(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】みりん類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/08 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
C12G3/08 102
(21)【出願番号】P 2020014771
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 翔規
(72)【発明者】
【氏名】岩井 謙治
(72)【発明者】
【氏名】畑 千嘉子
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205086(JP,A)
【文献】特開平10-248562(JP,A)
【文献】特開平05-076339(JP,A)
【文献】特開平03-195472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掛原料及び麹原料として粳米のみを用いるみりん類の製造方法であって、
掛原料である粳米の米粉と、α-アミラーゼと、プロテアーゼと、水とを混合し、当該混合物を30~60℃で1~60分間保持して第一処理物を得る第一工程と、
前記第一処理物を80~120℃で1~60分間加熱処理して第二処理物を得る第二工程と、
前記第二処理物に、粳米を麹原料とした米麹を添加する第三工程と、
を包含
し、
前記第一工程における粳米の米粉に対する水の重量比が0.5~0.9であり、
前記第一工程において、さらにリパーゼを混合するみりん類の製造方法。
【請求項2】
前記第一処理物の40℃における粘度が400~10000mPa・sである請求項
1に記載のみりん類の製造方法。
【請求項3】
前記第二処理物の30℃における粘度が200~4000mPa・sである請求項1
又は2に記載のみりん類の製造方法。
【請求項4】
前記α-アミラーゼは第一α-アミラーゼと第二α-アミラーゼを含み、前記第一α-アミラーゼの至適温度は前記第二α-アミラーゼの至適温度と異なる請求項1~
3のいずれか1項に記載のみりん類の製造方法。
【請求項5】
前記第一処理物の40℃における粘度が400~10000mPa・sであり、
前記第二処理物の30℃における粘度が200~4000mPa・sであり、
前記α-アミラーゼは第一α-アミラーゼと第二α-アミラーゼを含み、前記第一α-アミラーゼの至適温度は前記第二α-アミラーゼの至適温度と異なる請求項1に記載のみりん類の製造方法。
【請求項6】
前記第一α-アミラーゼの至適温度が50~75℃であり、前記第二α-アミラーゼの至適温度が75~85℃である請求項5に記載のみりん類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粳米を原料として用いるみりん類の製造方法に関する。本発明で得られるみりん類は、もち米を原料として用いる従来のみりん類と比較して遜色のない品質を備えたものである。
【背景技術】
【0002】
みりんには、原材料として、もち米、米麹、醸造アルコール、及び糖類を用いた「本みりん」や、もち米、米麹、及び醸造アルコールを用いた「純米本みりん」などがあり、いずれも自然な甘みと旨みを有している。一方、もち米に代えて、より安価な粳米(うるち米)を掛原料として用いてみりんを製造する試みがなされている。しかし一般に、粳米は老化しやすく、また米麹の酵素作用を受けにくいなどの問題点がある。
【0003】
粳米を用いて製造されるみりん類に関する従来技術としては、例えば、特許文献1~6に開示されたものがある。特許文献1には、蒸した粳米に酸又はα-アミラーゼの酵素剤を作用させデンプンの95%以上を液化する酒精含有甘味調味料の製造方法が開示されている。特許文献2には、粳蒸米を高温液化したのち加熱蒸煮するみりんの製造方法が開示されている。特許文献3には、粳蒸米に酸又はα-アミラーゼを作用させ、デンプンの95%以上を液化し、そのままアルコール及び米麹とともに仕込み、糖化熟成する酒精含有甘味調味料が開示されている。
【0004】
特許文献4には、米粉に、耐熱性α-アミラーゼを溶解した60~140重量%の水を混和し、糊化温度以上で該米粉のデンプンの95%以上を液化し、該液化物をそのままアルコール及び米麹と共に仕込、糖化熟成させる酒精含有甘味調味料の製造法が開示されている。特許文献5には、米粉とα-アミラーゼ溶解液の混練物を85~90℃に加熱後、80~65℃に冷却し、その温度で保持する処理を含む工程であることを特徴とする酒精含有調味料の製造方法が開示されている。特許文献6には、可溶性タンパク質の量が少なくエキス分に含まれる糖分の量が多い糖液を用いるみりんの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-124472号公報
【文献】特開昭56-61973号公報
【文献】特開昭56-68371号公報
【文献】特開平3-195472号公報
【文献】特開2001-169746号公報
【文献】特開2017-205086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、もち米に含まれるデンプン成分のほとんどがアミロペクチンであるのに対し、粳米のデンプン成分は、アミロペクチンが約80%、アミロースが約20%とされている。ここで、アミロースは、アルコール濃度が高いみりん類の醪では分解されにくい性質がある。そのため、掛原料及び麹原料として粳米のみを用いてみりん類を製造する際には、アミロースが分解されにくく、得られるみりん類のエキス分が不足するという課題がある。さらに、みりん類の製造工程において、醪を圧搾する時の圧搾性が悪くなるという課題がある。しかし、粳米を原料として用いるみりん類の製造において、これらの課題を解決するための技術開発が十分に検討されているとはいえない。
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、粳米を原料として用いるみりん類の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、粳米の米粉と、α-アミラーゼと、プロテアーゼと、水とを混合し、所定の温度条件下で保持した後、加熱処理することにより、もち米を原料として用いる従来のみりん類と比較して遜色のない品質を備えたみりん類を得ることに成功した。
【0009】
本発明の1つの様相は、掛原料及び麹原料として粳米のみを用いるみりん類の製造方法であって、掛原料である粳米の米粉と、α-アミラーゼと、プロテアーゼと、水とを混合し、当該混合物を30~60℃で1~60分間保持して第一処理物を得る第一工程と、前記第一処理物を80~120℃で1~60分間加熱処理して第二処理物を得る第二工程と、前記第二処理物に、粳米を麹原料とした米麹を添加する第三工程と、を包含するみりん類の製造方法である。
【0010】
「みりん類」とは、みりん及び発酵調味料を指す。
「みりん」とは、酒税法でいう混成酒類の中のみりんのことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が15度(15v/v%)未満のもの(エキス分が40度以上のものその他政令で定めるものに限る。)である。
(1)米及び米こうじにしょうちゅう又はアルコールを加えて、こしたもの。
(2)米、米こうじ及びしょうちゅう又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの。
(3)みりんにしょうちゅう又はアルコールを加えたもの。
(4)みりんにみりんかすを加えて、こしたもの。
【0011】
「発酵調味料」とは、酒類の不可飲処置による免税措置に基づいて食塩を添加して発酵・熟成することを基本とし、これに糖質原料、麹、変性アルコールなど目的に応じた副原料を添加して製造したものである。
【0012】
好ましくは、前記第一工程における粳米の米粉に対する水の重量比が0.5~0.9である。
【0013】
好ましくは、前記第一処理物の40℃における粘度が400~10000mPa・sである。
【0014】
好ましくは、前記第二処理物の30℃における粘度が200~4000mPa・sである。
【0015】
好ましくは、前記第一工程において、さらにリパーゼを混合する。
【0016】
好ましくは、前記α-アミラーゼは第一α-アミラーゼと第二α-アミラーゼを含み、前記第一α-アミラーゼの至適温度は前記第二α-アミラーゼの至適温度と異なる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、掛原料としてもち米を用いる従来のみりん類と比較して遜色のない品質を備えた、掛原料及び麹原料として粳米のみを用いるみりん類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、掛原料及び麹原料として粳米のみを用いるみりん類の製造方法に係るものである。
【0019】
本発明の方法は、掛原料である粳米の米粉と、α-アミラーゼと、プロテアーゼと、水とを混合し、当該混合物を30~60℃で1~60分間保持して第一処理物を得る第一工程を包含する。
【0020】
粳米とは、一般に米飯用として使われる米を指す。前述のとおり、粳米のデンプン成分は、アミロペクチンが約80%、アミロースが約20%である。米粉とは米を粉砕したものである。
【0021】
前記α-アミラーゼとしては特に限定はなく、例えば食品工業分野で用いられている各種のα-アミラーゼを用いることができる。α-アミラーゼの具体例としては、液化酵素T〔エイチビィアイ(株)製〕、スミチームVA〔新日本化学工業(株)製〕等が挙げられる。
【0022】
前記プロテアーゼとしては特に限定はなく、例えば食品工業分野で用いられている各種のプロテアーゼを用いることができる。プロテアーゼの具体例としては、オリエンターゼ10NL〔エイチビィアイ(株)製〕等が挙げられる。
【0023】
好ましい実施形態では、第一工程において、さらにリパーゼを混合する。すなわち、掛原料である粳米の米粉と、α-アミラーゼと、プロテアーゼと、リパーゼと、水とを混合する。前記リパーゼとしては特に限定はなく、例えば食品工業分野で用いられている各種のリパーゼを用いることができる。リパーゼの具体例としては、スミチームMML-G〔新日本化学工業(株)製〕等が挙げられる。
【0024】
好ましい実施形態では、前記α-アミラーゼは第一α-アミラーゼと第二α-アミラーゼを含み、前記第一α-アミラーゼの至適温度(酵素が作用を発揮する最適の温度)は前記第二α-アミラーゼの至適温度と異なる。換言すれば、前記α-アミラーゼとして、至適温度が異なる少なくとも2種類のα-アミラーゼを用いる。至適温度が異なるα-アミラーゼの組み合わせとしては、例えば、中温性のα-アミラーゼと高温性のα-アミラーゼの組み合わせ、中温性のα-アミラーゼと耐熱性のα-アミラーゼの組み合わせ、等が挙げられる。
至適温度が異なる少なくとも2種類のα-アミラーゼと、プロテアーゼと、リパーゼとを組み合わせることもできる。
【0025】
なお、プロテアーゼ、リパーゼの作用として、α-アミラーゼにプロテアーゼ、さらにリパーゼ、を組み合わせることにより、粳米のデンプン成分の液化にα-アミラーゼがより効果的に作用するものと考えられる。
【0026】
α-アミラーゼ等の酵素は酵素剤(酵素製剤)の形で用いることができる。酵素剤の添加量は、粳米の米粉の重量に対して0.1w/w%以下であればよく、α-アミラーゼ剤の添加量は0.02w/w%以上、プロテアーゼ剤の添加量は0.005w/w%以上、リパーゼ剤の添加量は0.0025w/w%以上であることが好ましい。また酵素剤の添加量は、酵素剤の力価により適宜選択することができる。
【0027】
粳米の米粉とα-アミラーゼ等の酵素と水との混合物は、スラリー状であることが好ましい。例えば、混練機(ニーダー)を用いて混合することにより、スラリー状とすることができる。
【0028】
第一工程では、前記混合物を30~60℃で1~60分間保持して第一処理物を得る。第一工程の保持温度は、30~60℃の範囲であれば特に限定はないが、好ましくは30~55℃、より好ましくは30~50℃である。保持時間としては、1~60分間の範囲であれば特に限定はないが、好ましくは5~30分間、より好ましくは10~20分間である。
【0029】
また第一処理物の粘度は、40℃において10000mPa・s以下であることが好ましい。前記保持温度が30℃未満では、処理物の粘度が十分に下がらないおそれがある。一方、前記保持温度が60℃超では、粳米のデンプンが糊化して粘度が上がり、処理物の移送などに支障をきたすおそれがある。第一処理物の前記粘度は、B型粘度計を用い、30rpm、40℃の条件で測定した値である。
【0030】
第一工程における粳米の米粉に対する水の重量比は、0.5~0.9であることが好ましい。前記重量比が0.5未満であると、第一処理物の移送や、後述の第二工程における処理に支障をきたすおそれがある。一方、前記重量比が0.9超では、原材料に糖類を含まない「純米本みりん」とした場合に、エキス分が不足するおそれがある。
【0031】
次に、第二工程について説明する。本発明の方法は、第一処理物を80~120℃で1~60分間加熱処理して第二処理物を得る第二工程を包含する。
【0032】
第二工程における加熱温度は80~120℃の範囲であれば特に限定はないが、好ましくは90~110℃、より好ましくは100~110℃である。加熱時間としては、採用する加熱温度によって適宜選択すればよいが、通常は1~60分間、好ましくは5~60分間、より好ましくは5~30分間である。
なお、デンプン製造や製紙の分野で使用されている、スラリーにスチームジェットを直接あてて、瞬時に加熱すると同時に、急速に膨潤するデンプンをミキシングする連続式のデンプンクッキングシステムを用いることにより、工業的規模での製造が可能となる。
【0033】
取扱いの容易性の点から、第二処理物の30℃における粘度は200~4000mPa・sであることが好ましい。第二処理物の前記粘度は、B型粘度計を用い、30rpm、30℃の条件で測定した値である。
【0034】
本発明は、第二処理物に、粳米を麹原料とした米麹を添加する第三工程を包含する。これにより、掛原料及び麹原料として粳米のみを用いるみりん類の製造が可能となる。
【0035】
前記米麹としては、粳米を用いたものであれば特に限定されず、例えば黄麹、白麹、黒麹のいずれでもよい。黄麹であれば、例えば、麹菌としてアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、及びアスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)からなる群より選ばれた少なくとも1種を用いた米麹を採用することができる。白麹であれば、例えば、麹菌としてアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、及び/又はアスペルギルス・シロウサミ(Aspergillus usamii mutant shirousamii)を用いた米麹を採用することができる。さらに黒麹であれば、例えば、黒麹菌であるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)やアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)を用いた米麹を採用することができる。米麹の形態についても特に限定はなく、乾燥品、冷蔵品、冷凍品等のいずれでもよい。また必要に応じて、細断、粉砕、磨砕などの処理を行ってもよい。
【0036】
第三工程以降は、一般的なみりん類の製造方法をそのまま適用することができる。例えば、上記した第二処理物に、粳米を麹原料とした米麹を添加し(第三工程)、必要に応じて他の原料(醸造用アルコール、焼酎など)を添加して仕込醪となし、糖化・熟成する。次に、糖化・熟成を終えた醪を圧搾機で上槽して搾汁液と粕に分離する。最後に、得られた搾汁液に対して精製工程で火入れし、滓下げする。これにより、清澄なみりんが得られる。他の原料として、デンプン部分加水分解物をさらに使用してもよい。また、必要に応じて、糖化工程で酵素製剤を醪に添加してもよい。
【0037】
みりんタイプの発酵調味料を製造する場合は、例えば、上記した第二処理物に、粳米を麹原料とした米麹を添加し(第三工程)、さらに酵母を添加して醪とし、食塩を添加して糖化・発酵を行なう。さらに米麹、糖質原料を添加して熟成させ、圧搾ろ過して搾汁液と粕を得る。そして、この搾汁液からなる発酵調味料を得る。または、この搾汁液を精製して発酵調味料を得る。
【0038】
本発明の方法で得られたみりんを、酒類の不可飲処置による免税措置に基づいた発酵調味料とすることもできる。
【0039】
本発明の方法で製造されるみりん類の形態としては特に限定はなく、液状だけでなく、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、乳液状、ペースト状等に調製してもよい。必要に応じて、食塩などを添加することもできる。
【0040】
一般に、みりん製造においてプロテアーゼの使用量が多いと、みりん類への着色が危惧される。しかし本発明の方法によれば、特に第一工程と第二工程を行うことにより、みりん類に過度な着色を引き起こすこともなく、高品質のみりん類を得ることができる。
【0041】
なお、上記した第一工程と第二工程は、掛原料がもち米を含む場合にも適用できる。例えば、粳米ともち米とを混合して上記第一工程と第二工程を行う、あるいは粳米ともち米それぞれに上記第一工程と第二工程を行った後に両者を混合することによっても、十分に高品質のみりん類を得ることができる。
【0042】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
粳米(掛原料)の米粉450gと、α-アミラーゼ剤(至適温度:75~85℃)及びプロテアーゼ剤を添加した水405mLとを混合し、攪拌しながら40℃で20分間保持し、第一処理物を得た(第一工程)。α-アミラーゼ剤、プロテアーゼ剤の添加量は、それらの使用量の合計が、粳米の米粉の重量に対して0.1w/w%(α-アミラーゼ剤0.08w/w%、プロテアーゼ剤0.02w/w%)とした。第一処理物の40℃における粘度(B型粘度計使用、30rpm、以下同じ)は、830mPa・sであった。その後、第一処理物を110℃で10分間加熱処理し、第二処理物を得た(第二工程)。第二処理物の30℃における粘度は360mPa・sであった。
一方で、もち米450gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、もち米からなる掛米を得た。
【0044】
粳米(麹原料)35gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、放冷後に黄麹菌を繁殖させて米麹を得た。得られた米麹に、第二処理物700mL、95v/v%エタノール150mL、及び水を適当量加え、総量1000mLの醪とした。得られた醪を30℃で30日間糖化・熟成を行い、醪を圧搾して精製し、みりんを得た(実施例1)。実施例1のみりんでは、掛原料と麹原料のいずれもが粳米である。
【0045】
対照として、粳米(麹原料)35gを用いて常法により製麹して得られる米麹に、前記もち米からなる掛米、95v/v%エタノール150mL、及び水を適当量加え、総量1000mLの醪とした。得られた醪を30℃で30日間糖化・熟成を行い、醪を圧搾して精製し、みりんを得た(比較例1)。比較例1のみりんでは、掛原料がもち米、麹原料が粳米である。
【0046】
実施例1と比較例1のみりんについて、熟練したパネラー10名により官能評価試験を行った。官能評価試験は、実施例1と比較例1のみりんを比較して、その差異について評価した。その結果、10名全員が、実施例1のみりんは、比較例1のみりんと差異がないと評価した。すなわち、粳米の米粉を用いた実施例1のみりんは、従来のもち米を用いた比較例1のみりんと比較して、遜色のない品質を有していた。
【実施例2】
【0047】
粳米(掛原料)の米粉1500gと、至適温度の異なる2種類のα-アミラーゼ剤、プロテアーゼ剤、及びリパーゼ剤を添加した水1125mLとを混合し、攪拌しながら42℃で10分間保持し、第一処理物を得た(第一工程)。α-アミラーゼ剤、プロテアーゼ剤、及びリパーゼ剤の添加量は、それらの使用量の合計が、粳米の米粉の重量に対して0.08w/w%とした。内訳は、至適温度が50~75℃であるα-アミラーゼ剤(第一α-アミラーゼ)0.01w/w%、至適温度が75~85℃であるα-アミラーゼ剤(第二α-アミラーゼ)0.05w/w%、プロテアーゼ剤0.015w/w%、リパーゼ剤0.005w/w%とした。第一処理物の40℃における粘度は、2300mPa・sであった。その後、第一処理液を105℃で12分間加熱処理し、第二処理物を得た。第二処理物の30℃における粘度は1300mPa・sであった。
【0048】
粳米(麹原料)150gを常法により洗米、浸漬、蒸きょうし、放冷後に黄麹菌を繁殖させて米麹を得た。得られた米麹に、第二処理液2300mL、95v/v%エタノール450mL、及び水を適当量加え、総量3000mLの醪とした。得られた醪を30℃で30日間糖化・熟成を行い、醪を圧搾して精製し、みりんを得た(実施例2)。
【0049】
実施例2のみりんは、アルコール分が14.1v/v%、エキス分が43.8度であり、甘みが強く風味のよい高品質のみりんであった。
【実施例3】
【0050】
実施例2のみりんを用いて、料理学校で調理試験を行った。対照として、掛米にもち米を用いた市販の「純米本みりん」を用いた。卵焼きと筑前煮の調理品を試作し、香り、甘み、コクについては官能評価試験を行ったところ、両者に差はほとんどなく、調理効果は変わらないとの評価であった。