(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】性能検査システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240412BHJP
G01N 29/12 20060101ALI20240412BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20240412BHJP
G01N 29/32 20060101ALI20240412BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01N29/12
G01N29/46
G01N29/32
G01H3/00 A
(21)【出願番号】P 2023092244
(22)【出願日】2023-06-05
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】509337517
【氏名又は名称】株式会社コジマプラスチックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】仲田 義敏
【審査官】目黒 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223788(JP,A)
【文献】特開2022-086643(JP,A)
【文献】特開2023-073761(JP,A)
【文献】特開平11-023411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/000-13/045
99/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の性能検査
として前記製品に対して試運転を行う性能検査装置と、
前記性能検査装置から発せられる音を取得するマイクロホンと、
前記マイクロホンから取得した音響データをスペクトログラム画像に変換する画像変換部と、
経時的に生成される前記スペクトログラム画像から、所定の起点時刻から所定の終点時刻までの画像を抽出する抽出部と、
前記抽出部による抽出画像をもとに、前記製品の異常に対する確度を出力する確度算出部と、
前記確度に基づいて、前記製品の異常有無を判定する判定部と、
を備え、
前記確度算出部は、前記抽出画像
の画像データが入力される入力層と、異常に対する前記確度を出力する
出力層を備える、画像認識用のニューラルネットワークを備え、
前記判定部は、前記確度が所定の閾値を超過する場合に、前記製品に異常有りと判定する、
性能検査システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の性能検査システムであって、
前記性能検査装置は、前記製品を押さえる可動式のアームを備え、
前記抽出部は、前記アームが前記製品を押さえるときの動作音の発生時刻を、前記抽出画像の前記起点時刻に特定する、性能検査システム。
【請求項3】
請求項
2に記載の性能検査システムであって、
前記製品はアクチュエータであって、
前記性能検査装置は、前記アクチュエータによって搬送させられるワークと、前記ワークの移動を止めるストッパを備え、
前記抽出部は、前記ワークが前記ストッパに当たったときの衝突音の発生時刻を、前記抽出画像の前記終点時刻に特定する、性能検査システム。
【請求項4】
製品の性能検査として前記製品に対して試運転を行う性能検査装置と、
前記性能検査装置から発せられる音を取得するマイクロホンと、
前記マイクロホンから取得した音響データをスペクトログラム画像に変換する画像変換部と、
経時的に生成される前記スペクトログラム画像から、所定の起点時刻から所定の終点時刻までの画像を抽出する抽出部と、
前記抽出部による抽出画像をもとに、前記製品の異常に対する確度を出力する確度算出部と、
前記確度に基づいて、前記製品の異常有無を判定する判定部と、
を備え、
前記確度算出部は、前記抽出画像を入力データとし、異常に対する前記確度を出力する、画像認識用のニューラルネットワークを備え、
前記判定部は、前記確度が所定の閾値を超過する場合に、前記製品に異常有りと判定し、
さらに、前記性能検査装置は、前記製品を押さえる可動式のアームを備え、
前記抽出部は、前記アームが前記製品を押さえるときの動作音の発生時刻を、前記抽出画像の前記起点時刻に特定する、
性能検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、製品の性能検査時の音響データに基づいて当該製品の性能判定を行う、性能検査システムが開示される。
【0002】
例えば特許文献1-3では、製品の動作時等の音響データをもとに、装置の異常や作業内容の異常の有無が判定される。これらの文献では、音響データがスペクトログラム画像に変換される。そしてスペクトログラム画像に基づいて、異常の有無が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-22311号公報
【文献】特開2022-112143号公報
【文献】国際公開第2020/009210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、製品の動作音をもとにして、異常の有無が判定される場合に、当該判定が周囲の環境音の影響を受ける場合がある。例えば製品に対して性能検査のための試運転が行われているときに、製品の脇を搬送ロボットが通過する。搬送ロボットは走行時に注意喚起のため、スピーカーからメロディを出力する場合がある。このような場合に、音響データにメロディ音が含まれてしまう。その結果、正常な製品が異常有りと判定されるなど、誤った判定が出力されるおそれがある。
【0005】
そこで、本明細書では、周囲の環境音による影響を抑制可能な、性能検査システムが開示される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、性能検査システムが開示される。このシステムは、性能検査装置、マイクロホン、画像変換部、抽出部、確度算出部、及び判定部を備える。性能検査装置は、製品の性能検査を行う。マイクロホンは、性能検査装置から発せられる音を取得する。画像変換部は、マイクロホンから取得した音響データをスペクトログラム画像に変換する。抽出部は、経時的に生成されるスペクトログラム画像から、所定の起点時刻から所定の終点時刻までの画像を抽出する。確度算出部は、抽出部による抽出画像をもとに、製品の異常に対する確度を出力する。判定部は、確度に基づいて、製品の異常有無を判定する。確度算出部は、画像認識用のニューラルネットワークを備える。このニューラルネットワークは、抽出画像を入力データとし、異常に対する確度を出力する。判定部は、当該確度が所定の閾値を超過する場合に、製品に異常有りと判定する。
【0007】
上記構成によれば、異常に対する確度が出力される。つまり、異常時の音響データとの類似性に基づいて異常の有無が判定される。このような判定手法によれば、正常な製品の性能検査中に環境音が紛れ込んでも、当該音響データは、異常時の音響データとは非類似となる。したがって異常との誤判定が抑制される。
【0008】
また上記構成において、性能検査装置は、製品に対して試運転を行ってよい。この場合、異常のある製品の試運転時の動作音は、正常な製品の試運転時の動作音よりも大きい。
【0009】
上記構成によれば、異常のある製品に対する判定に当たり、環境音の寄与が相対的に低くなる。つまり、環境音の紛れ込みによる誤判定、つまり、異常のある製品が誤って正常と判定されることが抑制される。
【0010】
また上記構成において、性能検査装置は、製品を押さえる可動式のアームを備えてよい。この場合、抽出部は、アームが製品を押さえるときの動作音の発生時刻を、抽出画像の起点時刻に特定する。
【0011】
上記構成によれば、性能検査において特徴的な音であり、かつ、製品が正常であるか異常であるかを問わずに周波数特性が一定である音を、抽出画像の起点に特定可能となる。
【0012】
また上記構成において、製品はアクチュエータであってよい。この場合、性能検査装置は、アクチュエータによって搬送させられるワークと、ワークの移動を止めるストッパを備える。抽出部は、ワークがストッパに当たったときの衝突音の発生時刻を、抽出画像の終点時刻に特定する。
【0013】
上記構成によれば、性能検査において特徴的な音であり、かつ、製品が正常であるか異常であるかを問わずに周波数特性が一定である音を、抽出画像の終点に特定可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書で開示される性能検査システムは、周囲の環境音による影響を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】性能検査の対象製品であるアクチュエータを例示する斜視図である。
【
図2】アクチュエータの分解図であって、トレイ側の構造を例示する斜視図である。
【
図3】アクチュエータの分解図であって、カバー側の構造を例示する斜視図である。
【
図4】アクチュエータのモータとウォームシャフトとの接続部分(正常状態)を例示する斜視図である。
【
図5】アクチュエータのモータとウォームシャフトとの接続部分(異常状態)を例示する斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る性能検査システムを例示する斜視図である。
【
図7】性能検査プロセス(1/3)を例示する斜視図である。
【
図8】性能検査プロセス(2/3)を例示する斜視図である。
【
図9】性能検査プロセス(3/3)を例示する斜視図である。
【
図10】コントローラのハードウェア構成を例示する図である。
【
図11】コントローラの機能ブロックを例示する図である。
【
図12】性能検査時の音をスペクトログラム画像に変換するプロセスを説明する図である。
【
図13】抽出画像の起点時刻を特定するためのニューラルネットワークを例示する図である。
【
図14】異常に対する確度を出力するためのニューラルネットワークを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<製品>
図1には、性能検査の対象製品が例示される。この製品は、例えばアクチュエータ10である。アクチュエータはガイド44及びホルダ46を備える。またアクチュエータ10は、駆動機構を収容するトレイ12及びカバー14を備える。トレイ12には電力の受入口であるインレット16が設けられる。
【0017】
カバー14には開口が設けられる。その開口からホルダ46が露出される。ガイド44は直線状に延伸している。ガイド44に沿ってホルダ46が直動する。
【0018】
図2、
図3には、アクチュエータ10の内部構造が例示される。
図2にはトレイ12側の内部構造が例示される。
図3にはカバー14側の内部構造が例示される。
図2を参照して、トレイ12には、モータ20及びウォームシャフト30が収容される。モータ20は、インレット16から電力供給を受けて回転駆動する。モータ20の駆動力はモータシャフト22及びギアシャフト32を介してウォームシャフト30に伝達される。
【0019】
図1、
図3を参照して、カバー14にはウォームホイール40、ファイナルギア42、ガイド44、及びホルダ46(の根元部分)が収容される。ウォームシャフト30(
図2参照)の回転がウォームホイール40に伝達される。さらにウォームホイール40と噛合うファイナルギア42が、ウォームホイール40とともに回転する。ファイナルギア42の回転に伴い、ホルダ46がガイド44に沿って直動する。
【0020】
モータ20は正逆回転が可能となっている。したがってホルダ46もガイド44に沿って前進及び後退が可能となっている。
【0021】
<製品の正常/異常>
図4には、モータ20とウォームシャフト30との連結部分が拡大図示される。モータシャフト22の先端にはコ字状のハンマー24が設けられる。ギアシャフト32の先端には、コ字状のアンビル34が設けられる。ハンマー24及びアンビル34の開き幅は例えば同一である。またモータシャフト22とギアシャフト32は同軸配列される。
【0022】
ハンマー24とアンビル34との間に、ダンパ36が取り付けられる。ダンパ36は例えば弾性部品であって、ハンマー24とアンビル34とを連結するカプラの機能を備える。ハンマー24とアンビル34が、ダンパ36を介して連結されることで、ハンマー24及びアンビル34は同期回転する。
【0023】
図5には、ダンパ36が取り付けられていない、いわゆる欠品状態のアクチュエータ10が例示される。ダンパ36の無い状態では、インパクトドライバのようにハンマー24がアンビル34を叩く。そしてハンマー24が弾性変形してアンビル34を乗り越える。さらにハンマー24が半周してアンビル34を叩く。
【0024】
このように、ダンパ36が取り付けられていない、欠品状態のアクチュエータ10は、ダンパ36が取り付けられた、正常なアクチュエータ10と比較して、動作音が大きくなる。以下に説明されるように、ダンパ36が取り付けられていない、欠品状態のアクチュエータ10は、異常のあるアクチュエータ10と判定される。また本実施形態に係る性能検査システムでは、アクチュエータ10の異常の有無、つまりダンパ36の欠品有無が判定される。
【0025】
<性能検査システム>
図6には、本実施形態に係る性能検査システムが例示される。性能検査システムは、検査装置60(性能検査装置)、コントローラ50、表示部52、及びマイクロホン54を備える。
【0026】
検査装置60は、組立後のアクチュエータ10(製品)に対して性能検査を行う。性能検査ではアクチュエータ10の試運転が行われる。性能検査の詳細は後述される。
【0027】
コントローラ50は例えばコンピュータである。コントローラ50はマイクロホン54から音響データを取得する。またコントローラ50は表示部52に対して、検査対象のアクチュエータ10に対する検査結果(正常/異常)を表示させる。さらにコントローラ50は、検査装置60の動作を制御する。
【0028】
マイクロホン54は、検査装置60から発せられる音を取得する。マイクロホン54は、例えば指向性を有していてもよい。この場合、マイクロホン54は、検査装置60のメインステージ68に向けられる。
【0029】
表示部52は例えばディスプレイ装置である。表示部52は例えば検査装置60のコネクタステージ65に対向配置される。性能検査ではコネクタステージ65側に作業者が立つ。つまり表示部52は作業者と対向する。
【0030】
<性能検査装置>
図6-
図9には、検査装置60の各部品の位置や配置を説明するために、直交座標系が示される。作業者はコネクタステージ65側からアクチュエータ10をメインステージ68に載せる。このような作業条件に基づき、作業者から見て前方を正方向としてFR軸が定められる。またメインステージ68の幅方向軸としてRW軸が定められる。FR-RW平面は水平面となる。FR軸及びRW軸と直交してUP軸が設けられる。UP軸は鉛直軸である。
【0031】
図6を参照して、検査装置60(性能検査装置)はレール61,61、ワーク62、ストッパ63A,63B、コネクタ64、コネクタステージ65、ガイド66,66、アーム67,67、メインステージ68、及びホルダ69を備える。
【0032】
メインステージ68には挿入孔68Aが穿孔される。挿入孔68Aにはアクチュエータ10(
図1参照)のホルダ46が挿入される。メインステージ68上には、一対のガイド66、66が設けられる。ガイド66,66の離隔距離は、アクチュエータ10(
図1参照)の幅W1と等しい。つまりガイド66,66にアクチュエータ10が位置決めされる。
【0033】
メインステージ68には、一対のアーム67,67が設けられる。アーム67,67は、ガイド66,66と挿入孔68Aの間に配置される。アーム67,67は可動式であって、図示しないサーボモータによって、開放位置(
図6参照)と押さえ位置(
図7参照)との間を回動可能となっている。
【0034】
メインステージ68の後方端にコネクタステージ65が連結される。コネクタステージ65は、例えば一軸ステージ機構を備えており、メインステージ68に対して進退可能となっている。
【0035】
コネクタステージ65上にコネクタ64が配置される。
図7、
図8に例示されるように、コネクタ64はアクチュエータ10のインレット16に差し込み可能となっている。コネクタ64は図示しない電源から電力供給を受ける。
【0036】
メインステージ68の下に、一対のレール61,61が敷設される。レール61,61はFR軸に沿って前後方向に延伸する。レール61,61上にワーク62が配置される。ワーク62はレール61,61上を進退可能となっている。
【0037】
レール61,61上にはストッパ63A,63Bも配置される。ストッパ63A,63Bはレール61,61に固定される。またストッパ63A,63Bの離隔距離は、ワーク62の前後寸法を超過するように定められる。つまりストッパ63A,63B間を、ワーク62が進退する。
【0038】
メインステージ68の上方にはホルダ69が配置される。ホルダ69は、図示しないZステージ機構により上下動可能となっている。またホルダ69の底面には可動式のスタンプが設けられる。後述されるようにアクチュエータ10に対して正常判定が与えられると、スタンプにより、アクチュエータ10の上面に製品ID等が印字される。
【0039】
図7-
図9には、性能検査のプロセスが例示される。この性能検査では、アクチュエータ10に対する試運転が行われる。まず、ガイド66,66に沿ってアクチュエータ10が位置決めされる。アクチュエータ10は、
図1の向きとは反対になり(裏返しされ)、ホルダ46が挿入孔68A内に挿入される。そしてホルダ46はワーク62を保持する。
【0040】
アクチュエータ10をメインステージ68に位置決めすると、アーム67,67が回転駆動してアクチュエータ10の前方を押さえる。またホルダ69が下降してアクチュエータ10を上から押さえる。
【0041】
次に
図8を参照して、コネクタステージ65が前進する。これによりコネクタ64がインレット16(
図7参照)に差し込まれる。これにより、図示しない電源からアクチュエータ10に電力が供給される。
【0042】
アクチュエータ10のモータ20(
図2参照)に電力が供給され、モータ20は回転駆動する。これによりホルダ46(
図1参照)が前進する。ホルダ46に保持されたワーク62も前進し、ストッパ63Bで停止する。
【0043】
次にモータ20が逆回転させられる。これによりホルダ46及びワーク62が後退する。ワーク62は、ストッパ63Aで停止する。その後、ホルダ69のスタンプ(図示せず)により、アクチュエータ10の上面に、製品番号等が印字される。その後、コネクタ64がインレット16から抜かれる。さらにホルダ69が上昇し、アーム67,67は開放位置(
図6参照)まで回動する。検査対象のアクチュエータ10が作業者に取り除かれ、次のアクチュエータ10がメインステージ68に配置される。
【0044】
上述したように、アクチュエータ10にダンパ36(
図4参照)が有る正常時と、
図5のようなダンパ36が無い異常時(欠品時)の両者において、ホルダ46は進退する。ただし、上述のように、異常状態において、アクチュエータ10の動作音が、正常状態よりも大きくなる。以下に説明されるように、この動作音の差異を利用して、アクチュエータ10の異常有無が判定される。
【0045】
<コントローラ>
図10には、コントローラ50のハードウェア構成が例示される。コントローラ50は、演算装置のCPU50Aと、記憶装置としてのシステムメモリ50C及びストレージ50Eを備える。ストレージ50Eは例えばハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)等の非一過性の記憶装置であってよい。またコントローラ50は、キーボードやマウス等の入力装置である入力部50Gを備える。さらにコントローラ50は、マイクロホン54、表示部52、検査装置60等の外部機器との情報の入出力を管理する入出力コントローラ50Iを備える。
【0046】
さらにコントローラ50は、画像変換部51A(
図11参照)が生成したスペクトログラム画像を処理する画像処理ユニットとして、GPU50B(Graphics Processing Unit)、フレームメモリ50D、RAMDAC50F(Random Access Memory Digital-to-Analog Converter)、及び表示制御部50Hを備える。
【0047】
GPU50Bは、画像処理用の演算装置であり、アクチュエータ10の異常の有無を判定する際に主に稼働される。フレームメモリ50Dは、マイクロホン54が取得した音響データ、及び、画像変換部51Aにより生成されたスペクトログラム画像を記憶する記憶装置である。RAMDAC50Fは、フレームメモリ50Dに記憶された、スペクトログラム画像データを、アナログディスプレイである表示部52向けのアナログ信号に変換する。表示制御部50Hは、欠品判定部51Fによる判定結果を表示部52に表示させる。
【0048】
図11には、コントローラ50の機能ブロックが例示される。この機能ブロック図は、プログラムをCPU50Aが実行することで構成される。プログラムは、例えばストレージ50Eに記憶されるか、または、DVD等の、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶される。
【0049】
コントローラ50は、機能ブロックとして、画像変換部51A、画像抽出部51B、確度算出部51E、欠品判定部51F、装置制御部51G、及び警告部51Hを備える。
【0050】
画像変換部51Aは、マイクロホン54から取得した音響データを、スペクトログラム画像に変換する。例えば
図12の上段には、音響データが例示される。この音響データは、横軸に時間、縦軸に振幅が採られる。この音響データが、
図12下段のスペクトログラム画像に変換される。スペクトログラム画像では、横軸に時間、縦軸に周波数が採られる。さらに振幅に応じた色が表示される。例えば振幅が大きいほど明るい色が表示される。
【0051】
スペクトログラム画像の生成プロセスは既知であるため、ここでは簡単に説明される。時系列の音響データは細かいフレームで区切られる。さらにそのフレーム内で高速フーリエ変換(FFT)が実行される。フーリエ変換に結果得られた画像を時系列に並べるとスペクトログラム画像が得られる。
【0052】
例えば、検査装置60が置かれた工場の操業開始時間から終了時間に亘って、連続的にマイクロホン54からコントローラ50に音響データが送信される。したがってスペクトログラム画像は、操業開始時間から終了時間に亘って、連続的に生成される。
【0053】
画像抽出部51Bは、起点特定部51C及び終点特定部51Dを備える。起点特定部51Cはスペクトログラム画像から、異常判定に用いられる画像(抽出画像)の抽出起点を求める。起点特定部51Cには、抽出起点となる起点時刻を求めるための、ニューラルネットワークが実装される。
【0054】
図13には、抽出起点時刻を特定するためのニューラルネットワークが例示される。例えば起点特定部51Cは、入力層、隠れ層、及び出力層を備えた、画像認識用のニューラルネットワークを備える。このニューラルネットワークは、例えば畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。
【0055】
入力層には、スペクトログラム画像データが入力される。なお、入力される画像データは、例えば、上記で高速フーリエ変換されたときに用いられるフレーム単位の画像であってよい。例えば入力層のノード数は、入力画像の画素数と等しい。
【0056】
隠れ層は、入力層と出力層の間に設けられる。例えば隠れ層には、畳み込み層とプーリング層とが設けられる。
【0057】
出力層は例えば一つのノードのみが設けられる。この出力ノードでは、
図7の製品押さえ時の音に対する確度が出力される。
図7に例示されるように、試運転に当たり、アーム67,67が回動してアクチュエータ10の前面に当たる。またホルダ69が下降してアクチュエータ10の上面に当たる。
【0058】
図12下段のスペクトログラム画像を参照して、アーム67,67がアクチュエータ10に当たる音(製品押さえ(前方))、及び、ホルダ69がアクチュエータ10に当たる音(製品押さえ(上方))は、他の時間と比較して画像的に顕著な特徴がある。また、これらの製品押さえの音は、アクチュエータ10が正常であるときと、異常であるときとで特徴的な差異は無い。
【0059】
このようにして、性能検査において特徴的な音であって、かつ、製品の異常時と正常時とでその周波数特性に差異の無い音が、画像の抽出起点として定められる。例えば、
図13のニューラルネットワークは、製品押さえ(前方)時点を含むフレームの画像を教師データとして学習する。または、このニューラルネットワークは、製品押さえ(上方)時点を含むフレームの画像を教師データとして学習する。
【0060】
出力ノードから出力された確度が、所定の閾値(例えば80%)を超過する場合に、起点特定部51Cは、入力データ画像の代表時刻(例えばフレーム内で半値となる時刻)を、所定の抽出起点時刻に特定する。すなわち、アーム67,67がアクチュエータ10に当たったとき、または、ホルダ69がアクチュエータ10に当たったときの衝突音の発生時刻が、抽出画像の起点時刻に特定される。
【0061】
終点特定部51Dは、スペクトログラム画像から、抽出画像の抽出終点を求める。終点特定部51Dには、抽出終点となる終点時刻を求めるための、ニューラルネットワークが実装される。このニューラルネットワークは、例えば
図13と同様の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。
【0062】
ただし、終点特定部51Dのニューラルネットワークは、
図12を参照して、ワーク62がストッパ63Bに当たったときの衝突音を含む、スペクトログラム画像データを教師データとして学習される。または、教師データとして、ワーク62がストッパ63Aに当たったときの衝突音を含む、スペクトログラム画像データが用いられる。
【0063】
このような学習により、出力ノードでは、
図9に例示されるような、ストッパ63Bへのワーク62の衝突時の音に対する確度が出力される。または、ストッパ63Aへのワーク62の衝突時の音に対する確度が出力される。確度が所定の閾値(例えば80%)を超過する場合に、終点特定部51Dは、入力データ画像の代表時刻(例えばフレーム内で半値となる時刻)を、所定の抽出終点時刻に特定する。すなわち、ワーク62がストッパ63Aに当たったときの衝突音の発生時刻が、抽出画像の終点時刻に特定される。
【0064】
図12に例示されるように、ワーク62がストッパ63A,63Bに衝突する音は、他の時間と比較して画像的に顕著な特徴がある。また、この衝突音は、アクチュエータ10が正常であるときと、異常であるときとで特徴的な差異は無い。このようにして、性能検査において特徴的な音であって、かつ、製品の異常時と正常時とでその周波数特性に差異の無い音が、画像の終点起点として定められる。
【0065】
画像抽出部51Bは、スペクトログラム画像から、起点時刻と終点時刻までの画像を抽出する。この抽出画像は、アクチュエータ10のモータ20(
図2参照)が回転駆動する時間帯の画像である。言い換えると、この時間帯の動作音は、異常のあるアクチュエータ10と、正常なアクチュエータ10との間で差異が生じる。
【0066】
確度算出部51Eは、抽出画像をもとに、アクチュエータ10に対する異常の確度を出力する。確度算出部51Eには、
図14に例示されるような、欠品判定用のニューラルネットワークが実装される。このニューラルネットワークは、
図13と同様に、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。
【0067】
このニューラルネットワークの入力層には、抽出画像データが入力される。例えば入力層のノード数は、抽出画像の画素数と等しい。隠れ層は、入力層と出力層の間に設けられる。例えば隠れ層には、畳み込み層とプーリング層とが設けられる。出力層は例えば一つのノードのみが設けられる。この出力ノードでは、アクチュエータ10の構成部品であるダンパ36(
図2参照)の欠品(異常)に対する確度が出力される。
【0068】
図14のニューラルネットワークでは、教師データとして、アクチュエータ10に異常がある場合、つまりダンパ36が欠品している場合の、試運転の動作音データが用いられる。より詳細には、当該動作音データに基づいて生成されたスペクトログラム画像データが、教師データとして用いられる。
【0069】
上述のように、ダンパ36が欠品したときの、アクチュエータ10の動作音(異常時動作音)は、ダンパ36が正常に取り付けられたときの動作音(正常時動作音)よりも大きい。このことから、検査装置60の外からの音(環境音)の影響は、正常時動作音と比較して異常時動作音の方が小さい。このように、本実施形態に係る性能検査システムでは、周囲の環境音による影響が相対的に小さい音響データが、異常有無の判定基準に用いられる。
【0070】
図11を参照して、欠品判定部51Fは、確度算出部51Eから、異常に対する確度を取得する。欠品判定部51Fは、取得した確度に基づいて、アクチュエータ10の異常有無を判定する。確度が所定の閾値(例えば80%)を超過していた場合、欠品判定部51Fは、試運転中のアクチュエータ10に異常があると判定する(異常判定)。異常に対する確度が閾値以下である買には、欠品判定部51Fは試運転中のアクチュエータ10は正常であると判定する(正常判定)。
【0071】
欠品判定部51Fの判定結果は、警告部51H及び装置制御部51Gに送信される。警告部51Hは、異常判定を受けて、表示部52に警告メッセージを表示させる。また装置制御部51Gは、異常判定を受けて、検査装置60による試運転を中断させる。
図12を参照して、抽出画像の終点(ストッパ衝突音)は、ホルダ69(
図6参照)による印字前である、したがって、アクチュエータ10に製造番号等が印字される前に、試運転を中断させることができる。これにより、正常なアクチュエータ10と異常のあるアクチュエータ10が、印字の有無で判断できる。
【0072】
なお、上述の実施形態では、アクチュエータ10においてダンパ36が欠品していることを、異常状態を判定していたが、その他の態様を異常と判定してもよい。例えば、アクチュエータ10内にボルト等の異物が混入した場合、アクチュエータ10の試運転中に異音が発生する。例えばアクチュエータ10内でカラカラと音が鳴る。
【0073】
そこで、この異音が含まれる試運転時の音響データを教師データとして、
図14に例示されるニューラルネットワークを学習させてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 アクチュエータ、20 モータ、24 ハンマー、34 アンビル、36 ダンパ、50 コントローラ、51A 画像変換部、51B 画像抽出部(抽出部)、51C 起点特定部、51D 終点特定部、51E 確度算出部、51F 欠品判定部(判定部)、51G 装置制御部、51H 警告部、54 マイクロホン、60 検査装置(性能検査装置)、62 ワーク、63A,63B ストッパ、67 アーム。
【要約】
【課題】性能検査システムにおいて、周囲の環境音による影響を抑制可能とする。
【解決手段】マイクロホン54は、検査装置60から発せられる音を取得する。画像変換部51Aは、マイクロホン54から取得した音響データをスペクトログラム画像に変換する。画像抽出部51Bは、経時的に生成されるスペクトログラム画像から、所定の起点時刻から所定の終点時刻までの画像を抽出する。確度算出部51Eは、画像抽出部51Bによる抽出画像をもとに、製品の異常に対する確度を出力する。欠品判定部51Fは、確度に基づいて、製品の異常有無を判定する。確度算出部51Eは、画像認識用のニューラルネットワークを備える。このニューラルネットワークは、抽出画像を入力データとし、異常に対する確度を出力する。欠品判定部51Fは、当該確度が所定の閾値を超過する場合に、製品に異常有りと判定する。
【選択図】
図11