撥水性の評価)
各サンプルの25℃における水接触角を、自動極小接触角計(MCA-3:協和界面科学製)にて測定した。その結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3から、評価サンプル9~16においては、成型後8時間経過すると水の接触角が著しく上昇して、撥水性の表面が形成されたことがわかった。また、機械的損傷直後は、水の接触角は低下するが、機械的損傷後8時間経過後は、水の接触角が、機械的損傷前と同じ水準まで回復しており、撥水性の表面が再生されたことがわかった。
これに対して、比較評価サンプル3では、成型直後と成型8時間経過後で、その接触角に変化が見られなかった。すなわち、アミン化合物を含まない比較評価サンプル3では、8時間経過しても、その表面状態が変わらないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の固体潤滑性構造体は固体潤滑性、撥水性及び滑氷(雪)性が要求される製品に応用可能であり、そのような製品として、屋外にて設置又は使用される各種機器、器具、装置、建物等やそれらの部品、航空機、船舶、鉄道車両、自動車、二輪車、宇宙船等の移動・輸送用機器やそれらの部品、傘、雨合羽、防水性ビニールバッグ等の雨具、テーブル、盆、流し台等の台所用製品、おむつ、ナプキン等の衛生用品を覆うためのフィルム、道路標識等の掲示板、農業用フィルム、携帯用電気製品、浴槽・洗面台などの建築材料、電線被覆材などの表面処理や車用ワックス等が挙げられる。したがって、本発明の固体潤滑性構造体及びその製造方法は、様々な産業分野での利用が考えられる。
図1
図2
図3
図4