(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】抽出物の製造方法及び製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/60 20060101AFI20240412BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240412BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240412BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240412BHJP
【FI】
A61K35/60
A61P3/02
A61K38/05
A23L33/18
(21)【出願番号】P 2019154179
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390023456
【氏名又は名称】株式会社極洋
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】前川 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】那花 友莉恵
(72)【発明者】
【氏名】川端 康之亮
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】Yuji OMURA et al.,“Analysis of balenine in muscle extract of opah Lampris guttatus with automatic amino acid analyzer”,NIPPON SUISAN GAKKAISHI,2018年11月15日,Vol. 84, No. 6,p.1025-1033,DOI: 10.2331/suisan.18-00010
【文献】商品名「マンダイエキス粉末」のパンフレット[オンライン],アダプトゲン製薬,2018年10月09日,URL:https://adaptgen.co.jp/wp/wp-content/uploads/2018/11/cdfb9473a36337b60fa98e9a58d54c1f.pdf,検索日2023/05/22
【文献】"ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑「アカマンボウ(マンダイ)」",[平成30年5月30日検索],[online],2007年,インターネット,<URL:https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%A6>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CIE1976(L*,a*,b*)表色系において、アカマンボウの普通筋を約10mm厚の均質化されたペースト状にしたものを色差計を用いて測定したときにL値が80以下である、該アカマンボウの該普通筋からなる該アカマンボウの一部を20℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を該抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む、
抽出物の製造方法。
【請求項2】
CIE1976(L*,a*,b*)表色系において、アカマンボウの普通筋を約10mm厚の均質化されたペースト状にしたものを色差計を用いて測定したときにL値が80以下である、該アカマンボウの該普通筋からなる該アカマンボウの一部を60℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を該抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む、
抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記抽出工程の後に、前記抽出物を濃縮することによって濃縮抽出物を得る濃縮工程と、を含む、
請求項1
又は請求項2に記載の抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記濃縮工程の後に、前記抽出物の水分量が0wt%超10wt%以下になるように前記抽出物を乾燥することによって乾燥抽出物を得る乾燥工程を、さらに含む、
請求項3に記載の抽出物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至
請求項4のいずれか1項に記載
の製造方法により
製造された該抽出物を含む製剤を製造する工程を含む、
製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出物、特にバレニンを含む抽出物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康は市民生活を豊かにし、活力ある社会の構築に貢献する。健康の維持又は増進に役立ち得る食品を提供することは、今や先進国のみならず開発途上国においても重要な課題である。そのような食品の代表格の一つは、魚に代表される水産物である。人間は、長期にわたって魚を食しており、その良質な動物性たんぱく質、低カロリー、及び脳機能の改善といった特徴については、従来から注目されてきた。
【0003】
近年、人間の生理機能を高めると言われる水産物のうち、抗酸化作用及び/又は抗疲労作用等に着目した魚にも注目が集まっている(非特許文献1)。
【0004】
例えば、イミダゾールジペプチドに分類される物質は主として3種類が存在し、一般的には、魚の中に存在するイミダゾールジペプチドの種類は偏っている。具体的には、イミダゾールジペプチドのうち、アンセリンとカルノシンが主として魚に含まれている。例えば、カツオ、マグロといった高速回遊魚は、アンセリンを比較的多く含むことが知られている。また、カルノシンとアンセリンは、魚介類以外にも、例えば豚肉又は鶏肉に豊富に含まれている。そのため、カルノシンとアンセリンについての研究は盛んに進められている。特にカルノシンについては、血清又は組織中に存在するカルノシンジペプチダーゼによってカルノシンが分解され、カルノシンの機能発揮の障害となっていることから、カルノシンジペプチダーゼ阻害用組成物が開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、本発明者は、アカマンボウ(「マンダイ」とも呼ばれる)が、海棲哺乳類であるミンククジラよりも多い、イミダゾールジペプチドの一種であるバレニンを含有していることを見つけ出し、その事実を公開している(非特許文献3、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第WO2017/104777号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】西谷,他3名,「総説 新規抗疲労成分:イミダゾールジペプチド」,日本補完代替医療学会誌 第6巻第3号,2009年10月,p123-129
【文献】高橋,他4名,「アンセリン含有サケエキスの高脂肪食飼育ラットに対する脂肪蓄積抑制効果」,日本水産学会誌 第76巻第6号,2008年,p1075-1081
【文献】大村,他8名,「アカマンボウ Lampris guttatus筋肉中のバレニン含量」,平成30年度日本水産学会春季大会 講演要旨集,2018年3月26日,p92
【文献】大村,他9名,「アカマンボウに疲労抑制機能があるバレニンが高含量存在することを発見」,研究のうごき(中央水産研究所主要成果集),2018年9月,p11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バレニンは、イミダゾールジペプチドの中でも、これまで着目されてこなかった物質である。というのも、バレニンを筋肉等に含む動物は、上述のとおり海棲哺乳類である鯨、あるいはホタテガイ等、極めて限定されているためである。加えて、他のイミダゾールジペプチドとともにバレニンを比較的多く含む肉として知られている鯨肉は、捕鯨が容易ではない状況では、摂取することが不可能又は非常に困難となっている。そのため、かつて捕鯨国であった国であっても、現状ではバレニンを摂取する機会が非常に少なくなっている。
【0009】
しかしながら、イミダゾールジペプチドの中でも、バレニンは、餌も食べずに長距離を泳ぎ続けることができる鯨の生態からも、他のイミダゾールジペプチド(カルノシン、アンセリン)と比較して、抗酸化作用及び/又は抗疲労作用の観点で優位性があると考えられる物質である。また、従って、捕鯨が容易ではない状況であっても、イミダゾールジペプチド、特にバレニンを継続的に摂取するための方法を見出す努力を続けることは、健康の維持又は増進を図る社会にとって極めて重要である。
【0010】
上述のとおり、本発明者によってアカマンボウが、魚類にもかかわらずバレニンを含有していることを見つけ出されたが、該バレニンをどのようにアカマンボウから抽出することが該バレニンを最も活かすことになるか、については未だ検討されていないため、様々な観点によって検討と分析をすることが求められる。従って、魚類からのバレニンの抽出についての研究開発及び具体化は、緒に就いたばかりといえる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、バレニンを豊富に含み得る抽出物の実現に大きく貢献するものである。
【0012】
本発明者は、鯨肉が容易には摂取しづらい状況を踏まえ、鯨に代わる、又は鯨を超えるバレニンを含む可能性のある海洋生物について、その生態を含めた研究と分析に取り組んだ。多くの調査と分析を重ねた結果、本発明者は、連続的運動に対応できる回遊魚という観点に加えて、何らかの影響によって抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を体内で発揮しているであろうと思われる魚類、特に深海魚にも着眼するに至った。
【0013】
その後の本発明者による更なる試行錯誤と分析により、深海魚の一種であるアカマンボウ(「マンダイ」とも呼ばれる)が、豊富な量のイミダゾールジペプチド、特にバレニンを含有していることを本発明者は知得した。そこで、本発明者は、魚類の一種であるアカマンボウの研究と分析を集中的に行った。その結果、例えばアカマンボウの略全ての部位に対して熱を加えた場合であっても、バレニン含有量が実質的に変動しないという、大変興味深い技術的知見を得た。
【0014】
加えて、イミダゾールジペプチドの中でもバレニンは、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種が奏され得ることを本発明者は知得した。
【0015】
さらに分析を進めたところ、アカマンボウの可食部(普通筋)と該可食部と異なる部位のそれぞれが含有するイミダゾールジペプチドが、下記の(1)~(5)の特徴を有することも、本発明者は知得した。
(1)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(頭部、内臓、及び皮)も、可食部(普通筋)に匹敵する量のバレニンを含んでいること。
(2)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの量は、該可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの量よりも顕著に多いこと。
(3)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量と、該可食部(普通筋)と異なる部位(特に、内臓及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量とが顕著に異なっていること。
(4)アカマンボウの普通筋と比較して、血合肉のイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいこと。
(5)骨、及び尾部90がバレニンを含むこと。
【0016】
また、別の視点で分析をすると、本発明者は、アカマンボウの普通筋を詳しく観察すると、該普通筋の一部に明るさが異なる箇所が存在することを視認した。より具体的には、該普通筋の中に、赤みが薄い部分(いわば、明るい部分)と、赤みが濃い部分(いわば、暗い部分)とが混在していることを本発明者は確認した。
【0017】
本発明者は、上述の普通筋における明度指数の違いに着目し、該普通筋における明度指数の異なる位置のバレニンの含有量を分析した。その結果、CIE(国際照明委員会)1976(L*,a*,b*)表色系において、明度指数L*(以下、「L値」ともいう。)がある数値以下の普通筋におけるバレニンの含有量が、L値がある数値を超える普通筋におけるバレニンの含有量よりも多い傾向にある、という、大変興味深い知見が得られた。
【0018】
本発明は、上述の視点、及び技術的知見に基づいて創出された。
【0019】
本発明の1つの抽出物は、CIE(国際照明委員会)1976(L*,a*,b*)表色系において、L値が80以下であるアカマンボウの普通筋に由来する抽出物を含み、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物である。
【0020】
この抽出物によれば、CIE1976(L*,a*,b*)表色系においてL値が80以下であるアカマンボウの普通筋を含む魚肉が豊富な量のバレニンを含有しているため、該抽出物を摂取することにより、例えば、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種が奏され得る。
【0021】
また、本発明のもう1つの抽出物は、アカマンボウの魚肉(血合肉を含む)、頭部、内臓、皮、尾部、ひれ、及び骨を含む全ての部位のうち少なくとも一部に由来する抽出物のうち、L値が80以下であるアカマンボウの普通筋に由来する該抽出物が、50wt%以上である抽出物である。
【0022】
この抽出物によれば、CIE1976(L*,a*,b*)表色系においてL値が80以下であるアカマンボウの普通筋を含む魚肉が豊富な量のバレニンを含有しているため、該抽出物が全体の50wt%以上含む抽出物を摂取することにより、例えば、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種が奏され得る。なお、該抽出物におけるバレニンの摂取量を更に増やす観点から、該アカマンボウの該普通筋に由来する該抽出物が、50wt%超であることはより好適であり、60wt%以上であることは更に好適である。また、該アカマンボウの該普通筋に由来する該抽出物が70wt%以上であること、75wt%以上であること、80wt%以上であることは、それぞれ前述の例よりも更に好適であり、90wt%以上又は95wt%以上であることは、それぞれ極めて好適な例である。
【0023】
また、本発明の1つの抽出物の製造方法は、CIE(国際照明委員会)1976(L*,a*,b*)表色系において、L値が80以下であるアカマンボウの普通筋を含む該アカマンボウの一部又は全部を20℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む。
【0024】
また、本発明のもう1つの抽出物の製造方法は、CIE(国際照明委員会)1976(L*,a*,b*)表色系において、L値が80以下であるアカマンボウの普通筋を含む前記アカマンボウの一部又は全部を60℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む。
【0025】
この抽出物の製造方法によれば、CIE1976(L*,a*,b*)表色系において、L値が80以下であるアカマンボウの普通筋を含む該アカマンボウの一部又は全部由来の、豊富な量のバレニンを含有する抽出物を製造することができる。その結果、該抽出物を摂取することにより、例えば、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種が奏され得る。
【0026】
なお、上述の各製造方法の発明において、上述のアカマンボウの該一部又は該全部に由来する抽出物のうち、L値が80以下である該アカマンボウの該普通筋に由来する前記抽出物が50wt%以上であることは、該抽出物におけるバレニンの摂取量を増やすことに寄与し得るため、好適な一態様である。なお、該抽出物におけるバレニンの摂取量を更に増やす観点から、該アカマンボウの該普通筋に由来する該抽出物が、50wt%超であることはより好適であり、60wt%以上であることは更に好適である。また、該アカマンボウの該普通筋に由来する該抽出物が70wt%以上であること、75wt%以上であること、80wt%以上であることは、それぞれ前述の例よりも更に好適であり、90wt%以上又は95wt%以上であることは、それぞれ極めて好適な例である。
【0027】
ところで、本願において「皮」又は「皮部」とは、魚(例えば、アカマンボウ)の最表面から内側(体内側)に向けて10mm未満の厚みを有する部位を意味する。また、本願において「血合肉」とは、魚類の体側にある筋肉のうち、暗赤色を呈する部分をいう。別の指標で見れば、本願において「血合肉」とは、「普通筋」に含まれる鉄分量の2倍以上の鉄分量を含有する部位をいう。加えて、本願においてアカマンボウの「全部位」は、魚肉(血合肉を含む)、頭部、内臓、皮、尾部、ひれ、及び骨を意味する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の1つの抽出物によれば、豊富な量のバレニンを含有する抽出物を実現し得る。
【0029】
また、本発明の1つの抽出物の製造方法によれば、豊富な量のバレニンを含有する抽出物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1の実施形態の抽出物の製造工程を示すフローである。
【
図2】第1の実施形態のアカマンボウの切断箇所、及び部位を示すアカマンボウの一部を示す写真である。
【
図3】第1の実施形態のアカマンボウと、その普通筋におけるバレニン含有量の分析対象となる領域を説明するための魚肉の一部を示す写真である。
【
図4】第1の実施形態の、部位20aにおける各領域に由来する抽出物のバレニンの含有量と明度指数L*(L値)との関係性を示すグラフである。
【
図5】第2の実施形態の抽出物の製造工程を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態として、CIE(国際照明委員会)1976(L*,a*,b*)表色系による明度指数L*(L値)が80以下であるアカマンボウの普通筋に由来する抽出物を含み、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0032】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態の抽出物の製造工程を示すフローである。より具体的には、
図1は、アカマンボウの普通筋を含む該アカマンボウの一部又は全部に由来する抽出物を含み、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の製造工程を示すフローである。本実施形態の抽出物及びその製造方法においては、
図1に示す各処理工程が、該抽出物の製造方法における全工程又はその一部となり得る。従って、本実施形態の抽出物の製造方法は、必ずしも
図1に示す各処理工程の全てを含むことを要しない。また、
図2は、本実施形態の魚の一例であるアカマンボウ100の切断箇所、及び部位を示すアカマンボウ100の一部を示す写真である。また、
図3は、第1の実施形態のアカマンボウと、その普通筋におけるバレニン含有量の分析対象となる領域を説明するための魚肉の一部を示す写真である。
【0033】
(冷凍工程及び切断工程)
具体的には、
図1に示すように、漁獲されたアカマンボウ100が冷凍される(ステップS1)。その後、
図2に示すように、アカマンボウ100の、頭部10、筋肉20(より細かく分類すれば、普通筋20a及び血合肉20b)、内臓部30、図示しない骨、並びに尾部90が、それぞれ分かれるように、略直線状にC
1、C
2、及びC
3に沿って冷凍状態のアカマンボウ100を切断する、切断(解体)工程が行われる(ステップS2)。なお、
図2においては、背びれを含む一部の部位が写真に表れていないが、表示されていない部位は、本実施形態の抽出物の原料ではないため、当該部位の説明を省略する。
【0034】
ここで、
図2におけるC
1に示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100のカマが筋肉20に含まれないように、かつ該カマにおける筋肉20側の端部の略接線方向に沿って実施される。また、
図2におけるC
2に示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100の目と口が頭部10に含まれるように実施される。加えて、C
3に示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100の筋肉20が、極力、尾部90に含まれないように実施される。また、
図2に示されていない骨については、包丁などの刃物を用いた切断処理、又は公知の電動グラインダーなどの切断機器によって他の部位から分離される。なお、本実施形態の切断(解体)工程においては、公知のバンドソー装置が用いられているが、該工程においてアカマンボウを切断する手段は、該バンドソー装置に限定されない。C
1、C
2、及びC
3に沿って冷凍状態のアカマンボウを切断することができる他の公知の切断方法も採用され得る。
【0035】
その後、公知のチョッパー装置(例えば、株式会社なんつね製、型式:MC-22)による細片化を行うために、該チョッパー装置に導入することが可能となる程度に、冷凍状態であったアカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40,骨,尾部90)を、それぞれ完全に又は不完全に解凍する。その後、該チョッパー装置を用いた細片化工程が行われることにより、例えば、10mmφの貫通孔を備えたプレートから細片化されたミンチ状の該各部位を得ることができる。なお、本実施形態の細片化工程においては、公知のチョッパー装置が用いられているが、該工程において細片化された該各部位を得る手段は、該チョッパー装置に限定されない。例えば、公知のサイレントカッターも、細片化工程において採用され得る。
【0036】
[魚の各部位のバレニン含有量の分析]
ここで、本発明者は、本実施形態の細片化された各部位が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量について分析を行った。具体的には、上述のように細片化された各部位、及び
図3に示す普通筋20aの魚肉の4つの領域(21,22,23,24)から、過塩素酸抽出エキスを調製した。その後、公知のアミノ酸自動分析計を用いて、細片化されたアカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a(21,22,23,24),血合肉20b,内臓部30,皮部40,骨,尾部90)に対する、遊離アミノ酸及び結合アミノ酸に関する分析を行った。なお、本発明者は、
図3に示すように、普通筋20aの領域ごとに異なる明度の魚肉が視認されたため、普通筋20aの各領域(21,22,23,24)については、本発明者は、7~8体のアカマンボウにおける各領域から採取した魚肉を試料としてより詳細に分析を行った。
【0037】
また、イミダゾールジペプチド(バレニンを含む)含有量の分析においては、塩酸加水分解して結合アミノ酸を分析することにより、高濃度の3-メチルヒスチジンが検出された結果に基づいて、バレニンの存在が明らかとなった。また、バレニンの標準品を用いた加水分解液中の3-メチルヒスチジンに基づいてバレニンの量を定量することにより、細片化された各部位中のバレニンの量が定量された。
【0038】
なお、表1における「Bal.」は「バレニンの含有量」を意味する。また、表1における分析対象としての皮部40は、筋肉20の部位の皮である。加えて、表1における各数値における十の位の値は四捨五入している。
【0039】
【0040】
【0041】
表1に示すように、上述の分析により、細片化された各部位中のバレニンの量に関する下記(1)の特徴が明らかとなった。
(1)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(頭部、内臓、及び皮)も、可食部(普通筋)に匹敵する量のバレニンを含んでいること。
【0042】
また、表1には示されていないが、本発明者が分析した結果、次の(2)~(5)の知見も得られた。
(2)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチド(バレニン、アンセリン、及びカルノシンを合わせたもの)の量は、該可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの量よりも顕著に多いこと。
(3)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量と、該可食部(普通筋)と異なる部位(特に、内臓及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量とが顕著に異なっていること。
(4)アカマンボウの普通筋と比較して、血合肉のイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいこと。
(5)骨、及び尾部90がバレニンを含むこと。
【0043】
なお、上述の特徴の(1)に関してより具体的に説明すれば、少なくともアカマンボウ100由来の細片化された各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30)が含有するバレニンの量は、ミンククジラの背肉赤肉が含有するバレニンの量と同等、又は該バレニンの量よりかなり多いと言える。また、興味深いことに、表1の普通筋20aの中でも、普通筋20a中心から頭側の普通筋20aのバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量が、普通筋20a中心から尾側の普通筋20aのバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量よりも、約6wt%以上多いことが確認された。
【0044】
なお、本実施形態においては、「普通筋20a中心」の位置は、頭部10の先端(口部の先端)から普通筋20aの尾側の端(従って、尾部90を含まない)までの長さ(
図2における「X」)を1としたときの、頭側先端から0.5の位置と定義される。従って、バレニンの含有量が多い普通筋20aをより確度高く得るためには、頭側先端から0.4以下までの普通筋20aを含む普通筋20aからイミダゾールジペプチド及び/又はバレニンを得ることは好適な一態様である。
【0045】
[アカマンボウの普通筋の各領域のバレニン含有量と明度指数L*(L値)との相関性に関する分析]
本実施形態においては、
図3に示す4つの領域(21,22,23,24)から採取した普通筋20aの魚肉を均質化(homogenized)させた後、シャーレ(「ペトリ皿」ともいう)内において、ほぼ均一な厚さ(約10mm厚)を有するペースト状の試料を、L値の分析対象とした。なお、表2に示す各試料と該L値の分析対象とは実質的に同じ試料である。
【0046】
本実施形態のL値の測定は、色差計(KURABO社製、型式GA-20)を用いて行った。なお、該色差計によって得られるL値は、CIE1976(L*,a*,b*)表色系の色差式に基づく値である。
【0047】
図4は、本実施形態の、部位20aにおける各領域に由来する抽出物のバレニンの含有量と明度指数L*(L値)との関係性を示すグラフである。
【0048】
図4においては魚の普通筋の各領域のバレニン含有量と明度指数L*(L値)との相関性を調べたところ、大変興味深いことに、相関係数(R)の二乗である決定係数の例(R
2)が0.55以上であることを確認することができた。従って、魚の普通筋の各領域のバレニン含有量と明度指数L*(L値)との相関性がかなり高いことが確認された。なお、本実施形態における決定係数(R
2)は、以下の関係を満たす値である。
【0049】
【0050】
上述のとおり、アカマンボウの普通筋の各領域のバレニン含有量と明度指数L*(L値)との間に、高い相関性が確認された。
図4に示すデータの回帰直線は、縦軸(L値)をyとし、横軸(バレニン含有量)をxとすると、
y=-0.018x+116.12
であった。
図4に示す結果から、本発明者は、アカマンボウの普通筋の魚肉の中でも、L値が80以下であることが、普通筋に含まれるバレニンの質量がより多くなることを知得した。なお、L値が80以下であれば、普通筋の魚肉の質量100gに対して、バレニンの含有量が約2000mg(より正確には、約2007mg)以上という、高い数値となり得る。
【0051】
また、普通筋に含まれるバレニンの質量をより多く得る観点から言えば、L値は75以下(又は75未満)であることは好適な一態様であり、L値が70以下(又は70未満)であることがより好適な一態様である。
【0052】
また、既に述べたとおり、アカマンボウは、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチド(バレニン、アンセリン、及びカルノシンを合わせたもの)の量が多い。従って、後述する抽出工程において、アカマンボウの一部又は全部から抽出される抽出物(説明の便宜上、「第1抽出物」ともいう。)が、L値が80以下(より好適には、上述の各数値範囲)であるアカマンボウの普通筋を含む魚肉からの抽出物(説明の便宜上、「第2抽出物」ともいう。)を含有することは、バレニンの質量をより多く得る観点から好適な一態様である。
【0053】
また、
図4により、L値が80以下(より好適には、上述の各数値範囲)であるアカマンボウの普通筋を含む魚肉は豊富な量のバレニンを含有しているため、上述の第1抽出物のうち、上述の第2抽出物が全体の50wt%以上含む抽出物を摂取することは、好適な一態様である。豊富な量のバレニンを含有する該抽出物を摂取することにより、例えば、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種が奏され得る。
【0054】
なお、上述の第1抽出物におけるバレニンの摂取量を更に増やす観点から、該アカマンボウの該普通筋に由来する上述の第2抽出物が、50wt%超であることはより好適であり、60wt%以上であることは更に好適である。また、該アカマンボウの該普通筋に由来する該抽出物が70wt%以上であること、75wt%以上であること、80wt%以上であることは、それぞれ前述の例よりも更に好適であり、90wt%以上又は95wt%以上であることは、それぞれ極めて好適な例である。
【0055】
(抽出工程)
本実施形態においては、その後、細片化された各部位について、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程が行われる。
【0056】
より具体的には、その細片化された各部位を60℃~100℃の抽出媒体としての水(イオン交換水)に接触させる。より具体的には、細片化された各部位が、公知の容器内の60℃~約100℃の該抽出媒体中に浸漬される抽出工程(ステップS3)が行われる。なお、本実施形態の抽出工程においては、意図的な該抽出媒体の撹拌は行われていないが、意図的に該抽出媒体を撹拌することも採用し得る一態様である。
【0057】
(分離工程)
その後、本実施形態においては、細片化された各部位が該抽出媒体中に浸漬されてから約2時間後に、該細片化された各部位からの抽出物(本実施形態においては、水溶液)を、遠心分離機を用いて該各部位(残渣として取り扱われ得る)と分離する、分離工程が行われる(ステップS4)。具体的には、300メッシュのろ布を用いた遠心ろ過処理を行うことにより、本実施形態の抽出物を製造することができる。なお、本実施形態の抽出物は、液状である。また、本実施形態の分離工程においては、300メッシュのろ布を用いた遠心ろ過処理が採用されているが、本実施形態の分離工程はそのような態様に限定されない。公知の分離工程(例えば、遠心沈降による分離処理)も採用し得る他の一態様である。
【0058】
<第1の実施形態の変形例(1)>
本変形例においては、
図1に示すように、第1の実施形態の抽出物の製造工程によって製造された抽出物をさらに濃縮することにより、バレニンを含有する濃縮抽出物としての抽出物(以下、単に「濃縮抽出物」ともいう。)を製造するための濃縮工程(ステップS5)が行われ得る。
【0059】
本変形例の濃縮工程(ステップS5)においては、例えば、約1時間~約8時間、温度が約60℃であって、減圧(例えば、0.03MPa)状態の空間内に、第1の実施形態の抽出物を攪拌する又は静置させることにより、濃縮抽出物を製造することができる。
【0060】
ところで、本変形例の濃縮工程においては、前述の処理条件が採用されているが、本変形例の濃縮工程はそのような態様に限定されない。後述する精製工程とは異なる公知の他の濃縮工程も採用し得る他の一態様である。また、本変形例の濃縮工程が行われる前に、殺菌処理(例えば、加熱処理)が行われることも、採用し得る他の一態様である。また、濃縮工程(ステップS5)において、第1の実施形態の抽出物を攪拌する又は静置させる温度が20℃以上、30℃以上、40℃以上、又は50℃以上であれば、本変形例の効果の少なくとも一部が奏され得る。
【0061】
<第1の実施形態の変形例(2)>
本変形例においては、
図1に示すように、上述の濃縮工程(ステップS5)が行われない第1の実施形態の抽出物を乾燥させることにより、あるいは第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物としての抽出物の製造工程によって製造された濃縮抽出物を乾燥させることにより、乾燥抽出物を得る乾燥工程(ステップS6)が行われ得る。
【0062】
本変形例においては、乾燥工程の代表的な例としての、真空乾燥(減圧乾燥を含む)工程又は凍結乾燥工程が行われる。ここで、本変形例における「真空乾燥(又は減圧乾燥)工程」とは、加熱しつつ真空状態(又は減圧状態)で乾燥させる工程を意味する。また、本変形例における「凍結乾燥工程」は、「凍結真空乾燥工程」又は「凍結減圧乾燥工程」を含む。
【0063】
なお、本変形例の乾燥抽出物が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量が顕著に(例えば、約20wt%以上)損なわれない限り、前述の2種類の乾燥工程の代わりに、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、過熱水蒸気乾燥、フライ乾燥、減圧フライ乾燥、ドラム乾燥、又は天日乾燥による乾燥工程を採用することもできる。
【0064】
例えば、真空乾燥工程が採用される場合、公知の方法及び装置を用いることができる。例えば、連続式ベルト乾燥装置又は真空ドラム式乾燥装置が採用され得る。本実施形態においては、大気圧を0としたゲージ圧-0.093MPaの圧力下であって約60℃の環境下において、約12時間~約72時間、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物を攪拌する又は静置させることによって、本変形例の乾燥抽出物を形成することができる。なお、この真空乾燥工程において、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物を攪拌する又は静置させる温度が20℃以上、30℃以上、40℃以上、又は50℃以上であれば、本変形例の効果の少なくとも一部が奏され得る。
【0065】
次に、凍結乾燥工程が採用される場合も、公知の方法及び装置を用いることができる。例えば、凍結乾燥装置(協和真空技術社製、型式:RL4522BS)が採用され得る。本実施形態においては、約266Paの圧力下であって約-20℃の環境下において、約168時間、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物を攪拌する又は静置させることによって、本変形例の乾燥抽出物を形成することができる。
【0066】
なお、真空乾燥又は凍結乾燥に代表される本変形例の乾燥抽出物の水分量は、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が本変形例の乾燥抽出物の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が本変形例の乾燥抽出物の5wt%以下であることがより好ましく、本変形例の乾燥抽出物の3wt%以下であることが更に好ましい。
【0067】
上述の濃縮工程(ステップS5)が行われない第1の実施形態の抽出物を乾燥させた乾燥抽出物、あるいは、本変形例の乾燥抽出物をさらに粉砕することによって粗粉体を得るための粉末化工程(ステップS7)が行われることは採用し得る一態様である。本実施形態においては、例えば、公知のハンマーミル(例えば、ホソカワミクロン株式会社製ハンマーミル)が採用され得る。より具体的には、粒度が2mm以下になるように設定された処理条件によって、本変形例の乾燥抽出物が粉末化され得る。
【0068】
なお、本変形例の乾燥抽出物が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量が顕著に(例えば、約20wt%以上)損なわれない限り、前述のハンマーミルの代わりに、ピンミル、ボールミル、インパクトミル、エッジランナーミル、ローラーミル、振動ミル、円錐形粉砕機、ジェットミル、又はその他の公知の機械式衝撃/粉砕装置を採用することもできる。
【0069】
上述の各工程を経て、アカマンボウ100由来である、本実施形態の粗粉体としての乾燥抽出物(以下、単に「粗粉体」ともいう)を製造することができる。
【0070】
なお、本変形例の粗粉体としての乾燥抽出物の水分量も、上述と同様に、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が本変形例の粗粉体の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が本変形例の粗粉体の5wt%以下であることがより好ましく、本変形例の粗粉体の3wt%以下であることが更に好ましい。
【0071】
加えて、本変形例の粗粉体は、精製工程を経ずに製造された粗粉体である。より具体的には、該粗粉体は、例えば、非特許文献2において開示されている方法のように、該粗粉体を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用してバレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われずに得られた粗粉体である。従って、精製されていない粗粉体であっても、例えば、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、上述のように豊富な量のバレニンを含有していることは、イミダゾールジペプチド及び/又はバレニンの歩留まり(収率を含む)の向上、製造工程の簡素化(製造時間の短縮化を含む)、製造コストの低減等、多くの利点を生み出すため、特筆に値する。
【0072】
また、上述のとおり、魚肉の中でも、普通筋20aと比較して、血合肉20bのイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいことから、魚肉における血合肉から形成された該抽出物の割合が5wt%未満であることは、上述の第1の実施形態、あるいは上述の又は後述する各変形例において得られる抽出物の含有するバレニンの量のバラつきを低減させる効果を奏させ得る。換言すれば、魚肉における血合肉から形成された該抽出物の割合が5wt%未満とすることが、より安定した量のバレニンを含有する該抽出物の製造を実現し得る。
【0073】
<第1の実施形態の変形例(3)>
本変形例においては、
図1に示すように、第1の実施形態の変形例(2)の製造工程によって製造された粗粉体としての乾燥抽出物をさらに分級することにより、1mm未満(より好ましくは、0.8mm未満)の粒子径を有する粉体からなる微粉体としての乾燥抽出物(以下、単に「微粉体」ともいう)を得るための分級工程(ステップS8)が行われ得る。
【0074】
本変形例の分級工程(ステップS8)を採用することにより、例えば、目開きが0.7mmの篩(ふるい)を通過する、微粉体のみを回収することができる。その結果、本変形例の乾燥抽出物(1mm未満の粒子径を有する粉体からなる微粉体としての乾燥抽出物)を製造することができる。なお、第1の実施形態の変形例(2)における粉末化工程において採用されたハンマーミル等が分級機能をも備えている場合は、粉末化工程と分級工程とが同時に実施され得る。
【0075】
なお、本変形例の微粉体としての乾燥抽出物の水分量も、上述と同様に、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が本変形例の微粉体の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が本変形例の微粉体の5wt%以下であることがより好ましく、本変形例の微粉体の3wt%以下であることが更に好ましい。
【0076】
上述のとおり、本変形例における微粉体としての乾燥抽出物は、精製工程を経ずに製造された微粉体である。より具体的には、該微粉体は、例えば、非特許文献2において開示されている方法のように、該微粉体を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用してバレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われずに得られた微粉体である。従って、精製されていない微粉体であっても、例えば、抗酸化作用、抗疲労作用、活性酸素消去作用、自律神経調節作用、アルコール代謝促進作用、血糖値上昇抑制、尿酸値低下作用、鉄吸収促進、眼精疲労低減、創傷治癒促進作用、金属キレート作用、及び乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下の抑制作用の群から選択される少なくとも1種を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、豊富な量のバレニンを含有していることは、特筆に値する。
【0077】
<第2の実施形態>
本実施形態の抽出物及びその製造方法においては、
図5に示す各処理工程が、該抽出物の製造方法における全工程又はその一部となり得る。従って、本実施形態の抽出物の製造方法は、必ずしも
図5に示す各処理工程の全てを含むことを要しない。また、第1の実施形態及びその各変形例と重複する説明は省略され得る。
【0078】
具体的には、
図5に示すように、第1の実施形態及びその各変形例に示す、冷凍工程から乾燥工程(ステップS1~S6)まで、冷凍工程から粉末化工程までの各工程(ステップS1~S7)、又は冷凍工程から図示しない分級工程までの各工程(ステップS1~S8)が行われた後、あるいは、冷凍工程から分離工程(ステップS1~S4)が行われた後、本実施形態の精製工程(ステップS9)が行われる。
【0079】
本実施形態の精製工程(ステップS9)においては、非特許文献2において開示されている方法のように、乾燥抽出物又は粗粉体としての乾燥抽出物を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用して、バレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われる。
【0080】
なお、本実施形態の精製工程(ステップS9)が行われることによって得られる抽出物全体の質量に対するイミダゾールジペプチドの含有量及びバレニンの含有量の上限は特に限定されないため、それぞれの含有量の上限は、いわば100wt%未満といえる。敢えて上限値を言及すれば、より狭義には、該イミダゾールジペプチドの含有量及び該バレニンの含有量は99wt%以下であり、更に狭義には、95wt%以下である。また、この上限値の数値範囲については他の実施形態にも適用され得る。
【0081】
<その他の実施形態>
ところで、第1の実施形態及びその各変形例、並びに第2の実施形態においては、アカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40,骨,尾部90)の特徴を知るために、個別に抽出工程(ステップS3)及び分離工程(ステップS4)、並びに必要に応じた濃縮工程(ステップS5)、乾燥工程(ステップS6)、粉末化工程(ステップS7)、分級工程(ステップS8)、又は精製工程(ステップS9)が行われているが、本実施形態はそのような態様に限定されない。
【0082】
例えば、本発明者が分析したところ、内臓部30と皮部40は、カルノシンを多く含むためにイミダゾールジペプチドの量が多いことが確認された。従って、内臓部30と皮部40とを混合し得る状態となるように、切断(解体)工程(ステップS2)以降の各工程が実施されることも採用し得る一態様である。また、バレニンを含むイミダゾールジペプチドを豊富に含有するという、顕著な特徴を有する各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40,骨,尾部90)の全てを混合し得る状態となるように、切断(解体)工程(ステップS2)以降の各工程が実施されることも採用し得る一態様である。
【0083】
また、第1の実施形態及びその各変形例、並びに第2の実施形態においては、はえ縄漁船によって漁獲されたアカマンボウを、速やかに(例えば、60分以内)に漁船上において低温凍結処理(例えば、-65℃以上-15℃以下)を施したが、アカマンボウの漁獲方法、及びアカマンボウの漁船における保存方法は前述の例に限定されない。但し、イミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量を自己消化によって減少させる可能性を低減する観点から言えば、漁獲されたアカマンボウを、速やかに(例えば、60分以内)に漁船上において低温凍結処理(例えば、-65℃以上-15℃以下)することは、好適な一態様である。
【0084】
また、第1の実施形態においては、細片化されたアカマンボウ100の各部位が、該容器内の約60℃以上約100℃以下の抽出媒体(例えば、水)中に浸漬される抽出工程(ステップS3)が行われるが、第1の実施形態はそのような抽出工程に限定されない。例えば、次の(a)~(c)に示すような抽出工程(ステップS3)を採用することも、第1の実施形態の好適な変形例である。
(a)温度が20℃以上、30℃以上、40℃以上、又は50℃以上の抽出媒体(例えば、水)中に、細片化されたアカマンボウ100の各部位が浸漬される抽出工程
(b)抽出工程の該容器内の圧力が、通常採用される約1atm(約0.101MPa)とは異なる圧力(例えば、約0.001MPa以上約100MPa以下(但し、約0.101MPaを除く))である抽出工程
(c)抽出媒体が、生理学的に許容可能な液状媒体(例えば、有機液状媒体)、及び/又は他の生理学的に許容可能な液状媒体の例としての塩水である抽出工程
ここで、前述の「生理学的に許容可能な液状媒体」は、アルコール(代表的には、高純度のエタノール(例えば、99.5%、又は100%))に限定されない。例えば、ビール、ワイン、及び日本酒を含む醸造酒、ウィスキー、焼酎、及びウォッカを含む蒸留酒、並びに、カシス及びカンパリを含む混成酒を含み得る。なお、水が「生理学的に許容可能な液状媒体」に含まれることは言うまでもない。
【0085】
なお、上述の第1の実施形態の変形例として説明した各抽出工程(ステップS3)のうち、(a)の抽出工程が採用された場合は、より低温による抽出が実現されるため、省エネルギーに寄与し得る。本発明者が調べた結果、通常採用される約1atm(約0.101MPa)下において、該抽出媒体の温度が20℃であっても、第1の実施形態の一例としての温度(約60℃)において抽出できる量を1としたときに約0.77を抽出し得るという知見を得ている。
【0086】
従って、20℃以上の抽出媒体(例えば、水)を採用することにより、60℃の抽出媒体(例えば、水)の場合と比較しても遜色ない程度のバレニンの量(75%以上)を得ることが可能であることを確認することができた。なお、20℃という、抽出温度としてはかなり低温の抽出媒体であっても、上述のとおり相当量のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)を抽出し得ることは、特筆に値する。
【0087】
また、上述の第1の実施形態の変形例として説明した各抽出工程(ステップS3)のうち、(b)の抽出工程が採用された場合は、例えば、通常採用される圧力よりも高い圧力によって抽出される場合は、より低温の抽出媒体を用いて抽出工程を実現し得る。
【0088】
また、上述の第1の実施形態の変形例として説明した各抽出工程(ステップS3)のうち、(c)の抽出工程が採用された場合は、抽出物の風味を向上させることに寄与し得る。例えば、エタノール(純度99.5%)を用いて上述の(c)の抽出工程が行われた場合のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量は、水を抽出媒体とした場合のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量の約70%であることが確認されている。従って、抽出媒体がアルコールである場合は、抽出媒体が水である場合よりも抽出量が減少するが、水の場合の抽出量の約70%であっても、相当量のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)が抽出されることは特筆に値する。従って、水以外の抽出媒体が採用された場合であっても、第1の実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0089】
また、第1の実施形態及びその各変形例(1)~(3)、第2の実施形態、並びにその他の実施形態においては、アカマンボウ100の骨、背びれ又は尾ひれ90が生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物(代表的には水溶性抽出物であるが、水溶性抽出物に限定されない。また、濃縮抽出物及び乾燥抽出物を含む。以下、同じ。)に含まれていないが、該抽出物は、そのような態様に限定されない。例えば、該抽出物の製造工程をより簡便化するために、
図2におけるC
3に示される切断を行わずに、その後の各工程が行われることも、採用し得る一態様である。従って、アカマンボウ100の骨、背びれ及び/又は尾ひれ90が、第1の実施形態及びその各変形例(1)~(3)、並びに第2の実施形態の抽出物の構成成分の一つとして含まれることも採用され得る。
【0090】
一方、表1に示すように、血合肉20bが含有するイミダゾールジペプチド又はバレニンの量のバラつきは大きい。従って、より安定した量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を得る観点から言えば、上述のように各部位が混合される場合には、混合される血合肉20bの量が5wt%未満であることが好ましい。また、別の観点から言えば、第1の実施形態及びその各変形例(1)~(3)、並びに第2の実施形態の該抽出物について、血合肉から形成された、アカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の割合が5wt%未満であることが、より安定した量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する該抽出物の製造を実現し得る。
【0091】
さらに、第1の実施形態及びその各変形例(1)~(3)、第2の実施形態、並びにその他の実施形態において製造された、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を構成成分の少なくとも一部として含む、錠剤、カプセル剤、散剤(顆粒剤を含む)、丸剤、シロップ剤、液剤、ドリンク剤、トローチ剤、ドロップ、水飴等(以下、総称して「製剤」という。)を製造することは、採用し得る好適な一態様である。該製剤は、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該製剤を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用が奏され得る。なお、該製剤は、公知の製造方法によって製造され得る。また、該製剤は、成形性の向上又は経口投与するときの容易性の向上等のため、適宜、賦形剤、結合剤、崩壊剤、又は湿潤剤、あるいは蜂蜜又は米粉等を混合することによって形成され得る。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の1つの生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法、並びに剤形は、バレニンを豊富に含み得る魚由来の該抽出物及びその製造方法であるため、食品業及び水産業に限らず、医薬、健康、医療、美容に関連する各産業においても極めて有用である。
【符号の説明】
【0093】
10 頭部
20 筋肉
20a 普通筋
20b 血合肉
21,22,23,24 普通筋の魚肉の領域
30 内臓部
40 皮部
90 尾ひれ
100 アカマンボウ