(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】RF用マイクロプラズマリミッタ、及びマイクロ波回路保護
(51)【国際特許分類】
H01P 1/00 20060101AFI20240412BHJP
H02H 7/20 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
H01P1/00 Z
H02H7/20 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019057794
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-03-18
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラム, タイ アン
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04575692(US,A)
【文献】米国特許第04642584(US,A)
【文献】特開2008-022232(JP,A)
【文献】特開平11-074745(JP,A)
【文献】米国特許第03113278(US,A)
【文献】特表2015-520598(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0149287(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105633278(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0244048(US,A1)
【文献】特開平08-236260(JP,A)
【文献】特開2016-111683(JP,A)
【文献】Lee W.CROSS et al.,“Theory and Demonstration of Narrowband Bent Hairpin Filters Integrated With AC-Coupled Plasma Limiter Elements”,IEEE Transactions on Electromagnetic Compatibility,2013年12月,Vol. 55, No. 6,p.1100-1106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00
H02H 7/20
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の電子回路(12)を高出力信号から保護するために構成された保護回路(100)であって、
伝送線(130)の両端に電気的に接続された第一のポート(110)及び第二のポート(120)であって、該第二のポート(120)は、前記1つ又は複数の電子回路(12)に電気的に結合されている、第一のポート(110)及び第二のポート(120)と、
前記伝送線(130)に電気的に結合されているとともに、共振器(144)に連通している相転移材料(142)を備えるリミッタ回路(140)であって、前記相転移材料(142)は、前記第一のポート(110)において受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、前記第二のポート(120)から出力する信号のエネルギーを制限する制限状態になるように構成されている、リミッタ回路(140)と、
を有し、
前記共振器(144)が、2つの導電性素子(147a,147b)の間にギャップ(148)を有するスロット式共振器を含み、
前記相転移材料(142)は、前記ギャップ(148)に配置されており、
前記制限状態は、前記スロット式共振器の前記2つの導電性素子(147a,147b)を電気的に接続する導電状態を含む、保護回路(100)。
【請求項2】
前記相転移材料(142)は、前記第一のポート(110)で受領した信号のエネルギーが前記閾値未満になると、非制限状態になるように構成されている、請求項1に記載の保護回路(100)。
【請求項3】
前記リミッタ回路(140)は、前記伝送線(130)と接地(150)との間で選択的に電気的に結合され、
前記制限状態が、導電状態を含み、
前記相転移材料(142)は、前記第一のポート(110)において受領した信号のエネルギーが前記閾値を超えると、前記第一のポート(110)で受領した信号のエネルギーの少なくとも一部を接地(150)へと向きを変える導電状態になるように構成されている、
請求項1に記載の保護回路(100)。
【請求項4】
前記リミッタ回路(140)が、前記伝送線(130)付近に配置されており、
前記制限状態が、電磁結合状態を含み、
前記相転移材料(142)は、前記第一のポート(110)で受領した信号のエネルギーが前記閾値を超えると、前記第一のポート(110)のインピーダンスを前記第二のポート(120)のインピーダンスに対してミスマッチさせる電磁結合状態になるように構成されている、
請求項1に記載の保護回路(100)。
【請求項5】
前記制限状態にある前記相転移材料(142)が、前記第二のポート(120)における信号のエネルギーを制限するために、前記第一のポート(110)で受領した信号のエネルギーの少なくとも一部を吸収する、請求項1に記載の保護回路(100)。
【請求項6】
ギャップチップ(146)をさらに含み、該ギャップチップ(146)が、
前記相転移材料(142)が内部に配置されている封止されたチャンバ(160)、
前記封止されたチャンバ(160)内に少なくとも部分的に配置されており、かつ前記封止されたチャンバ(160)から延びている、第一の導体(162)、
前記第一の導体(162)から隔てられている第二の導体(164)であって、前記封止されたチャンバ(160)内に少なくとも部分的に配置されており、かつ前記封止されたチャンバ(160)から延びている、第二の導体(164)
を備え、
前記第一の導体(162)及び前記第二の導体(164)が、前記共振器(144)に電気的に接続されている、
請求項1に記載の保護回路(100)。
【請求項7】
前記リミッタ回路(140)が、前記共振器(144)に電気的に接続されたバイアスコネクタ(170)をさらに備え、前記閾値は、前記バイアスコネクタ(170)に適用されたバイアス信号によって制御される可変閾値を含む、請求項1に記載の保護回路(100)。
【請求項8】
1つ又は複数の電子回路(12)を高出力信号から保護する方法(200)であって、
伝送線(130)の第一のポート(110)において信号を受領すること(210)であって、前記伝送線(130)は、前記第一のポート(110)及び第二のポート(120)を両端に有し、前記第二のポート(120)が、前記1つ又は複数の電子回路(12)に電気的に結合されている、伝送線(130)の第一のポート(110)において信号を受領する(210)こと、及び
前記第一のポート(110)において受領した信号のエネルギーが閾値(220)を超えると、制限状態になるように構成された相転移材料(142)を用いて、前記第二のポート(120)から出力する信号のエネルギーを制限すること(230)であって、前記相転移材料(142)は、前記伝送線(130)に電気的に接続されている共振器(144)と連通している、前記第二のポート(1
20)から出力する信号のエネルギーを制限すること(230)、
を含み、
前記閾値が可変閾値を含み、前記共振器(144)に適用されたバイアス信号を制御することにより、前記閾値を制御することをさらに含む、方法(200)。
【請求項9】
前記第一のポートで受領した信号のエネルギーが前記閾値(220)未満であれば、非制限状態になるように構成された前記相転移材料(142)を用いて、前記第一のポート(110)で受領した信号のエネルギーを前記第二のポート(120)へ送ること(240)をさらに含む、請求項8に記載の方法(200)。
【請求項10】
前記制限状態が、導電状態を含み、
前記共振器(144)と連通している前記相転移材料(142)が、前記伝送線(130)と接地(150)との間で選択的に電気的に接続され、
前記第二のポート(120)から出力する信号のエネルギーを制限すること(230)が、前記第一のポート(110)で受領した前記閾値(220)を超える信号のエネルギーに応答して導電状態になるように構成された前記相転移材料(142)を用いて、前記第一のポート(110)で受領した信号の少なくとも一部を接地(150)へと向きを変えることを含む、
請求項8に記載の方法(200)。
【請求項11】
前記制限状態が、電磁結合状態を含み、
前記共振器(144)と連通している前記相転移材料(142)は、前記伝送線(130)付近に配置されており、
前記第二のポート(120)から出力する信号のエネルギーを制限すること(230)が、前記第一のポート(110)で受領した信号のエネルギーが前記閾値を超えると電磁結合状態になるように構成された前記相転移材料(142)を用いて、前記第一のポート(110)のインピーダンスを、前記第二のポート(120)に対してミスマッチさせることを含む、
請求項8に記載の方法(200)。
【請求項12】
航空機(10)の運転を制御するように構成されている1つ又は複数の電子回路(12)、及び
保護回路(100)
を備える航空機(10)であって、前記保護回路(100)が、
伝送線(130)の両端に電気的に接続された第一のポート(110)及び第二のポート(120)であって、該第二のポート(120)は、前記1つ又は複数の電子回路(12)に電気的に結合されている、第一のポート(110)及び第二のポート(120)と、
前記伝送線(130)に電気的に結合されているとともに、共振器(144)に連通している相転移材料(142)を備えるリミッタ回路(140)であって、前記相転移材料(142)は、前記第一のポート(110)において受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、前記第二のポート(120)から出力する信号のエネルギーを制限する制限状態になるように構成されている、リミッタ回路(140)と、
を備え、
前記共振器(144)が、2つの導電性素子(147a,147b)の間にギャップ(148)を有するスロット式共振器を含み、
前記相転移材料(142)は、前記ギャップ(148)に配置されており、
前記制限状態は、前記スロット式共振器の前記2つの導電性素子(147a,147b)を電気的に接続する導電状態を含む、航空機(10)。
【請求項13】
前記リミッタ回路(140)が、前記共振器(144)に電気的に接続されたバイアスコネクタ(170)を備え、前記閾値は、前記バイアスコネクタ(170)に適用されたバイアス信号によって制御される可変閾値を含む、請求項12に記載の航空機(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
多くの電気回路は、高出力信号により引き起こされる損傷に対して敏感である。例えば、低出力信号、雑音環境にある信号などを検出するように設計されている周波数(RF)設備(例えばローノイズアンプ、ダウンコンバータミキサ回路など)は一般的に、高出力信号による損傷に対して敏感である。このような高出力信号は、様々な形態で存在することがあり(例えば高出力マイクロ波信号、電磁パルスなど)、かつ/又は多くの環境(例えばレーダー送信機による信号、落雷、電力サージ、静電気、干渉、同時送受信システムのためのコサイト(co-site)干渉など)によって引き起こされ得る。よって、このような高出力信号の発生を防止するか、又は繊細な電子機器をこのような高出力信号から保護するための何らかの手段を提供する必要がある。
【0002】
従来の電子システムでは、高出力信号が繊細な電子機器に到達するのを防ぐために、サージ保安器を使用することができる。現行のリミッタでは例えば、高出力信号を遮断するために、特別なダイオード(例えばPドープ、I層、Nドープ(PIN)ダイオード)を使用することができる。しかしながら、このような保護回路は高価であり、出力処理能力が限定的であり、かつ/又は挿入損失が高い。そこで、出力に敏感な電子機器を高出力信号から保護する、改善された保護回路が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、高出力信号からの保護を改善するための、方法、装置、システム、コンピュータプログラム製品、ソフトウェア及び/又は媒体に関する。この目的のため、本明細書で提示する態様は、高出力信号が1つ又は複数の電子回路に到達することを防止するために、相転移材料を有するリミッタ回路を用いる。相転移材料は、適用された信号のエネルギーが閾値を超えると、関連する電気機器へと通過する信号のエネルギーを制限する制限状態になる。
【0004】
本開示は、1つ又は複数の電子回路を高出力信号から保護するために構成された保護回路を開示する。保護回路は、第一のポート、第二のポート、伝送線、及びリミッタ回路を備える。第一のポートと第二のポートは、伝送線の両端に電気的に接続されている。第二のポートは、1つ又は複数の電子回路に作動的に結合されている。リミッタ回路は、伝送線に作動的に結合されているとともに、共振器と連通している相転移材料を備える。相転移材料は、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、第二のポートにおいて信号のエネルギーを制限する制限状態になるように構成されている。
【0005】
さらなる態様によれば、相転移材料は、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値未満になると、非制限状態になるように構成されている。
【0006】
さらなる態様によればリミッタ回路は、伝送線と接地との間で選択的に電気的に結合され、制限状態は導電状態を含み、相転移材料は、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、第一のポートで受領した信号のエネルギーの少なくとも一部を接地へと向きを変える導電状態になるように構成されている。
【0007】
さらなる態様によれば、リミッタ回路は、伝送線付近に配置されており、制限状態は電磁結合状態を含み、相転移材料は、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、第一のポートのインピーダンスを第二のポートのインピーダンスに対してミスマッチさせる電磁結合状態になるように構成されている。
【0008】
さらなる態様によれば、制限状態にある相転移材料は、第二のポートにおける信号のエネルギーを制限するために、第一のポートで受領した信号のエネルギーの少なくとも一部を吸収する。
【0009】
さらなる態様によれば、保護回路はさらに、封止されたチャンバ、第一の導体、及び第二の動態を備えるギャップチップを有する。相転移材料は、封止されたチャンバに配置されている。第一の導体は、封止されたチャンバ内に少なくとも部分的に配置されており、封止されたチャンバから延びている。第二の導体は、第一の導体とは隔てられており、封止されたチャンバ内に少なくとも部分的に配置されており、封止されたチャンバから延びており、第一及び第二の導体は、共振器に電気的に接続されている。
【0010】
さらなる態様によれば、相転移材料は、空気を含む。
【0011】
さらなる態様によれば、相転移材料は、希ガス、サーモクロミック材料又はエレクトロクロミック材料を含む。
【0012】
さらなる態様によれば、共振器は、2つの導体素子の間にギャップを有するスロット式共振器を含み、相転移材料は、このギャップに配置されており、制限状態は、スロット式共振器の2つの導体素子を電気的に接続する導電状態を含む。
【0013】
さらなる態様によれば、共振器は、相転移材料によって接地に選択的に接続される四分の一波長共振器を含み、制限状態は、四分の一波長共振器を接地に電気的に接続する導電状態を含む。
【0014】
さらなる態様によれば、閾値は、固定された閾値を含む。
【0015】
さらなる態様によれば、リミッタ回路はさらに、共振器に電気的に接続されたバイアスコネクタを備え、閾値は、バイアスコネクタに適用されたバイアス信号によって制御される可変閾値を含む。
【0016】
本開示はまた、1つ又は複数の電子回路を高出力信号から保護する方法を開示する。本方法は、伝送線の第一のポートで信号を受信することを含む。伝送線は、第一のポートと第二のポートを、両端に有する。第二のポートは、1つ又は複数の電子回路に作動的に結合されている。本方法はまた、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、制限状態になるように構成された相転移材料を用いて、第二のポートにおいて信号のエネルギーを制限することを含む。相転移材料は、伝送線と作動的に結合された共振器と連通している。
【0017】
さらなる態様によれば、本方法はさらに、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値未満であれば、非制限状態になるように構成された相転移材料を用いて、第一のポートで受領した信号のエネルギーを第二のポートへと送ることを含む。
【0018】
さらなる態様によれば、制限状態は、導電状態を含み、共振器と連通している相転移材料は、伝送線と接地との間で選択的に電気的に結合され、第二のポートにおいて信号のエネルギーを制限することは、第一のポートで受領した閾値を超える信号のエネルギーに応答して導電状態になるように構成された相転移材料を用いて、第一のポートで受領した信号の少なくとも一部を接地へと向きを変えることを含む。
【0019】
さらなる態様によれば、制限状態は、電磁結合状態を含み、共振器と連通している相転移材料は、伝送線付近に配置されており、第二のポートで信号のエネルギーを制限することは、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、電磁結合状態になるように構成された相転移材料を用いて、第一のポートのインピーダンスを、第二のポートに対してミスマッチさせることを含む。
【0020】
さらなる態様によれば、閾値は、固定された閾値を含む。
【0021】
さらなる態様によれば、閾値は、可変閾値を含み、本方法はさらに、共振器に適用されたバイアス信号を制御することにより、閾値を制御することを含む。
【0022】
本開示はまた、1つ又は複数の電子回路と、保護回路とを備える航空機を開示する。1つ又は複数の電子回路は、航空機の運転を制御するように構成されている。保護回路は、第一のポート、第二のポート、伝送線、及びリミッタ回路を備える。第一のポートと第二のポートは、伝送線の両端に電気的に接続されている。第二のポートは、1つ又は複数の電子回路に作動的に結合されている。リミッタ回路は、伝送線に作動的に結合されているとともに、共振器と連通している相転移材料を備える。相転移材料は、第一のポートで受領した信号のエネルギーが閾値を超えると、第二のポートにおいて信号のエネルギーを制限する制限状態になるように構成されている。
【0023】
さらなる態様によれば、リミッタ回路はさらに、共振器に電気的に接続されたバイアスコネクタを備え、閾値は、バイアスコネクタに適用されたバイアス信号によって制御される可変閾値を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】例示的な態様による電子システムのブロックダイアグラムを示す。
【
図2】例示的な態様による高出力信号によって引き起こされる損傷から電子回路を保護する方法を示す。
【
図5】例示的な態様による保護回路のためのリミッタ回路を示す。
【
図6】例示的な態様による相転移材料のギャップチップ実装を示す。
【
図7】リミッタ回路のための例示的なスロット式共振器を示す。
【
図8】リミッタ回路のための例示的な四分の一波長共振器を示す。
【
図9】例示的なスロット式共振器態様によるプリント回路基板(PCB)を示す。
【
図10】接地に対するシャントという例示的な態様によるPCBを示す。
【
図11】マルチプルリミッタ回路を含む例示的な態様によるPCBを示す。
【
図12】マルチプルリミッタ回路を含む別の例示的な態様によるPCBを示す。
【
図13】例示的な態様についてのシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の態様は、電子回路、特に高出力信号により損傷を被り得る電子回路に適用される信号のエネルギーを制限するための、方法、装置、システム、コンピュータプログラム製品、及び/又はソフトウェアに向けられている。ここに提示される態様は、電子回路保護、特にRF回路全般、とりわけ航空機におけるRF回路を保護する観点で記載されている。しかしながら、ここに提示される態様は、航空機用電子部品に限られず、むしろ高出力信号に対して敏感な、また高出力信号によって損傷を被り得るあらゆる電子部品に当てはまることが評価される。
【0026】
図1は、例えば航空機における、電子システム10の態様のブロックダイアグラムを示す。電子システム10は、1つ又は複数の電子回路12、及び保護回路100を備える。電子回路12は、高出力信号に対して敏感な、又は高出力信号によって損傷を被り得るあらゆる電子回路を含むことができる。例示的な電子回路12には、レーダーシステム、通信システム、センサシステム、ローノイズアンプ、ダウンコンバータミキサなどが含まれるが、これらに限られない。保護回路100は、SIG
1が高出力信号である場合、例えばSIG
1のエネルギーが閾値を超えると制限状態に変わる相転移材料を用いて、高出力信号を少なくとも部分的にブロック及び/又はその向きを少なくとも部分的に変えることによって、電子回路12を高出力/高エネルギー信号から保護する。
【0027】
図2は、本明細書に開示された態様による保護回路100を用いた電子回路12を保護する方法200を示し、ここで保護回路100は、
図3及び4に示したように伝送線130の両端に第一のポート(P
1)110と第二のポート(P
2)120とを備え、第二のポート120は、1つ又は複数の電子回路12に電気的に接続している。保護回路100はまた、伝送線130に作動的に接続されたリミッタ回路140を備え、リミッタ回路140は、共振器と連通している相変化材料を含む。第一のポート110は、信号SIG
1を受領する(ブロック210)。受領した信号SIG
1のエネルギーが閾値Tを超えると(ブロック220)、保護回路100は、制限状態になるように構成された相転移材料を用いて、第二のポート120における信号SIG
2のエネルギーを制限する(ブロック230)。受領した信号SIG
1のエネルギーが閾値T未満であれば(ブロック220)、保護回路100は、非制限状態になるように構成された相転移材料を用いて、SIG
1を第二のエネルギーポート120へと通過させる(ブロック240)。
【0028】
1つの態様によれば閾値Tは、製造の間に、例えば保護回路100に接続された電子回路12の感度に基づいて既定された、固定閾値を含む。或いは、閾値は可変閾値、例えばバイアス信号SIG
BIASによって制御される可変閾値を含むことができる。この態様のために、保護回路100はさらに、
図3及び4に示したようにバイアスコネクタ170を備えることができ、ここではバイアスコネクタ170に適用されたバイアス信号SIG
BIASが、閾値Tを制御する。よって保護回路100は、インプット信号に対するリミッタ回路140の感度を、必要に応じて調整することができ、例えば1つ又は複数の電子回路12の、高出力信号に対する感度増加/低下に応答して調整できる。閾値が固定されているか又は可変であるかどうかに拘わらず、対応する電子回路12の損傷を防止するレベルに、閾値を設定又は選択することが評価される。閾値は例えば、1ワットより大きい信号からローノイズアンプを保護するために、設定することができる。
【0029】
図3は、保護回路100の例示的な態様を示し、ここでリミッタ回路140は、伝送線130のインピーダンスを制御する。より具体的には、この態様のためのリミッタ回路140は、第一のポート110で受領した信号のエネルギーSIG
1に応答して、伝送線130に選択的に電磁的に(例えば容量性で又は誘導性で)結合し、これによって第二のポート120のインピーダンスを、第一のポート110のインピーダンスに対して選択的に制御する。この目的のため、リミッタ回路140における相転移材料が非制限状態にあるとき、リミッタ回路140は、伝送線130のインピーダンスに整合するように同調され、これによって伝送線130に対して電磁的に結合しなくなる。よって、第二のポート120のインピーダンスは、第一のポート110のインピーダンスに実質的に整合し、これによって第一のポート110に適用された信号が、ほとんど又は全く挿入損失無く、第二のポート120へと通過可能になる。しかしながら、第一のポート110に適用される信号SIG
1のエネルギーが閾値を超える場合には、相転移材料は制限状態へと移行し、これによって制御回路140は、電磁結合を介して伝送線130のインピーダンスと高度な不整合を起こす。電磁結合は、第二のポート120のインピーダンスを、第一のポート110に対して変化させる。こうして生じたインピーダンスのミスマッチは、SIG
1のエネルギーの全てではないにしろ、その大部分を第一のポート110へと戻すことによって、インプット信号SIG
1のエネルギーを減衰させ、これによって第二のポート120によりアウトプットされる信号SIG
2の出力を制限する。
【0030】
図4は、保護回路100の別の例示的な態様を示し、ここでリミッタ回路140は、高出力インプット信号の向きを、第二のポート120から離れる方へと変える。より具体的には、この態様のためのリミッタ回路140は、第一のポート110において受領した信号のエネルギーに応答して、伝送線130を接地150に対して選択的に接続し、これによって、第一のポート110に適用された信号の向きを、接地150へと選択的に変える。この目的のため、リミッタ回路140にある相転移材料が非制限状態にあるとき、リミッタ回路140は、伝送線130が接地150に接続されることを防ぐ開放回路であり、これによって第一のポート110に適用された信号が、ほとんど又は全く挿入損失無く、第二のポート120へと通過可能になる。しかしながら、第一のポート110に適用された信号SIG
1のエネルギーが閾値を超えると、相転移材料は制限状態へと移行し、これによって制御回路140は、伝送線130を接地150に電気的に接続する。よって、相転移材料が制限状態にあるとき、制限回路140は、第一のポート110に適用された信号の向きを接地へと変え、これによってSIG
1の全てではないにしろ、その大部分が、第二のポート120に到達することが防止される。
【0031】
図5は、リミッタ回路140の例示的な態様を示す。
図5に示したようにリミッタ回路140は、選択的な部品の内部に組み込まれた、又は共振器144に隣接して組み込まれた、相転移材料142を備える。相転移材料142は、適用されたインプット信号のエネルギーに応答して相が変化するあらゆる材料を含むことができ、これには空気、希ガス、サーモクロミック材料、エレクトロクロミック材料(例えば酸化バナジウムVO
2)などが含まれるが、これらに限られない。幾つかの態様においては、相転移材料142が制限状態にあるとき、相転移材料142が、第一のポート110に適用された信号のエネルギーの一部を吸収可能なことが評価される。リミッタ回路140の特性は、相転移材料142のために使用される材料、及び/又は伝送線130に対するリミッタ回路140の実際の方向140による。導電状態にある相転移材料142は、プラズマに変わるガスであろうと、又は導電体に変わる絶縁材料であろうと、なおも適切な抵抗値を有するため、ジュール加熱に起因して信号の一部を吸収する。例えば、相転移材料142が、伝送線130から接地150へのシャントを形成する場合、高エネルギー信号は、リミッタ回路140を通過し、これによってSIG
1のエネルギーの少なくとも一部は、相転移材料142によって吸収される。
【0032】
幾つかの態様において、保護回路100は、ギャップチップ146を用いて実施され、ここで相転移材料142は、ギャップチップ146の封止されたチャンバ160に配置されている。
図6は、このようなギャップチップ146の例を示す。この例においてギャップチップ146は、チャンバ160、相転移材料142、第一の電極162及び第二の電極164を含む。相転移材料142は、封止されたチャンバ160内に配置されており、電極162、164は、封止されたチャンバ160内に部分的に配置されており、かつ封止されたチャンバ160の両側から延びている(
図6参照)。この結果、相転移材料142が制限状態にあるとき、例えば高出力信号SIG
1に応答して、相転移材料142が、第一の電極162を第二の電極164へと電気的に接続し、これによって所望の制限条件、例えば第一の電極162が伝送線130に対して接続し、かつ第二の電極164が接地150に接続する場合に接地へのシャントが生じる。
【0033】
共振器144は、既知のあらゆる共振器を含むことができ、それは例えば、スロット式共振器(
図7及び9)、四分の一波長共振器(
図8)、相補的な分割リング共振器(
図11)である。共振器144は例えば、
図7に示したように、2つの導電体147a,147bの間に配置されたスロット又はギャップ148を有するスロット式共振器を含むことができる。この態様のために、相転移材料142は、相転移材料142が制限状態にあるとき、相転移材料142が一方の導電体147aをもう一方の導体147bに対してのみ接続するように、ギャップ148に配置されている。或いは、ギャップチップ146は、封止されたチャンバ160にある相転移材料142が制限状態にあるとき、一方の導電体147aがもう一方の導電体147bに対してのみ接続するように、2つの導電体147a,147bの間に配置されていてよい。
【0034】
別の態様によれば、共振器144は、
図8に示したように、四分の一波長共振器を含むことができる。この態様のために、(特定の周波数における)波長の四分の一の長さを有する導電性素子149は、相転移材料142が制限状態にあるとき、相転移材料142によって接地150に対して接続されている。或いは、ギャップチップ146は、封止されたチャンバ160にある相転移材料142が制限状態にあるとき、導電性素子149が接地150にのみ接続(ひいては共振)するように、導電性素子149と接地150との間に配置されていてよい。
【0035】
保護回路100は、あらゆる既存のプリント回路基板(PCB)実装に対して加えることができる。保護回路は例えば、フリップチップボンディング又はワイヤボンディング技術を用いて、PCBに対して取り付けることができる。
【0036】
図9~12は、本明細書に開示された態様の例示的なPCB実装を示す。
図9は、スロット式共振器(例えば
図7のもの)として実装されるとともに、インプット信号の出力に応答して伝送線に対して選択的に電磁的に結合するために使用される、保護回路100のPCB実装を示す。
図10は、高出力信号の向きを接地へと変える保護回路100のPCB実装を示す。本明細書に開示された態様は一般的に、1つのリミッタ回路140を備える保護回路100の観点で記載されており、例えば
図11及び12に示したように、マルチプルリミッタ回路140を使用可能なことが評価される。このようなマルチプルリミッタ回路による解決法は例えば、1つより多い向きの変更経路をもたらすため、保護回路100によって処理可能な出力の量を増加させるため、第二のポート120に到達する信号レベルをさらに低下させるために、使用できる。
【0037】
図13は、例示的な態様(例えば
図9の態様)により実施された場合の、保護回路100についての性能データを示し、ここで共振器は、10GHz付近での操作のために構成されている。
図13に示したように、第二のポート120に送られた信号は、非制限状態では-0.23dBにあり、すなわち送られた信号のほぼ100%である。制限状態では、第二のポート120に送られた信号は、-23.76dBにあり、すなわち200倍超、減衰されている。具体的な要求及び装置の複雑さに応じて、より良好な性能設計を達成することができる。
【0038】
本明細書に開示された態様は、従来のサージ保護による解決法(すなわちPINダイオード)に対して、幾つかの利点を有する。例えば、本明細書に開示された保護回路100は、安価に実施でき(例えば最大90%安い)、PINダイオードよりも高いインプット出力(例えば最大100倍の出力又は総エネルギーを有する信号)を処理することができ、非制限状態にあるときに最小の挿入損失を有する(例えばPINダイオードについては約1dBという挿入損失と比べた場合)。
【0039】
本明細書に開示された態様はもちろん、ここに記載した保護回路の基本的な特性から離れることなく、本明細書で具体的に規定した以外のやり方で実施することができる。本発明による実施形態は、あらゆる点において説明的なものであり、制限的なものとみなされるべきではなく、添付した特許請求の範囲の意味合い及び均等な範囲に入るあらゆる変更が、そこに包含されると意図されている。