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特許7471006ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の調製方法及び関節軟骨欠損の修復におけるその用途
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  • 特許-ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の調製方法及び関節軟骨欠損の修復におけるその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の調製方法及び関節軟骨欠損の修復におけるその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/728 20060101AFI20240412BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A61K31/728
A61P19/02
A61K9/06
A61K9/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022107117
(22)【出願日】2022-07-01
(62)【分割の表示】P 2020545524の分割
【原出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2022130665
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】505302362
【氏名又は名称】高雄醫學大學
【氏名又は名称原語表記】KAOHSIUNG MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.100, Shih-chuan 1st Road, Sanmin Dist. Kaohsiung City, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】何美▲リン▼
(72)【発明者】
【氏名】張瑞根
(72)【発明者】
【氏名】陳崇桓
(72)【発明者】
【氏名】陳惠亭
(72)【発明者】
【氏名】呉順成
(72)【発明者】
【氏名】張栩栄
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-181121(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0165533(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0172985(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103877614(CN,A)
【文献】特開2012-041512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軟骨欠損を修復する薬物を調製するための組成物の使用方法であって、前記組成物はヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を含み、
前記ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の粒径サイズは100~150μmであり、
前記ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子は無水メタクリル酸と反応し、
前記ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度は140%である使用方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子は、
(a)ヒアルロン酸と無水メタクリル酸を反応させてメタクリル酸化されたヒアルロン酸共役物を合成し、
(b)前記メタクリル酸化されたヒアルロン酸共役物と光重合開始剤を混合し、紫外光を照射して光重合反応を行うことでヒアルロン酸ヒドロゲルを取得し、
(c)前記ヒアルロン酸ヒドロゲルをスクリーンから押し出すことで前記ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を取得する
とのステップで調製される請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記光重合開始剤は、2-メチル-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-アセトンである請求項に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の調製方法及び関節軟骨欠損の修復におけるその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
軟骨組織は、血管やリンパ系及び神経を有さない結合組織であり、主として硝子軟骨(Hyaline Cartilage)からなる。また、硝子軟骨は、主に、軟骨細胞、II型コラーゲン(type II collagen)、プロテオグリカン(proteoglycan)から構成される。軟骨組織はひとたび損傷すると、隣接する軟骨細胞の数に非常に限りがあることから十分に修復されず、更には、細胞外基質を損傷部位に移動させて包囲することが難しいとの課題も存在する。現在知られているように、軟骨の自己修復により生成される新たな組織の大部分は線維軟骨(fibrocartilage)組織であり、主としてI型コラーゲン(type I collagen)からなる。しかし、線維軟骨組織には軟骨の然るべき生物力学的特性が不足しており、硝子軟骨の機能も有していない。そのため、次第に分解(degradation)されて行き、関節を損傷前の正常な運動状態に回復させることは困難である。臨床では、例えば、マイクロフラクチャー(microfracture)、骨軟骨移植(Osteochondral grafting)、或いは自家軟骨細胞移植(Autologous chondrocyte implantation)といった手術方式が存在するが、依然として、線維軟骨(fibrocartilage)が生成されたり、新たに生成された軟骨組織の接着が不可能であったり、軟骨細胞が変性したり等の課題が存在する。また、近年は、組織工学を利用した軟骨組織の修復がかなりのスピードで発展している。この方式では、活性を有する細胞足場に軟骨細胞や間葉系幹細胞のような細胞を組み合わせることで軟骨を修復する。
【0003】
ヒアルロン酸は関節軟骨の成分の一つであり、細胞足場として関節軟骨の修復に応用されることが多い。しかし、関節軟骨組織の修復にヒアルロン酸を応用する場合には、軟骨細胞又は間葉系幹細胞を組み合わせる必要がある。つまり、ヒアルロン酸は、細胞と組み合わせて使用することで初めて軟骨修復の効果を持ち得る。ところが、軟骨細胞又は間葉系幹細胞を使用する場合には、細胞が増殖しにくい、細胞供給源のコントロールが難しい、或いは同種移植により病原体が持ち込まれる恐れがあるとの課題が存在する。
【0004】
そのため、如何にしてヒアルロン酸を細胞足場として単独で使用し、細胞との組み合わせを回避するかが、現在喫緊に解決を要する課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光架橋方式を利用して、ヒアルロン酸をヒアルロン酸ヒドロゲルとしたあとに、分解速度を調整するためにヒアルロン酸ヒドロゲルを切断してヒアルロン酸微粒子とすることで、軟骨細胞又は間葉系幹細胞との組み合わせを必要とすることなく、単独で効果的に関節軟骨欠損の修復に使用可能とするヒアルロン酸微粒子の調製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の調製方法を提供する。当該方法は、(a)ヒアルロン酸と無水メタクリル酸を反応させてアクリル酸メチル化ヒアルロン酸共役物を合成し、(b)当該アクリル酸メチル化ヒアルロン酸共役物と光重合開始剤を混合し、紫外光を照射して光重合反応を行うことでヒアルロン酸ヒドロゲルを取得し、(c)当該ヒアルロン酸ヒドロゲルをスクリーンから押し出すことで当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を取得する。
【0007】
一実施例において、当該光重合開始剤は、2-メチル-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-アセトンである。
【0008】
一実施例において、当該スクリーンのメッシュサイズは10~500μmである。
【0009】
一実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の粒径サイズは1~300μmである。他の実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の粒径サイズは70~200μmである。他の実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の粒径サイズは100~150μmである。
【0010】
一実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度は5~200%である。他の実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度は15~140%である。
【0011】
本発明は、更に、関節軟骨欠損を修復する薬物を調製するための組成物の用途であって、当該組成物がヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を含む用途を提供する。
【0012】
一実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子は、(a)ヒアルロン酸と無水メタクリル酸を反応させてアクリル酸メチル化ヒアルロン酸共役物を合成し、(b)当該アクリル酸メチル化ヒアルロン酸共役物と光重合開始剤を混合し、紫外光を照射して光重合反応を行うことでヒアルロン酸ヒドロゲルを取得し、(c)当該ヒアルロン酸ヒドロゲルをスクリーンから押し出すことで当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を取得する、とのステップで調製される。
【0013】
本発明は、更に、ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を関節軟骨欠損部位に投与する関節軟骨欠損を修復する方法を提供する。
【0014】
一実施例において、当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子は、(a)ヒアルロン酸と無水メタクリル酸を反応させてアクリル酸メチル化ヒアルロン酸共役物を合成し、(b)当該アクリル酸メチル化ヒアルロン酸共役物と光重合開始剤を混合し、紫外光を照射して光重合反応を行うことでヒアルロン酸ヒドロゲルを取得し、(c)当該ヒアルロン酸ヒドロゲルをスクリーンから押し出すことで当該ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子を取得する、とのステップで調製される。
【0015】
本文中で使用する用語「ヒドロゲル(Hydrogel)」とは、水を分散媒とするゲルのことである。ヒドロゲルは、網目状の架橋構造を有する水溶性高分子に部分的な疎水基と親水性残基を導入した構造となっており、親水性残基が水分子と結合し、水分子を網目の内部に接続することで、疎水性残基が水に遭遇すると膨潤する架橋ポリマーである。そのため、水溶性又は親水性の高分子であれば、いずれも一定の化学架橋又は物理架橋によってヒドロゲルを形成し得る。
【0016】
ヒドロゲルは、物理ゲルと化学ゲルに分けられる。(1)物理ゲルとは、例えば、静電気の働きや水素結合、鎖の巻き付き等の物理的作用によって形成されるものである。このようなゲルは非恒久的であり、加熱によって溶液に変化し得るため、疑似ゲル又は熱可逆性ゲルとも称される。多くの天然高分子は、例えばk2型カラギーナンや寒天等のように、常温下で安定的なゲル状態を呈する。合成ポリマーの中ではポリビニルアルコール(PVA)が典型的な例であり、凍結融解処理によって60℃以下で安定するヒドロゲルを取得可能である。
【0017】
(2)化学ゲルとは、化学結合による架橋で形成される3次元ネットワークポリマーであり、恒久的であるため真性ゲルと称される。また、ヒドロゲルのサイズや形状の違いによって、マクロゲルとミクロゲル(微粒子)という区分もある。更に、マクロゲルは、形状の違いによって、柱状、多孔スポンジ状、繊維状、膜状、球状等に分けることができる。また、現在製造されている微粒子には、マイクロレベルとナノレベルの違いがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、アクリル酸メチル化ヒアルロン酸(Me-HA)ヒドロゲル微粒子の調製のフローチャートである。
図2図2は、アクリル酸メチル化ヒアルロン酸(Me-HA)ヒドロゲル微粒子の形態、サイズ分布及び平均粒径サイズを示す。
図3図3は、アクリル酸メチル化ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の体外分解を示す。
図4図4は、ウサギ骨軟骨欠損修復モデルに対するアクリル酸メチル化ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子のプロトタイプ(prototype)のO’Driscoll組織学軟骨修復評価を示す。
図5図5は、ウサギ骨軟骨欠損修復モデルに対する脂肪由来幹細胞+ヒアルロン酸、及びアクリル酸メチル化ヒアルロン酸による軟骨修復を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、異なる形式で実施される場合もあり、下記で提示する実施例に限らない。下記の実施例は、本発明における異なる面及び特性の代表的なものにすぎない。
【0020】
ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の調製について、図1のフローを参照する。無水メタクリル酸を1%(w/v)ヒアルロン酸(HA)溶液に添加してアクリル酸メチル化ヒアルロン酸(Me-HA)共役物(conjugates)を合成した。当該1%ヒアルロン酸溶液とは、脱イオン蒸留水中であって、5N水酸化ナトリウムによりpH8に調整したものである。次に、マクロマー溶液を脱イオン蒸留水で少なくとも72時間透析して精製し、凍結乾燥することで最終生成物を取得した。また、プロトン核磁気共鳴分光法(1H NMR)で置換度を測定した。置換度は、各二糖繰り返し単位のメタクリロイル基の数と定義し、アクリル酸メチルプロトンの相対ピーク積分(~5.2及び~5.5ppm部分のピーク)と、HAのメチル基プロトン(~4.3ppm)との比率から算出した。ヒドロゲルの形成については、Me-HAを比率1%(w/v)で0.05%(w/v)の2-メチル-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-アセトン(2-methyl-1-[4-(hydroxyethoxy)phenyl]-2-methyl-1-propanone,Irgacure2959,I2959)を含有するPBSに溶解した。そして、Me-HA溶液を0.3Jcmの紫外光(365nm,スペクトロライン,USA)で光重合した。次に、Me-HAヒドロゲルを100μmのスクリーンから押し出すことで微粒子化した。微粒子化したMe-HAヒドロゲル微粒子は、200μmのスクリーンで濾過した。これにより、サイズが200μm以下のMe-HAヒドロゲル微粒子を収集した。続いて、濾過したMe-HAヒドロゲル微粒子を70μmのスクリーンで濾過することで、後の実験で使用するためにサイズが70μm以上の部分を収集した。
【0021】
ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子の形態、サイズ分布及び平均粒径サイズについて、図2を参照する。Me-HAヒドロゲル微粒子は不規則形状をなしており、Me-HAヒドロゲル微粒子の平均粒径サイズは127±16μmであった。
【0022】
Me-HAヒドロゲル微粒子について体外分解試験を行った。分解状況については図3を参照する。Me-HAの右下の数字15、30、65、85及び140は、アクリル酸メチル化(methylacrylation)の度合を表している。Me-HA15:Me-HAヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度が15%であることを表す。Me-HA30:Me-HAヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度が30%であることを表す。Me-HA65:Me-HAヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度が65%であることを表す。Me-HA85:Me-HAヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度が85%であることを表す。Me-HA140:Me-HAヒドロゲル微粒子のアクリル酸メチル化度が140%であることを表す。
【0023】
ウサギ骨軟骨欠損修復モデル(osteochondral defect repair in rabbit model)を用いて実験を行った。動物モデルをアクリル酸メチル化ヒアルロン酸ヒドロゲル微粒子で処理したあと、O’Driscoll組織学軟骨修復評価を行った。群については、未治療のブランク群(Empty)、HAで骨軟骨欠損を治療するHA群、Me-HA15で骨軟骨欠損を治療するプロトタイプ(Prototype)1、Me-HA65で骨軟骨欠損を治療するプロトタイプ2、Me-HA140で骨軟骨欠損を治療するプロトタイプ3に分けた。これにより、下記のようになった。
*p<0.05,**p<0.01:ブランク群との比較。n=4~6。
#p<0.05:HA群との比較。n=4~6。
結果から明らかなように、Me-HA治療群の骨軟骨欠損の修復効果は、未治療群又はHA治療群と比べて顕著に向上した。
【0024】
動物モデルを脂肪由来幹細胞(adipose derived stem cell,ADSC)+ヒアルロン酸(HA)、及びMe-HAで治療して軟骨修復実験を行った。群については、未治療のブランク群(Empty)、脂肪由来幹細胞及びHAで骨軟骨欠損を治療するADSC+HA群、微粒子化していないMe-HA15ヒドロゲルで骨軟骨欠損を治療するMe-HA15群、微粒子化していないMe-HA65で骨軟骨欠損を治療するMe-HA65群、微粒子化していないMe-HA140で骨軟骨欠損を治療するMe-HA140群に群分けした。結果から明らかなように、Me-HAに軟骨細胞又は間葉系幹細胞を組み合わさなくても、関節軟骨欠損を効果的に修復可能であった。
図1
図2
図3
図4
図5