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特許7471064クリーニングシート及びそれを用いたクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】クリーニングシート及びそれを用いたクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 1/00 20240101AFI20240412BHJP
   G11B 5/41 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B08B1/00
G11B5/41 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019160973
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021037474
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基文
(72)【発明者】
【氏名】永嶌 匠
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-143781(JP,A)
【文献】特開2014-079878(JP,A)
【文献】特開昭63-225910(JP,A)
【文献】特開2011-212759(JP,A)
【文献】特開2015-100855(JP,A)
【文献】特開2013-208670(JP,A)
【文献】特開2007-098509(JP,A)
【文献】特開平10-283436(JP,A)
【文献】特開2012-056032(JP,A)
【文献】特開2011-212779(JP,A)
【文献】特開平09-057634(JP,A)
【文献】特開2013-132741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 1/00-17/06
G11B 5/41
G06K13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の物質が挿入される挿入口と前記挿入口の内部に前記シート状の物質を配置する配置部とを備える被クリーニング物を清掃するために用いられるクリーニングシートであって、
前記クリーニングシートは、該クリーニングシートを前記挿入口から挿入して、前記配置部において前記クリーニングシートと接触する部分を清掃するための第一クリーニング面を有する発泡体からなる第一樹脂層を備え、
前記第一樹脂層は、前記発泡体中に厚み方向に伸展する複数の気泡を有し、かつ、該複数の気泡のうち隣接する気泡間の少なくとも一部が互いに連結した連結気泡であり、
前記第一クリーニング面において、前記第一樹脂層が有する前記複数の気泡の一部から形成される開口を備え、
前記第一クリーニング面における開口の開口率が22.3~60%である、クリーニングシート。
【請求項2】
前記第一樹脂層が有する前記連結気泡の前記第一クリーニング面に平行な気泡径の最大径が、前記第一樹脂層の内部に存在する、
請求項1に記載のクリーニングシート。
【請求項3】
前記第一樹脂層の前記第一クリーニング面とは反対面側に配される基材をさらに備える、
請求項1又は2に記載のクリーニングシート。
【請求項4】
前記第一クリーニング面における開口の平均開口径が5.0~300μmである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のクリーニングシート。
【請求項5】
前記第一樹脂層の前記第一クリーニング面とは反対面側に、被クリーニング物を清掃するための第二クリーニング面を有する発泡体からなる第二樹脂層とを備え、
前記第二樹脂層は、前記発泡体中に複数の気泡を有し、かつ、該複数の気泡の少なくとも一部が互いに連結した連結気泡であり、
前記第二クリーニング面において、前記第二樹脂層が有する前記連結気泡の一部から形成される開口が形成されている、
請求項1~のいずれか一項に記載のクリーニングシート。
【請求項6】
前記第一樹脂層の一面側と前記第二樹脂層の一面側にそれぞれ配される基材をさらに備え、
前記基材は、前記第一樹脂層の前記第一クリーニング面の反対面側に、かつ前記第二樹脂層の第二クリーニング面の反対側に配されている、
請求項に記載のクリーニングシート。
【請求項7】
前記第二樹脂層が有する前記連結気泡の前記第二クリーニング面に平行な気泡径の最大径が、前記第二樹脂層の内部に存在する、
請求項又はに記載のクリーニングシート。
【請求項8】
前記第一樹脂層及び第二樹脂層がポリウレタン樹脂を含む、
請求項のいずれか一項に記載のクリーニングシート。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のクリーニングシートを用いて被クリーニング物を清掃する工程を含むクリーニング方法であって、
前記クリーニングシートは、第一クリーニング面を有する発泡体からなる第一樹脂層を備え、
前記被クリーニング物は、シート状の物質が挿入される挿入口と前記挿入口の内部に前記シート状の物質を配置する配置部とを備え、
前記清掃する工程において、前記クリーニングシートを前記挿入口から挿入して、前記配置部における前記クリーニングシートの前記第一クリーニング面と接触する部分を清掃する、クリーニング方法。
【請求項10】
前記被クリーニング物が接触によりカード情報を読み取る読取部を備える、請求項に記載のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーニングシート及びそれを用いたクリーニング方法に関し、特に接触型ICカードとの間でデータ通信を行うICカードリーダの接触端子をクリーニングするためのクリーニングシート及びそれを用いたクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICカードは、半導体記憶回路や制御用マイクロコンピュータを板状にモールドした情報記憶手段であり、その表面にはICカードリーダライタに接続するための複数の端子を備えている。金融分野におけるキャッシュカードやクレジットカード、自動料金収受用車載機器におけるETCカードには、主に接触型のICカードが用いられている。接触型のICカードは、それをカードリーダライタに差し込むことで、両者の金属同士が接触することにより電力が供給され、ICカード内の情報を読み書きすることができる。
【0003】
ICカードは、それを人が直接的に携帯や使用するため、人の手垢(皮脂汚れ)に由来する油汚れ等及びそれらに貼着した塵、埃等により汚染を受けている。ICカードが汚染を受けると、ICカードを介して様々な種類のカード読取装置に汚染物が付着する。また、例えば自動料金収受用車載機器におけるETCカード読取装置においては、車両の排気ガスに由来するススや埃が当該ETCカード読取装置を直接汚染する。このように、カード読取装置が汚染されると、そのカード読取部において、ICカード内の情報を読み書きするための信号の交信に支障をきたす場合があるため、カード読取装置を清掃する必要がある。カード読取装置を清掃する際、装置を分解して清掃することは煩雑なため、クリーニングカードを用いて清掃する手法がよく用いられている。
【0004】
例えば特許文献1には、カード読取部に付着した汚染物を容易かつ素早く削り落とし、かつ、拭き取って清掃するクリーニングカードを提供することを目的として、基板の片面または両面上に研磨粒子が塗布された不織布を貼り合わせて成る、カード読取装置の読取部を清掃するクリーニングカードであって、そのクリーニングカードの大きさおよび厚さがカード読取装置に使用するカードの大きさおよび厚さとほぼ同じで、かつそのクリーニングカードの少なくとも一部が不透明となる、ことを特徴とするカード読取装置の読取部を清掃するカードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平5-73707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される従来のクリーニングカードを用いてカード読取装置を清掃すると、不織布が密着性に劣り、表面の凹凸の程度が大きいため、装置内で汚染されている箇所に対する密着性が十分ではなく、拭き取りにムラが生じ、クリーニング性に劣る。また、クリーニング性に劣るため、清掃操作を繰り返すと、一度不織布に吸着した汚染物が再付着することや、不織布自体が脱落することの二次的な汚染が生じる場合もある。さらに、クリーニングカードに含まれる研磨粒子が、カード読取部を損傷してしまい、ICカード内の情報を読み書きするための信号の交信に支障をきたす場合がある。加えて、クリーニング性を向上させるためにクリーニング液を不織布に対して滴下して用いるため、被クリーニング物が電子機器である場合にはクリーニングの際にその電源を切る必要があり、繁雑である。またさらに、不織布は、表面の形状などが比較的不均一であるため、吸着した汚染物の一部を容易に脱落する一方、吸着した汚染物の他の一部を強固に吸着するため、不織布を洗浄しても繊維に浸み込んだ皮脂汚れ等を除去することは難しいうえ、洗浄により表面の繊維に脱落やほつれが生じ繊維がよれるため汚染物を除去するのに適した面形状が減少・消失してしまうため再使用することは難しい。
【0007】
そこで、本発明は、カード読取装置に対するクリーニング性に優れるクリーニングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、被クリーニング物を清掃するための第一クリーニング面を有する発泡体からなる第一樹脂層を備え、第一樹脂層は、発泡体中に厚み方向に伸展する複数の気泡を有し、かつ、該複数の気泡のうち隣接する気泡間の少なくとも一部が互いに連結した連結気泡であり、第一クリーニング面において、第一樹脂層が有する複数の気泡の一部から形成される開口を備えている、クリーニングシートを用いることで、カード読取装置に対するクリーニング性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
被クリーニング物を清掃するための第一クリーニング面を有する発泡体からなる第一樹脂層を備え、
前記第一樹脂層は、前記発泡体中に厚み方向に伸展する複数の気泡を有し、かつ、該複数の気泡のうち隣接する気泡間の少なくとも一部が互いに連結した連結気泡であり、
前記第一クリーニング面において、前記第一樹脂層が有する前記複数の気泡の一部から形成される開口を備えている、クリーニングシート。
〔2〕
前記第一樹脂層が有する前記連結気泡の前記第一クリーニング面に平行な気泡径の最大径が、前記第一樹脂層の内部に存在する、
〔1〕に記載のクリーニングシート。
〔3〕
前記第一樹脂層の前記第一クリーニング面とは反対面側に配される基材をさらに備える、
〔1〕又は〔2〕に記載のクリーニングシート。
〔4〕
第一クリーニング面における開口の平均開口径が5.0~300μmである、
〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のクリーニングシート。
〔5〕
第一クリーニング面における開口の開口率が10~60%である、
〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のクリーニングシート。
〔6〕
前記第一樹脂層の前記第一クリーニング面とは反対面側に、被クリーニング物を清掃するための第二クリーニング面を有する発泡体からなる第二樹脂層とを備え、
前記第二樹脂層は、前記発泡体中に複数の気泡を有し、かつ、該複数の気泡の少なくとも一部が互いに連結した連結気泡であり、
前記第二クリーニング面において、前記第二樹脂層が有する前記連結気泡の一部から形成される開口が形成されている、
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のクリーニングシート。
〔7〕
前記第一樹脂層の一面側と前記第二樹脂層の一面側にそれぞれ配される基材をさらに備え、
前記基材は、前記第一樹脂層の前記第一クリーニング面の反対面側に、かつ前記第二樹脂層の第二クリーニング面の反対側に配されている、
〔6〕に記載のクリーニングシート。
〔8〕
前記第二樹脂層が有する前記連結気泡の前記第二クリーニング面に平行な気泡径の最大径が、前記第二樹脂層の内部に存在する、
〔6〕又は〔7〕に記載のクリーニングシート。
〔9〕
前記第一樹脂層及び第二樹脂層がポリウレタン樹脂を含む、
〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のクリーニングシート。
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のクリーニングシートを用いて被クリーニング物を清掃する工程を含む、クリーニング方法。
〔11〕
前記被クリーニング物が接触によりカード情報を読み取る読取部を備える、〔10〕に記載のクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るクリーニングシートは、カード読取装置に対するクリーニング性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のクリーニングシートの一部について、連結気泡の気泡径がクリーニング面より内側に最大径を有する場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
図2】本実施形態のクリーニングシートの一部について、連結気泡の気泡径がクリーニング面からその反対面に向けて小さくなる場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
図3】本実施形態のクリーニングシートの一部について、クリーニングシートが第一樹脂層、第一粘着層、基材、第二粘着層、第二樹脂層をこの順に備える場合の一例を模式的に示す部分断面図である。
図4】実施例1~3及び比較例1、2のクリーニングシート片について、横軸に変形量(mm)、縦軸に圧力(g/cm2)で、それぞれの測定結果を示すグラフである。
図5】実施例1のクリーニングシートの断面を、電子顕微鏡を用いて50倍で観察した写真である。
図6】実施例1のクリーニングシート樹脂層の断面を、電子顕微鏡を用いて500倍で観察した写真である。
図7】実施例1のクリーニングシートのクリーニング面を、電子顕微鏡を用いて50倍で観察した写真である。
図8】比較例1のクリーニングシートの断面を、電子顕微鏡を用いて50倍で観察した写真である。
図9】比較例1のクリーニングシートの断面を、電子顕微鏡を用いて500倍で観察した写真である。
図10】比較例1のクリーニングシートのクリーニング面を、電子顕微鏡を用いて50倍で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
本実施形態のクリーニングシートは、被クリーニング物を清掃するための第一クリーニング面を有する発泡体からなる第一樹脂層を備える。このようなクリーニングシートは、例えば、基材を粘着層(以下、「接着層」ともいう。)により樹脂層のクリーニング面とは反対側に貼り付けることにより作製することができる。
また、第一樹脂層は、発泡体中に複数の気泡を有し、かつ、該複数の気泡の少なくとも一部が互いに連結した連結気泡である。さらに、第一クリーニング面において、連結気泡の一部から形成される開口が形成されている。
【0014】
このようなクリーニングシートが、カード読取装置に対するクリーニング性に優れる要因は次のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。従来の不織布からなるクリーニングカードを用いてカード読取装置を清掃すると、不織布が装置内の形状に対する追従性が十分ではなく、汚染物に対する密着性に劣り、クリーニング性に劣る。また、クリーニング性に劣るため、繰り返して清掃操作を繰り返すと、一度不織布が吸着した汚染物が再付着することや、不織布自体が脱落することの二次的な汚染が生じる場合もある。さらに、クリーニングカードに研磨粒子が含まれる場合には、カード読取部を損傷してしまい、ICカード内の情報を読み書きするための信号の交信に支障をきたすおそれがある。加えて、クリーニング性を向上させるためにクリーニング液を不織布に対して滴下して用いるため、被クリーニング物が電子機器である場合にはクリーニングの際にその電源を切る必要があり、繁雑である。またさらに、不織布は、表面の形状などが比較的不均一であるため、吸着した汚染物の一部を容易に脱落する一方、吸着した汚染物の他の一部を強固に吸着するため、不織布を洗浄してもそれを再使用することは難しい。一方、本実施形態のクリーニングシートは、被クリーニング物を清掃するための第一クリーニング面を有する発泡体中に厚み方向に伸展する複数の気泡を備えることにより、樹脂の素材からなる第一クリーニング面は被クリーニング物の形状に追従しやすく、装置内で汚染されている箇所に密着する結果、クリーニング性に優れる。また、本実施形態のクリーニングシートは、発泡体からなる樹脂の素材からなる第一クリーニング面側での圧縮変形量を発泡体中の複数の気泡により比較的大きくすることができるため、被クリーニング物の形状により追従しやすく、様々なサイズの汚染物を除去することができる。
さらに、本実施形態のクリーニングシートは、従来の不織布を用いた場合のようにクリーニング液を用いる必要がない。
加えて、本実施形態のクリーニングシートは、第一クリーニング面において、第一樹脂層が有する複数の気泡の一部から形成される開口を備えていることにより、被クリーニング物から除去された汚染物を、開口を介して連結気泡の内部に保持することができるため、一度除去された汚染物が連結した気泡の間に介在しうるため脱落しにくい。
以上により、本実施形態のクリーニングシートはカード読取装置に対するクリーニング性に優れる。さらに、第一樹脂層が有する連結気泡の第一クリーニング面に平行な気泡径の最大径が、第一樹脂層の内部に存在するように配することで、一度気泡内部に取り込んだ汚染物が再度放出されるのを抑えることができる。
【0015】
図1は、本実施形態のクリーニングシートの一部について、連結気泡の気泡径がクリーニング面より内側に最大径を有する場合の一例を模式的に示す部分断面図である。クリーニングシート1Aは、ポリウレタン製樹脂層2(以下、単に「樹脂層2」という。)を備えている。樹脂層2は被クリーニング物を清掃するためのクリーニング面Pを有している。クリーニング面Pは、発泡体の気泡が露出して開口部となるように、また樹脂層2の厚さ(図1の縦方向の長さ)がほぼ一様となるように、後述する樹脂層2を準備する工程での表面(上面)に対して、バフ処理又はスライス処理が施され平坦化されている。他方、クリーニング面Pの背面側はバフ処理又はスライス処理が施されていない。ただし、バフ処理又はスライス処理が施されていてもよい。また、クリーニングシート1Aは、クリーニング面Pの背面側(バフ処理されていない面側)と、基材8の片面とが粘着層である粘着剤7、又は接着層である接着剤7を介して貼り合わされている。
【0016】
図2は、本実施形態のクリーニングシートの一部について、連結気泡の気泡径がクリーニング面からその反対面に向けて小さくなる場合の一例を模式的に示す部分断面図である。クリーニングシート1Bは、図1の構成と同様に、被クリーニング物を清掃するためのクリーニング面Pを有する樹脂層2を備えている。ただし、後述する樹脂層2を準備する工程での裏面(下面)に対して、バフ処理又はスライス処理を施して、その面をクリーニング面Pとしている。また、クリーニングシート1Bは、クリーニング面Pの背面側(バフ処理されていない面側)と、基材8の片面とが粘着層である粘着剤7、又は接着層である接着剤7を介して貼り合わされている。
【0017】
図3は、本実施形態のクリーニングシートの一部について、クリーニングシートが第一樹脂層、第一粘着層、基材、第二粘着層、第二樹脂層の順に備える場合の一例を模式的に示す部分断面図である。クリーニングシート1C(以下、クリーニングシート1A、1B、1Cをまとめて「クリーニングシート1」ともいう。)は、図1の構成と同様に、被クリーニング物を清掃するためのクリーニング面P1を有する第一樹脂層2aと、第一粘着層である接着剤7aと、基材8a(図3中では基材8と区別しない)とを備えている。
クリーニングシート1Cは、基材8aが接着剤7aを介して樹脂層2aと貼り合わされている面とは反対側に、第一樹脂層2a及び第一粘着層である接着剤7aと同様の第二樹脂層2b(以下、第一樹脂層2a及び第二樹脂層2bをまとめて「樹脂層2」ともいう。)と、第二粘着層である接着剤7b(以下、接着剤7a、7bをまとめて「接着剤7」ともいう。)とを備えている。ここで、基材8b(図3中では基材8と区別しない)は、接着剤7bを介して樹脂層2bと貼り合わされている。また、樹脂層2bは、樹脂層2aと同様にクリーニング面P2(以下、クリーニング面P1、P2をまとめて「クリーニング面P」ともいう。)を備えている。
図3における基材8は、便宜上、基材8aと基材8bとを同一の基材として示しているが、基材8aと基材8bとは同一であってもよく、別々の基材であってもよい。別々の基材である場合には、互いに接着剤や両面テープで接着すればよい。なお、両面テープで接着する場合には、両面テープは、基材の両面に接着剤を配するものであっても、基材を有しないノンサポートタイプのものであってもよい。
【0018】
以下、図1~3に示すクリーニングシートについて、特に区別しない場合には包括して、クリーニングシートを説明する。
【0019】
樹脂層2は、層を構成する樹脂の発泡体からなり、その厚さ方向に沿って底部が丸みを帯びた壷状の気泡3が形成されている。樹脂層2の気泡3の間の樹脂部には、図示しない気泡3よりもサイズの小さい微小気泡が形成されている。気泡3を形成する樹脂部分に存在する微小気泡は、立体網目状につながっている、気泡同士が連結した連結気泡である。連結気泡は気泡3同士が樹脂壁の無い状態で連結している場合と、樹脂壁に存在する微小気泡によって連結している場合の両者を示す。樹脂層2が連結気泡を有することにより、クリーニング面Pの開口から取り込んだ微小異物を立体網目状の連結気泡内に介在可能な状態で貯留することができ、一度取り込んだ微小異物を外部に放出させにくい。ただし、樹脂層2に含まれる気泡は、そのほとんどが連結気泡であるが、一部において独立した気泡であってもよい。クリーニング面Pはバフ処理等により現れた面であるため、そのクリーニング面Pには気泡3の開口が形成されている。なお、図1及び図3において、バフ処理又はスライス処理が施される前の樹脂層2は、クリーニング面P側に、緻密な微多孔が形成されたスキン層を有する。ただし、図2の樹脂層2においては、クリーニング面P側にスキン層は有しない。
【0020】
樹脂層2の厚さは特に限定されないが、例えば、100~1500μmであってもよく、200~500μmであってもよい。なお、樹脂層2の厚さは、JIS K6550:1994に記載された測定方法に準拠して測定される。つまり、樹脂層2の厚み方向に初荷重として1cm2当たり100gの荷重をかけた(負荷した)ときの厚さである。
【0021】
本実施形態の樹脂層2における、クリーニング面Pに通じた開口の平均開口径は、5.0~300μmであると好ましく、10~150μmであるとより好ましい。平均開口径が5.0μm以上であることにより、汚染物質の捕集能力を高めることに起因して、クリーニング性により優れる。また、平均開口径が300μm以下であることにより、クリーニング面Pの密着性を維持できることに起因して、クリーニング性により優れる。
【0022】
開口の開口率は、10~60%であると好ましい。開口率が10%以上であることにより、汚染物質の捕集能力を高めることに起因して、クリーニング性により優れる。開口の開口率が60%以下であることにより、クリーニング面Pの密着性を維持できることに起因して、クリーニング性により優れる。
【0023】
樹脂層2の平均開口径及び開口率は、下記のようにして測定される。すなわち、まず、樹脂層2のクリーニング面Pの任意に選択した1.0mm×1.4mmの矩形領域を、マイクロスコープ(KEYENCE社製の商品名「VH-6300」)で175倍に拡大して観察し、その画像を得る。次いで、得られた画像を画像解析ソフト(例えば、(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3))により二値化処理することで、開口とそれ以外の部分とを区別する。そして、区別した各々の開口の面積から円相当径、すなわち開口が真円であると仮定して開口径を算出する。そして、各々の開口の開口径を相加平均して平均開口径(μm)とする。また、上記の開口とそれ以外の樹脂部分との合計面積に対する上記開孔の面積を、開口率(%)とする。
【0024】
樹脂層2は、樹脂等のマトリックスを構成する材料(以下、「マトリックス材料」という。)中に複数の気泡3を有するものであり、所謂湿式成膜法により形成されたものである。ただし、本発明のクリーニングシートにおける樹脂層は、クリーニング面Pにおいて気泡による開口が形成されている限り、乾式成型法あるいはその他の成型法により形成されたものであってもよい。
【0025】
樹脂層2を構成するマトリックス材料は、例えばポリウレタン樹脂を最も多く含む組成であり、ここで、樹脂層2は、そのマトリックス材料の全体量に対して、ポリウレタン樹脂を80~100質量%含むものであってもよい。樹脂層2は、その全体量に対して、ポリウレタン樹脂をより好ましくは85~100質量%含み、更に好ましくは90~100質量%含み、特に好ましくは90~95質量%含む。
【0026】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、本発明の目的をより有効且つ確実に奏する観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0027】
ポリウレタン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、クリスボン(DIC(株)社製商品名)、サンプレン(三洋化成工業(株)社製商品名)、レザミン(大日本精化工業(株)社製商品名)が挙げられる。ポリウレタン樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
樹脂層2は、ポリウレタン樹脂以外に、ポリサルホン樹脂及び/又はポリイミド樹脂等の他の樹脂を含んでもよい。ポリサルホン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、ユーデル(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)社製商品名)が挙げられる。ポリイミド樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、オーラム(三井化学(株)社製商品名)が挙げられる。
【0029】
樹脂層2は、樹脂以外にも、本発明の課題解決を阻害しない範囲で、樹脂層に通常用いられる材料、例えば、カーボンブラック等の顔料、ラウリル硫酸ナトリウム等の親水性添加剤、及びポリプロピレングリコール等の疎水性添加剤、撥水剤の1種又は2種以上を含んでもよい。更には、樹脂層2には、樹脂層2の製造過程において用いられた溶媒等の各種の材料が、本発明の課題解決を阻害しない範囲で残存していてもよい。
【0030】
樹脂層2における顔料の含有量は、樹脂層2を構成する全固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上15質量%以下である。顔料の含有量が上記範囲内にあることにより、樹脂層2の気泡が縦長形状に整いやすくクリーニング面の密着性をより向上できるとともに、樹脂層2の剛性を向上させることができるので、クリーニング性と耐久性を良化できる傾向にある。
【0031】
樹脂層2における疎水性添加剤の含有量は、樹脂層2を構成する全固形分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。疎水性添加剤の含有量が上記範囲内にあることにより、樹脂層内部の気泡形成を促進させることやポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させることができ、クリーニングシートの物性安定化に寄与できる傾向にある。
【0032】
樹脂層2における親水性添加剤の含有量は、樹脂層2を構成する全固形分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下である。親水性添加剤の含有量が上記範囲内にあることにより、樹脂層内部の気泡形成を促進させることやポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させることができ、クリーニングシートの物性安定化に寄与できる傾向にある。
【0033】
樹脂層2のクリーニング面Pには気泡3に由来する開口とは区別される気泡径が10μm以下の厚み方向に伸展しない微細気孔が存在していてもよい。微細気孔は、例えば、樹脂層2を形成する樹脂の配合時に、添加剤を添加することによりその大きさを調整することができる。
【0034】
接着剤7は、樹脂層やプラスチック材料を接合するために通常用いられる両面テープ又は粘着剤を含むものであってもよい。この際用いられる接着剤や両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の接着剤や両面テープの中から任意に選択して使用することができる。
【0035】
基材8は、樹脂層2を支持するためのものであり、特に限定されず、樹脂層やプラスチック材料を支持するために通常用いられる基材であってもよく、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)フィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0036】
クリーニングシートの厚さは、好ましくは300~1000μmであり、より好ましくは400~900μmである。厚さが上記範囲内にあるため、自動改札機、ATM、自動販売機、各種カードリーダライタ等の機器内部に対して密着性が向上し、より効果的にクリーニングができる。
【0037】
クリーニングシートの密度は0.5~1.5g/cm3であることが好ましく、0.6~1.2g/cm3であることがより好ましく、0.7~1.0g/cm3であることがさらに好ましい。密度が上記範囲内にあると、剛性が保たれるため、繰り返し使用することができる。
【0038】
クリーニングシートの圧縮率は、3~20%であることが好ましく、5~18%であることがより好ましく、6~17%であることがさらに好ましい。圧縮率が上記範囲内にあると、クリーニング面の形状に追従するように圧縮変形することができ、クリーニング面との密着性が向上するため、クリーニング性を向上させることができる。
【0039】
クリーニングシートの圧縮弾性率は、80~100%が好ましく、85~99%がより好ましく、90~98%がさらに好ましい。圧縮弾性率が上記範囲内にあると、圧縮され密着したクリーニングシートがクリーニング面を押し戻す応力が高くなるため、クリーニング性を向上させることができる。
【0040】
クリーニングシートのショアA硬度は50~95°であることが好ましく、60~90°であることがより好ましく、70~85°であることがさらに好ましい。ショアA硬度が上記範囲内にあると、クリーニング面は圧縮性、圧縮弾性率を有し柔軟性を有するものの、シート全体として硬度が高いため適度な剛性を有し、クリーニングをする装置内部の複雑な搬送経路に対しても折れ曲ることなく追従することができ、使用後、洗浄し繰り返し使用が可能な耐久性を有することができる。
【0041】
クリーニングシートを使用後、洗浄により再使用することについて、従来の不織布からなるクリーニングシートでは、洗浄するとクリーニング面の繊維に脱落やほつれが生じ、繊維が偏ってしまい、埃や塵を除去するための凹凸が減少・消失してしまう。一方、本願のクリーニングシートは、洗浄しても気泡構造が崩れず、樹脂表面の微粘着性は樹脂の性質に由来するため、洗浄・乾燥しても微粘着性が失われることはなく、クリーニング面に付着した埃や塵を洗浄・除去し、乾燥させることで再利用が可能である。
【0042】
次に、本実施形態のクリーニングシートの製造方法の一例について説明する。ここでは、樹脂層2を湿式成膜法で作製する場合を説明するが、本発明のクリーニングシートにおける樹脂層の作製方法は、これに限定されない。この製造方法では、樹脂層2を準備する工程と、樹脂層2に接着剤7を用いて基材8を貼り合わせてクリーニングシート1を得る工程とを有する。
【0043】
樹脂層2を準備する工程は、更に、樹脂と溶媒と、必要に応じて顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤とを含む樹脂溶液を、撹拌翼を配した撹拌装置を用いて調製する工程(樹脂溶液調製工程)と、樹脂溶液から樹脂層2を成形する工程(成形工程)とを有するものである。
【0044】
樹脂層2を成形する工程は、また更に、樹脂溶液を成膜用基材の表面に塗布する工程(塗布工程)と、樹脂溶液中の樹脂を凝固再生して、前駆体シートを形成する工程(凝固再生工程)と、前駆体シートを洗浄・乾燥して樹脂層2を得る工程(洗浄・乾燥工程)と、樹脂層2をバフ処理又はスライス処理により研削及び/又は一部除去する工程(研削・除去工程)とを有するものである。以下、各工程について説明する。
【0045】
まず、樹脂溶液調製工程では、上述のポリウレタン樹脂等の樹脂と、その樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて樹脂層2に含まれ得る顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤やその他の材料(例えば、孔形成剤、撥水剤等)とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という。)及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。樹脂溶液の全体量に対する樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば10~50質量%の範囲であってもよく、15~35質量%の範囲であってもよい。
【0046】
次に、塗布工程では、樹脂溶液を、好ましくは常温下で、ナイフコーター等の塗布装置を用いて帯状の成膜用基材の表面に塗布して塗膜を形成する。このときに塗布する樹脂溶液の厚さは、最終的に得られる樹脂層2の厚さが所望の厚さになるように、適宜調整すればよい。成膜用基材の材質としては、例えば、PETフィルム等の樹脂フィルム、布帛及び不織布が挙げられる。これらの中では、厚みが薄くともクリーニングシート全体の剛性を高めることのできるPETフィルム等の樹脂フィルムが好ましい。
【0047】
次いで、凝固再生工程では、成膜用基材に塗布された樹脂溶液の塗膜を、樹脂に対する貧溶媒(例えばポリウレタン樹脂の場合は水)を主成分とする凝固液中に連続的に案内する。凝固液には、樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の溶媒等の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されず、例えば、15~65℃であってもよい。凝固液中では、まず、樹脂溶液の塗膜と凝固液との界面に皮膜(スキン層)が形成され、皮膜の直近の樹脂中に無数の緻密な微多孔が形成される。その後、樹脂溶液に含まれる溶媒の凝固液中への拡散と、樹脂中への貧溶媒の浸入との協調現象により、好ましくは連続気泡構造を有する樹脂の再生が進行する。このとき、成膜用基材が液を浸透し難いもの(例えばPETフィルム)であると、凝固液がその基材に浸透しないため、樹脂溶液中の溶媒と貧溶媒との置換がスキン層付近で優先的に生じ、スキン層付近よりもその内側にある領域の方に、より大きな空孔が形成される傾向にある。こうして成膜用基材上に前駆体シートが形成される。
【0048】
次に、凝固再生工程により得られた前駆体シートを成膜基材から剥離した後、洗浄・乾燥処理を行う。洗浄・乾燥工程では、洗浄処理により形成された前駆体シート中に残存する溶媒を除去して樹脂層2を得る。洗浄に用いられる洗浄液には、水を用いることができる。洗浄した後の樹脂層2を、乾燥処理する。樹脂層2の乾燥処理は従来行われている方法で行えばよく、例えば80~150℃で5~60分程度乾燥機内で乾燥させればよい。上記工程を経た樹脂層2をロール状に巻き取ってもよい。
【0049】
次いで、研削・除去工程では、樹脂層2を準備する工程での表面(上面)及び/又は裏面(下面)を、バフ処理又はスライス処理で研削及び/又は一部除去する。バフ処理やスライス処理により、樹脂層の厚み均一性を向上させることができるとともに、連結気泡がクリーニング面に露出して開口が形成されるため、被クリーニング物からの汚染物を気泡内に保持することができる。
【0050】
次に、樹脂層2の、クリーニング面の反対面に対して、接着剤7を介して基材8を貼り合わせてクリーニングシート1を得る。こうして、樹脂層2の一面に対して、粘着層である接着剤7、基材8の順に積層されて、クリーニングシート1A又は1Bが得られる。さらに、両面テープを介して、クリーニングシート1A又は1Bの基材面同士を接合することにより、クリーニングシート1Cが得られる。
【0051】
両表面に樹脂層2が配される場合、クリーニング面の開口が小さいものに限定されず、クリーニング面の開口径が大きい気泡の向きで貼り合わせてクリーニング面の開口を大きくしてもよく、一面側のクリーニング面の開口が小さく、他面側のクリーニング面の開口が大きくなるように貼り合わせてもよい。
【0052】
クリーニングシート1で清掃する被クリーニング物は、シート状の物質が挿入される挿入口とその挿入口の内部にシート状の物質を配置する配置部とを備えるものであって、クリーニングシート1を挿入口から挿入して、配置部においてそのクリーニングシート1と接触する部分を清掃することが可能なものであれば特に限定されない。具体的には、カードを搬入及び搬出するための挿入口を備えている電子端末機器が挙げられる。このような電子端末機器では、挿入口から挿入されるカードを搬入及び搬出する複数の搬送ローラ対が搬送路内に備えられている。挿入口から挿入されたカードは、搬送ローラ対により搬送路内を搬送され、所定位置(配置部)に配置させられ、カード読取部と接触又は非接触により、カード内の情報を読み書きすることができる。クリーニングシート1は、このような電子端末機器であれば、挿入口から挿入されるカードと同様に挿入されて搬送されることにより、上記カードと接触して汚れたり、あるいは挿入口から混入する埃などにより汚れたりする部材(搬送ローラ対、カード読取部)と接触して、これを清掃する。
【0053】
本実施形態のクリーニング方法は、上述したクリーニングシートを用いて被クリーニング物を清掃する工程を含む。
【実施例
【0054】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
マトリックス樹脂となる原料樹脂のポリエステル系ポリウレタン樹脂をDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に30質量%溶解させた溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMF60質量部、顔料のカーボンブラック(三菱化学社製の商品名「RCF44」)を12質量%を含むDMF分散液を16質量部、混合撹拌し、樹脂溶液を調製した。
【0056】
次に、成膜用基材として市販のPETフィルムを用意し、そこへ調製した樹脂溶液を塗布し、塗布装置のクリアランスを調整することで厚さ350μmの塗膜を得た。次いで得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体樹脂層を得た。前駆体樹脂層を凝固浴から取り出し、成膜用基材を前駆体樹脂層から剥離した後、前駆体樹脂層を水からなる室温の洗浄液(脱溶媒浴)で洗浄し、乾燥させた後、巻き取った。次に、樹脂層の表面(成膜用基材を剥離した側の面とは反対の面であって、成膜用基材に接触していた面とは反対の面)に対して厚さ150μm分のバフ処理を施して、200μmの厚さにすると共に、バフ処理後の表面に開口を形成した。
【0057】
得られた樹脂層の裏面(バフ処理した面と反対側の面)と厚さ0.188mmの市販のPET基材を接着剤で貼り合わせたシートを2枚用意し、市販の両面テープを用い、PET基材が露出している面同士を貼り合わせ、樹脂層、接着剤、PET基材、両面テープ、PET基材、接着剤、樹脂層の順に積層されたクリーニングシートを得た。その後、JIS II型サイズ(53.9mm×85.6mm)の大きさに打ち抜き、厚さ0.89mmのカード状のクリーニングシートを作製した。
【0058】
(実施例2)
2枚のPET基材付き樹脂層のPET基材が露出している面同士をアクリル系接着剤で貼り合わせた以外は実施例1と同様にして作製し、厚さ0.79mmのクリーニングシートを作製した。
【0059】
(実施例3)
クリアランスを調整して塗膜の厚さを350μmから550μmに変更し、厚さ150μm分のバフ処理を厚さ350μm分のバフ処理に変更した以外は、実施例1と同様にしてクリーニングシートを得た。
【0060】
(比較例1)
アクリル系合成繊維からなる不織布をポリエチレンテレフタレート製基材の両面に接着した厚さ0.79mmのチカミミルテック社製「S85PG」を使用した。
【0061】
(比較例2)
アクリル系合成繊維からなる不織布をオレフィン系繊維基材の両面に接着した厚さ0.93mmのチカミミルテック社製「C91」を使用した。
【0062】
実施例1~3及び比較例1、2で得られた各クリーニングシートの諸物性を下記の方法でそれぞれ測定した。
【0063】
(平均開口径、開口率)
クリーニング面における開口について、次のとおり測定した。マイクロスコープ(KEYENCE社製の商品名「VH-6300」)で1.0×1.4mm四方の範囲を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3)により処理し算出した。結果を下記表1に示す。
【0064】
(圧縮率及び圧縮弾性率)
圧縮率及び圧縮弾性率は、日本工業規格JIS L 1021に準拠して求めた。具体的には、室温において無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に、厚さt0の状態から最終荷重を5分間かけた後の厚さt1を測定した。次いで厚さt1の状態から全ての荷重を取り除き、5分放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間加えた後の厚さt0'を測定した。
圧縮率は、圧縮率(%)=100×(t0―t1)/t0の式で算出し、圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t0'-t1)/(t0-t1)の式で算出した。このとき、初荷重は100g/cm2、最終圧力は1120g/cm2であった。
【0065】
(ショアA硬度)
ショアA硬度は、クリーニングシート試料片(10cm×10cm)を切り出し、複数枚の該試料片を厚さが4.5mm以上となるように重ね、A型硬度計(日本工業規格、JIS K7311)にて測定した。
【0066】
(厚みばらつき)
クリーニングシートの厚みばらつきは、クリーニングシート面内において横方向等間隔に4か所、縦方向等間隔に3か所の合計12か所の厚みを測定し、12か所の厚みの標準偏差σを、厚みの平均値で除することにより厚みの変動係数を求めた。厚みの変動係数は厚みのばらつきを示し、数値が小さいほど厚みのばらつきが小さく密着性が高いことを示す。
【0067】
(圧縮応力)
クリーニンングシート片を25mm×25mmに切り出し、マイクロオートグラフ(島津製作所社製、「MST-1」)を用いて、温度25℃、圧縮速度0.1mm/分、直径10mmの円形状の加圧板(圧子)、にて圧縮量と荷重を測定した。図4は、実施例1~3及び比較例1、2のクリーニングシート片について、横軸に変形量(mm)、縦軸に圧力(g/cm2)で、それぞれの測定結果を示すグラフである。下記表1では、20μm及び50μm変形時の各応力を、それぞれ示した。なお、実施例1~3の結果は応力-歪曲線が重なり、ほぼ同じ変形量を示した。
【0068】
実施例1と比較例1のクリーニングシートについて、その断面及びクリーニング面を電子顕微鏡(日本電子社製の商品名「JMS-5500LV」)で観察した。図5及び6は、実施例1のクリーニングシートの断面を、それぞれ電子顕微鏡を用いて50倍及び500倍で観察した写真である。また図7は、実施例1のクリーニングシートのクリーニング面を、電子顕微鏡を用いて50倍で観察した写真である。同様に、図8及び9は、比較例1のクリーニングシートの断面を、それぞれ電子顕微鏡を用いて50倍及び500倍で観察した写真である。また図10は、比較例1のクリーニングシートのクリーニング面を、電子顕微鏡を用いて50倍で観察した写真である。実施例1の断面写真(50倍、500倍)より、クリーニング面からPET基材面の方向に気泡が形成されていることがわかる。また500倍に拡大した写真の気泡内部の黒点が連通孔を示し、樹脂部分が微発泡していることがわかる。一方、比較例の断面写真からは繊維が密に積層されている様子が見られ、クリーニング面から内部方向へ伸びる空隙は見られない。ここで、図6を参照すれば分かるように、実施例1のクリーニングシートにおいて、クリーニング面に平行な気泡径の最大径は、クリーニング面にはなく、樹脂層の内部に存在する。このような構造を有することにより、クリーニングシートは、気泡内部に多くの微小異物を取り込むことができ一度取り込んだ微小異物を外部に放出させにくいと推察される。
実施例1のクリーニング面の写真において、略円形の黒い部分が開口を示す。クリーニング面の写真を対比すると、空隙の箇所が不均一な比較例のクリーニング面と比べ、実施例のクリーニング面は開口が均一に存在していることがわかる。
【0069】
実施例1~3及び比較例1、2で得られた各クリーニングシートを用いて、以下の条件にてクリーニング性を評価した。
【0070】
下記のように、準備した粉体1~3、人工皮脂及び綿埃を用いて、試験用汚染物1~4を調製した。
粉体1:JIS Z8901の試験用粉体3種(硅砂:SiO295%以上、粒径9~61μm、硬度が高く、粒子形状に角がある砂埃の基準物質)
粉体2:JIS Z8901の試験用粉体15種(混合粉体8種72%、12種23%、コットンリンター5%の混合品、衣類等から出る、所謂、綿埃が入った屋内ダストを想定し標準化した物質)
粉体3:JIS Z8901の試験用粉体12種(カーボンブラック、粒径0.03~0.2μm、すす状物質を想定し標準化した物質)
人工皮脂:オレイン酸70質量%とパルミチン酸30質量%との混合物
綿埃:コットンリンター(直径1.5μmx長さ1mm以下)
試験用汚染物1:粉体1
試験用汚染物2:試験用粉体1と人工皮脂との、質量基準1:10での混合物
試験用汚染物3:試験用粉体2と人工皮脂との、質量基準1:10での混合物
試験用汚染物4:試験用粉体3と人工皮脂との、質量基準1:10での混合物
試験用汚染物5:人工皮脂
【0071】
カード処理装置内のICチップ読取部に調製した各試験用汚染物をカード処理装置の読み取りがエラーになる程度までに付着させた後、クリーニングシートを5回出し入れして、清掃するための操作を行った。その後、クリーニングシートに付着した汚れを目視で確認するとともに、カード処理装置の読み取りのエラーが解消されたか否かを動作確認した。クリーニングシートに汚れが多く付着していることが確認でき、カード処理装置の読み取りのエラーが解消されている場合を◎、クリーニングシートに汚れが付着していることが確認でき、カード処理装置の読み取りのエラーが解消されている場合を○、クリーニングシートに汚れが付着しておらず、カード処理装置の読み取りのエラーが解消されていない場合を「×」と評価した。
【0072】
【表1】
【0073】
クリーニング面が不織布である比較例1、2品は紛体のみや人工皮脂のみであればふき取りが可能であるものの粉体と人工皮脂が混合した落ちにくい汚れに対してクリーニング性を発揮することができなかった。一方、実施例品では厚みばらつきが小さいうえに、比較例品と同等の硬度を有しながら、変形に対する応力が小さく変形しやすい。つまり、実施例品では20μm変形させたときの応力が44g/cm2であるのに対し、比較例品での応力は100g/cm2、124g/cm2であり、実施例品では50μm変形させたときの応力が204g/cm2であるのに対し、比較例品の応力では408g/cm2、811g/cm2である。つまり、20μm、50μmサイズの異物が存在した場合、比較例品は実施例品よりも大きな力をクリーニングシートにかけないとそれらの異物を取り込める程度に圧縮変形することができないのに対し、実施例品のクリーニングシートは比較的小さな力で圧縮変形することができるので、クリーニング面及びクリーニング面上の異物に対する密着性を向上させることができ、その摩擦力によりクリーニング面の開口内に異物を取り込み除去することができた。
【符号の説明】
【0074】
1、1A、1B、1C…クリーニングシート
2、2a、2b…樹脂層
3…気泡
7、7a、7b…接着剤
8…基材
P、P1、P2…クリーニング面
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、接触型のICカードとの間でデータ通信を行うICカードリーダや、ICカードリーダ内部の搬送経路をクリーニングするためのクリーニングシートとして産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10