(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】欠陥推定装置、欠陥推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
G01N25/72 K
(21)【出願番号】P 2023178980
(22)【出願日】2023-10-17
(62)【分割の表示】P 2022017689の分割
【原出願日】2022-02-08
【審査請求日】2023-10-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年3月10日,日本機械学会主催 関東学生会第60回学生員卒業研究発表講演会論文集“機械学習を用いた層間剥離を有する炭素繊維強化プラスチックの表面応力・欠陥解析”にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年5月27日,日本計算工学会主催 第26回計算工学講演会論文集Vol.26 B-07-03“機械学習を用いた炭素繊維強化プラスチック表面応力に基づく内部欠陥逆推定”にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年9月7日,https://complas2021.cimne.com/technical_program,COMPLAS2021講演予稿集“Estimasion of Defects in Carbon Fiber Reinforced Plastic Based on Surface Pressure by Machine Learning”にて公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】児嶋 佑太
(72)【発明者】
【氏名】平山 健太
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】村松 眞由
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-527227(JP,A)
【文献】特開2003-139627(JP,A)
【文献】特開2021-128064(JP,A)
【文献】国際公開第2021/192376(WO,A1)
【文献】特開2017-227606(JP,A)
【文献】特開2013-061193(JP,A)
【文献】特開平11-006820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356866(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 - 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックの積層体の表面に温度変化が生じる前の温度分布と前記温度変化が生じた後の温度分布との差分に基づく特徴データの入力を受け付けるように構成された特徴量受付部と、
前記特徴データと内部欠陥の3次元位置を表す位置情報との関係を学習したモデルに、前記特徴量受付部が受け付けた前記特徴データを入力することで、前記積層体が有する前記内部欠陥の3次元位置を推定するように構成された欠陥位置推定部と、
を備え、
前記位置情報は、前記積層体の各層を所定数のメッシュに分割し、前記メッシュそれぞれに前記内部欠陥が存在するか否かを表す情報である、
欠陥推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の欠陥推定装置であって、
前記メッシュは、直交等間隔に分割されている、
欠陥推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の欠陥推定装置であって、
前記メッシュは、所定の位置の近傍領域は細かく、前記近傍領域とは異なる領域は粗く分割されている、
欠陥推定装置。
【請求項4】
コンピュータが、
繊維強化プラスチックの積層体の表面に温度変化が生じる前の温度分布と前記温度変化が生じた後の温度分布との差分に基づく特徴データの入力を受け付ける特徴量受付手順と、
前記特徴データと内部欠陥の3次元位置を表す位置情報との関係を学習したモデルに、前記特徴量受付手順で受け付けた前記特徴データを入力することで、前記積層体が有する前記内部欠陥の3次元位置を推定する欠陥位置推定手順と、
を実行し、
前記位置情報は、前記積層体の各層を所定数のメッシュに分割し、前記メッシュそれぞれに前記内部欠陥が存在するか否かを表す情報である、
欠陥推定方法。
【請求項5】
コンピュータに、
繊維強化プラスチックの積層体の表面に温度変化が生じる前の温度分布と前記温度変化が生じた後の温度分布との差分に基づく特徴データの入力を受け付ける特徴量受付手順と、
前記特徴データと内部欠陥の3次元位置を表す位置情報との関係を学習したモデルに、前記特徴量受付手順で受け付けた前記特徴データを入力することで、前記積層体が有する前記内部欠陥の3次元位置を推定する欠陥位置推定手順と、
を実行させ、
前記位置情報は、前記積層体の各層を所定数のメッシュに分割し、前記メッシュそれぞれに前記内部欠陥が存在するか否かを表す情報である、
プログラム。
【請求項6】
学習対象積層体から生成される推定モデルによって、推定対象積層体の内部欠陥を推定する欠陥推定装置であって、
積層体を支持するとともに前記積層体に応力を作用させる支持部と、
前記積層体に応力を作用させる前後の温度とその温度差を測定する温度測定部と、
前記温度差を温度変化画像として画像化する画像生成部と、
前記温度変化画像の温度変化分布から特徴データを計算する特徴量計算部と、
前記温度差の測定、前記温度変化画像の画像化及び前記特徴データの計算を繰り返し実行することで得られた計算結果と前記積層体の各層を所定数のメッシュに分割して前記メッシュそれぞれに前記内部欠陥が存在するか否かを表す位置情報とから、積層体の内部欠陥の推定モデルを作成するモデル学習部と、
前記推定対象積層体の内部欠陥の3次元位置を推定する欠陥位置推定部と、
を備え、
前記支持部に前記推定対象積層体を支持し、
前記温度測定部が、前記推定対象積層体に応力を作用させる前後の温度とその温度差を推定対象積層体温度差として測定し、
前記画像生成部が、前記推定対象積層体温度差を推定対象積層体温度変化画像として画像化し、
前記特徴量計算部が、前記推定対象積層体温度変化画像の温度変化分布から推定対象積層体特徴データを計算し、
前記欠陥位置推定部が、前記推定対象積層体特徴データを前記推定モデルに入力することで前記推定対象積層体の内部欠陥の3次元位置を推定する、
欠陥推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の欠陥推定装置であって、
前記特徴量計算部が計算する前記特徴データは、前記積層体の表面主応力和分布である、
欠陥推定装置。
【請求項8】
請求項6に記載の欠陥推定装置であって、
前記特徴量計算部が計算する前記特徴データは、前記積層体の表面温度変化分布である、
欠陥推定装置。
【請求項9】
コンピュータが、
積層体を支持した支持部に応力を作用させる手順と、
前記積層体に応力を作用させる前後の温度とその温度差を測定する手順と、
前記温度差を温度変化画像として画像化する手順と、
前記温度変化画像の温度変化分布から特徴データを計算する手順と、
前記温度差の測定、前記温度変化画像の画像化及び前記特徴データの計算を繰り返し実行することで得られた計算結果と前記積層体の各層を所定数のメッシュに分割して前記メッシュそれぞれに内部欠陥が存在するか否かを表す位置情報とから、積層体の内部欠陥の推定モデルを作成する手順と、
推定対象積層体に応力を作用させる前後の温度とその温度差を推定対象積層体温度差として測定する手順と、
前記推定対象積層体温度差を推定対象積層体温度変化画像として画像化する手順と、
前記推定対象積層体温度変化画像の温度変化分布から推定対象積層体特徴データを計算する手順と、
前記推定対象積層体特徴データを前記推定モデルに入力することで前記推定対象積層体の内部欠陥の3次元位置を推定する手順と、
を実行する欠陥推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
積層体を支持した支持部に応力を作用させる手順と、
前記積層体に応力を作用させる前後の温度とその温度差を測定する手順と、
前記温度差を温度変化画像として画像化する手順と、
前記温度変化画像の温度変化分布から特徴データを計算する手順と、
前記温度差の測定、前記温度変化画像の画像化及び前記特徴データの計算を繰り返し実行することで得られた計算結果と前記積層体の各層を所定数のメッシュに分割して前記メッシュそれぞれに内部欠陥が存在するか否かを表す位置情報とから、積層体の内部欠陥の推定モデルを作成する手順と、
推定対象積層体に応力を作用させる前後の温度とその温度差を推定対象積層体温度差として測定する手順と、
前記推定対象積層体温度差を推定対象積層体温度変化画像として画像化する手順と、
前記推定対象積層体温度変化画像の温度変化分布から推定対象積層体特徴データを計算する手順と、
前記推定対象積層体特徴データを前記推定モデルに入力することで前記推定対象積層体の内部欠陥の3次元位置を推定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、欠陥推定装置、欠陥推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic; CFRP)は、樹脂を母材とし、炭素繊維を強化材とする複合材料である。一般的に、CFRPは、強度及び剛性が一方向に強化されているプリプレグを積層して使用する。以下、積層構造を有するCFRPを、「CFRP積層体」と呼ぶ。
【0003】
CFRP積層体が有する内部欠陥を検出するために、例えば、超音波測定(非特許文献1参照)又は放射線透過法(非特許文献2参照)等の非破壊検査が、従来から行われている。また、従来の非破壊検査の欠点を解決するために、例えば、赤外線サーモグラフィによる応力解析(非特許文献3参照)及び機械学習モデルを用いた手法(非特許文献4参照)等の研究がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】三上修一, 大島俊之, 菅原登, 山崎智之, "エコー波形の詳細解析による超音波探傷法の欠陥検出の定量的評価", 土木学会論文集, vol. 501, pp. 103-112, 1994.
【文献】Sultan, M., Worden, K., Pierce, S., Hickey, D., Staszewski,W., Dulieu-Barton, J., and Hodzic, A., "On impact damage detection and quantification for CFRP laminates", Mechanical Systems and Signal Processing, vol. 25, pp. 3135-3152, 2011.
【文献】Sakagami, T., Mizokami, Y., Shiozawa, D., Fujimoto, T., Izumi, Y., Hanai, T., and Moriyama, A., "Verification of the repair effect for fatigue cracks in members of steel bridges based on thermoelastic stress measurement", Engineering Fracture Mechanics, vol. 183, pp. 1-12, 2017.
【文献】邉吾ー, 西恭一, 黄ー正, 藤川由美, "ニューラルネットワークと実験データによるCFRP積層材の損傷同定", 日本機械学会論文集 A編, vol. 62, pp. 2338-2343, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献3及び非特許文献4に記載の技術では、CFRP積層体が有する内部欠陥の位置を詳細に特定することができない、という課題がある。
【0006】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みて、繊維強化プラスチックの積層体が有する内部欠陥の3次元位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様の欠陥推定装置は、繊維強化プラスチックの積層体の表面に温度変化が生じる前の温度分布と温度変化が生じた後の温度分布との差分に基づく特徴データの入力を受け付けるように構成された特徴量受付部と、特徴データと内部欠陥の3次元位置を表す位置情報との関係を学習したモデルに、特徴量受付部が受け付けた特徴データを入力することで、積層体が有する内部欠陥の3次元位置を推定するように構成された欠陥位置推定部と、を備える。位置情報は、積層体の各層を所定数のメッシュに分割し、メッシュそれぞれに内部欠陥が存在するか否かを表す情報である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、繊維強化プラスチックの積層体が有する内部欠陥の3次元位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】欠陥推定システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】温度測定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態における欠陥推定システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図6】第1実施形態における学習方法の処理手順の一例を示す図である。
【
図7】第1実施形態における推定方法の処理手順の一例を示す図である。
【
図8】変形例1における欠陥推定システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図9】変形例1における学習方法の処理手順の一例を示す図である。
【
図10】変形例1における推定方法の処理手順の一例を示す図である。
【
図11】第3実施形態における欠陥推定システムの機能構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
[第1実施形態]
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、高い比弾性率特性を持ち、宇宙・航空分野等で広く使用されている。また、今後は、自動車の電動化が進展するに連れて、自動車分野でも使用が拡大することが見込まれている。
【0012】
積層構造を有するCFRP(CFRP積層体)は、使用時又は製造時に内部欠陥が生じることがある。使用時に生じる内部欠陥には、例えば、層間剥離、繊維破断、母材割れ等がある。製造時に生じる内部欠陥には、例えば、異物混入等がある。
【0013】
CFRP積層体に生じた内部欠陥を検出するために、従来から超音波測定(非特許文献1参照)又は放射線透過法(非特許文献2参照)等の非破壊検査が行われている。しかしながら、超音波測定では、水又は油等の接触部材が必要であり、検査技術者の技量が検査結果の精度に与える影響が大きい。また、放射線透過法では、管理区域の設定等の安全管理が必要であり、現像時間が必要となるため、経済的及び時間的コストが大きい。
【0014】
そこで、赤外線サーモグラフィによる応力解析(非特許文献3参照)が注目されている。赤外線サーモグラフィは、物体表面から放出される赤外線エネルギ分布を赤外線センサにより計測し、温度分布に換算する装置である。非特許文献3では、赤外線サーモグラフィによる欠陥探査が、橋等の構造物に対して有用であることが開示されている。しかしながら、非特許文献3に開示された技術では、内部欠陥の位置の詳細を特定することができない。
【0015】
また、機械学習モデルを用いた手法(非特許文献4参照)の研究がなされている。非特許文献4では、1次から3次の固有振動数を入力データとし、損傷の位置及び量を求めるニューラルネットワークを作成している。しかしながら、非特許文献4では、CFRP積層板を長手方向に10分割し、先端の2要素を除いた8要素において損傷の位置及び量を求めている。したがって、非特許文献4に開示された技術では、出力される位置情報の分解能が低く、内部欠陥の位置の詳細を特定することができない。
【0016】
本実施形態における欠陥推定装置は、赤外線サーモグラフィによりCFRP積層体の表面温度を測定した画像から、当該積層体が有する内部欠陥の3次元位置を推定する。推定には、CFRP積層体の表面温度変化分布と、当該積層体が有する内部欠陥の3次元位置との関係を学習した、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network; CNN)を用いる。
【0017】
本実施形態における欠陥推定装置によれば、CFRP積層体の表面温度を表す画像(2次元データ)から、当該積層体が有する内部欠陥の位置情報(3次元データ)の推定値を得ることができる。すなわち、CFRP積層体が有する内部欠陥の3次元位置を精細に推定することができる。
【0018】
<欠陥推定システムの全体構成>
まず、本実施形態における欠陥推定システムの全体構成を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における欠陥推定システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【0019】
図1に示されているように、本実施形態における欠陥推定システム100は、温度測定装置1及び欠陥推定装置2を含む。温度測定装置1及び欠陥推定装置2は、LAN(Local Area Network)又はインターネット等の通信ネットワークN1を介してデータ通信可能に接続されている。
【0020】
温度測定装置1は、学習対象又は推定対象とするCFRP積層体の表面温度を測定する電子機器である。温度測定装置1は、CFRP積層体の表面温度を変化させ、表面温度が変化する前と後に、赤外線カメラによりCFRP積層体の表面温度を測定する。また、温度測定装置1は、表面温度が変化する前と後に測定した表面温度の分布を表す2枚の画像(以下、「表面温度画像」とも呼ぶ)に基づいて、表面温度の変化を表す画像(以下、「温度変化画像」とも呼ぶ)を計算する。
【0021】
CFRP積層体の表面温度を変化させる方法は、CFRP積層体の形状及び用途等によって異なる。本実施形態では、CFRP積層体に固定外力を加えることで、表面温度を変化させる。具体的には、板状に形成されたCFRP積層体の両端を支持し、互いに逆方向に引っ張る。
【0022】
CFRP積層体の表面温度を変化させる方法は、固定外力を加える方法に限定されない。例えば、CFRP積層体に熱を加えることで、表面温度を変化させてもよい。この場合、CFRP積層体の表面に赤外線を照射して表面温度を上昇させた後、時間変化に伴う温度変化を測定すればよい。
【0023】
欠陥推定装置2は、CFRP積層体が有する内部欠陥の位置を推定するPC(Personal Computer)、ワークステーション、サーバ等の情報処理装置である。欠陥推定装置2は、学習対象とするCFRP積層体の温度変化を測定した温度変化画像と、ユーザにより入力された内部欠陥の位置情報とに基づいて、温度変化画像に基づく特徴データを入力とし、内部欠陥の位置情報の推定値を出力する推定モデルを学習する。また、欠陥推定装置2は、学習済みの推定モデルを用いて、推定対象とするCFRP積層体の温度変化を測定した温度変化画像から内部欠陥の位置を推定する。
【0024】
なお、
図1に示した欠陥推定システム100の全体構成は一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があり得る。例えば、欠陥推定装置2は、複数台のコンピュータにより実現してもよいし、クラウドコンピューティングのサービスとして実現してもよい。
【0025】
<欠陥推定システムのハードウェア構成>
次に、本実施形態における欠陥推定システムのハードウェア構成を、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
【0026】
≪コンピュータのハードウェア構成≫
本実施形態における欠陥推定装置2は、例えばコンピュータにより実現される。
図2は、本実施形態におけるコンピュータ500のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図2に示されているように、コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、HDD(Hard Disk Drive)504、入力装置505、表示装置506、通信I/F(Interface)507及び外部I/F508を有する。CPU501、ROM502及びRAM503は、いわゆるコンピュータを形成する。コンピュータ500の各ハードウェアは、バスライン509を介して相互に接続されている。なお、入力装置505及び表示装置506は外部I/F508に接続して利用する形態であってもよい。
【0028】
CPU501は、ROM502又はHDD504等の記憶装置からプログラムやデータをRAM503上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0029】
ROM502は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。ROM502は、HDD504にインストールされている各種プログラムをCPU501が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する主記憶装置として機能する。具体的には、ROM502には、コンピュータ500の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、EFI(Extensible Firmware Interface)等のブートプログラムや、OS(Operating System)設定、ネットワーク設定等のデータが格納されている。
【0030】
RAM503は、電源を切るとプログラムやデータが消去される揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM503は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等である。RAM503は、HDD504にインストールされている各種プログラムがCPU501によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0031】
HDD504は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。HDD504に格納されるプログラムやデータには、コンピュータ500全体を制御する基本ソフトウェアであるOS、及びOS上において各種機能を提供するアプリケーション等がある。なお、コンピュータ500はHDD504に替えて、記憶媒体としてフラッシュメモリを用いる記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive等)を利用するものであってもよい。
【0032】
入力装置505は、ユーザが各種信号を入力するために用いるタッチパネル、操作キーやボタン、キーボードやマウス、音声等の音データを入力するマイクロホン等である。
【0033】
表示装置506は、画面を表示する液晶や有機EL(Electro-Luminescence)等のディスプレイ、音声等の音データを出力するスピーカ等で構成されている。
【0034】
通信I/F507は、通信ネットワークに接続し、コンピュータ500がデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0035】
外部I/F508は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、ドライブ装置510等がある。
【0036】
ドライブ装置510は、記録媒体511をセットするためのデバイスである。ここでいう記録媒体511には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体511には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。これにより、コンピュータ500は外部I/F508を介して記録媒体511の読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。
【0037】
なお、HDD504にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体511が外部I/F508に接続されたドライブ装置510にセットされ、記録媒体511に記録された各種プログラムがドライブ装置510により読み出されることでインストールされる。あるいは、HDD504にインストールされる各種プログラムは、通信I/F507を介して、通信ネットワークとは異なる他のネットワークよりダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0038】
≪温度測定装置のハードウェア構成≫
図3は、本実施形態における温度測定装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3に示されているように、本実施形態における温度測定装置1は、制御装置101、一対の支持部102、駆動制御部103及び赤外線カメラ104を有する。
【0039】
支持部102は、CFRP積層体1000の一端を支持する第1支持部102Aと、他の一端を支持する第2支持部102Bとからなる。駆動制御部103は、第1支持部102A及び第2支持部102Bを、第1支持部102Aと第2支持部102Bとを結ぶ線に沿ってそれぞれ直進運動させる制御を行う。
【0040】
第1支持部102A及び第2支持部102Bが、CFRP積層体1000の両端を支持した状態で、駆動制御部103が第1支持部102A及び第2支持部102Bを互いに逆方向に移動させることで、CFRP積層体1000に引張応力を作用させることができる。これにより、応力変動に比例した温度降下がCFRP積層体1000に生じ、CFRP積層体1000の表面温度が変化する。
【0041】
赤外線カメラ104は、CFRP積層体1000の表面から放出される赤外線を受光し、赤外線解析によりCFRP積層体1000の表面温度画像を生成する。
【0042】
制御装置101は、例えばコンピュータにより実現される。制御装置101は、CPU501、ROM502、RAM503、入力装置505、表示装置506、及び外部I/F508を有する。CPU501、ROM502及びRAM503は、いわゆるコンピュータを形成する。制御装置101の各ハードウェアは、バスライン509を介して相互に接続されている。なお、入力装置505及び表示装置506は外部I/F508に接続して利用する形態であってもよい。
【0043】
駆動制御部103及び赤外線カメラ104は、外部I/F508に接続されており、制御装置101により制御される。また、赤外線カメラ104が取得した表面温度画像は、外部I/F508を介して制御装置101に入力される。
【0044】
ここで、本実施形態におけるCFRP積層体の構造について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、本実施形態におけるCFRP積層体の一例を示す概念図である。
【0045】
図4に示されているように、本実施形態におけるCFRP積層体1000は複数のプリプレグ1001を積層して構成される。各プリプレグ1001は、樹脂である母材1002を、炭素繊維である強化繊維1003により、一方向に強度及び剛性を強化されている。CFRP積層体1000は、プリプレグ1001を積層する際に、各層で繊維配向を等角度に回転させることで、全体として等方性を示すように構成されている。
【0046】
図4では、各プリプレグを90°ずつ回転させた例を示しているが、例えば、30°、45°、60°等で回転させてもよい。また、
図4では、10層に積層した例を示しているが、2層以上であれば層数は限定されない。本実施形態では、CFRP積層体を想定しているが、強化繊維及び樹脂の種類は適宜変更しても構わない。
【0047】
<欠陥推定システムの機能構成>
続いて、本実施形態における欠陥推定システムの機能構成を、
図5を参照しながら説明する。
図5は本実施形態における欠陥推定システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【0048】
≪温度測定装置の機能構成≫
図5に示されているように、本実施形態における温度測定装置1は、温度変化部11、温度測定部12及び画像生成部13を備える。
【0049】
温度変化部11は、
図3に示されている支持部102及び駆動制御部103によって実現される。温度測定部12は、
図3に示されている赤外線カメラ104によって実現される。画像生成部13は、
図3に示されているROM502からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0050】
温度変化部11は、駆動制御部103が支持部102を駆動させることによって、学習対象及び推定対象とするCFRP積層体の表面温度を変化させる。
【0051】
温度測定部12は、赤外線カメラ104によって、学習対象及び推定対象とするCFRP積層体の表面温度を測定する。また、温度測定部12は、CFRP積層体の表面温度画像を生成する。さらに、温度測定部12は、生成した表面温度画像を画像生成部13に送る。
【0052】
画像生成部13は、温度変化部11がCFRP積層体の表面温度を変化させる前と後に生成された2枚の表面温度画像に基づいて、温度変化画像を生成する。また、画像生成部13は、生成した温度変化画像を欠陥推定装置2に送信する。
【0053】
≪欠陥推定装置の機能構成≫
図5に示されているように、本実施形態における欠陥推定装置2は、画像受付部21、位置情報受付部22、特徴量計算部23、モデル学習部24、モデル記憶部25、欠陥位置推定部26及び結果出力部27を備える。
【0054】
画像受付部21、位置情報受付部22、特徴量計算部23、モデル学習部24、欠陥位置推定部26及び結果出力部27は、
図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。モデル記憶部25は、
図2に示されているHDD504によって実現される。
【0055】
画像受付部21は、温度測定装置1から温度変化画像を受信する。また、画像受付部21は、温度変化画像を特徴量計算部23に送る。
【0056】
位置情報受付部22は、ユーザの操作に応じて、学習対象とするCFRP積層体が有する内部欠陥の位置情報の入力を受け付ける。また、位置情報受付部22は、受け付けた内部欠陥の位置情報をモデル学習部24に送る。
【0057】
特徴量計算部23は、画像受付部21から受け取った温度変化画像に基づいて特徴データを計算する。本実施形態における特徴データは、CFRP積層体の表面主応力和分布である。
【0058】
特徴量計算部23は、学習対象とするCFRP積層体に関する温度変化画像に基づいて特徴データを計算した場合、当該特徴データをモデル学習部24に送る。また、特徴量計算部23は、推定対象とするCFRP積層体に関する温度変化画像に基づいて特徴データを計算した場合、当該特徴データを欠陥位置推定部26に送る。
【0059】
モデル学習部24は、位置情報受付部22が受け付けた内部欠陥の位置情報と、特徴量計算部23が計算した特徴データとを関連付けることで、学習データを生成する。また、モデル学習部24は、生成した学習データを用いて、推定モデルを学習する。
【0060】
モデル記憶部25は、モデル学習部24が生成した学習済みの推定モデルを記憶する。
【0061】
欠陥位置推定部26は、モデル記憶部25から推定モデルを読み出し、特徴量計算部23から受け取った特徴データを推定モデルに入力することで、推定対象とするCFRP積層体が有する内部欠陥の位置情報の推定値を計算する。
【0062】
結果出力部27は、内部欠陥の推定結果を表示装置506等に出力する。当該推定結果は、欠陥位置推定部26が計算した内部欠陥の位置情報の推定値を含む。
【0063】
<欠陥推定システムの処理手順>
次に、本実施形態における欠陥推定システムが実行する欠陥推定方法の処理手順を、
図6及び
図7を参照しながら説明する。本実施形態における欠陥推定方法は、推定モデルを学習する学習方法(
図6参照)、及び学習済みの推定モデルを用いて内部欠陥の3次元位置を推定する推定方法(
図7参照)からなる。
【0064】
≪学習方法≫
図6は本実施形態における学習方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0065】
ステップS12-1において、温度測定装置1が備える温度測定部12は、学習対象とするCFRP積層体の表面温度を変化させる前に、当該積層体の表面温度を測定する。次に、温度測定部12は、測定した表面温度の分布を表す表面温度画像(以下、「温度変化前画像」とも呼ぶ)を生成する。続いて、温度測定部12は、温度変化前画像を画像生成部13に送る。
【0066】
ステップS11において、温度測定装置1が備える温度変化部11は、学習対象とするCFRP積層体の温度を変化させる。具体的には、学習対象とするCFRP積層体に所定の固定外力を与える。
【0067】
ステップS12-2において、温度測定装置1が備える温度測定部12は、学習対象とするCFRP積層体の表面温度を変化させた後に、当該積層体の表面温度を測定する。次に、温度測定部12は、測定した表面温度の分布を表す表面温度画像(以下、「温度変化後画像」とも呼ぶ)を生成する。続いて、温度測定部12は、温度変化後画像を画像生成部13に送る。
【0068】
ステップS13において、温度測定装置1が備える画像生成部13は、温度測定部12から温度変化前画像及び温度変化後画像を受け取る。次に、画像生成部13は、温度変化前画像及び温度変化後画像に基づいて、学習対象とするCFRP積層体の表面温度変化を表す温度変化画像を生成する。続いて、画像生成部13は、温度変化画像を欠陥推定装置2に送信する。
【0069】
具体的には、画像生成部13は、温度変化前画像と温度変化後画像との差分を計算する。すなわち、各画像の画素毎に、温度変化後画像が表す表面温度から温度変化前画像が表す表面温度を減算する。
【0070】
ステップS21において、欠陥推定装置2が備える画像受付部21は、温度測定装置1から学習対象とするCFRP積層体に関する温度変化画像を受信する。次に、画像受付部21は、温度測定装置1から受信した温度変化画像を特徴量計算部23に送る。
【0071】
ステップS22において、欠陥推定装置2が備える位置情報受付部22は、ユーザの操作に応じて、学習対象とするCFRP積層体が有する内部欠陥の3次元位置を表す位置情報の入力を受け付ける。次に、位置情報受付部22は、受け付けた内部欠陥の位置情報をモデル学習部24に送る。
【0072】
本実施形態における内部欠陥の位置情報は、CFRP積層体における内部欠陥が存在する3次元座標及び内部欠陥のサイズを含む。なお、内部欠陥のサイズとは、CFRP積層体の各層における内部欠陥が存在する範囲である。
【0073】
具体的には、内部欠陥の位置情報は、CFRP積層体の各層を所定数のメッシュに分割し、各メッシュに内部欠陥が存在するか否かを表すチャンネルを設定した情報である。当該チャンネルは、例えば、内部欠陥が存在する場合は1、存在しない場合には0が設定される。すなわち、各メッシュの位置は、CFRP積層体の表面からみた2次元座標に、層の深さを加えた3次元座標を表している。また、各層においてチャンネルの値が1である範囲が、内部欠陥のサイズを表している。
【0074】
なお、本実施形態では、メッシュは、直交等間隔に分割するものとする。ただし、欠陥が生じやすい位置が判明している場合等には、当該位置の近傍領域は細かく、その他の領域は粗く分割してもよい。
【0075】
ステップS23において、欠陥推定装置2が備える特徴量計算部23は、画像受付部21から温度変化画像を受け取る。次に、特徴量計算部23は、温度変化画像に基づいて表面主応力和分布を計算する。続いて、特徴量計算部23は、計算した表面主応力和分布をモデル学習部24に送る。
【0076】
具体的には、特徴量計算部23は、温度変化画像を所定数のメッシュに分割し、各メッシュに対応する温度変化量を計算することで、表面温度変化分布を得る。メッシュの温度変化量は、当該メッシュの代表点(中心等)の温度変化量でもよいし、メッシュ内の温度変化量の平均でもよい。メッシュの分割方法は、内部欠陥の位置情報と同様である。
【0077】
次に、特徴量計算部23は、表面温度変化分布に対してケルビンの理論(参考文献1参照)を適用することで、表面主応力和分布を計算する。ケルビンの理論は、熱弾性効果による温度の変化量ΔTと主応力和の変化量Δσとの関係を、ΔT = -kTΔσで与える。ただし、kは熱弾性係数、Tは絶対温度である。
【0078】
〔参考文献1〕W. Thomson (Lord Kelvin), "On the Dynamical Theory of Heat", Trans. Roy. Soc., Vol.20, pp.261-283, 1853.
【0079】
ステップS12-1からステップS23までは、学習対象とするCFRP積層体それぞれについて、繰り返し実行する。これにより、学習対象とするCFRP積層体それぞれに対応する表面主応力分布及び内部欠陥の位置情報がモデル学習部24に入力される。
【0080】
ステップS24において、欠陥推定装置2が備えるモデル学習部24は、位置情報受付部22から内部欠陥の位置情報を受け取る。また、モデル学習部24は、特徴量計算部23から表面主応力分布を受け取る。
【0081】
次に、モデル学習部24は、表面主応力分布と内部欠陥の位置情報とを関連付けることで、学習データを生成する。このとき、モデル学習部24は、学習データに含まれる表面主応力和分布を、学習データ全体に対して標準化してもよい。
【0082】
続いて、モデル学習部24は、生成した学習データを用いて、推定モデルを学習する。本実施形態における推定モデルは、CFRP積層体の表面主応力和分布を入力とし、当該積層体が有する内部欠陥の位置情報の推定値を出力する畳み込みニューラルネットワークである。
【0083】
畳み込みニューラルネットワークは、格子状の構造を持つデータの処理に使われる特殊なニューラルネットワークである。格子状の構造を持つデータの例としては、等時間間隔で取得したサンプルが1次元に配列された時系列データ、又は、ピクセルが2次元に配列された画像データ等である。
【0084】
本実施形態における畳み込みニューラルネットワークは、以下のように構成する。損失関数は、バイナリ交差誤差を用いる。最適化手法は、Adamを用いる。このとき、学習率は0.00003に設定する。ミニバッチサイズは16とし、訓練回数は1000回とする。なお、L2正則化もしくはバッチノーマライゼーション等の正則化手法は用いなくともよい。
【0085】
ステップS25において、欠陥推定装置2が備えるモデル学習部24は、学習済みの推定モデルをモデル記憶部25に記憶する。
【0086】
≪推定方法≫
図7は本実施形態における推定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0087】
ステップS12-1において、温度測定装置1が備える温度測定部12は、推定対象とするCFRP積層体の表面温度を変化させる前に、当該積層体の表面温度を測定する。次に、温度測定部12は、測定した表面温度の分布を表す温度変化前画像を生成する。続いて、温度測定部12は、温度変化前画像を画像生成部13に送る。
【0088】
ステップS11において、温度測定装置1が備える温度変化部11は、推定対象とするCFRP積層体の温度を変化させる。具体的には、推定対象とするCFRP積層体に、学習処理と同様の固定外力を与える。
【0089】
ステップS12-2において、温度測定装置1が備える温度測定部12は、推定対象とするCFRP積層体の表面温度を変化させた後に、当該積層体の表面温度を測定する。次に、温度測定部12は、測定した表面温度の分布を表す温度変化後画像を生成する。続いて、温度測定部12は、温度変化後画像を画像生成部13に送る。
【0090】
ステップS13において、温度測定装置1が備える画像生成部13は、温度測定部12から温度変化前画像及び温度変化後画像を受け取る。次に、画像生成部13は、温度変化前画像及び温度変化後画像に基づいて、推定対象とするCFRP積層体の表面温度変化を表す温度変化画像を生成する。続いて、画像生成部13は、温度変化画像を欠陥推定装置2に送信する。
【0091】
ステップS21において、欠陥推定装置2が備える画像受付部21は、温度測定装置1から推定対象とするCFRP積層体に関する温度変化画像を受信する。次に、画像受付部21は、温度測定装置1から受信した温度変化画像を特徴量計算部23に送る。
【0092】
ステップS23において、欠陥推定装置2が備える特徴量計算部23は、画像受付部21から温度変化画像を受け取る。次に、特徴量計算部23は、温度変化画像に基づいて表面主応力和分布を計算する。続いて、特徴量計算部23は、計算した表面主応力和分布をモデル学習部24に送る。
【0093】
ステップS26において、欠陥推定装置2が備える欠陥位置推定部26は、特徴量計算部23から表面主応力和分布を受け取る。次に、欠陥位置推定部26は、モデル記憶部25から推定モデルを読み出す。続いて、欠陥位置推定部26は、受け取った表面主応力和分布を、読み出した推定モデルに入力することで、推定対象とするCFRP積層体が有する内部欠陥の位置情報の推定値を計算する。そして、欠陥位置推定部26は、内部欠陥の位置情報の推定値を結果出力部27に送る。
【0094】
ステップS27において、欠陥推定装置2が備える結果出力部27は、欠陥位置推定部26から内部欠陥の位置情報の推定値を受け取る。次に、結果出力部27は、内部欠陥の3次元位置の推定結果を表示装置506等に出力する。当該推定結果は、欠陥位置推定部26が計算した内部欠陥の位置情報の推定値を含む。
【0095】
<第1実施形態の効果>
本実施形態における欠陥推定システムは、学習対象とするCFRP積層体の表面主応力和分布を入力とし、内部欠陥の3次元位置を表す位置情報の推定値を出力する推定モデルを学習する。また、本実施形態における欠陥推定システムは、推定対象とするCFRP積層体の表面温度の変化を表す画像に基づく表面主応力和分布を、学習済みの推定モデルに入力することで、当該積層体が有する内部欠陥の3次元位置を推定する。したがって、本実施形態における欠陥推定システムによれば、CFRP積層体が有する内部欠陥の3次元位置を推定することができる。
【0096】
また、本実施形態における位置情報は、CFRP積層体の内部欠陥が存在する層の深さ及び当該層における内部欠陥が存在する範囲を含む。したがって、本実施形態における欠陥推定システムによれば、CFRP積層体が有する内部欠陥の3次元座標及びサイズが精細に推定することができる。
【0097】
[第2実施形態]
第1実施形態における欠陥推定装置2は、特徴データとして表面主応力和分布を用いて、推定モデルを学習し、内部欠陥の3次元位置を推定した。第2実施形態における欠陥推定装置2は、特徴データとして表面温度変化分布を用いるように構成する。
【0098】
<欠陥推定システムの機能構成>
本実施形態における特徴量計算部23は、画像受付部21から受け取った温度変化画像に基づいて表面温度変化分布を計算する。第1実施形態における特徴量計算部23は、温度変化画像に基づいて表面温度変化分布を計算し、その表面温度変化分布にケルビンの理論を適用することで、表面主応力和分布を計算した。本実施形態における特徴量計算部23は、ケルビンの理論を適用する前の表面温度変化分布を特徴データとして利用する。
【0099】
本実施形態におけるモデル学習部24は、位置情報受付部22が受け付けた内部欠陥の位置情報と、特徴量計算部23が計算した表面温度変化分布とを関連付けることで、学習データを生成する。また、本実施形態におけるモデル学習部24は、生成した学習データを用いて、CFRP積層体の表面温度変化分布を入力とし、当該積層体が有する内部欠陥の位置情報の推定値を出力する畳み込みニューラルネットワーク(推定モデル)を学習する。
【0100】
本実施形態における欠陥位置推定部26は、モデル記憶部25から推定モデルを読み出し、特徴量計算部23から受け取った表面温度変化分布を推定モデルに入力することで、推定対象とするCFRP積層体が有する内部欠陥の位置情報の推定値を計算する。
【0101】
<第2実施形態の効果>
本実施形態における欠陥推定システムは、温度変化画像に基づいて計算した表面温度変化分布を用いて、推定モデルを学習し、内部欠陥の位置を推定する。これにより、表面温度変化分布から表面主応力和分布を計算する必要がないため、特徴量計算部23の処理速度が向上する。
【0102】
[変形例1]
第1実施形態及び第2実施形態では、欠陥推定装置2が、温度測定装置1により生成された温度変化画像から特徴データ(すなわち、表面主応力和分布又は表面温度変化分布)を計算するように構成した。変形例1では、温度測定装置1が温度変化前画像及び温度変化後画像に基づいて特徴データを計算し、欠陥推定装置2に送信するように構成する。
【0103】
以下、本変形例について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、本変形例の構成は、第2実施形態に対しても同様に適用することができる。第2実施形態に適用する場合、本変形例中の表面主応力和分布を表面温度変化分布に読み替えればよい。
【0104】
<欠陥推定システムの機能構成>
まず、本変形例における欠陥推定システムの機能構成を、
図8を参照しながら説明する。
図8は本変形例における欠陥推定システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【0105】
≪温度測定装置の機能構成≫
図8に示されているように、本変形例における温度測定装置1は、第1実施形態と同様に、温度変化部11及び温度測定部12を備え、特徴量計算部14をさらに備える。なお、本変形例における温度測定装置1は、第1実施形態における温度測定装置1が備えていた画像生成部13を備えない。
【0106】
特徴量計算部14は、温度変化部11がCFRP積層体の表面温度を変化させる前と後に生成された2枚の表面温度画像に基づいて、表面主応力和分布を計算する。また、特徴量計算部14は、計算した表面主応力和分布を欠陥推定装置2に送信する。
【0107】
≪欠陥推定装置の機能構成≫
図8に示されているように、本変形例における欠陥推定装置2は、第1実施形態と同様に、位置情報受付部22、モデル学習部24、モデル記憶部25、欠陥位置推定部26及び結果出力部27を備え、画像受付部21の代わりに特徴量受付部31を備える。なお、本変形例における欠陥推定装置2は、第1実施形態における欠陥推定装置2が備えていた特徴量計算部23を備えない。
【0108】
特徴量受付部31は、温度測定装置1から表面主応力和分布を受信する。特徴量受付部31は、学習対象とするCFRP積層体に関する表面主応力和分布を受信した場合、当該表面主応力和分布をモデル学習部24に送る。また、特徴量受付部31は、推定対象とするCFRP積層体に関する表面主応力和分布を受信した場合、当該表面主応力和分布を欠陥位置推定部26に送る。
【0109】
<欠陥推定システムの処理手順>
次に、本変形例における欠陥推定システムが実行する欠陥推定方法の処理手順を、
図9及び
図10を参照しながら説明する。
【0110】
≪学習方法≫
図9は本変形例における学習方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0111】
ステップS14において、温度測定装置1が備える特徴量計算部14は、温度測定部12から温度変化前画像及び温度変化後画像を受け取る。次に、特徴量計算部14は、温度変化前画像及び温度変化後画像に基づいて、学習対象とするCFRP積層体の表面主応力和分布を計算する。そして、特徴量計算部14は、計算した表面主応力和分布を欠陥推定装置2に送信する。
【0112】
ステップS31において、欠陥推定装置2が備える特徴量受付部31は、温度測定装置1から学習対象とするCFRP積層体に関する表面主応力和分布を受信する。次に、特徴量受付部31は、温度測定装置1から受信した表面主応力和分布をモデル学習部24に送る。
【0113】
≪推定方法≫
図10は本変形例における推定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0114】
ステップS14において、温度測定装置1が備える特徴量計算部14は、温度測定部12から温度変化前画像及び温度変化後画像を受け取る。次に、特徴量計算部14は、温度変化前画像及び温度変化後画像に基づいて、推定対象とするCFRP積層体の表面主応力和分布を計算する。そして、特徴量計算部14は、計算した表面主応力和分布を欠陥推定装置2に送信する。
【0115】
ステップS31において、欠陥推定装置2が備える特徴量受付部31は、温度測定装置1から推定対象とするCFRP積層体に関する表面主応力和分布を受信する。次に、特徴量受付部31は、温度測定装置1から受信した表面主応力和分布を欠陥位置推定部26に送る。
【0116】
<変形例1の効果>
本実施形態における欠陥推定システムは、画像取得装置が表面主応力和分布を計算し、欠陥推定装置に送信する。赤外線サーモグラフィから表面主応力和分布を計算するプログラムを搭載可能な画像取得装置は実現している。そのような画像取得装置と組み合わせることで、欠陥推定装置が特徴データを計算する負荷を軽減することができる。
【0117】
[第3実施形態]
第1実施形態における欠陥推定装置2は、学習対象とするCFRP積層体の表面温度変化を実際に測定した温度変化画像を用いて学習データを生成した。第3実施形態における欠陥推定装置2は、数値解析により、CFRP積層体の表面温度変化を測定することなく、学習データを生成するように構成する。
【0118】
<欠陥推定システムの機能構成>
本実施形態における欠陥推定システムの機能構成を、
図11を参照しながら説明する。
図11は本実施形態における欠陥推定システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【0119】
図11に示されているように、本実施形態における欠陥推定システムは、第1実施形態における欠陥推定システムと比較して、以下の点が異なる。第1に、欠陥推定装置2が位置情報受付部22を備えない。第2に、欠陥推定装置2が学習データ生成部28を備える。
【0120】
学習データ生成部28は、有限要素法(Finite Element Method; FEM)に基づく数値解析により、相異なる内部欠陥を有する複数のCFRP積層体における表面主応力和分布をそれぞれ計算する。また、学習データ生成部28は、各CFRP積層体が有する内部欠陥の位置情報と、計算した表面主応力和分布とを関連付けることで、学習データを生成する。さらに、学習データ生成部28は、生成した学習データをモデル学習部24に送る。
【0121】
学習データ生成部28は、内部欠陥を有さないCFRP積層体における表面主応力和分布を学習データに含めてもよい。内部欠陥を有さないCFRP積層体に関する学習データを含めることで、内部欠陥が小さい場合の推定精度を向上することができる。
【0122】
具体的には、学習データ生成部28は、以下のようにして表面主応力和分布を計算する。まず、学習対象とするCFRP積層体を有限要素のメッシュに離散化する。次に、要素剛性マトリックスと等価節点力ベクトルを要素毎に計算する。続いて、要素毎の要素剛性マトリックスと等価節点力ベクトルを全体座標系へ結合する。次に、連立一次方程式を解き、節点変位を計算する。そして、節点変位から要素毎のひずみと応力を計算する。
【0123】
なお、要素剛性マトリックス及び全体剛性マトリックスは、仮想仕事の原理を節点において離散化することで解くことができる。また、等価節点力ベクトルは、表面応力ベクトルを面積積分することにより導出できる(参考文献2参照)。
【0124】
〔参考文献2〕Onate, E. "Structural Analysis with the Finite Element Method", Artes Graficas Torres S.L., 2009.
【0125】
<第3実施形態の効果>
本実施形態における欠陥推定システムは、数値解析により生成した学習データを用いて、推定モデルを学習するように構成した。実測により学習データを用意するためには、様々な内部欠陥を有するCFRP積層体を収集し、それぞれについて温度測定装置1で温度変化を測定する必要がある。したがって、学習データの収集に膨大な時間を要する。
【0126】
数値解析により学習データを生成すれば、CFRP積層体の表面温度変化を実測することなく推定モデルを学習することが可能となる。したがって、本実施形態における欠陥推定装置2によれば、推定モデルを学習するための時間的及び経済的コストを大幅に低減することができる。
【0127】
[試験結果]
一実施形態における欠陥推定システムの性能を評価するために、評価試験を行った。本試験では、第3実施形態で説明した有限要素法に基づく数値解析により、学習対象とするCFRP積層体について表面主応力和分布を計算した。また、推定対象とするCFRP積層体についても、有限要素法に基づく数値解析により、表面主応力和分布を計算した。
【0128】
具体的には、内部欠陥の位置及び大きさが異なる2496個の積層体モデル及び内部欠陥を有さない1個の積層体モデルを用意した。このうち、内部欠陥を有さない1個の積層体モデル及び内部欠陥を有する1996個の積層体モデルを学習データとして用い、残りの500個の積層体モデルを検証データとして用いた。
【0129】
本実験で用いた積層体モデルは、長さ140mm、幅50mm、厚さ2mmで、10層の積層板とした。この積層板において、長さ10~70mm、幅10~50mmの範囲で大きさを変化させ、かつ、中心座標を変化させながら、2層目から9層目のいずれかに内部欠陥が存在する積層体モデルを生成した。
【0130】
上記の試験条件において、500組の検証データのうち、497組で内部欠陥の3次元位置を正確に推定した。推定に失敗した3組についても内部欠陥の概形及び層番号をほぼ特定できていた。
【0131】
図12は、試験結果を示す図である。
図12(A)は、推定に成功した成功例のうち3件を例示した図である。
図12(B)は、推定に失敗した失敗例の3件を示した図である。各試験結果において、上段は推定結果であり、下段は正解である。1 channelから8 channelに対応する各矩形は、2層目から9層目における各メッシュの内部欠陥の有無を表している。なお、9 channelは、積層方向の総和が1となるように追加したチャンネルである。薄い領域は内部欠陥があること、濃い領域は内部欠陥がないことを表している。
【0132】
図12(A)に示されているように、成功例では内部欠陥の範囲及び層の深さを正確に推定していることがわかる。
図12(B)に示されているように、失敗例であっても概ね内部欠陥の範囲及び層の深さを推定できていることがわかる。
【0133】
[応用例]
上述の実施形態における欠陥推定システムは、CFRPの製造施設又はCFRPを使用した製造物の整備点検施設等で利用することができる。
【0134】
CFRPの製造施設では、プリプレグを積層する際に、層間に異物が混入することにより、不良品が発生するおそれがある。異物混入は外観では判別できないため、超音波測定又は放射線透過法等の非破壊検査により、完成品の全数検査が行われている。しかしながら、上述のように、これらの検査手法は、経済的かつ時間的コストが大きく、生産性を低下させる一因となっている。
【0135】
一実施形態における欠陥推定システムは、不良品の一次スクリーニングに利用することができる。すなわち、欠陥推定システムにより完成品全量に対して内部欠陥の推定を行い、内部欠陥の位置が推定された(言い替えると、内部欠陥を有する可能性が高い)完成品のみに対して、従来の非破壊検査を行えばよい。これにより、コストが大きい従来の非破壊検査を実施する回数を大幅に低減することができる。
【0136】
また、一実施形態における欠陥推定システムによれば、内部欠陥の詳細な三次元位置が推定できるため、従来の非破壊検査において、内部欠陥が存在する可能性が高い位置を重点的に検査すればよい。したがって、一実施形態における欠陥推定システムを、CFRPの製造施設に応用することで、完成品の不良品検査を低コストで実施することが可能となる。
【0137】
CFRPを使用した製造物では、使用時に発生する震動又は異物の衝突等により、層間剥離、繊維破断、母材割れ等の損傷が発生する。そのため、整備点検施設では、CFRPで形成されたすべての部材に対して、超音波測定等の非破壊検査が行われている。上述のように、超音波測定は、接触部材が必要であり、検査技術者の技量に検査結果が影響される。
【0138】
製造施設の場合と同様に、一実施形態における欠陥推定システムにより製造物全体に対して一次検査を行えば、内部欠陥が存在する可能性が高い位置を抽出することができる。また、これにより、超音波検査では、内部欠陥が存在する可能性が高い位置のみを重点的に超音波検査を行えばよい。したがって、一実施形態における欠陥推定システムを、CFRPを使用した製造物の整備点検施設に応用することで、製造物の損傷解析を低コストで実施することが可能となる。
【0139】
[補足]
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0140】
100 欠陥推定システム
1 温度測定装置
2 欠陥推定装置
3 ユーザ端末
11 温度変化部
12 温度測定部
13 画像生成部
21 画像受付部
22 位置情報受付部
23 特徴量計算部
24 モデル学習部
25 モデル記憶部
26 欠陥位置推定部
27 結果出力部
28 学習データ生成部
31 特徴量受付部