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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】片面シールド層付きフラットケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20240412BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20240412BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
H01B7/08
H01B7/18 D
H01B11/00 G
H01B11/00 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018135021
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020013696
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 順盟
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】山澤 宏
【審判官】富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で幅方向に並設された複数の導体と、前記導体を挟む2層の接着性絶縁層と、前記2層の接着性絶縁層を挟む樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方に設けられたシールド層とを有し、前記シールド層のない側における前記導体面から前記樹脂フィルムの最外面までの距離を調整してFEXT特性を改善するフラットケーブルであって、
前記シールド層は、金属層と、該金属層の前記樹脂フィルム側に設けられた接着剤層とで少なくとも構成され、
前記接着性絶縁層の厚さは、該接着性絶縁層が非発泡の接着性絶縁層の場合は25μm以上45μm以下の範囲内であり、該接着性絶縁層が発泡した接着性絶縁層の場合は60μm以上110μm以下の範囲内であり、
前記樹脂フィルムの厚さは、該樹脂フィルムが非発泡の樹脂フィルムの場合は12μm以上150μm以下の範囲内であり、該樹脂フィルムが発泡した樹脂フィルムの場合は30μm以上150μm以下の範囲内であり、
前記接着剤層の厚さは、10~50μmの範囲内であり、
前記シールド層のある側における前記導体面から前記金属層までの距離をAとし、前記シールド層のない側における前記導体面から前記樹脂フィルムの最外面までの距離をBとしたとき、BはA以上2A以下、の関係を満たす、ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
所定の間隔で幅方向に並設された複数の導体と、前記導体を挟む2層の接着性絶縁層と、前記2層の接着性絶縁層を挟む樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方に設けられたシールド層とを有し、前記シールド層のない側における前記導体面から前記樹脂フィルムの最外面までの距離を調整してFEXT特性を改善するフラットケーブルであって、
前記シールド層は、金属層と、該金属層の前記樹脂フィルム側に設けられた接着剤層とで少なくとも構成され、
前記接着性絶縁層の厚さは、該接着性絶縁層が非発泡の接着性絶縁層の場合は25μm以上45μm以下の範囲内であり、該接着性絶縁層が発泡した接着性絶縁層の場合は60μm以上110μm以下の範囲内であり、
前記樹脂フィルムの厚さは、該樹脂フィルムが非発泡の樹脂フィルムの場合は12μm以上150μm以下の範囲内であり、該樹脂フィルムが発泡した樹脂フィルムの場合は30μm以上150μm以下の範囲内であり、
前記接着剤層の厚さは、10~50μmの範囲内であり、
前記シールド層のある側における前記導体面から前記金属層までの距離をAとし、前記シールド層のない側における前記導体面から前記樹脂フィルムの最外面までの距離をBとし、前記導体間の距離をCとしたとき、該Cは0.2~0.5mmの範囲内であり、BはA以上C以下、の関係を満たす、ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
前記シールド層のない側の樹脂フィルムが、2枚以上の樹脂フィルムを重ねて構成されている、請求項1又は2に記載のフラットケーブル。
【請求項4】
前記接着性絶縁層の誘電率が、3.0以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、8K映像等の高周波信号を伝送する場合において、FEXT特性(遠端クロストーク特性)の悪化を改善した片面シールド層付きフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、加工性及び可撓性に優れ、電子機器の内部配線や機器可動部の配線材等として広く用いられている。フラットケーブルでは、電磁波に対するシールドが必要であり、シールドされたフラットケーブル(シールドフラットケーブルともいう。)として種々のものが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、平角導体を四本以上一平面上に配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外に層を設け、前記介在層の外にシールド層を設けたシールドフラットケーブルが提案されている。さらに、絶縁フィルムの実効比誘電率をε1とし、前記絶縁フィルムが、導体に接着する接着層と基材層の二層からなり、前記接着層の比誘電率をεa、前記基材層の比誘電率をεbとし、前記平角導体からシールド層までの非金属層の実効比誘電率をεeとしたときに、εa<εbかつ0.86≦εe/ε1、としている。この技術によれば、平角導体から出る電気力線をその平角導体の近くに閉じ込めることができ、450mmの距離で一チャンネル当たりの信号の占有周波数帯幅が6GHzに達する高周波伝送をした場合でも遠端クロストークを小さくすることができるというものである。同文献の図2では、シールドフィルムがフラットケーブルの全周に巻かれており、図3及び図4では、シールドフィルムがフラットケーブルの両面又は片面に貼り合わされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-140716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、シールド層と絶縁層との間に誘電率を調整するための介在層を設け、シールド層側の各層の比誘電率等の比率を調整することで遠端クロストークを低減している。このように、従来はシールド層側の比誘電率等を調整するだけでFEXTを抑えていた。しかし、ある周波数以上では、シールド層側の調整だけでは対応が取れなくなっており、例えば周波数が2GHzから8GHzになった場合には、増加した減衰を抑えるために導体とシールド層との間の誘電率を小さくすると、クロストークが悪化してしまうという問題が生じた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、8K映像等の高周波信号を伝送する場合において、FEXT特性(遠端クロストーク特性)の悪化を改善した片面シールド層付きフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るフラットケーブルは、所定の間隔で幅方向に並設された複数の導体と、前記導体を挟む2層の接着性絶縁層と、前記2層の接着性絶縁層を挟む樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方に設けられたシールド層とを有するフラットケーブルであって、前記シールド層のある側における前記導体面からシールド層を構成する金属層までの距離をAとし、前記シールド層のない側における前記導体面から前記樹脂フィルムの最外面までの距離をBとしたとき、A≦B≦2A、の関係を満たす、ことを特徴とする。
【0008】
(2)本発明に係るフラットケーブルは、所定の間隔で幅方向に並設された複数の導体と、前記導体を挟む2層の接着性絶縁層と、前記2層の接着性絶縁層を挟む樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方に設けられたシールド層とを有するフラットケーブルであって、前記シールド層のある側における前記導体面からシールド層を構成する金属層までの距離をAとし、前記シールド層のない側における前記導体面から前記樹脂フィルムの最外面までの距離をBとし、前記導体間の距離をCとしたとき、A≦B≦C、の関係を満たす、ことを特徴とする。
【0009】
従来の片面シールド層付きフラットケーブルでは、シールド層のない側の誘電層等の厚さを調整してFEXT特性等を小さくする技術はなかったが、この(1)(2)の発明によれば、A≦B≦2A又はA≦B≦Cを満たすようにシールド層のない側の樹脂フィルムを厚くする等して樹脂フィルムの最外面までの距離を長くしている。その結果、より高い周波数信号を伝送する場合であっても、増加した減衰を抑えることができるとともに、FEXT特性を小さくすることができる。
【0010】
本発明に係るフラットケーブルにおいて、前記シールド層のない側の樹脂フィルムが、2枚以上の樹脂フィルムを重ねて構成されている。
【0011】
本発明に係るフラットケーブルにおいて、前記接着性絶縁層の誘電率が、3.0以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、8K映像等の高周波信号を伝送する場合において、FEXT特性(遠端クロストーク特性)の悪化を改善した片面シールド層付きフラットケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るフラットケーブルの幅方向断面の一例を示す模式図である。
図2】本発明に係るフラットケーブルの幅方向断面の他の一例を示す模式図である。
図3】本発明に係るフラットケーブルの長手方向断面の一例を示す模式図である。
図4貼り付けテープの厚さを0~300μmの範囲で変化させたときのFEXT(dB/m)を示すグラフである。
図5シールド層がない側の樹脂フィルムの厚さを25~105μmの範囲で変化させたときのFEXT(dB/m)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るフラットケーブルについて図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態のみに本発明が限定されるものではない。
【0015】
[フラットケーブル]
本発明に係るフラットケーブル10は、図1及び図2に示すように、電子機器内等の配線に用いられ、コネクタ等に接続されて用いられるフラットケーブルである。具体的には、所定の間隔で幅方向Xに並べて配された複数の導体1と、導体1を挟む2層の接着性絶縁層2a,2bと、2層の接着性絶縁層2a,2bを挟む樹脂フィルム3a,3bと、樹脂フィルム3a,3bのうちの一方の樹脂フィルムに設けられたシールド層4とを有している。そして、(特徴1)シールド層4のある側における導体面からシールド層面までの距離をAとし、シールド層4のない側における導体面から樹脂フィルム3bの最外面までの距離をBとしたとき、A≦B≦2A、の関係を満たす、又は、(特徴2)シールド層4のある側における導体面からシールド層面までの距離をAとし、シールド層4のない側における導体面から樹脂フィルム3bの最外面までの距離をBとし、導体間の距離をCとしたとき、A≦B≦C、の関係を満たす。
【0016】
このフラットケーブル10は、A≦B≦2A又はA≦B≦Cを満たすようにシールド層4のない側の樹脂フィルム3bを厚くする等して樹脂フィルム3bの最外面までの距離Bを長くしている。その結果、より高い周波数信号を伝送する場合であっても、増加した減衰を抑えることができるとともに、FEXT特性を小さくすることができる。なお、従来の片面シールド層付きフラットケーブルでは、シールド層のない側の誘電層等の厚さを調整してFEXT特性等を小さくする技術はなかった。
【0017】
以下、フラットケーブルの各構成要素について図1図3を参照して説明する。なお、フラットケーブル10は、図3に示すように、長手方向Yの両端部に位置する端末部11を有し、その端末部11が基板やコネクタ等に接続される。端末部11以外を本体部31と呼ばれることがある。
【0018】
<導体>
導体1は、図1及び図2に示すように、フラットケーブル10の長手方向Yに延びる複数の導体であって、後述する接着性絶縁層2a,2bで両側から挟まれて並列(「横並び」ともいう。以下同じ。)に配された複数の良導電性金属導体である。導体1の種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっきが施されたものを好ましく挙げることができる。高周波伝送の観点からは、銅線、銅合金線が特に好ましい。めっきとしては、はんだめっき、錫めっき、金めっき、銀めっき、ニッケルめっき等を挙げることができる。導体1の断面形状も特に限定されず、断面形状が円形の丸線、断面形状が矩形状の平角線(圧延線、スリッター線ともいう。)等、各種のものを適用できる。導体1の直径や断面積も特に限定されないが、直径0.1mm以上、0.3mm以下の丸線又はその丸線を圧延等して厚さ0.03mm以上、0.1mm以下で幅0.2mm以上、0.8mm以下とした平角線を好ましく挙げることができる。
【0019】
導体1の間隔(ピッチ)は特に限定されず、例えば約0.5mm程度とすることができるが、本発明では、上記特徴2のように、A≦B≦Cの関係を満たして本発明の作用効果を奏するように、図1及び図2に示す導体間の距離Cを調整することが好ましい。その距離Cは、他の要素(距離A、距離B)との相対的な値になるので特に限定されないが、A≦B≦Cの関係を満たす前提で、例えば0.2~0.5mmの範囲内とすることができる。
【0020】
導体1の表面には絶縁皮膜(図示しない)が設けられていてもよい。絶縁皮膜の種類と厚さは特に限定されないが、はんだ付け時に良好に分解するものが好ましく、例えば熱硬化性ポリウレタン皮膜等を好ましく用いることができる。絶縁皮膜が設けられた導体1は導体同士が絶縁されているので、導体同士の電気的な短絡を防止できる。
【0021】
<接着性絶縁層>
接着性絶縁層2a,2bは、前記した複数の導体1を挟んでいる絶縁層であり、接着性を有している。この接着性絶縁層2a,2bは、接着性があるので、接着性絶縁層同士が貼り合わされて接着するとともに、導体1にも接着している。導体1を挟む接着性絶縁層2a,2bは、接着性の発泡絶縁層であってもよいし、接着性の非発泡絶縁層であってもよく、特に限定されない。例えば、一対の接着性の非発泡絶縁層で導体1を挟んでもよいし、一対の接着性の発泡絶縁層で導体1を挟んでもよいし、一方を接着性の発泡絶縁層とし、他方を接着性の非発泡絶縁層として導体1を挟んでもよい。
【0022】
接着性絶縁層2a,2bの構成樹脂としては、フラットケーブルの接着性絶縁層として用いられるものを任意に用いることができ、例としては、ポリフェニレンエーテル樹脂及びその共重合体、ポリスチレン樹脂及びその共重合体、ポリオレフィン樹脂及びその共重合体等を挙げることができる。これらの樹脂は、単独の場合も含まれるし、例えばポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂との共重合体のように2種を共重合させた場合も含まれる。なお、ポリオレフィン樹脂としては、高強度ポリプロピレンやポリプロピレン共重合体を好ましく用いることができる。ポリフェニレンエーテル樹脂については、変性でも無変性でもよいが、無変性のものが好ましい。
【0023】
構成樹脂には、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、ブロッキング剤、耐収縮防止剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。発泡剤は接着性絶縁層を発泡させて低誘電率化する場合に添加され、一般的な化学発泡剤及び物理発泡剤の中から採用することができる。難燃剤としては、臭素系難燃剤、難燃性無機フィラー等を用いることができる。難燃助剤としては、三酸化アンチモン、二酸化ケイ素等を好ましく挙げることができる。なお、二酸化ケイ素等は、ブロッキング剤としても作用するとともに、耐収縮防止剤としても作用するので、好ましく用いることができる。添加剤の配合は、得られる接着性絶縁層の効果(接着性、絶縁性等)を阻害しないとともに、その添加剤の機能を発揮する範囲内で配合されることが好ましい。
【0024】
接着性絶縁層2a,2bの厚さは特に限定されないが、本発明では、上記特徴1,2のように、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たして本発明の作用効果を奏するように、接着性絶縁層2a,2bの厚さを調整することが好ましい。その距離A(シールド層4のある側における導体面からシールド層面までの距離)と距離B(シールド層4のない側における導体面から樹脂フィルム3bの最外面までの距離)それぞれは、他の要素(距離A、距離B、距離C)との相対的な値になるので特に限定されないが、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たす前提で、例えば、非発泡の接着性絶縁層の場合は例えば25μm以上、45μm以下程度の範囲内であることが好ましく、発泡した接着性絶縁層の場合は例えば60μm以上、110μm以下程度の範囲内であることが好ましい。
【0025】
なお、端末部11では、導体1を挟む樹脂フィルム3のうち、一方の樹脂フィルム3を上記した接着性絶縁層2とともに所定の長さだけ後退させるように設けている。この長さは、図1及び図2に示すように、端末部11の導体露出長さであり、この部分でコネクタ端子に電気的に接続される。
【0026】
<樹脂フィルム>
樹脂フィルム3a,3bは、上記した2層の接着性絶縁層2a,2bを挟むように配置されている。樹脂フィルム3a,3bは特に限定されず、一般的なフラットケーブルに用いられている各種のものを用いることができる。特に柔軟性や耐摩耗性等の性質を有するものであることが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のポリエステルフィルムが好ましく用いられる。樹脂フィルム3a,3bは、非発泡の樹脂フィルムでもよいし、発泡した樹脂フィルムでもよい。発泡した樹脂フィルムは誘電率を下げることができる。なお、発泡した樹脂フィルムは、上記接着性絶縁層2a,2bの説明欄で記載のように、任意の発泡剤を含有させて作製することができる。
【0027】
樹脂フィルム3a,3bの厚さは特に限定されないが、本発明では、上記特徴1,2のように、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たして本発明の作用効果を奏するように、樹脂フィルム3a,3bの厚さを調整することが好ましい。その距離A(シールド層4のある側における導体面からシールド層面までの距離)と距離B(シールド層4のない側における導体面から樹脂フィルム3bの最外面までの距離)それぞれは、他の要素(距離A、距離B、距離C)との相対的な値になるので特に限定されないが、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たす前提で、例えば、非発泡の樹脂フィルムの場合は例えば12μm以上、150μm以下程度の範囲内であることが好ましく、発泡した接着性絶縁層の場合は例えば30μm以上、150μm以下程度の範囲内であることが好ましい。
【0028】
樹脂フィルム3bについては、図1に示すような単層であってもよいし、図2に示すような2枚以上の積層であってもよい。積層とすることにより、距離Bを大きくすることが容易となり、距離Bを距離Aよりも大きくして上記関係を満たすことができる。積層形態の樹脂フィルム3bは、図2に示すように、2枚の樹脂フィルム3b1,3b2を接着剤層3cを介して貼り合わせて一体化し、その一体化物を接着性絶縁層2b上に貼り合わせたものであってもよいし、接着性絶縁層2b上に樹脂フィルム3b1を貼り、その上に接着剤層3cを設け、さらにその接着剤層3c上に樹脂フィルム3b2を貼り合わせたものであってもよい。
【0029】
なお、樹脂フィルム3a,3bと接着性絶縁層2a,2bとを一体化させて準備してもよく、その場合には、接着性絶縁層2a,2bが設けられた側を導体側に向けて貼り合わせることにより、接着性絶縁層2a,2bと樹脂フィルム3a,3bとを同時に導体1を挟む態様で設けることができる。
【0030】
<シールド層>
シールド層4は、図1及び図2に示すように、一方の樹脂フィルム3a上のみに設けられている。そして、導体全てを幅方向Xで覆っている。シールド層4の形態は特に限定されないが、金属箔等からなる金属層4aと、その金属層4aの一方の面に設けられた接着剤層4cとで少なくとも構成されたテープを好ましく用いることができる。シールド層4には、金属層4aと接着剤層4cとの間に基材フィルム(図示しない)が設けられていてもよい。シールド層4は、接着剤層4c側を樹脂フィルム3aの側にして貼り合わされている。なお、図3の例では、樹脂フィルム3a上に介在層6と補強材7が設けられているので、シールド層4は、それらの上に設けられている。
【0031】
金属層4aとしては、銅箔やアルミニウム箔のような良導電性の金属箔を挙げることができる。この金属層4aには、耐食性やはんだ付け性のために、錫めっき等が施されていてもよい。金属層4aの厚さは特に限定されないが、一例としては、10~50μm程度の錫めっき銅箔等を用いることができる。金属層4aの厚さを厚めにすることにより抵抗値を下げることができる。接着剤層4cとしては、熱可塑性ポリエステル系、熱可塑性ポリイミド系、エポキシ系等の接着剤層を好ましく挙げることができる。接着剤層4cの厚さも特に限定されないが、例えば10~50μm程度であればよい。なお、任意に設けられる基材フィルム(図示しない)としては、厚さ5~50μm程度のポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができる。また、シールド層4の厚さTは、例えば25μm以上、150μm以下の範囲内である。シールド層4は導体全てを幅方向Xで覆うことができる幅であればよい。
【0032】
こうしたシールド層4は、接地接続用導電部材として接地接続のために設けられている。そのため、導体1とシールド層4との間の静電容量や外部インダクタンスを均一に保つように作用し、この部分でのインピーダンスのミスマッチを生じないようにすることができる。また、シールド層4は、シールド作用を有するので、シールド層としてノイズ信号に対する信頼性を向上させることができる。
【0033】
<その他の構成>
(介在層)
介在層6は、上記特徴1,2のA≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たす前提で任意に設けることができる。例えば、樹脂フィルム3aの一方の側に設けられていてもよいし(図3を参照)、樹脂フィルム3a,3bの両方の側に設けられていてもよい(図示しない)。図3の例では、介在層6は、樹脂フィルム3とシールド層4との間に設けられている。この介在層6は、インピーダンス制御層としての機能も備える誘電体層として機能させることもでき、導体面からシールド層面までの距離Aを調整して、フラットケーブルのインピーダンスを微調整する役割も有している。
【0034】
介在層6をインピーダンス制御層としての機能させる場合は、任意の誘電特性等に調整することができる。その構成樹脂としては、要求される誘電特性等を実現する樹脂材料であれば発泡樹脂であっても非発泡樹脂であってもよい。樹脂材料としては、例えば、上記したポリフェニレンエーテル樹脂、高密度ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂等の樹脂組成物を挙げることができる。発泡樹脂の形成に用いる発泡剤は特に限定されないが、一般的な化学発泡剤及び物理発泡剤の中から任意に選択して用いることができる。介在層6を発泡樹脂とする場合、発泡剤は特に限定されないが、上記接着性絶縁層2の説明欄で記載のように、任意の発泡剤を含有させて作製することができる。介在層6は、いわゆる粘着テープとして使われているものを好ましく利用でき、その厚さは特に限定されないが、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たす前提で、例えば50μm以上、300μm以下の範囲内であればよい。
【0035】
(補強材)
補強材5は、図3に示すように、長手方向Yの端部まで延びる樹脂フィルム3aの背面側(シールド層側)に任意に設けられて、フラットケーブル10をコネクタに接続する際の補強として作用するものである。この補強材5は設けられていることが望ましいが、設けられていなくてもよい。補強材5は、所定の長さに加工されて、端末部11の端部まで延びる樹脂フィルム3aの背面に貼り合わされている。補強材5が貼り合わされている部分が、コネクタへの接続部となっている。補強材5は、端部の幅方向Xと同じ幅又は略同じ幅で設けられている。補強材5は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましく、耐熱性を求める場合はポリイミドフィルム等の耐熱フィルムが好ましい。例えば、熱可塑性ポリエステル系、熱可塑性ポリイミド系、エポキシ系等の接着剤層付ポリイミドフィルムを有する耐熱補強テープを挙げることができる。補強材5の厚さは特に限定されないが、例えば0.05~0.5mm程度であればよい。
【0036】
(保護フィルム)
保護フィルム8は、図3に例示するように、最外層としてフラットケーブルの両面に任意に設けられている。保護フィルム8は、ジャケットとも呼ばれ、ケーブル全体を保護するとともに、その機械的強度を補強し、屈曲等に耐えるように作用する。保護フィルム8としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリウレタン樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂との混合樹脂等を挙げることができる。また、保護フィルム8は、接着剤層と基材フィルムとで構成された保護テープであってもよく、その樹保護テープをフラットケーブルの両面で貼り合わされている。保護フィルム8の厚さは特に限定されないが、例えば0.02~0.3mm程度とすることができる。
【0037】
<距離A~C>
本発明では、[特徴1]シールド層4のある側における導体面からシールド層面までの距離をAとし、シールド層4のない側における導体面から樹脂フィルム3bの最外面までの距離をBとしたとき、A≦B≦2A、の関係を満たす、又は、[特徴2]シールド層4のある側における導体面からシールド層面までの距離をAとし、シールド層4のない側における導体面から樹脂フィルム3bの最外面までの距離をBとし、導体間の距離をCとしたとき、A≦B≦C、の関係を満たす。
【0038】
この関係を満たすように、上記した各構成要素の厚さを任意に調整する。A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たすことにより、より高い周波数信号を伝送する場合であっても、増加した減衰を抑えることができるとともに、FEXT特性を小さくすることができる。上記関係を満たさない場合、例えば、特徴1において、A>Bの場合やB>2Aの場合には、FEXT特性が大きくなることがある。また、特徴2において、A>Bの場合やB>Cの場合には、FEXT特性が大きくなることがある。これらのことから、シールド層が片面のみに設けられているフラットケーブルにおいては、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たすように各層の厚さを調整することにより、特に8K映像等の高周波信号を伝送する周波数8GHz程度になった場合のFEXT特性(遠端クロストーク特性)の悪化を改善することができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[比較例1-1]
複数の導体1として、厚さ50μmで幅0.28mmの銅平角線を51本準備した。次に、接着性のポリフェニレンエーテル樹脂を接着性絶縁層2a,2b(厚さ95μm)として有するポリエチレンテレフタレート製の樹脂フィルム3a,3b(厚さ25μm)を準備した。51本の導体を0.5mmピッチで横に並べた状態で、その両面から、接着性絶縁層2a,2bを導体側にした樹脂フィルム3a,3bを貼り合わせた。次に、一方の側の樹脂フィルム3aの上に、厚さ30μmのシールド層4を貼り合わせた。このシールド層4は、厚さ15μmのアルミニウム箔を、厚さ3μmの接着剤層4c(溶剤可溶型の高分子ポリエステル樹脂)を介して厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(基材フィルム。図示しない。)に貼り合わされたものである。なお、シールド層4は、そのポリエチレンテレフタレートフィルム側を接着剤層4cを介して貼り合わせた。こうして作製された比較例1-1のフラットケーブルは、距離Aは110μmであり、距離Bは95μmであり、距離Cは220μmである。
【0041】
[実施例1-1,1-2及び比較例1-2,1-3]
実施例1-1,1-2及び比較例1-2,1-3では、図2に示すように、比較例1-1において、接着剤層3c付き樹脂フィルム3b2(「貼り合わせテープ」という。)をさらに貼り合わせて距離Bを種々変えた。
【0042】
実施例1-1のフラットケーブルは、厚さ60μmの貼り合わせテープ(厚さ35μmの接着剤層3c、厚さ25μmの樹脂フィルム3b2)を用い、距離Aを110μmとし、距離Bを155μmとし、距離Cを220μmとした。
【0043】
実施例1-2のフラットケーブルは、厚さ80μmの貼り合わせテープ(厚さ50μmの接着剤層3c、厚さ30μmの樹脂フィルム3b2)を用い、距離Aを110μmとし、距離Bを175μmとし、距離Cを220μmとした。
【0044】
比較例1-2のフラットケーブルは、厚さ180μmの貼り合わせテープ(厚さ105μmの接着剤層3c、厚さ75μmの樹脂フィルム3b2)を用い、距離Aを110μmとし、距離Bを275μmとし、距離Cを220μmとした。
【0045】
比較例1-3のフラットケーブルは、厚さ300μmの貼り合わせテープ(厚さ175μmの接着剤層3c、厚さ125μmの樹脂フィルム3b2)を用い、距離Aを110μmとし、距離Bを395μmとし、距離Cを220μmとした。
【0046】
[実施例2-1~2-3]
実施例2-1~2-3及び比較例2-1では、図1に示すように、比較例1-1において、樹脂フィルム3bの厚さを種々変えた。
【0047】
実施例2-1のフラットケーブルは、厚さ50μmの樹脂フィルム3bに代えたものであり、距離Aを110μmとし、距離Bを120μmとし、距離Cを220μmとした。
【0048】
実施例2-2のフラットケーブルは、厚さ75μmの樹脂フィルム3bに代えたものであり、距離Aを110μmとし、距離Bを145μmとし、距離Cを220μmとした。
【0049】
実施例2-3のフラットケーブルは、厚さ105μmの樹脂フィルム3bに代えたものであり、距離Aを110μmとし、距離Bを175μmとし、距離Cを220μmとした。
【0050】
[測定及び結果]
フラットケーブルの減衰量、インピーダンス及びFEXT特性(遠端クロストーク特性)を測定した。減衰量及びFEXT特性は、ネットワークアナライザー(Agilent Technologies社製、型式:PNA-L Network Analyzar N5230)を用い測定し、インピーダンスは、デジタルシリアルアナライザ(Tektronix社製、型式:DSA8200/ Digital Serial Analyzer)を用い測定した。その結果を表1及び表2と図4及び図5に示す。なお、表1及び表2において、減衰量(db/m)の「○」の評価は、周波数を0~10GHzまで可変させ、その時の減衰量の最小値が-20db以上となっていることを意味する。FEXT(db/m)の「○」の評価は、周波数を0~10GHzまで可変させ、その時のFEXTの最小値が-35db未満となっていることを意味し、「×」の評価は、周波数を0~10GHzまで可変させ、その時のFEXTの最小値が-35db以上となっていることを意味する。インピーダンス(Ω)の「○」の評価は、100±15Ω以内となっていることを意味する。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1,2及び図4,5に示すように、実施例1-1,1-2及び実施例2-1~2-3では、FEXT特性が小さくなり、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たすように各層の厚さを調整したフラットケーブルは、特に8K映像等の高周波信号を伝送する周波数8GHz程度になった場合のFEXT特性(遠端クロストーク特性)の悪化を改善することができた。一方、A≦B≦2A又はA≦B≦Cの関係を満たさない比較例では、EXT特性(遠端クロストーク特性)の悪化を改善することができなかった。具体的には、比較例1-1では、A>Bであり、FEXT特性が不十分であった。比較例1-2、1-3では、B>2Aであり、さらにB>Cでもあり、FEXT特性が不十分であった。
【符号の説明】
【0054】
1 導体
2a,2b 接着性絶縁層
3a シールド層がある側の樹脂フィルム
3b,3b1,3b2 シールド層がない側の樹脂フィルム
3c 接着剤層
4 シールド層
4a 金属層
4c 接着剤層
6 介在層
7 補強材
8 保護フィルム
10 フラットケーブル
11 長手方向の端末部
31 本体部
X 幅方向
Y 長手方向
A シールド層のある側における導体面からシールド層面までの距離
B シールド層のない側における導体面から樹脂フィルムの最外面までの距離
C 導体間の距離
図1
図2
図3
図4
図5