(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いた発酵アルコール飲料の製法
(51)【国際特許分類】
C12C 3/00 20060101AFI20240412BHJP
C12C 11/00 20060101ALI20240412BHJP
C12G 3/021 20190101ALI20240412BHJP
【FI】
C12C3/00 Z
C12C11/00 Z
C12G3/021
(21)【出願番号】P 2019189436
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】村上 敦司
(72)【発明者】
【氏名】川崎 由美子
(72)【発明者】
【氏名】杉村 哲
(72)【発明者】
【氏名】内藏 萌
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-124125(JP,A)
【文献】特開2015-107078(JP,A)
【文献】悲劇の国産ホップがついに表舞台へ「ムラカミ・セブン」使ったIPAビール発売,2019年06月28日,pp.1-3,retrieved on 2023.11.28, retrieved from the internet,https://foodfun.jp/archives/2407
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00-13/10
C12G 3/00-3/08
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いて発酵アルコール飲料を製造する方法であって、
前記ルプリンパウダーが、破砕された後に、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了した後、かつ、発酵工程前に、その原料混合物に添加され、
発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、以下の範囲:
リナロール:463~546ppb;
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチル:発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用い、内部標準物質としてボルネオール(Borneol)を分析用試料中25ppbになるよう添加し、以下のGC/MS分析条件:
【表1】
を用いるGC/MS分析における、ボルネオールに対するレスポンス比として、738%未満
に調整される、方法。
【請求項2】
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として733%以下に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として701%以下に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ルプリンパウダーが、剪断力および/または圧力によって破砕される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵アルコール飲料が、ビール風味発酵アルコール飲料である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって製造される、発酵アルコール飲料。
【請求項7】
ビール風味発酵アルコール飲料である、請求項6に記載の発酵アルコール飲料。
【請求項8】
原料としてMURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いる発酵アルコール飲料に、リナロールに由来するホップ香気を効率よく付与するとともに、雑味の増加を抑制する方法であって、
前記発酵アルコール飲料の製造過程において、前記ルプリンパウダーが、破砕された後に、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了した後、かつ、発酵工程前に、その原料混合物に添加され、
発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、以下の範囲:
リナロール:463~546ppb;
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチル:発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用い、内部標準物質としてボルネオール(Borneol)を分析用試料中25ppbになるよう添加し、以下のGC/MS分析条件:
【表2】
を用いるGC/MS分析における、ボルネオールに対するレスポンス比として、738%未満
に調整される、方法。
【請求項9】
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として733%以下に調整される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として701%以下に調整される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ルプリンパウダーが、剪断力および/または圧力によって破砕される、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記発酵アルコール飲料が、ビール風味発酵アルコール飲料である、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵アルコール飲料の製法に関し、より具体的には、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いた発酵アルコール飲料の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップはビールに爽快な苦味と香りを付与する。ホップに由来する香りはビールのキャラクター形成に大きな影響を与えている。香気特徴を表現する言葉として、フローラル、スパイシー、シトラス、フルーティー、ホッピー、スパイシー、マスカット等が一般的に用いられている(非特許文献1~5)。
【0003】
従来、ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料の製造において、主原料として用いられるホップは、通常、収穫後に乾燥し、圧縮ペレット状に加工して低温保存され、その後に用いられている。また、ビールの苦味の本体であるイソα酸の前駆体にあたるα酸は、ホップ中のルプリン粒中に存在する。そのため、篩分けなどによって全重量中に占めるルプリン粒の比率を高めて濃縮したペレットやパウダーが市販されている。
【0004】
ペレットを用いる利点は、主に、ホップロット毎のα酸含有量のバラつきを補正することや、移送コストを削減できる点にある。また、ペレットについては、加工時に圧縮されることによりルプリンの構造が破壊されることが分かっている(非特許文献6)。
【0005】
ルプリンパウダーは、例えば、-20℃~-35℃の条件下で粉砕したホップを、0.15~0.5mmの篩によって分画することにより調製することができ、この場合、篩を通った画分が目的のホップ調製物となる。ホップ調製物中に含まれるルプリン粒の濃度は、篩の目開きを調節することによって調整することができる。あるいは、一旦分画した後、篩を通った画分に、篩を通らなかった画分の一部を添加することにより、ルプリン粒の濃度を下げることもできる。また、ルプリン粒の濃度を下げるために、篩を通らなかった画分に代えて、全ホップまたはその粉砕物を添加することもできる。
【0006】
一方で、ホップ形態とその添加方法による香味特徴の違い、例えば、ホップをペレットやルプリンパウダーの形態に加工することによる飲料の香味の違いについて、十分な知見が得られているとはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Kishimoto et al., J. Agric. Food Chem., 54, 8855-8861, 2006
【文献】G. T. Eyres et al., J. Agric. Food Chem., 55, 6252-6261, 2007
【文献】V. E. Peacock, et al., J. Agric. Food Chem., 28, 774-777, 1980
【文献】K. C. Lam et al., J. Agric. Food Chem, 34, 763-770, 1986
【文献】V. E. Peacock et al., J. Agric. Food Chem., 29, 1265-1269, 1981
【文献】Acta Alimentaria, Vol. 40 (2), pp. 282-290, 2011
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、複数の品種のホップについて、ホップから得られるルプリンパウダーを用いて発酵アルコール飲料を製造すると、香気成分(例えばリナロールなど)の抽出効率が低いという問題を見出した。一方で、ルプリンをペレットにして使用すると、リナロールの抽出効率は増加するものの、渋みが増加するという問題を見出した。
【0009】
さらに、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーについて検討したところ、このルプリンパウダーを用いて発酵アルコール飲料を製造すると、雑味が少なく爽快なホップ香気を付与することができるが、上述の通り成分の抽出効率が悪く、経済的に効率的な製法とはいえなかった。一方で、ルプリンを破砕することで成分の抽出効率を上げることができるが、雑味(収斂味、渋み様の刺激)が増加してしまうという課題が見出された。
【0010】
このような状況下、本発明者らは、発酵アルコール飲料の製造過程において、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを適度に破砕した後に冷却後の発酵前液に添加することにより、リナロールに由来するホップ香気を発酵アルコール飲料に効率よく付与する一方で、発酵アルコール飲料の雑味の増加を抑制できることを見出した。また、このようなホップ香気の効率的な付与と雑味の増加の抑制のためには、発酵アルコール飲料中におけるリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの濃度を所定の範囲に調整することが好ましいことを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
従って、本発明は、リナロールに由来するホップ香気を十分に有するとともに雑味の増加が抑制された、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを原料とする発酵アルコール飲料およびその製法、ならびに発酵アルコール飲料にリナロールに由来するホップ香気を効率的に付与するとともに、雑味の増加を抑制する方法を提供する。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)原料として、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いて発酵アルコール飲料を製造する方法であって、
前記ルプリンパウダーが、破砕された後に、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了した後、かつ、発酵工程前に、その原料混合物に添加され、
発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、以下の範囲:
リナロール:463~546ppb;
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチル:発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用い、内部標準物質としてボルネオール(Borneol)を分析用試料中25ppbになるよう添加し、以下のGC/MS分析条件:
【表1】
を用いるGC/MS分析における、ボルネオールに対するレスポンス比として、738%未満
に調整される、方法。
(2)3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として733%以下に調整される、前記(1)に記載の方法。
(3)3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として701%以下に調整される、前記(1)に記載の方法。
(4)前記ルプリンパウダーが、剪断力および/または圧力によって破砕される、前記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記発酵アルコール飲料が、ビール風味発酵アルコール飲料である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法によって製造される、発酵アルコール飲料。
(7)ビール風味発酵アルコール飲料である、前記(6)に記載の発酵アルコール飲料。
(8)原料としてMURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いる発酵アルコール飲料に、リナロールに由来するホップ香気を効率よく付与するとともに、雑味の増加を抑制する方法であって、
前記発酵アルコール飲料の製造過程において、前記ルプリンパウダーが、破砕された後に、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了した後、かつ、発酵工程前に、その原料混合物に添加され、
発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、以下の範囲:
リナロール:463~546ppb;
3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチル:前記(1)に記載のGC/MS分析における、ボルネオールに対するレスポンス比として、738%未満
に調整される、方法。
(9)3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として733%以下に調整される、前記(8)に記載の方法。
(10)3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が、前記レスポンス比として701%以下に調整される、前記(8)に記載の方法。
(11)前記ルプリンパウダーが、剪断力および/または圧力によって破砕される、前記(8)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記発酵アルコール飲料が、ビール風味発酵アルコール飲料である、前記(8)~(11)のいずれかに記載の方法。
【0013】
本発明によれば、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを原料とする発酵アルコール飲料において、リナロールに由来するホップ香気が効率よく付与されるとともに、雑味の増加が抑制される。
【発明の具体的説明】
【0014】
本発明において「発酵アルコール飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させたアルコール(エタノール)含有飲料を意味する。本発明における発酵アルコール飲料は、好ましくはビール風味発酵アルコール飲料とされ、このビール風味発酵アルコール飲料には、例えば、原料として麦芽を使用した発酵麦芽飲料や、原料として麦芽を使用しないビール風味発酵アルコール飲料も含まれる。本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられる。
【0015】
本発明において「雑味」とは、収斂味または渋み様の刺激、あるいはこれらの組み合わせをいう。
【0016】
本明細書において、「ppb」および「ppm」は、質量/容量(w/v)の濃度を表し、それぞれ「μg/L」および「mg/L」と同義である。
【0017】
本発明の方法は、原料として、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いて発酵アルコール飲料を製造する方法、および原料としてMURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダーを用いる発酵アルコール飲料に、リナロールに由来するホップ香気を効率よく付与するとともに、雑味の増加を抑制する方法である。この方法では、前記ルプリンパウダーが、破砕された後に、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了した後、かつ、発酵工程前に、その原料混合物に添加される。
【0018】
本発明に用いられるMURAKAMI SEVEN種ホップは、麒麟麦酒株式会社によって育種されたホップであり、市販されている。本発明では、MURAKAMI SEVEN種ホップのルプリンパウダー(ルプリン粒またはルプリン腺)を、破砕した後に用いる。ルプリンパウダーの破砕は、粉末を破砕することのできる公知の方法、例えば、剪断力や圧力、あるいはこれらの組み合わせを用いる方法によって行うことができる。例えば、ルプリンと水を混ぜた懸濁液を乳化分離装置(例えばバイタミックスブレンダー)を用いてブレンドすることにより、ルプリンパウダーを破砕することができる。
【0019】
本発明の方法では、上述の破砕後のルプリンパウダーは、該方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了した後、かつ、発酵工程前に、その原料混合物に添加される。これにより、ルプリンパウダーに余分な熱が加わることを回避できる。ここで用いる「加熱操作」との用語は、自然な温度変化ではなく、加熱することを目的とした人為的な操作を意味するものであり、例えば、発酵工程における酵母の生理作用による発熱などは含まない。よって、例えば、上記の加熱操作を伴う工程には、麦汁煮沸工程は含まれるが、発酵工程は含まれない。
【0020】
本発明の方法では、製造される発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量をそれぞれ所定の範囲内となるように調整することが好ましい。そして、ルプリンパウダーの破砕の程度および破砕後のルプリンパウダーの添加量は、リナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が上記の所定の範囲に含まれるように決定することができる。このような破砕程度の調整や添加量の調整は、リナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量をモニタリングすることにより、当業者であれば適切に行うことができる。
【0021】
発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの定量は、当業者に公知の方法、例えば、GC/MS分析により行うことができる。このGC/MS分析は、例えば、次のように実施することができる。まず、発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いる。定量は内部標準法によって行い、内部標準物質にはボルネオール(Borneol)を用い、分析用試料中25ppbになるよう添加する。GC/MSの分析条件は、後記実施例に記載の表2に従うことができる。
【0022】
製造される発酵アルコール飲料中のリナロールの含有量は、好ましくは463~546ppb、より好ましくは476~546ppbとされる。また、製造される発酵アルコール飲料中の3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量は、上述のGC/MSの分析におけるボルネオール(内部標準物質)に対するレスポンス比として、好ましくは738%未満、より好ましくは733%以下、さらに好ましくは701%以下とされる。3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量の下限値は特に限定されるものではないが、例えば、前記レスポンス比として630%、好ましくは646%とすることができる。
【0023】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の方法は、麦汁もしくは液糖またはこれらの混合物を用意し、発酵工程に適した温度において破砕後のルプリンパウダーを添加し、得られた混合物に酵母を添加して発酵させることにより実施することができる。
【0024】
本発明の方法では、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。
【実施例】
【0025】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例においては、次のプロトコールを用いた。
【0027】
1.ルプリンの破砕手段と試飲サンプルの作製方法
MURAKAMI SEVEN種ホップ(麒麟麦酒株式会社製)のルプリンと水を混ぜた懸濁液を、乳化分離装置(バイタミックスブレンダー:品番VM0111)を用いて3~20分間破砕した。その後氷水で冷却した。ビール風味発酵アルコール飲料の製造に用いられる通常の発酵前液(麦汁および液糖を含有。麦芽比率51%)(12℃)に、破砕したルプリンを1L当たり5g(破砕処理前の重量として)になるよう添加した。そこに、ビール酵母を添加して、13℃で7日間の発酵を行なったサンプルを、試飲サンプルとした。
【0028】
2.GC/MS分析によるホップ香気成分の定量
発酵アルコール飲料中のリナロールおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの定量は、GC/MS分析により行った。具体的には、まず、発酵アルコール飲料中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いた。定量は内部標準法によって行い、内部標準物質として、ボルネオール(Borneol)を分析用試料中25ppbになるよう添加した。GC/MSの分析条件は、以下の表2に示す。
【0029】
【0030】
上記の定量の結果は、リナロールの濃度については「ppb」を単位とする数値で表し、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの濃度については、内部標準物質であるボルネオールのピーク面積に対する3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルのピーク面積の比(レスポンス比)の百分率で表す。
【0031】
3.官能評価
実施例における官能評価は、試飲サンプルの雑味(特に、収斂味および渋み様の刺激)の強度について、訓練された3名のパネルが実施した。評価は、雑味の強度に関する0~4の5段階のスコアによって行い、具体的な評価基準は、スコア0(雑味なし)、1(雑味を僅かに感じる)、2(雑味を感じる)、3(雑味をやや強く感じる)、および4(雑味を強く感じる)とした。また、ルプリンパウダーの破砕処理をしていないサンプルのスコアを0とし、20分間の破砕処理をしたサンプルのスコアを4とした。官能評価結果は、各パネルが付けたスコアの平均値±標準偏差を算出して示した。
【0032】
実施例1:破砕による香気抽出効率向上の検証
ルプリン破砕によるホップ香気と雑味の変化を明らかにするため、ルプリン破砕あり(処理時間20分)となし(処理時間0分)のルプリン懸濁液をそれぞれ添加した試飲サンプルを作製し、それぞれのサンプルのホップ香気分析と雑味の官能評価試験を行った。ホップ香気はリナロール含有量を指標とし、GC/MS分析により定量した。結果を以下の表3に示す。
【0033】
【0034】
表3からわかるように、ルプリン破砕によってリナロールに代表されるホップ香気成分の濃度を1.2倍に上昇させることができた。一方で、破砕により雑味(収斂味、渋み様の刺激)が明らかに増加した。
【0035】
実施例2:雑味を低減しうる破砕処理条件の検討
ルプリン破砕時間を制御することで、香気付与効率を上げても雑味を抑制することが可能か否かを調べるため、破砕処理時間を0~20分とする複数の試飲サンプルを作製し、それぞれのサンプルについて、リナロール含有量および3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチル含有量の定量、ならびに雑味の官能評価試験を行った。結果を以下の表4に示す。
【0036】
【0037】
表4からわかるように、雑味強度は破砕時間が長くなるほど増加した。また、雑味強度と相関して3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの含有量が増加することが明らかになった。そして、雑味が少なく、爽快なホップ香気を付与するための3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸メチルの濃度範囲は、内部標準物質であるボルネオールに対するレスポンス比として、738%未満、好ましくは733%以下、さらに好ましくは701%以下であると考えられた。