(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】位置制御機構及び車両
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20240412BHJP
B60K 20/00 20060101ALI20240412BHJP
B60T 7/02 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B60K20/02 E
B60K20/00 F
B60T7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020024070
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100140682
【氏名又は名称】妙摩 貞茂
(72)【発明者】
【氏名】小山内 悠平
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-237423(JP,A)
【文献】特開平10-157650(JP,A)
【文献】特開平11-225554(JP,A)
【文献】特開2009-162253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
B60K 20/00
B60T 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)の変速機(25)を操作するための変速レバー(52)の位置制御機構(100)であって、
前記車両(2)を前進させる前進状態と、前記車両(2)に動力を伝達しない中立状態と、前記車両(2)を後進させる後進状態とのいずれかに前記変速機(25)を制御する前記変速レバー(52)と、
前記車両(2)の制動を制御するブレーキペダル(60)と、
前記ブレーキペダル(60)に基端が接続され、前記ブレーキペダル(60)の踏み込みに応じて先端が変位するワイヤ装置(70)と、
前記ブレーキペダル(60)が踏み込まれたときに、前記変速レバー(52)の位置を前記中立状態に制御するように、前記ワイヤ装置(70)の先端の変位を前記変速レバー(52)に伝達する伝達機構(80)と、を備え、
前記ワイヤ装置(70)は、アウターワイヤ(71)と前記アウターワイヤ(71)の内側に挿通されたインナーワイヤ(72)とを有し、
前記伝達機構(80)は、
一方が前記アウターワイヤ(71)に接続され、他方が前記インナーワイヤ(72)に接続された一対のブラケット(81,82)と、
前記変速レバー(52)に設けられ、前記一対のブラケット(81,82)同士の間に配置された円柱状の係合ピン(55b)と、
前記一対のブラケット(81,82)間に配置され、前記係合ピン(55b)と同じ直径を有し、前記係合ピン(55b)の軸方向に沿った軸方向を有する固定ピン(91c)と、を含み、
前記一対のブラケット(81,82)は、前記ブレーキペダル(60)が踏み込まれたときに、前記アウターワイヤ(71)と前記インナーワイヤ(72)との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、前記係合ピン(55b)を所定の位置で挟持し、
前記アウターワイヤ(71)に接続された前記一方のブラケット(82)は、前記アウターワイヤ(71)との接続位置よりも上部の位置に該ブラケット(82)を回動可能に支持する回動軸(91a)を有し、
前記インナーワイヤ(72)に接続された前記他方のブラケット(81)は、前記インナーワイヤ(72)との接続位置よりも上部の位置に該ブラケット(81)を回動可能に支持する回動軸(91b)を有し、
前記一対のブラケット(81,82)は、前記係合ピン(55b)を挟持した状態で、前記固定ピン(91c)を挟持する一対の側面を有し、
前記一対の側面は、前記係合ピン(55b)及び前記固定ピン(91c)を挟持している状態で、互いに平行となっており、前記係合ピン(55b)及び前記固定ピン(91c)の軸方向において互いに同じ位置に配置されている、位置制御機構(100)。
【請求項2】
前記ワイヤ装置(70)の前記基端は、スプリング(73)を介してブレーキペダル(60)に接続されている、請求項
1に記載の位置制御機構(100)。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の位置制御機構(100)を有する車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置制御機構及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には乗用型防除機が開示されている。この乗用型防除機は、油圧式無段変速装置で前後進の走行を行う。変速レバーが前側に傾動された場合に前進操作となり、変速レバーが後側に傾動された場合に後進操作となり、変速レバーが前進操作と後進操作との中間にある場合にギアが切断された中立となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術のように、前進、中立及び後進が変速レバーの傾動によって制御されている場合には、通常、車両のブレーキをかけた後に変速レバーを中立の位置に戻しておく。ブレーキをかけた後に変速レバーを中立の位置に戻さなかった場合、ブレーキの解除後に意図せず車両が発進する虞がある。
【0005】
本発明は、ブレーキ操作に応じて変速レバーの位置を制御する位置制御機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による位置制御機構(100)は、車両(2)の変速機(25)を操作するための変速レバー(52)の位置制御機構であって、車両(2)を前進させる前進状態と、車両(2)に動力を伝達しない中立状態と、車両(2)を後進させる後進状態とのいずれかに変速機(25)を制御する変速レバー(52)と、車両(2)の制動を制御するブレーキペダル(60)と、ブレーキペダル(60)に基端が接続され、ブレーキペダル(60)の踏み込みに応じて先端が変位するワイヤ装置(70)と、ブレーキペダル(60)が踏み込まれたときに、変速レバー(52)の位置を中立状態に制御するように、ワイヤ装置(70)の先端の変位を変速レバー(52)に伝達する伝達機構(80)と、を備える。
【0007】
上記の位置制御機構(100)では、車両(2)が前進又は後進している場合に、車両(2)を停止させるためにブレーキペダル(60)が踏み込まれる。ワイヤ装置(70)の基端はブレーキペダル(60)に接続されており、ブレーキペダル(60)が踏み込まれると、ワイヤ装置(70)の先端が変位する。伝達機構(80)がワイヤ装置(70)の先端の変位を変速レバー(52)に伝達し、変速レバー(52)の位置は中立状態に制御される。このように、ブレーキ操作に応じて変速レバー(52)が中立状態に戻るように制御されるので、ブレーキ解除後の意図しない車両(2)の発進が抑制される。
【0008】
ワイヤ装置(70)は、アウターワイヤ(71)とアウターワイヤ(71)の内側に挿通されたインナーワイヤ(72)とを有し、伝達機構(80)は、一方がアウターワイヤ(71)に接続され、他方がインナーワイヤ(72)に接続された一対のブラケット(81,82)と、変速レバー(52)に設けられ、一対のブラケット(81,82)同士の間に配置された係合ピン(55b)と、を含み、一対のブラケット(81,82)は、アウターワイヤ(71)とインナーワイヤ(72)との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、係合ピン(55b)を所定の位置で挟持してもよい。この構成では、所定の位置からずれた位置にある係合ピン(55b)が、アウターワイヤ(71)とインナーワイヤ(72)との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、一方又は他方のブラケット(81,82)に押圧されることによって、所定の位置まで変位する。これに伴って、変速レバー(52)が中立状態に戻るように制御される。
【0009】
一対のブラケット(81,82)間に配置された固定ピン(91c)をさらに備え、一対のブラケット(81,82)は、係合ピン(55b)を挟持した状態で、固定ピン(91c)を挟持してもよい。この構成では、一対のブラケット(81,82)の位置が固定ピン(91c)によって所定の位置に規制される。そのため、簡易な構成によって係合ピン(55b)を所定の位置に移動させることができる。
【0010】
アウターワイヤ(71)に接続された一方のブラケット(82)は、アウターワイヤ(71)との接続位置よりも上部の位置に該ブラケット(82)を回動可能に支持する回動軸(91a)を有し、インナーワイヤ(72)に接続された他方のブラケット(81)は、インナーワイヤ(72)との接続位置よりも上部の位置に該ブラケット(81)を回動可能に支持する回動軸(91b)を有してもよい。この構成では、一対のブラケット(81,82)の動作が回動軸(91a,91b)によって規制されている。
【0011】
ワイヤ装置(70)の基端72aは、スプリング(73)を介してブレーキペダル(60)に接続されてもよい。この構成では、ワイヤ装置(70)の動作とブレーキペダル(60)の動作との連動に遊びを設けることができる。
【0012】
また、本発明の車両(2)は、上記のいずれかの位置制御機構(100)を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブレーキ操作に応じて変速レバーの位置を制御する位置制御機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】乗用管理機に搭載されるブレーキ及び変速レバーを説明するための斜視図である。
【
図3】ブレーキ及び変速レバーを説明するための図であり、
図2とは別の角度から見た斜視図である。
【
図4】ブレーキと変速レバーとの連動を説明するための図である。
【
図5】ブレーキと変速レバーとの連動を説明するための図である。
【
図6】ブレーキと変速レバーとの連動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1に示されるように、乗用管理機としての自走式ブームスプレーヤ1は、車両2と、薬液散布装置であるブームノズル装置3とから構成されている。以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」は、特に断らない限り、車両2を基準とする。
【0017】
車両2は、前後方向に長い矩形状の車体フレーム4を有している。車体フレーム4の前部および後部には、車両2の幅方向に延びる車軸から上下方向に延びるナックル8a,9aを介して、前後の車輪6,7がそれぞれ取り付けられている。自走式ブームスプレーヤ1では、これらの前後の車輪6,7の駆動回転により、4輪駆動の走行が可能となっている。
【0018】
車体フレーム4の前端部には、4節リンク装置13が前方に延びるように設置されている。ブームノズル装置3は、4節リンク装置13を介して、車体フレーム4によって支持されている。この4節リンク装置13が油圧シリンダ14の伸縮動作により作動されることで、4節リンク装置13の前側リンクに固定されたブームノズル装置3のセンターブーム16が昇降移動されるようになっている。これにより、ブームノズル装置3の上下方向の位置が調節される。
【0019】
ブームノズル装置3のセンターブーム16は、車体フレーム4の左右方向に延びている。センターブーム16の左右両端部には、サイドブーム17,17がそれぞれ連結されている。サイドブーム17,17は、センターブーム16の両端部を回転中心として、センターブーム16に対して回転可能である。センターブーム16および各サイドブーム17には、それぞれノズルパイプが取り付けられており、各ノズルパイプには、ノズル20が等間隔に設けられている。
【0020】
車体フレーム4には、その前後方向の中央部において、薬液タンク10が配設されている。薬液タンク10の前端部の中央には、凹部が形成されており、この凹部に運転席11が設けられている。また、車体フレーム4の前端部には、運転席11の前側に間隔をおいて、運転操作のための操作機器および薬液(薬液)散布のための操作機器を備えた操作部12が配設されている。車体フレーム4には、薬液タンク10の後方側にエンジン部15が配設されている。エンジン部15には、エンジン21が収容されている。
【0021】
操作部12には、ステアリングホイール51と、副変速レバー53と、主変速レバー(変速レーバー)52とが設けられている。副変速レバー53は、車体フレーム4の下側に配置された副変速機24に接続されている。副変速レバー53により副変速機24が操作されることによって、高速、中速及び低速への変速が可能になっている。主変速レバー52は、エンジン21の動力を副変速機24に伝達するための静油圧式変速機(Hydraulic Static Transmission、以下、HSTという)25(
図2等を参照)に接続されている。HST25は、エンジン21の動力を用いて油圧を発生させ、その油圧により車輪6,7に回転駆動力を供給して、車両2を走行させる機構である。主変速レバー52が操作されることにより、車両2を前進させる前進状態と、車両2(駆動輪)に動力を伝達しない中立状態と、車両2を後進させる後進状態とのいずれかにHST25が制御される。
【0022】
続いて、
図2~
図6を参照して、主変速レバーの位置制御機構について詳細に説明する。一例の位置制御機構100は、主変速レバー52と、ブレーキペダル60と、ワイヤ装置70と、伝達機構80とを含む。
【0023】
主変速レバー52は、作業者によって把持される把持部52aと、把持部52aから下方に向かって延びるレバー52bとを有する。レバー52bは、HST25に接続されたレバー本体55と、レバー本体55と把持部52aとを接続する連結部56とを含む。図示例の連結部56は、湾曲したパイプによって形成されているが、連結部56の形状は特に限定されない。レバー本体55は、例えば板状を呈しており、一方向(
図2では、上下方向)を長手方向として延在している。レバー本体55は、板厚方向が車両2の左右方向に一致するように配置されている。レバー本体55の上端には連結部56が連結されている。レバー本体55の下端は、例えば機械的な連結機構によってHST25に接続されている。レバー本体55の上端と下端との間には回動軸55aが設けられている。図示例では、回動軸55aは、レバー本体55の長手方向中心よりも下側の位置において、板厚方向に延在している。回動軸55aは、車体フレーム4に固定されている。なお、「車体フレームに固定」とは、車体フレーム4に直接固定されている、又は、中間部材を介して車体フレーム4に固定されていることによって、車体フレーム4に対して位置が変化しないことをいう。
【0024】
レバー本体55は、回動軸55aを回動の中心として回動自在となっている。すなわち、作業者は、把持部52aを前方に押す、又は手前(後方)に引くといった動作によってレバー本体55を傾動させることができる。レバー本体55の傾動に伴ってレバー本体55の下端の位置が移動することで、HST25が操作される。一例では、把持部52aが前方に押され、レバー本体55の上端が前方に傾動するように操作された場合に、レバー本体55の下端が後側に移動して、車両2を前進させる前進状態にHST25が制御される。また、把持部52aが手前に引かれ、レバー本体55の上端が後方に傾動するように操作された場合に、レバー本体55の下端が前方に移動して、車両2を後進させる後進状態にHST25が制御される。また、前進状態のときの把持部52aの位置と後進状態のときの把持部52aの位置との中間に把持部52aが位置した場合に、車両2にエンジンからの動力を供給しない中立状態にHST25が制御される。
【0025】
レバー本体55の長手方向の中央であり、回動軸55aよりも上側の位置には、係合ピン55bが設けられている(
図4参照)。係合ピン55bは、例えば円柱状を呈しており、レバー本体55の板厚方向に突出している。
【0026】
ブレーキペダル60は、車両2の制動を制御する。一例のブレーキペダル60は、作業者によって踏み込まれるペダル本体61と、ペダル本体61に固定された支持桿62とを含む。一例のペダル本体61は、板状を呈しており、操作部12の下部に配置されている。例えば、運転席11に座った状態の作業者によってペダル本体61の上面が踏み込まれることでブレーキペダル60が操作される。支持桿62は、一方向に延在する筒状を呈している。支持桿62の一端は、ペダル本体61の下面に固定されている。支持桿62の他端は、回動軸63に接続されている。回動軸63は、主変速レバー52の回動軸55aの延在方向と同じ方向に延在している。回動軸63には、径方向に突出する第1アーム65及び第2アーム66が設けられている。第1アーム65の先端は、例えば機械的な連結機構によって、車両2の制動を行うブレーキ装置BSに接続されている。ペダル本体61が下向きに踏み込まれると、支持桿62が回動軸63を中心に回動するとともに、回動軸63が回動する。回動軸63の回動に伴い、第1アーム65の先端は円弧を描くように移動する。一例では、第1アーム65が回動軸63から下方に突出しているため、第1アーム65の先端は前方に向かってやや上向きに移動する。第1アーム65の先端が移動することにより、第1アーム65の先端に接続されたブレーキ装置BSが動作し、車両2の制動が制御される。
【0027】
第2アーム66の先端には、ワイヤ装置70の基端が接続されている。すなわち、ワイヤ装置70の基端は第2アーム66を介してペダル本体61に接続されている。図示例では、第2アーム66の先端に回動軸63の延在方向と同じ方向に延在するピン66aが固定されており、このピン66aにワイヤ装置70の基端が接続されている。ペダル本体61が下向きに踏み込まれると、支持桿62が回動軸63を中心に回動するとともに、回動軸63が回動する。回動軸63の回動に伴い、第2アーム66の先端は円弧を描くように移動する。そのため、ワイヤ装置70の基端はペダル本体61の踏み込みに応じて変位する。なお、一例では、回動軸63を回動させ、ペダル本体61の位置を踏み込み前の位置まで戻すために、ピン66aに付勢部材(例えばスプリング)が接続されていてもよい。
【0028】
ワイヤ装置70は、ブレーキペダル60の動作を伝達機構80に伝達する。一例のワイヤ装置70は、いわゆるプルワイヤを含む。すなわち、ワイヤ装置70は、筒状のアウターワイヤ71とアウターワイヤ71の内側に挿通されたインナーワイヤ72とを有する。インナーワイヤ72の長さは、アウターワイヤ71よりも長くなっており、アウターワイヤ71の両端からインナーワイヤ72の端部が露出している。インナーワイヤ72は、軸芯方向において、アウターワイヤ71に対して移動自在となっている。インナーワイヤ72の一端(基端72a)は、第2アーム66に接続されている(
図3参照)。一例では、インナーワイヤ72の基端72aに引張スプリング73が接続されており、この引張スプリング73が第2アーム66に固定されたピン66aに接続されている。アウターワイヤ71の一端(基端71a)は、例えばナット状の固定部材78によって、車体フレーム4に固定されている。インナーワイヤ72の他端(先端72b)及びアウターワイヤ71の他端(先端71b)は伝達機構80に接続されている。
【0029】
伝達機構80は、ブレーキペダル60が踏み込まれたときに、主変速レバー52の位置を中立状態に制御するように、ワイヤ装置70の先端の変位を主変速レバー52に伝達する。一例の伝達機構80は、一対のブラケット81,82を含む。伝達機構80は、車体フレーム4に固定された支持片90に支持されている。支持片90は、互いに対面する一対の側壁91,92と一対の側壁91,92の上端同士を接続する上壁93とを有する。上壁93にはスリット93aが形成されており、スリット93a内にレバー本体55の一部が収容されている。
【0030】
一方の側壁91には、側壁91から突出し、回動軸63の延在方向と同じ方向に延在する一対の回動軸91a,91bが設けられている。一例において、一対の回動軸91a,91bは、互いに同じ高さ位置において、前後方向に互いに離間して設けられている。また、側壁91には、前後方向において一対の回動軸91a,91bの中間の位置であって、回動軸91a,91bよりも下側の位置に、回動軸91a,91bの延在方向と同じ方向に突出する固定ピン91cが設けられている。固定ピン91cは、例えば円柱状を呈している。
【0031】
ブラケット81の上端は、後側の回動軸91bに回動自在に支持されている。ブラケット81は、例えば略板状を呈している。ブラケット81の下側には、ブラケット81からレバー本体55の板厚方向に突出する接続ピン81a(
図4参照)が設けられている。接続ピン81aにはインナーワイヤ72の先端72bが接続部材74によって回動自在に接続されている。すなわち、インナーワイヤ72に接続されたブラケット81は、インナーワイヤ72との接続位置よりも上部の位置にブラケット81を回動可能に支持する回動軸91bを有する。
【0032】
ブラケット82の上端は、前側の回動軸91aに回動自在に支持されている。ブラケット82は、例えば略板状を呈している。ブラケット82の下側の前端には、ブラケット82からレバー本体55の板厚方向に突出する突出片82aが設けられている。突出片82aにはアウターワイヤ71の先端71bが、ナット状の固定部材75によって固定されている。すなわち、アウターワイヤ71に接続されたブラケット82は、アウターワイヤ71との接続位置よりも上部の位置にブラケット82を回動可能に支持する回動軸91aを有する。
【0033】
一対のブラケット81,82同士の間には、主変速レバー52に設けられた係合ピン55b、及び、側壁91に設けられた固定ピン91cが配置されている。一例において、係合ピン55bと固定ピン91cとは、互いに同じ直径を有する円柱状を呈している。ブラケット81の回動は、ブラケット81が固定ピン91cに当接することで規制される。ブラケット82の回動は、ブラケット82が固定ピン91cに当接することで規制される。
【0034】
続いて、主変速レバー52の位置制御機構100の動作について説明する。
図4~6は、ブレーキペダル60の操作によって主変速レバー52の位置を制御する位置制御機構を説明するための図である。
図4は、主変速レバー52が中立状態にあるときの伝達機構80の近傍を示す図である。
図5は、主変速レバー52が前進状態にあるときの伝達機構80の近傍を示す図である。
図6は、主変速レバー52が後進状態にあるときの伝達機構80の近傍を示す図である。なお、以下の説明において、時計回り及び反時計回りという場合には、
図4~6を基準としている。
【0035】
図4に示すように、一例の位置制御機構100では、主変速レバー52が中立状態にあるときに固定ピン91cと係合ピン55bとの前後方向(
図4の紙面上では左右方向)の位置が一致している。なお、
図4では、インナーワイヤ72が基端72a側に引っ張られており、一対のブラケット81,82によって、係合ピン55b及び固定ピン91cが挟持されている。
【0036】
作業者が車両2を前進させる場合、すなわち、主変速レバー52が前進状態にある場合、
図5に示すように、主変速レバー52は中立状態のときの位置から反時計回りに回動している。そのため、係合ピン55bは、中立状態のときの位置よりも前方に移動している。係合ピン55bに押圧されることによって、ブラケット82は
図4の位置から時計回りに回動している。ブラケット82の動作に伴ってアウターワイヤ71からインナーワイヤ72の先端72b側が相対的に引き出されている。
【0037】
図5の状態で、作業者によってブレーキペダル60が踏み込まれると、ブレーキ装置BSが動作するとともに、第2アーム66によって基端72a側にインナーワイヤ72が引っ張られる。これに伴い、インナーワイヤ72の先端72b側はアウターワイヤ71内に引き込まれる。
図5の状態では、ブラケット81の回動が固定ピン91cによって規制されているため、アウターワイヤ71とインナーワイヤ72との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、ブラケット82が反時計回りに回動する。ブラケット82の回動に伴い、ブラケット82に係合した係合ピン55bも移動するため、主変速レバー52は時計回りに回動する。
【0038】
そして、ブラケット82が固定ピン91cに当接した位置でブラケット82の回動が規制され、
図4の状態、すなわち中立状態となる。この状態では、ブラケット81及びブラケット82の両方の回動が固定ピン91cによって規制されている。そのため、ブレーキペダル60がさらに踏み込まれた場合には、インナーワイヤ72の基端72aに接続された引張スプリング73が伸張し得る。
【0039】
作業者が車両2を後進させる場合、すなわち、主変速レバー52が後進状態にある場合、
図6に示すように、主変速レバー52は中立状態のときの位置から時計回りに回動している。そのため、係合ピン55bは、中立状態のときの位置よりも後方に移動している。係合ピン55bに押圧されることによって、ブラケット81は
図4の位置から反時計回りに回動している。ブラケット81の動作に伴ってアウターワイヤ71からインナーワイヤ72の先端72b側が引き出されている。
【0040】
図6の状態で、作業者によってブレーキペダル60が踏み込まれると、ブレーキ装置BSが動作するとともに、第2アーム66によって基端72a側にインナーワイヤ72が引っ張られる。これに伴い、インナーワイヤ72の先端72b側はアウターワイヤ71内に引き込まれる。
図6の状態では、ブラケット82の回動が固定ピン91cによって規制されているため、アウターワイヤ71とインナーワイヤ72との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、ブラケット81が時計回りに回動する。ブラケット81の回動に伴い、ブラケット81に係合した係合ピン55bも移動するため、主変速レバー52は半時計回りに回動する。そして、ブラケット81が固定ピン91cに当接した位置でブラケット81の回動が規制され、
図4の状態、すなわち中立状態に戻る。この状態では、ブラケット81及びブラケット82の両方の回動が規制されているため、ブレーキペダル60がさらに踏み込まれた場合には、インナーワイヤ72の基端72aに接続された引張スプリング73が伸張し得る。
【0041】
以上の説明のように、位置制御機構100では、車両2が前進又は後進している場合に、車両2を停止させるためにブレーキペダル60が踏み込まれる。ワイヤ装置70の基端はブレーキペダル60に接続されており、ブレーキペダル60が踏み込まれると、ワイヤ装置70の先端が変位する。伝達機構80がワイヤ装置70の先端の変位を主変速レバー52に伝達し、主変速レバー52の位置は中立状態に戻る。このように、ブレーキ操作に応じて主変速レバー52が中立状態に戻るように制御されるので、ブレーキ解除後の意図しない車両2の発進が抑制される。
【0042】
一例において、ワイヤ装置70は、アウターワイヤ71と、アウターワイヤ71の内側に摺動自在に挿通されたインナーワイヤ72とを有している。伝達機構80は、一方がアウターワイヤ71に接続され、他方がインナーワイヤ72に接続された一対のブラケット81,82を含む。そのため、アウターワイヤ71とインナーワイヤ72との軸方向の互いの相対位置に応じて一対のブラケット81,82の動きを制御できる。一対のブラケット81,82同士の間には、主変速レバー52に設けられた係合ピン55bが配置されており、一対のブラケット81,82は、アウターワイヤ71とインナーワイヤ72との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、係合ピン55bを所定の位置で挟持する。この構成では、所定の位置からずれた位置にある係合ピン55bが、アウターワイヤ71とインナーワイヤ72との軸芯方向における相対位置の変動に応じて、一方又は他方のブラケットに押圧されることによって、所定の位置まで変位する。この場合、係合ピン55bが所定の位置にある状態が中立状態に対応し、係合ピン55bが所定の位置からずれた状態が前進状態及び後進状態に対応する。
【0043】
上述のとおり、アウターワイヤ71とインナーワイヤ72との軸芯方向における相対位置の変動は、一対のブラケット81,82の動きを制御している。この一対のブラケット81,82の動きは、一対のブラケット81,82間に配置された固定ピン91cによって規制され得る。特に、一例においては、一対のブラケット81,82によって係合ピン55bが挟持されている状態で、固定ピン91cも一対のブラケット81,82に挟持される。すなわち、一対のブラケット81,82の動きが固定ピン91cによって規制されたときに、係合ピン55bが所定の位置で挟持される。係合ピン55bの軌跡は決まっているため、固定ピン91c及び係合ピン55bの両方がブラケット81,82に挟持されている状態では、係合ピン55bの位置が一意に定まる。よって、容易に係合ピン55bを所定の位置に戻すことができる。
【0044】
アウターワイヤ71に接続された一方のブラケット82は、アウターワイヤ71との接続位置よりも上部の位置に該ブラケット82を回動可能に支持する回動軸91aを有し、インナーワイヤ72に接続された他方のブラケット81は、インナーワイヤ72との接続位置よりも上部の位置に該ブラケット81を回動可能に支持する回動軸91bを有している。この構成では、一対のブラケット81,82の動作が回動軸91a,91bによって規制されているため、一対のブラケット81,82の動きを制御し易い。
【0045】
ワイヤ装置70の基端は、引張スプリング73を介してブレーキペダル60(一例では、ブレーキペダル60に連動するピン66a)に接続されている。この構成では、ワイヤ装置70の動作とブレーキペダル60の動作との連動に遊びを設けることができる。例えば、主変速レバー52が中立状態に戻った後に、さらにブレーキペダル60を踏み込んだ場合、インナーワイヤ72によって引張スプリング73が伸張する。これにより、ブレーキペダル60に接続された回動軸63等に対する負荷が軽減される。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。たとえば、本発明は、自走式ブームスプレーヤ1の車両2に限られず、他の乗用管理機の車両に適用されてもよい。本発明は、農作業機の車両に限られず、HSTを備える農作業機以外の車両(たとえば建設機械や除雪機など)に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
2…車両、25…HST(静油圧式変速機)、52…主変速レバー(変速レバー)、60…ブレーキペダル、70…ワイヤ装置、100…位置制御機構。