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特許7471018光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法及びデータ処理のための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法及びデータ処理のための装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/931 20200101AFI20240412BHJP
   G01S 17/88 20060101ALI20240412BHJP
   G01V 8/18 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
G01S17/931
G01S17/88
G01V8/18
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022548387
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2021052285
(87)【国際公開番号】W WO2021160454
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】102020201637.2
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505472816
【氏名又は名称】マイクロビジョン,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ボイシェル
(72)【発明者】
【氏名】ファルコ ディーベル
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許第03435117(EP,B1)
【文献】特開2018-091760(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02189804(EP,A1)
【文献】特開2018-169384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法(20、30、40、50)であって、
後方散乱ヒストグラムデータを受信するステップ(21、31、41、51)と、
受信された前記後方散乱ヒストグラムデータを解析するステップ(22、32、42、52)と、
を備え
前記受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析するステップが、前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから周囲光量を特定するステップ(33、43、54)であり、
前記周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値が決定される(44)、方法(20、30、40、50)。
【請求項2】
前記受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析するステップが、
後方散乱信号を特定するために、前記受信された後方散乱ヒストグラムデータと予め規定された基準後方散乱信号との間の類似性測定値を計算するステップ(23、53)
を備える、請求項1に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項3】
前記受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析するステップが、
前記後方散乱信号及び前記周囲光量に基づいて光ランタイム測定の有効検出範囲を決定するステップ(55)
を備える、請求項2に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項4】
信号減衰係数を決定するため変換関数が前記後方散乱信号に適用され(24)、
前記変換関数は、実験的に決定された関数であり(25)
信号減衰係数は、後方散乱によってもたらされる光出力における距離依存的な割合の減少であり、
請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項5】
前記周囲光量を特定するために、光パルス放射の開始時間の前に存在する複数の時間間隔の前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される(34)、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項6】
前記周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される(35)、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項7】
前記周囲光量を特定するために、光パルス放射の開始時間の前に存在する複数の時間間隔の前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから及び特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される(36)、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項8】
前記周囲光量を特定するステップが、
第1の周囲光量を取得するために、光パルス放射の開始時間の前に存在する複数の時間間隔の前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均を計算するステップと、
第2の周囲光量を取得するために、特定の時間閾値を超える前記受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値を決定するステップと、
前記第1の周囲光量と前記第2の周囲光量の比較から前記周囲光量を特定するステップであって、前記周囲光量が2つの前記周囲光量の小さい方として特定される、ステップ(45)と、
を備える、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項9】
前記光ランタイム測定の前記有効検出範囲が、予め規定された関数の補助により決定される(56)、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項10】
前記光ランタイム測定の前記有効検出範囲が、システムの入出力変数間の関係を表す特性図から決定される(57)、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項11】
前記光ランタイム測定の前記有効検出範囲が、予め規定された基準値との比較により決定される(58)、請求項に記載の方法(20、30、40、50)。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するための手段を備える、データ処理のための装置(3)。
【請求項13】
周囲光量に対応しない極小値が決定された場合、前記周囲光量に対応しない極小値のみを、周囲光を特定するために考慮する、請求項1に記載の方法(20、30、40、50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略として、光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法及びデータ処理のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタイムに基づいて物体までの距離を特定するために、物体に反射された放射光信号のランタイムが測定される、いわゆる飛行時間原理に基づき得る種々の光パルスランタイム法(例えば、光ランタイム測定)が一般に知られている。
【0003】
自動車環境において、パルスを周期的に放射して反射パルスを検出することによって環境が走査される、いわゆるLIDAR(光検出及び測距)原理に基づくセンサを用いることが知られている。例えば、対応する方法及び装置が、特許文献1により公知となっている。
【0004】
自動車環境におけるLIDARアプリケーションでは、周囲光の量は、ある環境条件下で比較的大きくなり、例えば、日中に運転すると、それにより信号対ノイズ比(SNR(信号対ノイズ比)ともいう)が低下し得る。このようの状況では、LIDARアプリケーションの検出範囲も制限され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/081294号
【発明の概要】
【0006】
一般に、検出光信号のタイプは、例えば、放射光信号が固体物体によって反射されたのか(物体後方散乱)又は空気中、例えば霧若しくは排気ガス中の粒子によって後方散乱されたのか(拡散後方散乱)に応じて異なり得る。結論は、環境条件に関して記録された後方散乱データから引き出され得る。光パルスランタイム法において後方散乱データを解析するための解決手段は従来技術により知られているとしても、本発明の課題は、光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法及びデータ処理のための装置を提供することである。
【0007】
この課題は、請求項1に記載の方法及び請求項15に記載の装置によって達成される。
【0008】
第1の態様において、本発明は、光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法を提供し、方法は、
後方散乱ヒストグラムデータを受信するステップと、受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析するステップと、を備える。
【0009】
第2の態様において、本発明は、第1の態様に係る方法を実行するための手段を備える、データ処理のための装置を提供する。
【0010】
上述したように、いくつかの例示的実施形態は、光パルスランタイム法において後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法に関し、方法は、
後方散乱ヒストグラムデータを受信するステップと、受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析するステップと、を備える。
【0011】
冒頭に述べたように、結論は、LIDAR測定において環境条件(例えば、大気中の霧又は他の粒子、煙、噴霧物など)に関する後方散乱データから引き出され得る。後方散乱光の検出イベントは、ここでは固体の物体には関係しない。環境条件のより正確な知識によって、環境条件による運転スタイルを調整し、それにより、例えば、自動車を自律運転するための安全性を高めることができる。さらに、LIDAR測定時の拡散後方散乱の正確な知識はまた、いくつかの例示的実施形態において、固体の物体の(より正確な)検出を可能とする。例えば、これにより、交通状況をより正確に特定することができ、これも同様に自律車両の安全性及び信頼性を高める。
【0012】
後方散乱信号及び周囲光の量のより正確な知識は、LIDAR測定のための有効検出範囲を決定することにも役立ち得る。これにより、固体の物体の検出時に、それが信頼性のあるものか否かをより正しく評価することが可能となる。これは、測定データから物体を正確に識別する確率を高め、これも同様に自律車両の安全性及び信頼性を高める。
【0013】
いくつかの例示的実施形態では、この理由のため、方法は、例えば、LIDARシステムなどにおける解析のために使用され、自動車環境において採用される。ただし、本発明はこれらの場合に限定されない。
いくつかの例示的実施形態では、LIDARデータは、通常は、拡散後方散乱、物体での光反射、周囲光、その環境における他の光源からの干渉光信号などからの信号寄与を含む。これらのデータは、基本的には周知であるように、ヒストグラムに表示可能である。
【0014】
いくつかの例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムの解析は、拡散後方散乱の信号寄与、周囲光量及び有効検出範囲が光ランタイム測定時にこれらのデータから特定され得ること(光パルスランタイム法)を対応して意味し得る。したがって、後方散乱ヒストグラムデータは、基本的に拡散後方散乱及び周囲光量の信号寄与を含み得るので、このような解析及び特定に適し得る。
【0015】
いくつかの例示的実施形態では、光ランタイム測定は、特にLIDARに基づく例示的実施形態では、いわゆるTCSPC(時間相関単一光子計数)測定原理に基づく。ここでは、光パルスが周期的に放射され、それは通常は数ナノ秒の長さであり、測定の開始時間を記録する。次の光パルス(測定時間)までの時間中に、物体に反射された光又は後方散乱光は光検出受信要素(例えば、単一光子アバランシェダイオード(SPAD))によって検出され、光は同様に光パルスを放射する前に短い時間範囲で検出され得る。測定時間は、ここでは複数の短い時間間隔(例えば、500ps)に分割される。各時間間隔は、開始時間に対して時間距離に対応する時点を割り当てられ得る(例えば、500psの時間間隔において、250psの時間は第1の時間間隔に割り当てられ、750psの時間は第2の時間間隔に割り当てられ得る、など)。
【0016】
物体まで又は後方散乱の地点までの距離に応じて、光は、異なる時間で光検出受信要素に到達する。それは、ここでは光検出受信要素において電気信号を生成する。そして、基本的には公知の時間-デジタルコンバータ(「TDC」時間-デジタルコンバータともいう)が、電気信号を時間間隔の1つに割り当てるのに使用され得る。時間間隔に割り当てられた電気信号(「イベント」)を計数することで、いわゆるヒストグラム又は時間相関ヒストグラム(TCSPCヒストグラムともいう)が生じ、これらのヒストグラムはまた、例えば、純データとして専ら存在し得るものであり、例えば、時間間隔及び付随する入力数(イベント)からなる値のペアとして記憶される。したがって、各時間間隔に割り当てられたイベント数とともに、時間間隔は、ヒストグラムデータを備え、それは基本的にはデジタル信号によって(又はアナログ信号によっても)表現され得る。
【0017】
TCSPCに基づくLIDAR測定では、後方反射光又は散乱光のヒストグラムデータは、結果として高い時間分解能で出力可能となる。これは、時間及び/又は距離の関数として出力された後方反射光又は散乱光のアナログ-デジタル変換値に対応し得る。いくつかの例示的実施形態では、時間相関ヒストグラムデータは、(付随する)測定時間内及びその直前に光検出受信要素の電気信号に基づいて生成されたデータである。したがって、これらは通常、拡散後方散乱、物体での光反射、周囲光、その環境における他の光源からの干渉光信号などで構成される信号寄与を含む。
【0018】
いくつかの例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムデータは、ここでは、複数の光検出受信要素からの時間相関ヒストグラムデータの累積に対応する。拡散後方散乱寄与及び周囲光の寄与の信号対ノイズ比(「SNR」(信号対ノイズ比)ともいう)は他の信号寄与(例えば、物体での反射又は干渉光源)との比較によって増加し得るので、時間相関ヒストグラムデータの累積は測定(後方散乱ヒストグラムデータの解析)の種々のパラメータを決定するのに有利となり得る。いくつかの例示的実施形態では、これにより、後方散乱ヒストグラムデータの解析をより正しく実行することが可能となる。
【0019】
これは、一部の例示的実施形態では、いくつかの時間相関ヒストグラムデータ(後方散乱ヒストグラムデータ)はLIDAR測定の視野の異なる距離での及び/又は異なる領域における物体の反射(物体による信号寄与)を不鮮明とし得ることから生じる。このような例示的実施形態では、物体は、通常は視野の狭い範囲にしか存在しないことが多く、視野は、通常は検出されている余地領域を表す。これに対して、拡散後方散乱及び周囲光の寄与は、通常はLIDARシステムの視野全体にわたって同様である。
【0020】
測定時間中、周囲光も、同様に原則として一定であるので、通常は全ての時間間隔で一定の寄与となる。物体での反射の信号寄与は同様に鋭いピークであることが多く、反射光は1個又は数個の時間間隔だけで検出されることを意味する。これは、光パルスは弱められた振幅であるがほぼ同一のパルス幅で受信され得るためである。例えば、10nsの通常のパルス幅において、250psの時間分解能が、正確な位置特定に必要となり得る。
【0021】
例えば大気中の霧又は粒子での拡散後方散乱時に、低い強度での光の伝搬中に連続的な後方散乱が生じ得る。光パルスは、ここで、時間において大きく拡幅又は不鮮明化され得る。例えば、1.5mの幾何学的拡がりのある10nsの光パルスを検討すると、1.5mの深さ範囲にわたる拡散後方散乱が常に生成され得る。この理由のため、一部の例示的実施形態では、明らかに低減した時間分解能で充分となる。
【0022】
一部の例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムデータは、1又は複数のヒストグラム累積部によって生成され、解析のために提供される。ヒストグラム累積部は、複数の信号入力部を有する。ヒストグラム累積部は、当該又は各信号入力部において時間相関ヒストグラムデータを受信する。ここでは、ヒストグラムは常に各信号入力部で受信される必要はなく、一部の例示的実施形態は、ヒストグラムデータが受信されず又は対応する構成によってしか受信されない、より多くの信号入力部を設ける。後方散乱ヒストグラムデータは、信号入力部において受信された時間相関ヒストグラムに基づいて生成される。
【0023】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部の最大数は、光ランタイム測定のためのシステム(例えば、LIDARシステム)における光検出受信要素の数によって決定される。ヒストグラム累積部は、ここでは基本的に、デジタル信号又はデータ、例えば、時間相関ヒストグラムを信号入力部を介して受信する電子回路若しくは電子回路構成であり又はそれを有し、そこに記載される後方散乱ヒストグラムデータを生成し得る。電子回路は、ここに記載するような機能を実行するための電子部品、デジタル記憶要素などを含み得る。電子回路は、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、DSP(デジタル信号プロセッサ)などによって実現可能である。他の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、メモリ及びマイクロプロセッサによって実現される。他の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はソフトウェアによって実現され、信号入力部はこのような例示的実施形態ではソフトウェア機能/方法のパラメータ/属性に対応する。そして、後方散乱ヒストグラムデータの生成はコンピュータ上での特定の数学的演算を実行するための一連のコマンドの実行に対応するので、後方散乱ヒストグラムデータは、全てのコマンドが処理された後に存在することになる。一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はまた、ここに記載する機能が対応して分散されるハードウェア及びソフトウェアに基づくコンポーネントの混合によって実現さる。
【0024】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、受信された時間相関ヒストグラムデータを相互に加算することによって後方散乱ヒストグラムデータを生成する。
【0025】
時間間隔(「ビン」)において検出されたイベント数は、ここでは全ての受信された時間相関ヒストグラムデータから相互に加算されてもよく、それにより、各時間間隔において全てのイベントの合計をこの時間間隔に正確に含める後方散乱ヒストグラムデータが生成される。時間相関ヒストグラムデータは、好ましくは整数として累積又は加算されるので、一部の例示的実施形態では、弱い拡散後方散乱が測定可能となる。拡散後方散乱寄与のSNRが他の寄与と比較して増加し得るので、これは有利である。
【0026】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために、受信された時間相関ヒストグラムデータから算術平均を計算する。
【0027】
受信された時間相関ヒストグラムデータは、ここでは相互に加算されて信号入力部数によって除算される。これは(整数を累積する例示的実施形態とは逆に)固定小数点数及び浮動小数点数の実現を有する一部の例示的実施形態では有利となり得る。
【0028】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために、複数の時間間隔の受信された時間相関ヒストグラムデータを1つの時間間隔内で累積する。
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はさらに、後方散乱ヒストグラムデータを生成するための特定の時間閾値を超える時間間隔の受信された時間相関ヒストグラムデータを考慮しないように設定される。
【0029】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はさらに、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために受信時間相関ヒストグラムデータを重み付けするように設定される。
【0030】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はさらに、拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを出力するように設定される。例えば、後方散乱ヒストグラムデータは、その後に後方散乱を特定するためのプロセッサ、FPGAなどに出力され得る。
【0031】
一部の例示的実施形態では、光ランタイム測定、例えば、LIDARシステムなどに用いられる受信システムは複数の光検出受信要素を有する受信マトリクスを有していてもよく、光検出受信要素の各々は光を検出してそれに応じて電気信号を生成するように設定される。
【0032】
一部の例示的実施形態では、光検出受信要素の各々が、活性化及び非活性化可能である。一部の例示的実施形態では、受信マトリクスにおける光検出受信要素は(基本的には周知であるように)列及び行に配置され、一般性を限定することなく、一部の例示的実施形態では同数の光検出受信要素が各行に設けられる。
【0033】
一部の例示的実施形態では、装置は複数の評価部を備え、それぞれの評価部は所定列において光検出受信要素に接続され、又はそれぞれの評価部は所定行において光検出受信要素に接続される。
【0034】
一部の例示的実施形態では、評価部の各々は、光検出受信要素の電気信号に基づいて時間相関ヒストグラムデータを生成するように設定される。
【0035】
一部の例示的実施形態では、活性化された光検出受信要素のみが、時間相関ヒストグラムデータを生成するために考慮される。
【0036】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部の各信号入力部は評価部の1つに接続され、それにより時間相関ヒストグラムデータは評価部から対応のヒストグラム累積部に送信される。
【0037】
光ランタイム測定時に後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法では、後方散乱ヒストグラムデータが、最初に受信される。これらの後方散乱ヒストグラムデータは、ヒストグラム累積部によって生成されたものである。
【0038】
受信された後方散乱ヒストグラムデータは、解析される。解析は、ここでは光ランタイム測定の種々のパラメータ(後方散乱信号、周囲光量、有効検出範囲など)を特定するための計算又は一連の計算を伴い得る。計算は、ここでは後方散乱ヒストグラムデータを数学的演算、例えば、算術平均化、予め規定された関数の適用などのための入力値とする。
【0039】
受信された後方散乱ヒストグラムデータは、ここでは基本的に、プロセッサ、FPGA、DSPなどによって解析可能である。このような例示的実施形態では、解析は、ソフトウェアによって実現される。そして、後方散乱ヒストグラムデータの解析は、全てのコマンドが処理されると後方散乱ヒストグラムデータが解析されているように、コンピュータで特定の算術演算を実行するための一連のコマンドを実行することに対応する。他の例示的実施形態では、対応する電子部品を有する特定の電子回路が、後方散乱ヒストグラムデータを解析するために設けられてもよい。一部の例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムデータの解析は、ここに記載する方法が対応して分散されるハードウェア及びソフトウェアに基づくコンポーネントの混合によって実現される。上記の例示的実施形態は、データ記憶のための記憶要素も追加的に含み得るデータ処理のための装置の例示的実施形態であり得る。
【0040】
拡散後方散乱に基づいて検出される光の量は、例えば、日中の周囲光の量及び物体で反射された光の量と比較して低いことが多いため、後方散乱を特定することが困難かつ不正確となり得る。一部の例示的実施形態では、上記が、累積された時間相関ヒストグラムデータに対応する後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法が光ランタイム測定時の後方散乱信号を特定するのに使用される理由である。
【0041】
拡散後方散乱は、通常は長距離(例えば、200m)よりも短距離(例えば、5m)において高く、連続的に低下し得る。したがって、一部の例示的実施形態では、光ランタイム測定時の拡散後方散乱は、短距離で最大の後方散乱光を有することになるとともに距離が長くなると急峻に低下するという通常の信号形態を有し得る。このような例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムデータにおける後方散乱信号は、その後に通常の信号形態と相関する。後方散乱信号は短距離での信号形態に基づいて識別され得るので、これは有利である。ただし、このような例示的実施形態では、短距離での物体の存在を考慮すると、後方散乱信号は特定可能でないことも多い。
【0042】
結果として、受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析するための一部の例示的実施形態では、後方散乱信号を特定するために、類似性測定値、例えば、相関度が、受信された後方散乱ヒストグラムデータと、予め規定された基準後方散乱信号との間で計算される。
【0043】
相関度は、2個若しくは複数の時間若しくは空間信号の進行の間の類似性についての測定値又は信号伝達の間の統計的関連についての測定値であり得る。一部の例示的実施形態では、相関度は、基本的には周知の相関積分によって計算される。
【0044】
予め規定された基準後方散乱信号は、後方散乱についての通常の信号形態に対応し得るものであり、後方散乱についての通常の信号形態は種々の例示的実施形態で異なり得る。一部の例示的実施形態では、予め規定された基準後方散乱信号は、例えば、プロセッサを介して後方散乱ヒストグラムを解析するためにアクセス可能なメモリ内のヒストグラムデータとして存在し得る。他の例示的実施形態では、予め規定された基準後方散乱信号は、予め規定された関数から動的に(例えば、解析中の要求時に)計算されてもよい。
例えば、後方散乱についての通常の信号形態は、特徴的ピーク又は一連のピークを短距離において探索することによって特定可能であり、位置、信号形態及び強度が評価される。例えば、後方散乱は、送信機(そこから光パルスが放射される)と受信機(例えば、複数の光検出受信要素を有する受信マトリクス)の間の視差を有する光ランタイム測定のためのLIDARシステムを有する例示的実施形態において、システム依存の信号形態及びピークの位置を有する。このような例示的実施形態では、通常の信号形態を特定するために、ピークの強度が物体に対応するか否かが確認され得る。通常の基準後方散乱信号を、例えば、図1図2及び図3に示し、より詳細を以下にさらに説明する。例えば、シングルビームLIDARシステムとマルチビームLIDARシステムとの区別がなされ得る(シングルビームシステムは一度に1個の光パルス(ビーム)のみを放射し、独国特許出願公開第102017222971号に記載されるLIDARシステムなどのマルチビームシステムは異なる位置から複数の光パルスを同時に放射可能である)。
【0045】
他の例示的実施形態では、基準後方散乱信号は、種々の環境条件を模擬し、後方散乱の通常の信号形態、位置及び強度を測定することによって実験的に決定され得る。
【0046】
他の例示的実施形態では、基準後方散乱信号は、想定される後方散乱信号と受信された後方散乱ヒストグラムデータとの間の相関積分(相互相関)を計算することによって決定されてもよい。このような例示的実施形態では、相関のレベルは、想定される後方散乱信号が基準後方散乱信号として使用可能か否かを評価するのに使用可能である。ここでは、特定のシステムに対する基準後方散乱信号を決定するために、複数の想定される後方散乱信号が試験可能であり、その相関のレベルが比較可能である。
【0047】
受信された後方散乱ヒストグラムデータと予め規定された基準後方散乱信号との間の相関度が相関積分によって計算される例示的実施形態では、測定時間(及びその直前)にわたって経時変化する後方散乱信号が生じ、計算された後方散乱の振幅は後方散乱された光出力に対応する(以下、ABと略記されることもある)。この理由のため、後方散乱は、このような例示的実施形態において後方散乱ヒストグラムデータから特定可能となる。
一部の例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法は、受信された後方散乱ヒストグラムデータから周囲光量を特定するのに用いられる。
【0048】
周囲光量(以下、ALと略記されることもある)は、基本的には、例えばLIDARシステムにおける信号寄与に対応し、それは放射光パルスとは独立して日光又は街灯の結果として存在して検出される。さらに、周囲光量は受信機の電子ノイズの部分も含むことがあり、これは温度に依存する。ただし、このような例示的実施形態では、周囲光及びノイズからの周囲光量に対する寄与の効果は同じであるので、差異付けられない。
【0049】
測定時間中(及びその直前に)、周囲光は原則として一定であるので、通常は全ての時間間隔において一定の寄与をもたらす。物体での反射の信号寄与も鋭いピークとなることが多く、反射光は1個又は数個の時間間隔だけで検出されることを意味する。この理由のため、周囲光量は、一部の例示的実施形態では、光パルスの放射(開始時間)の直前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定可能である。他の例示的実施形態では、周囲光量は、長距離に対応する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから(長距離にわたって物体が存在しない限り)特定可能である。更なる例示的実施形態では、周囲光量は、上記方法の組合せから特定可能である。いくつかの例示的実施形態では、受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析する方法は、後方散乱信号及び周囲光量に基づいて光ランタイム測定の有効検出範囲を決定するのに用いられる。
【0050】
光ランタイム測定の有効検出範囲(以下、EDRともいう)は、固体の物体での反射を通じて生じた信号が依然として明確に検出及び割当て可能な距離に対応し得る。有効検出範囲は、ここでは基本的に、予め規定された周囲光量における予め規定された反射率及び予め規定された光検出の一定の確率を有する物体を基準とする。
【0051】
一部の例示的実施形態では、有効検出範囲は、絶対値(例えば、100m)に対応し得る。他の例示的実施形態における有効検出範囲は相対値に対応していてもよく、このような例示的実施形態では、有効検出範囲は、上記基準値について決定された通常の検出範囲に関連する。
【0052】
このような例示的実施形態では放射光パルスの光出力は距離の増加とともに後方散乱によって減衰されるので、有効検出範囲は後方散乱を高くすることによって減少し得る。結果として、固定の物体での反射に利用可能な光出力は、より低い後方散乱による例示的実施形態におけるよりも小さいため、反射光出力は低くなり、受信機に向かう途中で再度低減される。
【0053】
高い周囲光量による例示的実施形態では、周囲光量は基本的にノイズのレベルに寄与するので、有効検出範囲はSNRの低下によって減少し得る。他の例示的実施形態では、周囲光量はSNRを増加させるので、有効検出範囲は低い周囲光量において拡大する。この理由のため、光ランタイム測定の有効検出範囲は、後方散乱信号及び周囲光量に基づいて、受信された後方散乱ヒストグラムデータから決定可能となる。
【0054】
一部の例示的実施形態では、信号減衰係数を決定するために、変換関数が後方散乱信号に適用される。
【0055】
上述したように、高い後方散乱は、距離の増加に応じて放射光パルスの光出力の減衰を介して有効検出範囲を縮小し得る。この理由のため、後方散乱信号は、そのような減衰の大きさを決定するのに使用可能である。
【0056】
結果として、変換関数が後方散乱信号に適用され、一部の例示的実施形態における変換関数は、後方散乱信号から信号減衰係数を計算する予め規定された(数学的)関数であり得る。他の例示的実施形態では、変換関数は、一連の計算であり得る。変換関数は、実験的に決定されてもよいし、経験から得られてもよい。一部の例示的実施形態では、例えば、実験的な決定が開発中に事前に行われてもよく、変換関数に対応する主要な数値及び/又は特徴的な曲線がソフトウェアに記憶されてもよい。
【0057】
一部の例示的実施形態では、信号減衰係数は、その後に後方散乱によってもたらされる光出力における距離依存的な割合の減少となり得る。
【0058】
この理由のため、変換関数は、一部の例示的実施形態では実験的に決定されたものである。例えば、信号減衰は、種々の環境条件下で測定されているので、信号減衰のための測定値とよく一致する後方散乱信号(これは上述したように実験的に決定されてもよい)から信号減衰係数を決定する変換関数を求めることができる。
【0059】
一部の例示的実施形態では、周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される。
【0060】
開始時間は、ここでは、固体の物体の距離を特定するための光パルスが放射される時間である。光パルス(例えば、20ns)を放射する直前に周囲光のみが検出されるので、一部の例示的実施形態において周囲光量を特定して開始時間の前に存在する受信された後方散乱ヒストグラムデータに対するそれら時間間隔を考慮することが有利である。またさらに、周囲光における統計的変動を均衡化することによって周囲光量に対するより正確な値を得るために、複数の時間間隔から算術平均を計算することが有利である。ただし、このような例示的実施形態において特定された周囲光量は、非常に遠い物体での反射によって変わってしまうこともある。
【0061】
一部の例示的実施形態では、周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される。
【0062】
光ランタイム測定時の拡散後方散乱は、光量が低すぎるため、長い距離では通常は検出できなくなる。さらに、光パルスが、例えば、路面又は固体の物体に当たった後、光エネルギー又は光出力が吸収又は反射されるので、例えば、LIDARシステムにおいて一定の周囲光量が検出可能となる。
【0063】
この理由のため、一部の例示的実施形態において、周囲光量を特定して(例えば、距離20mに対応する時間閾値の時点で)特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータについてそれら時間間隔を検討することが有利である。さらに、周囲光における統計的変動を均衡化することによって周囲光量に対するより正確な値を得るために、複数の時間間隔から算術平均を計算することが有利である。ただし、このような例示的実施形態において特定された周囲光量は、遠い物体での反射によって変わってしまうこともある。
【0064】
いくつかの例示的実施形態では、周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから及び特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される。
【0065】
このような例示的実施形態では、周囲光量を特定するために、上記2つの方法が組み合わされる。周囲光量を特定することに対する非常に遠い物体の潜在的影響が結果として小さくなるので、これは有利である。さらに、算術平均を計算することは、統計的変動をさらに縮小することを可能とするので、有利である。
【0066】
一部の例示的実施形態では、周囲光量を特定するために、特定の又は予め規定された基準を満たす極小値が、特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定される。上述したように、物体での反射がこの時間範囲内の受信された後方散乱ヒストグラムデータに寄与していない場合、一定の周囲光量が(決定された時間閾値に対応する)より長い距離についての一部の例示的実施形態において特定可能となる。このような例示的実施形態では、周囲光量は、特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータにおける極小値に対応し得る。
【0067】
物体での反射によってなされる信号の寄与は、通常は複数の時間間隔にわたって及び得る特定の信号形態を有する。より長い距離に対して複数の物体が存在する場合、2つの信号形態は、一部の例示的実施形態では、周囲光量に対応しない極小値が発生するような態様で相互に重なり得る。一部の例示的実施形態では、上記の理由のため、それらの極小値のみが、特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータにおける極小値の存在に対する種々の可能性を表す特定の又は予め規定された基準を満たす周囲光を特定するために考慮される。極小値は、この基準に基づいて分類され得る。
【0068】
一部の例示的実施形態では、周囲光量は、(時間閾値の時点で)第1の極小値を最初に確定及び分類することによって特定可能である。極小値が、分類に従って周囲光量を特定するための要件を満たさない場合、受信された後方散乱ヒストグラムデータにおける他の極小値について探索が実行され得る。この極小値は、このような例示的実施形態では、時間閾値の後及び第1の極小値の後に来る。探索は、測定時間の終了まで対応して継続され得る。極小値が分類に従って周囲光量を特定するための要件を満たす場合、周囲光量は極小値として決定される。一部の例示的実施形態では、周囲光量を特定することは、以下のステップを伴う:
第1の周囲光量を取得するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均を計算するステップ、
第2の周囲光量を取得するために、特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値を決定するステップ、及び
第1の周囲光量と第2の周囲光量との比較から周囲光量を特定するステップであって、周囲光量が2つの周囲光量の小さい方として特定される、ステップ。
【0069】
算術平均は、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから第1の周囲光量に対して最初に計算される。これは、min_ambient=第1の周囲光量としてアルゴリズム的に表現可能であり、min_ambientは周囲光量に対して決定される最小値に対応する。特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータにおける極小値は、後に決定され、第2の周囲光量に対応する。これは、current_far_ambient=第2の周囲光量として記載可能である。上述によると、この極小値は、特定の基準に従って分類される。極小値が分類に従って周囲光量を特定するための要件を満たす場合、2つの周囲光量のうちの小さい方が、min_ambientとして設定される。これは、アルゴリズム的に次のように表現可能である:min_ambient=min(min_ambient,current_far_ambient)。極小値が分類に従って周囲光量を特定するための要件を満たさない場合、次の極小値が第2の周囲光量として決定され、上述したように再度分類などされる。探索中に測定時間の終了に達した場合、周囲光量はAL=min_ambientとして設定される。
【0070】
結果として、記載した方法は、上記に説明した方法のうちの2つの組合せに対応し得る。これは有利であり、なぜなら、統計的変動及び遠方の物体の影響が結果的に軽減されるので、周囲光量がより正確に特定可能となるからである。
【0071】
一部の例示的実施形態では、光ランタイム測定の有効検出範囲は、予め規定された関数の補助により決定される。
【0072】
上述したように、有効検出範囲は、後方散乱信号(AB)及び周囲光量(AL)に基づいて決定可能である。一部の例示的実施形態では、予め規定された関数は、ここでは後方散乱信号及び周囲光量から有効検出範囲を計算する予め規定された(数学的)関数であり得る。他の例示的実施形態では、予め規定された関数は、一連の計算であり得る。予め規定された関数は、実験的に決定されてもよいし、経験から得られてもよい。これは、fを予め規定された関数として、DER=f(AL,AB)として形式的に表現可能である。
【0073】
一部の例示的実施形態では、光ランタイム測定の有効検出範囲は、特性図から決定される。
【0074】
特性図は、ここでは、システムの入出力変数間の関係を表すような、必要となる計算処理能力の観点であまり要求されないモデルの表形式の単純なタイプの表示であり得る。特性図は、ほぼいかなる数学的関係又はいかなる式も表現するのに使用可能であり、入力変数の数は制限される。したがって、一部の例示的実施形態では、特性図は、多数のAL及びABの値についての有効検出範囲の値を対応して記憶している関数f(AL,AB)の画像であり得る。有効検出範囲の決定がこのような例示的実施形態では計算される必要がなく、それにより計算処理能力が節約されるので、これは有利である。
【0075】
上述したように、光ランタイム測定のための有効検出範囲は、一部の例示的実施形態では、予め規定された基準値との比較により決定される。
【0076】
一部の例示的実施形態は、ここに説明するような方法のステップを実行するための手段を備えるデータ処理のための装置に関する。装置は、ここでは、自動車に内蔵され、又は自動車の構成要素、例えば、車載コンピュータ、コントローラなどにおいて実現され得る。さらに、その手段は、ここに記載する機能を実現するのに通常は必要となる1又は複数の(マイクロ)プロセッサ、記憶手段及び他の電子部品を備え得る。
【0077】
本発明の例示的実施形態を、ここに例示的に添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】第1の例示的実施形態の基準後方散乱信号を示す。
図2】第2の例示的実施形態の基準後方散乱信号を示す。
図3】第3の例示的実施形態の基準後方散乱信号を示す。
図4】光学距離測定のための受信システムについての実施形態の手法を示す。
図5】光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第1の例示的実施形態の方法のフローチャートを示す。
図6】光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第2の例示的実施形態の方法のフローチャートを示す。
図7】光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第3の例示的実施形態の方法のフローチャートを示す。
図8】光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第4の例示的実施形態の方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
図1は、第1の例示的実施形態の基準後方散乱信号を示す。
【0080】
図1に示す基準後方散乱信号は、同軸LIDARシステム、すなわち、送信機と受信機の間に視差がないLIDARシステムにおいて生じる種類の通常の信号形態に対応する。基準後方散乱信号(言い換えると、後方散乱光の強度)は、時間とともに単調減少する。
【0081】
図2は、第2の例示的実施形態の基準後方散乱信号を示す。
【0082】
図2に示す基準後方散乱信号は、二軸シングルビームLIDARシステムにおいて生じる種類の通常の信号形態に対応する。二軸システム(すなわち、送信システム及び受信システムが規定の距離、例えば、10cmにあり、規定のビーム発散を有する)では、重なりは、最小距離の時点でのみ生じる(基準後方散乱信号の信号立上りの開始)。基準後方散乱信号は、その後、図1における進行に従って低減していく。基準後方散乱信号は、非常に短い距離において低い強度を有して最大値まで上昇し、その後に時間とともに単調減少する。
【0083】
図3は、第3の例示的実施形態の基準後方散乱信号を示す。
【0084】
図3に示す基準後方散乱信号は、(例えば、独国特許出願公開第102017222971号に係る)二軸マルチビームLIDARシステムにおいて通常生じる種類の通常の信号形態に対応する。基準後方散乱信号は、二軸シングルビームLIDARシステムに類似するが、種々のビームが光検出受信要素の視野に交差する距離において複数の最大値を有する。より長い距離について、強度は時間とともに単調減少する。
【0085】
図4は、光学距離測定のための受信システム1についての例示的実施形態の手法を示す。
【0086】
受信システム1は、複数の光検出受信要素(EN×M、この例示的実施形態ではE0,0~E127,255)が行(Z0~Z127)及び列(S0~S255)に配置された受信マトリクス2を有する。M=256個の光検出受信要素(E0,0~E127,255)が、N=128行(Z0~Z127)の各々に配置される(M=256列(S0~S255)に対応する)。光検出受信要素(E0,0~E127,255)は、この例示的実施形態ではSPADである。
【0087】
受信システム1は複数の評価部(A0~A127)をさらに有し、それぞれの評価部(A0~A127)はマルチプレクサ(不図示)を介して所定行(Z0~Z127)の光検出受信要素(E0,0~E127,255)に接続される。各行(Z0~Z127)において、2つの光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)のみが、列S0及びS1において所定時刻に活性化される(光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)内で第2の円によって示される)。光の検出に応じて、活性化された光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)は電気信号を生成し、その電気信号から時間相関ヒストグラムデータが、評価部(A0~A127)の各々において時間-デジタルコンバータ(不図示)の補助によって生成される。この例示的実施形態では、2つの活性化された光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)の時間相関ヒストグラムデータが、時間相関ヒストグラムデータを生成及び出力するために、評価部(A0~A127)において加算される。他の例示的実施形態では、M=256個の光検出受信要素(E0,0~E127,255)のうちの任意の所望数が、各行、例えば、E0,0~E0,10、E1,0~E1,10、E2,0~E2,10、・・・、E127,0~E127,10において活性化され得る。
【0088】
受信システム1は、複数のヒストグラム累積部(HA0~HAX)をさらに有する。各ヒストグラム累積部(HA0~HAX)はP=16個の信号入力部(明記せず)を有し、各信号入力部はそれぞれの評価部(A0~A127)に接続される。この理由のため、この例示的実施形態では、X=N/P=8個のヒストグラム累積部がN=128行(Z0~Z127)において必要となり、それらがP=16個の評価部(A0~A127)の時間相関ヒストグラムデータを対応して累積する。評価部(A0~A127)によって出力された時間相関ヒストグラムデータはヒストグラム累積部(HA0~HAX)に送信されることにより、それが信号入力部で受信される。受信時間相関ヒストグラムデータに基づいて、ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、後方散乱ヒストグラムデータを生成する。この例示的実施形態では、各信号入力部で受信された時間相関ヒストグラムデータは、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために相互に加算される。
【0089】
受信システム1はデータ処理のための装置3をさらに有し、それはプロセッサ及び記憶要素(不図示)を有する。ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は生成された後方散乱ヒストグラムデータを出力し、これはデータ処理のための装置3によって受信される。データ処理のための装置3は、受信された後方散乱ヒストグラムデータを解析する。この例示的実施形態では、データ処理のための装置3は、後方散乱信号、例えば、後方散乱インジケータ又は後方散乱信号強度として確定されたものを特定するために、受信された後方散乱ヒストグラムデータと図3による基準後方散乱信号との間の相関度を計算する。
【0090】
図5は、光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第1の例示的実施形態の方法20のフローチャートを示す。
【0091】
21において、ここに説明するように、後方散乱ヒストグラムデータが受信される。
【0092】
22において、ここに説明するように、受信された後方散乱ヒストグラムデータが解析される。
【0093】
23において、ここに説明するように、後方散乱信号を特定するために、受信された後方散乱ヒストグラムデータと予め規定された基準後方散乱信号との間の類似性測定値が計算される。
【0094】
24において、ここに説明するように、信号減衰係数を取得するために、変換関数が、後方散乱信号に適用される。
【0095】
ステップ24による変換関数は、ここに説明するように、25において(事前に)実験的に決定されたものである。
【0096】
図6は、光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第2の例示的実施形態の方法30のフローチャートを示す。
【0097】
31において、ここに説明するように、後方散乱ヒストグラムデータが受信される。
【0098】
32において、ここに説明するように、受信された後方散乱ヒストグラムデータが解析される。
【0099】
33において、ここに説明するように、周囲光量が、受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定される。
【0100】
ステップ34~36は、各々独立して実行されるオプションである。
【0101】
34において、ここに説明するように、周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される。
【0102】
35において、ここに説明するように、周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される。
【0103】
36において、ここに説明するように、周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから、及び周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算される。
【0104】
図7は、光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第3の例示的実施形態の方法40のフローチャートを示す。
【0105】
41において、ここに説明するように、後方散乱ヒストグラムデータが受信される。
【0106】
42において、ここに説明するように、受信された後方散乱ヒストグラムデータが解析される。
【0107】
43において、ここに説明するように、周囲光量が、受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定される。ステップ44及び45は、各々独立して実行されるオプションである。
【0108】
44において、ここに説明するように、周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値が決定される。
【0109】
45において、ここに説明するように、第1の周囲光量を取得するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信された後方散乱ヒストグラムデータから算術平均が計算され、第2の周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える受信された後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値が決定され、第1の周囲光量と第2の周囲光量の比較から周囲光量が特定され、周囲光量が2つの周囲光量の小さい方として特定される。
【0110】
図8は、光ランタイム測定時の後方散乱ヒストグラムデータを解析する第4の例示的実施形態の方法50のフローチャートを示す。
【0111】
51において、ここに説明するように、後方散乱ヒストグラムデータが受信される。
【0112】
52において、ここに説明するように、受信された後方散乱ヒストグラムデータが解析される。
【0113】
53において、ここに説明するように、後方散乱信号を特定するために、受信された後方散乱ヒストグラムデータと予め規定された基準後方散乱信号との間の類似性測定値が計算される。
【0114】
54において、ここに説明するように、受信された後方散乱ヒストグラムデータから周囲光量が特定される。
【0115】
55において、ここに説明するように、例えば後方散乱インジケータ又は後方散乱信号強度として決定される後方散乱信号、及び周囲光量に基づいて、光ランタイム測定の有効検出範囲が決定される。
【0116】
ステップ56~58は、各々独立して実行されるオプションである。
【0117】
56において、ここに説明するように、光ランタイム測定の有効検出範囲が、予め規定された関数の補助により決定される。
【0118】
57において、ここに説明するように、光ランタイム測定の有効検出範囲が、特性図から決定される。
【0119】
58において、ここに説明するように、光ランタイム測定の有効検出範囲が、予め規定された基準値との比較により決定される。
【符号の説明】
【0120】
1 受信システム
2 受信マトリクス
3 装置
20、30、40、50 方法
21、31、41、51 後方散乱ヒストグラムデータを受信する
22、32、42、52 受信後方散乱ヒストグラムデータを解析する
23、53 後方散乱信号を特定するために、受信後方散乱ヒストグラムデータと予め規定された基準後方散乱信号との間の類似性測定値を計算する
24 信号減衰係数を取得するために、変換関数を後方散乱信号に適用する
25 変換関数を実験的に決定する
33、43、54 受信後方散乱ヒストグラムデータから周囲光量を特定する
34 周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信後方散乱ヒストグラムデータから算術平均を計算する
35 周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信後方散乱ヒストグラムデータから算術平均を計算する
36 周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信後方散乱ヒストグラムデータから及び特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信後方散乱ヒストグラムデータから算術平均を計算する
44 周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える受信後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値を決定する
45 第1の周囲光量を特定するために、開始時間の前に存在する複数の時間間隔の受信後方散乱ヒストグラムデータから及び特定の時間閾値を超える複数の時間間隔の受信後方散乱ヒストグラムデータから算術平均を計算し、第2の周囲光量を特定するために、特定の時間閾値を超える受信後方散乱ヒストグラムデータから特定の基準を満たす極小値を決定し、第1の周囲光量と第2の周囲光量の比較から周囲光量を特定し、周囲光量が2つの周囲光量の小さい方として特定される
55 後方散乱信号及び周囲光量に基づいて光ランタイム測定の有効検出範囲を決定する
56 光ランタイム測定の有効検出範囲を予め規定された関数の補助により決定する
57 光ランタイム測定の有効検出範囲を特性図から決定する
58 光ランタイム測定の有効検出範囲を予め規定された基準値との比較により決定する
A0~A127 評価部
EN×M、E0,0~E127,255 光検出受信要素
HA0~HAX ヒストグラム累積部
S0~S255 列
Z0~Z127 行
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8